説明

水性の鏡用縁塗り液およびそれを用いた鏡

【課題】 ガラス基板上に銀鏡膜、銀鏡膜を保護するための銅等からなる金属保護膜、裏止め塗膜を順次積層した鏡の製造において、前記金属保護膜が露出した鏡の端縁を被覆するための、水性でありながら硬化が短時間で済み、鏡端縁部の被覆形成が容易な鏡用縁塗り液およびそれを用いた鏡を提供する。
【解決手段】 アクリルシリコン樹脂を水に分散させてなるアクリルシリコン樹脂エマルジョンを含有する水性の鏡用縁塗り液、特に、前記アクリルシリコン樹脂がケイ素含有アクリル系単量体のみ、またはケイ素含有アクリル系単量体とケイ素を含有しない単量体とを乳化重合することにより得られるアクリルシリコン樹脂エマルジョンである水性の鏡用縁塗り液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板上に銀鏡膜、銀鏡膜を保護するための銅等からなる金属保護膜、防錆塗料からなる裏止め塗膜を順次積層した鏡、またはガラス基板上に銀鏡膜、防錆塗料からなる裏止め塗膜を順次積層した鏡に関し、鏡の端縁の前記銀鏡膜、金属保護膜が露出した部位の防錆、鏡の端縁からの防食のために被覆する被膜形成を行うための鏡用縁塗り液、および該鏡用縁塗り液を塗布し端縁を被覆する被膜を形成した鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
鏡の製造において、鏡の端縁の銀鏡膜、銅膜の露出した部位を被覆する被膜を形成する際、裏止め塗膜を含む端縁を面取り加工した後、該端縁に縁塗り液を塗布し乾燥させて被膜を形成することは公知であり、通常、これら被覆による被膜形成は製鏡所や鏡加工所で手操作にて行われる。防錆塗料としての縁塗り液を塗布し乾燥させてなる被膜により、鏡端部よりの錆、剥離等による変色、言い換えれば侵食が防止され防食効果が得られる。
【0003】
従来は、鏡の端縁に固形蝋を擦付けたり、適宜樹脂と溶剤からなる縁塗り液、例えば、アルキッド系樹脂を芳香族炭化水素系溶剤で溶解した縁塗り液を筆等で塗布する等の処理を施してきたが、いずれも膜厚が薄すぎたり、掠れたりして充分金属露出部に行き渡らなかった。
【0004】
例えば、本出願人による特許文献1において、従来の手操作で簡単に縁塗りでき、かつ速乾性に優れ、防食性を有する鏡用縁塗り液が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示されている鏡用縁塗り液は、溶剤揮発型耐食性樹脂、または湿気硬化型耐食性樹脂より選択されるビヒクル30〜40重量%とアルキル酢酸エステル類より選択される第一の溶剤が20〜50重量%とアルキルベンゼン類または脂肪族ケトン類、第二の溶剤が20〜40重量%との混合、かつ塗液粘度が25〜40センチポイズの範囲となるべく調製したものである。また、本出願人による特許文献1には、鏡用縁塗り液のためのペン型縁塗り具が記載されている。
【0006】

【特許文献1】特開平9−313316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、用いられてきた鏡用縁塗り液は有機溶剤を使用している。しかしながら、鏡用縁塗り液に有機溶剤を用いた場合、特に芳香族炭化水素系有機溶剤を用いた場合は、貯蔵および取り扱いに慎重を要し、可燃性があるため火災発生の懸念がある他、人体に対して毒性があるので、塗布作業時において揮発により作業者が吸入し健康を害する問題、引いては大気汚染等の問題がある。
【0008】
水性の縁塗り液を用いるとこのような問題はないが、水性の縁塗り液は乾燥に時間がかかるため、鏡の端縁へ塗布しにくいという問題があり、鏡用縁塗り液には用いられていない。
【0009】
本発明は、ガラス基板上に銀鏡膜、銀鏡膜を保護するための銅等からなる金属保護膜、裏止め塗膜を順次積層した鏡の製造において、またはガラス基板上に銀鏡膜、金属保護膜、裏止め塗膜を順次積層した鏡の製造において、前記金属保護膜が露出した鏡の端縁を被覆するための、水性でありながら硬化が短時間で済み鏡端縁部の被覆する被膜形成が容易な鏡用縁塗り液およびそれを用いた鏡を提供することを目的とする。
【0010】
加えて、本発明は、ガラス基板端縁のガラス面、銀鏡膜、銅等からなる金属保護膜、裏止め塗膜へ強固に付着し、耐食性に優れ、長期にわたり優れた防食効果を有する水性の鏡用縁塗り液およびそれを用いた鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明において、アクリルシリコン樹脂エマルジョン樹脂を鏡用縁塗り液に使用することで、水性でありながら硬化が短時間で済み、鏡端縁部の被覆形成が容易で、ガラス基板端縁のガラス面、銀鏡膜、銅等からなる金属保護膜、裏止め塗膜へ強固に付着し、乾燥が速い鏡用縁塗り液が得られた。本発明の鏡用縁塗り液を用いて得られる鏡は耐食性に優れ、長期にわたり優れた防食効果を有する。
【0012】
即ち、本発明は、アクリルシリコン樹脂を水に分散させてなるアクリルシリコン樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする水性の鏡用縁塗り液である。
【0013】
更に、本発明は前記アクリルシリコン樹脂がケイ素含有アクリル系単量体のみを乳化重合することにより得られるアクリルシリコン樹脂エマルジョン、またはケイ素含有アクリル系単量体とケイ素を含有しない他の単量体とを乳化重合することにより得られるアクリルシリコン樹脂エマルジョンであることを特徴とする上記の水性の鏡用縁塗り液である。
【0014】
更に、本発明は、前記アクリルシリコン樹脂の組成物がシクロヘキシルメタアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタアクリレートおよびブチルメタアクリレート、ケイ素単量体であることを特徴とする上記の水性の鏡用縁塗り液である。
【0015】
更に、本発明は、ガラス基板上に銀鏡膜、金属保護膜、裏止め塗膜を順次積層させた後、上記の水性の鏡用縁塗り液をガラス基板周縁部端縁に縁塗り後、乾燥硬化させた被膜を有してなる鏡である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性の鏡用縁塗り液は、従来の有機溶剤を用いてなる鏡用縁塗り液に比較して、水性の鏡用縁塗り液であるので火災の懸念がなく、ガラス基板上に銀鏡膜、銅等からなる金属保護膜、裏止め塗膜を順次積層する鏡の製造、またはガラス基板上に銀鏡膜、裏止め塗膜を順次積層する鏡の製造において、前記金属保護膜の露出した鏡の端縁を被覆するための被膜形成時に、作業者が吸入により健康を害する問題、引いては環境汚染の問題がない。
【0017】
また、本発明の水性の鏡用縁塗り液は、水性でありながら硬化が短時間で済み、鏡端縁部の被膜形成が容易であり、ガラス基板端縁にペン型縁塗り具、筆等で縁塗りした際に、ガラス基板端縁のガラス面、銀鏡膜、銅等からなる金属保護膜、裏止め塗膜、強固に付着する。
【0018】
本発明による水性の鏡用縁塗り液を、鏡に適用することで、長期にわたり優れた防食効果を有する鏡が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、鏡用縁塗り液が塗布され、端縁に被膜が形成された鏡の一例の断面図である。図1に示すように、鏡は、ガラス基板G上に銀鏡膜1、銀鏡膜1を保護するための銅等からなる金属保護膜2、裏止め塗膜3を順次積層した鏡で、鏡用縁塗り液を塗布後、乾燥硬化させる被膜4が鏡端縁に形成されている。
【0020】
尚、現在は、ガラス基板G上に銀鏡膜1、銀鏡膜1を保護するための銅等からなる金属保護膜2、裏止め塗膜3を順次積層した鏡が主流であるが、裏止塗膜3による銀鏡膜1の耐食性能の向上等により、将来的には、環境保護のために銀鏡膜1を保護するための銅等からなる金属保護膜2がなく、ガラス基板G上に銀鏡膜1、裏止め塗膜3を順次積層した鏡に替わっていくことが予想される。本発明の鏡用縁塗り液は被膜4とした際、銀鏡膜1に優れた耐食性能を与えるため、銀鏡膜1、裏止め塗膜3を順次積層した銅等からなる金属保護膜2を有しない鏡に対しても有効である。
【0021】
本発明において、銀鏡膜1は銀膜やそれと類似の反射膜で鏡の作用を呈するものをいう。通常は、銀鏡膜1を浸食から保護すべく、その上に金属保護膜2、例えば銅膜が施される。これらの銀鏡膜1、金属保護膜2は通常、化学メッキ法により膜付けされるが、これに限らず、物理蒸着法、スパッタリング法等、その他の成膜手段が採用される。
【0022】
銀鏡膜1および金属保護膜2は湿分、炭酸ガス、または亜硫酸ガス等腐食性ガスにより除々に侵され腐食し、端縁より侵食する。したがって金属保護膜2には、侵食防止のため、言い換えれば、防食のため、裏止め塗料を塗布し乾燥させた裏止め塗膜3が被覆される。通常、糸面取り加工され、銀鏡膜1及び金属保護膜2が露呈した傾斜部5に、鏡用縁塗り液が塗布後乾燥した、防食のための被膜4が形成される。
【0023】
本発明の水性の鏡用縁塗り液は、アクリルシリコン樹脂エマルジョンを含有する。
【0024】
水性の鏡縁塗り液に使用する、水溶性樹脂の候補としては、ポリビニールアルコール、ポリアクリルアミド、水溶性アクリルポリマー、水溶性ウレタンポリマー、水溶性フッ素樹脂等が挙げられ、エマルジョンとしては、アクリル樹脂エマルジョン、アクリルシリコン樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フッ素樹脂エマルジョン、スチレンブタジエン樹脂エマルジョン、アクリロニトリルブタジエン樹脂エマルジョン、スチレンイソプレン樹脂エマルジョン、塩化ビニル樹脂エマルジョン、エチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョン、エチレン塩化ビニル樹脂エマルジョン及び天然ゴムエマルジョン等が挙げられる。
【0025】
これらの中で、本発明の鏡用縁塗り液に用いるエマルジョンとしては、塗布後の硬化が速く鏡端縁部の被膜形成が容易なこと、硬化させて鏡端縁の被膜4とした際に、被膜4が耐久性、耐薬品性に富むこと、また、優れた被膜4を得るための樹脂を重合する際の、樹脂設計の自由度の高いことからアクリルシリコン樹脂エマルジョンが選択され、ケイ素含有アクリル系単量体のみを乳化重合することにより得られるアクリルシリコン樹脂エマルジョン、またはケイ素含有アクリル系単量体とケイ素を含有しない他の単量体とを乳化重合することにより得られるアクリルシリコン樹脂エマルジョンが好適に使用される。
【0026】
前記ケイ素含有アクリル系単量体としては、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の加水分解性シリル基含有ビニル系単量体等が挙げられる。
【0027】
前記アクリル系単量体と共重合可能なケイ素を含有しない他の単量体としては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等の芳香族炭化水素系ビニル単量体;マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸含有ビニル単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン等の塩素含有単量体;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル等の水酸基含有アルキルビニルエーテル;エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテルジエチレングリコールモノアリルエーテル等のアルキレングリコールモノアリルエーテル;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル等のアリルエーテル等が挙げられる。
【0028】
上記アクリル樹脂エマルジョンは、例えば、乳化重合法によって得られる。乳化重合の方法に関しては特に制限はなく、従来公知の方法で、水性媒体中で前記の単量体、連鎖移動剤、界面活性剤、ラジカル重合開始剤および、必要に応じて用いられる他の添加剤成分を基本組成成分とする分散系において、単量体を重合させてエマルジョンに製造される。
【0029】
必要に応じて用いられる他の添加剤成分の例としては、アルコキシシラン及び/又はオルガノアルコキシシランが挙げられる。具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン類等が挙げられる。これらのアルコキシシラン及び/又はオルガノアルコキシシランは、単独でまたは2種以上を混合して使用される。
【0030】
本発明の水性の鏡用縁塗り液に含有されるアクリルシリコン樹脂は、その樹脂を構成する単量体がシクロヘキシルメタアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタアクリレートおよびブチルメタアクリレート、および前記ケイ素含有アクリル系単量体またはケイ素を含有しない単量体であるケイ素単量体であり、構成する単量体として、それらを全て使用することが好ましい。アクリルシリコン樹脂エマルジョンの重合が行い易く、水性の鏡用縁塗り液にした際に塗布し易く、得られた防食鏡に優れた防食効果を与える。
【0031】
本発明の水性の鏡用縁塗り液に含有されるアクリルシリコン樹脂エマルジョンは、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)によるポリスチレン換算の数平均分子量が10,000以上、5,000,000以下であることが好ましい。より好ましくは、50,000以上、1,000,000以下である。数平均分子量が10,000未満では、乾燥硬化後の被膜4が脆く、剥離し易いばかりか防食効果が得られない、5,000,000を越えると、粘度が高くなりすぎ塗布した際、被膜4が形成し難い。
【0032】
本発明の水性の鏡用縁塗り液におけるアクリルシリコン樹脂の濃度の上限は、水性の鏡用縁塗り液の全重量を100%基準として、45.0重量%以下であることが好ましい。本発明の水性の縁塗り液を塗布するには、本出願人による前記特許文献1に記載された塗布する部分がフエルト製の公知のペン型縁塗り器が好適に用いられる。筆等を用い厚くぬる場合は濃くても構わないが、ペン型縁塗り器を用いた場合、アクリルシリコン樹脂の濃度が45.0重量%より濃いと、アクリルシリコン樹脂の均等な展伸がし難く塗布後に厚みの均等な被膜4が得難い。好ましくは43.0重量%以下である。また、本発明の水性の鏡用縁塗り液におけるアクリルシリコン樹脂の濃度の下限は、水性の鏡用縁塗り液の全重量を100%基準として、10.0重量%以上であることが好ましい。アクリルシリコン樹脂の濃度が10.0重量%より薄いと、銀鏡膜1、銅膜2等、金属露出部の耐食のために必要な被膜4の厚みが得られない。
【0033】
本発明の水性の鏡用縁塗り液において、水に分散させてエマルジョンとして用いるアクリルシリコン樹脂のガラス転移温度(以下、Tgと略する)が、0℃以上、80℃以下であることが好ましく、より好ましくは20℃以上、80℃以下の範囲である。アクリルシリコン樹脂のガラス転移温度が20℃未満であると、粘着性が発現し固まりやすく、言い換えれば、ブロッキングし易くなり、80℃を越えると鏡端縁に縁塗り液を塗布し乾燥硬化させてなる被膜4に、クラックが発生し易くなる。
【0034】
本発明の鏡用縁塗り液において、アクリルシリコン樹脂は水に分散させた際の数平均粒子径が30nm以上、800nm以下、好ましくは50nm以上、400nm以下のものが好適に使用されるである。水に分散させた際の数平均粒子径が30nm未満では、鏡用縁塗り液の粘度が高すぎて平滑な被膜4が得られない。数平均粒子径が800nmを超えると鏡用縁塗り液を塗布後、被膜4とする際の速乾性に劣り、乾燥硬化が遅い。
【0035】
本発明の水性の鏡用縁塗り液には水溶性樹脂に水を適宜添加し、また塗布時の作業性、塗布後の仕上がり外観を向上させるため消泡剤、増粘剤、防黴剤、防腐剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、スリップ剤、たれ防止剤、酸化防止剤および熱安定剤等の通常水性塗料で使用される添加剤を配合しても良い。
【0036】
アクリルシリコン樹脂エマルジョンに水、造膜助剤、レベリング剤、消泡剤を適宜添加して得られた本発明の鏡用縁塗り液は面取り加工された鏡裏面の端縁の傾斜部5へロールコーター、刷毛塗り等で乾燥膜厚10μm以上、250μm以下になるように塗布する。さらにこれを80℃以下で促進乾燥、好ましくは常温乾燥させて被膜4を形成し、鏡の端縁を被覆して被膜4として防食鏡を完成させる。
【実施例】
【0037】
公知の手段で図1に示すように、ガラス基板Gの片面に銀鏡膜1、金属保護膜2としての銅膜、裏止め塗膜3を順次積層して、厚み5mmの大きなサイズの鏡を形成し、これを200mm角に切断し、その端縁部をシーミング加工したうえで、銀鏡膜1、銅膜2が露呈した傾斜部5に、本出願人による前記特許文献1に記載された塗布する部分がフエルト製の公知のペン型縁塗り器を用い、手操作で水性の鏡用縁塗り液を塗布した。塗布した水性の鏡用塗り液の組成を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
尚、表1の数値は重量%で表しており、合計すると100.0重量%となるように、水性の各鏡用塗り液を調製した。
【0040】
実施例1の水性の鏡用塗り液は、TG、20℃のアクリルシリコン樹脂エマルジョン(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名、ポリデュレックスG623、不揮発分を46.0重量%に水で調製)を用い、水性の鏡用塗り液の全重量に対して、70.0重量%になるように調製した。実施例2の水性の鏡用塗り液は、TG、50℃のアクリルシリコン樹脂エマルジョン(東亜合成化学株式会社製、商品名、シーラスPC100、不揮発分を46.0重量%に調製)を用い、水性の鏡用塗り液の全重量に対して、70.0重量%になるように調製した。実施例3の水性の鏡用塗り液は、TG、20℃のアクリルシリコン樹脂エマルジョン(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名、ポリデュレックスG620、不揮発分を46.0重量%に調製)にシランモノマー(東レ・ダウコーニング・シリコン株式会社製、商品名、SH6040)20重量%を加えたものを用い、水性の鏡用縁塗り液全重量に対して、70.0重量%となるように調製した。実施例1、実施例2に示した水性の鏡用縁塗り液におけるアクリルシリコン樹脂の濃度は、水性の鏡用縁塗り液の全重量を100%基準として、ともに32.2%である。実施例3に示したアクリルシリコン樹脂の濃度は、水性の鏡用縁塗り液の全重量を100%基準として、25.8%である。
【0041】
それに対して、比較例1の水性の鏡用塗り液は、アクリル樹脂エマルジョン(三井化学株式会社製、商品名、アルマテックスE293、不揮発分を43.0重量%に調製)を用い、水性の鏡用縁塗り液全重量に対して、80.0重量%となるように調製した。比較例2の水性の鏡用塗り液は、ウレタン樹脂エマルジョン(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名、ボンコートCG5060、不揮発分を46.0重量%に調製)を用い、水性の鏡用縁塗り液全重量に対して、80.0重量%となるように調製した。比較例3の水性の鏡用塗り液は、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名、エバディックEV−15、不揮発分を50重量%に調製)を用い、水性の鏡用縁塗り液全重量に対して、70.0重量%となるように調製した。表1に示すように、以上の各エマルジョンに水を14.0重量%〜25.0重量%を加えたものと、造膜助剤(イーストマン株式会社製、商品名、テキサノール)とレベリング剤に水を加えた物を混合して水性の鏡用塗り液を調製した。
【0042】
次いで、実施例1〜3、比較例1〜3組成の水性の鏡用縁塗り液を塗布した200mm角の各々の鏡を乾燥炉内で180℃、5分間加熱し各々乾燥させ、傾斜部5に被膜4を得た。
【0043】
次いで、表2に示す試験方法および評価基準の鉛筆硬度試験、密着性試験、耐酸性試験、耐アルカリ性試験、耐温水性試験、キャス試験および乾燥性試験を行った。
【0044】
【表2】

【0045】
評価基準に合格を〇、不合格を×とし、実施例1〜3、比較例1〜10に示した組成の鏡用縁塗り液を塗布し傾斜部5に被膜4を形成した鏡の評価結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
本発明のアクリルシリコン樹脂エマルジョンを組成物としてなる水性の鏡用縁塗り液を使用した実施例1〜3の鏡は全ての試験に合格し優れていたが、本発明の組成比の範囲から外れた鏡用縁塗り液を使用した比較例1〜10の鏡は合格しない試験があり劣る。
【0048】
以上、実施例により、本発明のアクリルシリコン樹脂を水に分散させてなるアクリルシリコン樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする水性の鏡用縁塗り液、特に、前記アクリルシリコン樹脂がケイ素含有アクリル系単量体のみを乳化重合することにより得られるアクリルシリコン樹脂エマルジョン、またはケイ素含有アクリル系単量体とケイ素を含有しない単量体とを乳化重合することにより得られるアクリルシリコン樹脂エマルジョンであることを特徴とする水性の鏡用縁塗り液を用いて、鏡の端縁を被覆する被膜形成したした鏡は、銀鏡膜1、金属保護膜2としての銅膜、裏面保護膜3へ強固に付着し、耐食性に優れ長期にわたり優れた防食効果を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】鏡用縁塗り液が塗布された端縁に被膜が形成された鏡の一例の断面図である。
【符号の説明】
【0050】
G ガラス基板
1 銀鏡膜
2 金属保護膜
3 裏止塗膜
4 被覆
5 傾斜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルシリコン樹脂を水に分散させてなるアクリルシリコン樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする水性の鏡用縁塗り液。
【請求項2】
前記アクリルシリコン樹脂がケイ素含有アクリル系単量体のみを乳化重合することにより得られるアクリルシリコン樹脂エマルジョン、またはケイ素含有アクリル系単量体と他の単量体とを乳化重合することにより得られるアクリルシリコン樹脂エマルジョンであることを特徴とする請求項1に記載の水性の鏡用縁塗り液。
【請求項3】
前記アクリルシリコン樹脂の組成物がシクロヘキシルメタアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタアクリレートおよびブチルメタアクリレート、ケイ素単量体であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性の鏡用縁塗り液。
【請求項4】
ガラス基板上に銀鏡膜、金属保護膜、裏止め塗膜を順次積層させた後、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の水性の鏡用縁塗り液をガラス基板周縁部端縁に縁塗り後、乾燥硬化させた被膜を有してなる鏡。


【図1】
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【公開番号】特開2006−219607(P2006−219607A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35206(P2005−35206)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【出願人】(000199991)川上塗料株式会社 (12)
【Fターム(参考)】