説明

水平型流体支持めっき装置

【課題】電解槽のめっき液の流れを均一にし、スラッジ発生の多い電解液を使用する場合でも、電解槽内のスラッジ堆積を防止し、流速の影響を受けて、めっき品質の低下を生じさせない水平型流体支持めっき装置を提供する。
【解決手段】第1、第2の不溶性陽極12、13の間と第3、第4の不溶性陽極14、15の間に配置され、めっき液を供給するスリット37〜40をそれぞれ有する上静圧パッド16及び下静圧パッド17と、第1〜第4の不溶性陽極12〜15の入側及び出側に第1〜第4の不溶性陽極12〜15とは隙間を有して配置されてストリップ11を上下から挟持する第1、第2の上下対となる通電ロール21、23及びバックアップロール22、24とを有する水平型流体支持めっき装置10において、上静圧パッド16と下静圧パッド17に、ストリップ11と直交しその全幅に渡って直線状のスリット37〜40を少なくとも2本隙間を有して平行に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に金属ストリップ(例えば、鋼帯)の表面に電解処理を行う水平型流体支持めっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載されているように、ストリップ(金属帯、具体的には鋼板)の上下面に不溶性陽極を対向配置し、この不溶性陽極の入側及び出側に陰極となる通電ロールをそれぞれ配置し、更に、上下それぞれの陽極の中央部分に設けたスリットを有し、該スリットからめっき液を流して、上下に対向する陽極間を通過するストリップをこのめっき液からなる流体で支持した流体パッド(静圧パッド)を用いた水平型流体支持めっき装置が知られている。
【0003】
図5には、従来例に係る水平型流体支持めっき装置に使用されていた流体パッド機構50に使用されているスリット51の平面視した形状を示すが、四角形の枠形状をした枠部52とその内部に斜め配置された斜め部53、54を有している。このスリット51では、枠部52で囲む部分に静圧を発生させ、斜め部53、54は枠部52の内側に均等に静圧を発生させる役目をしている。なお、55はストリップ、56〜59は第1〜第4の不溶性陽極(なお、56、57は上側不溶性陽極を示す)を、60は樹脂製の静圧パッドを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−21319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図5に示すスリット51を用いて、不均一な流れの影響を受け易いめっきやスラッジの発生し易いめっき液を用いてめっき(例えば、錫めっき)を行うと、幅方向の流れが不均一なため、スラッジ62が図6に示すように下側の静圧パッド60の上や下部の不溶性陽極58、59の上に部分的に溜まり、これによりめっき液の流速が更に不均一となり、流速の遅い不均一な流れ部分にスラッジ62が堆積して電解液の流れを乱し、めっき品質を低下させる。更にスラッジ62が下部の陽極面を覆い電極の消耗を促進するという問題があった。
また、枠部52の幅方向両側に設けられているスリットは、ストリップ55に蛇行や偏りがあると、左右のめっき液の流れが不均一となり、これに起因してめっき液の流れが不均一となり、スラッジ堆積の原因となるとういう問題もあった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、1)スリットからめっき液を流してストリップの保持を行う水平型流体支持電解槽の効果を保持したまま、2)電解槽のめっき液の流れを均一にし、3)めっき液の流れのバラツキの影響を受け易いめっきや、4)スラッジ発生の多い電解液を使用する場合でも、電解槽内のスラッシ堆積を防止し、流速の影響を受けて、めっき品質の低下を生じさせない水平型流体支持めっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係る水平型流体支持めっき装置は、1)水平状態で搬送されるストリップの上側に該ストリップの搬送方向に隙間を有して配置される第1、第2の不溶性陽極及び前記ストリップの下側に該ストリップの搬送方向に隙間を有して配置される第3、第4の不溶性陽極と、2)前記第1、第2の不溶性陽極の間と前記第3、第4の不溶性陽極の間に配置され、めっき液を供給するスリットをそれぞれ有して対向配置される上静圧パッド及び下静圧パッドと、3)前記第1〜第4の不溶性陽極の入側及び出側に該第1〜第4の不溶性陽極とは隙間を有して配置されて前記ストリップを上下から挟持する第1、第2の上下対となる通電ロール及びバックアップロールとを有する水平型流体支持めっき装置において、
前記上静圧パッドと前記下静圧パッドに、前記ストリップの搬送方向に直交し該ストリップの全幅に渡って直線状の前記スリットを少なくとも2本隙間を有して平行に配置すると共に、前記上静圧パッド及び前記下静圧パッドの両側に設けられている側壁と前記スリットにて静圧パッドを構成している。
【0008】
第2の発明に係る水平型流体支持めっき装置は、第1の発明に係る水平型流体支持めっき装置において、前記スリットを通過するめっき液の流速、及び前記ストリップと前記第1〜第4の不溶性陽極との間を通過するめっき液の流速は、それぞれ0.6〜2.5m/秒の範囲にある。この場合、スリットを通過するめっき液の流速をストリップと不溶性陽極との間を通過するめっき液の流速より大きくするのが好ましく、これによって、ストリップをより安定して支持できる。
【0009】
第3の発明に係る水平型流体支持めっき装置は、第1、第2の発明に係る水平型流体支持めっき装置において、前記スリットの傾斜角度は0〜45度の範囲にある。なお、スリットが2本あって、その内の一方のみを傾斜させる場合は、ストリップの下流側に配置されるスリットをストリップの進行方向に対して後方に傾斜させるのが好ましい。
【0010】
そして、第4の発明に係る水平型流体支持めっき装置は、第1〜第3の発明に係る水平型流体支持めっき装置において、前記第1〜第4の不溶性陽極と前記ストリップの間を流れるめっき液の平均流速に対する最小流速の比が、0.92〜0.96の範囲にある。
なお、第1〜第4の発明が適用される最も好ましいめっきとしては、例えば、錫めっき、ニッケルめっき、クロムめっき、銅めっき等がある。
【発明の効果】
【0011】
上静圧パッドと下静圧パッドに、通過するストリップの搬送方向と直交しこのストリップの全幅に渡って直線状のスリットを少なくとも2本隙間を有して平行に配置しているので、第1〜第4の不溶性陽極とストリップとの間に形成された流路(側壁も含めて電解槽を形成)の流れを均一にすることができ、流路内のめっき液の乱れによって生じるスラッジの堆積が防止できる。これにより、従来問題となっていたスラッジ堆積によるめっき液の不均一化が防止され、めっき品質の低下が防止できる。
【0012】
特に、第1〜第4の不溶性陽極とストリップの間を流れるめっき液の平均流速に対する最小流速の比を、0.92〜0.96とすることによって、めっき不良(めっき焼け、めっきムラ)等が無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係る水平型流体支持めっき装置の断面図である。
【図2】同水平型流体支持めっき装置の説明図である。
【図3】図1における矢視B−B断面図である。
【図4】図1における矢視C−C断面図である。
【図5】従来例に係る水平型流体支持めっき装置の断面図である。
【図6】図5における矢視A−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1〜図4に示すように、本発明の一実施の形態に係る水平型流体支持めっき装置10は、水平状態で搬送されるストリップ(金属帯、例えば、鋼帯)11の上側にストリップ11の搬送方向に隙間を有して配置される第1、第2の不溶性陽極12、13と、ストリップ11の下側に、ストリップ11の搬送方向に隙間を有して配置され、第1、第2の不溶性陽極12、13に対向配置される第3、第4の不溶性陽極14、15を有している。
【0015】
第1、第2の不溶性陽極12、13の間、及び第3、第4の不溶性陽極14、15の間には、絶縁体の一例である樹脂製の上静圧パッド16と下静圧パッド17が対向して配置されている。なお、第1、第3の不溶性陽極12、14の両側(幅方向)、及び第2、第4の不溶性陽極13、15の両側は、絶縁材の一例である樹脂からなる断面コ字状の側壁18、19が設けられ、全体が断面矩形の筒状となっている。なお、側壁18、19の内側寸法はストリップ幅+50〜300mm程度となっている。また、上静圧パッド16と下静圧パッド17の両端にも側壁18a、19aが設けられている。
【0016】
第1〜第4の不溶性陽極12〜15の幅は、ストリップ11の幅と同一か、僅少の範囲で幅広となっている。
第1、第3の不溶性陽極12、14の上流側(第1〜第4の不溶性陽極12〜15の入側)には、第1、第3の不溶性陽極12、14と隙間を有してストリップ11を挟持する状態で上に通電ロール21が下にバックアップロール22が設けられている。また、第2、第4の不溶性陽極13、15の下流側(第1〜第4の不溶性陽極12〜15の出側)には、第2、第4の不溶性陽極13、15と隙間を有してストリップ11を挟持する状態で上に通電ロール23が下にバックアップロール24が設けられている。
【0017】
通電ロール21、23はめっき電源の−側に接続されて、ストリップ11を陰極に保持し、めっき電源の+側に接続された第1〜第4の不溶性陽極12〜15との間にストリップ11にめっきを行うための電流通路を形成している。なお、第1、第3の不溶性陽極12、14の上流側端部及び第2、第4の不溶性陽極13、15の下流側端部には、絶縁材からなる抵抗部材26〜29が設けられて、第1〜第4の不溶性陽極12〜15で形成される電解槽30内にめっき液が充満するようにしている。
【0018】
上静圧パッド16と下静圧パッド17の幅は側壁18、19の内幅と同一となって、上静圧パッド16と下静圧パッド17の両側を連結して、上静圧パッド16と下静圧パッド17を取り囲むめっき液室32、33が形成されている。図3において、34、35はめっき液供給口を示す。
【0019】
上静圧パッド16と下静圧パッド17にはストリップ11の搬送方向と直交し、ストリップ11の全幅に渡って、それぞれ2本の直線状のスリット37〜40が隙間を有して平行に設けられている。このスリット37〜40は、ストリップ11に対して90〜45度(傾斜角度が0〜45度)の範囲で垂直又は傾斜して設けられている。この実施の形態では上流側のスリット37、39は垂直で、スリット38、40は上流側に向けて20〜40度傾いている。このようにスリットを構成することにより、第1〜第4の不溶性陽極12〜15とストリップ11の間を流れるめっき液の平均流速に対する最小流速の比が、0.92〜0.96の範囲になり易い。
【0020】
めっき液を供給するスリット37〜40の隙間間隔は、この実施の形態では、第1〜第4の不溶性陽極12〜15とストリップ11の間隔(例えば、9mm)の0.4〜0.6倍(例えば、4mm)となって、スリット37〜40を通過するめっき液の流速を速くして、ストリップ11の撓みを抑制する構造となっている。スリット37〜40を通過するめっき液の流速、及びストリップ11と第1〜第4の不溶性陽極12〜15との間を通過するめっき液の流速は、それぞれ0.6〜2.5m/秒の範囲にあるのが好ましい。ここで、めっき液の流速が0.6m/秒未満になると、電気通路にめっき液が充満せず、2.5m/秒を超えるとランニングコストが高くなると共に、通電ロール上をめっき液が乗り越えストリップの上面を伝って装置外に流出する。
更には、上静圧パッド16と下静圧パッド17の両側に設けられている側壁18a、19aとスリット37〜40とで、ストリップ11を一定位置に保持する静圧パッドを構成している。
【0021】
上静圧パッド16と下静圧パッド17を使用する水平型流体支持めっき装置10を使用した場合の、めっき液の流れを図2、図3に示すが、図に示すように略均一となっている。図4に示すように、本水平型流体支持めっき装置10を用いためっき液(例えば、錫めっき液)の場合は、コ字状となった側壁18、19の下隅部にスラッジの痕跡が認められたが、第3の不溶性陽極14の上部ではないので、ストリップ11のめっきに対しては特に支障はなかった。
【0022】
前記実施の形態においては、具体的な数字を用いて説明したが、本発明の要旨を変更しない範囲での数値変更は可能である。
また、前記実施の形態においては、スリットは2条であったが、更に数を増す場合も本発明は適用される。
【符号の説明】
【0023】
10:水平型流体支持めっき装置、11:ストリップ、12:第1の不溶性陽極、13:第2の不溶性陽極、14:第3の不溶性陽極、15:第4の不溶性陽極、16:上静圧パッド、17:下静圧パッド、18、19:側壁、18a、19a:側壁、21:通電ロール、22:バックアップロール、23:通電ロール、24:バックアップロール、26〜29:抵抗部材、30:電解槽、32、33:めっき液室、34、35:めっき液供給口、37〜40:スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)水平状態で搬送されるストリップの上側に該ストリップの搬送方向に隙間を有して配置される第1、第2の不溶性陽極及び前記ストリップの下側に該ストリップの搬送方向に隙間を有して配置される第3、第4の不溶性陽極と、2)前記第1、第2の不溶性陽極の間と前記第3、第4の不溶性陽極の間に配置され、めっき液を供給するスリットをそれぞれ有して対向配置される上静圧パッド及び下静圧パッドと、3)前記第1〜第4の不溶性陽極の入側及び出側に該第1〜第4の不溶性陽極とは隙間を有して配置されて前記ストリップを上下から挟持する第1、第2の上下対となる通電ロール及びバックアップロールとを有する水平型流体支持めっき装置において、
前記上静圧パッドと前記下静圧パッドに、前記ストリップの搬送方向に直交し該ストリップの全幅に渡って直線状の前記スリットを少なくとも2本隙間を有して平行に配置すると共に、前記上静圧パッド及び前記下静圧パッドの両側に設けられている側壁と前記スリットにて静圧パッドを構成していることを特徴とする水平型流体支持めっき装置。
【請求項2】
請求項1記載の水平型流体支持めっき装置において、前記スリットを通過するめっき液の流速、及び前記ストリップと前記第1〜第4の不溶性陽極との間を通過するめっき液の流速は、それぞれ0.6〜2.5m/秒の範囲にあることを特徴とする水平型流体支持めっき装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水平型流体支持めっき装置において、前記スリットの傾斜角度は0〜45度の範囲にあることを特徴とする水平型流体支持めっき装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1記載の水平型流体支持めっき装置において、前記第1〜第4の不溶性陽極と前記ストリップの間を流れるめっき液の平均流速に対する最小流速の比が、0.92〜0.96の範囲にあることを特徴とする水平型流体支持めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−225923(P2011−225923A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95293(P2010−95293)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)
【Fターム(参考)】