説明

水処理、特に、水の淡水化のための方法および装置

浄水方法、特に、膜蒸留法によって塩水から淡水を得るための方法が開示される。下記の手段の組み合わせによって、従来の方法と比較して、投資コストと運転費用が大幅に低減される。即ち、処理対象水を、少なくともその一部が疎水性の蒸気透過性膜からなる壁を有する供給チャンバ内に保持する、前記疎水性膜よりも大きな厚みと単位面積当たり低い熱伝導性を有する親水性膜を前記疎水性膜に対して平行に延出させる、ポンプ作用によって、処理対象水と淡水との間に蒸気圧差を作り出し、これにより、このポンプ作用によって作り出される蒸気圧の差によって膜蒸留が行われ、水が前記親水性膜の孔中で凝縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理法と、それに対応する装置とに関する。その最も重要な用途は、塩水(特に海水又は半塩水)から淡水(清浄水)を作り出すことである。以後、一例としてこの用途の分野について言及する。但し、本発明は、その目的が蒸留によって汚染水から浄水を得ることにあるその他の用途にも適している。これは、特に、バクテリアやウィルスによって汚染された水(例えば、廃水や河川水)の浄化を含む。
【背景技術】
【0002】
海水の淡水化とその他の水処理法は、世界の人々に飲み水を供給することにおいて非常に重要である。地球上の表層水の全部のうち、淡水は僅かに約2.5%である。そして、その内の、約80%は、土中の水分として拘束されているか、又は、極地の万年雪中に凍結されており、従って、総表層水の内、飲み水として利用できるのは僅か約0.5%に過ぎない。更に、飲み水の供給の分布は非常に偏っている。従って、地球の人口の多くは水不足に悩まされている。
【0003】
この問題を克服するために、海水の淡水化のための数多くの方法が提案されてきた。しかし、海水の塩含有率は約30g/Lであるのに対して、世界保健機構(WHO)によって、飲み水の塩含有率は0.5g/Lを超えてはならないことになっていることから、その必要条件の一部は、満たすことが困難である。従来の淡水化法では、塩水を加熱して蒸発させ、その後、再び冷却表面上で凝縮させる。高エネルギ消費量のコストを削減するために、そのエネルギ源として太陽エネルギを利用する多くの試みが行われてきた。そのようなシステム(「太陽蒸留器」)の1つのタイプが記載されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
蒸発した水の改良した凝縮が、凝縮表面の上側で毛管構造を使用し、上記太陽蒸留器によって成し遂げられる。
【0005】
更に、様々な膜式法が長年に渡って議論されている。これらには、塩水を、圧力下で、塩が保持されるサイズの孔を有する膜に強制的に通過させる逆浸透法が含まれる。もう1つの方法は、二つの電極を電解質溶液に浸漬する電気透析法である。DC電圧の電界内において、イオン泳動が塩水中で起こる。陽イオンおよび陰イオン交換膜を電解セルの電極間で交互に連続接続することによって、外側チャンバでは電解質の濃度の上昇が、そして中央チャンバでは濃度の減少が起こるように、即ち、脱塩作用が生じるようにイオンの流れを案内することができる。
【0006】
前記膜式法は、更に、膜蒸留法を含み、これは、処理対象水(以下、簡略化のために塩水とする)をその一部分が疎水性多孔性膜によって形成されている壁を備える供給チャンバ内に保持する。前記膜の孔サイズは、その疎水性(即ち、水に対するその表面張力)を考慮に入れて、塩水はその膜の孔を詰まらせず、それによって疎水性の膜の孔が空気を含むようにする必要がある。換言すると、泡圧としても知られる、水がもはや疎水性膜を通過しない最大静水圧は、この方法の運転中において前記供給チャンバ内において発生する圧力よりも低い。
【0007】
膜蒸留法において、塩水は疎水性膜を通して蒸発される。ガス状の水は、蒸留液側(淡水側)で凝縮する。その蒸留プロセス(通常の蒸留プロセスと同様)は、加熱される海水と、冷却される凝縮淡水との間の温度差に基づく。種々の膜蒸留法がある(例えば、特許文献1〜6を参照)。
【0008】
【非特許文献1】ブチェキマ(Bouchekima)ほか:“The performance of the capillary film solar still installed in South Algeria”(「南アルジェリアに設置された毛管膜太陽蒸留器の性能」), Desalination 137 (2001) 31-38頁
【特許文献1】米国特許第3,340,186号
【特許文献2】米国特許第4,545,862号
【特許文献3】米国特許第4,265,713号
【特許文献4】米国特許第4,476,024号
【特許文献5】米国特許第4,419,187号
【特許文献6】米国特許第4,473,473号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これを背景として、本発明は、運転コストと投資コストの減少によって特徴付けられる、水処理法、特に、水の脱塩化のための方法と、それに対応の装置とを提供するという技術課題に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この技術課題は、少なくともその一部分が疎水性水蒸気透過性膜によって形成される壁を有し、塩水が孔を詰まらせることがないように構成された孔サイズを有し、かつ、その内部に、前記疎水性膜よりも厚みが大きく、かつ、単位面積当たりの熱伝導性が低い親水性膜が前記疎水性膜に対して平行に配置され、更に、その内部において、ポンプ作用によって、塩水と淡水との間に蒸気圧の差が作り出されて、このポンプ作用から生じる前記蒸気圧差によって膜蒸留が行われて、水が前記親水性膜の孔において凝縮するように構成された供給チャンバ内に塩水を保持することを特徴とする水処理法によって解決される。
【0011】
本発明は、更に、水を処理する、特に、塩水から淡水を抽出するための装置であって、少なくともその一部分が疎水性水蒸気透過性膜によって形成される壁を有し、塩水が孔を詰まらせることがないように構成された孔サイズを有する供給チャンバと、前記疎水性膜よりも厚みが大きく、かつ、単位面積当たりの熱伝導性が低い親水性膜が前記疎水性膜に対して平行に配置され、これにより水が親水性膜との界面の近傍において、親水性膜の孔中で凝縮する親水性膜と、塩水と淡水との間に蒸気圧の差が作り出されて、ポンプ作用から生じる前記蒸気圧差によって膜蒸留が行われて、水が前記親水性膜の孔中で凝縮するように構成されたポンプ機構とを含む装置にも関する。
【0012】
ここで、「親水性」と「疎水性」という用語は、従来の意味に解釈される。即ち、水分子間の相対引力が、水分子と固体表面との間の引力よりも小さい場合、その表面は「親水性」である。「疎水性」表面の場合は、その反対となる。液体と「親水性」(水和性)表面との間の接触角は90°以下(その他の力が無い場合)であり、疎水性表面の場合、それは90°以上である。
【0013】
前記疎水性膜は可能な限り薄いものとすべきである。その厚みは、好ましくは、100μm以下、但し、10μm以下、更に1μm以下の値が特に好ましい。前記水蒸気透過性は、通常、前記疎水性膜が、少なくとも数ナノメートルの孔サイズの多孔性であるという事実から生じる。但し、極端に薄い疎水性膜の場合、その水蒸気透過性は、この意味においては多孔性と見なすことができない膜の透過性に基づくものでもよい。前記孔サイズの上限は、前記泡圧に関する上述した条件から生じる。この限定を考慮に入れた上で、前記孔サイズは可能な限り大きくすべきである。下記の合成(ポリマ性)材料が、この疎水性膜として特に適している。即ち、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニルである。
【0014】
前記親水性膜は均質である必要はない。具体的には、それは、複数の層を含むものとすることができる。異なる多孔性、特に合成の層材料が適切である。もし、まだ処理されていない層材料が疎水性であるならば、必要な親水性は、その内面(即ち、その材料の内部の孔に接する表面)の適切な処理によって達成することができる。そのような方法は公知であり、例えば、疎水性ポリカーボネートは、ポリビニルピロリドンの薄い表面コーティングによって親水化される。
【0015】
前記親水性膜用に特に適したプラスチック材料は以下を含む。即ち、セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンである。
【0016】
前記親水性膜が前記疎水性膜よりも厚く(好ましくは少なくとも10、特に好ましくは少なくとも100の厚み比)、かつ、その単位面積当たりの熱伝導性が疎水性膜のそれよりも遥かに低いことから、運転中において疎水性膜の両側に作り出される温度は僅かに異なるだけであり、淡水側の温度が塩水側の温度よりも少し高くなる。従って、淡水側での温度に関連する蒸気圧の余剰は僅かなものに過ぎない。塩水側又は淡水側でのポンプ作用により、この蒸気圧の余剰分は過補償され、その結果、前記疎水性膜を通して親水性膜の方向に物質移動が起こり、これにより、水が親水性膜の孔中で凝縮する。物質移動が、その冷却により淡水が塩水よりも低い温度を有し、従って、蒸気圧も低いことによって達成される公知の膜蒸留法とは対照的に、本発明の方法の圧力差はポンプ作用から生じる。
【0017】
ここに説明した構造手段と処理条件とにより、前記親水性膜の孔は、蒸留の開始時に淡水で満たされ、その後、この親水性膜の疎水性膜に面する限定的な外表面の間近で更に凝縮が起こる。ここに説明した熱条件により、前記蒸留は、好ましくは、ほとんど等温的に起こり、凝縮する淡水の温度と蒸発する塩水の温度との差は、30℃以下、好ましくは10℃以下、特に好ましくは1℃以下(「準等温膜蒸留」)である。
【0018】
ここに説明した温度条件から生じるもう1つの結果は、淡水側での凝縮によって生じる凝縮の熱が、疎水性膜を直接通って蒸発する海水へとほとんど完全に(60%の最小割合で)直接流れることであり、これは、この熱流が遭遇する熱抵抗が、断熱を提供する親水性膜によって形成される熱抵抗よりも遥かに低いことによる。その結果、海水を蒸発させるために必要な蒸発熱の大部分が、疎水性膜を通す凝縮の熱の直接的リサイクルから生じる。これによって、プロセスのエネルギ消費が大幅に減少する。
【0019】
これらの要素に関して、本発明は、上に挙げたチェン(Cheng)の米国特許の一部、例えば、疎水性膜の海水側および/又は淡水側で作動し、多孔性又は非多孔性とすることが可能な薄い親水性層の使用が、異なる文脈で提言されている米国特許第4,419,242号と基本的に相違する。チェンは、いかに、塩濃度が、従来の膜蒸留法において、疎水性膜を通して次第に増加し、それにより、その膜の水和性が変化するかについて記載している。この作用により、塩水が疎水性膜の孔を満たし、それによって、必要な蒸気バリアが破壊される(ウォータロギング“water-logging”)。これは、上述した親水性膜の使用によって防止されると記載されている。一般に、チェンは、蒸発する塩水と凝縮する淡水との間の非常に大きな温度差によって行われる従来の膜蒸留法について記載している。
【0020】
本発明の文脈において、必要な蒸気圧差は、種々のポンプ法によって達成することができる。原則的には、従来のポンプを使用して、塩水を十分に高い圧力下に置くことが可能である。但し、そのためには、前記供給チャンバと前記膜とが適切な耐圧性を備える必要がある。
【0021】
これに代えて、又はそれに加えて、本発明の範囲内において、マイクロポンプ法が好適に使用される。この場合、そのポンプ作用は、親水性膜の孔内の水分子に作用する力に基づく(「孔内ポンプメカニズム」)。この目的のためには、下記に詳述する電気浸透ポンプ法が特に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に図示されている実施例に基づいて、本発明を更に詳しく説明する。そこに図示されている特徴は、それぞれ独立的に、又は、組み合わせて使用して、本発明の好適実施例を達成することができる。
【0023】
図1に図示されている水脱塩装置1は、供給チャンバ2と、疎水性膜3と、第1電極4と、親水性膜5と、第2電極6と、淡水チャンバ7とから構成されている。この図面はかなり簡略化されている。具体的には、前記膜3,5と電極4,6との厚みは、大きく誇張されて図示されている。実際には、これらの部材は、平行に延出するとともに、それらの(等しい)外寸法に対して比較的薄い一連の層を形成する。これらの層は、互いに対して直接接触する状態で取付けられている。
【0024】
これらの層を、その全体を番号9で示す積層内に固定するために、必要な接触を確保し、かつ、それも必要とされる蒸気および/又は液体の通過の障害にならないような種々の方法を使用することができる。具体的には、前記積層9全体を、適切な物理的手段によって互いに保持することができる。或いは、十分な開口度で層を接続する手段を使用することも可能である。具体的には、前記両電極4,6と疎水性膜とを、比較的厚みが大きくキャリアとして作用する前記親水性膜に対して、張合せ又は、その他のコーティング法(例えば、気相析出法)によって付着することができる。
【0025】
前記積層9は、前記供給チャンバ2に対して、それがこのチャンバの開口(図示せず)を完全に閉じるような状態で接続される。これによって、それは前記供給チャンバに面する壁の一部を形成する。勿論、角柱状、コイル状、円筒状等の従来公知のその他の形状も可能であろう。
【0026】
上述したように(そして、膜蒸留法においては一般的であるが)、前記疎水性膜3は、水蒸気はその孔3a(図面では記号的に示されている)を貫通することができるが、液体の水はそれを貫通することができないように、水によって濡れない材料から形成される。水蒸気は、これも又多孔性であるところの前記第1電極4を通過し、これによって、それは親水性膜5の孔5a(これらも記号的に示されている)に入る。本発明により、液体水への凝縮は、親水性膜5の孔5aで起こる。これは、前記第1電極4が、前記親水性膜の一部であり、凝縮が疎水性膜との相境界において電極4の孔中で起こるように構成されている場合を含む。次に、ポンプ作用によって駆動されて、水は親水性膜から第2電極6(これも多孔性)を通り、その後、淡水チャンバ7に流入し、ここから、好ましくは連続して、収集タンク(図示せず)へと流れ込む。これは、ポンプ作用によって発生する低圧によって補助することができる。
【0027】
本発明の作用の第1の重要な前提条件は、親水性膜5の単位面積当たりの熱伝導性が、疎水性膜3の単位面積当たりの熱伝導性よりも低い(好ましくは、遥かに低い)ことである。ここに使用される膜などの平坦な構造体の熱伝導性は、それに使用されている材料の熱伝導性に比例し、その厚みに反比例する。ここに記載の条件を実現するために、疎水性膜3の熱伝導性は可能な限り高く、そして親水性膜5の熱伝導性は可能な限り低くすべきである。しかしこれらの材料の選択は、例えば、水和性、孔サイズ、空孔率、物理的強度等に関して、その他多くの制約を受ける。従って、具体的ケースにおいては、疎水性膜3の熱伝導性を親水性膜5の対応の値よりも僅かにのみ高いもの、或いは、それよりも低いものとすることさえ可能である。
【0028】
本発明の実施において、使用される材料の厚みは大きな影響を与える。好ましくは、疎水性膜3の層の厚みdは、非常に小さなものにすべきである。その数値については上述した。親水性膜5の厚みは、疎水性膜3の厚みの、好ましくは、少なくとも10倍、特に好ましくは少なくとも100倍である。親水性膜5の厚みの絶対値は、好ましくは、少なくとも0.1mm、特に好ましくは、少なくとも1mmである。全体として、前記疎水性膜3を通しての単位面積当たりの熱伝導率は、前記親水性膜5を通しての単位面積当たりの熱伝導率の少なくとも3倍にすべきである。
【0029】
本発明を実際に成功させるためには、前記疎水性膜3が十分に高い蒸気透過性を持つことも重要である。それは、60バールの圧力差で、少なくとも100L(h・m)であることが好ましい。疎水性膜3の孔サイズは、好ましくは、100μm以下、特に好ましくは5μm以下である。
【0030】
前に説明したように、本発明の作用の為のもう一つの重要な特徴は、膜蒸留のために必要な塩水と淡水との間の蒸気圧差がポンプ作用によって維持されることである。図面に示す実施例では、これは、電気浸透ポンプとして実施されるマイクロポンプ法によって達成される。この目的のために、その内表面上に正又は負の電荷を有する、親水性膜が使用される。この条件は、材料の適切な選択によって満たすことが可能である。具体的には、その内面が電子交換材料によってコーティングされた膜の使用を考慮することができる。電界が、前記親水性膜5の前記限定的な外表面10,11に対して平行に延出する二つの電極4,6によって、運転中これら電極に適切な電圧を加えることによって、膜5内で発生する。一般には、DC電圧が適切である。但し、パルス電圧や変調した交流電圧を使用する方法もある。前記電気浸透ポンプ作用は、前記孔の壁上に存在する電荷キャリアによって、拡散二重層が孔内部に形成され、液体中のイオンがその分極化とそれらの電荷極性によって前記電界中において加速されることに基づく。電気浸透ポンプ法に関するより多くの情報は、一例として下記の記載中に挙げる刊行物から得ることができる。本発明の範囲内において、前記第1電極4は、正又は負の電荷を有することができる(そして、それに応じて前記第2電極6は、その場合、負又は正の電荷を有するものとすることができる)。個々のケースにおいてこれらの極性のどちらが選択されるかは、前記親水性膜の内面上の電荷の極性に依存する。いずれにせよ、電極極性は、イオンが疎水性膜から離間する方向に加速され、それによって、水が親水性膜の孔5aから押し出されて淡水チャンバ7の方に向かうように選択されなければならない。
【0031】
運転中、前記親水性膜5の孔5aは、ほとんど完全に満たされ、孔5a内での凝縮が、親水性膜5の疎水性膜3に面する界面10の間近で起こる。これは、以下のように毛管凝縮作用に基づいて説明することが可能な自己調節作用によって引き起こされる。蒸留プロセスの最初に、疎水性膜3を通過する水蒸気は、それらの親水性毛管特性により、孔5aにおいて凝縮する。それにより、これらの孔5aは、凝縮する淡水のメニスカスが前記界面10に近づくまで次第に満たされる。この状態において、蒸留の効力は、前記ポンプ作用によって作り出される減圧に依存するところの凝集表面の凹状湾曲(即ち、孔5aの水のメニスカス)の度合いに依存する。その結果、ポンプ作用による減圧の増加に伴い、凹状湾曲が増大し、毛管凝縮の効力が増加する。これによってより多くの水蒸気が再び供給され、前記メニスカスの湾曲は漸次的に小さくなる傾向となる。
【0032】
この自己調節作用は、本発明の作用のために重要である。というのは、それによって、凝縮の場所(上述したメニスカス)が(その小さな厚みにより)疎水性膜3に非常に近くなり、蒸発の場所に非常に近くなるからである。従って、上述した擬似等温プロセスが達成され、これによって、エネルギ消費が非常に小さなものとなるのである。
【0033】
図2は、前記第1電極4が、二つの層12,13から成る親水性膜5内に延出する実施例を図示している。原則的に、両電極4,6は、(電圧が加えられたときに)それらの間の電界が親水性膜の孔5a内の液体に作用するという条件が満たされる限り、装置内の別の位置に配置してもよい。例えば、第2電極6は、淡水チャンバ7の親水性膜5の反対側に配置することもできる。これらの電極4,6の位置は、孔5a中で凝縮する淡水のメニスカスに関して、上述した自己調節作用に影響を及ぼす。この点に関して、図2に示す配置が有利となり得る。
【0034】
概して、前記両電極4,6の少なくとも一方は、前記親水性膜5に固定接続および/又は、その中に一体化される。そのような電極は、親水性膜5の構成要素と見なすことができる。具体的には、このことは、界面10において親水性膜5に組み込まれた電極の場合、凝縮は電極4によって形成されるこの膜5の部分において起こり得ることを意味する。
上述したように、前記親水性膜は、通常は、ほぼ球状の孔を備える種々の材料から形成することができる。但し、図1及び2に図示されているように、両界面10及び11間において本質的に直線に沿って延出する孔を備える膜材料も利用可能である。そのような材料は、本発明により、前記親水性膜用として有利に使用することができる。
【0035】
図面に示された電気浸透ポンプ法での実施例において、電気化学的な作用が考慮に入れられる。具体的には、前記電圧が約1.8Vよりも高い場合、陰極で水素が発生する。これは、浄化水に加えて、水素を作り出すために利用することができる。この場合、疎水性膜に面する電極が陽極となることが好ましい。しかし、不要な電気化学反応を引き起こすイオンやガス(例えば、酸素)の通過を妨げる適切なイオン交換膜を使用することによって、不要な電気化学的作用を減少させるか、若しくは、無くすことも可能である。
【0036】
本発明を更に例示するために以下の例が提供される。
この方法を記載するために、種々の処理工程を考慮に入れなければならない。これらの計算例は、質量流れ:30L/h・m、海水温度:17℃の条件に基づくものである。
【0037】
1.凝縮点における熱バランス
水が疎水性膜を通して蒸発し、その後、凝縮がこの疎水性膜の水で満たされた孔の表面上で起こる。それに関連する熱輸送は、以下のように数学的に記載することができる。この例において、熱損失は1000分の1であると仮定している。温度上昇は0.14Kであると仮定している。
【0038】
【数1】

【数2】

Qkon = 凝縮熱
QM1 = 疎水性膜を介した熱伝導
QM2 = 親水性膜を介した熱伝導
QW1= 水を介した熱伝導と輸送
λ= 熱伝導係数
A = 断面積
L = 膜の厚み
M = 質量流れ
cp = 熱容量
Hv = 気化熱
T1 = 蒸発部位の温度
T2 = 凝縮部位の温度
T3 = 淡水バルクの温度
【0039】
表1は、所与の質量流れ:30L/h・mでの計算の結果を示している。海水の温度上昇は1°Kである。これは、望ましい擬似等温プロセスが達成されることを示している。
【0040】
【表1】

【0041】
2.毛管凝縮
水蒸気は親水性膜の孔中で凝縮し、毛管で湾曲面を形成する。この表面の上方で優勢な蒸気圧はpvである。この蒸気圧pvは、平坦な表面上での蒸気圧pv0と比較して低く、従って、毛管での水蒸気の凝縮のための駆動力となる。前記低蒸気圧pvは、ケルビンの式2.aと式2.bと2.c.とによって計算することができる。水を毛管から引き出すために加えなければならない毛管圧pkは、式2.bを使用して計算され、これは、蒸気圧を減少させるために必要で、ケルビンの式2.aから計算することが可能な前記低圧と少なくとも同じ大きさでなければならない。
【0042】
【数3】

ここで、
pk = 毛管圧
VL = 液体のモル体積(水:18.05cm/mol)
pv0 = 蒸気圧(pk = 0 における)
pv = 蒸気圧
R = 一般気体定数 8.31441 J/molK
T = 温度
Tkrit. = 臨界温度(水:647.3K)
γL = 表面張力
δ = 濡れ角
r = 毛管の半径
【0043】
表2は、前記計算例で決定された値を示している。蒸気圧pvは、2300Paの蒸気圧Pv0と比較して170Pa減少している。12nmの孔半径で、120,000Paの毛管圧が達成される。少なくともこの毛管圧が前記電気浸透マイクロポンプによって加えられなければならない。
【0044】
【表2】

【0045】
3.疎水性膜
疎水性膜の特性は、所与の質量流れと、毛管凝縮による蒸気圧の低下から生じる蒸気圧差Dpとで決定することができる(式3.a)
【0046】
【数4】

ここで、
M = 質量流れ
ΔP = 圧力差
R = 一般気体定数 8.31441 J/molK
T = 温度
D = 拡散係数
Mw = 分子量
Ψ = 空孔率(Ψ = Ue/U ここでUe= 空体積)
U = 多孔質膜の総体積
A = 断面積(Ae =ΨA/√τ, Ae = 有効断面積)
τ =屈曲度
L = 多孔性膜の厚み(τ = (Le/L), Le:孔の有効長)
【0047】
表3は、膜の厚みとともに対応する圧力差と予め選択された空孔率と屈曲度と示している。これによって、1μmの層厚みの値が得られる。
【0048】
【表3】

【0049】
4.電気浸透ポンプ
凝縮のための駆動力、即ち、前記蒸気圧差を保持するために、凝縮した水を毛管が運び出さなければならない。これを行うために、電気浸透マイクロポンプ法が使用される。このプロセスの数学的説明は、C.L. Rice und R. Whitehead (ElectrokineticFlow in a Narrow Cylindrical Capillary; J. Phys. Chem. 69 (1965) 4017-4024)及びS. Zeng, C.H. Chen, J.C. MikkelsenJr. and J.G. Santiago (Fabrication and characterization of electro-osmotic micro-pumps, Sensors and Actuators B 79 (2001) 107-114)に有る。それぞれの式によって最大体積流量(質量流れ/密度)4.a、最大達成可能ポンプ圧4.b、そして最大電圧4.cが得られる。
【0050】
【数5】

体積流Vは、式4.dに示される圧力差に関連する。
【0051】
【数6】

不可逆的損失(表面伝導性、バルク伝導性)を考慮に入れない場合の、圧力と体積流量との関数としての最小パワーは、式4.e.によって計算することができる。
【0052】
【数7】

上の式には次の省略形を使用した。
【数8】

ここでIn(x)=n次の第1種変形ベッセル関数:
【数9】

ここで、
V = 体積流量
ΔP = 圧力差(出力−入力)
Ψ = 空孔率(Ψ = Ue/U、ここで、Ue= 空体積;U = 多孔質媒体の総体積)
A = 断面積(Ae =ΨA/√τ, Ae = 有効断面積)
r = 多孔質媒体の有効孔径
μ= 動粘度
τ = 屈曲度
L = 多孔性膜の厚み(τ = (Le/L)2, Le:孔の有効長)
ε= 誘電率(ε=ε0 ・εR, ε0 = 電界定数、εR:誘電常数)
ζ= ゼータ電位
U = 電圧
λ = 拡散二重層の厚み(デバイ長)
I1 = 1次の第1種変形ベッセル関数
I0 = 0次の第1種変形ベッセル関数
K = 伝導率
iEOF = EOFを通る電流
【0053】
これらの式によって前記親水性膜の特性が得られる。この膜は、適切なポンプ作用による電気浸透流の達成を可能にするためにこれらの特性を備える必要がある。孔半径、厚み及び表面電荷の値はこのようにして得られる。
【0054】
表4は、計算した例の上述した膜特性を示している。加えて、これは、本発明の方法によって得ることが可能な有利な結果も示している。更に、最大電圧の値(7ボルト)とその結果得られる電流の値(13A)も示されている。エネルギ消費量は92Wであり、このことは、1リットルの飲み水のために僅か3Whしか必要とされないということを意味する。
【0055】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施に好適な装置の第1実施例の主要部分の概略断面図
【図2】本発明の実施に好適な装置の第2実施例の主要部分の概略断面図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理方法、特に、膜蒸留法によって塩水から淡水を得るための方法であって、
処理対象水を、少なくともその一部が疎水性の蒸気透過性膜からなる壁を有する供給チャンバ内に保持する工程と、
前記疎水性膜よりも大きな厚みと単位面積当たり低い熱伝導性とを有する親水性膜を、前記疎水性膜に対して平行に延出させる工程と、
ポンプ作用によって、処理対象水と淡水との間に蒸気圧差を作り出し、この蒸気圧の差によって膜蒸留が行われ、水が前記親水性膜の孔中で凝縮する工程とを包含する方法。
【請求項2】
前記蒸留は、本質的に等温的であって、凝縮する淡水の温度は蒸発する処理対象水の温度よりも高く、その温度差は、好ましくは30℃以下、特に好ましくは10℃以下、更に好ましくは1℃以下である請求項1の水処理方法。
【請求項3】
前記蒸気圧差は、少なくとも部分的に、前記淡水が前記親水性膜から、この親水性膜の孔中の水分子に作用する力を含むマイクロポンプ法によって排出されることによって作り出される請求項1又は2の水処理方法。
【請求項4】
前記マイクロポンプ法は、電気浸透ポンプ法である請求項3の水処理方法。
【請求項5】
前記蒸気圧差は、少なくとも部分的に、処理対象水が圧力によって前記供給チャンバに送り込まれることによって作り出される請求項1〜4のいずれかの水処理方法。
【請求項6】
水処理装置、特に、膜蒸留法によって処理対象水から淡水を得るための装置であって、
少なくともその一部が疎水性の蒸気透過性膜からなる壁を有する供給チャンバと、
前記疎水性膜に対して平行に延出する親水性膜であって、当該親水性膜は、前記疎水性膜よりも大きな厚みと単位面積当たり低い熱伝導性とを有し、これにより、前記水は、前記親水性膜の孔中で、前記疎水性膜とのその界面の近傍において凝縮する親水性膜と、
処理対象水と淡水との間に蒸気圧差を作り出し、これにより、このポンプ作用によって作り出される蒸気圧の差によって膜蒸留が行われ、水が前記親水性膜の孔中で凝縮するように構成されたポンプ装置とを備えた装置。
【請求項7】
電気浸透ポンプ作用を提供するために、二つの平坦な電極が前記親水性膜に対して平行に、この親水性膜の少なくとも1つの層が前記二つの電極の間に延出するように配置され、前記両電極は、必要に応じて前記親水性膜の一部であり、それらの間に延出する前記層は表面電荷を有する請求項6の装置。
【請求項8】
前記供給チャンバは、耐圧式であり、それによって前記水が前記供給チャンバ内に送り込まれるポンプが設けられている請求項6又は7の装置。
【請求項9】
前記疎水性膜の前記蒸気透過性は、60バールの圧力差で、少なくとも100L(h・m)である請求項1〜5のいずれかの方法又は請求項6〜8のいずれかの装置。
【請求項10】
前記疎水性膜の厚みは、100μm以下、好ましくは10μm以下、特に好ましくは1μm以下である請求項1〜5のいずれかの方法又は請求項6〜8のいずれかの装置。
【請求項11】
前記親水性膜の厚みは、少なくとも0.01mm、好ましくは少なくとも0.1mm、特に好ましくは少なくとも1mmである請求項1〜5のいずれかの方法又は請求項6〜8のいずれかの装置。
【請求項12】
前記親水性膜の厚みは、前記疎水性膜の厚みの少なくとも10倍、好ましくは少なくとも100倍である請求項1〜5のいずれかの方法又は請求項6〜8のいずれかの装置。
【請求項13】
前記疎水性膜を介した単位面積当たりの熱伝導率は、前記親水性膜を介した単位面積当たりの熱伝導率の少なくとも3倍である請求項1〜5のいずれかの方法又は請求項6〜8のいずれかの装置。
【請求項14】
前記疎水性膜は多孔性であり、その孔サイズは、100μm以下、好ましくは、5μm以下である請求項1〜5のいずれかの方法又は請求項6〜8のいずれかの装置。
【請求項15】
前記親水性膜は複数の層を含み、これらの個々の層は互いに異なる特性を有する請求項1〜5のいずれかの方法又は請求項6〜8のいずれかの装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−501704(P2007−501704A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529584(P2006−529584)
【出願日】平成16年4月24日(2004.4.24)
【国際出願番号】PCT/DE2004/000855
【国際公開番号】WO2004/101444
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(505418250)クリーン・ウォーター・ゲゼルシャフト・フュア・ヴァッサーアウフベライトゥングステヒニーク・エム・ベー・ハー (1)
【Fターム(参考)】