説明

水分散性乾式不織布およびたばこ用フィルター並びにそれらの製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、水分散性不織布およびたばこ用フィルター並びにそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】最近、環境で分解されないか分解されにくい材料で作られた包装材料等による環境破壊が問題になっている。その中の一つにたばこ用フィルターがある。従来のたばこ用フィルターの濾材には、アセテートトウ、紙、乾式不織布が使用されている。乾式不織布使用のたばこ用フィルターは次のようにして得る。まず、例えば、パルプ繊維を解繊し、無端金網上の吸収面上に落下し、ウエブを形成しつつ移送する。次に、ウエブが吸引箱の上面を通過する際、接着剤をウエブに噴霧する。接着剤をウエブの内部まで十分に浸漬させた後にウエブを乾燥して乾式不織布を得る(特公昭45−10599号公報参照)。この乾式不織布を用いてたばこ用フィルターを製造するには、ロール状に巻き取られた乾式不織布のシートを2枚以上を一定の幅だけずらして重ね合わせ、この不織布のシートを長手方向に対して直角に切断した切断面で見てS字型またはZ字型に折り曲げた後に、略円柱状に絞った後、外周面を巻取紙で覆うことによりたばこ用フィルターが得られる(特公昭44−3727号公報参照)。上述のようなたばこ用フィルターは、耐水性を有し、分解が遅いため、その形態が維持されるために、自然環境を汚染するおそれがあり、その清掃にも手間がかかる。
【0003】このような問題を解決するために、水、特に降雨により形状が破壊され、繊維状物に分散した後、土中微生物により分解されるたばこ用フィルターが要望されている。
【0004】水分散性の材料としては、例えば、特開昭48−99405号公報には、抄紙工程において、繊維間のフィブリル化が発生する前に親水性有機溶剤を添加し、90℃以下の温度乾燥した後、さらに結合材を添加して乾燥することにより水分散性紙を得る方法が開示されている。
【0005】また、実開平5−74299号公報には、ポリオレフィン樹脂からなる分解性プラスチックからなるたばこ用フィルターが開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】たばこ用フィルターのための材料としては、例えば、フィルターとして円柱状に成形する場合に濾材が均一でかつその断面形状を真円により近くできること、および、通気性のムラが生じにくいこと等が要求される。従来の乾式不織布は、紙および湿式不織布と比較して密度が低く、嵩高さ、柔軟性、復元性および通気性に優れており、上記条件を満たしていた。
【0007】上述の特開昭48−99405号公報に開示された水分散性紙の製造方法は、抄紙法で製造される一般紙のためのものである。このため、この方法を不織布の製造には利用できない。
【0008】また、実開平5−74299号公報に開示されたたばこ用フィルターは、不織布を用いたものではなく、上記たばこ用フィルターのための条件を満足するものではない。
【0009】以上、たばこ用フィルターを例に挙げて説明した。しかし、空気洗浄用フィルターのような各種フィルター材、または、各種ワイパー材等の材料としても、密度が低く、嵩高さ、柔軟性、復元性および通気性に優れた乾式不織布が適している。しかしながら、水分散性を有する乾式不織布は知られていない。
【0010】本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、環境中で容易に水に分散し、且つ、嵩高さ、強度および成形性等に優れた水分散性不織布およびたばこ用フィルター並びにそれらの製造方法を提供する。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、解繊されたパルプのウエブに結合剤を含有する結合剤溶液を含浸させた後に乾燥させて得られる乾式不織布であって、前記結合剤が部分けん化されたポリビニルアルコールを40〜100重量%およびポリ酢酸ビニル0〜60重量%を含有することを特徴とする水分散性乾式不織布を提供する。
【0012】また、本発明は、解繊したパルプをウエブに成形する工程と、前記ウエブに部分けん化されたポリビニルアルコールを40〜100重量%およびポリ酢酸ビニル0〜60重量%を含有する結合剤を含有する結合剤溶液を含浸させる工程と、前記ウエブを乾燥させる工程を具備することを特徴とする水分解性乾式不織布の製造方法を提供する。
【0013】また、上記水分散性乾式不織布を濾材に用いたことを特徴とするたばこ用フィルターを提供する。
【0014】さらに、本発明は、解繊したパルプをウエブに成形する工程と、前記ウエブに部分けん化されたポリビニルアルコールを40〜100重量%およびポリ酢酸ビニル0〜60重量%を含有する結合剤を含有する結合剤溶液を含浸させる工程と、前記ウエブを乾燥させて濾材を得る工程と、得られた濾材を所定の形状に成形してたばこ用フィルターを得る工程とを具備することを特徴とするたばこ用フィルターの製造方法を提供する。
【0015】以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】本発明の水分解性不織布は、下式(1)で示される部分けん化されたポリビニルアルコール(以下、PVAと記す)および下式(2)で示されるポリ酢酸ビニル(以下、PVAcと記す)を含有する結合剤を用いている。
【0017】
【化1】


【0018】本発明で用いられる結合剤は、上述の部分けん化PVAおよびPVAcを含有する。部分けん化PVAとPVAcとの混合割合は、固形分として40:60〜100:0の範囲内である。
【0019】本発明の水分散性不織布は、上記結合剤を例えば全体に対して10〜30%の範囲で含有する。
【0020】本発明の水分散性不織布に使用される繊維は、必要に応じて天然繊維、半合成繊維または合成繊維の中から適宜選択できる。
【0021】しかしながら、自然環境への影響を考慮し、自然環境中で分解されるものが好ましい。さらに、たばこ用フィルターは、濾材が均一でありかつフィルター断面に空洞状のスの発生が少ないこと、フィルターとして円柱状に成形する場合にその断面形状を真円により近くできること(以下、真円性と記す)、および、通気性のムラが生じにくいこと等が要求される。このため、たばこ用フィルターの濾材に用いる場合の本発明の水分散性不織布には、木材パルプ、わらパルプ、竹パルプ等の天然パルプが用いられるが、特に木材パルプが好ましい。
【0022】本発明の水分解性不織布は、次のようにして製造される。まず、前記結合剤を、例えばPVA水溶液とPVAcエマルジョンを配合(混合)し、さらに水で希釈することにより、3〜10%の結合剤溶液を調製する。
【0023】一方、繊維を解繊した後、例えば薄膜状のウエブを形成する。ウエブは、例えば解繊された繊維をウエブ形成用金網の表面上に落下させ、この金網の反対側から繊維を吸引することにより形成される。
【0024】次に、得られたウエブに上述の結合剤溶液を含浸させる。例えば、金網の上に形成されたウエブに対して結合剤溶液をスプレーすることにより行われる。この後、ウエブを例えば熱風循環(150〜180℃)の乾燥機により乾燥させることにより、本発明の水分散性不織布が得られる。
【0025】本発明は、上述の水分散性不織布を濾材とした用いたたばこ用フィルターも包含する。たばこ用フィルターは、例えば、特公昭44−3727号公報に開示されるような方法に従って、上述の水分散性不織布を成形することにより得られる。すなわち、まず、水分散性不織布からなるシート4枚に長手方向に連続して裁断しつつ、これらを互いに一定の幅にずらせて重ね合わせる。次に、重ね合わせた不織布のシートを長手方向に対して直角に切断した切断面で見てS字型またはZ字型に折り曲げた後に、絞ることにより略円柱状に巻き上げる。この結果、本発明のたばこ用フィルターが得られる。しかしながら、たばこ用フィルターの形状および製造方法はこれに限定されるものではない。
【0026】本発明の水分散性不織布は、たばこ用フィルターの他、空気洗浄用フィルターのような各種フィルター材、または、各種ワイパー材等の材料として使用することができる。
【0027】
【作用】本発明の水分散性乾式不織布は、結合剤が水分散性が良好である部分けん化されたPVAと、PVA単独で使用した場合に発生する乾式不織布が硬くなる、あるいは、伸びなくなる等の欠点を抑え、柔らかさを与えるPVAcを所定の範囲内の配合割合で含有する。これにより、水分散性乾式不織布は、自然環境中で水により分散し、環境中で形態を止めない。また、水分散性乾式不織布は、乾式で抄造されているので、嵩高さ、強度、成形性に優れ、フィルター炉材としての適性を有する。
【0028】また、本発明の水分散性不織布の製造方法は、解繊した繊維をウエブに形成し、このウエブにPVAおよびPVAcを所定の範囲内の配合割合で含有する結合剤の溶液を含浸させ、この後乾燥させている。これにより、水分散性に優れた水分散性乾式不織布が得られる。
【0029】また、本発明のたばこ用フィルターは、PVAおよびPVAcを所定の範囲内の配合割合で含有する結合剤を水分散性乾式不織布を濾材に用いているので、自然環境中で水により分散し、環境中で形態を止めない。また、乾式で抄造された不織布を用いているので、通気性、真円性および成形性に優れている。
【0030】また、本発明のたばこ用フィルターの製造方法は、解繊した繊維をウエブに形成し、このウエブにPVAおよびPVAcを所定の範囲内の配合割合で含有する結合剤の溶液を含浸させ、この後乾燥させて不織布を得、これを所定の形状に成形する。これにより、水分散性に優れたたばこ用フィルターが得られる。
【0031】
【実施例】以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0032】本発明の水分散性乾式不織布およびたばこ用フィルターについて、次のような試験を行った。以下の各試験において、不織布およびたばこ用フィルターは次のようにして製造した。
【0033】(1)不織布の製造原料パルプを粗砕機および解繊機で単繊維化した後、ウエブ形成装置からパルプを無端金網の吸収面上に落下させ、ウエブを形成ししつ移送する。このウエブに結合剤溶液を噴霧し、乾燥し、さらに結合剤溶液を噴霧し乾燥して、幅240cmの不織布を得た。得られた不織布は巻取装置で巻き取った。巻き取られた不織布はボビン機で13cmの幅に裁断し、巻き取った。
【0034】(2)たばこ用フィルターの製造たばこ用フィルターを通常のたばこ用フィルター製造装置を用いて製造した。すなわち、(1)に記載の方法で製造された不織布を、スリッターで4枚に切り裂き、切り口がS字状の円筒状に成形した。次に、円筒状の不織布を巻取用紙で包み、糊付け紙、所定の長さにカッターで切断して、たばこ用フィルターを得た。
【0035】A.結合剤のけん化度およびPVAおよびPVAcの配合割合と不織布の水分散性の関係けん化度の異なる部分けん化PVA(けん化度;71〜73%,80〜82%,88〜89%,99%以上)を用意し、夫々の部分けん化PVAについて、PVAcとの配合割合を、0:100〜100:0に変更した各種の結合剤を調製した。これらの結合剤を用いて上記(1)に従って不織布を製造した。
【0036】得られた不織布について、次のようにして水分散性を評価した。不織布の3cm角試験片をビーカーに収容した20℃の水500ml中に入れた。マグネット攪袢子にて100rpmで攪袢し、試験片が完全に分散するまでの時間を測定した。水分散性は、分散所要時間が0〜1分のものを◎、1〜60分のものを○、60〜180分のものを△、180分を越えるものを×と夫々評価した。この結果を、表1に示す。
【0037】
【表1】


【0038】表1から明らかなように、部分けん化PVAのけん化度が71〜89%である場合であって、部分けん化PVA:PVAcの配合割合が、40:60〜100:0の範囲内の場合に、不織布の水分散性が良好であることが確認された。
【0039】B.不織布の坪量とフィルター重量および通気抵抗上記(1)の方法に従って、結合剤(PVA70重量%,PVAc30重量%)を不織布に対して20重量%の配合量で用い、坪量が40,45,50,55および60g/m2 の不織布を夫々製造した。次にこれらの不織布を用いて、上記(2)の方法に従って、たばこ用フィルターを製造し、それらの重量と吸引空気35cc/分のときの通気抵抗を測定した。この結果を表2に示す。
【0040】
【表2】


【0041】表2から明らかなように、坪量が40〜60g/m2 の範囲内である不織布を用いて製造したたばこ用フィルターは、いずれも、たばこ用フィルターに要求される150〜550mmH2 Oの範囲内の通気抵抗を有していることが確認された。
【0042】C.結合剤の配合量と不織布およびフィルター特性の関係表3に示す2種類の結合剤A,Bを用意し、上記(1)の方法に従って坪量45g/m2 であって、結合剤の配合量が4〜11g/m2 に夫々変更した8種類の不織布を製造した。次に、これらの不織布を用いて上記(2)の方法に従ってたばこ用フィルターを夫々製造した。これらの不織布の強度、並びに、フィルターの成形性および硬さを調べた。この結果を表3に併記する。
【0043】
【表3】


【0044】なお、表3中の評価は次のような意味である。
【0045】
記 号 ○ △ × 不織布の強度(kg/16cm巾) 3.0 以上 2.0 〜2.9 2.0 未満 フィルターの成形性 良 やや良 不良 フィルターの硬さ(mm/10) 8.5 未満 8.5 〜9.5 9.6 以上ここで、不織布の強度は2.0kg/16cm巾未満である場合には、フィルターに巻き上げる作業で、巻取紙から不織布が飛び出す等の不都合を生じるので×と評価した。また、成形性は、フィルターの外観品質である、のり付状態、スの発生、陥没の有無等目視検査の結果に基づいて評価した。
【0046】表3から明らかなように、結合剤A,Bはいずれも結合剤の配合量が5〜10g/m2 の範囲内では不織布の強度、フィルターの成形性およびフィルターの硬度のいずれの特性についても良またはやや良であることが確認された。
【0047】
【発明の効果】以上説明した本発明の水分散性乾式不織布によれば、結合剤がPVAおよびPVAcを所定の範囲内の配合割合で含有する。これにより、水分散性乾式不織布は、自然環境中で水により容易に分散し、環境中で形態を止めない。また、本発明の水分散性乾式不織布は乾式で抄造されているので、嵩高さ、強度、成形性に優れている。この結果、自然環境へ悪影響を及ぼさない、優れた品質のたばこ用フィルター、空気清浄用フィルター等に利用可能である。
【0048】また、本発明の水分散性不織布の製造方法は、解繊した繊維をウエブに形成し、このウエブにPVAおよびPVAcを所定の範囲内の配合割合で含有する結合剤の溶液を含浸させ、この後乾燥させている。従って、従来の乾式不織布の製造において結合剤を変更するだけで、水分散性に優れた水分散性乾式不織布を容易に得ることができる。
【0049】また、本発明のたばこ用フィルターは、PVAおよびPVAcを所定の範囲内の配合割合で含有する結合剤を水分散性乾式不織布を濾材に用いているので、自然環境中で水により分散し、環境中で形態を止めない。従って、たばこの吸い殻の投げ棄てにより放置されても降雨などにより短期間で破壊されるので、自然環境に悪影響を及ぼすことがほとんどない。また、乾式で抄造された不織布を用いているので、たばこ用フィルターとして要求される通気抵抗、真円性、硬度および成形性等の特性をいずれも満足することができる。
【0050】また、本発明の水分散性不織布の製造方法は、解繊した繊維をウエブに形成し、このウエブにPVAおよびPVAcを所定の範囲内の配合割合で含有する結合剤の溶液を含浸させ、この後乾燥させて不織布を得、これを所定の形状に成形する。従来のたばこ用フィルターの製造において結合剤を変更するだけで、水分散性に優れたたばこ用フィルターを容易に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 解繊されたパルプのウエブに結合剤を含有する結合剤溶液を含浸させた後に乾燥させて得られる乾式不織布であって、前記結合剤が部分けん化されたポリビニルアルコールを40〜100重量%およびポリ酢酸ビニル0〜60重量%を含有することを特徴とする水分散性乾式不織布。
【請求項2】 結合剤を全体に対して10〜30重量%含有する請求項1に記載の水分散性乾式不織布。
【請求項3】 解繊したパルプをウエブに成形する工程と、前記ウエブに部分けん化されたポリビニルアルコールを40〜100重量%およびポリ酢酸ビニル0〜60重量%を含有する結合剤を含有する結合剤溶液を含浸させる工程と、前記ウエブを乾燥させる工程を具備することを特徴とする水分散性乾式不織布の製造方法。
【請求項4】 請求項1または2に記載の水分散性乾式不織布を濾材に用いたことを特徴とするたばこ用フィルター。
【請求項5】 坪量が40〜60g/m2 の請求項4記載のたばこ用フィルター。
【請求項6】 解繊したパルプをウエブに成形する工程と、前記ウエブに部分けん化されたポリビニルアルコールを40〜100重量%およびポリ酢酸ビニル0〜60重量%を含有する結合剤を含有する結合剤溶液を含浸させる工程と、前記ウエブを乾燥させて濾材を得る工程と、得られた濾材を所定の形状に成形してたばこ用フィルターを得る工程とを具備することを特徴とするたばこ用フィルターの製造方法。
【請求項7】 部分けん化されたポリビニルアルコールのけん化度が、71〜89%であることを特徴とする請求項1または2に記載の水分散性乾式不織布。
【請求項8】 部分けん化されたポリビニルアルコールのけん化度が、71〜89%であることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項9】 部分けん化されたポリビニルアルコールのけん化度が、71〜89%であることを特徴とする請求項4または5に記載のたばこ用フィルター。
【請求項10】 部分けん化されたポリビニルアルコールのけん化度が、71〜89%であることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。

【特許番号】特許第3260059号(P3260059)
【登録日】平成13年12月14日(2001.12.14)
【発行日】平成14年2月25日(2002.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−163741
【出願日】平成7年6月29日(1995.6.29)
【公開番号】特開平9−9949
【公開日】平成9年1月14日(1997.1.14)
【審査請求日】平成10年4月1日(1998.4.1)
【出願人】(000004569)日本たばこ産業株式会社 (406)
【出願人】(000229793)日本フィルター工業株式会社 (3)
【参考文献】
【文献】特開 平5−106116(JP,A)
【文献】特開 平7−118334(JP,A)
【文献】特開 平7−99958(JP,A)