説明

水処理方法及び超純水製造方法

【課題】原水中の尿素を高度に分解することができる水処理方法と、この水処理方法を利用した超純水製造方法を提供する。
【解決手段】有機物を含有する原水を生物処理手段11で生物処理する水処理方法において、原水に結合塩素剤などを添加し、生物処理を酸化剤及び/又は殺菌剤の存在下で行う。原水中に酸化剤及び/又は殺菌剤が存在した状態で生物処理するため、尿素分解除去効率が向上する。生物処理水中に残存する酸化剤及び/又は殺菌剤の濃度が所定範囲となるようにして処理を行うことにより、尿素分解除去効率がより向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原水の水処理方法及び超純水製造方法に係り、特に、原水中の尿素を高度に除去することができる水処理方法と、この水処理方法を利用した超純水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、市水、地下水、工水等の原水から超純水を製造する超純水製造装置は、基本的に、前処理装置、一次純水製造装置及び二次純水製造装置から構成される。このうち、前処理装置は、凝集、浮上、濾過装置で構成される。一次純水製造装置は、2基の逆浸透膜分離装置及び混床式イオン交換装置、或いは、イオン交換純水装置及び逆浸透膜分離装置で構成され、また、二次純水製造装置は、低圧紫外線酸化装置、混床式イオン交換装置及び限外濾過膜分離装置で構成される。
【0003】
超純水製造装置に供給される水中から尿素を除去することにより、超純水中のTOCを十分に低減することが特許文献1,2に記載されている。
【0004】
特許文献1(特開平6−63592(特許3468784))では、前処理装置に生物処理装置を組み込み、この生物処理装置で尿素を分解する。特許文献2(特開平9−94585(特許3919259))では、被処理水に臭化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムとを添加し、水中の尿素を分解することが記載されている。なお、この特許文献2の[0030]、[0039]段落および図1には、尿素を臭化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムとで分解処理した処理水を活性炭塔に通水し、残留する次亜塩素酸ナトリウムを分解除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−63592号
【特許文献2】特開平9−94585号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、より高純度の超純水を製造することが求められており、そのためには、超純水中のTOCの低減を阻む原因となっている尿素をより高度に除去する必要がある。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、原水中の尿素を高度に分解することができる水処理方法と、この水処理方法を利用した超純水製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の水処理方法は、有機物を含有する原水を生物処理する水処理方法において、この生物処理を酸化剤及び/又は殺菌剤の存在下で行うことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の水処理方法は、請求項1において、生物処理水中に残存する酸化剤及び/又は殺菌剤の濃度が所定範囲となるようにして処理を行うことを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の水処理方法は、請求項2において、酸化剤及び/又は殺菌剤は塩素系薬剤であり、生物処理水中の全残留塩素濃度がClとして0.02〜0.1mg/Lとなるように該塩素系薬剤の添加又は還元処理を行うことを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の水処理方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記生物処理は原水を生物担持担体と接触させる処理であることを特徴とするものである。
【0012】
本発明(請求項5)の超純水製造方法は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水処理方法の処理水を1次純水装置及び2次純水装置で処理して超純水を製造することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは、原水中に酸化剤及び/又は殺菌剤が存在した状態で生物処理すること、特に生物処理水中に酸化剤及び/又は殺菌剤が所定量残留するようにして生物処理することにより尿素分解効率が向上することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
このように酸化剤及び/又は殺菌剤の存在下で生物処理すると尿素効率が向上する機構の詳細は定かではないが、酸化剤及び/又は殺菌剤が存在しない条件における優先菌種と、酸化剤及び/又は殺菌剤が存在する条件における優先菌種とでは菌種が異なり、後者の優先菌種が尿素及び尿素誘導体の分解に寄与する菌種であるためと推察される。すなわち、尿素及び尿素誘導体を効率的に分解する菌種は酸化剤及び/又は殺菌剤への耐性が高く、酸化剤及び/又は殺菌剤が存在して他の菌種が失活する条件においても活性を維持することにより優先化し、尿素の分解効率が向上するものと推察される。
【0015】
なお、原水中の酸化剤及び/又は殺菌剤の濃度が高過ぎると、酸化剤及び/又は殺菌剤の酸化作用によって菌体が減少し、尿素分解効率が低下するおそれがある。また、原水中の酸化剤及び/又は殺菌剤の濃度が低すぎると、尿素分解効率が低くなるおそれがある。本発明では、生物処理手段の処理水中における該酸化剤及び/又は殺菌剤の濃度範囲となるように酸化剤及び/又は殺菌剤の添加量制御又は必要に応じ酸化剤を除去するための還元処理を行うのが好ましい。
【0016】
なお、前記特開平9−94585(特許文献2)には、原水に臭化ナトリウム及び次亜塩素酸ナトリウムを添加して尿素を分解した後、活性炭塔に通水することが記載されているが、この活性炭塔は残余の次亜塩素酸ナトリウムを分解除去するためのものであり(特許文献2の[0039])、臭化ナトリウム及び次亜塩素酸ナトリウムを添加し分解処理した後、さらに生物活性炭処理するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態に係る生物処理方法を利用した超純水製造方法を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0019】
本発明の水処理方法は、有機物を含有する原水を生物処理する水処理方法において、この生物処理を酸化剤及び/又は殺菌剤の存在下で行うことを特徴とするものである。
【0020】
この水処理方法の処理対象水としては、地下水、河川水、市水、その他の工業用水、半導体製造工程からの回収水などが用いられる。また、これらの水を浄化処理したものであってもよい。この浄化処理としては、超純水の製造工程における前処理システム又はこれと同様の処理が好適である。具体的には、凝集・加圧浮上・濾過などの処理やこれらの処理の組合せが好適である。
【0021】
原水(処理対象水)中の尿素濃度は5〜200μg/L特に5〜100μg/L程度が好適である。
【0022】
添加する酸化剤及び/又は殺菌剤の種類には特に制限はなく、尿素を効率的に分解する菌種を優先化し得るものが好適に用いられる。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素等の塩素系酸化剤、モノクロラミン、ジクロラミン等の結合塩素剤(安定化塩素剤)などが好適に用いられる。
【0023】
なお、後述するように担体として活性炭を用いる場合、活性炭の触媒反応等によって遊離塩素及び結合塩素が分解するが、結合塩素の方が活性炭と接触しても分解されにくい。従って、担体として活性炭を用いる場合は、酸化剤及び/又は殺菌剤として結合塩素剤を用いるのが好ましい。特に、酸化剤及び/又は殺菌剤としては、活性炭との反応の緩やかな結合塩素剤、例えば塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物からなる結合塩素剤が好適である。
【0024】
これらの酸化剤及び/又は殺菌剤の添加量としては、生物処理水中に残存する酸化剤及び/又は殺菌剤の濃度が所定範囲となるようにするのが好ましい。この所定範囲は酸化剤及び/又は殺菌剤の種類によって異なるが、塩素系薬剤の場合、生物処理水中の全残留塩素濃度がClとして0.02〜0.1mg/L特に0.02〜0.05mg/Lとなるようにするのが好ましい。ここで、全残留塩素とは、遊離残留塩素と結合残留塩素とを合わせたものであり、全残留塩素濃度とは、遊離残留塩素濃度と結合残留塩素濃度との合計を意味する。酸化・殺菌能力は、遊離残留塩素の方が結合残留塩素よりも高い。よって、この遊離残留塩素濃度が0.02mg/L as Cl以下又は未満であるのが好ましい。
【0025】
なお、被処理水中にもともと酸化剤が含まれている場合(例えば、水道水など全残留塩素が存在する場合)や、生物処理の前段処理にて酸化剤を使用している場合などは、そのまま生物処理に受け入れることで生物処理を酸化剤存在下で実施することができる。しかしながら、生物処理給水の酸化剤濃度が低濃度の場合には、生物処理において酸化剤が早期に消費されてしまい酸化剤存在下とすることができない。また、被処理水中の酸化剤及び/又は殺菌剤の濃度が過度に高い場合には、これら酸化剤及び/又は殺菌剤の殺菌作用によって生物処理手段の菌体が失活ないし死滅するおそれがある。従って、被処理水中の酸化剤及び/又は殺菌剤の濃度測定を行い、この濃度が所定範囲となるように酸化剤及び/又は殺菌剤の添加量制御や、場合によっては還元処理するのが好ましい。
【0026】
酸化剤及び/又は殺菌剤の濃度測定方法には特に制限はないが、例えば、DPD(N,N-diethylphenylenediamine)法や、ポーラログラフィーや、吸光光度法により塩素濃度を測定する方法や、水系内の酸化還元電位(Oxidation-reduction Potential;ORP)測定し、この酸化還元電位に基づいて酸化剤及び/又は殺菌剤の濃度を推定する方法等が挙げられる。この測定結果に基づき、酸化剤及び/又は殺菌剤が過剰のときは還元剤が添加され、酸化剤及び/又は殺菌剤が不足しているときには酸化剤及び/又は殺菌剤が添加される。
【0027】
被処理水を生物処理するための生物処理方式については特に制限はないが、菌体の流出を抑制することができる担体法が好適である。これにより、菌体が流出して減少して分解効率が低下することが防止される。また、流出した菌体が後段での濁質負荷となったりスライム障害の原因になったりすることが防止される。
【0028】
この担体法による生物処理に用いる生物処理手段としては、上向流式生物分解装置であってもよく、下向流式生物分解装置であってもよい。上向流式の場合、流動床式であってもよく、担体を流動させない固定床式生物分解装置であってもよいが、菌体等の流出が少ない固定床式が好ましい。
【0029】
担体の種類にも特に制限はなく、活性炭、アンスラサイト、砂、ゼオライト、イオン交換樹脂、プラスチック製成形品等が用いられるが、酸化剤及び/又は殺菌剤の存在下で生物処理を実施するためには、酸化剤及び/又は殺菌剤の消費量の少ない担体を用いることが好ましい。但し、生物分処理手段に高濃度の酸化剤及び/又は殺菌剤が流入する可能性がある場合には、酸化剤及び/又は殺菌剤を分解し得る活性炭等の担体を用いても良い。この場合、菌体が高濃度の酸化剤及び/又は殺菌剤によって失活、死滅することが防止される。
【0030】
生物処理手段への通水速度は、SV5〜50hr−1程度とするのが好ましい。この生物処理手段への給水の水温は常温たとえば10〜35℃、pHはほぼ中性たとえば4〜8であることが好ましく、従って、必要に応じて、生物処理手段の前段に熱交換機やpH調整剤添加手段を設けることが好ましい。
【0031】
本発明の水処理方法によると、被処理水中に酸化剤及び/又は殺菌剤が存在した状態で生物処理するため、尿素分解効率が向上する。また、生物処理水中に残存する酸化剤及び/又は殺菌剤の濃度が所定範囲となるようにして処理を行うことにより、尿素分解効率がより向上する。
【0032】
次に、この水処理方法を利用して超純水を製造する方法について第1図を参照して説明する。
【0033】
第1図に示す超純水製造方法では、原水を、前処理システム10、生物処理手段11、限外濾過膜分離(UF)装置12、一次純水処理システム20及びサブシステム30で処理する。
【0034】
前処理システム10は、凝集、加圧浮上(沈殿)、濾過(膜濾過)装置等よりなる。この前処理システム10において、原水中の懸濁物質やコロイド物質が除去される。また、この前処理システム10では高分子系有機物、疎水性有機物などの除去も可能である。
【0035】
この前処理システム10からの流出水に酸化剤及び/又は殺菌剤を添加し、生物処理手段11に導入され、上述の処理が行われる。生物処理手段11の構成については上述した通りである。この生物処理手段11の下流側に設置された限外濾過膜分離装置12では、生物処理手段11から流出する微生物や担体微粒子等を分離除去する。
【0036】
一次純水処理システム20は、第1逆浸透(RO)膜分離装置21と、第2逆浸透(RO)膜分離装置22と、混床式イオン交換装置23とをこの順に設置したものである。但し、この一次純水処理システム20を構成する装置はこれに制限されるものではなく、例えば、逆浸透装置、イオン交換処理装置、電気脱イオン交換処理装置、UV酸化処理装置などを組み合わせてもよい。
【0037】
サブシステム30は、サブタンク31と、熱交換器32と、低圧紫外線酸化装置33と、混床式イオン交換装置34と、UF膜分離装置35とをこの順に設置したものである。一次純水処理システム20の処理水は、サブシステム30にて、サブタンク31及び熱交換器32を経て低圧紫外線酸化装置33に導入され、含有されるTOCがイオン化ないし分解され、このうち、イオン化された有機物は、後段の混床式イオン交換装置34で除去される。この混床式イオン交換装置34の処理水は更にUF膜分離装置35で膜分離処理され、超純水が得られる。但し、このサブシステム30を構成する装置はこれに制限されるものではなく、例えば、脱気処理装置、UV酸化処理装置、イオン交換処理装置(非再生式)、限外濾過膜処理装置(微粒子除去)などを組み合わせてもよい。
【0038】
この超純水製造方法よると、生物処理手段11において尿素が十分に分解除去されるため、高純度の超純水を効率よく製造することができる。なお、第1図では、尿素除去処理を前処理後に行っているが、前処理の前に尿素除去処理を行ってもよい。
【実施例】
【0039】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0040】
[実施例1〜5]
本発明方法に従って、原水に酸化剤及び/又は殺菌剤を添加した後、生物処理を行った。原水としては野木町水(平均尿素濃度21μg/L、遊離残留塩素0.5mg/L、全残留塩素0.6mg/L)を用いた。
【0041】
この原水に対し、酸化剤及び/又は殺菌剤としてスライムコントロール剤(結合塩素系「クリバータIK110」、栗田工業株式会社製)を表1に示す添加量にて添加した後、生物処理手段に通水した。
【0042】
生物処理手段としては、生物担体としての粒状活性炭(「クリコール WG160、10/32メッシュ」、栗田工業株式会社製)を円筒容器に10L充填したものを用いた。通水速度SVは20とした
【0043】
一ヶ月間の馴養通水後、生物処理手段の出口における尿素濃度を分析し、結果を表1に示した。
【0044】
尿素分析の手順は以下の通りである。すなわち、まず、検水の全残留塩素濃度をDPD法にて測定し、相当量の重亜硫酸ナトリウムで還元処理する。(その後、DPD法にて全残留塩素を測定して、0.01mg/L未満であることを確認する。)次に、この還元処理した検水をイオン交換樹脂(「KR−UM1」、栗田工業株式会社製)にSV50/hrで通水し、脱イオン処理し、ロータリーエバポレータにて10〜100倍に濃縮した後、ジアセチルモノオキシム法にて尿素濃度を定量する。
【0045】
[比較例1]
スライムコントロール剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして原水を処理した。生物処理手段の流出水中の尿素濃度の測定結果を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
SVを5としたこと以外は比較例1と同様にして原水を処理した。生物処理手段の流出水中の尿素濃度の測定結果を表1に示す。
【0047】
[参考例1]
生物処理水に全残留塩素が検出されないようにスライムコントロール剤の添加量を0.1mg/LasClとしたこと以外は実施例1と同様にして原水を処理した。生物処理手段の流出水中の尿素濃度の測定結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
上記の通り、本発明の原水の生物処理方法によれば、尿素を効率的に分解することが可能であることが確認された。これにより、生物処理手段Bを小型化しても尿素濃度を十分に低くすることが可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 前処理システム
11 生物処理手段
12 限外濾過膜分離装置
20 一次純水処理システム
30 サブシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含有する原水を生物処理する水処理方法において、
この生物処理を酸化剤及び/又は殺菌剤の存在下で行うことを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
請求項1において、生物処理水中に残存する酸化剤及び/又は殺菌剤の濃度が所定範囲となるようにして処理を行うことを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
請求項2において、酸化剤及び/又は殺菌剤は塩素系薬剤であり、生物処理水中の全残留塩素濃度がClとして0.02〜0.1mg/Lとなるように該塩素系薬剤の添加又は還元処理を行うことを特徴とする水処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記生物処理は原水を生物担持担体と接触させる処理であることを特徴とする水処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水処理方法の処理水を1次純水装置及び2次純水装置で処理して超純水を製造することを特徴とする超純水製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−183273(P2011−183273A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49230(P2010−49230)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】