説明

水性インクジェット用バインダー樹脂組成物、およびそれを用いたインクジェットインキ

【課題】インキの保存安定性ならびに吐出性安定性に優れ、低温乾燥で良好な塗膜耐性(耐擦性、耐水性、耐溶剤性)を発現する水性インクジェットインキ用バインダー樹脂組成物の提供。
【解決手段】イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)0〜20重量%;
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(B)またはリン酸基含有エチレン性不飽和単量体(C)0.5〜3.0重量%;
非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(D)0.1〜3.0重量%;
架橋性エチレン性不飽和単量体(E)0.1〜10重量%;
を含むエチレン性不飽和単量体を乳化重合してなる樹脂微粒子(F)を含む水性インクジェット用バインダー樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェット用バインダー樹脂組成物に関する。インキの保存安定性ならびに吐出性安定性に優れ、低温乾燥で良好な塗膜耐性(耐擦性、耐水性、耐溶剤性)を発現する水性インクジェット用バインダー樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクジェット用インキは、一般的に顔料、水、親水性溶剤(保湿剤、浸透剤)およびバインダー樹脂により構成される。このうちバインダー樹脂は、印字物の塗膜耐性を向上させる目的で使用されているわけであるが、インクジェットの場合、同時にインキの吐出性についても考慮する必要があり、バインダーには高固形分でも低粘度である樹脂微粒子が多く使用されている。インキの吐出安定性や保存安定性を維持した上で、更なる印字物の塗膜耐性向上を図るため、様々な樹脂微粒子が報告されている。
特許文献1では、着色剤と同一極性の荷電を有し、樹脂微粒子のガラス転移温度(Tg)が35℃以上かつ最低造膜温度(MFT)が20℃以下であることを特徴とする水性インクジェット用インキ組成物が開示されている。しかしながら、インキ溶剤に含まれる親水性溶剤に対する樹脂微粒子の安定性については全く考慮されておらず、インキ組成物の吐出安定性や保存安定性に問題がある。
【0003】
特許文献2では、樹脂微粒子のガラス転移温度(Tg)が40〜80℃であり、アルキレングリコールのモノアルキルエーテル、2−ピロール、N−メチルピロリドン、スルホランからなる群から選択される水溶性表面剤を含むことを特徴とする水性インクジェット用インキ組成物が開示されている。これについても親水性溶剤に対する樹脂組成が考慮されておらず、樹脂のガラス転移温度のみで樹脂微粒子の優れた保存安定性、吐出安定性を実現する事は困難である。また、樹脂微粒子の造膜性も不良であるため、印字物の塗膜耐性も課題である。
特許文献3では、スルホン酸基含有樹脂微粒子とアセチレングリコール系浸透剤、トリエチレングリコールモノブチルエーテルとを含むことを特徴とする水性インクジェット用インキ組成物が開示されている。しかしながら、樹脂微粒子がスルホン酸基を有しているだけでは、樹脂微粒子の保存安定性と印字物の塗膜耐性を十分に両立する事はできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4079339号公報
【特許文献2】特許第3937170号公報
【特許文献3】特許第3982235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、インキの保存安定性ならびに吐出性に優れ、低温乾燥で良好な塗膜耐性(耐擦性、耐水性、耐溶剤性)を発現する水性インクインキ用バインダー樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、
イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)0〜20重量%;
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(B)またはリン酸基含有エチレン性不飽和単量体(C)0.5〜3.0重量%;
非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(D)0.1〜3.0重量%;
架橋性エチレン性不飽和単量体(E)0.1〜10重量%;
を含むエチレン性不飽和単量体を乳化重合してなる樹脂微粒子(F)を含む水性インクジェット用バインダー樹脂組成物に関する。
また、第2の発明は、樹脂微粒子(F)の平均粒子径が50〜200nmである第1の発明の水性インクジェット用バインダー樹脂組成物に関する。
また、第3の発明は樹脂微粒子(F)のガラス転移温度が−20〜40℃である第1または第2の発明の水性インクジェット用バインダー樹脂組成物に関する。
また、第4の発明は、架橋性エチレン性不飽和単量体(E)が、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体である第1〜第3いずれか発明の水性インクジェット用バインダー樹脂組成物に関する。
また、第5の発明は、第1〜第4いずれか発明の水性インクジェット用バインダー樹脂組成物を含むインクジェットインキに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、インキの保存安定性ならびに吐出性安定性に優れ、低温温乾燥で良好な塗膜耐性(耐擦性、耐水性、耐溶剤性)を発現する水性インクジェット用バインダー樹脂成物を提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水性インクジェット用バインダー樹脂組成物は、
イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)0〜20重量%;
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(B)またはリン酸基含有エチレン性不飽和単量体(C)0.5〜3.0重量%;
非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(D)0.1〜3.0重量%;
架橋性エチレン性不飽和単量体(E)0.1〜10重量%;
を含むエチレン性不飽和単量体を乳化重合してなる樹脂微粒子(F)を含む水性インクジェット用バインダー樹脂組成物である事を特徴とする。
まず、本発明の樹脂微粒子(F)について説明する。
本発明の樹脂微粒子(F)はイオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(B)またはリン酸基含有エチレン性不飽和単量体(C)、非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(D)、架橋性エチレン性不飽和単量体(E)をラジカル重合開始剤によって乳化重合する事で得られる。
イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)は乳化重合初期に粒子核形成を安定化させる働きをするものであり、その構造中にエチレン性不飽和結合を1つ有する単量体である。
【0009】
本発明におけるイオン性官能基としては、具体的には、アニオン性官能基としてカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、およびそれらの塩などが挙げられ、カチオン性官能基としてアミノ基、その塩、および4級アンモニウム塩基などを挙げることができる。
イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)としては例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等があげられる。
【0010】
樹脂微粒子(F)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)の含有量は、0〜20重量%であることが好ましい。含有量が20重量%を超えると、グリセリンやグリコール系溶剤といった親水性溶剤を大量に含むインキ組成物中での、樹脂微粒子(F)の流動性が大幅に低下して、インキ組成物がノズル詰りを起こしてしまう。
本発明で使用する水溶性エチレン性不飽和単量体は、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(B)またはリン酸基含有エチレン性不飽和単量体(C)と、非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(D)からなる。スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(B)またはリン酸基含有エチレン性不飽和単量体(C)の優れたイオン解離性と、非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(D)の親水部の立体反発により、グリセリンやグリコール系溶剤といった親水性溶剤を大量に含む水性媒体中においても、樹脂微粒子(F)は安定に存在する事ができる。したがって、この樹脂微粒子(F)を含んだインキ組成物の再溶解性は大変優れる。
【0011】
ここで言う水溶性とは、25℃において水1L中に溶解するエチレン性不飽和単量体の量が10g以上である場合の事を言う。
なお、本発明においては、スルホン酸基やリン酸基が塩基性物質などによって中和され、塩構造を有しているものも、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(B)ならびにリン酸基含有エチレン性不飽和単量体(C)に包含されるものとする。
【0012】
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(B)としては例えば、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸アンモニウム、ビニルスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、アリルオキシベンゼンスルホン酸アンモニウム等があげられる。
リン酸基含有エチレン性不飽和単量体(C)としては、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシシエチルホスフェート等があげられる。
【0013】
樹脂微粒子(F)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(B)または、リン酸基含有エチレン性不飽和単量体(C)の含有量は、0.5〜3重量%であることが好ましい。含有量が0.5重量%未満であると、樹脂微粒子(F)のインキ組成物中での分散安定性が低下してしまう。含有量が3重量%を超えると、乳化重合時に凝集物が発生し、インキ組成物の吐出安定性に悪影響をもたらす上、印字物の耐水性、耐溶剤性が低下してしまう。
【0014】
非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(D)としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ペントキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N−メトキシメチル−N−(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体;
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPE−90、200、350、350G、AE−90、200、400等)ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(日本油脂社製、ブレンマー50PEP−300、70PEP−350等)、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPME−400、550、1000、4000等)等のポリエチレンオキサイド基含有エチレン性不飽和単量体;
等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらは1種類または2種以上を併用して用いることができる。
【0015】
樹脂微粒子(F)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(D)の含有量は、0.1〜3重量%であることが好ましい。含有量が0.1重量%未満であると、樹脂微粒子(F)のインキ組成物中での分散安定性が低下してしまう。含有量が3重量%を超えると、樹脂微粒子(F)が増粘し、インキの吐出性に悪影響をもたらす。また、印字物の耐水性、耐溶剤性も低下してしまう。
【0016】
水溶性エチレン性不飽和単量体全体としては、樹脂微粒子(F)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、0.6〜6重量%であることが好ましい。含有量が0.6重量%未満であると、樹脂微粒子(F)のインキ組成物中での分散安定性が低下してしまう。含有量が6重量%を超えると、樹脂微粒子(F)が増粘し、インキの吐出性に悪影響をもたらす。また、印字物の耐水性、耐溶剤性も低下してしまう。
本発明で使用する架橋性エチレン性不飽和単量体(E)は樹脂微粒子内部を架橋する事で樹脂微粒子(F)のインキ組成物中での安定性をさらに向上させる働きをする。
【0017】
架橋性エチレン性不飽和単量体(E)としては、例えば、
アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等の2個以上のエチレン性不飽和基を有するエチレン性不飽和単量体;
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体;
N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アルキルエーテル化N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基含有エチレン性不飽和単量体が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらは1種類または2種以上を併用して用いることができる。
架橋性エチレン性不飽和単量体(E)の含有量は、樹脂微粒子(F)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、0.1〜10重量%であることが好ましい。含有量が0.1重量%未満であると、インキ組成物の保存安定性、吐出安定性が悪化する。一方、含有量が10重量%を超えると、樹脂微粒子(F)の造膜性が低下し、印字物の耐擦性、耐溶剤性が低下する。
【0018】
上記に挙げた架橋性エチレン性不飽和単量体の中でも、架橋性エチレン性不飽和単量体(E)は、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体である事が好ましい。一般的に架橋性エチレン性不飽和単量体を使用すると、樹脂微粒子のインキ組成物中での安定性は増加するが、乾燥時の造膜性はやや低下してしまう傾向にある。しかしながら、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体は、樹脂微粒子の乾燥時の造膜性を低下させる事がほとんど無く、グリセリンやグリコール系溶剤といった親水性溶剤を大量に含む水性媒体中での分散安定性も良好である。
【0019】
さらに、樹脂微粒子(F)を得るために用いられるエチレン性不飽和単量体には、上記のエチレン性単量体(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の他に、エチレン性単量体(A)、(B)、(C)、(D)、(E)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体が含有されてもよい。
【0020】
エチレン性不飽和単量体(A)、(B)、(C)、(D)、(E)と共重合可能なエチレン性単量体としては例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
等が挙げられる。
【0021】
これらのエチレン性不飽和単量体は1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
上記に記載した範囲の各種エチレン性不飽和単量体を乳化重合させてなる樹脂微粒子(F)は分散安定性に大変優れるため、ノズル詰まりの原因となる凝集物も非常に少ない。また、グリセリンやグリコール系溶剤といった親水性溶剤を大量に含むインキ溶剤中においても、混合時に凝集する事もなく、経時安定性に優れる。その一方で、乾燥時には造膜性が大変良好である事から、印字物は優れた塗膜耐性を発現する。
【0022】
樹脂微粒子(F)の平均粒子径は、50〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは、70〜150nmである。平均粒子径は、インキ組成物の保存安定性、吐出安定性に大きな影響を及ぼす。平均粒子径が50nm未満であると樹脂微粒子(F)のインキ組成物中での保存安定性が悪化する場合がある。平均粒子径が200nmを超えると、インキ組成物の吐出性が悪化したり、樹脂微粒子(F)の造膜不良から印字物の光沢に悪影響を及ぼす場合がある。また、粒子径が1μmを超えるような粗大粒子が多く含有されていると、インクジェットの吐出性が著しく悪化する。したがって、1μmを超える粗大粒子は多くとも1重量%以下であることが好ましい。
【0023】
上記の平均粒子径とは樹脂微粒子水分散体の水希釈液にレーザー光を照射して、その散乱光から粒子のブラウン運動を検出する動的光散乱法により測定した値である。
樹脂微粒子(F)のガラス転移温度(Tg)は−20〜40℃であることが好ましい。ガラス転移温度(Tg)が−20℃未満であると、印字物の耐水性や耐溶剤性が十分に発現しない場合がある。ガラス転移温度(Tg)が40℃を超えると、樹脂微粒子(F)の造膜性が悪くなり印字物の耐擦性や耐水性、耐溶剤性が悪化する場合がある。
上記のガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量計)を用いて求めた値である
本発明に使用する樹脂微粒子(F)は、従来既知の乳化重合方法により合成される。
本発明において乳化重合の際に用いられる乳化剤としては、エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤やエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤など、従来公知のものを任意に使用することができる。
【0024】
エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤はさらに大別して、アニオン系、非イオン系のノニオン系のものが例示できる。特にエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤若しくはノニオン系反応性乳化剤を用いると、共重合体の分散粒子径が微細となるとともに粒度分布が狭くなるため、水性インクジェットインキ用バインダー樹脂として使用した際に耐摩擦性や耐アルコール性を向上することができ好ましい。このエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤もしくはノニオン系反応性乳化剤は、1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
【0025】
エチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤の一例として、以下にその具体例を例示するが、本発明において使用可能とする乳化剤は、以下に記載するもののみを限定するものではない。前記乳化剤としては、アルキルエーテル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH−05、KH−10、KH−20、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR−10N、SR−20N、花王株式会社製ラテムルPD−104など);
スルフォコハク酸エステル系(市販品としては、例えば、花王株式会社製ラテムルS−120、S−120A、S−180P、S−180A、三洋化成株式会社製エレミノールJS−2など);
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンH−2855A、H−3855B、H−3855C、H−3856、HS−05、HS−10、HS−20、HS−30、株式会社ADEKA製アデカリアソープSDX−222、SDX−223、SDX−232、SDX−233、SDX−259、SE−10N、SE−20N、など);
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製アントックスMS−60、MS−2N、三洋化成工業株式会社製エレミノールRS−30など);
リン酸エステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製H−3330PL、株式会社ADEKA製アデカリアソープPP−70など)が挙げられる。
【0026】
本発明で用いることのできるノニオン系反応性乳化剤としては、例えばアルキルエーテル系(市販品としては、例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープER−10、ER−20、ER−30、ER−40、花王株式会社製ラテムルPD−420、PD−430、PD−450など);
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、株式会社ADEKA製アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、NE−40など);
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製RMA−564、RMA−568、RMA−1114など)が挙げられる。
【0027】
本発明の樹脂微粒子(F)を乳化重合により得るに際しては、前記したエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤とともに、必要に応じエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤を併用することができる。非反応性乳化剤は、非反応性アニオン系乳化剤と非反応性ノニオン系乳化剤とに大別することができる。
【0028】
非反応性ノニオン系乳化剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類;
ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;
ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類;
オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルなどを例示することができる。
【0029】
また、非反応性アニオン系乳化剤の例としては、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類;
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類;
ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類;
ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;
モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩およびその誘導体類;
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類などを例示することができる。
乳化重合時に使用する乳化剤量はエチレン性不飽和単量体の合計100重量部に対して、0.5〜2.0重量部である事が好ましい。乳化剤量が0.5重量部未満であると、乳化重合時に樹脂微粒子(F)の安定化が不十分となってしまい、ノズル詰まりの原因となる凝集物の発生が多くなってしまう場合がある。一方で乳化剤量が2.0重量部を超えると、乳化剤の溶出成分が多くなり、印字物の塗膜耐性が悪化する場合がある。
【0030】
本発明で使用する樹脂微粒子(F)水分散体の乳化重合に際して用いられる水性媒体としては、水が挙げられ、親水性の有機溶剤も本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。
【0031】
本発明で使用する樹脂微粒子(F)水分散体を得るに際して用いられる重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物;
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリルなどのアゾビス化合物を挙げることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。これら重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.1〜10.0重量部の量を用いるのが好ましい。
【0032】
本発明においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなど、従来既知のものを好適に使用することができる。また、乳化重合を行うに際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより、乳化重合速度を促進したり、低温において乳化重合を行ったりすることが容易になる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩等の還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。これら還元剤は、エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.05〜5.0重量部の量を用いるのが好ましい。なお、前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射等によっても重合を行うことができる。重合温度は各重合開始剤の重合開始温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常70℃程度とすればよい。重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。
さらに必要に応じて、緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが、また、連鎖移動剤としてのオクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類が適量使用できる。
乳化重合終了後に得られた樹脂微粒子(F)水分散体について、塩基性化合物で中和することができる。中和する際、アンモニアもしくはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミンなどのアルキルアミン類;
2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどのアルコールアミン類;
モルホリン
等の塩基で中和することができる。
【0033】
本発明の水性インクジェット用バインダー樹脂組成物には、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤、粘性調整剤などを必要に応じて使用する事ができる。
成膜助剤は、塗膜の形成を助け、塗膜が形成された後においては比較的速やかに蒸発揮散して塗膜の強度を向上させる一時的な可塑化機能を担うものであり、沸点が110〜200℃の溶媒が好適に用いられる。具体的には、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、カルビトール、ブチルカルビトール、ジブチルカルビトール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。中でも、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルは少量で高い成膜助剤効果を有するため特に好ましい。これら成膜助剤は、バインダー樹脂組成物中に0.5〜15重量%含まれることが好ましい。
【0034】
粘性調整剤は、樹脂微粒子(F)100重量部に対して1〜100重量部用いてもよい。粘性調整剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(およびその塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどが挙げられる。
本発明の水性インクジェット用バインダー樹脂組成物は、顔料分散体、水、親水性溶剤を配合した水性インクジェットインキに好適に使用する事ができる。
【0035】
本発明の水性インクジェット用インキ組成物は、上記の樹脂微粒子(F)水分散体を固形分換算で1〜20重量%使用するのが好ましく、2〜15重量%使用するのがより好ましい。樹脂微粒子(F)水分散体が固形分換算で重量1%未満であると、被印刷体上と顔料粒子、もしくは顔料粒子同士の結着が不十分となり、印字物の耐擦性や耐水性が低下する場合がある。一方、樹脂微粒子(F)水分散体が固形分換算で20重量%を超えると、インキ組成物の粘度が上昇し、吐出性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0036】
顔料分散体は顔料を顔料分散樹脂で分散させて調製しても良いし、顔料に直接官能基が修飾された自己分散型顔料を使用しても良い。
顔料分散時に使用する顔料分散樹脂は、水系での分散安定化の観点から、カルボキシル基を有する水溶性樹脂が好ましく、例えばアクリル系、スチレン−アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系の樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、市販品を使用しても構わない。市販品としては、例えば、BASF社製JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL683、JONCRYL690、JONCRYL57J、JONCRYL60J、JONCRYL61J、 JONCRYL62J、JONCRYL63J、JONCRYLHPD−96J、JONCRYL501J、JONCRYLPDX-6102B、ビックケミー社製DISPERBYK、DISPERBYK180、DISPERBYK187、DISPERBYK190、DISPERBYK191、DISPERBYK194、DISPERBYK2010、DISPERBYK2015、DISPERBYK2090、DISPERBYK2091、DISPERBYK2095、DISPERBYK2155、ゼネカ社製SOLSPERS41000、サートマー社製、SMA1000H、SMA1440H、SMA2000H、SMA3000H、SMA17352H等が挙げられる。
【0037】
顔料分散樹脂は、顔料10重量部に対して0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部の範囲で用いられる。顔料分散樹脂が顔料10重量部に対して0.5重量部未満であると顔料分散安定性が低下し、インキ組成物の経時安定性に問題を生ずる場合がある。一方、顔料分散樹脂が顔料10重量部に対して20重量部を超えるとインキ組成物の粘度が上昇し、吐出性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0038】
顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無彩色の顔料または有彩色の有機顔料が使用できる。有機顔料としては、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系有機顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系有機顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系有機顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系有機顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロンエローなどのキノフタロン系有機顔料、イソインドリンエローなどのイソインドリン系有機顔料、その他の顔料として、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。
【0039】
有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで例示すると、C.I.ピグメントエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86 93、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、177、180、192、202、206、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が挙げられる。
【0040】
カーボンブラックの具体例としては、デグサ社製「Special Black350、250、100、550、5、4、4A、6」「PrintexU、V、140U、140V、95、90、85、80、75、55、45、40、P、60、L6、L、300、30、3、35、25、A、G」、キャボット社製「REGAL400R、660R、330R、250R」「MOGUL E、L」、三菱化学社製「MA7、8、11、77、100、100R、100S、220、230」「#2700、#2650、#2600、#200、#2350、#2300、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#900、#850、#750、#650、#52、#50、#47、#45、#45L、#44、#40、#33、#332、#30、#25、#20、#10、#5、CF9、#95、#260」等が挙げられる。
【0041】
酸化チタンの具体例としては、石原産業社製「タイペークCR−50、50−2、57、80、90、93、95、953、97、60、60−2、63、67、58、58−2、85」「タイペークR−820,830、930、550、630、680、670、580、780、780−2、850、855」「タイペークA−100、220」「タイペークW−10」「タイペークPF−740、744」「TTO−55(A)、55(B)、55(C)、55(D)、55(S)、55(N)、51(A)、51(C)」「TTO−S−1、2」「TTO−M−1、2」、テイカ社製「チタニックスJR−301、403、405、600A、605、600E、603、805、806、701、800、808」「チタニックスJA−1、C、3、4、5」、デュポン社製「タイピュアR−900、902、960、706、931」などが挙げられる。イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどの有機顔料は、水性インクジェットインキ100重量%中に通常0.2〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%用いられる。また、白の酸化チタンの場合は通常5〜50重量%、好ましくは10〜45重量%の割合で配合することが好ましい。
【0042】
親水性溶剤は、ノズルでのインキの乾燥を防ぐための保湿剤成分として添加される。
親水性溶剤としては、例えば、
グリセリン;
エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のグリコール系溶剤;
N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、ε-カプロラクタム等のラクタム系溶剤;
ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、出光製エクアミドM−100、エクアミドB−100等のアミド系溶剤;
等が挙げられる。
【0043】
親水性溶剤は、水性インクジェットインキ組成物100重量%中に通常10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%用いられる。親水性溶剤が10重量%未満であると、ノズルでのインキ組成物の乾燥により吐出性が悪化する場合がある。一方、親水性溶剤が60重量%を超えると、印字物の乾燥性が不十分となり、耐擦性、耐水性、耐溶剤性等の塗膜耐性に悪影響が出てしまう場合がある。
本発明の水性インクジェット用インキ組成物を好適に塗布し得る基材としては、例えば、上質紙等の浸透系基材、アート紙、コート紙、ポリ塩化ビニルシート等の非浸透系基材が挙げられる。
【0044】
本発明の水性インクジェット用インキ組成物を用いたインクジェット印刷方式としてはオンデマンド型の記録ヘッドを有するインクジェット方式が挙げられる。オンデマンド型としては、例えばピエゾ方式、サーマルインクジェット方式、静電方式等が例示されるが、ピエゾ方式が最も好ましい。
【0045】
また、本発明の水性インクジェット用インキ組成物を用いての印刷に際しては、印字物の乾燥性および耐性を補強する目的で、印字工程に必要に応じて加熱乾燥工程を導入することができる。加熱乾燥工程を導入することでバインダー樹脂組成物の成膜性も向上する場合があり、適度な加熱処理は好ましい。加熱処理工程は印刷工程(インクジェット印字速度)に影響のない程度に用いることができ、例えば、40〜100℃で1〜200秒の範囲で処理されることが一般的である。
【0046】
[実施例]
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
[実施例1]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水55部と乳化剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)0.4部とを仕込み、別途、2−エチルヘキシルアクリレート54.1部、メチルメタクリレート32.9部、スチレン5部、スチレンスルホン酸ナトリウム1.0部、アクリルアミド1.0部、ビニルトリエトキシシラン6.0部、イオン交換水30部および乳化剤としてアクアロンKH−10 0.6部をホモミキサーで攪拌混合して調製した乳化液を、5部分取して加えた。内温を70℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液4.0部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液5.0部を添加して重合を開始した。反応開始後、内温を75℃に保ちながら上記の乳化液の残りと過硫酸カリウムの5%水溶液1.5部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液5.8部を1.5時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を継続した。反応終了後、温度を30℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノールを添加して、pHを8.9とした。さらにイオン交換水で固形分を40%に調整して樹脂微粒子(F)水分散体を得た。得られた樹脂微粒子(F)の平均粒子径は110nm、ガラス転移温度(Tg)は−7℃であった。
【0047】
[実施例2〜12、比較例1〜8]
表1および表2に示す配合組成で、実施例1と同様の方法で合成し、樹脂微粒子(F)水分散体を得た。尚、実施例9では反応容器に仕込む乳化剤アクアロンKH−10の仕込み量を1.5部に、実施例10では0.2部に変更して乳化重合をおこなった。得られた樹脂微粒子(F)水分散体の基礎物性として、凝集物の有無、ガラス転移温度(Tg)、平均粒子径について評価をおこなった。
【0048】
[凝集物の有無]
樹脂微粒子(F)水分散体を180メッシュ(100μm)のろ布で濾過し、合成時に発生する樹脂微粒子(F)水分散体1kg当たりの凝集物量を測定した。評価基準は以下の通りである。
○:0.1g未満である
△:0.1g以上、0.3g未満である
×:0.3g以上である
[平均粒子径]
樹脂微粒子(F)水分散体を500倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はマイクロトラック(株)日機装製)により測定をおこなった。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを平均粒子径とした。
【0049】
[ガラス転移温度(Tg)]
ガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量計 TAインスツルメント社製)により測定した。樹脂微粒子(F)水分散体を乾固したサンプル約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、該アルミニウムパンをDSC測定ホルダーにセットし、5℃/分の昇温条件にて得られるチャートの吸熱ピークを読み取り、ガラス転移温度(Tg)を得た。
[平均粒子径]
樹脂微粒子(F)水分散体を500倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はマイクロトラック(株)日機装製)により測定をおこなった。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを平均粒子径とした。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
<濃縮顔料分散液の製造>
[シアン顔料分散液の製造]
顔料[Lionogen Blue 7351東洋インキ社製]20部、顔料分散樹脂[BASF(株)社製 ジョンクリル61J、固形分30%水溶液]30部、イオン交換水29.3部、消泡剤[サーフィノール104E 日信化学工業製]0.5部をペイントコンディショナーにて2時間分散し、濃縮シアン顔料分散液を得た。
[マゼンタ顔料分散液の製造]
顔料をFastogen Super Magenta RGT DIC社製 20部に変えた以外は、シアン顔料分散液と同様の方法で、濃縮マゼンタ顔料分散液を得た。
[イエロー顔料分散液の製造]
顔料をNovoperm Yellow H2G クラリアント社製 20部に変えた以外は、シアン顔料分散液と同様の方法で、濃縮イエロー顔料分散液を得た。
[ブラック顔料分散液の製造]
顔料をPrintex 85 エボニックデグサ社製 20部に変えた以外は、シアン顔料分散液と同様の方法で、濃縮ブラック顔料分散液を得た。
【0053】
[実施例13]
実施例1で得られた樹脂微粒子(F)の固形分10部に対して、上記のシアン顔料分散液40部、親水性溶剤としてグリセリン20部、1,3−プロパンジオール40部を添加し、固形分が12%になるようにイオン交換水を加えた後、混練して水性インクジェット用インキ組成物を得た。同様の調製をマゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液、ブラック顔料分散液のそれぞれについてもおこない、4色の水性インクジェット用インキ組成物を得た。
[実施例14〜24および比較例9〜16]
実施例13と同様の方法で調製して、4色の水性インクジェット用インキ組成物を得た。
[水性インクジェット用インキ組成物の評価]
上記で調製した4色の水性インクジェット用インキ組成物を、25℃環境下でセイコーアイ・インフォテック社製ソルベントインクインクジェットプリンタColor Painter 64SPlusに充填し、上質紙に画像を印刷した。インキ組成物については、保存安定性、吐出性を評価した。印刷後、常温で上質紙を乾燥して評価用印字物を得た。これを用いて、耐擦性、耐水性、耐溶剤性の各種塗膜物性を評価した。表3および表4にその結果を示す。
【0054】
[保存安定性]
水性インクジェット用インキ組成物について、70℃、2週間の条件下で、粘度の経時変化を評価した。粘度はレオメーター(TAインスツルメンツ社製AR−2000)を使用して測定した。評価基準は以下の通りである。
◎;インキの粘度変化が±10%未満である
○;インキの粘度変化が±10%以上、±15%未満である
△;インキの粘度変化が±15%以上、±20%未満である
×;インキの粘度変化が±20%以上である
[吐出性]
上記のプリンタにて、印字の待機中(室温、新しいインキが供給されない状態)に乾燥してノズル詰まりが発生するまでの時間を評価した。ここで言うノズル詰まりとは印字の待機中にノズルにインキが詰まって印字できなくなる状態の事を指す。ノズル詰まりがないと、吐出性が良好と言うことができる。評価基準は以下の通りである。
◎:60分でノズル詰まりが発生しない
○:60分でノズル詰まりが発生する
△:30分でノズル詰まり発生する
×:10分でノズル詰まり発生する
【0055】
[耐擦性]
評価用印字物(上質紙)の印字面に学振耐摩試験機(テスター産業製 AB−301)で荷重100/cm(接触面は上質紙)の条件で30回往復させて印字面の傷を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:傷が無い状態である
△:傷は有るが基材は見えない
×:傷が多く基材が見える
[耐水性・耐溶剤性]
水、エタノールのいずれかを綿棒に浸し、評価用印字物(上質紙)の印字面を5往復程ラビングした。評価基準は以下の通りである。
○:侵食が無く、綿棒にインキが付着していない
△:綿棒にインキは付着するが、基材表面が見えない
×:綿棒にインキが付着し、基材表面も見える
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
表3および表4に示すように、実施例1〜12のバインダー樹脂組成物を含んだ実施例13〜24の水性インクジェット用インキ組成物はインキ物性(保存安定性、吐出性)が優れると同時に、印字物の塗膜耐性(耐擦性、耐水性、耐溶剤性)も良好な結果となった。一方、比較例1〜8のバインダー樹脂組成物を含んだ比較例9〜16の水性インクジェット用インキ組成物はインキ物性、印字物の塗膜耐性、共に不良であった。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性官能基を有さない芳香族エチレン性不飽和単量体(A)0〜20重量%;
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(B)またはリン酸基含有エチレン性不飽和単量体(C)0.5〜3.0重量%;
非イオン性の水溶性エチレン性不飽和単量体(D)0.1〜3.0重量%;
架橋性エチレン性不飽和単量体(E)0.1〜10重量%;
を含むエチレン性不飽和単量体を乳化重合してなる樹脂微粒子(F)を含む水性インクジェット用バインダー樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂微粒子(F)の平均粒子径が50〜200nmである請求項1記載の水性インクジェット用バインダー樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂微粒子(F)のガラス転移温度が−20〜40℃である請求項1または2記載の水性インクジェット用バインダー樹脂組成物。
【請求項4】
架橋性エチレン性不飽和単量体(E)が、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体である請求項1〜3いずれか記載の水性インクジェット用バインダー樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の水性インクジェット用バインダー樹脂組成物を含むインクジェットインキ。

【公開番号】特開2013−28658(P2013−28658A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163583(P2011−163583)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】