説明

水分散性塗料

【課題】
本発明が解決しようとする課題は、凹凸部を有する基材表面に、ほぼ均一な膜厚を有し、かつ優れた外観及び耐候性を有する塗膜を形成可能な水分散性塗料を提供することである。
【解決手段】
本発明は、親水性基を有するビニル重合体セグメント(a−1)と、珪素原子に結合した水酸基及び/又は珪素原子に結合した加水分解性基を有するポリシロキサンセグメント(a−2)とを有する複合樹脂(A)、200〜280℃の沸点を有し、かつ水に対する溶解度が10質量%以下である有機溶剤(B)、及び水を含有してなることを特徴とする水分散性塗料に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築分野をはじめとする様々な分野に適用可能な水分散性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築外装をはじめとする各種分野では、耐候性に優れた塗膜を形成できる、いわゆる高耐候性塗料の開発が求められている。かかる高耐候性塗料としては、これまでにポリシロキサン系塗料やフルオロオレフィン系塗料等が報告されており、なかでもポリシロキサン系塗料は、ハロゲン原子を含まないことから燃焼時の環境負荷を低減でき、また、耐候性、耐汚染性等に優れた塗膜を形成できることから各種分野で好ましく使用されている。
【0003】
前記ポリシロキサン系塗料としては、例えば加水分解性シリル基と酸基を有する重合体と、珪素原子に結合した水酸基及び/又は珪素原子に結合した加水分解性基を有するポリシロキサンとを縮合反応させ、前記酸基を中和して得られた樹脂を水に分散又は溶解させて得られる水性樹脂を含有してなる水性硬化性樹脂組成物が、耐久性等に優れた塗膜を形成できることが報告されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0004】
ところで、近年、建築分野では、屋根瓦等の建築部材として表面に不規則な凹凸部を有する、いわゆる高意匠性の基材を使用するケースが増えている。高意匠性の基材を使用することは、建築分野に限らず様々な分野でも検討されていることであり、例えば、ガラス製の瓶やインテリア等にも、近年、ますます複雑な形態を有するものが使用されるようになっている。
前記表面に凹凸を有する基材には、通常、その表面保護を目的として前記したような高耐候性塗料が塗装されることが多い。しかし、前記高耐候性塗料には、一般的に造膜助剤として水に溶解しやすい有機溶剤が含まれている場合が多いため、かかる塗料を該基材の凹凸表面に塗装した際に形成される硬化塗膜の膜厚は、不均一になりやすく、極めて薄い膜厚の塗膜が形成された部位や、塗膜が形成されなかった部位は、外観や耐候性が著しく低下するという問題があった。
また、前記塗料を基材に対して厚塗りする方法によれば、基材表面に優れた耐候性等を付与できるが、かかる方法では、基材が有する高意匠性を損なう場合があるという問題を有していた。
【0005】
【特許文献1】特開平10−36514号公報
【特許文献2】特開平11−279408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、凹凸部を有する基材表面に、ほぼ均一な膜厚で、かつ優れた外観及び耐候性を有する塗膜を形成可能な水分散性塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来より高耐候性塗料として知られているポリシロキサンセグメントを有するアクリル樹脂を含有する水性塗料をベース塗料として、前記課題を解決すべく検討を進めた。
検討を進めるなかで、従来の造膜助剤とは異なり、水には実質的に溶解せず、かつ特定範囲の沸点を有する有機溶剤を、前記水性塗料に含有させることにより、凹凸を有する基材表面に、ほぼ均一な膜厚を有する塗膜を形成でき、さらに該塗膜が外観及び耐候性に優れることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、親水性基を有するビニル重合体セグメント(a−1)と、珪素原子に結合した水酸基及び/又は珪素原子に結合した加水分解性基を有するポリシロキサンセグメント(a−2)とを有する複合樹脂(A)、水、及び200〜280℃の沸点を有し、かつ水に対する溶解度が10質量%以下である有機溶剤(B)を含有してなることを特徴とする水分散性塗料に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水分散性塗料によれば、凹凸部を有する基材表面に、ほぼ均一な膜厚を有する、外観及び耐候性に優れた塗膜を、基材の意匠性を損なうことなく形成することが可能である。かかる特徴を利用して、本発明の水分散性塗料は、屋根瓦や壁装材をはじめとする、表面に凹凸を有する無機質基材や、曲部を有するガラスブロックや瓶等のガラス基材等の塗料として使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の水分散性塗料は、親水性基を有するビニル重合体セグメント(a−1)と、ポリシロキサンセグメント(a−2)とを有する複合樹脂(A)、水、及び200〜280℃の沸点を有し、かつ前記水に対する溶解度が10質量%以下である有機溶剤(B)を必須成分として含有し、必要に応じて硬化剤(C)をはじめとする各種添加剤を含有してなる。
【0011】
はじめに、親水性基を有するビニル重合体セグメント(a−1)と、珪素原子に結合した水酸基及び/又は珪素原子に結合した加水分解性基を有するポリシロキサンセグメント(a−2)とを有する複合樹脂(A)について説明する。
【0012】
複合樹脂(A)は、親水性基を有するビニル重合体セグメント(a−1)と、珪素原子に結合した水酸基及び/又は珪素原子に結合した加水分解性基を有するポリシロキサンセグメント(a−2)とが化学的に結合した構造を有する樹脂である。
【0013】
前記複合樹脂(A)が有する親水性基としては、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基が挙げられる。前記アニオン性基としては、例えばカボキシル基、燐酸基、酸性燐酸エステル基、亜燐酸基、スルホン酸基またはスルフィン酸基等であり、これらは、後述する塩基性化合物によって中和されていることが好ましい。
また、前記カチオン性基としては、例えば1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基またはアンモニウムヒドロオキシド基などであり、これらは、後述する酸性化合物によって中和されていることが好ましい。
また、前記ノニオン性基としては、例えばポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシブチレン鎖等や、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)鎖等のオキシアルキレンがランダム共重合したもの、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン鎖等のポリオキシアルキレン鎖がブロック共重合したものが挙げられ、なかでもオキシエチレン単位および/またはオキシプロピレン単位を必須の繰り返し単位として有するものが好ましい。
【0014】
前記アニオン性基を中和する際に使用可能な塩基性化合物としては、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−アミノエタノールもしくは2−ジメチルアミノエタノールなどの有機アミン類;アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムなどの無機塩基性化合物;テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムハイドロオキサイドもしくはトリメチルベンジルアンモニウムハイドロオキサイド等の第四級アンモニウムハイドロオキサイドを使用することができ、なかでも、前記有機アミン類やアンモニアを使用することが好ましい。
【0015】
また、前記カチオン性基を中和する際に使用可能な酸性化合物としては、例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸または乳酸などのカルボン酸類;あるいは燐酸モノメチルエステルまたは燐酸ジメチルエステルなどの燐酸モノエステル類または燐酸ジエステル類;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸またはドデシルベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類、塩酸、硫酸、硝酸または燐酸等の無機酸などを使用することができ、なかでも前記カルボン酸類を使用することが好ましい。
【0016】
前記複合樹脂(A)は、例えば前記ビニル重合体セグメント(a−1)を構成しうる親水性基及び加水分解性シリル基を有するビニル重合体(a’−1)と、前記ポリシロキサンセグメント(a−2)を構成しうる加水分解性基を有するポリシロキサン(a’−2)とを縮合反応させることによって容易に製造することができる。
【0017】
前記複合樹脂(A)を製造する際に使用することが可能な、前記親水性基及び加水分解性シリル基を有するビニル重合体(a’−1)は、例えば、加水分解性シリル基を有するビニル単量体、親水性基を有するビニル単量体、及び必要に応じてその他のビニル単量体を、周知慣用の方法で重合することによって製造することができる。
【0018】
ここで、加水分解性シリル基とは、珪素原子に直接結合したハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基またはアルケニルオキシ基等の、加水分解することによってシラノール基を生成するような官能基を指称する。
【0019】
前記加水分解性シリル基を有するビニル単量体としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ−n−ブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン、2−トリメトキシシリルエチルビニルエーテル、2−トリエトキシシリルエチルビニルエーテル、2−(メチルジメトキシシリル)エチルビニルエーテル、3−トリメトキシシリルプロピルビニルエーテルもしくは3−トリエトキシシリルプロピルビニルエーテル、または3−(メチルジメトキシシリル)プロピルビニルエーテル、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランもしくは3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジクロロシラン等を使用することができ、なかでも3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシシランがアクリル樹脂には共重合し易く好ましい。
【0020】
前記親水性基を有するビニル単量体としては、例えばアニオン性基含有ビニル単量体、カチオン性基含有ビニル単量体、及びノニオン性基含有ビニル単量体を、単独で使用又は2種以上を併用することができる。
【0021】
前記アニオン性基含有ビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸またはフマル酸等の不飽和カルボン酸類;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノ−n−ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノ−n−ブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノ−n−ブチル等の飽和ジカルボン酸類と、飽和1価アルコール類とのモノエステル類;アジピン酸モノビニルまたはコハク酸モノビニル等の飽和ジカルボン酸のモノビニルエステル類;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水フタル酸または無水トリメリット酸等の飽和ポリカルボン酸の無水物類と、炭素原子に結合した水酸基を含有するビニル系単量体類との付加反応生成物;また、カルボキシル基含有単量体類とラクトン類とを付加反応させて得られる単量体類等を使用することができる。
【0022】
前記カチオン性基含有ビニル単量体としては、例えば、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジ−n−プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートもしくは4−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレートまたはN−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エチルモルホリン等の3級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾールもしくはN−ビニルキノリン等の3級アミノ基含有芳香族ビニル系単量体類;N−(2−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミドもしくはN−(2−ジ−n−プロピルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド等の3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド類;N−(2−ジメチルアミノ)エチルクロトン酸アミドまたはN−(4−ジメチルアミノ)ブチルクロトン酸アミド等の3級アミノ基含有クロトン酸アミド類;あるいは2−ジメチルアミノエチルビニルエーテル、2−ジエチルアミノエチルビニルエーテルまたは4−ジメチルアミノブチルビニルエーテル等の3級アミノ基含有ビニルエーテル類等を使用することができる。
【0023】
前記ノニオン性基含有ビニル単量体としては、例えば、ポリエーテルジオールのモノ(メタ)アクリル酸エステルや、モノアルコキシ化ポリエーテルジオールのモノ(メタ)アクリル酸エステルを使用することができる。
前記ポリエーテルジオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを併有するポリエーテルジオール等を使用することができる。
また、前記モノアルコキシ化ポリエーテルジオールとしては、例えばモノメトキシ化ポリエチレングリコール、モノメトキシ化ポリプロピレングリコール、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを併有するポリエーテルジオールのモノメトキシ化物等を使用することができる。
【0024】
前記ビニル単量体が有する親水性基は、前記した塩基性化合物や酸性化合物により、中和されていることが好ましい。
【0025】
また、前記アニオン性基及びカチオン性基は、前記ビニル重合体(a’−1)の1000グラムに対して、0.01モル〜5モル存在していることが好ましく、0.02〜3モルなる範囲内がより好ましく、0.03〜2モルなる範囲内がさらに好ましい。
【0026】
また、前記ノニオン性基は、前記ビニル重合体(a’−1)の1000グラムに対して、10〜990グラムなる範囲内が適切であるし、好ましくは、20〜900グラムなる範囲内が適切であるし、最も好ましくは、30〜800グラムなる範囲である。
【0027】
前記親水性基を有するビニル重合体セグメント(a−1)を構成しうる親水性基及び加水分解性シリル基を有するビニル重合体(a’−1)を製造する際に使用可能な、その他のビニル単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のC1 〜C22なるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;ベンジル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、4−メトキシブチル(メタ)アクリレート等のω−アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;スチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル系単量体類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類;クロトン酸メチル、クロトン酸エチル等のクロトン酸のアルキルエステル類;ジメチルマレート、ジ−n−ブチルマレート、ジメチルフマレート、ジメチルイタコネート等の不飽和二塩基酸のジアルキルエステル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等のフルオロオレフィン類;エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル類;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−(メタ)アクリロイルピロリジン、N−ビニルピロリドン等の3級アミド基含有単量体類等を使用することができる。
【0028】
また、前記ビニル単量体としては、炭素原子に結合した水酸基を有するビニル系単量体を使用することができ、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル類;2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、2−ヒドロキシブチルアリルエーテル等の水酸基含有アリルエーテル類;前記した各種水酸基含有ビニル系単量体とε−カプロラクトンなどのラクトン類との付加反応物等を使用することができる。
【0029】
また、エポキシ基含有ビニル系単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、ビニルシクロヘキセンオキシド、グリシジルビニルエーテル、メチルグリシジルビニルエーテルまたはアリルグリシジルエーテル等を使用することができる
【0030】
前記した加水分解性シリル基を有するビニル単量体、親水性基を有するビニル単量体、及び必要に応じてその他のビニル単量体を用いて、前記ビニル重合体セグメント(a−1)を構成するビニル重合体(a’−1)を製造する方法としては、例えば、重合開始剤の存在下で、溶液重合法、非水分散重合法、塊状重合法及び乳化重合法等の公知慣用の方法により製造する方法が挙げられる。
【0031】
前記重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)もしくは2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等のアゾ化合物類;tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、過酸化水素等の過酸化物類;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類等を使用することができる。
【0032】
前記ビニル重合体セグメント(a−1)を構成するビニル重合体(a’−1)を溶液重合法で製造する方法としては、有機溶剤を含む反応容器中に、前述の親水性基を有するビニル単量体、必要に応じてその他の単量体、及び重合開始剤を、前記重合開始剤の分解可能な温度に調整した反応容器中に、一括供給又は逐次供給する等の公知慣用な方法がある。
【0033】
前記溶液重合法を適用する際に使用可能な有機溶剤としては、公知慣用の有機溶剤のいずれをも使用できるが、例えばn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタン等の脂肪族又は脂環式の炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸n−アミル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、i−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−アミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル等のエーテル類;クロロホルム、メチレンクロライド、四塩化炭素、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等の塩素化炭化水素類;N−メチルピロリドン、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチレンカーボネート等を使用することができる。
【0034】
また、前記ビニル重合体(a’−1)を乳化重合法で製造する方法としては、例えば水又は乳化剤を含む水中に、前記親水性基を有するビニル単量体や必要に応じてその他の単量体を一括供給又は逐次供給、又は、前記ビニル単量体と乳化剤と水との混合物を一括供給又は逐次供給し重合する等の、公知慣用な方法がある。
【0035】
前記乳化重合法を適用する際に使用可能な乳化剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、燐酸エステル塩、パーフルオロアルキル脂肪酸塩等のアニオン性界面活性剤;アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド・ブロックコポリマー等のノニオン性界面活性剤;ビニルスルホン酸またはその塩、アルキルアリルスルホこはく酸またはその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはその塩等の反応性界面活性剤を使用することができる。
【0036】
前記乳化剤は、前記ビニル単量体の種類、反応条件、目的とする複合樹脂(A)の粒子径等により適宜決定されるが、概ね使用するビニル単量体の総量の0.01〜20質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜10質量%の範囲であることがより好ましい。
【0037】
前記ビニル重合体(a’−1)としては、1000〜1000000程度の分子量を有するものを使用することが好ましい。
【0038】
次に、前記複合樹脂(A)を構成する珪素原子に結合した水酸基及び/又は珪素原子に結合した加水分解性基を有するポリシロキサンセグメント(a−2)について説明する。
前記ポリシロキサンセグメント(a−2)は、例えば後述する珪素化合物を縮合反応させることによって得られる加水分解性基を有するポリシロキサン(a’−2)によって構成される。
【0039】
前記ポリシロキサン(a’−2)を構成する珪素化合物としては、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−ブトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−ブトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ−n−ブトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シランもしくはアリルトリメトキシシラン、2−トリメトキシシリルエチルビニルエーテル、2−トリエトキシシリルエチルビニルエーテル、3−トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、3−トリエトキシシリルプロピルビニルエーテル、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のオルガノトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−ブトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、2−(メチルジメトキシシリル)エチルビニルエーテル、3−(メチルジメトキシシリル)プロピルビニルエーテル、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のジオルガノジアルコキシシラン類;テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、n−プロピルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン、ビニルメチルジクオロロシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジクロロシラン等のクロロシラン類;テトラアセトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン等のアセトキシシラン類、及びこれらの縮合物等を使用することができる。
【0040】
前記ポリシロキサンとしては、市販のポリシロキサンを使用することもでき、例えば「TSR−160もしくは165」[東芝シリコーン(株)製の商品名]、「SH−6018」[東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製の商品名]または「GR−100、908もしくは950」[昭和電工(株)製の商品名]などを使用することができる。
【0041】
前記複合樹脂(A)は、例えば前記ポリシロキサン(a’−2)と、前記親水性基及び加水分解性シリル基を有するビニル重合体(a’−1)とを縮合反応させることによって製造することができる。
【0042】
前記縮合反応は、公知慣用の各種の方法で反応を進行させることができるが、前記製造工程の途中で水と触媒とを供給することで反応を進行させる方法が簡便で好ましい。
【0043】
前記縮合反応に使用する水は、前記ポリシロキサン(a’−2)が有する加水分解性基の1モルに対して、0.05モル以上使用することが好ましく、0.1モル以上を使用することがより好ましく、0.2モル以上を使用することがさらに好ましい。水の使用量は、前記加水分解性基の1モルに対して、過剰となるように使用しても構わない。
【0044】
前記複合樹脂(A)を製造する際には、縮合反応を容易に進行させることを目的として触媒を適宜使用することができる。
【0045】
前記触媒としては、例えば塩酸、硫酸または燐酸等の無機酸類;p−トルエンスルホン酸、燐酸モノイソプロピルまたは酢酸等の有機酸類;水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム等の無機塩基類;テトライソプロピルチタネートまたはテトラブチルチタネート等のチタン酸エステル類;ジブチル錫ジラウレートまたはオクチル酸錫等の錫カルボン酸塩類;鉄、コバルト、マンガンまたは亜鉛等の金属のナフテン酸塩;あるいはオクチル酸塩等の金属カルボン酸塩類;アルミニウムトリスアセチルアセトネート等のアルミニウム化合物;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、トリ−n−ブチルアミンもしくはジメチルベンジルアミンまたはブチルアミンもしくはオクチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾールもしくは1,4−ジエチルイミダゾール等のアミン化合物類;テトラメチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリメチル(2−ヒドロキシルプロピル)アンモニウム塩、シクロヘキシルトリメチルアンモニウム塩、テトラキス(ヒドロキシルメチル)アンモニウム塩、ジラウリルジメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩もしくはo−トリフルオロメチルフェニルトリメチルアンモニウム塩等の4級アンモニウム塩類、対イオンとしてクロライド、ブロマイド、カルボキシレートもしくはハイドロオキサイドなどを有する4級アンモニウム塩類等を使用することができる。
【0046】
前記触媒の使用量としては、前記ポリシロキサン(a’−2)が有する加水分解性基に対して、0.00001〜10重量%の範囲内が好ましく、0.0005〜5重量%の範囲内がより好ましく、0.0001〜1重量%の範囲内がさらに好ましい。
【0047】
前記縮合反応によって生成するアルコール類や水は、必要に応じて縮合反応後に減圧蒸留等の方法により除去しても良い。
【0048】
前記方法によって得られた、本発明に使用する複合樹脂(A)は、前記ポリシロキサンセグメント(a−2)を、前記複合樹脂(A)全体に対して10〜80重量%有していることが好ましく、15〜70重量%有していることがより好ましい。前記範囲内のポリシロキサンセグメント(a−2)を有する複合樹脂(A)を含有してなる水分散性塗料であれば、良好な耐薬品性、耐候性、耐汚染性を有する塗膜を形成することが可能である。
【0049】
次に、本発明で使用する有機溶剤(B)について説明する。
本発明で使用する有機溶剤(B)は、常圧における沸点が200〜280℃の範囲であり、25℃における水を溶媒とする溶解度が10質量%以下である、実質的に疎水性の高沸点溶剤である。
【0050】
前記有機溶剤(B)としては、25℃の水に対して実質的には溶解しない、即ち、25℃における水を溶媒とする溶解度が10質量%以下であることが好ましい。溶解度が比較的高い有機溶剤を含有してなる水分散性塗料では、該有機溶剤が樹脂粒子、即ち、本発明でいう複合樹脂(A)からなる樹脂粒子中ではなく、水中に存在する割合が高くなるため、複合樹脂(A)からなる樹脂粒子が十分に膨潤しにくい。前記有機溶剤(B)を使用すれば、前記樹脂粒子が有機溶剤(B)を含み十分に膨潤するため、本発明の水分散性塗料は、見かけ上、高固形分となる。その結果、凹凸部を有する基材表面において、該水分散性塗料が基材の凹部にたまりにくくなるため、均一な膜厚を有する塗膜を形成することが可能となる。本発明で使用する有機溶剤(B)の溶解度は、5質量%以下であることが好ましい。
【0051】
前記有機溶剤(B)は、200〜280℃の範囲の沸点を有することが好ましい。沸点が200℃未満の有機溶剤を含有してなる水分散性塗料では、基材に塗装後、該有機溶剤は水と共に揮散し易いため、塗膜の造膜性が十分であるとは言い難い。この問題は、大量の有機溶剤を使用すれば解決されるが、大量の有機溶剤を使用することは、環境負荷を低減させる観点から好ましいとは言い難い。また、280℃を超える沸点を有する有機溶剤を含有してなる水分散性塗料では、該有機溶剤が塗膜中に残存し易いため、得られる塗膜は耐ブロッキング性や耐汚染性の点で十分であるとは言い難い。本発明で使用する有機溶剤(C)の沸点は、220℃〜260℃の範囲であることが好ましい。
【0052】
本発明で使用可能な前記有機溶剤(B)としては、例えば、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−ヘチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル等のエチレングリコール系溶剤;ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のジエチレングリコール系溶剤;ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のジプロピレングリコール系溶剤や、テキサノール(イーストマンケミカルジャパン株式会社)として市販されている2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレート等が挙げられる。
【0053】
前記有機溶剤(B)は、複合樹脂(A)に対する溶解性や臭気、毒性、VOC等を考慮して選択され、適量使用されるべきであり、例えばジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテルやテキサノール(イーストマンケミカルジャパン株式会社)として市販されている2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレートを使用することが好ましい。
【0054】
前記有機溶剤(B)の使用量は、前記複合樹脂(A)の特性や、本発明の水分散性塗料の塗料配合、塗装方法、塗膜の乾燥条件等の条件を勘案して決定されるものであるが、通常、前記複合樹脂(A)100質量部に対して、2〜20質量部の範囲であることが好ましく、3〜10質量部の範囲であることがより好ましい。前記有機溶剤(B)を前記範囲で使用して得られた本発明の水分散性塗料は、均一な膜厚を有する塗膜を形成することができ、かつ耐ブロッキング性、耐汚染性等の良好な塗膜を形成することができる。
【0055】
本発明では、前記有機溶剤(B)の他に、必要に応じてその他の有機溶剤を、本発明の目的を達成する範囲で併用することができる。
【0056】
また、本発明では、前記複合樹脂(A)や前記有機溶剤(B)の他に、得られる塗膜の耐久性を向上させることを目的として硬化剤(C)を使用することができる。
【0057】
前記硬化剤(C)としては、前記複合樹脂(A)が有する前記した官能基と反応しうる官能基を少なくとも1種有する、公知慣用の化合物を使用することができ、例えばイソシアネート基、ブロックされたイソシアネート基、エポキシ基、シクロカーボネート基、オキサゾリン基、アジリジン基、カーボジイミド基、珪素原子に結合した水酸基、珪素原子に結合した加水分解性基、N−ヒドロキシメチルアミノ基、N−アルコキシメチルアミノ基、N−ヒドロキシメチルカルボン酸アミド基、N−アルコキシメチルカルボン酸アミド基等を有する化合物を使用することができる。
【0058】
この際、前記複合樹脂(A)としては、前記硬化剤(C)が有する前記官能基と反応しうる官能基、例えばカルボキシル基、アミノ基、水酸基、シクロカーボネート基、エポキシ基、カルボニル基、アミド基等を有するものを使用することが好ましい。
【0059】
前記硬化剤(C)は、使用する前記複合樹脂(A)に応じて2種以上の前記官能基を有していてもよく、また、前記硬化剤(C)は、比較的分子量であっても高分子量である樹脂状のものであっても良い。
【0060】
前記硬化剤(C)としては、例えば3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びポリグリシジルエーテルを使用することが好ましい。
【0061】
また、本発明の水分散性塗料は、必要に応じて増粘剤、消泡剤、レベリング剤、湿潤剤、艶消し剤、防腐剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散剤、顔料等を、本発明の目的を損なわない範囲で適宜使用することができ、クリアー塗料、艶消しクリアー塗料、カラークリアー塗料、エナメル塗料として使用することができる。
【0062】
次に本発明の水分散性塗料の製造方法について説明する。
本発明の水分散性塗料は、前記した公知慣用の方法で得られた複合樹脂(A)の水分散液に、前記有機溶剤(B)、及び必要に応じて前記硬化剤(C)や前記各種添加剤を混合、撹拌することによって製造することができる。前記有機溶剤(B)、前記硬化剤(C)及び各種添加剤は、前記複合樹脂(A)の製造工程途中で混合しても良い。
【0063】
前記方法で得られた本発明の水分散性塗料は、例えば刷毛塗り法、ローラー塗装法、スプレー塗装法、浸漬塗装法、フロー・コーター塗装法、ロール・コーター塗装法などの公知慣用の塗装方法で、各種基材に塗装することが可能である。
【0064】
前記方法で塗装した被塗物は、常温下で乾燥、又は加熱乾燥されることによって、その表面に塗膜が形成される。
【0065】
本発明の水分散性塗料は、表面に凹凸部を有する基材に対しても、基材の意匠性を損なうことなく、均一な膜厚を有する塗膜を形成することが可能である。
【0066】
前記基材としては、例えばセメントコンクリート板、モルタル板、珪酸カルシウム板、木質セメント板、繊維補強セメント抄造板、ガラス壁装材、ガラス瓶、ガラス成形品、等を使用することができ、それらの表面が、各種塗料によって表面処理が施されているものも使用することができる。
【0067】
前記基材は、具体的には、壁材、屋根瓦、ガラスブロック等の建築部材が挙げられる。
【0068】
本発明の水分散性塗料は、前記した基材に対して、平均2〜60μmの膜厚となるように塗装することが好ましい。本発明の水分散性塗料であれば、前記範囲の膜厚であっても、凹凸表面を有する基材に対して均一な膜厚を有し、耐久性等に優れた塗膜を形成することが可能である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を、参考例、実施例及び比較例により、具体的に説明することにする。
【0070】
参考例1(複合樹脂水分散液(A−1)の製造)
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下漏斗および窒素導入管を備えた反応容器に、イソプロパノールの470質量部を仕込み、窒素ガスの雰囲気下で80℃にまで昇温した。次いで、同温度で、スチレンの100質量部、メチルメタアクリレートの300質量部、n−ブチルメタクリレートの334質量部、n−ブチルアクリレートの186質量部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン30質量部およびアクリル酸の50質量部と、イソプロパノールの450質量部と、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの50質量部とからなる混合物を、前記反応容器中に4時間で滴下した。滴下終了後も、同温度で16時間攪拌することによって、不揮発分が53.5質量%で、数平均分子量が12,800である、カルボキシル基及びトリメトキシシリル基を併有するビニル重合体(a−1−1)の溶液を得た。
【0071】
次に、温度計、還流冷却器、攪拌機および滴下漏斗を備えた別の反応容器に、フェニルトリメトキシシランの354質量部およびイソプロパノールの365質量部を仕込み、80℃にまで昇温した。同温度で、「AP−3」[大八化学工業所(株)製の、イソプロピルアシッドホスフェートの商品名]の2.9質量部と、イオン交換水の96質量部とを、5分間で滴下し、同温度で4時間攪拌した。その後、前記ビニル重合体溶液(a−1−1)の1,480質量部を添加し、同温度で4時間攪拌することによって、複合樹脂溶液を調製した。
【0072】
次に、同温度でトリエチルアミンの55質量部とイオン交換水の1,485質量部とを含む混合物を、30分間で滴下したのち、減圧蒸留することによって、メタノールやイソプロパノールなどのアルコール類を除去し、イオン交換水を加えることによって、不揮発分を45質量%の複合樹脂の水分散液(A−1)を得た。
【0073】
参考例2(複合樹脂水分散液(A−2)の製造)
攪拌機、滴下装置、環流冷却器、温度計、窒素導入管を取り付けた4Lステンレススチール製のセパラブルフラスコ中にイオン交換水1000質量部とネオゲンF−20S(第一工業製薬社製のアニオン乳化剤の20質量%水溶液)25質量部を仕込み、窒素雰囲気下、攪拌を開始し75℃まで昇温した。別途、イオン交換水155質量部、ラテムルE−118B(花王社製のアニオン乳化剤の25質量%水溶液)80質量部、シクロヘキシルメタクリレート350質量部、2−エチルヘキシルアクリレート300質量部、メチルメタクリレート320質量部、アクリル酸20質量部、「A−151」(日本ユニカー株式会社製のトリエトキシビニルシラン)10質量部を混合攪拌して作成したモノマープレミクスのうち36質量部を前記セパラブルフラスコ中に仕込み、更に過硫酸カリウム3質量部を仕込んで反応を開始した。
【0074】
反応を開始してから20分経過後、同温度で残りのモノマープレミクスを3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3時間保持し反応を完結せしめた後、温度を65℃に調整した。イオン交換水200質量部を加え、25質量%アンモニア水で、系内のpHを5.0に調整した。別途調整したシリコーン「A−163」(東レダウコーニング株式会社製のメチルトリメトキシシラン)500質量部とシリコーンAY−43−040(同社製のフェニルトリメトキシシラン)100質量部よりなる混合物を2時間かけて滴下した。
【0075】
その後、同温度で1時間保持した後、25質量%アンモニア水を用いて反応混合物のpHを9.0に調整した。次いで、生成するメタノールを減圧溜去し、イオン交換水50質量部を加え、冷却することにより、乳白色の複合樹脂の水分散液(A−2)(不揮発分45質量%、粘度300mPa.s、pH8.5)を得た。
【0076】
参考例3(複合樹脂水分散液(X−1)の製造)
攪拌機、滴下装置、環流冷却器、温度計、窒素導入管を取り付けた4Lステンレススチール製のセパラブルフラスコ中にイオン交換水1000質量部とネオゲンF−20S(第一工業製薬社製のアニオン乳化剤の20質量%水溶液)25質量部を仕込み、窒素雰囲気下、攪拌を開始し75℃まで昇温した。別途、イオン交換水155質量部、ラテムルE−118B(花王社製のアニオン乳化剤の25質量%水溶液)80質量部、シクロヘキシルメタクリレート350質量部、2−エチルヘキシルアクリレート305質量部、メチルメタクリレート325質量部、アクリル酸20質量部、を混合攪拌して作成したモノマープレミクスのうち36質量部を前記セパラブルフラスコ中に仕込み、更に過硫酸カリウム3質量部を仕込んで反応を開始した。
【0077】
反応を開始してから20分経過後、残りのモノマープレミクスを3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3時間保持し反応を完結せしめ、温度を65℃に調整した。25質量%アンモニア水で系内のpHを9.0に調整した後、イオン交換水を加え、冷却することにより、乳白色の複合樹脂の水分散液(X−1)(不揮発分45質量%、粘度200mPa.s、pH8.5)を得た。
【0078】
実施例1
複合樹脂水分散液(A−1) 450質量部を2リットルのステンレス製ジョッキへ投入し、タービン式羽根を装着したエアー駆動式ディスパーにて、200rpmで攪拌しながらエチレングリコールモノヘキシルエーテル 20質量部、水 200質量部を投入し、そのまま10分間攪拌を継続した。その後攪拌を継続したままボンコート3750E(大日本インキ化学工業(株)製粘度調整剤)を有効成分量3質量%となるように希釈した溶液30質量部、サンノプコ(株)製の消泡剤ノプコ8034Lを2質量部、大日本インキ化学工業(株)製のDisperse Black HG−901 2質量部を投入し、更に10分間攪拌することにより塗料P−1を作成した。
【0079】
実施例2〜6
表1に記載の配合組成に従う以外は、前記実施例1と同様の方法で、塗料(P−2)〜(P−6)を調製した。尚、硬化剤を使用したP−3及びP−4については、塗装する直前に前記ディスパーを用いて混合した。
【0080】
【表1】

【0081】
表1中の略号は、下記の有機溶剤等を示す。なお、下記でいう溶解度は、25℃の水に対する溶解度である。
「HeG」はエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点208℃、溶解度1.0質量%)を示す。
「EHG」はエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル(沸点229℃、溶解度0.2質量%)を示す。
「DBDG」はジエチレングリコールジブチルエーテル(沸点255℃、溶解度0.3質量%)を示す。
「BcAc」はジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点246℃、溶解度6.5質量%)を示す。
「Tex」はテキサノール(イーストマンケミカル社製、沸点260℃、溶解度2.0質量%)を示す。
「EHDG」はジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル(沸点272℃、溶解度0.3質量%)を示す。
「3750E希釈液」は、大日本インキ化学工業(株)製の「ボンコート3750E」を有効成分量3質量%となるように希釈した溶液である。
「ノプコ8034L」は、サンノプコ(株)製の消泡剤である。
黒色顔料は、大日本インキ化学工業(株)製のDisperse Black HG−901を使用した。
「デナコールEX−612」は、ナガセ化成工業(株)製のポリグリシジルエーテルである。
【0082】
比較例1〜8
表2−1及び表2−2に記載の配合組成に従う以外は、前記実施例1と同様の方法で、塗料(R−1)〜(R−8)を調製した。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
表2中の略号は、下記の有機溶剤等を示す。
「S100」はエクソンモービル社製ソルベッソ100(沸点150〜177℃、溶解度0質量%)を示す。
「BCS」はエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃、溶解度∞)を示す。
「BC」はジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点231℃、溶解度∞)を示す。
「3750E希釈液」は、大日本インキ化学工業(株)製の「ボンコート3750E」を有効成分量3質量%となるように希釈した溶液である。
「ノプコ8034L」は、サンノプコ(株)製の消泡剤である。
黒色顔料は、大日本インキ化学工業(株)製のDisperse Black HG−901を使用した。
【0086】
実施例1〜3で調製した塗料(P−1)〜(P−3)を、シャワーコーター法により表面温度60℃に加熱したニチハ(株)製のモエンサイディング−M(厚さ12mmのオレンジ色系ブリック調模様塗装壁材)上に、膜厚が8μmとなるようにそれぞれ塗装した後、150℃の雰囲気中で10分間加熱乾燥させ塗板を作製した。得られた塗板を切断し、切断面をマイクロスコープにて観察しながら塗膜の膜厚を20点で測定し、各測定値の平均と分散を計算した。この分散の値が小さいほど、均一な塗膜が形成されているを表す。また、得られた塗板の外観、即ち塗装面を観察し、黒塗料から基材色が見える程度を評価した。また、実施例1の塗料(P−1)を塗装して得られた塗板の切断面の写真を、図1に示す。後述する比較例1の塗料(R−1)を塗装して得られた塗板の切断面(図2)と比較して、均一な塗膜が形成されているのが明らかである。
【0087】
また、実施例4〜6で調製した塗料(P−4)〜(P−6)を、スプレー法により常温下でニチハ(株)製のモエンサイディング−M(厚さ12mmのオレンジ色系ブリック調模様塗装壁材)上に、膜厚が20μmとなるようにそれぞれ塗装した後、常温で14日間乾燥させ塗板を作製した。得られた塗板を切断し、切断面をマイクロスコープにて観察しながら塗膜の膜厚を20点で測定し、各測定値の平均と分散を計算した。また、得られた塗板の外観、即ち塗装面を観察し、黒塗料から基材色が見える程度を評価した。表中の外観及び耐候性の評価は、下記基準にしたがい評価した。
【0088】
「外観」
前記塗料を塗装し塗膜が形成された黒色塗膜中に、基材の色が観察されるかを目視で観察した。
○:黒色塗膜中に基材の色が全く見られなかった。
△:黒色塗膜中に基材の色が見られる部分が僅かにあった。
×:黒色塗膜中に基材の色が見られた部分がかなりあった。
【0089】
「耐候性」
JIS K5400−1990 サンシャインカーボンアーク方式に準拠し、試験時間5000時間後の塗膜表面状態を観察した。
○:塗膜表面状態に変化が無かった。
△:塗膜表面に若干の艶引け、変色が見られた。
×:塗膜表面に艶引け、クラックが見られた。
【0090】
【表4】

【0091】
比較例1〜4で調製した塗料(R−1)〜(R−4)を、シャワーコーター法により表面温度60℃に加熱したニチハ(株)製のモエンサイディング−M(厚さ12mmのオレンジ色系ブリック調模様塗装壁材)上に、膜厚が8μmとなるようにそれぞれ塗装した後、150℃の雰囲気中で10分間加熱乾燥させ塗板を作製した。得られた塗板を切断し、切断面をマイクロスコープにて観察しながら塗膜の膜厚を20点で測定し、各測定値の平均と分散を計算した。また、得られた塗板の外観、即ち塗装面を観察し、黒塗料から基材色が見える程度を評価した。
【0092】
また、比較例5〜8で調製した塗料(R−5)〜(R−8)を、スプレー法により常温下でニチハ(株)製のモエンサイディング−M(厚さ12mmのオレンジ色系ブリック調模様塗装壁材)上に、膜厚が20μmとなるようにそれぞれ塗装した後、常温で14日間乾燥させ塗板を作製した。得られた塗板を切断し、切断面をマイクロスコープにて観察しながら塗膜の膜厚を20点で測定し、各測定値の平均と分散を計算した。また、得られた塗板の外観、即ち塗装面を観察し、黒塗料から基材色が見える程度を評価した。結果を表4に示す。
【0093】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施例1の塗料を塗装して得た塗板の切断面を示す。
【図2】比較例1の塗料を塗装して得た塗板の切断面を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性基を有するビニル重合体セグメント(a−1)と、珪素原子に結合した水酸基及び/又は珪素原子に結合した加水分解性基を有するポリシロキサンセグメント(a−2)とを有する複合樹脂(A)、200〜280℃の沸点を有し、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%以下である有機溶剤(B)、及び水を含有してなることを特徴とする水分散性塗料。
【請求項2】
さらに前記複合樹脂(A)が有する官能基と反応しうる官能基を有する硬化剤(C)を含有してなる、請求項1に記載の水分散性塗料。
【請求項3】
前記硬化剤(C)が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びポリグリシジルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載の水分散性塗料。
【請求項4】
前記有機溶剤(B)が、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、及び2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の水分散性塗料。
【請求項5】
前記有機溶剤(B)の使用量が、前記複合樹脂(A)100質量部に対して2〜20質量部の範囲である、請求項1〜4のいずれかに記載の水分散性塗料。
【請求項6】
前記複合樹脂(A)全体に対する前記ポリシロキサンセグメント(a−2)の質量割合が、10〜80質量%有するものである、請求項1〜5のいずれかに記載の水分散性塗料。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−316136(P2006−316136A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138471(P2005−138471)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】