説明

水切り乾燥方法

【課題】水シミの発生を充分に抑制でき、しかも、安定に連続運転できる水切り乾燥方法を提供する。
【解決手段】処理槽4内の第1の処理液に、物品Wを浸漬させたまま、処理槽4内に第2の処理液を供給し、処理槽4の上部から第1の処理液を排出し、処理槽4内の第1の処理液を第2の処理液に置換する。物品Wを第2の処理液に浸漬させた状態に維持した後、第2の処理液から物品Wを引き上げる。この際に、第1の処理液としてアルコール水溶液を用い、第2の処理液として、フッ素系溶剤とアルコールとの混合液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造業、精密機械工業、光学機械工業、電気電子工業、プラスチック工業等において、半導体ウェハやレンズ、液晶表示装置部品、電子部品、精密機械部品等の物品の表面の水を除去するための水切り乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造業、精密機械工業、光学機械工業、電気電子工業、プラスチック工業等において、半導体ウェハやレンズ、液晶表示装置部品、電子部品、精密機械部品等の物品には、例えばメッキ工程や研磨工程の際に水洗処理が行われるが、水洗処理後、水がその表面に残留したままでは、次工程に支障をきたす場合が多い。また、残留した水によって発生した水シミ(ウォーターマーク)は、次工程での接着・溶接不良や外観不良、錆の発生等、製品の品質を低下させる原因となる場合があるため、物品の表面から完全に水分を除去する必要がある。
【0003】
水洗処理後の水の除去方法としては、自然乾燥や乾燥炉等を用いた熱風乾燥が一般に用いられているが、これらは物品の表面で水を揮発させることによって水を除去するため、水に極少量でも不揮発性の不純物が含まれている場合には、水の乾燥後に水シミができやすいという問題があった。
この問題を解決する物品の水切り乾燥方法として、物品の表面から水を除去しうる溶剤に物品を浸漬し、引き上げた後、物品の表面に付着した溶剤を乾燥させる方法が知られている。この方法では、物品を溶剤から引き上げた後には、物品には水は付着していないため、上述のような水シミの発生を抑えることができる。この方法に用いられる溶剤としては、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類が知られているが、これらは引火点を有する化合物であるため、防火対策などの使用環境や使用方法に配慮する必要があった。また、これらの溶剤は、水を溶解することにより物品表面から水を除去するが、連続的に水切り乾燥を行うと、溶剤中の水分量が多くなり、物品表面からの水の除去性が悪くなるという問題点があった。
【0004】
そこで、溶剤として、塩素系有機溶剤やフッ素系溶剤にアルコール類や界面活性剤等を添加した非水系の溶剤組成物が提案されている。フッ素系溶剤としては、例えば、クロロフルオロカーボン類(以下、CFC類ともいう。)、パーフルオロカーボン類(以下、PFC類ともいう。)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(以下、HCFC類ともいう。)、ハイドロフルオロカーボン類(以下、HFC類ともいう。)、ハイドロフルオロエーテル類(以下、HFE類ともいう。)などが使用される。
【0005】
これらの溶剤組成物を用いて物品の水切り乾燥を行う場合には、水洗処理を行った後の物品を非水系の溶剤組成物が充填された浸漬槽に浸漬し、物品に付着した水分を除去する方法等が採用される。これらの溶剤組成物は水の溶解性は低く、物品表面に付着している水は、アルコールもしくは界面活性剤による剥離作用によって、物品表面から剥離され、水滴となって溶剤組成物中を浮上し分離される。
特許文献1には、水洗工程後に1価アルコール水溶液によるすすぎ工程を経て、フッ素系溶剤で水切り乾燥を行う方法が提案されている。1価アルコール水溶液によるすすぎ工程を行うことにより、物品表面への水の付着量が減少し、さらにアルコールはフッ素系溶剤に溶解するため、フッ素系溶剤による水切り性が向上する。しかし、アルコール水溶液は乾燥しやすいため、アルコール水溶液のすすぎ工程からフッ素系溶剤へのすすぎ工程に移動する間に大気雰囲気にさらされた際に乾燥し、水シミが発生しやすいという問題がある。
【0006】
一方、特許文献2には、薬液処理が終わった後の物品を純水が入った処理槽に浸漬した後、その処理槽の下方から、純水よりも比重の重いハイドロフルオロエーテル類とイソプロパノール(以下、IPAともいう。)の混合液を供給して純水を混合液に置換し、物品表面の水を取り除いた後、乾燥させる方法が開示されている。
この方法によれば、純水による水洗処理と混合液による水切り処理との間に、物品の表面を大気雰囲気中に曝すことなく、物品表面の水をフッ素系溶剤に置換することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−300689号公報
【特許文献2】特開2008−103769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この方法では、処理槽内の純水をハイドロフルオロエーテル類とIPAとの混合液で置換するものであるため、水シミの発生を充分には抑制できなかった。
すなわち、IPAは水によく溶解するため、純水を混合液で置換していく過程で、混合液中のIPAが純水に溶解し、混合液のIPA濃度が低下してしまう。IPA濃度が低下した混合液は、純水の液置換性(水切り効果)が不充分となるため、物品の表面に水が残存しやすく、水シミの発生を十分には抑制できない。IPA濃度の低下を抑えるためには、混合液にIPAを連続的に添加する方法も考えられるが、その場合には、引火防止対応の観点、水切り性の観点から、IPAの適切な濃度管理を行わなければならず、安定な連続運転が難しくなるとともに、IPAを連続的に添加するための付帯設備も必要となる。
【0009】
本発明の目的は、水シミの発生を充分に抑制でき、しかも、安定に連続運転できる水切り乾燥方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は以下に示す水切り乾燥方法である。
[1]処理槽内に供給された第1の処理液に、物品を浸漬させる第1の処理工程と、
前記物品を浸漬させたまま、前記処理槽内に前記第1の処理液よりも比重が大きい第2の処理液を供給しつつ、前記処理槽の上部から前記第1の処理液を排出して、前記処理槽内の前記第1の処理液を前記第2の処理液に置換する置換工程と、
前記物品を前記第2の処理液に浸漬させた状態に維持する第2の処理工程と、
該第2の処理工程後に、前記第2の処理液から前記物品を引き上げる引き上げ工程と、を有し、
前記第1の処理液は、アルコール水溶液であり、
前記第2の処理液は、フッ素系溶剤とアルコールとの混合液である、物品の水切り乾燥方法。
[2]引き上げられた前記物品を不活性ガス雰囲気中に保持する処理液揮発工程をさらに有する、前記[1]に記載の物品の水切り乾燥方法。
[3]前記アルコール水溶液は、アルコール濃度が10〜60質量%である、前記[1]または[2]に記載の物品の水切り乾燥方法。
[4]前記アルコール水溶液に含まれるアルコールは、炭素数が1〜3の飽和1価アルコールである、前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の物品の水切り乾燥方法。
[5]前記第2の処理液は、90〜99質量%のフッ素系溶剤と、1〜10質量%のアルコールとからなる混合液である、前記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の物品の水切り乾燥方法。
[6]前記第2の処理液は、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、(パーフルオロブトキシ)メタンおよび(パーフルオロブトキシ)エタンより選ばれる少なくとも1種のハイドロフルオロエーテル類からなるフッ素系溶剤と、炭素数1〜3の飽和1価アルコールとの混合液である、前記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の物品の水切り乾燥方法。
[7]前記第1の処理液は、エタノールを30〜60質量%含むアルコール水溶液であり、
前記第2の処理液は、93〜96質量%の1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルと、4〜7質量%のエタノールとからなる混合液である、前記[6]に記載の物品の水切り乾燥方法。
[8]前記第1の処理液は、イソプロパノールを45〜55質量%含むアルコール水溶液であり、
前記第2の処理液は、93〜96質量%の(パーフルオロブトキシ)メタンと、4〜7質量%のイソプロパノールとからなる混合液である、前記[6]に記載の物品の水切り乾燥方法。
[9]前記第2の処理液は、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンより選ばれる少なくとも1種のハイドロフルオロカーボン類からなるフッ素系溶剤と、炭素数1〜3の飽和1価アルコールとの混合液である、前記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の物品の水切り乾燥方法。
[10]前記第2の処理液は、30℃以上である、前記[1]〜[9]のいずれか1つに記載の物品の水切り乾燥方法。
[11]前記第1の処理工程および前記第2の処理工程の少なくとも一方の工程で、前記物品に超音波を照射する、前記[1]〜[10]のいずれか1つに記載の物品の水切り乾燥方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水切り乾燥方法によれば、水シミの発生を充分に抑制でき、しかも、安定に連続運転できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の水切り乾燥方法に用いられる水切り乾燥装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
図1は、本発明の水切り乾燥方法に用いられる水切り乾燥装置の一例を示す概略構成図である。
この水切り乾燥装置1は、ウェハなどの物品Wの水切り処理が行われる処理槽4と、該処理槽4の上方に位置し、水切り処理が行われた物品Wを不活性ガス雰囲気中に保持する処理液揮発部3とを備えている。この例の水切り乾燥装置1は、上端が開口した容器21aと、水平方向および垂直方向に移動して該容器21aの開口した上端に着脱自在に被せられる蓋体21bとを備えて構成され、容器21a内の下方に処理槽4が設置され、容器21a内における処理槽4の上方が処理液揮発部3となっている。
【0014】
処理槽4は、物品Wを収容するのに充分な大きさを有する箱型に形成されている。また、該処理槽4の上部外周には、全周にわたって外槽5が設けられ、処理槽4から溢流(オーバーフロー)した液が外槽5に一旦流入するようになっている。
また、この例では、処理槽4の底部の外側には超音波装置23が設置され、処理槽4内の物品Wに対して超音波を照射できるようになっている。
【0015】
水切り乾燥装置1は、アルコール水溶液からなる第1の処理液を処理槽4に供給する第1の処理液供給手段30と、フッ素系溶剤とアルコールとの混合液からなり、第1の処理液よりも比重が大きい第2の処理液を処理槽4に供給する第2の処理液供給手段31とを備えている。
第1の処理液供給手段30は、アルコール水溶液が貯留された第1貯液タンク7と、該第1貯液タンク7のアルコール水溶液を処理槽4に供給する第1供給ライン6とを備えている。第1貯液タンク7は処理槽4よりも容積が大きく、処理槽4の容積以上のアルコール水溶液を貯液している。第2の処理液供給手段31は、フッ素系溶剤とアルコールとの混合液が貯留された第2貯液タンク10と、該第2貯液タンク10の混合液を処理槽4に供給する第2供給ライン9とを備えている。第2貯液タンク10は処理槽4よりも容積が大きく、処理槽4の容積以上の混合液を貯液している。また、第1貯液タンク7と第2貯液タンク10は、それぞれ図示略の液補給手段および液排出手段を備え、第1貯液タンク7中のアルコール水溶液の量や第2貯液タンク10中の混合液の量に増減があった場合には、それぞれの液を適宜補給した排出したりできるようになっている。
【0016】
なお、図示例では、第1貯液タンク7に接続された第1供給ライン6と、第2貯液タンク10に接続された第2供給ライン9は、途中で三方弁14aを介して合流し、合流後のライン6(9)の下流端が、処理槽4の底部に対をなして設けられた液供給ノズル8,8に接続されている。すなわち、この例では、三方弁14aを切り換えることにより、第1貯液タンク7のアルコール水溶液か第2貯液タンク10の混合液のいずれかの液を適宜選択して、処理槽4に供給できるようになっている。
【0017】
また、この例の第1の処理液供給手段30は、第1貯液タンク7に貯液されているアルコール水溶液の濃度を一定に保つ図示略の液管理手段を備えている。
液管理手段は、例えば、第1貯液タンク7に貯液されているアルコール水溶液の濃度を測定する濃度測定装置と、第1貯液タンク7にアルコールを供給するアルコール供給手段とを備えて構成される。濃度測定装置としては、例えば、液の密度を測定する液密度計など、間接的に濃度を測定できる装置を使用することもできる。そして、液密度計とアルコール供給手段とを電気的に接続し、液密度計により検出された値に応じてアルコール供給手段が作動し、アルコールが適宜第1貯液タンク7に供給されるようにすることにより、第1貯液タンク7のアルコール水溶液(第1の処理液)の濃度を一定に維持する。
【0018】
また、この例の第2の処理液供給手段31は、第2の処理液を加温する加温手段として、第2貯液タンク10内に設置されたヒータ22を備えている。なお、ヒータは、第2供給ライン9に設けられてもよい。
【0019】
水切り乾燥装置1は、処理槽4および外槽5から第1の処理液を排出させる第1の処理液排出手段と、処理槽4および外槽5から第2の処理液を排出させる第2の処理液排出手段と備えている。
第1の処理液排出手段は、処理槽4内の第1の処理液を排出させる第1ドレイン管11と、外槽5内の第1の処理液を排出させる第1外槽ドレイン管とを備えている。この例では、外槽5の底部に接続されたドレイン管32と、該ドレイン管32が三方弁14bを介して2つに分岐したうちの一方のドレイン管、すなわち第1分岐ドレイン管13とにより、第1外槽ドレイン管が構成されている。第1ドレイン管11と第1分岐ドレイン管13は、それぞれの下流端が第1貯液タンク7に接続し、処理槽4および外槽5から排出された第1の処理液がそれぞれ第1貯液タンク7に返送され、貯液されるようになっている。
【0020】
第2の処理液排出手段は、処理槽4内の第2の処理液を排出させる第2ドレイン管12と、外槽5内の第2の処理液を排出させる第2外槽ドレイン管とを備えている。この例では、外槽5の底部に接続されたドレイン管32と、該ドレイン管32が三方弁14bを介して2つに分岐したうちの他方のドレイン管、すなわち第2分岐ドレイン管15とにより、第2外槽ドレイン管が構成されている。第2ドレイン管12と第2分岐ドレイン管15は、それぞれの下流端が第2貯液タンク10に接続し、処理槽4および外槽5から排出された第2の処理液がそれぞれ第2貯液タンク10に返送され、貯液されるようになっている。
【0021】
このように図示例では、三方弁14bを切り換えることにより、外槽5内の液が第1の処理液である場合には、これを第1貯液タンク7に返送し、外槽5内の液が第2の処理液である場合には、これを第2貯液タンク10に返送できるようになっている。
【0022】
処理液揮発部3は、容器21a内における処理槽4の上方の空間である。この例では、水切り乾燥装置1の備えるガス供給手段33により、窒素ガスなどの乾燥した不活性ガスが処理液揮発部3内に供給され、処理液揮発部3内が不活性ガス雰囲気とされることにより、すみやかに物品Wから第2の処理液が揮発するようになっている。ガス供給手段33は、不活性ガスボンベなどのガス供給源とガス供給ライン34とを備え、該ガス供給源からの不活性ガスは、ガス供給ライン34を通じて、処理液揮発部3に対応する部分の容器側壁に設けられた一対のガス供給ノズル18,18へと供給される。
【0023】
なお、この例では、ガス供給ライン34は途中で三方弁14cを介して2つのラインに分岐し、その後再び合流することを経て、ガス供給ノズル18,18に接続している。分岐した2つのライン16,19のうち一方のライン16にはヒータ17が備えられ、ガス供給源からの常温の不活性ガスを加熱して処理液揮発部3に供給できるようになっている。常温のガスを供給する場合には、ヒータが設けられていない他方のライン19からガスを供給すればよい。
また、処理液揮発部3に対応する部分の容器側壁には、処理液揮発部3内のガスを排気するための排気管20が接続されている。
【0024】
水切り乾燥装置1は、物品Wを保持して容器21a内を昇降させ、物品Wを処理槽4に出し入れする図示略のガイド手段を備えている。物品Wはこのガイド手段により、下降して処理槽4内に浸漬されたり、上昇して処理液揮発部3に配置されたりする。
なお、容器21aの開口した上端は、容器21a内に物品Wを出し入れするための搬入口に相当し、ここから容器21a内に搬入された物品Wは、ガイド手段に保持され、容器21a内を適宜昇降する。
【0025】
次に図1の水切り乾燥装置1を用いた水切り乾燥方法について説明する。
まず、蓋体21bを移動させて容器21aの上端を開放し、ここから、水洗処理が行われた後の物品Wを容器21a内の処理液揮発部3に搬入し、ガイド手段に保持させる。一方、第1貯液タンク7内の第1の処理液(アルコール水溶液)を第1供給ライン6を通じて液供給ノズル8,8に送り、該液供給ノズル8,8から処理槽4内に供給、充填する。
ついで、蓋体21bを移動させて容器21aの上端を閉塞するとともに、ガイド手段により物品Wを下降させ、処理槽4に供給された第1の処理液に物品Wを例えば30秒〜5分間浸漬させる(第1の処理工程)。
【0026】
この第1の処理工程では、超音波装置23を作動させ、物品Wに超音波を照射してもよい。超音波による物理的効果を加えることで、第1の処理液によるリンス性を向上させることができる。また、第1の処理液の温度は、15〜45℃とすることが好ましい。
【0027】
ついで、物品Wを処理槽4に浸漬させたまま、第2貯液タンク10内の第2の処理液(フッ素系溶剤とアルコールとの混合液)を第2供給ライン9を通じて、処理槽4の底部に接続した液供給ノズル8,8に送り、該液供給ノズル8,8から処理槽4内に供給する。すると、第2の処理液は、第1の処理液よりも比重が大きいため、処理槽4の底部側から溜まっていく。一方、このような混合液の供給にともなって、処理槽4の上部から比重の小さな第1の処理液は外槽5へとオーバーフローする。その後、第1の処理液は、外槽5から、ドレイン管32と第1分岐ドレイン管13とにより排出され、第1貯液タンク7へと返送、貯留される。
このような第1の処理液の排出と、第2の処理液の供給により、処理槽4内には、第1の処理液の層(上層)と第2の処理液の層(下層)とが形成される。
【0028】
引き続き、第2の処理液の処理槽4への供給と、それに伴う第1の処理液の処理槽4からの排出とを継続することにより、第2の処理液の層は徐々に厚くなり、一方、第1の処理液の層は徐々に薄くなっていく。そして、最終的には、処理槽4内の第1の処理液は全て第2の処理液に置換され、物品Wは第2の処理液に浸漬された状態となる(置換工程)。
【0029】
ここで第2の処理液は、ヒータ22での加温等によって、30℃以上であることが好ましく、さらに40℃以上であることが、第2の処理液による液置換性の観点から特に好ましい。
【0030】
その後、物品Wを第2の処理液に浸漬させた状態に例えば30秒〜5分間維持する(第2の処理工程)。
第2の処理工程では、超音波装置23を作動させ、物品Wに超音波を照射してもよい。超音波による物理的効果を加えることで、第2の処理液による第1の処理液の液置換性を向上させることができる。
【0031】
第2の処理工程後、ガイド手段により、物品Wを第2の処理液から引き上げて処理液揮発部3へと移動させ(引き上げ工程)、引き上げられた物品Wを処理液揮発部3で保持し、第2の処理液を揮発させる(処理液揮発工程)。
処理液揮発部3には、処理液揮発工程よりも前段側の工程が行われている間に、ガス供給手段33により常温又は加熱された不活性ガスを予め供給し、処理液揮発部3を不活性ガス雰囲気にしておく。そして、不活性ガスの供給を止め、物品Wの表面に付着した第2の処理液を自然に揮発させ、物品Wを乾燥させるか、または、処理液揮発工程中、不活性ガスの供給と排気管20を通じた排気とを連続的に行いつつ、物品Wから第2の処理液を揮発させる。また、供給された不活性ガスが物品Wの表面に当たるようにして、第2の処理液の揮発、乾燥を促進させてもよい。
【0032】
物品Wの表面から揮発した第2の処理液は、不活性ガスとともに排気管20から容器21a外へと排出される。
物品Wが乾燥した後、ガス供給手段33が作動している場合にはこれを停止させる。そして、蓋体21bを移動させて容器21aの上端を開放し、水切り乾燥装置1から物品Wを搬出する。
【0033】
一方、このように処理液揮発工程が行われている間、物品Wが引き上げられた後の処理槽4からは、第2の処理液が第2ドレイン管12を通じて排出され、第2貯液タンク10へと返送され、そこに貯留される。また、外槽5に第2の処理液が溜まっている場合には、この液も、第2貯液タンク10へと返送される。
このように返送、貯留された第2貯液タンク10中の第2の処理液と、すでに返送、貯留されている第1貯液タンク7中の第1の処理液は、水切り乾燥装置1での物品Wの処理に繰り返し使用される。
【0034】
なお、第1の処理液中のアルコール濃度は、第1の処理工程の前の工程に由来し、物品Wによって持ち込まれる水によって低下するおそれがある。よって必要に応じて、第1の処理液供給手段30の具備する図示略の液管理手段を作動させて、第1貯液タンク7のアルコール水溶液(第1の処理液)のアルコール濃度を一定に維持するようにしてもよい。
【0035】
このような水切り乾燥方法では、第1の処理液中に物品Wを浸漬させた状態で、第1の処理液を徐々に第2の処理液に置換していくため、物品Wの表面や細部に付着している第1の処理液の液滴を外部雰囲気(空気等。)に接触させることなく、非水系の第2の処理液で置換することができる。よって、第1の処理液の液滴が外部雰囲気中で乾燥し、その後、非水系の処理液で処理されることによる水シミの発生を充分に抑制することができる。また、ガイド手段の表面やガイド手段と物品Wとの接触部における第1の処理液の液滴も同時に置換できるため、このようにガイド手段に残存した第1の処理液の液滴が原因となって、物品Wに水シミが発生する可能性も排除できる。
【0036】
また、この例のように、処理槽4から引き上げた物品Wを、処理槽4が配置されている容器21a内の処理液揮発部3において、不活性ガス雰囲気中に保持して第2の処理液を揮発させることによって、水シミの発生をより抑制できる。
【0037】
そして、この水切り乾燥方法では、フッ素系溶剤とアルコールとの混合液(第2の処理液)による処理に先立って使用する第1の処理液として、アルコール水溶液を用いているため、より効果的に水シミの発生を抑制することができる。
すなわち、ここで仮に、第1の処理液として純水を用い、この第1の処理液を第2の処理液で置換していった場合には、その過程で、第2の処理液に含まれるアルコールが第1の処理液である純水に溶解し、第2の処理液のアルコール濃度が低下してしまう。アルコール濃度が低下した第2の処理液は、第1の処理液の液置換性が不充分となるため、物品の表面に水が残存しやすく、その結果、処理液揮発工程後の物品に水シミが生じやすい。このような問題を回避するためには、第2の処理液におけるアルコール濃度低下を抑えるために、第2の処理液にアルコールを連続的に添加する方法も考えられる。しかしながら、その場合には、引火防止対応の観点、液置換性の観点から、アルコールの適切な濃度管理を行わなければならない。また、アルコールを連続的に添加するための付帯設備も必要となるし、アルコールを多量に保有しなければならないという管理面の煩雑さも増す。
【0038】
これに対して、本例の水切り乾燥方法では、第1の処理液がアルコール水溶液であるため、第2の処理液中のアルコールの第1の処理液への溶解量は、第1の処理液が純水である場合に比べて低い。よって、第1の処理液を第2の処理液で置換していく過程における、第2の処理液のアルコール濃度の低下を抑制し、第2の処理液による液置換性を高く維持でき、水シミの発生を充分に抑制できる。また、たとえ長期間連続的に多数の物品Wを処理した場合でも、アルコールを添加する付帯設備を設けることなく、安定な連続運転を行うことができる。よって、例えば高精度な半導体デバイスの製造技術を実現することができ、歩留まりを向上させることができる。
【0039】
また、第2の処理液として、疎水性がありレジスト膜を溶解させないHFE類やHFC類等のフッ素系溶剤と、アルコールとの混合液を使用することにより、非常に効果的に第1の処理液を置換することができる。
ここで仮に、第2の処理液としてフッ素系溶剤のみを用いた場合には、フッ素系溶剤は疎水性であり、水との親和性が低いため、第1の処理液を第2の処理液で置換していく過程において、物品表面における第1の処理液に由来する水を完全に置換することができず、僅かに水が残る懸念がある。
これに対して、本例の水切り乾燥方法では、第2の処理液として、フッ素系溶剤と水の両方への親和性が高いアルコールを添加したフッ素系溶剤を用いるため、水とフッ素系溶剤の界面に薄いアルコールの膜ができ、物品Wの表面の水を容易に置換できるようになる。また、置換されずに物品Wの表面に水が僅かに残ったとしても、その水は第2の処理液のアルコールに溶解し、物品Wの表面から除去されるという効果もある。
よって、このように第2の処理液として、フッ素系溶剤とアルコールとの混合液を使用することにより、単にフッ素系溶剤のみを用いる場合にくらべて、水シミの発生を確実に抑制することができる。
【0040】
第2の処理液に好適に使用される市販のHFE類としては、例えば、旭硝子(株)製のアサヒクリンAE−3000(1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル)、住友スリーエム(株)製のNovecTM7100((パーフルオロブトキシ)メタン)、NovecTM7200((パーフルオロブトキシ)エタン)が挙げられる。市販のHFC類としては、例えば、旭硝子(株)製のアサヒクリンAC−2000(1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン)やアサヒクリンAC−6000(1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン)、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のバートレルXF(1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン)、日本ソルベイ(株)製のSolkane−365mfc(1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン)が挙げられる。また、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサンも好適に使用される。これらは、単独でも、2種以上を混合して使用してもよい。
第2の処理液に好適に用いられるアルコールとしては、アリルアルコール、アルカノール等が挙げられるが、なかでもメタノール、エタノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜3の飽和1価アルコールが好ましい。これらのアルコールは供給安定性が高く、フッ素系溶剤と水の両方への親和性も高く特に好ましい。これらは、単独でも、2種以上を混合して使用してもよい。
【0041】
第2の処理液のアルコールの含有割合は、1〜10質量%が好ましく、3〜8質量%がより好ましい。アルコールの含有割合が上記下限値以上であると、第1の処理液を第2の処理液で置換していく過程において、上述したアルコールの膜が充分に形成され、液置換性が優れる。また、物品の表面に残留した僅かな水もアルコールに充分に溶解させることができ、水シミの発生をより抑制できる。一方、第2の処理液におけるアルコールの含有割合が上記上限値以下であると、第2の処理液は引火点を有さず、取扱性に優れる。また、フッ素系溶剤とアルコールとが共沸組成または共沸様組成を有し、かつ、その際のアルコールの含有割合が上記範囲内である場合には、第2の処理液が蒸発する際の組成変動を抑制できることから、第2の処理液として共沸組成または共沸様組成である処理液を用いことが好ましく、共沸組成の処理液を用いることが特に好ましい。なお、共沸様組成の処理液とは、共沸組成の処理液に近い挙動を示す液である。
【0042】
第1の処理液に好適に用いられるアルコールとしても、アリルアルコール、アルカノール等が挙げられるが、なかでもメタノール、エタノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜3の飽和1価アルコールが好ましい。これらのアルコールは供給安定性が高く、特に好ましい。これらは、単独でも、2種以上を混合して使用してもよい。また、第2の処理液に用いたアルコールと同じ種類、組成のアルコールを用いることがさらに好ましい。
【0043】
第1の処理液中のアルコールの含有割合は、10〜60質量%が好ましい。さらには、第2の処理液中に含まれるアルコールが第1の処理液と接触した際に、アルコールが第1の処理液と第2の処理液で平衡となるような割合で、第1の処理液中に含まれていることが最も好ましい。第1の処理液中のアルコール濃度が上記下限値以上であると、第1の処理液を第2の処理液で置換していく過程において、第2の処理液中のアルコールが第1の処理液に溶解しにくく、第2の処理液中のアルコール濃度が低下しにくい。そのため、第2の処理液の液置換性を高く維持できる。一方、第1の処理液中のアルコール濃度が上記上限値以下であると、その第1の処理液は消防法危険物に該当せず、保管場所や保有量の管理、防爆仕様の洗浄設備が必要になるなどの管理の煩雑さがない。
【0044】
第1の処理液と第2の処理液の好適な組み合わせとしては、以下の組み合わせが例示できる。
例えば、第2の処理液として、93〜96質量%の1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(アサヒクリンAE−3000)と4〜7質量%のエタノールからなる混合液を用いた場合には、第1の処理液であるアルコール水溶液として、エタノールを30〜60質量%含む水を用いることが好ましい。この場合には、第2の処理液に含まれるエタノール濃度の変動がほとんどなく、水切り乾燥装置1の安定した連続運転が可能となる。より好ましくは、第2の処理液として、94〜96質量%の1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(アサヒクリンAE−3000)と4〜6質量%のエタノールからなる混合液を用い、第1の処理液であるアルコール水溶液として、エタノールを40〜50質量%含む水を用いる。
【0045】
また、第2の処理液として93〜96質量%の(パーフルオロブトキシ)メタン(NovecTM7100)と4〜7質量%のIPAの混合液を用いた場合には、第1の処理液であるアルコール水溶液として、IPAを45〜55質量%含む水を用いることが好ましい。この場合には、第2の処理液に含まれるIPA濃度の変動がほとんどなく、水切り乾燥装置1の安定した連続運転が可能となる。より好ましくは、第2の処理液として、94〜96質量%の(パーフルオロブトキシ)メタン(NovecTM7100)と4〜6質量%のIPAからなる混合液を用い、第1の処理液であるアルコール水溶液として、IPAを50〜55質量%含む水を用いる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。
以下の各例における水切り乾燥処理には、図1に水切り乾燥装置1を用いた。また、処理対象の物品Wとしては、ガイド手段であるウェハガイドに搭載された直径6インチのシリコン製のウェハを用いた。1回の処理においてウェハ50枚を用い、後述の各例に記載のとおりに、水切り乾燥を行った。
【0047】
なお、各例において、水切り乾燥処理に供するウェハとしては、薬液洗浄と純水リンス洗浄を交互に行うウェハ洗浄装置にて、一般的なウェハ洗浄プロセスに従って、以下に示す第1〜第4の薬液洗浄と、各々の薬液洗浄後の純水リンス洗浄を行った後のウェハを使用した。
第1の薬液洗浄は、SPM(HSO/Hの混合液)を用いたSPM洗浄で、ウェハWの表面に付着している有機汚染物等の不純物質を除去した。
第2の薬液洗浄は、APM(NHOH/H/HOの混合液)を用いたSC1洗浄で、ウェハの表面に付着している有機汚染物、パーティクル等の不純物質を除去した。
第3の薬液洗浄は、HPM(HCl/H/HOの混合液)を用いたSC2洗浄で、ウェハの表面に付着している金属イオン等を除去した。
第4の薬液洗浄は、DHF(HF/HOの混合液)を用いたDHF洗浄で、ウェハWの表面に形成された酸化膜等を除去した。
【0048】
[実施例1]
DHF洗浄後に純水リンス洗浄を行った後のウェハ(物品W)を水切り乾燥装置1の処理液揮発部3に搬入した。一方、第1の処理液供給手段30により、第1の処理液を液供給ノズル8を通して処理槽4に供給して充填した後、ウェハを処理槽4の第1の処理液中に浸漬させた(第1の処理工程)。
その後、第2の処理液供給手段31により、第2の処理液を処理槽4内に供給し、処理槽4の上部から第1の処理液をオーバーフローさせ、処理槽4内の第1の処理液を第2の処理液に全て置換した(置換工程)。その後、ウェハを浸漬した状態を維持してから(第2の処理工程)、ウェハガイドを上昇させ、第2の処理液中からウェハを引き上げた(引き上げ工程)。そして、ウェハを窒素雰囲気に曝しながら処理液揮発部3内に導入し、ウェハの表面に付着した第2の処理液を自然揮発させた(処理液揮発工程)。
その後、水切り処理装置1から、ウェハを搬出した。
なお、処理槽4へ供給する第2の処理液の液温は、ヒータ22での加熱により45℃とした。また、処理液揮発部3内へは、ヒータ17によって加熱した窒素ガスを供給するとともに排気管20を通して排気を行い、処理液揮発部3内が常に新鮮な不活性ガス雰囲気に保たれるようにした。
【0049】
実施例1では、第1の処理液として、エタノール濃度が45質量%のエタノール水を用い、第2の処理液として、アサヒクリンAE−3100E(旭硝子(株)製のHFEとエタノールの共沸混合物:1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(94)/エタノール(6)、沸点54℃)を用いた。ただし()内の数値は質量基準の含有割合である。
また、第1の処理工程(エタノール水による最終リンス洗浄)では、第1の処理液へのウェハの浸漬を3分間行い、第2の処理工程では、第2の処理液へのウェハの浸漬を1分30秒間行った。処理液揮発工程では、ウェハを不活性ガス雰囲気の処理液揮発部3で1分間保持した。
そして、水切り乾燥装置1から搬出したウェハの乾燥状態と水シミ発生の有無を目視確認した。
以上の一連の処理を10回連続して実施したところ、500枚全てのウェハの乾燥性は良好であり、水シミの発生もなかった。
また、10回の連続処理後の第2の処理液中のエタノール濃度は6質量%であり、第2の処理液の組成変動は認められなかった。
【0050】
[実施例2]
実施例1と同様の処理を行った。
ただし、実施例2では、第1の処理液として、IPA濃度が50質量%のIPA水を用い、第2の処理液として、NovecTM71IPA(3M(株)製のハイドロフルオロエーテルとIPAの共沸混合物:(パーフルオロブトキシ)メタン(95)/IPA(5)、沸点54.5℃)を用いた。()内の数値は質量基準の含有割合である。
また、第1の処理工程および第2の処理工程での浸漬時間、処理液揮発工程での保持時間は、実施例1と同じとした。
そして、水切り乾燥装置1から搬出したウェハの乾燥状態と水シミ発生の有無を目視確認した。
以上の一連の処理を10回連続して実施したところ、500枚全てのウェハの乾燥性は良好であり、水シミの発生もなかった。
また、10回の連続処理後の第2の処理液中のIPA濃度は5質量%であり、第2の処理液の組成変動は認められなかった。
【0051】
[実施例3]
実施例1と同様の処理を行った。
ただし、実施例3では、第1の処理液として、IPA濃度が25質量%のIPA水を用い、第2の処理液として、アサヒクリンAE−3200P(旭硝子(株)製のハイドロフルオロエーテルとIPAの共沸様混合物:1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(95)/IPA(5)、沸点55℃)を用いた。()内の数値は質量基準の含有割合である。
また、第1の処理工程および第2の処理工程での浸漬時間、処理液揮発工程での保持時間は、実施例1と同じとした。
そして、水切り乾燥装置1から搬出したウェハの乾燥状態と水シミ発生の有無を目視確認した。
以上の一連の処理を10回連続して実施したところ、500枚全てのウェハの乾燥性は良好であり、水シミの発生もなかった。
また、10回の連続処理後の第2の処理液中のIPA濃度は5質量%であり、第2の処理液の組成変動は認められなかった。
【0052】
[実施例4]
実施例1と同様の処理を行った。
ただし、実施例4では、第1の処理液として、エタノール濃度が50質量%のエタノール水を用い、第2の処理液として、アサヒクリンAC−2220(旭硝子(株)製のハイドロフルオロカーボンとエタノールの共沸様混合物:1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン(91)/エタノール(9)、沸点61℃)を用いた。()内の数値は質量基準の含有割合である。
また、第1の処理工程および第2の処理工程での浸漬時間、処理液揮発工程での保持時間は、実施例1と同じとした。
そして、水切り乾燥装置1から搬出したウェハの乾燥状態と水シミ発生の有無を目視確認した。
以上の一連の処理を10回連続して実施したところ、500枚全てのウェハの乾燥性は良好であり、水シミの発生もなかった。
また、10回の連続処理後の第2の処理液中のエタノール濃度は9質量%であり、第2の処理液の組成変動は認められなかった。
【0053】
[比較例1]
第1の処理液として、純水を用いた以外は、実施例1と同様の手順で、ウェハ500枚について、水切り乾燥処理を行った。
目視にて、ウェハの乾燥状態と水シミ発生の有無を確認したところ、10回の連続処理のうち5回目以降では、ウェハとウェハガイドの接点で、水シミが発生したウェハが認められた。また、5回目の処理が終了した時点での第2の処理液中のエタノール濃度は、4質量%に低下していた。さらに、10回目まで連続して処理を実施したが、10回目の処理後のウェハにはウェハガイドの接点において少量の水が残留していた。また、10回の連続処理後の第2の処理液中のエタノール濃度は2質量%まで低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の水切り乾燥方法は、半導体製造業、精密機械工業、光学機械工業、電気電子工業またはプラスチック工業等において、レジスト膜付きの基板などの半導体ウェハやレンズ、液晶表示装置部品、電子部品、精密機械部品等の様々な物品の水洗処理後の物品の水除去処理に適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
W 物品
1 水切り乾燥装置
2 処理槽
3 処理液揮発部
30 第1の処理液供給手段
31 第2の処理液供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽内に供給された第1の処理液に、物品を浸漬させる第1の処理工程と、
前記物品を浸漬させたまま、前記処理槽内に前記第1の処理液よりも比重が大きい第2の処理液を供給しつつ、前記処理槽の上部から前記第1の処理液を排出して、前記処理槽内の前記第1の処理液を前記第2の処理液に置換する置換工程と、
前記物品を前記第2の処理液に浸漬させた状態に維持する第2の処理工程と、
該第2の処理工程後に、前記第2の処理液から前記物品を引き上げる引き上げ工程と、を有し、
前記第1の処理液は、アルコール水溶液であり、
前記第2の処理液は、フッ素系溶剤とアルコールとの混合液である、物品の水切り乾燥方法。
【請求項2】
引き上げられた前記物品を不活性ガス雰囲気中に保持する処理液揮発工程をさらに有する、請求項1に記載の物品の水切り乾燥方法。
【請求項3】
前記アルコール水溶液は、アルコール濃度が10〜60質量%である、請求項1または2に記載の物品の水切り乾燥方法。
【請求項4】
前記アルコール水溶液に含まれるアルコールは、炭素数が1〜3の飽和1価アルコールである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の物品の水切り乾燥方法。
【請求項5】
前記第2の処理液は、90〜99質量%のフッ素系溶剤と、1〜10質量%のアルコールとからなる混合液である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の物品の水切り乾燥方法。
【請求項6】
前記第2の処理液は、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、(パーフルオロブトキシ)メタンおよび(パーフルオロブトキシ)エタンより選ばれる少なくとも1種のハイドロフルオロエーテル類からなるフッ素系溶剤と、炭素数1〜3の飽和1価アルコールとの混合液である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の物品の水切り乾燥方法。
【請求項7】
前記第1の処理液は、エタノールを30〜60質量%含むアルコール水溶液であり、
前記第2の処理液は、93〜96質量%の1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルと、4〜7質量%のエタノールとからなる混合液である、請求項6に記載の物品の水切り乾燥方法。
【請求項8】
前記第1の処理液は、イソプロパノールを45〜55質量%含むアルコール水溶液であり、
前記第2の処理液は、93〜96質量%の(パーフルオロブトキシ)メタンと、4〜7質量%のイソプロパノールとからなる混合液である、請求項6に記載の物品の水切り乾燥方法。
【請求項9】
前記第2の処理液は、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンより選ばれる少なくとも1種のハイドロフルオロカーボン類からなるフッ素系溶剤と、炭素数1〜3の飽和1価アルコールとの混合液である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の物品の水切り乾燥方法。
【請求項10】
前記第2の処理液は、30℃以上である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の物品の水切り乾燥方法。
【請求項11】
前記第1の処理工程および前記第2の処理工程の少なくとも一方の工程で、前記物品に超音波を照射する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の物品の水切り乾燥方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−34931(P2013−34931A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171902(P2011−171902)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】