説明

水性インキ組成物

【課題】蛍光ペンなどに代表される筆記具などの水性インキ組成物において、乾燥抑制効果および筆記性が改善された水性インキ組成物を提供する。
【解決手段】(a)下記一般式(I)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体と、(b)着色剤と、(c)水を含有することを特徴とする水性インキ組成物。Y−[O(EO)a−(AO)b−(EO)c−R]k(I)(式中、Yは3〜6個の水酸基を有する多価アルコールの水酸基を除いた残基、kは前記多価アルコールの水酸基数、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数3〜6のオキシアルキレン基でそれぞれブロック状に付加されている。a×k、b×kおよびc×kはそれぞれオキシエチレン基は炭素数3〜6のオキシアルキレン基、オキシエチレン基の平均付加モル数であり、0≦a×k≦100、1≦b×k≦100、0≦c×k≦100、ただし(a+c)×k>1である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性インキ組成物、特に乾燥抑制成分の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マーカーやサインペンなどのように、筆記芯に水性または油性インキを浸透させた液体筆記具が広く販売使用されている。
しかしながら、水性筆記具の場合、その水分が蒸発すると、例えば筆記具の先端においてインク中の溶解物や混合物が濃縮、析出、乾燥固化して目詰まり、インキの粘度上昇を引き起こし、再筆記時に支障が生じる問題があった。そこで乾燥抑制剤として、エチレングリコールやグリセリンのような多価アルコールなどの水溶性高沸点有機溶剤が用いられている。しかしながら、前記水溶性高沸点有機溶剤は一般に高い粘度を有する化合物である。一方、筆記具などに用いるインキは、ペン先やオリフィス等毛細管を通過して吐出するものである。したがって、インキに対し前記水溶性有機溶剤を使用できる量には限度があり、その限度内の使用量では充分に蒸発した水分を補うことができなかった。
【0003】
そのため、上記の問題を解決するものとして様々な水性インキ組成物が提案されている。例えば、多孔芯材の筆記芯のペン先に高沸点溶剤を予め塗布又は含浸させておく方法が提案されている(例えば特許文献1)。しかし筆記前の状態では高沸点溶剤がペン先に十分に存在するため、ペン先の乾燥抑制効果はある程度認められるとしても、筆記後では高沸点溶剤がインキと共に流出してしまうため、ペン先の乾燥抑制効果は得られなくなるという問題点があった。
【0004】
また、ペン先表面において析出して薄いフィルムを形成するパラフィンワックスをインキ中に添加するもの(例えば特許文献2)、インキ中にイミダゾリル環を有する化合物を添加するもの(例えば特許文献3)、還元マルトオリゴ糖及び/又は還元イソマルトオリゴ糖を添加するもの(例えば特許文献4)、ジメチルスルホオキシド(以下、DMSO)と尿素、エチレン尿素を添加するもの(例えば特許文献5)、金属イオン封止剤および還元澱粉糖化物を添加するもの(例えば特許文献6)、フッ素系界面活性剤を添加するもの(例えば特許文献7)等がある。しかしながら、いずれも十分に満足のいく乾燥抑制効果が得られるものではなかった。
【0005】
またペン先の乾燥抑制、及び筆記性、特に書き味のなめらかさに優れるポリアルキレンオキシドジアルキルエーテル誘導体を配合した提案もされている(例えば特許文献8)。しかしこれらの提案ではインキのにじみ(耐水性)に関して必ずしも満足のいく効果が得られてはいなかった。
【0006】
【特許文献1】特許第2878585号公報
【特許文献2】特公平1−35028号公報
【特許文献3】特開平5−59316号公報
【特許文献4】WO00/29494号公報
【特許文献5】特許第1543157号公報
【特許文献6】特開2004−224892号公報
【特許文献7】特開昭60−84369号公報
【特許文献8】特開2007−106791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前述の事情に鑑み行われたものであり、その目的は水性インキ組成物中における乾燥抑制効果、および筆記具に使用した場合の筆記性が改善された水性インキ組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが前述の課題に鑑み鋭意研究を行った結果、水性インキ組成物に特定の構造を有するアルキレンオキシド誘導体を、着色剤及び水とともに配合することにより、適度な耐乾燥性を有したものとなり、これを筆記具用のペンに使用した場合には、本体からキャップを外して長期間放置してもペン先の乾燥が効果的に抑制され、また筆記性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の水性インキ組成物は、(a)下記一般式(I)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体と、(b)着色剤と、(c)水とを含有することを特徴とする。
(化2)
Y−[O(EO)a−(AO)b−(EO)c−R]k (I)
(式中、Yは3〜6個の水酸基を有する多価アルコールの水酸基を除いた残基、kは前記多価アルコールの水酸基数、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数3〜6のオキシアルキレン基でそれぞれブロック状に付加されている。a×k、b×kおよびc×kはそれぞれオキシエチレン基は炭素数3〜6のオキシアルキレン基、オキシエチレン基の平均付加モル数であり、0≦a×k≦100、1≦b×k≦100、0≦c×k≦100、ただし(a+c)×k>1である。式(I)中の全オキシエチレン基と炭素数3〜6のオキシアルキレン基の合計に対する、式(I)中の全オキシエチレン基の割合は、10〜80質量%である。Rは同一もしくは異なってもよい炭素数1〜4の炭化水素基である。)
【0010】
前記式(I)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体において、AOがオキシブチレン基であることが好適である。
【0011】
また前記式(I)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体において、aが0であることが好適である。
【0012】
また、前記(a)ブロック型アルキレンオキシド誘導体の配合量が1〜20質量%であることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水性インキ組成物において、特定構造のアルキレンオキシド誘導体を着色剤と水と共に配合することにより、これを筆記具用のペンに使用した場合には、本体からキャップを外して長期間放置しても乾燥抑制効果、および筆記性に優れた水性インキ組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
(a)ブロック型アルキレンオキシド誘導体
本発明においては、下記式(I)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体が適用し得る。
(化3)
Y−[O(EO)a−(AO)b−(EO)c−R]k (I)
【0015】
前記式(I)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体において、Yは3〜6個の水酸基を有する多価アルコールの水酸基を除いた残基であり、kは前記多価アルコールの水酸基数であり3〜6である。
3〜6個の水酸基を有する化合物としては、例えば、k=3であるグリセリン、トリメチロールプロパン、k=4であるエリスリトール、ペンタエリスリトール、k=5であるキシリトール、k=6であるソルビトール、イノシトールが挙げられる。
【0016】
本発明において、Yが3〜4個の水酸基を有する多価アルコールの水酸基を除いた残基であることがより好ましい。すなわち、3≦k≦4を満たすことが好適であり、グリセリン、ペンタエリスルトールが挙げられる。kが2以下であると、にじみの点で満足いく効果が得られず、また、kが7以上であると、なめらかな書き味ではない場合がある。
【0017】
EOは、オキシエチレン基である。AOは炭素数3〜6のオキシアルキレン基であり、具体的には、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシt−ブチレン基、オキシペンチレン基、オキシヘキシレン基などが挙げられる。好ましくは、オキシプロピレン基、オキシブチレン基であり、さらに好ましくはオキシブチレン基である。
【0018】
b×kはAOの平均付加モル数であり、1≦b×k≦100、好ましくは3≦b×k≦70である。a×k及びc×kはEOの平均付加モル数であり、0≦a×k≦100、0≦c×k≦100であり、好ましくは0≦a×k≦70、3≦c×k≦70である。また、前記式(I)中の全オキシエチレン基の平均付加モル数(a+c)×kは1より大きく、好ましい範囲は、1<(a+c)×k≦200であり、さらに好ましくは6≦(a+c)×k≦140である。AOは本発明にかかるブロック型アルキレンオキシド誘導体において疎水性部位となり、b×kが0、および100を越えると筆記性が劣る傾向がある。また、(a+c)×kが0であると、水性インキ組成物中の乾燥抑制効果が落ち、100を越えると水性インキ組成物をペンに使用した場合の筆記性が劣る傾向がある。
【0019】
また、オキシエチレン基と炭素数3〜6のオキシアルキレン基の合計に対するオキシエチレン基の割合が、10〜80質量%であることが好ましい。オキシエチレン基の割合が10質量%未満であると水性インキ組成物中の乾燥抑制効果が落ちる傾向にあり、80質量%を超えると水性インキ組成物をペンに使用した場合の筆記性が劣る傾向にある。
【0020】
また、AOとEOの付加形態はブロック状であり、付加順序は式中のYに対して、(AO)−(EO)の順、(EO)−(AO)の順、(EO)−(AO)−(EO)の順のいずれであってもよい。本発明においては、式中のYに対して(AO)−(EO)の順であることが特に好ましい。式中のYに対して(AO)−(EO)の順となる場合、式中のaは0であることに相当する。
【0021】
Rは炭素数1〜4の炭化水素基で、炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。本発明においてはメチル基、エチル基であることが好ましい。炭素数が5より大きいと、乾燥抑制効果に劣る傾向にある。また、本発明にかかるインキ組成物に配合されるブロック型アルキレンオキシド誘導体において、Rは1分子中、同一であっても又は異なっていてもよく、1分子中において同一のRを有するブッロク型アルキレンオキシド誘導体1種、または異なるRを有する2種以上の混合物であってもよい。
【0022】
本発明にかかるインキ組成物に配合されるブロック型アルキレンオキシド誘導体としては、具体的にはPOB(30)POE(30)グリセリルトリメチルエーテル、POB(30)POE(35)グリセリルトリメチルエーテル、POB(17)POE(28)グリセリルトリメチルエーテル、POB(27)POE(45)グリセリルトリメチルエーテル、POB(14)POE(34)グリセリルトリメチルエーテル、POB(22)POE(55)グリセリルトリメチルエーテル、POB(19)POE(55)グリセリルトリメチルエーテル、POB(40)POE(80)グリセリルトリメチルエーテル、POB(80)POE(40)グリセリルトリメチルエーテル、POB(30)POE(30)グリセリルトリエチルエーテル、POB(30)POE(35)グリセリルトリエチルエーテル、POB(14)POE(34)グリセリルトリエチルエーテル、POB(30)POE(30)グリセリルトリプロピルエーテル、POE(30)POP(30)グリセリルトリメチルエーテル、POE(35)POP(40)グリセリルトリメチルエーテル、POE(41)POP(48)グリセリルトリメチルエーテル等が挙げられる。
なお、上記POE、POP、POBは、それぞれポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレンの略であり、以下、このように略して記載することがある。
【0023】
本発明にかかる水性インキ組成物に配合されるブロック型アルキレンオキシド誘導体は、公知の方法で製造することができる。例えば、水酸基を有している多価アルコールに対して、エチレンオキシドおよび炭素数3〜6のアルキレンオキシドを付加重合した後、ハロゲン化アルキルをアルカリ触媒の存在下にエーテル反応させることによって得られる。
【0024】
ブロック型アルキレンオキシド誘導体の配合量は、通常水性インキ組成物全体に対して1〜20質量%、好ましくは3〜10質量%配合される。1質量%未満では本発明の効果が十分ではない場合がある。
【0025】
(b)着色剤
本発明に用いる着色剤としては特に限定されず、従来水性顔料インキ組成物に用いられている無機系、有機系顔料、および染料の中から任意のものを1種又は2種以上を使用することができる。具体的には無機系顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、金属粉等、有機系顔料としては、不溶性アゾ系顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、ジオキサジン系顔料等、また染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料等が挙げられる。
【0026】
さらに着色蛍光微粒子などのいわゆるプラスチックピグメントについても好適に使用でき、市販品としては、ルミコールNKW2101(レッドオレンジ色調以下同じ),同2102(グリーン),同2103(レッド),同2104(オレンジ),同2105(イエロー),同2106(イエローオレンジ),同2107(セリーズピンク),同2117(ピンク),同2127(ローズ),同2137(ルビン),同2167(バイオレット),同2108(ブルー)(以上日本蛍光化学(株)社製)、SF5515(イエロー),SF7012(グリーン),SF7014(オレンジ),SF7015(レモンイエロー),SF7017(ピンク),SF7037(バイオレット),SF7018(ブルー)(以上シンロイヒ(株)社製)などの蛍光微粒子分散体が挙げられる。
【0027】
上記着色剤の配合量は、通常水性インキ組成物全量に対し、2〜60質量%、好ましくは5〜50質量%である。2質量%未満では筆跡の濃度が薄く実用性に劣り、60質量%を超えると粘度が高すぎてしまい筆記性が低下することがある。
【0028】
(c)水
本発明にかかる水性インキ組成物においては、溶剤として主に水が用いられる。用いる水は特に限定されず、具体的には精製水、イオン交換水、水道水等が挙げられる。
上記インキ組成物中の水の配合量は、通常水性インキ組成物全量に対し、30〜90質量%、好ましくは50〜80質量%である。40質量%未満では配合による効果の発現が十分ではない場合があり、90質量%を越えると他の成分の配合量が減少し、それゆえ効果が低下する場合がある。
【0029】
本発明の水性インキ組成物には上記必須成分の他、必要に応じて通常用いられる界面活性剤、防錆剤、防黴剤、防腐剤、pH調整剤、保湿剤、潤滑剤、分散安定剤、および分散樹脂等の成分を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0030】
本発明にかかる水性インキ組成物は、マーキングペン、蛍光ペン、水性ボールペンなどの筆記具用や、その他インクジェット記録用、スタンプ用、印刷用などに広く応用することが可能である。
【実施例】
【0031】
次に実施例をあげて本発明を具体的に説明する。本発明はこれによって限定されるものではない。なお、以下の例において、配合量の記載は特に断りがない限り、質量%を意味し、BOはオキシブチレン基を示す。まず始めに各実施例、比較例および試験例で用いた評価法について説明する。
【0032】
評価(1):乾燥抑制効果
本体からキャップを外して温度;24℃、湿度;50%の環境下で、筆記可能な時間を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎…60時間以上。
○…48〜60時間未満。
△…24〜48時間未満。
×…24時間以下。
【0033】
評価(2):なめらかさ
本体からキャップを外して温度;24℃、湿度;50%の環境下で、24時間後にパネラー10名が手書き筆記し、その筆記感を評価した。評価基準は以下の通りである。
◎…パネラー8名以上が、なめらかな書き味と認めた。
○…パネラー6名以上8名未満が、なめらかな書き味と認めた。
△…パネラー3名以上6名未満が、なめらかな書き味と認めた。
×…パネラー3名未満が、なめらかな書き味と認めた。
【0034】
評価(3):にじみ
筆記直後に筆跡を1分間水に浸漬したときのインキのにじみ出しおよび筆記紙の汚れの有無を観察する。
◎…インキにじみ出し、筆記紙汚れ無し。
○…インキにじみ出しわずかに有り、筆記紙汚れ無し。
△…インキにじみ出し多い、筆記紙汚れ有り。
×…筆記線がほとんど残らない
【0035】
本発明者らは、下記表1〜3に示す配合組成において、インキ組成物を常法により製造し、前記評価項目(1)〜(3)について評価試験を行った。
【0036】
なお、下記表中のブロック型アルキレンオキシド誘導体は、以下の構造を有することを示している。例えば、a+c+e=30、b+d+f=30の場合は、(BO)30(EO)30と表記する。
【化4】

【0037】
以下、前述の試験例のインキ組成物に配合した各種アルキレンオキシド誘導体の合成例の一部を示す。
<合成例1>
ポリオキシブチレン(30モル)ポリオキシエチレン(30モル)トリメチルグリセリルエーテル(ブロック型アルキレンオキシド誘導体)の合成 (表1 化合物a−3)
グリセリン92gと触媒として水酸化カリウム18gをオートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ中の空気を乾燥窒素で置換した後、攪拌しながら140℃で触媒を完全に溶解した。次に滴下装置によりブチレンオキシド2160gを滴下させ、2時間攪拌した。続いて、滴下装置によりエチレンオキシド1320gを滴下させ、2時間攪拌した。次に、水酸化カリウム400gを仕込み、系内を乾燥窒素で置換した後、塩化メチル300gを温度80〜130℃で圧入し5時間反応させた。その後オートクレーブより反応組成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7に調整し、含有する水分を除去するため減圧−0.088MPa(ゲージ圧)100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、ブロック型アルキレンオキシド誘導体を得た。
塩化メチルを反応させる前にサンプリングし、精製したものの水酸基価が49、アルキレンオキシド誘導体1の水酸基価が0.4、末端メチル基数に対する水素原子数の割合は0.008であり、ほぼ完全に水素原子がメチル基に変換されている。
【0038】
<合成例2>
ポリオキシエチレン(57モル)トリメチルグリセリルエーテル(アルキレンオキシド誘導体)の合成 (表1 化合物a−6)
グリセリン92gと触媒として水酸化カリウム18gをオートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ中の空気を乾燥窒素で置換した後、攪拌しながら140℃で触媒を完全に溶解した。次に滴下装置によりエチレンオキシド2508gを滴下させ、2時間攪拌した。次に、水酸化カリウム400gを仕込み、系内を乾燥窒素で置換した後、塩化メチル300gを温度80〜130℃で圧入し5時間反応させた。その後オートクレーブより反応組成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7に調整し、含有する水分を除去するため減圧−0.088MPa(ゲージ圧)100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、アルキレンオキシド誘導体を得た。
塩化メチルを反応させる前にサンプリングし、精製したものの水酸基価が66、アルキレンオキシド誘導体1の水酸基価が0.6、末端メチル基数に対する水素原子数の割合は0.009であり、ほぼ完全に水素原子がメチル基に変換されている。
【0039】
<合成例3>
ポリオキシブチレン(30モル)ポリオキシエチレン(30モル)グリセリルエーテル(ブロック型アルキレンオキシド誘導体)の合成 (表1 化合物a−8)
グリセリン92gと触媒として水酸化カリウム18gをオートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ中の空気を乾燥窒素で置換した後、攪拌しながら140℃で触媒を完全に溶解した。次に滴下装置によりブチレンオキシド2160gを滴下させ、2時間攪拌した。続いて、滴下装置によりエチレンオキシド1320gを滴下させ、2時間攪拌した。その後オートクレーブより反応組成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7に調整し、含有する水分を除去するため減圧−0.088MPa(ゲージ圧)100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、ブロック型アルキレンオキシド誘導体を得た。
【0040】
<合成例4>
ポリオキシブチレン(30モル)ポリオキシエチレン(30モル)トリメチルグリセリルエーテル(ランダム型アルキレンオキシド誘導体)の合成 (表1 化合物a−9)
グリセリン92gと触媒として水酸化カリウム18gをオートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ中の空気を乾燥窒素で置換した後、攪拌しながら140℃で触媒を完全に溶解した。次に滴下装置によりブチレンオキシド2160gとエチレンオキシド1320gの混合物を滴下させ、2時間攪拌した。次に、水酸化カリウム400gを仕込み、系内を乾燥窒素で置換した後、塩化メチル300gを温度80〜130℃で圧入し5時間反応させた。その後オートクレーブより反応組成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7に調整し、含有する水分を除去するため減圧−0.088MPa(ゲージ圧)、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、ランダム型アルキレンオキシド誘導体を得た。
塩化メチルを反応させる前にサンプリングし、精製したものの水酸基価が47、得られたランダム型アルキレンオキシド誘導体5の化合物の水酸基価が0.5、末端メチル基数に対する水素原子数の割合は0.011であり、ほぼ完全に水素原子がメチル基に変換されている。
【0041】
本発明者らは、以上の各製造例に準じ、各種アルキレンオキシド誘導体を調製した。下記表1に示すa−10については直鎖ブロック型アルキレンオキシド誘導体を調整した。下記表2に記載した配合組成よりなる試料を混合攪拌し、ポアサイズ1μmのメンブランフィルターでろ過して水性インキ組成物を調製した。調製した水性インキ組成物を、繊維束インキ吸蔵体を備えたマーキングペンに充填し、下記評価(1)〜(3)について評価試験を行なった。
なお、組成物に配合する(a)成分(アルキレンオキシド誘導体)としては、下記表1に示すものを用いた。
【0042】
【表1】

【0043】
まず始めに、従来品のマーキングペンに含まれる乾燥抑制成分を添加したものとの比較結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

*1);日本蛍光化学株式会社製蛍光顔料水分散体、商品名
【0045】
上記表2より明らかなように、従来品のマーキングペンにインキ乾燥抑制のために含有されるDMSOおよび尿素を添加した試験例1、およびショ糖エステルを添加した試験例2は、ペン先乾燥抑制効果が多少は認められるものの、アルキレンオキシド誘導体を添加した試験例3のほうが、より優れた乾燥抑制効果を発揮した。また、筆記時のなめらかさ、及びにじみに関しても従来技術よりも良好な結果であった。
そこで本発明者らは、乾燥抑制成分としてアルキレンオキシド誘導体を水性インキ組成物に配合することに着目し、該アルキレンオキシド誘導体の好適条件の検討を引き続き実施した。
【0046】
次に、アルキレンオキシド誘導体の好適な種類について検討を行った。試験結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

*1);日本蛍光化学株式会社製蛍光顔料水分散体、商品名
【0048】
上記表3より明らかなように、アルキレンオキシド誘導体の構造中、オキシエチレン基のみで構成されている場合(試験例9)はすべての評価において劣っており、オキシブチレン基のみで構成されている場合(試験例10)も、乾燥抑制が十分でない。
さらに両末端が水素であった場合(試験例11)には、すべての評価において劣っており、両末端が炭素数6の炭化水素基である場合(試験例8)にも、乾燥抑制効果が十分でなかった。
これに対し、本発明にかかるブロック型アルキレンオキシド誘導体が配合された実施例1〜4は、優れたペン先乾燥抑制効果となめらかさ、及びにじみのなさを有したものであった。また、オキシエチレン基、オキシブチレン基がランダム型(比較例12)、および直鎖型のアルキレンオキシド誘導体を配合した場合(試験例13)と比較すると、ブロック型であり、かつグリセリン骨格を有したアルキレンオキシド誘導体を配合させた試験例4〜7が、よりにじまないという結果となった。
以上のように、前記一般式(1)で示される特定構造を有するアルキレンオキシド誘導体が、優れた効果を発揮することが確認された。
【0049】
続いて、本発明にかかるインキ組成物に特徴的に配合される、アルキレンオキシド誘導体の好適な配合量について検討を行った。試験結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

*1);日本蛍光化学株式会社製蛍光顔料水分散体、商品名
【0051】
上記表4より明らかなように、本発明にかかるブロック型アルキレンオキシド誘導体が含まれていないと(試験例20)、すべての評価において乾燥抑制効果やなめらかさ、及びにじみのなさが劣るものとなる。
これに対し、(a)ブロック型アルキレンオキシド誘導体の配合量が0.5質量%である場合は(試験例14)、配合による効果が十分に発揮されず、また30質量%であると(試験例19)、筆記性が劣るものとなった。以上の結果より、本発明にかかるブロック型アルキレンオキシド誘導体の配合量は1〜20質量%が好ましく、3〜10質量%が特に好ましいことが確認された。
【0052】
以下、本発明にかかる水性インキ組成物からなる蛍光ペンの実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1
【0053】
(質量%)
(BO)22(EO)55,R1〜3=CH3 10.0
シンヒロイ カラーベース SF-5515 イエロー*2) 50.0
グリセリン 5.0
トリエタノールアミン 適 量
安息香酸ナトリウム 適 量
精製水 残 余
*2);シンヒロイ株式会社製蛍光顔料水分散体、商品名
(製法および評価)
上記成分を混合攪拌し、ポアサイズ1μmのメンブランフィルターでろ過して水性インキ組成物を調製した。得られた水性インキ組成物を含む蛍光ペンは、本体からキャップを外して長期間放置しても乾燥抑制効果、および筆記性に優れていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(I)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体と、
(b)着色剤と、
(c)水
を含有することを特徴とする水性インキ組成物。
(化1)
Y−[O(EO)a−(AO)b−(EO)c−R]k (I)
(式中、Yは3〜6個の水酸基を有する多価アルコールの水酸基を除いた残基、kは前記多価アルコールの水酸基数、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数3〜6のオキシアルキレン基でそれぞれブロック状に付加されている。a×k、b×kおよびc×kはそれぞれオキシエチレン基は炭素数3〜6のオキシアルキレン基、オキシエチレン基の平均付加モル数であり、0≦a×k≦100、1≦b×k≦100、0≦c×k≦100、ただし(a+c)×k>1である。式(I)中の全オキシエチレン基と炭素数3〜6のオキシアルキレン基の合計に対する、式(I)中の全オキシエチレン基の割合は、10〜80質量%である。Rは同一もしくは異なってもよい炭素数1〜4の炭化水素基である。)
【請求項2】
前記式(I)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体において、AOがオキシブチレン基であることを特徴とする請求項1に記載の水性インキ組成物。
【請求項3】
前記式(I)で示されるブロック型アルキレンオキシド誘導体において、aが0であることを特徴とする請求項1に記載の水性インキ組成物。
【請求項4】
前記(a)アルキレンオキシド誘導体の配合量が1〜20質量%であることを特徴とする請求項1〜3に記載の水性インキ組成物。

【公開番号】特開2009−179723(P2009−179723A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20282(P2008−20282)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】