水分散性のステルスナノ粒子
【課題】有用性を有するナノ粒子、特には磁性金属酸化物ナノ粒子に、水溶性(水分散性)と免疫応答回避機能(免疫ステルス能)を付与したものを、効率よく、安価な手法で、簡単に、且つ、大量に合成する技術の提供。
【解決手段】一個又は複数個の免疫応答回避能を供与する配位子が、単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子のコアに共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合で結合しているものは、水溶性があり、免疫応答回避表面修飾型金属酸化物ナノ粒子又は免疫応答回避表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子である。このものは、ナノ粒子源となる金属イオンなどを含む金属塩などを含有するナノ粒子前駆体溶液を、免疫応答回避能を供与する配位子分子の存在下に、高温高圧水環境下、例えば、亜臨界水又は超臨界水中で反応処理に付して合成することができる。
【解決手段】一個又は複数個の免疫応答回避能を供与する配位子が、単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子のコアに共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合で結合しているものは、水溶性があり、免疫応答回避表面修飾型金属酸化物ナノ粒子又は免疫応答回避表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子である。このものは、ナノ粒子源となる金属イオンなどを含む金属塩などを含有するナノ粒子前駆体溶液を、免疫応答回避能を供与する配位子分子の存在下に、高温高圧水環境下、例えば、亜臨界水又は超臨界水中で反応処理に付して合成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に良好に分散性であり且つ生体免疫に対し免疫応答回避能(ステルス能)を有するナノ粒子、特には磁性体ナノ粒子、その製造法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
金属元素を構成元素として含有しているナノメーターサイズの超微粒子(例えば、金属酸化物ナノ粒子や金属水酸化物ナノ粒子)は、触媒、記憶材料、発光材料、蛍光材料、二次電池用材料、電子部品材料、磁気記録材料、研摩材料、オプトエレクトロニクス、医薬品、化粧品などの広範な分野での利用が期待されている。ナノメーターサイズの粒子を使用している材料は、その極度に小さなサイズに付随して生ずる興味深い特性を示すことが多いことが知られている。このような材料は工学的、電子的、機械的、および化学的特性の幾つかにおいて、既存のバルク材料とは異なる性質を示すことが報告されている。特に磁性ナノ粒子への注目が高まりを見せており、精力的に研究が行われつつある。磁性ナノ粒子を含めた金属元素含有ナノ粒子が示す特性の中で注目される魅力的な性質は、量子的な性質、磁気光学的な性質と密接に関連しており、広範な用途の産業および科学において注目されている。磁性ナノ粒子は、磁性流体や高密度記録材料、医療診断材料など多くの応用が期待されている。
【0003】
磁性ナノ粒子は、それらが有望な用途を有していることから広範な分野で研究者にますます注目されてきている〔a) M. De, P. S. Ghosh, V. M. Rotello, Adv. Mater. 2008, 20, 4225-4241(非特許文献1); b) Y. Jun, J. H. Lee, J. Cheon, Angew. Chem. Int.
Ed. 2008, 47, 5122-5135(非特許文献2); c) J. Kim, Y. Piao, T. Hyeon, Chem. Soc. Rev. 2009, 38, 372-390(非特許文献3); d) V. I. Shubayev, T. R. Piasanic, S.
Jin, Advanced Drug Delivery Review 2009, 61, 467-477(非特許文献4)〕。マグネ
タイト(磁鉄鉱、Fe3O4)は、ヒトに対して化学的には無毒なものであることから、例え
ば、薬物や遺伝子デリバリーのキャリアーとしての用途、癌の温熱療法(hyperthermia therapy)における使用、バイオセンサーにおける用途、そして再生移植医療を含む組織工学(tissue engineering)における用途を包含する、Fe3O4の多くの医療用途が提案されて
おり、研究されている〔a) J. Kreuter, Adv. Drug. Deliv. Rev. 2001, 47, 65-81(非
特許文献5); b) J. M. Nam, C. S. Thaxton, D. A. Mirkin, Science 2003, 301, 1884-1886(非特許文献6); c) A. Ito, Y. Kuga, H. Honda, H. Kikkawa, A. Horiuchi, Y.
Watanabe, T. Kobayashi, Cancer Lett. 2004, 212, 167-175(非特許文献7); d) A. Ito, M. Shinlai, H. Honda, T. Kobayashi, J. Biosci. Bioeng. 2005, 100, 1-11(非
特許文献8)〕。
【0004】
このような医療応用を実現するためには、Fe3O4を十分に小さなものとし、水や血液中
で凝集することなく良好に分散しているようにすることが求められている。加えて、マクロファージを含めた貪食細胞によって捕捉されることがないようにすること、すなわち、ヒトの体内における免疫学的な反応に対してステルス性を有するようにすることが求められている。Fe3O4ナノ粒子は、様々な方法で合成されてきており〔X. Wang, J. Zhuang, Q. Peng, Y. Li, Nature 2005,437, 121-124(非特許文献9)〕、それらの表面の性状は
、リガンド交換法を含めたいくつかの手法で変えることができる〔a) Q. Liu, Z. Xu, Langmuir, 1995, 11, 4617-4622(非特許文献10); b) A. B. Bourlinos, A. Bakandritos,
V. Georgakilas, D. Petridis, Chem. Mater. 2002, 14, 3226-3228(非特許文献11); c) R. Hong, N. O. Fischer, T. Emrick, V. M. Rotello, Chem. Mater. 2005, 17, 4617-4621(非特許文献12); d) S.-W. Kim, S. Kim, J. B. Tracy, A. Jasanoff, M. G. Bawendi, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 4556-4557(非特許文献13); e) D. K. Yi, S. T.
Selvan, S. S. Lee, G. C. Papaefthymiou, D. Kundaliya, J. Y. Ying, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 4990-4991(非特許文献14); f) B.-S. Kim, J.-M. Qiu, J.-P. Wang, T. A. Taton, Nano Lett. 2005, 5, 1987-1991(非特許文献15)〕。
【0005】
貪食細胞によって捕捉されることなく、血中での半減期寿命を長くするため〔Y. Zhang, N. Kohler, M. Zhang, Biomaterials 2002, 23, 1553-1560(非特許文献16)〕、ポリ
エチレングリコールなどの様々なポリマーでもって酸化鉄のナノ粒子を被覆することが試みられてきた〔a)M. Taupitz, J. Wagner, J. Schonorr, Invest Radiol. 2004, 39, 619-625(非特許文献17); b) T. Neuberger, B. Schopf, H. Hofmann, M. Hofmann, B. Rechenberg, J. Magn. Magn. Mater. 2005, 293, 483-496(非特許文献18); c) M. S. Nikolic, M. Krack, V. Aleksandrovic, A. Kornowski, S. Forster, H. Weller, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 6557-6580(非特許文献19); d) A. F. Thunemann, D. Schutt, L. Kaufner, U. Pison, H. Mohwald, Langmuir 2006, 22, 2351-2357(非特許文献20)〕。しかしながら、これらの方法では、その個々の方法を適用することが実用上困難であるのに加えて、溶媒間を移動する間の分散液の安定性が問題であった〔R. E. Bailey, S. Nie, in The Chemistry of Nanomaterials: Synthesis, Properties and Application (Eds: C. N. R. Rao, A. Muller, A. K. Cheetham), WILEY-VCH, Weinheim, 2004, pp.405(非特許文献21)〕。
【0006】
ナノ粒子合成法は、様々な方法が提案されている。しかし、多くの場合、ナノ粒子の表面エネルギーが極めて高いために凝集しやすく、そのためナノ粒子本来の機能が発現されないことが多い。一度凝集したナノ粒子は再分散させることはできず、その段階で界面活性剤等を用いても、ナノ粒子を分散させることはできない。
金属酸化物ナノ粒子や金属水酸化物ナノ粒子を合成する手法として、本発明者らのグループは、亜臨界水や超臨界水といった高温高圧水下での水熱合成場を利用する技術を開発している〔特開平4-50105号公報(特許文献1)、特開平6-302421号公報(特許文献2)
、特開2005-194148号公報(特許文献3)、特開2005-21724号公報(特許文献4)、特開2008-162864号公報(特許文献5)など〕。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-50105号公報
【特許文献2】特開平6-302421号公報
【特許文献3】特開2005-21724号公報
【特許文献4】特開2005-194148号公報
【特許文献5】特開2008-162864号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M. De, P. S. Ghosh, V. M. Rotello, Adv. Mater. 2008, 20, 4225-4241
【非特許文献2】Y. Jun, J. H. Lee, J. Cheon, Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 5122-5135
【非特許文献3】J. Kim, Y. Piao, T. Hyeon, Chem. Soc. Rev. 2009, 38, 372-390
【非特許文献4】V. I. Shubayev, T. R. Piasanic, S. Jin, Advanced Drug Delivery Review 2009, 61, 467-477
【非特許文献5】J. Kreuter, Adv. Drug. Deliv. Rev. 2001, 47, 65-81
【非特許文献6】J. M. Nam, C. S. Thaxton, D. A. Mirkin, Science 2003, 301, 1884-1886
【非特許文献7】A. Ito, Y. Kuga, H. Honda, H. Kikkawa, A. Horiuchi, Y. Watanabe, T. Kobayashi, Cancer Lett. 2004, 212, 167-175
【非特許文献8】A. Ito, M. Shinlai, H. Honda, T. Kobayashi, J. Biosci. Bioeng. 2005, 100, 1-11
【非特許文献9】X. Wang, J. Zhuang, Q. Peng, Y. Li, Nature 2005,437, 121-124
【非特許文献10】Q. Liu, Z. Xu, Langmuir, 1995, 11, 4617-4622
【非特許文献11】A. B. Bourlinos, A. Bakandritos, V. Georgakilas, D. Petridis, Chem. Mater. 2002, 14, 3226-3228
【非特許文献12】R. Hong, N. O. Fischer, T. Emrick, V. M. Rotello, Chem. Mater. 2005, 17, 4617-4621
【非特許文献13】S.-W. Kim, S. Kim, J. B. Tracy, A. Jasanoff, M. G. Bawendi, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 4556-4557
【非特許文献14】D. K. Yi, S. T. Selvan, S. S. Lee, G. C. Papaefthymiou, D. Kundaliya, J. Y. Ying, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 4990-4991
【非特許文献15】B.-S. Kim, J.-M. Qiu, J.-P. Wang, T. A. Taton, Nano Lett. 2005, 5, 1987-1991
【非特許文献16】Y. Zhang, N. Kohler, M. Zhang, Biomaterials 2002, 23, 1553-1560
【非特許文献17】M. Taupitz, J. Wagner, J. Schonorr, Invest Radiol. 2004, 39, 619-625
【非特許文献18】T. Neuberger, B. Schopf, H. Hofmann, M. Hofmann, B. Rechenberg, J. Magn. Magn. Mater. 2005, 293, 483-496
【非特許文献19】M. S. Nikolic, M. Krack, V. Aleksandrovic, A. Kornowski, S. Forster, H. Weller, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 6557-6580
【非特許文献20】A. F. Thunemann, D. Schutt, L. Kaufner, U. Pison, H. Mohwald, Langmuir 2006, 22, 2351-2357
【非特許文献21】R. E. Bailey, S. Nie, in The Chemistry of Nanomaterials: Synthesis, Properties and Application (Eds: C. N. R. Rao, A. Muller, A. K. Cheetham), WILEY-VCH, Weinheim, 2004, pp.405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
有用性を有するナノ粒子に、水溶性(水分散性)と免疫応答回避機能(免疫ステルス能)を付与したものを、効率よく、安価な手法で、簡単に、且つ、大量に合成する技術の開発が求められている。特に、有用性を持つ磁性ナノ粒子、特には水に分散性であるFe3O4
ナノ粒子などの、好ましくは毒性のない化学物質を使用して、免疫学的応答反応を刺激することのないそして水に分散性であるFe3O4ナノ粒子などの有用ナノ粒子を、ワンステッ
プで合成する技術の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、生物医学的な用途に使用するのに特に適しているナノ粒子、例えば、磁性ナノ粒子、その製造法並びにその用途を提供するにある。特に、本発明は、少なくとも一個又は複数個の免疫応答回避能(あるいは、生物的なステルス能)を供与する配位子が、単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子のコアに共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合(共有結合的な結合)で結合しているもの(「免疫応答回避表面修飾型金属酸化物ナノ粒子」又は「免疫応答回避表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子」、あるいは単に「ステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子」又は「ステルス表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子」、包括的に、「免疫応答回避表面修飾型ナノ粒子」、又は、単に「ステルス表面修飾型ナノ粒子」ともいう)に関する。当該ナノ粒子は、生物や生体での金属酸化物ナノ粒子あるいは金属水酸化物ナノ粒子を使用しての相互作用を研究するのに使用され、治療薬及び診断薬としても使用され得る。本粒子は、水性媒体、例えば、水や生理食塩水などに対して良好な分散性を有し、その得られる水性分散液(水性懸濁液)中で当該
ナノ粒子は安定して分散状態で維持可能であり、好適に生物医学的な用途に使用できる。
かくして、本発明は、安定な分散水溶液(磁性流体)を形成するナノスケールサイズの磁性ナノ粒子を提供するものである。
本発明では、上記免疫応答回避ナノ粒子、あるいは、単に、ステルスナノ粒子(例えば、ステルス金属酸化物ナノ粒子又はステルス金属水酸化物ナノ粒子)は、ナノ粒子源となる金属イオンなどを含む金属塩(金属錯体を包含する)あるいは金属化合物(配位化合物を包含する)を含有するナノ粒子前駆体溶液を、免疫応答回避能(あるいは生物的なステルス能)を供与する配位子分子の存在下に、高温高圧水環境下、例えば、亜臨界水又は超臨界水中で反応処理に付して合成することができる。本発明の典型的なステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子やステルス表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子においては、コアの単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子や金属水酸化物ナノ粒子の構成金属元素と配位子とは、−O−基を介して連結している。
【発明の効果】
【0011】
本発明の技術により、水溶性(水分散性)において優れ且つ免疫刺激作用の低減化された、サイズが均一なナノ粒子、磁性金属酸化物ナノ粒子などが得られるので、標的指向性ナノ粒子の開発に利用できるし、組織イメージング、磁気温熱療法、中性子捕捉療法、細胞分離法、分析技術などにおいて試薬などとして利用できる。本発明のステルス表面修飾型ナノ粒子は、生物医学的な用途、例えば、生物学分野および医療分野における利用に特に適している。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のステルス表面修飾型ナノ粒子の合成に使用されたフロー型リアクターの構成を示す模式図である。
【図2】本発明で合成されたFe3O4ナノ粒子生成物の粉末X線回折パターンを示す。(i) 230℃の反応温度で製造された生成物、(ii) 260℃の反応温度で製造された生成物、(iii) 300℃の反応温度で製造された生成物、そして、(iv) 360℃の反応温度で製造された生成物。
【図3】本発明のステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子を水及び生理食塩水に分散して得られた分散液の外観を示す図面代用写真である。300℃の反応温度で製造されたマグネタイトナノ粒子生成物についてのもので、(a)水に分散された液、そして、(b)0.9%NaCl水溶液に分散された液。
【図4】本発明のステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子の水分散液の動的光散乱分析で得られたスペクトルである。300℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子についてのものである。
【図5】様々な反応温度で合成された本発明のステルス金属酸化物ナノ粒子の透過型電子顕微鏡イメージを示す図面代用写真である。(a) 230℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子、(b) 260℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子、(c) 300℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子、そして、(d) 350℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子。
【図6】本発明のステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子のFT-IRスペクトルを示す。300℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子について示す。
【図7】本発明のステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子の推定される構造を模式的に示す図である。DHCAで表面が修飾されているFe3O4ナノ粒子の推定構造を示し、中心にコアFe3O4ナノ粒子が位置している。
【図8】本発明で合成のFe3O4ナノ粒子のゼータポテンシャルを示す。図では、pHによりどのように変化するかが示してある。
【図9】様々な反応温度で合成された本発明のステルス金属酸化物ナノ粒子のTG測定の結果を示す。(a) 230℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子、(b) 260℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子、(c) 300℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子、そして、(d) 360℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子。
【図10】本発明のステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子の磁化曲線を示す。300℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子について磁界の強さと磁化との関係をプロットしたもので、(a)拡大図、(b)全体をプロットしたもので、測定温度290K(○)及び5K(△)を示す。
【図11】本発明の表面修飾型金属酸化物ナノ粒子が免疫応答反応を刺激するか否かをアッセイした結果を示す。DHCA表面修飾Fe3O4ナノ粒子。(a)BM-DCsでのIL-12産生刺激に及ぼす作用、(b) BM-DCsでのTNF-α産生刺激に及ぼす作用。
【図12】本発明の表面修飾型金属酸化物ナノ粒子が免疫応答反応を刺激するか否かをアッセイした結果を示す。BM-DCsでのIL-12産生刺激に及ぼす作用。カテコール又は4−メチルカテコール表面修飾Fe3O4ナノ粒子。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、生物医学的な用途に使用するのに特に適しているナノ粒子、例えば、磁性ナノ粒子、その製造法並びにその用途を提供する。特に、本発明は、少なくとも一個又は複数個の生物的なステルス能を供与する配位子が、単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子のコアに共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合(共有結合的な結合)で結合しているもの(ステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子)を提供する。当該ナノ粒子は、生物や生体での金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子を使用しての相互作用を研究するのに使用され、治療薬及び診断薬としても使用されて有用である。本粒子は、水性媒体、例えば、水や生理食塩水などに対して良好な分散性を有し、その得られる水性分散液中で当該ナノ粒子は安定して分散状態で維持可能であり、好適に生物医学的な用途に使用できる。
【0014】
磁性ナノ粒子は、常磁性、超常磁性、又は強磁性を示すものが包含されてよいが、好ましくは、本発明のナノ粒子は超常磁性のものが挙げられる。
本発明は、安定な分散水溶液(磁性流体)を形成するナノスケールサイズの磁性ナノ粒子を提供する。本発明のステルス表面修飾型ナノ粒子は、その平均直径が、1,000 nmを下回るものであってナノスケールサイズのものであり、代表的には500 nm以下のサイズのもの、典型的には250 nm以下のサイズのもので且つ比較的均一なサイズを有していることを特徴とするものである。ここで比較的均一とは、例えば、平均直径が30 nmであるナノ粒
子と称した場合、25〜35 nmの範囲内の直径を有するナノ粒子が、そのナノ粒子集団の中
で、おおよそ80%以上を占める場合を意味してよいし、ある場合には、おおよそ90%以上を占める場合を意味してよく、好ましい場合では、おおよそ95%以上を占める場合を意味してよい。一つの好ましい具体例では、比較的均一とは、10 nmの範囲内にその直径サイ
ズが収まる粒子の割合が、そのナノ粒子集団の中で、おおよそ80%以上を占める場合を意味してよいし、さらには、おおよそ90%以上を占める場合を意味してよいし、好ましい場合では、おおよそ95%以上を占める場合を意味してよい。
本発明の一つの態様では、当該ステルス表面修飾型ナノ粒子は、その平均直径が、5〜250 nm、好適には8〜200 nm、さらに好適には10〜150 nm、特には12〜100 nmであってよいし、さらに12〜50 nmであってよい。また、本発明の別の一つの態様では、当該ステルス
表面修飾型金属酸化物ナノ粒子は、その平均直径が、5〜40 nm、好適には8〜30 nm、さらに好適には10〜25 nm、特には12〜20 nmである。該ナノ粒子の平均直径は、透過型電子顕
微鏡、走査型電子顕微鏡、X線回折装置などの技術を用いて測定することができる。
【0015】
本発明では、上記ステルス表面修飾型ナノ粒子は、ナノ粒子源となる金属イオンなどを含む金属塩(金属錯体を包含する)又は金属化合物(配位化合物を包含する)を含有するナノ粒子前駆体溶液を、生物的なステルス能を供与する配位子分子の存在下に、高温高圧水環境下、例えば、亜臨界水又は超臨界水中で反応処理に付して合成することができる。本発明の典型的なステルス表面修飾型ナノ粒子においては、一個の単一の粒子であるコアのナノ粒子の構成金属元素と配位子とは、−O−基を介して連結している。本表面修飾型ナノ粒子の一つの典型例においては、金属原子(コアを構成する金属元素)−O−炭素原子(配位子を構成する炭素元素)の結合が存在していることが特徴である。一つの具体的な態様では、当該ステルス表面修飾型ナノ粒子においては、配位子の一分子単位あたり、2個の共有結合でもって、例えば、2個の−O−基を介して一個のコアナノ粒子の表面に該配位子が結合している。本表面修飾型ナノ粒子の一つの典型例においては、〔金属原子(コアを構成する金属元素)−O−炭素原子(配位子を構成する炭素元素)−炭素原子(配位子を構成する炭素元素)−O−金属原子(コアを構成する金属元素)〕の結合が存在していることが特徴である。一つの典型的な態様では、該配位子は、二座配位子が挙げられる。
本発明のステルス表面修飾型ナノ粒子は、水分散性に優れており、安定な水性分散液を形成できる。
【0016】
本発明で用いられる免疫応答回避能を供与する配位子としては、免疫応答を回避する素材(免疫ステルス能を有している素材)又はそれから誘導されるもの、さらにはそうしたものを該ナノ粒子に導入するための助けとなる機能及び/又は水溶性付与機能を有するもの(及び/又はステルス性を妨害しないもの)が挙げられ、代表的には免疫認識を回避する素材又はそれから誘導されるもの、さらにはそうしたものを該ナノ粒子に導入するための助けとなる機能及び/又は水溶性付与機能を有するもの(及び/又は当該機能を妨害しないもの)などが挙げられ、それをナノ粒子の表面に被覆せしめることで、ナノ粒子をヒトや動物の体内へ投入した時の免疫システムによる捕捉を回避するようにする働きを示すもの、及び/又は、それでナノ粒子の表面を修飾することにより免疫システムに捕捉されることを有意に低下せしめる機能を有するものである。ここで「有意に低下」とは、実用上、所定の目的が達成できる限りにおいて、ヒトや動物の免疫システムによる認識・排除から逃れることができて、標的臓器へ高濃度に濃縮できることを意味してよい。上記「免疫応答回避能を供与する」とは、「生物的なステルス能を供与する」と相互交換可能な用語の意味であってよい。同様に、「免疫応答回避」と「ステルス」とは、本明細書において、相互交換可能な用語の意味で使用されていると理解されてよい。
【0017】
本発明において、免疫応答回避能や生物的なステルス能とは、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、レギュラトリーT細胞などのTリンパ球、Bリンパ球、単球、マクロファージ、クッ
パー細胞、マイクログリア細胞、樹状細胞(dendritic cell)、ランゲルハンス細胞、好中球、好酸球、好塩基球、肥満(マスト)細胞、などの免疫系に関与する細胞に対する刺激が、コアナノ粒子(表面非修飾体)と比較して有意に低下していることを意味するものであってもよい。さらに、それは、免疫系に関与する細胞に発現するパターン認識受容体を介する細胞内刺激伝達経路の刺激作用、サイトカイン・ケモカイン類産生作用及び/又はサイトカイン・ケモカイン類産生系刺激作用、コスティミュラトリー分子類発現作用及び/又はコスティミュラトリー分子類発現刺激作用、接着分子類発現作用及び/又は接着分子類発現刺激作用が、コアナノ粒子(表面非修飾体)と比較して有意に低下していることを意味するものであってもよい。
本発明において免疫システムによる捕捉とは、網内系を介しての異物排除作用、例えば、マクロファージの関与する貪食作用を含めたものと理解してもよく、結果として、生体内に導入されたナノ粒子が免疫系に認識され標的細胞・標的組織へ送達できなくなること
を意味してよい。
【0018】
本発明で用いられる免疫応答回避能を供与する配位子としては、当該分野で候補化合物として知られているものから選択できるし、ヒトを含めた動物、植物、微生物から得られているもので且つ上記免疫応答回避能を有することが知られているもの又は上記免疫応答回避能を有することが期待されているものから選択できる。代表的な配位子用分子としては、水溶性のあるものが使用でき、例えば、フェノール類又はその誘導体が挙げられる。より具体的には、カテコール又はその誘導体などが挙げられ、例えば、一般式(1):
【0019】
【化1】
〔上式中、Rは、一個又は同一あるいは異なるものが複数個存在していてもよく、水素、
アルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、カルボアルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、シアノアルキル基、及びアシルアミノアルキル基からなる群から選択された基を表す〕
を有している化合物が挙げられる。
【0020】
上記式(1)において、Rにおけるアルキル基とは、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜5の
低級アルキル基あるいはそれ以上の炭素数を有する高級アルキル基であってよいが、炭素数1〜5の低級アルキル基が好ましい。当該低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブ
チル基、n-ペンチル基、neo-ペンチル基などが挙げられ、例えば、メチル基、エチル基などが好ましい。当該高級アルキル基としては、n-ヘキシル基、2-メチル-1-ブチル基、3-
メチル-1-ブチル基、2-メチル-2-ブチル基、3-メチル-2-ブチル基、2,2-ジメチル-1-プロピル基、4-メチル-1-ペンチル基、3-エチル-3-ペンチル基などが挙げられる。Rにおける
カルボアルコキシアルキル基におけるカルボアルコキシ部のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基などが挙げられ、さらに、それらのアルキル部に、
ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボアルコキシ基、フェニル基、p-ニトロフェニル基などからなる群から選択されたものがさらに一個又は複数個置換されているものなどが含まれてよい。Rにおけるアシル基とは、カルボン酸から誘導されるものが挙げ
られ、当該カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、アミノ酸、アミノ酸(例えば、天然アミノ酸)などが挙げられる。
【0021】
典型的な配位子用分子としては、3,4-ジヒドロキシシンナム酸(3,4-dihydroxycinnamic
acid; DHCA)
【化2】
を使用できる。DHCAは、ある種の果実や野菜から抽出されるものであり、毒性のない分子と考えられるものである〔S.Kim, S. Bok, S. Lee, H. Kim, M. Lee, Y. B. Park, M. Choi, Toxycol. Appl. Pharmacol. 2005, 208, 29-36〕。
【0022】
本発明におけるコアナノ粒子としては、高温高圧水環境下、例えば、亜臨界水又は超臨界水中で、金属塩などを含有する溶液(ナノ粒子前駆体水性溶液)を水熱合成反応に付して微粒子形成せしめて合成することのできるものが挙げられる。こうした技術は、特開平
04-50105号公報、特開平6-302421号公報、特開2005-21724号公報、特開2005-194148号公
報、特開2008-162864号公報などに開示があり、その内容は、それらの文献を参照するこ
とにより本明細書の開示に含まれる。例えば、特開平04-50105号公報には、次のような記載がなされている。「金属塩としては、水溶性なら特に限定しないが、IB族金属、IIA族
金属、IIB族金属、IIIA族金属、IIIB族金属、IVA族金属、IVB族金属、VA族金属、VB族金
属、VIB族金属、VIIB族金属、遷移金属等の金属塩が使用できる。例えばCu、Ba、Ca、Zn
、Al、Y、Si、Sn、Zr、Ti、Sb、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni等の硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、オキシ塩酸塩、燐酸塩、硼酸塩、亜硫酸塩、弗酸塩、酸素酸塩等の無機酸塩及び蟻酸、醋酸、クエン酸、蓚酸、乳酸等の有機酸塩が挙げられる。これらの金属塩は、2種以上組み合わせて使用することも可能である。更にこれらの金属の錯体も使用可能である」。ここで、上記IB族金属とは、IUPAC無機化学命名法改訂版(1989)に基づく元素の周期表では第11
族金属で、以下同様にして、上記IIA族金属とは同第2族金属で、上記IIB族金属とは同第12族金属で、IIIA族金属とは同第3族金属で、IIIB族金属とは同第13族金属で、IVA族金属
とは同第4族金属で、IVB族金属とは同第14族金属で、VA族金属とは同第5族金属で、VB族
金属とは同第15族金属で、VIB族金属とは同第16族金属で、VIIB族金属とは同第17族金属
で、遷移金属とは同第6族〜第10族の金属である。
【0023】
また、特開2005-194148号公報には、次のような記載がなされている。「代表的な微粒
子としては、金属酸化物を主要な粒子の構成としているものが挙げられ、以下これを「金属酸化物微粒子」と称する。該金属酸化物微粒子に含まれる金属酸化物中の「金属」としては、典型的にはナノ粒子を製造することが可能なものであれば特に限定されず、当業者に知られたものから選択して使用できる。代表的な金属としては、長周期型周期表で第IIIB族のホウ素(B)-第IVB族のケイ素(Si)-第VB族のヒ素(As)-第VIB族のテルル(Te)の線を境界としてその線上にある元素並びにその境界より、長周期型周期表において左側ないし下側にあるものが挙げられ、例えば、第VIII族の元素ではFe, Co, Ni, Ru, Rh, Pd, Os, Ir, Ptなど、第IB族の元素ではCu, Ag, Auなど、第IIB族の元素ではZn, Cd, Hgなど、第IIIB族の元素ではB, Al, Ga, In, Tlなど、第IVB族の元素ではSi, Ge, Sn, Pbなど、第VB族
の元素ではAs, Sb, Biなど、第VIB族の元素ではTe,Poなど、そして第IIIA〜VIIA族の元素などが挙げられる。金属酸化物としては、Fe, Co, Ni, Cu, Ag, Au, Zn, Cd, Hg, Al, Ga, In, Tl, Si, Ge, Sn, Pb, Ti, Zr, Mn, Eu, Y, Nb, Ce, Baなどの酸化物が挙げられ、
例えば、SiO2, TiO2, ZnO2, SnO2, Al2O3, MnO2, NiO, Eu2O3, Y2O3, Nb2O3, InO, ZnO, Fe2O3, Fe3O4, Co3O4, ZrO2, CeO2, BaO・6Fe2O3, Al5(Y+Tb)3O12, BaTiO3, LiCoO2, LiMn2O4, K2O・6TiO2, AlOOHなどが挙げられる」。ここで、上記長周期型周期表の第IIIB族
とはIUPAC無機化学命名法改訂版(1989)に基づく元素の周期表では第13族で、以下同様に
、上記第IVB族とは同第14族で、上記第VB族とは、第15族で、上記第VIB族とは同第16族で、上記第VIII族の元素とは同第8族〜第10族の元素で、上記第IB族の元素とは同第11族の
元素で、上記第IIB族の元素とは同第12族の元素で、上記第IIIB族の元素とは同第13族の
元素で、上記第IVB族の元素とは同第14族の元素で、上記第VB族の元素とは同第15族の元
素で、上記第VIB族の元素とは同第16族の元素で、そして上記第IIIA〜VIIA族の元素とは
同第3族〜第7族の元素である。 ナノ粒子は、金属酸化物や金属水酸化物の溶解度が加熱することで低くなるものを使用して形成できることも知られており(例えば、特開2005-21724号公報など参照)、したがって、本発明におけるコアナノ粒子としては、上記した技術で形成できる微粒子に対応するもの、すなわち、金属酸化物ナノ粒子や金属水酸化物ナノ粒子であって、上記免疫応答回避能を供与する配位子と上記強い結合で結合するものを挙げることができる。したがって、好適には、上記で挙げられた元素、すなわち、IUPAC
無機化学命名法改訂版(1989)に基づく元素の周期表で第3族〜第17族の元素、さらに好適
には、第11族金属、第12族金属、第3族金属(ランタノイド、アクチノイドを包含する)
、第13族金属、第4族金属、第14族金属、第5族金属、第15族金属、第16族金属、第17族金属、第6族〜第10族の遷移金属などからなる群から選択された金属の金属酸化物や金属水
酸化物から構成されるものが挙げられる。
【0024】
本発明における磁性ナノ粒子は、磁性体ナノ粒子とも称されるもので、例えば、磁場に応答して反応するもの、さらには、電磁波に応答して発光したり、あるいは、電磁波を吸収して発熱し、人体に実質的に無害なものなどが挙げられ、そうしたものであれば、如何なるものであってもよいが、特には人体に吸収されにくい周波数の電磁波を吸収して発熱するものが好適に使用されてよい。好ましい磁性ナノ粒子としては、金属酸化物からなるナノ粒子、特には金属酸化物結晶からなるナノ粒子を挙げることができる。ナノ粒子が金属酸化物結晶から構成されることあるいはナノ粒子が良好な結晶性の金属酸化物から構成されることは、例えば、X線を使用した分析、例えば、X線回折装置(XRD: X-ray Diffractometer)などを使用した解析・分析より確認できる。
磁性金属酸化物ナノ粒子としては、当該分野で磁性金属酸化物あるいは磁性体金属酸化物として知られている群から選択されたものであってよく、典型的には強磁性体として知られたものから好ましく選択されることができる。こうした金属酸化物としては、一般式(3):
【0025】
【化3】
〔上式中、Maは、二価の金属原子を表わし、Mbは、三価の金属原子を表わし、mは、0≦m
≦1の範囲内の正の数である〕で示されるものを挙げることができる。
【0026】
上記式(3)において、二価の金属原子Maとしては、元素の周期表(IUPAC無機化学命名法改訂版(1989)に基づく、以下同様)第2族、第12族、第14族などの典型金属元素、第3族
、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族などの遷移金属元素(希土類元素、ランタノイ
ド、アクチノイドを包含する)などから選択されたものであり、例えば、Mg、Ca、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Sr、Ba、Pbなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で使用するか、あるいは、二種以上を併用することもできる。そして、三価の金属原子Mbとしては、元素の周期表(IUPAC無機化学命名法改訂版(1989)に基づく)第13族などの典型金属元素、第3族、第8族などの遷移金属元素(希土類元素、ランタノイド、アクチノイドを包含する)など
から選択されたものであり、例えば、Al、Fe、Y、Nd、Sm、Gdなどが挙げられ、これらは
それぞれ単独で使用するか、あるいは、二種以上を組み合わせて併用することもできる。上記式(3)において、三価の金属原子Mbが、三価の鉄である磁性金属酸化物はフェライトとして知られるものである。
【0027】
代表的な磁性金属酸化物ナノ粒子としては、例えば、酸化鉄及びフェライトからなる群から選択されたものが挙げられる。ここで酸化鉄としては、とりわけ、Fe3O4(磁鉄鉱、
マグネタイト: magnetite)を挙げることができるが、γ-酸化鉄(γ-Fe2O3、磁赤鉄鉱、マグヘマイト: maghemite)などであってもよい。ある場合には、酸化鉄は、Fe3O4やγ-Fe2O3といったものの中間体、混合物も許容されてよい。
【0028】
フェライトとしては、一般式(4):
【化4】
〔上式中、Maは、二価の金属原子を表わし、nは、0≦n≦1の範囲内の正の数である〕で示されるものを挙げることができる。ここで、二価の金属原子Maとしては、元素の周期表第2族、第12族、第14族、第15族などの典型金属元素、第3族、第7族、第9族、第10族、第11族、第12族などの遷移金属元素(希土類元素、ランタノイド、アクチノイドを包含する)などから選択されたものであり、例えば、Mg、Ca、Mn、Ni、Co、Cu、Zn、Sr、Ba、Pb、Y
、Nd、Sm、Gdなどが挙げられる。
【0029】
より具体的には、フェライトとしては、スピネルフェライト〔一般式(5):
【化5】
(ここで、Maは、Mn、Co、Ni、Cu、Znなど)〕、マグネトプランバイト型フェライト(六方晶フェライト)〔一般式(6):
【化6】
(ここで、Maは、Ba、Sr、Pbなど)〕などが挙げられる。上記式(5)及び(6)で示される磁性金属酸化物の具体例としては、例えば、MgFe2O4などが挙げられる。
【0030】
さらに、磁性金属酸化物としては、一般式(7):
【化7】
あるいは、一般式(8):
【化8】
〔上式中、Maは、二価の金属原子を表わし、Mcは、四価の金属原子を表わす〕で示されるものを挙げることができる。ここで、二価の金属原子Maとしては、前述したものを挙げることができ、また、四価の金属原子Mcとしては、元素の周期表第5族、第6族、第7族など
の遷移金属元素などから選択されたものであり、例えば、V、Cr、Mn、Snなどが挙げられ
る。上記式(7)及び(8)で示される磁性金属酸化物の具体例としては、例えば、BaSnO3、NiMnO3、CoMnO3、CrO2などが挙げられる。本明細書中の一般式(3)乃至(8)の表示は、金属分析又はX線回折分析、蛍光X線分析、フーリエ変換赤外線分光分析などによる測定により得られた磁性体粒子の組成を意味する。
【0031】
本発明の免疫応答回避ナノ粒子は、一個の単一の免疫応答回避ナノ粒子において、ナノ粒子のコア(核又は芯)に共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合(共有結合的な結合)で、少なくとも一個の免疫応答回避能を供与する配位子分子又は複数個の該配位子分子が結合しているものである。より具体的な態様では、本発明の免疫応答回避ナノ粒子は、単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子(又は金属水酸化物ナノ粒子)のコアに、共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合(共有結合的な結合)で、少なくとも一個の免疫応答回避能を供与する配位子分子又は複数個の該配位子分子が結合しているもので、免疫応答回避表面修飾型金属酸化物ナノ粒子(又は免疫応答回避表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子)である。
ここで、共有結合に匹敵する強い結合あるいは共有結合的な結合とは、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis; TGA)により評価され、単なる吸着結合やイオン結合、疎水性
結合、水素結合より強く結合しており、共有結合と同等と評価されるものを意味すると解してよい。
当該一個のコア金属酸化物ナノ粒子(あるいはコア金属水酸化物ナノ粒子)の表面に結合している当該配位子分子の数は、少なくとも一個であるが、それ以上の複数個が結合している場合も包含されるものであり、例えば、2〜10個が結合していてもよく、典型的には2〜8個が結合していてよく、さらには3〜6個が結合しているものであってよく、より具体的には4個が結合しているものが挙げられる。一つの具体的な態様では、当該免疫応答回避表面修飾型ナノ粒子においては、配位子分子の一分子あたり、2個の共有結合でもって、例えば、2個の−O−基を介して、一個のコアナノ粒子の表面に該配位子分子が
結合している。代表的な配位子としては、二座配位子が挙げられ、例えば、カテコール分子の互いにオルト位にある水酸基から導かれる2個の−O−基を介してコアナノ粒子構成金属元素に結合するものが挙げられる。
【0032】
本発明で得られる免疫応答回避能を有している表面修飾型金属酸化物ナノ粒子としては、例えば、一般式(9):
【化9】
〔上式中、CNPは、コア金属酸化物ナノ粒子であり、Rは、一個又は同一あるいは異なるものが複数個存在していてもよく、水素、アルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、カルボアルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、シアノアルキル基、及びアシルアミノアルキル基からなる群から選択された基を表す〕
を有している金属酸化物ナノ粒子が挙げられる。
【0033】
上記式(4)において、コア金属酸化物ナノ粒子CNPは、上記で説明したナノ粒子、特
には上記で具体的に例示説明した磁性金属酸化物ナノ粒子を挙げることができる。上記式(4)でのRとしては、上記式(1)において説明したものと同様なものが挙げられる。
本発明の一つの具体的態様では、免疫応答回避能を有している表面修飾型金属酸化物ナノ粒子としては、一般式(10):
【0034】
【化10】
〔上式中、CNPは、上記式(9)と同様のコア金属酸化物ナノ粒子を表す〕に示された構
造を有するものが挙げられる。本発明のさらに別の一つの具体的態様では、免疫応答回避能を有している表面修飾型金属酸化物ナノ粒子としては、一般式(11):
【0035】
【化11】
あるいは、一般式(12):
【0036】
【化12】
〔上式中、CNPは、上記式(9)と同様のコア金属酸化物ナノ粒子を表す〕に示された構
造を有するものが挙げられる。上記式(9)〜(12)において、代表的なコア金属酸化物ナノ粒子としては、Fe3O4ナノ粒子が例示される。
【0037】
本発明の表面修飾型ナノ粒子を製造する方法は、高温高圧状態にある水が存在する条件下でナノ粒子と配位子分子を反応させることで、配位子分子で表面が修飾されたナノ粒子を形成させることにより行われる。本高温高圧状態にある水とは、下記で説明するように、例えば、亜臨界水又は超臨界水であり、その反応場での水熱合成反応を利用すること並びに表面修飾剤である配位子分子を利用することで、ナノ粒子のサイズ(ナノ粒子の直径などのサイズを包含する)などを、精確にコントロールして、好ましくは均一なサイズの粒子集団からなる生成物を製造することを可能にする。該ナノ粒子と配位子分子との反応は、コアとなるナノ粒子を含有する水性ゾル又は懸濁液あるいはそれらのスラリー液を調製した後、これを当該配位子分子と反応させるものでもよいが、好適には、高温高圧状態にある水が存在する環境中に、高圧状態にされたナノ粒子前駆体水性溶液と配位子分子を含有する水性溶液を供給するか、あるいは、高圧状態にされたナノ粒子前駆体と配位子分子を含有する水性混合物溶液を供給することにより、反応させる方法が挙げられる。
【0038】
ナノ粒子前駆体としては、例えば、金属塩、金属錯体、金属化合物、金属配位化合物などが挙げられ、特には水溶性の金属塩などを好適に使用できる。金属塩としては、上記したもの、あるいは、上記で説明した金属元素の塩などが挙げられる。ナノ粒子前駆体水性
溶液としては、金属酸化物の水性ゾル又は懸濁液、金属水酸化物の水性ゾル又は懸濁液、さらにそれらのスラリーを含有する水性液であってもよいが、好適にはコアナノ粒子を構成する金属酸化物又は金属水酸化物源となる金属イオン又は金属錯体イオンなどを含有している水性溶液を使用できる。当該水性溶液を調製する場合の媒質としては、水であるが、場合によっては、水混和性のある有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、ギ酸、酢酸などのカルボン酸類などからなる群から選択されたものを水に添加してある水性混合物を利用することもできる。
【0039】
一つの具体的態様においては、磁性ナノ粒子源となる金属塩水溶液は、それ自体既知の方法で調製することができ、例えば、三価の金属塩又は三価の金属塩及び二価の金属塩を水性媒質に溶解して調製される。代表的な三価の金属塩としては、第二鉄塩が挙げられる。代表的な二価の金属塩としては、第一鉄塩、鉄以外の他の二価金属塩、例えばマグネシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、ニツケル、銅、バリウム、ストロンチウム等の金属の塩などが挙げられる。これら二価の金属塩は1種のみ又は複数種を同時に用いてもよい。金属塩としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酸素酸等の鉱酸との塩、酢酸、クエン酸、シュウ酸、アセチル酢酸等の有機酸との塩などを挙げることができる。二価の金属塩及び三価の金属塩を配合する場合、その比率は特に限定されず、所望の目的物を与えるように選択できるが、例えば、モル比で約1:4乃至約3:1、好ましくは約1:3乃至1:1の割合で水性媒体中に溶解する。
【0040】
また、二価の金属塩は、例えば、第一鉄塩の1部、例えば約半量を他の二価金属塩、例えばマグネシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、ニツケル、銅、バリウム、ストロンチウム等の少なくとも1種の金属の塩と置き換えることができるし、このように複数の二価の金属塩を組み合わせて配合できる。金属塩水溶液の濃度は広い範囲にわたって変えることができるが、通常約0.0001〜約1M、好ましくは約0.001〜約0.1Mの範囲内が適当である。
金属塩水溶液は、酸又は塩基によって、そのpH値を調整することができる。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酸素酸等の鉱酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、アセチル酢酸等の有機酸などを挙げることができる。塩基としては、例えば、NaOH、KOH等のア
ルカリ金属水酸化物;アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ヒドロキシメチルアミン等のアミン類などから選ばれる少なくとも1種を使用することができる。典型的な場合、当該磁性ナノ粒子前駆体液は、例えば、pH7〜12になるように調整されていて
よい。さらに、当該磁性ナノ粒子前駆体液は、その調製を通常空気雰囲気下で行なうことができるが、所望によりN2及びArガス等の不活性ガス下で行なうことも可能である。当該磁性ナノ粒子前駆体液には、所望によりO2ガスなどの酸化性ガス、あるいはH2ガス等の還元性ガスを導入してもよい。さらに、ギ酸などの、当該反応条件で分解して還元性条件を供与するものなどを添加することもできる。当該磁性ナノ粒子前駆体液としては、磁性酸化鉄水性ゾル、金属水酸化物水性ゾルなどの水性ゾル又は懸濁液、スラリー液の状態であるものを使用することもできる。
【0041】
コアナノ粒子の表面を修飾するために使用する配位子分子の量は、用いる金属塩中の金属のモル量を基準にして約0.01〜約10倍、好ましくは約0.5〜約5倍とすることができる
が、例えば、等モルとすることが適している。また、配位子分子溶液の濃度も厳密に制限されるものではないが、通常約0.0001〜約1M、好ましくは約0.001〜約0.1Mの範囲内が適
当である。各水溶液の添加および混合は撹拌下に室温などの常温で行なうことができ、必要に応じて塩基又は酸を添加してpHを調整することができる。
【0042】
本発明の方法で、高温高圧状態にある水とは、亜臨界又は超臨界状態にある高温高圧水、すなわち、亜臨界水(sub-critical water: sub-CW)、又は超臨界水(super-critical water: SCW)である。水の臨界温度は374.2℃、水の臨界圧力は22.12MPaであるので、これを
参考に反応温度・反応圧力を選択できる。具体的には、亜臨界水とは、水の超臨界点よりわずかながら温度及び/又は圧力が低い状態にある水を指しており、例えば、温度でいうと150℃以上の領域から臨界温度374℃までというように、その温度が水の臨界温度より低く、且つ、圧力が水の臨界圧力22MPa又はそれ以上の圧力である領域が挙げられる。
一つの具体的な態様では、反応を行う系(例えば、恒温ゾーンにあるリアクター(反応器))に供給する原料混合物液の圧力を、水の臨界圧力22.12MPa又はそれ以上のもの(例えば、30MPaあるいは35MPaなど)とし、おおよそ150℃にまで加温されたといったように
所定反応温度近傍にまで加熱せしめられた原料混合物液を、反応温度として250℃になる
ように設定されたリアクター(亜臨界水下での反応)に供給あるいは反応温度として390
℃になるように設定されたリアクター(超臨界水下での反応)に供給するといった手法で、反応場である亜臨界又は超臨界状態にある高温高圧水が存在する条件を達成できる。
【0043】
典型的な亜臨界水の領域は、圧力が臨界圧力22MPa又はそれ以上であり、且つ、180℃以上の温度から臨界温度374℃の領域、あるいは、200℃以上の温度から臨界温度374℃の領
域、あるいは、250℃以上の温度から臨界温度374℃の領域、300℃以上の温度から臨界温
度374℃の領域などが挙げられる。もちろん、亜臨界水の領域は、10.0 MPa以上の圧力か
ら臨界圧力22MPaの領域、あるいは、15.0 MPa以上の圧力から臨界圧力22MPaび領域、あるいは、18.0 MPa以上の圧力から臨界圧力22MPaの領域、あるいは、20.0 MPa以上の圧力か
ら臨界圧力22MPaの領域なども含まれてよい。
本発明の表面修飾型ナノ粒子の形成反応においては、その反応温度としては、例えば、150〜500℃、好ましくは200〜450℃、より好ましくは220〜400℃、さらに好ましくは230
〜360℃であり、その反応圧力としては、例えば、20〜50MPa、好ましくは22〜45MPa、よ
り好ましくは22〜40MPa、さらに好ましくは25〜35MPaである。
【0044】
反応の方式としては、バッチ式(回分式)、セミバッチ式(半回分式)で行うこともできるが、好ましくは耐圧性の管型又は槽型などのフロー型リアクター(流通型反応器)を用いる連続法を使用でき、特には管型のリアクターを利用する連続法を好適に利用できる。
本発明の合成法で利用される典型的なフロー型リアクターの概略構成図を、図1に示す。図1に示すように、当該装置は、蒸留水、脱イオン水、あるいは純水を溜めておく水供給源槽(脱イオン水供給槽)から亜臨界水又は超臨界水となる水を供給する水供給路と、ナノ粒子原料であるナノ粒子前駆体溶液(金属塩-配位子分子水溶液など)を供給する原
料供給路を備えており、両供給路は、混合部、すなわち、高温高圧水と高圧ナノ粒子前駆体溶液との会合点(接点、ジャンクション、8)で互いに接続してある。
【0045】
上記水供給路(3)には、水を臨界圧力以上に加圧するための加圧手段、すなわち、高圧ポンプ(2)と、この高圧水を亜臨界温度以上又は臨界温度以上の所定の温度に加熱するための加熱手段、すなわち、加熱炉4とが順に設けてある。
上記原料供給路(7)には、金属塩と配位子分子を含有する水溶液などの原料液を加圧するための加圧手段、すなわち、高圧ポンプ(6)が設けてある。所望により、原料供給路には、加圧された原料液を所定の温度に加熱するための加熱手段、すなわち、加熱炉を設けておくこともできる。また、修飾剤である配位子分子水溶液を、金属塩水溶液に混合して原料液とする代わりに、別途別の原料供給路を設けて、所定の場所で、反応系に導入するようにしてもよい。
【0046】
上記接点(ジャンクション、8)で混合せしめられて得られた混合物は、等温ゾーン9に配置されたリアクターに導入されることになる。リアクターは、溶融塩浴ジャケットなどで覆われて、恒温ゾーンとなっており、所定の反応温度となるようにされている。温度は、例えば、熱電対を備えた温度センサなどによりモニターできる。次に、反応混合物は、水冷ジャケット(10)、フィルター(11)、圧力調整弁、例えば、バックプレシャ
ーレギュレーター(12)を通り、粒子溜、すなわち、生成物受槽(13)へと移動する。
【0047】
得られた表面修飾型ナノ粒子を含む生成物は、適宜、必要に応じて、ろ過処理することにより、凝集物を除去することができるし、さらに、遠心処理、デカンテーション処理、蒸留水、純水などによる洗浄処理、希KOH水溶液などの希アルカリ水溶液などを使用し再
分散化処理と遠心分離処理を繰り返すなどしてナノ粒子を洗浄できる。こうして得られる本発明のナノ粒子は、それ自体既知の方法で乾燥し、例えば、好ましくは凍結乾燥することにより、粉末の形で取得することもできる。
【0048】
本発明の表面修飾型ナノ粒子は、水分散性に優れており、その水性分散液中で、安定に分散状態が保持できることから、本発明の表面修飾型ナノ粒子の水性分散液は保存安定性もきわめて高いものである。本発明のDHCAで表面修飾されたFe3O4ナノ粒子(DHCA表面修
飾型Fe3O4ナノ粒子)は、低毒性のものであることが期待できる。このように本発明の表
面修飾型ナノ粒子は、低毒性である可能性が高いものであると期待される。さらに、本発明の表面修飾型ナノ粒子は、免疫応答回避能(あるいは生物的なステルス能)を有しているか、又は免疫応答回避(あるいは生物的なステルス能)を有していると期待できるものである。また、本発明の表面修飾型ナノ粒子は、生体に投与された場合、半減期(half-life)が比較的長いことが観察されるものである。こうした特徴は、表面が修飾されていな
いナノ粒子(非修飾型ナノ粒子)と比較してのものであってよい。
【0049】
本発明の免疫応答回避表面修飾型ナノ粒子は、生物医学的な用途、例えば、生物学分野および医療分野における利用に特に適している。当該ナノ粒子は、動物の免疫系に捕捉されずに効率よく標的組織や標的細胞へそれを送達できると期待できる。さらに、表面を修飾している配位子のカテコール単位のフェニル環上に官能基を有する置換基(例えば、-CH2-CH2-COOHなどのR基)を配置できるので、その官能基を使用して、当該分野で知られている手法、例えば、酵素標識抗体などの標識抗体、修飾タンパク質などで利用されるカップリング剤などを利用したカップリング技術を適用して、特定の腫瘍細胞や特定の標的細胞を特異的に認識する抗体などを結合させたり、さらには、特定の生理活性物質(サイトカイン、細胞傷害性因子、抗ガン因子、細胞毒性因子、抗生物質など)を結合させることができる。当該官能基を使用するにあたっては、例えば、COOH基は、そのままエステル交換反応で利用したりできるが、好ましくは、反応性の官能基に変えられる。この変換工程は、当該分野では一般的に、活性化と称される。当該活性化処理して得られた生成物は、活性化表面修飾ナノ粒子であり、それは直接に対象とする物質とカップリングさせることもできるし、あるいは、リンカー又はスペーサーを介して対象とする物質と結合させることもできる。
【0050】
こうして得られた物質は、標的指向性ナノ粒子として有用であり、ヒトや動物などで、標的組織のイメージング、磁気温熱療法、中性子捕捉療法、蛍光イメージングなどにおける研究開発用試薬、診断剤、治療剤などとして有用である。また、当該ナノ粒子は、少投与量(マイクロドーズ)で高性能なイメージングプローブを達成可能であり、標的指向性因子を結合することで、ガン、動脈硬化の新しい診断・治療法開発に資するものとなり、創薬に応用できる。
本発明の免疫応答回避表面修飾型磁性金属酸化物ナノ粒子は、安定した水性分散液を与えるので、いわゆる磁性流体としてメカニカルシール材、磁気クラツチ、磁気インクなどの工業分野に使用することができる。さらに、本発明の免疫応答回避表面修飾型磁性金属酸化物ナノ粒子は、高標的送達性を達成することが期待でき、好ましく、生物学分野および医療分野、例えば、細胞分離、細胞標識剤、ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System: DDS)などを含む医療用ナノ粒子、腫瘍の温熱療法剤、鉄補給剤、X線造影剤
、MRI造影剤、血管造影剤、リンパ節造影剤、血流の測定、さらには磁場を利用する局所
への薬物の集中的投与及び/又は生物由来物質の回収又は除去の際の担体等として有用である。
当該ナノ粒子(例えば、金属酸化物ナノ粒子や金属水酸化物ナノ粒子)は、触媒、記憶材料、発光材料、蛍光材料、二次電池用材料、電子部品材料、磁気記録材料、研摩材料、オプトエレクトロニクス、医薬品、化粧品などの広範な分野での利用が期待できる。本磁性ナノ粒子は、磁性流体、高密度記録材料、医療診断材料など多くの応用が期待される。
【0051】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0052】
(1)水分散性Fe3O4ナノ粒子の合成
FeSO4水溶液(40mM)と3,4-ジヒドロキシシンナム酸(DHCA)水溶液(40mM)を等容量
で混合して、反応体混合物溶液を調製し、そこに5.0M KOH水溶液を加えて、その溶液のpHを9.5に調整した。こうして調製された混合物溶液を、ナノ粒子前駆体である反応体混合
物溶液とした。磁性体ナノ粒子の合成は、フロー型リアクターを使用した。使用したフロー型リアクターの構成を図1に示す。内径1.8mmの直径のSUS 316管を通して高圧ポンプ(日本精密科学(株)、NP-KX-540)でもって、10ml/minの流速で脱イオン水をポンプ送出
し、電気炉4で400℃に加熱せしめた。
【0053】
ナノ粒子前駆体である反応体混合物溶液は、別途、別の配管系を通して3ml/minの流速
でポンプ送出せしめられた。高温高圧にされた水と当該ナノ粒子前駆体の反応体混合物溶液とが出会う接点(ジャンクション、8)で両者は混合せしめられ、その反応混合物はおおよそ200〜400℃の高温にせしめられることになる。混合せしめられた流れ(フロー)の温度は、温度センサの熱電対によってモニターした。等温ゾーン9を通した後、得られた反応混合物液は、水冷ジャケットを通過せしめて、室温に急速冷却せしめられた。反応ゾーン中の滞留時間は1.8秒間であった。具体的な反応温度としては、230、260、300、350
、360℃の温度で合成を行った。冷却された生成反応混合物は、0.5mmフィルター(Swegelok, TFシリーズ)を通して濾過処理せしめられて、凝集物を取り除いた後、系の圧力を30MPaに保持するためのバックプレシャーレギュレーター(TESCOM, 26-1700シリーズ)から取り出した。得られた生成物は、遠心処理、デカンテーション処理、0.01M KOH水溶液へ
の再分散化処理からなるサイクルを3度繰り返して洗浄せしめられた。
回収された生成物は、蒸留水中に良好に分散化せしめられるものであり、その水溶液の色は、黒色であった。
【0054】
(2)合成された無機粒子の特性の解析
上記(1)で合成された無機物質の特性を調べるため、X線回折法(X-ray diffraction; XRD)にかけ、20〜80°の範囲の2θをRIGAKU Ultima IV(RIGAKU,日本)に記録せしめ
た。
図2には、当該生成物のXRDパターンが示してある。その散乱X線パターンのすべては
、それがマグネタイト(magnetite, Fe3O4 JCPDS 86-1354)であると同定されるものであり、230、260、300及び360℃の反応温度で得られたもののその格子定数a=8.42、8.41、8.43及び8.43Åのそれぞれは、報告されたFe3O4の格子定数a=8.432Å〔R. E. Bailey, S. Nie, "The Chemistry of Nanomaterials: Synthesis, Properties and Application" (Eds: C. N. R. Rao, A. Muller, A. K. Cheethan), WILLEY-VCH, Weinheim, 2004, pp. 405
〕と良好な一致をみるものであった。
また、{311}面のピークを使用してシェラーの式(Sherrer's equation)を使用して、
結晶サイズ(crystallite size)を評価した。それぞれ、230、260、300、350℃の反応温度で製造されたFe3O4結晶のサイズは、10.5、13.2、16.2、17.6 nmというものであった。こうした結晶サイズの値は、粉末X線回折法により評価した結晶のサイズとほとんど同じものであり、その合成された粒子が、単一の結晶であることを示すものである。
【0055】
(3)合成Fe3O4ナノ粒子の分散液の安定性
上記(1)で合成されたFe3O4ナノ粒子の水性媒体への分散性を調べた。水及び食塩水(0.9%NaCl水溶液)に、それぞれ分散せしめられた合成Fe3O4ナノ粒子の分散液1mg/mlの外
観を示す写真を、図3に示す。液は、両者とも良好に分散せしめられているものであった。すなわち、本発明の合成されたFe3O4ナノ粒子は、水や食塩水(0.9%NaCl水溶液)に良好に分散せしめることができるものであった。1ヶ月静置の後でも沈殿や凝集は確認できなかった。
さらに、本発明の製造されたFe3O4ナノ粒子の流体力学的な直径を、動的光散乱法(dynamic light scattering; DLS)法により測定分析して評価した。300℃の反応温度で製造さ
れたFe3O4ナノ粒子についての結果を、図4に示す。そのFe3O4ナノ粒子の流体力学的な直径は、16.2 nmというもので、それはTEM (16.3 nm)やXRD (16.2 nm)により決定された粒
子のサイズとほぼ同様なものであった。これは、当該合成されたナノ粒子が、凝集することなく水の中に分散していることを示唆するものであった。図5には、様々な反応温度で合成されたFe3O4ナノ粒子の透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope: TEM)のイメージを示す。
【0056】
(4)合成されたFe3O4ナノ粒子のFT-IRスペクトル
本発明の生成Fe3O4ナノ粒子が、何故、水に良好な分散性を示すのかを調べるため、そ
の合成されたナノ粒子の表面の特性を調べた。すなわち、Fe3O4上にDHCAが結合している
か否かを確認するために、その合成されたFe3O4ナノ粒子をフーリエ変換赤外分光分析(Fourier Transform Infrared Spectroscopy; FT-IR)にかけ分析し、データを4000〜600cm-1の波長域でFT/IR 680(JASCO Co. Ltd., 日本)に記録せしめた。試料(サンプル)はKBrと一緒に混合粉末化した後、圧縮して、ペレットにせしめた。バックグラウンドスペクトルとしては、純KBrペレットを標準物として用いて測定した。
300℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子のFT-IRスペクトルを図6に示す。そこに
は1484及び1259cm-1にシャープなピークが観察された。これらのピークは、カテコールアニオンを特徴付けるピークであり、それはカテコールアニオンがその金属酸化物の表面に共有結合的に結合していることを示すものである。1627cm-1のシャープなピークは遊離のCOOH基があることを示すものである。もしCOOH基が金属酸化物の表面に結合しているなら、1580cm-1近傍にシャープなピークが観察されよう。しかし、本ナノ粒子では、1580cm-1近傍にはピークは認められない。これは、Fe3O4に結合しているDHCAのCOOH基はすべて、Feイオンに結合しているのではなくて、溶媒側に面していることを示すものである(図7
)。
【0057】
(5)合成Fe3O4ナノ粒子の等電点
合成Fe3O4ナノ粒子のゼータポテンシャルを、Zetasizer Nano instrament (Malvern instrument)を使用して測定した。図8には、合成Fe3O4ナノ粒子のゼータポテンシャルを示す。そのゼータポテンシャルはpHの低下と共に徐々に大きくなり、pH4.0で0に達した。
非修飾のFe3O4の等電点は8.00である〔R. E. Bailey, S. Nie, "The Chemistry of Nanomaterials: Synthesis, Properties and Application" (Eds: C. N. R. Rao, A. Muller, A. K. Cheethan), WILLEY-VCH, Weinheim, 2004, pp. 405〕。DHCAのCOOH基のpKaは4.2である〔S. Kim, S. Bok, S. Lee, H. Kim, M. Lee, Y. B. Park, M. Choi, Toxycol. Appl. Pharmacol. 2005, 208, 29-36〕。本合成Fe3O4ナノ粒子の等電点(4.0)は、DHCAのCOOH
基のそれとほぼ同じ値であり、それによりそのCOOH基はそのナノ粒子の表面上に存在していることが示されている。この結果は、上記FT-IRの結果を支持するものであった。
【0058】
(6)当該Fe3O4ナノ粒子の上にあるDHCAの被覆度
Fe3O4上に結合しているDHCA分子の量を熱重量分析法(thermogravimetric analysis, TGA)により評価した。TG測定は、TGDTA T8120(Rigaku,日本)を使用して行った。測定
はすべて30mL/minのアルゴンの一定流の下で行われた。温度は最初、105℃で30分間保持
して水分を殆んど除去し、ついで10℃/minの速度で800℃まで昇温せしめた。
各サンプルの初期重量は、約5mgとした。測定したTGA曲線はすべて、固体部のみを測定したことを確認するため、105℃での重量に関して正規化処理せしめられた。本合成Fe3O4ナノ粒子の熱重量分析値を図9に示す。280℃でその重量が顕著に低下した。それはDHCA
が離脱または分解したことを示すと考えられる。加えて、すべての合成Fe3O4上におけるDHCAによる被覆度は、約4分子/nm2というものであり、それは反応温度を変えても大きくは変化するものでなかった(表1参照)。表1は、様々な反応温度で合成されたFe3O4ナノ
粒子におけるDHCAの被覆度を評価分析した結果を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
(7)磁気的性質
超伝導量子干渉型磁束計(Superconducting Quantum Interference Device; SQUID)を使用して、本発明の水分散性の表面修飾型Fe3O4ナノ粒子の磁気的性質を調べた。290K及び5Kで測定された、16.2 nmの直径を持っているナノ粒子の磁化曲線、すなわち、磁化-磁界曲線(M-H曲線)を図10に示す。
290Kの温度では、当該表面修飾型ナノ粒子は、超常磁性(superparamagnetic property)を有していた。一方、5Kの温度では、24.2 emu/gの残留磁束密度と340 Oeの保磁力の
典型的な強磁性ヒステリシス曲線(ferromagnetic hysteresis loop)が観察されるもので
あった。290Kの温度での飽和磁気モーメントは、75.43 emu/gで、5Kの温度での飽和磁気モーメントは、86.67 emu/gである。これらの値は、バルクのマグネタイトで報告され
ている値(理論値92 emu/g、実測値82 emu/g〔D. K. Kim, M. Mikhaylova, Y. Zhang, M.
Muhammed, Chem. Mater. 2003, 15, 1617-1627〕)と殆んど同じであり、これにより、
本発明で合成された表面修飾型Fe3O4ナノ粒子、すなわち、表面修飾型マグネタイトは、
理想的なマグネタイト(磁性体)として機能するものであることが示唆される。
【実施例2】
【0061】
本発明で合成された表面修飾型Fe3O4ナノ粒子は、超常磁性で、そのサイズは10〜20 nmのものであって、水や生理食塩水(0.9% NaCl水溶液)に良好に分散するものであり、それ
故に、医療用途において使用するのに望ましい性状のものである。
そこで、その合成された表面修飾型Fe3O4ナノ粒子の免疫刺激作用について調べた。
ナノ粒子を体内に導入すると、マクロファージの生体防御作用に影響を与える恐れがある〔G. Bate, Recording Materials, in Handbook of Ferromagnetic Materials, Vol. 2
, Ch. 7 (Ed: E. P. Wohlfarth), North Holland, Amsterdam, 1980, p.381〕。ナノ粒子を導入してマクロファージを刺激すると、貪食作用(phatocytosis)によりそのナノ粒子はマクロファージに取り込まれ、ナノ粒子は血管中を自由に移動することができなくなり、その結果、血中のナノ粒子の半減期寿命が短縮されることになる。それ故に、ナノ粒子を医学用途や生物学的な用途に用いるためには、特にインビボ(in vivo)で、マクロファ
ージをナノ粒子で刺激することを抑制することが求められている。
【0062】
免疫応答を刺激する程度を調べるため、マウスの樹状細胞(dendritic cell: DC)と上記で合成された表面修飾型Fe3O4ナノ粒子(直径17.2 nm)とを一緒に培養処理した後、サイトカイン生産について測定を行い調べた。侵襲性の物質が与えられると適切な免疫応答を生成する中で、樹状細胞はマクロファージと一緒になり重要な役割を果たしていることが知られている〔K. R. Vega-Villa, J. K. Takemoto, J. A. Yanez, C. M. Remsberg, M. L.
Forrest, N. M. Davis, Adv. Drug. Deliv. Rev. 2008, 60, 929-938〕。
【0063】
(樹状細胞の調製及び培養)
C57BL/6マウスより得た骨髄(bone, marrow, BM)細胞を、10%FCS,100U/mlペニシリンG
、100μg/mlストレプトマイシンと20ng/mlのマウス顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(murine GM-CSF, Wako, 大阪,日本)を含有している50μM 2-メルカプトエタノール
液を添加したRPMI1640培地10ml中で2×105個/mlで培養した。3日目に、同じ培地をさら
に10ml添加し、6日目にそのGM-CSFを含有する培養培地でもって培地の半分を置き換えた。8日目に非接着性の細胞を集め、BM誘導樹状細胞(BM-DCs)として使用した。
その得られた細胞を0.01〜0.1mg/mlのFe3O4又は合成Fe3O4ナノ粒子と共に1×105個/mlの細胞濃度として5%CO2インキュベーター中、37℃で24時間培養した。マウスを使用した
実験は東北大学の倫理委員会により承認されたガイドラインに従って行われた。
【0064】
マウス樹状細胞の免疫刺激の程度を、産生されるサイトカインの濃度により調べた結果を、図11に示す。濃度範囲 1〜100μg/mlでは、表面修飾型Fe3O4と一緒に培養してもマウス樹状細胞からのサイトカインの産生は認められなかったが、LPSでは著しい免疫応答
が誘導された。これにより、上記で合成されたDHCA表面修飾型Fe3O4ナノ粒子は、免疫学
的な反応を刺激することはないことが示された。
実施例1(1)に記載の方法に従い、DHCAに代えて、カテコール又は4−メチルカテコールを使用して、カテコール又は4−メチルカテコール表面修飾Fe3O4ナノ粒子を合成し
、この得られた表面修飾Fe3O4ナノ粒子について、同様にアッセイした結果を、図12に
示す。
【0065】
本発明で得られた表面修飾型Fe3O4ナノ粒子の流体力学的な直径は、<20 nmというもので、ポリエチレングリコールなどの水に親和性があるポリマーでもって被覆することなしで、水性媒質に非常に良好に分散する。これが、本表面修飾型Fe3O4ナノ粒子によりマウ
スの樹状細胞が刺激されることがない理由かもしれない。本表面修飾型Fe3O4ナノ粒子は
、血中で長い半減期寿命を有しており、血管中を安定して移動するものであると思われる。つまり、本発明の表面修飾型金属酸化物ナノ粒子が免疫ステルス能あるいは免疫応答回避能を有していることを示している。
【0066】
かくして、本発明で得られた表面修飾型Fe3O4ナノ粒子などの表面修飾型金属酸化物ナ
ノ粒子は、生体中で安定な金属酸化物ナノ粒子に、安全な配位子分子でもって被覆を施したもので、その上に、標的指向性因子を結合させるなどして、修飾可能であり、それにより、免疫応答回避機能あるいはステルス機能と水溶性(水分散性)、標的細胞や標的組織(例えば、ガン組織、動脈硬化病巣など)へのアクティブ・ターゲッティング機能を賦与したナノ粒子、すなわち、標的細胞指向性ステルスナノ粒子を製造することを可能にする。当該粒子を使用して、免疫細胞、動物アッセイ系で評価可能であり、動物モデルを含め
て、標的組織集積性、標的組織イメージング、磁気温熱療法や中性子捕捉療法などにおいて、研究開発用デバイス、生物医学用薬などとして有用である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明で得られる免疫応答回避表面修飾型ナノ粒子は、生物医学的な用途、診断・治療法や医薬の開発に利用することができて有用である。さらに、標的組織のイメージング、磁気温熱療法、中性子捕捉療法、蛍光イメージングなどにおける研究開発用試薬、診断剤、治療剤などとして有用である。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0068】
1:水供給源槽(脱イオン水供給槽)
2、6:高圧ポンプ
3:高圧水供給配管
4:加熱炉
5:ナノ粒子前駆体供給源槽(金属塩-配位子分子液供給槽)
7:高圧ナノ粒子前駆体溶液供給配管
8:高温高圧水と高圧ナノ粒子前駆体溶液との会合点(接点、ジャンクション)
9:等温ゾーン(ナノ粒子形成反応ゾーン)
10:水冷ジャケット
11:フィルター(保護フィルター)
12:バックプレシャーレギュレーター
13:生成物(生成物受槽)
14:配管
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に良好に分散性であり且つ生体免疫に対し免疫応答回避能(ステルス能)を有するナノ粒子、特には磁性体ナノ粒子、その製造法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
金属元素を構成元素として含有しているナノメーターサイズの超微粒子(例えば、金属酸化物ナノ粒子や金属水酸化物ナノ粒子)は、触媒、記憶材料、発光材料、蛍光材料、二次電池用材料、電子部品材料、磁気記録材料、研摩材料、オプトエレクトロニクス、医薬品、化粧品などの広範な分野での利用が期待されている。ナノメーターサイズの粒子を使用している材料は、その極度に小さなサイズに付随して生ずる興味深い特性を示すことが多いことが知られている。このような材料は工学的、電子的、機械的、および化学的特性の幾つかにおいて、既存のバルク材料とは異なる性質を示すことが報告されている。特に磁性ナノ粒子への注目が高まりを見せており、精力的に研究が行われつつある。磁性ナノ粒子を含めた金属元素含有ナノ粒子が示す特性の中で注目される魅力的な性質は、量子的な性質、磁気光学的な性質と密接に関連しており、広範な用途の産業および科学において注目されている。磁性ナノ粒子は、磁性流体や高密度記録材料、医療診断材料など多くの応用が期待されている。
【0003】
磁性ナノ粒子は、それらが有望な用途を有していることから広範な分野で研究者にますます注目されてきている〔a) M. De, P. S. Ghosh, V. M. Rotello, Adv. Mater. 2008, 20, 4225-4241(非特許文献1); b) Y. Jun, J. H. Lee, J. Cheon, Angew. Chem. Int.
Ed. 2008, 47, 5122-5135(非特許文献2); c) J. Kim, Y. Piao, T. Hyeon, Chem. Soc. Rev. 2009, 38, 372-390(非特許文献3); d) V. I. Shubayev, T. R. Piasanic, S.
Jin, Advanced Drug Delivery Review 2009, 61, 467-477(非特許文献4)〕。マグネ
タイト(磁鉄鉱、Fe3O4)は、ヒトに対して化学的には無毒なものであることから、例え
ば、薬物や遺伝子デリバリーのキャリアーとしての用途、癌の温熱療法(hyperthermia therapy)における使用、バイオセンサーにおける用途、そして再生移植医療を含む組織工学(tissue engineering)における用途を包含する、Fe3O4の多くの医療用途が提案されて
おり、研究されている〔a) J. Kreuter, Adv. Drug. Deliv. Rev. 2001, 47, 65-81(非
特許文献5); b) J. M. Nam, C. S. Thaxton, D. A. Mirkin, Science 2003, 301, 1884-1886(非特許文献6); c) A. Ito, Y. Kuga, H. Honda, H. Kikkawa, A. Horiuchi, Y.
Watanabe, T. Kobayashi, Cancer Lett. 2004, 212, 167-175(非特許文献7); d) A. Ito, M. Shinlai, H. Honda, T. Kobayashi, J. Biosci. Bioeng. 2005, 100, 1-11(非
特許文献8)〕。
【0004】
このような医療応用を実現するためには、Fe3O4を十分に小さなものとし、水や血液中
で凝集することなく良好に分散しているようにすることが求められている。加えて、マクロファージを含めた貪食細胞によって捕捉されることがないようにすること、すなわち、ヒトの体内における免疫学的な反応に対してステルス性を有するようにすることが求められている。Fe3O4ナノ粒子は、様々な方法で合成されてきており〔X. Wang, J. Zhuang, Q. Peng, Y. Li, Nature 2005,437, 121-124(非特許文献9)〕、それらの表面の性状は
、リガンド交換法を含めたいくつかの手法で変えることができる〔a) Q. Liu, Z. Xu, Langmuir, 1995, 11, 4617-4622(非特許文献10); b) A. B. Bourlinos, A. Bakandritos,
V. Georgakilas, D. Petridis, Chem. Mater. 2002, 14, 3226-3228(非特許文献11); c) R. Hong, N. O. Fischer, T. Emrick, V. M. Rotello, Chem. Mater. 2005, 17, 4617-4621(非特許文献12); d) S.-W. Kim, S. Kim, J. B. Tracy, A. Jasanoff, M. G. Bawendi, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 4556-4557(非特許文献13); e) D. K. Yi, S. T.
Selvan, S. S. Lee, G. C. Papaefthymiou, D. Kundaliya, J. Y. Ying, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 4990-4991(非特許文献14); f) B.-S. Kim, J.-M. Qiu, J.-P. Wang, T. A. Taton, Nano Lett. 2005, 5, 1987-1991(非特許文献15)〕。
【0005】
貪食細胞によって捕捉されることなく、血中での半減期寿命を長くするため〔Y. Zhang, N. Kohler, M. Zhang, Biomaterials 2002, 23, 1553-1560(非特許文献16)〕、ポリ
エチレングリコールなどの様々なポリマーでもって酸化鉄のナノ粒子を被覆することが試みられてきた〔a)M. Taupitz, J. Wagner, J. Schonorr, Invest Radiol. 2004, 39, 619-625(非特許文献17); b) T. Neuberger, B. Schopf, H. Hofmann, M. Hofmann, B. Rechenberg, J. Magn. Magn. Mater. 2005, 293, 483-496(非特許文献18); c) M. S. Nikolic, M. Krack, V. Aleksandrovic, A. Kornowski, S. Forster, H. Weller, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 6557-6580(非特許文献19); d) A. F. Thunemann, D. Schutt, L. Kaufner, U. Pison, H. Mohwald, Langmuir 2006, 22, 2351-2357(非特許文献20)〕。しかしながら、これらの方法では、その個々の方法を適用することが実用上困難であるのに加えて、溶媒間を移動する間の分散液の安定性が問題であった〔R. E. Bailey, S. Nie, in The Chemistry of Nanomaterials: Synthesis, Properties and Application (Eds: C. N. R. Rao, A. Muller, A. K. Cheetham), WILEY-VCH, Weinheim, 2004, pp.405(非特許文献21)〕。
【0006】
ナノ粒子合成法は、様々な方法が提案されている。しかし、多くの場合、ナノ粒子の表面エネルギーが極めて高いために凝集しやすく、そのためナノ粒子本来の機能が発現されないことが多い。一度凝集したナノ粒子は再分散させることはできず、その段階で界面活性剤等を用いても、ナノ粒子を分散させることはできない。
金属酸化物ナノ粒子や金属水酸化物ナノ粒子を合成する手法として、本発明者らのグループは、亜臨界水や超臨界水といった高温高圧水下での水熱合成場を利用する技術を開発している〔特開平4-50105号公報(特許文献1)、特開平6-302421号公報(特許文献2)
、特開2005-194148号公報(特許文献3)、特開2005-21724号公報(特許文献4)、特開2008-162864号公報(特許文献5)など〕。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-50105号公報
【特許文献2】特開平6-302421号公報
【特許文献3】特開2005-21724号公報
【特許文献4】特開2005-194148号公報
【特許文献5】特開2008-162864号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M. De, P. S. Ghosh, V. M. Rotello, Adv. Mater. 2008, 20, 4225-4241
【非特許文献2】Y. Jun, J. H. Lee, J. Cheon, Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 5122-5135
【非特許文献3】J. Kim, Y. Piao, T. Hyeon, Chem. Soc. Rev. 2009, 38, 372-390
【非特許文献4】V. I. Shubayev, T. R. Piasanic, S. Jin, Advanced Drug Delivery Review 2009, 61, 467-477
【非特許文献5】J. Kreuter, Adv. Drug. Deliv. Rev. 2001, 47, 65-81
【非特許文献6】J. M. Nam, C. S. Thaxton, D. A. Mirkin, Science 2003, 301, 1884-1886
【非特許文献7】A. Ito, Y. Kuga, H. Honda, H. Kikkawa, A. Horiuchi, Y. Watanabe, T. Kobayashi, Cancer Lett. 2004, 212, 167-175
【非特許文献8】A. Ito, M. Shinlai, H. Honda, T. Kobayashi, J. Biosci. Bioeng. 2005, 100, 1-11
【非特許文献9】X. Wang, J. Zhuang, Q. Peng, Y. Li, Nature 2005,437, 121-124
【非特許文献10】Q. Liu, Z. Xu, Langmuir, 1995, 11, 4617-4622
【非特許文献11】A. B. Bourlinos, A. Bakandritos, V. Georgakilas, D. Petridis, Chem. Mater. 2002, 14, 3226-3228
【非特許文献12】R. Hong, N. O. Fischer, T. Emrick, V. M. Rotello, Chem. Mater. 2005, 17, 4617-4621
【非特許文献13】S.-W. Kim, S. Kim, J. B. Tracy, A. Jasanoff, M. G. Bawendi, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 4556-4557
【非特許文献14】D. K. Yi, S. T. Selvan, S. S. Lee, G. C. Papaefthymiou, D. Kundaliya, J. Y. Ying, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 4990-4991
【非特許文献15】B.-S. Kim, J.-M. Qiu, J.-P. Wang, T. A. Taton, Nano Lett. 2005, 5, 1987-1991
【非特許文献16】Y. Zhang, N. Kohler, M. Zhang, Biomaterials 2002, 23, 1553-1560
【非特許文献17】M. Taupitz, J. Wagner, J. Schonorr, Invest Radiol. 2004, 39, 619-625
【非特許文献18】T. Neuberger, B. Schopf, H. Hofmann, M. Hofmann, B. Rechenberg, J. Magn. Magn. Mater. 2005, 293, 483-496
【非特許文献19】M. S. Nikolic, M. Krack, V. Aleksandrovic, A. Kornowski, S. Forster, H. Weller, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 6557-6580
【非特許文献20】A. F. Thunemann, D. Schutt, L. Kaufner, U. Pison, H. Mohwald, Langmuir 2006, 22, 2351-2357
【非特許文献21】R. E. Bailey, S. Nie, in The Chemistry of Nanomaterials: Synthesis, Properties and Application (Eds: C. N. R. Rao, A. Muller, A. K. Cheetham), WILEY-VCH, Weinheim, 2004, pp.405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
有用性を有するナノ粒子に、水溶性(水分散性)と免疫応答回避機能(免疫ステルス能)を付与したものを、効率よく、安価な手法で、簡単に、且つ、大量に合成する技術の開発が求められている。特に、有用性を持つ磁性ナノ粒子、特には水に分散性であるFe3O4
ナノ粒子などの、好ましくは毒性のない化学物質を使用して、免疫学的応答反応を刺激することのないそして水に分散性であるFe3O4ナノ粒子などの有用ナノ粒子を、ワンステッ
プで合成する技術の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、生物医学的な用途に使用するのに特に適しているナノ粒子、例えば、磁性ナノ粒子、その製造法並びにその用途を提供するにある。特に、本発明は、少なくとも一個又は複数個の免疫応答回避能(あるいは、生物的なステルス能)を供与する配位子が、単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子のコアに共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合(共有結合的な結合)で結合しているもの(「免疫応答回避表面修飾型金属酸化物ナノ粒子」又は「免疫応答回避表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子」、あるいは単に「ステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子」又は「ステルス表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子」、包括的に、「免疫応答回避表面修飾型ナノ粒子」、又は、単に「ステルス表面修飾型ナノ粒子」ともいう)に関する。当該ナノ粒子は、生物や生体での金属酸化物ナノ粒子あるいは金属水酸化物ナノ粒子を使用しての相互作用を研究するのに使用され、治療薬及び診断薬としても使用され得る。本粒子は、水性媒体、例えば、水や生理食塩水などに対して良好な分散性を有し、その得られる水性分散液(水性懸濁液)中で当該
ナノ粒子は安定して分散状態で維持可能であり、好適に生物医学的な用途に使用できる。
かくして、本発明は、安定な分散水溶液(磁性流体)を形成するナノスケールサイズの磁性ナノ粒子を提供するものである。
本発明では、上記免疫応答回避ナノ粒子、あるいは、単に、ステルスナノ粒子(例えば、ステルス金属酸化物ナノ粒子又はステルス金属水酸化物ナノ粒子)は、ナノ粒子源となる金属イオンなどを含む金属塩(金属錯体を包含する)あるいは金属化合物(配位化合物を包含する)を含有するナノ粒子前駆体溶液を、免疫応答回避能(あるいは生物的なステルス能)を供与する配位子分子の存在下に、高温高圧水環境下、例えば、亜臨界水又は超臨界水中で反応処理に付して合成することができる。本発明の典型的なステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子やステルス表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子においては、コアの単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子や金属水酸化物ナノ粒子の構成金属元素と配位子とは、−O−基を介して連結している。
【発明の効果】
【0011】
本発明の技術により、水溶性(水分散性)において優れ且つ免疫刺激作用の低減化された、サイズが均一なナノ粒子、磁性金属酸化物ナノ粒子などが得られるので、標的指向性ナノ粒子の開発に利用できるし、組織イメージング、磁気温熱療法、中性子捕捉療法、細胞分離法、分析技術などにおいて試薬などとして利用できる。本発明のステルス表面修飾型ナノ粒子は、生物医学的な用途、例えば、生物学分野および医療分野における利用に特に適している。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のステルス表面修飾型ナノ粒子の合成に使用されたフロー型リアクターの構成を示す模式図である。
【図2】本発明で合成されたFe3O4ナノ粒子生成物の粉末X線回折パターンを示す。(i) 230℃の反応温度で製造された生成物、(ii) 260℃の反応温度で製造された生成物、(iii) 300℃の反応温度で製造された生成物、そして、(iv) 360℃の反応温度で製造された生成物。
【図3】本発明のステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子を水及び生理食塩水に分散して得られた分散液の外観を示す図面代用写真である。300℃の反応温度で製造されたマグネタイトナノ粒子生成物についてのもので、(a)水に分散された液、そして、(b)0.9%NaCl水溶液に分散された液。
【図4】本発明のステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子の水分散液の動的光散乱分析で得られたスペクトルである。300℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子についてのものである。
【図5】様々な反応温度で合成された本発明のステルス金属酸化物ナノ粒子の透過型電子顕微鏡イメージを示す図面代用写真である。(a) 230℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子、(b) 260℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子、(c) 300℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子、そして、(d) 350℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子。
【図6】本発明のステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子のFT-IRスペクトルを示す。300℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子について示す。
【図7】本発明のステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子の推定される構造を模式的に示す図である。DHCAで表面が修飾されているFe3O4ナノ粒子の推定構造を示し、中心にコアFe3O4ナノ粒子が位置している。
【図8】本発明で合成のFe3O4ナノ粒子のゼータポテンシャルを示す。図では、pHによりどのように変化するかが示してある。
【図9】様々な反応温度で合成された本発明のステルス金属酸化物ナノ粒子のTG測定の結果を示す。(a) 230℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子、(b) 260℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子、(c) 300℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子、そして、(d) 360℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子。
【図10】本発明のステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子の磁化曲線を示す。300℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子について磁界の強さと磁化との関係をプロットしたもので、(a)拡大図、(b)全体をプロットしたもので、測定温度290K(○)及び5K(△)を示す。
【図11】本発明の表面修飾型金属酸化物ナノ粒子が免疫応答反応を刺激するか否かをアッセイした結果を示す。DHCA表面修飾Fe3O4ナノ粒子。(a)BM-DCsでのIL-12産生刺激に及ぼす作用、(b) BM-DCsでのTNF-α産生刺激に及ぼす作用。
【図12】本発明の表面修飾型金属酸化物ナノ粒子が免疫応答反応を刺激するか否かをアッセイした結果を示す。BM-DCsでのIL-12産生刺激に及ぼす作用。カテコール又は4−メチルカテコール表面修飾Fe3O4ナノ粒子。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、生物医学的な用途に使用するのに特に適しているナノ粒子、例えば、磁性ナノ粒子、その製造法並びにその用途を提供する。特に、本発明は、少なくとも一個又は複数個の生物的なステルス能を供与する配位子が、単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子のコアに共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合(共有結合的な結合)で結合しているもの(ステルス表面修飾型金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子)を提供する。当該ナノ粒子は、生物や生体での金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子を使用しての相互作用を研究するのに使用され、治療薬及び診断薬としても使用されて有用である。本粒子は、水性媒体、例えば、水や生理食塩水などに対して良好な分散性を有し、その得られる水性分散液中で当該ナノ粒子は安定して分散状態で維持可能であり、好適に生物医学的な用途に使用できる。
【0014】
磁性ナノ粒子は、常磁性、超常磁性、又は強磁性を示すものが包含されてよいが、好ましくは、本発明のナノ粒子は超常磁性のものが挙げられる。
本発明は、安定な分散水溶液(磁性流体)を形成するナノスケールサイズの磁性ナノ粒子を提供する。本発明のステルス表面修飾型ナノ粒子は、その平均直径が、1,000 nmを下回るものであってナノスケールサイズのものであり、代表的には500 nm以下のサイズのもの、典型的には250 nm以下のサイズのもので且つ比較的均一なサイズを有していることを特徴とするものである。ここで比較的均一とは、例えば、平均直径が30 nmであるナノ粒
子と称した場合、25〜35 nmの範囲内の直径を有するナノ粒子が、そのナノ粒子集団の中
で、おおよそ80%以上を占める場合を意味してよいし、ある場合には、おおよそ90%以上を占める場合を意味してよく、好ましい場合では、おおよそ95%以上を占める場合を意味してよい。一つの好ましい具体例では、比較的均一とは、10 nmの範囲内にその直径サイ
ズが収まる粒子の割合が、そのナノ粒子集団の中で、おおよそ80%以上を占める場合を意味してよいし、さらには、おおよそ90%以上を占める場合を意味してよいし、好ましい場合では、おおよそ95%以上を占める場合を意味してよい。
本発明の一つの態様では、当該ステルス表面修飾型ナノ粒子は、その平均直径が、5〜250 nm、好適には8〜200 nm、さらに好適には10〜150 nm、特には12〜100 nmであってよいし、さらに12〜50 nmであってよい。また、本発明の別の一つの態様では、当該ステルス
表面修飾型金属酸化物ナノ粒子は、その平均直径が、5〜40 nm、好適には8〜30 nm、さらに好適には10〜25 nm、特には12〜20 nmである。該ナノ粒子の平均直径は、透過型電子顕
微鏡、走査型電子顕微鏡、X線回折装置などの技術を用いて測定することができる。
【0015】
本発明では、上記ステルス表面修飾型ナノ粒子は、ナノ粒子源となる金属イオンなどを含む金属塩(金属錯体を包含する)又は金属化合物(配位化合物を包含する)を含有するナノ粒子前駆体溶液を、生物的なステルス能を供与する配位子分子の存在下に、高温高圧水環境下、例えば、亜臨界水又は超臨界水中で反応処理に付して合成することができる。本発明の典型的なステルス表面修飾型ナノ粒子においては、一個の単一の粒子であるコアのナノ粒子の構成金属元素と配位子とは、−O−基を介して連結している。本表面修飾型ナノ粒子の一つの典型例においては、金属原子(コアを構成する金属元素)−O−炭素原子(配位子を構成する炭素元素)の結合が存在していることが特徴である。一つの具体的な態様では、当該ステルス表面修飾型ナノ粒子においては、配位子の一分子単位あたり、2個の共有結合でもって、例えば、2個の−O−基を介して一個のコアナノ粒子の表面に該配位子が結合している。本表面修飾型ナノ粒子の一つの典型例においては、〔金属原子(コアを構成する金属元素)−O−炭素原子(配位子を構成する炭素元素)−炭素原子(配位子を構成する炭素元素)−O−金属原子(コアを構成する金属元素)〕の結合が存在していることが特徴である。一つの典型的な態様では、該配位子は、二座配位子が挙げられる。
本発明のステルス表面修飾型ナノ粒子は、水分散性に優れており、安定な水性分散液を形成できる。
【0016】
本発明で用いられる免疫応答回避能を供与する配位子としては、免疫応答を回避する素材(免疫ステルス能を有している素材)又はそれから誘導されるもの、さらにはそうしたものを該ナノ粒子に導入するための助けとなる機能及び/又は水溶性付与機能を有するもの(及び/又はステルス性を妨害しないもの)が挙げられ、代表的には免疫認識を回避する素材又はそれから誘導されるもの、さらにはそうしたものを該ナノ粒子に導入するための助けとなる機能及び/又は水溶性付与機能を有するもの(及び/又は当該機能を妨害しないもの)などが挙げられ、それをナノ粒子の表面に被覆せしめることで、ナノ粒子をヒトや動物の体内へ投入した時の免疫システムによる捕捉を回避するようにする働きを示すもの、及び/又は、それでナノ粒子の表面を修飾することにより免疫システムに捕捉されることを有意に低下せしめる機能を有するものである。ここで「有意に低下」とは、実用上、所定の目的が達成できる限りにおいて、ヒトや動物の免疫システムによる認識・排除から逃れることができて、標的臓器へ高濃度に濃縮できることを意味してよい。上記「免疫応答回避能を供与する」とは、「生物的なステルス能を供与する」と相互交換可能な用語の意味であってよい。同様に、「免疫応答回避」と「ステルス」とは、本明細書において、相互交換可能な用語の意味で使用されていると理解されてよい。
【0017】
本発明において、免疫応答回避能や生物的なステルス能とは、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、レギュラトリーT細胞などのTリンパ球、Bリンパ球、単球、マクロファージ、クッ
パー細胞、マイクログリア細胞、樹状細胞(dendritic cell)、ランゲルハンス細胞、好中球、好酸球、好塩基球、肥満(マスト)細胞、などの免疫系に関与する細胞に対する刺激が、コアナノ粒子(表面非修飾体)と比較して有意に低下していることを意味するものであってもよい。さらに、それは、免疫系に関与する細胞に発現するパターン認識受容体を介する細胞内刺激伝達経路の刺激作用、サイトカイン・ケモカイン類産生作用及び/又はサイトカイン・ケモカイン類産生系刺激作用、コスティミュラトリー分子類発現作用及び/又はコスティミュラトリー分子類発現刺激作用、接着分子類発現作用及び/又は接着分子類発現刺激作用が、コアナノ粒子(表面非修飾体)と比較して有意に低下していることを意味するものであってもよい。
本発明において免疫システムによる捕捉とは、網内系を介しての異物排除作用、例えば、マクロファージの関与する貪食作用を含めたものと理解してもよく、結果として、生体内に導入されたナノ粒子が免疫系に認識され標的細胞・標的組織へ送達できなくなること
を意味してよい。
【0018】
本発明で用いられる免疫応答回避能を供与する配位子としては、当該分野で候補化合物として知られているものから選択できるし、ヒトを含めた動物、植物、微生物から得られているもので且つ上記免疫応答回避能を有することが知られているもの又は上記免疫応答回避能を有することが期待されているものから選択できる。代表的な配位子用分子としては、水溶性のあるものが使用でき、例えば、フェノール類又はその誘導体が挙げられる。より具体的には、カテコール又はその誘導体などが挙げられ、例えば、一般式(1):
【0019】
【化1】
〔上式中、Rは、一個又は同一あるいは異なるものが複数個存在していてもよく、水素、
アルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、カルボアルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、シアノアルキル基、及びアシルアミノアルキル基からなる群から選択された基を表す〕
を有している化合物が挙げられる。
【0020】
上記式(1)において、Rにおけるアルキル基とは、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜5の
低級アルキル基あるいはそれ以上の炭素数を有する高級アルキル基であってよいが、炭素数1〜5の低級アルキル基が好ましい。当該低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブ
チル基、n-ペンチル基、neo-ペンチル基などが挙げられ、例えば、メチル基、エチル基などが好ましい。当該高級アルキル基としては、n-ヘキシル基、2-メチル-1-ブチル基、3-
メチル-1-ブチル基、2-メチル-2-ブチル基、3-メチル-2-ブチル基、2,2-ジメチル-1-プロピル基、4-メチル-1-ペンチル基、3-エチル-3-ペンチル基などが挙げられる。Rにおける
カルボアルコキシアルキル基におけるカルボアルコキシ部のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基などが挙げられ、さらに、それらのアルキル部に、
ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボアルコキシ基、フェニル基、p-ニトロフェニル基などからなる群から選択されたものがさらに一個又は複数個置換されているものなどが含まれてよい。Rにおけるアシル基とは、カルボン酸から誘導されるものが挙げ
られ、当該カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、アミノ酸、アミノ酸(例えば、天然アミノ酸)などが挙げられる。
【0021】
典型的な配位子用分子としては、3,4-ジヒドロキシシンナム酸(3,4-dihydroxycinnamic
acid; DHCA)
【化2】
を使用できる。DHCAは、ある種の果実や野菜から抽出されるものであり、毒性のない分子と考えられるものである〔S.Kim, S. Bok, S. Lee, H. Kim, M. Lee, Y. B. Park, M. Choi, Toxycol. Appl. Pharmacol. 2005, 208, 29-36〕。
【0022】
本発明におけるコアナノ粒子としては、高温高圧水環境下、例えば、亜臨界水又は超臨界水中で、金属塩などを含有する溶液(ナノ粒子前駆体水性溶液)を水熱合成反応に付して微粒子形成せしめて合成することのできるものが挙げられる。こうした技術は、特開平
04-50105号公報、特開平6-302421号公報、特開2005-21724号公報、特開2005-194148号公
報、特開2008-162864号公報などに開示があり、その内容は、それらの文献を参照するこ
とにより本明細書の開示に含まれる。例えば、特開平04-50105号公報には、次のような記載がなされている。「金属塩としては、水溶性なら特に限定しないが、IB族金属、IIA族
金属、IIB族金属、IIIA族金属、IIIB族金属、IVA族金属、IVB族金属、VA族金属、VB族金
属、VIB族金属、VIIB族金属、遷移金属等の金属塩が使用できる。例えばCu、Ba、Ca、Zn
、Al、Y、Si、Sn、Zr、Ti、Sb、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni等の硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、オキシ塩酸塩、燐酸塩、硼酸塩、亜硫酸塩、弗酸塩、酸素酸塩等の無機酸塩及び蟻酸、醋酸、クエン酸、蓚酸、乳酸等の有機酸塩が挙げられる。これらの金属塩は、2種以上組み合わせて使用することも可能である。更にこれらの金属の錯体も使用可能である」。ここで、上記IB族金属とは、IUPAC無機化学命名法改訂版(1989)に基づく元素の周期表では第11
族金属で、以下同様にして、上記IIA族金属とは同第2族金属で、上記IIB族金属とは同第12族金属で、IIIA族金属とは同第3族金属で、IIIB族金属とは同第13族金属で、IVA族金属
とは同第4族金属で、IVB族金属とは同第14族金属で、VA族金属とは同第5族金属で、VB族
金属とは同第15族金属で、VIB族金属とは同第16族金属で、VIIB族金属とは同第17族金属
で、遷移金属とは同第6族〜第10族の金属である。
【0023】
また、特開2005-194148号公報には、次のような記載がなされている。「代表的な微粒
子としては、金属酸化物を主要な粒子の構成としているものが挙げられ、以下これを「金属酸化物微粒子」と称する。該金属酸化物微粒子に含まれる金属酸化物中の「金属」としては、典型的にはナノ粒子を製造することが可能なものであれば特に限定されず、当業者に知られたものから選択して使用できる。代表的な金属としては、長周期型周期表で第IIIB族のホウ素(B)-第IVB族のケイ素(Si)-第VB族のヒ素(As)-第VIB族のテルル(Te)の線を境界としてその線上にある元素並びにその境界より、長周期型周期表において左側ないし下側にあるものが挙げられ、例えば、第VIII族の元素ではFe, Co, Ni, Ru, Rh, Pd, Os, Ir, Ptなど、第IB族の元素ではCu, Ag, Auなど、第IIB族の元素ではZn, Cd, Hgなど、第IIIB族の元素ではB, Al, Ga, In, Tlなど、第IVB族の元素ではSi, Ge, Sn, Pbなど、第VB族
の元素ではAs, Sb, Biなど、第VIB族の元素ではTe,Poなど、そして第IIIA〜VIIA族の元素などが挙げられる。金属酸化物としては、Fe, Co, Ni, Cu, Ag, Au, Zn, Cd, Hg, Al, Ga, In, Tl, Si, Ge, Sn, Pb, Ti, Zr, Mn, Eu, Y, Nb, Ce, Baなどの酸化物が挙げられ、
例えば、SiO2, TiO2, ZnO2, SnO2, Al2O3, MnO2, NiO, Eu2O3, Y2O3, Nb2O3, InO, ZnO, Fe2O3, Fe3O4, Co3O4, ZrO2, CeO2, BaO・6Fe2O3, Al5(Y+Tb)3O12, BaTiO3, LiCoO2, LiMn2O4, K2O・6TiO2, AlOOHなどが挙げられる」。ここで、上記長周期型周期表の第IIIB族
とはIUPAC無機化学命名法改訂版(1989)に基づく元素の周期表では第13族で、以下同様に
、上記第IVB族とは同第14族で、上記第VB族とは、第15族で、上記第VIB族とは同第16族で、上記第VIII族の元素とは同第8族〜第10族の元素で、上記第IB族の元素とは同第11族の
元素で、上記第IIB族の元素とは同第12族の元素で、上記第IIIB族の元素とは同第13族の
元素で、上記第IVB族の元素とは同第14族の元素で、上記第VB族の元素とは同第15族の元
素で、上記第VIB族の元素とは同第16族の元素で、そして上記第IIIA〜VIIA族の元素とは
同第3族〜第7族の元素である。 ナノ粒子は、金属酸化物や金属水酸化物の溶解度が加熱することで低くなるものを使用して形成できることも知られており(例えば、特開2005-21724号公報など参照)、したがって、本発明におけるコアナノ粒子としては、上記した技術で形成できる微粒子に対応するもの、すなわち、金属酸化物ナノ粒子や金属水酸化物ナノ粒子であって、上記免疫応答回避能を供与する配位子と上記強い結合で結合するものを挙げることができる。したがって、好適には、上記で挙げられた元素、すなわち、IUPAC
無機化学命名法改訂版(1989)に基づく元素の周期表で第3族〜第17族の元素、さらに好適
には、第11族金属、第12族金属、第3族金属(ランタノイド、アクチノイドを包含する)
、第13族金属、第4族金属、第14族金属、第5族金属、第15族金属、第16族金属、第17族金属、第6族〜第10族の遷移金属などからなる群から選択された金属の金属酸化物や金属水
酸化物から構成されるものが挙げられる。
【0024】
本発明における磁性ナノ粒子は、磁性体ナノ粒子とも称されるもので、例えば、磁場に応答して反応するもの、さらには、電磁波に応答して発光したり、あるいは、電磁波を吸収して発熱し、人体に実質的に無害なものなどが挙げられ、そうしたものであれば、如何なるものであってもよいが、特には人体に吸収されにくい周波数の電磁波を吸収して発熱するものが好適に使用されてよい。好ましい磁性ナノ粒子としては、金属酸化物からなるナノ粒子、特には金属酸化物結晶からなるナノ粒子を挙げることができる。ナノ粒子が金属酸化物結晶から構成されることあるいはナノ粒子が良好な結晶性の金属酸化物から構成されることは、例えば、X線を使用した分析、例えば、X線回折装置(XRD: X-ray Diffractometer)などを使用した解析・分析より確認できる。
磁性金属酸化物ナノ粒子としては、当該分野で磁性金属酸化物あるいは磁性体金属酸化物として知られている群から選択されたものであってよく、典型的には強磁性体として知られたものから好ましく選択されることができる。こうした金属酸化物としては、一般式(3):
【0025】
【化3】
〔上式中、Maは、二価の金属原子を表わし、Mbは、三価の金属原子を表わし、mは、0≦m
≦1の範囲内の正の数である〕で示されるものを挙げることができる。
【0026】
上記式(3)において、二価の金属原子Maとしては、元素の周期表(IUPAC無機化学命名法改訂版(1989)に基づく、以下同様)第2族、第12族、第14族などの典型金属元素、第3族
、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族などの遷移金属元素(希土類元素、ランタノイ
ド、アクチノイドを包含する)などから選択されたものであり、例えば、Mg、Ca、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Sr、Ba、Pbなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で使用するか、あるいは、二種以上を併用することもできる。そして、三価の金属原子Mbとしては、元素の周期表(IUPAC無機化学命名法改訂版(1989)に基づく)第13族などの典型金属元素、第3族、第8族などの遷移金属元素(希土類元素、ランタノイド、アクチノイドを包含する)など
から選択されたものであり、例えば、Al、Fe、Y、Nd、Sm、Gdなどが挙げられ、これらは
それぞれ単独で使用するか、あるいは、二種以上を組み合わせて併用することもできる。上記式(3)において、三価の金属原子Mbが、三価の鉄である磁性金属酸化物はフェライトとして知られるものである。
【0027】
代表的な磁性金属酸化物ナノ粒子としては、例えば、酸化鉄及びフェライトからなる群から選択されたものが挙げられる。ここで酸化鉄としては、とりわけ、Fe3O4(磁鉄鉱、
マグネタイト: magnetite)を挙げることができるが、γ-酸化鉄(γ-Fe2O3、磁赤鉄鉱、マグヘマイト: maghemite)などであってもよい。ある場合には、酸化鉄は、Fe3O4やγ-Fe2O3といったものの中間体、混合物も許容されてよい。
【0028】
フェライトとしては、一般式(4):
【化4】
〔上式中、Maは、二価の金属原子を表わし、nは、0≦n≦1の範囲内の正の数である〕で示されるものを挙げることができる。ここで、二価の金属原子Maとしては、元素の周期表第2族、第12族、第14族、第15族などの典型金属元素、第3族、第7族、第9族、第10族、第11族、第12族などの遷移金属元素(希土類元素、ランタノイド、アクチノイドを包含する)などから選択されたものであり、例えば、Mg、Ca、Mn、Ni、Co、Cu、Zn、Sr、Ba、Pb、Y
、Nd、Sm、Gdなどが挙げられる。
【0029】
より具体的には、フェライトとしては、スピネルフェライト〔一般式(5):
【化5】
(ここで、Maは、Mn、Co、Ni、Cu、Znなど)〕、マグネトプランバイト型フェライト(六方晶フェライト)〔一般式(6):
【化6】
(ここで、Maは、Ba、Sr、Pbなど)〕などが挙げられる。上記式(5)及び(6)で示される磁性金属酸化物の具体例としては、例えば、MgFe2O4などが挙げられる。
【0030】
さらに、磁性金属酸化物としては、一般式(7):
【化7】
あるいは、一般式(8):
【化8】
〔上式中、Maは、二価の金属原子を表わし、Mcは、四価の金属原子を表わす〕で示されるものを挙げることができる。ここで、二価の金属原子Maとしては、前述したものを挙げることができ、また、四価の金属原子Mcとしては、元素の周期表第5族、第6族、第7族など
の遷移金属元素などから選択されたものであり、例えば、V、Cr、Mn、Snなどが挙げられ
る。上記式(7)及び(8)で示される磁性金属酸化物の具体例としては、例えば、BaSnO3、NiMnO3、CoMnO3、CrO2などが挙げられる。本明細書中の一般式(3)乃至(8)の表示は、金属分析又はX線回折分析、蛍光X線分析、フーリエ変換赤外線分光分析などによる測定により得られた磁性体粒子の組成を意味する。
【0031】
本発明の免疫応答回避ナノ粒子は、一個の単一の免疫応答回避ナノ粒子において、ナノ粒子のコア(核又は芯)に共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合(共有結合的な結合)で、少なくとも一個の免疫応答回避能を供与する配位子分子又は複数個の該配位子分子が結合しているものである。より具体的な態様では、本発明の免疫応答回避ナノ粒子は、単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子(又は金属水酸化物ナノ粒子)のコアに、共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合(共有結合的な結合)で、少なくとも一個の免疫応答回避能を供与する配位子分子又は複数個の該配位子分子が結合しているもので、免疫応答回避表面修飾型金属酸化物ナノ粒子(又は免疫応答回避表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子)である。
ここで、共有結合に匹敵する強い結合あるいは共有結合的な結合とは、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis; TGA)により評価され、単なる吸着結合やイオン結合、疎水性
結合、水素結合より強く結合しており、共有結合と同等と評価されるものを意味すると解してよい。
当該一個のコア金属酸化物ナノ粒子(あるいはコア金属水酸化物ナノ粒子)の表面に結合している当該配位子分子の数は、少なくとも一個であるが、それ以上の複数個が結合している場合も包含されるものであり、例えば、2〜10個が結合していてもよく、典型的には2〜8個が結合していてよく、さらには3〜6個が結合しているものであってよく、より具体的には4個が結合しているものが挙げられる。一つの具体的な態様では、当該免疫応答回避表面修飾型ナノ粒子においては、配位子分子の一分子あたり、2個の共有結合でもって、例えば、2個の−O−基を介して、一個のコアナノ粒子の表面に該配位子分子が
結合している。代表的な配位子としては、二座配位子が挙げられ、例えば、カテコール分子の互いにオルト位にある水酸基から導かれる2個の−O−基を介してコアナノ粒子構成金属元素に結合するものが挙げられる。
【0032】
本発明で得られる免疫応答回避能を有している表面修飾型金属酸化物ナノ粒子としては、例えば、一般式(9):
【化9】
〔上式中、CNPは、コア金属酸化物ナノ粒子であり、Rは、一個又は同一あるいは異なるものが複数個存在していてもよく、水素、アルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、カルボアルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、シアノアルキル基、及びアシルアミノアルキル基からなる群から選択された基を表す〕
を有している金属酸化物ナノ粒子が挙げられる。
【0033】
上記式(4)において、コア金属酸化物ナノ粒子CNPは、上記で説明したナノ粒子、特
には上記で具体的に例示説明した磁性金属酸化物ナノ粒子を挙げることができる。上記式(4)でのRとしては、上記式(1)において説明したものと同様なものが挙げられる。
本発明の一つの具体的態様では、免疫応答回避能を有している表面修飾型金属酸化物ナノ粒子としては、一般式(10):
【0034】
【化10】
〔上式中、CNPは、上記式(9)と同様のコア金属酸化物ナノ粒子を表す〕に示された構
造を有するものが挙げられる。本発明のさらに別の一つの具体的態様では、免疫応答回避能を有している表面修飾型金属酸化物ナノ粒子としては、一般式(11):
【0035】
【化11】
あるいは、一般式(12):
【0036】
【化12】
〔上式中、CNPは、上記式(9)と同様のコア金属酸化物ナノ粒子を表す〕に示された構
造を有するものが挙げられる。上記式(9)〜(12)において、代表的なコア金属酸化物ナノ粒子としては、Fe3O4ナノ粒子が例示される。
【0037】
本発明の表面修飾型ナノ粒子を製造する方法は、高温高圧状態にある水が存在する条件下でナノ粒子と配位子分子を反応させることで、配位子分子で表面が修飾されたナノ粒子を形成させることにより行われる。本高温高圧状態にある水とは、下記で説明するように、例えば、亜臨界水又は超臨界水であり、その反応場での水熱合成反応を利用すること並びに表面修飾剤である配位子分子を利用することで、ナノ粒子のサイズ(ナノ粒子の直径などのサイズを包含する)などを、精確にコントロールして、好ましくは均一なサイズの粒子集団からなる生成物を製造することを可能にする。該ナノ粒子と配位子分子との反応は、コアとなるナノ粒子を含有する水性ゾル又は懸濁液あるいはそれらのスラリー液を調製した後、これを当該配位子分子と反応させるものでもよいが、好適には、高温高圧状態にある水が存在する環境中に、高圧状態にされたナノ粒子前駆体水性溶液と配位子分子を含有する水性溶液を供給するか、あるいは、高圧状態にされたナノ粒子前駆体と配位子分子を含有する水性混合物溶液を供給することにより、反応させる方法が挙げられる。
【0038】
ナノ粒子前駆体としては、例えば、金属塩、金属錯体、金属化合物、金属配位化合物などが挙げられ、特には水溶性の金属塩などを好適に使用できる。金属塩としては、上記したもの、あるいは、上記で説明した金属元素の塩などが挙げられる。ナノ粒子前駆体水性
溶液としては、金属酸化物の水性ゾル又は懸濁液、金属水酸化物の水性ゾル又は懸濁液、さらにそれらのスラリーを含有する水性液であってもよいが、好適にはコアナノ粒子を構成する金属酸化物又は金属水酸化物源となる金属イオン又は金属錯体イオンなどを含有している水性溶液を使用できる。当該水性溶液を調製する場合の媒質としては、水であるが、場合によっては、水混和性のある有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、ギ酸、酢酸などのカルボン酸類などからなる群から選択されたものを水に添加してある水性混合物を利用することもできる。
【0039】
一つの具体的態様においては、磁性ナノ粒子源となる金属塩水溶液は、それ自体既知の方法で調製することができ、例えば、三価の金属塩又は三価の金属塩及び二価の金属塩を水性媒質に溶解して調製される。代表的な三価の金属塩としては、第二鉄塩が挙げられる。代表的な二価の金属塩としては、第一鉄塩、鉄以外の他の二価金属塩、例えばマグネシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、ニツケル、銅、バリウム、ストロンチウム等の金属の塩などが挙げられる。これら二価の金属塩は1種のみ又は複数種を同時に用いてもよい。金属塩としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酸素酸等の鉱酸との塩、酢酸、クエン酸、シュウ酸、アセチル酢酸等の有機酸との塩などを挙げることができる。二価の金属塩及び三価の金属塩を配合する場合、その比率は特に限定されず、所望の目的物を与えるように選択できるが、例えば、モル比で約1:4乃至約3:1、好ましくは約1:3乃至1:1の割合で水性媒体中に溶解する。
【0040】
また、二価の金属塩は、例えば、第一鉄塩の1部、例えば約半量を他の二価金属塩、例えばマグネシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、ニツケル、銅、バリウム、ストロンチウム等の少なくとも1種の金属の塩と置き換えることができるし、このように複数の二価の金属塩を組み合わせて配合できる。金属塩水溶液の濃度は広い範囲にわたって変えることができるが、通常約0.0001〜約1M、好ましくは約0.001〜約0.1Mの範囲内が適当である。
金属塩水溶液は、酸又は塩基によって、そのpH値を調整することができる。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酸素酸等の鉱酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、アセチル酢酸等の有機酸などを挙げることができる。塩基としては、例えば、NaOH、KOH等のア
ルカリ金属水酸化物;アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ヒドロキシメチルアミン等のアミン類などから選ばれる少なくとも1種を使用することができる。典型的な場合、当該磁性ナノ粒子前駆体液は、例えば、pH7〜12になるように調整されていて
よい。さらに、当該磁性ナノ粒子前駆体液は、その調製を通常空気雰囲気下で行なうことができるが、所望によりN2及びArガス等の不活性ガス下で行なうことも可能である。当該磁性ナノ粒子前駆体液には、所望によりO2ガスなどの酸化性ガス、あるいはH2ガス等の還元性ガスを導入してもよい。さらに、ギ酸などの、当該反応条件で分解して還元性条件を供与するものなどを添加することもできる。当該磁性ナノ粒子前駆体液としては、磁性酸化鉄水性ゾル、金属水酸化物水性ゾルなどの水性ゾル又は懸濁液、スラリー液の状態であるものを使用することもできる。
【0041】
コアナノ粒子の表面を修飾するために使用する配位子分子の量は、用いる金属塩中の金属のモル量を基準にして約0.01〜約10倍、好ましくは約0.5〜約5倍とすることができる
が、例えば、等モルとすることが適している。また、配位子分子溶液の濃度も厳密に制限されるものではないが、通常約0.0001〜約1M、好ましくは約0.001〜約0.1Mの範囲内が適
当である。各水溶液の添加および混合は撹拌下に室温などの常温で行なうことができ、必要に応じて塩基又は酸を添加してpHを調整することができる。
【0042】
本発明の方法で、高温高圧状態にある水とは、亜臨界又は超臨界状態にある高温高圧水、すなわち、亜臨界水(sub-critical water: sub-CW)、又は超臨界水(super-critical water: SCW)である。水の臨界温度は374.2℃、水の臨界圧力は22.12MPaであるので、これを
参考に反応温度・反応圧力を選択できる。具体的には、亜臨界水とは、水の超臨界点よりわずかながら温度及び/又は圧力が低い状態にある水を指しており、例えば、温度でいうと150℃以上の領域から臨界温度374℃までというように、その温度が水の臨界温度より低く、且つ、圧力が水の臨界圧力22MPa又はそれ以上の圧力である領域が挙げられる。
一つの具体的な態様では、反応を行う系(例えば、恒温ゾーンにあるリアクター(反応器))に供給する原料混合物液の圧力を、水の臨界圧力22.12MPa又はそれ以上のもの(例えば、30MPaあるいは35MPaなど)とし、おおよそ150℃にまで加温されたといったように
所定反応温度近傍にまで加熱せしめられた原料混合物液を、反応温度として250℃になる
ように設定されたリアクター(亜臨界水下での反応)に供給あるいは反応温度として390
℃になるように設定されたリアクター(超臨界水下での反応)に供給するといった手法で、反応場である亜臨界又は超臨界状態にある高温高圧水が存在する条件を達成できる。
【0043】
典型的な亜臨界水の領域は、圧力が臨界圧力22MPa又はそれ以上であり、且つ、180℃以上の温度から臨界温度374℃の領域、あるいは、200℃以上の温度から臨界温度374℃の領
域、あるいは、250℃以上の温度から臨界温度374℃の領域、300℃以上の温度から臨界温
度374℃の領域などが挙げられる。もちろん、亜臨界水の領域は、10.0 MPa以上の圧力か
ら臨界圧力22MPaの領域、あるいは、15.0 MPa以上の圧力から臨界圧力22MPaび領域、あるいは、18.0 MPa以上の圧力から臨界圧力22MPaの領域、あるいは、20.0 MPa以上の圧力か
ら臨界圧力22MPaの領域なども含まれてよい。
本発明の表面修飾型ナノ粒子の形成反応においては、その反応温度としては、例えば、150〜500℃、好ましくは200〜450℃、より好ましくは220〜400℃、さらに好ましくは230
〜360℃であり、その反応圧力としては、例えば、20〜50MPa、好ましくは22〜45MPa、よ
り好ましくは22〜40MPa、さらに好ましくは25〜35MPaである。
【0044】
反応の方式としては、バッチ式(回分式)、セミバッチ式(半回分式)で行うこともできるが、好ましくは耐圧性の管型又は槽型などのフロー型リアクター(流通型反応器)を用いる連続法を使用でき、特には管型のリアクターを利用する連続法を好適に利用できる。
本発明の合成法で利用される典型的なフロー型リアクターの概略構成図を、図1に示す。図1に示すように、当該装置は、蒸留水、脱イオン水、あるいは純水を溜めておく水供給源槽(脱イオン水供給槽)から亜臨界水又は超臨界水となる水を供給する水供給路と、ナノ粒子原料であるナノ粒子前駆体溶液(金属塩-配位子分子水溶液など)を供給する原
料供給路を備えており、両供給路は、混合部、すなわち、高温高圧水と高圧ナノ粒子前駆体溶液との会合点(接点、ジャンクション、8)で互いに接続してある。
【0045】
上記水供給路(3)には、水を臨界圧力以上に加圧するための加圧手段、すなわち、高圧ポンプ(2)と、この高圧水を亜臨界温度以上又は臨界温度以上の所定の温度に加熱するための加熱手段、すなわち、加熱炉4とが順に設けてある。
上記原料供給路(7)には、金属塩と配位子分子を含有する水溶液などの原料液を加圧するための加圧手段、すなわち、高圧ポンプ(6)が設けてある。所望により、原料供給路には、加圧された原料液を所定の温度に加熱するための加熱手段、すなわち、加熱炉を設けておくこともできる。また、修飾剤である配位子分子水溶液を、金属塩水溶液に混合して原料液とする代わりに、別途別の原料供給路を設けて、所定の場所で、反応系に導入するようにしてもよい。
【0046】
上記接点(ジャンクション、8)で混合せしめられて得られた混合物は、等温ゾーン9に配置されたリアクターに導入されることになる。リアクターは、溶融塩浴ジャケットなどで覆われて、恒温ゾーンとなっており、所定の反応温度となるようにされている。温度は、例えば、熱電対を備えた温度センサなどによりモニターできる。次に、反応混合物は、水冷ジャケット(10)、フィルター(11)、圧力調整弁、例えば、バックプレシャ
ーレギュレーター(12)を通り、粒子溜、すなわち、生成物受槽(13)へと移動する。
【0047】
得られた表面修飾型ナノ粒子を含む生成物は、適宜、必要に応じて、ろ過処理することにより、凝集物を除去することができるし、さらに、遠心処理、デカンテーション処理、蒸留水、純水などによる洗浄処理、希KOH水溶液などの希アルカリ水溶液などを使用し再
分散化処理と遠心分離処理を繰り返すなどしてナノ粒子を洗浄できる。こうして得られる本発明のナノ粒子は、それ自体既知の方法で乾燥し、例えば、好ましくは凍結乾燥することにより、粉末の形で取得することもできる。
【0048】
本発明の表面修飾型ナノ粒子は、水分散性に優れており、その水性分散液中で、安定に分散状態が保持できることから、本発明の表面修飾型ナノ粒子の水性分散液は保存安定性もきわめて高いものである。本発明のDHCAで表面修飾されたFe3O4ナノ粒子(DHCA表面修
飾型Fe3O4ナノ粒子)は、低毒性のものであることが期待できる。このように本発明の表
面修飾型ナノ粒子は、低毒性である可能性が高いものであると期待される。さらに、本発明の表面修飾型ナノ粒子は、免疫応答回避能(あるいは生物的なステルス能)を有しているか、又は免疫応答回避(あるいは生物的なステルス能)を有していると期待できるものである。また、本発明の表面修飾型ナノ粒子は、生体に投与された場合、半減期(half-life)が比較的長いことが観察されるものである。こうした特徴は、表面が修飾されていな
いナノ粒子(非修飾型ナノ粒子)と比較してのものであってよい。
【0049】
本発明の免疫応答回避表面修飾型ナノ粒子は、生物医学的な用途、例えば、生物学分野および医療分野における利用に特に適している。当該ナノ粒子は、動物の免疫系に捕捉されずに効率よく標的組織や標的細胞へそれを送達できると期待できる。さらに、表面を修飾している配位子のカテコール単位のフェニル環上に官能基を有する置換基(例えば、-CH2-CH2-COOHなどのR基)を配置できるので、その官能基を使用して、当該分野で知られている手法、例えば、酵素標識抗体などの標識抗体、修飾タンパク質などで利用されるカップリング剤などを利用したカップリング技術を適用して、特定の腫瘍細胞や特定の標的細胞を特異的に認識する抗体などを結合させたり、さらには、特定の生理活性物質(サイトカイン、細胞傷害性因子、抗ガン因子、細胞毒性因子、抗生物質など)を結合させることができる。当該官能基を使用するにあたっては、例えば、COOH基は、そのままエステル交換反応で利用したりできるが、好ましくは、反応性の官能基に変えられる。この変換工程は、当該分野では一般的に、活性化と称される。当該活性化処理して得られた生成物は、活性化表面修飾ナノ粒子であり、それは直接に対象とする物質とカップリングさせることもできるし、あるいは、リンカー又はスペーサーを介して対象とする物質と結合させることもできる。
【0050】
こうして得られた物質は、標的指向性ナノ粒子として有用であり、ヒトや動物などで、標的組織のイメージング、磁気温熱療法、中性子捕捉療法、蛍光イメージングなどにおける研究開発用試薬、診断剤、治療剤などとして有用である。また、当該ナノ粒子は、少投与量(マイクロドーズ)で高性能なイメージングプローブを達成可能であり、標的指向性因子を結合することで、ガン、動脈硬化の新しい診断・治療法開発に資するものとなり、創薬に応用できる。
本発明の免疫応答回避表面修飾型磁性金属酸化物ナノ粒子は、安定した水性分散液を与えるので、いわゆる磁性流体としてメカニカルシール材、磁気クラツチ、磁気インクなどの工業分野に使用することができる。さらに、本発明の免疫応答回避表面修飾型磁性金属酸化物ナノ粒子は、高標的送達性を達成することが期待でき、好ましく、生物学分野および医療分野、例えば、細胞分離、細胞標識剤、ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System: DDS)などを含む医療用ナノ粒子、腫瘍の温熱療法剤、鉄補給剤、X線造影剤
、MRI造影剤、血管造影剤、リンパ節造影剤、血流の測定、さらには磁場を利用する局所
への薬物の集中的投与及び/又は生物由来物質の回収又は除去の際の担体等として有用である。
当該ナノ粒子(例えば、金属酸化物ナノ粒子や金属水酸化物ナノ粒子)は、触媒、記憶材料、発光材料、蛍光材料、二次電池用材料、電子部品材料、磁気記録材料、研摩材料、オプトエレクトロニクス、医薬品、化粧品などの広範な分野での利用が期待できる。本磁性ナノ粒子は、磁性流体、高密度記録材料、医療診断材料など多くの応用が期待される。
【0051】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0052】
(1)水分散性Fe3O4ナノ粒子の合成
FeSO4水溶液(40mM)と3,4-ジヒドロキシシンナム酸(DHCA)水溶液(40mM)を等容量
で混合して、反応体混合物溶液を調製し、そこに5.0M KOH水溶液を加えて、その溶液のpHを9.5に調整した。こうして調製された混合物溶液を、ナノ粒子前駆体である反応体混合
物溶液とした。磁性体ナノ粒子の合成は、フロー型リアクターを使用した。使用したフロー型リアクターの構成を図1に示す。内径1.8mmの直径のSUS 316管を通して高圧ポンプ(日本精密科学(株)、NP-KX-540)でもって、10ml/minの流速で脱イオン水をポンプ送出
し、電気炉4で400℃に加熱せしめた。
【0053】
ナノ粒子前駆体である反応体混合物溶液は、別途、別の配管系を通して3ml/minの流速
でポンプ送出せしめられた。高温高圧にされた水と当該ナノ粒子前駆体の反応体混合物溶液とが出会う接点(ジャンクション、8)で両者は混合せしめられ、その反応混合物はおおよそ200〜400℃の高温にせしめられることになる。混合せしめられた流れ(フロー)の温度は、温度センサの熱電対によってモニターした。等温ゾーン9を通した後、得られた反応混合物液は、水冷ジャケットを通過せしめて、室温に急速冷却せしめられた。反応ゾーン中の滞留時間は1.8秒間であった。具体的な反応温度としては、230、260、300、350
、360℃の温度で合成を行った。冷却された生成反応混合物は、0.5mmフィルター(Swegelok, TFシリーズ)を通して濾過処理せしめられて、凝集物を取り除いた後、系の圧力を30MPaに保持するためのバックプレシャーレギュレーター(TESCOM, 26-1700シリーズ)から取り出した。得られた生成物は、遠心処理、デカンテーション処理、0.01M KOH水溶液へ
の再分散化処理からなるサイクルを3度繰り返して洗浄せしめられた。
回収された生成物は、蒸留水中に良好に分散化せしめられるものであり、その水溶液の色は、黒色であった。
【0054】
(2)合成された無機粒子の特性の解析
上記(1)で合成された無機物質の特性を調べるため、X線回折法(X-ray diffraction; XRD)にかけ、20〜80°の範囲の2θをRIGAKU Ultima IV(RIGAKU,日本)に記録せしめ
た。
図2には、当該生成物のXRDパターンが示してある。その散乱X線パターンのすべては
、それがマグネタイト(magnetite, Fe3O4 JCPDS 86-1354)であると同定されるものであり、230、260、300及び360℃の反応温度で得られたもののその格子定数a=8.42、8.41、8.43及び8.43Åのそれぞれは、報告されたFe3O4の格子定数a=8.432Å〔R. E. Bailey, S. Nie, "The Chemistry of Nanomaterials: Synthesis, Properties and Application" (Eds: C. N. R. Rao, A. Muller, A. K. Cheethan), WILLEY-VCH, Weinheim, 2004, pp. 405
〕と良好な一致をみるものであった。
また、{311}面のピークを使用してシェラーの式(Sherrer's equation)を使用して、
結晶サイズ(crystallite size)を評価した。それぞれ、230、260、300、350℃の反応温度で製造されたFe3O4結晶のサイズは、10.5、13.2、16.2、17.6 nmというものであった。こうした結晶サイズの値は、粉末X線回折法により評価した結晶のサイズとほとんど同じものであり、その合成された粒子が、単一の結晶であることを示すものである。
【0055】
(3)合成Fe3O4ナノ粒子の分散液の安定性
上記(1)で合成されたFe3O4ナノ粒子の水性媒体への分散性を調べた。水及び食塩水(0.9%NaCl水溶液)に、それぞれ分散せしめられた合成Fe3O4ナノ粒子の分散液1mg/mlの外
観を示す写真を、図3に示す。液は、両者とも良好に分散せしめられているものであった。すなわち、本発明の合成されたFe3O4ナノ粒子は、水や食塩水(0.9%NaCl水溶液)に良好に分散せしめることができるものであった。1ヶ月静置の後でも沈殿や凝集は確認できなかった。
さらに、本発明の製造されたFe3O4ナノ粒子の流体力学的な直径を、動的光散乱法(dynamic light scattering; DLS)法により測定分析して評価した。300℃の反応温度で製造さ
れたFe3O4ナノ粒子についての結果を、図4に示す。そのFe3O4ナノ粒子の流体力学的な直径は、16.2 nmというもので、それはTEM (16.3 nm)やXRD (16.2 nm)により決定された粒
子のサイズとほぼ同様なものであった。これは、当該合成されたナノ粒子が、凝集することなく水の中に分散していることを示唆するものであった。図5には、様々な反応温度で合成されたFe3O4ナノ粒子の透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope: TEM)のイメージを示す。
【0056】
(4)合成されたFe3O4ナノ粒子のFT-IRスペクトル
本発明の生成Fe3O4ナノ粒子が、何故、水に良好な分散性を示すのかを調べるため、そ
の合成されたナノ粒子の表面の特性を調べた。すなわち、Fe3O4上にDHCAが結合している
か否かを確認するために、その合成されたFe3O4ナノ粒子をフーリエ変換赤外分光分析(Fourier Transform Infrared Spectroscopy; FT-IR)にかけ分析し、データを4000〜600cm-1の波長域でFT/IR 680(JASCO Co. Ltd., 日本)に記録せしめた。試料(サンプル)はKBrと一緒に混合粉末化した後、圧縮して、ペレットにせしめた。バックグラウンドスペクトルとしては、純KBrペレットを標準物として用いて測定した。
300℃の反応温度で製造されたFe3O4ナノ粒子のFT-IRスペクトルを図6に示す。そこに
は1484及び1259cm-1にシャープなピークが観察された。これらのピークは、カテコールアニオンを特徴付けるピークであり、それはカテコールアニオンがその金属酸化物の表面に共有結合的に結合していることを示すものである。1627cm-1のシャープなピークは遊離のCOOH基があることを示すものである。もしCOOH基が金属酸化物の表面に結合しているなら、1580cm-1近傍にシャープなピークが観察されよう。しかし、本ナノ粒子では、1580cm-1近傍にはピークは認められない。これは、Fe3O4に結合しているDHCAのCOOH基はすべて、Feイオンに結合しているのではなくて、溶媒側に面していることを示すものである(図7
)。
【0057】
(5)合成Fe3O4ナノ粒子の等電点
合成Fe3O4ナノ粒子のゼータポテンシャルを、Zetasizer Nano instrament (Malvern instrument)を使用して測定した。図8には、合成Fe3O4ナノ粒子のゼータポテンシャルを示す。そのゼータポテンシャルはpHの低下と共に徐々に大きくなり、pH4.0で0に達した。
非修飾のFe3O4の等電点は8.00である〔R. E. Bailey, S. Nie, "The Chemistry of Nanomaterials: Synthesis, Properties and Application" (Eds: C. N. R. Rao, A. Muller, A. K. Cheethan), WILLEY-VCH, Weinheim, 2004, pp. 405〕。DHCAのCOOH基のpKaは4.2である〔S. Kim, S. Bok, S. Lee, H. Kim, M. Lee, Y. B. Park, M. Choi, Toxycol. Appl. Pharmacol. 2005, 208, 29-36〕。本合成Fe3O4ナノ粒子の等電点(4.0)は、DHCAのCOOH
基のそれとほぼ同じ値であり、それによりそのCOOH基はそのナノ粒子の表面上に存在していることが示されている。この結果は、上記FT-IRの結果を支持するものであった。
【0058】
(6)当該Fe3O4ナノ粒子の上にあるDHCAの被覆度
Fe3O4上に結合しているDHCA分子の量を熱重量分析法(thermogravimetric analysis, TGA)により評価した。TG測定は、TGDTA T8120(Rigaku,日本)を使用して行った。測定
はすべて30mL/minのアルゴンの一定流の下で行われた。温度は最初、105℃で30分間保持
して水分を殆んど除去し、ついで10℃/minの速度で800℃まで昇温せしめた。
各サンプルの初期重量は、約5mgとした。測定したTGA曲線はすべて、固体部のみを測定したことを確認するため、105℃での重量に関して正規化処理せしめられた。本合成Fe3O4ナノ粒子の熱重量分析値を図9に示す。280℃でその重量が顕著に低下した。それはDHCA
が離脱または分解したことを示すと考えられる。加えて、すべての合成Fe3O4上におけるDHCAによる被覆度は、約4分子/nm2というものであり、それは反応温度を変えても大きくは変化するものでなかった(表1参照)。表1は、様々な反応温度で合成されたFe3O4ナノ
粒子におけるDHCAの被覆度を評価分析した結果を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
(7)磁気的性質
超伝導量子干渉型磁束計(Superconducting Quantum Interference Device; SQUID)を使用して、本発明の水分散性の表面修飾型Fe3O4ナノ粒子の磁気的性質を調べた。290K及び5Kで測定された、16.2 nmの直径を持っているナノ粒子の磁化曲線、すなわち、磁化-磁界曲線(M-H曲線)を図10に示す。
290Kの温度では、当該表面修飾型ナノ粒子は、超常磁性(superparamagnetic property)を有していた。一方、5Kの温度では、24.2 emu/gの残留磁束密度と340 Oeの保磁力の
典型的な強磁性ヒステリシス曲線(ferromagnetic hysteresis loop)が観察されるもので
あった。290Kの温度での飽和磁気モーメントは、75.43 emu/gで、5Kの温度での飽和磁気モーメントは、86.67 emu/gである。これらの値は、バルクのマグネタイトで報告され
ている値(理論値92 emu/g、実測値82 emu/g〔D. K. Kim, M. Mikhaylova, Y. Zhang, M.
Muhammed, Chem. Mater. 2003, 15, 1617-1627〕)と殆んど同じであり、これにより、
本発明で合成された表面修飾型Fe3O4ナノ粒子、すなわち、表面修飾型マグネタイトは、
理想的なマグネタイト(磁性体)として機能するものであることが示唆される。
【実施例2】
【0061】
本発明で合成された表面修飾型Fe3O4ナノ粒子は、超常磁性で、そのサイズは10〜20 nmのものであって、水や生理食塩水(0.9% NaCl水溶液)に良好に分散するものであり、それ
故に、医療用途において使用するのに望ましい性状のものである。
そこで、その合成された表面修飾型Fe3O4ナノ粒子の免疫刺激作用について調べた。
ナノ粒子を体内に導入すると、マクロファージの生体防御作用に影響を与える恐れがある〔G. Bate, Recording Materials, in Handbook of Ferromagnetic Materials, Vol. 2
, Ch. 7 (Ed: E. P. Wohlfarth), North Holland, Amsterdam, 1980, p.381〕。ナノ粒子を導入してマクロファージを刺激すると、貪食作用(phatocytosis)によりそのナノ粒子はマクロファージに取り込まれ、ナノ粒子は血管中を自由に移動することができなくなり、その結果、血中のナノ粒子の半減期寿命が短縮されることになる。それ故に、ナノ粒子を医学用途や生物学的な用途に用いるためには、特にインビボ(in vivo)で、マクロファ
ージをナノ粒子で刺激することを抑制することが求められている。
【0062】
免疫応答を刺激する程度を調べるため、マウスの樹状細胞(dendritic cell: DC)と上記で合成された表面修飾型Fe3O4ナノ粒子(直径17.2 nm)とを一緒に培養処理した後、サイトカイン生産について測定を行い調べた。侵襲性の物質が与えられると適切な免疫応答を生成する中で、樹状細胞はマクロファージと一緒になり重要な役割を果たしていることが知られている〔K. R. Vega-Villa, J. K. Takemoto, J. A. Yanez, C. M. Remsberg, M. L.
Forrest, N. M. Davis, Adv. Drug. Deliv. Rev. 2008, 60, 929-938〕。
【0063】
(樹状細胞の調製及び培養)
C57BL/6マウスより得た骨髄(bone, marrow, BM)細胞を、10%FCS,100U/mlペニシリンG
、100μg/mlストレプトマイシンと20ng/mlのマウス顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(murine GM-CSF, Wako, 大阪,日本)を含有している50μM 2-メルカプトエタノール
液を添加したRPMI1640培地10ml中で2×105個/mlで培養した。3日目に、同じ培地をさら
に10ml添加し、6日目にそのGM-CSFを含有する培養培地でもって培地の半分を置き換えた。8日目に非接着性の細胞を集め、BM誘導樹状細胞(BM-DCs)として使用した。
その得られた細胞を0.01〜0.1mg/mlのFe3O4又は合成Fe3O4ナノ粒子と共に1×105個/mlの細胞濃度として5%CO2インキュベーター中、37℃で24時間培養した。マウスを使用した
実験は東北大学の倫理委員会により承認されたガイドラインに従って行われた。
【0064】
マウス樹状細胞の免疫刺激の程度を、産生されるサイトカインの濃度により調べた結果を、図11に示す。濃度範囲 1〜100μg/mlでは、表面修飾型Fe3O4と一緒に培養してもマウス樹状細胞からのサイトカインの産生は認められなかったが、LPSでは著しい免疫応答
が誘導された。これにより、上記で合成されたDHCA表面修飾型Fe3O4ナノ粒子は、免疫学
的な反応を刺激することはないことが示された。
実施例1(1)に記載の方法に従い、DHCAに代えて、カテコール又は4−メチルカテコールを使用して、カテコール又は4−メチルカテコール表面修飾Fe3O4ナノ粒子を合成し
、この得られた表面修飾Fe3O4ナノ粒子について、同様にアッセイした結果を、図12に
示す。
【0065】
本発明で得られた表面修飾型Fe3O4ナノ粒子の流体力学的な直径は、<20 nmというもので、ポリエチレングリコールなどの水に親和性があるポリマーでもって被覆することなしで、水性媒質に非常に良好に分散する。これが、本表面修飾型Fe3O4ナノ粒子によりマウ
スの樹状細胞が刺激されることがない理由かもしれない。本表面修飾型Fe3O4ナノ粒子は
、血中で長い半減期寿命を有しており、血管中を安定して移動するものであると思われる。つまり、本発明の表面修飾型金属酸化物ナノ粒子が免疫ステルス能あるいは免疫応答回避能を有していることを示している。
【0066】
かくして、本発明で得られた表面修飾型Fe3O4ナノ粒子などの表面修飾型金属酸化物ナ
ノ粒子は、生体中で安定な金属酸化物ナノ粒子に、安全な配位子分子でもって被覆を施したもので、その上に、標的指向性因子を結合させるなどして、修飾可能であり、それにより、免疫応答回避機能あるいはステルス機能と水溶性(水分散性)、標的細胞や標的組織(例えば、ガン組織、動脈硬化病巣など)へのアクティブ・ターゲッティング機能を賦与したナノ粒子、すなわち、標的細胞指向性ステルスナノ粒子を製造することを可能にする。当該粒子を使用して、免疫細胞、動物アッセイ系で評価可能であり、動物モデルを含め
て、標的組織集積性、標的組織イメージング、磁気温熱療法や中性子捕捉療法などにおいて、研究開発用デバイス、生物医学用薬などとして有用である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明で得られる免疫応答回避表面修飾型ナノ粒子は、生物医学的な用途、診断・治療法や医薬の開発に利用することができて有用である。さらに、標的組織のイメージング、磁気温熱療法、中性子捕捉療法、蛍光イメージングなどにおける研究開発用試薬、診断剤、治療剤などとして有用である。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0068】
1:水供給源槽(脱イオン水供給槽)
2、6:高圧ポンプ
3:高圧水供給配管
4:加熱炉
5:ナノ粒子前駆体供給源槽(金属塩-配位子分子液供給槽)
7:高圧ナノ粒子前駆体溶液供給配管
8:高温高圧水と高圧ナノ粒子前駆体溶液との会合点(接点、ジャンクション)
9:等温ゾーン(ナノ粒子形成反応ゾーン)
10:水冷ジャケット
11:フィルター(保護フィルター)
12:バックプレシャーレギュレーター
13:生成物(生成物受槽)
14:配管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一個又は複数個の免疫応答回避能を供与する配位子が、単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子のコアに、共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合で結合しており、該ナノ粒子が、免疫応答回避表面修飾型金属酸化物ナノ粒子又は免疫応答回避表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子であることを特徴とする表面修飾ナノ粒子。
【請求項2】
免疫応答回避能を供与する配位子が、一般式(1):
【化1】
〔上式中、Rは、一個又は同一あるいは異なるものが複数個存在していてもよく、水素、
アルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、カルボアルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、シアノアルキル基、及びアシルアミノアルキル基からなる群から選択された基を表す〕
を有している化合物より誘導されたものであることを特徴とする請求項1に記載の表面修飾ナノ粒子。
【請求項3】
表面修飾ナノ粒子が、一般式(9):
【化2】
〔上式中、CNPは、コア金属酸化物ナノ粒子であり、Rは、一個又は同一あるいは異なるものが複数個存在していてもよく、水素、アルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、カルボアルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、シアノアルキル基、及びアシルアミノアルキル基からなる群から選択された基を表す〕
で表わされるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面修飾ナノ粒子。
【請求項4】
免疫応答回避能を供与する配位子が、3,4-ジヒドロキシシンナム酸より誘導されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の表面修飾ナノ粒子。
【請求項5】
コアが、磁性金属酸化物ナノ粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の表面修飾ナノ粒子。
【請求項6】
コアが、マグネタイト(Fe3O4)ナノ粒子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれ
か一に記載の表面修飾ナノ粒子。
【請求項7】
ナノ粒子前駆体溶液を、免疫応答回避能を供与する配位子分子の存在下に、高温高圧水環境下、例えば、亜臨界水又は超臨界水中で反応処理に付して、少なくとも一個又は複数個の該免疫応答回避能を供与する配位子が、単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子のコアに、共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合で結合しており、該ナノ粒子が、免疫応答回避表面修飾型金属酸化物ナノ粒子又は免疫応答回避表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子である表面修飾ナノ粒子を形成せしめることを特徴とする表面修飾ナノ粒子の合成方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子前駆体溶液は、少なくともナノ粒子源となる金属錯体を包含する金属イオンを含む金属塩あるいは配位化合物を包含する金属化合物を含有するものであり、前記高温高圧水は、亜臨界水又は超臨界水であり、前記表面修飾ナノ粒子は、請求項1〜6のいずれか一に記載のものであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項1】
少なくとも一個又は複数個の免疫応答回避能を供与する配位子が、単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子のコアに、共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合で結合しており、該ナノ粒子が、免疫応答回避表面修飾型金属酸化物ナノ粒子又は免疫応答回避表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子であることを特徴とする表面修飾ナノ粒子。
【請求項2】
免疫応答回避能を供与する配位子が、一般式(1):
【化1】
〔上式中、Rは、一個又は同一あるいは異なるものが複数個存在していてもよく、水素、
アルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、カルボアルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、シアノアルキル基、及びアシルアミノアルキル基からなる群から選択された基を表す〕
を有している化合物より誘導されたものであることを特徴とする請求項1に記載の表面修飾ナノ粒子。
【請求項3】
表面修飾ナノ粒子が、一般式(9):
【化2】
〔上式中、CNPは、コア金属酸化物ナノ粒子であり、Rは、一個又は同一あるいは異なるものが複数個存在していてもよく、水素、アルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、カルボアルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、シアノアルキル基、及びアシルアミノアルキル基からなる群から選択された基を表す〕
で表わされるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面修飾ナノ粒子。
【請求項4】
免疫応答回避能を供与する配位子が、3,4-ジヒドロキシシンナム酸より誘導されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の表面修飾ナノ粒子。
【請求項5】
コアが、磁性金属酸化物ナノ粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の表面修飾ナノ粒子。
【請求項6】
コアが、マグネタイト(Fe3O4)ナノ粒子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれ
か一に記載の表面修飾ナノ粒子。
【請求項7】
ナノ粒子前駆体溶液を、免疫応答回避能を供与する配位子分子の存在下に、高温高圧水環境下、例えば、亜臨界水又は超臨界水中で反応処理に付して、少なくとも一個又は複数個の該免疫応答回避能を供与する配位子が、単一の粒子である金属酸化物ナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子のコアに、共有結合又は共有結合に匹敵する強い結合で結合しており、該ナノ粒子が、免疫応答回避表面修飾型金属酸化物ナノ粒子又は免疫応答回避表面修飾型金属水酸化物ナノ粒子である表面修飾ナノ粒子を形成せしめることを特徴とする表面修飾ナノ粒子の合成方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子前駆体溶液は、少なくともナノ粒子源となる金属錯体を包含する金属イオンを含む金属塩あるいは配位化合物を包含する金属化合物を含有するものであり、前記高温高圧水は、亜臨界水又は超臨界水であり、前記表面修飾ナノ粒子は、請求項1〜6のいずれか一に記載のものであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−111694(P2012−111694A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259243(P2010−259243)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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