説明

水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物、およびそれを用いたインクジェットインキ

【課題】耐摩擦性、定着性、保存安定性に優れ、連続印刷時の印字物間の擦れや、水またはアルコール系溶剤、ガソリン系溶剤との接触にも耐え、さらには吐出性を向上させる水性インクジェットインキを得ることが可能な水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物の提供。
【解決手段】アミド基含有エチレン性不飽和単量体、水酸基含有エチレン性不飽和単量体、およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体、ならびに、炭素数8〜18のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体、芳香環含有エチレン性不飽和単量体、脂環式エチレン性不飽和単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の20℃における水への溶解度が2.0×10-3g/cm3以下の単量体、を含むエチレン性不飽和単量体を乳化重合してなる官能基含有樹脂微粒子を含む水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインキに好適に使用することができる水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、耐摩擦性、耐水性、耐溶剤性、光沢・明度、保存安定性、吐出性に優れた水性インクジェットインキ用バインダー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、近年高解像度化、高性能化が進み、優れた耐水性、耐候性の期待が高まっている。さらに近年では商業印刷分野での需要も高まり、顧客の要求に応じて小ロットで多様な印刷方式に対応し得るインクジェットインキ、特に上質紙からアート紙、コート紙、さらにはPP、PET、塩ビといったフィルムなど、様々な基材に印字可能なインキが求められている。さらには商業印刷にはますますの高速印刷化が求められ、これらの要求を満たすインクジェットインキが求められている。
【0003】
水性インクジェットインキは、一般的に顔料、顔料分散樹脂、水、保湿剤成分、およびバインダーにより構成される。このうちバインダーは、塗膜の耐性を向上させる目的で使用される。バインダーとして、ノズル詰まりをせずに安定な吐出を与え、かつ耐水性やインキの安定性を確保する目的で、樹脂エマルジョンを用いる試みは、従来多く行われていた。例えば、特許文献1では、バインダーとして樹脂エマルジョン等を用い、インキの最低造膜温度(MFT)を40℃以上にすることで、インキの保存安定性や目詰まりを低減させている。しかし、単にインキの最低造膜温度(MFT)を規定するだけの方法では、耐水性や耐溶剤性、さらには塗膜の耐摩擦性といったインキ物性を向上させるには至っていない。さらにインキ造膜温度(MFT)が高温であるため、使用可能な印刷システムにも制限がかかり汎用性に乏しい。
【0004】
また、特許文献2では、樹脂エマルジョンのガラス転移温度(Tg)が35℃以上かつ最低造膜温度(MFT)が20℃以下であることを特徴とし、さらに特許文献3では、樹脂エマルジョンのガラス転移温度(Tg)が40〜80℃であることを特徴している。これらも単に樹脂の軟化/造膜温度を規定しているだけであり、耐水性や耐溶剤性、さらには耐摩擦性といった耐性を十分に満足するものではない。
【0005】
また、特許文献4、5では、樹脂成分にアルコキシシリル基を含有するアクリルシリコン系樹脂をバインダーとして用いることを特徴としている。自己架橋性を持つアルコキシシリル基を有する樹脂成分をバインダーとして使用することで、塗膜を強固にし、耐摩擦性やブロッキング性の改善を図っている。しかしこの樹脂を使用した場合、最終的に自己架橋に使われなかったアルコキシシリル基が耐水性や耐摩擦性の悪化の原因ともなり、近年、高定着性が求められるアート紙やコート紙などの非浸透系基材上での耐性が十分ではない。
【0006】
さらに特許文献6では、特殊な長鎖アルキルオリゴマーを有するアクリルエマルジョンをバインダーとして用いることで、金属密着性を向上させたインクジェットインキが開示されている。しかし添加の効果に関する検討が十分ではなく、またアート紙やコート紙、フィルム等の疎水性基材に対する密着性は得られない。
【0007】
さらにこれまでは、顔料または染料を含浸させた樹脂エマルジョンの検討も行われ、特許文献7では染料で染色された樹脂エマルジョン、特許文献8には顔料を含有させたビニルポリマー粒子が用いられている。しかし、これらも顔料および樹脂の分散安定性や発色性のバランスを満足させるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2867491号公報
【特許文献2】特許第4079339号公報
【特許文献3】特許第3937170号公報
【特許文献4】特許第3011087号公報
【特許文献5】特許第3982003号公報
【特許文献6】特許第4033442号公報
【特許文献7】特開平3−250069号公報
【特許文献8】特許第3534395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐摩擦性、定着性、保存安定性に優れ、連続印刷時の印字物間の擦れや、水またはアルコール系溶剤、ガソリン系溶剤との接触にも耐え、さらには吐出性を向上させる水性インクジェットインキを得ることが可能な水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の発明は、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(a)、水酸基含有エチレン性不飽和単量体(b)、およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性1官能エチレン性不飽和単量体(A)0.1〜15重量%、
ならびに、炭素数8〜18のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(d)、芳香環含有エチレン性不飽和単量体(e)、脂環式エチレン性不飽和単量体(f)からなる群より選ばれる少なくとも1種の20℃における水への溶解度が2.0×10-3g/cm3以下の疎水性1官能エチレン性不飽和単量体(B)30〜95重量%、を含むエチレン性不飽和単量体(C)を乳化重合してなる官能基含有樹脂微粒子を含む水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に関する。
【0011】
また、第2の発明は、疎水性1官能エチレン性不飽和単量体(B)が、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、およびスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種である第1の発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に関する。
【0012】
また、第3の発明は、エチレン性不飽和単量体(C)が、2個以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(g)を0.1〜10重量%含む第1または第2の発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に関する。
【0013】
また、第4の発明は、エチレン性単量体(C)が、カルボニル基含有1官能エチレン性不飽和単量体(h)を0.5〜10重量%含むことを特徴とし、かつ、
バインダー樹脂組成物が、カルボニル基と反応しうる官能基を有する化合物(i)を含む第1〜3いずれかの発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に関する。
【0014】
また、第5の発明は、固形分のガラス転移温度が、10〜100℃である第1〜4いずれかの発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に関する。
【0015】
また、第6の発明は、第1〜5いずれかの発明の水性インキジェットインキ用バインダー樹脂組成物を含むインキジェットインキに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、耐摩擦性、定着性、保存安定性に優れ、さらには、連続印刷時の印字物間の擦れや、水またはアルコール系溶剤、ガソリン系溶剤との接触にも耐え、さらには吐出性を向上させる水性インクジェットインキを得ることが可能な水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物を提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物は、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(a)、水酸基含有エチレン性不飽和単量体(b)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性1官能エチレン性不飽和単量体(A)[以下、エチレン性不飽和単量体(A)と表記する場合がある。]0.1〜15重量%、ならびに、炭素数8〜18のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(d)、芳香環含有エチレン性不飽和単量体(e)、脂環式エチレン性不飽和単量体(f)からなる群より選ばれる少なくとも1種の20℃における水への溶解度が2.0×10-3g/cm3以下の疎水性1官能エチレン性不飽和単量体(B)[以下、エチレン性不飽和単量体(B)と表記する場合がある。]30〜95重量%、を含むエチレン性不飽和単量体(C)を乳化重合してなる官能基含有樹脂微粒子を含むことを特徴とする。
なお、前記「1官能」とは、1つのエチレン性不飽和結合を有する、ということを意味する。従って、「2官能」であれば、エチレン性不飽和結合を2つ有しており、「3官能以上」であれば、エチレン性不飽和結合を3つ以上有することを意味する。
【0018】
上記官能基含有樹脂微粒子は、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(a)、水酸基含有エチレン性不飽和単量体(b)、およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体由来のアミド基、水酸基、およびカルボキシル基のいずれか1種以上の官能基を有している。官能基含有樹脂微粒子が、前記官能基を有することで樹脂微粒子に親水性成分が導入され、樹脂微粒子の合成時または保存時の安定性を確保し、また水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物を塗膜化する際の成膜性を良好にする。ただし、前記官能基が多すぎると、塗膜の耐水性や耐アルコール性、または耐摩擦性を低下させる原因となる。そのため、重合に供する単量体、すなわちエチレン性不飽和単量体(C)の合計100重量%中、エチレン性不飽和単量体(A)の割合は0.1〜15重量%である必要がある。
【0019】
また、上記官能基含有樹脂微粒子を作製する際に使用するエチレン性不飽和単量体(C)には、炭素数8〜18のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(d)、芳香環含有エチレン性不飽和単量体(e)、脂環式エチレン性不飽和単量体(f)からなる群より選ばれる少なくとも1種の20℃における水への溶解度が2.0×10-3g/cm3以下の疎水性1官能エチレン性不飽和単量体(B)を30〜95重量%含有される。インキ印字物の耐性を担うバインダー樹脂組成物に疎水性の高い構造が十分に含まれていることで、耐メタノール性、耐エタノール性などの耐アルコール性、および耐ガソリン性を向上させることができる。またエチレン性不飽和単量体(B)は乳化重合時の重合安定性を向上させる効果がある。エチレン性不飽和単量体(B)は重合時の粒子核を安定化させ、また重合の副生成物である溶融樹脂成分を低減させる効果がある。そのため、インキ印字物の耐摩擦性や吐出性を良好にする効果がある。さらにエチレン性不飽和単量体(B)は、重合安定性が良好であること、それを用いて得られるポリマーの疎水性が高いという理由により、インキ組成物に含まれる保湿剤に対する安定性も高い。このため、メチルトリグリコール(MTG)、ブチルジグリコール(BDG)などのグリコールエーテル系などの保湿剤を多く含むインキ組成物を調製した場合、保存安定性や吐出性に良好な効果を与える。
【0020】
特に、芳香環含有エチレン性不飽和単量体(e)、脂環式エチレン性不飽和単量体(f)は乳化重合時の重合安定性に対する効果が大きいためより好ましい。さらに、芳香環含有エチレン性不飽和単量体(e)と脂環式エチレン性不飽和単量体(f)とを組み合わせて使用すると耐アルコール性と耐ガソリン性を両立することができるためより好ましい。更には保湿剤を多く含むインキ組成物における保存安定性、吐出性にもより好ましい効果を与える。
【0021】
なお、エチレン性不飽和単量体(B)の水への溶解度は、2.0×10-3g/cm3以下である必要がある。好ましくは1.5×10-3g/cm3以下であり、より好ましくは0.5×10-3g/cm3以下、特に好ましくは0.1×10-3g/cm3以下である。水への溶解度が、2.0×10-3g/cm3以下であることで乳化重合時の粒子安定性や、インキ印字物の耐溶剤性、耐摩擦性を向上させる効果が得られる。
【0022】
本発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物に含まれる官能基含有樹脂微粒子は、エチレン性不飽和単量体(A)および(B)を含有するエチレン性不飽和単量体(C)を水中にて界面活性剤の存在下、ラジカル重合開始剤によって乳化重合して得られる樹脂微粒子である。
【0023】
本発明はエチレン性不飽和単量体(A)を共重合することにより、官能基含有樹脂微粒子の粒子内や表面に親水性の官能基を残存させることができ、これにより樹脂微粒子の合成時または保存時の安定性を確保することができ、さらに吐出性に優れるインクジェットインキを得ることができる。また、官能基含有樹脂微粒子を含む水性インクジェットインキ用バインダー組成物を塗膜化する際の成膜性を向上させることができる。アミド基、水酸基、またはカルボキシル基は粒子合成後でも、架橋等に使われずに粒子内部や表面に残存しやすく、少量でも粒子安定性や塗膜の成膜性への効果が大きい。また、その一部が架橋反応に使用されても良く、これらの官能基の架橋度合いを調整することで、引張破断強度、引張破断伸び率、およびガラス転移温度を最適化できるとともに、粒子安定性や塗膜成膜性とインキ耐性とのバランスをとることができる。
【0024】
エチレン性不飽和単量体(A)としては、例えば以下の単量体を挙げることができる。
【0025】
アミド基含有エチレン性不飽和単量体(a)としては、例えば、(メタ)アクリルアミドなどの第一アミド基含有エチレン性不飽和単量体;
N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジ(メチロール)アクリルアミド、N−メチロール−N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアルキロール(メタ)アクリルアミド類;
N−メトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ペントキシメチル−(メタ)アクリルアミドなどのモノアルコキシ(メタ)アクリルアミド類;
N,N−ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N−メトキシメチル−N−(ペントキシメチル)メタアクリルアミドなどのジアルコキシ(メタ)アクリルアミド類;
N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリルアミドなどのジアルキルアミノ(メタ)アクリルアミド類;
N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドなどのジアルキル(メタ)アクリルアミド類;
などが挙げられる。
なお、後記する単量体の「ダイアセトン(メタ)アクリルアミド」は、アミド基を有してはいるが、本願においては「単量体(h)」として取り扱うこととする。
【0026】
水酸基含有エチレン性不飽和単量体(b)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシビニルベンゼン、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、アリルアルコールなどが挙げられる。
【0027】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、または、これらのアルキルもしくはアルケニルモノエステル、フタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、イソフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、テレフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、コハク酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸などが挙げられる。
【0028】
本発明では、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(a)、水酸基含有エチレン性不飽和単量体(b)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性1官能エチレン性不飽和単量体(A)が、乳化重合に使用するエチレン性不飽和単量体(C)全体の合計100重量%中に0.1〜15重量%使用することを特徴とする。好ましくは0.5〜8重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。エチレン性不飽和単量体(A)が0.1重量%未満であると、重合後の粒子内部や表面に残存している官能基の量が少なくなり、合成時または保存時の粒子安定性、および該樹脂微粒子を含むバインダー樹脂組成物の成膜性が悪くなる。また、15重量%を超えると、バインダー樹脂組成物の耐摩擦性や耐アルコール性が低下する。また、これらの官能基を後述する架橋剤と反応させることにより、本発明のバインダー樹脂組成物から形成される皮膜の引張破断強度、引張破断伸び率、およびガラス転移温度を調整することができる。
【0029】
また、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(a)のうち、アルキロール(メタ)アクリルアミド類は、自己架橋型反応性官能基であり、乳化重合中における樹脂微粒子の内部架橋を形成させる効果があるため好ましい。さらに、アルキロール(メタ)アクリルアミド類を使用することにより、本発明のバインダー樹脂組成物から形成される皮膜の引張破断強度、引張破断伸び率、およびガラス転移温度を調整することができる。
【0030】
エチレン性不飽和単量体(B)としては、例えば以下の単量体を挙げることができる。
【0031】
水への溶解度が2.0×10-3g/cm3以下である、炭素数8〜18のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(d)としては、例えば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート[0.1×10-3g/cm3以下]、オクチル(メタ)アクリレート[0.1×10-3g/cm3以下]、ノニル(メタ)アクリレート[0.1×10-3g/cm3以下]、デシル(メタ)アクリレート[0.1×10-3g/cm3以下]、ウンデシル(メタ)アクリレート[0.1×10-3g/cm3以下]、ドデシル(メタ)アクリレート[別名:ラウリル(メタ)アクリレート、0.1×10-3g/cm3以下]、トリデシル(メタ)アクリレート[0.1×10-3g/cm3以下]、テトラデシル(メタ)アクリレート[別名:ミリスチル(メタ)アクリレート、0.1×10-3g/cm3以下]、ペンタデシル(メタ)アクリレート[0.1×10-3g/cm3以下]、ヘキサデシル(メタ)アクリレート[別名:セチル(メタ)アクリレート、0.1×10-3g/cm3以下]、ヘプタデシル(メタ)アクリレート[0.1×10-3g/cm3以下]、オクタデシル(メタ)アクリレート[別名:ステアリル(メタ)アクリレート、0.1×10-3g/cm3以下]などが挙げられる。
【0032】
炭素数8〜18のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(d)は、インキ印字物の耐性を向上させるために水への溶解度が2.0×10-3g/cm3以下であることと、アルキル基の炭素数8〜18である必要がある。アルキル基の炭素数が8以上であることによって、バインダー樹脂としての効果(耐溶剤性、耐摩擦性)が期待できる。また、アルキル基の炭素数が18を超えると乳化重合時の反応性が悪くなり、合成時の凝集を起こしたり、また合成できたとしても残存モノマーの影響でインキ耐性が悪化したりする。
【0033】
水への溶解度が2.0×10-3g/cm3以下である、芳香環含有エチレン性不飽和単量体(e)としては、例えばベンジルメタクリレート[1.4×10-3g/cm3]、ベンジルアクリレート[0.4×10-3g/cm3]、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート[0.5×10-3g/cm3]、スチレン[0.1×10-3g/cm3以下]、α−メチルスチレン[0.1×10-3g/cm3以下]などが挙げられる。
【0034】
水への溶解度が2.0×10-3g/cm3以下である、脂環式エチレン性不飽和単量体(f)としては、例えばシクロヘキシルメタクリレート[0.1×10-3g/cm3以下]、シクロヘキシルアクリレート[0.3×10-3g/cm3]、イソボニルメタクリレート[0.1×10-3g/cm3以下]、イソボルニルアクリレート[0.1×10-3g/cm3以下]などが挙げられる。
【0035】
上記したエチレン性不飽和単量体(B)の中でも2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、およびスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体は、耐アルコール性と耐ガソリン性の向上を両立できるともに、乳化重合時の安定性、インキの保存安定性をより良くし、さらにバインダー樹脂組成物の成膜性がより良好になるため好ましく使用される。
【0036】
本発明では、炭素数8〜18のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(d)、芳香環含有エチレン性不飽和単量体(e)、脂環式エチレン性不飽和単量体(f)からなる群より選ばれる少なくとも1種の20℃における水への溶解度が2.0×10-3g/cm3以下の疎水性1官能エチレン性不飽和単量体(B)が、乳化重合に使用するエチレン性不飽和単量体(C)全体の合計100重量%中に30〜95重量%使用することを特徴とする。好ましくは35〜92重量%使用すると良い。エチレン性不飽和単量体(B)が30重量%未満であると、インキ印字物の耐メタノール性、耐エタノール性などの耐アルコール性が著しく悪化する。また、耐アルコール性と耐ガソリン性の向上を両立させることも難しくなる。また、エチレン性不飽和単量体(B)が95重量%を超えると、乳化重合時の粒子安定性や、バインダー樹脂組成物の成膜性が悪くなる。
【0037】
また、官能基含有樹脂微粒子は、2個以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(g)[以下、エチレン性不飽和単量体(g)と表記する場合がある。]を共重合することが好ましい。エチレン性不飽和単量体(g)を共重合することにより、微粒子内に架橋構造を導入することができ、より強固なバインダー塗膜を得ることができる。これによって、特にバインダー樹脂組成物より得られる塗膜の強度が増し、耐摩擦性が向上する。さらに、エチレン性不飽和単量体(g)を使用することにより、本発明のバインダー樹脂組成物から形成される皮膜の引張破断強度、引張破断伸び率、およびガラス転移温度を調整することができる。
【0038】
2個以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(g)としては、例えば、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸1−メチルアリル、(メタ)アクリル酸2−メチルアリル、(メタ)アクリル酸1−ブテニル、(メタ)アクリル酸2−ブテニル、(メタ)アクリル酸3−ブテニル、(メタ)アクリル酸1,3−メチル−3−ブテニル、(メタ)アクリル酸2−クロルアリル、(メタ)アクリル酸3−クロルアリル、(メタ)アクリル酸o−アリルフェニル、(メタ)アクリル酸2−(アリルオキシ)エチル、(メタ)アクリル酸アリルラクチル、(メタ)アクリル酸シトロネリル、(メタ)アクリル酸ゲラニル、(メタ)アクリル酸ロジニル、(メタ)アクリル酸シンナミル、ジアリルマレエート、ジアリルイタコン酸、(メタ)アクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、オレイン酸ビニル,リノレン酸ビニル、(メタ)アクリル酸2−(2’−ビニロキシエトキシ)エチルなどのエチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル類;
ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ジアクリル酸1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、トリアクリル酸1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリル酸などの多官能(メタ)アクリル酸エステル類;
ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニルなどのジビニル類;
イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリルなどのジアリル類などが挙げられる。
【0039】
エチレン性不飽和単量体(g)に含まれる2個以上のエチレン性不飽和基は、主に重合中にそれぞれが重合して樹脂微粒子に架橋構造を導入できるが、その一部が重合後にも粒子内部や表面に残存していても良い。残存したエチレン性不飽和基は、バインダー樹脂組成物の粒子間架橋に寄与することで、得られる塗膜の耐摩擦性を向上させる。
【0040】
本発明では、エチレン性不飽和単量体(g)を乳化重合に使用するエチレン性不飽和単量体(C)全体の合計100重量%中に0.1〜10重量%使用することが好ましい。より好ましくは0.5〜8重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。エチレン性不飽和単量体(g)が、0.1重量%未満であると樹脂微粒子の架橋が十分でなくなり、バインダー樹脂組成物より得られる塗膜の耐摩擦性に寄与しない場合がある。また、10重量%を超えると、乳化重合する際の重合安定性に問題を生じるか、重合できたとしても保存安定性に問題を生じる場合がある。
【0041】
さらにエチレン性不飽和単量体(C)は、カルボニル基含有1官能エチレン不飽和単量体(h)を含んでいることが好ましい。この場合、得られた樹脂微粒子水分散体に、カルボニル基と反応しうる官能基を有する化合物(i)[以下、化合物(i)と表記する場合がある。]を架橋剤として添加し、バインダー樹脂組成物として使用して、乾燥する際に架橋構造を導入することで、塗膜の耐摩擦性を向上させることができる。また、エチレン性不飽和単量体(h)を共重合した樹脂微粒子と化合物(i)とを使用することにより、本発明のバインダー樹脂組成物から形成される皮膜の引張破断強度、引張破断伸び率、およびガラス転移温度を調整することができる。
【0042】
カルボニル基含有1官能エチレン性不飽和単量体(h)としては、例えば、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アクロレイン、N−ビニルホルムアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。特にダイアセトン(メタ)アクリルアミドは、前述したアミド基含有エチレン性不飽和単量体(a)と同様の機能を有しているためより好ましい。
【0043】
カルボニル基含有1官能エチレン性不飽和単量体(h)は、乳化重合に使用するエチレン性不飽和単量体(C)全体の合計100重量%中に0.5〜10重量%使用することが好ましい。より好ましくは1〜8重量%、さらに好ましくは1〜6重量%である。エチレン性不飽和単量体(h)が0.5重量%未満であると、樹脂微粒子の架橋が十分でなくなり、塗膜の耐摩擦性に寄与しない場合がある。また、10重量%を超えると、カルボニル基と反応しうる官能基を有する化合物(i)を添加した後の安定性が悪くなる場合がある。
【0044】
架橋剤として使用するカルボニル基と反応しうる官能基を有する化合物(i)としては、1分子中に少なくとも2つのヒドラジド基を有するヒドラジン誘導体が挙げられ、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどの脂肪族ジヒドラジドの他、炭酸ポリヒドラジド、脂肪族、脂環族、芳香族ビスセミカルバジド、芳香族ジカルボン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸のポリヒドラジド、芳香族炭化水素のジヒドラジド、ヒドラジン−ピリジン誘導体およびマレイン酸ジヒドラジドなどの不飽和ジカルボン酸のジヒドラジドなどが挙げられる。これらの化合物は、エチレン性不飽和単量体(C)の合計100重量部あたり0.1〜10重量部添加するのが好ましく、1〜5重量部添加するのがさらに好ましい。
【0045】
樹脂微粒子を構成するエチレン性不飽和単量体(C)として、その他のエチレン性不飽和単量体を例示する。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;
ターシャリーブチル(メタ)アクリレートなどのターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体;
(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有エチレン性不飽和単量体;
グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有エチレン性不飽和単量体;
ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸などのスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体;
(2−ヒドロキシエチル)メタクリレートアッシドホスフェート、などのリン酸基含有エチレン性不飽和単量体;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン等のジアルキルアミノ基含有エチレン性不飽和化合物;
パーフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロイソノニルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロノニルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルアミル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルウンデシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;
パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロヘキシルエチレン、パーフルオロオクチルエチレン、パーフルオロデシルエチレン等のパーフルオロアルキル、アルキレン類等のパーフルオロアルキル基含有エチレン性不飽和化合物;
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリエーテル鎖を有するエチレン性不飽和化合物;
ラクトン変性(メタ)アクリレートなどのポリエステル鎖を有するエチレン性不飽和化合物;
(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、トリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、トリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、およびトリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩基含有エチレン性不飽和化合物;
酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル等の脂肪酸ビニル系化合物;
ブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系化合物;
1−ヘキセン等のα−オレフィン系化合物;
酢酸アリル、アリルベンゼン、シアン化アリル等のアリル化合物;
シアン化ビニル、ビニルメチルケトン、クロロスチレンなどのビニル化合物;
アセチレン、エチニルベンゼン、エチニルトルエン等のエチニル化合物;
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランなどのアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体が挙げられる。
【0046】
また、必要に応じて、3官能以上の単量体、すなわち、3個以上のエチレン性不飽和結合を有する単量体を用いることもできる。
【0047】
上記したその他のエチレン性不飽和単量体は、バインダー樹脂組成物から形成される皮膜の引張破断強度、引張破断伸び率、およびガラス転移温度を調整するために重要であり、さらに樹脂微粒子の重合安定性や成膜性や塗膜物性を調整するために2種以上併用して用いることができる。
【0048】
また、その他のエチレン性不飽和単量体のうち、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体は、含有するアルコキシシリル基が自己架橋型反応性官能基であり、乳化重合中に樹脂微粒子の内部架橋を形成させる効果がある。一方、アルコキシシリル基は架橋の過程でシラノール基が生成し、このシラノール基が塗膜物性(耐摩擦性、耐アルコール性)を低下させる場合がある。よって、バインダー樹脂組成物の物性バランスを調整する目的で、塗膜耐性を低下させない程度使用することが好ましい。
【0049】
また、その他のエチレン性不飽和単量体のうち、ターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体は、含有するターシャリーブチル基が熱によって脱離反応(ターシャリーブタノールが脱離)をおこしてカルボキシル基になる。このカルボキシル基はエチレン性不飽和単量体(c)に含まれるカルボキシル基と同様、粒子安定性や塗膜成膜性に寄与する。
【0050】
本発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物から形成される皮膜は、耐摩擦性、耐溶剤性を向上させるために架橋構造が導入されていることが好ましい。架橋構造の導入は、バインダー樹脂組成物を構成する官能基含有樹脂微粒子と架橋剤との反応によっても形成させることができる。即ち、本発明のバインダー樹脂組成物は、アミド基、水酸基およびカルボキシル基から選ばれる少なくとも1つの官能基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物(j)を架橋剤として使用してもよい。
【0051】
アミド基と反応しうる官能基としては、カルボニル基などが挙げられる。また、水酸基と反応しうる官能基としては、酸無水物基、イソシアネート基などが挙げられる。また、カルボキシル基と反応しうる官能基としては、アミノ基、エポキシ基、アジリジニル基、カルボジイミド基、オキサゾリン基などが挙げられる。
【0052】
本発明において使用することができる化合物(j)を以下に例示する。カルボニル基を有する化合物としては、例えば、ホルマリンやパラホルムアルデヒドといったアルデヒド化合物が挙げられる。官能基含有樹脂微粒子に含まれるアミド基はホルマリンを添加すると、反応してメチロール基を生成する。得られたメチロール基を架橋構造の形成に利用することができる。
【0053】
酸無水物基を2個以上有する化合物としては、例えば、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、新日本理化株式会社製「リカシッドTMTA−C」、「リカシッドMTA−10」、「リカシッドMTA−15」、「リカシッドTMEGシリーズ」、「リカシッドTDA」などが挙げられる。
【0054】
イソシアネート基を2個以上有する化合物としては、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0055】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、2,4,6−トリイソシアネートトルエン、1,3,5−トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0056】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(別名:HMDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0057】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、ω,ω’−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0058】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(別名:IPDI、イソホロンジイソシアネート)、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどを挙げることができる。
【0059】
また、上記ポリイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体や、イソシアヌレート環を有する3量体等も使用することができる。さらには、ポリフェニルメタンポリイソシアネート(別名:PAPI)、ナフチレンジイソシアネート、およびこれらのポリイソシアネート変性物などを使用し得る。なお、ポリイソシアネート変性物としては、カルボジイミド基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、水と反応したビュレット基、イソシアヌレート基のうちのいずれかの基、またはこれらの基の2種以上を有する変性物を使用できる。また、ポリオールとジイソシアネートとの反応物も多官能イソシアネート化合物として使用することができる。
【0060】
アミノ基を2個以上有する化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン類;
4,4’−ジアミノ‐3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ‐3,3’−ジメチルジシクロヘキシル、ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環族ジアミン類;
キシリレンジアミン、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジアミンなどの芳香脂肪族ジアミン類などが挙げられる。
【0061】
エポキシ基を2個以上有する化合物としては、例えば、ビスフェノールA−エピクロロヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0062】
アジリジニル基を2個以上有する化合物としては、例えば、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、N,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、ビスイソフタロイル−1−(2−メチルアジリジン)、トリ−1−アジリジニルホスフィンオキサイド、N,N’−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1、3、5−トリアジン、トリメチロールプロパントリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリス[3−(1−アジリジニル)ブチレート]、トリメチロールプロパントリス[3−(1−(2−メチル)アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリス[3−(1−アジリジニル)−2−メチルプロピオネート]、2,2’−ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラ[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、ジフェニルメタン−4,4−ビス−N,N’−エチレンウレア、1,6−ヘキサメチレンビス−N,N’−エチレンウレア、2,4,6−(トリエチレンイミノ)−Syn−トリアジン、ビス[1−(2−エチル)アジリジニル]ベンゼン−1,3−カルボン酸アミドなどが挙げられる。
【0063】
カルボジイミド基を2個以上有する化合物としては、日清紡績株式会社のカルボジライトシリーズが挙げられる。その中でもカルボジライトV−02、04、06、E−01、02、03Aは水性タイプもしくは水性エマルションタイプであるため、本発明の樹脂微粒子との相溶性が良く好ましい。また、カルボジライトV−05のような油性タイプであっても、例えば界面活性剤を使用して水系分散体にすることで、本発明のバインダー樹脂組成物に使用することができる。
【0064】
オキサゾリン基を2個以上有する化合物としては、例えば、2’−メチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−プロピレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−フェニレンビス−2−オキサゾリン)、2,2’−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−o−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)などを挙げることができる。
【0065】
これらの架橋剤として使用する化合物(j)は、エチレン性不飽和単量体(C)の合計100重量部あたり0.1〜50重量部添加するのが好ましく、1〜40重量部添加するのが更に好ましい。架橋剤の添加量は、バインダー樹脂組成物によって得られる塗膜の物性(耐摩擦性、耐アルコール性)への悪影響を起こさない程度に用いることができる。
【0066】
さらに、バインダー樹脂組成物中の化合物(j)は2種類以上併用することも可能である。
【0067】
これら官能基含有樹脂微粒子中のアミド基、水酸基およびカルボキシル基から選ばれる少なくとも1種の官能基と、化合物(j)中の官能基との架橋反応は、架橋を強固にし、バインダー性能を調整する目的で、印字時に必要に応じて加熱処理を行ってもよい。例えば、官能基含有樹脂微粒子中のカルボキシル基と、エポキシ基を2個以上有する化合物中のエポキシ基との反応は160℃〜250℃で加熱処理をするのが好ましい。
【0068】
さらには、これら化合物(j)以外に、塗膜をより強固にする目的、または機械強度調整の目的で、バインダー樹脂組成物に第3成分を添加することができる。バインダーの機械強度を調整するための添加剤として、例えばポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂といった樹脂をブレンドすることも可能である。これら第3成分は、上記目的を満たすものであれば、これに限らない。
【0069】
本発明の官能基含有樹脂微粒子は、従来既知の乳化重合方法により合成される。
【0070】
本発明において乳化重合の際に用いられる乳化剤としては、エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤やエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤など、従来公知のものを任意に使用することができる。
【0071】
エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤はさらに大別して、アニオン系、非イオン系のノニオン系のものが例示できる。特にエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤若しくはノニオン性反応性乳化剤を用いると、共重合体の分散粒子径が微細となるとともに粒度分布が狭くなるため、水性インクジェットインキ用バインダー樹脂として使用した際に耐摩擦性や耐アルコール性を向上することができ好ましい。このエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤もしくはノニオン性反応性乳化剤は、1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
【0072】
エチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤の一例として、以下にその具体例を例示するが、本願発明において使用可能とする乳化剤は、以下に記載するもののみを限定するものではない。前記乳化剤としては、アルキルエーテル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH−05、KH−10、KH−20、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR−10N、SR−20N、花王株式会社製ラテムルPD−104など);
スルフォコハク酸エステル系(市販品としては、例えば、花王株式会社製ラテムルS−120、S−120A、S−180P、S−180A、三洋化成株式会社製エレミノールJS−2など);
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンH−2855A、H−3855B、H−3855C、H−3856、HS−05、HS−10、HS−20、HS−30、株式会社ADEKA製アデカリアソープSDX−222、SDX−223、SDX−232、SDX−233、SDX−259、SE−10N、SE−20N、など);
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製アントックスMS−60、MS−2N、三洋化成工業株式会社製エレミノールRS−30など);
リン酸エステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製H−3330PL、株式会社ADEKA製アデカリアソープPP−70など)が挙げられる。
【0073】
本発明で用いることのできるノニオン系反応性乳化剤としては、例えばアルキルエーテル系(市販品としては、例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープER−10、ER−20、ER−30、ER−40、花王株式会社製ラテムルPD−420、PD−430、PD−450など);
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、株式会社ADEKA製アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、NE−40など);
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製RMA−564、RMA−568、RMA−1114など)が挙げられる。
【0074】
本発明の官能基含有樹脂微粒子を乳化重合により得るに際しては、前記したエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤とともに、必要に応じエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤を併用することができる。非反応性乳化剤は、非反応性アニオン系乳化剤と非反応性ノニオン系乳化剤とに大別することができる。
【0075】
非反応性ノニオン系乳化剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類;
ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;
ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類;
オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルなどを例示することができる。
【0076】
また、非反応性アニオン系乳化剤の例としては、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類;
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類;
ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類;
ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;
モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩およびその誘導体類;
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類などを例示することができる。
【0077】
本発明において用いられる乳化剤の使用量は、必ずしも限定されるものではなく、官能基含有樹脂微粒子が最終的にバインダー樹脂組成物として使用される際に求められる物性に従って適宜選択できる。例えば、エチレン性不飽和単量体(C)の合計100重量部に対して、乳化剤は通常0.1〜30重量部であることが好ましく、0.3〜20重量部であることがより好ましく、0.5〜10重量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0078】
本発明の官能基含有樹脂微粒子の乳化重合に際しては、水溶性保護コロイドを併用することもできる。水溶性保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類;
ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩などのセルロース誘導体;
グアガムなどの天然多糖類などが挙げられ、これらは、単独でも複数種併用の態様でも利用できる。水溶性保護コロイドの使用量としては、エチレン性不飽和単量体(C)の合計100重量部に対して0.1〜5重量部であり、さらに好ましくは0.5〜2重量部である。
【0079】
本発明の官能基含有樹脂微粒子の乳化重合に際して用いられる水性媒体としては、水が挙げられ、親水性の有機溶剤も本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。
【0080】
本発明の官能基含有樹脂微粒子を得るに際して用いられる重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物;
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリルなどのアゾビス化合物を挙げることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。これら重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体(C)100重量部に対して、0.1〜10.0重量部の量を用いるのが好ましい。
【0081】
本発明においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなど、従来既知のものを好適に使用することができる。また、乳化重合を行うに際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより、乳化重合速度を促進したり、低温において乳化重合を行ったりすることが容易になる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩等の還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。これら還元剤は、エチレン性不飽和単量体(C)100重量部に対して、0.05〜5.0重量部の量を用いるのが好ましい。なお、前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射等によっても重合を行うことができる。重合温度は各重合開始剤の重合開始温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常70℃程度とすればよい。重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。
【0082】
さらに必要に応じて、緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが、また、連鎖移動剤としてのオクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類が適量使用できる。
【0083】
官能基含有樹脂微粒子を得るための重合において、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体等の酸性官能基を有する単量体を使用した場合、重合前や重合後に塩基性化合物で中和することができる。中和する際、アンモニアもしくはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミンなどのアルキルアミン類;
2−ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどのアルコールアミン類;
モルホリンなどの塩基で中和することができる。ただし、乾燥性に効果が高いのは揮発性の高い塩基であり、好ましい塩基はアミノメチルプロパノール、アンモニアである。
【0084】
本発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物から形成される皮膜の25℃における引張破断強度が10〜30N/mm2、引張破断伸び率が100〜1000%であることが好ましい。さらには引張破断強度が12〜28N/mm2、引張破断伸び率150〜800%が好ましく、特に引張破断強度が12〜25N/mm2、引張破断伸び率150〜600%、であることがより好ましい。破断強度が10N/mm2未満であると、バインダー樹脂組成物より得られる塗膜の耐摩擦性が悪くなり、また、破断強度が30N/mm2を超えると塗膜がもろくなり過ぎて、耐摩擦性を低下させる場合がある。さらに破断伸び率が100%未満であっても塗膜がもろく、耐摩擦性が低下する場合がある。また、破断伸び率が1000%を超える場合も、バインダー樹脂組成物より得られる塗膜が粘着性を帯び、耐摩擦性や耐アルコール性の低下を招く場合がある。なお、本発明における塗膜の引張破断強度、および引張破断伸び率とは、テンシロンにより測定した引張破断強度、引張破断伸び率のことである。
【0085】
テンシロンによる塗膜の引張破断強度、および引張破断伸び率の測定は、以下の方法で行うことができる。バインダー樹脂組成物を乾固して、約0.5mm厚のシートを作製しておく。測定試験片は5mm×60mmに切り抜き、膜厚を正確に測定しておく。測定は、温度25℃、相対湿度50%の恒温恒湿条件下にて、引張試験機[オリエンテック(株)製 テンシロン]により、チャック間20mm、引張速度50mm/分にて行う。測定により得られる引張破断強度、引張破断伸び率から膜厚を考慮して算出した引張破断強度および引張破断伸び率を本発明の引張破断強度および引張破断伸び率とする。
【0086】
また、本発明は、官能基含有樹脂微粒子を含むバインダー樹脂組成物の固形分のガラス転移温度(以下、Tgともいう)が10〜100℃であることが好ましい。さらには15〜90℃が好ましい。Tgが10℃未満の場合、バインダー樹脂組成物より得られる塗膜が十分な強靭性を発現せず、耐摩擦性が悪化する場合がある。また、Tgが100℃を超えると、柔軟性が乏しくなり、耐摩擦性が悪化する場合がある。また、バインダー樹脂組成物に含まれる官能基含有樹脂微粒子の成膜に必要な熱エネルギーを導入しえる印字システムに著しく制限がかかる場合がある。なお、ガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量計)を用いて求めた値である。
【0087】
DSC(示差走査熱量計)によるガラス転移温度の測定は以下のようにして行うことができる。バインダー樹脂組成物を乾固したサンプル約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、該試験容器をDSC測定ホルダーにセットし、5℃/分の昇温条件にて得られるチャートの吸熱ピークを読み取る。このときのピーク温度を本発明のガラス転移温度とする。
【0088】
また、本発明においては官能基含有樹脂微粒子の粒子構造を多層構造、いわゆるコアシェル粒子にすることもできる。例えば、コア部またはシェル部に官能基を有する単量体を主に重合させた樹脂を局在化させたり、コア部とシェル部によってTgや組成に差を設けたりすることにより、硬化性、乾燥性、成膜性、機械強度を向上させることができる。
【0089】
官能基含有樹脂微粒子の平均粒子径は、バインダー樹脂組成物の成膜性や粒子の安定性の点から、10〜500nmであることが好ましく、30〜250nmであることがより好ましい。また、1μmを超えるような粗大粒子が多く含有されるようになると粒子の安定性が損なわれ、またインクジェットの吐出性が著しく悪化する。よって、1μmを超える粗大粒子は多くとも5重量%以下であることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、体積平均粒子径のことを表し、動的光散乱法により測定できる。
【0090】
動的光散乱法による平均粒子径の測定は、以下のようにして行うことができる。官能基含有樹脂微粒子分散液は固形分に応じて200〜1000倍に水希釈しておく。該希釈液約5mlを測定装置[(株)日機装製 マイクロトラック]のセルに注入し、サンプルに応じた溶剤(本発明では水)及び樹脂の屈折率条件を入力後、測定を行う。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを本発明の平均粒子径とする。
【0091】
本発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物には、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤、粘性調整剤などを必要に応じて配合できる。
【0092】
成膜助剤は、塗膜の形成を助け、塗膜が形成された後においては比較的速やかに蒸発揮散して塗膜の強度を向上させる一時的な可塑化機能を担うものであり、沸点が110〜200℃の溶媒が好適に用いられる。具体的には、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、カルビトール、ブチルカルビトール、ジブチルカルビトール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。中でも、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルは少量で高い成膜助剤効果を有するため特に好ましい。これら成膜助剤は、バインダー樹脂組成物中に0.5〜15重量%含まれることが好ましい。
【0093】
粘性調整剤は、官能基含有樹脂微粒子100重量部に対して1〜100重量部用いてもよい。粘性調整剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(およびその塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどが挙げられる。
【0094】
本発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物は、水性インクジェットインキに好適に使用することができるが、その他の印刷インキにも使用することができる。
【0095】
本発明の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物は、一般的に顔料、顔料分散樹脂、水、保湿剤成分を配合した水性インクジェットインキに好適に使用することができる。
【0096】
本発明のインクジェットインキは、上記水性インクジェット用バインダー樹脂組成物を固形分換算で1〜20重量%使用するのが好ましく、2〜15重量%使用するのがより好ましい。バインダー樹脂組成物が1重量%未満であると、被印刷体上で顔料粒子を完全に被覆することができず、耐摩擦性や耐水性が低下する場合がある。一方、バインダー樹脂組成物が20重量%を超えると、インクジェットインキ粘度が上昇し適正なインキ物性を保つことができない、吐出性能に悪影響を及ぼす等の問題が発生する場合がある。
【0097】
顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無彩色の顔料または有彩色の有機顔料が使用できる。有機顔料としては、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系有機顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系有機顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系有機顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系有機顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロンエローなどのキノフタロン系有機顔料、イソインドリンエローなどのイソインドリン系有機顔料、その他の顔料として、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。
【0098】
有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで例示すると、C.I.ピグメントエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86 93、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、177、180、192、202、206、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が挙げられる。
【0099】
カーボンブラックの具体例としては、デグサ社製「Special Black350、250、100、550、5、4、4A、6」「PrintexU、V、140U、140V、95、90、85、80、75、55、45、40、P、60、L6、L、300、30、3、35、25、A、G」、キャボット社製「REGAL400R、660R、330R、250R」「MOGUL E、L」、三菱化学社製「MA7、8、11、77、100、100R、100S、220、230」「#2700、#2650、#2600、#200、#2350、#2300、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#900、#850、#750、#650、#52、#50、#47、#45、#45L、#44、#40、#33、#332、#30、#25、#20、#10、#5、CF9、#95、#260」等が挙げられる。
【0100】
酸化チタンの具体例としては、石原産業社製「タイペークCR−50、50−2、57、80、90、93、95、953、97、60、60−2、63、67、58、58−2、85」「タイペークR−820,830、930、550、630、680、670、580、780、780−2、850、855」「タイペークA−100、220」「タイペークW−10」「タイペークPF−740、744」「TTO−55(A)、55(B)、55(C)、55(D)、55(S)、55(N)、51(A)、51(C)」「TTO−S−1、2」「TTO−M−1、2」、テイカ社製「チタニックスJR−301、403、405、600A、605、600E、603、805、806、701、800、808」「チタニックスJA−1、C、3、4、5」、デュポン社製「タイピュアR−900、902、960、706、931」などが挙げられる。イエロー、マゼンタ、シアンなどの有機顔料、またはブラックなどの無機顔料は、水性インクジェットインキ100重量%中に通常0.2〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%用いられる。また、白の酸化チタンの場合は通常5〜50重量%、好ましくは10〜45重量%の割合で配合することが好ましい。
【0101】
顔料分散樹脂としては、例えばアクリル系、スチレン−アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、フッ素系等の樹脂が挙げられる。顔料分散樹脂は、顔料10重量部に対して0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部の範囲で用いられる。顔料分散樹脂が顔料10重量部に対して0.5重量部未満であると顔料分散安定性が低下し経時での安定性に問題を生ずる場合がある。一方、顔料分散樹脂が顔料10重量部に対して20重量部を超えるとインキの粘度の著しい上昇やノズルからの吐出に悪影響を及ぼす場合がある。
【0102】
保湿剤成分としては、例えばエチレングリコール,ジエチレングリコール,プロピレングリコール,トリエチレングリコール,ポリエチレングリコール,グリセリン,テトラエチレングリコール,ジプロピレングリコール,ケトンアルコール,ジエチレングリコールモノブチルエーテル,エチレングリコールモノブチルエーテル,エチレングリコールモノエチルエーテル,1,2─ヘキサンジオール,N−メチル─2─ピロリドン,置換ピロリドン,2,4,6─ヘキサントリオール,テトラフルフリルアルコール,4─メトキシ─4メチルペンタノン、1,3−プロパンジオール、ブチルジグリコール、メチルトリグリコールなどが挙げられる。保湿剤成分は、水性インクジェットインキ100重量%中に通常10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%用いられる。保湿剤成分が10重量%未満であると、ノズルでのインキの乾燥により吐出安定性に問題を生ずる場合がある。一方、保湿剤成分が60重量%を超えると、印刷後の乾燥性を低下させる場合がある。
【0103】
本発明の水性インクジェットインキを好適に塗布し得る基材としては、例えば、上質紙等の浸透系基材、アート紙、コート紙等の非浸透系基材が挙げられる。本発明のバインダー樹脂組成物は、特に耐摩擦性、耐アルコール性、耐ガソリン性等の要求が高い非浸透系基材に対しても良好な耐性を発現する。
【0104】
本発明の水性インクジェットインキを用いたインクジェット印刷方式としてはオンデマンド型の記録ヘッドを有するインクジェット方式が挙げられる。オンデマンド型としては、例えばピエゾ方式、サーマルインクジェット方式、静電方式等が例示されるが、ピエゾ方式が最も好ましい。
【0105】
また、本発明の水性インクジェットインキは、印字物の乾燥性および耐性を補強する目的で、印字工程に必要に応じて加熱乾燥工程を導入することができる。加熱乾燥工程を導入することでバインダー樹脂組成物の成膜性も向上する場合があり、適度な加熱処理は好ましい。加熱処理工程は印刷工程(インクジェット印字速度)に影響のない程度に用いることができ、例えば、40〜100℃で1〜200秒の範囲で処理されることが一般的である。
【実施例】
【0106】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
【0107】
[実施例1]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水40部と界面活性剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)0.2部とを仕込み、別途、2−エチルヘキシルアクリレート30部、メチルメタクリレート66部、N−メチロールアクリルアミド3部、アクリル酸1部、イオン交換水53部および界面活性剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)1.8部をあらかじめ混合しておいたプレエマルジョンのうちの1%をさらに加えた。内温を60℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液10部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液20部の10%を添加し重合を開始した。反応系内を60℃で5分間保持した後、内温を60℃に保ちながらプレエマルジョンの残りと過硫酸カリウムの5%水溶液、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液の残りを1.5時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。ジエチルアミノエタノールを添加して、pHを8.5とし、さらにイオン交換水で固形分を40%に調整して樹脂微粒子水分散体を得た。なお、固形分は、150℃20分焼き付け残分により求めた。得られた樹脂微粒子水分散体をバインダー樹脂組成物とした。
【0108】
[実施例2〜8、11、12および比較例1〜5、9、10]
表1および表2に示す配合組成で、実施例1と同様の方法で合成し、樹脂微粒子水分散体を得た。得られた樹脂微粒子水分散体を実施例2〜8、11、12および比較例1〜5、9、10のバインダー樹脂組成物とした。ただし、比較例1、4は乳化重合時に樹脂が凝集し、目的の樹脂微粒子水分散体を得ることができなかった。
【0109】
[実施例9、10、13、14および比較例6〜8]
表1および表2に示す配合組成で、実施例1と同様の方法で合成し、樹脂微粒子水分散体を得た。得られた樹脂微粒子水分散体に架橋剤として化合物(i)を添加、混合することによって実施例9、10、13、14および比較例6〜8のバインダー樹脂組成物を得た。
【0110】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
ガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量計)により測定した。バインダー樹脂組成物を乾固したサンプル約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、該アルミニウムパンをDSC測定ホルダーにセットし、5℃/分の昇温条件にて得られるチャートの吸熱ピークを読み取った。このときのピーク温度をガラス転移温度とし、表1および表2に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
[実施例15〜28、および比較例11〜18]
[インクジェットインキの作製]
顔料[Lionol Blue7351 東洋インキ製造(株)社製]14部、顔料分散樹脂[BASF(株)社製 ジョンクリル61J、NV30%]20部、イオン交換水66部をペイントコンディショナーにて2時間分散し濃縮顔料分散液を得た。実施例1〜14および比較例2、3、5〜10で得られたバインダー樹脂組成物の固形分10部に対して、上記顔料濃縮液50部、保湿剤としてグリセリン20部、1,3−プロパンジオール40部を添加し、固形分11.5%になるようにイオン交換水を加えた後、混練して実施例15〜28、および比較例11〜18の水性インクジェットインキを得た。
【0114】
[インクジェットインキの評価]
【0115】
(経時安定性)
水性インクジェット用インキ組成物について、70℃、1週間の条件下で、粘度の経時変化を評価した。1週間経過後も、インキが増粘していなければ○、増粘した場合は×と評価した。
【0116】
また、上記の水性インクジェットインキをアート紙上に塗布し、さらに100℃、3分加熱することによって評価用インキ塗膜を得た。この塗膜を用いて耐摩擦性、耐水性、耐メタノール性、耐エタノール性、光沢、密着性、さらにはインキの吐出性を評価した。
【0117】
(耐摩擦性)
上記で作製したインキ塗膜上に、さらにアート紙を重ねて、加重250gにて50往復摩擦試験を行った。摩擦後のインキ塗工物について、インキの剥がれや傷の状態を目視判定で判定した。評価基準を10段階評価にて下記に示す。評価結果は表3および表4に示す。
10;剥がれ、傷が全くなし ←→ 1;完全に剥離している
【0118】
(耐水性)
上記で作製したインキ塗膜上を、イオン交換水を浸漬させた綿棒でラビングしたときのインキの剥離状態を目視判定で評価した。評価基準を下記に示す。評価結果は表3および表4に示す。
○;剥がれなし
△;一部剥離がある
×;完全に剥離している
【0119】
(耐溶剤性)
上記で作製したインキ塗膜上を、メタノール、エタノール、ガソリンをそれぞれ浸漬させた綿棒でラビングしたときのインキの剥離状態を目視判定で評価した。評価基準を下記に示す。評価結果は表3および表4に示す。
○;剥がれなし
△;一部剥離がある
×;完全に剥離している
【0120】
(光沢)
評価用印字物について、光沢計(VG2000 日本電色製)で60°光沢を測定した。60°光沢が60以上であれば○、50以上、60未満であれば△、50未満であれば×と評価した。
【0121】
(密着性)
評価用印字物の印字面にセロハンテープを貼り付けた後、低速で剥がした。剥離物がセロハンテープに付着していなければ○、剥離物が付着しているものは×と評価した。
【0122】
(吐出性)
上記で作製したインクジェットインキを、ガラスフィルター(ワットマン製、GFB型)を介したロートに15ml添加し、吸引ろ過でろ過したときのろ過速度を評価した。ろ過速度が良好なほど吐出性が良好であるが、実用レベルは15ml/minである。評価結果は表3および表4に示す。
【0123】
【表3】

【0124】
【表4】

【0125】
表3および表4に示すように、実施例1〜14で合成したバインダー樹脂組成物を含む実施例15〜28の水性インクジェットインキは、経時安定性、耐摩擦性、耐水性、耐溶剤性、光沢、密着性、吐出性が良好で、優れた耐性を有することがわかった。一方、比較例2、3、5〜10で合成したバインダー樹脂組成物を含む水性インクジェットインキは、経時安定性、耐摩擦性、耐水性、耐溶剤性、光沢、密着性、吐出性の低下がみられインキ耐性が十分でなく、物性バランスの悪いインキであった。また、比較例1および4では、樹脂微粒子合成時に凝集を生じ、評価できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミド基含有エチレン性不飽和単量体(a)、水酸基含有エチレン性不飽和単量体(b)、およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性1官能エチレン性不飽和単量体(A)0.1〜15重量%、
ならびに、炭素数8〜18のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(d)、芳香環含有エチレン性不飽和単量体(e)、脂環式エチレン性不飽和単量体(f)からなる群より選ばれる少なくとも1種の20℃における水への溶解度が2.0×10-3g/cm3以下の疎水性1官能エチレン性不飽和単量体(B)30〜95重量%、を含むエチレン性不飽和単量体(C)を乳化重合してなる官能基含有樹脂微粒子を含む水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物。
【請求項2】
疎水性1官能エチレン性不飽和単量体(B)が、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、およびスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物。
【請求項3】
エチレン性不飽和単量体(C)が、2個以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(g)を0.1〜10重量%含む請求項1または2記載の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物。
【請求項4】
エチレン性単量体(C)が、カルボニル基含有1官能エチレン性不飽和単量体(h)を0.5〜10重量%含むことを特徴とし、かつ、
バインダー樹脂組成物が、カルボニル基と反応しうる官能基を有する化合物(i)を含む請求項1〜3いずれか記載の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物。
【請求項5】
固形分のガラス転移温度が、10〜100℃である請求項1〜4いずれか記載の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載の水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物を含むインクジェットインキ。

【公開番号】特開2011−12253(P2011−12253A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126387(P2010−126387)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】