説明

水処理における抗菌剤としてのジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル

飲料水又は排水の精製及び除染におけるような、水処理プロセスにおける抗菌剤としてのジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル類の使用が特許請求される。好ましくは、水処理は、膜濾過システムで実行される。本抗菌剤は、細菌及び/又は藻類による腐食から膜システムを保護し、膜濾過プロセスの高効率の維持を助ける。ジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル類を使用する膜濾過効率の維持方法、更にはジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル類を含む水性抗菌洗浄液もまた特許請求される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、水処理プロセスにおける抗菌剤の使用、更に詳細には、細菌汚染に曝されるかもしれない水精製システムにおけるジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル類の使用に関する。
例えば、飲料水、工程用水又は冷却用水を調製するための水処理に使用される装置の除染、あるいはその品質の改善は、本発明の主な実施態様の1つである。
【背景技術】
【0002】
ポリマー及びプラスチックは、例えば、基体のコーティングとして使用されるとき、水、湿気又は水分に日常的に曝されるならば、細菌又は藻類による腐食を受けうることが知られている。細菌及び藻類の集団のバイオフィルムは、これらの基体の表面上に付着し、腐食の速度を増大させることができる。エアフィルターシステムにおけるある種の抗菌剤の使用は、既に提案されている(AU-B-2001242108)。JP-A-2003-041293は、排水口のぬめり除去剤として使用するための、トリクロサン又はジクロサンを含む幾つかの成分を開示している。類似の成分は、皮膚消毒において有効に作用すること(EP-A-259249)、あるいは完全に生分解性であること(Full Public report Tinosan HP100, Natl. Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme, シドニー, オーストラリア, Oct. 27, 2004)が証明されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
閉鎖水系(水精製、脱塩)では、例えば、パイプ、フィルター、バルブ又はタンクのようなプラスチック部品を使用することは、細菌又は藻類の定着及びバイオフィルム形成の可能性があり、これが膜の透水度(流量)のようなフィルター効率の重大な損傷をもたらし、続いて素材の劣化及び循環液の汚染が起こりうる。
【0004】
該表面での他の問題は、藻類又は細菌のバイオフィルム形成に由来し、その結果、これらの流体力学的性質に望ましくない変化がおき、そして例えば、パイプ中の流量に、あるいは船や海又は他の湖沼に適用の無故障使用にも影響しうる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
今や、これらの不都合は、ある種のジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル群の抗菌化合物の使用により、例えば、該化合物をポリマーのような基体及び/又はプラスチックコーティングに取り込むか、あるいは場合により、この抗菌化合物を含む洗浄液で該基体の表面(コーティング)を洗浄することにより、克服できることが見い出された。
【0006】
したがって、本発明の主要な目的は、飲料水及び/又は排水を処理するための精製及び除染システムのような、水処理システムにおける抗菌剤としてのジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物の使用である。好ましい実施態様において、水処理は、膜濾過システムで実施される。
【0007】
本発明の別の目的は、膜システムをジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物で処理することにより、膜それ自体及び追加的に必要な装置例えば、供給及び排出パイプ、バルブ及びタンクなど(以降、膜又は膜濾過システム)を細菌及び藻類による腐食から保護することによる、該水処理システムの効率を維持する方法である。
【0008】
本発明の更に別の目的は、好ましくは前述の膜システムである水処理システムを細菌及び/又は藻類による腐食から保護するために、ジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物を含む洗浄液で水処理システムを洗浄する方法である。
【0009】
本発明のこれらや他の目的は、以下に更に詳細に説明する。
【0010】
本発明に使用されるジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテルは、一般式(1):
【0011】
【化1】


[式中、
Yは、塩素又は臭素であり、
Zは、SOH、NO、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、C−Cアルキルカルボニル、フェニル又はC−Cアルキル置換フェニルであり、
pは、0、1又は2であり、
mは、1又は2であり、そして
nは、0又は1である]で示される既知化合物であり、特に式(2):
【0012】
【化2】


で示される、ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテルである。
【0013】
非常に好ましいものは、式(3):
【0014】
【化3】


で示される、4,4’−ジクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテルである。
【0015】
式(1)〜(3)の抗菌剤はまた、2種以上の化合物の混合物を使用することができ、そしてこれらは、作用の範囲を広げるため及び/又は相乗効果を達成するために、更に他の抗菌物質と組合せることができる。
【0016】
抗菌剤の作用は、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)又は緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の菌種など、グラム陽性及びグラム陰性細菌、並びに水性環境に存在しうる他の菌、更には酵母、皮膚糸状菌、藻類などに広がる。
【0017】
ジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル類が使用される、水処理の1つの特定の実施態様は、膜システムにおける水の精製(脱塩)及び除染のプロセスである。
【0018】
主として有機ポリマー材料から調製される半透膜は、逆浸透、限外濾過、ナノ濾過及び/又はマイクロ濾過について知られている膜である。これらは、注型又は複合膜であり、平板又は中空繊維の形状を有する。
【0019】
更に、これらは非対称性又は対称性でもよい。非対称性膜は、膜の一方の面に、他方の面の細孔サイズとは異なる細孔サイズを有する。対称性膜は、いずれの面も同じ細孔サイズを有する。
【0020】
抗菌剤のジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル類での膜材料(膜が形成される前)又は膜(完成した構造)の処理は、例えば、膜材料若しくは膜構造への、又は膜の表面(コーティング)への取り込みである。該取り込みは、例えば、析出又は成形(押出)プロセスを含む。
【0021】
抗菌剤は一般に、ポリマー材料中によく付着する、即ち、概して非浸出性である。
【0022】
本膜システムは、ポリマー構造と、このポリマー材料中に取り込まれ、そして該材料全体に、又は場合によりコーティング層に分散した非浸出性抗菌剤とを有する、少なくとも1つの注型半透膜を含む。
【0023】
膜用のポリマー材料は、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエステル、芳香族ポリスルホン、芳香族ポリフェニレンスルホン、芳香族ポリエーテルスルホン、ビスフェノール、ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルケトン、ポリアミドスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン及びポリテトラフルオロエチレン又はこれらの混合物よりなる群から選択することができる。
【0024】
好ましいのは、非浸出性抗菌剤のジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル類を取り込んだ、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリアミドポリスルホン及びポリフッ化ビニリデンの膜である。
【0025】
膜効率(例えば、濾過特性又は流量)は、一般には取り込まれた抗菌剤(細菌が、その表面にバイオフィルムを形成するのを、又は膜を破るのを妨げる)に影響を受けない。
【0026】
抗菌剤の濃度は、膜基体の重量に基づいて、約0.01〜2.0重量%、好ましくは0.1〜2.0重量%である。
【0027】
抗菌剤を含む半透膜の調製は、一般に当該分野において既知である。
【0028】
酢酸セルロース膜は、支持体(織物)上に、例えば、二酢酸及び三酢酸セルロースの混合物と、上述の量の抗菌剤とを含む、例えば、複合溶液(ドープ溶液)から注型される。使用される溶媒は、抗菌剤も容易に溶ける、例えば、ジオキサン/アセトン混合物である。これらは、支持体(ポリエステル織物)上に注型して、低温で析出させる。
【0029】
例えば、ポリアクリロニトリルポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデン又はスルホン化ポリフッ化ビニリデンからの中空繊維膜の調製では、使用される溶媒は、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン及びこれらの混合物のような非プロトン性溶媒である。
【0030】
抗菌剤は、該溶媒に容易に溶け、そして例えば、中空繊維を形成するためにドープ溶液を出糸突起の中に通すことにより、非溶媒がドープ溶液と接触すると、ポリマーと共に析出する。
【0031】
複合ポリアミド膜のような複合膜は、ポリスルホンと抗菌剤とのドープ溶液を強化織物(ポリエステル)上に注型することにより調製することができる。水と接触すると、このポリスルホンと抗菌剤は、強化織物上に析出してフィルムを形成する。乾燥後、このポリスルホンフィルム(膜)を次にアミン溶液で浸すことにより、ポリアミド層をポリスルホン膜上に形成する。乾燥後、逆浸透用の複合膜が得られる。
【0032】
本発明の代替の実施態様では、液の重量に基づいて0.01〜2.0%の抗菌剤を含む洗浄液でシステム全体(膜、パイプ、タンクなど)を洗浄することにより、抗菌特性を持つ膜濾過システムを提供することができる。抗菌剤は普通、膜(濾過)システムのポリマー材料に実質的であり、ポリマー材料の最上層(例えば、コーティング)に拡散させることによって、バイオフィルム増殖並びに細菌及び藻類による腐食に対する持続的保護を達成することができる。
本洗浄法はまた、抗菌性が消尽した膜濾過システムの抗菌活性を再活性化するのにも適している。
【0033】
好ましくは、本発明の別の目的である洗浄液は、抗菌剤の他に界面活性剤(非イオン性、アニオン性又は両性イオン性化合物であってよい)、金属イオン封鎖剤、ヒドロトロープ剤(hydrotropes)、アルカリ金属水酸化物(アルカリ度の源)、保存料、充填剤、染料、香料などのような従来成分を含む水性処方である。
洗浄液中の成分及びその使用は、当業者には周知である。
【発明の効果】
【0034】
この抗菌剤は、水中に存在するほぼ全種類の細菌の増殖を妨げるのに非常に効果があり、膜から浸出せず、ヒトや動物の皮膚に対して安全かつ非毒性であり、そして良好な生物分解性を示し、かつ全体的に見て、例えば、トリクロロ−ヒドロキシジフェニルエーテル(これも抗菌剤として使用される)と比較すると水性環境においてより好ましい生態学的側面(profile)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであるが、限定するものではない。部及び百分率は、特に断りない限り重量で与えられる。温度は摂氏度で与えられる。
【実施例1】
【0036】
酢酸セルロース膜は、約20重量%の二酢酸及び三酢酸セルロース混合物と、それぞれ0.5%及び2.0%の式(3)の抗菌剤とを含む、ドープ溶液から注型した。溶媒は、ジオキサンとアセトンとの混合物(2:1;w/w)である。次に注型膜を分析したが、その結果、90%の抗菌剤が酢酸セルロースポリマーと共に析出し、膜に保持されていたことが判った。
【0037】
更に、この酢酸セルロース膜を、脱塩プロセスにおける逆浸透圧モジュールに使用した。
この逆浸透圧モジュールは、透過水中の細菌の存在を測定するために試験した。
1ヶ月間の運転後、透過水中及び膜上に細菌を見い出すことができず、そして流量及び高い脱塩率(96%を超える)は全く影響を受けなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理プロセスにおける抗菌剤としてのジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物の使用。
【請求項2】
水処理プロセスが、飲料水及び/又は排水の精製及び除染である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
水処理プロセスが、膜濾過システムで実行される、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
ジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物が、式(1):
【化4】


(式中、
Yは、塩素又は臭素であり、
Zは、SOH、NO、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、C−Cアルキルカルボニル、フェニル又はC−Cアルキル置換フェニルであり、
pは、0、1又は2であり、
mは、1又は2であり、そして
nは、0又は1である)で示される、請求項1〜3のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
ジハロゲノ−2−ヒドロキシジフェニルエーテルが、式(2):
【化5】


で示され、そして好ましくは式(3):
【化6】


で示される、請求項4記載の使用。
【請求項6】
水の膜濾過システムの効率を維持する方法であって、該システムをジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物で処理することにより、該システムを細菌及び/又は藻類による腐食から保護することを含む方法。
【請求項7】
処理が、膜構造への、又は場合によりその表面層(コーティング)へのジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物の取り込むことを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
膜が、有機ポリマーから、好ましくは、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエステル、芳香族ポリスルホン、芳香族ポリフェニレンスルホン、芳香族ポリエーテルスルホン、ビスフェノール、ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルケトン、ポリアミドスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン及びポリテトラフルオロエチレン又はこれらの混合物よりなる群から選択される有機ポリマーから調製される、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
ジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物が、式(1):
【化7】


(式中、
Yは、塩素又は臭素であり、
Zは、SOH、NO、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、C−Cアルキルカルボニル、フェニル又はC−Cアルキル置換フェニルであり、
pは、0、1又は2であり、
mは、1又は2であり、そして
nは、0又は1である)で示される、請求項6〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
ジハロゲノ−2−ヒドロキシジフェニルエーテルが、式(2):
【化8】


で示され、そして好ましくは式(3):
【化9】


で示される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
ジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物での処理が、析出又は成形(押出)プロセスによる取り込みを介して実施される、請求項6〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
ジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物の量が、膜材料の重量に基づいて、0.01〜2.0重量%である、請求項7〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
処理が、ジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物、好ましくは式(1)〜(3)の化合物を含む水性洗浄液で膜濾過システムを洗浄することにより実施される、請求項6記載の方法。
【請求項14】
水性洗浄液が、洗浄液の重量に基づいて、0.01〜2重量%のジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
膜濾過システムにおける水処理のプロセスであって、膜へのジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物の取り込み、及び/又はジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物での膜濾過システムの抗菌処理の工程を含むプロセス。
【請求項16】
水性抗菌洗浄液における請求項1記載のジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物の使用。
【請求項17】
水性抗菌洗浄液が、液の重量に基づいて、0.01〜2.0重量%のジハロゲノ−ヒドロキシジフェニルエーテル化合物を含む、請求項16記載の使用。

【公表番号】特表2009−541046(P2009−541046A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517151(P2009−517151)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056304
【国際公開番号】WO2008/003606
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(508120547)チバ ホールディング インコーポレーテッド (81)
【氏名又は名称原語表記】CIBA HOLDING INC.
【Fターム(参考)】