説明

水分散性樹脂組成物

【課題】 耐エフロレッセンス性、耐水・耐アルカリ性、無機質基材密着性、上塗り塗料への密着性等に優れる水分散性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 水分散性樹脂組成物は、酸基及び加水分解性シリル基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)と、特定量の酸基含有重合性不飽和モノマー(b)と、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(c)と、下記式(1)
【化1】


(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数2〜10の2価のアルキレン基を示し、R3は炭素数2又は3の2価のアルキレン基を示す)で表される環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)とからなる不飽和単量体混合物が、特定量の反応性界面活性剤(e)の存在下で乳化重合された共重合体樹脂エマルジョンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機質材下塗り塗料用等として有用な水分散性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、オートクレーブ養生前に無機質材に塗布することにより、オートクレーブ養生後の重ね塗りを省略でき、更に下塗り塗料に対して要求される耐エフロレッセンス性、耐水・耐アルカリ性、無機質基材密着性に優れ、上塗り塗料、なかでも特に密着困難なフッ素/アクリル系樹脂塗料への密着性が優れており、オートクレーブ養生直前の下塗りとフッ素/アクリル系樹脂塗料の上塗りの2工程のみで全塗装が完了する省工程塗装システムを可能とする水分散性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窯業建材塗装板製造工程において、オートクレーブ養生前に下塗り塗料を塗装し、オートクレーブ養生後の重ね塗りなしに直接上塗り塗料、特に密着困難なフッ素/アクリル系樹脂塗料を塗装する省工程塗装では、上記厳しい性能が要求されるため、専ら有機溶剤系樹脂塗料が用いられてきた。しかし、近年、安全性とエコロジーの観点から、水性樹脂塗料の利用が求められている。
【0003】
建物の外壁に使用する無機系プレ塗装板の製造は、先ず無機材料を板状に成型した後、一次養生し、次に第一次の下塗り塗料を塗布、乾燥、オートクレーブ養生、切削加工、プレヒートを行った後、更に別の第二の下塗り塗料を塗装、乾燥後、上塗り塗料を塗装、乾燥することにより行われている。下塗り塗料は、基材への含浸、密着、上塗り塗料密着性を考慮して、オートクレーブ養生前後に1回ずつ、又は数回塗装されるのが常である。かかるオートクレーブ養生を伴う下塗り塗料、したがってそれに使用するバインダー樹脂には、耐エフロレッセンス性、無機質基材及び上塗り塗料との密着性、耐水・耐アルカリ性等が要求される。
【0004】
特に最近の建物外壁材には、高耐候性によるメンテフリーが要求され、該高耐侯性は上塗り塗料であるアクリル/シリコン系樹脂塗料、シリコン系樹脂塗料、フッ素/アクリル系樹脂塗料などによって得られる。この場合、下塗り塗料には、高度な下地基材及び上塗り塗料密着性が要求され、とりわけ上塗り塗料がフッ素/アクリル系樹脂塗料の場合、密着性が特に難しい。また、上塗りフッ素/アクリル系樹脂塗料が下塗り塗料とよく密着する場合でも、下塗り塗料はオートクレーブ養生前後に各1回ずつ又は複数回ずつ塗り重ねなければならず、塗装工程数における難点がある。したがって、オートクレーブ養生前の下塗りのみで十分で、オートクレーブ養生後は下塗りの重ね塗りの必要がなく、そのまま上塗り塗料としてフッ素/アクリル樹脂塗料を塗装して十分な密着性と耐水・耐アルカリ性等の総合塗膜物性を有する水性の無機質材用下塗り塗料組成物はほとんどなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−181605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、上記従来の水分散性下塗り塗料組成物の欠点を克服し、オートクレーブ養生前に無機質材に塗布し、オートクレーブ養生後の重ね塗りは省略でき、更に下塗り塗料に対して要求される耐エフロレッセンス性、耐水・耐アルカリ性、無機質基材密着性、上塗り塗料、なかでも特に密着困難なフッ素/アクリル系樹脂塗料への密着性に優れ、またエコロジーの観点からも優れ、安全性の高い無機質材下塗り塗料用等として有用な水分散性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、酸基及び加水分解性シリル基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマーと、酸基含有重合性不飽和モノマーと、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマーと、特定構造の環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマーとを反応性界面活性剤を用いて乳化重合することにより得られる共重合体樹脂エマルジョンを含む水分散性樹脂組成物によって、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、酸基及び加水分解性シリル基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)と、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)と、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(c)と、下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数2〜10の2価のアルキレン基を示し、R3は炭素数2又は3の2価のアルキレン基を示す)
で表される環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)とからなる不飽和単量体混合物が、反応性界面活性剤(e)の存在下で乳化重合された共重合体樹脂エマルジョンを含む水分散性樹脂組成物であって、前記酸基含有重合性不飽和モノマー(b)の使用量が、前記重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)の総量に対して0.1〜10重量%であり、前記加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(c)の使用量が、前記重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)の総量に対して0.1〜5重量%であり、前記反応性界面活性剤(e)の使用量が前記重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)の総量に対して0.3〜6重量%である水分散性樹脂組成物を提供する。
【0009】
前記酸基及び加水分解性シリル基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)として、例えば、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)、又は前記アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)と、スチレン系モノマー(a-2)、(メタ)アクリロニトリル(a-3)、アミド結合含有重合性不飽和モノマー(a-4)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(a-5)、エポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a-6)、及び多官能ビニル基含有重合性不飽和モノマー(a-7)からなる群より選択された少なくとも1種のモノマーとの混合モノマーを使用できる。
【0010】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)として、例えば、メタクリルアミドエチルエチレン尿素、メタクリルアミドプロピレン尿素、アクリルアミドエチルエチレン尿素及びアクリルアミドエチルプロピレン尿素からなる群より選択された少なくとも1種のモノマーを使用できる。
【0011】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)の使用量は、例えば、重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)の総量に対して0.1〜5重量%である。
【0012】
前記水分散性樹脂組成物は、例えば無機質材下塗り塗料用の樹脂組成物等として有用である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水分散性樹脂組成物は、オートクレーブ養生前に無機質材に塗布することにより、オートクレーブ養生後の重ね塗りを省略できるとともに、下塗り塗料に対して要求される耐エフロレッセンス性、耐水・耐アルカリ性、無機質基材密着性に優れ、また上塗り塗料密着性、なかでも特に密着困難なフッ素/アクリル系樹脂塗料への密着性に優れる。また、エコロジーの観点からも優れている。
【0014】
本発明の水分散性樹脂組成物は、モノマー成分(a)、(b)、(c)及び(d)の反応性界面活性剤(e)を用いた乳化重合によって得られる共重合体エマルジョンを含んでいる。
【0015】
酸基及び加水分解性シリル基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)としては、酸基及び加水分解性シリル基を含有しないモノマーであれば何れであってもよいが、その代表的な例として、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)、スチレン系モノマー(a-2)、(メタ)アクリロニトリル(a-3)、アミド結合含有重合性不飽和モノマー(a-4)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(a-5)、エポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a-6)、及び多官能ビニル基含有重合性不飽和モノマー(a-7)などが挙げられる。重合性不飽和ポリマー(a)は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0016】
アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされ使用される。なかでも、アルキル基の炭素数が1〜10の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0017】
スチレン系モノマー(a-2)としては、スチレンのほかに、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらのモノマーは1種又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0018】
アミド結合含有重合性不飽和モノマー(a-4)としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、α−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタクリルアミド及びN−ビニルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体が挙げられる。
【0019】
水酸基含有重合性不飽和モノマー(a-5)としては、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシブチル、ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーなどが挙げられる。これらのヒドロキシル基含有重合性不飽和モノマーは単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーとしては、ダイセル化学工業(株)製の商品名「プラクセルFA−1」、「プラクセルFA−2」、「プラクセルFA−3」、「プラクセルFA−4」、「プラクセルFA−5」、「プラクセルFM−1」、「プラクセルFM−2」、「プラクセルFM−3」、「プラクセルFM−4」、及び「プラクセルFM−5」などが挙げられる。
【0020】
エポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a-6)としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)、グリシジルクロトネート、グリシジルアリルエーテル、β−グリシジルメタクリレートなどのグリシジル基を有する重合性不飽和モノマーなどが挙げられる。これらのモノマーは単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。通常は、グリシジルメタクリレートが使用されることが多い。
【0021】
多官能ビニル基含有重合性不飽和モノマー(a-7)としては、ビニル基、(メタ)アリル基、(メタ)アクリロイル基等の重合性不飽和基を複数個有するモノマーであれば特に限定されず、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等のジビニル化合物(2官能ビニル基含有重合性不飽和モノマー);ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能ビニル基含有重合性不飽和モノマーなどが挙げられる。これらの多官能ビニル基含有重合性不飽和モノマーは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
酸基及び加水分解性シリル基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)としては、良好な成膜性と高い塗膜硬度を得るためには、少なくとも前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)を用いるのが好ましく、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)とスチレン系モノマー(a-2)とを併用するのも好ましい。また、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)、又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)及びスチレン系モノマー(a-2)とともに、(メタ)アクリロニトリル(a-3)、アミド結合含有重合性不飽和モノマー(a-4)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(a-5)、エポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a-6)若しくは多官能ビニル基含有重合性不飽和モノマー(a-7)を用いるのも好ましい。
【0023】
(メタ)アクリロニトリル(a-3)を共重合モノマーとして用いると、シアノ基のポリマー中での配向、結晶化効果により、緻密、強靱でバリア性の高い膜が形成され、これによってオートクレーブ直前の下塗り塗料に要求される耐水性、耐エフロレッセンス性がより向上する。また、塗膜硬度が上がることから、耐ブロッキング性も向上する。アミド結合含有重合性不飽和モノマー(a-4)を共重合モノマーとして用いると、エマルジョンにニュートニアン的粘性が付与され、塗料のレベリング、作業性が向上し、そのため塗膜を形成した際、膜厚の均一性が高まり、薄い部分からのエフロレッセンスの発生を防止できる。
【0024】
水酸基含有重合性不飽和モノマー(a-5)を共重合モノマーとして用いると、共重合体樹脂エマルジョンを含む樹脂組成物やそれを用いた水性塗料の親水性が増し、塗膜形成後に上塗り塗料との親和性が増し、密着性が向上する。エポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a-6)を共重合モノマーとして用いると、樹脂組成物中でエポキシ基とカルボキシル基との架橋反応により三次元網目構造が形成され、樹脂組成物に耐水性、耐アルカリ性及び耐ブロッキング性を付与する効果が発揮される。多官能ビニル基含有重合性不飽和モノマー(a-7)を共重合モノマーとして用いると、エマルジョン粒子内架橋が促進され、塗料塗膜の硬度、強度が上がると同時に耐ブロッキング性が改善される。また、耐水性や耐アルカリ性向上効果もある。
【0025】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)の量は、前記重合性不飽和モノマー(a)の総量に対して、例えば30〜100重量%、好ましくは50〜99重量%、さらに好ましくは60〜98重量%程度である。スチレン系モノマー(a-2)の量は、前記重合性不飽和モノマー(a)の総量に対して、例えば0〜60重量%、好ましくは0〜40重量%、さらに好ましくは0〜30重量%程度である。また、(メタ)アクリロニトリル(a-3)の量は、前記重合性不飽和モノマー(a)の総量に対して、通常0〜20重量%(例えば1〜20重量%)、好ましくは0〜10重量%(例えば1〜10重量%)程度である。アミド結合含有重合性不飽和モノマー(a-4)の量は、前記重合性不飽和モノマー(a)の総量に対して、通常0〜20重量%(例えば1〜20重量%)、好ましくは0〜10重量%(例えば1〜10重量%)程度である。
【0026】
また、水酸基含有重合性不飽和モノマー(a-5)の量は、前記重合性不飽和モノマー(a)の総量に対して、通常0〜20重量%(例えば1〜20重量%)、好ましくは0〜10重量%(例えば1〜10重量%)程度である。エポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a-6)の量は、前記重合性不飽和モノマー(a)の総量に対して、通常0〜20重量%(例えば1〜20重量%)、好ましくは0〜10重量%(例えば1〜10重量%)程度である。多官能ビニル基含有重合性不飽和モノマー(a-7)の量は、前記重合性不飽和モノマー(a)の総量に対して、通常0〜5重量%(例えば1〜5重量%)程度であり、好ましくは0〜3重量%(例えば0.5〜3重量%)程度である。
【0027】
酸基含有重合性不飽和モノマー(b)としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸基等から選ばれる少なくとも1つの酸基を分子内に有するエチレン性不飽和化合物を使用できる。
【0028】
酸基含有重合性不飽和モノマー(b)のうち、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、α−エチルアクリル酸、β−エチルアクリル酸、β−プロピルアクリル酸、β−イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびフマル酸等が挙げられる。スルホン酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、p−ビニルベンゼンスルホン酸、p−アクリルアミドプロパンスルホン酸、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸等が挙げられる。リン酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば2−ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸モノエステル、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートのリン酸モノエステルなどが挙げられ、これらは商品名「ライトエステルPM」(共栄社化学社製)として市販されている。酸基含有重合性不飽和モノマー(b)は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0029】
酸基含有重合性不飽和モノマー(b)の量は、モノマー成分(a)、(b)、(c)及び(d)の総量を基準として0.1〜10重量%であり、好ましくは0.5〜8重量%、さらに好ましくは1〜7重量%である。酸基含有重合性不飽和モノマー(b)の量をこの範囲に設定することにより、共重合体樹脂エマルジョンを含む樹脂組成物やそれを用いた水性塗料の保存安定性、機械的安定性、及び凍結に対する安定性等の諸安定性が得られ、また、塗膜形成時における無機基材との密着性が強くなる。酸基含有重合性不飽和モノマー(b)の上記使用量が0.1重量%未満では、樹脂の重合安定性及び上記諸安定性が悪くなり、塗膜の無機基材表面に対する密着性が弱くなる。一方、10重量%を超えると、樹脂の重合安定性及び上記諸安定性が悪くなり、得られた塗膜の耐水性、耐アルカリ性が弱くなる。
【0030】
上記酸基含有重合性不飽和モノマー(b)のなかでも、上記諸安定性向上や密着性付与の観点から、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマーが好ましい。カルボキシル基含有重合性不飽和モノマーの量は、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)の総量に対して、50重量%以上であるのが好ましく、より好ましくは80重量%以上である。
【0031】
加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(c)としては、例えば、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基を含有するモノマーが挙げられるが、これらに限定されない。加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(c)として、一般にシランカップリング剤として知られている化合物を好適に用いることができる。加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(c)は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0032】
加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(c)の量は、モノマー成分(a)、(b)、(c)及び(d)の総量を基準として0.1〜5重量%であり、好ましくは0.2〜4.5重量%、さらに好ましくは0.5〜4重量%である。加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(c)の量をこの範囲に設定することにより、共重合体樹脂エマルジョンを含む樹脂組成物やそれを用いた水性塗料塗膜の耐水性が増し、結果として耐エフロレッセンス性が向上する。また、無機基材との親和性が優れ、密着性が向上する。さらに架橋により塗膜硬度、強度及び耐ブロッキング性も改善される。加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(c)の上記使用量が0.1重量%未満では、塗膜の耐水性が弱く、密着力が劣る。一方、5重量%を超えると、共重合体樹脂エマルジョンの重合安定性が悪くなる。
【0033】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)は、前記式(1)で表される。式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数2〜10の2価のアルキレン基(原料入手の観点からは、好ましくは炭素数2〜3の2価のアルキレン基)を示し、R3は炭素数2又は3の2価のアルキレン基を示す。
【0034】
2における炭素数2〜10の2価のアルキレン基としては、例えば、エチレン、プロピレン、ジメチルエチレン、トリメチレン、2,2−ジメチルトリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デカメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状のC2-10アルキレン基が挙げられる。R3における炭素数2又は3の2価のアルキレン基には、エチレン、プロピレン、トリエチレン基が含まれる。
【0035】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)の代表的な例として、メタクリルアミドエチルエチレン尿素(MAEEU)(R1=メチル基、R2=エチレン基、R3=エチレン基)、メタクリルアミドエチルプロピレン尿素(R1=メチル基、R2=エチレン基、R3=プロピレン基)、アクリルアミドエチルエチレン尿素(R1=水素原子、R2=エチレン基、R3=エチレン基)、及びアクリルアミドエチルプロピレン尿素(R1=水素原子、R2=エチレン基、R3=プロピレン基)等が挙げられる。
【0036】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)を用いることによって、無機質基材、特に湿潤面に対する樹脂組成物の接着性を向上させる効果が発揮される。さらに、上塗り塗料、特にアルキド塗料、アクリル/シリコン系樹脂塗料、シリコン系樹脂塗料及びフッ素/アクリル系樹脂塗料との親和性、及び接着性が向上する。これらの優れた効果に対するメカニズムについては、厳密な意味での科学的根拠は必ずしも明確ではないが、おおよそ次のように推定される。
【0037】
第1に、極性相互作用が考えられる。環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)のアミド基及び環状ウレイド基は、基材と顔料とに作用することで、樹脂組成物の基材への密着性に寄与する双極性相互作用を与える。環状ウレイド基の双極子モーメントは4.5Debyeと大きく、種々の上塗り塗料表面と強い相互作用を及ぼすことが考えられる。また、水酸基及びカルボキシル基等との水素結合の寄与も考えられる。
【0038】
第2に、濡れ現象が考えられる。環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)が界面張力を低下させることにより、基材及び顔料の湿潤性が向上し、樹脂組成物が基材と顔料とに濡れやすくなり、両者の強い相互作用が発現しやすくなる。
【0039】
第3に、スペーサー基の寄与が考えられる。例えば環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)がMAEEUの場合、主鎖とエチレンウレア基との間にアミド基とエチレン鎖とがスペーサー基として存在し、このスペーサー基がエチレンウレア基をポリマー主鎖から十分に離している。このためエチレンウレア基の自由度が大きくなり、基材表面と相互作用を及ぼしやすくなる。
【0040】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)の使用量は、モノマー成分(a)、(b)、(c)及び(d)の総量を基準として0.1〜5重量%が好ましく、0.5〜3重量%がより好ましい。環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)の使用量をこの範囲に設定することにより、共重合体樹脂エマルジョンを含む樹脂組成物を下塗り塗料として用いた場合において、基材、特に湿潤面に対する濡れ性及び親和性が増し、密着性が向上するとともに耐エフロレッセンス性が向上する。さらに、上塗り塗料、特にフッ素/アクリル系樹脂塗料との接着性が向上する。共重合体樹脂中の環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)の使用量が0.1重量%未満では、基材及び上塗り塗料への密着性が低下しやすくなる。一方、5重量%を超えると、塗膜の耐水性が低下しやすくなる。
【0041】
本発明の乳化重合において用いられる反応性界面活性剤(e)は、特に制限されるものではなく、重合性不飽和基等の反応性基を含む基と、ノニオン系親水基やアニオン系親水基などの界面活性作用を発現する基とを有するいかなる反応性界面活性剤を用いてもよい。前記重合性不飽和基等の反応性基を含む基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、アリルオキシ基、メタリルオキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等が挙げられる。
【0042】
代表的な反応性界面活性剤には、例えば、下記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)又は(8)で表される化合物が含まれる。
【0043】
【化2】

(式中、A1は炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基、R4は水素原子又はメチル基、R5は炭素数7〜24の炭化水素基又は炭素数7〜24のアシル基、Xは水素原子、又はノニオン系若しくはアニオン系の親水基、mは0〜100の整数を示す)
【0044】
【化3】

(式中、A2は炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基、R6は炭素数1〜18の炭化水素基、R7は水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基、pは2〜200の整数、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
【0045】
【化4】

(式中、A3は炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基、R8は水素原子又はメチル基、R9は水素原子又はアルキル基、qは0〜100の整数、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
【0046】
【化5】

(式中、R10は置換基を有していてもよい炭化水素基、R11は水素原子又はメチル基、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
【0047】
【化6】

(式中、R12は置換基を有していてもよい炭化水素基、R13は水素原子又はメチル基、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
【0048】
【化7】

(式中、Φは多官能フェニル基、A4、A5は、それぞれ炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基、R14は水素原子又はメチル基、r、sは、それぞれ1〜100の整数、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
【0049】
【化8】

(式中、A6は炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基、R15は水素原子又はメチル基、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
【0050】
前記式(2)において、A1における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基としては、例えば、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン基、又はこれらに、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)、ヒドロキシル基、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ基等のC1-4アルコキシ基など)などの置換基が結合したアルキレン基などが挙げられる。R5における炭素数7〜24の炭化水素基としては、例えば、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル基などのアルキル基;オクテニル、デセニル基などのアルケニル基;4−メチルフェニル、4−プロピルフェニル、4−オクチルフェニル、4−ノニルフェニル、4−デシルフェニル、4−ドデシルフェニル、4−テトラデシルフェニル、4−ヘキサデシルフェニル基などのアルキルアリール基などが挙げられる。R5における炭素数7〜24のアシル基としては、オクタノイル、ノナノイル、ドデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、4−ノニルベンゾイル基などの脂肪族、脂環式又は芳香族アシル基が挙げられる。mは、好ましくは0〜50程度の整数である。
【0051】
Xにおけるノニオン系若しくはアニオン系の親水基としては、例えば、ポリオキシアルキレン基や、スルホン酸基、カルボキシル基等を含む種々の基が挙げられるが、代表的な基として、下記式(9)
【化9】

(式中、A7は炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基、Mはアルカリ金属又はNH4、nは0〜100の整数を示す)
で表される基が例示される。A7における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基としては、前記A1における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基と同様のものが挙げられる。Mにおけるアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。nは、好ましくは0〜30程度の整数である。
【0052】
式(3)において、A2における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基としては、前記A1における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基と同様のものが挙げられる。R6、R7における炭素数1〜18の炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル基などのアルキル基;ビニル、アリル、ヘキセニル、オクテニル、ノネニル、デセニル基などのアルケニル基;ベンジル、2−フェニルエチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル基などのアラルキル基などが挙げられる。これらのなかでも炭素数4〜18の炭化水素基が特に好ましい。Mにおけるアルカリ金属は前記と同様である。pは好ましくは2〜50程度の整数である。
【0053】
式(4)において、A3における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基としては、前記A1における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基と同様のものが挙げられる。R9におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル基などの炭素数1〜20程度のアルキル基等が挙げられる。qは、好ましくは0〜50程度の整数である。Mにおけるアルカリ金属は前記と同様である。
【0054】
式(5)及び式(6)において、R10、R12における置換基を有していてもよい炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル基などのアルキル基;ビニル、アリル、ヘキセニル、オクテニル、デセニル基などのアルケニル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基などのアリール基;ベンジル、2−フェニルエチルなどのアラルキル基;又はこれらに、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)、ヒドロキシル基、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ基等のC1-4アルコキシ基など)などの置換基が結合した炭化水素基などが挙げられる。Mは前記と同様である。
【0055】
式(7)において、A4、A5における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基としては、前記A1における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基と同様のものが挙げられる。r、sは、好ましくは1〜50程度の整数である。Mにおけるアルカリ金属は前記と同様である。式(6)で表される反応性界面活性剤として、日本乳化剤(株)製の商品名「アントックスMS−60」等が市販されている。
【0056】
式(8)において、A6における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基としては、前記A1における炭素数2〜4の置換若しくは無置換のアルキレン基と同様のものが挙げられる。Mにおけるアルカリ金属は前記と同様である。
【0057】
反応性界面活性剤(e)は、前記モノマー成分(a)、(b)、(c)及び(d)と共重合、またはグラフトし、重合後は高分子量の重合体の構成単位として存在する。そのため非反応性の一般乳化剤が重合後も水相中にフリーに水溶性のまま低分子の形で存在し、最終的に得られた樹脂分散液のキャストフィルムがそのために耐水性、耐透水性、耐湿熱性、耐温水性、耐アルカリ性、耐エフロレッセンス性と接着性の劣るものとなるのに対し、反応性界面活性剤を用いて得られた樹脂分散液のキャストフィルムは高度な上記性能(耐水性等)を発揮する。
【0058】
反応性界面活性剤(e)の乳化重合における使用量は、前記モノマー成分(a)、(b)、(c)及び(d)の総量に対して、0.3〜6重量%である。この使用量が0.3重量%未満の場合は、乳化重合の安定性が悪く、重合中にグリッツが発生しやすく、また重合後得られた樹脂分散液の安定性が劣り、商品価値の劣るものとなる。また6重量%を超えると、耐水性、耐湿熱性、耐温水性、耐アルカリ性、耐エフロレッセンス性、接着性などに支障をきたす可能性がある上、経済性などにおいて問題となる場合も想定され、好ましくない。
【0059】
本発明では、耐水性、耐アルカリ性等の特性を損なわない範囲で、モノマー成分(a)、(b)、(c)、(d)、及び反応性界面活性剤(e)に加えて、他の重合性不飽和モノマーを共重合させてもよい。このような重合性不飽和モノマーの使用量は、モノマー成分(a)、(b)、(c)及び(d)の総量に対して、例えば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。
【0060】
乳化重合は、前記モノマー成分(a)、(b)、(c)及び(d)を水性液中で、ラジカル重合開始剤及び反応性界面活性剤(e)の存在下、撹拌下に加熱することによって実施できる。反応温度は例えば30〜100℃程度、反応時間は例えば1〜10時間程度が好ましい。水と反応性界面活性剤とを仕込んだ反応容器にモノマー混合液又はモノマープレ乳化液を一括添加又は暫時滴下することによって反応温度の調節を行うとよい。
【0061】
ラジカル重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤が使用できる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などや、これらの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤とが組み合わされたいわゆるレドックス系開始剤が水溶液の形で使用される。
【0062】
また、乳化重合の際、メルカプタン系化合物や低級アルコール等の分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)を併用することは、乳化重合を進める観点から、また塗膜の円滑かつ均一な形成を促進し基材への接着性を向上させる観点から好ましい場合が多く、適宜状況に応じて行われる。
【0063】
また、乳化重合の方法としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法等、いずれの重合法もとることができる。
【0064】
このようにして共重合体樹脂エマルジョンが調製される。共重合体樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、一般的に5万〜100万程度であり、例えば10万〜80万程度である。
【0065】
本発明の水分散性樹脂組成物は、前記共重合体樹脂エマルジョンを主体として、さらに、塩基性化合物等の添加剤を含んでもよい。塩基性化合物としては、アンモニア、各種アミン類、及びアルカリ金属塩等が用いられる。塩基性化合物を加えることによって共重合体樹脂エマルジョン中に含まれる酸の一部又は全量が中和され、共重合体樹脂エマルジョンの安定性が確保される。
【0066】
本発明の水分散性樹脂組成物は、そのままコーティング材としてクリヤー皮膜を形成させるために使用に供することも可能であるが、通常は、樹脂組成物に着色顔料、体質顔料、水溶性樹脂、コロイダルディスパージョン、有機溶剤、造膜助剤、可塑剤、分散剤、硬化剤、湿潤剤、増粘剤、表面張力調整剤、防腐剤、沈降防止剤、消泡剤、コロイダルシリカ、リン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム等の各種添加剤を配合して塗料として用いることもできる。本発明の水分散性樹脂組成物又はこれを用いた塗料は、特に無機質材下塗り塗料用として好適である。
【0067】
着色顔料としては、酸化チタン、赤錆(酸化鉄)、オーカー、カーボンブラック等が用いられる。体質顔料としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、タルク等が用いられる。硬化剤としては、エポキシ樹脂やイソシアネート系樹脂等が用いられる。これらの顔料を配合する場合の配合量としては、通常、共重合体樹脂エマルジョン100重量部に対して、着色顔料は0.01〜50重量部程度、体質顔料は1〜200重量部程度である。
【0068】
水分散性樹脂組成物中の共重合体樹脂の含有量は、用途に応じて適宜設定できるが、一般には、10〜70重量%程度である。
【0069】
本発明の水分散性樹脂組成物は、例えば、セメントを主成分とし、これにパルプやロックウールなどの補強繊維、珪砂などの珪酸質材料や無機充填剤などを配合したコンパウンドを、抄造またはプレス成型により成型した後、水硬化により作製される無機質基材(例えば、珪酸カルシウム板、石綿セメント板、木片セメント板、パルプセメント板、軽量気泡コンクリート板)に、下塗り塗料として塗装することができる。
【0070】
本発明の水分散性樹脂組成物は、無機質基材のオートクレーブ養生前に塗装する下塗り塗料として使用するのが好ましい。オートクレーブ養生は、特に制限はなく、窯業系の無機質基材に対して通常採用されている条件(例えば、150〜180℃、8〜10気圧、8〜10時間)で行うことができる。例えば、無機質基材に下塗り塗料100g/m2(乾燥膜厚30〜40μm)が塗布された後、乾燥せずそのまま、または150〜170℃のジェット(送風)乾燥機にて30〜60秒間乾燥された後、上記条件のオートクレーブで養生され、その後フッ素/アクリル樹脂系塗料等の上塗り塗料が塗布される。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下において「部」及び「%」は特に断りのない限り、すべて重量基準である。
【0072】
実施例1
撹拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器を備えた通常のアクリル系樹脂エマルジョン製造用の反応容器に、水356部と下記式(10)
【化10】

で表される反応性界面活性剤[商品名「アデカリアソープSE−10N」、旭電化工業(株)製](e1)3部を仕込み、75℃に昇温した。別途、次に示すモノマー、乳化剤及び水の混合液を高圧ホモジナイザーを用いて均一に乳化し、モノマー乳化液として滴下ロートに仕込んだ。
(モノマー乳化液)
反応性界面活性剤(e1) 10部
MMA(メタクリル酸メチル)(a1) 260部
2EHA(アクリル酸2−エチルヘキシル)(a2) 130部
MAA(メタクリル酸)(b1) 8部
加水分解性シリル基含有重合性不飽和モノマー[商品名「A−174」、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、日本ユニカー(株)製](c1) 3部
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー[商品名「サイポマーWAM−II」、メタクリルアミドエチルエチレン尿素MAEEU(d1)とMAA(b1)の1:1混合物、ローディア日華(株)製] 10部
水 140部
また、別途、次に示す滴下用開始剤水溶液を別の滴下ロートに仕込んだ。
(滴下用開始剤水溶液)
過硫酸カリウム 1部
水 75部
次に、前記反応容器内に、前記モノマー乳化液の5%を添加し、75℃に加熱後、前記滴下用開始剤水溶液の5%を投入し、10分間プレ重合反応を行った。この間反応容器の内温は自動的に80℃に上昇した。その後、残りのモノマー乳化液及び滴下用開始剤水溶液を80℃で3時間かけて一定速度で同反応容器内に滴下した。滴下終了後80℃に保持して1時間熟成反応を行い、室温に冷却した後、アンモニア水(25%)4部を反応容器内に投入し、樹脂組成物(水性樹脂分散液)を得た。この樹脂組成物の固形分濃度は42.3重量%、pHは8.2であった。
次に、上記で得られた樹脂組成物100重量部に造膜助剤としてブチルセロソルブ4重量部と水4重量部の混合液を添加後、分散剤[商品名「SMAレジン1440−20」、スチレン−マレイン酸ソーダ系樹脂、川原油化(株)製]1.4重量部、黒色着色顔料[商品名「Toda Color KN-320」、戸田工業社製]11.5重量部、黄色着色顔料[商品名「Toda Color TSY-1」、戸田工業社製]2.9重量部、水15重量部を添加、混合し、よく練り、下塗り塗料とした。
【0073】
実施例2
実施例1において、反応性界面活性剤(商品名「アデカリアソープSE−10N」)(e1)の代わりに、同量の下記式(11)
【化11】

で表される反応性界面活性剤[商品名「アクアロンHS−10」、第一工業製薬(株)製](e2)を用いた以外は、すべて実施例1と同様にして乳化重合を行い、樹脂組成物(水性樹脂分散液)を得た。この樹脂組成物の固形分濃度は42.4重量%、pHは8.2であった。次に、実施例1と同様の配合で下塗り塗料を得た。
【0074】
実施例3
実施例1において、反応性界面活性剤(商品名「アデカリアソープSE−10N」)(e1)の代わりに、同量の下記式(12)
【化12】

(式中、Rはアルキル基を示す)
で表される反応性界面活性剤[商品名「アデカリアソープSR−20」、旭電化工業(株)製](e3)を用いた以外は、すべて実施例1と同様にして乳化重合を行い、樹脂組成物(水性樹脂分散液)を得た。この樹脂組成物の固形分濃度は42.3重量%、pHは8.0であった。次に、実施例1と同様の配合で下塗り塗料を得た。
【0075】
実施例4
実施例1において、反応性界面活性剤(商品名「アデカリアソープSE−10N」)(e1)の代わりに、2.5倍量の下記式(13)
【化13】

で表される反応性界面活性剤[商品名「ラテムルS−180A」、花王(株)製](e4)を用いた以外は、すべて実施例1と同様にして乳化重合を行い、樹脂組成物(水性樹脂分散液)を得た。この樹脂組成物の固形分濃度は41.5重量%、pHは8.1であった。次に、実施例1と同様の配合で下塗り塗料を得た。
【0076】
実施例5
実施例1において、反応性界面活性剤(商品名「アデカリアソープSE−10N」)(e1)の代わりに、同量の下記式(14)
【化14】

(式中、Φは多官能フェニル基、r、sは1〜100の整数、Mはアルカリ金属又はNH4を示す)
で表される反応性界面活性剤[商品名「アントックスMS−60」、ビス(ポリオキシエチレン多官能フェニルエーテル)メタクリレート硫酸エステル塩、日本乳化剤(株)製](e5)を用いた以外は、すべて実施例1と同様にして乳化重合を行い、樹脂組成物(水性樹脂分散液)を得た。この樹脂組成物の固形分濃度は42.3重量%、pHは8.0であった。次に、実施例1と同様の配合で下塗り塗料を得た。
【0077】
比較例1
実施例1において、反応性界面活性剤(商品名「アデカリアソープSE−10N」)(e1)の代わりに、同量の非反応性界面活性剤[商品名「ハイテノール08E」、第一工業製薬(株)製](e′)を用いた以外は、すべて実施例1と同様にして乳化重合を行い、樹脂組成物(水性樹脂分散液)を得た。この樹脂組成物の固形分濃度は42.4重量%、pHは8.3であった。次に、実施例1と同様の配合で下塗り塗料を得た。
【0078】
比較例2
実施例1において、モノマーとして加水分解性シリル基含有重合性不飽和モノマー[商品名「A−174」、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、日本ユニカー(株)製](c1)3部の代わりに、MMA(a1)3部を用いた点以外は、すべて実施例1と同様にして乳化重合を行い、樹脂組成物(水性樹脂分散液)を得た。この樹脂組成物の固形分濃度は42.4重量%、pHは8.2であった。次に、実施例1と同様の配合で下塗り塗料を得た。
【0079】
比較例3
実施例1において、モノマーとして環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(商品名「サイポマーWAM−II」)10部の代わりに、MMA(a1)10部を用いた点以外は、すべて実施例1と同様にして乳化重合を行い、樹脂組成物(水性樹脂分散液)を得た。この樹脂組成物の固形分濃度は42.4重量%、pHは8.1であった。次に、実施例1と同様の配合で下塗り塗料を得た。
【0080】
性能評価試験
実施例及び比較例において得られた各下塗り水性塗料組成物について、以下のようにして無機質材下塗り塗料としての性能評価試験を行った。試験結果を表1に示す。なお、上塗りフッ素樹脂として、VdF(フッ化ビニリデン)/TFE(テトラフルオロエチレン)/CTFE(クロロトリフルオロエチレン)=75/15/10(モル比)のフッ素樹脂をシードとして、アクリル酸エステル(MMA/BA(ブチルアクリレート)=50/50)をシード重合して得た樹脂組成物(固形分濃度45%、pH7)を用いた。
【0081】
(試験用塗装板の作製)
JISフレキシル板に塗布量100g/m2になるように上記下塗り塗料を塗布し、160℃、10気圧(1.01MPa)の条件で10時間オートクレーブ養生後、上記上塗りフッ素樹脂を100g/m2塗布し、ジェット乾燥機にて160℃で40秒間乾燥した。その後、塗板のサイドと裏面をアルミ箔とエポキシ樹脂でシールし、試験用塗装板とした。
【0082】
(耐温湿性試験)
白化性:
上記試験用塗装板を50℃、99%RHの雰囲気下で14日間放置し、取り出し後、塗板の白化状態を5段階で評価した(5;白化まったくなく良好、1;全面白化)。
【0083】
密着性:
上記試験用塗装板を50℃、99%RHの雰囲気下で1日放置し、取り出し後、塗板の表面の水を布で拭き取り、ニチバン製のセロテープ(登録商標)にて塗膜の密着性試験を行い、次の5段階で評価した。
5;まったく剥離なし。
4;全面積の20%未満が剥離。
3;全面積の20〜50%未満が剥離。
2;全面積の50〜80%未満が剥離。
1;全面積の80〜100%が剥離。
【0084】
ブリスター:
上記試験用塗装板を50℃、99%RHの雰囲気下で14日間放置し、取り出し後、塗板のブリスター状況を次の5段階で評価した。
5;ブリスターまったくなし。
4;ブリスターの発生状態が全面積の20%未満。
3;ブリスターの発生状態が全面積の20〜50%未満。
2;ブリスターの発生状態が全面積の50〜80%未満。
1;ブリスターの発生状態が全面積の80〜100%。
【0085】
(耐温水性試験)
白化性:
上記試験用塗装板を60℃の温水に5日間浸漬し、取り出し後、塗板の白化状態を5段階で評価した(5;白化まったくなく良好、1;全面白化)。
【0086】
密着性:
上記試験用塗装板を60℃の温水に1日浸漬し、取り出し後、塗板の表面の水を布で拭き取り、ニチバン製のセロテープ(登録商標)にて塗膜の密着性試験を行い、次の5段階で評価した。
5;まったく剥離なし。
4;全面積の20%未満が剥離。
3;全面積の20〜50%未満が剥離。
2;全面積の50〜80%未満が剥離。
1;全面積の80〜100%が剥離。
【0087】
ブリスター:
上記試験用塗装板を60℃の温水に、5日間浸漬し、取り出し後、塗板のブリスター状況を次の5段階で評価した。
5;ブリスターまったくなし。
4;ブリスターの発生状態が全面積の20%未満。
3;ブリスターの発生状態が全面積の20〜50%未満。
2;ブリスターの発生状態が全面積の50〜80%未満。
1;ブリスターの発生状態が全面積の80〜100%。
【0088】
【表1】

【0089】
表1に示されるように、本発明の樹脂組成物を用いた下塗り塗料は、全ての試験項目において優れた結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基及び加水分解性シリル基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)と、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)と、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(c)と、下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数2〜10の2価のアルキレン基を示し、R3は炭素数2又は3の2価のアルキレン基を示す)
で表される環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)とからなる不飽和単量体混合物が、反応性界面活性剤(e)の存在下で乳化重合された共重合体樹脂エマルジョンを含む水分散性樹脂組成物であって、前記酸基含有重合性不飽和モノマー(b)の使用量が、前記重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)の総量に対して0.1〜10重量%であり、前記加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマー(c)の使用量が、前記重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)の総量に対して0.1〜5重量%であり、前記反応性界面活性剤(e)の使用量が前記重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)の総量に対して0.3〜6重量%である水分散性樹脂組成物。
【請求項2】
酸基及び加水分解性シリル基のいずれも含有しない重合性不飽和モノマー(a)が、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)、又は前記アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a-1)と、スチレン系モノマー(a-2)、(メタ)アクリロニトリル(a-3)、アミド結合含有重合性不飽和モノマー(a-4)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(a-5)、エポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a-6)、及び多官能ビニル基含有重合性不飽和モノマー(a-7)からなる群より選択された少なくとも1種のモノマーとの混合モノマーである請求項1記載の水分散性樹脂組成物。
【請求項3】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)が、メタクリルアミドエチルエチレン尿素、メタクリルアミドプロピレン尿素、アクリルアミドエチルエチレン尿素及びアクリルアミドエチルプロピレン尿素からなる群より選択された少なくとも1種のモノマーである請求項1記載の水分散性樹脂組成物。
【請求項4】
環状ウレイド基含有重合性不飽和モノマー(d)の使用量が、重合性不飽和モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)の総量に対して0.1〜5重量%である請求項1記載の水分散性樹脂組成物。
【請求項5】
無機質材下塗り塗料用の水分散性樹脂組成物である請求項1〜4の何れかの項に記載の水分散性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−70149(P2006−70149A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254882(P2004−254882)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】