説明

水処理装置、及び水処理方法

【課題】下水などの生物学的排水中に大量に含まれ、資源としての枯渇性が指摘されるリンを簡易に回収するとともに、資源として低コストで再利用する。
【解決手段】実施形態の水処理装置は、リンを含有する被処理水と、ハイドロタルサイト様物質を含むリン吸着材とを接触させ、前記リン吸着材にリンを吸着させるための吸着手段と、前記吸着手段内に供給する前記被処理水中のリンの濃度を計測するためのリン濃度計測手段とを具える。また、前記リン濃度計測手段によって計測されるリンの濃度に応じて前記リン吸着材を前記リン吸着手段内に導入するためのリン吸着材導入手段と、リンを吸着した前記リン吸着材を前記吸着手段から排出するためのリン吸着材排出手段とを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水処理装置、及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、世界的に、将来的なリン資源の枯渇化が予測されており、排水中のリン回収技術が注目されている。また、排水中のリンの環境系への排出は富栄養化の一因となることから、排出状況管理はより厳密化されるとともに、排水からのリンの除去技術の確立が急務となっている。
【0003】
代表的なリン除去技術として、微生物のリン蓄積能を利用する生物学的リン除去方法や、凝集沈殿法によるリン除去法がある。しかしながら、これらのリン除去方法を排水からのリン除去技術として利用するためには、例えば、生物学的なリン除去法から発生する余剰汚泥の焼却や化学処理等のプロセスが必要であり、多量の薬剤や、複数の処理工程が必要であった。
【0004】
これらの実情に鑑み、リンを選択的に吸着するリン吸着材を利用する水処理技術が注目されている。リンは、一般に排水中において陰イオンとして存在するので、陰イオンを選択的に除去する素材である陰イオン交換体としての陰イオン交換樹脂や、ハイドロタルサイト様の無機層状化合物などが開発されるとともに、これらの素材特性を発展させた吸着材も開発されている。
【0005】
特許文献1では、有機系素材にハイドロタルサイト様物質を担持させたリン吸着材を用い、排水中からのリンを吸着の後、該吸着材からリンを脱離し、脱離液からリン含有塩を晶析回収することにより、排水中からリンを除去することが開示されている。また特許文献2も同様にハイドロタルサイト様素材を含有する吸着材によって、排水中からリンを吸着した後に、該吸着材からリンを脱離させ、その後、吸着材を再利用する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の技術では、リン吸着機能を有するハイドロタルサイト様物質を有機系素材に担持させるために、吸着材の製造工程が煩雑になり、製造コストが増大する。また、吸着材からリンを離脱させて再利用するためにアルカリ等の多量の薬剤が必要になり、リン離脱のための煩雑な工程が必要となり、結果として、排水からのリンの除去操作が煩雑になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−260561号
【特許文献2】特開2008−49241号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、下水などの生物学的排水中に大量に含まれ、資源としての枯渇性が指摘されるリンを簡易に回収するとともに、資源として低コストで再利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の水処理装置は、リン成分を溶解した被処理水と、ハイドロタルサイト様物質を含むリン吸着材とを接触させ、前記リン吸着材にリン成分を吸着させるための吸着手段と、前記吸着手段内に供給する前記被処理水中のリンの濃度を計測するためのリン濃度計測手段とを具える。また、前記リン濃度計測手段によって計測されるリンの濃度に応じて前記リン吸着材を前記リン吸着手段内に導入するためのリン吸着材導入手段と、リン成分を吸着した前記リン吸着材を前記吸着手段から排出するためのリン吸着材排出手段とを具える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態における水処理装置の概略構成を示す図である。
【図2】第2の実施形態における水処理装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態における水処理装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態における水処理装置10は、吸着槽11と、この吸着槽11の被処理水に対する上流側であって、被処理水導入経路21上に配置されたリン濃度計測器12と、吸着槽11の上方であって、リン吸着材導入経路22上に配置されたリン吸着材導入調整器13とを有している。また、リン濃度計測器12の被処理水に対する上流側であって、被処理水導入経路21上に配置された被処理水供給器14を有しており、さらにその上流側には、被処理水に対する固液分離装置16を有している。
【0012】
吸着槽11は、例えばステンレス等の耐食性材料から構成することができ、吸着槽11内部にリン吸着材を固定させ、固定させたリン吸着材に対して被処理液を通水して互いに接触させるように構成した固定床、吸着槽11内部において、リン吸着材及び被処理水を互いに流動させて接触させるように構成した流動床、又は吸着槽11内部に導入した被処理水に対して、リン吸着材を順次に導入及び回収して、両者を互いに接触するように構成した移動床等として構成することができる。
【0013】
また、本実施形態では、吸着槽11を1段として設けているが、複数の吸着槽11を準備し、これらを並列あるいは直列に接続し、いわゆる多段の吸着槽として構成することもできる。さらに、吸着槽11内部には、例えば沈降槽などのリン吸着材を物理的に保持する、図示しないリン吸着材の保持機構を設けることができる。
【0014】
但し、上述した吸着槽11の構成はあくまで例示であって、本実施形態においては、必要に応じて任意の形態とすることができる。
【0015】
リン濃度計測器12は汎用の計測器を用いることができ、リン吸着材導入調整器13は汎用のバルブ及びポンプ等から構成することができる。また、被処理水供給器14も汎用のバルブ及びポンプ等から構成することができる。固液分離装置16は、膜分離、砂ろ過、凝集沈殿、沈殿池、遠心分離等の技術を用いるような構成とすることができる。但し、リン濃度計測器12等はあくまで例示であって、本実施形態においては、必要に応じて任意の形態とすることができる。
【0016】
また、リン濃度計測器12で計測したリンの濃度は制御装置15においてモニタリングされており、このモニタリングの結果に基づいて、リン吸着材導入調整器13及び被処理水供給器14を駆動し、吸着槽11内に導入すべき、被処理水及びリン吸着材の量を制御するようになっている。
【0017】
なお、参照数字“21”は、上述したように、被処理水導入経路を表し、参照数字“22”はリン吸着材導入経路を表す。また、参照数字“23”は使用済みのリン吸着材、すなわちリン成分を吸着したリン吸着材の排出経路を表す。
【0018】
吸着槽11は、リン成分を溶解した被処理水と、ハイドロタルサイト様物質を含むリン吸着材とを接触させ、リン吸着材にリン成分を吸着させるための吸着手段として機能するものであり、リン濃度計測器12は、吸着槽11内に供給する被処理水中のリンの濃度を計測するためのリン濃度計測手段として機能するものである。また、リン吸着材導入調整器13は、リン濃度計測器12によって計測されるリンの濃度に応じてリン吸着材を吸着槽11内に導入するためのリン吸着材導入手段として機能するものであり、リン吸着材排出経路23は、リンを吸着したリン吸着材を吸着槽11から排出するためのリン吸着材排出手段として機能するものである。
【0019】
なお、本実施形態におけるリン吸着材は、以下において詳述するが、ハイドロタルサイト様物質であることが好ましく、特にマグネシウム及び鉄を含むハイドロタルサイト様物質であることが好ましい。
【0020】
次に、図1に示す水処理装置10を用いた水処理方法について説明する。
最初に、被処理水Sを被処理水導入経路21に沿って水処理装置10内に導入する。被処理水Sは、例えば、生物学的排水処理から排出される、余剰汚泥の処理工程において生成する汚泥脱離液等に由来するもの、すなわち下水等とすることができる。このような排水は、排出量や水質が安定しているので、計画的なリン回収に寄与することができる。
【0021】
被処理水Sは、水処理装置10内に導入するに際し、最初に、固液分離装置16に導入し、被処理水S中の固形不純物を予め除去する。次いで、被処理水供給器14によって、被処理水Sを、リン濃度計測器12を介して吸着槽11内に導入する。なお、被処理水Sがリン濃度計測器12を通過する間に、被処理水S中のリン濃度が計測され、その計測値が制御装置15に送信される。
【0022】
次いで、制御装置15が受信した被処理水S中のリン濃度の計測値に応じて、制御装置15はリン吸着材導入調整器13に制御信号を送信し、リン吸着材導入経路22を介して所定量のリン吸着材Aが吸着槽11内に導入される。この際、導入するリン吸着材Aの量は、リン吸着材Aによるリン吸着の性能が予め既知となっているので、吸着槽11内に導入した被処理水S中のリン成分を最大限に吸着できるような量とする。その後、吸着槽11内で被処理水Sをリン吸着材Aと所定時間接触させ、被処理水S中のリンがリン吸着材Aに十分に吸着された後、吸着槽11よりリン吸着済みのリン吸着材Aを、そのままリン吸着材排出経路24を介して外部に排出する。
【0023】
なお、制御装置15は制御信号を被処理水供給器14に送信し、リン吸着材Aの吸着能を考慮して、吸着槽11内に導入すべき被処理水Sの量を適宜制御する。
【0024】
このようにして吸着槽11から排出されたリン吸着材Aは、リン成分を十分に吸着しているので、そのまま肥料素原料として用いることができる。すなわち、従来においては、リン吸着材Aをリン吸着材として再利用することを前提としていたため、リン吸着材からリン成分を離脱させて再利用するためにアルカリ等の多量の薬剤が必要になり、リン離脱のための煩雑な工程が必要となり、結果として、排水からのリン成分の除去操作が煩雑になるという問題があった。しかしながら、本実施形態においては、リンを吸着した後のリン吸着材は、リン成分を離脱させることなく、そのまま肥料素原料として再利用するため、上述のような薬剤を必要とせず、また、そのための煩雑な工程を必要とすることもない。
【0025】
したがって、本実施形態におけるリン吸着材の再利用と従来のリン吸着材の再利用とは、それらの再利用形態が異なることに起因して、リン成分を溶解する被処理水Sの処理工程を簡略化することができる。
【0026】
なお、本実施形態のように、リン吸着後のリン吸着材Aは、特にリン吸着材Aとしてハイドロタルサイト様物質を用いる場合は、吸着槽11内に導入する被処理水S中のリン成分の質量(as P)が、リン吸着材Aの質量の0.1倍以上であることが好ましい。これは、リン吸着材Aの単位質量に吸着するリンの質量が増大するほど、肥料素原料としての機能が増大することによる。
【0027】
次に、本実施形態で使用するリン吸着材Aについて詳述する。
本実施形態で使用するリン吸着材Aは、ハイドロタルサイト様物質であって、好ましくはマグネシウムイオンおよび鉄イオンを含むことが好ましい。これによって、被処理水S中のリンに対して高い吸着性を示すようになる。
【0028】
マグネシウム及び鉄を含むハイドロタルサイト様物質は、例えば一般式[Mg2+1−xFe3+(OH)](Anx/n・yHO(0.05≦x≦0.34、0.5≦m≦3.4であり、An-はn価の陰イオン、yは自然数)で表わすことができる。
【0029】
上記ハイドロタルサイト様物質は層状構造を呈しており、具体的にはマグネシウムイオン及び鉄イオンを中心とした八面体が二次元的に連なってなる層が複数積層されたような構成を採っている。なお、マグネシウムイオン及び鉄イオンは、上述した構造において同一の結晶サイトに位置するものであって、互いに置換の関係にある。また、このような状態では、層状複水酸化物は正電荷を帯びるようになるので、前記層状複水酸化物を構成する陰イオン、例えば硫酸イオン(SО2−)、硝酸イオン(NO3−)及び塩化物イオン(Cl)等が層間に介在し、全体として電気的中性を維持している。
【0030】
ハイドロタルサイトは、例えば一般式[MgAl(OH)]1/2CO2−・2HOで表されるものであって、マグネシウムイオンを中心とする八面体(ブルーサイト層)が二次元的に連なり、マグネシウムイオンの一部をアルミニウムイオンで置き換えた層が積層されて層状構造を形成しているものである。そして、その層間には炭酸イオンと結晶水とが存在している。このような構造を有するハイドロタルサイトは、層間の陰イオンが他の陰イオンと交換する性質を有することが知られている。
【0031】
したがって、本実施形態のハイドロタルサイト様物質も、一般式中の陰イオンである硫酸イオン(SО2−)、硝酸イオン(NO3−)及び塩化物イオン(Cl)が、排水中に含まれるリン、具体的にはリン酸イオン(陰イオン)と交換することができるようになる。この結果、排水中のリン(リン酸イオン)の吸着回収を効果的に行なうことができるようになる。
【0032】
また、本実施形態のハイドロタルサイト様物質は、マグネシウムを含むことにより、その結晶性が比較的低くなっている。例えば、X線結晶構造解析によって測定される(003)由来のピークから算出される半値幅が0.2以上0.8(deg)以下となる。したがって、上記ハイドロタルサイト様物質を被処理水Sと接触させた場合において、ハイドロタルサイト様物質を構成するマグネシウムイオンが排水中に溶出するようになる。この結果、排水中に存在するリン(リン酸イオン)と、同じく排水中に存在するアンモニウムイオンや炭酸イオンとは、上記のようにして溶出したマグネシウムイオンと、例えばリン酸アンモニウムマグネシウムやリン酸マグネシウムと炭酸マグネシウムとの複合酸化物を生成し、排水中に沈殿するようになる。したがって、生成した沈殿物を除去することによって、被処理水Sからのリン(リン酸イオン)の除去が可能となる。
【0033】
なお、上記沈殿物も吸着槽11からリン吸着材排出経路24を介して外部に取り出すことができ、肥料素原料として用いることができる。
【0034】
また、リン吸着材Aを構成する層状複水酸化物は、上述したように結晶性が必ずしも良くない。そのため、層状構造を採る層状複水酸化物の表面に水酸化マグネシウム及び水酸化鉄の少なくとも一方が部分的に存在するような状態になることもある。このような水酸化マグネシウム及び水酸化鉄は、一般に上述した層状複水酸化物の表面に形成される。これは、層状複水酸化物の表面に存在するマグネシウムイオン及び鉄イオンが、同じく層状複水酸化物の表面に存在する水酸基との間で化学的に反応し、水酸化マグネシウム及び水酸化鉄となるためである。
【0035】
本実施形態におけるリン吸着材Aは、この表面に存在する水酸化マグネシウム及び水酸化鉄も、被処理水S中のリン酸アンモニウムマグネシウムやリン酸マグネシウムと炭酸マグネシウムとの複合酸化物からなる沈殿物を生じ、排水中からのリン(リン酸イオン)の除去に貢献する。したがって、生成した沈殿物を除去することによって、被処理水Sからのリン(リン酸イオン)の除去が可能となる。
【0036】
なお、上記沈殿物も吸着槽11からリン吸着材排出経路24を介して外部に取り出すことができ、肥料素原料として用いることができる。
【0037】
このように本実施形態のリン吸着材Aは、ハイドロタルサイト様物質に由来する層状複水酸化物の層間に存在する陰イオンとのイオン交換によって排水中のリン酸イオンを吸着除去することができるとともに、ハイドロタルサイト様物質、すなわち層状複水酸化物の比較的低い結晶性に基づいて、当該層状複水酸化物中のマグネシウムイオンが被処理水S中に溶出することによって、リン酸イオンを含む沈殿物を生成し、さらには層状複水酸化物の表面に生成された水酸化マグネシウム及び水酸化鉄も被処理水S中のリン酸アンモニウムマグネシウムやリン酸マグネシウムと炭酸マグネシウムとの複合酸化物からなる沈殿物を生じる。
【0038】
したがって、本実施形態のリン吸着材Aは、被処理水S中のリンを高効率に除去することができるとともに、リン吸着後においてはリン肥料素原料として有効に用いることができる。
【0039】
なお、水酸化マグネシウムおよび水酸化鉄が存在することによるリン吸着性能の向上は、原理的にはこれらが水中のリン酸イオンと配位子交換反応によってリンを直接吸着しているものと考えられる。
【0040】
本実施形態におけるリン吸着材は、上述のような層状複水酸化物を含むものであるが、その層状複水酸化物をそのまま、例えば粉末状で使用することができる。また、必要に応じて種々の形状に成形したうえで使用することもできる。あるいはバインダーを混合して造粒するなどが可能である。
【0041】
上述のように、本実施形態におけるリン吸着材Aは、ハイドロタルサイト様物質であって、層状水酸化物構造を基本骨格に備えており、前述のようにマグネシウムイオン及び鉄イオンを中心とした八面体の水酸化物が二次元的に連なってなる層が複数積層されたような構成を採っている。この点では、従来から知られているハイドロタルサイトなどの層状水酸化物と同様である。
【0042】
しかしながら、本実施形態におけるリン吸着材Aが従来のハイドロタルサイト様化合物と異なる点は、従来の層状水酸化物は層間でのイオン交換が主な吸着原理であり、八面体の水酸化物自体は吸着に殆ど関与しないのに対して、本実施形態においてはこの八面体の水酸化物が吸着に大きく関与していることである。また、層状複水酸化物を構成する元素の一部が被処理水S中に溶け出して、例えばリン酸アンモニウムマグネシウムやリン酸マグネシウムと炭酸マグネシウムとの複合酸化物の沈殿物を生成し、さらには層状複水酸化物の表面に存在する水酸化マグネシウムや水酸化鉄が、被処理水S中のリン酸アンモニウムマグネシウムやリン酸マグネシウムと炭酸マグネシウムとの複合酸化物からなる沈殿物を生じることである。
【0043】
なお、上記リン吸着材Aは、基本的に、マグネシウムを含む化合物と鉄を含む化合物とを水熱反応させることにより製造することができる。ここで原料として用いることができる化合物は特に限定されるものではないが、例えば、マグネシウムまたは鉄の、塩化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などが挙げられる。このとき、反応溶液のpHはアルカリ性であることが好ましい。このような反応は、常圧下で行うほか、オートクレーブなどを利用して高圧下で行うこともできる。
【0044】
反応条件は、目的とする層状複水酸化物の構造や粒子径などに応じて選択されるが、一般的には、25〜200℃、好ましくは60〜95℃で反応させる。圧力は常圧であってもよく、またオートクレーブなどを利用して加圧または減圧、例えば0.01〜2.0MPaとすることもできる。
【0045】
(第2の実施形態)
図2は、本実施形態における水処理装置の概略構成を示す図である。
図2に示すように、本実施形態における水処理装置20は、吸着槽11にpH計測器28が設けられ、吸着槽11内のpH値を適宜モニタリングできるように構成されている点において、図1に示す水処理装置10と相違し、制御装置15が、リン濃度計測器12で計測したリンの濃度及びpH計測器28で計測したpH値をモニタリングし、このモニタリングの結果に基づいて、リン吸着材導入調整器13及び被処理水供給器14を駆動し、吸着槽11内に導入すべき、被処理水及びリン吸着材の量を制御するようになっている。また、図示しない調整器を介してpH調整剤の導入を制御できるように構成されている点で相違する。
【0046】
なお、その他の構成については図1に示す水処理装置10と同様であるので説明を省略する。
【0047】
本実施形態の水処理装置20を用いた水処理方法は、最初に、被処理水Sを被処理水導入経路21に沿って水処理装置20内に導入する。被処理水Sは、例えば、生物学的排水処理から排出される、余剰汚泥の処理工程において生成する汚泥脱離液等に由来するもの、すなわち下水等とすることができる。このような排水は、排出量や水質が安定しているので、計画的なリン回収に寄与することができる。
【0048】
被処理水Sは、水処理装置20内に導入するに際し、最初に、固液分離装置16に導入し、被処理水S中の固形不純物を予め除去する。次いで、被処理水供給器14によって、被処理水Sを、リン濃度計測器12を介して吸着槽11内に導入する。なお、被処理水Sがリン濃度計測器12を通過する間に、被処理水S中のリン濃度が計測され、その計測値が制御装置15に送信される。
【0049】
次いで、制御装置15が受信した被処理水S中のリン濃度の計測値に応じて、制御装置15はリン吸着材導入調整器13に制御信号を送信し、リン吸着材導入経路22を介して所定量のリン吸着材Aが吸着槽11内に導入される。この際、導入するリン吸着材Aの量は、リン吸着材Aによるリン吸着の性能が予め既知となっているので、吸着槽11内に導入した被処理水S中のリンを最大限に吸着できるような量とする。
【0050】
一方、リン吸着材Aは、上述のように[Mg2+1−xFe3+(OH)](Anx/n・yHO(0.05≦x≦0.34、0.5≦m≦3.4であり、An-はn価の陰イオン、yは自然数)で表わされるハドロタルサイト様物質が好ましく用いられるので、このハイドロタルサイト様物質が被処理水Sと接触することにより、上記ハイドロタルサイト様物質の水酸基に起因して被処理水SのpHがアルカリ性側にシフトする傾向が強くなる。この場合、特に被処理水S中のpH値が8以上となるように上記ハイドロタルサイト様物質のリン吸着材Aを吸着槽11内に導入することによって、被処理水S中のリンの吸着量を増大できることが経験的に確認されている。
【0051】
したがって、本実施形態においては、制御装置15及びpH計測器28によって、吸着槽11内の、被処理水S中のリンを吸着する能力を直接的にモニタリングできるので、pH計測器28による計測値に基づいて、制御装置15及びリン濃度計測器12によって吸着槽11内に導入すべきリン吸着材Aの量を直接的に制御することができるとともに、制御装置15及び被処理水供給器16によって吸着槽11内に導入すべき被処理水Sの量を直接的に制御することができる。
【0052】
吸着槽11内で被処理水Sをリン吸着材Aと所定時間接触させ、被処理水S中のリン成分がリン吸着材Aに十分に吸着された後は、吸着槽11よりリン成分吸着済みのリン吸着材Aを、そのままリン吸着材排出経路24を介して外部に排出する。
【0053】
このようにして吸着槽11から排出されたリン吸着材Aは、リン成分を十分に吸着しているので、そのまま肥料素原料として用いることができる。すなわち、従来においては、リン吸着材Aをリン吸着材として再利用することを前提としていたため、リン吸着材からリンを離脱させて再利用するためにアルカリ等の多量の薬剤が必要になり、リン離脱のための煩雑な工程が必要となり、結果として、排水からのリンの除去操作が煩雑になるという問題があった。しかしながら、本実施形態においては、リンを吸着した後のリン吸着材は、リン成分を離脱させることなく、そのまま肥料素原料として再利用するため、上述のような薬剤を必要とせず、また、そのための煩雑な工程を必要とすることもない。
【0054】
したがって、本実施形態におけるリン吸着材の再利用と従来のリン吸着材の再利用とは、それらの再利用形態が異なることに起因して、リン成分を溶解する被処理水Sの処理工程を簡略化することができる。
【0055】
なお、被処理水S中のpH値は9以下であることが好ましい。上述のように、本実施形態においては、リンを吸着したリン吸着材Aを吸着槽11よりリン吸着排出経路24を介して外部に排出するが、その際に被処理水Sのリン吸着除去後の残液も併せて排出されることになる。このとき、残液のpH値が9を超えて高くなると、放流基準値(例えばpH=8.6)を大きく超えてしまい、環境に悪影響を与えてしまう場合がある。しかしながら、被処理水SのpH値を9以下とすることにより、上述のような問題を回避することができる。
【0056】
被処理水S内のpH値は、上述のように一義的にはハイドロタルサイト様物質のリン吸着材Aによって決定されるが、リン吸着材Aの導入量の制御によってpH値の制御が困難な場合においては、制御装置15により、図示しない調整器を介してpH調整剤の導入を制御し、吸着槽11内の被処理水SのpH値を9以下とすることができる。
【0057】
また、リン吸着材Aに関する詳細は、第1の実施形態と同様であるので、本実施形態においては説明を省略する。
【0058】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
10,20 水処理装置
11 吸着槽
12 リン濃度計測器
13 リン吸着材導入調整器
14 被処理水供給器
15 制御装置
16 固液分離装置
21 被処理水導入経路
22 リン吸着材導入経路
24 リン吸着材排出経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン成分を溶解する被処理水と、ハイドロタルサイト様物質を含むリン吸着材とを接触させ、前記リン吸着材にリン成分を吸着させるための吸着手段と、
前記吸着手段内に供給する前記被処理水中のリンの濃度を計測するためのリン濃度計測手段と、
前記リン濃度計測手段によって計測されるリンの濃度に応じて前記リン吸着材を前記リン吸着手段内に導入するためのリン吸着材導入手段と、
リンを吸着した前記リン吸着材を前記吸着手段から排出するためのリン吸着材排出手段と、
を具えることを特徴とする、水処理装置。
【請求項2】
前記ハイドロタルサイト様物質は、マグネシウム及び鉄を含むことを特徴とする、請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記ハイドロタルサイト様物質は、一般式[Mg2+1−xFe3+(OH)](Anx/n・yH
(0.05≦x≦0.34、0.5≦m≦3.4であり、An-はn価の陰イオン、yは自然数)で表わされることを特徴とする、請求項2に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記吸着手段に導入される前記被処理水中のリン成分のリン(P)としての質量が、前記吸着手段に導入される前記リン吸着材の質量の0.1倍以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の水処理装置。
【請求項5】
前記吸着手段内のpH値を計測するためのpH計測手段を具え、前記リン吸着材導入手段は、前記リン濃度計測手段によって計測されるリンの濃度に加え、前記pH計測手段による前記吸着手段内のpH値に応じて前記吸着手段内に前記リン吸着材を導入するように構成したことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の水処理装置。
【請求項6】
前記リン吸着材導入手段により、前記吸着手段内のpHが8以上となるように前記リン吸着材を導入するように構成したことを特徴とする、請求項5に記載の水処理装置。
【請求項7】
前記リン吸着材排出手段によって前記吸着手段から排出したリン成分を吸着した前記リン吸着材を、肥料素原料として用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の水処理装置。
【請求項8】
前記被処理水が下水汚泥処理に由来することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の水処理装置。
【請求項9】
リン濃度計測手段によって、吸着手段内に供給する被処理水中のリンの濃度を計測するステップと、
前記リン濃度計測手段によって計測されるリンの濃度に応じ、リン吸着材導入手段によりハイドロタルサイト様物質を含むリン吸着材を前記リン吸着手段内に導入するステップと、
前記被処理水と、前記リン吸着材とを前記リン吸着手段において接触させ、前記リン吸着材にリンを吸着させるステップと、
リンを吸着した前記リン吸着材を、リン吸着材排出手段によって前記吸着手段から排出するステップと、
を具えることを特徴とする、水処理方法。
【請求項10】
前記ハイドロタルサイト様物質は、マグネシウム及び鉄を含むことを特徴とする、請求項9に記載の水処理方法。
【請求項11】
前記ハイドロタルサイト様物質は、一般式[Mg2+1−xFe3+(OH)](Anx/n・yH
(0.05≦x≦0.34、0.5≦m≦3.4であり、An-はn価の陰イオン、yは自然数)で表わされることを特徴とする、請求項10に記載の水処理方法。
【請求項12】
前記吸着手段に導入される前記被処理水中のリン成分のリン(P)としての質量が、前記吸着手段に導入される前記リン吸着材の質量の0.1倍以上とすることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一に記載の水処理方法。
【請求項13】
pH計測手段によって前記吸着手段内のpH値を計測するステップを具え、前記リン吸着材導入手段により、前記リン濃度計測手段によって計測されるリンの濃度に加え、前記pH計測手段による前記吸着手段内のpH値に応じて前記吸着手段内に前記リン吸着材を導入することを特徴とする、請求項9〜12のいずれか一に記載の水処理方法。
【請求項14】
前記リン吸着材導入手段により、前記吸着手段内のpHを8以上とするように前記リン吸着材を導入することを特徴とする、請求項13に記載の水処理方法。
【請求項15】
前記リン吸着材排出手段によって前記吸着手段から排出したリンを吸着した前記リン吸着材を、肥料素原料として用いることを特徴とする、請求項9〜14のいずれか一に記載の水処理方法。
【請求項16】
前記被処理水が下水汚泥処理に由来することを特徴とする、請求項9〜15のいずれか一に記載の水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−59746(P2013−59746A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201047(P2011−201047)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】