説明

水域環境保全用人工ミネラル供給材及びその水域環境保全方法

【目的】
本発明は、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底等の水域の動植物に必要なミネラルが不足したことにより、藻および水草や海草群落の減少・消失を起こしてしまった水域において,ケイ素、鉄などのミネラルを供給することで、藻および水草や海草の生育、または魚介類の繁殖が促進され、減少・消失した藻場、漁場の改善を可能にするものである。
【構成】
水域環境保全人工ミネラル供給材およびそれを用いた水域環境保全方法において、動植物が生育するのに不可欠であるミネラルが不足している水域に対して適用する材料であって、炭酸化処理された鉄鋼スラグを含むミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物のpHが8.5以下となるように調整された混合物を、透水性を有する包装体に収容し水域に設置する構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底等の水域の動植物に必要なミネラルが不足したことにより、藻および水草や海草群落の減少・消失を起こしてしまった水域において,ケイ素、鉄などのミネラルを供給することで藻および水草や海草の生育、または魚介類の繁殖が促進され、減少・消失した藻場、漁場の改善することを可能にしたものである。
【背景技術】
【0002】
日本各地の水域で発生している藻および水草や海草群落の減少・消失対策として、近年様々な検討がなされている。
【0003】
特に、ケイ素、鉄は、藻および水草や海草の生育には欠かせない必須ミネラルであり、従来から藻および水草や海草の生育、または魚介類の繁殖を改善させる試みがなされている。
【0004】
しかし、水域で人工的に溶出させたミネラルは、弱アルカリ性の水域、例えば海水中ではこれらのミネラルを海藻および海草が利用できる溶存態として供給され難い問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1では、透水性を有する袋に二価鉄を含有する物質として製鋼スラグと、腐植含有物質を混合し、水中へ沈設する方法を実現している。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、配合方法について詳細な記述がなされていない為、有益なミネラルが溶出しない場合がある。
【0007】
特許文献2では、透水性を有する袋に製鋼スラグを含有する施肥材料を詰めて、水中へ沈設させ、施肥材料を定期的に交換する方法を実現している。
【0008】
ところが、特許文献2も同様に、その配合方法についての詳細な記述がなされていない為、有益なミネラルが溶出しない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−212036(特許4489043号)公報
【特許文献2】特開2007−330254(特許4351708号)公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底等の水域の動植物に必要なミネラルが不足したことにより、藻および水草や海草群落の減少・消失を起こしてしまった水域において,ケイ素、鉄などのミネラルを供給することで、藻および水草や海草の生育、または魚介類の繁殖が促進され、減少・消失した藻場、漁場の改善を可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、上記問題点を解決するため、鋭意検討を進めた結果、炭酸化処理された鉄鋼スラグを含むミネラル含有物質とイオン交換物質を配合し、当該混合物のpHを調整することで、ケイ素、鉄のミネラルを溶存態として動植物へ供給されやすくなると考えた。
【0012】
本発明の第1は、水域環境保全用人工ミネラル供給材において、動植物が生育するのに不可欠であるミネラルが不足している水域に対して適用する材料であって、炭酸化処理された鉄鋼スラグを含むミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物のpHが8.5以下となるようにしたものである。
【0013】
本発明の第2は、第1の発明にかかる水域環境保全用人工ミネラル供給材において、ミネラル含有物質は、ミネラル補填材が含まれていることを特徴とする。
【0014】
本発明の第3は、第1または第2の発明にかかる水域環境保全用人工ミネラル供給材において、イオン交換物質は、キレート作用促進材が含まれていることを特徴とする。
【0015】
本発明の第4は、第1から第3までのいずれか1項の発明における水域環境保全用人工ミネラル供給材において、キレート作用促進材は、酸性を示す固体もしくは液体が含まれていることを特徴とする。
【0016】
本発明の第5は、第1から第4までのいずれか1項の発明における水域環境保全用人工ミネラル供給材において、イオン交換物質は、人工腐植土、もしくは人工腐植土から溶出・抽出された液体が含まれ、イオン交換機能を有していることを特徴とする。
【0017】
本発明の第6は、第1から第5までのいずれか1項の発明における水域環境保全用人工ミネラル供給材において、人工腐植土は、バーク堆肥、ピートモス、腐葉土、もしくは未分解の草木、樹木のチップ、または、工場、事業所から排出される排水,下水道終末処理場における下水、し尿、家畜排泄物のばっ気処理、発酵処理によって得られる汚泥及びその処理物の少なくとも1種以上が含まれる有機質資材を酸性液体で養生し生成された腐植土を1種または2種以上混合して使用されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の第7は、第1から第6までのいずれか1項の発明における水域環境保全用人工ミネラル供給材において、イオン交換物質は、陽イオン交換容量が高い物質、もしくは陰イオン交換容量が高い物質を1種、または2種以上配合されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の第8は、第1から第7までのいずれか1項の発明における水域環境保全用人工ミネラル供給材において、イオン交換物質は、C/N比で10以上、有機物含有量が70容量%以上、pHが−1.1〜9.0、電気伝導度が2.0mS/cm以下の値のものが含まれていることを特徴とする。
【0020】
本発明の第9は、第1から第8までのいずれか1項の発明における水域環境保全用人工ミネラル供給材の水域環境保全方法において、当該ミネラル供給材を透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することを特徴とする。
【0021】
本発明の第10は、第1から第8までのいずれか1項の発明における水域環境保全用人工ミネラル供給材の水域環境保全方法において、当該ミネラル供給材を透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、他の構造物表面に脱着が可能な様に取付け、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することを特徴とする。
【0022】
本発明の第11は、第1から第8までのいずれか1項の発明における水域環境保全用人工ミネラル供給材の水域環境保全方法において、当該ミネラル供給材をゲル化剤,増粘剤・糊料,安定剤でゲル状としたものを透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、他の構造物表面に脱着が可能な様に取り付け、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することを特徴とする。
【0023】
本発明の第12は、第1から第8までのいずれか1項の発明における水域環境保全用人工ミネラル供給材の水域環境保全方法において、当該ミネラル供給材を、C4植物資源由来のプラスチックで成型したものを、透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、他の構造物表面に脱着が可能な様に取付け、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することを特徴とする。
【0024】
本発明の第13は、第1から第8までのいずれか1項の発明における水域環境保全用人工ミネラル供給材の水域環境保全方法において、当該ミネラル供給材の表面に藻および水草や海草の胞子や胞子体、種糸を米由来のデンプン質天然素材糊で固定し、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明は上記の構成であるから、炭酸化処理された鉄鋼スラグを含むミネラル含有物質とイオン交換物質を配合し、pHを8.5以下に調整した混合物を、透水性を有する包装体に収容し、水域に設置することでケイ素、鉄等のミネラルを溶存態として動植物へ供給されやすくなる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0027】
本発明の第1は、水域環境保全用人工ミネラル供給材が、動植物が生育するのに不可欠であるミネラルが不足している水域に対して適用する材料で,炭酸化処理された鉄鋼スラグを含むミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物のpHが8.5以下となるように調整されていることを特徴とする。
【0028】
また発明者らは、検討を重ねた結果、鉄鋼スラグの様なアルカリ性を示すミネラル含有物質では、カルシウムイオンの溶出が支配的で、他の生物に有益なミネラルの溶出が阻害されることを突き止め、カルシウムイオンの溶出を抑制する為に、炭酸化処理が有効であることを見出した。
しかしながら、炭酸化処理された鉄鋼スラグからは、カルシウムイオン以外の動植物に有益なミネラルの溶出も抑制されてしまう為、発明者らは更に検討し、炭酸化処理された鉄鋼スラグをpH調整することで、ミネラルの溶出が制御可能であることを突き止めた。
さらにイオン交換物質で、溶出したミネラルを動植物が吸収しやすい溶存態で保持することが可能であると考えた。
【0029】
上記の鉄鋼スラグとは、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ等の高炉から出滓された高炉スラグ、および溶銑予備処理スラグ(脱硫スラグ、脱珪スラグ、脱リンスラグ)、転炉スラグ、電気炉スラグ、ステンレススラグ等の溶鋼を溶製するために利用するあらゆる精錬容器で形成された製鋼スラグのことである。
また、炭酸化処理とは、鉄鋼スラグ中の未滓化カルシウムやケイ酸カルシウム等のカルシウムを二酸化炭素含有ガスを用いて炭酸カルシウムに処理することである。
炭酸化された鉄鋼スラグを含むミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物のpHが8.5以下となるように調整された水域環境保全用人工ミネラル供給材を水中に設置することで、ミネラル含有物質から溶出される多くのミネラルがイオン交換物質によって溶存態として存在し、藻および水草や海草の生育、または魚介類の繁殖が促進し、減少・消失した藻場、漁場の改善を可能にしたものである。
【0030】
本発明の第2は、第1の発明に係る水域環境保全用人工ミネラル供給材において、ミネラル補填材が含まれている特徴を持つ。ミネラル補填材は、ミネラル含有物質中に含まれることで、ミネラルを選択的に多く溶出・抽出させることを可能とする。ミネラル補填材として、例えば貝殻や、石灰等のカルシウムを含む無機物、有機物、また、鉄鋼ダスト、鉄鉱石、鋼、鉄粉等の鉄分を含んだ物質が挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
本発明の第3にあっては、第1の発明に係る水域環境保全用人工ミネラル供給材において、イオン交換物質は、キレート作用促進材が含まれているものである。キレート作用促進材を人工ミネラル供給材へ含有させることで、ミネラル含有物質から溶出するミネラルをイオン交換物質で吸着させる効果を促進させる。
【0032】
本発明の第4にあっては、第1の発明に係る水域環境保全用人工ミネラル供給材において、キレート作用促進材は、酸性を示す固体、もしくは液体であればよく、例えば、人工腐植土、バーク堆肥、腐葉土、赤土等のような酸性を示す土でもよく、木酢液、竹酢液の酢液、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等のカルボン酸基を有する化合物、リン酸、ホスホン酸等の有機リン化合物、スルホン酸基を有する化合物のような酸性を示す液体などが挙げられ、これらに限定されない。さらに、キレート化促進方法として、ミネラル含有物質とキレート作用促進材を配合後、養生期間を設けてもよい。
【0033】
本発明の第5にあっては、第1の発明に係る水域環境保全用人工ミネラル供給材において、イオン交換物質は、人工腐植土、もしくは人工腐植土から抽出された液体が含まれ、イオン交換機能を有していることを特徴とする。
【0034】
本発明の第6にあっては、第1の発明に係る水域環境保全用人工ミネラル供給材において、イオン交換物質の一例として使用する人工腐植土は、バーク堆肥、ピートモス、腐葉土、もしくは未分解の草木、樹木のチップ、または、工場、事業所等から排出される排水,下水道終末処理場における下水、し尿、家畜排泄物のばっ気処理、発酵処理によって得られる汚泥及びその処理物の少なくとも1種以上が含まれる有機質資材を酸性液体で養生し生成された腐植土を1種または2種混合して使用することが好ましい。人工腐植土を製造するために必要な酸性液体は、酸性を有する液体であれば良く、例えば木酢液、竹酢液の酢液、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等のカルボン酸基を有する化合物、リン酸、ホスホン酸等の有機リン化合物、スルホン酸基を有する化合物が挙げられ、これらに有機質資材を浸すことで短時間で腐植物含有量を高めることが可能である。
【0035】
本発明の第7にあっては、第1の発明に係る水域環境保全用人工ミネラル供給材において、イオン交換物質は、バーク堆肥、腐葉土、赤土、ピートモス、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト等の陽イオン交換容量が高い物質、もしくは陰イオン交換容量が高い物質を1種、または2種以上配合されているものであり、これらをミネラル含有物質に配合させることで、人工ミネラル供給材から溶出されるミネラルを溶存態として保持させることが可能となる。
【0036】
本発明の第8にあっては、第1の発明に係る水域環境保全用人工ミネラル供給材において、イオン交換物質は、全炭素に対する全窒素の含有比率つまりC/N比が10以上、有機物含有量が70容量%以上、pHが−1.1〜9.0、イオン濃度を示す電気伝導度が2.0mS/cm以下の値のものを用いる。
【0037】
本発明の第9は、第1の発明に係る水域環境保全用人工ミネラル供給材の水域環境保全方法において、ミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物を透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設することで、人工ミネラル供給材に含まれるミネラルの溶出量を調整し、周辺の水域で継続的にミネラルを供給することが可能である。透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体としては、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等の高分子材料、及び植物繊維の天然有機材料、人工的に合成された皮膚の透水性を有する膜の他、これらを組み合わせたもの、水中への設置後に水質を汚染する材質以外であり、上記の役割を果たせる材質であればよい。人工ミネラル供給材に含まれるミネラルの溶出量を調整する方法は、透水性を有する容器、袋状の包装体で溶出量を調整してもよく、または透水性を有さない容器、袋状、シート状の包装体と組み合わせて溶出量を調整する方法を用いてもよい。
【0038】
本発明の第10は、第1の発明に係る水域環境保全用人工ミネラル供給材の水域環境保全方法において、ミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物を透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、他の構造物表面に脱着が可能な様に取付け、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することを可能とする。他の構造物とは淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設できるような構造物であれば特に限定しないが、例えば人工的に成型固化された構造物、岩、岩盤等の自然由来でできた自然構造物、土、砂等を土嚢袋に詰めた土木資材および水面に浮くいかだ等が挙げられる。
【0039】
本発明の第11は、第1の発明に係る水域環境保全用人工ミネラル供給材の水域環境保全方法において、ミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物から溶出するミネラルの供給を調整する為に、ゼラチン,寒天,カラギーナン,ペクチン等のゲル化剤や,デンプン,セルロース,グリコーゲン等の増粘剤・糊料、ベントナイト,ガム等の安定剤を重量比1〜50%添加してゲル化し、そのゲル化したものを透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、他の構造物表面に脱着が可能な様に取付け、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することである。
【0040】
本発明の第12は、第1の発明に係る水域環境保全用人工ミネラル供給材の水域環境保全方法において、ミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物を光合成でより効率的にCO2を固定するC4植物である、トウモロコシ、サトウキビ、ソルガム、ススキ、キビ、シコクビエ、ギニアグラス、ローズグラス、ニクキビ等由来のプラスチックで成型し、容器、袋状、シート状の包装体に収容し、他の構造物表面に脱着が可能な様に取付け、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することである。
【0041】
本発明の第13は、第1の発明に係る水域環境保全用人工ミネラル供給材の水域環境保全方法において、ミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物である人工ミネラル供給材表面に藻および水草や海草の胞子や胞子体、種糸を米由来のデンプン質天然素材糊等で固定し、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設することで、藻および水草や海草の定着がし易い構造とし、水中の動植物が成育しやすい環境へと移行することが期待できる。
【実施例】
【0042】
水域植物プランクトンの増殖に必要な海水中の栄養素は特にケイ素や鉄で、ケイ素は細胞核の形成に必要で、鉄は光合成や呼吸における電子伝達に必要である。そこで、本発明により、海水中に植物プランクトン増殖に必要なケイ素や鉄が溶出していることを確認する試験を行った。
【0043】
脱リンスラグおよび脱リンスラグを炭酸化処理したスラグ(以降、炭酸化スラグと称す。)と、人工腐植土を用いて試料を作成した。脱リンスラグおよび炭酸化スラグの物性値を表1に示す。また、人工腐植土は木質チップを木酢液に浸漬させた人工的な腐植土壌である。
【0044】
作成した試料40gを材質がポリエステル100%の透水性のある包装体に封入し、海水400gに浸漬し、撹拌機を用いて海水を60rpmで24時間から145時間撹拌した。試料を24時間から145時間浸漬させた後の溶液を採取し、ケイ素溶出に関しては、イオン状シリカの分析を行った。また鉄の溶出に関してはFe2+の分析を行った。イオン状シリカはモリブデン青吸光光度法、Ca2+はイオンクロマトグラフィ、Fe2+は吸光光度法で分析を行った。
【0045】
試料中のpHと試料を24時間から145時間浸漬させた後の溶液の成分分析結果を表2に示す。表2の比較例1はミネラル含有物質として脱リンスラグを配合した。配合試料のpHは12.3と高く、溶出したCa2+は2980mg/Lと高かった。イオン状シリカは0.3mg/Lと少なかった。またFe2+は溶出しなかった。脱リンスラグを配合した場合、カルシウムイオンの溶出が支配的で、他の成分であるイオン状シリカやFe2+は溶出しなかった。
【0046】
表2の実施例1から実施例5はミネラル含有物質として炭酸化スラグを配合した。配合試料のpHは比較例よりも低く4.2〜7.5となった。また、溶出したCa2+は比較例よりも低く、543〜820mg/Lであり、表2の参考例の海水中に含まれるCa2+よりも高くなった。溶出したイオン状シリカは海水中に含まれるイオン状シリカの濃度よりも高く、3.4〜9.5mg/L溶出した。また、溶出したFe2+も参考例の海水中に含まれるFe2+の濃度よりも高く、0.1〜150mg/L溶出した。カルシウムイオン溶出抑制を目的に炭酸化処理を行った脱リンスラグを配合した場合は、カルシウムの溶出が抑制され、イオン状シリカやFe2+が溶出した。
【表1】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、藻および水草や海草に必要なミネラルが不足したことにより、藻および水草や海草群落の減少・消失を起こしてしまった水域において、炭酸化処理された鉄鋼スラグを含むミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物のpHが8.5以下となるように調整された水域環境保全用人工ミネラル供給材を投与することによってミネラル供給を行い、自然復元することが期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物が生育するのに不可欠であるミネラルが不足している水域に対して適用する材料であって、炭酸化処理された鉄鋼スラグを含むミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物のpHが8.5以下となるように調整された水域環境保全用人工ミネラル供給材。
【請求項2】
ミネラル含有物質は、ミネラル補填材が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の水域環境保全用人工ミネラル供給材。
【請求項3】
イオン交換物質は、キレート作用促進材が含まれていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水域環境保全用人工ミネラル供給材。
【請求項4】
キレート作用促進材は、酸性を示す固体もしくは液体が含まれていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の水域環境保全用人工ミネラル供給材。
【請求項5】
イオン交換物質は、人工腐植土、もしくは人工腐植土から溶出・抽出された液体が含まれ、イオン交換機能を有していることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の水域環境保全用人工ミネラル供給材。
【請求項6】
人工腐植土は、バーク堆肥、ピートモス、腐葉土、もしくは未分解の草木、樹木のチップ、または、工場、事業所から排出される排水,下水道終末処理場における下水、し尿、家畜排泄物のばっ気処理、発酵処理によって得られる汚泥及びその処理物の少なくとも1種以上が含まれる有機質資材を酸性液体で養生し生成された腐植土を1種または2種以上混合して使用されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の水域環境保全用人工ミネラル供給材。
【請求項7】
イオン交換物質は、陽イオン交換容量が高い物質、もしくは陰イオン交換容量が高い物質を1種、または2種以上配合されていることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の水域環境保全用人工ミネラル供給材。
【請求項8】
イオン交換物質は、C/N比で10以上、有機物含有量が70容量%以上、pHが−1.1〜9.0、電気伝導度が2.0mS/cm以下の値のものが含まれていることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の水域環境保全用人工ミネラル供給材。
【請求項9】
水域において請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の水域環境保全用人工ミネラル供給材を透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することを特徴とする水域環境保全方法。
【請求項10】
水域において請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の水域環境保全用人工ミネラル供給材を透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、他の構造物表面に脱着が可能な様に取付け、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することを特徴とする水域環境保全方法。
【請求項11】
水域において請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の水域環境保全用人工ミネラル供給材をゲル化剤,増粘剤・糊料,安定剤でゲル状としたものを透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、他の構造物表面に脱着が可能な様に取付け、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することを特徴とする水域環境保全方法。
【請求項12】
水域において請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の水域環境保全用人工ミネラル供給材をC4植物資源由来のプラスチックで成型したものを透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、他の構造物表面に脱着が可能な様に取付け、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することを特徴とする水域環境保全方法。
【請求項13】
水域において請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の水域環境保全用人工ミネラル供給材の表面に藻および水草や海草の胞子や胞子体、種糸を米由来のデンプン質天然素材糊で固定し、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に沈設、または敷設することを特徴とする水域環境保全方法。


【公開番号】特開2013−102743(P2013−102743A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250194(P2011−250194)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000170646)国土防災技術株式会社 (23)
【Fターム(参考)】