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水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法
説明

水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法

【課題】発色性と耐光性が高いレベルで両立された画像を記録することが可能である水性インクを提供する。
【解決手段】第1の顔料及び第2の顔料を含有する水性インクである。第1の顔料が、C.I.ピグメントイエロー213であり、第2の顔料が、C.I.ピグメントイエロー93、128、138、151、155、180、及び215からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、インク全質量を基準とした、第1の顔料の含有量A(質量%)及び第2の顔料の含有量B(質量%)が、0.1≦A/(A+B)≦0.9の関係を満たし、さらに、Fedors法により求められるSP値[単位:(cal/cm31/2]が11.0以上16.0以下である水溶性有機溶剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用にも好適なイエローの色相を有する水性インク、該水性インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット方式によって記録された画像には、より高い耐光性を有することが要求されている。このような要求の高まりに対応すべく、顔料を色材として用いるインクジェット用インクの検討が精力的に行われている。しかし、一般的に顔料インクは、染料を色材として用いる染料インクに比べて画像の発色性が低く、堅牢性と発色性の両立が課題である。特に、イエローの色相を有するインク(イエローインク)を用いて記録される画像については、耐光性と発色性とがトレードオフの関係となることが知られている。このため、耐光性と発色性とが同時に満足される画像を記録可能なイエローインクの開発が必要とされている。
【0003】
従来、インクジェット用インクに用いられるイエロー顔料としてはC.I.ピグメントイエロー74や128があったが、いずれも耐光性と発色性とが両立された画像を記録することはできなかった。そこで、近年では、他のイエロー顔料に比べて耐光性に優れるとされる、C.I.ピグメントイエロー213を用いることについての検討がなされている。例えば、色材としてC.I.ピグメントイエロー213や155を用いた、耐光性及び発色性が向上した画像を記録可能なイエローインクに関する提案がある(特許文献1参照)。また、C.I.ピグメントイエロー213と他の顔料を用いたインクに関する提案がある(特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−266568号公報
【特許文献2】特開2010−001478号公報
【特許文献3】特開2010−248287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが検討したところ、特許文献1において提案されたイエローインクを用いて記録した画像の耐光性は、従来主流であったC.I.ピグメントイエロー128や129を用いた場合と比べれば高まっていた。しかし、発色性については、近年高まりつつあるイエローインクに対する高いレベルの要求を必ずしも満足できるものではなかった。また、特許文献2において提案されたインクを用いて記録した画像は、紫外線や水への耐性は向上しているものの、発色性については課題としても捉えられておらず、やはり高いレベルの要求を満足できるものではなかった。さらに、特許文献2に記載のインクは、主として非浸透性の記録媒体に対しては好適であるが、普通紙や光沢紙などの浸透性を有する記録媒体に対しては適性がなかった。一方、特許文献3において提案されたインクは浸透性を有する記録媒体への適性はあるものの、近年要求されるレベルの発色性と耐光性を同時に満足することはできていない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、発色性と耐光性が高いレベルで両立された画像を記録することが可能である水性インク、それを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明によれば、第1の顔料及び第2の顔料を含有する水性インクであって、前記第1の顔料が、C.I.ピグメントイエロー213であり、前記第2の顔料が、C.I.ピグメントイエロー93、128、138、151、155、180、及び215からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、インク全質量を基準とした、前記第1の顔料の含有量A(質量%)及び前記第2の顔料の含有量B(質量%)が、0.1≦A/(A+B)≦0.9の関係を満たし、さらに、Fedors法により求められるSP値[単位:(cal/cm31/2]が11.0以上16.0以下である水溶性有機溶剤を含有することを特徴とする水性インクが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発色性と耐光性が高いレベルで両立された画像を記録することが可能である水性インク、それを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本明細書の記載における「C.I.」は、「カラーインデックス」の略語である。また、水性インクのことを単に「インク」と記載することがある。本発明において、各種の物性値は、特に断りのない限り25℃における値である。
本発明者らの検討により、発色性及び耐光性を両立した画像を記録するためには、特定の2種類の顔料をある比率で併用し、Fedors法により求められるSP値が特定の数値範囲内にある水溶性有機溶剤をインクに含有させることが重要であることがわかった。以下、Fedors法により求められるSP値が11.0以上16.0以下である水溶性有機溶剤のことを「特定の水溶性有機溶剤」とも記す。
【0010】
本発明において水溶性有機溶剤の規定に利用するSP値(δ)[単位:(cal/cm31/2]は、Fedors法により求められる値である。SP値は「溶解性パラメーター」とも呼ばれる値であり、溶質のSP値と、溶媒のSP値との差が小さいほど、溶媒への溶質の親和性が大きくなる傾向にある。具体的には、下記式(1)によって水溶性有機溶剤のSP値(δ)を算出することができる。下記式(1)中、△Evapは水溶性有機溶剤のモル蒸発熱(cal/mol)を示し、Vは25℃における水溶性有機溶剤のモル体積(cm3/mol)を示す。なお、水溶性有機溶剤のモル蒸発熱(△Evap)と、25℃における水溶性有機溶剤のモル体積(V)は、いずれも分子中の原子や基に帰属する一定値の足し合わせで求められる。なお、SP値の単位はcalを利用するのが一般的であるが、SI単位系に換算する際には、(cal/cm31/2=2.046×103(J/m31/2の関係を利用すればよい。以下の記載においては、SP値の単位は省略することがあるが、SP値は(cal/cm31/2の単位で表される値である。
【0011】

【0012】
従来、ある特定の組み合わせで2種類以上のイエロー顔料を併用したインクを用いることで、1種のみのイエロー顔料を使用した場合と比較して、画像の発色性が向上しうることは知られていた。本発明者らが検討を行ったところ、第1の顔料と第2の顔料を後述する特定の比率で組み合わせて用いると、顔料層の少なくとも一部が、発色性の向上に寄与しうる状態となっていることがわかった。本発明者らが確認を行った結果、このような顔料層には、2層構造となっている部分(以下、「2層構造を有する顔料層」と記載することがある)が含まれていた。そして、その上層にはC.I.ピグメントイエロー213(第1の顔料)が含まれ、下層にはC.I.ピグメントイエロー93、128、138、151、155、180、及び215からなる群より選ばれる少なくとも1種(第2の顔料)が含まれていた。
【0013】
2層構造を有する顔料層が、単層の顔料層よりも発色性に優れることのメカニズムについては、以下のように推測される。まず、理想的な画像について説明する。例えば、イエローの画像であれば、画像を構成する顔料層に光が入射した際に、イエローの補色成分の波長領域の光がすべて吸収され、それ以外の波長領域の光がすべて反射されることで、画像は理想的なイエローの画像として認識される。
【0014】
2層構造を有する顔料層に光が入射すると、まず透明性の高い顔料であるC.I.ピグメントイエロー213(第1の顔料)を含む上層で短波長領域の光(補色成分の光)が吸収される。ただし、上層は透明性が高いので、補色成分の光がすべて吸収されるわけではなく、一部、ないしは波長領域によっては全ての光が上層を透過する。次いで、上層に含まれる第1の顔料よりも、吸収波長領域が広い顔料である第2の顔料を含む下層において、上層を透過した補色成分の光が吸収される。すなわち、上記第1の顔料及び第2の顔料で構成される2層構造を有する顔料層の場合、上層と下層のそれぞれの吸収特性が反映されることとなる。このため、2層構造を有する顔料層においては、1種のみの顔料で形成された単層の顔料層よりも多くの補色成分の光が吸収され、画像の発色性が顕著に向上すると考えられる。
【0015】
本発明のインクに含有させる第1の顔料及び第2の顔料は、上記の理由により選択されたものである。すなわち、透明性の高い第1の顔料と、以下に示す特性を有する第2の顔料とを併用することが極めて重要である。第2の顔料は、色材が該顔料のみであるインクを用いて形成された顔料層の反射スペクトルにおいて、第1の顔料よりも長波長領域側で反射スペクトルの極大値を有するものである。このような理由から、第1の顔料としてはC.I.ピグメントイエロー213、第2の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー93、128、138、151、155、180、及び215からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる必要がある。
【0016】
さらに、本発明においては、インク全質量を基準とした、第1の顔料の含有量A(質量%)及び第2の顔料の含有量B(質量%)が、0.1≦A/(A+B)≦0.9の関係を満たすことを要する。A/(A+B)の値が0.1未満であると、記録された画像に含まれる2層構造の顔料層の比率が少なくなる。このため、第2の顔料の種類によっては画像の発色性が不十分となり、また、第1の顔料が少ないため画像の耐光性も不十分となる。一方、A/(A+B)の値が0.9を超えると、画像の耐光性は向上するが、画像に含まれる2層構造の顔料層の部分が少なくなる。このため、画像の発色性が不十分となる。
【0017】
本発明者らがさらに検討を進めたところ、SP値が11.0以上16.0以下である水溶性有機溶剤をさらにインクに含有させることで、発色性だけでなく、耐光性についても向上した画像を記録可能なインクが得られることを見出した。第1の顔料及び第2の顔料に加えて、さらに特定の水溶性有機溶剤を含有するインクによって、画像の発色性とともに耐光性が向上するメカニズムについては、以下のように推測される。
【0018】
第1の顔料及び第2の顔料を所定の比率で併用しただけでも、形成される顔料層の少なくとも一部が2層構造となるので、上記で説明したように発色性はある程度向上する。ただし、発色性をより向上させ、耐光性をも向上させる観点からは、第1の顔料を含む上層と第2の顔料を含む下層が明確に分離された部分をより多く含む顔料層が形成されることが好ましい。そして、本発明者らは、SP値が11.0以上16.0以下である水溶性有機溶剤は、第1の顔料への親和性と、第2の顔料への親和性に明らかな差が生ずることを見出した。
【0019】
ここで、特定の水溶性有機溶剤と、この水溶性有機溶剤に対する親和性が低い第1の顔料と、この水溶性有機溶剤に対する親和性が高い第2の顔料と、を含有するインクを用いて記録媒体に記録した場合を想定する。インクが記録媒体に付与されると、インク中の水の蒸発に伴い、特定の水溶性有機溶剤の濃度が相対的に高まる。すると、第1の顔料は特定の水溶性有機溶剤への親和性が低いため、第2の顔料よりも早い時点で、弱く凝集する。この間、インクは記録媒体に浸透していくが、特定の水溶性有機溶剤に対する親和性の高い第2の顔料は第1の顔料に比べて凝集しづらいため、インクの記録媒体への浸透に引きずられて、第1の顔料よりも下層の位置に定着する。これにより、2層に明確に分離された部分をより多く含む顔料層が形成されやすくなり、より発色性に優れた画像を記録することができる。さらには、耐光性に優れた第1の顔料が上層に多く存在することになるので、優れた耐光性が維持される。
【0020】
特定の水溶性有機溶剤(SP値が11.0以上16.0以下の水溶性有機溶剤)を使用すれば、これ以外の水溶性有機溶剤(SP値が11.0未満又は16.0超の水溶性有機溶剤)が存在しても、上記のメカニズムが生じ、本発明の効果を得ることができる。一方、特定の水溶性有機溶剤以外の水溶性有機溶剤のみを用いた場合には、その他の水溶性有機溶剤に対する、第1の顔料の親和性と、第2の顔料の親和性に有意な差が生じにくい。このため、発色性及び耐光性に優れた画像を記録することができなくなる。
【0021】
<水性インク>
以下、本発明の水性インクを構成する成分などについて詳細に説明する。
【0022】
(顔料)
本発明のインクは、第1の顔料と第2の顔料を含有する。そして、第1の顔料はC.I.ピグメントイエロー213である。また、第2の顔料はC.I.ピグメントイエロー93、128、138、151、155、180、及び215からなる群より選ばれた少なくとも1種である。インク中の第1の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。インク中の第2の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の顔料の合計含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましい。
【0023】
上述のとおり、本発明のインクは、インク全質量を基準とした場合に、第1の顔料の含有量A(質量%)及び第2の顔料の含有量B(質量%)が、0.1≦A/(A+B)≦0.9の関係を満たすことを要する。また、0.2≦A/(A+B)≦0.7の関係を満たすことがより好ましい。A/(A+B)の値が0.1未満である(第2の顔料に比して、第1の顔料の方が少なすぎる)と、少なくとも画像の耐光性が不十分となる。一方、A/(A+B)の値が0.9を超える(第2の顔料に比して、第1の顔料が多すぎる)と、画像の発色性が不十分となる。
【0024】
顔料の分散方式としては、分散剤として樹脂を用いた樹脂分散顔料、顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散顔料などを挙げることができる。さらには、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基を化学的に結合させた樹脂結合型の自己分散顔料、顔料粒子の表面の少なくとも一部を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを挙げることができる。なかでも、分散剤である樹脂を顔料粒子の表面に物理的に吸着させ、該樹脂の作用により顔料粒子を分散させる方式を利用することが好ましい。樹脂分散剤としては、アニオン性基やノニオン性基の作用によって顔料を水性媒体に分散させることができるものが好ましい。樹脂分散剤としては、インクジェット用のインクに使用可能な従来公知の共重合体やその塩を用いることができる。より好適な樹脂分散剤としては、以下に挙げるような親水性ユニット及び疎水性ユニットを有する共重合体が挙げられる。親水性ユニットとしては、(メタ)アクリル酸などのカルボキシ基を有する単量体やその塩などの親水性単量体に由来するユニットが挙げられる。また、疎水性ユニットとしては、スチレンやその誘導体;ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環を有する単量体;(メタ)アクリル酸エステルなどの脂肪族基を有する単量体などの疎水性単量体に由来するユニットが挙げられる。なお、記録媒体にインクが付与され、浸透していく過程においては、樹脂分散剤が顔料の凝集タイミングに直接的に与える影響は、水溶性有機溶剤に比して極めて小さい。このため、本発明においては、樹脂分散剤は「水溶性有機溶剤」には含めないものとし、SP値を算出する対象とはしない。
【0025】
(SP値が11.0以上16.0以下である水溶性有機溶剤)
本発明のインクは、Fedors法により求められるSP値[単位:(cal/cm31/2]が11.0以上16.0以下である水溶性有機溶剤(特定の水溶性有機溶剤)を含有する。なお、本明細書における「水溶性有機溶剤」は、水より少ない量であれば、水と任意の割合で相溶しうる有機化合物であり、常温(25℃)において固体であるものも含むものとする。特定の水溶性有機溶剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特定の水溶性有機溶剤は、本発明のインクに含有させる第1の顔料と第2の顔料への親和性に明らかな差があり、これによって、第1の顔料と第2の顔料の凝集のタイミングに差が生じて、発色性と耐光性が両立された画像を記録することができる。インク中のSP値が11.0以上16.0以下である水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上45.0質量%以下であることがさらに好ましい。さらには、3.0質量%以上30.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0026】
SP値[単位:(cal/cm31/2]が11.0以上16.0以下である水溶性有機溶剤の具体例としては、括弧内にSP値を示すと、メタノール(13.8)、エタノール(12.6)、n−プロパノール(11.8)、2−プロパノール(11.6)、n−ブタノール(11.3)、2−メチル−1−プロパノール(11.1)、2−ブタノール(11.1)などの炭素数1乃至4の1価アルコール類;ホルムアミド(13.7)、N,N−ジメチルホルムアミド(11.6)などのアミド類;2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン(11.7)などのケトアルコール類やケトン類;ジエチレングリコール(15.0)、トリエチレングリコール(13.6)、テトラエチレングリコール(12.8)、プロピレングリコール(15.1)などの(ポリ)アルキレングリコール類;1,3−ブタンジオール(14.8)、1,4−ブタンジオール(15.0)、1,5−ペンタンジオール(14.2)、1,2−ヘキサンジオール(13.4)、1,6−ヘキサンジオール(13.5)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(14.8)、1,2,6−ヘキサントリオール(16.0)、トリメチロールプロパン(15.9)などの多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル(12.0)、エチレングリコールモノエチルエーテル(11.5)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(11.2)などのグリコールエーテル類;尿素(14.4)、エチレン尿素(12.6)などの尿素誘導体;2−ピロリドン(11.2)などの含窒素化合物類などを挙げることができる。本発明においては、特定の水溶性有機溶剤として、常温(25℃)における蒸気圧が水よりも低いものを少なくとも1種用いることがより好ましい。
【0027】
上記のなかでも、特定の水溶性有機溶剤として、炭素数が3乃至8であるアルカンジオール類、エチレン尿素、2−ピロリドン、及び炭素数が2乃至8であるポリエチレングリコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましい。また、上記炭素数が3乃至8であるアルカンジオール類としては、1,2−アルカンジオール類、α,ω−アルカンジオール類(炭素主鎖の両末端にヒドロキシ基を有するアルカンジオール類)が特に好ましい。これらの特定の水溶性有機溶剤を用いることで、より優れた発色性と耐光性が両立された画像を記録可能となる。これらの特定の水溶性有機溶剤を用いることで効果が向上する理由は、分子の立体構造などの影響により、第1の顔料と第2の顔料の凝集のタイミングの差がより生じやすくなるためと考えられる。
【0028】
本発明においては、インク全質量を基準とした場合に、第1の顔料の含有量A(質量%)、第2の顔料の含有量B(質量%)、及び特定の水溶性有機溶剤の含有量S(質量%)が、1.0≦S/(A+B)≦10.0の関係を満たすことが好ましい。さらには、1.0≦S/(A+B)≦5.0の関係を満たすことがより好ましい。S/(A+B)の値が1.0未満であると、水溶性有機溶剤による第1の顔料と第2の顔料の凝集のタイミングの差が小さくなる傾向にある。このため、2層に明確に分離された部分をより多く含む顔料層が形成されづらくなり、画像の発色性及び耐光性をより向上する効果が十分に得られにくくなる場合がある。一方、S/(A+B)の値が10.0を超えると、第1の顔料が凝集しすぎる傾向にある。このため、形成される顔料層が疎になって、すなわち、顔料層中に空隙が多くなって、内部散乱光が増加しやすくなり、画像の発色性がやや低下する場合がある。さらに、顔料の光に対する露出面積が増加して、画像の耐光性がやや低下する場合がある。
【0029】
インクに含まれる水溶性有機溶剤が、そのSP値が16.0を超える水溶性有機溶剤のみである場合、この水溶性有機溶剤に対する、第1の顔料の親和性と第2の顔料の親和性がいずれも高くなる。このため、記録される画像の発色性と耐光性が不十分となる。SP値が16.0を超える水溶性有機溶剤の具体例としては、括弧内にSP値を示すと、グリセリン(20.0)、エチレングリコール(17.8)、1,3−プロパンジオール(16.1)などを挙げることができる。
【0030】
一方、インクに含まれる水溶性有機溶剤が、そのSP値が11.0未満の水溶性有機溶剤のみである場合、この水溶性有機溶剤に対する、第1の顔料の親和性と第2の顔料の親和性がいずれも低くなる。このため、記録される画像の発色性と耐光性が不十分となる。SP値が11.0未満の水溶性有機溶剤の具体例としては、括弧内にSP値を示すと、2−メチル−2−プロパノール(10.9)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(10.9)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(10.8)、N,N−ジメチルアセトアミド(10.6)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(10.6)、γ−ブチロラクトン(10.5)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(10.3)、数平均分子量1,000のポリエチレングリコール(10.1)、N−メチル−2−ピロリドン(10.1)、アセトン(9.1)、N−メチルモルホリン(9.1)、メチルエチルケトン(9.0)、テトラヒドロフラン(7.3)、ジオキサン(8.6)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(8.6)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(8.2)などを挙げることができる。
【0031】
(水性媒体)
本発明のインクは、水性媒体として少なくとも水を含有する、水性のインクである。水性媒体には水の他に上記した特定の水溶性有機溶剤が含まれる。水としては脱イオン水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、40.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましく、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、本発明のインクにはさらに、SP値が11.0未満又は16.0超の水溶性有機溶剤を、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、本発明のインクをインクジェット用として用いる場合には、インクに保湿性を持たせ、吐出特性を良好なものとするために、グリセリンなどのSP値が16.0超の水溶性有機溶剤を少なくとも含有させることが好ましい。
【0032】
インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上50.0質量%以下であることがさらに好ましい。なお、この場合の「水溶性有機溶剤の含有量」とは、SP値が11.0以上16.0以下の水溶性有機溶剤の含有量と、SP値が11.0未満又は16.0超の水溶性有機溶剤を使用する場合にはその含有量との合計を意味する。また、インク中の全ての水溶性有機溶剤の合計含有量に占める、SP値が11.0以上16.0以下の水溶性有機溶剤の含有量の割合(質量%)が、5.0質量%以上100.0質量%以下であることが好ましい。さらには、20.0質量%以上90.0質量%以下であることがより好ましく、40.0質量%以上80.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0033】
(その他の成分)
本発明のインクは、必要に応じて種々の添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤などを挙げることができる。なお、一般的に、これらの添加剤はインク中の含有量もかなり少なく、顔料の凝集タイミングに直接的に与える影響も小さい。このため、本発明においては、これらの添加剤は「水溶性有機溶剤」には含めないものとし、SP値を算出する対象とはしない。
【0034】
本発明のインクには、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルをさらに含有させることが好ましい。なお、本明細書における「界面活性剤」とは、2つの非混和性層間の界面張力を界面での分子整列によって減少させるとともに、ミセルを形成しうる性質を有し、かつ、親水性基と疎水性基とが局在化した状態で分子構造中に有する化合物を意味する。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、記録媒体へのインクの浸透速度を若干低下させる作用を有する。このため、ポリオキシエチレンアルキルエーテルをインクに含有させると、記録媒体にインクが付与された後に、特定の水溶性有機溶剤の作用により第1の顔料が弱く凝集するのに十分な時間が確保される。その結果、より優れた耐光性と発色性を有する画像を記録することができる。
【0035】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、一般式:R−O−(CH2CH2O)mHで表される構造を有する。一般式中のRは炭化水素基であり、mは整数である。本発明のインクに含有させるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、その疎水性基である一般式中のR(炭化水素基)の炭素数が12乃至22であることが好ましい。より具体的には、一般式中のRは、ラウリル基(12)、セチル基(16)、ステアリル基(18)、オレイル基(18)、ベヘニル基(22)などであることが好ましい(括弧内の数値は炭化水素基の炭素数である)。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの親水性基であるエチレンオキサイド基の数を表す一般式中のmは10以上50以下であることが好ましい。
【0036】
インク中のポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.05質量%未満であると、その量が少なすぎるので、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを加えたことによる効果が十分に発揮されない場合がある。一方、含有量が5.0質量%を超えると、第1の顔料が凝集しすぎる傾向にあり、顔料層の内部が疎になって、画像の発色性及び耐光性がやや低下する場合がある。
【0037】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、インク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明のインクである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、液体のインクを収容するインク収容室、及び負圧によりその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。又は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容量の全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0038】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明のインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。記録媒体としては、普通紙や、コート層を有する記録媒体(光沢紙やアート紙)などの、浸透性を有する紙などを用いることが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、成分の使用量の記載についての「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0040】
<顔料分散液の調製>
表1の上段に示す各成分(単位:部)を混合し、バッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)を用いて3時間分散させた後、遠心分離処理によって粗大粒子を除去した。なお、「樹脂水溶液」としては、酸価210mgKOH/g、重量平均分子量8,000のスチレン−アクリル酸共重合体(樹脂分散剤)を、10%水酸化ナトリウム水溶液で中和することにより得られた、樹脂(固形分)の含有量が20.0%の水溶液を用いた。得られた顔料分散液中の顔料及び樹脂の含有量を表1の下段に示す。
【0041】

【0042】
<インクの調製(実施例1〜30、比較例1〜22)>
表2−1〜2−5の上段に示す各成分(単位:%)を混合して十分撹拌した後、ポアサイズ0.8μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過してインク(実施例1〜30、比較例1〜22)を調製した。なお、表2−1〜2−5中、水溶性有機溶剤に付した括弧内の数値はFedors法により求められるSP値[単位:(cal/cm31/2]である。また、表2−1〜2−5の下段には、第1の顔料の含有量A(%)及び第2の顔料の含有量B(%)から算出した「A/(A+B)の値」を示した。さらに、第1の顔料の含有量A(%)、第2の顔料の含有量B(%)、及び特定の水溶性有機溶剤の含有量S(%)から算出した「S/(A+B)の値」を示した。また、表2−1〜2−5中の商品名の詳細を以下に示す。
・「ソルスパース32000」(ルブリゾール製):樹脂分散剤
・「パラロイドB60」(ローム&ハース製):アクリル系バインダ樹脂
・「NIKKOL BC−20」(日光ケミカルズ製):ポリオキシエチレンセチルエーテル(界面活性剤、炭化水素基の炭素数:16、エチレンオキサイド基の付加モル数:20)
・「NIKKOL BO−50」(日光ケミカルズ製):ポリオキシエチレンオレイルエーテル(界面活性剤、炭化水素基の炭素数:18、エチレンオキサイド基の付加モル数:50)
・「アセチレノールE100」(川研ファインケミカル製):アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(界面活性剤)
【0043】

【0044】

【0045】

【0046】

【0047】

【0048】
<評価>
上記で得られた各インクを充填したインクカートリッジを、インクジェット記録装置(商品名「PX−5600」、セイコー・エプソン製)にセットした。そして、光沢紙(商品名「キヤノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]PT−101」、キヤノン製)に、光学濃度が0.8及び1.0となる2種のイエローのベタ画像を含むパターンを記録した。得られた記録物を24時間自然乾燥した後、以下の各評価を行った。なお、画像の測色には、CIEL***を利用する分光光度計(商品名「Spectrolino」、Gretag Macbeth製)を用いた。以下に示す評価基準において、「A」及び「B」を許容できるレベル、「C」及び「D」を許容できないレベルとした。評価結果を表3に示す。なお、比較例22のインクについては、水溶性有機溶剤の蒸発速度が遅く、均一なベタ画像を得ることができなかった。このため、以下に示す発色性及び耐光性を評価することができなかった。
【0049】
(発色性)
記録物における光学濃度が0.8のベタ画像についてL*、a*、b*の値を測定し、C*={(L*2+(a*2+(b*21/2の式に基づき、彩度C*を求め、発色性を評価した。評価結果を表3に示す。なお、評価基準は以下のとおりである。
A:彩度が105以上であった。
B:彩度が100以上105未満であった。
C:彩度が95以上100未満であった。
D:彩度が95未満であった。
【0050】
(耐光性)
得られた記録物をキセノンウェザーメーター(商品名「XL75」、スガ試験機製)に入れ、キセノン光を、照射強度70,000lux、槽内温度25℃、相対湿度50%の条件で700時間照射した。照射前後の記録物における光学濃度が1.0のベタ画像について光学濃度を測定し、光学濃度の残存率(%)=(照射後の光学濃度/照射前の光学濃度)×100の値を求め、耐光性を評価した。評価結果を表3に示す。なお、評価基準は以下のとおりである。
A:光学濃度の残存率が80%以上であった。
B:光学濃度の残存率が75%以上80%未満であった。
C:光学濃度の残存率が70%以上75%未満であった。
D:光学濃度の残存率が70%未満であった。
【0051】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の顔料及び第2の顔料を含有する水性インクであって、
前記第1の顔料が、C.I.ピグメントイエロー213であり、
前記第2の顔料が、C.I.ピグメントイエロー93、128、138、151、155、180、及び215からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
インク全質量を基準とした、前記第1の顔料の含有量A(質量%)及び前記第2の顔料の含有量B(質量%)が、0.1≦A/(A+B)≦0.9の関係を満たし、
さらに、Fedors法により求められるSP値[単位:(cal/cm31/2]が11.0以上16.0以下である水溶性有機溶剤を含有することを特徴とする水性インク。
【請求項2】
前記SP値が11.0以上16.0以下である水溶性有機溶剤が、炭素数が3乃至8であるアルカンジオール、エチレン尿素、2−ピロリドン、及び炭素数が2乃至8であるポリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の水性インク。
【請求項3】
インク全質量を基準とした、前記第1の顔料の含有量A(質量%)及び前記第2の顔料の含有量B(質量%)が、0.2≦A/(A+B)≦0.7の関係を満たす請求項1又は2に記載の水性インク。
【請求項4】
インク全質量を基準とした、前記第1の顔料の含有量A(質量%)、前記第2の顔料の含有量B(質量%)、及び前記SP値が11.0以上16.0以下である水溶性有機溶剤の含有量S(質量%)が、1.0≦S/(A+B)≦10.0の関係を満たす請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項5】
界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルをさらに含有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項6】
前記界面活性剤の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.05質量%以上5.0質量%以下である請求項5に記載の水性インク。
【請求項7】
インクジェット用である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項8】
インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項9】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2013−67780(P2013−67780A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−170402(P2012−170402)
【出願日】平成24年7月31日(2012.7.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】