説明

水性インクジェットインク

【課題】 目詰まり耐性に優れるとともに、紙媒体に記録した際には良好な速乾性を有し、カール等の紙媒体の変形を極力低減して高い品質の画像を形成することが可能な水性インクジェットインクを提供することにある。
【解決手段】 一実施形態は,総量の35〜60質量%の水と、総量の5〜50質量%のエーテルと、総量の0.2〜2質量%の2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールと、総量の3〜10質量%の顔料とを含有する水性インクジェットインクである。前記エーテルは、重量平均子量1000以下のポリオキエチレンジグリセリルエーテルおよび重量平均分子量1000以下のポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルの少なくとも一種を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに記載する実施形態は、一般的には水性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、顔料を水性媒体に分散させたインクジェットインクが提案されている。水溶性染料を用いたインクと比較して、顔料を用いたインクは耐水性や耐光性に優れている。
【0003】
インクジェットインクは、インクジェットヘッドからの吐出に適した特性、例えば目詰まり耐性が要求される。紙媒体に記録するためのインクジェットインクは、カール等の紙媒体の変形を極力低減して高い品質の画像を形成でき、しかも速乾性に優れることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,356,464号
【特許文献2】米国特許第7,250,078号
【特許文献3】米国特許第7,377,972号
【特許文献4】特開平4−332775号公報
【特許文献5】特開平6−240189号公報
【特許文献6】特開平6−240188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、目詰まり耐性に優れるとともに、紙媒体に記録した際には良好な速乾性を有し、カール等の紙媒体の変形を極力低減して高い品質の画像を形成することが可能な水性インクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態によれば、水性インクジェットインクは、その総量の35〜60質量%の水と、その総量の5〜50質量%のエーテルと、その総量の0.2〜2質量%の2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールと、その総量の3〜10質量%の顔料とを含有する。前記エーテルは、重量平均子量1000以下のポリオキエチレンジグリセリルエーテルおよび重量平均分子量1000以下のポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルの少なくとも一種を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の一形態を適用するインクジェット記録装置である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態を具体的に説明する。
【0009】
図1に示すインクジェット記録装置においては、用紙カセット100および101は、サイズの異なる用紙Pを収容している。供紙ローラ102または103は、選択された用紙サイズに対応した用紙Pを用紙カセット100または101から取り出し、搬送ローラ対104、105およびレジストローラ対106に搬送する。
【0010】
搬送ベルト107は、駆動ローラ108と2本の従動ローラ109とによって張力が与えられている。搬送ベルト107には所定間隔で貫通孔が設けられ、搬送ベルト107の内側には用紙Pを搬送ベルト107に吸着させるため、ファン110に連結された負圧チャンバ111が設置されている。搬送ベルト107の用紙搬送方向下流には、搬送ローラ対112、113、および114が設置されている。
【0011】
搬送ベルト107の上方には、画像データに応じてインクを用紙に吐出するインクジェットヘッドが4列配列されている。上流から、シアン(C)インクを吐出するインクジェットヘッド115C、マゼンタ(M)インクを吐出するインクジェットヘッド115M、イエロー(Y)インクを吐出するインクジェットヘッド115Y、ブラック(Bk)インクを吐出するインクジェットヘッド115Bkの順である。さらに、インクジェットヘッド115C、115M、115Y、および115Bkには、対応したインクが収容されているシアン(C)インクカートリッジ116C、マゼンタ(M)インクカートリッジ116M、イエロー(Y)インクカートリッジ116Y、ブラック(Bk)インクカートリッジ116Bkが設けられている。カートリッジは、それぞれチューブ117C、117M、117Y、117Bkによって、インクジェットヘッドに連結されている。
【0012】
こうした構成のインクジェット記録装置の画像形成動作について述べる。
【0013】
まず、画像処理手段(図示しない)により記録のための画像処理が開始され、記録のための画像データが各インクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkに転送される。また、用紙カセット100または101から給紙ローラ102または103により選択された用紙サイズの用紙Pを一枚ずつ取り出し、搬送ローラ対104、105およびレジストローラ対106に搬送する。レジストローラ対106は用紙Pのスキューを補正し、所定のタイミングで搬送を行なう。
【0014】
負圧チャンバ111は搬送ベルト107の穴を介して空気を吸い込んでいるので、用紙Pは搬送ベルト107に吸着された状態でインクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkの下側を搬送される。このことで、インクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkと用紙Pとは一定の間隔を保つことができる。レジストローラ対106から用紙Pが搬送されるタイミングに同期させて、各インクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkから各色のインクを吐出させる。こうして、用紙Pの所望の位置にカラー画像が形成される。画像が形成された用紙Pは搬送ローラ対112、113および114によって排紙トレイ118に排紙される。
【0015】
各インクカートリッジには、一実施形態にかかる水性インクジェットインクが収容される。
【0016】
本実施形態にかかる水性インクジェットインクにおける分散媒は、インク総量の35〜60質量%の水、インク総量の5〜50質量%のエーテル、およびインク総量の0.2〜2質量%の2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールを含む。エーテルは、重量平均子量1000以下のポリオキエチレンジグリセリルエーテルおよび重量平均分子量1000以下のポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルから選択される。
【0017】
こうした分散媒が用いられるので、本実施形態にかかる水性インクジェットインクは、紙媒体に記録した際には、速乾性に優れ、紙媒体のカールを極力抑制して高品質の画像を形成することができる。しかも、インクジェットヘッドの目詰まりが発生するおそれも極めて少ない。
【0018】
本明細書において、紙媒体とは、一般的には、印刷されることを目的に使用される紙製の媒体をさす。印刷特性を高めるための材料が塗布されたアート紙やコート紙などの塗工用紙と、紙自体の特性を生かした非塗工用紙とに大別される。紙媒体は、本、書籍、新聞、包装、およびプリンター用紙など、種々の用途に用いられる。また、段ボール、紙製の容器、およびボール紙などの厚紙も紙媒体に含まれる。例えば、オフィスや家庭で使用する複写機、プリンターに使用されるコピー用紙のような、いわゆる普通紙は、典型的な紙媒体である。
【0019】
上述したように一実施形態においては、水とエーテルと2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールとをそれぞれ所定の量で含む分散媒中に、顔料が分散される。
【0020】
顔料は特に限定されず、無機顔料および有機顔料のいずれを用いてもよい。無機顔料としては、例えば酸化チタンおよび酸化鉄が挙げられる。さらに、コンタクト法、ファーネス法、またはサーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
【0021】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。
【0022】
ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとしては、具体的には、No.2300,No.900,MCF88,No.33,No.40,No.45,No.52,MA7,MA8,MA100,No2200B等(三菱化学製)、Raven5750,Raven5250,Raven5000,Raven3500,Raven1255,Raven700等(コロンビア社製)、Regal 400R,Regal 330R,Regal 660R,Mogul L,Monarch 700,Monarch 800,Monarch 880,Monarch900,Monarch 1000,Monarch 1100,Monarch 1300,Monarch 1400等(キャボット社製)、Color Black FW1,Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black FW18,Color Black FW200, Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex 35,Printex U,PrintexV,Printex 140U,Special Black 6,Special Black 5,Special Black 4A,およびSpecial Black 4等(デグッサ社製)などが挙げられる。
【0023】
イエローインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Yellow 1,C.I.Pigment Yellow2,C.I.Pigment Yellow 3,C.I.Pigment Yellow 12,C.I.Pigment Yellow 13,C.I.Pigment Yellow 14C,C.I.Pigment Yellow 16,C.I.Pigment Yellow 17,C.I.Pigment Yellow 73,C.I. Pigment Yellow 74,C.I.Pigment Yellow 75,C.I.Pigment Yellow 83,C.I.Pigment Yellow93,C.I.Pigment Yellow95,C.I.Pigment Yellow97,C.I.Pigment Yellow 98,C.I.PigmentYellow 109,C.I.Pigment Yellow 110,C.I.Pigment Yellow 114,C.I.Pigment Yellow 128,C.I.Pigment Yellow 129,C.I.Pigment Yellow 138,C.I.Pigment Yellow 150,C.I.Pigment Yellow 151,C.I.Pigment Yellow 154,C.I.Pigment Yellow 155,C.I.Pigment Yellow 180,およびC.I.Pigment Yellow 185等が挙げられる。
【0024】
マゼンタインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Red 5,C.I.Pigment Red7,C.I.Pigment Red 12,C.I.Pigment Red 48(Ca),C.I.Pigment Red 48(Mn),C.I.Pigment Red 57(Ca),C.I.Pigment Red 57:1,C.I.Pigment Red 112,C.I.Pigment Red 122,C.I.Pigment Red 123,C.I.Pigment Red 168,C.I.Pigment Red 184,C.I.Pigment Red 202,およびC.I.Pigment Violet19等が挙げられる。
【0025】
シアンインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Blue 1,C.I.Pigment Blue 2,C.I. Pigment Blue 3,C.I.Pigment Blue 15:3,C.I.Pigment Blue 15:4,C.I.Pigment Blue 15:34,C.I.Pigment Blue 16,C.I.Pigment Blue 22,C.I.Pigment Blue 60,C.I.Vat Blue 4,およびC.I.Vat Blue 60が挙げられる。
【0026】
インクジェットインクであるので、顔料の平均粒径は10〜300nm程度の範囲内であることが好ましい。さらに顔料の平均粒径は、10〜200nm程度の範囲内であることがより好ましい。
【0027】
顔料の平均粒径は、動的光散乱法を用いた粒度分布計を用いて測定することができる。粒度分布計としては、例えば、HPPS(マルバーン社)が挙げられる。
【0028】
顔料は、顔料分散体の状態で用いることができる。顔料分散体は、例えば、分散剤により水やアルコール中などに顔料を分散させて調製することができる。分散剤としては、例えば、界面活性剤、水溶性樹脂、および非水溶性樹脂などが挙げられる。あるいは、自己分散型顔料を用いてもよい。自己分散顔料とは、分散剤なしに水等に分散可能な顔料であり、顔料に表面処理を施して、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン基の少なくとも一種の官能基またはその塩を結合させた顔料である。表面処理としては、例えば、真空プラズマ処理、ジアゾカップリング処理、および酸化処理等が挙げられる。こうした表面処理により官能基または官能基を含んだ分子を顔料の表面にグラフトさせることによって、自己分散顔料が得られる。
【0029】
インク中における顔料の含有量は、インク総量の3〜10質量%である。この範囲内で顔料を含むインクジェットインクは、インクの保存性や吐出性能に関して不都合を伴なうことなく、必要な画像濃度を有する印刷物を形成することができる。顔料の含有量は、インク総量の5〜7質量%が好ましい。
【0030】
顔料分散体は、水、エーテル、および2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールを含む分散媒と混合され、本実施形態の水性インクジェットインクが得られる。
【0031】
インクジェット記録用であるので、本実施形態にかかるインクは、インクジェットプリンターにおけるヘッドのノズルからの吐出に適切な粘度を有することが必要である。具体的には、25℃における粘度が6〜15mPa・sであることが好ましい。10mPa・s以下であれば、吐出動作時におけるインクジェットヘッドの温度を、比較的低く(例えば20℃以下程度)設定できる。
【0032】
水の含有量は、インク総量の35〜60質量%である。水の含有量が35質量%未満の場合には、インクジェットインクとして適切な範囲の粘度を確保することができない。このため、インクジェットヘッドからの吐出性能が低下する。一方、水の含有量がインク総量の60質量%を超えると用紙のカールが増大する。水の含有量は、インク総量の40〜50質量%であることが好ましい。水としては、例えば純水を用いることができる。
【0033】
インク総量の5〜50質量%は、ポリオキエチレンジグリセリルエーテルおよびポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルの少なくとも一種のエーテルが占める。いずれのエーテルも、重量平均分子量は1000以下であり、用紙のカールを抑制する作用を有する。重量平均分子量が1000を超えると、インクジェットヘッドからの吐出安定性が低下する。インクの粘度および保存安定性等を考慮すると、エーテルの重量平均分子量は、400〜1000であることが好ましい。
【0034】
ポリオキエチレンジグリセリルエーテルの重量平均分子量は、450〜700がより好ましい。ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルの重量平均分子量は、400〜700がより好ましい。
【0035】
エーテルの量がインク総量の5質量%未満の場合には、用紙のカールを抑制する効果が不十分となる。一方、エーテルの量がインク総量の50質量%を超えると、インクの粘度が高くなってインクジェットヘッドからの吐出安定性が低下する。エーテルの量は、インク総量の30〜50質量%が好ましい。
【0036】
本実施形態の水性インクジェットインクには、インク総量の0.2〜2質量%の2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールが含有される。2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールは、水に対してほとんど溶解しない。この2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールがインクに含有されると、消泡剤兼ぬれ剤として作用する。すなわち、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールは、インクの濡れ性を良好にし、結果としてインクジェットヘッドからの吐出安定性を高める。
【0037】
この2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールの量がインク総量の0.2質量%未満の場合には、所望の効果が得られない。一方、インク総量の2質量%を超えると、未溶解物が発生する。2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールの量は、インク総量の0.2〜1質量%が好ましい。
【0038】
本実施形態の水性インクジェットインクには、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールが含有されてもよい。3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは、インクの浸透性を高めて乾燥性をさらに向上させるとともに、用紙のカールをよりいっそう低減する。3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは、インク総量の1〜25質量%の量で含有されていれば、その効果が得られる。
【0039】
さらに、適切な量のグリセリンを本実施形態の水性インクジェットインクに配合することによって、目詰まり耐性がよりいっそう高められる。グリセリンの量がインク総量の20質量%程度と過剰になると、用紙のカールを抑制することが困難になる。グリセリンの量は、インク総量の10質量%以下に留めることが望まれる。
【0040】
用紙のカールをよりいっそう低減するために、次のような化合物が本実施形態の水性インクジェットインクに含有されることが好ましい。
【化1】

【0041】
1は、−OCH(CH3)CH2−、または−OCH(CH2CH3)CH2−であり、
2は、−CH2CH(CH3)O−、または−CH2CH(CH2CH3)O−であり、
pおよびqは、0≦p+q≦16を満たす整数であり、
nは1〜16の整数であり、重量平均分子量は1000以下である。
【化2】

【0042】
1は、−OCH(CH3)CH2−、または−OCH(CH2CH3)CH2−であり、
2は、−CH2CH(CH3)O−、または−CH2CH(CH2CH3)O−であり、
rおよびsは、0≦r+s≦15を満たす整数であり、
mは1〜13の整数であり、重量平均分子量は1000以下である。
【0043】
こうした化合物は、カール低減剤と称することができ、インク総量の1〜10質量%程度の量で含有されていれば、その効果が得られる。
【0044】
本実施形態の水性インクジェットインクには、特性を損なわない範囲内で、以下の成分が含有されてもよい。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、およびペトリオール等の多価アルコール類;N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、およびε−カプロラクタム等の含窒素複素環化合物;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、およびトリエチルアミン等のアミン類;ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物類、およびプロピレンカーボネート、炭酸エチレン、γ−ブチロラクトン等である。こうした化合物は、インクの乾燥を防止する湿潤剤として作用する。2種以上が組み合わせて用いられる場合には、溶解安定性を高めることができる。
【0045】
上述したような湿潤剤とともに、尿素、チオ尿素、およびエチレン尿素などの固体湿潤剤が併用されてもよい。
【0046】
本実施形態にかかる水性インクジェットインクを得るにあたっては、例えば、水、エーテル、および2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールをそれぞれ所定の量で含有する分散媒と、顔料分散体とを混合する。分散媒には、必要に応じて添加剤を加えることができる。
【0047】
例えば、表面張力調整剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤・防かび剤等の添加剤を本実施形態の水性インクジェットインクに配合することができる。
【0048】
表面張力調整剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、およびポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩等が挙げられる。
【0049】
水溶解性の界面活性剤もまた、表面張力調整剤として作用する。ここで、水溶解性とは、1質量%以上が水に溶解することをさし、非イオン性界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤のいずれでもよい。
【0050】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびポリオキシエチレンアルキルアミド等が挙げられる。
【0051】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチンー3,6−ジオール、および3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。具体的には、サーフィノール104、82、465、485あるいはTG等(エアープロダクツ社製)である。
【0052】
フッ素系界面活性剤としては、例えばパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、およびパーフルオロアルキルスルホン酸等が挙げられる。具体的にはメガファックF−443、F−444、F−470、F−494(大日本インキ化学工業社)、ノベックFC−430、FC−4430(3M社)、サーフロンS−141、S−145、S−111N、S−113(セイミケミカル社)である。
【0053】
これらの界面活性剤は、インクの分散安定性などを劣化させない程度に添加することが望まれる。界面活性剤は、インク総量の0.2〜3質量%程度の重量で含有されていれば、何等不都合を伴なわずに効果を発揮することができる。
【0054】
粘度調整剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、水溶性アクリル樹脂、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、デキストリン、カゼイン、およびペプチン等の水溶性樹脂が挙げられる。
【0055】
こうした水溶性樹脂のうち、例えば水溶性アクリル樹脂などは、顔料分散体を調製するための分散剤として用いることができる。
【0056】
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、およびトリエタノールアミン等が挙げられる。
【0057】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、および1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などを使用することができる。
【0058】
こうした添加剤を配合することによって、印字画像品質や保存安定性がさらに高められる。
【0059】
以下に、水性インクジェットインクの具体例を示す。
【0060】
下記表1に示すエーテルを用意した。
【表1】

【0061】
一般式(PPO)で表わされる化合物として、下記表2に示す2種類を用いた。
【化3】

【0062】
【表2】

【0063】
一般式(GPO)で表わされる化合物として、下記表3に示す2種類を用いた。
【化4】

【0064】
【表3】

【0065】
これらの化合物は、カール低減剤として作用する。
【0066】
下記表4に示す処方で各成分をそれぞれ配合して、インクサンプルを調製した。表中、各成分の量は、インクジェットインク総量に対する質量%である。エーテルについては、上記表1に示した略称と質量%とを示した。カール低減剤については、上記表2または3に示した略称と質量%とを示した。
【0067】
TDDは、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールを表わし、MMBは、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを表わし、GLCはグリセリンを表わす。
【0068】
顔料分散体としては、自己分散型カーボンブラックを用いた。具体的には、CAB−O−JET300(キャボット製)である。この顔料分散体においては、カーボンブラックが水中に分散されている。カーボンブラックの平均粒径は100nm程度である。顔料分散体に含まれる水の量は、下記表4中の水の量に含まれている。
【0069】
下記表4に示されるように、いずれのサンプルにおいても、顔料の固形分がインク総量の7質量%となる量で顔料分散体を配合した。
【0070】
さらに、全てのサンプルには、総量の1質量%の界面活性剤と、総量の0.2質量%の防腐剤とを加えた。界面活性剤としては、サーフィノール465を用い、防腐剤としてはプロキセルXL−2(S)を用いた。
【0071】
インクサンプルの調製にあたっては、まず、それぞれの処方で各成分を混合し、スターラーで1時間攪拌した。その後、0.8μmのメンブレンフィルターでろ過して、サンプルを得た。
【表4】

【0072】
得られたインクサンプルについて、用紙のカール抑制能、印字品質、速乾性、および目詰まり耐性を調べた。評価方法は、それぞれ以下のとおりである。
【0073】
(カール抑制能)
東芝テックピエゾヘッドを搭載したインクジェット記録装置により、100dutyで普通紙にベタ印刷を行なった。普通紙としては、東芝コピーペーパー紙、Xerox 4024紙、リコーハイグレード普通紙(タイプE)、Tidal MP紙、NEUSIEDLER紙の5種類を用いた。印刷後の紙を平らな机の上におき、1分後に紙の四隅が机の面から持ち上がった高さを測定した。5種類の紙の平均値をカール高さとし、以下の判断基準により判断した。
【0074】
A:10mm未満
B:10mm以上20mm未満
C:20mm以上60mm未満
D:60mm以上
カール高さが10mm未満であれば、カール抑制能は良好である。
【0075】
(印刷品質)
前述と同様のインクジェット記録装置を用いて、普通紙に文字印刷を行なった。普通紙としては、前述と同様の5種類を用いた。印刷された文字を目視により評価し、にじみ、裏抜け等の印刷品質を、下記の基準にしたがって判定した。
【0076】
A:評価した全ての紙で良好な印刷品質を示す。
【0077】
B:評価した紙のうち、1種類の紙において、印刷品質の低下が認められる。
【0078】
C:評価した紙のうち、2〜3種類の紙において、印刷品質の低下が認められる。
【0079】
D:評価した全ての紙において、印刷品質の低下が認められる。
【0080】
印刷品質は、AまたはBであれば合格である。
【0081】
(速乾性)
前述と同様の前記インクジェット記録装置を用いて、東芝コピーペーパー紙に10mm×10mmの領域に100dutyでベタ印刷を行なった。印刷後、所定時間放置した後、印刷部分に新品の同紙を重ねて300gの重りを乗せた。10秒経過後、重りをはずして、新品の用紙にインクが付着しているかどうかを目視により調べた。
【0082】
ベタ印刷後の用紙を放置する時間は、5秒、10秒、30秒、および60秒の4種類とした。重ねられた用紙へのインク付着度合いを目視により確認し、下記の基準にしたがって判定した。
【0083】
A:5秒後で付着なし
B:10秒後で付着なし
C:30秒後で付着なし
D:60秒後に付着あり
速乾性は、AまたはBであれば合格である。
【0084】
(目詰まり耐性)
各インクサンプルを用いて、前述のインクジェット記録装置により所定の用紙に印刷を行なった。印刷後のインクジェット記録装置は、印刷ヘッド部をホームポジションから外した状態で、温度25℃の環境下で放置した。1週間経過後のインクジェット記録装置を用いて、印刷試験を再度行なった。インクジェットヘッドからのインクの吐出状態に基づいて、目詰まり耐性を評価した。評価基準は以下のとおりである。ここでのクリーニング動作とは、ヘッドノズルの周囲に付着したインク増粘物を除去する操作をさす。
【0085】
A:クリーニング動作なしで、吐出性が直ちに回復し安定な吐出となった。
【0086】
B:吐出性が復帰するには、ヘッド部の3回以内のクリーニング動作を要した。
【0087】
C:吐出性が復帰するには、ヘッド部の4〜10回のクリーニング動作を要した。
【0088】
D:吐出性が復帰するには、11回以上のクリーニング動作を要した。
【0089】
目詰まり耐性は、AまたはBであれば合格である。
【0090】
以上のカール抑制能、印刷品質、速乾性、および目詰まり耐性の結果を、下記表5にまとめる。下記表5には、東機産業(TOKISANGYO)VISCOMETER TV−22)を用いて25℃で測定した各インクサンプルの粘度も併せて示した。
【表5】

【0091】
上記表5に示されるように、No.1〜10のインクサンプルは、カール抑制能、印刷品質、速乾性、および目詰まり耐性の全てが合格レベルである。しかも、25℃における粘度は6〜15mPa・sの範囲内であり、インクジェットインクとして適切である。これらのサンプルには、水、エーテル、および2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールが、それぞれ所定の量で含有されている。なかでも、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールおよびグリセリンをさらに含むNo.5〜7,9のインクサンプルは全ての評価がAであり、特に優れた特性を示している。
【0092】
No.11〜13のインクサンプルは、カール抑制能および目詰まり耐性が劣っている。これらのインクサンプルは、水の含有量が50質量%を超えることが、上記表4に示されている。一方、No.14のインクサンプルは、印刷品質および速乾性が劣り、しかも25℃における粘度が28.4mPa・sと大きい。No.14のインクサンプルの性能が低いのは、上記表4に示されるように水の含有量が少ないことが原因である。
【0093】
No.15,16のインクサンプルにおいては、目詰まり耐性が著しく劣っている。これらのインクサンプルには、水、エーテル、および2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールが、それぞれ所定の量で含有されている。しかしながら、各インクサンプルに含有されるエーテルは、表4に示されるように、それぞれET5およびET6である。エーテルの重量平均分子量が1000を超えていると、目詰まり耐性が低下することが、これらの結果からわかる。
【0094】
2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールが含有されない場合には、印刷品質が劣ることがNo.17の結果に示されている。一方、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールが過剰に含有されると、目詰まり耐性が劣ることが、No.18の結果に示されている。
【0095】
No.19に示されるように、グリセリンの量が20質量%の場合には、カール抑制能が得られない。
【0096】
水と、重量平均分子量1000以下のエーテルと、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールとを所定の量で含有することによって、所望の特性を備えた水性インクジェットインクが得られた。
【0097】
本実施形態の水性インクジェットインクは、目詰まり耐性に優れるとともに、紙媒体に記録した際には良好な速乾性を有し、カール等の紙媒体の変形を極力低減して高い品質の画像を形成することが可能である。
【0098】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0099】
p…用紙; 100…用紙カセット; 101…用紙カセット; 102…給紙ローラ
103…給紙ローラ; 104…搬送ローラ対; 105…搬送ローラ対
106…レジストローラ対; 107…搬送ベルト; 108…駆動ローラ
109…従動ローラ; 110…ファン; 111…負圧チャンバ
112…搬送ローラ対; 113…搬送ローラ対; 114…搬送ローラ対
115C,115M,115Y,115Bk…インクジェットヘッド
116C,116M,116Y,116Bk…インクカートリッジ
117…チューブ; 118…排紙トレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総量の35〜60質量%の水と、
総量の5〜50質量%を占め、重量平均子量1000以下のポリオキエチレンジグリセリルエーテルおよび重量平均分子量1000以下のポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルの少なくとも一種を含むエーテルと、
総量の0.2〜2質量%の2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールと、
総量の3〜10質量%の顔料と
を含有することを特徴とする水性インクジェットインク。
【請求項2】
前記水の量は、前記水性インクジェットインク総量の40〜50質量%であることを特徴とする請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項3】
前記エーテルの量は、前記水性インクジェットインク総量の30〜50質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性インクジェットインク。
【請求項4】
前記ポリオキエチレンジグリセリルエーテルの重量平均分子量は、450以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項5】
前記ポリオキエチレンジグリセリルエーテルの重量平均分子量は、700以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項6】
前記ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルの重量平均分子量は、400以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項7】
前記ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルの重量平均分子量は、700以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項8】
前記2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールの量は、前記水性インクジェットインク総量の0.5〜1質量%であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項9】
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールをさらに含有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項10】
前記3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの量は前記水性インクジェットインク総量の1〜25質量%であることを特徴とする請求項9に記載の水性インクジェットインク。
【請求項11】
前記水性インクジェットインク総量の10質量%以下のグリセリンをさらに含有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項12】
下記一般式(PPO)で表わされる化合物をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【化1】

1は、−OCH(CH3)CH2−、または−OCH(CH2CH3)CH2−であり、
2は、−CH2CH(CH3)O−、または−CH2CH(CH2CH3)O−であり、
pおよびqは、0≦p+q≦16を満たす整数であり、
nは1〜16の整数であり、重量平均分子量は1000以下である。
【請求項13】
前記一般式(PPO)で表わされる化合物の量は、前記水性インクジェットインク総量の1〜10質量%であることを特徴とする請求項12に記載の水性インクジェットインク。
【請求項14】
下記一般式(GPO)で表わされる化合物をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【化2】

1は、−OCH(CH3)CH2−、または−OCH(CH2CH3)CH2−であり、
2は、−CH2CH(CH3)O−、または−CH2CH(CH2CH3)O−であり、
rおよびsは、0≦r+s≦15を満たす整数であり、
mは1〜13の整数であり、重量平均分子量は1000以下である。
【請求項15】
前記一般式(GPO)で表わされる化合物の量は、前記水性インクジェットインク総量の1〜10質量%であることを特徴とする請求項14に記載の水性インクジェットインク。
【請求項16】
前記顔料は、自己分散型顔料であることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項17】
紙媒体に少なくとも1種のインク組成物をインクジェットヘッドから噴射して画像を形成する工程を具備し、前記インク組成物は請求項1乃至16のいずれか1項に記載の水性インクジェットインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項18】
前記画像の形成は、1種類のインク組成物を用いて行なわれることを特徴とする請求項17に記載のインクジェット記録方法。
【請求項19】
前記画像の形成は、異なる色の2種類以上のインク組成物を用いて行なわれることを特徴とする請求項17に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−236420(P2011−236420A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103703(P2011−103703)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】