説明

水分計

【課題】レーザを光源とし、多重反射型ガスセルを用いる水分計において、大掛かりな付属設備を用いずに水分計のバックグラウンド吸収を最小限に抑える。
【解決手段】サンプルガスが導入されるガスセルと、光源及び光検出器が設置されているチャンバから構成される水分計で、チャンバ内部に除湿器を設ける。除湿器は固体高分子電解質膜を用いた電機分解型の除湿素子を用いる。さらには、除湿素子を複数個直列に配置することによって、チャンバ内の空気中の水分量を大幅に低下させることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を利用してガス中の微量水分を測定する装置に関し、種々のガス中の水分濃度を目的に応じて制御するための微量水分の測定装置等に利用できる水分計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造プロセスでは、シリコンなどの半導体基板表面に対して各種の微細加工や処理が行なわれる。その際、多くの工程で多種類の反応ガスなどのプロセスガスが用いられる。それらのプロセスガス中に水分が含まれると、プロセスガスと水分、または基板表面と水分が反応して不要な副生成物が生じる結果、製造される半導体の歩留まりが著しく低下する。
【0003】
そのため、前記プロセスガス中に含まれる水分濃度を一定値以下に抑えることが非常に重要であり、かつ、反応槽の水分濃度を常時監視することが必要である。
ガス中の水分を計測する水分計として、サンプルガスを導入したガスセルにレーザからの近赤外光を入射させ、ガスセル内の水分による減光量を求めることによって、サンプルガス中の水分量を求める方式のものが一般的である。特に、ガスセル内に対向させて配置した2枚の凹面鏡の間でレーザ光を多重反射させることによって高感度測定を行うものが最も広く使用されており、その測定精度を向上させる種々の方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
従来法による水分計の1例を図3に示す。本例の水分計は、サンプルガスを保持するガスセルAと、光源と光検出器を内包するチャンバBによって構成される。
【0005】
ガスセルAは、広く知られているヘリオット(Herriott)式の多重反射型ガスセルである(非特許文献1参照)。具体的には、円筒1と、円筒1の両端にボルト4によって固定された凹面鏡ホルダ3a、3bによって囲まれた空間を有し、この空間にガス導入孔5とガス排出孔6を通じてサンプルガスが導入・排出される。
【0006】
凹面鏡ホルダ3a及び3bは、それぞれ1個の凹面鏡2を互いに対向させて保持しており、凹面鏡ホルダ3bには、測定光の入射窓8と出射窓9が設けられ、それぞれに光透過性の窓板7によって外気と遮断されている。
【0007】
チャンバBの筺体10の内部には、測定光を発射する光源11と光検出器12が備えられている。光源11としては波長可変レーザが一般的に用いられる。
【0008】
光源11から発射された光は、入射窓8からガスセルAに入射し左右の凹面鏡2によって多数回反射されたのち、出射窓9を通じてチャンバB内の光検出器12に入射し、その強度が測定される。測定光の波長は、水分の吸収スペクトルの極大波長と極小波長の間を往復し、その時の光検出器12の信号の強度変化から、水分量が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−164576号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】D.R.Herriott, H.Kogelnik, and R.Kompfer, Appl. Opt. 3, 523(1964).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の水分計においては、光束がガスセル以外の空間を通過する際にその空間に存在する水分の吸収を受けると、これが測定値に誤差を与える欠点がある。特に、図3に示すチャンバ内の水分が与える誤差は最も大きい。この欠点を軽減するために、従来の水分計のチャンバは、周囲大気の混入防止のために高純度窒素ガスあるいは乾燥空気等でパージされているが、これには配管系やコンプレッサ、フィルタなど大掛かりな設備が必要となるとともに、装置のランニングコストが高くなる問題点がある。
【0012】
また、装置を長時間停止した後の再使用時や、補修整備の必要上、装置を外気に開放後の再使用時には、チャンバ内の光源、光検出器や、電気回路、ケーブル、チャンバ壁面等に吸着された水分によるバックグラウンド吸収は非常に大きい。許容できる数値以下にバックグラウンド吸収を低下させるためには1〜2昼夜に亘る高純度ガスによるパージングが必要である。このことは、装置の操作性と作業効率を著しく低下させる原因となる。
【0013】
より簡便にチャンバ内の水分量を低下させるために、シリカゲルなどの乾燥材を相当量チャンバ内に設置する方法も採用されているが、乾燥材の頻繁な交換が要求される問題点がある。
【0014】
本発明は、水分計本体以外に大掛かりな設備を必要とせず、定期的なメインテナンスも必要とせずにチャンバ内の水分を除去して、最小限のバックグラウンド吸収でサンプルガス中の水分量が測定可能な水分計を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかる水分計は、除湿機を利用して水分除去を行うもので、少なくとも1個の光透過性窓板を備え、内部にサンプルガスが導入されるガスセルと、前記窓板を通して前記ガスセル内に光を照射する光源と、前記ガスセルを透過し前記窓板を通して出射する光の強度を検出する光検出器と、前記光源及び前記光検出器の少なくともいずれかを内包する筺体を備えた水分計において、前記筺体に除湿器を備えたことを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明は前記除湿器が電気分解型除湿器である。
【0017】
さらに、本発明は複数個の除湿機を直列に備えたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、水分計内のガスセル以外の空間に除湿器を備えたため、常時水分計内の水分量が最小限に抑えられて、バックグラウンド吸収の影響のない測定が可能となるとともに、大掛かりな配管系や付属設備を必要としない低コストの装置が実現できる。
【0019】
除湿器には、活性炭などを利用した吸着型のもの、ペルチエ素子を利用した冷却型のもの、高分子電解質を利用した電気分解型のものなどが知られているが、電気分解型は、水分を電気分解するため、気体の状態で水分を排出でき、取扱いが極めて安全・容易となる。また、これを複数個直列に使用することによって、除湿効果をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の1実施例を示す概略図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す概略図である。
【図3】従来の水分計の1例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明にかかる水分計は、サンプルガスが導入されるガスセルと、光源及び光検出器が設置されているチャンバから構成されている。
【実施例1】
【0022】
図1に本発明の1実施例の概略を示す。
【0023】
ガスセルAは、従来の水分計に用いられているヘリオット(Herriott)式の多重反射型ガスセルであり、ガス導入孔5とガス排出孔6を備えた円筒1と、凹面鏡2を保持した左右一対の凹面鏡ホルダ3a、3bがボルト4によって円筒1の両端に取り付けられており、2枚の凹面鏡2は互いに対向する。
【0024】
チャンバBは、右側の凹面鏡ホルダ3bに固定されており、筺体10の内部には、光源11と光検出器12が設置されている。光源11は、本実施例では波長可変型のレーザを使用している。また、チャンバB内には、図示されてはいないが、光源駆動回路や、検出器出力用増幅器なども設置することができる。
【0025】
光源11から出た光は入射窓8の窓板7を通してガスセルAに入射し、2枚の凹面鏡2の間を多数回反射往復したのち、出射窓9の窓板7を通して光検出器12に到達する。
【0026】
光源11は波長可変レーザで、水蒸気の吸収スペクトルのピーク波長とボトム波長の間を往復的に波長スキャンされる。光検出器12は、この2点の波長での光強度の差を測定して、これより円筒1に導入されたサンプルガス中の水分濃度を求めることができる。
【0027】
チャンバBの筐体10の壁面には除湿器13が付設されており、除湿機13はケーブル14によって電源に接続されている。除湿器13は、穴15を通して筺体10内部の空気中から水分を除去する。筺体10が穴15以外の部分では外部から密閉されていることが、除湿器13の除湿効率を高めるために望ましい。
【0028】
光源11から光検出器12に至るまでの光路のうちガスセルA以外の部分はほとんどすべてチャンバBに含まれる。よって、チャンバB内の水分を除湿機13によって除去することにより、バックグラウンド吸収を最小限に抑えることができる。
【0029】
除湿器13としては、活性炭などに空気を通す吸着型の除湿器や、ペルチエ素子を利用した冷却型の除湿器を使うことができる。さらに、電気分解型除湿素子を利用した除湿器を使用して、効率の良い水分除去を行うこともできる。
【0030】
電気分解型除湿素子は、固体高分子電解質膜を多孔質の電極で挟んだ形のものであり、プラス極では水分を分解して水素イオンと酸素ガスを放出する。水素イオンは電解質膜を透過して陰極に至り、空気中の酸素と結合して水蒸気を発生する。結果的には、陽極側の空気中の水分を吸収して、陰極側の空気中に放出する。したがって、除湿器の陽極側を筺体10の内部に向け、陰極側を外部空気に向けて付設すれば、チャンバB内の水分が外部に放出され、除湿が行なわれる。この際、水分は気体の状態で外部の放出されるため、取扱いが容易である。
【実施例2】
【0031】
図2に、本発明のより効果的な実施例の概略を示す。
【0032】
本実施例は、図1の実施例と同一の構造を持つガスセルAとチャンバBを備えている。ガスセルA及びチャンバBの各構成要素の構造と働きは、図1の実施例の項において詳説したとおりである。
【0033】
本実施例においては、筺体10の壁面に付設された除湿器13は、カバー16によって外部空気から遮断されており、カバー16の壁面には新たな除湿機18が付設されている。新たな除湿器はカバー16の内部空気と穴17を介して接触している。
【0034】
2個の除湿器13と18を直列に配設して除湿を行う方法は、初段の除湿器13の放出側空間の水分濃度を低く保つことによって、除湿効率を向上させる利点を有する。また、電気分解型除湿器の欠点である放出側からの僅かの水分逆流現象を抑える効果も有する。つまり2個の除湿器13、18を直列に用いることでチャンバB内の水分濃度を1個の除湿器の場合より低く保つことができる。
【0035】
本実施例では、除湿器を2個直列に設置したが、さらに除湿器の数を増やした変形例も実施可能である。
【0036】
本発明の特徴は、上述のとおりであるが、実施例は上記の説明あるいは図に限定されない。例えば、光源はレーザに限定されず、ハロゲンランプと分光器または単色光フィルタを組み合わせたもの等も利用可能である。また、実施例のガスセルAには入射窓8と出射窓9を別々に独立に設けられているが、光学系の配置を変更して、1個の共通した窓と窓板を通して光をガスセルに入射/出射させることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、半導体の製造ラインにおいて、各種のプロセスガス中の水分濃度測定あるいは、水分濃度の連続的なモニタリング装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
A ガスセル
B チャンバ
1 円筒
2 凹面鏡
3a、3b 凹面鏡ホルダ
4 ボルト
5 ガス導入孔
6 ガス排出孔
7 窓板
8 入射窓
9 出射窓
10 筺体
11 光源
12 光検出器
13 除湿器
14 ケーブル
15 穴
16 カバー
17 穴
18 除湿器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個の光透過性窓板を備え、内部にサンプルガスが導入されるガスセルと、前記窓板を通して前記ガスセル内に光を照射する光源と、前記ガスセルを透過し、前記窓板を通して出射する光の強度を検出する光検出器と、前記光源及び前記光検出器の少なくともいずれかを内包する筺体を備えた水分計において、前記筺体に除湿器を備えたことを特徴とする水分計。
【請求項2】
前記除湿器を電気分解型除湿素子で構成したことを特徴とする請求項1記載の水分計。
【請求項3】
前記除湿器は複数個の除湿器を直列に備えたものであることを特徴とする請求項1または2記載の水分計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−179942(P2011−179942A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43885(P2010−43885)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】