説明

水域構造物の足場構築工法及び足場構造

【課題】従来の吊りチェーンを用いた足場を水域構造物に適用した場合、足場の構築作業ばかりでなく、足場構築後の足場上での各種作業においても、危険を伴う困難な作業となってしまい、作業効率の低下が避けられず、作業時間の増加をもたらしていた。
【解決手段】水域構造物11の鋼管杭13間を連結し少なくとも鋼管杭13に沿って移動しないように装着された連結部材14が、上部工の下に構築する足場の荷重を保持し、または上部工の下に浮体で構築する足場の動揺を抑制する。足場の荷重を保持する連結部材14は部材軸方向に伸縮自在な棒状部材で、既設の鋼管杭13間に脱着可能である。足場支持部材15は、基部片23aが閉動作することで連結部材14に固定基部23が密着して連結部材14に係止した状態になり、その開閉動作は固定基部23に装着した支柱部材24で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、桟橋等の水域構造物の上部構造物を点検や補修等する際に用いる、水面上方に位置する上部構造物の下方に足場を設置する水域構造物の足場構築工法及び足場構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高架道路や橋梁等の高層構築物の保守・維持管理・修理作業等を行う際に、保守・維持管理・修理作業等を行う箇所の下方に吊設する足場が知られている。
このような足場として、例えば、並設された一対の桁の腹部側面に埋設されたボルトでアンカー基材を固定し、このアンカー基材に吊持された吊りチェーンの下端に吊り下げた、鋼管等の架設部材に、これらに交差するように別の架設部材を載置して移動しないように固定し、左右吊りチェーン間の各架設部材上に作業用の道板を設置したものがある(特許文献1参照)。
【0003】
この吊りチェーンを用いた足場は、桟橋や船舶係留施設(ドルフィン)或いは橋脚等の水域構造物において、水域構造物に備えられて水面上方に位置する上部構造物を点検・補修・補強・撤去・再構築等する際にも、同様に適用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−212706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の吊りチェーンを用いた足場を水域構造物に適用した場合、足場を構築する際に、吊りチェーンを固定するために上部構造物(例えば、桟橋の梁側面)をドリル等で削孔して、アンカー基材等の固定用金具を取り付けるが、この削孔作業を行うための足場を用意する必要があり、足場としてポンツーンや小型船舶等を用いるため、不安定な足場での作業とならざるを得なかった。
つまり、削孔作業は、頭上より高い位置での作業になる上、足場が浮体なので波等により足場が動揺するために不安定で力が入り難く、使用するドリルの重さも加わって、危険を伴う困難な作業となるのが避けられなかった。
【0006】
加えて、従来の吊りチェーンによる足場は、足場を構築することで得られる作業空間を遮るように、作業空間を形成するための架設部材を吊り下げる吊りチェーンが作業空間床面の全域に略一定間隔で鉛直方向に張られているため、作業空間の自由な移動及び広い作業空間の確保ができなかった。
従って、従来の吊りチェーンを用いた足場を水域構造物に適用した場合、足場の構築作業ばかりでなく、足場構築後の足場上での各種作業においても、作業効率の低下が避けられなかった。
【0007】
この発明の目的は、足場の構築作業ばかりでなく、足場構築後の足場上での各種作業においても、効率良く行うことができ、危険を伴う足場構築作業の削減と足場構築に要する作業時間を短縮することができる、水域構造物の足場構築工法及び足場構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、この発明に係る水域構造物の足場構築工法は、水中から水面上方に突出する複数の脚部に支持されて水面の上方に位置する上部構造物を備えた水域構造物に、前記上部構造物の下方に位置する足場を設置する、水域構造物の足場構築工法において、水域構造物の脚部間を連結し少なくとも脚部に沿って移動しないように装着された連結部材が、上部工の下に構築する足場の荷重を保持することを特徴としている。
また、この発明に係る水域構造物の足場構築工法は、水中から水面上方に突出する複数の脚部に支持されて水面の上方に位置する上部構造物を備えた水域構造物に、前記上部構造物の下方に位置する足場を設置する、水域構造物の足場構築工法において、水域構造物の脚部間を連結し少なくとも脚部に沿って移動しないように装着された連結部材が、上部工の下に浮体で構築する足場の動揺を抑制することを特徴としている。
【0009】
また、この発明の他の態様に係る水域構造物の足場構築工法は、上記水域構造物の足場構築工法を実現するために、足場の荷重を保持する連結部材は部材軸方向に伸縮自在な棒状部材で、既設の脚部間に脱着可能であることを特徴としている。
また、この発明に係る足場構造は、足場の荷重を連結部材に伝達する足場支持部材において、連結部材に固定する固定基部と支柱部材からなり、足場支持部材は連結部材に脱着可能に装着され、固定基部は基部片が閉動作することで連結部材に固定基部が密着して足場支持部材が連結部材に係止した状態になり、その開閉動作は固定基部に装着した開閉操作部材で行うことができる構造となっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る水域構造物の足場構築工法によれば、水中から水面上方に突出する複数の脚部に支持されて水面の上方に位置する上部構造物を備えた水域構造物に、前記上部構造物の下方に位置する足場を設置する、水域構造物の足場構築工法において、水域構造物の脚部間を連結し少なくとも脚部に沿って移動しないように装着された連結部材が、上部工の下に構築する足場の荷重を保持するため、作業空間の自由な移動及び広い作業空間の確保を妨げる、例えば、作業空間を形成するための架設部材を吊り下げる吊りチェーンを必要としないので、足場の構築作業ばかりでなく、足場構築後の足場上での各種作業においても、効率良く行うことができ、危険を伴う足場構築作業の削減と足場構築に要する作業時間を短縮することができる。
また、この発明に係る足場構造により、この発明に係る水域構造物の足場構築工法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の第一実施の形態に係る水域構造物の足場構造を模式的に示す説明図である。
【図2】図1の連結部材の鋼管杭装着状態を示す平面説明図である。
【図3】連結部材を鋼管杭に固定保持する楔状部材を移動させる楔状部材移動機構を示し、(a)は鞘管部材が鋼管杭に固定された状態の概略説明図、(b)は楔状部材移動機構が備えられた鞘管部材の説明図である。
【図4】図1の足場支持部材の具体例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図5】図1の足場支持部材の固定基部が連結部材を挟み込んだ状態を示す説明図である。
【図6】水面下において鋼管杭に連結部材が固定された状態を示し、(a)は連結部材を側方から見た説明図、(b)は連結部材を上方から見た説明図である。
【図7】足場支持部材の連結部材への取り付け方法を示し、(a)は設置場所まで運ばれた足場支持部材の説明図、(b)は連結部材に足場支持部材の固定基部を固定させた状態の説明図である。
【図8】足場支持部材の固定基部を連結部材に固定する方法を示し、(a)は連結部材に固定基部を位置させた状態の説明図、(b)は連結部材に固定基部を固定させた状態の説明図である。
【図9】足場床を形成する方法を示し、(a)は足場梁を設置した状態の説明図、(b)は足場床を設置した状態の説明図である。
【図10】この発明の第二実施の形態に係る水域構造物の足場構造における足場ユニットを用いて足場を形成する方法を示し、(a)は設置場所まで運ばれた足場ユニットの説明図、(b)は足場支持部材を介して連結部材に足場ユニットを装着した状態の説明図である。
【図11】この発明の第三実施の形態に係る水域構造物の足場構造における床部材支持ユニットを用いて足場を形成する方法を示し、(a)は足場の平面説明図、(b)は(a)のB-B断面による説明図である。
【図12】この発明の第四実施の形態に係る水域構造物の足場構造における喫水調整足場ユニットの斜視説明図である。
【図13】図12の喫水調整足場ユニットを用いて足場を形成する方法を示し、(a)は足場の平面説明図、(b)は(a)のB方向から見た説明図である。
【図14】この発明の第五実施の形態に係る水域構造物の足場構造における浮き梁受け部材を用いて足場を形成する方法を示し、(a)は足場の平面説明図、(b)は(a)のB-B断面による説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
(第一実施の形態)
図1は、この発明の第一実施の形態に係る水域構造物の足場構造を模式的に示す説明図である。図1に示すように、水域構造物の足場10は、例えば、桟橋や船舶係留施設(ドルフィン)或いは橋脚等の水域構造物11に、水域構造物11が備える上部構造物12の下方に位置して設置されている。
【0013】
上部構造物12は、水中から水面W.L上方に突出する複数の鋼管杭(脚部)13(一例として、3本を図示)に支持されて水面W.L上方に位置する。鋼管杭13は、海底或いは川底或いは湖底の水底地盤に所定ピッチで鉛直方向に打ち込まれており、水面W.L上方の所定高さに位置する杭上端部に構築された上部構造物12を有している。
この鋼管杭13の水面W.L上方突出部分から朔望平均干潮面より下側略1m迄の範囲には、防錆・防食のために、ポリエチレン被膜やウレタンエラストマー被膜等を用いたライニングや表面被膜からなる重防食被膜aが施されている。水域構造物部11の脚部には、鋼構造が多く採用されるが、鋼構造を採用した場合、一般的に腐食が激しい水面W.L近傍の飛沫帯には、重防食処理を施すことが望ましく、重防食被膜aは、特に、海水域の水域構造物11において必須とされる施工態様である。
【0014】
この足場10は、鋼管杭13に固定保持される連結部材14に装着された足場支持部材15に支持されて、水面W.L上方に位置しており、足場形成部材16により形成された足場床を有している。足場床は、作業員(図示しない)が、上部構造物12に対する保守・維持管理や修理・改良等に伴う点検・補修・補強・撤去・再構築等の各種作業を行う際に、作業員の作業場所として用いられる。この足場床は、作業員が各種作業をしているときに水面W.L上方に位置していれば良く、例えば、海水域において作業員が各種作業をしていない満潮時等に、海水面下に没していても良い。
【0015】
連結部材14は、複数の鋼管杭13の内の隣接する2本の鋼管杭13を連結するように、隣接する各鋼管杭13の水面下所定位置、即ち、水面W.L下方の重防食被膜aが施された部分を除いた水中位置、望ましくはその水中位置最上部に、離脱可能に装着されている。なお、この連結部材14は、必ずしも水中に位置しなくても良く、重防食被膜aを傷付けること無く装着することができるのなら、重防食被膜aが施された部分に位置させても良い。この連結部材14は、両端間で伸縮自在な入れ子構造を有し、各鋼管杭13の所定位置に固定保持されるが、連結部材14として、例えば、本願出願人により既に出願されている「ストラット部材」(特開2008−223384号公報参照)を用いることができる。
【0016】
なお、足場10を設置しようとする、上部構造物12の下方となる場所に、例えば、水域構造物11を補強するため、既に、鋼管杭13の間を連結する補強用部材が取り付けられており、この補強用部材が、足場10を構成する連結部材14と同様の機能を有する場合、改めて連結部材14を設ける必要は無く、連結部材14の代わりに、既設の補強用部材を用いても良い。
【0017】
図2は、図1の連結部材の鋼管杭装着状態を示す平面説明図である。図2に示すように、連結部材14は、何れも、例えば、一般構造用炭素鋼鋼管(STK)等の管体からなる、外管17及び内管18と、外管17及び内管18の外側端に設けられた鞘管部材19とを有している。そして、連結部材14は、外管17の中に長手方向相対移動可能に挿入された内管18を外管17の内管挿入端に対し引き出し或いは押し込むことにより、その長さが変化する長さ方向伸縮自在に形成されている。
【0018】
鞘管部材19は、鋼管杭13を外側から包囲するのに適する、管体を半割にした樋状に、且つ、鋼管杭13を包囲した状態で、鋼管杭13の外表面と密着することなく外表面との間に所定間隙を有するように拡径して形成されている。鞘管部材19の両側辺には外向きのフランジ19aが突設されており、フランジ19aには、例えば、接合用のボルト・ナットを取り付けるための取付け用孔(図示しない)が開けられている。
【0019】
この連結部材14は、隣接する2本の鋼管杭13,13の間で、両端の鞘管部材19,19がそれぞれ鋼管杭13の外周面外側に位置する長さに調整される。長さを調整した連結部材14は、外管17の内周面と、外管17に挿入した内管18の外周面との間隙に、例えば、直径位置の二箇所で楔状部材(図示しない)を打ち込むことにより、内管18の外管17に対する移動が阻止され、両端の鞘管部材19,19それぞれを鋼管杭13の外周面外側に位置させた状態に保持される。つまり、連結部材14は、装着される鋼管杭間の距離に対応して長さを変化させ、鋼管杭13に対し離脱自在に装着されている。
【0020】
また、図2に示すように、鋼管杭13の外周面外側に位置する鞘管部材19は、鋼管杭13を挟み込む一対の鞘管部材19同士のフランジ19aを、例えば、ボルト・ナットを用いて接合することにより、鋼管杭13の外周面との間に間隙を有して鋼管杭13を内包する円筒状の鞘管を形成する。
なお、連結部材14が鋼管杭13を挟み込まず鋼管杭13の一方側のみに配置される場合は、鋼管杭13の他方側に鞘管部材19と同様の形状及び機能を備えた鞘管形成用部材20を用意し、鋼管杭13を挟み込んだ鞘管部材19と鞘管形成用部材20のそれぞれのフランジ19a,20aを接合することにより、鋼管杭13の外周面との間に間隙を有して鋼管杭13を内包する円筒状の鞘管を形成することができる。
【0021】
フランジ19a,19a及びフランジ19a,20aの接合はボルト・ナットを用いる。
これにより、鞘管部材19は鋼管杭13を挟んで相互に接合され、複数の連結部材14が、複数の鋼管杭13の隣接杭間を連結した状態に一体的に装着される。
この接合された一対の鞘管部材19、或いは鋼管杭13を挟み込んだ鞘管部材19と鞘管形成用部材20からなる円筒状の鞘管は、例えば、楔状部材21を用いて、水面W.L下方の鋼管杭13に固定保持することができ、これにより、隣接する鋼管杭13の間に配置された連結部材14を水中に固定保持することができる。
【0022】
その上、上記構成を有する連結部材14により、既設の鋼管杭13に簡単に後付けすることができ、更には、伸縮することで全長を自在に調整することができるので、部材のユニット化が可能になる。これは、事前に大量製作して、足場を架設する現地で微調整することができるので、製作する連結部材14の寸法を事前に調査する必要が無いためである。
【0023】
図3は、連結部材を鋼管杭に固定保持する楔状部材を移動させる楔状部材移動機構を示し、(a)は鞘管部材が鋼管杭に固定された状態の概略説明図、(b)は楔状部材移動機構が備えられた鞘管部材の説明図である。図3(a)に示すように、鋼管杭13を内包する円筒状の鞘管の内表面、即ち、鞘管部材19の内表面と鋼管杭13の外表面との間隙に、鞘管部材19の上下端の少なくとも下端から楔状部材21を打ち込む。楔状部材21を打ち込むことにより、楔状部材21を介して、鞘管形成用部材20の内表面と鋼管杭13が圧着した状態になる。
【0024】
この結果、鋼管杭13の外表面と鞘管形成用部材20の内表面の摩擦力が増大するので、鞘管、即ち、連結部材14が鋼管杭13に沿って落下することなく鋼管杭13に固定保持される。従って、連結部材14を、鋼管杭13の水底面から上部構造物12直下までの任意の高さに装着固定することができる。
この楔状部材21は、楔状部材移動機構により鋼管杭13と鞘管部材19の間に打ち込むことができる。
【0025】
図3(b)に示すように、楔状部材移動機構は、外管17(或いは内管18)に設けられた鞘管部材19に備えられており、下端に楔状部材21の先端を鞘管部材19の下端内周面に向けて固定した長ボルト22aと、長ボルト22aを貫通螺着させて鞘管部材19に固定されたナット22bと、長ボルト22aを移動自在に貫通させて鞘管部材19に固定されたガイドパイプ22cとを有している。なお、楔状部材移動機構は、鞘管部材19に加え、鞘管形成用部材20にも備えられており、一本の鋼管杭13に対し、少なくとも、鋼管杭13直径位置で対となる二箇所に設置されている。
【0026】
図3(a)に示すように、鞘管部材19同士或いは鞘管部材19と鞘管形成用部材20を接合して形成した鞘管に鋼管杭13を貫通させた状態で、鋼管杭13の所定位置に連結部材14を配置すると、楔状部材21は先端を鋼管杭13と鞘管部材19の間に臨ませた状態になるので、長ボルト22aを、例えば、左回転すると、長ボルト22aは、羅着されたナット22bを介して全体がガイドパイプ22cに案内されつつ鞘管部材19に対し上昇する。長ボルト22a全体が上昇するのに伴い、楔状部材21は先端から鋼管杭13と鞘管部材19の間隙に入り込み、楔状部材21が鋼管杭13と鞘管部材19の間に打ち込まれることになって、円環状の鞘管が、鋼管杭13に固定される。
【0027】
この長ボルト22aのナット22b上方への突出量は、任意の長さに設定することができ、鋼管杭13の水面下所定位置、即ち、水面W.L下方の重防食被膜aが施された部分を除いた水中部分、望ましくはその最上部、に装着した連結部材14に対し、長ボルト22aの上端部が水面W.L上方に露出する長さに設定することにより、水面W.L上方から長ボルト22aを回転操作して、水中で楔状部材21を鋼管杭13と鞘管(鞘管部材19)の間に打ち込むことができる。
【0028】
図4は、図1の足場支持部材の具体例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。図4に示すように、足場支持部材15は、固定基部(連結部材係止部)23と、固定基部23に設けた支柱部材(操作部)24とを有して、連結部材14に離脱可能に装着されており、連結部材14に装着した状態で固定基部23から水面W.L方向に突出する支柱部材24により、足場10を水面W.L上方に位置させて支持する。
【0029】
固定基部23は、例えば、矩形状鉄板を外管17及び内管18の外周面形状に対応する曲面形状に加工して形成された、一対の基部片23a,23aを、凹面側が同一方向になるようにそれぞれの側辺同士をヒンジ23bで連結して、互いに接近する閉動作及び互いに離反する開動作が可能に形成されている(図4、矢印参照)。
このため、固定基部23を、開状態で連結部材14の外周面の外側に位置させ、その後、閉状態にすることで、連結部材14の外周面の大半を覆って外周面に密着し連結部材14に係止した状態にすることができる。
【0030】
一対の基部片23a,23aのそれぞれの内周面には、閉状態の固定基部23が連結部材14の外周面との間で滑って移動することが無いように、滑り止め用の薄肉シート状のゴム部材23cが貼り付けられている。このゴム部材23cは、固定基部23が閉状態になることで連結部材14に圧着し、摩擦力により連結部材14に対する固定基部23の回転を阻止することができる。なお、ゴム部材23cは、連結部材14の外表面の凹凸に馴染むので、固定基部23が装着固定される連結部材14(外管17及び内管18)の曲面部形状の微調整が不要となる。このため、新たに設置する連結部材14の代わりに、既設の鋼管杭13を連結する補強用部材を用いた場合でも、固定基部23を装着固定することができ、その際、事前に装着面を清掃する必要が無い。
【0031】
各基部片23aの、ヒンジ連結側とは反対側の外周面には、この外周面に固定された支柱取付部材23dを介して、例えば、鋼管製の単管パイプ等からなる支柱部材24の下端側が取り付けられている。支柱部材24は、支柱取付部材23dに対し、支柱取付部材23dから下方に突出する突出下端部24aを有するように貫通すると共に、ヒンジ連結辺と直交する方向に延びて固定されている。
【0032】
つまり、一対の基部片23a,23aのそれぞれに取り付けられた両支柱部材24,24の各上端側を、互いに接近させて固定基部23の開状態にすることができ、一方、互いに離反させて連結部材14を挟み込んだ固定基部23の閉状態にすることができる。固定基部23が閉状態にあるとき、固定基部23は、連結部材14を挟み込んで両側から締め付けた状態となり、両支柱部材24,24は、それ以上離反する方向へと移動することなく保持される。
【0033】
図5は、図1の足場支持部材の固定基部が連結部材を挟み込んだ状態を示す説明図である。図5に示すように、固定基部23を閉状態として連結部材14に係止させた足場支持部材15は、固定基部23に取り付けられた両支柱部材24,24を、固定基部23を底部とするV字状に保持することになり、これによって、その上端位置が所定の高さに保持されることになる。
この支柱部材24は、鋼管杭13の水面下所定位置に配置された固定基部23から水面W.L方向に突出して(図1参照)、支柱部材24の上端部を、例えば、水面W.L上方の、水面W.L近傍に位置させることができる長さを有している。
【0034】
従って、固定基部23を連結部材14に係止させた足場支持部材15の両支柱部材24,24は、水面W.L近傍に位置する支柱部材24の上端部24bを介して固定基部23の開閉操作を行うことができる操作手段(開閉操作部材)として機能し、足場支持部材15は、固定基部23を閉状態にした場合に、両支柱部材24,24に装着された足場10を水面W.L上方の所定位置に保持するように支持することができる支持手段として機能する。
【0035】
このように、足場支持部材15は、上記構成を有することにより、水面W.L上方からの装着操作により、水面下所定位置に固定保持された連結部材14への足場支持部材15の装着を可能にする装着機構を有することになり、水面W.L上方からの遠隔操作により、簡単に足場支持部材15の連結部材14への取り付け或いは取り外しができる。
また、固定基部23を連結部材14に係止させた足場支持部材15は、両支柱部材24,24をV字状に保持した状態で、支柱取付部材23dから下方に突出下端部24aを突出させ、連結部材14の下方に突出下端部24aを位置させている。このため、波浪等の影響で足場10全体にかかる、足場10を持ち上げようとする力、即ち、揚圧力に抗することができる。
【0036】
足場形成部材16は、図5に示すように、両支柱部材24,24に装着される梁部材16aと、梁部材16aに装着されて足場床となる床部材16bを有しており、足場10を形成する。梁部材16aは、例えば、鋼管製の単管パイプからなり、単管クランプ等のクランプ手段(図示しない)により支柱部材24の上端部24bに離脱可能に装着されており、床部材16bは、例えば、エキスパンドメタルが用いられ、取付け部材(図示しない)により梁部材16aに離脱可能に装着されている。
【0037】
次に、水域構造物11が備える、例えば、桟橋上部工等の上部構造物12の下方に設置される足場10の設置方法を説明する。
先ず、水域構造物11から離れた位置で、入れ子構造を有する連結部材14を、両端間を短くした上で、浮力体を取り付け水没しないようにして、例えば、鞘管部材19が上下方向に位置する姿勢で水面W.Lに浮かべる。連結部材14が水没しないようにするには、浮力体として、大きな浮力が得られる発泡スチロール製またはFRP(Fiber Reinforced Plastics)製や空気を注入するゴム製等のフロータを取り付ける他、両端を水密に密封して連結部材14自身にフロータの機能を持たせたり、これらを組み合わせて構成しても良い。
【0038】
次に、作業員が水面W.Lに浮かぶ、例えば、ポンツーン等の浮体に乗り、足場10を設置するために必要な数の連結部材14を水面W.Lに浮かべた状態で、足場10を設置する上部構造物12の下方となる場所まで曳航する。そして、作業員が浮体に乗ったまま、隣接する2本の鋼管杭13,13の距離に合わせて連結部材14の両端を伸ばし、両端の鞘管部材19,19がそれぞれ鋼管杭13の外周面外側に位置する長さに調整し、調整された複数の連結部材14を、水面W.Lに浮かべたまま複数の鋼管杭13の隣接杭間に一列に配置する。
【0039】
その後、鋼管杭13を挟み込んだ、一対の鞘管部材19,19及び鞘管部材19と鞘管形成用部材20のそれぞれのフランジ19a,20aを接合して、鋼管杭13の外周面との間に間隙を有して鋼管杭13を内包する円筒状の鞘管を形成する(図2参照)。鞘管形成後、水面W.Lに浮かべた連結部材14からフロータを外して、鞘管を鋼管杭13に沿わせて水面W.Lから水面W.L下方へ移動させ、鋼管杭13の水面下所定位置に連結部材14を配置する。
【0040】
このとき、鋼管杭13の外表面を移動する鞘管は、外周面との間に間隙を有しているので、水面W.L下方の重防食被膜aが施された部分を重防食被膜aに接触すること無く移動させることができ、傷付き易い重防食被膜aを傷付けることが無い。つまり、水域構造物部11の脚部に鋼構造を採用した場合、飛沫帯には重防食処理が施されており、この重防食処理に多く採用されている有機系材料によるライニング(表面被膜工法)は、外力が加わることによって損傷し易いため、重防食処理施工範囲に鞘管を取り付ける等、何らかの細工を施す場合、重防食処理の補修作業が必要となるが、この補修作業を必要としなくなる。
【0041】
このように、配置される鋼管杭13間の距離に対応して長さが変化する長さ方向伸縮自在に形成された連結部材14は、水面W.Lに浮かべた状態で足場設置場所に運んだ後、水面W.L上方からの操作により鋼管杭13に対し離脱自在に装着される。
なお、足場設置場所に、既に、鋼管杭13の間を連結する補強用部材等が取り付けられており、この補強用部材等が、連結部材14と同様の機能を有する場合、連結部材14を配置することなく、既設の補強用部材等を用いる。
【0042】
次に、浮体に乗った作業員は、連結部材14を鋼管杭13の水面下所定位置に配置したまま、水面W.L上方に露出する、長ボルト22aの上部先端を、例えば、左回転させて、長ボルト22aを上昇させる。長ボルト22aの上昇により、鞘管部材19の下端から楔状部材21が鋼管杭13と鞘管部材19の間に打ち込まれ、接合された鞘管部材19と鞘管形成用部材20(或いは一対の鞘管部材19,19)からなる円環状の鞘管が、鋼管杭13に固定される(図3(a)参照)。
【0043】
図6は、水面下において鋼管杭に連結部材が固定された状態を示し、(a)は連結部材を側方から見た説明図、(b)は連結部材を上方から見た説明図である。図6に示すように、楔状部材21により鞘管部材19、即ち、鞘管が鋼管杭13に固定されることにより((a)参照)、連結部材14は、隣接する鋼管杭13の間を連結するように、鋼管杭13の水面下所定位置に固定保持される((a),(b)参照)。
次に、鋼管杭13の水面下所定位置に固定保持された連結部材14に、足場支持部材15を取り付ける。
【0044】
図7は、足場支持部材の連結部材への取り付け方法を示し、(a)は設置場所まで運ばれた足場支持部材の説明図、(b)は連結部材に足場支持部材の固定基部を固定させた状態の説明図である。図7に示すように、足場支持部材15を、例えば、ポンツーン等の浮体Pに載せて、鋼管杭13の水面下所定位置に連結部材14が固定保持された、足場10を設置する場所まで運ぶ((a)参照)。
【0045】
足場10を設置する場所まで運んだ足場支持部材15を、浮体Pに乗った作業員Wが水面W.L下方に沈めて、固定基部23を鋼管杭13の水面下所定位置に設置した連結部材14に係止させ、両支柱部材24,24の上端部24bが水面W.L上方に露出させた状態にして、足場支持部材15を連結部材14に取り付ける。以後、同様に、足場10を設置するために必要な数の足場支持部材15を全て連結部材14に取り付ける((b)参照)。
【0046】
図8は、足場支持部材の固定基部を連結部材に固定する方法を示し、(a)は連結部材に固定基部を位置させた状態の説明図、(b)は連結部材に固定基部を固定させた状態の説明図である。図8に示すように、足場支持部材15を連結部材14に固定する場合、個別に浮体Pに乗った二人の作業員Wのそれぞれが、一対の支柱部材24,24の各々の各上端部24b近傍を持って、足場支持部材15を水面W.L下方に沈め、両支柱部材24,24を上下方向略平行にして固定基部23を開状態にし、連結部材14の上部に位置させる((a)参照)。
【0047】
そして、それぞれ上端部24b近傍を持った各作業員Wは、浮体Pに乗ったまま、即ち、水面W.L上方から、一対の支柱部材24,24のそれぞれが互いに離反するように支柱部材24を操作して、両支柱部材24,24が固定基部23を底部とするV字状になるようにする。これにより、開状態で連結部材14の外周面の外側に位置する固定基部23を閉状態にして、固定基部23を、連結部材14の外周面の大半を覆って外周面に密着し連結部材14に係止した状態にする((b)参照)。
【0048】
次に、水面下所定位置に設置した連結部材14に取り付けた複数の足場支持部材15(図7(b)参照)に、足場形成部材16を装着し、足場床を形成する。
図9は、足場床を形成する方法を示し、(a)は足場梁を設置した状態の説明図、(b)は足場床を設置した状態の説明図である。図9に示すように、足場10を設置するために必要な数の足場支持部材15を全て連結部材14に取り付けた後、作業員Wは、浮体Pに乗ったまま、即ち、水面W.L上方から、各支柱部材24の、水面W.L上方に露出させた上端部24bに、梁部材16aを掛け渡し、各上端部24bと梁部材16aとを離脱可能に装着する((a)参照)。
【0049】
各支柱部材24のそれぞれの上端部24bと梁部材16aとを装着することにより、各足場支持部材15の両支柱部材24,24はV字状のまま保持されて、梁部材16aを支持する。そして、全ての足場支持部材15に梁部材16aを相互連結状態に装着して、複数の足場支持部材15に支持される複数の梁部材16aを水面W.L上方に並設した後、梁部材16aの上に、足場床となる床部材16bを離脱自在に装着する((b)参照)。
【0050】
このように、上述した足場構築工法により、足場支持部材15は、水面W.Lに浮かべた状態で足場設置場所に運んだ後、水面W.L上方からの操作により連結部材14に離脱可能に装着されて、連結部材14に装着した状態で水面W.L方向に突出しており、この足場支持部材15を用いて、足場10を水面W.L上方に支持することができる。また、水面W.Lに浮かべた状態で足場10を設置する足場設置場所に運んだ、足場10を形成する足場形成部材16を、水面W.L上方からの操作により、複数の鋼管杭13の2本の鋼管杭13,13の間を連結し鋼管杭13の水面下所定位置に固定保持される連結部材14を介して、即ち、連結部材14に装着された足場支持部材15に支持されて、足場設置場所に固定配置し、足場10を水面W.L上方に位置させて設置することができる。
(第二実施の形態)
【0051】
続いて、この発明の第二実施の形態に係る水域構造物の足場構造について説明する。
この第二実施の形態に係る水域構造物の足場構造においては、梁部材16aと床部材16bからなる足場形成部材16を、足場10を設置する設置現場で組み立てて、足場10を形成する代わりに、予め製作した足場ユニットを用いて足場30を形成する。その他の構成及び作用は、第一実施の形態に係る水域構造物の足場構造と同様である。
図10は、この発明の第二実施の形態に係る水域構造物の足場構造における足場ユニットを用いて足場を形成する方法を示し、(a)は設置場所まで運ばれた足場ユニットの説明図、(b)は足場支持部材を介して連結部材に足場ユニットを装着した状態の説明図である。
【0052】
図10に示すように、予め製作した足場ユニットを用いて足場30を形成する場合、先ず、予め、足場床を有する矩形板状の足場ユニット31を形成しておき、この足場ユニット31に、大きな浮力が得られる発泡スチロール製またはFRP製のフロータを取り付けて水面W.Lに浮かべると共に、必要な数の足場支持部材15を載せて、足場30を設置する設置現場まで曳航する((a)参照)。足場ユニット31は、発泡スチロール等でできたフロータを取り付ける他、足場ユニット31自身にフロータの機能を持たせたり、これらを組み合わせて構成することにより、水面W.Lに浮かぶようにしても良い。
【0053】
次に、足場30を設置する設置現場で、足場ユニット31に乗った作業員Wが、足場支持部材15を水面W.L下方に沈めて、固定基部23を鋼管杭13の水面下所定位置に設置した連結部材14に係止させ、足場支持部材15を連結部材14に取り付けることにより((b)参照)、足場ユニット31に搭載して運んだ足場支持部材15で、足場ユニット31を連結部材14に固定(支持)する。
なお、連結部材14は、少なくとも、足場30の設置現場まで曳航した足場ユニット31から足場支持部材15を水面W.L下方に沈める前に、前述したように、鋼管杭13に装着固定しておく。
【0054】
この足場ユニット31に乗った作業員Wによる、足場支持部材15を連結部材14に取り付ける作業内容及び作業手順は、上述した、第一実施の形態に係る水域構造物の足場構造の、浮体Pに乗った作業員Wが行う、足場10を設置する場所まで運んだ足場支持部材15を連結部材14に取り付ける、足場支持部材の連結部材への取り付け方法の作業内容及び作業手順(図7,8参照)と同様である。
【0055】
このように、足場床を事前に陸上で製作(ユニット化)して足場30を設置する設置現場に曳航し、設置現場で足場支持部材15を使用して連結部材14に装着固定することにより、梁部材16aと床部材16bからなる足場形成部材16を足場設置現場で組み立てる場合に比べ、足場構築のための作業工程を大幅に短縮することができ、この結果、足場構築に要する作業時間も大幅に短縮することができる。
(第三実施の形態)
【0056】
続いて、この発明の第三実施の形態に係る水域構造物の足場構造について説明する。
この第三実施の形態に係る水域構造物の足場構造においては、足場35は、足場形成部材16により形成される足場10に加えて、足場10より一段低い足場形成ユニット36を設けることにより、二段に形成されている。その他の構成及び作用は、第一実施の形態に係る水域構造物の足場構造と同様である。
図11は、この発明の第三実施の形態に係る水域構造物の足場構造における足場形成ユニットを用いて足場を形成する方法を示し、(a)は足場の平面説明図、(b)は(a)のB-B断面による説明図である。
【0057】
図11に示すように、足場35は、水面W.L上方で足場10より一段低く設置された足場形成ユニット36を有しており、足場形成ユニット36は、水域構造物11が備える上部構造物12の最低部となる、例えば、桟橋梁部12aの直下部分において、足場10の隣接する床部材16b,16bの間を一段下がった位置で連結するように、配置されている。
【0058】
この足場形成ユニット36は、両支柱部材24,24に装着される梁部材36aと、梁部材36aに装着されて足場床となる床部材36bを有しており、V字形に配置された2本の支柱部材24により支持される梁として、且つ、作業者が作業及び通行する床面として、十分な形状及び広さの矩形状に形成されている。梁部材36aは、例えば、鋼管製の単管パイプからなり、単管クランプ等のクランプ手段(図示しない)により支柱部材24に離脱可能に装着されており、床部材36bは、例えば、エキスパンドメタルが用いられ、取付け部材(図示しない)により梁部材36aに離脱可能に取り付けられている。
【0059】
梁部材36aは、作業箇所となる、例えば、桟橋梁部12aの下方の、床部材36bとの間で作業及び通行の際に必要とする十分な高さを確保することができる支柱部材24の中央部位置で、支柱部材24に装着されている。
これにより、水域構造物11が備える上部構造物12である、例えば、桟橋梁部12a下方の空間を十分に確保することができる。つまり、一般に、桟橋床版12bの下面を補修するために床版12bの下面に作業員の手が届き易くしようとすると、足場35の基面、即ち、床部材16bにより形成される足場床面の位置を高くしなければならないが、そうすると、桟橋梁部12aの下面と足場床面との距離が接近してしまい高さ方向空間が非常に狭くなり、桟橋梁部12aの下面における作業性や通行が困難になる。
【0060】
しかしながら、V字形に配置された2本の支柱部材24からなる足場支持部材15により、桟橋梁部12aの下方を避けた、桟橋梁部12aの両側一対の2箇所で梁部材(単管パイプ)36aを支持することで、連結部材14から支持部材24が鉛直方向に1本延びている足場支持部材で支持する場合と比較すると、梁部材16aの径間が短くなって、強度保持のために必要とする断面性能を小さくすることができ、組立作業性の向上や材料費の削減が可能となる。
【0061】
また、足場35を支持する足場支持部材15が、V字形に配置された2本の支柱部材24,24からなるので、桟橋梁部12aの下方の足場形成ユニット36と足場10とにより、桟橋梁部12aの直下と桟橋床版12bの直下で足場床面の高さ(基面高)を変えた二段構成の足場35を構築することができ((b)参照)、足場形成ユニット36の高さを、桟橋梁部12aの位置に対応して支柱部材24における任意の位置に設定することができるのに加え、梁部材16aの高さも、桟橋梁部12aの位置に左右されない任意の位置に設定することができる。このため、作業高さとなる足場床面の高さを任意の高さに設定することができるので、桟橋等の水域構造物11の上部構造物12を点検や補修等する際の作業性が向上する。
(第四実施の形態)
【0062】
続いて、この発明の第四実施の形態に係る水域構造物の足場構造について説明する。
この第四実施の形態に係る水域構造物の足場構造においては、足場40を、足場支持部材15を用いることなく直接、連結部材14に装着固定することができる喫水調整足場ユニット41を用いて、形成している。その他の構成及び作用は、第一実施の形態に係る水域構造物の足場構造と同様である。
図12は、この発明の第四実施の形態に係る水域構造物の足場構造における喫水調整足場ユニットの斜視説明図である。図13は、図12の喫水調整足場ユニットを用いて足場を形成する方法を示し、(a)は足場の平面説明図、(b)は(a)のB方向から見た説明図である。
【0063】
図12に示すように、喫水調整足場ユニット41は、例えば、鋼製やFRP製等からなり、内部に、例えば、水等の液体を貯め置くと共に液体を注入或いは排出することができる立方体状容器に形成されており、底部には、対向する辺間を結んで底面側に開口し、連結部材14を嵌め込むことができる形状及び大きさを有する、溝状の凹部41aが形成されている。
従って、この喫水調整足場ユニット41は、容器内部の液体量を増減することで、水面W.Lに浮かべた際の喫水を調整することができることから、容器内部の液体量を少なくして喫水を浅くし水面W.Lに浮かべた状態にすることができ、一方、容器内部の液体量を多くして喫水を深くし水面W.L下方に沈み込ませることができる。
【0064】
よって、喫水調整足場ユニット41は、容器内部の液体量が少ない状態で水面W.Lに浮かべ、足場設置場所まで曳航することができ、足場設置場所に着いたら、連結部材14の上方に位置させて、容器内部の液体量を多くすることにより水面W.L下方に沈み込ませ、連結部材14を凹部41a内に嵌め込むことができる。
なお、連結部材14は、少なくとも、足場40の設置現場まで曳航した喫水調整足場ユニット41を水面W.L下方に沈み込ませる前に、前述したように、鋼管杭13に装着固定しておく。
【0065】
凹部41a内に連結部材14を嵌め込むことにより、喫水調整足場ユニット41を、上部側を水面W.L上方に露出させ、鋼管杭13の水面下所定位置に設置した連結部材14に係止した状態に保持させることができる。この状態で、喫水調整足場ユニット41同士を連結し、喫水調整足場ユニット41の上面を足場床として足場40を形成する。
この連結部材14に係止させた喫水調整足場ユニット41は、容器内部の液体量を少なくすることで浮かせることができるので、凹部41aから連結部材14を引き抜いて、連結部材14から喫水調整足場ユニット41を離脱させることができる。
【0066】
このように、喫水調整足場ユニット41は、内部に液体を貯め置くと共に内部の液体量を増減することができる容器からなり、足場40となる容器上面部、及び容器底面部に形成された連結部材14に離脱可能に装着することができる凹部(係止部)41aを有し、内部の液体量を多くして水面W.L下方に沈み込ませ、凹部41aにより連結部材14に係止した状態に保持させることができる。
(第五実施の形態)
【0067】
続いて、この発明の第五実施の形態に係る水域構造物の足場構造について説明する。
この第五実施の形態に係る水域構造物の足場構造においては、足場45を、足場支持部材15の代わりに、連結部材14に係止された浮き梁受け部材46を用いて梁部材16aを支持することにより、形成している。その他の構成及び作用は、第一実施の形態に係る水域構造物の足場構造と同様である。
図14は、この発明の第五実施の形態に係る水域構造物の足場構造における浮き梁受け部材を用いて足場を形成する方法を示し、(a)は足場の平面説明図、(b)は(a)のB-B断面による説明図である。
【0068】
図14に示すように、浮き梁受け部材46は、少なくとも、隣接する2本の鋼管杭13,13間に掛け渡すことができる長さを有すると共に、例えば、エキスパンドメタル等の床部材16bを載せたまま水面W.Lに浮かべることができる浮体構造を有する、桁材状に形成されており、例えば、ロープ状の係止手段47を用いて連結部材14に係止されている。
この浮き梁受け部材46を、足場設置場所まで曳航し、足場設置場所に着いたら、係止手段47を用いて、浮き梁受け部材46と連結部材14と繋ぎ止め、水面W.Lに浮かべたまま、連結部材14と直交する方向に位置させて連結部材14に係止する。
【0069】
なお、連結部材14は、少なくとも、足場45の設置現場まで曳航した浮き梁受け部材46を連結部材14に繋ぎ止める前に、前述したように、鋼管杭13に装着固定しておく。
水面W.Lに浮かべたまま連結部材14に係止された浮き梁受け部材46を、足場45を形成するために必要な数、設置した後、全浮き梁受け部材46の上面に、浮き梁受け部材46と直交する方向に梁部材16aを掛け渡し、掛け渡した梁部材16aに、足場床となる床部材16bを装着する。これにより、床部材16bの上面を足場床として足場45が形成される。
【0070】
上述した、各実施の形態に示すように、この発明に係る水域構造物の足場構造により、鋼管杭13に固定保持される連結部材14に装着された足場支持部材15に支持されて、水面W.L上方に位置する、足場床を有する足場10を、作業員Wが浮体Pに乗ったまま水面W.L上方からの作業により、水域構造物11の上部構造物12の下方に設置することができる。
そして、部材軸方向に伸縮自在な筒体を含む棒状部材で、既設の鋼管杭13間に脱着可能に装着され、水域構造物11の鋼管杭13間を連結し少なくとも鋼管杭13に沿って移動しないように装着された連結部材14が、上部工の下に構築する足場の荷重を保持し、また、上部工の下に浮体で構築する足場の動揺を抑制する。
【0071】
このため、鋼管杭13に固定保持される連結部材14を支持構造体(基礎)として、足場10を構築することができるので、従来の吊りチェーンを用いて吊設する足場においては必須だった吊りチェーンそのものを無くすことができるばかりでなく、上部構造物(例えば、桟橋上部工)の梁側面等にチェーンを取り付ける工程も省略することができる。
よって、吊りチェーンを無くすことにより、足場を構築することで得られる作業空間がチェーンに遮られないので、作業空間の自由な移動及び広い作業空間を確保することができ、点検・補修作業の効率が上がり、作業コストの低減及び作業工程の短縮が可能になる。また、吊りチェーンを無くすことにより、手間がかかる吊りチェーンの取付け作業そのものが無くなるので、足場架設にかかる作業コストの低減及び工期の短縮が可能になる。
【0072】
加えて、吊りチェーンを無くすことに伴い、吊りチェーンを取り付ける取付金物の後処理、即ち、足場撤去後の撤去及び取付け面の補修等が不要となる。取付け面の補修そのものが不要になるので、補修跡がもたらす、例えば、取付金具が錆びてそこから塩害によるコンクリートの劣化が進行する等の、将来のコンクリート劣化をもたらす虞そのものを無くすことができる。
【0073】
また、連結部材14を水中に配置する場合、連結部材14を水中で鋼管杭13に固定保持する楔状部材21は、水面W.L上方から長ボルト22aを回転操作して鋼管杭13と鞘管の間に打ち込むことができ、また、この連結部材14への足場支持部材15の取り付けは、水面W.L上方から支柱部材24を操作して行うことができ、何れの作業も、作業員Wが、例えば、水面W.Lに浮かべた浮体Pに乗ったまま、水面から遠隔操作して簡単にできるので、例えば、潜水士による水中作業を必要とせず、作業コストの低減が可能になる。
更に、足場を事前に陸上で製作(ユニット化)して現地に曳航し、足場支持部材を使用して支持部材と連結・固定することで、足場構築にかかる工程を大幅に短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
この発明によれば、吊りチェーンを無くすことにより、足場を構築することで得られる作業空間がチェーンに遮られないので、作業空間の自由な移動及び広い作業空間を確保することができ、また、吊りチェーンを無くすことにより、手間がかかる吊りチェーンの取付け作業そのものが無くなるので、桟橋等の水域構造物の上部構造物を点検や補修等する際に用いる、水面上方に位置する上部構造物の下方に設置される水域構造物の足場構築工法及び足場構造に最適である。
【符号の説明】
【0075】
10,30,35,40,45 足場
11 水域構造物
12 上部構造物
12a 桟橋梁部
12b 桟橋床版
13 鋼管杭
14 連結部材
15 足場支持部材
16,36 足場形成部材
16a 梁部材
16b 床部材
17 外管
18 内管
19 鞘管部材
19a,20a フランジ
20 鞘管形成用部材
21 楔状部材
22a 長ボルト
22b ナット
22c ガイドパイプ
23 固定基部
23a 基部片
23b ヒンジ
23c ゴム部材
23d 支柱取付部材
24 支柱部材
24a 突出下端部
24b 上端部
31 足場ユニット
36 足場形成ユニット
36a 梁部材
36b 床部材
41 喫水調整足場ユニット
41a 凹部
46 浮き梁受け部材
47 係止手段
P 浮体
W 作業員
W.L 水面
a 重防食被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中から水面上方に突出する複数の脚部に支持されて水面の上方に位置する上部構造物を備えた水域構造物に、前記上部構造物の下方に位置する足場を設置する、水域構造物の足場構築工法において、
水域構造物の脚部間を連結し少なくとも脚部に沿って移動しないように装着された連結部材が、上部工の下に構築する足場の荷重を保持することを特徴とする水域構造物の足場構築工法。
【請求項2】
水中から水面上方に突出する複数の脚部に支持されて水面の上方に位置する上部構造物を備えた水域構造物に、前記上部構造物の下方に位置する足場を設置する、水域構造物の足場構築工法において、
水域構造物の脚部間を連結し少なくとも脚部に沿って移動しないように装着された連結部材が、上部工の下に浮体で構築する足場の動揺を抑制することを特徴とする水域構造物の足場構築工法。
【請求項3】
請求項1又は2の水域構造物の足場構築工法を実現するために、足場の荷重を保持する連結部材は部材軸方向に伸縮自在な棒状部材で、既設の脚部間に脱着可能であることを特徴とする水域構造物の足場構築工法。
【請求項4】
足場の荷重を連結部材に伝達する足場支持部材において、連結部材に固定する固定基部と支柱部材からなり、足場支持部材は連結部材に脱着可能に装着され、固定基部は基部片が閉動作することで連結部材に固定基部が密着して足場支持部材が連結部材に係止した状態になり、その開閉動作は固定基部に装着した開閉操作部材で行うことができる構造となっていることを特徴とする足場構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2012−225002(P2012−225002A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91510(P2011−91510)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000172961)あおみ建設株式会社 (21)
【Fターム(参考)】