説明

水性インクジェットインク

【課題】カールやコックリングなどの紙媒体の変形を引き起こさずに紙媒体に画像を形成することが可能な水性インクジェットインクを提供する。
【解決手段】色材と、第1液体としての水と、第2液体としてのプロピレングリコールと、第3液体としてnが3から14の下記一般式(PEG)で表わされる化合物またはジグリセリンの総付加数が4から8のエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物とを含有する、水分活性が0.85以下である水性インクジェットインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに記載する実施形態は、一般的には水性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクジェットインクにおける色材としては、水溶性染料が一般的に用いられていた。最近では、顔料を水性媒体に分散させた水性インクジェットインクが提案されている。
【0003】
水性媒体を用いた水性インクジェットインクは、インクジェットヘッドからの吐出に適した特性を有していなければならない。紙媒体に記録するための水性インクジェットインクは、カールやコックリングなどの紙媒体の変形を極力低減することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開2008/0132610
【特許文献2】特開2004−210902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、カールやコックリングなどの紙媒体の変形を引き起こさずに紙媒体に画像を形成することが可能な水性インクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態によれば、水性インクジェットインクは、色材と、第1液体としての水と、第2液体としてのプロピレングリコールと、第3液体としての下記一般式(PEG)で表わされる化合物または下記一般式(PGC)で表わされる化合物とを含有する。前記水性インクジェットインクは、水分活性が0.85以下である。
【化1】

【0007】
aは、HまたはCH3であり、nは3〜14である。
【化2】

【0008】
bは、CH2CH2OおよびCH2CHCH3Oから選択される。j,k,pおよびqは、それぞれ同一でも異なっていてもよく1以上の整数であり、4≦j+k+p+q≦8を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の一形態を適用するインクジェット記録装置である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を具体的に説明する。
【0011】
図1に示すインクジェット記録装置においては、用紙カセット100および101は、サイズの異なる用紙Pを収容している。供紙ローラ102または103は、選択された用紙サイズに対応した用紙Pを用紙カセット100または101から取り出し、搬送ローラ対104、105およびレジストローラ対106に搬送する。
【0012】
搬送ベルト107は、駆動ローラ108と2本の従動ローラ109とによって張力が与えられている。搬送ベルト107には所定間隔で貫通孔が設けられ、搬送ベルト107の内側には用紙Pを搬送ベルト107に吸着させるため、ファン110に連結された負圧チャンバ111が設置されている。搬送ベルト107の用紙搬送方向下流には、搬送ローラ対112、113、および114が設置されている。
【0013】
搬送ベルト107の上方には、画像データに応じてインクを用紙に吐出するインクジェットヘッドが4列配列されている。上流から、シアン(C)インクを吐出するインクジェットヘッド115C、マゼンタ(M)インクを吐出するインクジェットヘッド115M、イエロー(Y)インクを吐出するインクジェットヘッド115Y、ブラック(Bk)インクを吐出するインクジェットヘッド115Bkの順である。さらに、インクジェットヘッド115C、115M、115Y、および115Bkには、対応したインクが収容されているシアン(C)インクカートリッジ116C、マゼンタ(M)インクカートリッジ116M、イエロー(Y)インクカートリッジ116Y、ブラック(Bk)インクカートリッジ116Bkが設けられている。カートリッジは、それぞれチューブ117C、117M、117Y、117Bkによって、インクジェットヘッドに連結されている。
【0014】
こうした構成のインクジェット記録装置の画像形成動作について述べる。
【0015】
まず、画像処理手段(図示しない)により記録のための画像処理が開始され、記録のための画像データが各インクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkに転送される。また、用紙カセット100または101から給紙ローラ102または103により選択された用紙サイズの用紙Pを一枚ずつ取り出し、搬送ローラ対104、105およびレジストローラ対106に搬送する。レジストローラ対106は用紙Pのスキューを補正し、所定のタイミングで搬送を行なう。
【0016】
負圧チャンバ111は搬送ベルト107の穴を介して空気を吸い込んでいるので、用紙Pは搬送ベルト107に吸着された状態でインクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkの下側を搬送される。このことで、インクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkと用紙Pとは一定の間隔を保つことができる。レジストローラ対106から用紙Pが搬送されるタイミングに同期させて、各インクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkから各色のインクを吐出させる。こうして、用紙Pの所望の位置にカラー画像が形成される。画像が形成された用紙Pは搬送ローラ対112、113および114によって排紙トレイ118に排紙される。
【0017】
各インクカートリッジには、一実施形態にかかる水性インクジェットインクが収容される。
【0018】
本実施形態にかかる水性インクジェットインクは、水性の液体混合物と色材とを含み、水分活性(Water Activity:aw)が0.85以下である。水分活性は、材料中の自由水の割合を示す数値であり、一般的には食品の保存性の指標とされている。自由水は、環境の温度、湿度の変化で容易に蒸発が起こる水であり、水分活性は、食品中における微生物の生育に影響を及ぼす要因として知られている。
【0019】
本発明者らは、水分活性を指標とした種々の水性インクジェットインクを用いて、用紙に印刷を行なって用紙の変形度合いを調べた。その結果、水性インクジェットインクの水分活性が所定の値以下になると、用紙の変形を抑制する効果が高められることを見出した。本明細書においては、水分活性は以下のように定義される。
【0020】
水分活性=(インクの水蒸気圧)/(純水の水蒸気圧)
水分活性が0.85以下の水性インクジェットインクは、用紙のカール抑制能に優れており、印刷直後の用紙の変形が抑制される。変形が生じた用紙は、インクジェット記録装置内で円滑に搬送されない。排紙が不揃いになり、場合によっては搬送が不可能となって紙つまりが生じることがある。こうした問題は、印字速度が大きくなると特に顕著に発生する。
【0021】
本実施形態の水性インクジェットインクは、用紙の変形抑制能が優れているので、印刷後の用紙が搬送不可能となるおそれはない。その結果、印字速度が50ppm(page per minute)以上という高速印刷にも対応することが可能となった。本実施形態の水性インクジェットインクの水分活性は0.85以下であり、0.75以下が好ましい。
【0022】
水性インクジェットインクの水分活性は、例えば、チルドミラー露点測定法によるアクアラブCX−3TE(DECAGON社製)を用いて測定することができる。
【0023】
本実施形態の水性インクジェットインクは、3種類の液体を含む液体混合物と色材とを含有する。第1の液体は水であり、第2の液体はプロピレングリコールである。第3の液体は、下記記一般式(PEG)で表わされる化合物または一般式(PGC)で表わされる化合物である。
【化3】

【0024】
aは、HまたはCH3であり、nは3〜14である。
【化4】

【0025】
bは、CH2CH2OおよびCH2CHCH3Oから選択される。j,k,pおよびqは、それぞれ同一でも異なっていてもよく1以上の整数であり、4≦j+k+p+q≦8を満たす。
【0026】
こうした液体混合物が用いられるので、本実施形態にかかる水性インクジェットインクは、用紙としての紙媒体のカールやコックリングなどの変形を極力抑制することが可能となった。
【0027】
本明細書において、紙媒体とは、一般的には、印刷されることを目的に使用される紙製の媒体をさす。印刷特性を高めるための材料が塗布されたアート紙やコート紙などの塗工用紙と、紙自体の特性を生かした非塗工用紙とに大別される。紙媒体は、本、書籍、新聞、包装、およびプリンター用紙など、種々の用途に用いられる。また、段ボール、紙製の容器、およびボール紙などの厚紙も紙媒体に含まれる。例えば、オフィスや家庭で使用する複写機、プリンターに使用されるコピー用紙のような、いわゆる普通紙は、典型的な紙媒体である。
【0028】
第1液体としての水の含有量は、インク総量の40〜60質量%であることが好ましい。こうした量で水が含有されていれば、用紙の変形を抑制することができ、インクジェットヘッドからの吐出性が損なわれることもない。少なくとも総量の40質量%の水が含有されることから、本実施形態の水性インクジェットインクにおける水分活性の下限は、通常0.7程度となる。第2液体および第3液体と混合した際に、水分活性が0.85以下となるよう、水の含有量は適切に設定することが望まれる。水としては、例えば純水を用いることができる。
【0029】
第2液体としてのプロピレングリコールは、インクの水分活性を低下させる作用を有する。プロピレングリコールを添加するとインク中の水のモル分率は低下し、結果として水分活性が低下する。第2液体としてのプロピレングリコールの量は、インク総量の25〜40質量%であることが好ましい。
【0030】
第3液体は、下記一般式(PEG)で表わされる化合物または一般式(PGC)で表わされる化合物である。
【化5】

【0031】
aは、HまたはCH3であり、nは3〜14である。
【化6】

【0032】
bは、CH2CH2OおよびCH2CHCH3Oから選択される。j,k,pおよびqは、それぞれ同一でも異なっていてもよく1以上の整数であり、4≦j+k+p+q≦8を満たす。
【0033】
こうした第3液体は、モル数あたりの水分活性低下効果が高い。第2液体としてのプロピレングリコールとともに第3液体が含有されることによって、本実施形態の水性インクジェットインクの水分活性は、より効果的に低下させることが可能となった。第2液体と第3液体とを総称して、水分活性低下剤と称することができる。
【0034】
上記一般式(PEG)で表わされる化合物としては、例えば、PEG200およびPEG400(いずれも三洋化成製)、MPGおよびMTG(いずれも日本乳化剤株式会社製)などが挙げられる。
【0035】
上記一般式(PGC)で表わされる化合物としては、例えば、SC−P400およびSC−E450(いずれも阪本薬品工業株式会社製)などが挙げられる。
【0036】
第3液体の量は、インク総量の5〜20質量%とすることが好ましく、より好ましくはインク総量の9〜20質量%である。
【0037】
第3液体として用いられる化合物の水分活性低下能は、その構造などによって異なる。例えば、一般式(PEG)で表わされる化合物の場合には、nの値が大きくなると、水分活性低下能は低められる。
【0038】
これらを考慮して、最終的に得られる水性インクジェットインクの水分活性が0.85以下となるように、適切な量を決定して、第1液体としての水と、水分活性低下剤としての第2および第3液体とを組み合わせればよい。本実施形態の水性インクジェットインクは、例えば、第1、第2および第3液体を含む液体混合物に色材を加えて調製することができる。
【0039】
色材としては、染料および顔料のいずれを用いてもよい。染料としては、例えば、直接染料、酸性染料、食用染料、反応性染料、および分散染料など、インクジェットインクに用いられる各種染料が使用可能である。
【0040】
具体的には、以下の染料が挙げられる。C.I.Direct Yellow 8、C.I.Direct Yellow 11、C.I.Direct Yellow 24、C.I.Direct Yellow 26、C.I.Direct Yellow 27、C.I.Direct Yellow 28、C.I.Direct Yellow 33、C.I.Direct Yellow 44、C.I.Direct Yellow 50、C.I.Direct Orange 6、C.I.Direct Orange 8、C.I.Direct Orange 29、C.I.Direct Orange 102、C.I.Direct Red 1、C.I.Direct Red 2、C.I.Direct Red 4、C.I.Direct Red 13、C.I.Direct Red 17、C.I.Direct Red 20、C.I.Direct Red 33、C.I.Direct Red 37、C.I.Direct Red 44、C.I.Direct Red 46、C.I.Direct Red 62、C.I.Direct Red 75、C.I.Direct Blue 1、C.I.Direct Blue 2、C.I.Direct Blue 6、C.I.Direct Blue 15、C.I.Direct Blue 22、C.I.Direct Blue 25、C.I.Direct Blue 76、C.I.Direct Blue 77、C.I.Direct Blue 86、C.I.Direct Blue 108、およびC.I.Direct Blue 120などである。
【0041】
インク中における染料の含有量は、インク総量の2〜20質量%の範囲が好ましい。この範囲内であれば、インクの保存性や吐出性能に関して不都合を伴なうことなく、必要な画像濃度を有する印刷物を形成することができる。
【0042】
色材として顔料が用いられた場合には、水性インクジェットインクの耐水性および耐光性を、より高めることができる。
【0043】
顔料は特に限定されず、無機顔料および有機顔料のいずれを用いてもよい。無機顔料としては、例えば酸化チタンおよび酸化鉄が挙げられる。さらに、コンタクト法、ファーネス法、またはサーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
【0044】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。
【0045】
ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとしては、具体的には、No.2300,No.900,MCF88,No.33,No.40,No.45,No.52,MA7,MA8,MA100,No2200B等(三菱化学製)、Raven5750,Raven5250,Raven5000,Raven3500,Raven1255,Raven700等(コロンビア社製)、Regal 400R,Regal 330R,Regal 660R,Mogul L,Monarch 700,Monarch 800,Monarch 880,Monarch900,Monarch 1000,Monarch 1100,Monarch 1300,Monarch 1400等(キャボット社製)、Color Black FW1,Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black FW18,Color Black FW200, Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex 35,Printex U,PrintexV,Printex 140U,Special Black 6,Special Black 5,Special Black 4A,およびSpecial Black 4等(デグッサ社製)などが挙げられる。
【0046】
イエローインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Yellow 1,C.I.Pigment Yellow2,C.I.Pigment Yellow 3,C.I.Pigment Yellow 12,C.I.Pigment Yellow 13,C.I.Pigment Yellow 14C,C.I.Pigment Yellow 16,C.I.Pigment Yellow 17,C.I.Pigment Yellow 73,C.I. Pigment Yellow 74,C.I.Pigment Yellow 75,C.I.Pigment Yellow 83,C.I.Pigment Yellow93,C.I.Pigment Yellow95,C.I.Pigment Yellow97,C.I.Pigment Yellow 98,C.I.PigmentYellow 109,C.I.Pigment Yellow 110,C.I.Pigment Yellow 114,C.I.Pigment Yellow 128,C.I.Pigment Yellow 129,C.I.Pigment Yellow 138,C.I.Pigment Yellow 150,C.I.Pigment Yellow 151,C.I.Pigment Yellow 154,C.I.Pigment Yellow 155,C.I.Pigment Yellow 180,およびC.I.Pigment Yellow 185等が挙げられる。
【0047】
マゼンタインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Red 5,C.I.Pigment Red7,C.I.Pigment Red 12,C.I.Pigment Red 48(Ca),C.I.Pigment Red 48(Mn),C.I.Pigment Red 57(Ca),C.I.Pigment Red 57:1,C.I.Pigment Red 112,C.I.Pigment Red 122,C.I.Pigment Red 123,C.I.Pigment Red 168,C.I.Pigment Red 184,C.I.Pigment Red 202,およびC.I.Pigment Violet19等が挙げられる。
【0048】
シアンインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Blue 1,C.I.Pigment Blue 2,C.I. Pigment Blue 3,C.I.Pigment Blue 15:3,C.I.Pigment Blue 15:4,C.I.Pigment Blue 15:34,C.I.Pigment Blue 16,C.I.Pigment Blue 22,C.I.Pigment Blue 60,C.I.Vat Blue 4,およびC.I.Vat Blue 60が挙げられる。
【0049】
インクジェットインクであるので、顔料の平均粒径は10〜300nm程度の範囲内であることが好ましい。さらに顔料の平均粒径は、10〜200nm程度の範囲内であることがより好ましい。
【0050】
顔料の平均粒径は、動的光散乱法を用いた粒度分布計を用いて測定することができる。粒度分布計としては、例えば、HPPS(マルバーン社)が挙げられる。
【0051】
顔料は、顔料分散体の状態で用いることができる。顔料分散体は、例えば、分散剤により水やアルコール中などに顔料を分散させて調製することができる。分散剤としては、例えば、界面活性剤、水溶性樹脂、および非水溶性樹脂などが挙げられる。あるいは、自己分散型顔料を用いてもよい。自己分散型顔料とは、分散剤なしに水等に分散可能な顔料であり、顔料に表面処理を施して、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン基の少なくとも一種の官能基またはその塩を結合させた顔料である。表面処理としては、例えば、真空プラズマ処理、ジアゾカップリング処理、および酸化処理等が挙げられる。こうした表面処理により官能基または官能基を含んだ分子を顔料の表面にグラフトさせることによって、自己分散型顔料が得られる。
【0052】
インク中における顔料の含有量は、インク総量の2〜20質量%の範囲が好ましい。この範囲内であれば、インクの保存性や吐出性能に関して不都合を伴なうことなく、必要な画像濃度を有する印刷物を形成することができる。
【0053】
顔料分散体は、水(第1液体)と水分活性低下剤(第2および第3液体)とを含む液体混合物と混合され、本実施形態の水性インクジェットインクが調製される。
【0054】
インクジェット記録用であるので、本実施形態にかかるインクは、インクジェットプリンターにおけるヘッドのノズルからの吐出に適切な粘度を有することが必要である。具体的には、25℃における粘度が3〜15mPa・sであることが好ましい。
【0055】
水性インクジェットインクの吐出性能、保湿性、保存性および物性値などを、最適な範囲に調整するために、効果が損なわれない範囲で、界面活性剤、保湿剤、樹脂などを別途配合してもよい。
【0056】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、およびグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0057】
さらに、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、または非イオン性界面活性剤を用いることもできる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチンー3,6−ジオール、および3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。具体的には、サーフィノール104、82、465、485あるいはTG等(エアープロダクツ社製)である。
【0058】
フッ素系界面活性剤としては、例えばパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、およびパーフルオロアルキルスルホン酸等が挙げられる。具体的にはメガファックF−443、F−444、F−470、F−494(大日本インキ化学工業社)、ノベックFC−430、FC−4430(3M社)、サーフロンS−141、S−145、S−111N、S−113(セイミケミカル社)である。
【0059】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびポリオキシエチレンアルキルアミド等が挙げられる。
【0060】
これらの界面活性剤は、インクの分散安定性などを劣化させない程度に添加することが望まれる。界面活性剤は、インク総量の0.5〜2.0質量%程度の量で含有されていれば、何等不都合を伴なわずに効果を発揮することができる。
【0061】
上述の界面活性剤のうち、例えばアセチレングリコール系界面活性剤および非イオン性界面活性剤などは、顔料分散体を調製するための分散剤として用いることができる。
【0062】
必要に応じて、pH調整剤、防腐剤・防かび剤等の添加剤を配合することができる。pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、および水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0063】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、および1,2−ジベンズイソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などを使用することができる。
【0064】
こうした添加剤を配合することによって、印字画像品質や保存安定性がさらに高められる。
【0065】
以下に、水性インクジェットインクの具体例を示す。
【0066】
一般式(PEG)で表わされる化合物として、PEG200(三洋化成製)、PEG400(三洋化成製)、MPG(日本乳化剤株式会社製)、およびMTG(日本乳化剤株式会社製)を用意した。
【化7】

【0067】
PEG200およびPEG400は、上記一般式におけるRaとしてHが導入された化合物である。PEG200およびPEG400の重量平均分子量は、それぞれ200および400である。MPGおよびMTGは、上記一般式におけるRaとしてCH3が導入された化合物である。
【0068】
また、一般式(PGC)で表わされる化合物として、SC−P400(阪本薬品工業株式会社製)およびSC−E450(阪本薬品工業株式会社製)を用意した。
【化8】

【0069】
SC−P400は、上記一般式におけるRbとしてCH2CHCH3Oが導入された化合物である。j+k+p+qの値はほぼ4であり、重量平均分子量は400である。
【0070】
SC−E450は、上記一般式におけるRbとしてCH2CH2Oが導入された化合物である。j+k+p+qの値はほぼ7であり、重量平均分子量は450である。
【0071】
第1液体としての純水、第2液体としてのプロピレングリコール、および所定の第3液体を用いて、下記表1に示す処方で各成分をそれぞれ配合して、インクサンプルを調製した。表中、各成分の量は、インクジェットインク総量に対する質量%である。第3液体については、前述の名称と質量%とを示した。
【0072】
界面活性剤としては、サーフィノール465(日信化学工業製)を用いた。
【0073】
顔料としては、自己分散型顔料分散体を用いた。具体的には、カーボンブラック分散液CAB−JET−300(キャボット社製)である。この顔料分散体においては、カーボンブラックが水中に分散されている。顔料の平均粒径は120nm程度である。顔料分散体に含まれる水の量は、下記表1中の水の量に含まれている。
【0074】
下記表1に示されるように、いずれのサンプルにおいても、顔料の固形分がインク総量の6.5質量%となる量で顔料分散体を配合した。
【0075】
インクサンプルの調製にあたっては、まず、それぞれの処方で各成分を混合し、スターラーで1時間攪拌した。その後、1μmのメンブレンフィルターでろ過して、サンプルを得た。
【表1】

【0076】
得られたインクサンプルについて、水分活性および粘度を測定した。水分活性は、アクアラブCX−3TE(DECAGON社製)を用いて、25℃で測定した。
【0077】
粘度は、コーンプレート型粘度計VISCOMETER TV−22(東機産業社製)を用いて測定した。粘度の測定は、0.8°×R24のコーンロータを用いて、25℃20rpmの条件で行なった。
【0078】
各インクサンプルの水分活性および粘度を、下記表2にまとめる。
【表2】

【0079】
得られたインクサンプルについて、用紙のカール抑制能を調べた。評価方法は、以下のとおりである。
【0080】
東芝テックピエゾヘッドCF1を搭載したインクジェット記録装置により、100dutyで普通紙にベタ印刷を行なった。普通紙としては東芝コピーペーパー紙を用いた。印刷後の紙を平らな机の上におき、1分後に紙の四隅が机の面から持ち上がった高さを測定した。以下の判断基準により判断した。
【0081】
A:5mm未満
B:5mm以上10mm未満
C:10mm以上
カール高さが10mm未満であれば、実用上問題ないので、カール抑制能は良好であるといえる。
【0082】
さらに、実機により印刷直後の用紙変形の有無を、紙搬送性により評価した。前述のインクジェット記録装置を用いて、前述と同様の普通紙にベタ画像を形成した。1画素を形成するために、1つのノズルから4pl(ピコリットル)のインクを連続的に3滴吐出させて、同一位置に着弾させる。600dpi(ドット/インチ)で、片面全面にベタ画像を形成した。
【0083】
紙搬送性は、以下の基準で評価した。用紙の搬送が可能であれば、合格である。
【0084】
A:紙つまりがなく用紙搬送可能
B:排紙が不揃いであるものの、用紙の搬送は可能
C:紙つまりにより用紙搬送不可能
紙搬送性の評価をカール抑制能とともに、下記表3にまとめる。
【表3】

【0085】
上記表3に示されるように、No.1,3,4,7,8,11〜18のインクサンプルは、カール抑制能は良好であり、用紙の搬送能も合格レベルである。これらのインクサンプルに水分活性は、いずれも0.85以下であることが上記表2に示されている。特に、水分活性が0.75以下の場合には、カール抑制能および用紙搬送能の評価は、いずれもAとなることが、例えばNo.3,15に示されている。
【0086】
水分活性が0.86以上の場合には、用紙のカールを抑制できないことが、No.2,5,6,9,10の結果からわかる。
【0087】
本実施形態の水性インクジェットインクは、カールやコックリングなどの紙媒体の変形を引き起こさずに紙媒体に画像を形成することが可能である。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
p…用紙; 100…用紙カセット; 101…用紙カセット; 102…給紙ローラ
103…給紙ローラ; 104…搬送ローラ対; 105…搬送ローラ対
106…レジストローラ対; 107…搬送ベルト; 108…駆動ローラ
109…従動ローラ; 110…ファン; 111…負圧チャンバ
112…搬送ローラ対; 113…搬送ローラ対; 114…搬送ローラ対
115C,115M,115Y,115Bk…インクジェットヘッド
116C,116M,116Y,116Bk…インクカートリッジ
117…チューブ; 118…排紙トレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と、
第1液体としての水と、
第2液体としてのプロピレングリコールと、
第3液体としての下記一般式(PEG)で表わされる化合物または下記一般式(PGC)で表わされる化合物とを含有し、
水分活性が0.85以下であることを特徴とする水性インクジェットインク。
【化1】

aは、HまたはCH3であり、nは3〜14である。
【化2】

bは、CH2CH2OおよびCH2CHCH3Oから選択される。j,k,pおよびqは、それぞれ同一でも異なっていてもよく1以上の整数であり、4≦j+k+p+q≦8を満たす。
【請求項2】
前記第3液体は、一般式(PEG)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項3】
前記一般式(PEG)で表わされる化合物の重量平均分子量は400以下であることを特徴とする請求項2に記載の水性インクジェットインク。
【請求項4】
前記第3液体は、一般式(PGC)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項5】
前記第1液体の量は、前記水性インクジェットインク総量の40〜60質量%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項6】
前記第2液体の量は、前記水性インクジェットインク総量の25〜40質量%であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項7】
前記第3液体の量は、前記水性インクジェットインク総量の5〜20質量%であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項8】
前記第3液体の量は、前記水性インクジェットインク総量の9〜20質量%であることを特徴とする請求項7に記載の水性インクジェットインク。
【請求項9】
前記水性インクジェットインクは、水分活性が0.75以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項10】
前記色材は、自己分散型顔料であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項11】
紙媒体に少なくとも1種のインク組成物をインクジェットヘッドから噴射して画像を形成する工程を具備し、前記インク組成物は請求項1乃至10のいずれか1項に記載の水性インクジェットインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記画像の形成は、1種類のインク組成物を用いて行なわれることを特徴とする請求項11に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記画像の形成は、異なる色の2種類以上のインク組成物を用いて行なわれることを特徴とする請求項11に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−236424(P2011−236424A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105401(P2011−105401)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】