説明

水分分泌促進剤

【課題】ドライシンドロームは、体の様々な部位に生じる乾燥現象のことであり、その代表的な疾患としては、ドライアイ(乾き眼)、ドライマウス(口腔乾燥症)、ドライスキン(皮膚乾燥症)、シェーグレン症候群、ドライバジャイナなどがあげられ、これらの症状に伴い、味覚困難、嚥下困難、ウ蝕、歯周病、睡眠障害、便秘、関節痛等様々な全身症状を訴えるようになる。特に近年、コンピュータの急速な普及に伴いドライアイを訴える患者が急増しており、社会的問題となっている。
本発明は、安全性が高く、十分な効果を有する天然物由来の水分分泌促進剤を提供することにより、ドライシンドロームの予防又は治療剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
皀莢を配合することを特徴とするドライシンドロームの予防または改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水分分泌を促進し、便秘やドライアイなどの症状の改善または予防に有効な医薬品、医薬部外品、化粧品または食品に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会、ストレス社会、コンピュータ社会の到来と共に、近年、現代病の一つとしてドライシンドローム(乾燥症候群)が問題となっている。ドライシンドロームとは、体の様々な部位に生じる乾燥現象のことであり、その代表的な疾患としては、ドライアイ(乾き眼)、ドライマウス(口腔乾燥症)、ドライスキン(皮膚乾燥症)、シェーグレン症候群、ドライバジャイナなどがあげられ、これらの症状に伴い、味覚困難、嚥下困難、ウ蝕、歯周病、睡眠障害、便秘、関節痛等様々な全身症状を訴えるようになる。特に近年、コンピュータの急速な普及に伴いドライアイを訴える患者が急増しており、社会的問題となっている。
【0003】
ドライアイとは、涙液の量的または質的な異常により、角結膜上皮細胞が障害される疾患のことであり、眼の乾き、眼の痛み、眼の充血、眼の不快感といった症状を伴う。また、眼精疲労患者の60%はドライアイを伴っているともいわれており、ドライアイの予防または改善は眼精疲労を予防または改善する上でも重要である。
【0004】
ドライシンドロームの代表的な疾患であるシェーグレン症候群は眼乾燥および口腔乾燥を主徴とする自己免疫疾患であり、様々な全身症状を呈する。また、これらドライシンドロームはシェーグレン症候群の他にも、ストレス、加齢変化、各種薬剤(抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、抗精神薬)の使用によっても引き起こされる。特に、ストレスや加齢変化は全身の水分分泌能の低下を引き起こす。
【0005】
ドライシンドロームの治療は、現在のところ対症療法が中心である。例えばドライアイの治療においては、不足した水分の補給を目的に人工涙液の点眼や、水分の保持を目的にヒアルロン酸ナトリウムの点眼が主な治療法であるが、十分な治療法は確立していない。
【0006】
一方、便秘においても腸管内の水分不足が発症の原因となる場合があり、腸管内の水分を増加させることにより、腸管の運動が改善されることにより便秘が解消される。
【0007】
このようなドライシンドロームは生体内での水分分泌を促進することができれば改善することができると考えられるが、現在まで効果と安全性を兼ね備えた予防または治療剤は知られていない。
【0008】
従来、生薬類を有効成分とするドライアイなどの症状に対する薬剤として、アロエベラ、ラカンカ、トチュウなどの生薬エキスを有効成分とするヒアルロン酸蓄積促進剤が開示されている(特許文献1参照)。
【0009】
生薬の皀莢(ソウキョウ)はマメ科(Leguminosae)のトウサイカチ(シナサイカチ、Gleditsia sinensis LAMARCK)の未熟果実または成熟果実を乾燥させたものであり、去痰作用や利尿作用などの薬理作用が知られている(非特許文献1)。しかし、皀莢には水分分泌促進作用およびこれに基づく便秘、ドライアイの改善に対する作用は知られていない。
【0010】
【特許文献1】特開2003-238432号公報
【非特許文献1】難波恒夫著、「和漢薬百科図鑑[I]」、保育社、p.248-249
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、安全性が高く、十分な効果を有する天然物由来の水分分泌促進剤を提供することにより、ドライシンドロームの予防又は治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ある種の生薬またはそのエキスが、優れた水分分泌促進作用を有することを見出し本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、
(1)皀莢を配合することを特徴とするドライシンドロームの予防または改善剤。
(2)皀莢を配合することを特徴とする水分分泌促進剤。
(3)皀莢を配合することを特徴とする便秘の治療または予防剤。
(4)皀莢を配合することを特徴とするドライアイの治療または予防剤。
(5)皀莢を配合することを特徴とする点眼剤組成物。
(6)皀莢を配合することを特徴とするドライアイの治療または予防用点眼剤。
(7)皀莢を配合することを特徴とする腸管内水分分泌促進剤
(8)皀莢を配合することを特徴とする涙液分泌促進剤
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明で用いる皀莢は、腸管内水分の分泌促進作用および涙液分泌促進作用があることがわかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で皀莢は、マメ科のトウサイカチの未熟果実または成熟果実を乾燥させたものを粉砕した生薬末またはエキスのことである。ここで言うエキスとは生薬から水、極性溶媒、もしくはそれらの混合物を用いて抽出したエキス、乾燥エキス、流エキスなどを含めたものである。
【0016】
本発明での皀莢の投与量は、年齢、性別、体重などを考慮して適宜増減できるが、通常、成人で1日あたり、原生薬換算量として、経口剤の場合100mg〜50g、好ましくは500mg〜15gであり、非経口剤の場合0.01mg〜5g、好ましくは0.05mg〜2gである。
【0017】
本発明には、発明の効果を損なわない質的および量的範囲で、ビタミン、アミノ酸、賦形剤、pH調整剤、清涼化剤、懸濁化剤、消泡剤、粘稠剤、溶解補助剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを配合することができ、常法により、錠剤、液剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、チュアブル錠、ドライシロップ剤、点眼剤、点鼻剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、軟膏剤、貼付剤、乳剤などの経口または非経口製剤とすることができる。
【0018】
以下に、本発明を実施例および試験例をあげて詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
皀莢は中国湖北省産のトウカイサチの未成熟果実を用いた。
【0020】
原生薬量500gの皀莢を細切し、10倍量の50v/v%エタノールを加え、約80℃で加熱抽出し、濾過後減圧下でエタノールを留去し、さらに濃縮を行うことにより、皀莢エキスを得た。
【実施例2】
【0021】
実施例1で得られた皀莢エキス200mgを生理食塩水90mLに溶解し、ホウ砂を用いてpHを7.4に調整した。生理食塩水を用いて全量100mLとし、濾過滅菌することにより無菌の点眼剤を得た。このときの浸透圧は296mOsmであった。
【0022】
試験例1
試験には10週齢のWistar系雄性ラット(日本チャールスリバー)を用いた。
【0023】
ラットに実施例1で得た皀莢エキスを1.5g/kg(原生薬換算)の用量で十二指腸内に投与し、投与15分後、30分後、45分後、60分後に涙液分泌量を測定した。なお、対照群には水を投与した。
【0024】
涙液分泌量の測定には、フェノールレッド糸(ゾーンクィック(商品名)、メニコン社製)を使用し、その一端を1分間ラットの結膜嚢に挿入し、糸にしみ込んだ涙液の長さをノギスで測定し、その累積値より涙液分泌量を求めた。すべての群の例数は10とした。
【0025】
結果を図1に示した。
【0026】
図1から明らかなように、皀莢投与群では対照群と比較して、経時的に涙液分泌量が増加し、投与60分後において有意な涙液分泌量の増加が確認された。
【0027】
以上の結果、皀莢は、涙液分泌を促進することから、ドライアイを予防あるいは改善することが明らかになった。
【0028】
試験例2
試験には体重約2.5kgの雄性日本白色ウサギ(北山ラベス)を用いた。ウサギの眼に0.4w/v%塩酸オキシブプロカイン50μLを3分間隔で2回点眼し、その3分後に片眼に実施例2で得られた点眼剤50μLを結膜嚢内に点眼した。陽性対照薬としては3w/v%ATP溶液を、対照薬としては生理食塩水を用いた。
【0029】
涙液分泌量は、点眼剤サンプルを点眼後、5分、10分、15分、25分および30分後に、シルマー試験紙の一端を1分間結膜嚢内に挿入することにより涙液を採取し、その長さをノギスで測定し、その累積値より求めた。すべての群の例数は6とした。
【0030】
結果を図2に示した。
【0031】
図2から明らかなように、陽性対照薬である3w/v%ATP溶液および本発明の点眼剤に涙液分泌の促進がみられた。以上の結果、皀莢は、涙液分泌を促進することにより、ドライアイを予防あるいは改善することが明らかとなった。
【0032】
試験例3
試験には8週齢のSD系雄性ラットを用いた。
【0033】
一晩絶食したラットに実施例1で得た皀莢エキスを1.5g/kg(原生薬換算)の用量で経口投与し、その1時間後に開腹し、小腸の両端を結紮した後腸管を摘出した。摘出した腸管の内容物を遠心分離にてフィルター濾過し、遠沈管内の水分重量を測定した。
【0034】
対照群のラットに対しては、蒸留水を経口投与し、被験薬と同様の処理と測定を行った。すべての群の例数は5とした。
【0035】
結果を図3に示した。
【0036】
図から明らかなように、皀莢エキス投与により腸管内分泌量が有意に増加し、皀莢が便秘に対して予防あるいは改善効果を有することが明らかとなった。
【0037】
試験例4
試験には10週齢のWistar系雄性ラット(日本チャールスリバー)を用いた。ラットに実施例1で得た皀莢エキスを1.5g/kg(原生薬換算)の用量で十二指腸内に投与し瀉下作用を目視にて評価した。
【0038】
皀莢投与群においては10例中10例において、皀莢投与後60分以内に瀉下作用が認められた。以上の結果、皀莢は便秘を予防あるいは改善することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、ドライシンドローム、ドライアイ、便秘などの予防または改善作用を有する医薬品、あるいはドライシンドローム、ドライアイ、便秘などが気になる人向けの機能性食品、特定保健用食品、化粧品などの提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】皀莢エキスの涙液分泌促進作用を示した図であり、縦軸に涙液分泌量(mm)、横軸に測定時間(分)を示した。
【図2】皀莢エキスの涙液分泌促進作用を示した図であり、縦軸に涙液分泌量(mm)、横軸に測定時間(分)を示した。
【図3】皀莢エキスの腸管内分泌促進作用を示した図であり、縦軸に腸管内分泌量(g/site)、横軸に各サンプルを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皀莢を配合することを特徴とするドライシンドロームの治療または予防剤。
【請求項2】
皀莢を配合することを特徴とする水分分泌促進剤。
【請求項3】
皀莢を配合することを特徴とする便秘の治療または予防剤。
【請求項4】
皀莢を配合することを特徴とするドライアイの治療または予防剤。
【請求項5】
皀莢を配合することを特徴とする点眼剤。
【請求項6】
皀莢を配合することを特徴とするドライアイの治療または予防用点眼剤。
【請求項7】
皀莢を配合することを特徴とする腸管内分泌促進剤
【請求項8】
皀莢を配合することを特徴とする涙液分泌促進剤

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−137796(P2007−137796A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331519(P2005−331519)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】