説明

水分散性及び光に対する安定性が改良されたクルクミン組成物

【課題】本発明の課題は、水に溶けにくいクルクミンを水に分散しやすい組成物とすることによって飲料等への配合を可能とし、長期間保存してもクルクミン含有粒子の沈殿を生じることがなく、光に対する高い安定性を保持し、かつ、添加された飲食品においても食感や風味等に悪影響を及ぼすことのない水分散性の優れたクルクミン組成物を提供することにある。
【解決手段】クルクミン含有粒子を乳化剤、水系溶媒の存在下210ナノメートル以上420ナノメートル以下に粉砕することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クルクミンを含有する粒子が沈殿または浮遊しないで安定な分散状態を保ち、特別な分散装置を要することなく容易に飲食品中に分散可能であり、添加された飲食品中においても不快な風味や食感を呈することもなく、さらには光に対する高い安定性を示す水分散性の優れたクルクミン組成物およびこの組成物を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
クルクミン((1E,6E)−1,7−bis(4−hydroxy−3−methoxyphenyl)−1,6−heptadiene−3,5−dione、C21206:分子量約368.4g/mol)は、植物ウコンの根茎などから抽出した天然の食用色素で、カレー等のスパイスや着色料として広く利用されている。また、クルクミンは近年、抗炎症作用、抗腫瘍作用及び抗酸化作用を期待する健康食品素材として錠剤やカプセル剤等に配合され広く利用されている。
【0003】
しかし、クルクミンは通常の食事からは極少量摂取されるに過ぎず、十分な上記作用を期待することは困難であり、これをカプセル剤等で摂取するとすれば煩雑であるため継続性に欠け、飲用者をかなり限定してしまっていた。
【0004】
そこでクルクミンを効率的に摂取する方法として、クルクミンを添加した飲料や各種食品が提案されている。日常的に摂取される飲食品にクルクミンを添加することは、その作用向上の期待を高めるとともに、クルクミンの継続的摂取を容易とするので有意義である。
【0005】
しかしながら、クルクミンは水や油に対する溶解度が極めて低く、融点も約183℃と高いため、飲食品等への利用には大きな制約があった。例えば、クルクミンは高融点の結晶であるために食品中で結晶によるざらつき感、粒状感などの耐え難い不快な食感を生じてしまっていた。また、色素であるクルクミンは、水系の飲食品に添加すると均一に分散させることが困難であり、食品中で着色斑を生じてしまっていた。また、クルクミンは溶解度の低さから飲料等の液状食品に添加した場合には沈殿物となって容器底部に固着し、商品価値を大きく損ねてしまっていた。さらには、融点以上に加熱したとしても放冷後には食品内部で再び結晶化して上記の不都合が生じてしまうし、そもそもそのような加熱をすることが出来ない食品も多くあるため、クルクミンの飲食品等への利用には大きな制約があった。
【0006】
また、クルクミンは可溶化剤などを用いて溶解させた場合、光に対する安定性が極めて悪化するという問題があった。即ち、クルクミンを溶解させた飲料などを透明容器に充填した場合においては、店頭陳列棚等での照射光により、時間の経過とともにクルクミン含有量が低下してしまうことがあった。そのため、これらの飲料などは遮光性の高いアルミ缶等に充填する必要があり、商品容器が限定されてしまっていた。
【0007】
そこで、クルクミンをあらゆる飲食品に利用することができるようにその分散安定性の向上、加工特性の向上、風味、食感の向上及び光に対する安定性の向上が強く求められている。
【0008】
以下、本発明に関連する技術分野における代表的な従来技術を挙げる。
【特許文献1】特開2005−185237号公報
【特許文献2】特開2000−312578号公報
【特許文献3】特表2000−504216号公報
【特許文献4】特開平6−9479号公報
【特許文献5】特開2005−328839号公報
【0009】
先行技術調査によれば、特許文献1には、クルクミンを予めポリソルベートに溶解し、次いでこの混合液を水性溶媒と混合することによって溶液状のウコン色素製剤が調製できることが開示されている。しかし、クルクミンは可溶化させてしまうと耐光性が極端に悪くなるうえに、可溶化に用いる可溶化剤も多量となってしまうため、添加した飲食品の風味や食感を悪化させてしまうという不利益があった。また、ポリソルベートによって可溶化することの出来るクルクミンの量は極少量にとどまることから、高濃度のクルクミン組成物を得ることが出来なかった。さらには、ポリソルベートは2008年1月1日現在食品への使用が許可されていないため、使用対象が限られてしまうという不利益もあった。
【0010】
特許文献2には、乾燥した原種野生ウコンを皮つきのまま、アルコール類に漬け込んでウコン成分を抽出してなるウコン抽出アルコール類が開示されている。しかし、この場合もクルクミンが溶解するために生じる耐光性の悪化がみられる。また、クルクミンを十分に溶解させるためにはアルコール飲料のアルコール度数を高くしなければならず、ヒトのアルコール摂取量は不可避的に著しく増大し、却って健康を損ねることとなってしまう恐れがあった。さらには、アルコール飲料を飲用することが出来ない体質の人やアルコール飲料を飲用することが出来ない状況下においては、クルクミンを摂取出来ないという不利益もあった。
【0011】
特許文献3には、10マイクロメートル以下の平均サイズの物体の形の水不溶性及び/又は疎水性天然色素の分散体を含んで成り、前記物体は界面活性物質の非存在下で前記色素の少なくとも1重量%の量の親水コロイドを含んで成る水性相に分散されており、少なくとも5重量%の水を含有することを特徴とする配合物が開示されている。この方法によれば、クルクミンを一時的に分散させることが出来るが、界面活性剤を用いない粉砕では1マイクロメートル以下の粒子を作り出すことが出来ないか、作り出すことが出来てもすぐに凝集してしまった。そのため、長期に亘ってクルクミンを安定に分散させることは困難で、24時間程度の経時変化によりクルクミンの沈殿物を生じてしまい、飲食品などに利用した場合には経時変化により飲食品の外観及び食感が悪くなってしまった。
【0012】
特許文献4には、クルクミンを水とエタノ−ルの混合溶剤に溶解し、これをシクロデキストリンに吸着包接させ、その後エタノ−ルを除去することを特徴とする水溶性クルクミン−シクロデキストリン複合体の製造方法が開示されている。この方法によれば、ごく一部のクルクミンは安定に分散させることが出来たが、クルクミンの未包接物による沈殿物を抑えることが出来なかった。
【0013】
特許文献5には、難溶性成分を溶解したアルコール溶液を原料水に分散し、前記難溶性成分を微粒子化する手段と、該微粒子と乳化剤を結合させる手段と、から成ることを特徴とする難溶性成分の可溶化液について開示されている。この方法によれば、ごく僅かな量のクルクミンを可溶化することができるが、多量の有機溶媒を用いなければならないという不利益があった。また、一旦可溶化したクルクミンが経時変化で沈降してしまうという不利益もあった。
【0014】
以上のように、飲食品、特に飲料を中心とする水系食品に添加可能なクルクミンとして十分に満足しうるものは存在しなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、上記のような水に溶けにくいクルクミンを水に分散しやすい組成物とすることによって、水系の飲食品への使用を可能とし、長期間保存してもクルクミンの沈殿物を生じることなく、光に対する高い安定性を保持し、かつ、添加された飲食品においても食感や風味等に悪影響を及ぼすことのない水分散性の優れたクルクミン組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題解決のため鋭意研究した結果、クルクミンを含有する粒子(以下「クルクミン含有粒子」ともいう。)の平均粒子径を特定することにより、水に対する分散性が優れ、かつ、光に対する高い安定性を有するクルクミン組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明において、クルクミン含有粒子は、レーザー光散乱法による平均粒子径が210ナノメートル以上420ナノメートル以下の分散状態で存在する。クルクミン含有粒子が分散状態ではなく、可溶化されていると光に対する安定性に欠ける。また、分散状態であっても、平均粒子径が210ナノメートル未満であると安定性が十分ではない。また、クルクミン含有粒子の大きさが420ナノメートルを越えると、分散させても経時変化で沈殿しやすくなる。
【0018】
本発明の第1の発明は、クルクミンを含有する分散粒子と、乳化剤と、水系溶媒を含有するクルクミン組成物であって、クルクミンを含有する分散粒子のレーザー光散乱法による平均粒子径が210ナノメートル以上420ナノメートル以下であることを特徴とするクルクミン組成物である。
【0019】
なお、本発明でいう水系溶媒とは、水と水溶性溶媒の総称であり、具体的には、水のみからなるもの、水溶性溶媒のみからなるもの、水と水溶性溶媒を併用したものがある。また、水溶性溶媒は、1種を用いても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明の第2の発明は、第1の発明において、乳化剤が、HLB値が9以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、HLB値が9以上のショ糖脂肪酸エステル、改質レシチンのうちから選択される1種又は2種以上の組合せであって、水系溶媒が水、グリセリンのうちから選択される1種又は2種以上の組合せであるクルクミン組成物である。
【0021】
なお、改質レシチンとは、その親水性が改善されるように改質されたレシチンのことであり、改質レシチンとしては、酵素分解レシチンが好ましく使用される。
【0022】
本発明の第3の発明は、第2の発明において、ポリグリセリン脂肪酸エステルがデカグリセリンパルミチン酸エステル及び/又はデカグリセリンステアリン酸エステルであるクルクミン組成物である。
【0023】
本発明の第4の発明は、第1乃至第3の発明において、クルクミンの含有量が1質量%以上であるクルクミン組成物である。
【0024】
本発明の第5の発明は、乳化剤を水系溶媒に溶解又は分散させ、次いで当該乳化剤が溶解又は分散した水系溶媒の存在下、クルクミンを含有する粒子をレーザー光散乱法による平均粒子径が210ナノメートル以上420ナノメートル以下となるように粉砕することを特徴とする第1乃至第4の発明のクルクミン組成物の製造方法である。
【0025】
本発明の第6の発明は、第1乃至第4の発明のいずれか1つのクルクミン組成物を配合したことを特徴とするクルクミン含有飲食品である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、クルクミンの沈殿物を生じることなく、飲料を含むあらゆる食品中で安定に分散せしめることが可能であり、かつ添加された飲食品の食感や風味を損なうことがない。また、添加にあたっては特別な装置や多量の有機溶媒を用いることなく容易に分散が可能で、食品製造工程の簡略化が図れる。さらに、本発明によれば、クルクミンの光に対する安定性が優れることから、添加された飲食品中におけるクルクミンの含有量を長期間に亘って保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0028】
本発明で使用されるクルクミン含有粒子は、人体に摂取可能なものであれば特に限定されるものではく、由来原料や製法によっても限定されるものではない。例えば、植物ウコンの根茎の乾燥物には1〜5質量%のクルクミンが含有されており、これらの粗粉砕物から抽出することが出来る。また、その抽出方法は熱湯による抽出、有機溶剤による抽出及び超臨界抽出が知られているが、いずれの方法によるものも使用することができ、抽出方法より限定されるものでもない。
【0029】
本発明で使用されるクルクミン含有粒子は、その純度に特に制限はなく、その粒子の中にクルクミンを含有していれば良いが、より高濃度の組成物を調製するためにはクルクミンの含有量が70質量%以上の物が好ましく、90質量%以上の物がより好ましい。
【0030】
本発明におけるクルクミン含有粒子は、レーザー光散乱法による平均粒子径を210ナノメートル以上420ナノメートル以下となるように調製することが重要である。クルクミンの極大吸収波長は約420ナノメートルであり、クルクミン含有粒子の平均粒子径がこの極大吸収波長の2分の1である210ナノメートルよりも小さいと光に対する安定性が悪くなる傾向があるためである。一方、クルクミン含有粒子の平均粒子径が420ナノメートルを超えると分散させても経時変化で沈殿物を生じやすくなるためである。より好ましい平均粒子径は210ナノメートル以上300ナノメートル以下であり、特に210ナノメートル以上250ナノメートル以下の粒子に調製することが光に対する安定性を高めるうえでも分散安定性を高めるうえでも極めて望ましい。
【0031】
このような微粒子の調製は、どのような方法によっても、また、どのような粉砕機を使用してもよい。例えば、ジェットミル、ハンマーミル、ボールミル、ビーズミルによる粉砕が挙げられる。
【0032】
本発明においては、例えば湿式粉砕機による粉砕が実用上好ましく、かつ有利に採用される。そのような湿式粉砕機としては、例えば、ビーズを粉砕媒体として利用し、水に懸濁させたクルクミン含有粒子を粉砕するビーズミルが実用的である。その粉砕条件は、クルクミン含有粒子の原料の状態、ビーズの材質、ビーズの大きさ、ビーズの充填率等の条件及びミル運転条件等により異なるため一概には定まらないが、実験により粒径の変化を調べながら最適条件を容易に見出すことができる。
【0033】
クルクミンを420ナノメートル以下に粉砕するために乳化剤が使用される。適切な乳化剤としては、必ずしも制限されないが、疎水性が強いクルクミン含有粒子の表面及び粉砕断面を十分に濡らすためにはHLB値が9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを50質量%以上用いることが好ましい。さらに組成物の風味を悪化させないためにはデカグリセリンパルミチン酸エステル及び/又はデカグリセリンステアリン酸エステルを50質量%以上用いることが最も好ましい。なお、本発明におけるHLB値とは親水性と親油性のバランスを表す数値であり、計算値あるいは乳化試験によって求めることができる。
【0034】
これらには静電反発力を強化し、より高い分散安定性を付与するために他の乳化剤又は分散剤を組み合わせることが望ましい。他の乳化剤又は分散剤としては、必ずしも制限されないがHLB値が9以上のショ糖脂肪酸エステル、サポニン、改質レシチン、ヘキサメタリン酸ナトリウム等が挙げられる。その中でも改質レシチン、特に、酵素分解レシチンが分散安定性を効果的に高め、かつ風味に対する影響が少ないため特に好ましい。
【0035】
本発明における乳化剤の配合量はクルクミン含有粒子の分散性を十分に保持しうるものであれば特に制限はされないが、およそクルクミン含有粒子の配合質量に対して1/10量乃至等量である。乳化剤の配合質量がクルクミン量の1/10量以下であるとクルクミン含有粒子の分散性が十分に保持出来ない場合が多いからであり、また等量以上を配合しても特に有利な効果はなく、却って乳化剤に起因する風味の劣化が感じられるようになってしまうからである。
【0036】
本発明に用いる水系溶媒として好ましいのは水である。その際、界面張力を調整する目的及び乳化剤の溶解を補助する目的で多価アルコールを添加することが好ましい。多価アルコールとしては、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、マルチトール、還元水あめ、ラクチトール、パラチニット、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール等が挙げられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて添加することができる。その中でもグリセリンが組成物の流動性を確保するうえで最も好ましい。
【0037】
水系溶媒の配合量は特に制限されないが、クルクミン含有粒子の配合質量に対して等量乃至10倍量であることが好ましい。等量以下であると組成物のハンドリングが極端に悪くなってしまい、10倍量以上であると組成物中のクルクミンの濃度が低くなってしまうからである。なお、クルクミンは水やグリセリンには殆ど溶解しないため、これらの水系溶媒は任意の量を配合することが可能であるが、エタノールやプロピレングリコールには相当量が溶解してしまうため、これらの水系溶媒の配合量は水系溶媒全体に対して20質量%以下とすることが好ましい。
【0038】
本発明のクルクミン組成物中のクルクミンの含有量は特に制限はされないが、好ましい含有量は1質量%以上である。1質量%以下では組成物中のクルクミン濃度が薄くなってしまうため実用的ではないからである。
【0039】
本発明のクルクミン組成物には本発明の効果を妨げない範囲において、食品に用いることのできるpH調整剤、安定剤、保存料などを配合することもできる。
【0040】
本発明のクルクミン組成物の製法は製造機械などにより異なるため、特に限定されるものではないが、例えば以下に示す如く大きく2つの工程より調製される。まず、第1に水系溶媒に乳化剤を混合する工程、第2に該混合物にクルクミン含有粒子を混合して粉砕する工程である。
【0041】
本発明の第1の工程では、水系溶媒に乳化剤を添加し、加温して攪拌しながら混合することにより均一な混合物を調製する。ここで加温温度は乳化剤が均一に溶解又は分散する温度であれば特に問題ないが、デカグリセリンパルミチン酸エステル及び/又はデカグリセリンステアリン酸エステルを用いる場合は70〜90℃に加温するのが良い。攪拌方法としては、特に限定するものではないが、プロペラ攪拌、ホモミキサー及びホモジナイザーなどを用いるのが処理時間を短縮するためには好ましい。
【0042】
本発明の第2の工程では、第1の工程で得た混合物にクルクミン含有粒子を混合して粉砕機により粉砕する。粉砕条件は特に限定されるものではないが、処理時間を短縮するためには使用する粉砕機の能力を最大限に利用することが望ましい。粉砕の際の温度条件は特に限定するものではないが、混合及び粉砕における作業性及び簡便性の面から常温であることが好ましい。なお、粉砕の際には発熱を伴うことが多いため、第1の工程で得た混合物が沸点を越えないように適宜冷却することが好ましい。
【0043】
上記のようにして得た本発明の組成物は、賦形剤を混合し、噴霧乾燥や凍結乾燥をして利用してもよい。
【0044】
また、本発明のクルクミン組成物は、そのまま食品として経口摂取することも出来るが、果汁飲料や茶、コーヒー、牛乳、乳飲料、乳酸菌飲料及びアルコール飲料などの飲料類、ゼリーやグミ、アイスクリーム、ヨーグルト、ジャム、飴、ガム、チョコレート、クッキー、ビスケット及びケーキなどの菓子類、砂糖や蜂蜜、水飴などの糖類、醤油やソース、マヨネーズ及びドレッシングなどの調味料類、コーンスープやコンソメスープなどのスープ類、ハム・ソーセージや蒲鉾などの加工食品、漬物や麺類、パン及び米などの種々の食品に配合することも可能である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
精製水47.55kgにデカグリセリンステアリン酸エステル(HLB値13.5)2kg、デカグリセリンパルミチン酸エステル(HLB値15.0)1.5kg及び酵素分解レシチン(商品名:エルマイザーA、協和発酵株式会社)2kgを加え、85℃に加熱して溶解した後、30℃まで冷却し、グリセリン25kg、炭酸カリウム0.1kg及び塩化ナトリウム0.05kgを加えて溶解した。次いでこの混合液にクルクミン結晶(純度95%)21.8kgを分散し、直径0.3ミリメートルのジルコニア製ビーズを媒体としてビーズミルにより粉砕処理を行い、約20.7質量%のクルクミンを含有する水分散性の高いクルクミン組成物Aを得た。本品のレーザー光散乱法によるクルクミン含有粒子の平均粒子径は220ナノメートルであった。
【0047】
[比較例1]
実施例1と同様の配合でビーズミルによる粉砕を行わずに、約20.7質量%のクルクミンを含有するクルクミン組成物Bを得た。本品のレーザー光散乱法によるクルクミン含有粒子の平均粒子径は3600ナノメートルであった。
【0048】
[比較例2]
実施例1のビーズミルによる粉砕を直径2ミリメートルのジルコニア製ビーズを媒体として行い、約20.7質量%のクルクミンを含有するクルクミン組成物Cを得た。本品のレーザー光散乱法によるクルクミン含有粒子の平均粒子径は860ナノメートルであった。
【0049】
[比較例3]
デカグリセリンオレイン酸エステル200gにグリセリン789.5g及びクルクミン結晶(純度95%)10.5gを加え、85℃に加温して撹拌することにより可溶化し、約1質量%のクルクミンを含有する可溶化クルクミン組成物Dを得た。
【0050】
《耐光性試験》
実施例1及び比較例3で得たクルクミン組成物を添加した飲料組成物について、以下の方法により耐光性試験を実施した。
【0051】
水999gに実施例1で得たクルクミン組成物Aを1g加えて混合し、クルクミンを20mg/100g含有する飲料組成物Eを得た。飲料組成物Eにおけるレーザー光散乱法によるクルクミン含有粒子の平均粒子径は実施例1と同じく220ナノメートルであった。同様に水980gに比較例3で得た可溶化クルクミン組成物Dを20g加えて混合し、クルクミンを20mg/100g含有する飲料組成物Fを得た。飲料組成物Fにおけるレーザー光散乱法によるクルクミン含有粒子の平均粒子径は60ナノメートルであった。これらの飲料組成物を透明ガラス容器に充填して95℃で10分間殺菌した後、温度25℃、照度3000LUXの環境下で保管して経時でクルクミン含有量を測定した。
【0052】
その結果、表1に示す通り、比較例3で得られた可溶化性クルクミン組成物Dを配合した飲料組成物Fは積算照度1650000(LUX・h)でクルクミンが67%しか残存していないのに対し、実施例1で得られたクルクミン組成物Aを配合した飲料組成物Eは積算照度1650000(LUX・h)でクルクミンが100%残存しており、光に対する高い安定性を示した。
【0053】
表1において積算照度とは照度(LUX)に時間(h)を乗じて得た値であり、クルクミン残存率は開始時即ち積算照度0(LUX・h)時のクルクミン含有量を100とした際の残存率(%)である。
【0054】
【表1】

【0055】
《分散安定性試験》
実施例1、比較例1乃至比較例3得たクルクミン組成物を用いて、以下の方法により分散安定性試験を実施した。
【0056】
実施例1、比較例1乃至比較例3で得たクルクミン組成物を0.3質量%含有する水懸濁液をそれぞれ調製してクルクミン含有量を測定した。その直後、これらを一定条件の下で遠心分離処理を行い、生じた沈殿物を除去した後における懸濁液中のクルクミン含有量を測定した。なお、遠心分離処理は、2000rpmで10分間行った。そして遠心分離処理前後のクルクミン含有量測定結果から沈殿率を算出した。その結果、表2に示すとおり、比較例1及び比較例2では添加したクルクミンの8割程度が沈殿してしまうのに対し、実施例1ではクルクミンの沈殿はみられず、高い分散安定性を有することが確認できた。
【0057】
【表2】

【0058】
《分散安定性及び官能試験》
実施例1、比較例1乃至比較例3で得たクルクミン組成物を用いて、以下の方法により分散安定性及び官能試験を実施した。
【0059】
水877部にクエン酸2.5部、クエン酸ナトリウム0.5部及び砂糖120部を加えて溶解し飲料水を得た。この飲料水1Lに実施例1、比較例1乃至比較例3で得られたクルクミン組成物をクルクミン換算で600mg添加し、攪拌して24時間放置し、クルクミン含有粒子の分散状態を目視で評価した。また、風味、食感を厳選された5名のパネルにより評価した。その結果を表3に示した。
【0060】
表3における風味、食感の点数は、下記の基準で採点した5名のパネルの合計点である。
<官能評価基準>
無添加と比較して風味劣化や食感の変化を感じない:3点
無添加と比較して僅かに風味劣化、食感の変化を感じる:2点
無添加と比較して著しい風味劣化、食感の変化を感じる:1点
【0061】
【表3】

【0062】
《飲食品への添加試験》
実施例1で得たクルクミン組成物を、以下の方法により各種飲食品に添加して該組成物の汎用性を確認した。
【0063】
[実施例2]
市販牛乳99.7gに、実施例1で得たクルクミン組成物Aを0.3g混合し、約61mg/100gのクルクミンを含有する牛乳を得た。この牛乳は90℃10分間の殺菌後もクルクミンの分離は全く認められず、違和感なく飲むことが出来た。また、本品は30日間保管後にも全く変化なく、本来の性状に何ら変化を与えることはなかった。
【0064】
[実施例3]
市販果汁飲料99.7gに、実施例1で得たクルクミン組成物Aを0.3g混合し、約61mg/100gのクルクミンを含有する果汁飲料を得た。この果汁飲料は90℃10分間の殺菌後もクルクミンの分離は全く認められず、違和感なく飲むことが出来た。また、本品は30日間保管後にも全く変化なく、本来の性状に何ら変化を与えることはなかった。
【0065】
[実施例4]
市販豆乳飲料99.7gに、実施例1で得たクルクミン組成物Aを0.3g混合し、約61mg/100gのクルクミンを含有する豆乳飲料を得た。この豆乳飲料は90℃10分間の殺菌後もクルクミンの分離は全く認められず、問題なく飲むことが出来た。また、本品は30日間保管後にも全く変化なく、本来の性状に何ら変化を与えることはなかった。
【0066】
[実施例5]
市販粉末コーンスープ1食分を95℃に加温した水149.7gに溶解し、実施例1で得たクルクミン組成物0.3gを混合し、約61mg/150gのクルクミンを含有するコーンスープを得た。このコーンスープにクルクミンの分離は全く認められず、問題なく飲むことが出来た。
【0067】
[実施例6]
市販マヨネーズ99gに、実施例1で得たクルクミン組成物1gを混合し、約207mg/100gのクルクミンを含有するマヨネーズを得た。このマヨネーズにはクルクミンの分離は全く認められず、風味や食感も問題なく使用することが出来た。また、本品は30日間保管後にも全く変化なく、本来の性状に何ら変化を与えることはなかった。
【0068】
[実施例7]
果汁飲料249.25gに実施例1で得たクルクミン組成物を0.75g、砂糖95g及び粉ゼラチン5gを加え、沸騰させて溶解した。これを容器に注いで冷まして固め、約155mg/350gのクルクミンを含有するゼリーを得た。このゼリーには着色斑やクルクミンの分離は認められず、問題なく食することが出来た。また、本品は30日間保管後にも全く変化なく、本来の性状に何ら変化を与えることはなかった。
【0069】
以上のように、本発明品であるクルクミン組成物は、水系添加できることから該組成物含有飲食品を調製するにあたり何ら困難を伴うことはなく、該組成物の飲食品への汎用性が確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルクミンを含有する分散粒子と、乳化剤と、水系溶媒を含有するクルクミン組成物であって、クルクミンを含有する分散粒子のレーザー光散乱法による平均粒子径が210ナノメートル以上420ナノメートル以下であることを特徴とするクルクミン組成物。
【請求項2】
乳化剤が、HLB値が9以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、HLB値が9以上のショ糖脂肪酸エステル、改質レシチンのうちから選択される1種又は2種以上の組合せであって、水系溶媒が水、グリセリンのうちから選択される1種又は2種以上の組合せである請求項1記載のクルクミン組成物。
【請求項3】
ポリグリセリン脂肪酸エステルがデカグリセリンパルミチン酸エステル及び/又はデカグリセリンステアリン酸エステルである請求項2記載のクルクミン組成物。
【請求項4】
クルクミンの含有量が1質量%以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のクルクミン組成物。
【請求項5】
乳化剤を水系溶媒に溶解又は分散させ、次いで当該乳化剤が溶解又は分散した水系溶媒の存在下、クルクミンを含有する粒子をレーザー光散乱法による平均粒子径が210ナノメートル以上420ナノメートル以下となるように粉砕することを特徴とする請求項1乃至4記載のクルクミン組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のクルクミン組成物を配合したことを特徴とするクルクミン含有飲食品。

【公開番号】特開2009−201371(P2009−201371A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44524(P2008−44524)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(592007612)横浜油脂工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】