説明

水分捕集装置

【課題】簡単で安価な構成によって呼気に含まれる水分を比較的長期に亘って交換することなく捕集する。
【解決手段】呼吸ガスが流れる流路に設けられ、呼吸ガスと接触する呼吸ガス接触部である円盤板12と、前記呼吸ガス接触部と一体に形成され、外気に触れる外気接触部である円盤板13とを有し、前記呼吸ガス接触部と外気接触部が多孔質体11により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、呼吸ガスが流れる流路の一部に設けられ、呼吸ガスの連続測定に用いることができる水分捕集装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サイドストリーム方式(サンプリング方式)による呼吸ガス測定においては、サンプリングチューブを介して呼吸ガスの一部を取り込むため、呼吸ガスに含まれる水分がサンプリングチューブや測定装置において液化し、測定を妨げる虞があり、場合によっては測定装置が故障する可能性がある。
【0003】
そこで従来においては、水分捕集装置であるウォータートラップを測定装置に前置して、水分を分離するようにしている。しかしながら、このウォータートラップによって呼吸ガスを測定装置へ導く経路が複雑化する場合があり、また、液化した水等が適切にウォータートラップに蓄積されるように圧力を加える必要が生じるなどの問題があり、またウォータートラップにおいて適切に液化を進行させるために冷却機構を備えるなど、構成の複雑化及びコスト高を招来する問題があった。
【0004】
上記のような複雑化したウォータートラップに対し、ガスサンプリングチューブの外周を親水性材4で被覆し、更に乾燥部材のハウジング3で覆い、ガスサンプリング流路の途中に設けた親水性材6でバクテリア等を捕らえると共に、親水性材4の毛細管現象により水分をハウジング3側へ導くようにし、測定装置側への水の浸入を防止するものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO2010/030226A号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような水分捕集装置における現状に鑑みてなされたもので、その目的は、簡単で安価な構成によって呼気に含まれる水分を比較的長期に亘って交換することなく捕集することが可能な水分捕集装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る水分捕集装置は、呼吸ガスが流れる流路に設けられ、呼吸ガスと接触する呼吸ガス接触部と、前記呼吸ガス接触部と一体に形成され、外気に触れる外気接触部とを有し、前記呼吸ガス接触部と外気接触部が多孔質体により構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る水分捕集装置は、呼吸ガスが流入する流入チューブ及び流入した後の呼吸ガスを流出させる流出チューブが接続され、呼吸ガス接触部を臨ませた状態で当該呼吸ガス接触部を保持するガス容器部を備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る水分捕集装置は、流入チューブは流出チューブより前記底面側に備えられることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る水分捕集装置は、流入チューブと流出チューブの間には仕切板が備えられることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る水分捕集装置は、流入チューブ及び流出チューブがガス容器部の天井側に接続され、呼吸ガス接触部が前記天井と対向する底面側に設けられることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る水分捕集装置は、流入チューブと流出チューブの少なくともいずれかには金属部材が挿入されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る水分捕集装置は、多孔質体は内壁部と外周部とから構成される中空を有する形状であり、内壁部が呼吸ガス接触部であり、外周部が外気接触部であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る水分捕集装置は、人工呼吸器の排気口に備えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る水分捕集装置によれば、多孔質体により構成されているため、呼吸ガスに含まれている水分が液化した場合に的確に水分を捕集して保持することができる。また、外気接触部が多孔質体により呼吸ガス接触部と一体に構成されているため、上記捕集された水分が外気接触部へ移動して蒸散されるので、水分の捕集しながら蒸散を可能とするため、比較的長期に亘って使用することが可能である。さらに水分捕集装置はシンプルな構造であるため、装置構成を単純化するだけでなく、装着も容易であるなど、取り扱いが極めて容易である。
【0016】
本発明に係る水分捕集装置によれば、ガス容器部に流入チューブから呼吸ガスが流入し、このガス容器部から流出チューブを介して測定装置へ呼吸ガスを導く場合に、ガス容器部が、呼吸ガス接触部を臨ませた状態で当該呼吸ガス接触部を保持するので、ガス容器部において水分が捕集されて呼吸ガス接触部に吸収される。
【0017】
本発明に係る水分捕集装置によれば、天井側からガス容器部に流入した呼吸ガスの水分が捕集されて、重量により底部側の呼吸ガス接触部に吸収され、適切な水分捕集が行われる。
【0018】
本発明に係る水分捕集装置によれば、流入チューブは流出チューブより前記底面側に備えるため、液化した水分が流入チューブから排出された際に、流出チューブに陰圧がかけられていても、流出チューブに誤って吸引されることがない。
【0019】
本発明に係る水分捕集装置によれば、流入チューブと流出チューブの間には仕切板が備えられるため、液化した液体が流入チューブから排出された際に、流出チューブに誤って吸引されることがない。
【0020】
本発明に係る水分捕集装置によれば、流入チューブと流出チューブの少なくともいずれかには金属部材が挿入されているため、金属部材近傍の呼吸ガスは急激に冷却され、効率的な水分捕集を可能とする。
【0021】
本発明に係る水分捕集装置によれば、内壁部において呼吸ガス接触部によって水分が捕集されて吸収される。捕集された水分が外気接触部へ移動して蒸散されるので、水分の捕集をしながら蒸散を可能とするため、比較的長期に亘って使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る水分捕集装置を用いた医療システムの一例を示すブロック図。
【図2】発明の第1の実施形態に係る水分捕集装置を示す斜視図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】発明の第2の実施形態に係る水分捕集装置を示す斜視図。
【図5】発明の第2の実施形態に係る水分捕集装置を示す正面図。
【図6】図5のB−B断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態に係る水分捕集装置を説明する。各図において同一の構成要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。本実施形態に係る水分捕集装置10は、例えば図1に示される人工呼吸器80と呼吸ガス測定装置2を用いた医療システムに用いることができる。
【0024】
人工呼吸器80は、一方向弁である吸気弁82、感染防止フィルタ86、加温加湿器87、ウォータートラップ88及び呼吸回路81を介して患者Aの呼吸器系に接続され、また当該患者Aの呼吸器系は、呼吸回路81、感染防止フィルタ90及び一方向弁である呼気弁83を介して人工呼吸器80の排気管91に接続されており、人工呼吸器80から吸気弁82を介して患者に呼吸ガスを送出し、患者の呼吸ガスを呼気弁83、排気管91を介して、排気口91Aから外部に排出している。
【0025】
この人工呼吸器80を含む医療システムにおいては、感染防止フィルタ86、90、加温加湿器87、ウォータートラップ88及び呼吸回路81は、交換や滅菌、或いは患者毎に取り換え可能とするために、容易に着脱できるような構成となっている。
【0026】
また、人工呼吸器80には当該人工呼吸器80の各部に電力供給を行う電源部85が備えられている。尚、手動や別途の圧力源等で作動させる簡易な人工呼吸器においては、電源部を備えていないものもある。
【0027】
排気口91Aには、分岐フィッティング92が形成されており、この分岐フィッティング92には流入チューブであるサンプリングチューブ31が接続され、サンプリングチューブ31は水分捕集装置10に接続されている。更に、水分捕集装置10には流出チューブであるサンプリングチューブ32が接続され、サンプリングチューブ32はバクテリアフィルタ33を介して呼吸ガス測定装置2に接続されている。
【0028】
第1の実施形態に係る水分捕集装置10は、図2と図3に示されるように構成されている。即ち、第1の実施形態に係る水分捕集装置10は、二枚の円盤板が一体に重ねられた形状の多孔質体11を備える。多孔質体11の上側の円盤板12の直径が、下側の円盤板13の直径よりも短く形成されている。
【0029】
多孔質体11は、例えば表面を親水化したポリエチレンを焼結形成により多孔体に成形したもので、旭化成ケミカルズ株式会社のサンファイン(登録商標)と呼ばれる多孔質体を用いることができる。
【0030】
水分捕集装置10は、頭部(天井)に天板14を有し底部が開口したガス容器部15を備える。このガス容器部15は、円筒形状であるが、どのような形状であっても良い。ガス容器部15の開口部には、多孔質体11の上側の円盤板12が嵌合し下側の円盤板13がストッパとなり、全体として多孔質体11がガス容器部15の蓋として機能する。
【0031】
この結果、円盤板12は、呼吸ガスと接触する呼吸ガス接触部として機能する。また、円盤板13は、呼吸ガス接触部と一体に形成され、外気に触れる外気接触部として機能する。ガス容器部15は、呼吸ガス接触部である円盤板12をガス容器部15の室内向かって臨ませた状態で当該呼吸ガス接触部である円盤板12を保持する。
【0032】
サンプリングチューブ32のチューブ内において、図2のように、ガス容器部15に挿入されている先端部には、中空の円筒状の金属部材16がサンプリングチューブ32に挿入され、保持される。また図示しないが棒状の金属部材16が挿入され内壁の摩擦によって保持されても良い。金属部材16とサンプリングチューブ32の内壁には間隙が存在し、金属部材16がサンプリングチューブ32を閉塞することはない。なお図2において、金属部材16はサンプリングチューブ32に挿入されているが、サンプリングチューブ31に挿入されても良いし、サンプリングチューブ31と32の両方に挿入されても良い。
【0033】
システムの稼働状態において、上記のように構成された水分捕集装置10を、図1に示されているように、サンプリングチューブ31、32に吊り下げて多孔質体11が最下部に位置する状態として使用することが好適である。このような状態においては、サンプリングチューブ32から到来する呼吸ガスはガス容器部15に入り、更にサンプリングチューブ31から流出する過程において、特にガス容器部15の内側やサンプリングチューブ31の金属部材16が設けられている付近において冷却されて、呼吸ガスに含まれる水分が液化することになる。
【0034】
なお、図示しないが、サンプリングチューブ31とサンプリングチューブ32とは、ガス容器15内において、異なる長さであっても良い。具体的にはサンプリングチューブ32から円盤部12までの距離は、サンプリングチューブ31から円盤部12までの距離より短いことが望ましい。サンプリングチューブ31には陰圧がかけられるが、異なる長さとすることで、サンプリングチューブから液化した液体が、サンプリングチューブ31に吸引されることを防ぐためである。また、図示しないが、サンプリングチューブ31とサンプリングチューブ32との間に液化した液体がサンプリングチューブ31に吸引されないように、仕切板が設けられてもなお良い。
【0035】
液化した液体は、多孔質体11の円盤板12に吸着され、下方の円盤板13へと浸透してゆく。円盤板13における表面の多くは外気と接触しているので、円盤に浸透した液体は蒸散される。このため、多孔質体11は水分を捕集しながら水分の蒸散を続けることなり、多孔質体11を長い間に亘り使用することができる。
【0036】
サンプリングチューブ31及びバクテリアフィルタ33を介して呼吸ガス測定装置2へ送られた呼吸ガスは水分捕集装置10において水分が捕集されており、呼吸ガス測定装置2内において結露することはない。呼吸ガス測定装置2には、例えば二酸化炭素濃度センサなどが含まれており、到来した呼吸ガスを受けて二酸化炭素濃度の測定を行い、結果を図示しない表示器などの出力手段かから出力する。また、呼吸ガス測定装置2の二酸化炭素濃度センサの出力を人工呼吸器80へ送るによって、患者AのEtCO2 を測定して患者Aのガス交換の状況を監視している。なお、サンプリングチューブ内の吸引圧を大きくした場合、呼吸ガスは水分捕集装置10において多孔質体11から漏れ出す可能性もあるが、多くの呼吸ガスは水分捕集装置10からサンプリングチューブ31を介して呼吸ガス測定装置2へ導かれる程度の漏れとなるものを選択することができ、厳格な精度を要求されない呼吸ガス測定装置2の測定(特に人工呼吸器の排気口における呼吸ガス測定)においては特に問題なく測定が行われる。
【0037】
図4〜図6には、第2の実施形態に係る水分捕集装置10Aが示されている。この水分捕集装置10Aは、中央の多孔質体21が中空の筒体22である。この実施形態において筒体22は円筒形であるが、角筒であっても良く、また、長手方向に真っ直ぐでも良いし曲がっていても良い。
【0038】
筒体22の両端には、筒体22の端部が挿入されるスリーブ23が嵌合されている。スリーブ23は例えば金属により構成され、中央部24が大径であり、筒体22の端部が挿入される部位は、中央部24より小径の枠部25となっている。また、中央部24における枠部25と反対側には、先端にテーパ状の抜止部26が形成された中空のフィッティング部27が形成されている。このフィッティング部27は、サンプリングチューブ31、32の端部に容易に挿入することができる。
【0039】
筒体22の外周部28は、外気に触れる外気接触部として機能し、筒体22の孔部に臨む内壁部29が呼吸ガス接触部として機能する。この第2の実施形態に係る水分捕集装置10Aは、図1における水分捕集装置10に配置して使用することができる。この場合、サンプリングチューブ32から到来する呼吸ガスは入口側のスリーブ23に入り、更に筒体22を介して出口側のスリーブ23から流出する過程において、スリーブ23を金属製などとしても良い。この場合、スリーブ23が設けられている付近において呼吸ガスは冷却されて、呼吸ガスに含まれる水分が液化することになる。
【0040】
液化した液体は、多孔質体21の筒体22における内壁部29に吸着され、外方の外周部28へと浸透してゆく。この場合において筒体22が中央部から両端側にV字状に湾曲し、この姿勢において使用されていると、スリーブ23から筒体22への水分の浸透が良好に進行することが期待される。外周部28における表面は外気と接触しているので、浸透した液体は蒸散される。このため、多孔質体21は水分を捕集しながら水分の蒸散を続けることなり、多孔質体21を長い間に亘り使用することができる。
【符号の説明】
【0041】
2 呼吸ガス測定装置 10、10A 水分捕集装置
11、21 多孔質体 12、13 円盤板
14 天板 15 ガス容器部
22 筒体 23 スリーブ
24 中央部 25 枠部
26 抜止部 27 フィッティング部
28 外周部 29 内壁部
31、32 サンプリングチューブ 33 バクテリアフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸ガスが流れる流路に設けられ、呼吸ガスと接触する呼吸ガス接触部と、
前記呼吸ガス接触部と一体に形成され、外気に触れる外気接触部とを有し、
前記呼吸ガス接触部と外気接触部が多孔質体により構成されている水分捕集装置。
【請求項2】
呼吸ガスが流入する流入チューブ及び流入した後の呼吸ガスを流出させる流出チューブが接続され、呼吸ガス接触部を臨ませた状態で当該呼吸ガス接触部を保持するガス容器部を備えている請求項1に記載の水分捕集装置。
【請求項3】
流入チューブ及び流出チューブがガス容器部の天井側に接続され、
呼吸ガス接触部が前記天井と対向する底面側に設けられる請求項2に記載の水分捕集装置。
【請求項4】
流入チューブは流出チューブより前記底面側に備えられる請求項2又は3のいずれかに記載の水分捕集装置。
【請求項5】
流入チューブと流出チューブの間には仕切板が備えられる請求項2乃至4のいずれかに記載の水分捕集装置。
【請求項6】
流入チューブと流出チューブの少なくともいずれかには金属部材が挿入されている請求項2乃至5のいずれかに記載の水分捕集装置。
【請求項7】
多孔質体は内壁部と外周部とから構成される中空を有する形状であり、内壁部が呼吸ガス接触部であり、外周部が外気接触部である請求項1に記載の水分捕集装置。
【請求項8】
人工呼吸器の排気口に備えられる請求項1乃至7のいずれかに記載の水分捕集装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−232067(P2012−232067A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104502(P2011−104502)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)