説明

水処理用アニオン性ポリマーの濃度を測定する方法

【課題】タンニン酸等の多価フェノール系有機物とアニオン性ポリマーとを含む水処理剤を対象水系に添加した時に、対象水系中のアニオン性ポリマー濃度を精度良く測定できる方法をする。
【解決手段】水処理剤が添加された対象水系の一部の水を検水として採取し、予め多価フェノール系有機物を酸化分解できる酸化剤を加えて、多価フェノール系有機物を酸化分解した後、アニオン性ポリマーと反応して白濁を生じさせる試薬を添加し、生じた白濁を比濁することを特徴とするアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンニン酸等の水処理用多価フェノール系有機化合物とアニオン性ポリマーとを含む水処理剤を対象水系に添加した後の、該水系におけるアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系やボイラー等の蒸気発生設備を備える水系に対して供給される給水や補給水(以下、単に給水という。)に含まれている溶存酸素は、冷却水系の配管やボイラー缶体、蒸気復水配管その他の水系プラント設備の腐食原因となる。このため、現在では、冷却水系や蒸気発生設備に供給される給水に対して溶存酸素を除去する作用のある水処理剤を添加し、給水中の溶存酸素を除去している。
【0003】
このような溶存酸素を除去する水処理薬剤、すなわち脱酸素剤として、従来はヒドラジンが多用されてきた。しかし、近年、ヒドラジンについての人体への安全性に疑いが持たれたために、天然素材の使用が検討された結果、タンニン、タンニン酸、及びその加水分解物である没食子酸等の多価フェノール系有機物が酸素除去作用に加えて金属表面に対する防食皮膜形成能を有しているため、安全性に優れる水処理剤として使用され始めた。
【0004】
特にボイラー等の高温水系、蒸気発生プラント系においては、通常、タンニン酸のみならず、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、炭酸ソーダなどのアルカリ剤、およびポリアクリル酸塩、アクリル酸―アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸塩、ポリマレイン酸、およびマレイン酸系共重合体等のアニオン性ポリマーがスケール防止剤として配合されている(例えば特許文献1)。
【0005】
一方、これらのタンニン酸等の水処理用多価フェノールやアニオン性ポリマーは、それらの効果を発揮させる為には、水中に一定濃度以上の量を存在させなければならず、その水中濃度を精度良く、かつ迅速に測定する必要がある。
【0006】
これらのうち、特にアニオン性ポリマーについては、従来、水中濃度を測定することが困難であったが、近年特定の試薬を用いて水中濃度を測定する発明が提案されている。すなわち、アニオン性ポリマーを含む検水に第四級アンモニウム塩とキレート剤とを添加し、比濁により前記ポリマーの水中濃度を測定する方法である(例えば非特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−147554号公報
【非特許文献1】SPE Reservoir Engineering 1987年5月号、184〜188頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、非特許文献1に開示されたアニオン性ポリマーの測定方法は、共存物質の影響を大きく受ける。特に特許文献1に示したようなタンニン酸等の多価フェノール系有機物が共存すると、アニオン性ポリマーと試薬との白濁反応を促進させてしまい、その結果、正の誤差を生じさせてしまい、正確なアニオン性ポリマーの濃度を測定できない、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、タンニン酸等の水処理用多価フェノール系有機化合物が共存していても、比較的簡単な操作で、精度良く、かつ迅速にアニオン性ポリマーの水中濃度を測定することができる方法を提供することである。
【0009】
本発明は、水処理用多価フェノール系有機物と共存するアニオン性ポリマーの添加対象水系における濃度を測定する方法であって、多価フェノール系有機物とアニオン性ポリマーとを含む水処理剤を対象水系に添加し、該水系におけるアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法において、前記対象水系から検水を採取後、酸化剤を添加して予め前記検水中の有機物を分解した後、試薬を添加してアニオン性ポリマーと反応させて白濁を生じさせ、比濁することを特徴とするアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法である。
【0010】
好ましくは、水処理用多価フェノール系有機物がタンニン、タンニン酸、リグニン並びにそれらの塩、没食子酸及びその多量体並びにその塩からなる群から選ばれる。
【0011】
好ましくは、アニオン性ポリマーがアクリル酸系重合体又は共重合体、マレイン酸系重合体又は共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【0012】
好ましくは、試薬としては第四級アンモニウム塩を用いる。
【0013】
好ましくは、酸化剤が過酸化水素又は次亜塩素酸もしくはその塩である。
【0014】
好ましくは、比濁は、検水の透過光又は散乱光の強度を測定し、その結果に基づいて検水中のアニオン性ポリマーの濃度を算出する。
【0015】
本発明によれば、多価フェノール系有機物とアニオン性ポリマーとが共存する水系中のアニオン性ポリマーの溶存濃度を精度良く測定することができる。
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0017】
本発明の対象水系としては、開放循環式冷却水系、密閉循環式冷却水系、一過式冷却水系、及びボイラー等の蒸気発生設備を含む水系等が例示されるが、これらに限られず、本発明に係わる水処理剤が添加される水系に広く適用できる。
【0018】
本発明は多価フェノール系有機物とアニオン性ポリマーとを含む水処理剤に係わる発明であるが、水処理用多価フェノール系有機物としては、天然物であるタンニン、タンニン酸、リグニン、没食子酸及びその多量体並びにこれらの塩が例示される。没食子酸及びその多量体は、タンニンがアルカリで加水分解することにより生成する。
【0019】
前述の通り、これらの多価フェノール系有機物が共存すると、試薬によるアニオン性ポリマーの白濁が加速される結果、実際よりも高濃度のアニオン性ポリマーが検出されてしまい、精度良くアニオン性ポリマーの水中濃度を測定することができない。
【0020】
本発明の対象となるアニオン性ポリマーは、アクリル酸系重合体又は共重合体、マレイン酸系重合体又は共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種である。具体的には、ポリアクリル酸又はその塩、アクリル酸―アクリルアミドメチルスルホン酸共重合体又はその塩、アクリル酸―ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体又はその塩等が例示される。
【0021】
本発明では、上記の多価フェノール系有機物とアニオン性ポリマーとを含む水処理剤が添加された対象水系から、一部の水を検水として採取し、そこに先ず、酸化剤を加えて、共存する多価フェノール系有機物を分解する。
【0022】
加える酸化剤としては、前記多価フェノール系有機物と反応して該有機物を分解する能力のある酸化剤なら任意のものが使用できるが、具体例としては、次亜塩素酸、過酸化水素及びこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一種があげられる。
【0023】
酸化剤の添加量は、一般的に検水に対し、0.5〜3重量%程度であり、酸化剤を添加後、10分程度で該有機物を分解できる程度の量とする。3重量%を超えるような過剰量を添加すると、酸化剤が多量のアニオン性ポリマーをも分解する可能性が出てくるので、好ましくない。
【0024】
多価フェノール系有機物が酸化分解された後は、アニオン性ポリマーと反応して白濁するような試薬を添加する。このような試薬としては、第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0025】
前記第四級アンモニウム塩の具体例としては、ベンゼトニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩及びイミダゾリウム塩等が例示される。塩としては、塩化物、臭化物、沃化物、硫酸塩等が例示される。
【0026】
第四級アンモニウム塩の添加量としては、アニオン性ポリマーと反応して安定な白濁を生じるに必要な量とするが、通常、検水に対し、50〜4000mg/l程度である。
【0027】
本発明においては、第四級アンモニウム塩の添加のみでも十分な比濁が可能であるが、白濁をより安定なものにして比濁したい場合には、さらにキレート剤を添加することができる。
【0028】
キレート剤の具体例としては、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩等が挙げられる。
【0029】
キレート剤を併用する場合の添加量は、通常1000〜5000mg/l程度で、添加順序は試薬と同時でも良いし、キレート剤を先に添加後、第四級アンモニウム塩を添加しても良い。第四級アンモニウム塩及び必要により添加されるキレート剤と、アニオン性ポリマーとの反応時間は、通常5分程度である。
【0030】
上記の操作の結果、検水中のアニオン性ポリマーは白濁してくる。本発明においては、この白濁の度合いを比濁法により検出する。
【0031】
ここに適用される比濁法は、通常使用される比濁法を適用することができる。たとえば、試薬を添加する前の検水の可視光の透過光又は散乱光の強度を予め測定しておき、次いで、試薬を添加した後の検水の透過光又は散乱光の強度を測定し、両者の強度を比較して、検水中のアニオン性ポリマーの濃度を算出することができる。
【0032】
具体的には、HACH社製POCKET COLORIMETERIIなどを使用することができる。この装置は、528nmの可視光をセルに照射し、散乱光量を測定して水中の残留塩素量を測定する装置であるが、本発明のアニオン性ポリマーの濃度測定装置として好適に使用できる。
【0033】
本発明に係わる水処理剤は、上記の多価フェノール性化合物とアニオン性ポリマーを含んでおれば良く、さらにその他の防食剤、スケール防止剤、スライムコントロール剤等を含んでいても良い。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、水処理用多価フェノール系有機物とアニオン性ポリマーとが共存する対象水系中のアニオン性ポリマーの濃度を精度良く、迅速に測定することができる。
【実施例1】
【0035】
実施例1。タンニンを10重量%、水酸化ナトリウムを10重量%及びアニオン性ポリマーとしてポリアクリル酸ナトリウムを所定量含むようにした水処理剤1000mg/lを水1lに添加した後、検水としてセルに4mlの水を採取した。
【0036】
次いで前記セルに次亜塩素酸ナトリウムを2重量%加え、これをHACH社製POCKET COLORIMETERIIに装着して10分間反応させた。この
ときに1回目の光照射を行ない、透過光量を測定し、ゼロ補正した。次いで、前記セル中にさらにEDTA2重量%含む試薬を2mlと塩化ベンゼトニウム0.1重量%含む試薬を4ml、それぞれ加え、前記装置に装着後、5分間反応させた。その後再度光を照射して透過光量を測定した。結果として出力された指示値について、予め作成しておいた上記装置の指示値と既知量のポリアクリル酸ナトリウムとの検量線を用いてポリアクリル酸ナトリウムの水中濃度を算出した。
【0037】
又、前記水処理剤において、タンニンを含まない以外は同じ組成を有する水処理剤についても、上記と同様の操作を行った。
【0038】
両者の結果を図1に示す
図1より、タンニンの有無に拘わらず、本発明方法では水中のアニオン性ポリマーの濃度を精度良く、簡便に測定することができることがわかる。
【0039】
実施例2。実施例1において、添加する酸化剤として、次亜塩素酸ナトリウム2重量%に替えて過酸化水素3重量%添加した以外は、実施例1と同じ操作を行った。
【0040】
結果を図2に示す。
【0041】
図2より、過酸化水素を用いた場合でも、実施例と同様に精度良くポリアクリル酸ナトリウムの水中濃度を測定することができることがわかる。
【0042】
比較例。実施例1において、予め酸化剤を添加せずに直接試薬とキレート剤とを添加して水中のポリアクリル酸ナトリウム濃度を測定した。
【0043】
結果を図3に示す。
【0044】
図3より、予め酸化剤を添加せずにポリアクリル酸ナトリウムの濃度を測定した時には、実際の濃度よりもはるかに高濃度検出されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例1の結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例2の結果を示す図である。
【図3】本発明の比較例の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理用多価フェノール系有機物と共存するアニオン性ポリマーの、添加対象水系における濃度を測定する方法であって、前記対象水系から検水を採取後、酸化剤を添加して予め前記検水中の前記有機物を分解した後、試薬を添加してアニオン性ポリマーと反応させて白濁を生じさせ、比濁することを特徴とするアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法
【請求項2】
多価フェノール系有機物がタンニン、タンニン酸、リグニン並びにその塩、没食子酸及びその多量体並びにその塩からなる群から選ばれる少なくも一種であることを特徴とする請求項1に記載のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法。
【請求項3】
アニオン性ポリマーがアクリル酸系重合体又は共重合体、マレイン酸系重合体又は共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法。
【請求項4】
試薬が第四級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法。
【請求項5】
酸化剤が過酸化水素又は次亜塩素酸もしくはその塩であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法。
【請求項6】
比濁は、検水に可視光を照射し、その透過光又は散乱光の強度を測定し、その結果に基づいて検水中のアニオン性ポリマーの濃度を算出することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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