説明

水分散型性フェロモン徐放製剤

【課題】散布初期の過剰放出を制御することが可能となり、一定期間性フェロモン物質を均一な濃度で放出することができ、汎用の散布機により散布可能な水分散型性フェロモン徐放製剤を提供する。
【解決手段】シクロデキストリンの環内部に包接された昆虫の性フェロモン物質と、前記性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリンと、水溶性高分子化合物と、水とを少なくとも含有する水分散型性フェロモン徐放製剤を提供する。また、シクロデキストリンに包接させた昆虫の性フェロモン物質の水溶媒懸濁液に、該昆虫の性フェロモン物質を包接させていない未包接のシクロデキストリンと水溶性高分子化合物を混合することを少なくとも含む水分散型性フェロモン徐放製剤の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散型の性フェロモン徐放製剤に関する。より詳しくは、汎用の散布機により散布可能であり、散布後に性フェロモン物質を一定期間継続して放出する水分散型の性フェロモン徐放製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業または林業における有害昆虫の防除方法として、有害昆虫のフェロモンを用いた方法が注目されている。この内、最も効果が高く、市場へ最も普及している方法が、性フェロモン物質を用いた交信撹乱法である。性フェロモンは昆虫より分泌され、交尾時に雌雄間の交信や感知に用いられる。交信撹乱法は、この性フェロモン物質を農業圃場や森林に微量放散させることで、雌雄間の交信、感知を撹乱、妨害し交尾数を低減することで有害昆虫の増殖、個体数を制御する方法である。
【0003】
この交信撹乱法では、農業圃場、森林に性フェロモン物質を放出する性フェロモン徐放製剤を配置することが必要である。現在知られている一般的な性フェロモン徐放製剤は、人力により作物上や杭、支柱などの構造物に1ヘクタール当たり数百個から千個設置する必要があり、大面積の圃場や広大な森林への設置は実質困難である。このため、飛行機、へリコプター、トラクター、スピードスプレーヤーなどから散布機により散布可能な性フェロモン徐放製剤が求められている。
【0004】
これまでに開発された散布型性フェロモン徐放製剤としては、不飽和カルボン酸エステルと重合性単量体とを乳化共重合して得た合成樹脂エマルジョンを用いた徐放製剤(特許文献1)、性フェロモン物質を含浸させたエチレン−酢酸ビニル共重合体の粉体を水中油型(O/W型)アクリル系エマルジョンと混合した徐放製剤(特許文献2)、性フェロモン物質存在下、一官能性(メタ)アクリル酸エステルと多官能性(メタ)アクリル酸エステルを乳化重合させたエマルジョンによる徐放製剤(特許文献3、4、5)などが報告されている。
しかしながら、散布型製剤は使用後に回収が不可能であり、上記これまでの散布型製剤は合成高分子を徐放化の基材としているため、環境中の微生物等により分解されずに残存し、自然界へ負荷を与えることが大きな問題となる。
【0005】
一方、デンプンから酵素反応により合成される環状オリゴ糖であるシクロデキストリンが、水中で疎水性のシクロデキストリン環内部に、有機化合物を包接することが知られている。工業的に製造されている天然型シクロデキストリンには、グルコース環6個、7個、8個が環状に結合した、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンがあり、これらの天然型シクロデキストリンは、無毒で生分解性を有することが知られている。
これまでに昆虫の性フェロモン物質を包接したシクロデキストリン粉体を、そのままプラスチック製瓶やプラスチック製袋に封入した徐放製剤が報告されている(特許文献6、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−252403号公報
【特許文献2】特開平7−231743号公報
【特許文献3】特開2001−158843号公報
【特許文献4】特開2004−331625号公報
【特許文献5】特開2006−35210号公報
【特許文献6】米国特許第5,650,160号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Crop protection 28(2009)181−189)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、昆虫の性フェロモン物質を包接したシクロデキストリン粉体を水中に分散した散布製剤は、散布後初期の放出が著しく早く、性フェロモン物質含有量の約半量が散布直後に放出される問題点が確認された。このため有効な放出期間が極めて短く実用化は困難であった。
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、従来の技術の問題点を解決し、散布初期の過剰放出を制御することが可能となり、一定期間性フェロモン物質を均一な濃度で放出することができ、汎用の散布機により散布可能な水分散型性フェロモン徐放製剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、水溶媒中にシクロデキストリンの環内部に包接された昆虫の性フェロモン物質、前記性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリン、及び水溶性高分子を少なくとも含有させることで、散布初期の過剰放出を制御することが可能となり、有効放出期間が延長し、一定期間性フェロモン物質を均一な濃度で放出する事を見出し、本発明を完成するに至ったものである。
本発明は、シクロデキストリンの環内部に包接された昆虫の性フェロモン物質と、前記性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリンと、水溶性高分子化合物と、水とを少なくとも含有する水分散型性フェロモン徐放製剤を提供する。また、シクロデキストリンに包接させた昆虫の性フェロモン物質の水溶媒懸濁液に、該昆虫の性フェロモン物質を包接させていない未包接のシクロデキストリンと水溶性高分子化合物を混合することを少なくとも含む水分散型性フェロモン徐放製剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一定期間性フェロモン物質を均一な濃度で放出でき、汎用の散布機により散布可能な水分散型性フェロモン徐放製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1〜3及び比較例1〜2における経過日数と性フェロモン物質の残存率との関係を示す。
【図2】実施例4〜6及び比較例1及び3における経過日数と性フェロモン物質の残存率との関係を示す。
【図3】実施例7〜9及び比較例4〜5における経過日数と性フェロモン物質の残存率との関係を示す。
【図4】実施例11及び比較例6におけるフェロモントラップへの誘引数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について更に詳しく説明する。
本発明において用いられる、昆虫の性フェロモン物質は、官能基の炭素数を含む全炭素数4〜23のアセテート、エステル、アルデヒド、アルコール、ケトン、エポキシド、炭化水素等からなる昆虫の性フェロモン物質が挙げられる。
官能基の炭素数を含む全炭素数4〜23のアセテートである昆虫の性フェロモン物質の具体例としては、ピンクボールワーム(ワタアカミムシ)の性フェロモン物質であるZ,Z−7,11−ヘキサデカジエニルアセテート及びZ,E−7,11−ヘキサデカジエニルアセテート、オリエンタルフルーツモス(ナシヒメシンクイガ)の性フェロモン物質であるZ−8−ドデセニルアセテート、ピーチツイッグボーラー(モモキバガ)の性フェロモン物質であるE−5−デセニルアセテート、グレープベリーモス(ホソヒメハマキ)の性フェロモン物質であるZ−9−ドデセニルアセテート、ヨーロピアングレープヴァインモス(ブドウホソハマキ)の性フェロモン物質であるE,Z−7,9−ドデカジエニルアセテート、ライトブラウンアップルモス(リンゴウスチャイロハマキ)の性フェロモン物質であるE−11−テトラデセニルアセテート、リーフローラー(ハマキガ)の性フェロモン物質であるZ−11−テトラデセニルアセテート、ソイビーンポッドボーラー(マメシンクイガ)の性フェロモン物質であるE,E−8,10−ドデカジエニルアセテート、コモンカットワーム(ハスモンヨトウ)の性フェロモン物質であるZ,E−9,11−テトラデカジエニルアセテート及びZ,E−9,12−テトラデカジエニルアセテート、フォールアーミーアームの性フェロモン物質であるZ−9−テトラデセニルアセテート、トマトピンワームの性フェロモン物質であるE−4−トリデセニルアセテート、パインプロセッショナリーモスの性フェロモン物質であるZ−13−ヘキサデセン−11−イニルアセテート、シュガーケインワイヤーワーム(オキナワカンシャクシコメツキ)の性フェロモン物質であるn−ドデシルアセテート等が挙げられる。
官能基の炭素数を含む全炭素数4〜23のエステルである昆虫の性フェロモン物質の具体例としては、イエローウィッシュエロンゲイトチェイファー(ナガチャコガネ)の性フェロモン物質であるZ−7,15−ヘキサデカジエン−4−オリド、シュガーケインワイヤーワーム(サキシマカンシャクシコメツキ)の性フェロモン物質であるE−9,11−ドデカジエニルブチレート及びE−9,11−ドデカジエニルヘキサネート、カプレアスチェイファー(ドウガネブイブイ)の性フェロモン物質である(R)−Z−5−(オクト−1−エニル)−オキサシクロペンタン−2−オン、ライスリーフバグ(アカヒゲヒソミドリカスミカメ)の性フェロモン物質であるヘキシルヘキサノエート、E−2−ヘキセニルヘキサノエート及びオクチルブチレート、バインミリーバグ(ブドウコナカイガラムシ)の性フェロモン物質であるS−5−メチル−2−(1−プロペン−2−イル)−4−ヘキセニル3−メチル−2−ブテノエート、ジャーマンコックローチ(チャバネゴキブリ)の性フェロモン物質であるジェンティシルキノンイソバレレート等が挙げられる。
官能基の炭素数を含む全炭素数4〜23のアルデヒドである昆虫の性フェロモン物質の具体例としては、アメリカンボールワーム(オオタバコガ)の性フェロモン物質であるZ−11−ヘキサデセナール、オリエンタルタバコバッドワーム(タバコガ)の性フェロモン物質であるZ−9−ヘキサデセナール、ライスステムボーラー(ニカメイガ)の性フェロモン物質であるZ−11−ヘキサデセナール及びZ−13−オクタデセナール等が挙げられる。
官能基の炭素数を含む全炭素数4〜23のアルコールである昆虫の性フェロモン物質の具体例としては、コドリングモス(コドリンガ)の性フェロモン物質であるE,E−8,10−ドデカジエノール、ケブカアカチャコガネの性フェロモン物質である2−ブタノール等が挙げられる。
官能基の炭素数を含む全炭素数4〜23のケトンである昆虫の性フェロモン物質の具体例としては、ピーチフルーツモス(モモシンクイガ)の性フェロモン物質であるZ−7−イコセン−11−オン等が挙げられる。
官能基の炭素数を含む全炭素数4〜23のエポキシドである昆虫の性フェロモン物質の具体例としては、ジプシーモス(マイマイガ)の性フェロモン物質である7,8−エポキシ−2−メチルオクタデカンが挙げられる。
官能基の炭素数を含む全炭素数4〜23の炭化水素である昆虫の性フェロモン物質の具体例としては、コーヒーリーフマイナーの性フェロモン物質である5,9−ジメチルペンタデカン及び5,9−ジメチルヘキサデカン、ピーチリーフマイナー(モモハモグリガ)の性フェロモン物質である14−メチル−1−オクタデセン、ハウスフライ(イエバエ)の性フェロモン物質であるZ−9−トリコセン等が挙げられる。
官能基の炭素数を含む全炭素数4〜23の異なる官能基を有する複数の化合物の組合せである昆虫の性フェロモン物質の具体例としては、ダイアモンドバックモス(コナガ)の性フェロモン物質であるZ−11−ヘキサデセニルアセテート及びZ−11−ヘキサデセナール、キャベッジアーミーワーム(ヨトウガ)の性フェロモン物質であるZ−11−ヘキサデセニルアセテート、Z−11−ヘキサデセノール及びn−ヘキサデシルアセテート、ビートアーミーワーム(シロイチモジヨトウ)の性フェロモン物質であるZ、E−9,12−テトラデカジエニルアセテート及びZ−9−テトラデセノール、ソルガムプラントバグ(アカスジカスミカメ)の性フェロモン物質であるヘキシルブチレート、E−2−ヘキセニルブチレート及びE−4−オキソ−2−ヘキセナール、ホワイトピーチスケール(クワシロカイガラムシ)の性フェロモン物質である6R−Z−3,9−ジメチル−6−イソプロペニル−3,9−デカジエニルプロピオネート及び6R−Z−3,9−ジメチル−6−イソプロペニル−3,9−デカジエノール等が挙げられる。
【0013】
昆虫の性フェロモン物質の使用量は、圃場単位面積当たりに必要な昆虫の性フェロモン物質の質量及び圃場単位面積当たりの散布液量の点から、好ましくは0.001〜5.0質量%、より好ましくは0.01〜3.0質量%の昆虫の性フェロモン物質を含有する水分散型性フェロモン徐放製剤を、10アールの圃場当たり、好ましくは5〜500L、より好ましくは50〜200L散布する。水分散型性フェロモン徐放製剤中の昆虫の性フェロモン物質の含有量が0.001質量%未満では、圃場単位面積当たりの散布液量が過大となる場合があり、5.0質量%を超えると、圃場単位面積当たりの散布液量が少なく特殊な散布機が必要となる場合がある。
【0014】
本発明の水分散型性フェロモン徐放製剤には、環内部に昆虫の性フェロモン物質を包接するシクロデキストリンと、性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリンが併存する。昆虫の性フェロモン物質を包接するシクロデキストリンと、未包接のシクロデキストリンは、同一種類のシクロデキストリンであっても、異なる種類のシクロデキストリンであってもよい。
昆虫の性フェロモン物質を包接するシクロデキストリンは、例えばα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンが挙げられる。上記3種類のシクロデキルトリンは包接化する性フェロモン物質の構造及び分子の大きさ等により、任意に選択することが出来る。また、これらシクロデキストリンは単独でも2種類以上を併用しても良い。市販品としては、例えばα−シクロデキストリンとしてCAVAMAX W6(ワッカーケミー社製)、β−シクロデキストリンとしてCAVAMAX W7(ワッカーケミー社製)、γ−シクロデキストリンとしてCAVAMAX W8(ワッカーケミー社製)等が挙げられる。
【0015】
昆虫の性フェロモン物質を包接するシクロデキストリンの使用量としては、最も安定な包接形態により選択される。例えば、性フェロモン物質とシクロデキストリンの包接化学量論比が1:1のときに安定な包接形態をとる場合、性フェロモン物質1モルに対して、好ましくは1.0〜1.1モル、より好ましくは1.0〜1.03モルである。また、性フェロモン物質とシクロデキストリンの包接化学量論比が1:2のときに安定な包接形態をとる場合、性フェロモン物質1モルに対して、好ましくは2.0〜2.2モル、より好ましくは2.0〜2.06モルである。
安定な包接形態となる性フェロモン物質とシクロデキストリンの包接化学量論比は、使用する性フェロモン物質に含まれる性フェロモン化合物の種類とシクロデキストリンの種類に依存するが、ナノマテリアルシクロデキストリン シクロデキストリン学会編 米田出版 第V編 4.安定度定数の決定法 に記載された連続変化法等により特定することができる。包接化学量論比が1:1のときに安定な包接形態をとる具体例としては、Z−8−ドデセニルアセテート、E,E−8,10−ドデカジエニルアセテート、E,Z−7,9−ドデカジエニルアセテート、Z−11−へキサデセナール、Z−9−ヘキサデセナール、E,E−8,10−ドデカジエノール等の性フェロモン化合物と、α―シクロデキストリンまたは、β―シクロデキストリンの組み合わせ、Z−9−ヘキサデセナール、E,E−8,10−ドデカジエノール等と、γ−シクロデキストリンの組み合わせが挙げられる。包接化学量論比が1:2のときに安定な包接形態をとる具体例としては、Z−8−ドデセニルアセテート、E,E−8,10−ドデカジエニルアセテート、E,Z−7,9−ドデカジエニルアセテート、Z−11−へキサデセナール等の性フェロモン化合物と、γ−シクロデキストリンの組み合わせが挙げられる。
また、性フェロモン物質とシクロデキストリンの包接体は非常に安定であり、上記包接化学量論比を用いて包接化を行った場合、ほぼ定量的に包接化学量論比の包接体を単離することが出来る。
【0016】
昆虫の性フェロモン物質をシクロデキストリンにより包接する際の溶媒として水を用いる。水の使用量は特に限定されないが、α−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンに関しては、水溶解性の点からシクロデキストリン1モルに対して、好ましくは500g〜15000g、より好ましくは8000g〜15000gである。また、β−シクロデキストリンに関しては、シクロデキストリンの水溶解性が比較的低い点から、シクロデキストリン1モルに対して、好ましくは3000g〜15000g、より好ましくは7000g〜15000gである。
なお、水は、水溶性高分子や昆虫の性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリンの溶解に使用することもでき、最終的に水分散型性フェロモン徐放製剤に含まれる好ましい水の含有量は、水分散型性フェロモン徐放製剤中のフェロモン物質の含有量、水溶性高分子の水溶解度及び水分散型性フェロモン徐放製剤としての液粘度を考慮すると、昆虫の性フェロモン物質に対して、好ましくは2000〜25000000gである。
【0017】
本発明におけるシクロデキストリンに包接された昆虫の性フェロモン物質の製造方法は、既に公知の方法又は幾つか公知方法を組み合わせた方法等が使用できる。例えば、水溶媒中にシクロデキストリンを溶解し、昆虫の性フェロモン物質を添加後、撹拌し、シクロデキストリンに包接された昆虫の性フェロモン物質の懸濁液を製造する方法、上記懸濁液を濾過しシクロデキストリンに包接された昆虫の性フェロモン物質を固体として得る方法、上記懸濁液を凍結乾燥しシクロデキストリンに包接された昆虫の性フェロモン物質を固体として得る方法等が挙げられる。上記により得られたシクロデキストリンにより包接された性フェロモン物質は、そのまま水溶媒懸濁液として用いても良く、濾過又は凍結乾燥などにより水溶媒を除去し、シクロデキストリンに包接された昆虫の性フェロモン物質を固体として得た後に、再度水溶媒に分散させ懸濁液としても良い。
【0018】
なお、昆虫の性フェロモン物質をシクロデキストリンにより包接する際の温度としては、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンに関して、好ましくは30〜95℃、より好ましくは60〜80℃である。また、γ−シクロデキストリンに関して、好ましくは5〜95℃、より好ましくは25〜30℃である。
【0019】
性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリンとしては、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンが挙げられる。上記3種類の未包接のシクロデキストリンは、昆虫の性フェロモン物質を包接するシクロデキストリンと同一もしくは異なる物が使用できる。また、これらシクロデキストリンは単独でも2種類以上を併用しても良い。
【0020】
昆虫の性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリンの含有量は、シクロデキストリンの環内部に包接された昆虫の性フェロモン物質に対して、好ましくは0.1〜1.5当量、より好ましくは0.5〜1.0当量である。この未包接のシクロデキストリンの好ましい含有量は、昆虫の性フェロモン物質を包接するシクロデキストリンの調製時に使用されたが、包接されなかったシクロデキストリンの量を含む。未包接のシクロデキストリンの含有量が0.1当量未満では、性フェロモン物質の放出制御効果が確認できない場合があり、1.5当量を超えると性フェロモン物質が放出終盤に水分散型徐放製剤内に残存し有効放出期間が短くなる場合がある。
水分散型性フェロモン徐放製剤中の昆虫の性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリンの含有量と、昆虫の性フェロモン物質を包接するシクロデキストリンの含有量は、好ましくはH−NMRにおける化学シフト変化、二次元NMRにおける核オーバーバウザー効果及びパルス磁場勾配NMRを用いた自己拡散係数の測定等を用いて評価することができる。
【0021】
性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリンは、シクロデキストリンにより包接された性フェロモン物質を含む水溶媒懸濁液を調製後に添加することが好ましい。性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリン添加後、撹拌機又はホモジナイザーにより均一に分散される。また、性フェロモン物質を包接するシクロデキストリンと性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリンとが同一の場合、性フェロモン物質をシクロデキストリンに包接する際に、予め過剰のシクロデキストリンを添加することも出来る。
【0022】
次に、本発明の水溶性高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アミド、カルボキシビニルポリマー、アラビアガム、カラギーナン、グアガム、ローカストビーンガム、ペクチン、トラガント、デンプン等の多糖類系天然高分子、プルラン、キサンタンガム、デキストリン等の微生物多糖類系天然高分子、ゼラチン、カゼイン、コンドロイチン酸ナトリウム等の動物系タンパク質、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、酸化デンプン、変性デンプン、リン酸化デンプン等のデンプン誘導体等が挙げられる。生分解性を有する点、重合度及び鹸化度等により耐水性及び粘度を細かく制御可能な点から、特にポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールとしては、例えばJポバールJM−17(平均重合度1700、鹸化度96.9モル%:日本酢ビ・ポバール社製)、JポバールJM−26(平均重合度2600、鹸化度96.0モル%:日本酢ビ・ポバール社製)等が挙げられる。
【0023】
上記ポリビニルアルコールの鹸化度としては、耐水性の点及び高分子中への性フェロモン物質残存量を低減する点から好ましくは90.0〜99.0モル%、より好ましくは95.0〜98.0モル%である。ポリビニルアルコールの鹸化度が、90.0モル%未満では耐水性が低いために水分散型性フェロモン徐放製剤散布後に降雨などにより流出するおそれがある。また、鹸化度が99.0モル%を超えると、性フェロモン物質が放出終盤に水分散型徐放製剤内に残存し有効放出期間が短くなる場合があり、また、水分散型徐放製剤として液粘性が上がるため、汎用の散布機で散布不可能となる場合がある。ポリビニルアルコールの鹸化度は、JIS K 6726のポリビニルアルコール試験方法に基づき測定できる。
【0024】
上記水溶性高分子化合物の平均重合度としては、耐水性の点及び放出終盤の高分子中への性フェロモン物質残存量を低減する点から、好ましくは500〜5000、より好ましくは1500〜3000である。水溶性高分子化合物の平均重合度が500未満では、耐水性が低いために水分散型性フェロモン徐放製剤散布後に降雨などにより流出する場合がある。また、平均重合度が5000を超えると、性フェロモン物質が放出終盤に水分散型徐放製剤内に残存するため有効放出期間が短くなる場合がある。ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K 6726のポリビニルアルコール試験方法に基づき測定できる。
【0025】
水溶性高分子化合物の含有量は、耐水性の点及び溶液粘度の点から水分散型性フェロモン徐放製剤中に、好ましくは0.01〜20.0質量%、より好ましくは0.05〜10.0質量%である。水溶性高分子化合物の含有量が0.01質量%未満では、耐水性が低いために水分散型性フェロモン徐放製剤散布後に降雨などにより流出する場合がある。また、水溶性高分子化合物の含有量が20.0重量%を超えると、性フェロモン物質が放出終盤に水分散型徐放製剤内に残存し有効放出期間が短くなる場合があり、また、水分散型徐放製剤として液粘性が上がるため、汎用の散布機で散布不可能となる場合がある。
【0026】
ポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物は、上記シクロデキストリンにより包接された性フェロモン物質と性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリンの水溶媒分散液を調製後、予め熱水により溶解したポリビニルアルコール等の高分子水溶液を所定量添加することが、水溶性高分子の溶解性及び水分散型徐放製剤としての分散性、均一性の点から好ましい。
したがって、水分散型性フェロモン徐放製剤のより好ましい製造方法は、シクロデキストリンに包接させた昆虫の性フェロモン物質の水溶媒懸濁液に、該昆虫の性フェロモン物質を包接させていない未包接のシクロデキストリンと水溶性高分子化合物を混合することを少なくとも含む。
【0027】
昆虫の性フェロモン物質を包接したシクロデキストリン粉体を水中に分散した徐放製剤では、散布後初期の放出が著しく早く、性フェロモン物質含有量の約半量が散布直後に放出されるが、本発明の徐放製剤では、散布後初期の過剰放出を制御でき、一定期間に均一な濃度で放出を可能とする。これは、以下の理由に基づく。すなわち、シクロデキストリンによる有機化合物の包接体は、微量の水分の存在下で、水分子との平衡反応により有機化合物を徐々に解離して徐放化性能を示す。そして、徐放製剤中に昆虫の性フェロモン物質を包接したシクロデキストリン包接体と共存する未包接シクロデキストリンが、散布初期に包接体から過剰解離された昆虫の性フェロモン物質を再包接するためと考えられる。また、水溶性高分子の存在により、昆虫の性フェロモン物質を包接したシクロデキストリン包接体と未包接シクロデキストリンが均一に包含され、シクロデキストリンからの性フェロモン物質の解離を促進させる水分の供給を調節するためと考えられる。さらに、水溶性高分子は昆虫の性フェロモン物質を透過しないことから徐放製剤からの昆虫の性フェロモン物質の放出表面積の制御が可能となるためと考えられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、以下の記載において、各成分の「質量部」は、合計すると100質量部の水分散型性フェロモン徐放製剤を与える量であり、換言すれば、得られる水分散型性フェロモン徐放製剤100質量部に対する各成分の相対的使用量である。
実施例1
温度計及び撹拌機としてホモジナイザーを装着したガラス製反応器に、イオン交換水(50.0質量部)、β―シクロデキストリン(5.1質量部、ワッカーケミー社製CAVAMAX W7)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて撹拌しながら70℃まで昇温した。β―シクロデキストリンの溶解後、マメシンクイガの性フェロモン成分であるE,E−8,10−ドデカジエニルアセテート(1.0質量部)を添加し、70℃にて1時間、その後25℃まで冷却、2時間撹拌し、E,E−8,10−ドデカジエニルアセテートを包接したβ―シクロデキストリンの分散液を調製した。
上記分散液に、25℃にて固体の未包接のβ―シクロデキストリン(5.1質量部、ワッカーケミー社製CAVAMAX W7)及びイオン交換水(33.8質量部)に溶解したポリビニルアルコール(5.0重量部、重合度1700、鹸化度96.9モル%、日本酢ビ・ポバール社製JポバールJM−17)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表1に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、濾紙(70φ、JIS P3801 2種、アドバンテック社製)上に、200μL(20μLx10滴)滴下塗布し、恒温恒湿器(温度25℃、湿度55%、風速0.44m/s)内に放置し、経過日数ごとの性フェロモン物質E,E−8,10−ドデカジエニルアセテートの残存率を定量した。この結果を、表2及び図1に示す。
<β―シクロデキストリンの包接量の確認>
上記と全く同様に、β―シクロデキストリン水溶液からE,E−8,10−ドデカジエニルアセテートを包接したβ―シクロデキストリンの分散液を調製した。この分散液中に結晶として析出したE,E−8,10−ドデカジエニルアセテートを包接したβ―シクロデキストリンを濾過、イオン交換水(30.0g)により2回洗浄して未包接のβ―シクロデキストリンを除去し、減圧乾燥後、H−NMRにより包接化学量論比及び収率を測定した。E,E−8,10−ドデカジエニルアセテートとβ―シクロデキストリンの包接化学量論比1.04:1.00、収率97.9%で、E,E−8,10−ドデカジエニルアセテートを包接したβ―シクロデキストリンの結晶(5.93g)が得られた。
【0029】
実施例2
実施例1と同様に調製したE,E−8,10−ドデカジエニルアセテートを包接したβ―シクロデキストリンの分散液に、25℃にて固体の未包接のβ―シクロデキストリン(3.8質量部、ワッカーケミー社製CAVAMAX W7)及びイオン交換水(35.1質量部)に溶解したポリビニルアルコール(5.0質量部、重合度1700、鹸化度96.9モル%、日本酢ビ・ポバール社製JポバールJM−17)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表1に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、実施例1と同様にして経過日数ごとの性フェロモン物質E,E−8,10−ドデカジエニルアセテートの残存率を定量した。この結果を、表2及び図1に示す。
【0030】
実施例3
実施例1と同様に調製したE,E−8,10−ドデカジエニルアセテートを包接したβ―シクロデキストリンの分散液に、25℃にて固体の未包接のβ―シクロデキストリン(2.5質量部、ワッカーケミー社製CAVAMAX W7)及びイオン交換水(36.4質量部)に溶解したポリビニルアルコール(5.0質量部、重合度1700、鹸化度96.9モル%、日本酢ビ・ポバール社製JポバールJM−17)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表1に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、実施例1と同様にして経過日数ごとの性フェロモン物質E,E−8,10−ドデカジエニルアセテートの残存率を定量した。この結果を、表2及び図1に示す。
【0031】
実施例4
実施例1と同様に調製したE,E−8,10−ドデカジエニルアセテートを包接したβ―シクロデキストリンの分散液に、25℃にて固体の未包接のβ―シクロデキストリン(5.1質量部、ワッカーケミー社製CAVAMAX W7)及びイオン交換水(35.8質量部)に溶解したポリビニルアルコール(3.0質量部、重合度1700、鹸化度96.9モル%、日本酢ビ・ポバール社製JポバールJM−17)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表1に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、実施例1と同様にして経過日数ごとの性フェロモン物質E,E−8,10−ドデカジエニルアセテートの残存率を定量した。この結果を、表2及び図2に示す。
【0032】
実施例5
実施例1と同様に調製したE,E−8,10−ドデカジエニルアセテートを包接したβ―シクロデキストリンの分散液に、25℃にて固体の未包接のβ―シクロデキストリン(3.8質量部、ワッカーケミー社製CAVAMAX W7)及びイオン交換水(37.1質量部)に溶解したポリビニルアルコール(3.0質量部、重合度1700、鹸化度96.9モル%、日本酢ビ・ポバール社製JポバールJM−17)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表1に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、実施例1と同様にして経過日数ごとの性フェロモン物質E,E−8,10−ドデカジエニルアセテートの残存率を定量した。この結果を、表2及び図2に示す。
【0033】
実施例6
実施例1と同様に調製したE,E−8,10−ドデカジエニルアセテートを包接したβ―シクロデキストリンの分散液に、25℃にて固体の未包接のβ―シクロデキストリン(2.5質量部、ワッカーケミー社製CAVAMAX W7)及びイオン交換水(38.4質量部)に溶解したポリビニルアルコール(3.0質量部、重合度1700、鹸化度96.9モル%、日本酢ビ・ポバール社製JポバールJM−17)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表1に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、実施例1と同様にして経過日数ごとの性フェロモン物質E,E−8,10−ドデカジエニルアセテートの残存率を定量した。この結果を、表2及び図2に示す。
【0034】
比較例1
実施例1と同様に調製したE,E−8,10−ドデカジエニルアセテートを包接したβ―シクロデキストリンの分散液に、イオン交換水(43.9質量部)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表1に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、実施例1と同様にして経過日数ごとの性フェロモン物質E,E−8,10−ドデカジエニルアセテートの残存率を定量した。この結果を、表2及び図1〜2に示す。
【0035】
比較例2
実施例1と同様に調製したE,E−8,10−ドデカジエニルアセテートを包接したβ―シクロデキストリンの分散液に、25℃にてイオン交換水(38.9質量部)に溶解したポリビニルアルコール(5.0質量部、重合度1700、鹸化度96.9モル%、日本酢ビ・ポバール社製JポバールJM−17)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表1に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、実施例1と同様にして経過日数ごとの性フェロモン物質E,E−8,10−ドデカジエニルアセテートの残存率を定量した。この結果を、表2及び図1に示す。
【0036】
比較例3
実施例1と同様に調製したE,E−8,10−ドデカジエニルアセテートを包接したβ―シクロデキストリンの分散液に、25℃にてイオン交換水(40.9質量部)に溶解したポリビニルアルコール(3.0質量部、重合度1700、鹸化度96.9モル%、日本酢ビ・ポバール社製JポバールJM−17)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表1に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、実施例1と同様にして経過日数ごとの性フェロモン物質E,E−8,10−ドデカジエニルアセテートの残存率を定量した。この結果を、表2及び図2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
実施例1〜6及び比較例1〜3の結果から、水分散型性フェロモン徐放製剤からのフェロモン物質の放出挙動を考察することができる。
これらの結果に示される通り、実施例1〜6において比較例1〜3に比べ、初期の放出が制御され、且つ放出量の均一性も向上し、結果として有効放出期間も延長する事が出来る結果であった。
また、比較例1は、初期放出が速いため有効放出期間が短く、比較例2及び3においても初期放出が速く、且つ放出後半に放出量の低下が見られ、結果有効放出期間が短い結果となった。
【0040】
実施例7
温度計及び撹拌機としてホモジナイザーを装着したガラス製反応器に、イオン交換水(50.0質量部)、γ―シクロデキストリン(5.4質量部、ワッカーケミー社製CAVAMAX W8)を添加し、25℃にて、ホモジナイザー(5000rpm)を用い撹拌した。γ―シクロデキストリンの溶解後、タバコガの性フェロモン成分であるZ−9−ヘキサデセナール(1.0質量部)を添加し、25℃にて、3時間撹拌し、Z−9−ヘキサデセナールを包接したγ―シクロデキストリンの分散液を調製した。
上記分散液に、25℃にて固体の未包接のγ―シクロデキストリン(5.4質量部、ワッカーケミー社製CAVAMAX W8)及びイオン交換水(33.2質量部)に溶解したポリビニルアルコール(5.0質量部、重合度1700、鹸化度96.9モル%、日本酢ビ・ポバール社製JポバールJM−17)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表3に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、濾紙(70φ、JIS P3801 2種、アドバンテック社製)上に、200μL(20μLx10滴)滴下塗布し、恒温恒湿器(温度25℃、湿度55%、風速0.44m/s)内に放置し、経過日数ごとの性フェロモン物質Z−9−ヘキサデセナールの残存率を定量した。この結果を表4、図3に示す。
<γ―シクロデキストリンの包接量の確認>
上記と全く同様に、γ―シクロデキストリン水溶液からZ−9−ヘキサデセナールを包接したγ―シクロデキストリンの分散液を調製した。この分散液中に結晶として析出したZ−9−ヘキサデセナールを包接したγ―シクロデキストリンを濾過、イオン交換水(30.0g)により2回洗浄して未包接のγ―シクロデキストリンを除去し、減圧乾燥後、H−NMRにより包接化学量論比及び収率を測定した。Z−9−ヘキサデセナールとγ―シクロデキストリンの包接化学量論比1.08:1.00、収率98.4%で、Z−9−ヘキサデセナールを包接したγ―シクロデキストリンの結晶(6.34g)が得られる。
【0041】
実施例8
実施例7と同様に調製したZ−9−ヘキサデセナールを包接したγ―シクロデキストリンの分散液に、25℃にて固体の未包接のγ―シクロデキストリン(4.1質量部、ワッカーケミー社製CAVAMAX W8)及びイオン交換水(34.5質量部)に溶解したポリビニルアルコール(5.0重量部、重合度1700、鹸化度96.9モル%、日本酢ビ・ポバール社製 JポバールJM−17)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表3に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、実施例7と同様にして経過日数ごとの性フェロモン物質Z−9−ヘキサデセナールの残存率を定量した。この結果を表4、図3に示す。
【0042】
実施例9
実施例7と同様に調製したZ−9−ヘキサデセナールを包接したγ―シクロデキストリンの分散液に、25℃にて固体の未包接のγ―シクロデキストリン(2.7質量部、ワッカーケミー社製CAVAMAX W8)及びイオン交換水(35.6質量部)に溶解したポリビニルアルコール(5.0重量部、重合度1700、鹸化度96.9モル%、日本酢ビ・ポバール社製JポバールJM−17)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表3に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、実施例7と同様にして経過日数ごとの性フェロモン物質Z−9−ヘキサデセナールの残存率を定量した。この結果を表4、図3に示す。
【0043】
比較例4
実施例7と同様に調製したZ−9−ヘキサデセナールを包接したγ―シクロデキストリンの分散液に、イオン交換水(43.6質量部)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型性フェロモン徐放製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表3に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、実施例7と同様にして経過日数ごとの性フェロモン物質Z−9−ヘキサデセナールの残存率を定量した。この結果を表4、図3に示す。
【0044】
比較例5
実施例7と同様に調製したZ−9−ヘキサデセナールを包接したγ―シクロデキストリンの分散液に、25℃にてイオン交換水(38.6質量部)に溶解したポリビニルアルコール(5.0質量部、重合度1700、鹸化度96.9モル%、日本酢ビ・ポバール社製JポバールJM−17)を添加し、ホモジナイザー(5000rpm)にて25℃、1時間撹拌して水分散型徐放性フェロモン製剤を得た。得られた水分散型性フェロモン徐放製剤の組成を表3に示す。
得られた各水分散型性フェロモン徐放製剤は、実施例7と同様にして経過日数ごとの性フェロモン物質Z−9−ヘキサデセナールの残存率を定量した。この結果を表4、図3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
実施例7〜9及び比較例4〜5の結果から、水分散型性フェロモン徐放製剤からのフェロモン物質の放出挙動を考察することができる。
これらの結果に示される通り、実施例9〜11において比較例4〜5に比べ、初期の放出が制御され、且つ放出量の均一性も向上し、結果として有効放出期間も延長する事が出来る結果であった。
また、比較例4は、初期放出が速いため有効放出期間が短く、比較例5においても初期放出が速く、且つ放出後半に放出量の低下が見られ、結果有効放出期間が短い結果となった。
【0048】
<実圃場における交信撹乱試験>
実施例10
実施例1に記載された水分散型性フェロモン徐放製剤を用い、大豆圃場(520m、40m×13m、品種:エンレイ、畝幅75cm、株間18cm)において交信撹乱の効果試験を行った。大豆圃場は2区画に等区分し(A区及びB区260m2、20m×13m)、A区を処理区(実施例10)として水分散型性フェロモン徐放製剤(500.0g、マメシンクイガの性フェロモン成分であるE,E−8,10−ドデカジエニルアセテート含有量1.0質量%、5.0g)を9月2日に加圧型散布器で散布を行った。また、処理区に雄成虫を誘引するフェロモントラップを設置し、散布後の雄成虫誘引数を確認し、交信撹乱率を求めた。
フェロモントラップは雌成虫の放出する性フェロモンが担持されており、雄成虫が誘引されて設置中の害虫の発生状況を把握できる。また、性フェロモン徐放製剤を設置もしくは散布した圃場では、処理していない圃場に比べ誘引数が低下することから交信撹乱の効果を把握する方法として用いられる。交信撹乱の効果を示す値として以下に示す交信撹乱率が挙げられる。
交信撹乱率(%)=100−(処理区におけるフェロモントラップ誘引数/無処理区におけるフェロモントラップ誘引数)×100
処理区におけるフェロモントラップ誘引数と交信撹乱率を表5及び図4に示す。
【0049】
比較例6
実施例10に示した大豆圃場のもう一つの区画B区を無処理区として水分散型性フェロモン徐放製剤の散布を行わずに、8月20日よりフェロモントラップを設置しマメシンクイガ発生のモニタリングを行い、実施例12と同様に誘引数を確認し、交信撹乱率を求めた。無処理区におけるフェロモントラップ誘引数と交信撹乱率を表5及び図4に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
処理区(実施例10)において、水分散型性フェロモン徐放製剤散布後、フェロモントラップへの誘引数は9月2日〜9月25日の期間を通じて1頭のみと極めて低く、無処理区(比較例6)においては、同期間内で203頭の雄成虫が誘引された。また、水分散型性フェロモン徐放製剤散布後の交信撹乱率は99.5%と極めて高い交信撹乱効果が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンの環内部に包接された昆虫の性フェロモン物質と、
前記性フェロモン物質を包接しない未包接のシクロデキストリンと、
水溶性高分子化合物と、
水と
を少なくとも含有する水分散型性フェロモン徐放製剤。
【請求項2】
前記性フェロモン物質を包接するシクロデキストリンと前記未包接のシクロデキストリンの種類が、同一又は異なっていてもよく、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンなる群から選択される請求項1に記載の水分散型性フェロモン徐放製剤。
【請求項3】
前記性未包接のシクロデキストリンの含有量が、前記性フェロモン物質に対して0.1〜1.5当量である請求項1又は請求項2に記載の水分散型性フェロモン徐放製剤。
【請求項4】
前記水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アミド、カルボキシビニルポリマー、多糖類系天然高分子、微生物多糖類系天然高分子、動物系タンパク質、セルロース誘導体、及びデンプン誘導体からなる群から選択される請求項1〜3のいずれかに記載の水分散型性フェロモン徐放製剤。
【請求項5】
シクロデキストリンに包接させた昆虫の性フェロモン物質の水溶媒懸濁液に、該昆虫の性フェロモン物質を包接させていない未包接のシクロデキストリンと水溶性高分子化合物を混合することを少なくとも含む水分散型性フェロモン徐放製剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−82656(P2013−82656A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224788(P2011−224788)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】