説明

水分散体、それを用いた記録液、画像形成方法、及び画像形成装置、並びに水分散体の製造方法及びそれにより得られるインクジェット用インク

【課題】均一に微細化され良好な分散性を示す顔料からなる水不溶性色材の粒子を含有し、しかも粘度上昇を抑え、吐出安定性と高い耐光性とを示すインクとしうる水分散体、それを用いた記録液、画像形成方法、及び画像形成装置を提供する。また上記の優れた特性を有する水分散体を効率よくかつ純度よく調製することができる水分散体の製造方法及びそれにより得られるインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】少なくとも1種の顔料からなる水不溶性色材の粒子を、水及び分散剤を含んだ媒体に分散させた分散体であって、前記水不溶性色材が結晶構造を有し、前記粒子の平均粒子径が5〜40nmでありかつ単分散度が1.5以下である水分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水分散体、それを用いた記録液、画像形成方法、及び画像形成装置、並びに水分散体の製造方法及びそれにより得られるインクジェット用インク関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、高速記録が可能であり、描画パターンの自由度が高く、記録時の騒音が少なく、低コストで画像記録が可能であり、さらにはカラー記録が容易である等の利点があり、急速に普及しさらに発展しつつある。そして、このインクジェット記録用インクとして従来、水溶性染料を水性媒体に溶解させた染料インクが広く用いられてきた。しかし、この染料インクは印刷物の耐水性や耐候性に劣るため、これを改善しうる顔料インクが検討されている。
【0003】
しかし、染料と比較して顔料はインクジェットヘッドのノズルからの吐出性が劣る場合が多い。また顔料は染料のような単独の色素分子ではなく粒子であるために、顔料による散乱や反射によって染料に比べて吸収スペクトルがブロードになり、顔料インクにより形成された画像は、染料インクによる画像と比較して、一般に透明性が低く、発色性が低い傾向にある。このような問題を解決する方法の一つとして顔料を微細化するという方法があり、光散乱の影響が少なく、染料並の透過性を示すように顔料を微粒子化することが望まれている。通常、顔料の微粒子化はサンドミルやロールミル、ボールミルと言った分散機を用いて機械的な力によって行うが、この方法では顔料を一次粒子付近の100ナノメートル程度まで微細化するのが限界であり、さらなる微粒子化が要求される場合に対応するのは難しい(特許文献1)。また、粒子径を小さくしようとすればするほど分散に長時間を要し、多大なコストがかかるばかりか、均一な品質のものを得るのも困難になる。
【0004】
一方、最近では顔料を一度溶解させた後に再び析出させて顔料の微粒子を作るという方法や、そこに含まれる有機粒子を濃縮する方法が提案されている(特許文献2〜4)。このようにして得られた有機顔料粒子分散体は通常の粉砕法で作製された分散体と比較すると光散乱が少なく高い透明性を示す。しかしながら、このようにして得られたナノメートルオーダーの微粒子分散体は、液の安定性付与が非常に難しく経時で微粒子同士が凝集したり粘度が増加したりするなどの問題がある。また、微粒子化により耐光性が悪化するという問題に関しても未解決のままであった。
【0005】
【特許文献1】特開平10−110111号公報
【特許文献2】特開2004−43776号公報
【特許文献3】特開2006−342316号公報
【特許文献4】特開2007−119586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、均一に微細化され良好な分散性を示す顔料からなる水不溶性色材の粒子を含有し、しかも粘度上昇を抑え、吐出安定性と高い耐光性とを示すインクとしうる水分散体、それを用いた記録液、画像形成方法、及び画像形成装置の提供を目的とする。また上記の優れた特性を有する水分散体を効率よくかつ純度よく調製することができる水分散体の製造方法及びそれにより得られるインクジェット用インクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は以下の手段により達成された。
(1)少なくとも1種の顔料からなる水不溶性色材の粒子を、水及び分散剤を含んだ媒体に分散させた分散体であって、前記水不溶性色材が結晶構造を有し、前記粒子の平均粒子径が5〜40nmでありかつ単分散度が1.5以下であることを特徴とする水分散体。
(2)前記水不溶性色材の結晶子径が20〜400オングストロームの結晶構造を有することを特徴とする(1)に記載の水分散体。
(3)前記水不溶性色材が、キナクリドン系顔料からなることを特徴とする(1)又は(2)に記載の水分散体。
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載の分散体を用いて作製される記録液であって、前記不溶性色材を0.1質量%〜15質量%含むことを特徴とする記録液。
(5)前記記録液がインクジェット用記録液である(4)に記載の記録液。
(6)(4)又は(5)に記載の記録液を媒体に付与することにより画像を記録することを特徴とする画像形成方法。
(7)(4)又は(5)に記載の記録液を媒体に付与し画像を記録させる手段を有することを特徴とする画像形成装置。
(8)(1)少なくとも1種の顔料からなる水不溶性色材を、分散剤を含有するアルカリ存在下の非プロトン性水溶性有機溶剤に溶解させて溶液とする工程、(2)該溶液と水系溶媒とを混合して、水を含んだ媒体中に前記水不溶性色材の粒子を分散させた分散体とする工程、(3)該分散体から、前記水不溶性色材の粒子を含む軟凝集体を形成させ、この軟凝集体を分離もしくは濃縮する工程、(4)該軟凝集体を特定の有機溶媒でろ過洗浄する工程、及び(5)前記軟凝集体を再分散する工程を有することを特徴とする水不溶性色材を含有する水分散体の製造方法。
(9)前記分散剤が前記特定の有機溶媒に可溶もしくは分散可能である高分子化合物であることを特徴とする(8)に記載の水分散体の製造方法。
(10)前記特定の有機溶媒がエステル系溶剤もしくはケトン系溶媒であることを特徴とする(8)又は(9)に記載の水分散体の製造方法。
(11)前記エステル系溶剤が乳酸エチルであることを特徴とする(10)に記載の水分散体の製造方法。
(12)(8)〜(11)に記載の製造方法によって作製された水分散体を含有するインクジェット用インク。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水分散体は、均一に微細化され良好な分散性を示す顔料からなる水不溶性色材の粒子を含有し、しかもインクとしたときに粘度の上昇を抑え、かつ吐出安定性と耐光性を向上させるという優れた作用効果を奏する。また、本発明の製造方法によれば、上記の優れた特性を有する水分散体を、煩雑な工程を必要とせず、効率良くかつ純度良く調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の水分散体は、少なくとも1種の顔料からなる水不溶性色材の粒子を含有する。この水不溶性色材に用いられる有機顔料は、色相ないし構造について特に限定されるものではなく、例えば、ペリレン化合物顔料、ペリノン化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、キナクリドンキノン化合物顔料、アントラキノン化合物顔料、アントアントロン化合物顔料、ベンズイミダゾロン化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、ジスアゾ化合物顔料、アゾ化合物顔料、インダントロン化合物顔料、インダンスレン化合物顔料、キノフタロン化合物顔料、キノキサリンジオン化合物顔料、金属錯体アゾ化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、トリアリールカルボニウム化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、アミノアントラキノン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ナフトールAS化合物顔料、チオインジゴ化合物顔料、イソインドリン化合物顔料、イソインドリノン化合物顔料、ピラントロン化合物顔料、イソビオラントロン化合物顔料、またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0010】
更に詳しくは、例えば、C.I.ピグメントレッド179、C.I.ピグメントレッド190、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントバイオレット29等のペリレン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ43、もしくはC.I.ピグメントレッド194等のペリノン化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド207、もしくはC.I.ピグメントレッド209のキナクリドン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド206、C.I.ピグメントオレンジ48、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49等のキナクリドンキノン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー147等のアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド168等のアントアントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブラウン25、C.I.ピグメントバイオレット32、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ62、もしくはC.I.ピグメントレッド185等のベンズイミダゾロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー128)、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントオレンジ34、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントイエロー219、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド221、C.I.ピグメントレッド242、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23等のジスアゾ縮合化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー83、もしくはC.I.ピグメントイエロー188等のジスアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントオレンジ64、もしくはC.I.ピグメントレッド247等のアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダンスレン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー138等のキノフタロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー213等のキノキサリンジオン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー129、もしくはC.I.ピグメントイエロー150等の金属錯体アゾ化合物顔料、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、C.I.ピグメントグリーン37、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー75、もしくはC.I.ピグメントブルー15(15:1、15:6等を含む)等のフタロシアニン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー56、もしくはC.I.ピグメントブルー61等のトリアリールカルボニウム化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット23、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37等のジオキサジン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド177等のアミノアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、もしくはC.I.ピグメントレッド170等のナフトールAS化合物顔料、C.I.ピグメントレッド88等のチオインジゴ化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントオレンジ66等のイソインドリン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61等のイソインドリノン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ40、もしくはC.I.ピグメントレッド216等のピラントロン化合物顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31等のイソビオラントロン化合物顔料が挙げられる。
【0011】
本発明の水分散体は、好ましくは、(1)少なくとも1種の顔料からなる水不溶性色材を、分散剤を含有するアルカリ存在下の非プロトン性水溶性有機溶剤に溶解させて溶液とする工程、(2)該溶液と水系溶媒とを混合して、水を含んだ媒体中に前記水不溶性色材の粒子を分散させた分散体とする工程、(3)該分散体から、前記水不溶性色材の粒子を含む軟凝集体を形成させ、この軟凝集体を分離もしくは濃縮する工程、(4)該軟凝集体を特定の有機溶媒でろ過洗浄する工程、及び(5)該軟凝集体を再分散する工程により作製することができる。
【0012】
本発明に用いられる非プロトン性溶剤としては、アルカリ存在下で有機顔料および高分子化合物を溶解させるもので、いかなるものでも使用可能である。また、水に対する溶解度が5質量%以上であるものが好ましく用いられ、さらには水に対して自由に混合するものが好ましい。
【0013】
具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ピリジン、プロピオニトリル、ブタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジアセテート、γ−ブチロラクトン等が好ましい溶剤として挙げられ、中でもジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトン又はアセトニトリル、テトラヒドロフランが好ましい。また、これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
上記非プロトン性溶剤の使用割合は特に限定されないが、顔料のより良好な溶解状態と、所望とする微粒子径の形成の容易性、更に水性分散体の色濃度をより良好なものとするために、顔料1質量部に対して2〜500質量部、さらには5〜100質量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0014】
上記非プロトン性溶剤に含有させるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどの無機塩基、トリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシドなどの有機塩基を用いることができ、なかでも無機塩基を用いることが好ましい。含有させるアルカリの量は特に限定されないが、無機塩基の場合、顔料に対して1.0〜30モル当量であることが好ましく、2.0〜25モル当量であることがより好ましく、3〜20モル当量であることが特に好ましい。有機塩基の場合は、顔料に対して1.0〜100モル当量であることが好ましく、5.0〜100モル当量であることがより好ましく、20〜100モル当量であることが特に好ましい。
【0015】
本発明において、水系溶媒とは、水単独または水に可溶な有機溶媒の混合溶媒である。このとき有機溶媒の添加は、顔料や分散剤を均一に溶解するために水のみでは不十分な場合、および流路中を流通するのに必要な粘性を得るのに水のみで不十分な場合などに用いることが好ましい。有機溶媒として例えば、アルカリ性の場合はアミド系溶媒または含イオウ系溶媒であることが好ましく、含イオウ系溶媒であることがより好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)であることが特に好ましい。酸性の場合はカルボン酸系溶媒、イオウ系溶媒、またはスルホン酸系溶媒であることが好ましく、スルホン酸系溶媒であることがより好ましく、メタンスルホン酸であることが特に好ましい。なお、水系溶媒には必要に応じて無機化合物塩や後述する分散剤等を溶解させてもよい。
【0016】
このとき有機顔料を均一に溶解した溶液と水系溶媒とを混合する実施態様は特に限定されない。例えば、水系溶媒を撹拌しておきそこに有機顔料溶液を添加する実施態様、有機顔料溶液及び水系溶媒をそれぞれ長さのある流路に同一の長手方向に送りこみ、その流路を通過する間に両液を接触させ有機顔料微粒子を析出させる実施態様等が挙げられる。前者(撹拌混合する実施態様)については、特に水系溶媒中に供給管等を導入しそこから有機顔料溶液を添加する液中添加による実施態様が好ましい。さらに具体的には、国際公開WO2006/121018号パンフレットの段落0036〜0047に記載の装置を用いて液中添加を行うことができる。後者(流路を用いて両者を混合する実施態様)については、例えば、特開2005−307154号公報の段落0049〜52及び図1〜図4、特願2006−78637号公報の段落0044〜0050に記載のマイクロリアクターを用いることができる。
【0017】
有機顔料粒子を析出生成させる際の条件に特に制限はなく、常圧から亜臨界、超臨界条件の範囲を選択できる。常圧での温度は−30〜100℃が好ましく、−10〜60℃がより好ましく、0〜30℃が特に好ましい。有機顔料の溶液と水系溶媒との混合比は体積比で1/50〜2/3が好ましく、1/40〜1/2がより好ましく、1/20〜3/8が特に好ましい。顔料微粒子を析出させたときの混合液中の顔料粒子濃度は特に制限されないが、溶媒1000mlに対して顔料粒子が10〜40000mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜30000mgの範囲であり、特に好ましくは50〜25000mgの範囲である。
【0018】
分散剤は上記水不溶性色材を含有するアルカリ存在下の非プロトン性有機溶剤に可溶で、かつ水溶液中において有機顔料に対して分散効果を付与できるものが適宜使用可能である。好ましくは、界面活性剤もしくは高分子化合物であって、その親水性部分がカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、水酸基及びアルキレンオキサイドのうちの1種以上を用いて構成されているものが利用される。さらに好ましくは、アルカリ存在下の非プロトン性有機溶剤に有機顔料と共に安定に溶解するものがよい。分散剤の親水性部分が第一、第二、第三級のアミノ基、第四級アンモニウム基など上記以外のものから選ばれるもののみで構成されている場合はアルカリを含む有機顔料の水性分散体において十分ではあるが分散安定化の程度が相対的に低くなる場合がある。また、従来の顔料分散法では、媒体中で分散状態にある顔料表面と効率良く接触可能な分散剤を選択するなどの工夫が必要であるが、本発明においては、分散剤と顔料がともに溶解状態で媒体中に存在し、これらの間での所望とする作用が容易に得られるので、従来の顔料分散法におるような顔料表面への接触効率に基づく分散剤の制限がなく、広範な分散剤を使用することができる。
【0019】
具体的に界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤、また、この他にもアルキルベタインやアミドベタインなどの両性界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッソ系界面活性剤などを含めて、従来公知である界面活性剤およびその誘導体から適宜選ぶことができる。
【0020】
高分子分散剤として、具体的にはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド等が挙げられ、中でもポリビニルピロリドンを用いることが好ましい。
【0021】
また、その他分散剤として使用する高分子化合物として、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、アルケニルスルホン酸、ビニルアミン、アリルアミン、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルホスホン酸、ビニルピロリドン、アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド及びその誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つはカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、水酸基、アルキレンオキサイドのいずれかになる官能基を有する単量体)から構成されるブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの変性物、及びこれらの塩等が挙げられる。
【0022】
更に詳しく説明すると、本発明における高分子化合物は親水性基部位と疎水性部位から構成されていることが好ましく、親水性モノマー成分と疎水性モノマー成分とを共重合させた共重合体を用いることが好ましい。疎水性モノマー成分のみからなる重合体である高分子化合物を用いる場合には水不溶性色材に良好な分散安定性を付与することが困難なことがある。なお、親水性とは水に対する親和性が大きく水に溶解しやすい性質であり、疎水性とは水に対する親和性が小さく水に溶解しにくい性質である。
【0023】
例えば、疎水性モノマー成分としては、イソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の疎水性ユニットを構造単位にして有するモノマー成分が挙げられる。水不溶性色材に高い分散安定性を付与する観点からはスチレンやt−ブチルメタクリレートなどの疎水性モノマーを繰り返し単位として有するブロックセグメントが好ましいが、疎水性モノマー成分はこれに限定されない。
【0024】
また、親水性モノマー成分としては、前述したカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、水酸基、アルキレンオキサイド等の官能基を有する構造等の親水性ユニットを単位構造として含有するモノマー成分が挙げられる。具体的には、アクリル酸やメタクリル酸、或いはその無機塩や有機塩などのカルボン酸塩、またポリエチレングリコールマクロモノマー、又はビニルアルコールや2−ヒドロキシルエチルメタクリレート等が挙げられるが、親水性モノマー成分はこれに限定されない。
【0025】
前記共重合体についてはブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体などのいずれの形態を有する共重合体でも良いが、特にブロック共重合体やグラフト共重合体を用いる場合には、水不溶性色材に良好な分散性を付与しやすいため好ましい。
【0026】
また、その他の分散剤として用いられる高分子化合物としては、アルブミン、ゼラチン、ロジン、シェラック、デンプン、アラビアゴム、アルギン酸ソーダ等の天然高分子化合物、およびこれらの変性物も好ましく使用することが出来る。また、これらの分散剤は、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。上記分散剤の使用割合は特に限定されるものではないが、有機顔料1質量部に対して0.05質量部以上、非プロトン性有機溶剤100質量部に対して50質量部以下の範囲で用いるのが好ましい。分散剤が非プロトン性有機溶剤100質量部に対して50質量部より多い場合は分散剤を完全に溶解させるのが困難な場合があり、有機顔料1質量部に対して0.05質量部より少ない場合は、十分な分散効果を得ることが難しい場合がある。
【0027】
本発明の分散体においては、後述するインクとして用いるときの耐光性の向上を考慮するとき、上述した分散剤を好適に使用することができるが、耐光性を向上し、且つ分散体を高濃度化した場合でも低粘度を維持する観点から、後述する洗浄処理に用いられる特定の有機溶媒に対して可溶もしくは分散可能である高分子分散剤、または高分子化合物を用いることが特に好ましい。この高分子分散剤、または高分子化合物の分子量は特に限定されないが質量平均量が500〜1000000であることが好ましく、1000〜1000000であることがより好ましい。500未満の場合は分子量が小さく、1000000を超えると高分子鎖間の絡まりが大きくなりすぎ、分散剤としての機能を発揮しにくくなるため、良好な分散状態を保てない場合がある。なお、本発明において単に分子量というときには質量平均分子量を意味し、また質量平均分子量は、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(キャリア:テトラヒドロフラン)により測定されるポリスチレン換算の平均分子量である。なお本発明において「分散体」とは、所定の微粒子が分散した組成物をいい、その形態は特に限定されず、液状の組成物(分散液)、ペースト状の組成物、及び固体状の組成物を含む意味に用いる。
【0028】
上記分散剤を水不溶性色材を溶解した溶液中に含有させる量は、顔料の均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、顔料100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、1〜500質量部の範囲であることがより好ましく、10〜250質量部の範囲であることが特に好ましい。この量が少なすぎると有機顔料微粒子の分散安定性が向上しないことがある。本発明の水分散体に含まれる上記分散剤の量は特に限定されないが、顔料100重量部に対して10〜1000質量部であることが実際的である。
【0029】
〔透過型電子顕微鏡(TEM)観察による平均粒径〕
本発明において、分散体に含まれる水不溶性色材は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により粒子の形状を観察し、平均粒径を以下のようにして算出することができる。水溶性色材の微粒子を含む分散体(もしくは分散液)をカーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈し、これを乗せて乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX)で10万倍で撮影した画像から粒子500個の径を測定して平均値を求める。この際、上記のように分散体を前記Cu200メッシュ上で乾燥させるため、前記分散体中に水不溶性色材が良好に分散した状態であっても、乾燥の過程で水不溶性色材粒子が見かけ上凝集してしまい、正確な粒子径が判別しにくい場合がある。このような場合には、重なっていない独立した粒子500個の径を測定して平均値を求める。また、水不溶性色材が球状でない場合は、粒子の長径(粒子の最も長い径)を測定する。
【0030】
本発明において、透過型電子顕微鏡観察(TEM観察)により算出した水不溶性色材の平均粒子径は5〜40nmであり、10〜30nmであることがより好ましく、10〜25nmであることが特に好ましい。この平均粒径が小さすぎると分散体中の安定な分散状態を長期間保つことが難しいことがあり、また良好な耐光性が得られない場合がある。一方で大きすぎると吐出安定性が損なわれたり、散乱による濃度低下を起こすことがある。
【0031】
〔動的光散乱法による平均粒径〕
本発明において、水不溶性色材の分散状態は動的散乱法により評価することもでき、これにより平均粒径を算出することができる。その原理は次のとおりである。粒径が約1nm〜5μmの範囲にある粒子は、液中で並進・回転等のブラウン運動により、その位置・方位を時々刻々と変えている。したがって、これらの粒子にレーザー光を照射し、出てくる散乱光を検出すると、ブラウン運動に依存した散乱光強度の揺らぎが観測される。この散乱光強度の時間の揺らぎを観測することで、粒子のブラウン運動の速度(拡散係数)が得られ、さらには粒子の大きさを知ることができる。
【0032】
この原理を用いて、水不溶性色材の平均粒径の測定を行い、その測定値がTEM観察で得られた平均粒径に近い場合には、液中の粒子が単分散していること(粒子同士が接合したり凝集したりしていないこと)を意味する。すなわち、分散媒中において各粒子は互いに間隔をあけて分散しており、単独で独立して動くことができる状態にある。
【0033】
本発明によれば、分散媒中の水不溶性色材に対して行った動的光散乱法による算術平均粒径が、TEM観察による平均粒径に対してそれほど違わないレベルの平均粒径を示すことがわかった。したがって、水不溶色材粒子の好ましい範囲は前記したTEM観察により測定したものとほぼ同じである。ただし、分散媒中において粒子が完全に単分散していても測定誤差等により、TEM観察の平均粒径と動的光散乱法による平均粒径とに違いが生ずる場合がある。例えば測定時の溶液の濃度は測定装置の性能・散乱光検出方式に適していることが必要であり、光の透過量が十分に確保される濃度で行わないと誤差が発生する。またナノオーダーの粒子の測定の場合には得られる信号強度が微弱なため、ゴミや埃の影響が強く出て誤差の原因となるので、サンプルの前処理や測定環境の清浄度に気を付ける必要がある。ナノオーダーの粒子測定には、散乱光強度を稼ぐためにレーザー光源は発信出力が100mW以上のものが適する。なお、本発明においては、特に断らない限り、単に平均粒径というとき上記のTEMにより測定した平均粒径をいう。
【0034】
また、本発明において分散体中に分散している水不溶性色材の粒径は単分散であることが好ましい。単分散であることにより、粒径が大きい粒子の光散乱等の影響が軽減できる等有利である。分散体の分散性を評価する指標としては、例えば動的光散乱法で得られる算術平均粒径において、粒子の粒径分布関数
dG=f(D)xdD(Gは粒子数、Dは一次粒径を表す)
の積分式における、全粒子数の90個数%を占める粒子の粒径(D90)と10個数%を占める粒子の粒径(D10)との差を用いることができる。本発明においては、前記D90とD10の差が45nm以下であることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましく、1〜20nmであることが特に好ましい。なおこの方法は、前述した透過型電子顕微鏡により観察される粒子径を用いて作製する粒径分布曲線でも適用することができる。
【0035】
また、もう1つの分散性を示す指標の例としては、動的散乱法により得られる体積平均粒径(Mv)及び個数平均粒径(Mn)の比(Mv/Mn)を用いることもできる。本発明の水分散体においては、水不溶性色材粒子の前記Mv/Mnの値が1.5以下であり、1.4以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましい。
【0036】
〔結晶子径の定義〕
結晶子径の測定及び算出については得に限定はされないが、本発明において結晶構造を有するとは、分散体に含まれる水不溶性色材について粉末X線回折分析を行ったときに、下記(i)及び(ii)のいずれでもないことをいう。
(i)非晶質特有のハローが観測されるとき。
(ii)下記に述べる方法で決定される結晶子径が20Å未満であるかアモルフィス状態であると推定されるとき。
【0037】
本発明において、結晶子径は次のようにして、測定及び算出される。
まず、Cu−Kα1線を用いたX線回折解析を行う。その後、2θ=4deg〜70degの範囲において、最大強度を示すピークか、あるいは近接するピークと分離可能な十分に大きな強度を示すピークの半値幅を測定し、下記のSherrerの式により、結晶子径を算出する:
D=K×λ/(β×cosθ) … Scherrerの式
[D :結晶子径(Å、結晶子の大きさ)、λ:測定X線波長(Å)、β:結晶の大きさによる回折線の広がり(ラジアン)、θ:回折線のブラッグ角(ラジアン)、K:定数(βとDの定数で異なる)]
【0038】
一般に、βに半値幅β 1/2 を用いる場合、K=0.9となることが知られている。またCu−Kα1線の波長は、1.54050Åであるので、本発明における結晶子径Dは次式に基づいて計算される:
D=0.9×1.54050/(β 1/2 ×cosθ)
【0039】
ここで、測定で得られたスペクトルのピークがブロードで、前記ピークの半値幅が判別できない場合は、結晶子径が20Å未満であるかアモルファス状態(非晶質)であると推定される。
【0040】
本発明の水分散体においては、水不溶性色材の結晶子径が20〜400オングストロームであることが好ましく、20〜300オングストロームであることがより好ましく、耐光性と高発色性との両立の観点から、20〜250オングストロームであることが特に好ましい。
高い発色性を維持し、且つ高い耐光性を得るためには、前記水不溶性色材の粒子径と同程度の結晶子径を有することが好ましい。
【0041】
本発明の水分散体において、水不溶性色材の含有量は特に限定されないが、0.01〜30質量%であることが好ましく、1.0〜20質量%であることがより好ましく、2.0〜12質量%であることが特に好ましい。なお、本発明において分散体とは、液状組成物(分散液)だけでなく、半固形状もしくは固形状の組成物を含む意味に用いる。
【0042】
本発明においては、空気や酸素などの気体を顔料微粒子析出時に共存させてもよく、例えばそれらを酸化剤として用いることができる。共存させる態様は特に限定されず、気体を有機顔料溶液及び/又は水系溶媒にあらかじめ溶解させる、あるいは上記両液とは別に上記の気体を導入して接触させてもよい。
【0043】
本発明の水分散体においては、以下に具体的に述べるように、水不溶性色材粒子を析出させた混合液を酸処理し、好ましくは凝集体の形成に酸を添加して処理し、上記粒子の軟凝集体を形成させることが好ましい。ここで軟凝集とは再分散しうる程度の弱い凝集であり、その凝集体を特にフロックということがある。酸を用いた処理は、好ましくは、顔料粒子を酸で凝集させてこれを溶剤(分散媒)と分離し、濃縮、脱溶剤および脱塩(脱酸)を行う工程を含む。系を酸性にすることで酸性の親水性部分による静電反発力を低下させ、顔料粒子を凝集させることができる。
【0044】
前記粒子の凝集に用いる酸としては、沈殿し難い微粒子となっている水性分散液の粒子を凝集させて、スラリー、ペースト、粉状、粒状、ケーキ状(塊状)、シート状、短繊維状、フレーク状などにして通常の分離法によって効率よく溶剤と分離できる状態にするものであれば、いかなるものでも使用できる。さらに好ましくは、アルカリと水溶性の塩を形成する酸を利用するのがよく、酸自体も水への溶解度が高いものが好ましい。また脱塩を効率よく行うために、加える酸の量は顔料粒子の水性分散液が凝集する範囲でできるだけ少ない方がよい。具体的には塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸などが挙げられるが、塩酸、酢酸および硫酸が特に好ましい。酸によって容易に分離可能な状態にされた顔料粒子の水性分散液は遠心分離装置や濾過装置またはスラリー固液分離装置などで容易に分離することができる。この際、希釈水の添加、またはデカンテーションおよび水洗の回数を増やすことで脱塩、脱溶剤の程度を調節することができる。
【0045】
ここで得られた軟凝集体は、含水率の高いペーストやスラリーのままで用いることもできるが、必要に応じてスプレードライ法、遠心分離乾燥法、濾過乾燥法または凍結乾燥法などのような乾燥法により、微粉末として用いることもできる。
【0046】
本発明の水分散体において、水不溶性色材は結晶構造を有するが、この結晶構造を形成するために、前記粒子の軟凝集体を特定の有機溶媒で洗浄することが好ましい。この洗浄処理に用いる特定の洗浄用有機溶媒は、前記分散剤を溶解もしくは分散しうる有機溶媒であることが好ましい。この特定の有機溶媒としては、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、芳香族系溶媒、脂肪族系溶媒が好ましく、エステル系溶媒、ケトン系溶媒がより好ましく、エステル系溶媒が特に好ましい。エステル系溶媒としては、例えば酢酸エチル、乳酸エチル、2−(1−メトキシ)プロピルアセテートなどが挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。アルコール系溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−ブタノールなどが挙げられる。芳香族系溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。脂肪族系溶媒としては、例えばn−ヘキサン、シクロヘキサンなどが挙げられる。中でも、アセトン、乳酸エチルが特に好ましい。
【0047】
上記の洗浄処理は、水不溶性色材の微粒子を析出させた後であればいつ行ってもよいが、例えば上記微粒子を難凝集させ濃縮したペーストもしくは分離した粉末を、上記特定の有機溶媒で洗浄することが好ましい。この洗浄処理において特定の有機溶媒の使用量は特に限定されないが、例えば顔料100質量部に対して0.01〜10000質量部を使用することが好ましい。本発明の水分散体に含まれる上記特定の有機溶媒(結晶化・洗浄用有機溶媒)の量は特に限定されないが、0.0001〜1.0質量%であることが実際的である。
【0048】
本発明の分散体においては、さらに上記軟凝集体を再分散することが好ましい。この再分散処理としてアルカリ処理を挙げることができる。すなわち、酸を用いて凝集させた粒子をアルカリで中和し、粒子析出時の一次粒子径で水等に再分散させることが好ましい。すでに脱塩および脱溶剤が行われているため、不純物の少ない粒子の水性分散液のコンクベースを得ることができる。ここで使用するアルカリは、酸性の親水性部分を持つ分散剤の中和剤として働き、水への溶解性が高まるもので、いかなるものでも使用できる。具体的にはアミノメチルプロパノール、ジメチルアミノプロパノール、ジメチルエタノールアミン、ジエチルトリアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニアが挙げられる。これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
上記のアルカリの使用量は、軟凝集した粒子を水に安定に再分散できる範囲であれば特に限定されるものではないが、印刷インキやインクジェットプリンタ用インクなどの用途に用いる場合は各種部材の腐食の原因になる場合があるため、pHが6〜12、さらに好ましくは7〜11の範囲になる量を使用するのがよい。
【0050】
また、軟凝集した粒子を再分散する際に、水溶性の有機溶剤を添加して、再分散しやすくすることができる。具体的に使用できる有機溶剤としては特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等の脂肪族ケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記軟凝集体を再分散させて水分散体とするとき、水の含有量は20〜99質量%であることが好ましく、30〜95質量%とすることがより好ましい。上記の水溶性有機溶剤の量は0.1〜50質量%であることが好ましく、0.1〜30質量%とすることがより好ましい。
【0051】
上記水溶性の有機溶剤を加える際には、必要に応じて撹拌、混合、分散装置を用いることができる。特に含水率の高い有機顔料のペースト、スラリーを用いる際は水を加えなくてもよい。さらに、再分散の効率を高める目的、および不用となった水溶性有機溶剤または過剰なアルカリ等を除去する目的で加熱、冷却、または蒸留などを行うことができる。
【0052】
本発明の水分散体には、必要に応じて、種々の添加剤、助剤等を添加することができる。添加剤の一つとして、顔料を溶媒中で安定に分散させる分散安定剤がある。分散安定剤として、親水性疎水性両部を持つ樹脂あるいは界面活性剤を使用することが可能である。親水性疎水性両部を持つ樹脂としては、例えば、親水性モノマーと疎水性モノマーの共重合体が挙げられる。親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、または前記カルボン酸モノエステル類、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルアルコール、アクリルアミド、メタクリロキシエチルホスフェート等、疎水性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体、ビニルシクロヘキサン、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類等が挙げられる。共重合体は、ランダム、ブロック、およびグラフト共重合体等の様々な構成のものが使用できる。もちろん、親水性、疎水性モノマーとも、前記に示したものに限定されない。
【0053】
界面活性剤としては、アニオン性、非イオン性、カチオン性、両イオン性活性剤を用いることができる。アニオン性活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ナフタレンスルホン酸フォルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル等が挙げられる。非イオン性活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系、シリコン系等が挙げられる。カチオン性活性剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイミダゾリウム塩等が挙げられる。両イオン性活性剤としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、ホスファジルコリン等が挙げられる。
【0054】
本発明の水分散体は記録液とすることが好ましく、中でも特にインクジェット記録用インクとすることが好ましい。このとき必要に応じて水性溶剤を添加することができる。特に水性溶剤は、インクのノズル部分での乾燥、インクの固化を防止するために用いられ、単独または混合して用いることができる。水性溶剤含有量としては、インクの全質量の0.1〜60質量%であることが好ましく、1〜40質量%の範囲であることがより好ましい。
【0055】
本発明の水分散体を記録液ないしインクとして用いるとき粘度の上昇が抑えられていることが好ましく、例えばその粘度が0.8〜10mPa・sの範囲で維持されていることが好ましい。なお、本発明における粘度は、特に断らない限り、山一電機社製の振動式VM−100A−L型(商品名)で25℃にて測定した値をいう。
【0056】
その他の添加剤としては、例えばインクとしての用途の場合、インクの安定化と記録装置中のインクの配管との安定性を得るためのpH調整剤、記録媒体へのインクの浸透を早め、見掛けの乾燥を早くする浸透剤、インク内での黴の発生を防止する防黴剤、インク中の金属イオンを封鎖し、ノズル部での金属の析出やインク中で不溶解性物の析出等を防止するキレート化剤、記録液の循環、移動、あるいは記録液製造時の泡の発生を防止する消泡剤、酸化防止剤、防カビ剤、粘度調整剤、導電剤、紫外線吸収剤等も添加することができる。
【0057】
本発明の記録液は、例えば上記各成分を混合し均一に溶解又は分散することにより調製することができる。また、過剰量のポリマー化合物や添加剤が含有される場合には、遠心分離や透析などの方法によって、それらを適宜除去し、再調製することができる。
【0058】
本発明の記録液は、各種印刷法、インクジェット法、電子写真法等の様々な画像形成方法および装置に使用でき、この装置を用いた画像形成方法により描画することができる。また、このインクジェット法により微細パターンを形成したり、薬物の投与を行ったりすることができる。
【0059】
本発明の画像形成方法は、上記の優れた特性を有する記録液を用い画像形成を行う方法である。本発明の画像形成方法は、好ましくは、インク吐出部から上記の記録液を吐出して被記録媒体上に付与することで記録を行う画像形成方法である。
【0060】
本発明の記録液を用いるインクジェットプリンタとしては、圧電素子を用いたピエゾインクジェット方式や、熱エネルギーを作用させて発泡し記録を行うバブルジェット(登録商標)方式等、様々なインクジェット記録装置に適用できる。
【0061】
インクジェット用インクの吐出を行わせるために利用されるエネルギーとして熱エネルギーを発生する手段(例えば電気熱変換体やレーザ光等)を備え、上記熱エネルギーによりインクジェット用インクを吐出させることができる。本発明の記録液を使用することにより、高精細化が達成でき、更に優れた描画を行うことができる。インクジェット用インクの吐出ヘッドの各吐出口から吐出されるインクの量が、0.1ピコリットル〜100ピコリットルの範囲であることが好ましい。
【0062】
また、本発明の記録液は、中間転写体にインクを印字した後、紙等の記録媒体に転写する記録方式等を用いた間接記録装置にも用いることができる。また、直接記録方式による中間転写体を利用した装置にも適用することができる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。尚、文中「部」及び「%」とあるのは特に示さない限り質量基準とする。
<平均粒径及び単分散度>
下記実施例及び比較例においては、顔料粒子の平均粒子径は特に断らない限り透過型電子顕微鏡で測定し、300個の粒子の数平均粒径として求めた値を用いた。このとき、透過型電子顕微鏡(TEM)観察による平均粒径測定は、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈した分散体(分散液)を滴下した後乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX(商品名))で10万倍に拡大した画像から、重なっていない独立した粒子300個の長径を測定して平均値を平均粒径として算出した(以下、TEM観察により算出した平均粒径をTEM平均粒径と記述する。)。
また、顔料粒子の単分散度は、体積平均粒径(Mv)と数平均粒径(Mn)の比(Mv/Mn)とし、特に断らない限り、分散体(分散液)をイオン交換水で希釈した後、日機装(株)社製のMicorotrac(Version 10.1.2−211BH(商品名))を用いて体積平均粒径Mv及び個数平均粒径Mnを測定しこれらの値により算出した。
<X線回折測定>
X線回折測定には理学電機(株)社製RINT2500(商品名)を使用した。この測定においては、各分散体(分散液)試料をエバポレーターを用いて乾燥し、粉末を作製した。得られた乾燥粉末を用いてX線回折測定を行った。各スペクトルにおいて、X線回折の2θ=10deg〜70degにおけるピークの半値幅から結晶子径を算出した。このX線回折測定は銅ターゲットを使用してCu−Kα1線を用いて測定を行った。顔料粒子が結晶構造を有しており結晶径が測定されたものは、この結晶径の値を下記表1に示した。顔料粒子が結晶構造を有さず、X線回折スペクトルのピークがブロードでピークの半値幅が判別特定できなかったものは、下表1中「測定不能(20Å未満)」として示した。
【0064】
(実施例1)
C.I.ピグメントレッド122を5.8質量部、ポリビニルピロリドンK25(商品名)(東京化成工業(株)社製)10質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料を溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0065】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部の蒸留水中に、日本精密化学社製NP−KX−500型大容量無脈流ポンプ(商品名)を用いて内径0.8mmの吐出口から流速100cc/minで投入したところ、透明で赤みがかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の平均粒子径はTEM平均粒径29.2nm(個数平均粒径Mn=30.3nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.22であった。
【0066】
次いでこの顔料分散体に塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を軟凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストを得た。
【0067】
次に、このペーストに100質量部の乳酸エチルを加え、攪拌及び超音波処理を行った。この後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストを得た。このペーストをイオン交換水で水洗し、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて再び減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストAを得た。
【0068】
次に、このペースト3質量部にオレイン酸ナトリウム0.3質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水を加え超音波処理を行い、結晶構造を有する顔料粒子を含有する顔料分散液Aを得た(下表1参照)。この顔料分散液Aの分散粒子の平均粒子径はTEM平均粒径29.4nm(個数平均粒径Mn=31.3nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.25であった。この顔料分散液Aを60℃で2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。この条件で粒径に変化がなく沈降物がみられなかったものを、分散安定性において「3」と評価した。これに対し、後述するように粒径がやや増加したが沈降物は見られないものを「2」とし、懸濁し透明な分散液は得られず沈降物が観察されるものを「1」とした。
【0069】
(実施例2)
実施例1で乳酸エチルをアセトンに変えた以外は同様にし、顔料分10%の、結晶構造を有する顔料粒子を含有する顔料分散液Bを得た(下表1参照)。この顔料分散液Bの平均粒子径はTEM平均粒径29.8nm(個数平均粒径Mn=31.2nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.22であった。60℃2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0070】
(実施例3)
C.I.ピグメントレッド122を5.8質量部、分散剤としてメタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/アクリル酸=5/4/1(モル比)の共重合体(酸価60、分子量32000)の11質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料を溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0071】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部の蒸留水中に実施例1と同様に投入したところ、透明で赤みがかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の平均粒子径はTEM平均粒径30.1nm(個数平均粒径Mn=30.8nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.41であった。
【0072】
次いでこの顔料分散体に塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストを得た。
【0073】
次に、このペーストに100質量部の乳酸エチルを加え洗浄し、さらに攪拌及び超音波処理を行った。この後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストを得た。このペーストをイオン交換水で水洗し、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて再び減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストCを得た。
【0074】
次に、このペーストCに水酸化カリウムを加えたのち、イオン交換水を加えて1時間攪拌を行い、顔料分10%、pH9.5の、結晶構造を有する顔料粒子を含有する顔料分散液Cを得た(下表1参照)。この顔料分散液Cの分散粒子の平均粒子径はTEM平均粒径29.3nm(個数平均粒径Mn=30.7nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.44であった。この顔料分散液Cは60℃で2週間保存後の粒径がやや増加したが、沈降物は見られなかった。
(比較例1)
C.I.ピグメントレッド122を5.8質量部、分散剤としてメタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/アクリル酸=5/4/1(モル比)の共重合体(酸価60、分子量32000)の11質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料を溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0075】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部の蒸留水中に実施例1と同様に投入したところ、透明で赤みがかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の平均粒子径はTEM平均粒径30.1nm(個数平均粒径Mn=30.8nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.45であった。この分散液を内温90℃になるまで加熱し、90℃を維持したまま2時間経過した後、室温に戻した。
【0076】
次いでこの顔料分散体に塩酸を滴下してpHを3.5に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストDを得た。
【0077】
次いでこのペーストに水酸化カリウムを加えたのち、イオン交換水を加えて1時間攪拌を行い、顔料分10%pH9.5の、結晶構造を有さない顔料粒子を含有する顔料分散液Dを得た(下表1参照)。この顔料分散液Dの分散粒子の平均粒子径はTEM平均粒径32.2nm(個数平均粒径Mn=34.3nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.50であった。この顔料分散液Dは60℃で2週間保存後の粒径がやや増加したが、沈降物は見られなかった。
(比較例2)
実施例1でポリビニルピロリドンを除いた以外は同様に顔料溶解液を作製した。顔料溶解液を注入するや否や液が赤く懸濁し、透明な分散液は得られず、沈降物が観察された。この比較例2では沈降物が生じたためX線回折測定は行わなかった。
【0078】
(実施例4)
C.I.ピグメントイエロー74を5.8質量部、ポリビニルピロリドンK25(商品名)(東京化成工業(株)社製)10質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料を溶解し、赤色の顔料溶解液を得た。
【0079】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部の蒸留水中に、日本精密化学社製NP−KX−500型大容量無脈流ポンプを用いて内径0.8mmの吐出口から流速100cc/minで投入したところ、透明で黄色がかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の平均粒子径はTEM平均粒径34.8nm(個数平均粒径Mn=35.8nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.23であった。
【0080】
次いでこの顔料分散体に塩酸を滴下してpHを2.8に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を軟凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストを得た。
【0081】
次に、このペーストに100質量部の乳酸エチルを加え、攪拌及び超音波処理を行った。この後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストを得た。このペーストをイオン交換水で水洗し、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて再び減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストEを得た。
【0082】
次に、このペースト3質量部にオレイン酸ナトリウム0.3質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水を加え超音波処理を行い、結晶構造を有する料粒子を含有する顔料分散液Eを得た(下表1参照)。この顔料分散液Eの分散粒子の平均粒子径はTEM平均粒径34.2nm(個数平均粒径Mn=35.4nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.24であった。この顔料分散液Eを60℃で2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0083】
(実施例5)
実施例4の乳酸エチルをアセトンに変えた他は同様にして結晶構造を有する料粒子を含有する顔料分散液Fを作製した(下表1参照)。この顔料分散液Fの分散粒子の平均粒子径はTEM平均粒径28.8nm(個数平均粒径Mn=29.4nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.23であった。この顔料分散液Fを60℃で2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0084】
(実施例6)
C.I.ピグメントイエロー74を5.8質量部、分散剤としてスチレン/アクリル酸の共重合体(酸価250、分子量15000)5質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料を溶解し、赤紫色の顔料溶解液を得た。この後も28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液を少量ずつ滴下し、前記顔料溶解液に色が赤紫色になったところで滴下を終了した。その後、この赤紫色の顔料溶液を攪拌しながら、蒸留水を少量ずつ滴下し、顔料溶解液全体が赤色に変わったところで蒸留水の滴下を止めた。
【0085】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部の蒸留水中に、日本精密化学社製NP−KX−500型大容量無脈流ポンプを用いて内径0.8mmの吐出口から流速100cc/minで投入したところ、透明で黄色がかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の平均粒子径はTEM平均粒径25.2nm(個数平均粒径Mn=26.5nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.44であった。
【0086】
次いでこの顔料分散体に塩酸を滴下してpHを2.75に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を軟凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストを得た。
【0087】
次に、このペーストに100質量部の乳酸エチルを加え、攪拌及び超音波処理を行った。この後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストを得た。このペーストをイオン交換水で水洗し、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて再び減圧濾過し、顔料粒子の分散体のペーストGを得た。
【0088】
次に、このペースト水酸化カリウムを少量ずつ加え、顔料分10%になるようイオン交換水を加え超音波処理を行い、結晶構造を有する料粒子を含有する顔料分散液Gを得た(下表1参照)。この時、顔料分散液GのpHは9.5であった。この顔料分散液Gの分散粒子の平均粒子径はTEM平均粒径26.3nm(個数平均粒径Mn=27.9nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.41であった。この顔料分散液Gを60℃で1週間保存後の粒径及び目視による色味変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0089】
(比較例3)
C.I.ピグメントイエロー74を5.8質量部、ポリビニルピロリドンK25(商品名)(東京化成工業(株)社製)10質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料を溶解し、赤色の顔料溶解液を得た。
【0090】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部の蒸留水中に、日本精密化学社製NP−KX−500型大容量無脈流ポンプを用いて内径0.8mmの吐出口から流速100cc/minで投入したところ、透明で黄色味がかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の平均粒子径はTEM平均粒径36.8nm(個数平均粒径Mn=36.2nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.29であった。
【0091】
次いでこの顔料分散体に塩酸を滴下してpHを2.75に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を軟凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストを得た。
【0092】
次に、このペースト3質量部にオレイン酸ナトリウム0.3質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水を加え超音波処理を行い、結晶構造を有さない顔料粒子を含有する顔料分散液Hを得た(下表1参照)。この顔料分散液Gの分散粒子の平均粒子径はTEM平均粒径37.2nm(個数平均粒径Mn=37.9nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.28であった。この顔料分散液Hを60℃で1週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0093】
(比較例4)
C.I.ピグメントイエロー74を5.8質量部、C.I.ピグメントイエロー74を5.8質量部、分散剤としてスチレン/アクリル酸の共重合体(酸価250、分子量15000)5質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を少量ずつ加え、前記顔料を溶解し、赤紫色の顔料溶解液を得た。この後も28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液を少量ずつ滴下し、前記顔料溶解液に色が赤紫色になったところで滴下を終了した。その後、この赤紫色の顔料溶液を攪拌しながら、蒸留水を少量ずつ滴下し、顔料溶解液全体が赤色に変わったところで蒸留水の滴下を止めた。
【0094】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部の蒸留水中に、日本精密化学社製NP−KX−500型大容量無脈流ポンプを用いて内径0.8mmの吐出口から流速100cc/minで投入したところ、透明で黄色がかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の平均粒子径はTEM平均粒径38.2nm(個数平均粒径Mn=38.6nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.42であった。この分散液を内温90℃になるまで加熱し、90℃を維持したまま2時間経過した後、室温に戻した。
【0095】
次いでこの顔料分散体に塩酸を滴下してpHを2.75に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を軟凝集させた。その後、この凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体のペーストを得た。
【0096】
次に、このペースト水酸化カリウムを少量ずつ加え、顔料分10%になるようイオン交換水を加え超音波処理を行い、結晶構造を有さない顔料粒子を含有する顔料分散液Iを得た(下表1参照)。この時、顔料分散液IのpHは9.5であった。この顔料分散液Iの分散粒子の平均粒子径はTEM平均粒径39.2nm(個数平均粒径Mn=38.3nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.45であった。この顔料分散液Iを60℃で1週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0097】
(比較例5)
C.I.ピグメントイエロー74を5.8質量部、ポリビニルピロリドンK25(商品名)(東京化成工業(株)社製)10質量部をジメチルスルホキシド100質量部に室温で加え2時間攪拌し、懸濁させた。次に28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)を加え、前記顔料を溶解し、赤紫色の顔料溶解液を得た。
【0098】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している500質量部の蒸留水中に、日本精密化学社製NP−KX−500型大容量無脈流ポンプを用いて内径0.8mmの吐出口から流速100cc/minで投入したところ、透明で黄色味がかった顔料分散体が得られた。この顔料分散体の平均粒子径はTEM平均粒径35.6nm(個数平均粒径Mn=35.2nm)であり、単分散性の指標であるMv/Mnは1.28であった。この分散液を内温90℃になるまで加熱し、90℃を維持したまま2時間経過した後、室温に戻した。この顔料分散体は1週間の静置後、目視で変色が確認された。この比較例5の分散体試料は変色が観察されたためX線回折測定は行わなかった。
【0099】
<分散液の粘度測定>
実施例1で作製した顔料分散液Aの粘度を山一電機社製の振動式VM−100A−L型(商品名)により25℃にて測定した。また、同様に顔料分散液B〜Iの粘度を測定した。0.8以上3mPa・s未満のものを3、3以上10mPa・s以下のものを2、10mPa・sより高粘度のものを1として評価した。ただし、比較例2については沈降物を生じ、比較例5の分散体試料は変色が観察されたため、粘度測定は行わなかった。
【0100】
【表1】

【0101】
<インク組成物の調製>
実施例1で作製した顔料分散液A50質量部、ジエチレングリコール8.5質量部、グリセリン20質量部、オルフィンE1010(日信化学)0.8質量部、イオン交換水20.7質量部を混合してインク組成物Aを得た。
また、顔料分散液AをB〜Iに変更した以外は同様に、インク組成物B〜Iを得た。
【0102】
<耐光性の評価>
インク組成物A〜Iをインクジェットプリンター(PX−G930、エプソン(株)製)のカートリッジに詰め、インクジェットペーパー(写真用紙<光沢>エプソン(株)製)に画像を印画し評価した。
印画物を24時間自然乾燥させた後、画像濃度CiをGretag Spectrolino(商品名:Gretag社製)を用いて測定した。測定後、アトラス社製ウェザーメーターを用い、画像にキセノン光(10万ルックス)を28日間連続照射した後、再び画像濃度Cfを測定し、次式で定義する色素残存率(%)Ci/Cf*100を求め、評価した。キセノン照射前の反射濃度1の点について評価した。前記色素残存率が85%以上のものを3、70以上85%未満のものを2、70%未満のものを1として評価を行った。
【0103】
<吐出性の評価>
上記作製したインク組成物A〜Iをインクジェットプリンター(PX−G930、エプソン(株)製)のカートリッジに詰め、インクジェットペーパー(写真用紙<光沢>エプソン(株)製)にベタ画像(反射濃度が1.0)を全面に印字して、白スジの発生数を計測し、下記の基準に則り吐出性の評価を行った。
【0104】
3:印字面全体で全く未印字部である白スジが発生していない
2:僅かに白スジの発生は認められるが、実用上許容範囲にある
1:印字面全体に亘り白スジが多発し、実用上不可の品質である
評価結果を表2に示す。
【0105】
【表2】

【0106】
この結果から明らかなように、本発明の水分散体は、ナノメートルサイズの微粒子を含有するにもかかわらず、その凝集が抑制され優れた分散安定性を示す水不溶性色材粒子の分散体であることが分かる。また、上記微粒子の粒径が単分散であって、且つ高濃度にしても低粘度が維持され、さらにその粘度の上昇が抑えられた良好な水分散体であることが分かる。さらに、本発明の水分散体により、ナノメートルサイズに微細化された微粒子を含有するにもかかわらず、耐光性に優れた記録液を得ることができ、特に吐出性に優れたインクジェット用記録液が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の顔料からなる水不溶性色材の粒子を、水及び分散剤を含んだ媒体に分散させた分散体であって、前記水不溶性色材が結晶構造を有し、前記粒子の平均粒子径が5〜40nmでありかつ単分散度が1.5以下であることを特徴とする水分散体。
【請求項2】
前記水不溶性色材の結晶子径が20〜400オングストロームの結晶構造を有することを特徴とする請求項1に記載の水分散体。
【請求項3】
前記水不溶性色材が、キナクリドン系顔料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の水分散体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の分散体を用いて作製される記録液であって、前記不溶性色材を0.1質量%〜15質量%含むことを特徴とする記録液。
【請求項5】
前記記録液がインクジェット用記録液である請求項4に記載の記録液。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の記録液を媒体に付与することにより画像を記録することを特徴とする画像形成方法。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の記録液を媒体に付与し画像を記録させる手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
(1)少なくとも1種の顔料からなる水不溶性色材を、分散剤を含有するアルカリ存在下の非プロトン性水溶性有機溶剤に溶解させて溶液とする工程、(2)該溶液と水系溶媒とを混合して、水を含んだ媒体中に前記水不溶性色材の粒子を分散させた分散体とする工程、(3)該分散体から、前記水不溶性色材の粒子を含む軟凝集体を形成させ、この軟凝集体を分離もしくは濃縮する工程、(4)該軟凝集体を特定の有機溶媒でろ過洗浄する工程、及び(5)前記軟凝集体を再分散する工程を有することを特徴とする水不溶性色材を含有する水分散体の製造方法。
【請求項9】
前記分散剤が前記特定の有機溶媒に可溶もしくは分散可能である高分子化合物であることを特徴とする請求項8に記載の水分散体の製造方法。
【請求項10】
前記特定の有機溶媒がエステル系溶剤もしくはケトン系溶媒であることを特徴とする請求項8又は9に記載の水分散体の製造方法。
【請求項11】
前記エステル系溶剤が乳酸エチルであることを特徴とする請求項10に記載の水分散体の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11に記載の製造方法によって作製された水分散体を含有するインクジェット用インク。

【公開番号】特開2009−108199(P2009−108199A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282267(P2007−282267)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】