説明

水処理装置

【課題】光触媒反応を利用して溶液中の微生物を殺滅し、さらに抗菌成分を含む抗菌処理水を生成する方法を提供することを目的としている。
【解決手段】ハロゲンが化学結合した酸化チタン(IV)をフィルタ上に固定化した光触媒フィルタ2を前段に配し、オキソ酸およびハロゲンを含む酸化チタン(IV)を固定化した活性物質生成部4を後段に配し、それぞれ紫外線ランプ8を照射させて、海水を含む被処理水に接触することで、前段で微生物を殺滅し、さらに後段で次亜塩素酸などのハロゲン酸化物や、過酸化水素などの活性酸素種などの抗菌成分を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物を酸化する能力をもつ活性酸素種やハロゲン酸化物などの活性物質を発生させ、海水を含む水に含まれる細菌やプランクトンなどの微生物を殺滅する水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の水処理装置で使用される抗菌処理水の生成装置には、塩化物水溶液を電気分解して得られる電解水生成装置が知られている。塩化物イオンを含む水を水槽に貯留し、水槽内に設置した電極で電気分解し、陽極上から塩素を発生させる。発生した塩素は、水中に溶解し、抗菌作用をもつ次亜塩素酸に変化する。例えば、従来この種の抗菌処理水の生成装置として、図3に示すような、電解水生成装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これは、第1の電極101と第2の電極102とがイオン透過性隔膜103で隔てられ、第1の電解槽104に供給された食塩水を第1の電極101で電解することにより、抗菌作用をもつ次亜塩素酸を発生させるものである。
【0004】
また、別の活性物質の生成装置としては、放電を利用した技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
活性酸素種の一つである過酸化水素の発生装置には、図4に示されるものがある。水素および酸素を含む混合ガスを原料ガスとして放電により過酸化水素を発生させる。原料ガス201である、水素および酸素を爆発しないような濃度に調整しながら、第1放電部202に導入し、放電を行ったのち、さらに酸素補給口203から酸素を供給しながら第2放電部204に導入して放電を行い、過酸化水素および水素、酸素、あるいは水の混合物を得るというものである。気相中に活性物質を発生させる方法であるが、得られたガスを液相にトラップすることで、抗菌成分を含む液体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4249657号公報
【特許文献2】特開平4−130002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の従来の抗菌処理水の生成装置は、構造が比較的単純であるが、発生する抗菌成分は主に次亜塩素酸であり、ヒドロキシルラジカルなどの活性酸素種に比べて酸化力が低く、耐性を持つ細菌に対しては、高濃度で発生させる必要があり、刺激臭による弊害が避けられないという課題があった。そのため、臭気が弱い低濃度であっても、強い酸化力をもつ抗菌成分を混合して同様に抗菌作用が得られるものが求められている。また、電解による次亜塩素酸の生成において、副生成物として人体に有害なトリハロメタンを産生するという課題があり、有害な副生成物を発生させず、有効な成分を選択的に生成させるものが求められている。
【0008】
また、特許文献2に記載の従来の活性物質の発生方法は、原料ガスである酸素と水素を供給する必要があり、ボンベなどのガス貯留手段が必要となる。このため、局所的に長期間連続使用する場合には、原料ガスの補充が常に必要となるため、原料ガスの補給無しに空気などから直接選択的にガスを発生させることが求められている。
【0009】
また、放電を利用しているため、放出した電子と反応して様々な反応物が生成し、量と種類を制御することが困難であるという課題がある。活性物質の中には、オゾンのような強い刺激臭をもつものがあり、このような成分を選択的に発生させないようにすることが求められている。
【0010】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、有害な副生成物を発生させず、有効な成分を選択的に生成させることができ、原料ガスの補給無しに刺激臭の少ない活性酸素種、あるいはハロゲン酸化物などの活性物質を選択的に直接発生することができる、抗菌処理水生成部を備えた水処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の水処理装置は、上記目的を達成するために、光触媒を含有し活性物質を発生する活性物質発生手段と、前記光触媒に励起光を照射するための光源と、前記光源を制御するための制御手段と、を備え、前記光触媒がハロゲンとオキソ酸を含有し、前記活性物質発生手段に接触するように被処理水を流通させて、水中の微生物を殺滅することを特徴としたものであり、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、オキソ酸およびハロゲンを含有する酸化チタン(IV)に紫外線を含む光を照射することにより、酸化チタン(IV)に添着しているオキソ酸が、酸化チタン(IV)の光触媒反応において、ボンベなどの原料ガスの供給手段が無くとも、水や水中に溶存する酸素などを酸化することによって、刺激臭の少ない過酸化水素や、低濃度で次亜塩素酸などの活性物質を生成し、供給することができるため、刺激臭の少ない抗菌処理水を生成するという作用を有する。これにより、コンパクトで刺激臭の少ない水処理装置を構成できるという効果が得られる。
【0013】
さらに、酸化チタン(IV)の表面に生成する活性酸素種のうち過酸化水素や次亜塩素酸などの比較的寿命が長い活性物質を生成、増加させ、過酸化水素や次亜塩素酸を酸化チタン(IV)表面から液相に放出させることができるという作用を有する。そのため、被処理水を比較的長時間清浄に維持することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態の水処理装置の構成を示す概念図
【図2】本発明の実施例1の次亜塩素酸の測定結果を示すグラフ
【図3】従来の電解水生成装置を示す構成図
【図4】従来の活性物質発生装置を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の請求項1記載の発明は、光触媒を含有し活性物質を発生する活性物質発生手段と、前記光触媒に励起光を照射するための光源と、前記光源を制御するための制御手段と、を備え、前記光触媒がハロゲンとオキソ酸を含有し、前記活性物質発生手段に接触するように被処理水を流通させて、水中の微生物を殺滅することを特徴としたものである。光触媒にハロゲンを含有させることで、光触媒反応による活性酸素種などの活性物質の発生量が増加するため、細菌やプランクトンなどの殺滅効果を高める作用を有する。これにより、光触媒の小型化や、光源の光強度を低減することができる。
【0016】
また、本発明の請求項2記載の発明は、活性物質発生手段を複数設け、この複数の活性物質発生手段に被処理水を順次接触させ、後段に設けた活性物質発生手段にオキソ酸を含有させたことを特徴としたものである。これにより、光触媒で発生するヒドロキシルラジカルなどの不安定な活性物質よりも、過酸化水素などの比較的安定した活性酸素種の発生量が増加する作用を有し、被処理液に活性物質を含有させて、処理後も一定期間抗菌作用を持続させることができる。また、後段に設けることによって、発生した活性物質が光触媒によって分解されてしまうことを防ぐという作用を有し、被処理液に抗菌作用を与えることができる。
【0017】
また、本発明の請求項3記載の発明は、光触媒に含有されるハロゲンの少なくとも一部が光触媒と化学結合していることを特徴としたものである。これにより、光触媒にハロゲンを強固な結合とすることで、高い殺滅効果が得られるという作用を有する。
【0018】
また、本発明の請求項4記載の発明は、光触媒が酸化チタン(IV)であることを特徴としたものである。酸化チタン(IV)はバンドギャップが大きく、より波長が短くエネルギーの大きい光を励起光源として効率的に利用できるため、より高い殺滅効果が得られるという作用を有する。
【0019】
また、本発明の請求項5記載の発明は、ハロゲンがフッ素であることを特徴としたものである。フッ素の高い電気陰性度によって、光触媒上で発生する活性酸素種などの活性物質を発生させやすくするという作用を有し、光触媒活性を高めることができる。
【0020】
また、本発明の請求項6記載の発明は、オキソ酸がリン酸化合物であることを特徴としたものである。過酸化水素の安定化剤として使用されるリン酸化合物を含有させることで、光触媒反応によって過酸化水素を安定的に発生させるという作用を有し、被処理水中に比較的安定な活性物質である過酸化水素を含有させることができ、被処理水に一定期間抗菌作用を与えることができる。
【0021】
また、本発明の請求項7記載の発明は、オキソ酸含有する活性物質発生手段の前段に被処理水に空気を散気する散気手段を備えたことを特徴としたものである。活性物質発生手段の前段に散気手段を設けることで、あらかじめ被処理水に酸素を多く含有させることができ、酸素を多く含んだ水が光触媒に接触することで、光触媒反応によってスーパーオキサイドアニオンラジカルなどの活性酸素種を発生させることができ、さらに、これが被処理水に含まれる海水に由来する塩化物イオンを酸化して二酸化塩素や次亜塩素酸などのハロゲン酸化物を生成させるという作用を有する。ハロゲン酸化物によって、水中でさらに長期間抗菌作用を与えることができる。
【0022】
また、本発明の請求項8記載の発明は、活性物質発生手段が基材に光触媒を固定化して構成したものであることを特徴としたものである。形状の自由度が高い基材を用いて光触媒を成形することで、被処理水と光触媒の接触効率を高めることができ、殺滅効果を高める作用を有する。
【0023】
また、本発明の請求項9記載の発明は、光触媒と基材とを無機バインダーを用いて固定化したことを特徴としたものである。無機バインダーを使用すると、光触媒を固定化する強度を高める作用を有し、耐久性を高めることができる。
【0024】
また、本発明の請求項10記載の発明は、基材がセラミックまたはガラスであることを特徴としたものである。光触媒反応によって劣化せず、耐久性を高めることができる作用を有する。
【0025】
また、本発明の請求項11記載の発明は、光源が高圧UVランプであることを特徴としたものである。水銀の輝線のうち、殺菌効果のある254nmの紫外線と、酸化チタン(IV)の励起効率がよい365nmの両方の波長成分を含むため、光触媒による殺滅効果と、紫外線による殺滅効果を相乗的に得られるため、高い殺滅効果を得ることができる。
【0026】
また、本発明の請求項12記載の発明は、活性物質発生手段および光源が密閉された筐体の内部に設けられ、前記筐体に給水口と排水口を備えたことを特徴としたものである。被処理水を密閉空間で連続的に処理することで、外気からの微生物の侵入を防ぐという作用を有する。また、活性物質の揮発を防ぐことで、活性物質の濃度の低下を抑制し、高い抗菌作用を持続させることができる。
【0027】
また、本発明の請求項13記載の発明は、筐体がステンレスであることを特徴としたものである。ステンレスが活性物質に不活性であるため、活性物質が分解によって減少しにくくなる作用を有し、光源の光を筐体内に反射してエネルギーの使用効率を高める作用を有し、加工性がよく、海水に使用する場合には、特に腐食されにくいため耐久性を高める作用を有する。これにより、光触媒活性を高めることができる。
【0028】
また、本発明の請求項14記載の発明は、光源の強度を検知する光検知手段を備え、前記光検知手段によって検知された光源の強度によって光源への入力電圧を制御手段で制御して光強度を一定にすることを特徴としたものである。光源から発せられる熱によって光源にスケールが付着して、光の透過率が低下し、光触媒に照射される光エネルギーが低下した場合に、光源の出力を増加させて、光触媒活性を維持するという作用を有し、高い殺滅効果を持続させることができる。
【0029】
また、本発明の請求項15記載の発明は、活性物質発生手段および光源を着脱可能とすることを特徴としたものである。光源および活性物質発生手段の性能が低下した場合に、着脱式にすることで、新しいものと容易に交換するという作用を有し、高い殺滅効果を持続させることができる。
【0030】
(実施の形態)
[光触媒を用いた水処理装置の構成]
本発明の水処理装置の構成の概念図を図1に示す。
【0031】
図1に示すように、水処理装置1は、ハロゲン含有酸化チタン(IV)からなる活性物質発生手段である光触媒フィルタ2を備えた処理ユニット3と、後段に、オキソ酸およびハロゲン含有酸化チタン(IV)からなる活性物質発生手段である活性物質生成部4、散気手段である散気管5、圧縮空気供給ライン6を備えた活性物質供給ユニット7から形成される。
【0032】
ぞれぞれのユニットの光触媒に対して、励起光を照射するための光源である紫外線ランプ8と、紫外線の強度を検知するための光検知手段である照度センサ9を隣接させ、外部から制御手段10によって光触媒に照射する紫外線の強度を制御する。それぞれのユニットは、密閉された筐体11に収納する。光触媒および光源は、メンテナンス時に交換できるよう着脱可能な構造とし、筐体11は、交換作業が行いやすいよう、開閉式とするか、簡便に取り外せるような配置とすることが好ましい。
【0033】
筐体11には、被処理液を導入するための給水口12と、排出するための排水口13を備え、ユニット内に被処理液を容易に導入、排出できるようにする。尚、これらのユニットは、必要な処理能力によって複数個を直列または並列に接続して構成する。
【0034】
光触媒フィルタ2は、ハロゲン含有酸化チタン(IV)をフィルタ状に形成したもので、例えば、バインダーを使用してガラス繊維フィルタに固定化、乾燥させたものである。フィルタ状に形成したものを、固定化部材によって位置決めをして流路内に配置する。
【0035】
光触媒フィルタ2は、流路に沿って平行にし、光源との位置を調整して、光触媒フィルタ2に効率よく紫外線が照射されるように配置することが好ましい。また、光触媒フィルタ2の間隔は、殺滅能力と処理流量、紫外線強度、被処理水を供給するポンプの能力、ユニットの通過抵抗、個数などから決定するが、殺滅能力から、間隔を0.5cmから10cmとするとよく、好ましくは1cmから3cmである。
【0036】
オキソ酸およびハロゲン含有酸化チタン(IV)からなる活性物質生成部4は、光触媒フィルタ2と同様に、光触媒を基材に固定化して形成する。紫外線ランプ8とは接近させることで活性物質の生成量を増加させることができるため、活性物質生成部4は紫外線ランプ8の近傍に配置することが好ましい。
【0037】
活性物質生成部4を含む活性物質供給ユニット7に設けた散気管5は、被処理水に酸素を含む気体を微細な気泡にして分散させるものであり、多孔体管やメッシュ、エゼクタと呼ばれるノズルなどが挙げられる。
【0038】
散気管5には、圧縮空気供給ライン6を接続し、系外より酸素を含む気体を供給する。空気をポンプなどで圧縮して搬送するか、あるいはボンベに接続し、封入した気体を供給してもよい。散気管5によって被処理水に気体を混合させることで、気体を微細化することができ、長時間安定して被処理液中に酸素を多く存在させることができ、活性物質生成部4において光触媒反応で海水中に存在する塩素などのハロゲンを酸化して次亜塩素酸や二酸化塩素などのハロゲン酸化物を生成することができる。
【0039】
これらのハロゲン酸化物は、寿命が1日程度と比較的長く、被処理水を処理したあとも抗菌作用を与えることができる。微生物には、細菌芽胞や、シストとよばれる休眠細胞の状態があることが知られているが、これらは、外的環境に対して抵抗性が強く、場合によって処理されても生存し、処理後の被処理水中で増殖する場合がある。これに対して、被処理水中にハロゲン酸化物などの寿命が長い活性物質を供給することで、これらの微生物が増殖することを抑制することができる。
【0040】
酸化チタン(IV)に励起光を照射する光源である紫外線ランプ8は、波長250nmから400nmに強度をもつものであれば特に限定されないが、前記波長の範囲に強い発光ピークを持つものであるほど、投入電力に対して効率的に酸化チタン(IV)の励起を行うことができる。光触媒を励起するためには、およそ400nm以下の波長の光が必要であるが、バンドギャップよりも大きなエネルギーをもつ波長の紫外線を照射した場合、過剰な分は光触媒反応に利用されないため、エネルギーロスになっていると考えられている。そのため、380nm付近により近い波長の方が投入した光のエネルギーに対して光触媒反応で利用できる効率が高くなる。
【0041】
一方、250nm付近の波長は、細菌やプランクトンなどの微生物がもつ核酸に作用して、光触媒がなくても一定の殺滅効果を得ることができる。この範囲の波長を効率よく発生させる低圧水銀ランプ、アマルガムランプなどは殺菌灯として使用されており、光触媒反応と併用することで高い殺滅性能が得られる。
【0042】
しかしながら、250nm付近の紫外線を利用した殺菌の場合、損傷したDNAを微生物が修復して、再び増殖能をもつ光回復という現象があることが知られている。そのため、殺菌灯だけでは十分な殺滅性能であるとはいえず、光触媒などを併用して使用することが必要とされている。この二つの波長を効率よく使用することで光触媒による殺滅効果を高めることができる。例えば、高圧水銀ランプを使用すると、360nm付近の波長と、250nm付近の波長をともに含んでおり、効率よく光触媒反応と紫外線殺菌を行なうことができる。
【0043】
紫外線ランプ8の形状として、直管型のものを使用すると、広い範囲に強い光を照射できるため、基材の面積が広い場合に使用できてよい。また、光源から発せられる紫外線を、吸収が少ないミラーやレンズなどによって広い面積が照射できるように配置することもよい。
【0044】
被処理液を効率的に光触媒で処理するとき、光触媒フィルタ2、紫外線ランプ8の配置によって殺滅効果に差が生じるため、効率のよい配置をとることが重要である。例えば、紫外線ランプ8が直管型である場合、長手方向に沿って被処理液を流通させると必要な処理量に対して、本数を最小限に抑えることができるため消費電力に対して効率を上げることができる。
【0045】
光触媒に照射する紫外線の強度を検知するために、紫外線に感度のある照度センサ9を設ける。照度センサ9は、例えば半導体式のものが挙げられる。海水に直接触れないように、紫外線に透過性をもつ石英ガラスなどに封入した状態で紫外線ランプ8の近傍に設置する。照度センサ9によって検知される照度が低下してきた場合には、紫外線ランプ8から発せられる紫外線の照度を保つように制御手段10で運転制御を行う。例えば、紫外線ランプ8への印加電圧を増加するか、あるいは系内の洗浄による付着物の除去、あるいは紫外線ランプ8の交換時期であることを表示するなどの制御を制御手段10で行うようにしてもよい。
【0046】
光触媒フィルタ2および紫外線ランプ8を取り囲むように筐体11を設けるが、これによって、光触媒フィルタ2および紫外線ランプ8を固定化し、同時に流路を形成させる。筐体11の内側は、紫外線を反射させるために鏡面となっていることが好ましい。
【0047】
また、被処理液である海水と直接接触するため、海水による腐食の影響を受けにくく、生成した抗菌成分の酸化力によって変質せず、照射される紫外線によって変質しないものを用いる。金属や無機材料によるもの、またはこれらを表面にコーティングしたものが使用できる。金属であれば、ステンレス、アルミ、銅などであり、無機化合物であれば、セラミックやガラスなどが使用できる。光源の光を反射して光触媒反応効率を高める観点からステンレスが好ましい。
【0048】
筐体11には、被処理液を導入する給水口12と、排出する排水口13を設けるが、供給される被処理水は、ポンプによって搬送されるため、フランジなどの構造によって漏れがないように密閉して接続することが好ましい。
【0049】
本発明の水処理装置によって発生する活性物質とは、有機物と反応して酸化させる作用をもつ酸化剤である。活性物質として、活性酸素種には、ヒドロキシルラジカルや、スーパーオキサイドアニオンラジカル、一重項酸素、過酸化水素、オゾンなどがある。これらの活性酸素種は、有機物の基本骨格であるC−C結合(結合エネルギー約347kJ/mol)や、C−H結合(結合エネルギー約415kJ/mol)、あるいは、C=C結合のπ結合(結合エネルギー約285kJ/mol)などの結合を酸化反応によって切断することが知られている。
【0050】
この結合を切断するためには、結合エネルギーよりも高い解離エネルギーが必要となる。例えば、強い活性酸素種であるヒドロキシルラジカルの酸化電位はおよそ2.8Vであり、解離エネルギーは約504kJ/molであるため、C−C結合を切断して酸化分解することができる。このような酸化剤は、エネルギーが大きいため、反面、不安定で寿命が極めて短い(約1ミリ秒以下)という性質がある。
【0051】
一方、過酸化水素の場合、酸化電位は1.77Vであり、解離エネルギーは319kJ/molである。この場合、C−C結合を切断するエネルギーよりも低いため切断できないが、C=C二重結合のπ結合を切断することができる。また、酸化電位が低い分、ヒドロキシルラジカルに比べて安定性が増すため、寿命が長くなる(約1時間以上)。気相や液相などの離れた位置に活性物質を作用させる場合には、このような物質が適している。
【0052】
また、塩素酸系化合物(例えば、次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、二酸化塩素など)や臭素酸系化合物(例えば、臭素酸、次亜臭素酸、過臭素酸など)、ヨウ素酸系化合物(例えば、ヨウ素酸、過ヨウ素酸など)などのハロゲン化合物も、同様に酸化力を有しており、本発明の活性物質に含まれる。例えば、次亜塩素酸の酸化電位は1.5Vであり、解離エネルギーは約268kJ/molである。
【0053】
これらの活性物質は、細菌、真菌、あるいはプランクトンなどの原生動物など微生物と反応し、これらの全部、または一部を酸化することによって、抗菌、殺滅作用を発現する。
【0054】
本発明において「抗菌」とは、液相の菌を殺菌及び/又は分解することをいい、好適には液相の菌濃度の低減及び/又は菌の増殖を抑制することをいう。具体的には、活性物質と菌が24時間以上接触した場合に、菌濃度を初期濃度よりも2桁以上減少できることをいう。本発明において、殺滅の対象微生物は特に制限されず、例えば、細菌、カビ、ウイルス、プランクトン等が挙げられる。細菌としては、例えば、大腸菌、黄色ぶどう球菌、緑膿菌、MRSA、腸炎ビブリオ、腸球菌、コレラ、セレウス、肺炎桿菌が挙げられる。また、海水の場合には、動物または植物プランクトンがあり、例えば動物であれば、ワムシ類、貝類や甲殻類の幼生などが挙げられ、植物であれば、珪藻、渦鞭毛藻、ラフィド藻、藍藻、紅藻、ユーグレナなどが挙げられる。
【0055】
本発明において、液中に含有させるハロゲン化合物は、光触媒反応によってハロゲン酸化物となり、抗菌作用を得られるようになる。その詳細な発生メカニズムは明らかではないが、光触媒上で発生したヒドロキシルラジカルやスーパーオキサイドアニオンラジカルなどと、液中にハロゲン化合物のイオンが反応することによって、ハロゲン酸化物になるものと推測される。液中に含有させるハロゲン化合物は、例えば、塩素化合物においては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムなどの塩化物が挙げられる。
【0056】
また、ヨウ素化合物においては、ヨウ化カリウムなどが挙げられる。また、臭素化合物においては、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化アンモニウム、臭化ナトリウムなどの臭化物が挙げられる。これらは水溶液として反応させることが好ましく、反応原液に混合させるか、反応原液に元来含まれるものを利用することも有効である。例えば、水道水や、海水などに含まれる塩化物イオンなどが利用できる。
【0057】
本発明において、液中に含有させるオキソ酸化合物とは、ヒドロキシル基(OH)および、オキソ基(C=O)を有する化合物であり、液中でイオンの状態で存在し、光触媒表面で発生した活性酸素種を比較的安定な状態に変換する作用を持つ。オキソ酸によってラジカル状態の物質が安定な化合物に変換されるメカニズムについては明らかではないが、オキソ酸のように酸素を多く含む構造が、ラジカルに配位して、より安定した活性物質へと変換されるものであると考えられる。
【0058】
オキソ酸としては、特に限定されないが、一般的なオキソ酸化合物を使用することができる。例えば、オキソ酸がリン酸化合物である場合、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸銀(I)、リン酸クロム(III)、リン酸コバルト、リン酸第二鉄、リン酸チタン、リン酸鉄(III)、リン酸銅(II)、リン酸鉛(II)、リン酸マグネシウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸三アンモニウム、リン酸三カリウム、リン酸三カルシウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三リチウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、アデノシン三リン酸、アデノシン二リン酸、核酸化合物等が挙げられる。
【0059】
また、オキソ酸が炭酸化合物である場合、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸鉛、炭酸バリウム、炭酸マンガン、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸セシウム、炭酸セリウム、炭酸鉄、炭酸銅などが挙げられる。
【0060】
また、オキソ酸が硫酸化合物である場合、硫酸、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸すず(II)、硫酸ストロンチウム、硫酸セシウム、硫酸第一鉄、硫酸第一マンガン、硫酸第二クロム、硫酸第二鉄、硫酸チタン、硫酸銅(II)、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸リチウムなどが挙げられる。
【0061】
また、オキソ酸が硝酸化合物である場合、硝酸、硝酸亜鉛、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸クロム(III)、硝酸コバルト(II)、硝酸セシウム、硝酸鉄(II)、硝酸銅(II)、硝酸ニッケル、硝酸バリウム、硝酸マグネシウム、硝酸マンガン、硝酸リチウムなどが挙げられる。一方、光触媒により酸化分解されないものが好ましく、リン酸、硫酸、炭酸、硝酸、ホウ酸が挙げられる。
【0062】
オキソ酸として、例えばリン酸を使用する場合、リン酸塩、リン酸水素塩を用いて、適当な濃度の水溶液として用いることができる。また、ポリリン酸やメタリン酸などのリン酸化合物も同様に使用できる。いずれも、その構造中に複数のオキソ基を有している。
【0063】
本発明においては、発生する抗菌成分の種類は、含有するオキソ酸およびハロゲンの種類と量によって選択的に発生させることができる。例えば、オキソ酸化合物としてリン酸塩を使用した場合、活性物質として過酸化水素を発生させることを確認している。また、ハロゲン化合物として、塩化ナトリウムを使用した場合、次亜塩素酸を発生させることを確認している。
【0064】
ハロゲンの含有状態や比率は、発生させたい目的物質によって制御すればよい。尚、オキソ酸を含有させず、ハロゲンから生じるハロゲンオキソ酸にて同様の効果を得ることは、ハロゲンオキソ酸の発生量が少ないため好ましくない。
【0065】
本発明において「ハロゲンの少なくとも一部が酸化チタン(IV)と化学結合している」とは、酸化チタン(IV)とハロゲンの少なくとも一部とが化学的に結合していることをいう。好適には担持や混合ではなく酸化チタン(IV)とハロゲンとが原子レベルで結びついている状態のことをいい、より好適には酸化チタン(IV)とハロゲンとがイオン結合していることをいう。本発明において「化学結合しているハロゲン」とは、例えば、ハロゲン含有酸化チタン(IV)に含まれるハロゲンのうち、水に溶出しにくいハロゲンのことをいう。尚、二種類以上のハロゲンを含有させる場合には、そのうちの1種類以上が化学的に結合している状態であれば効果が得られる。
【0066】
本発明において、ハロゲンとしては、フッ素、ヨウ素、臭素及び塩素が挙げられる。例えば、ハロゲンとして、フッ素を使用する場合、フッ素の含有量は、活性物質の発生量及び光照射時の抗菌性能の増強の点から、1.5重量%〜3.5重量%であることが好ましい。フッ素含有酸化チタン(IV)におけるフッ素の含有量は、吸光光度分析法(JIS K 0102)により求めることができる。
【0067】
本発明における光触媒は、酸化チタン(IV)、酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、酸化タンタルなどが挙げられる。これらのうち、活性の強さの点から、酸化チタン(IV)が好ましい。
【0068】
酸化チタン(IV)としては、例えば、アナタース型酸化チタン(IV)、ルチル型酸化チタン(IV)、ブルッカイト型酸化チタン(IV)が挙げられ、高い光触媒活性が得られることから、アナタース型酸化チタン(IV)が好ましい。本発明において「アナタース型酸化チタン(IV)」とは、粉末X線回折スペクトル測定において(使用電極:銅電極)、回折角度2θ=25.5度付近に回折ピークが現れる酸化チタン(IV)のことをいう。
【0069】
酸化チタン(IV)としては、二酸化チタンのほか、含水酸化チタン、水和酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸、水酸化チタン、酸素欠損型酸化チタン、窒素置換型酸化チタン、硫黄置換型酸化チタンなどが挙げられる。光触媒活性を有していれば結晶形については特に制限はなく、無定形、アナタース形、ルチル形、ブルッカイト形のいずれでもよい。ルチル型とアナターゼ型酸化チタン(IV)の組み合せなど、結晶形の違う成分を複合してもなんら問題はない。
【0070】
酸化チタン(IV)は粉末状であることが多いが、チタン板などの金属表面を酸化して、酸化チタン(IV)薄膜を形成してもよい。また、チタンアルコキシドなどをコーティングして、加熱処理することによってチタン薄膜を形成してもよい。チタン粉末を金属表面などに溶射して、酸化チタン(IV)膜を形成してもよい。
【0071】
また、酸化チタン(IV)の表面にPt、Pd、Rh、Ru、Au、Ag、Cu、Fe、Ni等の金属を被覆して用いることも何ら限定するものではない。また、表面にCrやVなどの不純物金属を含有させて光の吸収波長を拡大させた光触媒を用いることもなんら限定するものではない。
【0072】
酸化チタン(IV)は、比表面積が200〜350m2/gの範囲が好ましく、より好ましくは250〜350m2/gの範囲である。ここで、本発明において比表面積とは、BET法(窒素の吸着・脱離方式)により測定した、酸化チタン(IV)の粉末1g当たりの表面積値である。比表面積が200m2/g以上の場合、分解する対象物との接触面積を大きくすることができる。
【0073】
酸化チタン(IV)と化学結合しているハロゲンの量は、酸化チタン(IV)光触媒を水中に分散させ、pH調整剤(例えば、塩酸、アンモニア水)でpH=3以下又はpH=10以上に保持し、水中へのハロゲンの溶出量を比色滴定等により測定し、ハロゲン含有酸化チタン(IV)に含まれるハロゲンの総量から上記溶出量を差し引くことにより算出できる。
【0074】
化学結合は、イオン結合であることが好ましい。化学結合がイオン結合である場合は、ハロゲンと酸化チタン(IV)とが強固に結合し、例えば、抗菌活性や光触媒反応の促進作用を向上できる、酸化チタン(IV)とハロゲンとのイオン結合は、光電子分光装置により分析できる。例えば、ハロゲンがフッ素である場合、ハロゲン含有酸化チタン(IV)を光電子分光分析装置で分析した際に、フッ素の1s軌道(F1s)のピークトップが683eV〜686eVの範囲となるスペクトルを示す場合をいう。これは、フッ素とチタンとがイオン結合したフッ化チタンのピークトップの値が上記範囲内であることに由来する。
【0075】
[オキソ酸およびハロゲン含有酸化チタン(IV)の製造方法]
本発明の、オキソ酸およびハロゲン含有酸化チタン(IV)は、酸化チタン(IV)とハロゲンが化学結合し、オキソ酸および前記ハロゲンとは異なるハロゲンが添着していればよく、例えば、第一の工程でハロゲン含有酸化チタン(IV)を作製し、第二の工程で更にオキソ酸およびその他のハロゲンを添着して製造することができる。オキソ酸が化学結合した酸化チタン(IV)を使用しない場合には、第一の工程のみで実施できる。
【0076】
第一の工程である、ハロゲン含有酸化チタン(IV)は、例えば、n−ブチルアミンの吸着量が8μmol/g以下である酸化チタン(IV)の水分散液とハロゲン化合物とを混合し、さらに、前記混合液のpHが3を超える場合は酸を用いてpHを3以下に調整することによって、前記混合液中で前記酸化チタン(IV)と前記ハロゲン化合物とを反応させる工程と、前記反応させて得られた反応物を洗浄することによって、ハロゲンの少なくとも一部が酸化チタン(IV)と化学結合しているハロゲン含有酸化チタン(IV)を得る工程とを含む製造方法により製造することができる。n−ブチルアミンの吸着量が8μmol/g以下であるアナタース型酸化チタン(IV)としては、例えば、堺化学工業株式会社製SSP−25等が使用でき、その水分散液としては、例えば、堺化学工業株式会社製CSB−M等が使用できる。
【0077】
ハロゲン化合物としては、特に限定されないが、一般的なハロゲン化合物を使用できる。ハロゲン化合物が、フッ素化合物である場合、例えば、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素酸が挙げられ、これらの中でも、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム及びフッ化水素酸が好ましい。ハロゲン化合物がヨウ素化合物である場合、ヨウ化水素、過ヨウ素酸、ヨウ化アンモニウム等が挙げられる。ハロゲン化合物が臭素化合物である場合、臭化水素酸、臭化アンモニウム等が挙げられる。ハロゲン化合物が塩素化合物である場合、塩酸、塩化ナトリウム、次亜塩素酸が挙げられる。
【0078】
酸化チタン(IV)1g当たりのn−ブチルアミンの吸着量の測定方法は以下の通りである。つまり、130℃で2時間乾燥した酸化チタン(IV)のサンプル1gを、50mLの共栓付き三角フラスコにて精秤し、これにメタノールで希釈した0.003規定濃度のn−ブチルアミン溶液を30mL加える。次いで、これを1時間超音波分散させた後、10時間静置し、その上澄み液を10mL採取する。そして、採取した上澄み液を、メタノールで希釈した0.003規定濃度の過塩素酸溶液を用いて電位差滴定し、そのときの中和点における滴定量からn−ブチルアミンの吸着量を求めることができる。
【0079】
また、酸化チタン(IV)は、基材に担持することで、光の照射や、光触媒の飛散防止を効果的に行うことができる。基材に担持する場合には、先にハロゲン含有酸化チタン(IV)を作製し、基材に担持したのち、オキソ酸および追加のハロゲンを添着させて作製する。基材としては、特に限定されないが、一般的なフィルタ基材を使用でき、金属、プラスチック、合成樹脂繊維、天然繊維、木材、紙、ガラス、セラミックなどが挙げられ、セラミックやガラスなどが適している。プラスチックや紙を基材として用いる場合は、基材表面にシリコーンやフッ素樹脂、シリカなどを被覆して酸化チタン(IV)を担持してもよい。
【0080】
基材の形状は特に限定されないが、板状、網状、ハニカム状、繊維状、ビーズ状、スリット状、発泡体形状など、フィルタ状にすると光の照射と被処理液の接触を効率的に行なうことができる。板状のフィルタであれば、板に孔を空けたパンチング形状、繊維を編みこんだ編物形状、繊維を接着した不織布形状など、開口を備えたものが好適である。板状であれば、板をプリーツ状に折ってフィルタの表面積を広げることによって圧力損失を低減させてもよい。
【0081】
基材にガラス繊維織物を用いると、光や放射線に対する耐久性が強く、有機合成繊維や紙よりも酸性のバインダーによる化学的腐食を受けにくく好適である。また、ガラス繊維は光透過性および光散乱性を有するため、ハロゲン含有酸化チタン(IV)に光を照射する場合には、効率的に光を照射することができる。ガラス繊維の材質としては、石英ガラス、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Aガラスなどが挙げられる。繊維形状は特に限定されないが、単繊維よりも、4〜9μmの径を有する短繊維ガラスを複数束ねた繊維束によって形成することが好ましい。繊維束は50本〜6400本程度の任意の本数を束ねて利用することができる。複数の短繊維ガラスを束ねた繊維束に酸化チタン(IV)を担持すると、繊維間に酸化チタン(IV)粒子が入りこみあるいは付着して固定化される。太い単繊維の表面に酸化チタン(IV)を担持する場合に比べて、繊維間に酸化チタン(IV)を保持することができるため、担持量を増やすことができる。また、繊維間に入り込んだ酸化チタン(IV)粒子は繊維にはさまることによって強固に固定化されるとともに、外部から衝撃が加わった場合にも繊維を介して衝撃が伝わるので脱落しにくいという作用を得ることができる。
【0082】
バインダーを使用する場合、Na2O、K2O、LiO2などのケイ酸塩からなるアルカリシリケート、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾルなどの無機コロイド、シリカ、ケイ素、チタンなどのアルコキシド類とその加水分解物などが挙げられる。なお、Naなどのアルカリ成分は酸化チタン(IV)の結晶性を低下させ、性能を低下させることがあるため、バインダーとしては、主成分がSiO2であることがのぞましく、シリカゾルまたはシリカアルコキシド類の加水分解物などが好適である。
【0083】
ケイ素のアルコキシド類としては、テトラエトキシシランおよびその重合体であるメトキシポリシロキサン、エトキシポリシロキサン、ブトキシポリシロキサン、リチウムシリケートなどが挙げられ、チタンのアルコキシド類としては、テトラプロポキシチタンおよびその重合体などが挙げられる。これらの金属アルコキシド類は、水と酸によって加水分解され、バインダーとして用いることができる。
【0084】
バインダーは酸性であることが好ましく、ケイ素、チタンなどを酸で加水分解した物や酸性のシリカゾル、アルミナゾルなどが挙げられる。ケイ素、チタンなどを酸で加水分解する場合には、塩酸、硫酸などを用いてpHを1〜5に調整するとよい。シリカゾルを用いる場合には、pH2〜4、粒子径10〜50nm程度のものが好適である。pHが中性あるいはアルカリ性のシリカゾルを用いると、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)を添加した際にゲル化をおこし、基材に均一に担持することが困難になることが多い。
【0085】
Na、K、NH4などの陽イオン成分がバインダーに含まれていると、ハロゲンとの反応の進行および酸化チタン(IV)表面への吸着により、抗菌性能の低下が発生することがあり、上記陽イオン成分は極力少ないほうがよい。例えば、バインダー溶液にNaが含まれている場合には、Na濃度がNa2Oとして0wt%より大きく0.05wt%以下であることが好ましい。
【0086】
ガラス繊維織物の目付け量としては10〜900g/m2のものが好ましく、製造を容易にするためには100〜400g/m2のものを選択するとよい。また、織物の織り方は、平織、綾織、朱子織、からみ織り、模紗織など、どのような織り方でもかまわないが、形状安定性の観点から模紗織が好ましい。糸の密度としてはタテ・ヨコの繊維束が20〜40本/25mm、厚さは0.1〜2mm、引張り強度100NN/25mm以上が好ましい。
【0087】
基材にハロゲン含有酸化チタン(IV)を担持する方法としては、ディップコート、スプレーなどが挙げられるが、基材にハロゲン含有酸化チタン(IV)が固定化できればいかなる手段でもよい。1回の処理で担持量が十分でなければ、複数回の処理工程を繰り返してもよい。また、担持後に、乾燥機で50〜700℃程度の温度で0.01〜5時間程度加熱することによりバインダーを収縮させて基材に強固に固定化してもよく、90〜400℃で2時間の加熱がさらに好適である。このような加熱乾燥処理を行う場合には、基材の主成分をガラス、セラミックスで構成することが望ましい。
【0088】
ハロゲン含有酸化チタン(IV)の粒子径は、繊維の直径よりも小さいほうが好ましい。ハロゲン含有酸化チタン(IV)が繊維の直径よりも小さいため、ハロゲン含有酸化チタン(IV)が繊維間の編目や重なり部分に入り込みやすく、強固に固定化されるという効果を得ることができる。その結果、ハロゲン含有酸化チタン(IV)の担持量を増加させることができる。ハロゲン含有酸化チタン(IV)の粒子径は、一次粒子径として6〜100nm程度であるが、実際は一次粒子が凝集して0.1〜100μm程度の二次粒子になっていることが多い。ここでいうハロゲン含有酸化チタン(IV)の粒子径は二次粒子の状態を示し、ハロゲン含有酸化チタン(IV)を編物に分散させる際に繊維の編目や重なり部分に入り込みやすいことが必要である。
【0089】
ハロゲン含有酸化チタン(IV)に、オキソ酸および追加のハロゲンを添着するときは、第一の工程で作製したハロゲン含有酸化チタン(IV)に、オキソ酸や、前記ハロゲンとは異なる種類のハロゲンを含む水溶液に接触させて作製することができる。
【0090】
オキソ酸は、適当な溶媒に溶解可能な濃度を混合して添着に使用する。例えば、精製水などに0.01重量%から10重量%程度の濃度になるように溶解して使用する。
【0091】
また、溶液には、化学結合させるハロゲンとは異なる種類のハロゲン化合物を混合して、同時に添着させることができる。このときのハロゲンは、例えば、塩素化合物においては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムなどの塩化物が挙げられる。また、ヨウ素化合物においては、ヨウ化カリウムなどが挙げられる。また、臭素化合物においては、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化アンモニウム、臭化ナトリウムなどの臭化物が挙げられる。これらも、オキソ酸の溶液に溶解可能な量を混合し、溶解させて使用する。例えば、0.01重量%から10重量%程度の濃度になるように溶解し、使用することができる。
【0092】
酸化チタン(IV)またはハロゲン含有酸化チタン(IV)に、オキソ酸を添着する方法としては、ディップコート、スプレーなどが挙げられるが、ハロゲン含有酸化チタン(IV)に付着できればいかなる手段でもよい。酸化チタン(IV)をオキソ酸溶液に接触させた後、粉末であれば遠心分離やろ過、また、基材に固定化した状態であれば、引き上げたのち、100℃以下の低温で乾燥させて液体の残留を無くす。このようにして添着されたオキソ酸およびハロゲンは、酸化チタン(IV)と化学結合するのではなく、酸化チタン(IV)の細孔や、表面にランダムに吸着している状態にあると推測される。
【実施例】
【0093】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明するが、本発明は、以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0094】
(実施例1)
<1>.オキソ酸およびハロゲン含有酸化チタン(IV)の調製
酸化チタン(IV)(商品名:SSP−25、堺化学工業株式会社製、アナタース型、粒径:5〜10nm、比表面積:270m2/g以上)の濃度が150g/Lとなるように酸化チタン(IV)に純水を加え、これを撹拌して、酸化チタン(IV)分散液を調製した。この酸化チタン(IV)分散液に、酸化チタン(IV)に対してフッ素(元素)に換算して3重量%に相当するフッ化水素酸(和光純薬社製、特級)を添加し、pH3に保持しながら25℃で60分間反応させた。得られた反応物を水洗した。水洗は、反応物を濾過して回収される濾液の電気伝導度が1mS/cm以下となるまで行った。そして、これを空気中において130℃で5時間乾燥させてフッ素含有酸化チタン(IV)を調製した。
【0095】
<2>.ハロゲン含有酸化チタン(IV)を担持したフィルタの作製
得られたハロゲン含有酸化チタン(IV)とシリカ系のバインダー(Na成分がNa2O濃度として0.05wt%以下、pH=3、SiO2濃度20wt%のシリカゾル)と精製水を混合し、ボールミルで24時間分散混合してスラリーを作成した。出来上がったスラリーに、基材として開口率15%のガラス繊維織物をディップしてハロゲン含有酸化チタン(IV)を含浸させ、エアブローして余剰液を排除した後、120℃の乾燥機で30分乾燥させ、ハロゲン含有酸化チタン(IV)を含むフィルタを作成した。同様のディップ作業を繰り返し、ハロゲン含有酸化チタン(IV)とバインダーを合わせた担持量を500g/m2にした。フィルタの基材となるガラス繊維織物は、目付け量354g/m2、糸の密度11×3本/25mm(タテ・ヨコ同じ)の模紗織、厚さは0.42mmのものを用いた。作成したフィルタの開口率は約15%であった。
【0096】
<3>.オキソ酸およびハロゲン含有酸化チタン(IV)フィルタの作製
得られたハロゲン含有酸化チタン(IV)フィルタを、オキソ酸およびハロゲンの供給源である50mMリン酸緩衝生理食塩水に含浸したのち、引き上げ、50℃の乾燥炉にて2時間静置して乾燥させ、オキソ酸およびハロゲン含有酸化チタン(IV)フィルタとした。
【0097】
<4>.抗菌成分の発生量の測定
作製した光触媒フィルタを、長さ5cm、幅2cmの短冊状に裁断し、直径3cm深さ10cmのガラス試験管に挿入した。さらに試験管に反応原液の50mMのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を10ml加えた。リン酸緩衝生理食塩水に空気を送気するために試験管内に直径3mmのテフロン(登録商標)チュープにて空気配管を設けた。配管の先端には、微細な気泡を放出できるようセラミック多孔体の散気管を設置した。尚、配管の先端は、光触媒フィルタの下方になるように配置した。この状態で配管よりダイアフラム型ポンプで空気を0.1ml/minの流量で液中に送気した。
【0098】
試験管の外側には、試験管を挟むようにブラックライトを5mW/cm2となるように照射し、12時間空気を流通させて、液中に活性物質を発生させた。12時間後、試験管内の反応液を回収し、液体中の抗菌成分である次亜塩素酸の定量を行った。次亜塩素酸の測定は、DPD法による遊離塩素測定試薬(HACH社製)を使用し、直読水質分析計で遊離塩素濃度を測定した。その結果を図2に示す。
【0099】
(実施例2)
実施例2として、反応液のリン酸緩衝生理食塩水に替えて、蒸留水を用いた以外は、実施例1と同様にして反応させたものについて、活性物質の発生量の測定を行った。その結果を図2に示す。
【0100】
(実施例3)
実施例3として、実施例1と同様の方法において、紫外線の照射を行わずに暗所にて反応させたものについて、活性物質の発生量の測定を行った。その結果を図2に示す。
【0101】
実施例1のフィルタは、12時間後に約0.17mg/Lの次亜塩素酸が検出された。一方、実施例2の条件では検出下限以下(0.01mg/L未満)、実施例3の条件では約0.01mg/Lであった。ハロゲン化合物である塩化ナトリウムを反応液中に含有させ、気体をバブリングさせながら光触媒フィルタに光照射をすることによって、抗菌成分である次亜塩素酸がフィルタ上から放出されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0102】
光触媒によって海水を含む水中の微生物を殺滅する方法を提供することができ、船舶のバラスト水や発電所の冷却水などの海水を浄化する用途に適用できる。
【符号の説明】
【0103】
1 水処理装置
2 光触媒フィルタ
3 処理ユニット
4 活性物質生成部
5 散気管
6 圧縮空気供給ライン
7 活性物質供給ユニット
8 紫外線ランプ
9 照度センサ
10 制御手段
11 筐体
12 給水口
13 排水口
101 第1の電極
102 第2の電極
103 イオン透過性隔膜
104 第1の電解槽
201 原料ガス
202 第1放電部
203 酸素補給口
204 第2放電部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を含有し活性物質を発生する活性物質発生手段と、前記光触媒に励起光を照射するための光源と、前記光源を制御するための制御手段と、を備え、前記光触媒がハロゲンとオキソ酸を含有し、前記活性物質発生手段に接触するように被処理水を流通させて、水中の微生物を殺滅することを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
ハロゲンを含んだ光触媒を含有し活性物質を発生する活性物質発生手段と、前記光触媒に励起光を照射するための光源と、前記光源を制御するための制御手段と、を備え、前記活性物質発生手段に接触するように被処理水を流通させて、水中の微生物を殺滅する水処理装置であって、活性物質発生手段を複数設け、この複数の活性物質発生手段に被処理水を順次接触させ、後段に設けた活性物質発生手段にオキソ酸を含有させたことを特徴とする水処理装置。
【請求項3】
光触媒に含有されるハロゲンの少なくとも一部が光触媒と化学結合していることを特徴とする請求項1または2に記載の水処理装置。
【請求項4】
光触媒が酸化チタン(IV)であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項5】
ハロゲンがフッ素であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項6】
オキソ酸がリン酸化合物であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項7】
オキソ酸を含有する活性物質発生手段の前段に被処理水に空気を散気する散気手段を備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項8】
活性物質発生手段が基材に光触媒を固定化して構成したものであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項9】
光触媒と基材とを無機バインダーを用いて固定化したことを特徴とする請求項8に記載の水処理装置。
【請求項10】
基材がセラミックまたはガラスであることを特徴とする請求項8または9であることを特徴とする水処理装置。
【請求項11】
光源が高圧UVランプであることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項12】
活性物質発生手段および光源が密閉された筐体の内部に設けられ、前記筐体に給水口と排水口を備えたことを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項13】
筐体の材質がステンレスであることを特徴とする請求項12に記載の水処理装置。
【請求項14】
光源の強度を検知する光検知手段を備え、前記光検知手段によって検知された光源の強度によって光源への入力電圧を制御手段で制御して光強度を一定にすることを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項15】
活性物質発生手段および光源を着脱可能とすることを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載の水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−224424(P2011−224424A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93809(P2010−93809)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】