説明

水性インクジェット用顔料インク

【課題】
一般の印刷本紙、特にコート紙、アート紙等の疎水性の高い用紙への白スジ、色ムラ、色間滲みの無い高品質な画像が得られ、保存安定性に優れる水性インクジェット用顔料インクを提供すること。
【解決手段】
顔料、顔料分散樹脂、水、水溶性溶剤、およびフッ素系界面活性剤を含有してなるインクジェット用顔料インクにおいて、前記フッ素系界面活性剤が特定の構造式で表される化合物であるインクジェット用顔料インク。
さらには、上記インクジェット用顔料インクに、特定の構造式で表されるノニオン性界面活性剤を併用する、発明のインクジェット用顔料インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般の印刷本紙、特にコート紙、アート紙等の疎水性の高い用紙への白スジ、色ムラ、色間滲みの無い高品質な画像が得られ、保存安定性に優れる水性インクジェット用顔料インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る記録方式である。この方式によれば、使用する装置の騒音が小さく、操作性がよいという利点を有するのみならず、カラー化が容易であり、かつ記録部材として普通紙を使用することができるという利点があるため、オフィスや家庭での出力機として広く用いられている。
【0003】
一方、産業用途においても、インクジェット技術の向上によりデジタル印刷の出力機としての利用が期待され、環境やコスト等の面から水性顔料インキが求められている。
【0004】
水性顔料インキは、顔料が水に不溶であるため、インキ中での顔料分散を保つために分散樹脂を用いて水中での分散安定化を図っている。(例えば特許文献1,2,3参照)。
また、インクジェット記録方式の場合、ノズルの乾燥防止を目的として、保湿剤と位置づけられる高沸点の水溶性溶剤が含まれている。
【0005】
一般の印刷本紙は、その表面に油性インクを受容するための塗工層が設けられた塗工紙であるが、塗工層は疎水性であるため水性インクの濡れ性、吸収能力が乏しいという特徴を有する。そのため、インクジェット記録に一般的に用いられている水性の顔料インクを使用すると、インクの濡れ広がり性、浸透性が低く、画像に白スジや滲みが生じる等の問題があった。
【0006】
このため、インク中に界面活性剤を使用することにより表面張力を低下させ、濡れ性、浸透性の向上させることが出来る。界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。なかでもフッ素系界面活性剤は同構造のアルキルエーテル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤よりも優れた表面張力低下能を示すことが知られている。
【0007】
フッ素系界面活性剤としてはパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、パーフルオロオクタン酸(PFOA)またはそれらをベースとしたフッ素系界面活性剤が広く使用されている。PFOSはパーフルオロアルキル基にスルホニル基が直結した構造であり、PFOAはパーフルオロアルキル基にカルボキシ基が直結した構造である。従来はその性能の高さから、鎖長が8以上のパーフルオロアルキル基を有するものが好んで使用されている。
【0008】
しかし、PFOSおよびPFOAは極めて分解されにくく、また生物蓄積性も高いことから、近年は地球規模での環境汚染が懸念されている。このPFOS・PFOA問題では、鎖長が8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物が問題とされ、各国で法規制や各企業で自主規制の動きがあり、鎖長が8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物の入手及び使用が困難になりつつある。
【0009】
PFOS・PFOA問題の解決方法としては、フッ素系界面活性剤として鎖長が8よりも短いパーフルオロアルキル基を有する化合物を用いる方法が挙げられる。しかし、鎖長が8以上のパーフルオロアルキル基が好んで使われていた理由はレベリング性、ぬれ性向上の能力が高いためであり、パーフルオロアルキル基の鎖長が短いと著しくぬれ性、レベリング性が低くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−181955号公報
【特許文献2】特開2004−181955号公報
【特許文献3】特開2007−238813号公報
【特許文献4】特開2010−275377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、一般の印刷本紙、特にコート紙、アート紙等の疎水性の高い用紙への白スジ、色ムラ、色間滲みの無い高品質な画像が得られ、保存安定性に優れる水性インクジェット用顔料インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下に示す水性インクジェット用顔料インクにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、顔料、顔料分散樹脂、水、水溶性溶剤、およびフッ素系界面活性剤を含有してなるインクジェット用顔料インクにおいて、前記フッ素系界面活性剤が下記一般式(I)で表される化合物であるインクジェット用顔料インクに関する。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基、XはCOO、SO3、SO4、PO4、YはNH4、N(C2H5)3、N(C2H5OH)3、Li、Na、Kを表し、m、nは1〜6の整数を表す。)
また、本発明は、前記フッ素系界面活性剤が、インク組成物に対し、0.05〜1重量%また、本発明は、下記一般式(II)で表されるノニオン性界面活性剤を含有する、上記インクジェット用顔料インクに関する。
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、p、qは0〜40の整数を表す。)
【0017】
また、本発明は、アミノアルコールを含有する、上記インクジェット用顔料インクに関する。
また、本発明は、水分散性樹脂微粒子を含有する、上記インクジェット用顔料インクに関する。
また、本発明は、水分散性ワックスを含有する、上記インクジェット用顔料インクに関する。
【0018】
さらに、本発明は、上記インクジェット用顔料インクを、印刷本紙に印刷した印刷物に関する。
さらに、本発明は、印刷本紙上にカルボキシル基およびまたはスルホン酸基を有する水溶性樹脂、およびまたはカルボキシル基およびまたはスルホン酸基を有する水分散性樹脂からなるインク受容層を塗布した印刷用紙に印刷した印刷物に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、一般の印刷本紙、特にコート紙、アート紙等の疎水性の高い用紙への白スジ、色ムラ、色間滲みの無い高品質な画像が得られ、保存安定性に優れる水性インクジェット用顔料インクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
まず、本発明のインクが何故、一般の印刷本紙、特にコート紙、アート紙等の疎水性の高い用紙への白スジ、色ムラ、色間滲みの無い高品質な画像が得られ、保存安定性に優れるかを説明する。
【0021】
インクジェット印刷において高品質な画像を得るためには、ノズルより吐出されたインクが印刷用紙上に短時間で適度な広がりと乾燥によりインクドットを形成することが重要となる。インクジェットインクではノズルを乾燥させるとインクを吐出することできなくなるため、保湿剤つまり高沸点の水溶性溶剤が必須である。しかしながら、高沸点の水溶性溶剤を含有すると、一般の印刷本紙であるコート紙(片面に20g/m程度塗工した紙)、アート紙(片面に40g/m程度塗工した紙)に印字する場合、濡れ性、浸透性に乏しくこれが印字したドットとドットがつながり起こる白スジ、色ムラの原因になることがある。
【0022】
そこで、紙への濡れ性、浸透性を高める界面活性剤を使用することで、乾燥性を高めることが重要となる。一般式(I)で表される化合物が、その界面活性剤である。本発明者らの検討では一般式(I)で表されるフッ素系界面活性剤が、一般に使用されるフッ素系、シリコン系、炭化水素系界面活性剤に比べ静的表面張力を同様に調整したインクにおいて、疎水性コートされた印刷用紙への浸透性、濡れ性が高いことが確認された。正確な原理は不明であるが、次のようなことが推察される。一般にフッ素系界面活性剤は気液界面により配向することで液体の界面張力を低くし疎水性基材への濡れ性を向上させるが、基材に対する浸透力が足らずに、ドットが定着しないため色ムラが発生する。
【0023】
一般式(I)で表されるフッ素系界面活性剤は、水溶性成分としてアニオン基を持つためエチレンオキサイドの様なノニオン性基に比べ高い親水性を有している。さらにパーフルオロアルキル基近傍に水酸基を持っているため、水性インク中で疎水性基材面にも効果的に配向することでインクの浸透性を高めることが出来るものと考えられる。さらにインクの動的表面張力、特に10ms以下の短寿命時間における表面張力を下げる効果が大きく、ビーディング(ドットとドットがつながり起こる白スジ)を解消することが可能となる。 つまり、一般式(I)で表されるフッ素系界面活性剤を使用することで、一般の印刷本紙、特にコート紙、アート紙等の疎水性の高い用紙への白スジ、色ムラ、色間滲みの無い高品質な画像が得られ、保存安定性に優れるインクを得ることができる。
【0024】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明の水性インクジェット用顔料インク(以下、水性顔料インク又はインクという)について説明する。
【0025】
本発明で使用される、一般式(I)で表されるフッ素系界面活性剤は、水性顔料インクの動的表面張力を低下させ、印刷本紙への濡れ性、浸透性を高める目的で使用される。
本発明の一般式(I)で表されるフッ素系界面活性剤において、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。パーフルオロアルキル基は直鎖状でも分岐状でも構わないが直鎖状が好ましい。表面張力低下能力、疎水性基材への浸透性が良好であることから、Rfとしては、炭素数4〜6の直鎖のパーフルオロアルキル基が好ましく、炭素数6の直鎖のパーフルオロアルキル基が特に好ましい。
【0026】
【化1】

【0027】
本発明の一般式(I)で表されるフッ素系界面活性剤において、m、nは1〜6の整数である。m、nの炭素数で決定するアルキレン基は直鎖状でも分岐状でも構わないが直鎖状が好ましい。中でも、炭素数1〜3の直鎖のアルキレン基が好ましく、mは炭素数1〜2の直鎖が、nは炭素数2〜3の直鎖がより好ましい。
【0028】
本発明の一般式(I)で表されるフッ素系界面活性剤において、Xはアニオン基を表し、例えば、COO、SO、SO、PO、などが挙げられ、これらの中でもCOOが特に好ましい。Yはカチオン基を表し、例えば、NH4、N(C2H5)3、N(C2H5OH)3、Li、Na、K、などが挙げられ、これらの中でもNH4が特に好ましい。
【0029】
本発明の一般式(I)で表されるフッ素系界面活性剤として特に好ましいものは以下のとおりである。
13−CHCH(OH)CHS(CHCOONH4
13−CHCH(OH)CHS(CHCOONH4
13−CHCH(OH)CHS(CHSONa
13−CHCH(OH)CHS(CHSONa
13−(CHCH(OH)CHS(CHCOONH
13−(CHCH(OH)CHS(CHCOONH
13−(CHCH(OH)CHS(CHSONa
13−(CHCH(OH)CHS(CHSONa
−CHCH(OH)CHS(CHCOONH
−CHCH(OH)CHS(CHCOONH
−CHCH(OH)CHS(CHSONa
−CHCH(OH)CHS(CHSONa
【0030】
本発明において、一般式(I)で表されるフッ素系界面活性剤の含有量は、インク組成物全体に対して、0.05〜1重量%が好ましく、0.1〜0.5重量%がより好ましい。0.05重量%より少ないと、インクの濡れ性、浸透性が不足し、印刷本紙に印刷した場合、インクのドットが十分に広がらず、白スジ、色ムラが発生して問題となる場合がある。また、1重量%を超えるとインクの経時保存安定性が不足して問題となる場合がある。
【0031】
本発明の水性顔料インクは、上記で説明した本発明で規定する一般式(I)で表されるフッ素系界面活性剤の他に、顔料、水溶性溶剤、及び水を少なくとも含んでなるが、以下、これらの各成分について説明する。
【0032】
本発明の水性顔料インクに含まれる顔料としては、従来既知のものが使用できる。
本発明で使用することができるブラックの顔料としては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40mμm(nm)、BET法による比表面積が50〜400m2/g、揮発分が0.5〜10質量%、pH値が2乃至10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品としては下記のものが挙げられる。例えば、
No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学製)、RAVEN1255(コロンビア製)、REGAL330R、400R、660R、MOGULL(以上、キャボット製)、Nipex 160IQ、Nipex 170IQ、Nipex 75、Printex 85、Printex 95、Printex 90、Printex 35、Printex U(以上、デグサ製)等があり、何れも好ましく使用することができる。
【0033】
本発明で使用することができるイエローの顔料としては、例えば、
C.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、55、74、81、83、109、113、128、150、151、155、183等が挙げられる。
【0034】
本発明で使用することができるマゼンタの顔料としては、例えば、
C.I.Pigment Red5、7、12、22、23、31、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、112、122;キナクリドン固溶体、146、147、150、238、269、C.I.PigmentViolet 19等が挙げられる。
【0035】
本発明で使用することができるシアンの顔料としては、例えば、
C.I.Pigment Blue1、2、3、15:3、15:4、16、22、C.I.VatBlue 4、6等が挙げられる。
【0036】
本発明で使用することができる顔料としては、上記以外の色の顔料、及び自己分散型顔料等も使用することができる。これらの顔料は、各色インクにおいて、1種または2種以上を併用して使用することができる。
【0037】
本発明で使用することができる顔料の含有量としては、水性顔料インク中に、重量比で、1〜20重量%、より好ましくは2〜12重量%の範囲である。
【0038】
本発明の水性顔料インクに含まれる顔料分散樹脂としては、従来既知のものが使用できるが、一般に、(メタ)アクリル酸共重合物が使用される。これは、顔料表面に吸着した(メタ)アクリル酸共重合物がイオン化した際の電荷反発により、水性溶媒中で、顔料どうしの電荷反発が起こり、安定した顔料分散状態を保つことができるためと考えられる。
【0039】
本発明の水性顔料インクに含まれる水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0040】
本発明で使用することができる水の含有量としては、インキの全重量の10〜90重量%、更に好ましくは、30〜80重量%の範囲である。
【0041】
本発明の水性顔料インクに含まれる水溶性溶剤としては、従来既知のものが使用できる。
本発明で使用することができる水溶性溶剤としては、保湿性の観点から、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどが挙げられる。また、印刷本紙への濡れ性の観点から、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。これらの水溶性溶剤は、各色インクにおいて、1種または2種以上を併用して使用することができる。
【0042】
本発明で使用することができる水溶性有機溶剤の含有量は、一般的には、インクの全重量の3〜60重量%の範囲であり、より好ましくは3〜50重量%の範囲である。
【0043】
さらに、本発明のインクは、一般式(II)で表されるノニオン性界面活性剤を含有することが好ましい。一般式(II)で表されるノニオン性界面活性剤を含有することで、水性顔料インクの動的表面張力を低下させ、印刷本紙への濡れ性、浸透性を向上させることができる。これにより、画像品質が向上する。本発明の一般式(II)で表されるノニオン性界面活性剤において、p、qは0〜40の整数である。
【0044】
【化2】

【0045】
本発明で使用することができる一般式(II)で表されるノニオン性界面活性剤の市販品としては、例えば、AirProductsandChemicals Inc.製サーフィノール104、420、440、465、485、川研ファインケミカル株式会社製アセチレノールE40、E81、E100、E200、日信化学工業株式会社製オルフィンE1004、E1010が挙げられる。
【0046】
上記したような一般式(II)で表されるノニオン性界面活性剤の含有量は、インク組成物全体に対して、0.1〜2重量%の範囲であり、より好ましくは、0.3〜1重量%の範囲である。
【0047】
さらに、本発明のインクは、アミノアルコールを含有することが好ましい。アミノアルコールを含有することで、油性インキを受容するために樹脂がコーティングされた印刷本紙に対し、アミノアルコールが選択的にコーティング層を膨潤させ、水性顔料インクの浸透性を向上させることができる。これにより、画像品質が向上する。
【0048】
アミノアルコールの具体例としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、モノメチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モノエチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンが挙げられ、これらの1種または2種以上を併用して使用することができる。
これらのうち、アミノアルコールの沸点が高すぎると印刷物の耐水性が問題となる場合があり、吐出性に影響の出ない適度な沸点を持つジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モノメチルエタノールアミンを用いることがより好ましい。
【0049】
上記したようなアミノアルコールの含有量は、インク組成物全体に対して、0.1〜2重量%が好ましく、0.2〜1重量%がより好ましい。2重量%を超えるとインクの粘度上昇による吐出性不良が問題となる場合がある。
【0050】
さらに、本発明のインクは、水分散性樹脂微粒子を含有することが好ましい。水分散性樹脂微粒子を含有することで、粘度はあまり上昇させずに、印字した塗膜の耐性を向上させることができる。これにより、耐水性、耐溶剤性、耐擦過性などが向上する。水溶性の樹脂を添加しても、ある程度耐性の向上は期待できるが、粘度が上昇してしまう傾向にある。インクジェットインクの場合、ノズルからインクを吐出できる粘度にはある範囲があり、あまり粘度が高いとインクを吐出することができなくなることがあるため、粘度の上昇を抑えることは重要である。
【0051】
上記したような水分散性樹脂微粒子のインク中における含有量は、固形分で、インクの全重量の2〜20質量%の範囲であり、より好ましくは、3〜15質量%の範囲である。
【0052】
さらに、本発明のインクは、水分散性ワックスを含有することが好ましい。水分散性ワックスを含有することで、粘度はあまり上昇させずに、印字した塗膜の耐性を向上させることができる。これにより、耐擦過性が向上する。
【0053】
本発明で使用することができる水分散性ワックスとしては、例えば、天然ワックスおよび合成ワックスの水分散体を挙げることができる。天然ワックスとしては、石油系ワックスであるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等、あるいは植物系ワックスであるカルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ロウ等、さらにまた動物植物系ワックスであるラノリン、みつろう等を挙げることができる。また合成ワックスとしては、合成炭化水素系ワックスであるポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャー・トロブシュワックス等、あるいは変性ワックス系であるパラフィンワックス誘導体、モンタンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等を挙げることができる。これらの水分散性ワックスは、各色インクにおいて、1種または2種以上を併用して使用することができる。水分散性ワックスの市販品としては、例えば、株式会社岐阜セラツク製造所製AF−41、AG−73(HDPE)、A−514(LDPE)、A−329、A−206(マイクロクリスタリン)、AD−62(パラフィン)、X−8512(ラノリン)、XA−35(アマイド樹脂)、AF−20(蜜蝋)、XD−075(カルナバ)、ビックケミー・ジャパン株式会社製AQUACER515、531、537、539(PE)、AQUACER593(PP)が挙げられる。
【0054】
上記したような水分散性ワックスのインク中における含有量は、固形分で、インクの全重量の0.2〜5重量%の範囲であり、より好ましくは、0.3〜2重量%の範囲である。
【0055】
また、本発明のインクは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインクとするために、表面調整剤、消泡剤、防腐剤等の添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量の例としては、インクの全重量に対して、0.05〜10重量%の範囲であり、好ましくは0.2〜5質量%の範囲である。
【0056】
上記したような成分からなる本発明のインクの作製方法としては、下記のような方法が挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。先ず初めに、顔料分散樹脂と、水とが少なくとも混合された水性媒体に顔料を添加し、混合撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の顔料分散液を得る。次に、必要に応じてこの顔料分散液に、水溶性溶剤、或いは、上記で挙げたような適宜に選択された添加剤成分を加え、撹拌、必要に応じて濾過して本発明のインクとする。
【0057】
本発明のインクの作製方法においては、上記で述べたように、インクの調製に分散処理を行って得られる顔料分散液を使用するが、顔料分散液の調製の際に行う分散処理の前に、プレミキシングを行うのが効果的である。即ち、プレミキシングは、少なくとも顔料分散樹脂と水とが混合された水性媒体に顔料を加えて行えばよい。このようなプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進することができるため、好ましい。
【0058】
上記した顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザー等が挙げられる。その中でも、ビーズミルが好ましく使用される。このようなものとしては、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
【0059】
さらに、上記した顔料のプレミキシング及び分散処理において、顔料分散樹脂は水のみに溶解もしくは分散した場合であっても、水溶性溶剤と水の混合溶媒に溶解もしくは分散した場合であっても良い。
【0060】
本発明のインクは、インクジェット記録用であるので、顔料としては、最適な粒度分布を有するものを用いることが好ましい。即ち、顔料粒子を含有するインクをインクジェット記録方法に好適に使用できるようにするためには、ノズルの耐目詰り性等の要請から、最適な粒度分布を有する顔料を用いることが好ましい。所望の粒度分布を有する顔料を得る方法としては、下記の方法が挙げられる。先に挙げたような分散機の粉砕メディアのサイズを小さくすること、粉砕メディアの充填率を大きくすること、処理時間を長くすること、粉砕後フィルタや遠心分離機等で分級すること、及びこれらの手法の組み合わせ等の手法がある。
【0061】
以上説明した本発明の水性顔料インクを印刷する印刷本紙は、公知のものが使用可能である。例えば、上質紙、コート紙、アート紙、キャスト紙、又は、合成紙などを使用することができる。前記基材の表面が滑らかな表面であっても、凹凸のついたものであっても良いし、透明、半透明、不透明のいずれであっても良い。
又、これらの基材の2種以上を互いに張り合わせたものでも良い。更に印字面の反対側に剥離粘着層等を設けても良く、又印字後、印字面に粘着層等を設けても良い。
【0062】
さらに、印刷本紙上にカルボキシル基およびまたはスルホン酸基を有する水溶性樹脂、水分散性樹脂からなるインク受容層を塗布した印刷用紙を使用することができる。これにより、白スジ、色ムラ、色間滲みの無く、印刷本紙に直接印字した場合よりも、より高品質な画像を得ることができる。これは、インク受容層のカルボキシル基およびまたはスルホン酸基が本発明の水性顔料インクに含まれる難水溶性グリコールエーテルおよびアミノアルコールとの相互作用によりインクの濡れ性に優位に働き、インクドットを広げると共に、インクの浸透を促進することができるためと考えられる。
【0063】
インク受容層は公知の方法で塗工することができ、例えば、ロールコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、ゲートロールコーター法、バーコーター法、サイズプレス法、スプレーコート法、又はグラビアコーター法、カーテンコーター法等が挙げられる。インキ受容層は、用紙の一方の面のみに設けられていてもよく、両方の面に設けられていてもよい。
又、インク受容層形成用コート剤を、インクジェットプリンターのインクカートリッジに充填し、他の色のインクと同時に、又は先んじて、インクジェット方式で印刷することもできる。
【0064】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例中、「部」は、「重量部」を、「%」は、「重量%」を、それぞれ表す。さらに、実施例中の一般式(I)で表されるフッ素系界面活性剤の構造を表1に示す。
【0065】
(顔料分散樹脂の製造例)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、トリエチレングリコールモノメチルエーテル93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、ラウリルメタクリレート35.0部、スチレン35.0部、アクリル酸30.0部、およびV−601(和光純薬製)6.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、顔料分散樹脂1の溶液を得た。顔料分散樹脂1の重量平均分子量は約16000であった。
さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール37.1部添加し中和した。これは、アクリル酸を100%中和する量である。さらに、水を200部添加し、水性化した。これを1gサンプリングして、180℃20分加熱乾燥して不揮発分を測定し、先に水性化した樹脂溶液の不揮発分が20%になるように水を加えた。これより、顔料分散樹脂1の不揮発分20%の水性化溶液を得た。
【0066】
(水分散性樹脂微粒子の製造例)
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水40部と界面活性剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)0.2部とを仕込み、別途、2−エチルヘキシルアクリレート40部、メチルメタクリレート50部、スチレン7部、ジメチルアクリルアミド2部、メタクリル酸1部、イオン交換水53部および界面活性剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)1.8部をあらかじめ混合しておいたプレエマルジョンのうちの1%をさらに加えた。内温を60℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液10部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液20部の10%を添加し重合を開始した。反応系内を60℃で5分間保持した後、内温を60℃に保ちながらプレエマルジョンの残りと過硫酸カリウムの5%水溶液、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液の残りを1.5時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。ジエチルアミノエタノールを添加して、pHを8.5とし、さらにイオン交換水で固形分を40%に調整して水分散性樹脂微粒子1の水分散体を得た。なお、固形分は、150℃20分焼き付け残分により求めた。
【0067】
(顔料分散体の製造例)
顔料としてPigment Yellow 74を20部、顔料分散樹脂1の水溶化液を42.9部、水37.1部をマヨネーズ瓶に仕込み、ディスパーで予備分散した後、直径0.8mmのジルコニアビーズ250部を分散メディアとして仕込み、ペイントシェイカーにて本分散を行い、顔料分散体を得た。このとき、顔料と顔料分散樹脂1の不揮発分の比率は、顔料/分散樹脂(不揮発分)=7/3となっている。
【0068】
(インクの製造例)
得られた顔料分散体を20部、プロピレングリコールを30部、水を27.5部、
一般式(I)で表されるフッ素系界面活性剤として
13−CHCH(OH)CHS(CHCOONH4を0.5部、
一般式(II)で表されるノニオン性界面活性剤としてサーフィノール465(AirProductsandChemicals Inc.製)を1部、アミノアルコールとしてジメチルエタノールアミンを0.5部、水分散性樹脂微粒子1の水分散体を12.5部、水分散性ワックスとしてAF−41(株式会社岐阜セラツク製造所製)の30%水分散体を3.3部混合し、10μmのメンブランフィルターでろ過することで、インクを作製した。このとき、インク100部の中に、顔料4部、顔料分散樹脂1.7部、水分散性樹脂微粒子5部、水分散性ワックス1部が含まれている。
【0069】
(インク受容層形成用コート剤の製造例)
攪拌機、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水136.2部、界面活性剤としてRA−9607(日本乳化剤(株)製)の24%水溶液1.6部、及び緩衝剤として重曹0.13部を仕込み、別途、ジアリルフタレート0.5部、メタクリル酸40部、エチルアクリレート30部、ブチルアクリレート29.5部、イオン交換水80部、及び界面活性剤として前述のRA−9607の24%水溶液6.4部をあらかじめ混合しておいたプレエマルジョンのうちの5%を更に加えた。内温を75℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液6部の10%を添加し重合を開始した。反応系内を75℃で5分間保持した後、内温を75〜80℃に保ちながらプレエマルジョンの残りと過硫酸カリウムの5%水溶液の残りを2時間かけて滴下し、更に2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%を超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。イオン交換水で固形分を30%に調整してビニル系エマルジョンを得た。なお、固形分は、150℃20分焼き付け残分により求めた。
得られたビニル系エマルジョン100部に、精製水200部を配合し、固形分10%のインクジェットインク受容層形成用コート剤1を調製した。
【0070】
(印刷用紙の製造例)
インクジェットインク受容層形成用コート剤1を、コート紙[王子製紙(株)製、OKトップコートプラス]に、ワイヤーバーNo.2によって塗工し、60℃の熱風オーブンで2分間乾燥して、インクジェットインク受容層を積層した印刷用紙1を作製した。
【0071】
(印刷物の製造例)
インクをインクジェットプリンター(エプソン社製「PM−750C」)のカートリッジに充填して、コート紙(王子製紙製OKトップコート+、米坪104.7g/m)および印刷用紙1にパターン印字を行い、評価用印刷物を作製した。
【0072】
(実施例1〜6)
表2に記載した組成に従い、上記製造例と同様にして分散体の作製、インクの作製、評価用印刷物を作製した。
(比較例1〜5)
表3に記載した組成に従い、上記製造例と同様にして分散体の作製、インキの作製、評価用印刷物を作製した。
【0073】
表4に、インクの経時保存安定性、印刷物の白スジ・色ムラ、及び滲みの評価結果を示す。以下具体的な評価方法を説明する。
【0074】
(インクの経時保存安定性)
インクを70℃の恒温機に2週間保存、経時促進させた後、経時前後でのインクの粘度、分散粒子径、ろ過性の変化を評価した。70℃2週間保存前後の粘度、分散粒子径、の変化率が、±5%以内なら◎、±5%以上±10%以内であれば○、±10%以上±20%以内であれば△、±20%以上であれば×とした。
【0075】
(印刷物の白スジ・色ムラ)
印字率100%のベタ印刷部において、目視で、明らかに白抜け・白スジが発生しているものを×、若干白抜け・白スジが発生しているものを△、白抜け・白スジがないものを○とした。特に、白抜け・白スジがない上に、濃度ムラがなく均一なベタ印刷部が得られているものを◎とした。
【0076】
(印刷物の滲み)
印字率100%の単色ベタ印刷部を異なる色で掛け合わせた境界部において、目視で、明らかに滲みが発生しているものを×、若干滲みが発生しているものを△、滲みがないものを○とした。特に、3色重ねにおいても滲みの無い印刷部が得られているものを◎とした。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
【表4】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、顔料分散樹脂、水、水溶性溶剤、およびフッ素系界面活性剤を含有してなるインクジェット用顔料インクにおいて、前記フッ素系界面活性剤が下記一般式(I)で表される化合物であることを特徴とするインクジェット用顔料インク。
【化1】





(式中、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基、XはCOO、SO、SO、PO、YはNH、N(C2H5)3、N(C2H5OH)3、Li、Na、Kを表し、m、nは1〜6の整数を表す。)
【請求項2】
前記フッ素系界面活性剤が、インク組成物に対し、0.05〜1重量%含まれてなるであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用顔料インク。
【請求項3】
さらに、下記一般式(II)で表されるノニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット用顔料インク。
【化2】





(式中、p、qは0〜40の整数を表す。)
【請求項4】
さらにアミノアルコールを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット用顔料インク。
【請求項5】
さらに水分散性樹脂微粒子を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用顔料インク。
【請求項6】
さらに水分散性ワックスを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット用顔料インク。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット用顔料インクを、印刷本紙に印刷した印刷物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット用顔料インクを、印刷本紙上にカルボキシル基およびまたはスルホン酸基を有する水溶性樹脂、およびまたはカルボキシル基およびまたはスルホン酸基を有する水分散性樹脂からなるインク受容層を塗布した印刷用紙に印刷した印刷物。




【公開番号】特開2013−107952(P2013−107952A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252485(P2011−252485)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】