説明

水処理用電解ユニット及びそれを用いた電解式水処理装置

【課題】活性酸素種を安定して発生させることができ、水処理能力が低下し難い水処理用電解ユニット及び電解式水処理装置を提供する。
【解決手段】ダイヤモンド電極11とナフィオン膜12とが一体となるように白金線電極13が一巻きされ、さらに下方の貫通穴11aへの挿通され、巻回が繰り返される。こうして、ナフィオン膜12は、ダイヤモンド電極11と白金線電極13とに挟持されつつ、外部に剥き出しにされた露出面12aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド電極を用いた水処理用電解ユニット、及びそれを用いた電解式水処理装置に関し、冷却用循環水等の殺菌用等に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、電極を被処理水に浸漬し、電極間に電流を流して被処理水中の汚染物質を電極酸化させて無害化する、電解式水処理装置が知られている。こうした電解式水処理装置の電極として、ダイヤモンド電極を用いたものが開発されている(例えば特許文献1、2)。
【0003】
ここでダイヤモンド電極とは、ダイヤモンドにホウ素等の異元素をドーピングしたり、ダイヤモンドの表面を水素化したりして、電気導電性を付与した電極をいう。導電性ダイヤモンドはその化学的安定性のため、従来の電極では得ることのできなかった広い電位窓を有するため、特に貴の電位域で安定に作動し、電極‐溶液界面に大きな電位差を付与することができる。このためOH・、・O2などの活性酸素種やH2O2、オゾン等の酸化剤を生成するのに十分貴な電位を保持させることができ、これらの活性酸素種や酸化剤によって、これらの活性酸素種によって、被処理水中の汚染物質を分解することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−236544号公報
【特許文献2】特開2004−202405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の電気分解を利用した電解式水処理装置では、被処理水の電気伝導度が低い場合には電気が流れ難く、電極反応の進行が円滑に行われなくなり、ひいては十分な水処理が行われなくなるというおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、被処理水の電気伝導度が低い場合であっても、効率よく水処理を行うことができる電解式水処理装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水処理用電解ユニットは、プロトン伝導膜と、不溶性電極と、対極とを備え、 前記プロトン伝導膜は、前記不溶性電極と前記対極とに挟持されつつ、外部に剥き出しにされた露出面を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の水処理用電解ユニットでは、プロトン伝導膜が不溶性電極と対極との間に挟持されているため、被処理水中のイオン濃度が低くて比電導度の値が小さくても、プロトン伝導膜中をプロトンが移動することによって、イオンの拡散が可能となる。このため、例え被処理水の比電導度が小さくても、プロトン伝導膜中のプロトン移動によって電流が流れる。このため、電極反応が円滑に行われ、不溶性電極表面で活性酸素種やH2O2等の酸化剤が発生する。そして、プロトン伝導膜が外部に剥き出しとされた露出面を有するため、不溶性電極上で活性酸素種やH2O2等の酸化剤がが、プロトン伝導膜中を拡散して、外部にまで溶出される。このため、プロトン伝導膜外部に存在する被処理水中の汚染物質や細菌を酸化処理することができる。
【0009】
プロトン伝導膜としては、ナフィオン(登録商標、Nafion(Dupon社製))等のスルホン酸基を持ったフッ素系ポリマー等が挙げられる。こうしたフッ素系ポリマーからなるプロトン伝導膜中は、プロトン導電性に優れ、電極酸化に対しても耐久性を有しており、好適いることができる。
【0010】
不溶性電極としては、電解によって溶解したし腐食したりしない不溶性電極であれば特に制限はない。例えば白金、白金を含有する合金等の貴金属電極等を用いることができる。
【0011】
本発明の水処理用電解ユニットでは、不溶性電極として導電性ダイヤモンド膜が形成されたダイヤモンド電極を用いるのが好適である。ダイヤモンド電極は、従来の電極では得ることのできなかった広い電位窓を有するため、特に貴の電位域で安定に作動し、電極‐溶液界面に大きな電位差を付与することができる。このためこの水処理用電解ユニットを被処理水中に浸漬し、ダイヤモンド電極が正の高い電位となるように、ダイヤモンド電極と対極との間に直流電圧を付与すれば、OH・、・O2などの活性酸素種やH2O2、オゾン等の酸化剤を生成するのに十分貴な電位を保持させることができる。こうして発生した活性酸素種や酸化剤が露出面を介してプロトン伝導膜中を拡散して、外部にまで溶出される。このため、プロトン伝導膜外部に存在する被処理水中の汚染物質や細菌を酸化処理することができる。
【0012】
本発明の水処理用電解ユニットの構造としては、対極は金属ワイヤからなり、前記ダイヤモンド電極上にプロトン伝導膜が重ねられたダイヤモンド-プロトン伝導膜接合体の周面に該金属ワイヤが巻きつけられていることとすることができる。こうであれば、金属ワイヤ間において、プロトン伝導膜が外部に剥き出しとされた露出部を容易に形成することができる。金属ワイヤとしては、白金や白金を主成分とする合金の線が耐食性等に優れており好ましい。
【0013】
また、前記対極及び/又は前記ダイヤモンド電極の厚さ方向に貫通する無数の孔を設けることにより、前記プロトン伝導膜の一部が露出する露出面が形成させてもよい。こうであっても、孔を介して高分子電解質膜が外部に剥き出しとなり、簡単な構造で容易に露出部が形成される。
【0014】
本発明の水処理用電解ユニットを用いて、電解式水処理装置を製造することができる。すなわち、本発明の電解式水処理装置は、請求項1乃至3の水処理用電解ユニットと、該水処理用電解ユニットの対極及び不溶性電極間に直流電流を流すための直流電源とを備えることを特徴とする。こうであれば、自然エネルギを有効に利用することとなる。このような発電手段として、太陽電池、風力発電装置、熱電素子等を挙げることができる。これらの発電手段を用いることにより、電源確保が困難な場所であっても、本発明の電解式水処理装置を長期間駆動させることができる。
【0015】
また、本発明の電解式水処理装置では、水処理用電解ユニットを保護するために、外部の被処理水と連通しており容器形状のハウジング内に収容することが好ましい。電解中においてはダイヤモンド電極や対極が大きく分極されるため、ダイヤモンド電極からは酸素ガスが、対極からは水素ガスが多量に発生することとなる。このため、ハウジングは電解により発生したガスを外部へ排気するための排気口を有していることが好ましい。
【0016】
また、本発明の電解式水処理装置では、水処理用電解ユニットへの通電状態と通電休止状態とを繰り返すためのタイマーが設けられていることが好ましい。こうであれば、通電休止状態において電力の消費が停止されるため、発電手段から蓄電池に蓄電される。このため、昼間の蓄電池への蓄電によって夜間等においても稼動が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施例について詳述する。
(実施例1)
<水処理用電解ユニット>
実施例1の水処理用電解ユニット1は、図1に示すように、片面にホウ素をドープされた導電性ダイヤモンド膜が被覆された長さ23cm、幅7cmのダイヤモンド電極11を備えている。ダイヤモンド電極11の中央には貫通穴11aが長さ方向に1列に並んで開けられており、貫通穴11aへ、細長い紐状のナフィオン膜12が挿通され、1回の巻回がなされ、さらに下方の貫通穴11aへの挿通され、巻回が螺旋状に繰り返されている。また、さらに貫通穴11aには、φ=0.5mmの白金線電極13が挿通され、ダイヤモンド電極11とナフィオン膜12とが一体となるように、ナフィオン膜12の上から白金線電極13が1回巻回され、さらに下方の貫通穴11aへの挿通され、巻回が繰り返される。こうして、ナフィオン膜12は、ダイヤモンド電極11と白金線電極13とに挟持されつつ、外部に剥き出しにされた露出面12a(図2参照)が形成される。ダイヤモンド電極11及び白金線電極13にはそれぞれ接続コード14a,14bが接続されている。
【0018】
<電解式水処理装置>
上記実施例1の水処理用電解ユニット1を用いて、電解式水処理装置を組み立てた。この電解式水処理装置は、図3に示すように、水処理用電解ユニット1がシャーレ形状の透明容器15の底に接着剤で固定された電極挟持治具16に挟持されて立設されている。透明容器15の上端には、四角筒状で上端が縮径して、下端が無底のカバー部材17が被せられて、接着剤で固定されている(内容量1L)。図4に示すように、カバー部材17の側面及び上端には、無数のガス抜き穴17aが開けられている。図3に示すように、ダイヤモンド電極11は蓄電池18の正極に接続コード14aを介して接続されており、白金線電極13は蓄電池18の負極に接続コード14bを介して接続されている。蓄電池18の電圧は12Vである。接続コード14a、14bの間には電圧計19が設けられており、接続コード14bの途中には電流計20が設けられている。また、電流計20と蓄電池18の間には所定時間ごとに通電状態のオン−オフを繰り返すためのタイマー25が設けられている。蓄電池18は太陽電池パネル21に充電可能に接続されている。太陽電池パネル21は3.43cm×10.3cmの太陽電池36個から構成されており、アウターサイズは38.0cm×29.2cmである。この太陽電池パネル21は、気温35℃の晴天時において電圧12V電流1Aを供給することが可能である。水処理用電解ユニット1は、被処理水22の入った水槽23の中に、ダイヤモンド電極11が上端を残して浸漬されている。また、水槽23の底には被処理水22に流れを与えるための水流ポンプ24が置かれている。
【0019】
−水処理試験−
以上のように構成された電解式水処理装置を用いて、模擬冷却水の殺菌処理を行った。模擬冷却水としては、水道水を汲み置きし、大気中で10日間放置した水を用いた。こうして調製した模擬冷却水6Lを被処理水22として水槽23に入れ、接続コード14a、14bを蓄電池18に接続し、水流ポンプ24を駆動して被処理水22を撹拌しながら、電解処理を行った。タイマー25は特に駆動させずに連続運転とした。そして電解時間0分、30分、60分、90分、120分において被処理水22を採取し、菌数の測定を行った。また、試験中における電流及び電圧の測定も行った。菌数の測定は、採取した被処理水を1/10及び1/100に希釈し、この希釈液0.1mlを10cm2一般細菌陽寒天培地に塗り、35℃の恒温容器内で24時間の培養を行った。培養後のコロニーの数を菌数とし、この菌数によって殺菌効果を判断した。
【0020】
<結 果>
菌数測定
図5に全菌数の推移を示す。その結果、電解前において、全菌数は溶液1cm当たり約106個であったものが、電解開始直後から菌数が減り始め、電解開始から30分後には全菌数は約105個となり、60分後には約103個(すなわち当初全菌数の約1/1000)となった。
【0021】
以上の結果は、次のように説明される。すなわち、電解によりダイヤモンド電極上でオゾンやOH・、O・、Oといった酸化性物質が発生する。そして、これらの酸化性物質がナフィオン膜12中を通り、露出部12aから被処理水の沖合いへ拡散し、細菌類を殺菌する。また、白金線電極13とダイヤモンド電極11との間にナフィオン膜12が挟持されているため、被処理水中のイオン濃度が低くて比電導度の値が小さくても、プロトン伝導膜中をプロトンが移動することによって、イオンの拡散が可能となる。このため、例え被処理水の比電導度が小さくても、円滑な電極反応が行われ、酸化性物質が発生し、細菌類の殺菌を効率よく行うことができる。
【0022】
電流及び電圧の時間経緯
図6に電気分解時の電圧と電流の時間経過を示す。この図より、120分の電気分解において、電圧と電流はほとんど変化せず、長時間にわたって安定した電気分解が行われ、細菌類の殺菌が継続して行われることが分かった。
【0023】
上記水処理試験では、タイマー25を駆動させずに連続運転としたが、タイマー25を所定時間ごとに通電状態のオン−オフを繰り返す(たとえば15分通電−45分休止)ように設定しておいてもよい。こうであれば、通電休止状態において電力の消費が停止されるため、発電手段から蓄電池18に蓄電される。このため、昼間の蓄電池18への蓄電によって夜間等においても稼動が可能となり、長期間の連続運転が可能となる。
【0024】
(実施例2)
<水処理用電解ユニット>
実施例2の水処理用電解ユニットは、図7及び図8に示すように、ナフィオン膜31が、ダイヤモンド電極32と白金電極板33とで挟持されている。白金電極板33は厚さ方向に貫通する無数の孔33aを有している。
【0025】
以上の構成の水処理用電解ユニットでは、白金電極板33上での電気分解によってダイヤモンド電極上で発生した酸化性物質が、ナフィオン膜31中を通り、孔33aから被処理水の沖合いへ拡散し、細菌類を殺菌することができる。
【0026】
上記実施例では、本電解式水処理装置を冷却水の殺菌装置として用いたが、本発明は殺菌の用途に限定されるものではない。ダイヤモンド電極上で発生するオゾンやOH・、O・、Oといった酸化性物質によって酸化処理が可能な汚染物質であれば処理を行うことができる。また、この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、エアコンの冷却水等の殺菌に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1の水処理用電解ユニットの正面図である。
【図2】実施例1の水処理用電解ユニットの部分正面図である。
【図3】実施例1の水処理用電解ユニットを用いた電解式水処理装置の模式図である。
【図4】実施例1の水処理用電解ユニットを用いた水処理用電解セルの一部断面図である。
【図5】電解時間と菌数との関係を示すグラフである。
【図6】電気分解時の電圧と電流の時間経過を示すグラフである。
【図7】実施例2の水処理用電解ユニットの正面図である。
【図8】実施例2の水処理用電解ユニットの断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1…水処理用電解ユニット
12,31…プロトン伝導膜(ナフィオン膜)
11,32…ダイヤモンド電極
13,33…対極(白金線電極)
12a…露出面
33a…孔
18,21…直流電源(18…蓄電池,21…太陽電池)
15,17…ハウジング(15…透明容器,17…カバー部材)
17a…排気口(ガス抜き穴)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導膜と、不溶性電極と、対極とを備え、
前記プロトン伝導膜は、前記不溶性電極と前記対極とに挟持されつつ、外部に剥き出しにされた露出面を有することを特徴とする水処理用電解ユニット。
【請求項2】
前記不溶性電極は、表面に導電性ダイヤモンド膜が形成されたダイヤモンド電極であることを特徴とする請求項1記載の水処理用電解ユニット。
【請求項3】
前記対極は金属ワイヤからなり、前記不溶性電極上にプロトン伝導膜が重ねられた不溶性電極-プロトン伝導膜接合体の周面に該金属ワイヤが巻きつけられていることを特徴とする請求項2記載の水処理用電解ユニット。
【請求項4】
請求項1乃至3の水処理用電解ユニットと、該水処理用電解ユニットの対極及び不溶性電極間に直流電流を流すための直流電源とを備えた電解式水処理装置。
【請求項5】
前記直流電源は蓄電池と、自然エネルギを電気エネルギに変換し、該電気エネルギを該蓄電池に充電可能な発電手段とからなることを特徴とする請求項4記載の電解式水処理装置。
【請求項6】
前記水処理用電解ユニットは容器形状のハウジングに収容されており、該ハウジング内部は外部の被処理水と連通しており、電解により発生したガスを外部へ排気するための排気口を有していることを特徴とする請求項4又は5記載の電解式水処理装置。
【請求項7】
通電と休止を繰り返すためのタイマーが設けられていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項記載の電解式水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−131736(P2009−131736A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307829(P2007−307829)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】