説明

水分散性金属ナノ粒子

【課題】ナノサイズの粒子径を有し、粒子径分布が小さく、かつ、水分散性に優れる水分散性金属ナノ粒子を提供する。
【解決手段】粒子径2〜100nmの金属ナノ粒子の表面に、極性官能基を有する親水性表面修飾剤が結合した構造を有する水分散性金属ナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートルサイズの粒子径を有し、粒子径分布が小さく、かつ、水分散性に優れる水分散性金属ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径が数〜数十ナノメートル程度の微細無機粒子(以下、ナノ粒子と呼ぶ)は、粒子径が数百nm以上の粒子に比べて活性度及び反応性が飛躍的に向上し、電気的、磁気的、光学的、機械的特性が大きく変化するため、印刷材料、電子材料、化粧品材料、食品材料、医薬品材料等の分野に応用するため多くの合成方法が提案・開発されてきている。しかしながら、合成された微細粒子やナノ粒子を回収する方法、そして回収後も凝集等させることなく微粒子のまま分散安定化させておく方法が必要とされている。
【0003】
ナノ粒子は、多くの場合、コロイド化学的合成法により合成され、その表面は、一般的に界面活性剤及び/又は表面修飾剤で被覆されて安定化されている。粒子径分布が狭いナノ粒子を得るための合成法は限定されており、これらのプロセス上の制約から得られるナノ粒子の表面は疎水基をもつ分子に保護されて親油性となる場合が多い。このようなナノ粒子は、プラスチックや油溶媒に分散するには都合が良い。しかし、一方で、表面が疎水性であると、水系溶媒に対する分散安定性に劣り、水系溶媒中での使用に制限があり、また、タンパク質、ウイルス、核酸等の生体関連物質との反応性が低下するという問題があった。そのため、ナノ粒子の表面を親水化することが望まれていた。
【0004】
近年、半導体ナノ粒子については、種々の親水化ナノ粒子が報告されている。
例えば、特許文献1には、親水性ナノ粒子の製造方法として、(1)金属化合物と5B族又は6B族原子の供給源である液体化合物を混合し、不均一系で20〜40℃の温度条件下で反応させて、ナノ粒子を得る工程、及び(2)前記工程(1)で得られたナノ粒子の表面を、メルカプト基及び/又はセレノメルカプト基を有する親水性化合物を用いてコーティングする工程、を含む方法が開示されている。この方法は、粒子径分布が均一に揃った親水性のナノ粒子を得ることができる。しかしながら、金属化合物と5B族又は6B族原子が難水溶性塩を形成することを利用していることから、コアとなる粒子は、半導体ナノ粒子に限られる。
【0005】
これに対して、金属ナノ粒子については、凝集を防ぎつつ親水化する適切な手段が殆どなく、粒子径分布が小さく、凝集することなく高濃度で水分散可能な金属ナノ粒子は、作製することができなかった。
【0006】
例えば、特許文献2には、貴金属の原料微粒子の表面を、表面処理剤で被覆した貴金属微粒子であって、平均粒子径が200nm未満、BET比表面積が1.0m2/g以上で、かつ原料微粒子と表面処理剤との総重量に対する、表面処理剤の重量で表される表面処理剤の被覆率が1〜15重量%であることを特徴とする貴金属微粒子が開示されている。これは、種々の溶剤や樹脂に対する高い親和性を有する貴金属ナノ粒子を与える。当該ナノ粒子は、原料貴金属微粒子の表面に表面処理剤が吸着したものである。当該方法は、水相合成された貴金属ナノ粒子を親油性のものに転換することができる。しかしながら、新油性に転換される前に凝集が進むため、粒子がひとつひとつ独立して分散するという状態ではない。
【0007】
特許文献3では、銀ナノ粒子を製造する方法であって、(1)アミン化合物、(2)銀塩及び(3)カルボキシル基を有する多環式炭化水素化合物を含む出発原料を熱処理する工程を含むことを特徴とする製造方法が開示されている。当該方法は、水相合成された貴金属ナノ粒子を親油性を示す状態で分散安定化するものである。実施例にあるように、粒子径が綺麗に揃った高濃度の油性分散液とすることができる。しかしながら、当該ナノ粒子は、表面が疎水性であり、水系溶媒に対する分散安定性に劣り、水系溶媒中での使用に制限がある。
【0008】
特許文献4には、ナノクリスタルからなるコア部と、該コア部の周囲が前記ナノクリスタル粒子と結合する結合部を有する表面修飾部とガラス状態を形成する物質を基体とする絶縁シェル部を有する物質からなり、前記コア部の周囲が前記ナノクリスタルの結合欠陥と結合する結合部を有する表面修飾部とガラス状態を形成する物質を基体とする絶縁シェル部を有する物質により表面を被覆するように形成されたことを特徴とする複合ナノ粒子が開示されている。当該ナノ粒子は、親水性を示すと考えられるが、コア粒子は半導体結晶に限られている。コア粒子が金属にできたとしても、表面がガラス招待のシェルに覆われているため、当該ナノ粒子には、金属としての電気化学的性質が期待できない。
【0009】
特許文献5には、ポリビニル−2−ピロリドンにより保護された金属ナノ粒子の作製方法が開示されている。この方法は、ポリマーで保護されるために、ナノ粒子が数倍の大きさになってしまい、本来の金属ナノ粒子のサイズでなくなり、サイズが支配的な現象を用いた応用に支障が出る。例えば、ドラッグデリバリーや抗体標識といった用途がそうである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−76975号公報
【特許文献2】特開2004−43892号公報
【特許文献3】特開2007−63580号公報
【特許文献4】国際公開第2004/007636号パンフレット
【特許文献5】特開2004−43892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ナノメートルサイズの粒子径を有し、粒子径分布が小さく、かつ、水分散性に優れる水分散性金属ナノ粒子を提供することを目的とする。特に、粒子径が10ナノメートル以下のシングルナノサイズの水分散性金属ナノ粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、粒子径2〜50nmの金属ナノ粒子の表面に、極性官能基を有する親水性表面修飾剤が結合した構造を有する水分散性金属ナノ粒子である。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明の水分散性金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子の金属表面に親水性表面修飾剤が結合した構造を有する。図1に、本発明の水分散性金属ナノ粒子の一例を表す模式図を示した。
【0014】
上記金属は、例えば、Ag、Pd、Ni、Cu、これらの合金等が挙げられる。これらの金属は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、2種以上の金属を併用する場合には、異なる金属が多層に積層されていてもよい。
【0015】
上記金属ナノ粒子の粒子径の下限は2nm、上限は50nmである。
上記金属ナノ粒子の粒子径が2nm未満であると、金属原子数が極端に少なくなり、金属性を失ってしまう。上記金属ナノ粒子の粒子径の好ましい下限は4nmである。
上記金金属ナノ粒子の粒子径が50nmを超えると、比重が重くなるために、重力の影響下では沈降しやすくなる。上記金属ナノ粒子の粒子径の好ましい上限は20nmである。
【0016】
上記金属ナノ粒子の形状は特に限定されず、例えば、球状、棒状、板状、薄膜上、繊維状、立方体、放射状体、チューブ状、トーラス状等が挙げられる。なかでも球状が好適である。
【0017】
上記金属ナノ粒子は、コア微粒子の表面に金属層が形成されたコアシェル型金属ナノ粒子であってもよい。
上記コア微粒子としては、例えば、樹脂からなる樹脂微粒子、SiO、TiO等の金属酸化物からなる金属酸化物粒子、ガラス微粒子、セラミック微粒子、ダイヤモンド等の炭素材料からなる炭素微粒子等が挙げられる。
【0018】
一般に、粒子径分布が小さい金属ナノ粒子は、従来公知のコロイド化学的な方法、例えば、逆ミセル法により製造することができる。ただし、従来公知の方法により製造した金属ナノ粒子は、表面が疎水性の親油性金属ナノ粒子となっている。
本発明の水分散性金属ナノ粒子は、前記親油性金属ナノ粒子の表面の疎水性修飾剤を後述する方法によって親水性表面修飾剤に置換することによって得られる。
【0019】
上記親水性表面修飾剤は、上記金属ナノ粒子の金属表面に結合され、本発明の水分散性金属ナノ粒子に優れた水分散性を付与する役割を有する。上記金属表面に結合した親水性表面修飾剤の極性官能基のために、本発明の水分散性金属ナノ粒子の表面と液相(水相)との間に電荷分離が起こり、電気二重層が形成され電位差が生じる。このため、水分散性金属ナノ粒子に静電的な反発が働き、互いに凝集することなく、水相中に安定して分散する。
【0020】
上記親水性表面修飾剤は、水分散性を付与するための極性官能基と、上記金属ナノ粒子の金属表面に結合するための金属と結合を形成可能な官能基(本発明の水分散性金属ナノ粒子においては、上記金属ナノ粒子の金属表面に結合して結合部を形成する)とを有する。上記親水性表面修飾剤は、上記金属と結合を形成可能な官能基を2以上有していてもよく、また、上記極性官能基を2以上有していてもよい。
【0021】
本明細書において極性官能基とは、分子内で電荷分布に偏りがあり、水やエタノールといった極性溶媒と相互作用して、よく溶媒和する官能基を意味する。
上記極性官能基は、例えば、カルボキシル基又はその塩、水酸基、アミノ基、シアノ基、スルホン基、アミド基、イミド基又はその塩、硫酸エステル基又はその塩等、またこれらの官能基を含む糖、ペプチド等が挙げられる。具体的には、例えば、−NR、−NR’R、−NHR、−NH等のアミノ基や、−CR”R’R、−CR’R、−CR、−CHR、−CHR’R、−CHR、−CH、−SR、−SHが挙げられる。なお、上記R”、R’、Rは側鎖を示す。
【0022】
上記極性官能基は、なかでも、弱酸性条件下及び/又は塩基性条件下でイオン化する極性官能基が好適であり、弱酸性条件下及び塩基性条件下でイオン化する極性官能基がより好適である。弱酸性と塩基性とのいずれの条件下でもイオン化する極性官能基を有することにより、得られる本発明の水分散性金属ナノ粒子は、弱酸性と塩基性とのいずれの条件下でも安定して分散することができる。
このような極性官能基は、例えば、カルボキシル基又はその塩、水酸基、アミノ基、シアノ基、スルホン基、アミド基、イミド基又はその塩、硫酸エステル基又はその塩等、これらの官能基を含む糖、ペプチド等が挙げられる。
【0023】
本明細書において金属と結合を形成可能な官能基とは、金属に対して直接に配位結合、水素結合、イオン結合、共有結合等可能な官能基を意味する。
本明細書において金属と結合を形成可能な官能基は、特に限定されないが、なかでも金属と配位結合または共有結合を形成可能な官能基が好適である。
【0024】
例えば、チオール基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。なかでもチオール基が好適である。上記チオール基は、含有されるS原子が金属に配位することができる。また、上記共有結合可能な反応性官能基は、触媒の存在下において上記金属の表面に存在する水素基とヒドロシリル化反応を行うことにより、金属に配位することができる。上記共有結合可能な反応性官能基は、例えば、炭素−炭素二重結合(C=C)、アジ基(−N)等が挙げられる。
【0025】
上記チオール基を有する親水性表面修飾剤は、例えば、2−メルカプトエタノール、4−メルカプト−1−ブタノール、3−メルカプト−2−ブタノール、1−メルカプト−2−プロパノール、3−メルカプト−1−プロパノール、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸(mercaptosuccinic acid)、チオグリコール酸、カプトプリル、1−チオグリコール、チオ乳酸、2−メルカプトエタンスルホン酸、3−メルカプトイソブチル酸、3−メルカプト安息香酸、2−メルカプトベンゾイルアルコール、2−メルカプトニコチン酸、6−メルカプトニコチン酸、2−メルカプトフェノール、3−メルカプトフェノール、4−メルカプトフェノール、チオリンゴ酸、2−アミノエタンチオール等が挙げられる。なお、カプトプリルの構造式を下記に示した。
【0026】
【化1】

【0027】
上記共有結合可能な反応性官能基を有する親水性表面修飾剤は、例えば、下記一般式(1)で表される末端に炭素−炭素二重結合を有する官能基を有する化合物が挙げられる。
C=CH−(CH2)n−1−X (1)
式(1)中、Xは、親水部を示し、nは、正の整数を示す。
【0028】
上記親水性表面修飾剤は、重量平均分子量が300以下であることが好ましい。なかでも10原子以上の炭素−炭素の連続結合を含有しない化合物であることが好ましい。
【0029】
上記親水性表面修飾剤は、前記結合部と極性官能基とを結ぶリンク部を構成する原子リンク数が10以下であることが好ましい。ここで、原子リンク数とは、最も短いパスに含まれる原子の数としている。前記結合部と極性官能基とを結ぶリンク部構成する原子リンク数が10より大きくなると、疎水性ドメインが無視できなくなり、分散安定性に影響する。原子リンク数が10以下の結合部と親水部としては、例えば、直鎖状、分岐状又は環状構造が挙げられる。
【0030】
上記親水性表面修飾剤は、上記金属と結合を形成可能な官能基を介して上記金属ナノ粒子の表面に結合している。上記親水性表面修飾剤は、上記金属ナノ粒子の表面の一部又は全部を取り囲むようにして結合していることが好ましい。
上記親水性表面修飾剤による上記金属ナノ粒子の被覆率としては、少なくとも本発明の水分散性金属ナノ粒子が水相中で安定して分散可能である程度であれば特に限定されないが、被覆率は50パーセント以上であることが望ましい。被覆率が高まることによりより分散安定性が向上する。修飾の度合いによっては、凝集状態を制御し、所望の大きさの2次粒子を形成させる効果を発揮することもある。
【0031】
本発明の水分散性金属ナノ粒子は、本発明の目的を損なわない範囲であれば、金属表面の一部が化学的又は物理的に修飾されたものであってもよく、また、界面活性剤、分散安定剤又は酸化防止剤等の添加剤を加えたものであってもよい。
【0032】
本発明の水分散性金属ナノ粒子の製造方法は、例えば、従来公知のコロイド化学的な方法、例えば、逆ミセル法により製造した表面が疎水性の金属ナノ粒子を原料として、以下の2つの方法により水分散性を付与する方法等が挙げられる。
第1の方法は、表面が疎水性の金属ナノ粒子を、トルエンやテトラヒドロフラン(THF)等の有機溶媒に溶解した後、該溶液を85℃に加温し、そこにエタノールに溶解させた上記親水性表面修飾剤を滴下させながら12時間程度還流させる方法である(以下、「還流法」と呼ぶ。)。上記還流法は、上記金属と結合を形成可能な官能基と金属との親和力の違いを利用して、還流により金属表面に結合した分子の置換を進める方法である。
第2の方法は、表面が疎水性の金属微粒子の分散液と、上記親水性表面修飾剤を少量の両親媒性溶媒に溶解させた溶液とをピンチコックされたキャピラリー流路に通液する方法である(以下、「流通法」ともいう。)。上記流通法は、ピンチコックされたキャピラリー流路通過時にかかる高せん断力を利用して金属表面に結合した分子を常温のまま引き剥がし、露出した金属表面に上記親水性表面修飾剤を結合させて、表面結合分子の置換を進める方法である。上記流通法において、上記ピンチコックされたキャピラリー流路の最も狭い部分の幅が50nm未満であって、分散液が通過する際のマイクロ流路内の圧力を10MPa以上とすることが好ましい。また、上記ピンチコックされたキャピラリー流路は、圧力に応答して流路幅を0mmを超えて50nm未満の範囲で自動的に調整する機構を有することが好ましい。
【0033】
本発明の水分散性金属ナノ粒子の表面に分子認識物質が更に結合している分子認識水分散性金属ナノ粒子もまた、本発明の1つである。
上記分子認識物質は、標的物質に特異的に反応するものであれば特に限定されず、例えば、抗原、抗体等のタンパク質や、DNA、RNA、ペプチド核酸、糖鎖、レクチン、シクロデキストリン、クラウンエーテル等が挙げられる。
【0034】
上記分子認識物質が抗体である場合、該抗体はモノクローナル抗体であることが好ましい。抗原分子は、多価抗原である場合であっても、特定のエピトープに限れば多価であるとは限らない。モノクローラル抗体は、抗原分子上の特定のエピトープのみと反応する。従って、分子認識物質としてモノクローナル抗体を用いた場合には、測定対象となる抗原分子は、特定のモノクローナル抗体に対応するエピトープに関する限り、一価抗原となる可能性が高くなる。測定対象となる抗原分子が一価抗原であると、一時に競合する結合反応は全て同じ結合定数の同じモノクローナル抗体であるから、ポリクローナル抗体を用いたときに起こる結合定数が大きく異なる抗体による優先的な結合による定量性を阻害する効果が起こらない。上記モノクローナル抗体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。モノクローナル抗体に換えて、モノクローナル抗体の分子認識部位を含む部分を切り出したFvやFabであってもよい。
【0035】
本発明の水分散性金属ナノ粒子には、通常、4つまでの抗体を固定することができる。上記分子認識物質としてエピトープが異なる2種以上のモノクローナル抗体を併用した本発明の分子認識水分散性金属ナノ粒子を標的物質が分散している溶液に加えると、多数の標的物質と多数の分子認識水分散性金属ナノ粒子とが凝集した懸濁液が得られる。得られた懸濁液は、物理的な篩効果がある不織布等で短時間で濾し取ることができる。。濾取した凝集体を洗浄、溶出、イオン定量すれば、被検溶液中の標的物質濃度を知ることができる。
【0036】
上記分子認識物質がDNA、RNA等のオリゴヌクレオチド鎖である場合、該オリゴヌクレオチド鎖の長さは100〜5,000merであることが好ましく、100〜1,000merであることがより好ましく、100〜500merであることが更に好ましい。上記オリゴヌクレオチド鎖の長さが上記範囲を満たす場合には、本発明の水分散性金属ナノ粒子との複合化が容易となり、得られる分子認識水分散性金属ナノ粒子を安定化させるとともに、検出感度の向上や検出時間の短縮を図り得る。
【0037】
上記分子認識物質がオリゴペプチド核酸鎖である場合、10〜100アミノ酸残基のオリゴペプチド鎖に、100〜5,000merのオリゴヌクレオチド鎖が連結したものが好ましく、100〜1,000merのオリゴヌクレオチド鎖が連結したものがより好ましく、100〜500merのオリゴヌクレオチド鎖が連結したものが更に好ましい。上記オリゴペプチド核酸鎖の長さが上記範囲を満たす場合、本発明の水分散性表面金属微粒子との複合化が容易となり、得られる分子認識水分散性金属ナノ粒子を安定化させるとともに、検出感度の向上や検出時間の短縮を図り得る。
【0038】
上記分子認識物質を本発明の水分散性金属ナノ粒子に結合する方法は特に限定されず、例えば、物理的吸着法や化学的結合法等が挙げられる。
上記分子認識物質がタンパク質である場合には、本発明の水分散性金属ナノ粒子をアミノシラン誘導体等で処理することにより、直接又は縮合試薬により、タンパク質のアミノ基と本発明の水分散性金属ナノ粒子とを結合することができる。
上記分子認識物質がDNAである場合には、本発明の水分散性金属ナノ粒子を、ポリL−リシンでコートすることにより静電気的に結合可能である。
上記分子認識物質がオリゴヌクレオチドである場合には、予めアルキルアミノアシランでコートした本発明の水分散性金属ナノ粒子を、光感受性保護基を有するリンカーで保護し、光照射による脱保護、合成の繰り返しによりオリゴヌクレオチド鎖を合成する方法が挙げられる。
【0039】
ビオチンとアビジンとを介して上記分子認識物質を本発明の水分散性金属ナノ粒子に結合する方法も好適である。
上記ビオチンとアビジンとを介して上記分子認識物質を本発明の水分散性金属ナノ粒子に結合する方法は、例えば、分子認識物質とビオチンを結合しておき、一方で、アビジンを結合した本発明の水分散性金属ナノ粒子を用意しておき、両者を混合してビオチン−アビジン結合を生じさせる方法が挙げられる。別法として、アビジン結合分子認識物質とビオチン結合水分散性金属ナノ粒子を混合する方法や、分子認識物質と水分散性金属ナノ粒子をともにビオチン化しておき、アビジンを介して両者を結合する方法等のバリエーションも可能である。
【0040】
特に分子認識物質が抗体グロブリンである場合、分子認識物質とビオチンの結合は容易である。ビオチンは、抗体タンパク質中のシステイン基に攻撃し結合する。また、分子認識物質がペプチドである場合、ペプチドのN末端にシステイン基としておくことで、ペプチドN末端にビオチンを結合させることができる。
【0041】
上記分子認識物質がモノクローナル抗体である場合は、該モノクローナル抗体がプロテインA、プロテインG及びプロテインLからなる群より選択される少なくとも1種のアダプターを介して本発明の水分散性金属ナノ粒子に結合していることが好適である。
上記プロテインA、プロテインG、プロテインLは、抗体グロブリンのFc部分に特異的に容易に結合するため、目的物質と抗体グロブリンの複合体に対して水分散性金属ナノ粒子を結合させることができる。
本発明の水分散性金属ナノ粒子と上記アダプターとを結合には、スクシンイミド基とチオール基を持つカップリング剤を用いることができる。また、アダプターをアビジン修飾し、ビオチン化した親水性金属ナノ粒子を混合して結合を行ってもよい。
【0042】
本発明の分子認識水分散性金属ナノ粒子は、本発明の水分散性金属ナノ粒子からなることにより分散安定性に極めて優れる。このため、タンパク質の検出や、免疫スクリーニング、ハイブリッド形成によるDNA、RNAの検出等のin vitro検出法に用いると、凝集が起こりにくく、長時間安定した試験を行うことができる。また、生体内での分散安定性に優れることから、生体内における標的物質を高感度に測定することができ、薬物や生体成分の追尾、薬物の作用機構の解析等のin vivo試験にも応用することができる。
【0043】
本発明の分子認識水分散性金属ナノ粒子は、生体関連物質、環境関連物質等の標的物質の高感度測定法の分子認識試薬として好適に用いることができる。例えば、標的物質と本発明の分子認識水分散性金属ナノ粒子との複合体を形成した後、必要に応じてB/F分離を行ない、次いで、分子認識水分散性金属ナノ粒子の金属を酸等で溶出させることでイオン化し、該イオンを定量することにより極めて高精度の分析を行うことができる。
【0044】
従来の金属ナノ粒子のように表面が疎水性の金属ナノ粒子では、水分散させるために界面活性剤が必要で、分子認識部の標的となるタンパク質、ウイルス、核酸等の生体関連物質との反応性が低下するという問題があったが、本発明の分子認識水分散性金属ナノ粒子を用いれば、表面が親水性であることから、このような反応性の低下が起こらない。また、表面が分子被覆によって安定化されていない金属ナノ粒子では、調製後の分散液で時間とともに凝集が進んでしまうことから、凝集が起こる前に測定を終了しなくてはならないという問題があったが、本発明の分子認識水分散性金属ナノ粒子では、上記極性官能基の有するイオンの電荷同士の反発により粒子の凝集を防ぐため、高い分散安定性を有し、調製液の長期の保存が可能になる。
【0045】
本発明の分子認識水分散性金属ナノ粒子と、該分子認識水分散性金属ナノ粒子に含まれる金属を金属イオンに変換する溶離液とを含む試薬キットもまた、本発明の1つである。
上記溶離液により、標的物質と分子認識水分散性金属ナノ粒子との複合体から金属イオンを溶離させることができる。金属微粒子ひとつには、数百〜数千の金属原子が含まれるから、凝集濾過法又は固相アッセイ法を行なうことにより、大量の複合体を集める効果と、金属のイオン化による計数可能なシグナル数の増大効果とにより、標的物質に対して高感度な定量を行なうことができる。
【0046】
上記溶離液は、例えば、0.1N硝酸、0.1N塩酸が挙げられる。
【0047】
本発明の試薬キットは、更に、分子認識物質が結合した粒子径1μm〜50μmのラテックス粒子を更に含んでもよい。
本発明の分子認識水分散性金属ナノ粒子よりも大きいラテックス粒子を併用し、標的物質が該ラテックス粒子を介して凝集した複合体を形成するようにすれば、ラテックス微粒子を選別しうる濾過等の容易な手段で標的物質の数に対応する分子認識水分散性金属ナノ粒子を容易に選別、濃縮することができる。このような状態で、遊離の分子認識水分散性金属ナノ粒子を洗い流すことは容易であり、S/Nを悪化させずに大きなシグナル増幅効果を得ることができる。
【0048】
例えば、標的物質が2種のエピトープを有する抗原分子である場合、一方のエピトープに特異的に結合するモノクローナル抗体を分子認識水分散性金属ナノ粒子が有し、かつ、他方のエピトープに特異的に結合するモノクローナル抗体をラテックス粒子が有するようにすれば、凝集性試薬を含む試薬キットとすることができる。
【0049】
なお、上記ラテックス粒子は、慣用的にラテックス粒子と呼ばれているものであれはよく、化学物質としては、必ずしもラテックスである必要はなく、ポリスチレンやポリメタクリル酸メチルであってもよい。
【0050】
本発明の分子認識水分散性金属ナノ粒子及び試薬キットは、分子認識物質を選択することにより種々の生体関連物質、環境関連物質等を標的物質とすることができる。
本発明の分子認識試薬による測定対象となる標的物質としては、抗体又はレセプターを作製できるものであれば特に限定されず、例えば、抗原、抗体や異常型プリオン等のタンパク質、ダイオキシン類等の内分泌撹乱物質、エイズウイルス等のウイルス、菌体、膜貫通タンパク質、ペプチド、核酸(DNAやRNA)、ステロイド、サイトカイン、金属イオン等が挙げられる。
【0051】
被験試料中の標的物質の濃度は、限定されない。本発明の分子認識水分散性金属ナノ粒子及び試薬キットを用いる方法によれば、例えば、被験試料1μLあたり標的物質がngオーダー以下の濃度であっても、特定の標的物質を明確に識別検出することができ、またpgオーダー以下であってもよいし、更にfgオーダー以下であってもよい。
【0052】
本発明の分子認識水分散性金属ナノ粒子及び試薬キットを用いた分析方法では、標的物質と分子認識水分散性金属ナノ粒子とが複合体を形成する過程と、発生させた金属イオンを定量する過程とが分離されているため、標的物質と分子認識水分散性金属ナノ粒子とが複合体を形成する過程を凝集濾過法や固相表面固定法で行なうことにより、標的物質濃度に比例する上記複合体の濃縮を行なうことができる。前記複合体ひとつあたりには少なくとも金属微粒子ひとつを含む。金属微粒子ひとつには、数百〜数千の金属原子が含まれるから、前記複合体から溶出する金属イオンを定量すれば、測定の見かけ感度を100倍〜数万倍向上させることができる。
【0053】
上記固相表面固定法に用いられる固相としては、抗原等の標的物質を固定することができ、当該標的物質に、抗体等の結合物質(溶液)を接触させることができるものであればよく、限定はされない。このような固相としては、通常、不溶性の材質及び形状等のものが用いられる。例えば、抗原抗体反応によるアッセイ系に用い得る固相が好ましく、具体的には、マルチプラスチックウェルプレート、プラスチックビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、プラスチックチューブ、ナイロン膜、ニトロセルロース膜などが挙げられる。標的物質または分子認識物質を前記固相に固定する場合は、常法に従い、ブロッキングを行うことが好ましい。なお、固相に固定する分子認識物質は、水分散性金属微粒子に結合している分子認識物質とは標的物質に対して認識するエピトープが異なるものを用いる。
【0054】
検知機構は、複数の金属もしくは金属イオンの検知が可能な機知の検出方法が使用できる。たとえば、アノーディック ストリッピング ボルタンメトリー(ASV)に代表される電気化学的検出機構やICP、質量分析装置(MS)等を援用することができる。ASVでは、アノード上に電気化学的に金属イオンを還元して金属を析出させ、次いで電位を掃引しつつ微小電流を測定することで、シグナルのピーク面積を測定し、もとの標的物質の濃度に換算することができる。これらの方法を援用することで、複数の標的タンパク質もしくは標的ペプチド、標的DNAの精密で再現性に優れる同時定量が可能になる。
【0055】
本発明の試薬キットの1種として、メンブランと電気化学的電極とを備えたカートリッジ式分析キットも考えられる。
【0056】
また、金属種が異なる2種の分子認識水分散性金属ナノ粒子を併用することにより、複数標的物質の同時測定が可能となる。
更に、本発明の分子認識水分散性金属ナノ粒子は、プラズモンカップリング吸収、構造色等に基づく特有の発色を有すことから、分析プロセスの進行状況を容易に把握できるという利点もある。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、ナノサイズの粒子径を有し、粒子径分布が小さく、かつ、水分散性に優れる水分散性金属ナノ粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の水分散性金属ナノ粒子の一例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
(1)銀ナノ粒子の調製
エタノール(7ml)にコール酸(818mg、2mmol)、炭酸銀(276mg、1mmol)、エタノールアミン(122mg、2mmol)及びオクチルアミン(259mg、2mmol)を加え、撹拌しながら1時間加熱還流したところ、赤茶色溶液が得られた。室温まで放冷し、アセトン(10ml)を添加し、静置した後、桐山ロートで濾過し、減圧下で乾燥させ、赤茶色の銀ナノ粒子を得た。
【0061】
得られた銀ナノ粒子は、ヘキサンに安定に分散した。即ち、銀ナノ粒子は、疎水表面を有することを確認した(以下、「疎水表面銀ナノ粒子」ともいう。)。
また、TEM写真観察より、得られた銀ナノ粒子の形状及び平均粒子径を測定したところ、球状で平均粒子径が4.7±2.0nmであった。
【0062】
(2−1)還流法による水分散性の付与
得られた疎水表面銀ナノ粒子のヘキサン溶液を、金属含有率が20mg/mLになるように分取し、メタノールを加えて沈殿させた後、遠心分離後上清を取り除いた。この沈殿に溶媒としてテトラヒドロキシフラン(THF)を加えて金属含有率が20mg/mLになるように疎水表面銀ナノ粒子のTHF分散液を調製した。
得られた疎水表面銀ナノ粒子のTHF分散液は800μLを85℃に加温還流し、親水性表面修飾剤として25mgのカプトリル、チオリンゴ酸又は2−アミノエタンチオールを200μLのエタノールに溶解したものを一晩かけて添加した。
【0063】
還流後、250mMのNaOH(pH13)を3mLを加え、更に90℃で2時間加温した。HCLを滴下してpHを10〜11にまで調整した後、限外濾過膜とセファデックスカラムを用いて精製を行った。
精製後の銀ナノ粒子は、いずれの親水性表面修飾剤を使用したものも水に安定に分散した。即ち、銀ナノ粒子には水分散性が付与された(以下、「水分散性銀ナノ粒子」ともいう。)。
また、得られた水分散性銀ナノ粒子をクロロホルム洗浄した後の粒子径分布を、動的光散乱法による粒子径測定装置(Malvern社製、「ZETASIZER Nano Series Nano−ZS」)を用いて測定した。その結果、得られた水分散性銀ナノ粒子の粒子径(ピーク値)は、カプトリルを用いたものが11.7nm、チオリンゴ酸を用いたものが3.62nm、2−アミノエタンチオールを用いたものが32.7nmであった。
【0064】
(2−2)流通法による水分散性の付与
得られた疎水表面銀ナノ粒子のヘキサン溶液を、金属含有率が20mg/mLになるように分取し、メタノールを加えて沈殿させた後、遠心分離後上清を取り除いた。この沈殿に溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を加えて金属含有率が20mg/mLになるように疎水表面銀ナノ粒子のTHF分散液を調製した。
得られた疎水表面銀ナノ粒子のTHF分散液800μLと、、親水性表面修飾剤として25mgのカプトリルを200μLのエタノールに溶解したもとを混合し、更に100mMのNaOHを1mLを加えてpH10に調整し、キャピラリー流路を介して圧力35MPaでスリットレギュレーターに流通させた。通液後の分散液をクロロホルム洗浄した後の粒子径分布を、動的光散乱法による粒子径測定装置(Malvern社製、「ZETASIZER Nano Series Nano−ZS」)を用いて測定した。その結果、ピーク粒子径は15.7nm、CVは2.7%であった。
流通後の溶液を、限外濾過膜とセファデックスカラムを用いて精製を行った。
精製後の銀ナノ粒子は、いずれの親水性表面修飾剤を使用したものも水に安定に分散した。即ち、銀ナノ粒子には水分散性が付与された(以下、「水分散性銀ナノ粒子」ともいう。)。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、ナノメートルサイズの粒子径を有し、粒子径分布が小さく、かつ、水分散性に優れる水分散性金属ナノ粒子を提供することができる。特に、本発明で得られるシングルナノメートルサイズの水分散性金属ナノ粒子は、電気化学標識、ドラッグデリバリー担体として有用に用いられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径2〜100nmの金属ナノ粒子の表面に、極性官能基を有する親水性表面修飾剤が結合した構造を有することを特徴とする水分散性金属ナノ粒子。
【請求項2】
親水性表面修飾剤は、重量平均分子量が300以下であることを特徴とする請求項1記載の水分散性金属ナノ粒子。




【図1】
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【公開番号】特開2010−229440(P2010−229440A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75525(P2009−75525)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(502165942)
【Fターム(参考)】