説明

水分解用光触媒固定化物、並びに、水素及び/又は酸素の製造方法

【課題】光触媒の光水分解性能を低下させることなく、かつ、簡便で効率的に利用が可能な光触媒固定化物、及び、当該光触媒固定化物を用いた水素及び/又は酸素の製造方法を提供する。
【解決手段】基材上に光触媒層を有する水分解用光触媒固定化物であって、光触媒層が、Ga、Zn、Ti、La、Ta及びBaからなる群より選ばれる1つ以上の原子を含む窒化物又は酸窒化物である可視光応答型光半導体と、可視光応答型光半導体に担持された助触媒と、シリカ、アルミナ、及び酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性無機材料とを含むことを特徴とする水分解用光触媒固定化物とし、当該水分解用光触媒固定化物を水中に配置し、光触媒固定化物に光を照射することによって水を分解する、水素及び/又は酸素の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の可視光応答型光半導体と親水性無機材料とを含む光触媒層を備えた水分解用光触媒固定化物、及び、当該水分解用光触媒固定化物を用いた水素及び/又は酸素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギーなどの再生可能エネルギーを利用した高性能な光エネルギー変換システムを実用化することは、地球温暖化の抑制、及び枯渇しつつある化石資源依存からの脱却を目指す観点から、近年になって急激にその重要性が増している。中でも、太陽エネルギーを用いて水を分解し水素を製造する技術は、現行の石油精製、アンモニア、メタノールの原料供給技術としてのみならず、燃料電池をベースとした来たる水素エネルギー社会において、必須とされる技術である。
【0003】
光触媒による水分解反応は、1970年代から広く研究されている(非特許文献1等)。太陽光はそのエネルギーの大部分が可視光領域にあるため、太陽光で効率的に水分解を行うためには、そのエネルギーの大部分が可視光領域の光を利用できることが好ましい。当初の光触媒は太陽光中に4%程度しか含まれない波長領域が紫外領域(380nm以下)の光しか利用できないものであったが、2000年以降になり、可視光領域の光を利用して、水を完全分解することができ、かつ水中で安定である光触媒が提案されるようになってきている。さらに、光触媒に助触媒を担持させることにより、変換効率を向上させる技術等も提案されている。
【0004】
例えば、助触媒としてRh2−XCrを担持したGaN:ZnOは、400nm付近での水分解反応の量子収率が5%程度であり、太陽光を利用した水素製造用の光触媒として注目されている(非特許文献2、3等)。
【0005】
ここで、ラボスケールにおける光触媒による水分解実験では、光を照射した反応器中で、光触媒粒子を含んだ分散液を攪拌して反応させる。攪拌しないで水分解反応を行うと、反応効率が低下することが知られている(非特許文献4)。通常、光は上面から照射されるため、攪拌によって十分に懸濁した系では、主に水面近傍の光触媒が光を吸収して水を分解するので、生成した水素と酸素とが気相中に放出され易いのに対し、光触媒が水中で沈んでしまうと、水面までの距離が長くなり、生成した水素と酸素とが触媒表面から気相中へ拡散できずに逆反応によって水に戻ってしまうことが原因と考えられている。また、光触媒の濡れ性が低い場合、生成ガスが光触媒表面に気泡として吸着し易く、これも生成ガスの気相中への拡散を阻害し、逆反応を生じさせる原因となってしまう。
【0006】
しかしながら、光触媒を用いて化学品の原料やエネルギー源としての水素を製造する場合、例えば光触媒の太陽光変換効率(η)を10%とすると、年間20万トンの水素を製造するには、年間日射量の大きい赤道付近であっても25km以上の光触媒及び反応器面積が必要となる。このような大規模な反応器において攪拌操作を行うことは、装置面でも、水素製造コストの観点からも現実的ではない。
【0007】
また、光触媒は、粉末のままで反応器内部に均一に保持することは困難であることから、光触媒はあらかじめ板やシート状のものに固定化しておくことが好ましい。さらに、光触媒の交換・回収作業を行うことを想定した場合にも、或いは、製造の効率化の観点からも、光触媒をあらかじめ固定化しておいたほうが作業が簡便となり好ましいといえる。例えば、特許文献1には、酸化チタンに助触媒として酸化イリジウムを担持した光触媒を、バインダーとしてSiOを使用して基板上に固定する技術が提案されている。
【0008】
しかし、本発明者らが検討したところ、光触媒を固定化して水分解を実施した場合、分解効率が著しく低下する場合があることを知見した。特許文献1においても、光触媒とバインダーを混合して使用した場合、バインダーを使用しない場合に比較して酸素発生速度が減少することが示されている(特許文献1の図3、試料Aと試料Cとの比較)。
【0009】
したがって、光触媒による水分解を産業的に、しかも大規模に実施するためには、光触媒を攪拌することなく、かつ、光触媒が有する光水分解性能を十分に発揮し得る固定化技術が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−219073号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Chem.Soc.Rev., 2009, 38, p.253-278
【非特許文献2】Nature 2006, 440 (7082), p.295
【非特許文献3】Chem. Mater. 2010, 22(3), p.612-623
【非特許文献4】水分解光触媒技術の最新動向 シーエムシー出版 2003、p.61〜68
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、光触媒の光水分解性能を低下させることなく、かつ、簡便で効率的に利用が可能な光触媒固定化物、及び、当該光触媒固定化物を用いた水素及び/又は酸素の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討したところ、助触媒を担持した可視光応答型の光触媒と親水性無機材料粒子とを混合するように基板上に塗布し、光触媒層として基板上に固定化することにより、良好な光水分解性能を有する光触媒固定化物を得ることができることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
親水性無機材料粒子が存在しない場合、親水性の低い可視光応答型光触媒粒子により光触媒層を形成することとなるため、光触媒粒子間に水が浸入し難くなる。結果として、光触媒層の最上面近傍の光触媒しか光水分解反応に利用できない。しかし、親水性無機材料粒子を共存させることによって、光触媒層内に水が浸入し易くなり、光触媒層の最上面近傍だけでなく、光触媒層の内部においても光水分解反応を生じさせることができ、また、親水性表面によって生成ガスが光触媒層に付着し難くなる結果、生成ガスの気相中への拡散が促進されるため、単位面積、単位光触媒量あたりの反応効率が向上したものと推定される。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は次の(1)〜(5)に存する。
(1) 基材上に光触媒層を有する水分解用光触媒固定化物であって、光触媒層が、Ga、Zn、Ti、La、Ta及びBaからなる群より選ばれる1つ以上の原子を含む窒化物又は酸窒化物である可視光応答型光半導体と、可視光応答型光半導体に担持された助触媒と、シリカ、アルミナ、及び酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性無機材料とを含むことを特徴とする水分解用光触媒固定化物。
(2) 可視光応答型光半導体が、GaN:ZnO、LaTiON及びBaTaON:Mgからなる群より選ばれる1種以上である、(1)に記載の水分解用光触媒固定化物。
(3) 助触媒が、Pt、Pt−Ru、Ru−Ir、Rh−Cr複合酸化物、Ru酸化物、Ir酸化物、Co酸化物、Mn酸化物からなる群より選ばれる1種以上である、(1)又は(2)に記載の水分解用光触媒固定化物。
(4) 親水性無機材料がシリカである、(1)〜(3)のいずれかに記載の水分解用光触媒固定化物。
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の水分解用光触媒固定化物を水中に配置し、当該光触媒固定化物に光を照射することによって水を分解する、水素及び/又は酸素の製造方法。
【0016】
本願において、「X:M」は、光半導体XにMをドープ或いは固溶させたものを意味する。例えば、「GaN:ZnO」とは、光半導体であるGaN中にZnOを固溶させたものであり、「BaTaON:Mg」とは、光半導体であるBaTaONにMgをドープしたものである。
【0017】
また、本願において、「X:M1/M2」は、光半導体XにM1とM2とを共ドープしたものを意味する。例えば、TiO:Ni/Taは、光半導体であるTiO2にNiとTaとを共ドープしたものである。
【0018】
また、本願において、「M1−M2」は金属M1微粒子と金属M2微粒子とが互いに隣接して存在し、互いに金属間相互作用を持つものを意味する。例えばRu−Ir/BaTaON:Mgは、MgをドープしたBaTaON光触媒に、助触媒としてRu、Ir の2種の金属を互いに隣接して存在するように担持したものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、光触媒層中に可視光応答型の光触媒とともに親水性無機材料を共存させることによって、水分解反応時に、光触媒層の表面近傍だけでなく内部にまで水を浸入させることができるとともに、親水性表面によって生成ガスが光触媒層に付着し難くなる結果、生成ガスの気相中への拡散が促進される。また、反応器内での攪拌が不要であり簡便に水分解反応を行うことができる。すなわち、本発明によれば、光触媒の光水分解性能を低下させることなく、かつ、簡便で効率的に利用が可能な水分解用光触媒固定化物、及び、当該光触媒固定化物を用いた水素及び/又は酸素の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施形態に係る本発明の光触媒固定化物を概略的に示す図である。
【図2】光触媒の構成について説明するための図である。
【図3】実施例にて用いた光触媒固定化物の評価装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.水分解用光触媒固定化物
本発明に係る水分解用光触媒固定化物は、基材上に光触媒層を有する光触媒固定化物であって、光触媒層が、Ga、Zn、Ti、La、Ta及びBaからなる群より選ばれる1つ以上の原子を含む窒化物又は酸窒化物である可視光応答型光半導体と、可視光応答型光半導体に担持された助触媒と、シリカ、アルミナ、及び酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性無機材料とを含むことに特徴を有する。
【0022】
図1に、一実施形態に係る本発明の水分解用光触媒固定化物100を概略的に示す。図1に示すように、光触媒固定化物100は、光触媒1と親水性無機材料2とが混合されてなる光触媒層10が基材20の表面に設けられている。ここで、光触媒1は、例えば図2に示すように、可視光応答型光半導体1aに助触媒1b、1bが担持されてなるものである。以下、構成要件毎に説明する。
【0023】
1.1.光触媒層10
光触媒層10には(1)可視光応答型光半導体1a、(2)当該可視光応答型光半導体1aに担持された助触媒1b、及び(3)親水性無機材料2が含まれており、助触媒1bが担持された可視光応答型光半導体1aが光触媒1として機能する。
【0024】
(1)可視光応答型光半導体1a
本発明において用いられる可視光応答型光半導体1aは、可視光領域の波長を吸収し、周囲の水を分解する性能を有する光半導体をいう。具体的には、380nm〜1000nmの光、好ましくは420nm〜800nmの光を吸収し、かつ、その価電子帯上端が酸性溶液中におけるO/HOの酸化還元電位よりも低い可視光応答型光半導体、又は、400nm〜1000nmの光、好ましくは420nm〜800nmの光を吸収し、かつ、伝導体下端が酸性溶液中におけるH/Hの酸化還元電位よりも高い可視光応答型光半導体が好ましい。
【0025】
可視光応答型光半導体1aとしては、窒化物、酸窒化物、複合酸化物等が挙げられる。
【0026】
例えば、Ga、Zn、Ti、La、Ta、及びBaからなる群より選ばれる1つ以上の原子を含む窒化物又は酸窒化物を、本発明における可視光応答型光半導体1aとして用いることができる。具体的には、LaTiON、Ca0.25La0.75TiO2.250.75、TaON、CaNbON、CaTaON、SrTaON、BaTaON、LaTaON、YTa、(Ga1−xZn)(N1−x)、(Zn1+xGe)(N)(xは、0−1の数値を表す)、TiNなどの酸窒化物、Ta、GaN:Mgなどの窒化物を含むが、ここに例示した材料に限定されるものではない。特に、光水分解能に一層優れたものとする観点から、GaN:ZnO、LaTiON、TaON、Ta又はBaTaONが好ましい。これら光半導体は2種以上の混合物であってもよい。
【0027】
或いは、BiWO、BiYWO、In(ZnO)、InTaO、InTaO:Ni、TiO:Ni、TiO:Ru、TiORh、TiO:Ni/Ta、TiO:Ni/Nb、TiO:Cr/Sb、TiO:Ni/Sb、TiO:Sb/Cu、TiO:Rh/Sb、TiO:Rh/Ta、TiO:Rh/Nb、SrTiO:Ni/Ta、SrTiO:Ni/Nb、SrTiO:Cr、SrTiO:Cr/Sb、SrTiO:Cr/Ta、SrTiO:Cr/Nb、SrTiO:Cr/W、SrTiO:Mn、SrTiO:Ru、SrTiO:Rh、SrTiO:Rh/Sb、SrTiO:Ir、CaTiO:Rh、LaTi:Cr、LaTi:Cr/Sb、LaTi:Fe、PbMoO:Cr、RbPbNb10、HPbNb10、PbBiNb、BiVO、BiCuVO、BiSnVO、SnNb、AgNbO、AgVO、AgLi1/3Ti2/3、AgLi1/3Sn2/3などの酸化物、CdSなどの硫化物、CdSeなどのセレン化物、LnTi(Ln:Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、HoおよびEr)やLa、Inを含むオキシサルファイド化合物(Chemistry Letters、2007,36,854−855)も、本発明における可視光応答型光半導体1aとして用いることができる。
【0028】
上記のような可視光応答型光半導体1aは、増感剤を担持したものであってもよい。増感剤としては、[Ru(bpy)3]2+、エリスロシン(erythrosine)、亜鉛ポルフィリン、クマリン、及びこれら化合物の誘導体、CdS等がある。
【0029】
また、上記のような可視光応答型光半導体1aの表面にp型もしくはn型光半導体を吸着させ、p−n接合を形成させたものを使用することもできる。用いるp型もしくはn型光半導体としては、CuO、CuO、CuI、Cu(InGa)S、Cu(InGa)Se、CuGaS、CuGaSSe、CuGaSe、CdS、CdTe、CdZnTe、CdSe、CuZnSnS、CuGa、CuInS、Cu(InAl)Se、CuIn、CuAlO、CuGaO、SrCu、GaP、GaAs、GaAsP、GaN、InP、InAs、GaInAsP、GaSb、Si、SiC、Ge、ZnS、Feなどの無機系半導体、およびフラーレン誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポリチオフェン誘導体等の有機系半導体が例示できる。
【0030】
図1、2に示したように、可視光応答型光半導体1aは粒子状であることが好ましい。その一次粒子の粒子径は、可視光応答型光半導体1aが光触媒層10において適切に機能し得る大きさであれば特に限定されるものではない。例えば、粒子径の下限が好ましくは0.001μm以上、より好ましくは0.005μm以上、上限が好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下の可視光応答型光半導体粒子を用いることができる。尚、本願において「粒子径」とは、定方向接線径(フェレ径)を意味し、XRD、TEM、SEM法等の公知の手段によって測定することができる。
【0031】
(2)助触媒1b
本発明において、可視光応答型光半導体1aには助触媒1bが担持される。本発明において用いられる助触媒1bは水素生成及び/又は酸素生成を促進する役割を果たす。
【0032】
助触媒1bとしては、可視光応答型光半導体1aに担持して、水素生成及び/又は酸素生成を促進する役割を果たすものであれば特に限定されるものではないが、具体的には第2〜14族の金属、該金属の金属間化合物、固溶体、共晶体、もしくは、該金属の混合粒子(以下、「多元金属粒子」と呼称)を用いることが好ましい。又は、これらの酸化物、複合酸化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、或いはこれらの混合物のいずれかを用いることが好ましい。ここで、「金属間化合物」とは、2種以上の金属元素から形成される化合物であって、もとの金属と異なる結晶構造と原子結合様式を持つものをいう。「多元金属粒子」とは、光触媒上に高分散された2種以上の金属元素からなる超微粒子で触媒作用の上で金属間相互作用を持つものをいう。「これらの酸化物、複合酸化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物」とは、第2〜14族の金属、該金属の金属間化合物又は合金の、酸化物、複合酸化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物をいう。「これらの混合物」とは、以上例示した化合物のいずれか2以上の混合物をいう。
【0033】
酸化反応の助触媒としては、好ましくは、Mg、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Ce、Ta、W、Ir、PtまたはPbの金属、該金属の金属間化合物、固溶体、共晶体、もしくは該金属の多元金属粒子、該金属の酸化物または複合酸化物であり、より好ましくは、Mn、Co、Ni、Ru、Rh、Irの金属、Ru−Ir、Pt−Ru多元金属粒子、これらの酸化物または複合酸化物であり、さらに好ましくは、Ir、Ru−Ir、MnO、MnO、Mn、Mn、CoO、Co、NiCo、RuO、Rh、IrOである。
【0034】
還元反応の助触媒としては、好ましくは、Pt、Pd、Rh、Ru、Ni、Au、Fe、Ru−Ir、NiO、RuO、IrO、Rh、および、Cr−Rh複合酸化物、コアシェル型Rh/Cr、Pt/Cr 等を挙げることができる。
【0035】
本発明では、助触媒1bとしてより好ましくは、Pt、Pt−Ru、Ru−Ir、Rh−Cr複合酸化物、Ru酸化物(RuO)、Ir酸化物(IrO)、Co酸化物(CoO、Co)、Mn酸化物(MnO、Mn、Mn)からなる群より選ばれる1種以上を用いる。この中でも、Rh−Cr複合酸化物、Ru酸化物、Ir酸化物、Co酸化物、Mn酸化物からなる群より選ばれる1種以上が特に好ましい。
【0036】
助触媒1bの可視光応答型光半導体1aへの担持方法としては、含浸担持、光電着法などが挙げられる。2種類以上の助触媒を担持する場合は、含浸担持では各々の助触媒の前駆体を同時に含浸する共含浸のほか、必要に応じて逐次含浸によって担持する。含浸法での担持では吸着サイトをコントロールできず、一方の助触媒がもう一方の助触媒を被覆してしまったり、互いの助触媒が接触して再結合中心になってしまい効果が出なくなることが予想される場合には、片方の助触媒は従来どおり吸着法で担持し、もう片方の助触媒(好ましくは還元反応助触媒)を光電着法で担持させる。尚、ここでいう光電着法(光電析法ともよばれる)とは、光半導体粒子と金属塩を共存させ、光照射によって金属塩を還元し、金属もしくは金属化合物として光半導体粒子上に担持する方法をいう。助触媒粒子もしくは助触媒粒子の前駆体の粒子径としては、特に限定されないが、通常1nm以上、好ましくは2nm以上、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0037】
助触媒1bをナノ粒子とする場合は、例えば、保護基としてPVA(ポリビニルアルコール)やPVP(ポリビニルピロリドン)を使用するコロイド法など(Polymer J. 1999, 31, 1127-1132., Angew. Chem., Int. Ed. 2007, 46, 5397-5401)によって合成することができる。助触媒粒子の前駆体としては、助触媒金属の水酸化物、塩化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩のほか、各種アルコラート、フェノラート、カルボキシラート、アセチルアセトナート、チオラート、チオカルボキシラート錯体、アンミン錯体、各種アミン錯体、各種置換ピリジン、イミダゾール、ビピリジン、ターピリジン、フェナンスロリン、ポルフィリン錯体、各種ニトリル錯体等を使用することができるが、ここに例示した材料に限定されるものではない。
【0038】
助触媒1bの量は少なすぎても効果がなく、多すぎると助触媒自身が光を吸収・散乱するなどして光触媒の光吸収を妨げたり、再結合中心として働いたりしてかえって触媒活性が低下してしまう。このような観点から、可視光応答型光半導体1aへの助触媒1bの担持量は、可視光応答型光半導体1aを基準(100質量%)として、好ましくは0.01質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上15質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以上10質量%以下である。
【0039】
(3)親水性無機材料2
光触媒層10に含まれる親水性無機材料2は、可視光を吸収せず、親水性の高い無機化合物の中から選ばれる。具体的には、Al、Bi、BeO、CeO、Ga、GeO、GeO、La、MgO、 Nb、Sb、Sb、Sc、SiO、Sm、SnO、TiO、ZnO、ZrO、Y、WO等の金属酸化物;SiO−Al、ZrO−Al等の複合酸化物;ゼオライト;ヘテロポリ酸;等を使用することができる。この中でも汎用材料であり、安価であるAl、TiO、SiOを用いるとよい。特にSiOが好ましい。また、SiOを用いる場合は、非晶質のSiOを用いることが好ましい。非晶質のSiOを用いることで、光触媒層10における光水分解反応が一層効率的なものとなる。
【0040】
親水性無機材料2は、それぞれ市販、製造されている材料を用いることができる。また親水性無機材料2として用いられる酸化物もしくは複合酸化物は、金属アルコキシド(例えば、テトラエチルシリケート、テトラn−ブチルチタネート等)を原料とし、光触媒1の表面において加水分解及び縮合させることで酸化物に変換したもの、又はあらかじめ部分的に加水分解、縮合によってゾル化した金属アルコキシド−金属酸化物混合物を調製しておき、これを光触媒と接触させて、光触媒1の表面で酸化物に変換したものを用いることもできる。この際、親水性無機材料2の表面には、アルコキシ基等の有機基が生成する場合があるが、その有無については特に限定されるものではない。いずれの場合においても、光触媒表面の親水性を保つ観点、水分解反応における生成ガスに有機基の分解物が混入して純度を低下させることを回避する観点から、アルコキシ基等の有機基は焼成処理等によって除去する方が好ましい。
【0041】
図1、2に示したように、親水性無機材料2は粒子状であることが好ましい。具体的な粒子径については、光触媒層10に水を適切に浸入させることが可能で、且つ、光触媒1が光触媒層10において適切に機能し得る大きさであれば特に限定されるものではない。特に、光触媒1よりも小さな粒子径とすることが好ましい。例えば、粒子径の下限が好ましくは1nm以上、より好ましくは10nm以上、上限が200μm以下、より好ましくは100μm以下の親水性無機材料粒子を用いることができる。
【0042】
光触媒層10において親水性無機材料2の量が多すぎると、親水性無機材料2による光散乱のため、光触媒1の光吸収を阻害して反応効率が低下したり、単位面積当たりに塗布できる光触媒の量が減少したりする虞がある。逆に、親水性無機材料2の量が少なすぎると、十分な水供給促進効果及び生成ガスの拡散促進効果が得られない。したがって、光触媒層10に含まれる親水性無機材料2の量は、光触媒1の重量に対して好ましくは1%以上300%以下、より好ましくは10%以上200%以下、さらに好ましくは10%以上100%以下である。
【0043】
光触媒層10の厚みは、0.1μm以上1000μm以下、好ましくは1μm以上100μm以下である。光触媒層10が厚すぎる場合、光触媒層10の機械強度が低下したり、剥がれ易くなったりすると同時に、層下部の光触媒1に光が到達し難くなり、光触媒1の利用効率が低下してしまう。逆に薄すぎると、単位面積当たりの光触媒1の量が少なすぎて、反応効率が低下してしまう。
【0044】
また、光触媒層10は、使用中に容易に破壊されない機械強度と、水分子のアクセス及び生成物である水素ガスと酸素ガスとの放出パスを確保するため、少なくとも0.25nm以上、好ましくは1nm以上5000nm以下の孔径を有する多孔質体であることが重要となる。
【0045】
1.2.基材20
基材20は酸性、中性、塩基性の水中で安定であり、光触媒1によって酸化されない材料であれば材質について限定を受けるものではない。具体的には、セラミック、金属、耐酸化コーティングを施したメタクリル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の有機基材、木材等の天然基材を用いることができる。特に、親水性無機材料と縮重合或いは水素結合を形成し得る基材を用いることで、光触媒層10と基材20との接着力を向上させることができる。このような基材としてはアルコキシシラン(シリル化剤)、加水分解基を持つシロキサン化合物、シランカップリング剤、シリコーン樹脂がある。基材20の形状については特に限定はなく、例えば、図1に示したような平板状の基材20の他、表面に凹凸を有する基材等であってもよい。基材20の厚みについても特に限定されるものではなく、設備規模に応じて適宜選択することができる。
【0046】
本発明に係る光触媒固定化物100は、上記のような構成を備えてなる。光触媒固定化物100においては、光触媒層10中に可視光応答型の光触媒1とともに親水性無機材料2を共存させることによって、水分解反応時に、光触媒層10の表面近傍だけでなく内部にまで水を浸入させることができるとともに、親水性表面によって生成ガスが光触媒層に付着し難くなる結果、生成ガスの気相中への拡散が促進される。また、反応器内での攪拌が不要であり簡便に水分解反応を行うことができる。すなわち、光触媒固定化物100は、光触媒1の光水分解性能を低下させることなく、かつ、簡便で効率的に利用が可能な光触媒固定化物と言える。
【0047】
尚、上記説明においては、光触媒層10が粒子状の光触媒1と粒子状の親水性無機材料2とが混合されてなる形態について詳述したが本発明は当該形態に限定されるものではない。例えば、光触媒表面の一部に親水性無機材料が担持或いは一部被覆された形態であってもよい。また、光触媒と親水性無機材料との形状は粒子状に限定されるものではない。ただし、より簡易に光触媒活性の高い光触媒固定化物を得る観点からは、粒子状の光触媒と粒子状の親水性無機材料とが混合されてなる光触媒層とすることが好ましい。
【0048】
2.光触媒固定化物の製造方法
本発明に係る光触媒固定化物は、例えば、上述した光触媒と親水性無機材料とを溶媒中で混合し、基材に塗布・乾燥させることによって得ることができる。混合する際には、あらかじめ混合した光触媒と親水性無機材料とを溶媒に分散させてもよいし、溶媒中に光触媒と親水性無機材料とを投入して混合してもよい。
【0049】
光触媒と親水性無機材料とを混合する際に使用する溶媒としては、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトンなどのケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられるが、親水性無機材料を効率よく分散させる観点から、特に水を用いることが好ましい。尚、例えば超音波処理によって、光触媒及び親水性無機材料を溶媒中により均一に分散させることができる。
【0050】
光触媒と親水性無機材料とが分散された溶媒を基材に塗布する際は、広く一般的に使用されている技術を用いればよい。例えば、スプレー法、ディップ法、スキージ法、ドクターブレード法、スピンコート法、スクリーンコート法、ロールコーティング法等がある。
【0051】
ここで、光触媒及び親水性無機材料の塗布性を向上させるため、基材上にあらかじめ親水性無機材料を含む層を形成させ、その上に光触媒及び親水性無機材料を含む溶媒を塗布することもできる。
【0052】
塗布後の乾燥条件としては、溶媒が揮発する程度の温度に加熱すればよい。これにより、基材上に光触媒層を適切に形成することができる。例えば、40℃〜200℃程度の加熱乾燥によって基材上に光触媒層を形成することができる。
【0053】
3.水素及び/又は酸素の製造方法
本発明に係る光触媒固定化物は、一定の光源から光が照射されて、下記反応式(1)に係る光水分解反応を起こすことにより、水素及び/又は酸素を製造することができる。
O → H +1/2O (1)
【0054】
光水分解反応の条件は、使用する光触媒によって適宜選択することができ、特に限定されるものではない。
【0055】
光水分解反応に用いる光源としては、特に限定されるものではないが、太陽光の他、キセノンランプ、水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDランプやソーラーシミュレーター等の人工光源を用いることができる。これらの光源を用いて、水中に配置した光触媒固定化物の光触媒層に光を照射することによって、水分解反応を生じさせる。
【0056】
光源の照射方法については特に限定されるものではなく、光触媒層へ直接照射する形態の他、反射鏡を用いて照射したり、レンズ等を用いて集光して照射してもよい。
【0057】
光水分解反応の反応圧力は特に限定されるものではなく、通常、減圧(0.5kPa)から常圧の範囲で実施することができる。反応温度についても特に限定されるものではなく、通常0℃〜100℃、好ましくは50℃〜80℃の範囲で実施することができる。使用する水の液性についても特に限定されるものではなく、pH2〜13の範囲が好ましく、pH4.5〜7.0の範囲がより好ましい。
【0058】
光触媒固定化物を水面近傍に設置した場合、すなわち、光触媒固定化物の光触媒層上に少量の水しか存在しない場合、光照射によって光触媒層近傍の水が高温となり、不具合が生じる虞がある。一方で、光触媒固定化物を水中の深部に設置した場合、光が十分に届かない虞があるほか、生成ガスが水面に到達する前に逆反応を起こす虞がある。このような観点から、光触媒固定化物は、水面から50μm以上1m以下となる位置に設置することが好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明に係る光触媒固定化物についてさらに詳細に説明する。
【0060】
<光触媒の調製>
(GaN:ZnOの調製)
J. Phys. Chem. B 2006, 110, 13753-13758に記載された方法に従って調製を行った。すなわち、1.08gのGa(高純度化学社製)と0.94gのZnO(関東化学社製)とを混合し、アンモニア気流下(250mL/min)、850℃で15時間、窒化処理を行った。XRD及びEDXで確認したところ、GaN:ZnOの生成が確認された。
【0061】
(RhCr2−x/GaN:ZnOの調製)
J. Phys. Chem. B 2006, 110, 13753-13758に記載された方法に従って調製を行った。すなわち、上記のGaN:ZnO(0.3g〜0.4g)をNaRhCl・12HO(三津和化学社製)(GaN:ZnOに対して1.5質量%のCr)を含む3mL〜4mL水溶液に懸濁し、蒸発皿内、ウォーターバス上でガラス棒で攪拌しながら溶媒を蒸発乾燥させた。その後、空気中、350℃で焼成し、助触媒としてRhCr2−xが担持されたGaN:ZnOを得た。
【0062】
(LaTiONの調製)
La(NO・6HO(関東化学社製)、Ti(O−iPr)(関東化学社製)、クエン酸(和光純薬社製)、エチレングリコール(関東化学社製)をメタノール中、モル比1:1:10:30となるように混合し、373Kで重合させた。さらに623Kで熱処理して炭化させた後、空気中、923Kで焼成し、LaとTiの複合酸化物前駆体を得た。この前駆体を100mL/minのNH気流下で、1K/minで1123Kまで昇温した後、当該温度で15時間保持し、その後室温まで冷却してLaTiONを合成した。XRD及びEDXで確認したところ、LaTiONの生成が確認された。
【0063】
(Pt−CoO/LaTiONの調製)
上記のLaTiON(0.3−0.4g)をCo(NO・6HO(和光純薬社製)(LaTiONに対して 0.5 質量%のCo) を含む3−4mL水溶液に懸濁し、蒸発皿内、ウォーターバス上でガラス棒で撹拌しながら溶媒を蒸発乾燥させた。その後空気中200℃で焼成した。得られたサンプルをさらにPt(NHCl・HO(ALDRICH社製)(LaTiONに対して3.0質量% のPt) を含む3−4mL水溶液に懸濁し、蒸発皿内、ウォーターバス上でガラス棒で撹拌しながら溶媒を蒸発乾燥させた。その後水素気流下、300℃で水素還元した。これにより助触媒としてPt−CoOが担持されたLaTiONを得た。尚、CoOとは、CoO、Co、Coの混合物を意味する。
【0064】
(BaTaON:Mgの調製)
BaCO(関東化学社製)、Ta(高純度化学社製)、Mg(NO・6HO(関東化学社製)をモル比100:46.25:7.5となるように混合し、空気中、923Kで焼成し、BaとTaとMgの複合酸化物前駆体を得た。この前駆体を200mL/minのNH気流下で、1K/minで1173Kまで昇温した後、当該温度で20時間保持し、その後室温まで冷却してBaTaON:Mgを合成した。XRD及びEDXで確認したところ、BaTaON:Mgの生成が確認された。
【0065】
(Ru−Ir/BaTaON:Mgの調製)
上記のBaTaON:Mg(0.3−0.4g)を RuCl・nHO(関東化学社製)(BaTaON:Mgに対して1.0質量%のRu)を含む3−4mL水溶液に懸濁し、蒸発皿内、ウォーターバス上でガラス棒で撹拌しながら溶媒を蒸発乾燥させた。得られた試料を水素気流下、300℃で水素還元した後、NaIrCl(関東化学社製)(BaTaON:Mgに対して0.3質量%のIr) を含む3−4mL水溶液に懸濁し、蒸発皿内、ウォーターバス上でガラス棒で撹拌しながら溶媒を蒸発乾燥させた。得られた試料をさらに水素気流下、300℃で水素還元した。これにより助触媒としてRu−Irが担持されたBaTaON:Mgを得た。
【0066】
<光触媒固定化物の調製>
(実施例1)
光触媒として上記のように調製した20mgのRhxCr2−X/GaN:ZnOと、親水性無機材料として20mgの二酸化ケイ素(和光純薬社製、70nm)とを200μLの蒸留水に懸濁し、3〜5分間の超音波処理によって十分に分散させた。この分散液をホットプレート上で60〜80℃に加熱したサンドブラスト加工パイレックスガラス(50mm角)上にピペットで滴下し、ガラス棒で塗り広げて乾燥させ、光触媒固定化物を調製した。
【0067】
(実施例2)
親水性無機材料として20mgのアモルファスシリカ(関東化学社製)を用いたほかは、実施例1と同様にして光触媒固定化物を調製した。
【0068】
(実施例3)
光触媒として上記のように調製した20mgのRhxCr2−X/GaN:ZnOと、20mgのテトラエトキシシラン(TEOS)(ALDRICH社製)とを200μLの蒸留水に懸濁し、3〜5分間の超音波処理によって十分に光触媒を分散させると同時にTEOSを加水分解させ、光触媒表面でSiOに変換した。この分散液をホットプレート上で60〜80℃に加熱したサンドブラスト加工パイレックスガラス(50mm角)上にピペットで滴下し、ガラス棒で塗り広げて乾燥させ、光触媒固定化物を調製した。
【0069】
(実施例4)
光触媒として上記のように調製した20mgのLaTiONを用いたほかは、実施例1と同様にして光触媒固定化物を調製した。
【0070】
(実施例5)
光触媒として上記のように調製した20mgのBaTaON:Mgを用いたほかは、実施例1と同様にして光触媒固定化物を調製した。
【0071】
(比較例1)
親水性無機材料を使用せずに、RhCr2−X/GaN:ZnO懸濁液をパイレックスガラス上に塗布したほかは、実施例1と同様にして光触媒固定化物を調製した。
【0072】
(比較例2)
親水性無機材料を使用せずに、LaTiON懸濁液をパイレックスガラス上に塗布したほかは、実施例4と同様にして光触媒固定化物を調製した。
【0073】
(比較例3)
親水性無機材料を使用せずに、BaTaON:Mg懸濁液をパイレックスガラス上に塗布したほかは、実施例5と同様にして光触媒固定化物を調製した。
【0074】
<光水分解反応の条件>
調製した光触媒固定化物を用いて光水分解反応性能の評価を行った。光水分解反応は、図3に示すような真空排気用ポンプ、循環ポンプ、光触媒固定化物を入れるセル、気体採取バルブ、及びガスクロマトグラフ分析装置(GC)を備えた閉鎖系の反応装置で評価した。光源は300Wのキセノンランプ(λ>300nm)を使用し、温度上昇を避けるためランプとセルとの間にはウォーターフィルタを設け、さらにセルは冷却水を用いて外側から冷却した。評価の際は、あらかじめ反応装置内を数回脱気し、空気の残っていないことを確認した。真空度は4×10Pa程度とした。その後に光照射を開始し、ガスの生成量を測定した。分析条件はカラム(モレキュラーシーブ5A)、キャリアガス(アルゴン)、温度(50〜70℃)とした。
【0075】
尚、実施例1〜3及び比較例1に係る光触媒固定化物については、100mL純水(pH=7)とともにセルに入れ、光を照射して水素ガス及び酸素ガスの生成量を測定した。
【0076】
実施例4、5及び比較例2、3に係る光触媒固定化物については、水素ガスの生成と酸素ガスの生成とを別々に評価した。すなわち、光触媒固定化物を犠牲試薬であるメタノールを10vol%含む水溶液100mL(pH=7)とともにセルに入れ、光を照射して水素ガスの生成量を測定した。一方、光触媒固定化物を犠牲試薬である0.01M AgNO水溶液100mL(pH=7)とともにセルに入れ、光を照射して酸素ガスの生成量を測定した。
【0077】
<評価結果>
下記表1、2に、光触媒固定化物の水分解反応活性を比較した結果を示す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
表1から明らかなように、光触媒層に親水性無機材料を含む実施例1〜3に係る光触媒固定化物は、親水性無機材料を含まない比較例1に係る光触媒固定化物と比較して、水分解による水素生成初速度が3.4〜4.6倍高く、酸素生成速度も5.8〜7.3倍高い。親水性無機材料を添加することにより光触媒活性が向上することが明らかである。これは、親水性無機材料が存在しないと、親水性の低い光触媒粒子の粒子間に水が浸入し難く、結果として光触媒層の最上面近傍の光触媒しか光水分解反応に利用できないが、親水性無機材料を共存させることによって、光触媒層内に水が供給され易くなり、層の上側だけでなく、内部の光触媒も水分解反応に利用することができ、また、親水性表面によって生成ガスが光触媒層に付着し難くなる結果、生成ガスの気相中への拡散が促進され、単位面積、単位光触媒量あたりの反応効率が向上したものと考えられる。特に、親水性無機材料として非晶質シリカを用いた実施例2が最も光触媒活性が高かった。
【0081】
また、表2から明らかなように、犠牲試薬としてメタノールを用いた系においても、親水性無機材料を含む実施例4、5に係る光触媒固定化物は、親水性無機材料を含まない比較例2、3に係る光触媒固定化物と比較して、水素生成初速度が2倍高く、親水性無機材料を添加することにより光触媒活性が向上することが明らかである。また、犠牲試薬としてAgNOを用いた系においても、親水性無機材料を含む実施例4、5に係る光触媒固定化物は、親水性無機材料を含まない比較例2、3に係る光触媒固定化物と比較して、酸素生成初速度が1.05〜5.7倍高く、親水性無機材料を添加することにより光触媒活性が向上することが明らかである。これらも、上記実施例1〜3と同様の理由で、単位面積、単位光触媒量あたりの反応効率が向上したものと考えられる。
【0082】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う水分解用光触媒固定化物、並びに水素及び/又は酸素の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係る水分解用光触媒固定化物は、光触媒により光水分解反応を大規模で行う場合に特に好適に用いることができ、低コストの水素/酸素製造技術を提供することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 光触媒
1a 可視光応答型光半導体
1b 助触媒
2 親水性無機材料
10 光触媒層
20 基材
100 水分解用光触媒固定化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に光触媒層を有する水分解用光触媒固定化物であって、
前記光触媒層が、
Ga、Zn、Ti、La、Ta及びBaからなる群より選ばれる1つ以上の原子を含む窒化物又は酸窒化物である可視光応答型光半導体と、
該可視光応答型光半導体に担持された助触媒と、
シリカ、アルミナ、及び酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性無機材料と、
を含むことを特徴とする水分解用光触媒固定化物。
【請求項2】
前記可視光応答型光半導体が、GaN:ZnO、LaTiON及びBaTaON:Mgからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の水分解用光触媒固定化物。
【請求項3】
前記助触媒が、Pt、Pt−Ru、Ru−Ir、Rh−Cr複合酸化物、Ru酸化物、Ir酸化物、Co酸化物、Mn酸化物からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の水分解用光触媒固定化物。
【請求項4】
前記親水性無機材料がシリカである、請求項1〜3のいずれかに記載の水分解用光触媒固定化物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水分解用光触媒固定化物を水中に配置し、該光触媒固定化物に光を照射することによって水を分解する、水素及び/又は酸素の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−187520(P2012−187520A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53406(P2011−53406)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(507212768)株式会社三菱ケミカルホールディングス (8)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】