説明

水性の接着剤及びコーティング組成物

【課題】本発明は、コーティング又は結合させる基材に対する適用後に迅速に硬化し、高い初期強度を有し、かつこの生じる乾燥コーティング又は接着フィルムが高い耐水性及び熱安定性を有する水性ポリマー分散体を提供するとの課題に基づく。
【解決手段】前記課題は、(a)ポリ酢酸ビニル及び/又は少なくとも1種のポリ酢酸ビニルコポリマーを含有する分散体少なくとも1種及び(b)平均粒径1〜400nmを有するSiO2粒子を含有する水性二酸化ケイ素分散体少なくとも1種を含有する水性ポリマー分散体により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、ポリ酢酸ビニル及び/又はポリ酢酸ビニルコポリマー及び二酸化ケイ素ベースの水性ポリマー分散体、前記分散体の製造方法及び使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
これまでには、主として、溶媒を含有する調製物が、接着剤及びコーティング分野におけるポリマー分散体としての使用のために利用可能であった。
【0003】
生態学的な理由のために、しかしながら、処理して相応する水性のコーティング又は接着剤調製物を生じることが可能である適当な水性ポリマー分散体に対する増加する必要性が存在している。この種の分散体は公知であり、例えばポリ酢酸ビニルベースの分散体である(Merkblatt TKH-3 "Dispersions-Holzleime" (木材接着剤分散体) 、Industrieverband Klebstoffe eV, Duesseldorf (www.klebstoffe.com)により2004年刊を参照のこと)。これらの種類の系は、適用後にこの層を乾燥させなくてはならないという不利な点を有する(開放時間)。接着剤の場合には、「開放時間」との表現は、DIN 16920により、湿潤結合が可能である、接着剤適用後の時間間隔であると理解される。これは、接着剤適用後の、結合圧締力を使用するまでの時間である。十分な初期強度が達成されるまでの結合圧締力の期間は、数々の因子に依存していて、例えば適用した厚さ、基材の吸収能、結合された基材が接合する間の温度、及び空気の湿分に依存する。一般的には、水性接着剤調整物のための硬化速度は遅く、かつフィルム形成温度はポリマーの種類に依存して>0℃〜>15℃の温度に制限されている。このような調整物の重要な特徴は、従って、前記分散体の開放時間、硬化速度及び可使時間、また同様に、生じる乾燥コーティング又は接着フィルムの耐水性及び熱安定性である。「可使時間」は、第二の分散体の混和後に調整物を処理できる時間であると理解される。先行技術(Ullmann, Encyklopaedie der techischen Chemie, 第14巻, 4版, p. 250)によれば、硬化速度を加速し、かつフィルム形成温度を低下させることが溶媒及び/又は可塑剤の添加により可能である。しかしながら、前記コーティング又は接着剤の接合部の熱安定性は、これらの作用により減少する。より高い熱安定性は、レソルシノール又はメラミン樹脂又は無機塩、例えば硝酸クロムをベースとする第二の分散体を添加することにより達成できる。しかしながら、これらの2液型分散体調製物の「可使時間」は、数時間に制限される。
【0004】
高い耐水性及び熱安定性を有するコーティング及び結合した接合部は、いわゆる「EPI系」(エマルションポリマーイソシアナート(Emulsion Polymer Isocyanate))により得られる。これは、約15%のイソシアナート、大抵はMDI(ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート)のポリマー分散体への添加により達成される。極めて短い可使時間のために、この2液型調製物(2K調製物)の機械的適用のみが可能である。
【0005】
更に、これらの2K調整物中で使用される様々な金属塩架橋剤は、腐食性又は火炎促進性に分類される。イソシアナートベースの架橋剤の場合には、どの種類のイソシアナートであれ、皮膚及び気道に対する刺激作用及び敏感化の可能性を考慮しなくてはならない(参照:Merkblatt TKH-3 "Dispersions-Holzleime"(木材接着分散体)、Industrieverband Klebstoffe eV, Duesseldorf (www.klebstoffe.com)により2004年刊を参照のこと)。
【0006】
従って、上述した不利な点を有しない水性ポリマー分散体のために需要がある。
【非特許文献1】Merkblatt TKH-3 "Dispersions-Holzleime"(木材接着分散体)、Industrieverband Klebstoffe eV, Duesseldorf, 2004年刊
【非特許文献2】Ullmann, Encyklopaedie der techischen Chemie, 第14巻, 4版, p. 250
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従って、コーティング又は結合させる基材に対する適用後に迅速に硬化し、高い初期強度を有し、かつこの生じる乾燥コーティング又は接着フィルムが高い耐水性及び熱安定性を有する水性ポリマー分散体を提供するとの課題に基づく。
【0008】
意外にも、ポリ酢酸ビニル又はポリ酢酸ビニルコポリマーベースの分散体の場合には、水性二酸化ケイ素分散体との組み合わせのために、より短い開放時間でもって、室温でも、かつ湿潤した状態でも基材を結合又はコーティングできるポリマー分散体が得られることが見出された。この生じるコーティング及び接着フィルムは、意外にも、高い初期強度また同様に耐水性及び熱安定性を乾燥状態で示す。
【0009】
シリカ製品の様々な適用のための使用は、先行技術において開示されている。固体のSiO2製品がしばしば、レオロジー特性を制御するために充填剤又は吸着剤として使用される一方で、二酸化ケイ素分散体(例えばシリカゾル)は、主に、結合剤として多くの様々な無機材料のために、磨き剤として半導体のために、又はフロキュレーションパートナーとしてコロイド化学反応において使用される。例えばEP-A 0 332 928は、難燃性要素を製造する際の含浸層としてのシリカゾルの存在下でのポリクロロプレンラテックスの使用を開示する。FR-A 2 341 537及びFR-A 2 210 699は、難燃性のフォーム仕上げ剤又はビチューメン仕上げ剤の製造のためのポリクロロプレンラテックスと組み合わせた熱分解シリカを記載し、そしてJP-A 06 256 738では、これらはクロロプレン/アクリル酸コポリマーと組み合わせて使用される。しかしながら、公知技術においては、ポリ酢酸ビニル分散体と二酸化ケイ素分散体との混合物、及びコーティング又は接着剤としての前記混合物の改善された特性はどこにも記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明は、
(a)ポリ酢酸ビニル及び/又は少なくとも1種のポリ酢酸ビニルコポリマーを含有する分散体少なくとも1種及び
(b)平均粒径1〜400nmを有するSiO2粒子を含有する水性二酸化ケイ素分散体少なくとも1種
を含有することを特徴とする、水性ポリマー分散体を提供する。
【0011】
本発明の意味合いにおいて、「水性」との表現は、前記分散体が実質的に水を含有し、即ち、水少なくとも30質量%を、前記分散体の総質量に対して含有することを意味することが理解される。
【0012】
適したポリ酢酸ビニル及びポリ酢酸ビニルコポリマーは市販されている。例示的に、供給者としては、「Air Products」社(Airflex(R),Vinac(R))、「Celanese」社(Mowilith(R))及び「Wacker」社(Vinnapas(R))が挙げられてよい。
【0013】
単独で又はその他のモノマーとの組み合わせた酢酸ビニルの重合は長い間公知であり、かつ多くの刊行物中で説明され、例えばH. BartlによりMethoden der organischen Chemie (Houben-Weyl) 第XIV/1巻 Makromolekuiare Stoffe Thieme Verlag Stuttgart, 4版, 1961, p. 905〜で説明されている。塊状、溶液及び懸濁重合の他に、エマルション重合が工業規模では有利であり、この際酢酸のビニルエステルが主として前記ビニルエステルとして使用される。
【0014】
共重合は、その他のビニル化合物、例えば塩化ビニル、エチレン及びより高級なビニルエステル、例えば安息香酸ビニルを用いて、また同様に、アクリラート及び不飽和ジカルボン酸、例えば無水マレイン酸又はアクリル酸を用いて成功する。溶解性、加工性、着色剤の吸収能、付着又はエマルションの安定性はこのようにして改善されてよい。ポリ酢酸ビニルホモポリマー又はエチレンを有するこのコポリマーは特に適する。
【0015】
水性二酸化ケイ素分散体は、長い間公知であった。前記分散体は、製造方法に依存して様々な形態で入手可能である。
【0016】
本発明における使用に適した二酸化ケイ素分散体(b)は、シリカゾル、シリカゲル、熱分解シリカ、沈殿シリカ又は前記した形態の混合物から得られてよい。
【0017】
シリカゾルは、無定形二酸化ケイ素の水中のコロイド溶液である;これは二酸化ケイ素ゾルとも呼ばれるが、大抵は短縮してシリカゾルと呼ばれる。二酸化ケイ素は、表面でヒドロキシル化された球状粒子の形態で存在する。このコロイド粒子の粒径は一般的に、1〜200nmであり、その際この粒径に相関したBET比表面積は、15〜2000m2/gである(G.N, SearsによりAnalytical Chemistry, 第28巻, no. 12, 1981-1983, 1956年12月で説明された方法により測定して)。SiO2粒子の表面は電荷を有し、これは相応する対イオンにより平衡化されていて、これはコロイド溶液の安定化を生じる。アルカリ性の安定化されたシリカゾルはpH7〜11.5を有し、かつ、例えば、少量のNa2O、K2O、Li2O、アンモニア、有機窒素塩基、テトラアルキルアンモニウム水酸化物又はアルキル金属又はアルミン酸アンモニウムをアルカリ化剤として含有する。シリカゾルはまた、弱酸性の準安定性コロイド溶液として入手可能であってもよい。更に、カチオン性に調整されたシリカゾルを、この表面をAl2(OH)5Clで被覆することにより製造することも可能である。このシリカゾルの固体含有量は、有利にはSiO2の5〜60質量%である。
【0018】
シリカゾルの製造方法は、実質的に次の製造工程、イオン交換による水ガラスの脱アルカリ化、SiO2粒子に必要とされる特定の粒径(分布)への調整及び安定化、必要とされる特定のSiO2濃度の調整、及び場合によりSiO2粒子の表面改質、例えばAl2(OH)5Clを用いた表面改質を伴う。これらのうちのいずれの工程においても、SiO2粒子はコロイド状に溶解された状態を脱することがない。これは、離散した一次粒子の存在を説明するものである。
【0019】
シリカゲルは、大きい孔構造から小さい孔構造を有する、弾性から固体までのコンシステンシーの、コロイド状の形態を有するか又はコロイド状の形態を有しないシリカであると理解される。このシリカは、高度に凝縮した多ケイ酸の形態で存在する。シロキサン及び/又はシラノール基はこの表面に局在する。シリカゲルは、水ガラスから鉱酸との反応により製造される。
【0020】
更に、熱分解シリカと沈殿シリカとは区別されるべきである。沈殿工程において、水を最初に導入し、次いで水ガラス及び酸、例えばH2SO4を同時に添加する。コロイド粒子はこのようにして形成され、そして前記粒子は反応が進行するにつれ凝集かつ成長してアグロメレートを形成する。この比表面積は一般的に30〜800m2/g、この一次粒子径は5〜100nmである。固体として存在するこれらのシリカ中の一次粒子は、一般的に固く架橋して二次アグロメレートを形成する。上述の及び次に述べる比表面積は、DIN 66131に従って測定した。
【0021】
熱分解シリカは、火炎加水分解により又は電気アーク方法を用いて製造されてよい。熱分解シリカの合成の主要な方法は、テトラクロロシランが、酸水素炎へと分解する火炎加水分解である。このようにして形成されたシリカは、X線無定形状態である。熱分解シリカは、沈殿シリカと比較して遙かにより少ないOH基を、この実質的に孔のない表面上に有する。火炎加水分解により製造された熱分解シリカは一般的に、50〜600m2/gの比表面積及び一次粒子径5〜50nmを有する;電気アーク法により製造されたシリカは、比表面積25〜300m2/g及び一次粒子径5〜500nmを有する。
【0022】
更なるシリカの固体状態での合成及び特性に関するデータは、例えば、K.H. Buechel, H.-H. Moretto, P. Woditsch "Industrielle Anorganische Chemie", Wiley VCH Verlag, 1999, 5.8節から得られてよい。
【0023】
単離された固体として存在するSiO2原料が、例えば熱分解シリカ又は沈殿シリカが、本発明によるポリマー分散体のために使用される場合には、これらは水性のSiO2分散体へと分散プロセスにより変換される。
【0024】
二酸化ケイ素分散体を製造するために使用される公知技術からの分散機は、有利には、高い剪断速度を生ずるのに適した分散機、例えばUltratorrax又は高速撹拌ディスクである。
【0025】
一次粒子径1〜400nm、有利には5〜100nm、特に有利には8〜60nmを有するSiO2粒子を含有する水性二酸化ケイ素分散体(b)が有利には使用される。沈殿シリカが使用される場合には、これらは粒子の大きさを減少するために粉砕される。
【0026】
本発明による有利なポリマー分散体は、二酸化ケイ素分散体(b)中のSiO2粒子が、離散した架橋してない一次粒子として存在するポリマー分散体である。
【0027】
SiO2粒子がこの粒子の表面上で使用可能であるヒドロキシル基を有することも有利である。
【0028】
水性シリカゾルが特に有利に、水性二酸化ケイ素分散体として使用される。適したシリカゾルはまた、市販もされている。
【0029】
本発明の有利な実施態様において、本発明による分散体は
(c)OH基含有オリゴマー又はポリマー
をも含有する。
【0030】
本発明による文脈において、OH基含有オリゴマー又はポリマーは、ヒドロキシル基を前記オリゴマー又はポリマー鎖中に含有し、かつ水性分散体として使用可能であるか又は水中に溶解性の全ての線状の又は環状のオリゴマー又はポリマーであると意味される。本発明の文脈において、オリゴマーは、10個までの繰り返し単位を有する化合物であると理解され、そしてポリマーは、10個より多い繰り返し単位を有する化合物であると理解され、その際両方の場合において、この繰返単位は、同一又は相違していてよい。OH基含有ポリマーの有利な例は、ヒドロキシアクリラート、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシ基含有ポリクロロプレン又はポリビニルアルコールである;OH基含有オリゴマーの有利な例は、シクロデキストリンである。有利なOH基含有オリゴマー又はポリマーは、本発明の文脈において、シクロデキストリンである。
【0031】
適したシクロデキストリンは、非置換の又は置換されたシクロデキストリンである。
【0032】
有利なシクロデキストリンは、α、β及びγ−シクロデキストリン及びこれらのエステル、アルキルエーテル、ヒドロキシアルキルエーテル、アルコキシカルボニルアルキルエーテル、カルボキシアルキルエーテル誘導体又はこれらの塩である。
【0033】
次のものが特に有利である:メチル−α−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、メチル−γ−シクロデキストリン、エチル−β−シクロデキストリン、ブチル−α−シクロデキストリン、ブチル−β−シクロデキストリン、ブチル−γ−シクロデキストリン、2,6−ジメチル−α−シクロデキストリン、2,6−ジメチル−β−シクロデキストリン、2.6−ジメチル−γ−シクロデキストリン、2,6−ジエチル−β−シクロデキストリン、2,6−ジブチル−β−シクロデキストリン、2,3,6−トリメチル−α−シクロデキストリン、2,3,6−トリメチル−β−シクロデキストリン、2,3,6−トリメチル−γ−シクロデキストリン、2,3,6−トリオクチル−α−シクロデキストリン、2,3,6−トリオクチル−β−シクロデキストリン、2,3,6−トリアセチル−α−シクロデキストリン、2,3,6−トリアセチル−β−シクロデキストリン、2,3,6−トリアセチル−γ−シクロデキストリン、(2−ヒドロキシ)プロピル−α−シクロデキストリン、(2−ヒドロキシ)プロピル−β−シクロデキストリン、(2−ヒドロキシ)プロピル−γ−シクロデキストリン、部分的に又は完全にアセチル化、メチル化及びスクシニル化されたα−、β−及びγ−シクロデキストリン、2,6−ジメチル−3−アセチル−β−シクロデキストリン及び2,6−ジブチル−3−アセチル−β−シクロデキストリン。
【0034】
このモノ−、ジ−又はトリエーテル置換したか、モノ−、ジ−又はトリエステル置換したか、又はモノエステル/ジエーテル置換した誘導体は一般的に、α、β及びγ−シクロデキストリンの、アルキル化剤、例えば硫酸ジメチル又は1〜30個の炭素原子を有するアルキルハロゲン化物、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルの塩化物、臭化物又はヨウ化物を用いたエーテル化及び/又は酸存在下での酢酸又はコハク酸を用いたエステル化により得られる。
【0035】
シクロデキストリンは市販もされていて、例えばWacker 社から市販されている(Cavamax(R))。
【0036】
本発明による分散体は有利には、30〜70質量%の分散されたポリマー含有量を有する。分散されたポリマー(a)及び(c)の全体の割合は、特に有利には55〜99質量%、そして二酸化ケイ素分散体(b)の割合は1〜45質量%であり、その際このパーセンテージのデータは、非揮発性成分の質量に対し、かつ100質量%まで加算される。分散されたポリマー(a)及び(c)の全体の割合が80〜96質量%、そして二酸化ケイ素分散体(b)の割合が20〜4質量%である本発明による分散体は特に有利であり、その際このパーセンテージのデータは非揮発性成分の質量に対し、かつ100質量%まで加算される。
【0037】
分散されたポリマー(a)及び(c)の全体の割合は、ポリ酢酸ビニル(a)が70〜100質量%を構成し、そしてOH基含有ポリマー分散体(c)が0〜30質量%を構成するように分配されている。
【0038】
本発明による分散体は、場合により、その他の分散体、例えばポリアクリラート、ポリ塩化ビニリデン、ポリブタジエン又はスチレン/ブタジエン分散体を30質量%までの割合で含有してよい。
【0039】
本発明による分散体は、その他の添加剤及び場合によりコーティング及び接着助剤を含有してよい。
【0040】
例えば、充填剤、例えば石英粉、珪砂、バライト、炭酸カルシウム、白亜、ドロマイト又はタルクを、場合により湿潤剤、例えばポリホスファート、例えばヘキサメタリン酸ナトリウム、ナフタリンスルホン酸、ポリアクリル酸のアンモニア又はナトリウム塩と一緒に添加してよく、その際前記充填剤は10〜60質量%、有利には20〜50質量%の量で添加され、湿潤剤は0.2〜0.6質量%の量で添加され、その際全てのデータは非揮発性成分に対する。その他に適した、場合により使用される助剤は、有機増粘剤、例えばセルロース誘導体、アルギン酸塩、デンプン、デンプン誘導体、ポリウレタン増粘剤又はポリアクリル酸であり、これらは非揮発性成分に対して例えば0.01〜1質量%の量で使用され、又は無機増粘剤、例えばベントナイトが非揮発性成分に対して0.05〜5質量%の量で使用される。保存の目的のために、殺カビ剤が本発明による分散体に添加されてもよい。これらは、非揮発性成分に対して0.02〜1質量%の量で使用される。適した殺カビ剤は例えば、フェノール及びクレゾール誘導体又は有機スズ化合物である。粘着付与性樹脂、いわゆる接着樹脂、例えば、未改質の又は改質した天然樹脂、例えばコロホニウムエステル、炭化水素樹脂又は合成樹脂、例えばフタラート樹脂が分散された形態で本発明によるポリマー分散体に場合により添加されてよい(例えば"Klebharze", R. Jordan, R. Hinterwaldner, pp. 75-115, Hinterwaldner Verlag Munich 1994を参照のこと)。70℃より高い、特に有利には110℃より高い軟化点を有するアルキルフェノール樹脂及びテルペンフェノール樹脂分散体が有利である。可塑剤、例えばアジパート、フタラート又はホスファートをベースとする可塑剤が、本発明による分散体に、非揮発性成分に対して0.5〜10質量部の量で添加されてもよい。
【0041】
有機溶媒、例えば芳香族炭化水素、例えばトルエン又はキシレン、エーテル、例えばジオキサン、ケトン、例えばアセトン又はメチルエチルケトン、エステル、例えば酢酸ブチル又は酢酸エチル又はこれらの混合物を、全体の接着剤調整物の質量に対して10質量%までの量で使用することも可能である。このように添加された量の有機溶媒は、例えば、コーティングされるか又は結合される基材に対する接着を改善するために、又は上記した、場合により含有される更なる添加剤又は場合によりコーティング及び接着助剤を溶解するために使用されてよい。
【0042】
本発明によるポリマー分散体を製造するために、個々の成分の質量比は、本発明によるこの生じる分散体が、成分(a)、(b)及び場合により(c)、また同様に場合により更なる添加剤又はコーティング又は接着助剤を上記した量で含有するように選択される。
【0043】
この個々の成分は、基本的には全く任意の順番で一緒にされてよい。OH基を含有する成分(c)を含有する有利な実施態様において、水性二酸化ケイ素分散体(b)とOH基含有オリゴマー又はポリマー(c)とを予備混合することが特に有利であり、その際物質(c)を、分散体の、又はシクロデキストリンの場合には固体又は水溶液の形態で添加する。
【0044】
従って、本発明はまた、本発明によるポリマー分散体の製造方法をも提供し、その際二酸化ケイ素分散体(b)を場合により、少なくとも1種のOH基含有オリゴマー又はポリマー(c)を含有する分散体、場合により添加剤及び場合によりコーティング又は接着助剤と混合し、次いでポリ酢酸ビニル及び/又は少なくとも1種のポリ酢酸ビニルコポリマーを含有する分散体(a)を混合し、その際ポリ酢酸ビニル及び/又はポリ酢酸ビニルコポリマーは、完全な分散体又は固体として混合される。
【0045】
この有利な変形の文脈において製造される水性二酸化ケイ素分散体(b)及びOH基含有オリゴマー又はポリマー(c)の水性中間分散体は安定であり、かつまた本発明により提供される。特に、前記中間分散体は、水性二酸化ケイ素分散体(b)及び1種又は複数種のシクロデキストリンを含有する。
【0046】
本発明による分散体は、多くの様々な基材のための接着剤又はコーティングとして傑出して適する。例えば、基材、例えば木、紙、プラスチック、テキスタイル、皮革、ゴム又は無機材料からなる基材、例えばセラミック、陶器、ガラス繊維又はセメントがコーティング又は結合されてよい。基材の結合の場合には、同じ又は異なる種類の基材が結合されてよい。本発明によるポリマー分散体は、公知の水性ポリマー分散体と比較して、高い水含有量にもかかわらず、迅速な硬化特性及び高い初期強度を示し、そしてこの生じる乾燥コーティング又は接着フィルムは高い耐水性及び熱安定性を有する。
【0047】
従って、本発明はまた、本発明によるポリマー分散体の、接着剤としての、例えば製本、木材の結合における接着剤としての、壁タイルのための接着剤としての、又は包装のためのコーティング剤としての使用を提供する。
【0048】
本発明によるポリマー分散体は、公知の方法で、例えばはけ塗り、キャスティング、塗布、吹付け、ロール塗又は浸漬により設けられてよい。このコーティング又は接着フィルムは室温又は高温で乾燥されてよい。
【0049】
本発明はまた、本発明によるポリマー分散体でコーティング又は結合された基材をも提供する。
【0050】
次の実施例は、本発明を説明するための例として記載したものであり、限定するものとして考えてはならない。
【実施例】
【0051】
次の略称は、以下に記載した実施例で用いられる:
VAc=酢酸ビニル
PVAc=ポリ酢酸ビニル
E=エチレン
A=アクリラート
OS=表面活性物質
PVAL=ポリビニルアルコール
CD=セルロース誘導体
【0052】
1.1使用した物質
表1:Air Products (Vinac(R)系列)からのポリ酢酸ビニル分散体
【表1】

*以前の名称:Vinac(R)H60
【0053】
表2:Air Products (Airflex(R)系列)からのポリ酢酸ビニル分散体
【表2】

【0054】
表3:Celanese Emulsions GmbH(Frankfurt, Germany)からのポリ酢酸ビニル/ポリビニルアルコール分散体
【表3】

【0055】
表4:Wacker(Burghausen, Germany)からのシクロデキストリン
【表4】

【0056】
表5:H. C. Starck(Leverkusen, Germany)からの二酸化ケイ素分散体(シリカゾル)
【表5】

【0057】
表6:使用した助剤
【表6】

【0058】
1.2測定方法
1.2.1 熱機械分析(TMA)
分散体を、テフロン皿中で、正確に3日間室温で、1時間80℃で、次いで更に3日間室温でフィルムとして乾燥させ、その際1.0mm〜1.5mmの厚さを有するフィルムが製造されることが望ましい。Perkin ElmerからのDMA 7装置をこの測定のために、500mNの負荷下でかつ−100℃〜+240℃の温度プログラムを用いて、5゜/minの増加率で使用した。この測定ヘッドの貫通深さを適した温度で測定した。このフィルムが軟質であるほど、測定ヘッドは基材中により深く貫通する。この測定を、熱乾燥器中で結合の熱安定性の測定と相関させた。
【0059】
熱安定性試験の例:試験体を、4kgで負荷し、かつ熱乾燥器中で30分間の間40℃の一定温度にした。次いで、この試験試料を一次の加熱速度0.5℃/minで150℃にまで加熱した。軟化時間、即ち結合が4kgの負荷下で破損する温度を℃で記録した。
【0060】
1.2.2 付着性分散体フィルムのフィルム形成時間及び硬化時間の測定
測定原理(図1も参照のこと):2つのキャリジを一定速度で、接着フィルムが存在するガラスプレート上を移動させた。針を、キャリジにある駆動可能な1つのアーム上にガラスプレートに対して直角に備え、重りをここに固定した。乾燥プロセスの第1相の間には、この分散体は針の後ろ側で再度流動し一緒になる。フィルム形成時間の開始は、針によるこのフィルムの分離により定義される(第2相)。フィルムの粘度がこの重りの垂直力を超えて増加すると、この針は前記フィルムから飛び上がり、フィルムの表面上を走行し続ける(第3相)。この時間をフィルム乾燥時間として定義した。
【0061】
測定の実施:ガラスプレートを酢酸エチルで洗浄し、接着フィルムを250μmのスプレダーを用いて設け、この針を10gの重りで負荷し、測定を開始した。この速度は、5.1cm/hであった。この測定を、状態調節室中で23℃かつ相対湿度50%で実施した。
【0062】
図1:フィルム形成時間及びフィルム乾燥時間の測定のための測定装置
【0063】
1.2.3 引張剪断強さの測定
結合した表面方向での引張力のための応力下での木−木結合の剪断強さの測定
材料:ブナ(40×20×4mm)。
【0064】
1.2.3.1. 試験体の製造:
本発明による接着剤を、平削りしたブナプレート(DIN 53-254に一致して)にはけを用いて設けた。この接着剤を、前記ブナ試験体の両面に設けた。30分間の周囲温度中での乾燥時間後に、接着剤の第二層をこの最初の層の上に設け、次いで60分間周囲温度で乾燥させた。乾燥時間の終了後、2つの試験体を20×10mmの重なりが存在するように結合した。この試験体を次いで、プレス中で10秒間4barの圧締力で一緒にプレスした。
【0065】
1.2.3.2.引張剪断強さの測定
この接着力を、末端引張装置を用いてZwick引張試験機械1475型(万能材料試験機、接着剤工学において標準的な試験装置)中で、100mm/minの引取速度で、接合した(結合した)部分が分離するまで測定した。この力を、N/mm2で測定した。
【0066】
1.2.4.結合の耐水性の測定
試験体を7日間、最初は毎日6時間100℃で、次いで毎日2時間冷水中で次いで室温で、この後に更に7日間室温で貯蔵した。
【0067】
この引張剪断強さを次いで、1.2.3.2.に説明されているとおり測定した。
【0068】
1.3.本発明によるポリマー分散体の製造
本発明によるポリマー分散体を製造するために、ポリ酢酸ビニル及び/又は少なくとも1種のポリ酢酸ビニルコポリマーを含有する分散体(a)を最初にビーカー中に配置した。二酸化ケイ素分散体(b)及び少なくとも1種のOH基含有オリゴマー又はポリマー(c)を含有する分散体を次いで、撹拌しながら次々に添加した。30分間後、この調製物を試験のために使用した。
【0069】
表7a〜13a中のデータは、関連する分散体の質量部で示されている。
【0070】
1.4実施例
表7a:分散体の組成
【表7】

【0071】
表7b:貯蔵後の結合の引張剪断強さ(基材 木/木)
【表8】

【0072】
表8a:分散体の組成
【表9】

【0073】
表8b:貯蔵後の結合の引張剪断強さ(基材 木/木)
【表10】

【0074】
比較例1、5、9及び12に一致した純粋なポリ酢酸ビニル分散体の使用に比較して、本発明によるポリマー分散体で結合させた基材は、より高い剪断強さを有する。
【0075】
表9a:分散体の組成
【表11】

【0076】
表9b:結合の耐水性(基材 木/木)
【表12】

【0077】
比較例15に一致した純粋なポリ酢酸ビニル分散体の使用に比較して、本発明によるポリマー分散体で結合させた基材は、水中での貯蔵後により高い剪断強さを、従ってより高い耐水性を有する。架橋剤Desmodur DNの使用は、より高い強さを生ずるために必要でない。
【0078】
表10a:分散体の組成
【表13】

【0079】
表10b:試験方法1.2.2.に一致したフィルム形成時間及びフィルム乾燥時間に関するデータ
【表14】

【0080】
比較例20に一致した純粋なポリ酢酸ビニル分散体に比較して、本発明による分散体は、より短いフィルム形成時間及び乾燥時間を有する。
【0081】
表11a:分散体の組成熱機械特性
【表15】

【0082】
表11b:熱機械特性
【表16】

【0083】
貫通深さの残分は、貫通していない測定ヘッドの長さである。
【0084】
比較例26及び29と一致した純粋なポリ酢酸ビニル分散体の使用と比較して、本発明によるポリマー分散体を用いて製造されたフィルムは、熱応力に対してより高い抵抗性を有する。この特性は、ポリマーフィルムの熱安定性と相関する。図2は、個々の測定における変化の詳細な比較を示す。
【0085】
表12a:分散体の組成
【表17】

【0086】
表12b:熱機械特性
【表18】

【0087】
比較例32及び34に一致した純粋なポリ酢酸ビニル分散体の使用に比較して、本発明によるポリマー分散体を用いて製造されたフィルムは、熱応力に対するより高い抵抗性を有する。この特性は、軟化点と相関し、かつこのポリマーフィルムの熱安定性の尺度である。意外にも、熱安定性のための高い値は、シクロデキストリンを有する本発明によるポリマー分散体の特殊な実施態様から製造されたポリマーフィルムにより示される(試験35)。この観察された硬化は、純粋な相加的効果を遙かに超えたものである。図3は、個々の測定の変化の詳細な比較を記載する。
【0088】
表13a:分散体の組成
【表19】

【0089】
表13b:熱機械特性
【表20】

【0090】
比較例36、38、40、42及び44に一致した純粋なポリ酢酸ビニル分散体の使用と比較して、本発明によるポリマー分散体で製造されたフィルムは、熱応力に対してより高い抵抗性を有する。この特性は軟化点と相関し、かつこのポリマーフィルムの熱安定性の尺度である。図4は、個々の測定の変化の詳細な比較を示す。
図2:表11と一致した分散体から製造されたフィルムの熱応力下での安定性に関する測定における変化
記号:PVAc no.1=試験26、PVAc no.9=試験29
図3:表12、試験32〜35(本発明による:試験33及び35)に一致した分散体から製造されたフィルムの熱応力下での安定性に関する測定における変化
図4a:表1及び2(PVAcタイプ、2、3、4、7、8)に一致した純粋なPVAc分散体から製造されたフィルムの熱応力下での安定性に関する測定における変化
図4b:シリカゾルと組み合わせた純粋なPVAc分散体タイプ、2、3、4、7及び8から製造されたフィルム(表11、試験37、39、41、43、45)の熱応力下での安定性に関する測定における変化。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、フィルム形成時間及び乾燥時間を測定するための測定装置を示す図である。
【図2】図2は、個々の測定における変化の詳細な比較を示す図である。
【図3】図3は、個々の測定における変化の詳細な比較を示す図である。
【図4a】図4aは、個々の測定における変化の詳細な比較を示す図である。
【図4b】図4bは、個々の測定における変化の詳細な比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリ酢酸ビニル及び/又は少なくとも1種のポリ酢酸ビニルコポリマーを含有する分散体少なくとも1種及び
(b)平均粒径1〜400nmを有するSiO2粒子を含有する水性二酸化ケイ素分散体少なくとも1種
を含有することを特徴とする、水性ポリマー分散体。
【請求項2】
SiO2粒子が、粒径5〜100nm、有利には8〜60nmを有することを特徴とする、請求項1記載の水性ポリマー分散体。
【請求項3】
SiO2粒子が、離散した架橋していない一次粒子として存在することを特徴とする、請求項1又は2記載の水性ポリマー分散体。
【請求項4】
水性二酸化ケイ素分散体が、水性シリカゾルであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散体。
【請求項5】
ポリ酢酸ビニル及び/又はポリ酢酸ビニルコポリマー粒子が、平均粒径70〜300nmを有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散体。
【請求項6】
ポリマー分散体が、
(c)OH基含有オリゴマー又はポリマー
をも含有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の水性ポリマー分散体。
【請求項7】
OH基含有オリゴマー又はポリマーが、1種又は複数種のシクロデキストリンであることを特徴とする、請求項6記載の水性ポリマー分散体。
【請求項8】
二酸化ケイ素分散体(b)を場合により、少なくとも1種のOH基含有オリゴマー又はポリマー(c)を含有する分散体、場合により添加剤及び場合によりコーティング又は接着助剤と混合し、次いでポリ酢酸ビニル及び/又は少なくとも1種のポリ酢酸ビニルコポリマーを含有する分散体(a)を混合することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載のポリマー分散体の製造方法。
【請求項9】
ポリ酢酸ビニル及び/又は1種のポリ酢酸ビニルコポリマーを含有する前記分散体(a)を、完全な分散体又は固体として混合することを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項1から7までのいずれか1項記載のポリマー分散体の接着剤又はコーティング剤としての使用。
【請求項11】
ポリマー分散体が、製本、木材の結合における接着剤として、壁タイルのための接着剤として、又は包装のためのコーティング剤として使用されることを特徴とする、請求項10記載の使用。
【請求項12】
請求項1から7までのいずれか1項記載のポリマー分散体でコーティング又は結合されたことを特徴とする基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【公開番号】特開2007−314786(P2007−314786A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−127195(P2007−127195)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(506350458)ハー ツェー シュタルク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンデイトゲゼルシヤフト (14)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78−91, D−38642 Goslar, Germany
【Fターム(参考)】