説明

水可溶性有機物の回収方法及び回収システム

【課題】 水可溶性有機物を含む被処理水からの水可溶性有機物の回収に、多量のエネルギーを消費する蒸留を用いず、またアルコール類やケトン類などの水に易溶な有機物を分離・回収する場合に分離効率の悪い溶媒抽出を用いずに、水可溶性有機物を含む被処理水から水可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で分離・回収する方法、及び回収システムを提供すること。
【解決手段】 水可溶性有機物の回収方法において、水可溶性有機物を含む被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下である塩のうち少なくとも1種類を添加して、前記水可溶性有機物と水とを分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水可溶性有機物を含む被処理水を、水可溶性有機物層と水層に分離させ、水可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で回収する方法、及びその回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水可溶性有機物を含む被処理水からの水可溶性有機物を分離・回収する方法としては、溶媒抽出方法と蒸留法が従来から一般的に広く用いられている。しかしながら、これらの方法はそれぞれ以下に述べるような問題点がある。
【0003】
まず、溶媒抽出法についてであるが、この方法は主に水に溶解しにくい有機物を水から除去する場合に広く用いられ、水に溶解している有機物を有機溶媒側に抽出分離し、回収する方法として知られている。しかし、この方法は水に溶解している成分をある一定の比率(分配係数)で溶媒側に抽出する方法であり、不純物の一部はその比率に従って水側に残留する。このため、アルコール類やケトン類などの水に易溶な有機物を分離・回収する場合には、分離効率は悪い。
【0004】
そのため、アルコール類やケトン類などの水に易溶な有機物は蒸留法を用いて分離・回収する。この方法は沸点の違いを利用して、当該液を加熱して水と有機物を分離する方法である。例えば、メタノールやアセトン、2−プロパノールなどの有機物が含まれている水の場合、これらの成分は水より沸点が低い物質であるため、この蒸留法を適用すれば、これらの成分を水から分離・回収することができる。しかしながら、この蒸留方法では、処理対象の液体全体を、一旦分離される液体の沸点まで加熱する操作と、気化した分離対象を再度凝集させるための冷却操作が必要であり、加熱と冷却に多くのエネルギーを必要とする。蒸留法を利用した有機物の回収方法としては、例えば、特許文献1がある。
【0005】
また、水可溶性有機物を含む被処理水から水可溶性有機物を分離・回収する方法として、塩析が用いられる場合がある。しかし、従来用いられていた食塩を添加して水可溶性有機物を分離・回収する方法も可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で分離・回収するには至っておらず、また、特許文献2には、アルカリ金属水酸化物及び電解質を添加して水可溶性有機物を分離・回収する方法が提案されているが、水可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で分離・回収するには至っていない。
【0006】
【特許文献1】特開平11−35504号公報「イソプロピルアルコールの回収方法」
【特許文献2】特開昭59−62540号公報「アルコールの乾燥方法」
【非特許文献1】化学便覧 基礎編II(改訂4版)、日本化学会編(1993年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の技術的課題は、水可溶性有機物を含む被処理水からの水可溶性有機物の回収に、多量のエネルギーを消費する蒸留を用いず、またアルコール類やケトン類などの水に易溶な有機物を分離・回収する場合に分離効率の悪い溶媒抽出を用いずに、水可溶性有機物を含む被処理水から水可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で分離・回収する方法、及び回収システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記の現況に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、水可溶性有機物を含む被処理水に、水可溶性有機物と水を分離するときの温度での水に対する溶解度が30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対する溶解度が1質量%以下である塩のうち少なくとも1種類以上を添加して、被処理水を水可溶性有機物層と水層に分離させ、水可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で回収する方法を見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、水可溶性有機物を含む被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下である塩のうち少なくとも1種を添加して、前記水可溶性有機物と水とを分離することを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、前記水可溶性有機物の回収方法において、前記塩は、溶解度が水に対して40質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して0.5質量%以下の塩であることを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0011】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収方法において、前記塩は、溶解度が水に対して50質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して0.1質量%以下の塩であることを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収方法において、水可溶性有機物を含む被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下の塩のうち少なくとも1種を、飽和状態となるように添加することを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物を含む被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下の塩のうち少なくとも1種を、過飽和状態となるように添加することを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、前記水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物は、うち少なくとも1種類が比誘電率82以下の化合物のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、前記水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物がアルコール、ケトン、エーテル、エポキシド、アルデヒド、アミン、二トリル、有機酸、フェノール、チオール、及びスルフィドのうちの少なくとも1種であることを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物は、2−プロパノールを含むことを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物は、アセトンを含むことを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物を含む被処理水の有機物濃度が、0.5〜99.5質量%であることを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0019】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物を含む被処理水の有機物濃度が、1〜99質量%であることを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0020】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物を含む被処理水の有機物濃度が、2〜98質量%であることを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0021】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物は、2−プロパノールを含み、当該被処理水に、フッ化カリウム、炭酸カリウム、及びフッ化セシウムのうち少なくとも1種を添加して、前記被処理水を水可溶性有機物層と水層に分離することを特徴とする水可溶性有機物の回収方法が得られる。
【0022】
また、本発明によれば、水可溶性有機物を含む被処理水を蓄える蓄積手段と、前記被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下である塩のうち少なくとも1種を添加する分離塩添加手段と、前記水可溶性有機物と水とを分離して回収する分離回収手段とを備えていることを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【0023】
また、本発明によれば、前記水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記塩が、溶解度が水に対して40質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して0.5質量%以下の塩であることを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【0024】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記塩が、溶解度が水に対して50質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して0.1質量%以下の塩であることを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【0025】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記分離塩添加手段は、水可溶性有機物を含む被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下の塩のうち少なくとも1種を、飽和に添加することを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【0026】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記分離添加手段は、水可溶性有機物を含む被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下の塩のうち少なくとも1種類以上を、過飽和に添加することを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【0027】
また、本発明によれば、前記水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物は、比誘電率82以下の化合物のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【0028】
また、本発明によれば、前記水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物がアルコール、ケトン、エーテル、エポキシド、アルデヒド、アミン、ニトリル、有機酸、フェノール、チオール、及びスルフィドのうちの少なくとも1種であることを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【0029】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物は、2−プロパノールを含むことを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【0030】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物は、アセトンを含むことを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【0031】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物を含む被処理水の有機物濃度が、0.5〜99.5質量%であることを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【0032】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物を含む被処理水の有機物濃度が、1〜99質量%であることを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【0033】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物を含む被処理水の有機物濃度が、2〜98質量%であることを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【0034】
さらに、本発明によれば、前記いずれか一つの水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記被処理水は、2−プロパノールを含み、前記分離塩添加手段は、前記被処理水に、フッ化カリウム、炭酸カリウム、及びフッ化セシウムのうち少なくとも1種類以上を添加して、被処理水を水可溶性有機物層と水層に分離することを特徴とする水可溶性有機物の回収システムが得られる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、水可溶性有機物を含む被処理水からの水可溶性有機物の回収に、多量のエネルギーを消費する蒸留を用いず、またアルコール類やケトン類などの水に易溶な有機物を分離・回収する場合に分離効率の悪い溶媒抽出を用いずに、水可溶性有機物を含む被処理水から水可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で分離・回収する方法、及び回収システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明をより詳細に説明する。本発明では、水可溶性有機物を回収する方法及び回収システムを提供する。
【0037】
具体的に、本発明の水可溶性有機物を回収する方法では、水可溶性有機物を含む被処理水に、水に対する溶解度が30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対する溶解度が1質量%以下である塩のうち少なくとも1種類以上を添加して、被処理水を水可溶性有機物層と水層に分離させ、水可溶性有機物を回収することにより、水可溶性有機物を含む被処理水から水可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で分離・回収するものである。
【0038】
また、本発明の水可溶性有機物を回収するシステムでは、上記水可溶性有機物を回収する方法を実施するための装置であって、水溶性有機物からなる被処理水を収容するための容器等からなる蓄積手段と、この水溶性有機物を含む被処理水に、前記塩を添加するための分離塩添加手段と、前記塩によって水可溶性有機物層と水層とに分離された前記分離塩添加被処理水から、前記水可溶性有機物を分け、回収する分離回収手段を備えている。これらの各手段はその機能を果たすならば、どのような器具であっても良いことは勿論である。
【0039】
また、本発明では、水可溶性有機物を含む被処理水に添加する塩は、高回収率が得られるように、水に対する溶解度が30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対する溶解度が1質量%以下の塩であり、好ましくは水に対する溶解度が40質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対する溶解度が0.5質量%以下であり、より好ましくは水に対する溶解度が50質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対する溶解度が0.1質量%以下の塩である。また、水及び水可溶性有機物に対する塩の溶解度を上記溶解度範囲に変化させるために、被処理水を加熱、または冷却してもよい。
【0040】
また、本発明では、水可溶性有機物を含む被処理水に添加する塩は、水に対する溶解度が30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対する溶解度が1質量%以下である塩のうち少なくとも1種類以上を添加することにより、水可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で分離・回収する回収方法、及びそれらを使用した回収システムであり、塩としては、水可溶性有機物の回収率を高めるために好ましくは飽和に、さらに好ましくは過飽和に添加することが好ましい。また、塩を添加した被処理水を飽和あるいは過飽和状態にするために、被処理水溶液を加熱、または冷却してもよい。
【0041】
また、本発明では、水可溶性有機物を含む被処理水から水可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で分離・回収する水可溶性有機物の回収方法、及びそれらを使用した回収システムであり、水可溶性有機物としては比誘電率が82以下であり、好ましくは例えばメチルアルコール、エチルアルコール、ジエチルケトンなどであり、さらに好ましくは2−プロパノール、アセトンなどがある。
【0042】
また、本発明では、水可溶性有機物を含む被処理水から水可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で分離・回収する水可溶性有機物の回収方法、及びそれらを使用した回収システムであり、水可溶性有機物としては、好ましくは、例えば、アルコール、ケトン、エーテル、エポキシド、アルデヒド、アミン、二トリル、有機酸、フェノール、チオール、スルフィドなどである。アルコールとしては、好ましくは例えばメチルアルコール、エチルアルコール、1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、アリルアルコール、アルドール、フルフリールアルコール、2−アミノエタノールなどであり、さらに好ましくは、2−プロパノールである。また、ヒドロキシル基を2個以上有する多価アルコールであってもよく、好ましくは例えばエチレングリコール、グリセリン、トリエタノールアミン、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオールなどがある。ケトンとしては、好ましくは例えばエチルメチルケトン、ジエチルケトンなどであり、さらに好ましくはアセトンである。エーテルとしては、好ましくは例えばジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサンなどである。エポキシドとしては、好ましくは例えばエチレンオキシド、1,2−プロピレンオキシドなどである。アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ホルムアミドなどである。アミンとしては、好ましくは例えばエチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルアミンなどである。ニトリツとしては、好ましくは例えばアセトニトリルなどである。有機酸としては、好ましくは例えばギ酸、グリセリン酸、酢酸、ビニル酢酸、ピリジン酸、プロピオン酸、酪酸などである。また、部分的にフッ素などのハロゲン原子に置換されたものでもよく、好ましくは例えば2−クロロエタノールなどである。
【0043】
また、被処理水に含まれる水可溶性有機物は1種類のもではなく、2種類以上を混合したものでもよい。例えば、組み合わせとしてアルコールより1種類、ケトンより1種類混合したものでもよい。
【0044】
ここで、本発明では、水可溶性有機物を含む被処理水中の水可溶性有機物の濃度が0.5〜99.5質量%である被処理液に適用され、さらに、好ましくは1〜99質量%、より好ましくは2〜98質量%であるものに適用される。
【0045】
本発明では、水可溶性有機物を含む被処理水に添加する塩は、水に対する溶解度が30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対する溶解度が1質量%以下である塩のうち少なくとも1種類以上を添加することにより、水可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で分離・回収する回収方法、及びそれらを使用した回収システムであり、水可溶性有機物が2−プロパノールの場合、塩としては、好ましくは、例えば、フッ化セシウムなどであり、さらに好ましくはフッ化カリウム、炭酸カリウムなどがある。
【0046】
本発明は、水可溶性有機物を含む被処理水に添加する塩は、水に対する溶解度が30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対する溶解度が1質量%以下である塩のうち少なくとも1種類以上を添加することにより、水可溶性有機物を高濃度、且つ高回収率で分離・回収する回収方法、及びそれらを使用した回収システムであり、求められる水可溶性有機物の純度によっては、回収した水可溶性有機物を蒸留、溶媒抽出、イオン交換樹脂、イオン交換膜、電気透析などを用いてさらに精製してもよい。
【0047】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではないことは勿論である。
【0048】
また、以下の例1、例2及び比較例では、次の表1に示した塩を用いた。
【0049】
(参考例)
下記表1に示したNo.1〜6の塩の2−プロパノールに対する溶解度を測定した。測定方法は100mlのPFA容器に2−プロパノールを入れた後、過剰の塩を入れ、攪拌しながら一定温度下で6時間放置した。その後、1時間静置させてから、濾過した上澄み液約5gを白金シャーレに採り、重量を測定した。重量変化がなくなるまで、150℃のホットプレート上で蒸発乾固した後、重量を測定し、蒸発前後の重量から濃度を計算して溶解度を求めた。
【0050】
また、下記表1に示したNo.1〜6の塩の水に対する溶解度は、非特許文献1に記載のものによった。
【0051】
【表1】

【0052】
(例1)
被処理水として2−プロパノールを30質量%含むモデル被処理水を用いた。このモデル被処理水50gを入れたPFA容器を2本用意し、次いで、それぞれに塩を添加した後の溶液が過飽和になるようにフッ化カリウム:30.1gまたは炭酸カリウム:41.9gを添加し、一定温度下で2時間攪拌した。その後、1時間静置させて上層と下層に分離さてから、上層中の2−プロパノール含有量、上層の体積を測定して、2−プロパノールの濃度及び回収率を求めた。その結果を下記表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
(例2)
被処理水として2−プロパノールを30質量%含むモデル被処理水を用いた。このモデル被処理水50gを入れたPFA容器を用意し、次いで、それぞれにフッ化カリウム:10.1g、15.1g、24.0gまたは30.1gを添加し、一定温度下で2時間攪拌した。その後、1時間静置させて上層と下層に分離さてから、上層中の2−プロパノール含有量、上層の体積を測定して、2−プロパノールの濃度及び回収率を求めた。その結果を下記表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
(比較例)
上記本発明の例1において、2−プロパノールを30質量%含むモデル被処理水50gを入れたPFA容器を4本用意し、次いで、それぞれに塩を添加した後の溶液が過飽和になるように、水酸化カリウム:54.6g、塩化カルシウム:31.0g、塩化ナトリウム:11.3g、フッ化ナトリム:2.0gを添加し、一定温度下で2時間攪拌した。その後、1時間静置させた。上層と下層に分離したサンプルに関しては、上層中の2−プロパノール含有量、上層の体積を分析して、2−プロパノールの濃度及び回収率を求めた。その結果を下記表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
以上説明の通り、本発明の実施の形態による水可溶性有機物の回収方法及び回収システムは、水可溶性有機物を含む被処理水に、水可溶性有機物と水を分離するときの温度での水に対する溶解度が30質量%以上で、水可溶性有機物に対する溶解度が1質量%以下である塩のうち少なくとも1種類以上を添加し、水可溶性有機物を分離・回収するため、蒸留法のように加熱と冷却に多くのエネルギーを必要とせず、また水に易溶な有機物に対して分離効率の悪いアルコール類やケトン類などに対しても高濃度、且つ高回収率で分離・回収することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明した通り、本発明に係る水可溶性有機物の回収方法及び回収システムは、化学薬品や化学製品の製造における水可溶性有機物の回収、精製は勿論、産業排水や半導体装置の製造における処理水の回収・リサイクル等や化学プラントにおける水可溶性有機物の回収や、産業上用いられる資源の回収や水の純化にも有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水可溶性有機物を含む被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下である塩のうち少なくとも1種を添加して、前記水可溶性有機物と水とを分離することを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項2】
請求項1記載の水可溶性有機物の回収方法において、前記塩は、溶解度が水に対して40質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して0.5質量%以下の塩であることを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水可溶性有機物の回収方法において、前記塩は、溶解度が水に対して50質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して0.1質量%以下の塩であることを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収方法において、水可溶性有機物を含む被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下の塩のうち少なくとも1種を、飽和状態となるように添加することを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項5】
請求項1乃至5の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物を含む被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下の塩のうち少なくとも1種を、過飽和状態となるように添加することを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項6】
請求項1に記載の水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物は、うち少なくとも1種類が比誘電率82以下の化合物のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項7】
請求項1に記載の水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物がアルコール、ケトン、エーテル、エポキシド、アルデヒド、アミン、二トリル、有機酸、フェノール、チオール、及びスルフィドのうちの少なくとも1種であることを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項8】
請求項1、6、及び7の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物は、2−プロパノールを含むことを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項9】
請求項1、6、及び7の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物は、アセトンを含むことを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項10】
請求項1、及び6乃至9の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物を含む被処理水の有機物濃度が、0.5〜99.5質量%であることを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項11】
請求項1、及び6乃至10の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物を含む被処理水の有機物濃度が、1〜99質量%であることを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項12】
請求項1、及び6乃至11の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物を含む被処理水の有機物濃度が、2〜98質量%であることを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項13】
請求項1乃至8、及び10乃至12の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収方法において、前記水可溶性有機物は、2−プロパノールを含み、当該被処理水に、フッ化カリウム、炭酸カリウム、及びフッ化セシウムのうち少なくとも1種を添加して、前記被処理水を水可溶性有機物層と水層に分離することを特徴とする水可溶性有機物の回収方法。
【請求項14】
水可溶性有機物を含む被処理水を蓄える蓄積手段と、前記被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下である塩のうち少なくとも1種を添加する分離塩添加手段と、前記水可溶性有機物と水とを分離して回収する分離回収手段とを備えていることを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。
【請求項15】
請求項14記載の水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記塩が、溶解度が水に対して40質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して0.5質量%以下の塩であることを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記塩が、溶解度が水に対して50質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して0.1質量%以下の塩であることを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。
【請求項17】
請求項14乃至16の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記分離塩添加手段は、水可溶性有機物を含む被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下の塩のうち少なくとも1種を、飽和に添加することを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。
【請求項18】
請求項14乃至18の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記分離添加手段は、水可溶性有機物を含む被処理水に、溶解度が水に対して30質量%以上で、且つ回収する水可溶性有機物に対して1質量%以下の塩のうち少なくとも1種類以上を、過飽和に添加することを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。
【請求項19】
請求項14記載の水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物は、比誘電率82以下の化合物のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。
【請求項20】
請求項14記載の水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物がアルコール、ケトン、エーテル、エポキシド、アルデヒド、アミン、ニトリル、有機酸、フェノール、チオール、及びスルフィドのうちの少なくとも1種であることを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。
【請求項21】
請求項14、19、及び20の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物は、2−プロパノールを含むことを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。
【請求項22】
請求項14、19、及び20の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物は、アセトンを含むことを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。
【請求項23】
請求項14、及び19乃至22の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物を含む被処理水の有機物濃度が、0.5〜99.5質量%であることを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。
【請求項24】
請求項14、及び19乃至23の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物を含む被処理水の有機物濃度が、1〜99質量%であることを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。
【請求項25】
請求項14、及び19乃至25の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記水可溶性有機物を含む被処理水の有機物濃度が、2〜98質量%であることを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。
【請求項26】
請求項14乃至21、及び23乃至25の内のいずれか一つに記載の水可溶性有機物の回収システムにおいて、前記被処理水は、2−プロパノールを含み、前記分離塩添加手段は、前記被処理水に、フッ化カリウム、炭酸カリウム、及びフッ化セシウムのうち少なくとも1種類以上を添加して、被処理水を水可溶性有機物層と水層に分離することを特徴とする水可溶性有機物の回収システム。

【公開番号】特開2006−175330(P2006−175330A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369579(P2004−369579)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】