説明

水利構造物の逆流防止水抜き構造

【課題】構造物側から外部への漏水を確実に遮断し、構造物外側の水を構造物内部に速やかに排水し、かつ、施工が簡素でしかも目詰まりを防ぐ。
【解決手段】柔軟性を有する遮水シート3を、水利構造物2の表面2Aの一部を覆って敷設し、この遮水シート23を、外縁の一部が構造物側に密着された密着部4A、4B、4Cと、遮水シート3表裏間の水圧の差(Pfl−Pgw)により構造物表面に接離自在に載置される開閉部4Dとを備えて構成し、漏水部側の高圧時(Pgw>Pfl)、開閉部4Dにより排水口5を形成するようにした。排水口5対応する構造物側表面には、開閉部4Dが載置される平滑部6、7を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯水池や水路などの水利構造物の逆流防止水抜き構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、水利構造物の地盤側に湧水が生じたり地下水位が高くなると、浸透水や浸透流により揚圧力の発生や洗掘作用で構造物に亀裂が生じたり不等沈下や浮上を招くことがある。このため、従来から地下水など地盤側の水をウィープホール(水抜き逆止弁)を通じて水路に放出し、構造物の亀裂や浮上を防ぐようにしている。例えば、このような水抜き用逆流防止弁として、上部が構造物に開口し、下部に地盤の透水層に連通する有孔管を備えた筒体に球状フロートを浮き上がり自在に収容し、球状フロートの上方に浮き上がり時着座して連通を遮断するパッキンを備えた排水装置が提案されている。この排水装置では、雨水が少ない場合、流入した水を筒体から透水層に逃がし、地下水位が上昇すると、球状フロートを押し上げて連通を遮断し、地下水が逆流するのを阻止するようにしている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、この従来の装置では、地下水位上昇の際、構造物の浮上を招く虞がある。このため、このような課題を解決するため、コンクリート構造物の表層壁を貫通させた水抜き構造が提案されている。この水抜き構造は、水抜きパイプを表層壁に埋め込み端部を表層壁に露出させ、集水シートの切り抜き穴を水抜きパイプの露出端に合致させて、蓋体で集水シートの切り抜き穴を閉塞し、支持軸に形成された係止翼を水抜きパイプの内壁に係止して固定させるようにしている。このような水抜き構造とすることにより、パイプ径にばらつきがあってもワンタッチで装着でき、水抜きパイプの開口端を蓋体で閉塞して砂礫の進入を阻止し、蓋体の全周から集水された水が水抜きパイプ内へ流出されるようになっている。(特許文献2参照)。また、裏込め土側からの水流に対しては開放し、水路または河川側からの水流に対しては閉鎖するようにしたカートリッジ式ウィープホールが知られている。このウィープホールは、外管、内管および本体から構成される多重管体の開口端を水路側に臨ませ、水抜き孔が穿設された水抜き部を裏込め土側に配し、内部に逆流防止弁を取り付けるようにしている(特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3171331号公報(第3−4頁、図1)
【特許文献2】特許第2709446号公報(第3−4頁、図1)
【特許文献3】特開2006−16862号公報(第4頁、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に係る排水装置では、球状フロートとパッキンとの間に異物が混入すると遮水性を確保できないという問題がある。また上記特許文献2および3に係る水抜き構造では、水利構造物内面の平坦性を保つ上で、内面に蓋体による凸状部分の出現が避けられず、この故に構造物内面に生じる凸状部分が障害物となり、凸状部分の背後に後流渦が生じ、集水シートの摩耗を促進させたり、ごみ等の浮遊物が付着し、付着した浮遊物の塊が通水を阻害する虞がある。水利構造物内面の平坦性を確保するため、凸状部分を構造物の躯体内や地盤内部に収めようとすると、掘削等の作業が必要となり、コスト増を招くだけでなく、施工も煩雑になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、簡素な構成で、構造物側から外部への漏水を確実に遮断する一方、構造物外側の水を速やかに構造物内部に導くことができ、しかも、施工効率が良好でかつ目詰まりが生じにくい水利構造物の逆流防止水抜き構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、水利構造物外側への漏水を阻止し水利構造物外側から内側への排水を許容する水利構造物の逆流防止水抜き構造であって、柔軟性を有する遮水シートを、水利構造物表面に構造物の漏水部を覆い隠して敷設し、この遮水シートを、その外縁の一部が構造物側に密着される密着部と、遮水シート表裏側間の水圧の差により構造物表面側に接離自在に載置され排水口を形成可能な開閉部とを備えて構成するとともに、上記排水口に対応する構造物表面には、平滑部を設け、構造物外側の水圧が高圧の際、開閉部を開放して遮水シート裏側の水を排水することを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項1に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、水利構造物外側への漏水を阻止し水利構造物外側から内側への排水を許容する水利構造物の逆流防止水抜き構造であって、柔軟性を有する遮水シートを、水利構造物表面に構造物の漏水部を覆い隠して敷設し、この遮水シートを、その外縁の一部が構造物側に密着される密着部と、遮水シート表裏側間の水圧の差により構造物表面側に接離自在に載置され排水口を形成可能な開閉部とを備えて構成するとともに、上記排水口に対応する構造物表面には、平滑部を設け、構造物外側の水圧が高圧の際、開閉部を開放して遮水シート裏側の水を排水するようにしたことにより、遮水シート表側の水圧、すなわち、構造物内の水圧が、遮水シート裏側の水圧、すなわち、構造物外側の水圧より高いと、構造物内の水圧は遮水シートの開閉部を構造物表面と平滑部とに押し付けて重ね、面接触させる。このため、遮水シートで覆われた構造物に漏水箇所があっても、構造物内の水は構造物から外部に漏れることがない。他方、構造物内の水圧が、遮水シート裏側の水圧より低い、すなわち、構造物の漏水箇所の水圧が構造物内の水圧より高いと、構造物外側の水圧は遮水シートの裏面に作用して遮水シートの開閉部開放端を平滑部から押し上げ、開閉部開放端は平滑部から離れ、排水口が形成される。この排水口を通じて、漏水箇所の高圧の水は遮水シートの表側、すなわち、構造物内部に向かって排出される。遮水シート表裏側の水圧差が失われると、遮水シートの開閉部は浮力を引いた自重により構造物表面と平滑部とに再び載置され漏水箇所を塞ぐ。こうして、遮水シートは、構造物側から外部への漏水を確実に遮断する一方、構造物外側の水圧が高くなると、その水を構造物内部に排出する逆止弁の働きを果たす。また、構造物表面に土砂等の異物が堆積しても、開閉部が開いて構造物外側から内側に水が排出されるたびに押し流されるので、構造物表面と平坦部とは平滑さが保持され、開閉部が閉じると、開閉部の開放端は平滑部に確実に密接される。たとえ、土砂等の異物が構造物表面に残っても、遮水シートの開放端部は上側から水圧を受けて平滑部上で異物を覆い塞ぎ、他の面が構造物表面に押し付けられて遮水シート表裏側間の連通を断つので、漏水を確実に遮断する。
【0009】
本発明の請求項2に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、水利構造物外側への漏水を阻止し水利構造物外側から内側への排水を許容する水利構造物の逆流防止水抜き構造であって、柔軟性を有する遮水シートを、水利構造物表面に構造物の漏水部を覆い隠して敷設し、この遮水シートには、開口部を形成するとともに、遮水シート外縁を構造物側に密着させ、遮水シートの表面には、この開口部を覆い隠す柔軟性を有する遮水性シートからなる蓋部を設け、この蓋部を、その外縁の一部が遮水シートに密着される蓋密着部と、蓋部表裏側間の水圧の差により構造物表面側に接離自在に載置され排水口を形成可能な蓋開閉部とを備えて構成するとともに、上記蓋部に対応する構造物表面には、平滑部を設け、構造物外側の水圧が高圧の際、蓋開閉部を開放して遮水シート裏側の水を排水することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項2に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、水利構造物外側への漏水を阻止し水利構造物外側から内側への排水を許容する水利構造物の逆流防止水抜き構造であって、柔軟性を有する遮水シートを、水利構造物表面に構造物の漏水部を覆い隠して敷設し、この遮水シートには、開口部を形成するとともに、遮水シート外縁を構造物側に密着させ、遮水シートの表面には、この開口部を覆い隠す柔軟性を有する遮水性シートからなる蓋部を設け、この蓋部を、その外縁の一部が遮水シートに密着される蓋密着部と、蓋部表裏側間の水圧の差により構造物表面側に接離自在に載置され排水口を形成可能な蓋開閉部とを備えて構成するとともに、上記蓋部に対応する構造物表面には、平滑部を設け、構造物外側の水圧が高圧の際、蓋開閉部を開放して遮水シート裏側の水を排水するようにしたことにより、遮水シート表側の水圧、すなわち、構造物内の水圧が、遮水シート裏側の水圧、すなわち、構造物外側の水圧より高いと、構造物内の水圧は遮水シートを構造物表面に、蓋部を平滑部と遮水シート表面とに押し付けて重ね面接触させる。このため、遮水シートと蓋部とで覆われた構造物表面に漏水箇所があっても、構造物内の水は構造物から外部に漏れることがない。他方、構造物内の水圧が、遮水シート裏側の水圧より低い、すなわち、構造物の漏水箇所の水圧が構造物内の水圧より高いと、構造物外側の水圧は遮水シートの裏面に作用するとともに、開口部から蓋部に作用して蓋部の蓋開閉部を押し上げ、蓋開閉部は平滑部から離れるとともに蓋開閉部の開放端が遮水シート上面から離れ排水口が形成される。この排水口を通じて、漏水箇所の高圧の水は、遮水シートの表側、すなわち、構造物内部に向かって排出される。遮水シート表裏側の水圧差が失われると、蓋部の蓋開閉部は浮力を差し引いた自重により構造物表面側と遮水シート表面とに再び載置され漏水箇所を塞ぐ。こうして、遮水シートと蓋部とは、構造物側から外部への漏水を確実に遮断する一方、構造物外側の水圧が高くなると、その水を構造物内部に排出する逆止弁の働きを果たす。また、構造物表面や遮水シート表面に土砂が堆積しても、蓋開閉部が開いて構造物外側から内側に水が排出されるたびに押し流されるので、構造物表面と遮水シート表面とは平坦さが保持され、蓋開閉部が閉じると、構造物表面に確実に密接される。たとえ、土砂等の異物が構造物表面や遮水シート表面に残っても、遮水シートと蓋部は上側から水圧を受けて異物を覆い塞ぎ、他の面が構造物表面に押し付けられて遮水シート表裏側間の連通を断つので、漏水を確実に遮断する。
【0011】
本発明の請求項3に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、平滑部には、開閉部または蓋開閉部に対応する部位に遮水性シートからなる着座部材を設けたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項3に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、平滑部には、開閉部または蓋開閉部に対応する部位に遮水性シートからなる着座部材を設けたことにより、開閉部または蓋開閉部が閉じる際、シート状のもの同士が重なって面接触されるので、遮断性能が向上する。
【0013】
本発明の請求項4に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、着座部材は、平滑部より外側に延長され、着座部材表裏間の水圧の差により構造物表面から接離し、着座部材裏側の水圧が高くなると構造物表面から離れて構造物側に水を排水し、着座部材表側の水圧が高くなると構造物表面に載置される着座部材開閉部を有することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項4に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、着座部材は、平滑部より外側に延長され、着座部材表裏間の水圧の差により構造物表面から接離し、着座部材裏側の水圧が高くなると構造物表面から離れて構造物側に水を排水し、着座部材表側の水圧が高くなると構造物表面に載置される着座部材開閉部を有するようにしたことにより、構造物側から外部への漏水を遮断する面積を増大させるとともに、構造物外側から構造物表面を通じて漏水箇所を覆う面積を増大させる。
【0015】
本発明の請求項5に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、着座部材には開口を形成するとともに、この着座部材の一部を開閉部裏面または蓋開閉部裏面と接続して一体動させることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の請求項5に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、着座部材には開口を形成するとともに、この着座部材の一部を開閉部裏面または蓋開閉部裏面と接続して一体動させるようにしたことにより、開閉部または蓋開閉部が閉じる際、平滑部に接触する面積を増大させ、漏水遮断性能を向上させる。
【0017】
本発明の請求項6に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、開閉部または蓋開閉部には、遮水シート裏側からの水を逃がす逃がし孔が形成されることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の請求項6に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、開閉部または蓋開閉部には、遮水シート裏側からの水を逃がす逃がし孔が形成されるようにしたことにより、構造物外側の高圧の水を速やかに構造物内部に排出することができるので、豪雨などで構造物外側の水位がたとえ急激に上昇しても対応することができる。
【0019】
本発明の請求項7に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、開閉部または蓋開閉部により形成される排水口を、構造物の水流の下流側に向けたことを特徴とするものである。
【0020】
本発明の請求項7に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、開閉部または蓋開閉部により形成される排水口を、構造物の水流の下流側に向けたことにより、構造物内の水圧が遮水シート裏側の水圧より高い際には、開閉部または蓋開閉部は水圧だけでなく水流によっても構造物表面側に押し当てられるので、確実に閉じられ、遮水性能が向上する。他方、遮水シート裏側の水圧が構造物内の水圧より高い際には、開閉部または蓋開閉部がわずかに開いただけで遮水シート裏側の水は水流に押し出されるように排出されるので、排水効率が向上する。
【0021】
本発明の請求項8に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、開閉部または蓋開閉部表側面を、水抵抗が増大する粗面に形成したことを特徴とするものである。
【0022】
本発明の請求項8に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、開閉部または蓋開閉部表側面を、水抵抗が増大する粗面に形成したことにより、開閉部または蓋開閉部は水抵抗が増大し開きにくくなるので排水圧を大きく設定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、水利構造物外側への漏水を阻止し水利構造物外側から内側への排水を許容する水利構造物の逆流防止水抜き構造であって、柔軟性を有する遮水シートを、水利構造物表面に構造物の漏水部を覆い隠して敷設し、この遮水シートを、その外縁の一部が構造物側に密着される密着部と、遮水シート表裏側間の水圧の差により構造物表面側に接離自在に載置され排水口を形成可能な開閉部とを備えて構成するとともに、上記排水口に対応する構造物表面には、平滑部を設け、構造物外側の水圧が高圧の際、開閉部を開放して遮水シート裏側の水を排水するようにしたので、簡素な施工で、構造物側から外部への漏水を確実に遮断する一方、構造物外側の水を速やかに構造物内部に導いて排水効率を向上させることができる。さらに、構造物の表面形状をほぼそのまま保持できるので水理機能を損なうことなく通水性能を確保することができる。目詰まりを起こすことがないので、メンテナンスのコストを削減することができる。
【0024】
本発明の請求項2に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、水利構造物外側への漏水を阻止し水利構造物外側から内側への排水を許容する水利構造物の逆流防止水抜き構造であって、柔軟性を有する遮水シートを、水利構造物表面に構造物の漏水部を覆い隠して敷設し、この遮水シートには、開口部を形成するとともに、遮水シート外縁を構造物側に密着させ、遮水シートの表面には、この開口部を覆い隠す柔軟性を有する遮水性シートからなる蓋部を設け、この蓋部を、その外縁の一部が遮水シートに密着される蓋密着部と、蓋部表裏側間の水圧の差により構造物表面側に接離自在に載置され排水口を形成可能な蓋開閉部とを備えて構成するとともに、上記蓋部に対応する構造物表面には、平滑部を設け、構造物外側の水圧が高圧の際、蓋開閉部を開放して遮水シート裏側の水を排水するようにしたので、簡素な施工で、構造物側から外部への漏水を確実に遮断する一方、構造物外側の水を速やかに構造物内部に導いて排水効率を向上させることができる。さらに、構造物の表面形状をほぼそのまま保持できるので水利機能を損なうことなく通水性能を確保することができる。目詰まりを起こすことがないので、メンテナンスのコストを削減することができる。必要に応じて開口部と蓋部とを自在に設けることができるので、現場に応じて柔軟に対処することができ、施工性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
構造物側から外部への漏水を確実に遮断し、かつ、構造物外側の水位上昇時、水を内部に効率的に排水するという目的を、柔軟性を有する遮水シートを、水利構造物表面に構造物の漏水部を覆い隠して敷設するとともに、この遮水シートを、その外縁の一部が構造物側に密着される密着部と、遮水シート表裏側間の水圧の差により構造物表面に接離自在に載置され、漏水部側の高圧時、排水口を形成する開閉部とを備えて構成し、排水口に対応する構造物表面側には、開閉部が載置される平滑部を設けたことにより実現した。
【実施例1】
【0026】
以下、図面に示す各実施例により本発明を説明する。図1は、本発明の第1の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造を示す一部破断斜視図、図2の(A)、(B)はそれぞれ、逆流防止水抜き構造の遮水時と排水時の状態を示す要部の断面図である。本発明の第1の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、図1に示すように、コンクリート製の水路(水利構造物)2と、この水路2の一部、例えば、摩耗や浸食など経年劣化により躯体に漏水箇所が生じた底部2Aまたは壁部2Bを覆って設けられる遮水シート3とを備えて構成される。水路2は底部2Aとその底部から立ち上がる壁部2B、2Bとを備えて構成される。底部2Aは、コンクリート製水路床であってもよいし、地盤が露出した地盤面であってもよい。遮水シート3は、構造物2内の水が外部へ漏出するのを防止するようになっている。遮水シート3は、1〜2mmの厚さを有する柔軟性を備えた可撓性シートで、予め設計寸法に基づいて外縁がカットされ、漏水箇所が生じた底部または壁部に対してその周囲に広がって漏水箇所を覆い隠すように敷設される。設計寸法でカットされた遮水シート3は、例えば、図1に示すように、底部2Aに敷設される。
【0027】
この遮水シート3は、水路底部2Aの形状に沿って、水路壁部2B、2B間に、漏水箇所に応じて所定の流れ方向長さL1で敷設される。水路2が直線状の場合、遮水シート3は、幅W1と長さL1の寸法を有する矩形状となっている(水路底面における水路壁部2B、2B間の距離をD1とすると、遮水シートの寸法(W1≦D1)×L1)。遮水シート3には、柔軟性の良好な合成高分子系ルーフィングシートやジオメンブレンなどの樹脂製シート材料などを単独でまたは組み合わせて用いるようにしている。また、遮水シート3は、従来公知のものを使用する。例えば、加硫ゴム系シート、非加硫ゴム系シート、熱可塑性エラストマー系シート、塩化ビニル樹脂系シート、エチレン酢酸ビニル樹脂系シートなどで、これらを単独でまたは組み合わせて用いるようにしている。このように、遮水シート3には、耐久性の良好な材料を使用するようになっている。
【0028】
ところで、矩形状の遮水シート3の外縁は、上流側の外縁4Aおよび側壁側の外縁4B、4Cが連続してコンクリート製水路2の底部2Aに密着されるようになっている。これら密着された外縁4A、4B、4Cにより遮水シート3の密着部4を構成している。さらに、遮水シート3の下流側外縁4Dは接着されず開閉自在になっており、下面が、水路底部2A側に載せられるようになっている。このため、下流側外縁4Dは、下側の圧力が高いと押し上げられ、上側の圧力が高いと水路底部2A側に押し付けられるようになっている。この遮水シート3の下流側外縁4Dと密着部4で囲まれた内側部分とで、遮水シート3の開閉部8を構成している。この開閉部8は、水路底部2Aの漏水箇所の水圧Pgwが、遮水シート3の表側、すなわち、水流FLの流れる側の水圧Pflより大きくなると(Pgw>Pfl)、その圧力が裏面に作用してその水圧差(Pgw−Pfl)の力で上方に、つまり、水流FL側に押し上げられ、下流部外縁4Dとともに水路底部2Aから離れるようになっている。遮水シート3の下流側外縁4Dが押し上げられると、下流側外縁4Dと水路底部2Aとの間に隙間が生じ排水口5が形成される。この下流側に向いた排水口5から、水路底部2A側の高圧の水GWが水流中に排出されるようになっている。開閉部8裏側の高圧の水GWが排出され、遮水シート3表側の水流FL側の水圧Pflと差がなくなってくると、開閉部8は、浮力を差し引いた自重により下方に沈み、水路底部2Aに着座して、遮水シート3の裏側と表側との連通を遮断し、逆止弁の役割を果たすようになっている。
【0029】
水路底部2Aには、遮水シート3の下流側外縁4Dに対応する部分に、下流側外縁4Dが着座する平滑部6が設けられる。平滑部6は、上面6Aが平滑に加工される。下流側外縁4Dが平滑部6に着座すると、下流側外縁4Dは上側平滑面6Aに重なり面接触して載置されるようになっている。平滑部6は、コンクリート製水路底部2Aの表面を平滑に加工してもよいし、上側に平滑面6Aを有するプレート7を、地盤からなる水路底部2Aの表面と合致させて埋設させるようにしてもよい。
【0030】
すなわち、本実施例においては、遮水シート3の下流側外縁4Dが配置され排水口5が形成される部位に対応させて、水路2(躯体または地盤面)を平滑に処理することが望ましい。これは、平滑に処理された水路2と、下流側外縁4Dとの密着性を確保し、逆止弁としての働きを確実にする目的で実施する。遮水シート3の下流側外縁4Dに対応する水路底部2Aを平滑に処理するには、ポリマーセメントモルタルを水路底部2Aに打設したり、プラスチック製平板7を設置して行う。コンクリート水路2は、特に底盤面2Aや側壁面2B、2Bの下部では、長期間の供用を通じ水流FLの影響による溶出・溶脱や、混在する砂・砂利・礫分等による摩耗・欠損、また、水中に含有される酸性成分・塩分・油分等の悪影響を与える物質による劣化・浸食、ならびに凍害等による劣化・損傷などにより、その表面が脆弱化して粗面となっている場合が多い。そのため、遮水シート3の取り付けに先立ち、取り付け箇所に位置する躯体2の粗面となっている表面を平滑面に修復することが望ましい。
【0031】
躯体または地盤面2Aを粗面から平滑面に修復するに際しては、上述のように(a)ポリマーセメントモルタルを打設するか、(b)プラスチック製平板7を設置することにより行うが、ポリマーセメントモルタルの打設においては、水路2表面の劣化・脆弱化部分を除去し、エポキシ樹脂接着剤等のプライマーを塗布した後、ポリマーセメントモルタルを打設して水路表面を修復する。
【0032】
水路2表面の劣化・脆弱部分の除去においては、高圧水を利用したウォータージェットによる方法や電動ピックを使用した方法などの公知の任意の方法が用いられる。
【0033】
エポキシ樹脂接着剤等のプライマーは、コンクリートの脆弱層部の強化、ポリマーセメントモルタルとの一体化、接着耐久性向上などの効果を併せ持つものである。エポキシ樹脂接着剤としては、例えば、液状のエポキシ樹脂組成物を主成分とする主剤と、液状のアミン化合物や酸無水物等を主成分とする硬化剤を混合して得られるエポキシ系接着剤等を用いることができるが、これに限られるものではなく、市販されている任意のコンクリート打ち継ぎ用エポキシ系接着剤を少なくとも1種用いてもよい。また、上記のプライマーとしての効果が期待できるものであれば、従来公知のプライマーのうち、任意の1種以上を使用してもよい。例えば、ウレタン樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、エマルション系接着剤などを使用してもよい。
【0034】
ポリマーセメントモルタルとしては、従来公知のものであれば、任意の1種以上を使用してもよい。例えば、NRモルタル、CRモルタル、SBR(スチレン−ブタジエン共重合体)モルタル、PAE(ポリアクリル酸エステル)モルタル、PVACモルタル、EVA製モルタルなどを単独でまたは混合して使用することができる。また、上記のポリマーセメントモルタルによる修復の効果が期待できるものであれば、従来公知の修復材のうち、任意の1種以上を使用することができる。例えばコンクリート、セメントモルタル系断面修復材、樹脂モルタル系断面修復材なども使用できる。
【0035】
プラスチック製平板7を設置する場合においては、既設水路表面にプラスチック製平板7を設置し、アンカーボルト等により平板7を固定し、既設の水路2の表面2Aと平板7との間隙にコンクリートやセメントモルタルなどを充填させ、水路表面を修復するようにすることが望ましい。
【0036】
プラスチック製平版7としては、従来公知のものであれば、任意の1種以上を使用することができる。例えば、PVC(ポリ塩化ビニル樹脂)製平板、PE(ポリエチレン樹脂)製平板、PP(ポリプロピレン樹脂)製平板、PS(ポリスチレン樹脂)製平板、ABS製樹脂平板、アクリル樹脂製平板などの熱可塑性樹脂製平板、フェノール樹脂製平板、メラミン樹脂製平板、ユリア樹脂製平板、FRP(繊維強化プラスチック)製平板などの熱硬化性平板などを単独または混合して使用できる。いずれも、水流側の上面が平滑に加工または成形されているものを用いる。
【0037】
次に、本発明の第1の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造の作用について説明する。本実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、所定寸法(W1×L1)にカットされた遮水シート3を、水路底部2Aのうち漏水箇所が生じた部位の周囲に広げて、漏水箇所を覆って敷設し、この遮水シート3の外縁を、水路底部2A側に密着された密着部4(4A〜4C)と、遮水シート3表裏間の水圧の差(Pgw−Pfl)により水路底部2Aに接したり離れたりする下流側外縁4Dを有する開閉部8とにより構成するとともに、この下流側外縁4Dに対応する水路底部2Aには、平滑部6、7を設けている。このため、水路2側の水圧Pflが遮水シート3裏側の水圧(漏水箇所に水圧)、すなわち、水路2外側の水圧Pgwより高いと、開閉部8を水路底部2Aに押し付け、下流側外縁4Dを平滑面6Aに押し当て、密接させる。このため、遮水シート3で覆われた水路2表面に漏水箇所があっても、水路2内の水圧Pflが漏水箇所の水圧Pgwより高圧でありさえすれば、水路2内の水が水路2から外部に漏れることがない。他方、水路2内の水圧Pflが、遮水シート3の裏側の水圧Pgwより低い、すなわち、水路2表面の漏水箇所の水圧Pgwが水路2内の水圧Pflより高いと、水路2の漏水部側の水圧Pgwは、遮水シート開閉部8の裏面に作用して下流側外縁4Dを押し上げ、この外縁4Dは平滑面6Aから離れる。平滑面6Aから離れた下流側外縁4Dは、平滑面6Aとの間で排水口5を下流側に向けて形成し、この排水口5を通じて、水路2外側の高圧の水GWは遮水シート3の表側、すなわち、水路2の水流FLに向かって排出される。遮水シート3表裏側の水圧差が消失すると、開閉部8は、浮力分を差し引いた自重により水路底部2Aに降下し、下流側外縁4Dは、平滑面6Aに再び重なり密接して排水口5を塞ぐ。
【0038】
こうして、遮水シート3は、水路2側から外部(地盤側)への漏水を確実に遮断する一方、水路2外側の湧き水や地下水GWの水圧が高くなると、その水を水路2内に排出する逆止弁の働きを果たし、目詰まりを起こすことがない。また、万一、平滑面6A上に土砂が堆積しても、下流側外縁4Dが開いて水路2外側から内側に水が排出されるたびに押し流されるので、平滑面6Aは平滑さが保持され、下流側外縁4Dが閉じると、平滑部6、7に確実に密接される。たとえ、土砂等の異物が平滑面6Aに残っても、柔軟性を有する遮水シート3は上側から水圧を受けて異物を覆い塞ぎ他の面が平滑面6Aに押し付けられて遮水シート表裏側の連通を断つので、漏水を確実に遮断する。なお、下流側外縁4Dを下流側に延長してより重量を増したシート状の下流延長部とし、平滑部6、7をこのシート状延長部の下面に沿って延長し、浸透路長を確保して閉塞性を高めるようにしてもよい。
【0039】
このように第1の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、遮水シート3表裏側の静水圧の差で下流側外縁4Dを開閉して逆流を防止する構造となっている。排水口5を塞ぐ遮水シート3の材料に対して、表面側の表面粗度を増加させる表面処理を行うことで動水圧を増大させ、排水口5の閉塞性を高めることができる。また、この第1の実施例では、下流側外縁4Dにおける平滑面6Aとの密着性により、遮水性を確保する構造でもある。通常時は、水路2の水位に応じて、遮水シート3の表裏側の静水圧の差で、排水口5は閉塞され、遮水性が確保される。一方、排水時は、遮水シート3と水路底部2表面の漏水箇所との間を流れる湧水・地下水GWが開閉部8を押し上げ、遮水シート3の表側に排水を行う。下流側に向いた排水口5は、その開口面積の大きさを拡大させることが容易であるため、予想される湧水、地下水量に対して十分な大きさを確保でき、また、排水口5の大きさを拡大させることによる遮水性の低下も生じないことから、十分な排水性を確保することが可能である。こうして、第1の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、遮水シート3と躯体・地盤(底部2A)の平滑処理面間の密着性を図り、高い遮水性を維持するようにしている。
【実施例2】
【0040】
次に、本発明の第2の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造について説明する。この第2の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、上記第1の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造が、遮水シート3の下流側外縁4Dを、水路底部2Aに設けられた平滑部6、7の平滑面6Aに対して接したり離れたりするように構成しているのに対し、図3に示すように、平滑部6、7の上面に、遮水シート3と同一の材料からなる遮水性のシート状着座部材(着座部材)10を設け、遮水シート3の下流側外縁4Dが、シート状着座部材10の上面に乗るようにした点が異なっている外は、上記第1の実施例とほぼ、同一の構成を備えている。
【0041】
シート状着座部材10は、平滑部6、7の下流端6B、7Bより下流に延長されている。シート状着座部材10は、遮水シート3の下流側外縁4Dが重なる部位10Aが、平滑部6、7に固着されている。シート状着座部材10は、固着部10Aより下流側は上下動自由となっており、シート状着座部材10の表裏面11、12間の水圧の差により平滑部6、7および水路底部2A表面に接触したり離れたりするようになっている。こうして、シート状着座部材10は、シート状着座部材10裏側面12の水圧Pgwが水路2の流水圧Pflより高くなると水路底部2Aから離れて水GWを水路2側に導く逃がし部15を形成するようになっている。このため、本実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、遮水シート3の下流側外縁4Dにより形成される排水口5から高圧の湧水または地下水GWを水路2に排出するだけでなく、シート状着座部材10の下側の水路底部2Aからも逃がし部15を通じて水路2に高圧の湧水または地下水GWが排出されるようになっている。このように、本実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、水路2側の水圧Pflが湧水または地下水GWからの水圧Pgwより高いと、遮水シート3の下流側外縁4Dがシート状着座部材10の上面に着座する。このとき、シート状のもの同士が重なり面接触されるので、遮断性能が向上する。さらに、シート状着座部材10を、遮水シート3の下流側外縁4Dに重なる部分からさらに下流側に延長しているので、水路底部2側から外部(地盤側)への漏水を遮断する面積を増大させることができる。
【0042】
すなわち、図3の(A)、(B)に示す第2の実施例では、遮水シート3の下流側外縁4Dと平滑処理された平滑面6Aとの密着性に加え、遮水シート3、10同士の密着性により遮水性を確保する構造なっている。通常時、すなわち、水路2内の水圧Pflが高い場合、水路2内の水位により、遮水シート3の表裏側間の静水圧の差で排水口5は閉塞され、遮水性が確保される。一方、排水時、すなわち、遮水シート3裏側の水圧Pgwが高い場合、遮水シート3と、水路底部2Aの漏水箇所との間を流れる湧水・地下水GWが遮水シート3の下流側外縁4Dを押し上げ、排水口5を開き水路2側に排水を行う。排水口5は、その大きさを拡大させることが容易であるため、予想される湧水、地下水量に対して十分対応することができ、また、排水口5の大きさが拡大されても、水圧変化により再び閉塞状態に復帰するため、遮水性の低下も生じることがなく、十分な排水性を確保することができる。
【実施例3】
【0043】
次に、本発明の第3の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造について説明する。この第3の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、上記第1の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造が、下流側外縁4Dと平滑部6、7とにより排水口5を形成するようにしているのに対し、図4の(A)、(B)に示すように、遮水シート23に開口部24を設け、遮水シート23の外縁を水路2側に密着させ、遮水シート23と同じ材質からなる遮水性のシート状蓋部(蓋部)26をこの開口部24を覆い隠すように設け、このシート状蓋部26の上流側外縁および側壁側外縁26Aを遮水シート23に溶着または接着させるとともに、下流側外縁26Bを遮水シート23の下流側重複上面23Aに接離自在に載置し、このシート状蓋部26の下方には、水路底部2Aに平滑部27を設けた点が異なっている他は、上記第1の実施例とほぼ同様の構成を備えている。この蓋部26の下流側外縁26Bと密着部26Aで囲まれた内側部分とで、蓋部26の蓋開閉部28を構成している。
【0044】
すなわち、第3の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、まず、遮水シート23を、水路2の底部2Aと側壁2Bとのうち、漏水箇所のある部位を覆い隠すように周囲に広げて敷設する。この遮水シート23は、水路2の底部2Aおよび側壁2Bにある漏水箇所から漏水する湧き水・地下水GWが開口部24に導かれるように、外縁が底部2Aと側壁2Bに密着されるとともに、底部2Aと側壁2Bとの間の折り曲げ部も水路2側と遮水シート23との間で水が行き来可能に通路(図示せず)を確保して密着される。この底部2Aと側壁2Bとに敷設された遮水シート23には、開口部24が形成される。開口部24の形状や大きさは任意であるが、本実施例では、図4(A)に示すように、矩形に形成された例に基づいて説明する。開口部24の形成は、専用機械や特殊技能は必要なく、カッターナイフやハサミなどを用いて簡便に行うことができる。このため、湧水または地下水GWの湧出量が多量であったり、湧出場所が不明である場合には、開口部24の面積を拡大させたり、別の場所に新たな開口部24を切り開けばよく、開口部24の面積や位置が変わってもそれに合わせて蓋部26を形成するようにしている。
【0045】
開口部24には、シート状蓋部26がこの開口部24を覆い隠すように遮水シート23表側に溶着または接着される。すなわち、シート状蓋部26は、図5の(A)〜(C)に示すように、上流側外縁および側壁側外縁26Aが遮水シート23表側面に溶着または接着されるとともに、下流側外縁26Bが開放されたままとなっており、この下流側外縁26Bは、上方から水圧がかかると遮水シート23の下流側重複上面23Aに載って閉じ、下方からそれに打ち勝つ水圧がかかると押し上げられて、下流側重複上面23Aから離れ、下流側重複上面23Aと押し上げられた下流側外縁26Bとにより排水口25が形成され、この下流側に向いた排水口25から遮水シート23裏側の高圧のPgwの湧水または地下水GWが水路2に排出されるようになっている。シート状蓋部26下方の水路底部2Aには、平滑部27が設けられる。平滑部27は上記第1の実施例と同様に、上面が平滑に加工される。シート状蓋部26は、開口部24を通じて平滑部27の上側平滑面27Aに着座すると面接触して密接されるようになっている。平滑部27は、コンクリート製水路底部2Aの表面を平滑に加工してもよいし、上側に平滑面27Aを有するプレートを、地盤からなる水路底部2Aに埋設させるようにしてもよい。
【0046】
遮水シート23は、平滑部27に重なる下流側重複上面23Aの裏面が、平滑部27の上側平滑面27Aに固着され、浮き上がることがないようになっている。このため、シート状蓋部26の下流側外縁26Bは、シート状蓋部26の表裏面26C、26D側の水圧の差により遮水シート23の下流側重複上面23に重なったり離れたりするようになっている。このとき、シート状蓋部26の裏面26D側が開口部24から高圧の水圧Pgwを受けて押し上げられると、図5の(B)に示すように、シート状蓋部26の蓋開閉部28は、遮水シート23とともに押し上げられる。このように、シート状蓋部26は、その裏面26C側と遮水シート23の裏面23C側、すなわち、水路底部2A側の面の水圧Pgwが、水流FLの流れる側の面の水圧Pflより大きくなると(Pgw>Pfl)、シート状蓋部26は、接続された遮水シート23とともにその水圧差(Pgw−Pfl)の力で上方に、つまり、水流側に押し上げられ、蓋開閉部28は平滑部27の平滑面27Aから離れるとともに、下流側外縁26Bは遮水シート23の下流側重複上面23Aから離れるようになっている。
【0047】
下流側外縁26Bが押し上げられると、下流側外縁26Bと遮水シート23の下流側重複上面23Aとの間に隙間が生じ排水口25が形成される。この排水口25から、水路底部2A側の高圧の水GWが水流FL中に排出されるようになっている。水路底部2A側の湧水は底部2Aまたは側壁2Bの漏水箇所から湧出する。遮水シート23とシート状蓋部26の裏側の高圧の水GWが排出され、表側の水流FLの水圧Pflと差がなくなってくると、遮水シート23とシート状蓋部26とは、浮力を差し引いた自重により下方に沈み、シート状蓋部26は平滑部27の平滑面27と遮水シート23の下流側重複上面23Aとに着座して、遮水シート23とシート状蓋部26との裏側と表側との連通を遮断し、逆止弁の役割を果たすようになっている。
【0048】
このように、本実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、水路2内の水圧Pflが、漏水箇所から湧出する水路2外側の水圧Pgwより高いと、水路2内の水圧Pflは遮水シート23を水路底部2Aに、シート状蓋部26を平滑部27と遮水シート23の下流側重複上面23Aとに押し付けてそれぞれ重ね合わせ面接触させる。このため、遮水シート23とシート状蓋部26とで覆われた水路底部2Aおよび側壁2Bとのうちいずれかに漏水箇所があっても、水路2内の水圧Pflが漏水箇所の水圧Pgwより高いと、水路2内の水FLが水路2から外部に漏れることがない。他方、水路2内の水圧Pflが、遮水シート23裏側の水圧Pgwより低いと、水路2外側の水圧Pgwは遮水シート23の裏面23Cとシート状蓋部26の裏面26Cとに作用し、シート状蓋部26を押し上げ、シート状蓋部26の下流側外縁26Bは、遮水シート23の下流側重複上面23A表面から離れ、これにより形成された排水口25により、水路2外側の高圧の水GWは水路2内に向かって排出される。遮水シート23表裏側の水圧差が失われると、シート状蓋部26の下流側外縁26Bは浮力を差し引いた自重により遮水シート下流側重複上面23A表面に再び載り重なって水路2表面を塞ぐ。こうして、遮水シート23とシート状蓋部26は、水路2側から外部への漏水を確実に遮断する一方、水路2外側の水圧Pgwが高くなると、その水を水路2内に排出する逆止弁の働きを果たす。
【0049】
また、万一、遮水シート下流側重複上面23A表面や平滑面27Aに土砂が堆積しても、下流側外縁26Bが開いて水路2外側から内側に水が排出されるたびに押し流されるので、これら表面は平坦さが保持され、下流側外縁26Bが閉じると、遮水シート下流側重複上面23Aに確実に密接される。たとえ、土砂等の異物が平滑部27に残っても、遮水シート23は上側から水圧を受けて異物を覆い塞ぎ他の面が平滑部27に押し付けられて遮水シート23表裏側間の連通を断つので、漏水を確実に遮断する。こうして、第3の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、遮水シート23と躯体・地盤(2A)の平滑処理面間の密着性と遮水シート23、26同士の密着性を図り、遮水性を向上させるようにするとともに、遮水シート23に開口部24を設け、シート状蓋部26を設置することにより密着面積を増大させ、高い遮水性を維持するようにしている。また、本実施例では、シート状蓋部26を、遮水シート23と同じ材質で構成しているがこれに限られるものではなく、シート状蓋部26に対して表面加工を施すことにより、蓋部裏面26Cに作用する水圧を増加させて、閉塞性を向上させ、遮水性を向上させることができる。また、遮水シート23の表面23Dやシート状蓋部26の表面26Dに対して、表面粗度を増加させる表面処理を行うことで動水圧を増大させ、排水口25の閉塞性を高めることができる。
【0050】
上述のように、本実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、遮水シート23とシート状蓋部26とを、溶着または接着により行うようにしているが、溶着においては、ホットエアー等による熱風式溶着、熱板式溶着、インパルス式溶着、コテ式溶着などの熱溶着、ウェルダー等による電磁溶着(高周波溶着)、超音波溶着などの公知の任意の方法が用いられる。接着においては、熱可塑性樹脂系接着剤、熱硬化性樹脂系接着剤、エラストマー(弾性体)系接着剤など、従来公知の合成樹脂系接着剤のうち、任意の1種以上を使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂系接着剤としては、酢酸ビニル樹脂系接着剤、ポリビニルアセタール系接着剤、エチレン酢酸ビニル樹脂系接着剤、塩化ビニル樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、ポリアミド系接着剤、セルロース系接着剤、α−オレフィン系接着剤などを使用できる。熱硬化性樹脂系接着剤としては、ユリア樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、レゾルシノール樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ポリアロマティック系接着剤などを使用できる。エラストマー(弾性体)系接着剤としては、クロロプレンゴム系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、スチレンブタジエンゴム系接着剤、ポリサルファイド系接着剤、ブチルゴム系接着剤、シリコーンゴム系接着剤、アクリルゴム系接着剤、変性シリコーンゴム系接着剤、ウレタンゴム系接着剤、シリル化ウレタン樹脂系接着剤などを使用できる。また、上記の接着剤としては、反応系、溶液系、水分散系(ラテックス、エマルション等)固形(ホットメルト等)、テープ(粘着剤、感圧形等)などの形態・形状の分類・種別は問わない。
【実施例4】
【0051】
次に、本発明の第4の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造について説明する。この第4の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、上記第3の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造が、遮水シート23に開口部24を設け、遮水シート23と同じ材質からなる遮水性のシート状蓋部26をこの開口部24を覆い隠すように設けているのに対し、図6の(A)ないし(C)に示すように、シート状蓋部を設けることなく、遮水シート33の下流側に水路底部2Aに平滑部27を設け、この平滑部27の上側平滑面27Aに、遮水シート33と同じ材料からなり開口部34が形成された着座シート36を設け、この着座シート36の上流側外縁および側壁側外縁36Aを遮水シート33の裏面33Cに溶着し、着座シート36の開口部34より下流側部分36Bを平滑部27に固着した点が異なっている。
【0052】
すなわち、第4の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造では、水路2外側の高圧の湧水または地下水GWは着座シート36の開口部34から遮水シート33の裏面33Cを押し上げ、遮水シート33の下流側端部33Aを着座シート36の下流側部分36Bから離して排水口35を下流側に向けて形成するようにしている。水路2内の水圧Pflが湧水または地下水GW側からの圧力Pgwより高くなると、遮水シート33の裏面33Cは、着座シート36の開口部34に対応する部分が平滑部27の平滑面27Aに、それより下流側部分が着座シート36の下流側部分36B上面に密接して、遮水シート33の表裏側の連通を遮断するようになっている。
【実施例5】
【0053】
次に、本発明の第5の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造について説明する。この第5の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造は、上記第3の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造が、遮水シート23の開口部24を水路底部2A上に形成しているのに対し、図7の(A)、(B)に示すように、遮水シート123の開口部124を、側壁2Bを覆う部分に形成し、シート状蓋部126を、この開口部124を覆い隠すように設け、このシート状蓋部126の上流側外縁および上下側外縁126Aを遮水シート123に溶着または接着させるとともに、下流側外縁(蓋開閉部)126Bを遮水シート123の下流側重複上面123Aに接離自在に載置し、シート状蓋部126に対応する水路側壁2Bには、平滑部(図示せず)を設けるようにした点が異なっている。係る構成とすることにより側壁2Bに漏水箇所があっても湧水または地下水GWを円滑に水路2内に排出させ、湧水または地下水GW側の圧力Pgwより水路2側の圧力Pflが大きくなると、シート状蓋部126の下流側外縁126Bは確実に閉塞されるようになっている。
【実施例6】
【0054】
図8は、本発明の第6の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造を示すもので、上記第3の実施例に係るシート状蓋部26に対して、本実施例のシート状蓋部226には、湧水または地下水GW側からの水を逃がす逃がし孔201が形成される点が異なっている。このように構成することにより、排水を促進することができ、多量の湧水や地下水GWが生じても、速やかに排水させ、迅速にシート状蓋部226を閉塞位置に復帰させることができる。また、湧水や地下水GWが少量の場合、遮水性能を確保したまま、開閉動作に至らず閉じたままで少しずつ排水することができる。このため、長寿命化を図ることができる。このように、本発明では、上記他の実施例に見られるように湧水や地下水GW側の圧力により押し上げられる遮水シート3、23や蓋部26、126の材質を重量のあるものや、表面を粗面に処理して抵抗を増大させて、排水口を開きにくくして閉塞性を高めたりすることもできれば、本実施例のように、多量の湧水が発生しても速やかに排水させたり、少しずつ排水して地下水の水位上昇を抑制することもできるようになっている。
【実施例7】
【0055】
次に、実際に実験を行った実験の内容と結果とを示す。図9は、水利構造物の逆流防止水抜き構造の遮水性および排水性を確認するための実験概要図を示す説明図である。遮水性および排水性の確認は、延長10m、幅0.5m、高さ0.25m、水路勾配1/1000の実験用の模型水路302を製作し、この実験模型水路302用い、水路302内側に延長8mの範囲で遮水シート303を設置した。
【0056】
実験模型水路302の外側には、嵩上げ用木材311を介して、延長13m、幅0.6m、高さ0.3mの貯水槽313を設けた。これにより、実験模型水路302と貯水槽313との間には水路の幅方向と、下方向にそれぞれ間隙5cmのクリアランス312を3面(底面および両側面)で確保するようにしている。このクリアランス312内に水を注入して水位を変動させることにより、実験模型水路302の外側水位(地下水位)の変動を模することができる。こうして、実験模型水路302の内側を流れる水を水路内の水流と、また、貯水槽313の外壁と実験模型水路302との間のクリアランス312に貯留される水を水路外側に存在する地下水と見なすようにした。
【0057】
この実験模型水路302の側壁302A、302Bには、直径10mmの円形口314を穿設し、水路の亀裂、ひび割れ、あるいは目地を模している。これら円形口314は、流れ方向に等間隔で多数設けられる。円形口314は、直径10mmより若干大径のシリコーン製ゴム栓304で容易に塞ぐことができるようになっている。水路302内の内水位Lv1が外水位Lv2より高い場合はゴム栓304を開けることで水路外への漏水を模することができる。他方、水路内の内水位Lv1が外水位Lv2より低い場合は、ゴム栓304を開けることで水路内への湧水を模することができる。円形口314は、底面中央部に1m間隔で8箇所、側面の底面から上方5cmおよび20cmの位置にそれぞれ、左右合わせて32箇所((左側面2箇所+右側面2箇所)×8箇所/1m間隔)設けた。実験模型水路302の側壁302A、302B表面および底部302Cの表面はいずれも材料自体が有する平滑面となっている。
【0058】
図10の(A)および(B)はそれぞれ、上記実験装置側面図および平面図を示している。貯水槽313の最下流部の底面に、直径10mmの円形口315を穿設して形成した。この円形口315は、直径10mmより若干大径のゴム栓304で容易に塞ぐことができる。この円形口315から流出する漏水量を計量することで、実験模型水路302外への全漏水量を測定することができる。
【0059】
実験模型水路302の下流端には、図10の(A)に示すように、止水板305を揺動させて水路302内の内水位Lv1を調整する滑車式堰316が設けられる。この滑車式堰316により、水路302内の内水位Lv1を自由に上下させることができるようになっている。実験模型水路302の上流端と下流端とにはそれぞれ、実験模型水路302に水を供給する上流側高水槽306と、実験模型水路302を流れ下った水を貯留する下流側低水槽307とが設けられる。これら槽306、307間には、これら両槽306、307を接続し実験模型水路302内の流水を循環させるポンプ317が設けられる。これにより、水路302の最下流部より流れ出た水を下流側低水槽307内に一時的に貯水し、ポンプ317により最上流部の高水槽306内に汲み上げ、循環させるようになっている。
【0060】
実験では、円形口314は、水路底面302C中央部の8箇所は全て開放し、側壁面302A、302Bの32箇所は全てゴム栓304で閉塞した。円形口1箇所あたりの漏水量Qは、以下の式によって表される。
Q=A・C・(2・g・h)1/2 ・・・・(1)
ここで、式(1)において、Qは円形口1箇所あたりの漏水量(l/s)、Aは排水口の面積(m)、Cは流量係数0.6、gは重力加速度9.8(m/s)、hは水深(m)である。水路内の内水位Lv1、すなわち水深は0.12mとした。
従って、シートを設置しないなど遮水性が期待できない場合の円形口1箇所あたりの漏水量(l/s)は、Q=(0.005)×3.14×0.6×(2×9.8×0.12)1/2 =0.72(l/s)となり、8箇所からの全漏水量は、0.72(l/s)×8=0.576(l/s)となる。
【0061】
そこで、水路底面302Cに、延長8mの範囲で遮水シート303を設置し、遮水シート303を設置しない場合の8箇所からの全漏水量(0.576(l/s))との比較を行った。図11は、遮水シート303の最下流端を開放した場合における通水開始後の経過時間と漏水量との関係を示している。この図11により、上記第1の実施例の逆流防止水抜き構造による遮水性を、すなわち、(a)遮水シートと躯体・地盤側平滑処理面との間の密着性のみによる遮水性を確認した。
【0062】
図11において、通水開始後61秒(min)の段階では漏水量は0.119(l/s)であったが、通水開始後70秒(min)の段階では漏水量は0.117(l/s)にまで減少した。通水開始後70秒(min)の漏水量は、シートを設置しない場合、すなわち遮水性が期待できない場合の約20%(0.117/0.576)に相当し、逆流防止水抜き構造の設置により約80%の漏水防止効果が得られている。遮水シート303本体に柔軟性の良好な材料を使用することで、徐々に密着性が向上し、遮水性が得られることが分かった。
【実施例8】
【0063】
図12は、上記第3の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造に模した実験を行うに際し、図9および図10に記載の実験装置を用いて実験を行った結果を示すグラフで、通水開始後の経過時間と漏水量の関係を示す。水路内の内水位Lv1、すなわち水深は、0.12mとした。この第8の実施例に係る実験装置では、遮水シート303の最下流端における形状、大きさ、遮水シート303の表面処理の方法および遮水シートの厚さを変えた。表1に示す3種類とした。
【0064】
【表1】

【0065】
図12において、実施例8(第8の実施例)のNo.8−1では、通水開始180秒(min)後に漏水量は0.000417(l/s)に収束している。これは図11に示す第1の実施例(実施例1)に比較した場合の0.36%(0.000417/0.117)に相当し、実施例8では、実施例1に比較し99.64%の漏水防止効果が得られる。
実施例8のNo.8−2では、通水開始180秒(min)後に漏水量は0.000233(l/s)に収束している。これは実施例1に比較した場合の0.2%(0.000233/0.117)に相当し、逆流防止水抜き構造の設置により99.80%の漏水防止効果が得られる。
実施例8のNo.8−3では、通水開始180秒(min)後に漏水量は0.003455(l/s)に収束している。これは実施例1に比較した場合の2.95%(0.003455/0.117)に相当し、逆流防止水抜き構造の設置により97.05%の漏水防止効果が得られる。
【0066】
このように、実施例8の実験結果から、遮水シートの最下流端排水口の面積が小さく、遮水シートの厚さが厚く、表面処理は粗面のケースの方が遮水性が確保されることが分かった。
【実施例9】
【0067】
図13は、上記第3の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造に模した実験を行うに際し、図9および図10に記載の実験装置を用いて実験を行った結果を示すグラフで、表1に示す実施例8のNo.8−1のケースにおける通水開始後の経過時間と漏水量との関係を示している。水路302内の内水位Lv1、すなわち水深は0.12mとした。この第9の実施例(実施例9)では、異物の混入を模して実験を行った。すなわち、上記第3の実施例と同様の構造を有する(a)遮水シート23とシート状蓋部26との間(図4および図5参照)および(b)平滑部27(躯体・地盤側の平滑処理面)とシート状蓋部26との間(図4および図5参照)に、厚さ約0.5mm、目合い20×20mmのネットを挟み込み、逆流防止水抜き構造内への異物の混入を模した。
【0068】
図13において、通水開始後10秒(min)の段階では、漏水量は0.0111(l/s)であったが、通水開始180秒(min)後の段階では漏水量は0.0099(l/s)にまで減少しており、さらに減少する傾向にある。
通水開始後180秒(min)における漏水量は、図11に示す第1の実施例(実施例1)の漏水量の8.46%(0.0099/0.117)に相当し、逆流防止水抜き構造の設置により91.54%の漏水防止効果が得られている。
遮水シート23およびシート状蓋部26(図4および図5参照)に、柔軟性の良好な材料を使用することで、異物が混入した場合でも徐々に密着性が回復し、最終的には異物が混入していない場合とほぼ同じ状態になる。これにより、漏水量は時間とともに減少し、漏水防止効果の異物混入の影響を受けなくなる。
【0069】
異物混入を想定した実施例8のNo.8−1の実験結果から、本発明の逆流防止水抜き構造は、仮に異物の混入があった場合でもシートの柔軟性があれば遮水性を低下させない構造であることが分かった。
【実施例10】
【0070】
実験した全ての実施例において、水路外から水路内への排水性の確認を行った。排水性の確認では、水路302内の内水位Lv1を水深12cmに保持した状態で、水路外の外水位Lv2を徐々に上昇させた。
上記第1、第2の実施例と同様の構造を有する遮水シート3(図1、図3参照)と水路底部2Aとの間、上記第3の実施例と同様の構造を有するシート状蓋部26と遮水シート23との間(図4および図5参照)について、上流側および側壁側を溶着または接着により一体化させると、全ての実施例において排水性が確保されることが分かった。一体化させない場合、遮水シート3の下側からの水圧が作用しても上側からの水圧により排水口5、15、25が閉塞され、排水性は確保されなかった。
【0071】
なお、上記各実施例では、水路など水流のある水利構造物について述べているがこれに限られるものではなく、水流の生じない貯水池などにも適用可能であることはいうまでもない。この場合、開閉部位(排水口)は遮水シートの下流側に限定されることなく、遮水シート(または蓋部)外縁の一部に形成されていればよい。また、第3の実施例では、平滑部27をシート状蓋部26の下方の水路底部2Aに設けているがこれに限られるものではなく、少なくとも開口部24の下側と蓋部26が重なる遮水シート23の下側とに設けられていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の水利構造物の逆流防止水抜き構造は、例えばダム導水路、放水路、農工業用水路や上下水道管渠等の各種水路系構造物内面の漏水防止対策に遮水シートを適用する場合に有効であり、土木、建築業界において広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造を示す一部破断斜視図である。(実施例1)
【図2】(A)、(B)はそれぞれ、図1の逆流防止水抜き構造の遮水時と排水時の状態を示す要部の断面図である。
【図3】(A)、(B)はそれぞれ、本発明の第2の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造の遮水時と排水時の状態を示す要部の断面図である。(実施例2)
【図4】(A)、(B)はそれぞれ、本発明の第3の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造の取り付け状態を示す説明図である。(実施例3)
【図5】(A)ないし(C)はそれぞれ、図4の逆流防止水抜き構造の遮水時と排水時の状態を示す要部の断面図および要部の平面図である。
【図6】(A)ないし(C)はそれぞれ、本発明の第4の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造の遮水時と排水時の状態を示す要部の断面図および要部の平面図である。(実施例4)
【図7】(A)、(B)はそれぞれ、本発明の第5の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造の取り付け状態を示す説明図である。(実施例5)
【図8】本発明の第6の実施例に係る水利構造物の逆流防止水抜き構造を示す要部の平面図である。(実施例6)
【図9】実験を行った逆流防止水抜き構造の実験装置を模式的に示す断面図である。
【図10】(A)、(B)はそれぞれ、図9の実験装置を示すX−X線断面図および平面図である。
【図11】図9の実験装置により、遮水シートの最下流端の水路底部の円形口1箇所を開放した場合における通水開始後の経過時間と漏水量との関係を示すグラフである。
【図12】図9の実験装置により、第3の実施例に係る逆流防止水抜き構造に模した装置を用いて行った実験の通水開始後の経過時間と漏水量の関係を示すグラフである。
【図13】図9の実験装置により、異物が混入する場合を想定して表1に示すケースについて行った実験の通水開始後の経過時間と漏水量の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0074】
2 水路(水利構造物)
2A 水路底部(水利構造物表面)
3 遮水シート
4(4A〜4C) 密着部
5 排水口
6、7 平滑部
8 開閉部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水利構造物外側への漏水を阻止し水利構造物外側から内側への排水を許容する水利構造物の逆流防止水抜き構造であって、
柔軟性を有する遮水シートを、水利構造物表面に構造物の漏水部を覆い隠して敷設し、 この遮水シートを、その外縁の一部が構造物側に密着される密着部と、遮水シート表裏側間の水圧の差により構造物表面側に接離自在に載置され排水口を形成可能な開閉部とを備えて構成するとともに、
上記排水口に対応する構造物表面には、平滑部を設け、構造物外側の水圧が高圧の際、開閉部を開放して遮水シート裏側の水を排水することを特徴とする水利構造物の逆流防止水抜き構造。
【請求項2】
水利構造物外側への漏水を阻止し水利構造物外側から内側への排水を許容する水利構造物の逆流防止水抜き構造であって、
柔軟性を有する遮水シートを、水利構造物表面に構造物の漏水部を覆い隠して敷設し、 この遮水シートには、開口部を形成するとともに、遮水シート外縁を構造物側に密着させ、遮水シートの表面には、この開口部を覆い隠す柔軟性を有する遮水性シートからなる蓋部を設け、
この蓋部を、その外縁の一部が遮水シートに密着される蓋密着部と、蓋部表裏側間の水圧の差により構造物表面側に接離自在に載置され排水口を形成可能な蓋開閉部とを備えて構成するとともに、
上記蓋部に対応する構造物表面には、平滑部を設け、構造物外側の水圧が高圧の際、蓋開閉部を開放して遮水シート裏側の水を排水することを特徴とする水利構造物の逆流防止水抜き構造。
【請求項3】
平滑部には、開閉部または蓋開閉部に対応する部位に遮水性シートからなる着座部材を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の水利構造物の逆流防止水抜き構造。
【請求項4】
着座部材は、平滑部より外側に延長され、着座部材表裏間の水圧の差により構造物表面から接離し、着座部材裏側の水圧が高くなると構造物表面から離れて構造物側に水を排水し、着座部材表側の水圧が高くなると構造物表面に載置される着座部材開閉部を有することを特徴とする請求項3に記載の水利構造物の逆流防止水抜き構造。
【請求項5】
着座部材には開口を形成するとともに、この着座部材の一部を開閉部裏面または蓋開閉部裏面と接続して一体動させることを特徴とする請求項4に記載の水利構造物の逆流防止水抜き構造。
【請求項6】
開閉部または蓋開閉部には、遮水シート裏側からの水を逃がす逃がし孔が形成されることを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1に記載の水利構造物の逆流防止水抜き構造。
【請求項7】
開閉部または蓋開閉部により形成される排水口を、構造物の水流の下流側に向けたことを特徴とする請求項1ないし6のうちいずれか1に記載の水利構造物の逆流防止水抜き構造。
【請求項8】
開閉部または蓋開閉部表側面を、水抵抗が増大する粗面に形成したことを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1に記載の水利構造物の逆流防止水抜き構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2009−108547(P2009−108547A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280444(P2007−280444)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000107044)ショーボンド建設株式会社 (71)