説明

水分散型粘着剤組成物及び粘着シート

【課題】実質的に有機溶剤を含有せず、塗工外観に優れ、さらに長期間粘着特性を維持できる粘着剤層を形成しうる水分散型粘着剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明の水分散型粘着剤組成物は、アクリルエマルション系重合体(A)と、窒素原子に結合している下記式(1)の置換基を分子中に2以上有し、水(25℃)への溶解度が1g/100g以上である化合物(B)とを含有することを特徴とする。
【化6】


(式(1)中、Rは、炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基、アルキル基置換フェニレン基、ハロゲン置換フェニレン基及びヘテロ原子を含むアルキレン基からなる群から選択される1種の2価の基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散型粘着剤組成物に関する。詳しくは、実質的に有機溶剤を含有せず、外観特性に優れ、さらに長期間粘着特性を維持できる粘着剤層を形成しうる水分散型粘着剤組成物に関する。また、該水分散型粘着剤組成物からなる粘着剤層を設けた粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、粘着剤として溶剤型粘着剤が用いられている。しかし、溶剤型粘着剤は有機溶剤を含有しているため、塗工時の溶剤の揮発が地球環境的にも作業環境的にも問題であり、溶剤を使用しない水分散型粘着剤への転換が図られている。
【0003】
水分散型粘着剤(又は粘着剤組成物)として、反応性や架橋剤溶液のポットライフの点から、油溶性架橋剤(非水溶性架橋剤)を用いた粘着剤組成物が知られている。例えば、油溶性架橋剤を含有する再剥離用水分散型アクリル系粘着剤組成物が知られている(特許文献1、2参照)。しかし、水分散型粘着剤に油溶性の架橋成分を少量添加するとき、油溶性の架橋成分を希釈することなしにそのまま添加・混合して水分散型粘着剤組成物を作製し、この水分散型粘着剤組成物により粘着シートを作製すると、粘着剤層表面において凹みやゲル(ゲル物)生じることがあった。凹みやゲルの存在は、製品の外観欠点となり、好ましくない場合があった。また、水分散型粘着剤に油溶性の架橋成分を添加して水分散型粘着剤組成物を作製する際に、油溶性の架橋成分を有機溶剤により希釈して添加すると、水分散型粘着剤組成物作製の際の水分散型粘着剤への配合はより容易に行うことができるが、この水分散型粘着剤組成物を塗工して乾燥することにより得られた粘着剤層を有する粘着シートでは、該粘着剤層中に有機溶剤が残存しているおそれがあり、好ましくない場合があった。さらに、油溶性の架橋成分が水に微溶解する成分であった場合、水分散型粘着剤に添加して水分散型粘着剤組成物を作製する際に、架橋成分を水により希釈して水分散型粘着剤組成物に添加すると、添加される希釈液は架橋成分の水に対する溶解性の低さから希薄な希釈液となるので、得られた水分散型粘着剤組成物の粘度が低下した。塗工液としての水分散型粘着剤組成物の粘度が低下すると、粘着シート作製時に、はじき(例えば、塗工液が基材になじまず、塗工液が基材からはじかられること)が生じて、塗工外観が悪化する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−91563号公報
【特許文献2】特開2006−169496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、実質的に有機溶剤を含有せず、外観特性(外観不良が低減されていること)に優れ、長期間粘着特性を維持できる粘着剤層を形成しうる水分散型粘着剤組成物を提供することにある。また、該粘着剤組成物による粘着剤層を有する粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、アクリルエマルション系重合体と、特定の化合物とを構成成分とすることで、実質的に有機溶剤を含有せず、外観特性に優れ、長期間粘着特性を維持できる粘着剤層を形成しうる水分散型粘着剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、アクリルエマルション系重合体(A)と、窒素原子に結合している下記式(1)の置換基を分子中に2以上有し、水(25℃)への溶解度が1g/100g以上である化合物(B)とを含有することを特徴とする水分散型粘着剤組成物を提供する。
【化1】

(式(1)中、Rは、炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基、アルキル基置換フェニレン基、ハロゲン置換フェニレン基及びヘテロ原子を含むアルキレン基からなる群から選択される1種の2価の基を示す。)
【0008】
上記Rは、炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキレン基から選択される1種の2価の基であることが好ましい。
【0009】
上記アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマー総重量中の、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量が70〜99.5重量%、カルボキシル基含有不飽和単量体の含有量が0.5〜20重量%であることが好ましい。
【0010】
上記化合物(B)は、N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンであることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明は、上記水分散型粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有することを特徴とする粘着シートを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水分散型粘着剤組成物は、水分散型であり、さらに上記構成を有しているので、該粘着剤組成物から形成された粘着剤層及び該粘着剤層を有する粘着シートは、実質的に有機溶剤を含有せず、外観特性に優れ、長期間粘着特性を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(水分散型粘着剤組成物)
本発明の水分散型粘着剤組成物は、アクリルエマルション系重合体(A)と化合物(B)とを少なくとも含有する。なお、「水分散型」とは、水性媒体に分散可能なことをいう。すなわち、本発明の水分散型粘着剤組成物は、水性媒体に分散可能な粘着剤組成物である。上記水性媒体は、水を必須成分とする媒体(分散媒)であり、水単独のほかに、水と水溶性有機溶剤との混合物であってもよい。本発明の水分散型粘着剤組成物は、水を用いた分散液であることが好ましい。
【0014】
なお、本発明の水分散型粘着剤組成物は、実質的に有機溶剤を含有しない水分散型粘着剤組成物であることが好ましい。なお、「実質的に含有しない」とは、不可避的に混入する場合を除いて能動的に配合はしないことをいう。具体的には、水分散型粘着剤組成物中の有機溶剤の含有量が、水分散型粘着剤組成物の全量(全重量、100重量%)に対して、3重量%以下(好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下)であるものは、実質的に含有しないということができる。
【0015】
上記アクリルエマルション系重合体(A)は、アクリル系モノマーを必須の原料モノマー(原料モノマー成分)として構成された重合体であり、中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、カルボキシル基含有不飽和単量体を必須の原料モノマーとして構成された重合体であることが好ましい。また、上記アクリルエマルション系重合体(A)は、必要に応じて、機能性付与を目的として用いられる上記以外のモノマー成分((メタ)アクリル酸アルキルエステル及びカルボキシル基含有不飽和単量体以外のモノマー成分)で構成されていてもよい。すなわち、アクリルエマルション系重合体(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、カルボキシル基含有不飽和単量体を必須成分とするモノマー混合物により得られる重合体であることが好ましい。なお、アクリルエマルション系重合体(A)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び/又は「メタクリル」(「アクリル」及び「メタクリル」のうち、いずれか一方又は両方)のことをいう。
【0016】
上記原料モノマーにおいて、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、主たるモノマー成分として用いられ、主に接着性、剥離性(再剥離性)などの粘着剤(又は粘着剤層)としての基本特性を発現する役割を担う。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、特に限定されないが、炭素数が2〜16(より好ましくは2〜10、さらに好ましくは4〜8)の、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0017】
中でも、アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数が2〜14(より好ましくは4〜9)のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましく、例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s−ブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸イソノニルなどの直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸イソボルニル等の脂環式のアクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。中でも、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0018】
また、メタクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数が2〜16(より好ましくは2〜10)のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸s−ブチル、メタクリル酸t−ブチルなどの直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸イソボルニル等の脂環式のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0019】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、目的とする粘着性などに応じて適宜選択される。なお、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0020】
アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーにおける上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総重量(全量)(全原料モノマー)(100重量%)中、70〜99.5重量%であり、より好ましくは85〜99.5重量%である。含有量が99.5重量%を超えると、原料モノマー中のカルボキシル基含有不飽和単量体の含有量が低下することにより、粘着剤組成物より形成された粘着剤層の投錨性、低汚染性やエマルションの安定性が低下する。一方、含有量が70重量%未満では、粘着剤組成物により形成された粘着剤層の接着性、再剥離性が低下する場合がある。なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステル中におけるアクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルの含有量比(アクリル酸アルキルエステルの含有量:メタクリル酸アルキルエステルの含有量)は、特に限定されないが、100:0〜30:70(重量比)が好ましく、より好ましくは100:0〜50:50である。
【0021】
上記原料モノマーにおいて、カルボキシル基含有不飽和単量体は、アクリルエマルション系重合体(A)からなるエマルション粒子表面に保護層を形成し、該エマルション粒子の剪断破壊を防ぐ。これはカルボキシル基を塩基で中和することによってさらに向上する。なお、エマルション粒子の剪断破壊に対する安定性は、より一般的には機械的安定性という。また、カルボキシル基と反応する多官能化合物(多官能エポキシ化合物)(特に化合物(B))を1液、あるいは2液混合することで、水除去による粘着剤層層形成段階で架橋点としても作用する。さらに、多官能化合物である化合物(B)を介し、粘着剤層と基材との密着性(投錨性)を向上させることもできる。
【0022】
上記カルボキシル基含有不飽和単量体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸(アクリル酸、メタクリル酸)、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレートなどが挙げられる。なお、カルボキシル基含有不飽和単量体には、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有不飽和単量体も含むものとする。これらの中でも、エマルション粒子表面での相対濃度が高く、より高密度な保護層を形成し易いことから、(メタ)アクリル酸が好ましく、アクリル酸がより好ましい。なお、上記カルボキシル基含有不飽和単量体は、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0023】
上記カルボキシル基含有不飽和単量体の含有量は、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総重量(全原料モノマー)(100重量%)中、0.5〜20重量%が好ましく、より好ましくは1〜5重量%である。含有量が20重量%を超える場合には、カルボキシル基含有不飽和単量体(例えば、アクリル酸)は一般的に水溶性であるため、水中で重合して増粘(粘度増加)を引き起こす場合がある。さらには、粘着剤層を形成した後、被着体との相互作用が増大して、経時で粘着力が増大し、剥離が困難になる場合がある。一方、含有量が0.5重量%未満では、エマルション粒子の機械的安定性が低下する場合がある。また、粘着剤層と基材との密着性(投錨性)が低下し、糊残りの原因となる場合がある。
【0024】
本発明におけるアクリルエマルション系重合体(A)を構成するモノマーとしては、特定の機能付与を目的として、上記必須成分以外のモノマー成分を併用してもよい。
【0025】
例えば、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーにおいて、アミノ基含有不飽和単量体が含まれていてもよい。アミノ基含有不飽和単量体は、架橋成分との反応点となり、エマルション粒子の凝集力を向上させる。このようなアミノ基含有不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルなどが挙げられる。なお、上記アミノ基含有不飽和単量体は、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0026】
上記アミノ基含有不飽和単量体の含有量は、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総重量(全原料モノマー)(100重量%)中、0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量%である。含有量が10重量%を超えると、凝集力が高くなりすぎ、粘着剤組成物により形成される粘着剤層の粘着性が低下するおそれがある。
【0027】
さらに、このようなモノマー成分としては、例えば、凝集力向上の目的で、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド等のアミド基含有モノマーを0.1〜10重量%添加してもよい。また、屈折率調整、リワーク性などの目的で(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン等のスチレン系モノマーを、それぞれ、0.1〜5重量%添加してもよい。さらに、エマルション粒子内架橋および凝集力向上の目的で、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどの多官能モノマーを、それぞれ0.01〜2.0重量%添加してもよい。なお、上記添加量は、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマー成分の総量(100重量%)に対する含有量である。
【0028】
上記他のモノマー成分として、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシルプロピル等のヒドロキシル基含有不飽和単量体は、自己汚染をより低減する観点からは添加量は少ないほうが好ましい。具体的には、ヒドロキシル基含有不飽和単量体の添加量(アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総重量(全原料モノマー)(100重量%)に対する含有量)は、1重量%未満が好ましく、より好ましくは0.1重量%未満、さらに好ましくは実質的に含まない(例えば0.05重量%未満)ことが好ましい。ただし、水酸基とイソシアネート基の架橋や金属架橋の架橋等の架橋点の導入を目的とする場合には0.01〜10重量%添加してもよい。
【0029】
特に、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーは、水分散型粘着剤組成物により形成された粘着剤層の溶剤不溶分(ゲル分)を調整して、優れた塗工外観及び優れた粘着特性を得る点から、主成分としての(メタ)アクリル酸アルキルエステル、カルボキシル基含有不飽和単量体、アミノ基含有不飽和単量体を少なくとも含有することが好ましい。そして、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマー総重量中の、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量が70〜99.5重量%、カルボキシル基含有不飽和単量体の含有量が0.5〜20重量%、アミノ基含有不飽和単量体の含有量が0〜10重量%であることが好ましい。なお、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマー中にアミノ基含有不飽和単量体は含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
【0030】
アクリルエマルション系重合体(A)は、上記の原料モノマー(モノマー混合物)を、乳化剤、重合開始剤によりエマルション重合することによって得られる。
【0031】
上記アクリルエマルション系重合体(A)のエマルション重合に用いられる乳化剤としては、特に限定されないが、ラジカル重合性官能基を含まない乳化剤(以下、「非反応性乳化剤」と称する場合がある)、ラジカル重合性官能基を含む乳化剤(以下、「反応性乳化剤」と称する場合がある)が挙げられる。なお、乳化剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。また、乳化剤は、非反応性乳化剤と反応性乳化剤とが組み合わせて用いられてもよい。
【0032】
中でも、上記乳化剤としては、非反応性乳化剤が好ましい。なお、非反応性乳化剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0033】
上記非反応性乳化剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等のアニオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル等のノニオン性乳化剤が挙げられる。
【0034】
さらに、上記非反応性乳化剤としては、アニオン型として、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウムが挙げられる。また、ノニオン型として、例えば、ポリオキシエチレンアルキル型、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型、ポリオキシエチレングリコール型、ポリオキシエチレンプロピレングリコール型のものが挙げられる。
【0035】
なお、上記アクリルエマルション系重合体(A)のエマルション重合に用いられる乳化剤は、上記非反応性乳化剤が好ましいが、ラジカル重合性官能基を含む反応性乳化剤であってもよい。
【0036】
上記反応性乳化剤は、分子中(1分子中)に少なくとも1つのラジカル重合性官能基を含む乳化剤である。上記反応性乳化剤は、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ビニルエーテル基(ビニルオキシ基)、アリルエーテル基(アリルオキシ基)等のラジカル重合性官能基を有する種々の反応性乳化剤から、1種又は2種以上が選択され使用される。上記アクリルエマルション系重合体(A)のエマルション重合に用いられる乳化剤が反応性乳化剤であると、乳化剤が重合体中にとりこまれ、形成された粘着剤において乳化剤由来の汚染が低減する。
【0037】
上記反応性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウムなどのノニオンアニオン系乳化剤(非イオン性の親水性基を持つアニオン系乳化剤)に、プロペニル基やアリルエーテル基等のラジカル重合性官能基(ラジカル反応性基)が導入された形態を有する(又は該形態に相当する)反応性乳化剤が挙げられる。なお、以下では、アニオン系乳化剤にラジカル重合性官能基が導入された形態を有する反応性乳化剤を「アニオン系反応性乳化剤」と称する。また、ノニオンアニオン系乳化剤にラジカル重合性官能基が導入された形態を有する反応性乳化剤を「ノニオンアニオン系反応性乳化剤」と称する。
【0038】
上記乳化剤の配合量(使用量)は、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総重量(全原料モノマー)100重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜3重量部である。配合量が5重量部を超えると、形成された粘着剤層の凝集力が低下して被着体への汚染量が増加したり、また形成された粘着剤層において乳化剤による汚染が起こる場合がある。また、粘着剤層の粘着力が低下する場合があり、発泡により欠点が生じて塗工外観が悪化する場合がある。一方、配合量が0.1重量部未満では安定した乳化が維持できない場合がある。
【0039】
上記アクリルエマルション系重合体(A)のエマルション重合に用いられる重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)などのアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素などの過酸化物系重合開始剤;過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤、例えば、過酸化物とアスコルビン酸との組み合わせ(過酸化水素水とアスコルビン酸との組み合わせ等)、過酸化物と鉄(II)塩との組み合わせ(過酸化水素水と鉄(II)塩との組み合わせ等)、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせによるレドックス系重合開始剤などが挙げられる。
【0040】
上記重合開始剤の配合量(使用量)は、開始剤や原料モノマーの種類などに応じて適宜決定することができ、特に限定されないが、例えば、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総重量(全原料モノマー)100重量部に対して、0.01〜1重量部が好ましく、より好ましくは0.02〜0.5重量部である。
【0041】
なお、上記アクリルエマルション系重合体(A)の重合においては、アクリルエマルション系重合体(A)の分子量を調整するために、連鎖移動剤が用いられていてもよい。上記連鎖移動剤は、公知乃至慣用の連鎖移動剤が用いられる。例えば、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、2,3−ジメチルカプト−1−プロパノール、1−ドデカンチオール、t−ドデカンチオールなどが挙げられる。なお、連鎖移動剤は、単独で用いられてもよく、2種以上を併用して用いられてもよい。また、連鎖移動剤の配合量(使用量)は、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマーの総重量(全原料モノマー)100重量部に対して、0.001〜0.5重量部が好ましい。
【0042】
上記アクリルエマルション系重合体(A)のエマルション重合の重合法としては、特に限定されないが、例えば、一般的な一括重合、連続滴下重合、分割滴下重合などが挙げられる。
【0043】
なお、本発明の水分散型粘着剤組成物におけるアクリルエマルション系重合体(A)の含有量は、特に限定されないが、必須の成分であるので、本発明の水分散型粘着剤組成物の総重量(100重量%)に対して、90重量%以上であることが好ましく、より好ましくは95重量%以上であることが好ましい。
【0044】
本発明の水分散型粘着剤組成物に必須の成分として含まれる化合物(B)は、架橋成分としての役割を担う。化合物(B)は、窒素原子に結合している下記式(1)の置換基を分子中に2以上有し、水(25℃)への溶解度が1g/100g以上である化合物である。なお、化合物(B)は、単独で又は、2種以上組み合わせて用いられる。
【化2】

(式(1)中、Rは、炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基、アルキル基置換フェニレン基、ハロゲン置換フェニレン基、ヘテロ原子を含むアルキレン基からなる群から選択される1種の2価の基を示す。)
【0045】
なお、上記ヘテロ原子を含むアルキレン基に含まれるヘテロ原子は、特に限定されないが、窒素や酸素が好ましい。
【0046】
化合物(B)における式(1)中のRは、化合物(B)の反応性の点から、炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基、アルキル基置換フェニレン基、ハロゲン置換フェニレン基、ヘテロ原子を含むアルキレン基からなる群から選択される1種の2価の基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルキレン基、炭素数1〜5のヘテロ原子を含むアルキレン基からなる群から選択される1種の2価の基であり、さらに好ましくは炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルキレン基から選択される1種の2価の基である。
【0047】
ゆえに、化合物(B)のより好ましい式(1)の置換基としては、上記Rがメチレン基であるグリシジル基が挙げられる。化合物(B)における式(1)の置換基がグリシジル基であると、化合物(B)の反応性が特に高くなる。
【0048】
化合物(B)において、全ての式(1)の置換基が同じ構造であってもよいし、一部の式(1)の置換基又は全部の式(1)の置換基が異なる構造であってもよいが、全ての式(1)の置換基が同じ構造であることが好ましい。また、化合物(B)において1の窒素原子に2以上の式(1)の置換基が結合している場合、同じ窒素原子に結合している式(1)の置換基同士は同じ構造であることが好ましい。
【0049】
化合物(B)に含まれる「式(1)の置換基が結合している窒素原子」の個数は、特に限定されないが、化合物(B)の反応性や水溶性の点から、1〜5であることが好ましく、より好ましくは1〜3であり、さらに好ましくは1である。
【0050】
また、化合物(B)において、式(1)の置換基が結合している窒素原子は、式(1)の置換基以外に、カルボニル基、メチレン基、エーテル基、(3級)アミノ基などの官能基が結合していてもよい。中でも、上記官能基は、水に対する溶解性及び反応性の点から、カルボニル基、(3級)アミノ基が好ましい。
【0051】
また、化合物(B)は、1分子中にエポキシ基を少なくとも2個以上有する化合物である。化合物(B)1分子中のエポキシ基の個数は、特に限定されないが、2〜10個が好ましく、より好ましくは3〜5個であり、さらに好ましくは3個である。すなわち、化合物(B)中の式(1)の置換基の個数は、2〜10個が好ましく、より好ましくは3〜5個であり、さらに好ましくは3個である。化合物(B)1分子中のエポキシ基の個数が多くなるほど、粘着剤組成物の架橋が密になり(すなわち、粘着剤層を形成するポリマーの架橋構造が密になり)、粘着剤層形成後の粘着剤層のぬれ広がりや、粘着剤層中の官能基(例えば、アクリルエマルション系重合体(A)の原料モノマーとして上記カルボキシル基含有不飽和単量体が用いられている場合のカルボキシル基など)による粘着力上昇を防ぐことが可能となる。なお、化合物(B)1分子中のエポキシ基の個数が多すぎると、例えば10個を超えると、形成された粘着剤層においてゲル化物(ゲル物)が生じ、外観特性の悪化を生じる場合がある。また、互いのエポキシ基の距離が近くなるため、未反応のエポキシ基が残り、経時で粘着力が上昇する場合がある。
【0052】
さらに、化合物(B)は、水溶性の化合物である。なお、「水溶性」とは、25℃における水100gに対する溶解度(水100重量部に溶解しうる化合物の重量)1g以上であることをいい、好ましくは10g以上であることをいい、さらに好ましくは30g以上であることをいう。なお、上記の化合物(B)の水に対する溶解度は、例えば、以下のようにして測定しうる。
(水に対する溶解度の測定方法)
同重量の水(25℃)と化合物(b)を、攪拌機を用いて回転数300rpm、10分の条件で混合し、遠心分離により水相と油相に分ける。次いで、水相を採取し120℃で1時間乾燥して、乾燥減量から水相中の不揮発分(水100gに対する不揮発成分の重量部)を求める。
【0053】
化合物(B)の反応性が高いと、粘着剤層中の官能基(特に、アクリルエマルション系重合体(A)の原料モノマーとしての上記カルボキシル基含有不飽和単量体のカルボキシル基)により被着体との粘着力が経時で上昇することを防止できる点で有利である。さらに、化合物(B)の反応性が高いと、含有させる化合物(B)の量を少なくしても、形成された粘着剤層の溶剤不溶分を調整して良好な外観特性及び良好な粘着特性を得ることができる。さらにまた、化合物(B)の反応性が高いと、含有させる化合物(B)の量を少なくできるので、架橋成分の大量に含有させた場合に生じやすくなる、形成された粘着剤層における経時で粘着特性が変化して長期間粘着特性を維持できないという問題を回避できる点で有利である。
【0054】
また、化合物(B)は水に対する溶解性が高いので、水分散型粘着剤組成物作製時の化合物(B)の配合が容易である。また、水に対しての溶解性が高い化合物(B)によれば、濃度の高い水希釈液を容易に得ることができる。このため、上記水希釈液によれば、水分散型粘着剤組成物作製時に化合物(B)の配合に伴う粘度低下を抑えることができる。このことにより、本発明の水分散型粘着剤組成物は、塗工時に、被塗工部からのはじきが抑えられ、被塗工部になじみやすくなり、結果として、塗工外観(塗工時の外観不良が低減されていること)が良好となる。さらに、水に対しての溶解性が高い化合物(B)によれば、濃度の高い水希釈液を容易に得ることができるので、実質的に有機溶剤を含有しない水分散型粘着剤組成物を得ることができる。さらにまた、化合物(B)は、水に対しての溶解性が高く、濃度の高い水希釈液を作製したとしても、分散不良による凝集物を生じることはない。このため、本発明の水分散型粘着剤組成物により形成された粘着剤層は外観特性に優れる。
【0055】
なお、「実質的に有機溶剤を含有しない水分散型粘着剤組成物」とは、特に限定されないが、有機溶剤の含有量が水分散型粘着剤組成物の全量(全重量、100重量%)に対して3重量%以下(好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下)である水分散型粘着剤組成物をいうことが好ましい。
【0056】
化合物(B)は、その反応性の点から、分子中に、Rが炭素数1のアルキレン基である式(1)の置換基が、1の窒素原子に、2個以上結合している構造を有することが好ましい。つまり、分子中に、1の窒素原子にグリシジル基が2個以上結合している構造を有することが好ましい。さらに、化合物(B)は、分子中に、1の窒素原子に、Rが炭素数1のアルキレン基である式(1)の置換基が3個結合している構造を有することがより好ましい。つまり、分子中に、1の窒素原子にグリシジル基が3個結合している構造を有することがより好ましい。
【0057】
また、化合物(B)は、水に対する溶解性及び反応性の点から、1の窒素原子にグリシジル基及びカルボニル基が結合している構造や1の窒素原子にグリシジル基及びメチレン基が結合している構造を有することが好ましい。
【0058】
具体的には、化合物(B)としては、N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)アミン(別名:ジグリシジルアミン)、N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミン(別名:トリグリシジルアミン)、ポリグリシジルアミン、アナキシロンが好ましく挙げられ、N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミン、アナキシロンがより好ましく挙げられる。なお、N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンは、下記式(2)の化合物のことである。また、アナキシロンは、下記式(3)の化合物のことである。
【化3】

【化4】

【0059】
本発明の水分散型粘着剤組成物における化合物(B)の含有量は、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体(A)100重量部に対して、0.01〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.05〜3重量部である。含有量が0.01重量部未満であると、粘着剤組成物により形成された粘着剤層の凝集力が不足し、粘着剤層で凝集破壊が起こる場合がある。一方、含有量が10重量部を超えると、粘着剤組成物により形成された粘着剤層が硬くなりすぎ、粘着特性の低下が起こる場合がある。
【0060】
また、アクリルエマルション系重合体(A)における化合物(B)のエポキシ基と反応し得る官能基1モルに対する、化合物(B)のエポキシ基のモル数は、特に限定されないが、0.003〜3.10であることが好ましく、より好ましくは0.015〜0.922である。化合物(B)のエポキシ基のモル数が0.003未満であると、粘着剤組成物により形成された粘着剤層の凝集力が不足し、粘着剤層で凝集破壊が起こる場合がある。一方、化合物(B)のエポキシ基のモル数が3.10を超えると、粘着剤組成物により形成された粘着剤層が硬くなりすぎ、粘着特性が著しく低下する場合がある。
【0061】
なお、例えば、エポキシ当量が100(g/eq)の化合物(B)を4g添加する場合、化合物(B)のエポキシ基のモル数は、例えば、以下のように算出できる。
化合物(B)のエポキシ基のモル数=[化合物(B)の含有量(添加量)]/[エポキシ当量]=4/100
【0062】
なお、アクリルエマルション系重合体(A)を構成するモノマー成分(原料モノマー)としては、アクリルエマルション系重合体(A)が化合物(B)のエポキシ基と反応し得る官能基を有するようにするために、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共に、化合物(B)のエポキシ基と反応し得る官能基(例えばカルボキシル基、アミノ基、水酸基など、特にカルボキシル基)を提供する共重合性モノマーを含有することが好ましい。アクリルエマルション系重合体(A)が化合物(B)のエポキシ基と反応し得る官能基を有していると、該官能基は粘着剤層形成段階で化合物(B)との反応点となるので、エマルション粒子の凝集力を向上させることができる。
【0063】
上記の化合物(B)のエポキシ基と反応し得る官能基を提供する共重合性モノマーとしては、例えば、カルボキシル基含有不飽和単量体、アミノ基含有不飽和単量体、水酸基含有不飽和単量体などが挙げられ、特にカルボキシル基含有不飽和単量体が好ましく挙げられる。
【0064】
なお、本発明の水分散型粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を含有してもよい。各種添加剤としては、例えば、顔料、充填剤、レベリング剤、分散剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、老化防止剤、防腐剤などが挙げられる。なお、添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0065】
また、添加剤として、粘着付与成分(粘着付与剤)も挙げられる。該粘着付与成分としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、キシレン系樹脂、エラストマーなどが挙げられる。なお、粘着付与成分は、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0066】
本発明の水分散型粘着剤組成物は、上記アクリルエマルション系重合体(A)及び上記化合物(B)を混合することにより作製される。また、必要に応じて、他にも、各種添加剤が混合されていてもよい。なお、上記混合方法は、公知慣用のエマルションの混合方法が用いられ、特に限定されないが、例えば、攪拌機を用いた攪拌が好ましい。攪拌条件は、特に限定されないが、例えば、温度は10〜50℃が好ましく、より好ましくは20〜35℃である。攪拌時間は5〜30分が好ましく、より好ましくは10〜20分である。攪拌回転数は、10〜2000rpmが好ましく、より好ましくは30〜1000rpmである。
【0067】
本発明の水分散型粘着剤組成物の作製におけるアクリルエマルション系重合体(A)及び化合物(B)の混合の際には、環境の面、水分散型粘着剤組成物の粘度の点及び残留有機溶媒の点から、化合物(B)は水溶液として添加(配合)されることが好ましい。
【0068】
上記化合物(B)の水溶液における化合物(B)の濃度は、特に限定されないが、1〜80重量%が好ましく、より好ましくは5〜60重量%であり、さらに好ましくは10〜50重量%である。濃度が1重量%未満であると、化合物(B)の水溶液により化合物(B)が混合された水分散型粘着剤組成物の粘度が低下し、塗工外観が悪化する場合がある。一方、濃度が80重量%を超えると、化合物(B)の水溶液の粘度が高くなりすぎ、アクリルエマルション系重合体(A)と化合物(B)とを混合することが困難となる場合がある。
【0069】
(粘着シート)
本発明の粘着シートは、上記本発明の水分散型粘着剤組成物により形成された粘着剤層を少なくとも有する。なお、本発明の粘着シートにおいて、「粘着シート」という場合には、テープ状のもの、すなわち、「粘着テープ」も含まれるものとする。また、「本発明の水分散型粘着剤組成物により形成される粘着剤層」を、「本発明の粘着剤層」と称する場合がある。
【0070】
本発明の粘着シートは、基材(基材層)を有しない、いわゆる「基材レスタイプ」の粘着シート(以下、「基材レス粘着シート」と称する場合がある)であってもよいし、基材を有するタイプの粘着シート(以下、「基材付き粘着シート」と称する場合がある)であってもよい。本発明の粘着シートが基材レスタイプである場合、その具体的な構成としては、例えば、本発明の粘着剤層のみからなる両面粘着シート、本発明の粘着剤層及び本発明の粘着剤層以外の粘着剤層(以下、「その他の粘着剤層」と称する場合がある。)からなる両面粘着シートなどが挙げられる。また、本発明の粘着シートが基材付きタイプである場合、その具体的な構成としては、例えば、基材の片面側に本発明の粘着剤層を有する片面粘着シート、基材の両面側に本発明の粘着剤層を有する両面粘着シート、基材の一方の面側に本発明の粘着剤層を有し、基材の他方の面側にその他の粘着剤層を有する両面粘着シートなどが挙げられる。
【0071】
本発明の粘着シートにおいて、本発明の粘着剤層の溶剤不溶分(溶剤不溶成分の割合、「ゲル分率」と称する場合もある)は、特に限定されないが、20重量%以上が好ましく、より好ましくは25重量%以上、さらにより好ましくは30重量%以上である。なお、上記溶剤不溶分の上限値は、特に限定されないが、例えば、90重量%である。溶剤不溶分が20重量%未満であると、粘着剤層において、十分な粘着特性が得られない場合や、低分子量成分が多く含まれることとなる結果、粘着剤層の凝集力が不足し、被着体への汚染を生じる場合がある。さらに、長期間粘着特性を維持できない場合がある。
【0072】
本発明の粘着剤層の溶剤不溶分は、以下の「溶剤不溶分の測定方法」に従って算出される値である。
(溶剤不溶分の測定方法)
粘着剤層:約0.1gを採取し、平均孔径0.2μmの多孔質テトラフルオロエチレンシート(商品名「NTF1122」、日東電工株式会社製)に包んだ後、凧糸で縛り、その際の重量を測定し、該重量を浸漬前重量とする。なお、該浸漬前重量は、粘着剤層(上記で採取したもの)と、テトラフルオロエチレンシートと、凧糸の総重量である。また、テトラフルオロエチレンシートと凧糸の合計重量も測定しておき、該重量を包袋重量とする。
次に、上記の粘着剤層をテトラフルオロエチレンシートで包み凧糸により縛ったもの(「サンプル」と称する)を、酢酸エチルで満たした50ml容器に入れ、23℃にて7日間静置する。その後、容器からサンプル(酢酸エチル処理後)を取り出して、アルミニウム製カップに移し、130℃で2時間、乾燥機中で乾燥して酢酸エチルを除去した後、重量を測定し、該重量を浸漬後重量とする。
そして、下記の式から溶剤不溶分を算出する。
溶剤不溶分(重量%)=(a−b)/(c−b)×100
(上記式において、aは浸漬後重量であり、bは包袋重量であり、cは浸漬前重量である。)
【0073】
また、本発明の粘着剤層を形成するアクリル系ポリマー(架橋後)のガラス転移温度は、特に限定されないが、−70〜−10℃が好ましく、より好ましくは−55〜−20℃である。ガラス転移温度が−10℃を超えると、粘着剤層の粘着力が不足して、加工時などに被着体からの浮きやはがれが生じる場合がある。また、−70℃未満であると、より高速の剥離速度(引張速度)領域で重剥離化し、作業効率が低下するおそれがある。本発明の粘着剤層を構成する高分子成分のガラス転移温度は、例えば、アクリルエマルション重合体(A)の原料モノマー(原料モノマー成分)の組成によっても調整できる。
【0074】
本発明の粘着シート中の本発明の粘着剤層は、単層、積層体の何れの形態を有していてもよい。粘着剤層の厚みは、特に限定されないが、5〜1000μmが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。なお、本発明の粘着シートが、基材の両面側に本発明の粘着剤層を有する基材付き両面粘着シートである場合、粘着剤層の厚みは同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、上記で範囲が示されている粘着剤層の厚みは、基材付き両面粘着シートである場合、一方の側の粘着剤層の厚みである。
【0075】
本発明の粘着シートは、本発明の効果を損なわない範囲で、他の層(例えば、中間層、下塗り層など)を有していてもよい。
【0076】
上記基材としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、セロハンなどのプラスチックからなるプラスチックフィルム;クラフト紙、和紙等の紙;マニラ麻、パルプ、レーヨン、アセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維などの天然繊維、半合成繊維又は合成繊維の繊維状物質などからなる単独又は混紡などの織布や不織布等の布;天然ゴム、ブチルゴム等からなるゴムシート;ポリウレタン、ポリクロロプレンゴム等からなる発泡体による発泡体シート;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;これらの複合体などが挙げられる。中でも、上記基材としては、ポリプロピレン製フィルムやポリエチレン製フィルムなどのポリオレフィン系樹脂製フィルム、ポリエチレンテレフタレート製フィルムなどのポリエステル系樹脂製フィルムが好ましい。なお、基材は、透明、半透明、不透明のうちいずれであってもよい。また、上記基材の表面には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理等の物理的処理、下塗り処理、背面処理等の化学的処理などの適宜な公知乃至慣用の表面処理が施されていてもよい。
【0077】
上記基材の厚みとしては、特に限定されず、取扱性等を損なわない範囲で適宜選択できる。例えば、10〜1000μmが好ましく、より好ましくは20〜500μmである。
【0078】
また、本発明の粘着シートは、粘着剤層の保護のために、粘着剤層上に剥離ライナー(セパレーター)が積層されていてもよい。上記剥離ライナーとしては、特に限定されないが、公知の剥離ライナーが挙げられ、剥離ライナー用基材の少なくとも一方の面に剥離層が形成されたものが好ましく挙げられる。
【0079】
上記剥離ライナー用基材としては、特に限定されないが、例えば、プラスチックフィルム、紙、発泡体、金属箔などが挙げられる。中でも、上記剥離ライナー用基材としては、プラスチックフィルムが好ましい。また、上記剥離ライナー用基材の厚みは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択される。上記剥離ライナー用基材としてのプラスチックフィルムの素材としては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィン、ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。なお、プラスチックフィルムは、無延伸フィルム及び延伸(一軸延伸又は二軸延伸)フィルムの何れであってもよい。
【0080】
剥離ライナー用基材に形成される上記剥離層としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系剥離剤による剥離層、フッ素系剥離剤による剥離層、長鎖アルキル系剥離剤による剥離層などが挙げられる。なお、剥離層は、剥離ライナー用基材の片面のみに形成されていてもよいし、剥離ライナー用基材の両面に形成されていてもよい。
【0081】
本発明の粘着シートは、上記基材(基材付き粘着シートに用いられる基材)や剥離ライナーなどの支持体上に、上記水分散型粘着剤組成物により粘着剤層を形成することにより作製される。
【0082】
上記水分散型粘着剤組成物による本発明の粘着剤層の形成は、上記水分散型粘着剤組成物を支持体に塗布し塗布層を形成させて、該塗布層を加熱乾燥させることによりなされる。化合物(B)による架橋は、加熱乾燥の際になされる。例えば、架橋は、乾燥工程での脱水、乾燥後に粘着シートを加温すること等によりなされる。なお、剥離ライナー上に上記水分散型粘着剤組成物が塗布される際の剥離ライナーにおける上記水分散型粘着剤組成物が塗布される側の面は、剥離層が設けられている面である。
【0083】
なお、上記水分散型粘着剤組成物の塗布の際には、慣用のコーターが用いられていてもよい。上記コーターとしては、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーターなどが挙げられる。
【0084】
例えば、本発明の粘着シートが基材付き粘着シートである場合、該基材付き粘着シートは、基材の少なくとも一方の面(片面又は両面)に、上記水分散型粘着剤組成物を、乾燥後の厚さが所定の厚さとなるように直接塗工する方法や、剥離ライナー上に上記水分散型粘着剤組成物を、乾燥後の厚さが所定の厚さになるように塗工して粘着剤層を形成した後、該粘着剤層を基材に転写する方法などにより、作製される。さらに、上記基材付き粘着シートは、基材の背面に剥離処理層(離型処理層)が形成されている場合、基材の片面に形成された粘着剤層と、基材の背面の剥離処理層とを重ね合わせてロール状に巻回することにより、ロール状に巻回した粘着テープとして作製されていてもよい。
【0085】
本発明の粘着シートは、上記水分散型粘着剤層により形成された粘着剤層を少なくとも有するので、実質的に有機溶剤を含有せず、外観特性に優れ、さらに長期間粘着特性を維持する。
【0086】
本発明の粘着シートは、各種接着体に対する接着力が優れており、汎用的に用いられる粘着シートとして用いられる。本発明の粘着シートは、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂などのプラスチックやガラスなどの被着体に対して適用される。
【実施例】
【0087】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0088】
実施例1
(水分散型アクリル系粘着剤組成物の調製)
アクリル酸ブチル96.2重量部、アクリル酸3.8重量部、エーテルサルフェート型の非反応性アニオン系界面活性剤(花王株式会社製、商品名「ラムテル E118−B」、有効成分26重量%)7.7重量部、t−ドデカンチオール(和光純薬工業株式会社製)0.05重量部及び水24.9重量部を、乳化機で乳化分散して、モノマーエマルションを得た。
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌装置を備えた反応容器に、水を45.0重量部、水溶性アゾ系重合開始剤(和光純薬工業株式会社製、商品名「VA−057」)を0.10重量部を計量しておき、上記モノマーエマルションを、窒素置換下において4時間かけて滴下した。重合中は内浴温度を60±1℃に保持した。重合開始4時間後、さらに3時間、内浴温度を60±1℃に保ちながら反応を持続し、熟成を行った。その後、濃度10重量%のアンモニア水で中和して、アクリルエマルション系重合体の分散液を調製した。
次いで、上記で得られた分散液に、アクリルエマルション系重合体100重量部に対して、N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミン(水溶性架橋剤、多官能性エポキシ系架橋剤、官能基数:約3、水(25℃)への溶解度:100g/100g)0.06重量部を添加して水分散型アクリル系粘着剤組成物を調製した。
なお、分散液にN,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンを添加する際には、濃度が50重量%の水希釈液を使用した。
【0089】
(粘着剤層の形成、粘着シートの作製)
さらに、上記で得られた水分散型アクリル系粘着剤組成物を、PETフィルム(東レ株式会社製、商品名「ルミラー S10−25」、厚み:25μm)上に、テスター産業株式会社製アプリケーターを用いて、乾燥後の厚みが60μmとなるように塗布(コーティング)し、その後、熱風循環式オーブンで120℃で2分間乾燥させ、さらにその後、50℃で3日間養生(エージング)して粘着シートを得た。
【0090】
実施例2
N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンを0.1重量部添加したこと以外は実施例1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物を調製した。
なお、分散液にN,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンを添加する際には、濃度が50重量%の水希釈液を使用した。
そして、該水分散型アクリル系粘着剤組成物により、実施例1と同様にして、粘着シートを得た。
【0091】
実施例3
(水分散型アクリル系粘着剤組成物の調製)
アクリル酸ブチル95.4重量部、メタクリル酸4.6重量部、エーテルサルフェート型の非反応性アニオン系界面活性剤(花王株式会社製、商品名「ラムテル E118−B」、有効成分:26重量%)7.7重量部、t−ドデカンチオール(和光純薬工業株式会社製)0.05重量部及び水24.9重量部を、乳化機で乳化分散して、モノマーエマルションを得た。
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌装置を備えた反応容器に、水を45.0重量部、水溶性アゾ系重合開始剤(和光純薬工業株式会社製、商品名「VA−057」)を0.10重量部を計量しておき、上記モノマーエマルションを、窒素置換下において4時間かけて滴下した。重合中は内浴温度を60±1℃に保持した。重合開始4時間後、さらに3時間、内浴温度を60±1℃に保ちながら反応を持続し、熟成を行った。その後、濃度10重量%のアンモニア水で中和して、アクリルエマルション系重合体の分散液を調製した。
次いで、上記で得られた分散液に、アクリルエマルション系重合体100重量部に対して、N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミン0.05重量部を添加して水分散型アクリル系粘着剤組成物を調製した。
なお、分散液にN,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンを添加する際には、濃度が50重量%の水希釈液を使用した。
【0092】
(粘着剤層の形成、粘着シートの作製)
次いで、上記水分散型アクリル系粘着剤組成物により、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0093】
比較例1
(水分散型アクリル系粘着剤組成物の調製)
N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンの代わりに商品名「デナコールEX−614B」(水溶性架橋剤、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス株式会社製、エポキシ当量:191、官能基数:約4、水(25℃)への溶解度:10g/100g)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして水分散型アクリル系粘着剤組成物を調製した。
なお、分散液に商品名「デナコールEX−614B」を添加する際には、濃度が1重量%の水希釈液を使用した。
【0094】
(粘着剤層の形成、粘着シートの作製)
さらに、上記で得られた水分散型アクリル系粘着剤組成物を、PETフィルム(東レ株式会社製、商品名「ルミラー S10−25」、厚み:25μm)上に、テスター産業株式会社製アプリケーターを用いて、乾燥後の厚みが60μmとなるように塗布(コーティング)し、その後、熱風循環式オーブンにより120℃で2分間乾燥させ、さらにその後、50℃で3日間養生(エージング)して粘着シートを得た。
【0095】
比較例2
(水分散型アクリル系粘着剤組成物の調製)
N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミン0.06重量部の代わりに商品名「デナコールEX−614B」(水溶性架橋剤、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス株式会社製、エポキシ当量:191、水(25℃)への溶解度:10g/100g、官能基数:約4)0.6重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして水分散型アクリル系粘着剤組成物を調製した。
なお、分散液に商品名「デナコールEX−614B」を添加する際には、濃度が1重量%の水希釈液を使用した。
【0096】
(粘着剤層の形成、粘着シートの作製)
さらに、上記で得られた水分散型アクリル系粘着剤組成物を、PETフィルム(東レ株式会社製、商品名「ルミラー S10−25」、厚み:25μm)上に、テスター産業株式会社製アプリケーターを用いて、乾燥後の厚みが60μmとなるように塗布(コーティング)し、その後、熱風循環式オーブンで120℃で2分間乾燥させ、さらにその後、50℃で3日間養生(エージング)して粘着シートを得た。
【0097】
比較例3
N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミン0.06重量部の代わりに商品名「TETRAD−C」(油溶性架橋剤、1.3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノエチル)シクロヘキサン、エポキシ当量:110、水に不溶、官能基数:約4)0.1重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして水分散型アクリル系粘着剤組成物を調製した。
なお、分散液に商品名「TETRAD−C」を添加する際には、濃度が50重量%となるように酢酸エチルで希釈した希釈液を使用した。
そして、該水分散型アクリル系粘着剤組成物により、実施例1と同様にして、粘着シートを得た。
【0098】
比較例4
N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンの代わりに商品名「TETRAD−C」(油溶性架橋剤、1.3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノエチル)シクロヘキサン、エポキシ当量:110、水に不溶、官能基数:約4)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして水分散型アクリル系粘着剤組成物を調製した。
なお、分散液に商品名「TETRAD−C」を添加する際には、濃度が50重量%となるように酢酸エチルで希釈した希釈液を使用した。
そして、該水分散型アクリル系粘着剤組成物により、実施例3と同様にして、粘着シートを得た。
【0099】
比較例5
N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミン0.06重量部の代わりに商品名「TEPIC−G」(水溶性架橋剤、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、エポキシ当量:110、水(25℃)への溶解度:0.9g/100g、官能基数:約3)0.6重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして水分散型アクリル系粘着剤組成物を調製した。
なお、分散液に商品名「TEPIC−G」を添加する際には、濃度が2重量%の水希釈液を使用した。
そして、該水分散型アクリル系粘着剤組成物により、実施例1と同様にして、粘着シートを得た。
【0100】
比較例6
N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミン0.06重量部の代わりに商品名「TETRAD−C」(油溶性架橋剤、1.3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノエチル)シクロヘキサン、エポキシ当量:110、水に不溶、官能基数:約4)0.05重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして水分散型アクリル系粘着剤組成物を調製した。
なお、分散液に商品名「TETRAD−C」を添加する際には、希釈せず、そのまま添加した(濃度は100重量%)。
そして、該水分散型アクリル系粘着剤組成物により、実施例1と同様にして、粘着シートを得た。
【0101】
(評価)
実施例および比較例で得られた水分散型アクリル系粘着剤組成物および粘着シートについて、下記の測定方法又は評価方法により評価を行った。なお、評価結果は、表1に示した。
【0102】
(1)粘着力(対SUS板、180°ピール、300mm/minの引張速度)
粘着シート(サンプルサイズ:20mm幅×100mm長さ)を、SUS板(SUSステンレス板)に、2kgのゴムローラー1往復の条件で圧着し、測定サンプルとした。
この測定サンプルを用い、23℃、50%RHの環境下、30分間放置後に、引張速度300mm/minの条件で、180°剥離試験を行い、粘着シートのSUS板に対する粘着力(N/20mm)を測定し、粘着力とした。
【0103】
(2)保持力(対ベークライト板、500gの荷重、60℃の温度雰囲気下で2時間の保持)
幅が10mmの粘着シートを、ベークライト板(フェノール樹脂板)に、室温(23℃)環境下、2kgローラー1往復の圧着条件で、接触面積が10mm幅×20mm長さとなるように貼り付けて、測定サンプルとした。測定サンプルを作製してから室温で30分間放置し、さらに60℃の温度雰囲気下に30分間放置した。
その後、粘着シートの長さ方向が鉛直方向となるようにベークライト板を垂下し、粘着シートの自由端に、粘着シートの幅方向に均一に負荷がかかるように、500gの荷重を加えた。荷重の負荷は、60℃の温度雰囲気下で2時間行った。
2時間経過後、粘着シートのずれた距離(ズレ距離)を測定し、下記評価基準で評価した。
評価基準
良好(○):ズレ距離が0.3mm以内
不良(×):ズレ距離が0.3mmを超える場合
【0104】
(3)有機溶剤の含有
粘着シート作製時に有機溶剤を用いたかどうかにより判断した。粘着シート作製に用いられる水分散型アクリル系粘着剤組成物の調製時において、分散液に架橋剤(架橋成分)を添加する際に、有機溶剤による架橋剤の希釈液によらないと架橋剤を分散液に含有させることができず、不可避的に粘着シートに有機溶剤が配合されることとなる場合を「有機溶剤の含有有り(あり)」と評価した。一方、分散液に架橋剤(架橋成分)を添加する際に、有機溶剤で架橋剤を希釈させなくても、架橋剤を分散液に含有させることができ、有機溶剤が粘着シートに実質的に含まれていない粘着シートを得ることができる場合を「有機溶剤の含有なし(なし)」と評価した。
【0105】
(4)外観(凹み、ゲル物の有無)
粘着シートの粘着剤層表面の状態を、目視で観察した。縦10cm×横10cmの観察範囲内の欠点(凹み及びゲル物(凝集物))の個数を測定し、以下の基準で外観を評価した。
欠点個数が0〜100個 : 外観が良好である(○)。
欠点個数が101個以上 : 外観が悪い(×)。
【0106】
(5)長期保存安定性
作製してから半年間室温で保存して、粘着シートの各特性(溶剤不溶分、粘着力、保持力、引張弾性率)を評価し、物性・粘着特性に変化が生じるか否かを確認した。特性の変化が生じていなかった場合や特性の変化がほとんど生じていなかった場合を良好(○)と評価し、特性が大きく変化していた場合を不良(×)と評価した。
【0107】
【表1】

【0108】
表1で用いた略号は以下の通りである。
BA;ブチルアクリレート
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
VA−057:水溶性アゾ系重合開始剤(和光純薬工業株式会社製、商品名「VA−057」)
t−LSH:(t−ドデカンチオール、和光純薬工業株式会社製)
E118B:エーテルサルフェート型の非反応性アニオン系界面活性剤(花王株式会社製、商品名「ラムテル E118−B」)
デナコールEX−614B:商品名「デナコールEX−614B」(水溶性架橋剤、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス株式会社製、エポキシ当量:191、官能基数:約4、水(25℃)への溶解度:10g/100g)
TEPIC−G:商品名「TEPIC−G」(水溶性架橋剤、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、エポキシ当量:110、水(25℃)への溶解度:0.9g/100g、官能基数:約3)
テトラッドC:商品名「TETRAD−C」(油溶性架橋剤、1.3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノエチル)シクロヘキサン、エポキシ当量:110、水に不溶、官能基数:約4)
【0109】
実施例1では水に対する溶解性の高いN,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンが用いられているので、分散液に添加する水希釈液のN,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミン濃度をより高めることができ、結果として、塗工液としての水分散型アクリル系粘着剤組成物の粘度低下を抑えることができた。このため、実施例1では、水分散型アクリル系粘着剤組成物塗工時のはじきを改善でき、塗工外観が良好であった。一方、比較例5では、N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンの代わりに、窒素原子にグリシジル基が結合している構造を3つ有するものの、水に対する溶解度の低い化合物(商品名「TEPIC−G」)が用いられているので、分散液に添加する水希釈液の濃度を高めることができず、結果として、塗工液としての水分散型アクリル系粘着剤組成物の粘度の低下を抑えることはできなかった。このため、比較例5では、水分散型アクリル系粘着剤組成物塗工時にはじきを生じ、塗工外観に優れる粘着シートを得ることはできなかった。
【0110】
実施例1では窒素原子にグリシジル基が結合している構造を有するN,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンが用いられており、N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミン中の窒素原子にグリシジル基が結合している構造は反応性が高いので、実施例1の粘着シートは、N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンの含有量が少なくとも、良好なテープ特性(粘着特性)を発揮するのに必要な溶剤不溶分(ゲル分)を有する。一方、比較例1及び2では、N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンの代わりに、酸素原子にグリシジル基が結合している構造を有する化合物(商品名「デナコールEX−614B」)が用いられており、酸素原子にグリシジル基が結合している構造の反応性は、窒素原子にグリシジル基が結合している構造の反応性と対比して低い。このため、比較例1は、酸素原子にグリシジル基が結合している構造を有する化合物が実施例1で用いられているN,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンの量と同等の量で用いられているが、良好なテープ特性(粘着特性)を発揮するのに必要な溶剤不溶分(ゲル分)を有することはなかった。また、比較例2は、酸素原子にグリシジル基が結合している構造を有する化合物が大量に用いられ、良好なテープ特性(粘着特性)を発揮するのに必要な溶剤不溶分(ゲル分)を有しているが、酸素原子にグリシジル基が結合している構造を有する化合物が大量に用いられているので経時でテープ特性(粘着特性)が変化してしまい、長期間テープ性能を維持できなかった。
【0111】
実施例2と比較例3とを対比するとテープ特性は同等であった。また、実施例3と比較例4とを対比するとテープ特性は同等であった。しかし、実施例2及び実施例3では、水分散型粘着剤組成物のN,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンが水溶性であるので、水分散型アクリル系粘着剤組成物調製の際に、水希釈液が用いられている。このため、実施例2及び3では、粘着シートにおいて、有機溶剤の残留はなく、有機溶剤を実質的に含有しない。これに対し、比較例3及び比較例4では、商品名「TETRAD−C」が油溶性であるので、水分散型アクリル系粘着剤組成物調製の際に、有機溶剤で希釈した溶液が用いられている。このため、比較例3及び比較例4では、塗工・乾燥工程を経て作製された粘着シートの粘着剤層中に有機溶剤の残留している可能性があった。また、比較例3及び比較例4の作製時には、有機溶剤が使用されているので、環境に配慮した真の脱溶剤テープ(実質的に有機溶剤を含有しない粘着テープ)とは評価できなかった。
【0112】
商品名「TETRAD−C」が油溶性であるものの、水分散型アクリル系粘着剤組成物調製の際に、有機溶剤で希釈せず、そのまま添加することも可能であるが、分散不良による凝集物が生じ、外観特性が悪化した(比較例3、6)。これに対し、実施例2では、水分散型アクリル系粘着剤組成物調製の際に、N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンの水希釈液が用いられているので、溶け残りのような凝集物が見られることはなく、外観特性にすぐれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルエマルション系重合体(A)と、窒素原子に結合している下記式(1)の置換基を分子中に2以上有し、水(25℃)への溶解度が1g/100g以上である化合物(B)とを含有することを特徴とする水分散型粘着剤組成物。
【化5】

(式(1)中、Rは、炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基、アルキル基置換フェニレン基、ハロゲン置換フェニレン基及びヘテロ原子を含むアルキレン基からなる群から選択される1種の2価の基を示す。)
【請求項2】
前記Rが、炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキレン基から選択される1種の2価の基である請求項1記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項3】
前記アクリルエマルション系重合体(A)を構成する原料モノマー総重量中の、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量が70〜99.5重量%、カルボキシル基含有不飽和単量体の含有量が0.5〜20重量%である請求項1又は2記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項4】
前記化合物(B)が、N,N,N−トリ(2,3−エポキシプロピル)アミンである請求項1〜3の何れかの項に記載の水分散型粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの項に記載の水分散型粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有することを特徴とする粘着シート。

【公開番号】特開2012−236980(P2012−236980A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−94497(P2012−94497)
【出願日】平成24年4月18日(2012.4.18)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】