説明

水分センサ

【課題】圧電振動子に対して良好な密着性を有する親水性層を含んだ水分センサ、及び当該センサを含んだ容器を提供する。
【解決手段】実施形態に係る水分センサは、圧電振動子1と、圧電振動子1に接合した一対の電極と、圧電振動子1と共有結合によって結合した珪素原子と、珪素原子と結合した親水性部分とを含む親水性層2とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水分センサ及び当該センサを含んだ容器に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子を用いた水分センサは、振動子表面への水分吸着に伴う振動子の質量変化に起因した周波数変化を利用して環境中の水分を検出する。
【0003】
圧電振動子式水分センサには、例えば、ポリマーを含浸させた多孔質層による水分吸着を利用したもの(例えば、特許文献1参照)や、振動子表面に塗布したタンパク質であるバクテリオロドプシンの薄膜による水分吸着を利用したもの(例えば、特許文献2参照)がある。
【0004】
このような水分センサは、例えば、ポリマーの密着性が十分でなく剥離しやすい、タンパク質の熱安定性が乏しく品質管理が難しいといった問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−54840号公報
【特許文献2】特開平7−301591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、圧電振動子に対して良好な密着性を有する親水性層を含んだ水分センサ、及び当該センサを含んだ容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の実施形態に係る水分センサは、圧電振動子と、圧電振動子に接合した一対の電極と、親水性層とを含んでいる。親水性層は、圧電振動子と共有結合によって結合した珪素原子と、前記珪素原子と結合した親水性部分とを含んでいる。
【0008】
第2の実施形態に係る容器は、水分センサと、水分センサが内部に設置された容器本体とを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る水分センサの一例を模式的に示す平面図。
【図2】実施形態に係る水分センサの圧電振動子を模式的に示す断面図。
【図3】実施形態に係る水分センサの親水性層の圧電振動子への結合を模式的に示す図。
【図4】実施形態に係る容器の一例を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、第1の実施形態に係る水分センサの一例を模式的に示す平面図である。
【0012】
図1に示す通り、実施形態に係る水分センサは、圧電振動子1と、親水性層2と、電極3とを含んでいる。
【0013】
圧電振動子1としては、一般的に、水晶などの石英からなるものが使用されるが、質量変化に伴う周波数変化が検出できるものであれば特に限定されず、例えば、チタン酸バリウム又はチタン酸ジルコン酸鉛からなるものが使用されてもよい。以下、圧電振動子1を水晶1として説明する。水晶1としては、ATカットで、発振周波数が基本波で1乃至9MHzのものが好ましく使用される。
【0014】
水晶1には、一対の電極3が接合している。
電極3は、水晶1の表面と裏面とに設けられ、各々にリード線4が接続されている。電極3の材料としては、例えば、金、白金及び銀が使用される。
【0015】
図2は、圧電振動子を模式的に示す断面図である。図2に示される通り、親水性層2は、水晶1の表面に形成されている。親水性層2は、以下で説明する親水基を含んでおり、水分子は、親水基との相互作用により親水性層2に吸着される。図2では、親水基を水酸基として示した。
【0016】
図3には、親水性層2の水晶1への結合が模式的に示される。
親水性層2は、水晶1と共有結合によって結合した珪素原子と、当該珪素原子と結合した親水性部分とを含んでいる。図3では、親水性部分を−C−OHとして示した。
【0017】
親水性層2は、共有結合を介して水晶1に結合しているため、水晶1の表面に樹脂などを塗布して形成された膜と比較して、密着性が高い。また、タンパク質と比較して、熱安定性が高く、品質管理も容易である。
【0018】
親水性部分は、例えば、水晶1と結合した珪素原子に結合した炭素又は珪素原子と、1つ以上の親水基とを含んでいる。
【0019】
水晶1の親水性部分による修飾には、例えば、後述する一般式(1)で表される化合物を使用する。具体的には、この化合物の加水分解生成物が水晶と反応を生じ、水晶表面を修飾する。水分センサの感度の観点では、水晶1の表面をより多くの親水性部分で修飾することが望ましいが、先の加水分解生成物が反応し得る水晶上の反応サイトの数には限りがある。それ故、1つの親水性部分が含んでいる親水基の数を多くすることが好ましい。また、水分センサの感度の観点では、親水性部分の分子量は小さいことが好ましい。したがって、親水性部分が含んでいる炭素及び珪素原子のうち、親水基に含まれないものの合計数Mと親水基の数Nとの比M/Nは0.5以上であることが好ましい。
【0020】
親水性層2において、親水性部分が含んでいる炭素及び珪素原子のうち、親水基に含まれないものの合計数Mは、例えば1乃至5である。即ち、例えば、親水性部分が含んでいる親水基がカルボニル基1つの場合、親水性部分は、カルボニル基の炭素原子以外に、炭素及び珪素原子を合計1乃至5つ含んでいる。親水性部分が含んでいる炭素及び珪素原子のうち、親水基に含まれないものの合計数Mが6以上の場合、親水性層2の質量に対し、水分子の吸着による質量変化の割合が小さくなり、水分センサの感度が低下する可能性がある。また、親水性部分が含んでいる炭素及び珪素原子のうち、親水基に含まれないものの合計数Mが0の場合、水晶1の表面を収率良く親水基で修飾することが難しく、長期安定性も低い。また、先の合計数を小さくすると、親水性部分のコンフォーメーションの自由度が低下し、水分子を吸着する能力が低下する可能性がある。したがって、M/N比は5以下にあることが好ましい。上記2つの理由からM/N比は0.5乃至5の範囲にあることがより好ましい。
【0021】
親水基は、例えば、水酸基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基、エステル結合及びエーテル結合からなる群より選択される。
【0022】
一例によれば、親水性部分は、水晶1と結合した珪素原子に結合したアルキル基と、各々がアルキル基の水素原子を置換した1つ以上の親水基とを含んでいる。ここで、アルキル基は、1つ以上の炭素原子が珪素原子で置換されていてもよい。また、1つ以上の親水基は、水酸基、アミノ基及びニトロ基からなる群より選択される。
【0023】
他の例によれば、親水性部分は、水晶1と結合した珪素原子に結合したアルキル基と、このアルキル基と、親水基としてのカルボニル基、エーテル結合又はエステル結合を介して結合した他のアルキル基とを含んでいる。ここで、これらアルキル基は、1つ以上の炭素原子が珪素原子で置換されていてもよい。
【0024】
実施形態に係る水分センサは、以下の手順に従って作成される。
【0025】
まず、水晶1の表面に親水性層2を形成する。
親水性層2は、例えば、以下の式(1)により示される分子の加水分解生成物が、水晶1と反応することにより形成される。
【0026】
(RO)Si−X (1)
親水性層2は、例えば、湿式法により、式(1)の分子の希薄溶液に水晶1を直接浸漬し、その後、水晶1を乾燥することにより形成される。
【0027】
式(1)の分子は、希薄溶液中で加水分解して、シラノール基を含んだ加水分解生成物を生じる。これら加水分解生成物の一部は、そのシラノール基の1つ以上が、水晶1の表面に存在する水酸基との間で縮合反応を起こしてシロキサン結合を形成する。また、これら加水分解生成物の他の一部は、そのシラノール基が、水晶と結合した加水分解生成物の未反応のシラノール基との間で縮合反応を起こしてシロキサン結合を形成する。
【0028】
式(1)において、Rは、合計1乃至5つの炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキル基であり、1つ以上の炭素原子が珪素原子で置換されていてもよい。加水分解によって、OR基の全てがシラノール基に変換されない場合、親水性層2には、OR基が含まれることとなる。上述した通り、親水性膜2の質量が増加すると、水分センサの感度が低下する。そのため、6つ以上の炭素又は珪素原子を有する場合、親水性層2の質量が増加し、水分子の吸着に伴う感度が低下する可能性がある。
【0029】
式(1)において、Xは、上述した親水性部分である。Xは、例えば、直鎖状若しくは分枝状の鎖及び/又は環を含んでいる。
【0030】
例えば、式(1)の分子が、3−アミノプロピルトリメトキシシラン((CHO)SiCNH)である場合、親水性部分は、3つの炭素原子を含んだアルキル基と、その末端の炭素原子に結合した水素原子の1つを置換した親水基としてのアミノ基とを含んでいる。また、例えば、式(1)の分子が、以下の式(2)で表される分子である場合、親水性部分は、3つの炭素原子を含んだ直鎖状のアルキレン基の鎖と、このアルキレン基の末端の炭素と結合した環とを含んでいる。この環は、2つのカルボキシル基が脱水縮合した形態をとっており、加水分解によりこの2つのカルボキシル基を復元する。この環には、一方が先のアルキレン基と結合した2つの炭素原子と、これら2つの炭素原子に各々結合した親水基としての2つのカルボキシル基とが含まれる。
【化1】

【0031】
水晶1を乾燥させた後、例えば、スパッタリング又は真空蒸着により、水晶1の表面及び裏面に電極3を形成する。電極3は、親水性層2が形成される前に形成されてもよい。
【0032】
このようにして得られる水分センサは、典型的には、発振回路と組み合わせて使用する。例えば、この水分センサは、ベースにマウントして、発振回路と共に所望のパッケージに組み込まれる。
【0033】
図4は、第2の実施形態に係る容器7の一例を模式的に示す図である。
図4において、水分センサ5は、第1の実施形態に係る水分センサである。
図4に示される通り、容器7は、水分センサ5と容器本体6とを含んでいる。水分センサ5は、容器本体6の内部に設置されている。
【0034】
容器7は、例えば、出力端子8をさらに含んでいてもよい。出力端子8は、一端が水分センサ5に接続されており、他端は、例えば、容器7の外に設置された周波数カウンターに接続されている。
【0035】
容器7は、密閉して、内部を気密状態に保ち、保管用又は搬送用容器として使用することができる。
【0036】
具体的には、容器本体6内に、水分により品質が低下する可能性のある資材を収容し、容器7を密閉して内部の雰囲気を乾燥状態に維持して、保管又は搬送する。保管又は搬送している間に容器7内の水分量が増加すると、水分センサ5の周波数が変化し、湿度の上昇を検出することができる。
【0037】
容器7が搬送用容器として使用される場合、例えば、第1処理装置から第2処理装置へと資材を搬送する場合に使用することができる。ここで、第1及び第2処理装置は、気密状態を維持したまま、容器7との間で資材の出し入れをすることができるように構成されている。
【0038】
上述した通り、容器7が含んでいる水分センサ5は高い感度を有しているため、例えば、絶乾状態に維持されている容器7の内部で、水分が数ppmというわずかな量だけ増加したような場合でも、湿度の上昇を検出することができる。
【0039】
また、周波数の変化は、例えば、容器7の外部に設置された周波数カウンターによって検出されるため、内部の密閉環境を損なうことなく水分管理を行うことが可能である。よって、容器7を使用することにより、簡便且つ経済的に水分管理を行うことができる。
【0040】
(例1乃至5)
例1
直径10mmの円形をした水晶振動子の表面にAu電極を直径8mm形成した素子を用い、電極表面からシランカップリング剤KBM−903(信越化学工業株式会社製)を2μl滴下し、180℃で5分間加熱し乾燥させ、親水性層を形成した。続いて、120℃で24時間の真空乾燥を施し、その後、4日間真空中で放冷し、水分センサを得た。その後、露点管理されたグローブボックス内に水分センサを設置し、グローブボックス内の露点を変化させた際の周波数を測定した。露点−61℃における周波数を基準とし、露点−45℃における周波数との差を周波数変化量として算出した。周波数変化量は、1128Hzであった。また、上述の乾燥処理及び放冷処理の各々の後で、目視により、表面の親水性層が剥離していないことを確認した。
【0041】
例2
シランカップリング剤KBM−903の代わりに、シランカップリング剤X−12−967C(信越化学工業株式会社製)を使用したことを除いて、例1と同様にして水分センサを作成し、周波数変化量を算出した。周波数変化量は、1973Hzであった。また、乾燥処理及び放冷処理の各々の後で、目視により、表面の親水性層が剥離していないことを確認した。
【0042】
例3
シランカップリング剤KBM−903(信越化学工業株式会社製)の代わりにシランカップリング剤KBM−803(信越化学工業株式会社製)を使用したことを除いて、例1と同様にして水分センサを作成し、周波数変化量を算出した。周波数変化量は、115Hzであった。また、乾燥処理及び放冷処理の各々の後で、目視により、表面の親水性層が剥離していないことを確認した。
【0043】
例4
親水性層を形成しなかったことを除いて、例1と同様にして水分センサを作成し、周波数変化量を算出した。周波数変化量は12Hzであった。
【0044】
使用したシランカップリング剤の化学式及び上記試験の結果を表1に示す。ここで、例1、2及び3は、実施例に相当する。
【表1】

【0045】
表1から明らかなように、例1、2及び3の水分センサは、振動子表面の親水性層がはがれにくく、良好な密着性を有する。
【0046】
また、例1及び2の水分センサは、例3の水分センサと比較して、周波数の変化量が大きく、感度が高いことが示された。
【符号の説明】
【0047】
1…圧電振動子、2…親水性層、3…電極、4…リード線、5…水分センサ、6…容器本体、7…容器、8…出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子と、
前記圧電振動子に接合した一対の電極と、
前記圧電振動子と共有結合によって結合した珪素原子と、前記珪素原子と結合した親水性部分とを含む親水性層と
を具備した水分センサ。
【請求項2】
前記親水性部分は、前記珪素原子と結合した炭素又は珪素原子と、1つ以上の親水基とを含み、前記親水性部分が含んでいる炭素及び珪素原子のうち前記1つ以上の親水基に含まれないものの合計数Mと前記親水性部分が含んでいる前記親水基の数Nとの比M/Nは0.5乃至5の範囲内にある請求項1に記載の水分センサ。
【請求項3】
前記親水性部分が含んでいる炭素及び珪素原子のうち前記1つ以上の親水基に含まれないものの合計数Mが1乃至5である請求項2に記載の水分センサ。
【請求項4】
前記1つ以上の親水基は、水酸基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基、エステル結合及びエーテル結合からなる群より選択される請求項2又は3に記載の水分センサ。
【請求項5】
前記親水性部分は、
前記珪素原子と結合し、1つ以上の炭素原子が珪素原子で置換されていてもよいアルキル基と、
各々が、水酸基、アミノ基及びニトロ基からなる群より選択され、前記アルキル基の水素原子を置換した1つ以上の親水基と
を含んだ請求項1乃至3の何れか1項に記載の水分センサ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の水分センサと、前記水分センサが内部に設置された容器本体とを含んだ容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−68547(P2013−68547A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207961(P2011−207961)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)