説明

水冷式内燃機関のウォータジャケット用スペーサ

【課題】シリンダブロックに設けたウォータジャケットに嵌め込み装着するスペーサにおいて、コストダウンと機能アップとを図る。
【解決手段】シリンダブロック1には、シリンダボア4の群を囲うループ状のウォータジャケット8が形成されている。スペーサ13は樹脂製であり、ウォータジャケット8と相似形になっている。スペーサ13のうち頂点部13bと長手両端部13cとに、ウォータジャケット8の外壁面8bに当たる外向きリブ14を一体成形している。スペーサ13は外向きリブ14の突っ張り作用でウォータジャケット8にしっかりと保持されている。全体が一体の成形品であるため、加工コストを抑制できると共に、使用し続けても部材が離脱するようなことはなくて耐久性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、シリンダブロックにシリンダボアを囲うウォータジャケットが形成された内燃機関において、冷却水の流量等を調節するためにウォータジャケットに挿入配置されるスペーサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンダブロックにウォータジャケットを形成した内燃機関において、ウォータジャケットに流量や容積等を調節するためのスペーサを挿入することが行われている。特許文献1には、スペーサを、ウォータジャケットと相似形に形成された芯材とこれに取り付けた調整材とで構成し、調整材を吸水によって膨れる膨潤材で構成することにより、ウォータジャケットへのスペーサの嵌め込みを容易化しつつ、使用状態での位置決め機能を確保することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−71039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のスペーサは、ウォータジャケットへの嵌め込みは簡単にできると言えるが、調整部が別部材であるため、製造コストが嵩む問題がある。また、ウォータジャケットの内部は高温化した冷却水で過酷な環境になっているため、熱や振動、水衝作用等によって調整部が離脱する可能性もあり、すると、スペーサの機能が不完全になるのみならず、冷却性能を悪化させて機関の損傷を誘発する可能性もある。
【0005】
更に、調整部は吸水によって膨潤するが、機関の運転停止によってウォータジャケットから冷却水が抜け出ると、調整部材は縮まってウォータジャケット内面への当接機能がなくなると解され、すると、機関を始動するたびにスペーサが揺れ動く現象が生じて、スペーサが損傷しやすくなるおそれも懸念される。
【0006】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の内燃機関は、シリンダボアを囲うようにしてシリンダブロックに形成されたウォータジャケットに挿入されるループ状の樹脂製スペーサにおいて、少なくともその外周面に、前記ウォータジャケットの外壁面に当接するリブを一体に形成している。
【発明の効果】
【0008】
さて、スペーサは樹脂製でループ形状であるため、潰し方向や広げ方向に撓み変形させ得る。従って、本願発明のように少なくとも外周面にリブを設けると、スペーサは、その撓み変形を利用してウォータジャケットにスムースに嵌め込むことができ、しかも、嵌め込んだあとは、スペーサの弾性力でリブをウォータジャケットの壁面に突っ張らせることにより、スペーサをずれ不能に保持することができる。
【0009】
そして、本願発明のスペーサは全体が単一品であるため、特許文献1に比べて加工コストを著しく抑制できる。また、使用しているうちに部材が外れてしまうことはないため、冷却性能が悪化するような問題が生じるおそれも全くない。加えて、スペーサは自身の弾性力でウォータジャケットの壁面に当接するものであるため、冷却水の有無に関係なく位置決め機能は常に発揮されており、従って、機関の始動時にスペーサがウォータジャケットの内部で揺れ動くような問題は皆無で、その結果、高い耐久性を確保できる。
【0010】
なお、実施形態のようにリブに傾斜したガイド面を形成しておくと、ウォータジャケットへの取り付けがごく簡単になる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(A)は機関をクランク軸の軸方向から見た側面図、(B)は(A)のB−B視図、(C)は(B)と同じ方向からガスケットを見た図である。
【図2】(A)はシリンダブロックをボアの軸線方向から見た図、(B)はスペーサをボアの軸線方向から見た図である。
【図3】(A)は図2(A)のIIIA-IIIA 視断面図、(B)は変形例を示す断面図である。
【図4】他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1).第1実施形態
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1(A)に示すように、内燃機関は、機関本体の主要要素としてシリンダブロックとその頂面に固定したシリンダヘッド2とを備えており、シリンダブロック1の底面にはオイルパン3を固着している。シリンダブロックは3つのシリンダボア4を有しており、シリンダボア4に嵌め入れたピストン5によってクランク軸6が回転する。本実施形態の内燃機関は、シリンダボア4を水平面7及び鉛直線に対して傾斜させたスラント型であり、シリンダボア4はかなりの角度で傾斜している。
【0013】
図1(B)及び図図2(A)に示すように、シリンダブロック1には、シリンダボア4の群を囲うように環状のウォータジャケット8が形成されている。ウォータジャケット8のうち隣り合ったシリンダボア4の間は、シリンダボア4の中心を結ぶ長手中心線12に近づくように入り込んだくびれ部8aになっている。また、シリンダブロック1のうちシリンダボア4の外側の箇所には、シリンダヘッド2と連通した通水穴9が空けられている。符号10で示すのは、シリンダヘッド2をボルトで固定するためのタップ穴である。
【0014】
シリンダブロック1とシリンダヘッド2との間にはガスケット11が配置されており、ガスケット11には、シリンダボア4の通水穴9に対応した貫通穴9′、タップ穴10に対応した穴、ウォータジャケット8のくびれ部8aに連通した通水用貫通穴9″等が空いている。図1(B)では、ガスケット11を仮想線で表示している。
【0015】
ウォータジャケット8には、ポリプロピレンやポリカーボネート等の樹脂よりなるスペーサ13が嵌め込み装着されている。スペーサ13はウォータジャケット8と相似形に形成されており、従って、ウォータジャケット8のくびれ部8aに対応した内向き部13aを備えている。図3に示すように、スペーサ13はウォータジャケット8の底面8cまで延びており、ウォータジャケット8の深さと略同じ幅を持っている。但し、スペーサ13の幅寸法や厚さは、必要な機能に基づいて任意に設定できる。
【0016】
スペーサ13のうち、シリンダブロック1の長手中心線12を挟んだ両側に位置した各頂点部13bと、シリンダブロック1の長手中心線12の箇所に位置した長手端部13cとに、ウォータジャケット8の外壁面8bに当接する外向きリブ14を突設している。図3に示すように、外向きリブ14はスペーサ13の上端部のみに設けている。なお、外向きリブ14は、長手端部13cに設けずに頂点部13bのみに設けてもよい。
【0017】
また、外向きリブ14のうちウォータジャケット8の底面8cに向いた面は、ウォータジャケット8の外周面から遠ざかるに従ってスペーサ13の外端部に近づく傾斜面になっている。このため、外向きリブ14がスペーサ13の弾性に抗してウォータジャケット8の外壁面8bに当接する状態であっても、スペーサ13をウォータジャケット8にスムースに嵌め込むことができる。また、スペーサ13は、各頂点部13bと長手端部とに外向き外向きリブ14が存在するため、ウォータジャケット8のシリンダブロック1の長手方向は幅方向とのいずれの方向にもずれ不能に保持されている。このため、スペーサ13としての流量調整機能等を的確に発揮することができる。
【0018】
既述のとおり、ガスケット11にはウォータジャケット8のくびれ部8aに連通した貫通穴9″が空いており、貫通穴9″はシリンダヘッド2に連通している。この場合、貫通穴9″がスペーサ13で塞がれると、シリンダヘッド2の冷却機能が低下するおそれがある。この点、図3(B)に示すように、スペーサ13のうち貫通穴9″に対応した部位に切欠き15を形成しておくと、仮にスペーサ13がガスケット11に当接しても、スペーサ13で貫通穴9″が塞がれることはないため、ウォータジャケット8とシリンダヘッド4との通水機能が阻害されることはない。
【0019】
図3(A)に示すように、スペーサ13の奥端部にも外向きリブ14を設けることが可能であり、このように構成すると、スペーサ13はウォータジャケット8の奥部の開口部との両方において外壁面8bに当接するため、姿勢保持機能を一層向上できる。幅方向(ウォータジャケット8の深さ方向)の3カ所以上に外向きリブ14を形成することも可能である。
【0020】
また、図2(B)に一点鎖線で示すように、スペーサ13のうち各内向き部13aに、ウォータジャケット8の内壁面に向いて突出した内向きリブ16を設けることも可能である(内向きリブ16の突出量は誇張して描いている。)。このように内外のリブ14,16を周方向にずらして形成すると、ウォータジャケット8へのスペーサ13の嵌め込みの容易性を損なうことなく、スペーサ13をウォータジャケット8の内部にしっかりと保持できる。
【0021】
(2).他の実施形態
図4では他の実施形態を示している。このうち(A)に示す第2実施形態では、スペーサ13の外面に長さの長い外向きリブ14を形成するにおいて、外向きリブ14をメッシュ状に形成している。この実施形態では、外向きリブ14で異物を補集できる利点である。すなわち、位置決めのための外向きリブ14を異物補集のフィルターに兼用できる。
【0022】
図4(B)に示す第3実施形態では、スペーサ13を、ウォータジャケット8の開口部寄りのある程度の範囲ではウォータジャケット8の壁面8b,8dと平行で、そりより奥部では、ウォータジャケット8の底面8cに近づくに従って内壁8dに寄るように傾斜させている。スペーサ13の内面に、ウォータジャケット8の内壁面8dに当接又は密接する内向きリブ16を設け得るが、この内向きリブ16を、ウォータジャケット8を横切る姿勢にすると、内向きリブ16が冷却水の流れに対して抵抗にならない利点がある。
【0023】
そして、スペーサ13の外周面には、姿勢を保持するため、ウォータジャケット8の開口部寄りと奥部とに外向きリブ14を設けている。シリンダボア4の内周面はシリンダヘッド4に近い部分ほど高温になっていると推測されるので、このようにスペーサ13によって冷却水通路の断面積を変えることで、的確な冷却が可能になると言える。
【0024】
図(C)に示す第4実施形態では、スペーサ13の外面又は内面に、冷却水に流れの方向性を付与する整流リブ17を形成している。整流リブ17はスペーサ13の長手方向に対して傾斜しているが、その姿勢は任意に設定できる。(C)に一点鎖線で示すように、ウォータジャケット8の外壁面8bに当接する止水用外向きリブ14を幅方向の略全長にわたって延びるように形成することも可能である。このように止水用外向きリブ14を設けると、スペーサ13の外側に冷却水が流れるとを阻止できるため、スペーサ13を厚くすることなく冷却水の流路断面積を小さくすることができる。
【0025】
スラント型の内燃機関の場合、冷却水はウォータジャケット8のうち下側に位置した部位に多く流れる傾向を呈すると推測される。そこで、図4(D)に示す第5実施形態では、スペーサ13を、シリンダボア4の下側に位置した部位ではウォータジャケット8の内壁面8dに近付けて、シリンダボア4の下側に位置した部位ではウォータジャケット8の外壁面8bに近付けている。このように、本願発明では、外向きリブ14の突出量を変えることで好適を冷却水流路を簡単に形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本願発明は内燃機関に実際に適用できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 シリンダブロック
2 シリンダヘッド
4 シリンダボア
6 クランク軸
8 ウォータジャケット
8a くびれ部
8b 外壁面
8c 底面
8d 内壁面
9 通水穴
11 ガスケット
13 スペーサ
14 外向きリブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアを囲うようにしてシリンダブロックに形成されたウォータジャケットに挿入されるループ状の樹脂製スペーサであって、少なくともその外周面に、前記ウォータジャケットの外壁面に当接するリブを一体に形成している、
水冷式内燃機関のウォータジャケット用スペーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−113205(P2013−113205A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259802(P2011−259802)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】