説明

水底窪地埋戻し工法

【課題】水底の窪地に対する埋戻し材の投入に伴う濁水並びに貧酸素水の周辺への拡散を抑えることができる水底窪地埋戻し工法を提供する。
【解決手段】水底の窪地1に対する埋戻し材2の投入域Aを自立式汚濁防止膜3で囲い、土運船10から前記投入域Aに埋戻し材2を投入し、このとき発生する濁水と貧酸素水との混合水(貧酸素濁水)をポンプ12により作業船11上に汲み上げる。そして、この汲み上げた貧酸素濁水を、同じ作業船11上の気液混合装置13に送って、これに空気を溶解および混入させて高濃度酸素水とし、これを固液分離装置としての土運船14の泥倉に送る。土運船14の泥倉内では、固形粒子が沈降して固液分離が進行するので、上澄水である清水を泥倉からオーバーフローさせて、この清水を放流管21を経て水底付近に還流し、貧酸素状態の底層水と撹拌混合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底、湖底、川底等の水底に存在する窪地に埋戻し材を投入して埋立てる水底窪地埋戻し工法に関する。
【背景技術】
【0002】
浚渫等によって形成された窪地(凹部)が水底に存在すると、該窪地内に底層水が滞留して貧酸素化し、生物の生育が阻害されて水域環境の悪化を招くようになる。そこで最近では、水底の窪地に埋戻し材を投入して埋立てることが行われている。
【0003】
ところで、水底の窪地に埋戻し材を投入するには、一般に土運船からグラブバケットまたはトレミー管を用いて投入する方法が採用されている。この場合、埋戻し材の投入によって窪地内に堆積する浮泥が舞い上がって濁水が周辺へ拡散すると共に、窪地内に滞留する貧酸素の底層水(貧酸素水)が窪地外へ押出されて周辺へ拡散する。しかるに、従来は、濁水については汚濁防止膜により周辺への拡散を抑える対策を採ることが多かったが、貧酸素水については、その拡散を抑える特別の対策を採っておらず、場合によっては貧酸素水が表層付近に沸昇する現象が起こっていた。窪地内の底層水には、長年の滞留によって底質から溶出した硫化物が含まれていることが多く、このように硫化物を含む貧酸素水が表層付近に沸昇すると、いわゆる青潮の発生を引き起こし、その規模が大きい場合には発生水域の生物に壊滅的なダメージを与える危険がある。
【0004】
なお、例えば、特許文献1には、埋戻し材として二価の鉄を含むものを選択することによって、硫化物(硫化水素)を化学的に固定することを行っているが、この場合でも、埋戻し材の投入に伴う貧酸素水の拡散は避けられない。
【特許文献1】特開2004−19180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した技術的背景に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、水底の窪地に対する埋戻し材の投入に伴う濁水並びに貧酸素水の周辺への拡散を抑えることができる水底窪地埋戻し工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、水底の窪地に埋戻し材を投入している最中、該埋戻し材の投入域に発生する貧酸素濁水をポンプにより作業船上に汲み上げ、この汲み上げた貧酸素濁水を気液混合装置に供給して高酸素濃度化した後、固液分離装置に送って固液分離し、前記固液分離後の清水を水中に還流させることを特徴とする。
【0007】
上記のように行う水底窪地埋戻し工法においては、窪地に埋戻し材を投入中、投入域内に発生する貧酸素濁水がポンプにより作業船上に汲み上げられ、気液混合装置により高酸素濃度化されると共に、固液分離装置により清水化されるので、濁水および貧酸素水の周辺への拡散が抑制される。
【0008】
本発明は、上記固液分離装置として土運船を使用し、該土運船内の泥倉からオーバーフローした水を清水として取出すようにしてもよく、この場合は、土運船の使用により大量処理が可能になる。
【0009】
本発明はまた、上記固液分離した後の清水を、底層域に還流させるようにするのが望ましい。この場合は、貧酸素化が進んでいる底層水が高濃度酸素水である清水と撹拌混合されるので、周辺の水質環境も改善される。
【0010】
本発明はさらに、水底の窪地に埋戻し材を投入するに際し、事前に前記埋戻し材の投入域を汚濁防止膜で囲うようにしてもよい。このように埋戻し材の投入域を汚濁防止膜により囲うことで、濁水の周辺の拡散がより確実に抑えられる。この場合、汚濁防止膜としては、水底に下部が定着されフロートによって自立する自立式汚濁防止膜を用いるようにしてもよく、これによって投入域の底層域の周囲を集中的に囲んで濁水の周辺への拡散を効果的に抑えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る水底窪地埋戻し工法によれば、水底の窪地に対する埋戻し材の投入に伴う濁水並びに貧酸素水の周辺への拡散を抑えることができるので、周辺水域の水質改善に大きく寄与するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1および図2は、本発明に係る水底窪地埋戻し工法の一つの実施形態を示したものである。本実施形態は、海底に存在する窪地(たとえば、浚渫窪地)1に埋戻し材2を投入して埋立てるもので、本工法の実施に際しては、該窪地1に対する埋戻し材2の投入域Aの周りを事前に自立式汚濁防止膜3で囲む。自立式汚濁防止膜3は、膜本体4と、この膜本体4の下部を海底に定着させる複数のアンカー5と、膜本体4の上部に取付けた複数のフロート6とからなっており、少なくとも投入域Aの底層域を囲む高さに設置されている。
【0014】
10は、埋戻し材2を積載した第1の土運船、11は、ポンプ12および気液混合装置13を搭載した作業船(ポンプ浚渫船)、14は固液分離装置として使用される第2の土運船であり、本工法の実施に際しては、第1の土運船10が投入域Aの上方の海上に配置され、作業船11と第2の土運船14とは投入域Aの周辺の海上に隣接して配置される。
【0015】
上記埋戻し材2の種類は任意であり、砂や礫であっても、建設発生土や鉄鋼スラグなどの廃棄物であっても、あるいは他の場所で浚渫された浚渫土砂であってもよい。また、第1の土運船10から投入域Aに対する埋戻し材2の投入方法も任意であり、グラブバケットによって行っても、あるいはトレミー管を利用して行ってもよい。投入域Aに対する埋戻し材2の投入により、窪地A内に堆積していた浮泥が舞い上がると共に、該窪地A内に滞留していた貧酸素水(底層水)が上昇し、汚濁防止膜3により囲まれた投入域A内には、濁水と貧酸素水とが混合した貧酸素濁水が流動する流動層Bが形成される。
【0016】
作業船11上のポンプ12には、先端部が前記投入域A内の底部まで到達可能な長さを有する吸水管15が接続されており、該吸水管15は、作業船11に装備されているラダー(図示略)に支持されている。本工法の実施に際しては、前記ラダーの操作により吸水管15の先端部が上記流動層B内に挿入され、ポンプ12の運転に応じて流動層Bを形成する貧酸素濁水が作業船11上に汲み上げられる。作業船11上に汲み上げられた貧酸素濁水は、そのまま気液混合装置13へ送られ、空気と混合される。気液混合装置13としては、できるだけ多くの空気を溶解および混入させる機能を有するものを用いるのが望ましく、これによってポンプ12によって汲み上げられた貧酸素濁水は高酸素濃度化され、高濃度酸素水(濁水)となる。
【0017】
上記第2の土運船14は、図3に示されるように、箱型をなす船体16の中央部分に大容量の泥倉17を備えると共に、該泥倉17の前・後に受水槽18を備えている。泥倉17と受水槽18とは隔壁19によって仕切られており、該隔壁19の上部側には、高さ調整可能な複数の可動堰(図示略)が配設されている。泥倉17には、上記気液混合装置13で得られた高濃度酸素水(濁水)が輸送管20(図1,2)を介して供給されるようになっており、高濃度酸素水はこの泥倉17内で固液分離される。そして、固液分離された固形粒子は沈降して泥倉17の底に溜り、一方、固液分離された水分すなわち上澄水(清水)は前記可動堰をオーバーフローして受水槽18に溜まる。
【0018】
上記第2の土運船13の受水槽18には水中ポンプ(図示略)が配置されており、受水槽18に溜まった清水(高濃度酸素水)は、該水中ポンプから放流管21を経て水中に戻される。放流管21は、ここでは、窪地1の周辺の海底付近まで到達可能な長さを有しており、該放流管21を介して水底付近に清水を還流させることで、貧酸素状態となっている底層水と清水とが撹拌混合される。
【0019】
本工法の実施に際しては、第1の土運船10から投入域Aに対する埋戻し材2の投入に合せて、作業船11上のポンプ12と気液混合装置13との運転が開始される。埋戻し材2の投入により投入域A内には濁水と貧酸素水とが混合した貧酸素濁水が流動する流動層Bが形成されるが、この流動層Bにポンプ12から延ばした吸水管15の先端部を位置させることで、流動層Bを形成する貧酸素濁水が吸水管15を介して作業船11上に汲み上げられ、これによって濁水および貧酸素水の周辺への拡散が抑えられる。本実施形態においては特に、投入域Aの周りを自立式汚濁防止獏3により囲んでいるので、濁水の周辺への拡散がより確実に抑えられる。
【0020】
また、窪地1内に滞留する貧酸素水は、窪地1内に埋戻された埋戻し材2の空隙率相当程度が窪地1から押出される(排出される)ことになる。この場合、前記空隙率は、一般的に50%程度であるので、埋戻し材2の投入量(体積)の半分程度の貧酸素水が窪地1から排出されることになる。したがって、ポンプ12としてこの排出量を処理できる能力を有するものを選択すれば、窪地1から排出された貧酸素水を確実に汲み上げることができる。
【0021】
ポンプ12により作業船11上に汲み上げられた貧酸素濁水は、気液混合装置13へ送られて高酸素濃度化され、高濃度酸素水(濁水)となって固液分離装置としての第2の土運船14の泥倉17(図3)へ送られる。第2の土運船14では、泥倉17内の上澄水(清水)が隔壁19に設けられた可動堰をオーバーフローして受水槽18に溜まる。本実施形態においては、土運船14内の大容量の泥倉17が沈殿槽として機能するので、大量処理が可能であり、大量に泥水が供給される場合にも無理なく固液分離できる。前記受水槽18に溜まった清水は、水中ポンプの運転により放流管21を経て窪地1の周辺の海底付近に還流される。これによって貧酸素状態となっている底層水と高濃度酸素水である清水とが撹拌混合され、この結果、周辺の水質環境も改善される。
【0022】
なお、上記実施形態においては、固液分離装置として土運船14を使用したが、この固液分離装置の種類は任意であり、ある程度大量処理可能でかつ連続処理可能な他の固液分離装置、例えばシックナーに代えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る水底窪地埋戻し工法の一つの実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明で用いる固液分離装置としての土運船の構造を示す平面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 窪地
2 埋戻し材
3 自立式汚濁防止膜
5 アンカー
6 フロート
10 第1の土運船(埋戻し材を積載用)
11 作業船
12 ポンプ
13 気液混合装置
14 第2の土運船(固液分離装置)
17 土運船の泥倉
18 受水槽
A 埋戻し材の投入域
B 濁水と貧酸素水との混合水(貧酸素濁水)の流動層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底の窪地に埋戻し材を投入している最中、該埋戻し材の投入域に発生する貧酸素濁水をポンプにより作業船上に汲み上げ、この汲み上げた貧酸素濁水を気液混合装置に供給して高酸素濃度化した後、固液分離装置に送って固液分離し、前記固液分離後の清水を水中に還流させることを特徴とする水底窪地埋戻し工法。
【請求項2】
前記固液分離装置として土運船を使用し、該土運船内の泥倉からオーバーフローした水を清水として取出すことを特徴とする請求項1に記載の水底窪地埋戻し工法。
【請求項3】
前記固液分離後の清水を、底層域に還流させることを特徴とする請求項1または2に記載の水底窪地埋戻し工法。
【請求項4】
水底の窪地に埋戻し材を投入するに際し、事前に前記埋戻し材の投入域を汚濁防止膜で囲うことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の水底窪地埋戻し工法。
【請求項5】
前記汚濁防止膜として、水底に下部が定着されフロートによって自立する自立式汚濁防止膜を用いることを特徴とする請求項4に記載の水底窪地埋戻し工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−30366(P2009−30366A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196173(P2007−196173)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】