説明

水性インク用顔料分散剤及び水性インク組成物

【課題】 本発明の水性インク用顔料分散剤は、従来公知の水性インク用顔料分散剤と同等の顔料分散性を維持しつつ、印字濃度等に優れる水性インク組成物を提供することにある。
【解決手段】
特定の比率で不飽和カルボン酸及び/又は不飽和スルホン酸と、
疎水性モノマーであるスチレン類及び/又は(メタ)アクリル酸エステルと、
必要に応じて共重合可能なモノマーとを
重合して得られるポリマーからなる水性インク用顔料分散剤であって、
前記ポリマーが、
「−S−C(=S)−」もしくは「−S−C(=S)−S−」又は「−SH」のうち少なくとも1つの構造を有し、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算数平均分子量が、2000〜40000であり、
重量平均分子量と数平均分子量の比が1.8以下であり、
数平均分子量500未満及び20万以上の割合の合計が全体の5%未満であることを特徴とする水性インク用顔料分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ印刷面の光学濃度が従来に比べ高く、また、印刷適正や印刷面の諸物性に優れた顔料分散性良好な水性インク用顔料分散剤及び水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に水性インク用顔料分散剤には、比較的疎水性である顔料を水中へ安定に微分散させるために、顔料への吸着能と、連続層である水層への親和性、及び極性基同士の静電反発を利用した分散安定化能が求められる。そのため、該分散剤には顔料への吸着能を有する疎水性モノマーと、水分散性や顔料の再凝集防止効果を付与し得るイオン性の親水性モノマーの共重合体がこれまで多用されてきた。しかしながら、これら従前の共重合体は通常、有機過酸化物やアゾ系化合物等のラジカル重合開始剤を用いて、いわゆるフリーラジカル重合したランダム共重合体であり、広い分子量分布(多分散性)や組成分布を有していたため、顔料分散剤として有効なポリマー成分の割合が低く、結果的に添加量の割に顔料分散安定性が十分でなかったり、印刷面の光学濃度や印刷適正等を阻害する要因となったりした。そこで近年、構造制御においてはその改善を目的に、反応性官能基を有するメルカプト系連鎖移動剤の使用や高温高圧重合法により得られる末端ビニル基導入マクロモノマーと他のモノマーをグラフト重合させたもの(例えば特許文献1)や、リビングラジカル重合により異種モノマーをブロック重合させたもの(例えば、特許文献2)など、種々の提案がなされている。
【0003】
また、分子量制御においては、前述のリビングラジカル重合により狭い分子量分布を持ち、均一な組成分布を有する予め定められた分子量の重合体を生成することができる。このため、インクを不必要に高粘度化あるいは低濃度化したり、凝集性が高く顔料同士を再凝集したりする要因になり得る不要な高分子量成分や、分子量や組成分布に起因した吸着能あるいは分散能の欠乏により分散剤として機能しない低分子量成分をほとんど含まないので、従来の顔料分散剤に比べ顔料分散性に優れた顔料分散剤を得ることが出来ると言われている(非特許文献1など)。しかしながら、これら改良された顔料分散剤が開発されているものの、依然としてより優れた水性インク用顔料分散剤の開発が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−336672号公報
【特許文献2】特表2002−534542号公報
【非特許文献1】東亞合成研究年報TREND2005,第8号p16−p19「ポリマー構造を制御した新規顔料分散剤」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、従来に比べ印刷面の光学濃度が高く、また、印刷適正や印刷面の諸物性に優れた顔料分散性良好な水性インク用顔料分散剤及び水性インク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のモノマーを特定量用いたポリマーであって、ポリマーの分子末端部に特定の構造を有し、特定の分子量、及び分子量分布を有する水性インク用顔料分散剤が、従来の顔料分散性を維持しながら、とりわけ印刷面の光学濃度を著しく改善することを見出した。加えて、印刷方法によっては、そのインク転移性や印刷物の耐性等の面で、従来よりも優れた効果を発揮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(i)(1)不飽和カルボン酸及び/又は不飽和スルホン酸 8〜50質量%と、
(2)疎水性モノマーであるスチレン類及び/又は(メタ)アクリル酸エステル 92〜50質量%とを
重合して得られるポリマーからなる水性インク用顔料分散剤であって、
前記ポリマーが、
1)「−S−C(=S)−」もしくは「−S−C(=S)−S−」又は
2)「−SH」
のうち少なくとも1つの構造を有し、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCと略することがある。)によるポリスチレン換算数平均分子量(以下、Mnと略することがある)が、2000〜40000であり、
重量平均分子量(以下、Mwと略することがある)と数平均分子量(Mn)の比(以下、Mw/Mnと略することがある)が1.8以下であり、
数平均分子量(Mn)500未満及び20万以上の割合の合計が全体の5%未満である水性インク用顔料分散剤、
(ii)(1)不飽和カルボン酸及び/又は不飽和スルホン酸 8〜50質量%と、
(2)疎水性モノマーであるスチレン類及び/又は(メタ)アクリル酸エステル 92〜40質量%と、
(3)前記(1)と前記(2)に共重合可能なモノマー0〜10質量%とを
重合して得られるポリマーからなる水性インク用顔料分散剤であって、
前記ポリマーが、
1)「−S−C(=S)−」もしくは「−S−C(=S)−S−」又は
2)「−SH」
のうち少なくとも1つの構造を有し、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCと略することがある。)によるポリスチレン換算数平均分子量(以下、Mnと略することがある)が、2000〜40000であり、
重量平均分子量(以下、Mwと略することがある)と数平均分子量(Mn)の比(以下、Mw/Mnと略することがある)が1.8以下であり、
数平均分子量(Mn)500未満及び20万以上の割合の合計が全体の5%未満である水性インク用顔料分散剤、
(iii)ポリマーを重合するにあたってリビングラジカル重合を用いる前記(i)又は(ii)の水性インク用顔料分散剤、
(iv)リビングラジカル重合するにあたってRAFT剤を用いる前記(iii)の水性インク用顔料分散剤、
(v)前記(i)〜(iv)のいずれかの水性インク用顔料分散剤を含有する水性インク組成物
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性インク用顔料分散剤は、従来公知の水性インク用顔料分散剤と同等の顔料分散安定性を有しながら、印刷面の光学濃度や印刷適正、印刷面の諸物性に優れる水性インク組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
【0010】
本発明の水性インク用顔料分散剤を構成する、
(1)不飽和カルボン酸及び/又は不飽和スルホン酸 8〜50質量%と、
(2)疎水性モノマーであるスチレン類及び/又は(メタ)アクリル酸エステル 92〜50質量%とを
重合して得られるポリマー 並びに
(1)不飽和カルボン酸及び/又は不飽和スルホン酸 8〜50質量%と、
(2)疎水性モノマーであるスチレン類及び/又は(メタ)アクリル酸エステル 92〜40質量%と、
(3)前記(1)と前記(2)に共重合可能なモノマー0〜10質量%とを
重合して得られるポリマーは、
1)「−S−C(=S)−」もしくは「−S−C(=S)−S−」又は
2)「−SH」
のうち少なくとも1つの構造を有し、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCと略することがある。)によるポリスチレン換算数平均分子量(以下、Mnと略することがある)が、2000〜40000であり、
重量平均分子量(以下、Mwと略することがある)と数平均分子量(Mn)の比(以下、Mw/Mnと略することがある)が1.8以下であり、
数平均分子量(Mn)500未満及び20万以上の割合の合計が全体の5%未満である必要がある。
【0011】
本発明において(1)不飽和カルボン酸及び/又は不飽和スルホン酸は、不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和カルボン酸及び不飽和スルホン酸をいい、8〜50質量%を用いる。
(1)不飽和カルボン酸及び/又は不飽和スルホン酸の成分は8質量%以上で、本発明の水性インク用顔料分散剤を構成するポリマーは塩基性化合物により水に十分可溶化又は分散することができる。また(1)不飽和カルボン酸及び/又は不飽和スルホン酸の成分は50質量%以下であることが、親水性と疎水性のバランスの観点から適しており好ましい。
【0012】
不飽和カルボン酸とは、ビニル基とカルボキシル基及び/又はカルボキシル基の酸無水物を有する化合物であり、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、けい皮酸、及びクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸、2−アクリルアミドグリコリック酸、及び2−メタクリルアミドグリコリック酸等のグリオキシル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びムコン酸等の不飽和ジカルボン酸並びにこれらの酸無水物及びモノエステル、アコニット酸、3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸、及び4−ペンテン−1,2,4−トリカルボン酸等の不飽和トリカルボン酸並びにこれらの酸無水物及びエステル(モノエステル、ジエステルのみ)、1−ペンテン−1,1,4,4−テトラカルボン酸、4−ペンテン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、及び3−ヘキセン−1,1,6,6−テトラカルボン酸等の不飽和テトラカルボン酸並びにこれらの酸無水物及びエステル(モノエステル、ジエステル、トリエステルのみ)が挙げられる。これらの中でも、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸並びにその無水物及びモノエステルが好ましく、これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物及びマレイン酸モノエステル及びこれらの塩が好ましい。
【0013】
本発明において不飽和スルホン酸とは、ビニル基とスルホン酸基を有する化合物であり、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−フェニルプロパンスルホン酸及びこれらの塩等を挙げることができる。これらの中でも、スチレンスルホン酸及びその塩が好ましい。
【0014】
本発明において(2)疎水性モノマーであるスチレン類及び/又は(メタ)アクリル酸エステルは、スチレン類、(メタ)アクリル酸、エステルスチレン類及び(メタ)アクリル酸エステルをいい、92〜50質量%を用い、本(2)モノマーの代わりに前記(3)モノマーを用いる場合は、92〜40質量%を用いる。(2)成分は40〜92質量%であると、親水性と疎水性のバランスの観点から適しており好ましい。
【0015】
スチレン類とは、スチレンだけなく、スチレンに類似する構造を有する、α−メチルスチレン、αメチルスチレンダイマー、及びビニルトルエン等を挙げられる。この中でも、スチレン及びスチレン骨格を有するモノマーが好ましく、スチレン、α−メチルスチレンが特に好ましい。
【0016】
本発明において(メタ)アクリル酸エステルとは、疎水性であるアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルであり、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、及び2−エチルへキシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレート等の環状アルキル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0017】
(3)前記(1)と前記(2)に共重合可能なモノマーは、前記(1)及び前記(2)以外のモノマーであって、前記(1)と前記(2)に共重合可能なモノマーであればよく、前記(2)モノマーの代わりに0〜10質量%を用いることでポリマーの疎水性を調整する場合や、ポリマー中に架橋構造やグラフト構造を導入する場合に用いる。例えば、(メタ)アクリルアミド並びに2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、及びポリオキシプロピレン(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基またはポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリルレート;等の親水性ノニオン性モノマー、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートのようなビニル基を2個以上有し架橋構造を導入できるモノマー、グリシジル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどのカルボン酸、水酸基等と反応してグラフト構造を導入できるグリシジル基やイソシアナート基を有するモノマーなどを挙げることができる。これらの成分の好適な使用範囲は0.1〜8質量%である。
【0018】
前記ポリマーの有する
1)「−S−C(=S)−」もしくは「−S−C(=S)−S−」又は
2)「−SH」
のうち少なくとも1つの構造は以下のような公知の方法で導入することができる。例えばチオール基は、モノマー重合時にチオ酢酸を添加して末端にチオ酢酸を付加させ、しかる後加水分解することによりチオールを導入することができる(特開平9−3108号公報)。ただしこの方法では分子量分布が広がる傾向にあるので、本発明の顔料分散剤とするには、重合後のポリマーを溶媒分別法(ポリマーを一度、良溶媒に溶解し、貧溶媒を混合していくことで高分子量成分のみを析出させて、低分子量なものと高分子量なものを分別し、より分子量分布の狭いポリマーを得る方法である。)や、カラムクロマトグラフィーを用いた分子量分画法により最適な分子量域を分取する必要がある。狭い分子量分布を有するポリマー合成法である原子移動ラジカル重合(ATRP)やニトロキシド媒介重合(NMP)などのリビングラジカル重合でモノマーを重合した後、末端遊離基を先述のチオ酢酸で置換し、先と同様に加水分解することにより導入すれば、より簡単に所望の顔料分散剤を得ることが出来るが、より好ましくは、付加開裂型連鎖移動(RAFT)重合法(WO98/1478号公報)により直接チオカルボニルチオ基又はトリチオ炭酸基を導入する方法であり、この場合、加水分解によりチオールに変換することもできる。またリビングラジカル重合を用いると、疎水性ユニットと親水性ユニットをブロック的に有するブロック共重合体の重合が可能であるほか、リビングラジカル重合により得られた分子量の揃ったポリマー末端をカルボン酸又は水酸基を有するチオール等で置換した後、グリシジルメタクリレート又はイソシアネート基を有するモノマーで末端(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマーとした後、更にリビングラジカル重合により分子量分布の狭いグラフト共重合体の重合が可能であり、従って、1)、2)のうち少なくとも1つの構造を導入した構造制御ポリマーは、インクジェットインクのようなポリマー含有量に比べ顔料濃度が高く、かつ希薄溶液系である水性顔料インク設計において、より良好な顔料分散性を発揮する。
【0019】
上記した方法で得られるポリマーが前記構造を有していることは、前記した公知文献に記載の通り自明であるが、ポリマーが比較的低分子量(Mw<3000)であれば、前記構造におけるスルフィド結合近傍のメチレン基やフェニル基に由来するプロトンの有無をNMRで確認することができる。また、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI−TOFMS)による末端構造予測も可能であり、チオール基(チオカルボニルチオ基やトリチオ炭酸基は、加水分解によりチオール基とすることができる)であればヨウ素酸化滴定やEllman法といった定量手法を用いて確認することもできる。
本発明の水性インク用顔料分散剤を構成するポリマー中に特定のポリマー構造を導入するには前述した方法が挙げられるが、RAFT(可逆的付加開裂連鎖移動)重合が最も簡便で確実に導入することができる。これに用いるRAFT剤は、ジチオまたはトリチオ化合物であり、ジチオエステル(ジチオベンゾエート)、トリチオカーボネート(特表2003−522816号公報、特表2007−537279号公報などに記載されている)などを用いることが好ましい。
【0020】
本発明のポリマーの製造方法は、任意の適切な製造方法を採用し得る。重合の形態としては、例えば、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられるが、生成した重合体の取り扱いの利便性の良さから、溶液重合が好ましい。
【0021】
溶液重合を行う場合に用い得る溶媒としては、任意の適切な溶媒を採用し得る。例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、エーテル類、ケトン類、アルコール類、エステル系溶媒などが好ましく挙げられ、これらを単独、もしくは2種以上混合して用いる。より好ましくは、重合温度付近もしくはそれ以上に沸点を有するエーテル類、ケトン類、アルコール類、エステル系溶媒、さらに好ましくは、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール、酢酸エチル等が挙げられる。特にポリマーの重合後、溶媒置換と塩基性化合物の添加により水溶液とする場合においては、使用する溶媒は水と共沸するか、もしくは水よりも沸点の低い溶媒を使用すると溶媒置換が容易であり、最も好ましくはメチルエチルケトン、エタノールである。
【0022】
重合時のモノマー濃度は、取り扱いの利便性の良さから、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは30〜80質量%である。
【0023】
重合反応温度は、使用するモノマーの種類や重合開始剤の種類にもよるが、一般的なラジカル重合の温度であって、モノマーの分解しない温度が好ましい。具体的には、好ましくは50〜160℃、より好ましくは60〜150℃である。
【0024】
重合は、通常の大気雰囲気下でも重合できる場合もあるが、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下での重合が好ましい。
【0025】
重合時間は、好ましくは0.5〜144時間、より好ましくは2〜24時間である。
【0026】
ラジカル重合開始剤としては、任意の適切なラジカル重合開始剤を採用し得る。好ましくは、熱によりラジカルを発生する開始剤である。具体的には、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)などの2,2’−アゾビスブチロニトリル類;2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などの2,2’−アゾビスバレロニトリル類;2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)などの2,2’−アゾビスプロピオニトリル類;1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)などの1,1’−アゾビス−1−アルカンニトリル類;2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチルなどのアゾ化合物;ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサンなどのパーオキシエステル類;シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類;2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレートなどのパーオキシケタール類;クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルシクロヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;ビス(t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類;など、有機過酸化物のラジカル重合開始剤が使用できる。特に好ましくは、入手と取り扱いの容易なAIBNである。
【0027】
本発明の水性インク用顔料分散剤の数平均分子量(Mn)は、適度な分散性及び適度な溶液粘度が得られる点で、GPCによるポリスチレン換算したものであって2000〜40000である必要があり、より好ましくは3000〜30000である。
【0028】
本発明の水性インク用顔料分散剤の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.8以下である必要がある。
【0029】
本発明の水性インク用顔料分散剤は、数平均分子量(Mn)500未満及び20万以上の割合の合計が全体の5%未満である必要があり、より好ましくは3%未満である。
【0030】
これらの分子量条件を全て満たすことにより、不要成分である数平均分子量500未満の低分子量成分及び20万以上の高分子量成分をポリマー中にほとんど含有しなくなるため、所望する水性インク用顔料分散剤としての機能を有効に発揮し得るポリマーの有効濃度が向上する結果、不要成分の弊害を懸念することなく、従来よりも少ない使用量で同等の顔料分散能を発揮することが出来る。
【0031】
以上のことから、上記条件下において本発明の水性インク用顔料分散剤の重量平均分子量(Mw)は、2000〜70000であることが好ましく、より好ましくは3000〜40000である。
【0032】
本発明の水性インク用顔料分散剤は、上記のようにして得られたポリマーを水に分散させる必要があり、一般的には塩基性化合物によりpH6.5〜11.0に調整し、カルボン酸塩又はスルホン酸塩として、水に可溶化又は分散したポリマーを水性インク用顔料分散剤として用い、顔料分散体の水媒体への分散性を持たせている。水性インク用顔料分散剤の25℃、固形分5%における粘度は、1〜5000mPa・sであることが好ましい。また、水性インク用顔料分散剤の固形分は1〜50質量%であることが好ましい。また顔料に吸着する疎水性部位を有する必要があり、水性インク用顔料分散剤に適したポリマーとするには、親水性モノマーと疎水性モノマーをバランスよく導入、重合する必要があることから、本発明の水性インク用顔料分散剤は、当該ポリマーを構成する(1)不飽和カルボン酸及び/又は不飽和スルホン酸の成分に由来する酸基を有し、そのポリマー酸価は50〜400mgKOH/g以内となることが好ましい。
【0033】
本発明の水性インク用顔料分散剤を水に可溶化又は分散する塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、モルホリン等のアミン類等を用いることが出来るが、好ましくは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミンから選択される少なくとも1種類の塩基性化合物を未中和モノマー酸基由来のポリマー酸価に対し0.8〜1.2倍当量添加して水に可溶化又は分散させることが好ましい。
【0034】
水性インク組成物は、主として、水を主溶媒とする水性媒体、顔料、顔料分散剤、溶媒及び必要に応じてバインダー樹脂からなる顔料分散体に、使用するインクの用途に応じた各種添加剤を添加して調整される。顔料分散体は、前記した各成分を必要量混合し、ホモミキサー、ラボミキサー等の高速撹拌機や、3本ロールミルやビーズミル等の分散機にて混合、分散することにより、容易に得ることができる。
【0035】
本発明による水性インク組成物は、主溶媒としての水を含む。水としては、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。また、他の水性媒体としては、水混和性有機溶剤を用いることが出来る。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール類、メチルエチルケトン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げることができ、これらを1種又は2種以上、インク流動性や乾燥性のコントロール助剤として混合しても良い。
【0036】
本発明による水性インク組成物には、一般に水性インクで使用できる無機、有機の着色顔料や、体質顔料等が挙げられる。
【0037】
前記無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、黒鉛等を挙げることができる。
【0038】
前記有機顔料としては、例えば、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等を挙げることができる。
【0039】
前記体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク等を挙げることができる。
【0040】
上記顔料は、1種でも2種以上でも用いることができ、2種以上用いる場合は必要に応じて任意の割合で混合して使用する。当該顔料の使用量としては、水性インク組成物中に、好ましくは、1〜50質量%であり、特に水性インクジェット顔料インクの場合には1〜20質量%が好ましい。
【0041】
本発明の水性インク用顔料分散剤の固形分は、水性インク組成物中1〜30質量%含有しているよう配合することが好ましいが、特に水性インクジェット顔料インクに用いる場合には、顔料に対し1〜20質量%配合することが好ましい。
【0042】
上記に加え、本発明の水性インク組成物には必要に応じてバインダー樹脂を添加する。バインダー樹脂はインクのレオロジー制御やその印刷表面に必要な諸物性を付与するために用いられ、レットダウン樹脂とも呼ばれる。バインダー樹脂としては、水性インク組成物に一般的に使用されている公知の各種バインダー樹脂が使用できる。インクの用途や求められる物性によりその使用量は異なるが、水性インク組成物の50質量%以内が好ましい。
【0043】
本発明による水性インク組成物には、pH調整剤、防腐剤、防カビ剤、防錆剤、溶解助剤、酸化防止剤、消泡剤、ブロッキング防止剤、スリップ防止剤、架橋剤等から選ばれる各種添加剤を所望により添加することができる。これらの成分は、各種別に1種または2種以上を混合して用いることができる。また、添加する必要がなければ添加しなくてもよい。当業者は本発明の効果を損なわない範囲で、選択された好ましい添加剤を好ましい量で用いることができる。
【0044】
例えば、pH調整剤としては、本発明の水性インク用顔料分散剤の調整に用いた各種塩基性化合物を用いることが出来る。具体的には、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、モルホリン等のアミン類等を用いることが出来るが、好ましくは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエチルエタノールアミンから選択される少なくとも1種類のpH調整剤を含み、pH6〜10に調整されることが好ましい。pHがこの範囲を外れると、印刷適正に悪影響を及ぼしたり、版やロールの磨耗を促進する原因となり、特に水性顔料IJインクとして用いる場合においては、インクジェットプリンタを構成する材料等に悪影響を与えたり、目詰まり回復性が劣化する恐れがある。
【0045】
防腐剤または防カビ剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、及び1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(AVECIA社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、及びプロキセルTN(以上商品名)等を例示できるが、これらに限定されない。
【0046】
溶解助剤とは、インク組成物から不溶物が析出する場合に、その不溶物を溶解し、インク組成物を均一な溶液に保つための添加剤である。溶解助剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドンなどのピロリドン類、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネート等のアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0047】
酸化防止剤の例としては、L−アスコルビン酸及びその塩類等が例示できるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、各例中、%は特記しない限りすべて質量部又は質量%である。
【0049】
(実施例1)
攪拌機、温度計、窒素導入管、還流冷却管の備わった4つ口フラスコに、メチルエチルケトン50部、アクリル酸30部、スチレン60部、アクリル酸n−ブチル10部、トリチオ炭酸ビス(1−カルボキシ1−メチルエチル)2.7部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3部仕込み、窒素雰囲気下、内温80℃で20時間保持した。保温後、蒸留水274.7部及び28%アンモニア水溶液25.3部(表1記載の未中和モノマー酸基由来のポリマー酸価に対し、100%当量分)を加え、還流冷却管を蒸留管に換えて常圧下、及び適宜減圧下で内温が95℃になるまで系内の残存モノマー及び溶媒を除去した。その後室温まで冷却してポリマー固形分25.0%のアルカリ可溶化ポリマー水溶液を得た。このポリマーの数平均分子量(Mn)は10200、重量平均分子量(Mw)は12000、Mw/Mn=1.18であった。これをそのまま、水性インク用顔料分散剤Aとして用いた。また、得られた水性インク用顔料分散剤Aの性状を表1に記載した。
【0050】
(実施例2〜10)
実施例1を表1に記載のように変える以外は実施例1と同様にして得られたポリマーをそのまま水性インク用顔料分散剤B〜Jとして用いた。また、得られた水性インク用顔料分散剤B〜Jの性状を表1に記載した。
【0051】
(実施例11)
実施例1を表1に記載のように変える以外は実施例1と同様にしてポリマーを重合後、溶媒分別法により不要な低分子量及び高分子量成分を排除したポリマーを分取した。その後、得られたポリマー質量部に対応する蒸留水及び塩基化合物として水酸化カリウム及びアンモニア水を表1にある当量分加え、後は実施例1と同様にしてポリマー固形分25.0%のアルカリ可溶化ポリマー水溶液を得た。このポリマーの数平均分子量(Mn)は7300、重量平均分子量(Mw)は12300、Mw/Mn=1.68であった。これをそのまま、水性インク用顔料分散剤Kとして用いた。
【0052】
(比較例1)
実施例11と同様のモノマー組成・方法でポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た後、分取工程を経ずにそのまま蒸留水及び塩基化合物として水酸化カリウム及びアンモニア水を表1にある当量分加え、後は実施例1と同様にしてポリマー固形分25.0%のアルカリ可溶化ポリマー水溶液を得た。このポリマーの数平均分子量(Mn)は5100、重量平均分子量(Mw)は12200、Mw/Mn=2.39であった。これをそのまま、水性インク用顔料分散剤Lとして用いた。
【0053】
(比較例2)
実施例1からトリチオ炭酸ビス(1−カルボキシ1−メチルエチル)を除き、メチルエチルケトンに代えてイソプロパノール400部、AIBN4部と増量したほかは、実施例1と同様にしてポリマーを重合後、溶媒分別法により不要な低分子量及び高分子量成分を排除したポリマーを分取した。その後、得られたポリマー質量部に対応する蒸留水、及び塩基化合物として水酸化カリウム及びアンモニア水を表1にある当量分加え、後は実施例1と同様にしてポリマー固形分25.0%のアルカリ可溶化ポリマー水溶液を得た。このポリマーの数平均分子量(Mn)は7600、重量平均分子量(Mw)は12500、Mw/Mn=1.64であった。これをそのまま、水性インク用顔料分散剤Mとして用いた。
【0054】
(比較例3)
実施例3においてAIBNの量を表1のように変えた以外は同様にして得られたポリマーをそのまま水性インク用顔料分散剤Nとして用いた。
【0055】
(比較例4)
実施例6から2−シアノプロプ−2−イルジチオベンゾエートを除き、メチルエチルケトン400部、AIBN2.3部と増量したほかは、実施例6と同様にして得られたポリマーをそのまま水性インク用顔料分散剤Oとして用いた。
【0056】
(比較例5)
実施例7からトリチオ炭酸ビス(1−カルボキシ1−メチルエチル)を除き、エタノール400部、AIBN1.8部と増量したほかは、実施例7と同様にして得られたポリマーをそのまま水性インク用顔料分散剤Pとして用いた。
【0057】
(比較例6)
実施例10から2−シアノプロプ−2−イルジチオベンゾエートを除き、メチルエチルケトン200部、AIBN1.8部と増量したほかは、実施例10と同様にして得られたポリマーをそのまま水性インク用顔料分散剤Qとして用いた。
【0058】
【表1】

【0059】
表1中の略号は、以下のものを示している。
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
MA−nBu:マレイン酸モノn−ブチル
SSNa:スチレンスルホン酸ナトリウム
St:スチレン
αMeST:α−メチルスチレン
MMA:メタクリル酸メチル
nBMA:メタクリル酸n−ブチル
BzMA:メタクリル酸ベンジル
nBA:アクリル酸n−ブチル
2EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
SMA:メタクリル酸ステアリル
AAm:アクリルアミド
M−90G:メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール#400
2HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
TTCBCME:トリチオ炭酸ビス(1−カルボキシ1−メチルエチル)
CPDB:2−シアノプロプ−2−イルジチオベンゾエート
AIBN:2,2’−アゾビスイソブチロニトリル
MEK:メチルエチルケトン
IPA:イソプロパノール
EtOH:エタノール
PMA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
KOH:水酸化カリウム
酸価:未中和モノマー酸基由来のポリマー酸価
【0060】
(水性インク組成物の調整)
水性インク用顔料分散剤(A〜Q)と顔料とを表2に示す割合で撹拌混合してプレミックス処理後、ビーズミルで練肉し、更に蒸留水、その他インク調整に必要な材料を表2記載のとおり混合し、対応する水性インク組成物(a〜q)を調整した。
【0061】
【表2】

【0062】
表2中の略号は、以下のものを示している。
CB:カーボンブラック(MA−100 :三菱化学製)
CY:フタロシアニンブルー(C.I.Pigment Blue 15:3 :東洋インキ製造製)
WH:チタンホワイト(二酸化チタン TIPAQUE CR−90 :石原産業製)
MA:マゼンタ(C.I.Pigment Red 57:1 :東洋インキ製造製)
レットダウンエマルション:スチレン系エマルション(不揮発分:52.5%、酸価:25mgKOH/g、ガラス転移温度:85℃、平均粒子径:150nm)
シリコン系消泡剤:FSアンチフォームDB−110N(東レ・ダウコーニング製)
【0063】
(評価結果)
顔料分散安定性
各水性インク組成物(a〜q)をビンに入れて密栓し、40℃で7日間保存した時の顔料の凝集による沈降物等変化の有無を目視で顔料分散安定性を評価し、結果を表3、表4に記載した。
A:沈降物が発生せず、分離状態も認められない。
B:沈降物が発生もしくはインク上層と下層の濃度感が異なり分離状態が認められる。
【0064】
印刷濃度
チタンホワイト以外の各水性インク組成物(a〜f、i〜o、q)をザーンカップNo.4で12秒となるようインク粘度を蒸留水で調整し、坪量160g/mのKライナー紙にハンドプルーファー(160線/inch)を用いて全面印刷したものをマクベス濃度計で測定した。表3に示す測定値は、ランダムに選択した異なる3箇所の印刷面の測定値の平均値とした。結果を表3に記載した。
なお、転移性が良好なほど、印刷濃度の数値が高くなる。
【0065】
白色度
チタンホワイト水性インク組成物(g、h、p)を坪量160g/mのKライナー紙にNo.8のバーコーターで塗布した印刷物に対して、分光光度計(ローレンツェン&ベットレー製)を用いて白色度を測定した。結果を表4に記載した。
【0066】
レベリング性
上記印刷濃度または白色度測定に使用した各印刷物の泳ぎ(すじムラ)、色ムラの程度を目視にて測定した。なお、泳ぎ、色ムラが認められないものをA、泳ぎ、色ムラが著しいものをDとして、A〜Dで相対評価した。結果を表3、表4に記載した。
【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
構造制御したポリマーの実施例
(実施例12)
<ブロックポリマーの合成>
攪拌機、温度計、窒素導入管、還流冷却管の備わった4つ口フラスコに、スチレン60部、トリチオ炭酸ビス(1−カルボキシ1−メチルエチル)2.7部、AIBN0.3部仕込み、窒素雰囲気下、内温80℃で10時間保持した。保温後、内容物をメチルエチルケトン15部、エタノール10部に完全に溶解し、アクリル酸40部及びAIBN0.04部を加えて、窒素雰囲気下再び内温を80℃に昇温しそのまま20時間保持した。保温後、蒸留水1489.5部及び48.5%水酸化カリウム水溶液77.2部を加え、還流冷却管を蒸留管に換えて常圧下、及び適宜減圧下で内温が95℃になるまで系内の残存モノマー及び溶媒を除去した。その後室温まで冷却してポリマー固形分6.0%のアルカリ可溶化ポリマー水溶液を得た。このポリマーの数平均分子量(Mn)は9800、重量平均分子量(Mw)は13700、Mw/Mn=1.40であった。これをそのまま、水性インク用顔料分散剤Rとして用いた。
【0070】
(実施例13)
<マクロモノマーの合成>
実施例12と同様のフラスコに、メチルエチルケトン300部を仕込み、窒素雰囲気下、昇温し内温を80℃とした。そこへAIBN2.4部及び3−メルカプトプロピオン酸4.0部を添加した後、スチレン200部を滴下してラジカル重合させ、末端にカルボキシル基を有するポリマーの溶液を得た。次いで溶媒分別法により不要な低分子量及び高分子量成分を排除したポリマーを分取した。分取したポリマーを十分に乾燥した後、該ポリマー乾燥物100部を再びメチルエチルケトン150部に溶解した。その溶液にテトラブチルホスニウムブロミド1.0部、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.1部、及びメタクリル酸グリシジル2.7部を加えて80℃で6時間反応させることにより、末端に二重結合(エチレン性不飽和結合)を導入し、マクロモノマーを得た。このマクロモノマーの数平均分子量(Mn)は5300、重量平均分子量(Mw)は8600であった。また、H−NMRを使用して、末端に二重結合(エチレン性不飽和結合)を有するマクロモノマーの割合を測定したところ、98%のマクロモノマーに二重結合が導入されていることがわかった。
【0071】
<グラフト型ポリマーの合成>
実施例12と同様のフラスコに、上記のマクロモノマー(ポリマー固形分40%)150部、トリチオ炭酸ビス(1−カルボキシ1−メチルエチル)2.3部、アクリル酸40部、AIBN0.3部を仕込み、窒素雰囲気下80℃で15時間保持した。保温後、蒸留水1489.5部及び48.5%水酸化カリウム水溶液77.2部を加え、還流冷却管を蒸留管に換えて常圧下、及び適宜減圧下で内温が95℃になるまで系内の残存モノマー及び溶媒を除去した。その後室温まで冷却してポリマー固形分6.0%のアルカリ可溶化ポリマー水溶液を得た。このポリマーの数平均分子量(Mn)は7400、重量平均分子量(Mw)は12900、Mw/Mn=1.74であった。これをそのまま、水性インク用顔料分散剤Sとして用いた。
【0072】
(比較例7)
<ニトロキシドラジカル開始剤の合成>
ブロックポリマー合成に用いる開始剤のニトロキシドラジカルは、特表2005−534712号に記載の方法に従って、純度70%の2−メチル−2−[N−(tert−ブチル)−N−(ジエトキシホスホリル−2,2−ジメチルプロピル)アミノオキシ]−プロピオン酸(以下、NR剤という)を合成した。
【0073】
<ブロックポリマーの合成>
ブロックポリマーの合成はMacromolecures2003,36,p8260−p8267の記載の方法を参考に行った。
攪拌機、温度計、圧力計、調圧弁、窒素導入管の備わったオートクレーブに、1,4−ジオキサン150部、アクリル酸40部、AIBN1.0部、上記純度70%のNR剤を7.0部仕込み、窒素雰囲気の0.2MPa加圧下、内温120℃で5時間保持した。保温後スチレン60部を加えて、内温120℃で更に10時間保持した。保温後、室温まで冷却してポリマー溶液をヘキサンに投入し、ポリマーの沈殿物を十分に乾燥して数平均分子量(Mn)は8200、重量平均分子量(Mw)は12000、Mw/Mn=1.46のポリマーを得た。得られたポリマー質量部に対応する蒸留水、及び塩基化合物として水酸化カリウムをポリマー酸価に対し100%当量分を加え、内温90℃で2時間溶解した。その後室温まで冷却してポリマー固形分6.0%のアルカリ可溶化ポリマー水溶液を得た。これをそのまま、水性インク用顔料分散剤Tとして用いた。
【0074】
(比較例8)
<マクロモノマーの合成>
実施例12と同様のフラスコに、メチルエチルケトン150部を仕込み、窒素雰囲気下、昇温し内温を80℃とした。そこへAIBN1.2部及び3−メルカプトプロピオン酸2.0部を添加した後、スチレン100部を滴下してラジカル重合させ、末端にカルボキシル基を有するポリマーの溶液を得た。次いで、その溶液にテトラブチルホスニウムブロミド1.0部、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.1部、及びメタクリル酸グリシジル2.7部を加えて80℃で6時間反応させることにより、末端に二重結合(エチレン性不飽和結合)を導入し、マクロモノマー(ポリマー固形分40%)を得た。このマクロモノマーの数平均分子量(Mn)は3600、重量平均分子量(Mw)は8200、末端に二重結合を有するマクロモノマーの割合は98%であった。
【0075】
<グラフト型ポリマーの合成>
実施例12と同様のフラスコに、上記のマクロモノマー(ポリマー固形分40%)150部、アクリル酸40部、AIBN1.3部及びイソプロパノール50部を仕込み、窒素雰囲気下80℃で4時間保持し、その後更に0.5部のAIBNを投入して80℃で5時間保持した。保温後、蒸留水1502.4部及び48.5%水酸化カリウム水溶液64.3部を加え、還流冷却管を蒸留管に換えて常圧下、及び適宜減圧下で内温が95℃になるまで系内の残存モノマー及び溶媒を除去した。その後室温まで冷却してポリマー固形分6.0%のアルカリ可溶化ポリマー水溶液を得た。このポリマーの数平均分子量(Mn)は5800、重量平均分子量(Mw)は13300、Mw/Mn=2.29であった。これをそのまま、水性インク用顔料分散剤Uとして用いた。
【0076】
(水性インクジェット顔料インク組成物の調整)
実施例12、13及び比較例7、8で合成した水性インク用顔料分散剤R〜Uを191.3部、顔料としてカーボンブラック(MA−100:三菱化学製)67.5部、蒸留水146.3部、ジエチレングリコール45部、イソプロパノール1部をプレミックス後、ビーズミルで練肉し、各々の顔料分散体を得た後、その顔料分散体30部に、グリセリン10部、エチレングリコール5部、蒸留水55部を混合して、各水性インクジェット顔料インク組成物(r〜u)を調製した。
【0077】
(評価結果)
顔料分散安定性
実施例12、13比較例7、8の各水性インクジェット顔料インク組成物(r〜u)の平均粒子径(D50値)をレーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置(マイクロトラックUPA150:日機装製)で測定し、(A)インク調整1日後、及び(B)6ヵ月後の分散度合と経時での凝集度合(B/A)を評価し、結果を表5に記載した。顔料分散度合の指標であるD50値は、100nm以下であることがインクジェットインクとして好ましく、顔料分散安定性評価の指標である経時での凝集度合(B/A)は、1.1以下であることが好ましい。
【0078】
印字濃度
実施例12、13比較例7、8の各水性インクジェット顔料インク組成物(r〜u)を空のエプソン製カートリッジ(MC1BK01)に充填し、エプソン製インクジェットプリンタ(MC−2000)にて市販のPPC用紙にベタ印字し、乾燥させた後その印字濃度をマクベス濃度計で測定した。表5に示す測定値は、ランダムに選択した異なる3箇所の印刷面の測定値の平均値とした。
【0079】
吐出性
上記印字濃度測定に使用した印刷物を下記の基準により、目視で評価した結果を表5に記載した。
A:よれ、ぬけがない
B:よれがある
C:よれ、ぬけがある
ここで、「よれ」とは、吐出していないノズルはないが、細い白い筋が入る場合をいい、「ぬけ」とは、吐出していないノズルがあり、太い白い筋が入る場合をいう。
【0080】
耐マーカー性
上記印字濃度測定に使用したインクジェットプリンタにて、市販のPPC用紙に「星光PMC株式会社」と印字し、乾燥させた後その印字上に水性顔料マーカー(OPTEX CAREピンク:ZEBRA製)にてマーキングし、汚れを目視にて判定した結果を表5に記載した。
A:全く汚れが認められない。
B:若干こすれて汚れが認められる。
C:文字がこすれて汚れ、読みにくい。
【0081】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)不飽和カルボン酸及び/又は不飽和スルホン酸 8〜50質量%と、
(2)疎水性モノマーであるスチレン類及び/又は(メタ)アクリル酸エステル 92〜50質量%とを
重合して得られるポリマーからなる水性インク用顔料分散剤であって、
前記ポリマーが、
1)「−S−C(=S)−」もしくは「−S−C(=S)−S−」又は
2)「−SH」
のうち少なくとも1つの構造を有し、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCと略することがある。)によるポリスチレン換算数平均分子量(以下、Mnと略することがある)が、2000〜40000であり、
重量平均分子量(以下、Mwと略することがある)と数平均分子量(Mn)の比(以下、Mw/Mnと略することがある)が1.8以下であり、
数平均分子量(Mn)500未満及び20万以上の割合の合計が全体の5%未満であることを特徴とする水性インク用顔料分散剤。
【請求項2】
(1)不飽和カルボン酸及び/又は不飽和スルホン酸 8〜50質量%と、
(2)疎水性モノマーであるスチレン類及び/又は(メタ)アクリル酸エステル 92〜40質量%と、
(3)前記(1)と前記(2)に共重合可能なモノマー0〜10質量%とを
重合して得られるポリマーからなる水性インク用顔料分散剤であって、
前記ポリマーが、
1)「−S−C(=S)−」もしくは「−S−C(=S)−S−」又は
2)「−SH」
のうち少なくとも1つの構造を有し、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCと略することがある。)によるポリスチレン換算数平均分子量(以下、Mnと略することがある)が、2000〜40000であり、
重量平均分子量(以下、Mwと略することがある)と数平均分子量(Mn)の比(以下、Mw/Mnと略することがある)が1.8以下であり、
数平均分子量(Mn)500未満及び20万以上の割合の合計が全体の5%未満であることを特徴とする水性インク用顔料分散剤。
【請求項3】
ポリマーを重合するにあたってリビングラジカル重合を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の水性インク用顔料分散剤。
【請求項4】
リビングラジカル重合するにあたってRAFT剤を用いることを特徴とする請求項3に記載の水性インク用顔料分散剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水性インク用顔料分散剤を含有する水性インク組成物。

【公開番号】特開2010−95591(P2010−95591A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266553(P2008−266553)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】