説明

水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物、及び、該組成物を配合した飲食品

【課題】本発明の課題は、水に溶けにくい遊離型植物ステロールを水に分散しやすい組成物とすることによって、水系の飲食品への使用を可能とし、かつ、添加された飲食品においても食感や風味等に悪影響を及ぼすことのない水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物を提供することにある。
【解決手段】遊離型植物ステロール粒子のレーザー光散乱法による平均粒子径を5μm以下とし、それに、粉末状の乳化剤と、重量平均分子量が6万以下の寒天粉末とを配合することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特別な分散装置を要することなく容易に飲食品中に分散可能であり、添加された飲食品中においても不快な風味や食感を呈することのない優れた水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物、および、当該組成物を配合した飲食品に関する。
【技術背景】
【0002】
植物ステロールとは、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等の、植物由来のステロールの総称である。植物ステロールは、穀物、キャベツ、レタス、菜種、ヤシなどの植物の細胞膜中に細胞膜構成成分として広く存在している。
【0003】
この植物ステロールは、血漿コレステロール濃度の低下作用を有することが古くから知られている。コレステロールが吸収されるには、まずコレステロールが胆汁酸ミセルへ可溶化されなければならないところ、植物ステロールとコレステロールが共存した場合、植物ステロールはコレステロールと競合的に胆汁酸ミセルへ可溶化してコレステロールの胆汁酸ミセルへの可溶化量が減少し、その結果としてコレステロールの吸収が妨害されるためである。
【0004】
高い血漿コレステロール濃度は循環器系疾患を引き起こすと考えられていることから、血漿コレステロール濃度の低下は消費者にとって重大な関心事となっている。
【0005】
しかしながら、十分な血漿コレステロール濃度低下作用を得るためには、1日当たり数グラムの植物ステロールを継続して摂取することが必要であり、これをカプセル剤等で摂取しようとする場合には多量に服用しなければならず、毎日継続することは困難であった。
【0006】
また植物ステロールは日常の食事からも僅かに摂取されているが、通常の食事ではコレステロールの吸収を抑制するに足りる量を摂取することは困難である。
【0007】
そのため植物ステロールを効率的に摂取する方法として、植物ステロールを添加した飲料や各種食品が提案されている。日常的に摂取される食品に植物ステロールを添加することは、その保健効果を高めるとともに、植物ステロールの継続的摂取を容易とするので有意義である。
【0008】
しかし、植物ステロールは水や油に対する溶解度が極めて低く、融点も150℃前後と高いため、飲食品等への利用には大きな制約があった。例えば、植物ステロールは高融点の結晶であるために食品中で結晶によるざらつき感、粒状感などの耐え難い不快な食感を生じてしまったり、溶解度の低さから飲料に添加した場合には沈殿物となって分離して商品価値を大きく損ねてしまっていた。また融点以上に加熱しても放冷後には食品内部で再び結晶化して上記の不都合が生じてしまうし、そもそもそのような加熱をすることが出来ない食品も多くあるため、植物ステロールは飲食品等には殆ど利用されていなかった。
【0009】
近年、植物ステロールの化学修飾すなわち脂肪酸によるエステル化反応により、融点を低下させて油脂に対する溶解性を高め、食用油脂、ドレッシング、マーガリンのような一部の油脂食品に用いられている実態がある。
【0010】
しかし、エステル化には有機溶媒を残留させないために煩雑な操作が必要となったり、長時間の酵素処理により処理コストが増大してしまう場合が多くある。またエステル化により植物ステロールの加工性はやや向上するものの、血漿コレステロール濃度低下作用は減少し、さらには親油性の栄養素の吸収を阻害してしまう不利益が生じる。さらに、このエステル型植物ステロールは多量の油脂に溶解して使用されるため、ヒトの脂質摂取量は不可避的に著しく増大することとなってしまう。また無脂肪の食品には配合出来ないという不利益もある。
【0011】
そこで、遊離型植物ステロールをあらゆる食品に利用することができるようにその加工性を向上させることが強く求められている。
【0012】
以下、本発明に関連する技術分野における代表的な従来技術を挙げる。
【特許文献1】特開昭57−206336号公報
【特許文献2】特開平10−179086号公報
【特許文献3】特開2000−300191号公報
【特許文献4】特開2001−117号公報
【特許文献5】特開平11−146757号公報
【特許文献6】特表2002−517418号公報
【特許文献7】特開平10−231229号公報
【0013】
上記特許文献1〜3には、植物ステロールをビタミンEや乳化剤を含む油脂に溶解した油脂組成物が記載されている。しかしこれらの方法では、ある程度の量の植物ステロールを溶解させた場合には低温貯蔵下、植物ステロールの結晶が析出し、商品価値を大きく損ねてしまう。また水系食品に配合することが出来ず、油脂に溶解して配合するため、多量の油脂を不可避的に摂取せざるを得なくなってしまう不利益があった。
【0014】
上記特許文献4には、水系食品に配合出来る例として、植物ステロール、レシチン、エタノール、多価アルコールなどを含有する水中油型乳化組成物が開示されている。しかし、この方法では水中油型乳化組成物中に遊離型植物ステロールを高濃度で含有させると、経時変化で遊離型植物ステロールの結晶が析出してしまい、商品価値を大きく損ねてしまっていた。融点が150℃前後と高い遊離型植物ステロールを高濃度に含有したエマルションを長期間安定に保つことは遊離型植物ステロールの結晶性の強さを考えると極めて困難である。よって、高濃度の植物ステロールを含有する水中油型乳化組成物を得るためには油脂に対する溶解性が優れるエステル型植物ステロールを用いるほかなかった。
【0015】
上記特許文献5には、平均粒子径が15μm以下の一種以上の高融点脂質と、非ステロール乳化剤とを含み、非ステロール乳化剤の高融点脂質に対する重量比が1/2未満である水性分散液又は懸濁液について開示されている。特許文献5によれば、一時的に安定な分散状態を作り出すことが出来るが、24時間程度の経時変化で遊離型植物ステロールの沈殿物を生じてしまい、液状食品などに使用した場合には商品を長期間保管すると外観及び食感が悪くなってしまっていた。
【0016】
上記特許文献6では、植物ステロールをシクロデキストリンによって包接することが提案されている。この方法では、事前に植物ステロールを溶媒に溶解させたり、植物ステロールをエマルション化する必要があり、製造工程の複雑化、歩留率の低下、有害溶媒の残留等の好ましくない問題が生じやすい。
【0017】
上記特許文献7では、植物ステロールとショ糖脂肪酸エステルによって、ラメラ構造体を形成させることが提案されているが、有機溶媒を使用するため、上記と同様に製造工程の複雑化、歩留率の低下、有害溶媒の残留等の好ましくない問題が生じやすい。
【0018】
以上のように、遊離型植物ステロールの水溶液系での分散性を含めた安定化方法が確立されているとは言いがたいのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明が解決しようとする課題は、上記のような水に溶けにくい遊離型植物ステロールを水に分散しやすい組成物とすることによって、水系の飲食品への使用を可能とし、かつ、添加された飲食品においても食感や風味等に悪影響を及ぼすことのない水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記課題解決のため鋭意研究した結果、乳化剤を含有し、又は、含有しない、遊離型植物ステロール粒子のレーザー光散乱法による平均粒子径を5μm以下とし、粉末状の乳化剤と、重量平均分子量が6万以下の寒天粉末とを配合することにより、優れた分散安定性を有する水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
本発明の第1の発明は、「乳化剤を含有し、又は、含有しない、レーザー光散乱法による平均粒子径が5μm以下の遊離型植物ステロール粒子(A)」(以下「(A)」と略記する。)と、「粉末状の乳化剤(B)」(以下「(B)」と略記する。)と、「重量平均分子量が6万以下の寒天粉末(C)」(以下「(C)」と略記する。)を含有することを特徴とする水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物である。
【0022】
本発明の第2の発明は、第1の発明において、(B)が有機酸モノグリセライド、ショ糖脂肪酸エステル、アラビアゴムのうちから選択される1種又は2種以上の組合せである水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物である。
【0023】
本発明の第3の発明は、第1、2の発明において、遊離型植物ステロールが水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物の5〜70質量%であり、乳化剤が遊離型植物ステロールの配合質量に対して0.2〜1倍量であり、(C)が遊離型植物ステロールの配合質量に対して0.1〜1倍量である水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物である。
【0024】
本発明の第4の発明は、第1〜3の発明の水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物を配合したことを特徴とする植物ステロール含有飲食品である。
【0025】
植物ステロールは植物の細胞膜中に遊離型あるいはエステル型として含まれているが、本発明では遊離型の植物ステロールを用いる。
【0026】
本発明に使用される植物ステロールは遊離型であれば特に限定するものではなく、植物ステロールの由来原料も特に限定するものではない。本発明に使用される遊離型植物ステロールの例示として、β−シトステロールとスチグマステロールとカンペステロールとブラシカステロールの混合物が挙げられる。
【0027】
本発明においては本組成物の性能を妨げない範囲内で遊離型植物ステロールにエステル型植物ステロールを混合して使用することができる。
【0028】
本発明を実施するに当たり使用される遊離型植物ステロールは、その純度に特に制限はないが、遊離型植物ステロールがより高濃度の組成物を調製するためには、純度が70質量%以上の物を使用することが好ましく、90質量%以上の物を使用することがより好ましい。
【0029】
水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物に配合する遊離型植物ステロールの量は、5〜70質量%が好ましい。5質量%未満では組成物中の遊離型植物ステロールの濃度が薄くなってしまうため実用的ではなく、他方70質量%を越えた場合には本組成物を食品に添加した際における遊離型植物ステロールの分散安定性が不十分となってしまう傾向があるからである。本発明でいう遊離型植物ステロールの量とは、遊離型植物ステロール自体の量である。したがって、本発明の組成物の性能を妨げない範囲内で混合使用したエステル型植物ステロールの量や、不純物を含んだ遊離型植物ステロールを使用した場合の不純物の量は、本発明でいう遊離型植物ステロールの量には含まれない。
【0030】
本発明においては、遊離型植物ステロールはそのまま原料として用いることも出来るが、融点以上に加熱して融解させた後、乳化剤を混合して用いるのがより好ましい。あらかじめ乳化剤を混合することにより、飲食品に添加した場合における分散安定性が更に向上し、また、水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物の凝集を防止することができる。
【0031】
(B)としては、粉末状であれば、任意の乳化剤が使用できる。(B)として好ましいものは、有機酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、サポニン、レシチン類、アラビアゴムである。
【0032】
(A)に含有せしめる乳化剤は、遊離型植物ステロールと混合して粒子を得ることができれば、任意の乳化剤が使用でき、また、その形態を問わない。即ち、粉末状でも、ペースト状等でもよい。(A)に含有せしめる乳化剤として特に好ましいのは、クエン酸モノグリセライド及び/又はコハク酸モノグリセライドである。
【0033】
本発明における乳化剤の配合量、すなわち、(A)中の乳化剤と(B)の合計量は遊離型植物ステロールの配合質量に対して0.2〜1倍量が好ましい。乳化剤の配合量が遊離型植物ステロール量の0.2倍量未満であると、本組成物を食品に添加した際における遊離型植物ステロールの分散安定性が不十分となる傾向があり、また1倍量を越えて配合しても特に有利な効果はなく、却って乳化剤に起因する風味の劣化が感じられる傾向があるからである。
【0034】
(A)中の乳化剤の含有量は特に制限されない。しかし、乳化剤が配合されると遊離型植物ステロールの融点降下が生じ、融点が下がりすぎると、5μmに粉砕することが困難になる。融点降下を抑制する為には、該含有量は、遊離型植物ステロール配合質量に対して1/3量以下とすることが望ましく、特に好ましくは1/6量以下に、最も好ましくは1/12量以下とすることが望ましい。融点降下を抑制しながら乳化剤の作用を発現せしめる為の(A)中の乳化剤の配合量は、遊離型植物ステロール配合質量に対して1/3量〜1/36量が好ましく、特に好ましくは1/6量〜1/30量、最も好ましくは1/12量〜1/24量である。
【0035】
遊離型植物ステロール粒子や、遊離型植物ステロールと乳化剤の混合物からなる粒子は、レーザー光散乱法による平均粒子径を5μm以下に調整することが重要である。平均粒子径が5μmを超えると、本組成物を食品に添加した際の遊離型植物ステロールの分散安定性が不十分となってしまう。分散安定性の為に、できるだけ微細な微粒子に調整することが望ましい。
【0036】
このような微粒子の調整は、どのような手段によっても、また、どのような粉砕機を使用して行ってもよい。例えば、ジェットミル、ハンマーミル、ボールミル、ビーズミルによる粉砕が挙げられる。
【0037】
本発明では、乾式粉砕機による粉砕が実用上好ましく且つ有利に採用される。そのような乾式粉砕機としては、例えば、圧縮空気を利用して超音速に加速された原料を相互衝突させて遊離型植物ステロールを粉砕するジェットミルが実用的である。その粉砕条件は、遊離型植物ステロールの原料の状態、原料の供給速度等の条件及びミル運転条件等により異なるが、実験により粒径の変化を調べながら最適条件を見出すことができる。
【0038】
本発明において、遊離型植物ステロールの分散安定性の為に(C)を配合する。(C)は由来原料などには特に制限されないが、重量平均分子量6万以下のものを用いる。重量平均分子量が大きすぎると、添加した食品中でゲル化など好ましくない食感の変化を生じるが、重量平均分子量6万以下のものを用いれば、添加した食品中でゲル化など好ましくない食感の変化は生じない。
【0039】
(C)の配合量は遊離型植物ステロールに対して0.1〜1倍量とすることが好ましい。添加量が0.1倍量未満であると、本組成物を飲食品に添加した際の遊離型植物ステロールの分散安定性が不十分となる傾向があり、特に、液状食品に配合した際に沈殿物が発生してしまう傾向があるからであり、他方1倍量以上としても特に有利な効果はなく、かえって添加食品に対して好ましくない食感の変化を生じるようになってしまうからである。
【0040】
本発明の組成物には、本発明の効果を妨げない範囲において他の素材を混合することが出来る。他の素材としては、例えば、デキストリン、糖類、澱粉が挙げられる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の組成物は、飲料を含むあらゆる食品中に安定に分散せしめることが可能で、しかも、添加された食品の食感や風味を損なうことがない。また、添加にあたって特別な装置を用いることなく容易に分散が可能で、食品製造工程の簡略化が図れる。さらに、本発明の組成物は、耐熱性に優れることから、高温・加圧下の殺菌も可能であり、添加された食品を長期間安定に保つことができる。さらに、本発明の組成物は、良好な水分散性と耐熱性を有するので、飲食品のみならず、化粧品等、広範な物に好適に配合することができる。
【0042】
本発明の飲食品は、血漿コレステロール濃度の低下作用があり、しかも、飲食品本来の外観、食感、風味が損なわれていないという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
以下の実施例、比較例における平均粒子径とは、レーザー光散乱法による平均粒子径を意味する。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
54kgの植物ステロール(純度96%:β−シトステロール43.5%、スチグマステロール25.5%、カンペステロール25.0%、ブラシカステロール2.0%)を160℃に加熱して融解し、これに2.6kgのコハク酸モノグリセライド(HLB値3.4)を溶解させ、撹拌しながら放冷することにより固化させ、更に5℃冷蔵庫内で96時間放冷して完全に固化させた。これをハンマーミルを用いて粗粉砕し、ジェットミル(セイシン企業(株)製)を用いて更に平均粒子径2.5μmに粉砕して、コハク酸モノグリセライド含有植物ステロール組成物を得た。これに寒天(重量平均分子量5万以下、伊那寒天工業(株)製のウルトラ寒天イーナ(商品名))15kgおよびショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株)製のリョートーシュガーエステルP1670(商品名)HLB値13)を15kg並びにデキストリン(松谷化学(株)製のパインデックス#100(商品名))13.4kgを混合して、51.84質量%の植物ステロールを含有する水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物Aを得た。
【0045】
本品0.5gを80℃の精製水99.5gに撹拌して混合した。30日間静置後、植物ステロールの沈殿物は見られなかった。
【0046】
[比較例1]
実施例1で寒天を配合せずに、同様に調製した。
本品0.5gを80℃の精製水99.5gに撹拌して混合した。30日間静置後、植物ステロールの凝集物が見られた。
【0047】
[実施例2]
植物ステロール(純度96%:β−シトステロール43.5%、スチグマステロール25.5%、カンペステロール25.0%、ブラシカステロール2.0%)54kgをジェットミルを用いて平均粒子径2.5μmに粉砕した。これに寒天(重量平均分子量5万以下、伊那寒天工業(株)製ウルトラ寒天)15kgおよびショ糖脂肪酸エステル(HLB値13)を15kg並びにデキストリン16kgを混合して、51.84質量%の植物ステロールを含有する水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物Bを得た。
本品0.5gを80℃の精製水99.5gに撹拌して混合した。30日間静置後、植物ステロールの沈殿物は殆ど見られなかった。
【0048】
[比較例2]
実施例2の寒天の重量平均分子量を40万に変え、同様に調製した。
本品0.5gを80℃の精製水99.5gに撹拌して混合した。30日間静置後、液はゲル化し、植物ステロールの凝集物が見られた。
【0049】
[比較例3]
実施例2のジェットミルによる粉砕を行わずに、植物ステロールの平均粒子径を23.1μmとした以外は、同様に調製した。
本品0.5gを80℃の精製水99.5gに撹拌して混合した。30日間静置後、植物ステロールの沈殿物が多く見られた。
【0050】
≪耐熱試験≫
実施例1、2と比較例2、3において得られた組成物を用いて以下の方法で耐熱試験を実施した。
【0051】
水99gに実施例1、2と比較例2、3で得られた組成物を1g添加攪拌し、95℃20分加熱し、これらの水溶液を室温にて放冷した後、沈殿物の有無を目視により評価した。結果を表1に示した。
【0052】
表1における分散安定性の評価基準は以下のとおりである。
◎:白濁溶液であり、沈殿、凝集を認めない。
○:白濁溶液であり、凝集物、沈殿物を極少量認める。
△:白濁溶液であり、凝集物、沈殿物を少量認める。
×:凝集物、沈殿物を多く認める。
【0053】
【表1】

【0054】
[実施例3]
実施例1、2及び比較例2、3で得られた植物ステロール組成物及び未処理の遊離型植物ステロール(純度96%:β−シトステロール43.5%、スチグマステロール25.5%、カンペステロール25.0%、ブラシカステロール2.0%)、エステル型植物ステロールを米1合当たりに遊離型植物ステロール換算で500mg添加して常法通り炊飯し、分散状態を目視で評価した。また風味、食感を厳選された5名のパネルにより評価した。結果を表2に示した。
【0055】
表2における植物ステロールの分散状態の評価は以下のとおりである。
均一:炊飯物中に植物ステロールを目視できない。
不均一:炊飯物中に植物ステロールを目視できる。
【0056】
表2における風味・食感の点数は、下記の基準で官能評価し、採点した5名のパネルの合計点である。
<官能評価>
無添加と比較して風味劣化、ざらつきを感じない:3点
無添加と比較して僅かに風味劣化、ざらつきを感じる:2点
無添加と比較して著しい風味劣化、ざらつきを感じる:1点
【0057】
【表2】

【0058】
[実施例4]
牛乳150kg、砂糖20kg、脱脂粉乳10kg、実施例1で得られた水分散性植物ステロール組成物2kgを混合攪拌し、95℃10分間加熱殺菌した。これに市販ヨーグルト10kgを添加し、37℃で9時間発酵させた。その後、200kgの牛乳を加え、撹拌、均質化して、ヨーグルトドリンクを得た。このヨーグルトドリンクは植物ステロールの分離は全く認められず、違和感なく飲むことが出来た。また本品を30日間保管後にも沈殿物などは生じていなかった。
【0059】
[実施例5]
市販牛乳99gに、実施例1の水分散性植物ステロール組成物1gを混合し、植物ステロール組成物を含有する牛乳を得た。この牛乳は90℃10分間の殺菌後も植物ステロールの分離は全く認められず、違和感なく飲むことが出来た。また本品を30日間保管後にも沈殿物などは生じていなかった。
【0060】
[実施例6]
市販茶飲料99gに、実施例1の水分散性植物ステロール組成物1gを混合し、植物ステロールを含有する茶飲料を得た。この茶飲料は90℃10分間の殺菌後も植物ステロールの分離は全く認められず、違和感なく飲むことが出来た。また本品を30日間保管後にも沈殿物などは生じていなかった。
【0061】
[実施例7]
市販清酒99gに、実施例1の水分散性植物ステロール組成物1gを混合し、植物ステロールを含有する清酒を得た。この清酒は2ヶ月保管後も植物ステロールの分離は全く認められず、問題なく飲むことが出来た。
【0062】
[実施例8]
市販ゼリー飲料99gに、実施例1の水分散性植物ステロール組成物1gを混合し、植物ステロールを含有するゼリー飲料を得た。このゼリー飲料は90℃10分間の殺菌後も植物ステロールの分離は全く認められず、問題なく飲むことが出来た。また本品を30日間保管後にも沈殿物などは生じていなかった。
【0063】
[実施例9]
市販コンソメスープ粉末1食分を、95℃に加温した水99gに溶解し、実施例1の水分散性植物ステロール組成物1gを混合し、植物ステロールを含有するコンソメスープを得た。このスープは植物ステロールの分離は全く認められず、問題なく飲むことが出来た。
【0064】
[実施例10]
市販ソース99gに、実施例1の水分散性植物ステロール組成物1gを混合し、植物ステロールを含有するソースを得た。このソースは植物ステロールの分離は全く認められず、問題なく使用することが出来た。
【0065】
以上のように、本発明品である水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物は、水系添加できることから、該組成物含有飲食品を調製するにあたり何ら困難を伴うことはなく、該組成物の飲食品への汎用性が確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤を含有し、又は、含有しない、レーザー光散乱法による平均粒子径が5μm以下の遊離型植物ステロール粒子(A)と、
粉末状の乳化剤(B)と、
重量平均分子量が6万以下の寒天粉末(C)を含有することを特徴とする水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物。
【請求項2】
粉末状の乳化剤(B)が有機酸モノグリセライド、ショ糖脂肪酸エステル、アラビアゴムのうちから選択される1種又は2種以上の組合せである請求項1記載の水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物。
【請求項3】
遊離型植物ステロールが水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物の5〜70質量%であり、乳化剤が遊離型植物ステロールの配合質量に対して0.2〜1倍量であり、上記寒天粉末(C)が遊離型植物ステロールの配合質量に対して0.1〜1倍量である請求項1又は請求項2記載の水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の水分散性粉末状遊離型植物ステロール組成物を配合したことを特徴とする植物ステロール含有飲食品。

【公開番号】特開2009−82103(P2009−82103A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258709(P2007−258709)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(592007612)横浜油脂工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】