説明

水性インク組成物及び画像形成装置

【課題】フェザリングやブリーディング、紙のカールの少ない高画質な画像を普通紙で得ることが可能であり、また、反応液・処理液といったインク以外の消耗品をなるべく使用せず、様々な被記録材に、画像濃度が高く、定着性が良い高画質な画像を得ることが可能であり、また、中間転写体上のインク水分を蒸発させるような大きな熱エネルギーを必要としない省エネルギーなインク組成物及びこれを用いた画像形成装置の提供。
【解決手段】水性溶媒と、この水性溶媒中に溶解または分散した着色剤と、疎水性Aセグメントと親水性BセグメントとからなるABA型両親媒性高分子と、このABA型両親媒性高分子を前記水性溶媒に溶解または分散せしめるアニオン性界面活性剤とを少なくとも含み、pHによって粘度変化する水性インク組成物及びこれを用いた画像形成装置100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドによりインク等の記録液を吐出して画像形成を行うインクジェット方式の画像形成装置に記録液として用いられる水性インク組成物及びこの水性インク組成物を用いて画像形成を行うかかる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のノズルからインク等の記録液を吐出するヘッドを備えインクジェット記録を行うインクジェットプリンタ等の画像形成装置が知られている(たとえば、〔特許文献1〕〜〔特許文献33〕参照)。
【0003】
インクジェット記録は、数十μmといった微細なノズルからインクを吐出するため、インクの目詰まり等の問題からインクの着色剤として溶解性の高い染料が用いられてきた。染料インクは発色性に優れており、写真プリントにおいて銀塩写真に匹敵する画質を得ることができるが、その反面、耐水性・耐光性・対ガス性など画像保存性に劣る問題を有している。この問題を補うため、インクの着色剤として顔料の利用が進められ、工業用の大判プリンタから、現在ではパーソナル市場やオフィス市場のプリンタにも搭載されている。
【0004】
普通紙にカラー画像を印字する際には、2色重ね部分等の色境界でのにじみ(ブリーディング)を押さえるために、インクに界面活性剤などを添加することによりインクの紙への浸透性を高めることが行われている(インクに界面活性剤などを添加することについて、たとえば、〔特許文献1〕参照)。インクの紙への浸透性を高めることにより色境界でのにじみは低減できるが、その反面、普通紙を形成するセルロース繊維にそって浸透するので文字や細線の印字周辺部ににじみ(フェザリング)が発生しやすくなる。
【0005】
ブリーディングとフェザリングの防止を両立させるため、黒文字の印字にのみ浸透性の低いインクを使用する等の工夫がなされているが、その場合には、黒色インクの乾燥性が悪く高速印字が困難であるという問題が残る。
【0006】
そこで、インク中の着色剤を定着するための材料(水溶性高分子、白色顔料等)を予め塗工したインクジェット専用の被記録材が提案されている(たとえば、〔特許文献2〕〜〔特許文献5〕参照)。これらのインクジェット記録に適した専用紙を用いることにより、画像品質は格段に改善される。しかしながら、専用紙はコスト面で問題があり、特にビジネス用途では普通紙に高画質で印字することが求められる。
【0007】
普通紙などの一般的な被記録材に対応するため、被記録材上に予めカルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のポリマー溶液を噴射し、ついでそのポリマー溶液が付着した部分にインクを吐出して印字するインクジェット記録方法が提案されている(たとえば、〔特許文献6〕参照)。しかし、これらのポリマー溶液ではフェザリングは抑えられず、また耐水性も改善されなかった。
【0008】
また、インクジェット記録ヘッドを用いて画像を形成する装置であって、インクを吸収する吸水性樹脂粒子を被記録材に塗布する手段と、インクを被記録材に塗布された吸水性樹脂粒子上に吐出させる手段と、前記吸水性樹脂粒子を被記録材に定着させる手段とを有する画像形成装置が提案されている(たとえば、〔特許文献7〕参照)。しかしながら、吸水性樹脂粒子は吸湿しやすく、装置内あるいは保管時に吸湿により塊状となり、被記録材に吸水性樹脂粉体を均一に塗布することが困難になるなどの不具合を生じやすい。
【0009】
また、インク中の着色剤を不溶化する化合物を含む被記録材の前処理液を被記録材上にインクジェット方法により付着した後にその被記録材の前処理液が付着した部分にインクを吐出して画像形成するインクジェット記録方法が提案されている(たとえば、〔特許文献8〕〜〔特許文献10〕参照)。これらの方法では、ブリーディングとフェザリングとの両者がある程度の水準で改善される。しかしながらこれらの方法では、前処理液を安定して吐出せしめるために、前処理液の粘度を低くする必要があり、よって着色剤を不溶化せしめる化合物を低濃度にせざるをえなかった。このような前処理液で十分な画質改善効果を得るためには、前処理液を比較的多量に付与しなければならず、水分を含む液体を多量に被記録材に付与するため、被記録材のカールやコックリングが発生しやすかった。
【0010】
また、シリコーンオイルなどのシリコーン化合物とカチオン性化合物とを少なくとも含有した無色の液体組成物を被記録材に塗布した後、アニオン性成分を含有するインクをインクジェット記録方式により被記録材に付着させる画像形成方法が提案されている(たとえば、〔特許文献11〕参照)。しかしながら、シリコーン化合物が付着した被記録材部分はインクの浸透性が著しく低いため画像部の乾燥が遅いという問題があった。
【0011】
また、インクの浸透性や濡れ性を改善するため、着色剤を不溶化する化合物および所定の界面活性剤を含有する画像記録促進液を被記録材に対して付与した後、インクをインクジェット記録方式により被記録材に付着させることにより画像を形成する方法が提案されている(たとえば、〔特許文献12〕参照)。この方法によれば、画像記録促進液中の界面活性剤がインクの被記録材に対する浸透性や濡れ性を改善するため、画像の乾燥性が向上し高速記録に対応が可能となるものの、着色材を不溶化せしめる成分量が少ないため、ブリーディングやフェザリングの防止効果が不十分であり、更なる改善が求められていた。
【0012】
また、インクの着色剤を不溶化せしめる多価金属塩を含む反応液を被記録材に塗布する技術が提案されている(反応液に多価金属塩を含むことについて、たとえば、〔特許文献13〕〜〔特許文献15〕参照)。この技術により画像品質は大きく向上した。
【0013】
一方、インク非浸透性の中間転写体上にインクジェット記録方法によりインク像を形成し、その後インク像を中間転写体から被記録材に転写する中間転写方式と呼ばれる方法が提案されている(たとえば、〔特許文献16〕、〔特許文献17〕参照)。中間転写方式では、記録ヘッドを記録紙から離して配置することが可能であり、紙粉の付着による記録ヘッドのノズルの目詰まりが抑制可能である。また、記録ヘッドと記録紙とのギャップを常に一定に保つことは一般に困難であるが、記録ヘッドと中間転写体とのギャップは一定に保つことが可能であり、また、紙種対応性が良く、したがって中間転写体を用いる方式は信頼性が高い。しかしながら、高い転写率を得るために離型性の良い材料で中間転写体を構成すると、ブリーディングや、ビーディングと言われる隣接液滴の集合が、激しく生じやすくなり、画像品質が低下しやすいという問題があった。
【0014】
かかる中間転写方式を改良するものとして、インクを中間転写体上に吐出してインク像を形成した後、中間転写体上でインクの大半の水分を蒸発させて、濃縮したインクを紙等の被記録材に転写する方法が提案されている(たとえば、〔特許文献18〕参照)。この方法では、一旦、中間転写体上に良好な画像が形成されれば、一般に使用されている、所謂、普通紙上でも良好な画像品質を得ることができる。しかしながら、常温ではインクの濃縮に時間を要するため、中間転写体を加熱してインク中の溶媒の蒸発を促進する必要があり、大きなエネルギーを必要とする問題があった。
【0015】
また、中間転写体の表面にポリアクリル酸などの吸水性樹脂粒子の層を設けて、中間転写体に付与されるインク中の水分を吸収した後に、吸水性樹脂粒子ごと被記録材に転写する方法が提案されている(たとえば、〔特許文献19〕、〔特許文献20〕参照)。この方法は、普通紙上でも良好な画像品質を得ることができるが、前述のインクを吸収する吸水性樹脂粒子を被記録材に塗布する手段等を用いる技術と同様に、保管時の吸湿により吸水性樹脂粒子が塊状となり、中間転写体上に均一に塗布することが困難になるなどの問題がある。
【0016】
また、インクを被記録材に吐出せしめて画像を形成する前または後に、インク中の成分と反応する多価金属塩やポリアリルアミンを含む反応液を中間転写体上に付着させて被記録材に付与する方法が提案されている(たとえば、〔特許文献21〕参照)。この方法は、従来法と比較して被記録材に付着する反応液を少なくし、被記録材に生じるカールやコックリングを低減することが可能である。
【0017】
また、カチオン性高分子化合物と界面活性剤および/又は濡れ促進剤とを含む処理液を中間転写体上に付与し、該処理液とインクジェット方式で吐出されるインクを接触・混合せしめ、その後、被記録材に転写する画像形成方法が提案されている(たとえば、〔特許文献22〕参照)。
同様に、アニオン性のインク着色剤と反応し凝集作用を引き起こす多価金属塩などを含む処理液を中間転写体上に付与し、該処理液とインクジェット方式で吐出されるインクを接触・混合せしめ、その後、被記録材に転写する画像形成方法が提案されている(たとえば、〔特許文献23〕〜〔特許文献25〕参照)。より具体的には、最低造膜温度(MFT)が30度以下の水溶性樹脂をさらにインクもしくは処理液に含有させることによって、画像に耐擦過性をさらに付与することができることが提案されている(たとえば、〔特許文献23〕参照)。また、転写前の画像に水溶性樹脂を付与することで同様に耐擦過性を付与することができることが提案されている(たとえば、〔特許文献24〕参照)。処理液と反応する着色剤とは別のもう一つの反応成分として、樹脂粒子表面にイオン性基を有する樹脂エマルジョンをインクにさらに含ませて、凝集作用の追加効果により着色剤の凝集力が高まることが提案されている(たとえば、〔特許文献25〕参照)。
また、インクと接触・混合した際に、混合液のpHを大きく変化せしめる処理液を中間転写体に付与することが提案されている(たとえば、〔特許文献26〕参照)。
【0018】
これら反応液・処理液は、中間転写体上及び被記録材上の画像品質に係わる課題(ブリーディング・フェザリング・ビーディング)に対して効果的である。しかしながら、反応液・処理液を紙や中間転写体へ全面塗布した場合、非画像部分は未使用なため非効率という問題点がある。また、インクの他に消耗品が増えることで、ランニングコストが上がる問題点がある。また、反応液・処理液は水をベースとしており、最終的に紙に吸収される水分量が多くなり、カールやコックリングが発生しやすくなる。プリント速度が速くなるほどこのカールやコックリングの傾向が顕著になり問題となる。そのため、かかる反応液・処理液は、可能であれば使用しないことが望ましい。
【0019】
フェザリングやブリーディングといった被記録材での滲み・混色以外にも、インク着色剤が顔料系の場合の定着性(耐擦性)が問題となる場合がある。定着性を向上させる方法として、樹脂エマルジョンをインク中に含むことが提案されている(たとえば、〔特許文献33〕参照)。また、樹脂エマルジョンではなく比較的低分子の水溶性樹脂をインク中に含むものも提案されているように、被記録材表面での顔料粒子の定着性向上には樹脂が必要である。
上述のように、普通紙に対して高画質かつ高速、高信頼で記録するために、種々の提案がなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
以上のような事情から、フェザリングやブリーディング、紙のカールの少ない高画質な画像を普通紙で得ることが可能なインク組成物及びこれを用いた画像形成装置の提案が待たれているところであった。また、反応液・処理液といったインク以外の消耗品をなるべく使用せず、様々な被記録材に、画像濃度が高く、定着性が良い高画質な画像を得ることが可能なインク組成物及びこれを用いた画像形成装置の提案が待たれているところであった。また、中間転写体上のインク水分を蒸発させるような大きな熱エネルギーを必要としない省エネルギーなインク組成物及びこれを用いた画像形成装置の提案が待たれているところであった。
【0021】
本発明は、フェザリングやブリーディング、紙のカールの少ない高画質な画像を普通紙で得ることが可能であり、また、反応液・処理液といったインク以外の消耗品をなるべく使用せず、様々な被記録材に、画像濃度が高く、定着性が良い高画質な画像を得ることが可能であり、また、中間転写体上のインク水分を蒸発させるような大きな熱エネルギーを必要としない省エネルギーなインク組成物及びこれを用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本発明は、水性溶媒と、この水性溶媒中に溶解または分散した着色剤と、疎水性Aセグメントと親水性BセグメントとからなるABA型両親媒性高分子と、このABA型両親媒性高分子を前記水性溶媒に溶解または分散せしめるアニオン性界面活性剤とを少なくとも含み、pHによって粘度変化する水性インク組成物にある。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、水性溶媒と、この水性溶媒中に溶解または分散した着色剤と、疎水性Aセグメントと親水性BセグメントとからなるABA型両親媒性高分子と、このABA型両親媒性高分子を前記水性溶媒に溶解または分散せしめるアニオン性界面活性剤とを少なくとも含み、pHによって粘度変化する水性インク組成物にあるので、水性インク組成物のpHを制御可能な画像形成装置に用いることで、良好な画像を形成することに寄与することが可能な水性インク組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を適用した画像形成装置の一実施例にかかる概略正面図である。
【図2】図1に示した画像形成装置においてヘッドから中間転写体に記録液が付与される様子を示す概略図である。
【図3】図1に示した画像形成装置においてヘッドから吐出された記録液中の色剤がプロトンを介して凝集した状態を示す概念図である。
【図4】図1に示した画像形成装置においてカソードとアノードとの間に形成される記録液による液柱の状態を示す概念図である。
【図5】図1に示した画像形成装置においてpHに応じて記録液の粘度変化が起こることを説明するための概念図である。
【図6】本発明を適用した画像形成装置の他の実施例にかかる概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に本発明を適用した画像形成装置の概略を示す。画像形成装置100は、インクジェットプリンタとしてのプリンタであってフルカラーの画像形成を行うことが可能となっている。画像形成装置100は、外部から受信した画像情報に対応する画像信号に基づき画像形成処理を行なう。
【0026】
画像形成装置100は、一般にコピー等に用いられる普通紙の他、OHPシートや、カード、ハガキ等の厚紙や、封筒等の何れをもシート状の記録媒体としてこれに画像形成を行なうことが可能である。画像形成装置100は、記録媒体である記録用紙としての被記録体である転写紙Sの片面に画像形成可能な片面画像形成装置であるが、転写紙Sの両面に画像形成可能な両面画像形成装置であってもよい。
【0027】
画像形成装置100は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色に色分解された色にそれぞれ対応する像としての画像を形成可能な、当該色のインクとしての記録液を吐出する記録液吐出体としてのインクヘッドである記録ヘッドとしてのヘッド61Y、61M、61C、61BKを有している。
【0028】
ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、画像形成装置100の本体99の略中央部に配設された中間転写ドラムである中間転写ローラとしての中間転写体37の外周面に対向する位置に配設されている。ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、中間転写体37の移動方向であって図1において時計回り方向であるA1方向の上流側からこの順で並んでいる。同図において各符号の数字の後に付されたY、M、C、BKは、イエロー、マゼンタ、シアン、黒用の部材であることを示している。
【0029】
ヘッド61Y、61M、61C、61BKはそれぞれ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(BK)の画像を形成するための画像形成手段としての記録液吐出装置であるインク吐出装置60Y、60M、60C、60BKに備えられている。なお、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、図1の紙面に垂直な方向に複数が並設された態様で、インク吐出装置60Y、60M、60C、60BKに備えられたラインヘッドである。
【0030】
中間転写体37は、A1方向に回転している状態で、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKに対向する領域で、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKからイエロー、マゼンタ、シアン、黒の記録液が順次重ね合わされる態様で吐出されて付与され、その表面である一次画像形成面上に一次画像である画像が形成されるようになっている。このように、画像形成装置100は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKを中間転写体37に対向させA1方向に並設したタンデム構造となっている。
【0031】
ヘッド61Y、61M、61C、61BKによる中間転写体37に対する記録液の吐出すなわち付与は、イエロー、マゼンタ、シアン、黒の各色の画像領域が中間転写体37上の同じ位置に重なるよう、A1方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして行われる。
【0032】
図1に示すように、画像形成装置100は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKをそれぞれ備えたインク吐出装置60Y、60M、60C、60BKと、中間転写体37を備え中間転写体37のA1方向への回転に伴って転写紙Sを搬送する用紙搬送ユニットとしての搬送ユニット10と、転写紙Sを多数枚積載可能であり積載した転写紙Sのうち最上位の転写紙Sのみを搬送ユニット10に向けて給送する給紙ユニット20と、搬送ユニット10によって搬送されてきた画像形成済み言い換えるとプリント済みの転写紙Sを多数積載可能な排紙台25とを有している。
【0033】
画像形成装置100はまた、中間転写体37の上方において中間転写体37に対向するように配設され、記録液が転写紙Sに転写された後の中間転写体37から、中間転写体37上すなわち一次画像形成面上に残留している記録液を除去してクリーニングするためのクリーニング手段としてのクリーニングユニットであるクリーニング装置40と、ヘッド61Y、61M、61C、61BKを一体に支持したヘッド支持体としてのキャリッジ62とを有している。
【0034】
画像形成装置100はまた、図2(b)に示すようにヘッド61Y、61M、61C、61BKから吐出された直後の記録液による液柱がヘッド61Y、61M、61C、61BKと中間転写体37との間を一時的にブリッジした状態で中間転写体37とヘッド61Y、61M、61C、61BKとの間に電位差が形成されるように、かかる液柱の状態の記録液の内部に電極酸化反応もしくは電極還元反応に起因する電流成分を含んだ通電を行う通電手段33と、画像形成装置100の動作全般を制御する、図示しないCPU、メモリ等を含む制御手段としての制御部98とを有している。
【0035】
インク吐出装置60Y、60M、60C、60BKと、搬送ユニット10と、クリーニング装置40と、キャリッジ62と、通電手段33と、制御部98に備えられた、ヘッド61Y、61M、61C、61BKの図示しない制御基板とは、印字ユニットを構成している。
【0036】
搬送ユニット10は、中間転写体37の他に、中間転写体37に対向して配置され中間転写体37に従動回転し中間転写体37との間の転写部31を転写紙Sが通過するときに中間転写体37上に担持された記録液による一次画像をその転写紙Sに転写して転写記録する転写記録手段である転写手段としての加圧ローラである転写ローラ38を有している。
【0037】
搬送ユニット10はまた、給紙ユニット20から給送されてきた転写紙Sを転写部31に向けて搬送する搬送ローラ32と、搬送ローラ32によって搬送されてきた転写紙Sを一旦停止させるとともに、中間転写体37上に形成された画像が中間転写体37のA1方向への回転に伴って転写部31に至るタイミングに応じて停止させた転写紙Sを転写部31に給送するレジストローラ34とを有している。
【0038】
搬送ユニット10はまた、給紙ユニット20から給送されてきた転写紙Sを転写部31に案内するとともに、転写部31を通過した転写紙Sを排紙台25に案内するガイド板39と、中間転写体37をA1方向に回転駆動する図示しない駆動手段としてのモータ等とを有している。このように、画像形成装置100は、転写紙Sへの画像形成を中間転写体37を用いて間接的に行う間接方式の画像形成装置となっている。
【0039】
図2に示すように、中間転写体37は、アルミニウム製の支持体37aと、支持体37a上に形成された導電性シリコーンゴム製の表面層37bからなっている。支持体37aの材質はアルミニウムに限られるものではなく、良導電性で機械的強度がある必要があり、金属や合金によって形成される。表面層37bは、導電性シリコーンゴム製に限らず、導電性及び撥水性が高く平滑な弾性材料で形成すれば良い。表面層37bの導電性は、中間転写体37とヘッド61Y、61M、61C、61BKとの間に電圧を印加してこれらの間に形成された記録液のブリッジに水の電気分解を起こさせるのに必要な機能である。表面層37bの撥水性は、記録液が中間転写体37の表面層37bから転写紙Sへ転写するときの転写しやすさの指標となり、撥水性が高いほど転写率が良い。ただしその反面、撥水性が高いと、粘度が不十分な記録液では、表面層37bへの着弾位置での固定化が困難でビーディングの原因となるというトレードオフの関係がある。表面層37bの弾性は、転写の際に必要な機能で、表面層37bが転写紙Sの繊維に沿って変形することで接触面積が向上し高い転写率が達成される。低い圧力で転写するには表面層37bの材料としてある程度柔らかい材料を選択しなければならない。
【0040】
表面層37bのこれらの機能を満たす材料としては、例えば、フルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴムなどのゴム材料にカーボンブラックやカーボンナノチューブ、金や銀などの金属微粒子を混入させた導電性ゴムが挙げられる。導電性を上げるためには導電性微粒子を増やすことが考えられるが、表面の導電性微粒子の密度が高いと撥水性低下の要因となる。導電性は、支持体37aと表面層37bとの膜厚方向に対して有していれば良く、面方向には絶縁の異方導電性であっても良い。導電性微粒子の大きさは、画像を構成する20〜50μm程度のドットより十分小さい必要があり、0.1μm以下であれば問題ない。また、表面層37bは、撥水性を上げるためシリコンオイルを含浸させたものでも構わないし、単層構造、多層構造のどちらでも構わない。
【0041】
表面層37bのバルク物性と表面物性は以下のものが好ましい。撥水性は水の後退接触角が60°以上、好ましくは80°以上であり、硬度はJIS−Aで60以下、好ましくは40以下である。また、表面層の厚みは0.1〜1mm程度がよく、0.2〜0.6mmが好適である。電気抵抗率は1000Ω・cm以下、好ましくは10Ω・cm以下である。
【0042】
図1に示すように、給紙ユニット20は、転写紙Sを多数枚積載可能な給紙トレイ21と、給紙トレイ21に積載された転写紙Sのうち最上位の転写紙Sのみを搬送ユニット10に向けて給送する送り出しローラとしての給紙ローラ22と、給紙トレイ21及び給紙ローラ22を支持した筐体23と、給紙ローラ22を、ヘッド61Y、61M、61C、61BKにおける記録液の吐出タイミングに合わせるように回転駆動し転写紙Sを給送させる図示しない駆動手段としてのモータ等とを有している。
【0043】
クリーニング装置40は、中間転写体37に当接し中間転写体37上の記録液をクリーニングするための絶縁性のクリーニング部材としての図示しないクリーニングブレードを有している。クリーニングブレードは、中間転写体37にその一部すなわち先端を当接することで、中間転写体37表面の記録液、具体的には転写後に残留している記録液を掻き取るような機能があればよく、耐磨耗性を有する。
【0044】
キャリッジ62は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKに劣化等が生じたときにこれらが新規のものに交換可能であるように、またメンテナンスを容易にするために、ヘッド61Y、61M、61C、61BKと一体で、本体99に対して着脱可能となっている。ヘッド61Y、61M、61C、61BKもそれぞれ、劣化等が生じたときに新規のものに交換可能であるように、またメンテナンスを容易にするために、独立して本体99に対して着脱可能となっている。これによって、交換作業、メンテナンス作業が容易化されている。
【0045】
インク吐出装置60Y、60M、60C、60BKは、用いる記録液の色が異なるものの、その余の点では互いに略同様の構成となっている。インク吐出装置60Y、60M、60C、60BKはそれぞれ、ヘッド61Y、61M、61C、61BKをそれぞれ複数、主走査方向に並設され、インク吐出装置60Y、60M、60C、60BK、画像形成装置100はフルライン型となっている。
【0046】
インク吐出装置60Y、60M、60C、60BKは、複数のヘッド61Y、61M、61C、61BKに供給される当該色の記録液を収容したメインタンクとしての記録液カートリッジであるインクカートリッジ81Y、81M、81C、81BKと、インクカートリッジ81Y、81M、81C、81BK内に収容された記録液を各ヘッド61Y、61M、61C、61BKに向けて圧送し給送するための供給ポンプとしての図示しないポンプと、ポンプによってインクカートリッジ81Y、81M、81C、81BK側から供給されてきた記録液を各ヘッド61Y、61M、61C、61BKに分配して供給する記録液供給部であるインク供給部としてのディストリビュータである図示しないディストリビュータタンクとを有している。
【0047】
インク吐出装置60Y、60M、60C、60BKはまた、ディストリビュータタンク内の記録液量の不足を検出するために同記録液量を検知する記録液量検知手段であるインク量検知手段としての図示しないインク量検知センサと、インクカートリッジ81Y、81M、81C、81BKとディストリビュータタンクとの間の記録液の給送路をポンプとともに形成している図示しないパイプと、ディストリビュータタンクと各ヘッド61Y、61M、61C、61BKとの間の記録液の給送路を形成している図示しないパイプとを有している。
【0048】
インクカートリッジ81Y、81M、81C、81BKは、内部の記録液が消費されて残り少なくなったときあるいはなくなったとき等に新規のものに交換可能であるように、またメンテナンスを容易にするために、本体99に対して着脱可能となっている。
【0049】
ポンプは、制御部98によって作動を制御される。具体的には、インク量検知センサによってディストリビュータタンク内の記録液量の不足が検出されたことを条件として、ヘッド61Y、61M、61C、61BKによる記録液の吐出が停止されているときに、この不足が検出されなくなるまで駆動され、インクカートリッジ81Y、81M、81C、81BK内の記録液をディストリビュータタンクに供給する。この点、制御部98は記録液供給制御手段であるインク供給制御手段として機能する。その他、制御部98は、画像形成装置100において駆動される構成については、特に説明しない場合であっても、その駆動を制御するようになっている。
【0050】
記録液は、イエロー、マゼンタ、シアン、黒に対応した着色剤である色剤と、この色剤の溶媒と、疎水性Aセグメントと親水性BセグメントとからなるABA型両親媒性高分子と、このABA型両親媒性高分子を前記水性溶媒に溶解または分散せしめるアニオン性界面活性剤とを少なくとも含んでいる。溶媒は安全性の観点及び後述する電気分解を生じせしめるための導電性の観点から水を含んだ水性溶媒であり、記録液は水性インク組成物となっている。色剤は、溶媒中に溶解または分散して溶媒中にて帯びるイオン性がアニオン性の、アニオン性着色剤及び/又はアニオン性樹脂を使用している。
【0051】
ABA型両親媒性高分子の疎水性Aセグメントすなわち疎水性Aブロックは、以下のいずれのものでも適用可能である。たとえば炭素数12以上の直鎖アルキル基であるドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシルなどである。また、分岐アルキル基として、2−デシルドデシル、2−ドデシルドデシル、2−デシルヘキサデシルなどの組み合わせが上げられる。また、芳香族含有アルキル基として、フェニルアルキル、ジフェニルアルキル、トリフェニルアルキル、ナフチルアルキル、ジナフチルアルキル、トリナフチルアルキル、アントラセニルアルキル、ベンゼン環が分岐点の分岐アルキル基であるフェニル基を含んだジアルキルフェニルアルキル、トリアルキルフェニルアルキル、また、環状アルキル基含有として、シクロヘキシルアルキル、ジアルキルシクロヘキシルアルキル、トリアルキルシクロヘキシルアルキル、シクロペンチルアルキル、ジアルキルシクロペンチルアルキル、トリアルキルシクロペンチルアルキルなどがある。このように、疎水性Aブロックは、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、環状アルキル基、フェニル基の何れかを少なくとも含むことが望ましい。
【0052】
また、疎水性モノマーによるブロック重合体であっても構わない。たとえば、スチレン重合体、アクリル酸アルキル重合体、メタクリル酸アルキル重合体、アクリルアミドアルキル重合体、メタクリルアミドアルキル重合体などが挙げられる。
【0053】
ABA型両親媒性高分子の親水性Bセグメントすなわち親水性Bブロックは水性溶媒に対して親和性があるものであればいずれのものでも適用可能である。水性溶媒中で疎水会合による物理架橋でインク組成物の粘度を増加させるためには、親水性Bブロックは疎水性Aブロックに対して十分鎖長が長い(大きい)必要があり、そのようなものとして直鎖ポリエチレンオキサイドを含むエチレンオキサイド重合体やプロピレンオキサイド重合体などの100量体以上のものが挙げられる。親水性Bブロックは、親水部分が分岐した多分岐ポリエチレンオキサイドを含む4−Arms構造や6−Arms構造であっても構わない。Armsは、疎水性Aブロックを意味している。このように、親水性Bブロックは、直鎖ポリエチレンオキサイド、多分岐ポリエチレンオキサイドの何れかを少なくとも含むことが望ましい。
【0054】
またこのように、ABA型両親媒性高分子は、疎水性Aブロックを3つ以上備えたAB型両親媒性高分子であることが望ましい。これは、後述する疎水性Aセグメント同士の疎水会合が起こりやすくなり、pH変化に対する粘度応答性が向上するためである。なお、ABA型両親媒性高分子における「ABA型」とは、親水性Bブロックを中心として親水性Bブロックと複数の疎水性Aブロックとが結合した構造であることを意味している。
【0055】
親水性Bブロックとしては、そのほかにはビニルアルコール重合体、ビニルエーテル重合体、ビニルピロリドン重合体、アクリルアミド重合体、メタクリルアミド重合体、及びそれらの誘導体など挙げられる。また、イオン性の場合でもよく、アクリル酸塩重合体、メタクリル酸塩重合体、アクリル酸アルキル四級アンモニウム塩重合体、メタクリル酸アルキル四級アンモニウム塩重合体、アクリルアミドアルキル四級アンモニウム塩重合体、スチレンスルホン酸塩重合体などが挙げられる。また、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、メチルデンプン、エチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、カルボキシメチルデンプンなどのデンプン誘導体、アルギン酸プロピレングリコールなどのアルギン酸誘導体、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲンなどの動物系ポリマーの誘導体、グアーガム、ローカストビーンガム、クインスシードガム、カラギーナンなどの植物系ポリマーの誘導体、キサンタンガム、デキストラン、ヒアルロン酸、プルラン、カードランなどの微生物系ポリマーの誘導体等も挙げられる。
疎水性Aブロックと親水性Bブロックの化学結合は安定であればいずれでもよく、たとえばエーテル結合、ウレタン結合、アミド結合、エステル結合などが挙げられる。
【0056】
ABA型両親媒性高分子を水性溶媒に溶解または分散せしめるアニオン性界面活性剤は、水性溶媒に溶解させた際に緩衝作用を持つことが望ましい。これは、電離度が比較的小さいアニオン性界面活性剤を用いることにより、少量のプロトンの投入によりABA型両親媒性高分子を含有する水性溶媒を増粘させることが可能になるためである。言い換えると、投入したプロトンのうち水性溶媒中の電解質成分や色材成分によって消費されるプロトン量が少なく、アニオン性界面活性剤が吸着したABA型両親媒性高分子を効率的に疎水会合させるために消費されるプロトン量を多くすることが可能となる。アニオン性界面活性剤は、プロトンを受け取ることによって親水基が疎水化され、界面活性剤としての機能を消失することがより望ましい。ここで緩衝作用とは、少量の酸や塩基が混入しても、水性溶媒のpHの値がほぼ一定に保たれるはたらきのことを言う。
【0057】
このようなアニオン性界面活性剤として、カルボン酸系アニオン性界面活性剤であるカルボン酸系界面活性剤、リン酸エステル系アニオン性界面活性剤であるリン酸エステル系界面活性剤が望ましい。
【0058】
より具体的には、カルボン酸系界面活性剤として、脂肪酸塩である脂肪族カルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルサルコシン酸塩、N−アシルグルタミン酸塩、アルファスルホ脂肪酸エステル塩、あるいは多鎖多親水基型カルボン酸塩のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。そのようなものとして、カプロン酸ナトリウム、カプロン酸カリウム、カプロン酸トリエタノールアミン、カプリル酸ナトリウム、カプリル酸カリウム、カプリル酸トリエタノールアミン、カプリン酸ナトリウム、カプリン酸カリウム、カプリン酸トリエタノールアミン、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸トリエタノールアミン、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸トリエタノールアミン、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸トリエタノールアミン、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸カリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸カリウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸トリエタノールアミン、ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウロイルサルコシンカリウム、ラウロイルサルコシントリエタノールアミン、ミリストイルサルコシンナトリウム、ミリストイルサルコシンカリウム、ミリストイルサルコシントリエタノールアミン、ステアロイルサルコシンナトリウム、ステアロイルサルコシンカリウム、ステアロイルサルコシントリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸サルコシンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシンカリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシントリエタノールアミン、ラウロイルメチルアラニンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンカリウム、ラウロイルメチルアラニントリエタノールアミン、ミリストイルメチルアラニンナトリウム、ミリストイルメチルアラニンカリウム、ミリストイルメチルアラニントリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸メチルアラニンナトリウム、ヤシ油脂肪酸メチルアラニンカリウム、ヤシ油脂肪酸メチルアラニントリエタノールアミン、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸カリウム、ラウロイルグルタミン酸トリエタノールアミン、ミリストイルグルタミン酸ナトリウム、ミリストイルグルタミン酸カリウム、ミリストイルグルタミン酸トリエタノールアミン、ステアロイルグルタミン酸ナトリウム、ステアロイルグルタミン酸カリウム、ステアロイルグルタミン酸トリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸アシルグルタミン酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸アシルグルタミン酸カリウム、ヤシ油脂肪酸アシルグルタミン酸トリエタノールアミン、2−スルホテトラデカン酸−1−メチルエステルナトリウム塩、2−スルホテトラデカン酸−1−メチルエステルカリウム塩、2−スルホヘキサデカン酸−1−メチルエステルナトリウム塩、2−スルホヘキサデカン酸−1−メチルエステルカリウム塩、アルケニルコハク酸ジカリウム、アルケニルコハク酸ジナトリウム、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム、ジラウロイルグルタミン酸リシンカリウムなどが挙げられる。
【0059】
また、リン酸エステル系界面活性剤としてアルキルリン酸塩が好ましく、そのようなものとして、ラウリルリン酸二ナトリウム、ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム、ラウリルリン酸二トリエタノールアミン、ラウリルリン酸トリエタノールアミン、ミリスチルリン酸二ナトリウム、ミリスチルリン酸ナトリウム、ミリスチルリン酸カリウム、ミリスチルリン酸二トリエタノールアミン、ミリスチルリン酸トリエタノールアミン、パルミチルリン酸二ナトリウム、パルミチルリン酸ナトリウム、パルミチルリン酸カリウム、パルミチルリン酸二トリエタノールアミン、パルミチルリン酸トリエタノールアミン、ステアリルリン酸二ナトリウム、ステアリルリン酸ナトリウム、ステアリルリン酸カリウム、ステアリルリン酸二トリエタノールアミン、ステアリルリン酸トリエタノールアミンなどが挙げられる。
【0060】
後述するように、記録液を構成している水性インク組成物は、pHによって粘度変化するものとなっているが、本形態における記録液のpH変化は、プロトンをインク組成物に供給することを意味する。弱酸塩であるカルボキシルイオン、リン酸イオンのプロトン化するpHの目安としてpKaがある。脂肪酸塩のpKaは概ねpKa:7〜9くらいでより高いもののほうが好ましい。また、リン酸塩のように複数のpKaがあると、段階的な粘度変化を実現することが可能となる。
【0061】
ABA型両親媒性高分子の平均重量分子量としては特に制限がないが、カルボン酸系界面活性剤等で完全に溶解または分散した状態でのインクジェット吐出性を考慮すると分子量は小さいほうが好ましく、着弾後の増粘状態の強度を考慮するとポリマーの分子量は大きいほうが好ましい。そのため、1万以上10万以下の範囲のものが好ましい。また、2万以上5万以下のものがより好ましい。重合体部分の繰り返し数としては、100量体以上1000量体以下が好ましい。インク組成物中のポリマーの濃度としては、0.1重量%以上10重量%以下の範囲が好ましく、0.5重量%以上5重量%以下がより好ましい。
【0062】
吐出時の記録液の粘度は、1〜20mPa・s、好ましく2〜8mPa・sである。記録液は、後述する着弾後のpH変化による増粘により、吐出時の少なくとも10倍、好ましくは100倍、より好ましくは1000倍以上の粘度増加を生じ、ゲル状態になる。その他、記録液の物性の好適な範囲は、表面張力が10〜60mN/m、好ましくは20〜50mN/m、導電率が0.01〜1S/m、好ましくは0.02〜0.2S/mである。
【0063】
記録液に含有させる着色剤成分すなわちアニオン性の色剤であるアニオン性染料の具体例としては、たとえば、カラーインデックスにおいて酸性染料、直接性染料、食用染料に分類される染料が挙げられる。
より具体的には、酸性染料および食用染料として、C.I.アシッドイエロー 17、23、42、44、79、142 C.I.アシッドレッド 1、8、13、14、18、26、27、35、37、42、52、82、87、89、92、97、106、111、114、115、134、186、249、254、289 C.I.アシッドブルー 9、29、45、92、249 C.I.アシッドブラック 1、2、7、24、26、94 C.I.フードイエロー 3、4 C.I.フードレッド 7、9、14 C.I.フードブラック 1、2等がある。
【0064】
直接性染料として、C.I.ダイレクトイエロー 1、12、24、26、33、44、50、86、120、132、142、144 C.I.ダイレクトレッド 1、4、9、13、17、20、28、31、39、80、81、83、89、225、227 C.I.ダイレクトオレンジ 26、29、62、102 C.I.ダイレクトブルー 1、2、6、15、22、25、71、76、79、86、87、90、98、163、165、199、202 C.I.ダイレクトブラック 19、22、32、38、51、56、71、74、75、77、154、168、171 等がある。
【0065】
反応性染料として、C.I.リアクティブ.ブラック3、4、7、11、12、17、C.I.リアクティブ.イエロー1、5、11、13、14、20、21、22、25、40、47、51、55、65、67、C.I.リアクティブ.レッド1、14、17、25、26、32、37、44、46、55、60、66、74、79、96、97、C.I.リアクティブ.ブルー1、2、7、14、15、23、32、35、38、41、63、80、95等があり、溶解性の高さ、色調の良好さ、本発明にかかる方法で記録した場合の耐水性の良さから、好ましく用いられる。
【0066】
記録液に用いられる着色剤成分すなわち色剤である顔料としては、無機顔料、有機顔料が挙げられる。
無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウムなどの白色顔料や酸化鉄などの黒色顔料などが挙げられる。
有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(たとえば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(たとえば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどが使用可能である。
【0067】
また、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックが使用され得る。
より具体的には、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、81、83(ジスアゾイエローHR)、95、97、98、100、101、104、408、109、110、117、120、138、153、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、101(ベンガラ)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等がある。
【0068】
着色剤成分として顔料を含む記録液を用いる場合には、たとえば、酸化反応によりカルボキシル基が導入されたカーボンブラック、カルボキシル基やスルホン酸基を含むジアゾニウム塩から生成されるラジカルとカーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドンなどの顔料を反応させてなる自己分散性の顔料、カルボキシル基やスルホン酸基を含むラジカル開始剤とカーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドンなどの顔料を反応させてなる自己分散性の顔料、顔料の官能基とカルボン酸の無水物を反応させてなる自己分散性顔料などが好ましく用いられる。
【0069】
顔料を分散させた記録液を用いる場合に、顔料の粒径に特に制限は無いが、最大個数換算で最大頻度が20〜150nmの粒径の顔料インクを用いることが好ましい。粒径が150nmを超えると、記録液としての顔料分散安定性が悪くなるばかりでなく、記録液の吐出安定性も劣化し、画像濃度などの画像品質も低くなり好ましくないためである。また、粒径が20nm未満では、記録液の保存安定性、プリンタでの噴射特性は安定し高い画像品質も得られるが、そのように細かな粒径にまで分散せしめるのは、分散操作や、分級操作が複雑となり、経済的に記録液を製造することが困難となるためである。
【0070】
記録液は、顔料を分散させる分散剤として、アニオン性の、高分子分散剤のような高分子タイプあるいは界面活性剤のような低分子タイプの分散剤を含むことが好ましい。
アニオン性基を有する高分子タイプの分散剤の例として、ポリアクリル酸およびその塩、ポリメタクリル酸およびその塩、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体およびその塩、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体およびその塩、スチレン−アクリル酸共重合体およびその塩、スチレン−メタクリル酸共重合体およびその塩、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体およびその塩、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体およびその塩、スチレン−αメチルスチレン−アクリル酸共重合体およびその塩、スチレン−αメチルスチレン−アクリル酸共重合体−アクリル酸アルキルエステル共重合体およびその塩、スチレン−マレイン酸共重合体およびその塩、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体およびその塩、酢酸ビニル−エチレン共重合体およびその塩、酢酸ビニル−クロトン酸共重合およびその塩、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体およびその塩、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、等が挙げられる。
【0071】
これらのアニオン性高分子は、水の電気分解で発生する水素イオンと反応して凝集するため自己分散顔料単体よりも凝集性において好ましい。また、これらのアニオン性高分子は着色剤の接着機能を有するため、転写工程における中間転写体37から転写紙Sへの転写率を向上させる利点がある。
【0072】
アニオン性基を有する低分子タイプの分散剤としては、具体的には、オレイン酸およびその塩、ラウリン酸およびその塩、ベヘン酸およびその塩、ステアリン酸およびその塩、またそのような脂肪酸およびその塩、ドデシルスルホン酸およびその塩、デシルスルホン酸およびその塩、またそのようなアルキルスルホン酸およびその塩、ラウリル硫酸塩、オレイル硫酸塩などのアルキル硫酸エルテル類、ドデシルベンゼンスルホン酸およびその塩、ラウリルベンゼンスルホン酸およびその塩、またそのようなアルキルベンゼンスルホン酸とその塩、ジオクチルスルホ琥珀酸およびその塩、ジヘキシルスルホ琥珀酸およびその塩、またそのようなジアルキルスルホ琥珀酸およびその塩、ナフチルスルホン酸およびその塩、ナフチルカルボン酸およびその塩、またそのような芳香族アニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸塩、フッ素化アルキルカルボン酸およびその塩、フッ素化アルキルスルホン酸およびその塩等のフッ素系アニオン性界面活性剤などを用いた分散剤が挙げられる。
【0073】
記録液に用いる着色剤成分としての他の例は、着色樹脂微粒子によって構成された着色エマルジョンを用いた記録液である。
着色樹脂微粒子は、スチレン−アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などを油性染料、分散染料または顔料などにより着色したものである。微粒子の殻に当たる部分をポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などの親水性を有する樹脂で形成し、または反応性の界面活性剤などイオン性を有する界面活性剤で懸濁することによりたとえばアニオン性の着色微粒子が水を主体とする液媒体に懸濁された記録液が得られる。
【0074】
記録液に親水性高分子化合物を添加することで、水素イオンとの反応により記録液の増粘作用、凝集作用を強めることが可能である。
記録液に添加可能な親水性高分子化合物としては、天然系ではアラビアガム、トラガンガム、グーアガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸塩、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子またはセラック等、半合成系ではメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、力ルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子、純合成系ではポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸及びそのアルカリ金属塩、水溶性スチレン−アクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレン−マレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレン−アクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレン−マレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、等が挙げられる。
【0075】
記録液に、着色剤を含まない樹脂エマルジョン、ラテックスを添加しても良い。樹脂エマルジョンの種類によっては、転写紙S表面で樹脂エマルジョンが皮膜を形成し、画像形成が行われた場合の転写紙Sの耐光性、耐水性、耐擦性をも向上させる利点がある。懸濁相の樹脂成分としてはアクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂成分の粒子径はエマルジョンを形成する限り特に限定されないが、150nm程度以下が好ましく、より好ましくは5〜100nm程度である。市販の樹脂エマルジョンの例としては、マイクロジェルE−1002、E−5002(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001(アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製)、ボンコート5454(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE−1014(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK−200(アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学株式会社製)、などが挙げられる。
記録液中、樹脂エマルジョンは、その樹脂成分が記録液の0.1〜40重量%となるよう添加するのが好ましく、より好ましくは1〜10重量%の範囲である。
【0076】
以上述べた高分子タイプの顔料分散剤や着色エマルジョン、水溶性高分子化合物などは、ABA型両親媒性高分子と併せて、転写工程における中間転写体37から転写紙Sへの転写率を向上させるのに効果的である。
【0077】
記録液は水を主な液媒体として使用するが、記録液を所望の物性にするため、あるいは記録液の乾燥による後述するノズル61cの詰まりを防止するため、次に述べる水溶性有機溶媒を保湿剤成分として使用することが好ましい。
【0078】
水溶性有機溶媒の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、グリセリン、1,2,6−へキサントリオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ε−カプロラクタム等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0079】
また、その他の保湿成分として、ソルビトール等の糖アルコール、ヒアルロン酸等の多糖類、ポリエチレングリコール等の高分子、また、尿素、乳酸、クエン酸塩、アミノ酸系といった天然保湿成分も用いることが可能である。これらの溶媒は、水とともに単独もしくは複数混合して用いられる。これらの水溶性有機溶媒の含有量は特に制限はないが、好ましくはインク全体の1〜60重量%、更に好ましくは10〜40重量%の範囲で用いる。
【0080】
記録液中の水を電気分解させるには、記録液のイオン伝導性を上げるための電解質成分を添加する必要がある。これは、記録液を増粘させるために用いる後述する電流は短時間しか記録液に流れないため、増粘の確実性を向上するには溶液抵抗を減らすのが良く、電解質を添加すれば溶液抵抗が減少することによるものである。ただし、記録液に含まれている色剤は分散性のため、電解質を添加すると色剤の分散性を低下させる可能性がある。この点においては、電解質としては、次に述べる電解質の中でも、硝酸テトラメチルアンモニウムのような第四級アンモニウム塩がとくに好ましい。
【0081】
記録液に添加する電解質成分として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化ルビジウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、などの無機アルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸水素ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸水素カリウムなどの有機アルカリ金属塩、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、硝酸テトラメチルアンモニウム、塩化コリンなどの有機アンモニウム塩などが挙げられる。
【0082】
2価以上の多価金属塩は着色剤やABA型両親媒性高分子等の溶解または分散性を損ねるので、1価の金属塩であることが好ましい。特に電解質成分として第四級アンモニウム塩を添加するのが好ましい。第四級アンモニウムイオンは中心元素に結合したアルキル基によって電荷分散しており、着色剤やABA型両親媒性高分子等との相互作用が小さく安定に存在するためである。また、第四級アンモニウムイオンは水とのクラスターを形成しにくく、着色剤やABA型両親媒性高分子等の溶解または分散に必要な水和水を奪うことも少ない。単位分子量あたりの導電率(モルイオン伝導率)は分子量の小さい化合物が高く、四級アンモニウム塩のなかで特にテトラメチルアンモニウム塩が好ましい。また、カウンターイオンとして塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等があるが、塩化物イオンはアノードで電極反応を起こして塩素を発生するおそれがある。そのため、不活性な硝酸イオンや硫酸イオンが好ましい。
【0083】
酸性pH調整剤としては、ホウ酸、炭酸、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、塩化アンモニウム等を用いることが可能である。アルカリ性pH調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物、四級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類を用いることが可能である。
その他、必要に応じてpH緩衝剤、粘度調整剤、防腐剤、酸化防止剤、防錆剤等の添加剤を用いても構わない。
【0084】
このようにして調整された記録液は、pHによって粘度変化するという特性、具体的には、酸によって増粘するという特性を有している。すなわち、記録液は、水性溶媒と、この水性溶媒中に溶解または分散した着色剤と、疎水性Aセグメントと親水性BセグメントとからなるABA型両親媒性高分子と、このABA型両親媒性高分子を前記水性溶媒に溶解または分散せしめるカルボン酸系界面活性剤とを少なくとも含むため、記録液のpHが下がるにつれて弱酸塩であるカルボン酸系界面活性剤のカルボキシルイオンのプロトン化が進み、その界面活性機能を失うと、ABA型ポリマーはインク組成物中で安定に分散できず、複数のABA型ポリマーの疎水性Aセグメント同士が疎水会合(物理架橋)を起こして液体中にネットワーク構造を形成することにより記録液の粘度が増加する。このように、記録液は、pH変化に応答して粘度変化を示すpH応答性インク組成物となっている。増粘は、ゲル化を伴って生じる場合がある。
【0085】
図2に示すように、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、同図において下方を向く記録液吐出側において、導電性部材である導電性オリフィス61a及び絶縁性部材である絶縁性オリフィス61bを備えたノズル板61dと、導電性オリフィス61a及び絶縁性オリフィス61bに形成された孔が互いに連通して形成された微小なノズル61cとを有している。
【0086】
各ヘッド61Y、61M、61C、61BKはまた、図示を省略するが、ノズル61cから記録液を液滴化して吐出させ転写紙Sに着弾させるための、画像信号に基づいて駆動されるアクチュエータとして、ピエゾ素子の変位で液室内の記録液に圧力を加えてノズル61cから記録液を吐出させるピエゾ方式の可動アクチュエータを有しているが、アクチュエータは他の方式の可動アクチュエータであってもよい。
【0087】
その他、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、ヒータ加熱で発生するバブルで液室内の記録液に圧力を加えてノズル61cから記録液を吐出させるサーマル方式等の加熱膜沸騰方式を用いても良い。
【0088】
何れにしても、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、画像信号に応じて駆動され、中間転写体37を介して転写紙Sに記録液を付与して画像を形成する。ノズル61cは各ヘッド61Y、61M、61C、61BKに多数備えられているが、同図においてはそのうちの1つのみを図示している。ノズル61cの径は、25μmとされている。
【0089】
導電性オリフィス61aは記録液吐出側におけるヘッド61Y、61M、61C、61BKの表面をなしている。導電性オリフィス61aは後述するようにカソードとして備えられるため、金属溶出に対して耐性を有する材質によって構成する必要はなく、金属、カーボンなど導電性の高い材料によって構成されればよい。
【0090】
絶縁性オリフィス61bはヘッド61Y、61M、61C、61BKに収容された記録液と導電性オリフィス61aとの間を絶縁するためにこれらの間に介在するように設けられている。絶縁性オリフィス61bの材料は、絶縁性を有するものであれば特に限定されない。
【0091】
本形態では導電性オリフィス61aと絶縁性オリフィス61bとが接合した二重構造となっているが、これらは必ずしも接合されたものでなくともよく、また絶縁性オリフィス61bと記録液との間に他の層を介在させても良い。
【0092】
図2に示すように、通電手段33は、電源33aと、電源33aを支持体37aと導電性オリフィス61aとに接続した特に図示しない電気回路と、制御部98の機能の一部として実現され電源33aによる電圧の印加タイミング、印加時間を制御する電圧印加制御手段とを有している。電源33aは、電気回路により、陽極を支持体37aに接続され、陰極を導電性オリフィス61aに接続されている。よって、通電手段33は、支持体37a、中間転写体37をアノードとして備え、導電性オリフィス61aをカソードとして備えている。通電手段33は、後述するように、記録液が電気分解する電圧を支持体37aとヘッド61Y、61M、61C、61BKとの間に印加するための電圧印加手段として機能する。
【0093】
このような構成の画像形成装置100においては、画像形成開始の旨の所定の信号の入力により、中間転写体37が各ヘッド61Y、61M、61C、61BKに対向しながらA1方向に回転し、この過程で、イエロー、マゼンタ、シアン、黒の各色の画像領域が中間転写体37の同じ位置に重なるよう、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKから、イエロー、マゼンタ、シアン、黒の記録液が、A1方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして順次重ね合わされる態様で吐出され、中間転写体37上に一時的に画像が担持される。
【0094】
このとき、電圧印加制御手段としての制御部98により、通電手段33が駆動され、電源33aから支持体37aと導電性オリフィス61aとの間に電圧が印加されている。
この状態で、記録液が、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKから中間転写体37上に付与される。このとき、まず、ヘッド61Y、61M、61C、61BKから、図2(a)に示すように、ノズル61bにおいてメニスカスを形成している記録液が、同図(b)に示すように、中間転写体37に向けて移動し、記録液の先端が中間転写体37に着弾して、ノズル61cと中間転写体37との間に、記録液からなる液柱のブリッジが一時的に形成され、次いで、同図(c)に示すように、記録液からなる液柱のブリッジが分断されることによって、中間転写体37に担持され、中間転写体37上に記録液による画像が形成される。ブリッジを形成している液柱の径は10μm程度であり、ブリッジ分断後に中間転写体37に担持されている記録液のドット径は50μm程度である。
【0095】
そして、図2(b)に示した、記録液からなる液注のブリッジが形成された状態では、通電手段33により、記録液中の色剤成分が凝集作用を受ける。具体的には、通電手段33の電圧印加により、カソードである導電性オリフィス61aとアノードである中間転写体37とにはそれぞれ次の電極反応が生じ、記録液の液柱のブリッジに含まれる水が電気分解される。
カソード:4HO+4e→2H+4OH・・・反応式(1)
アノード:2HO→4H+O+4e・・・反応式(2)
【0096】
これにより、アノードとして機能する中間転写体37の表面で、記録液の液柱のブリッジに含まれる水が酸化してプロトン(H+)が生成するため、図3に示すように、アニオン性分散剤Dにより分散されている顔料Pが、プロトンを介して凝集する。これにより、隣接するドット間の滲みの発生が抑制され、高精細な画像が形成される。また、かかる電圧印加によりノズル61cの目詰まりが予防されるという利点もある。なお、かかるブリッジを形成する時間は、圧電素子に印加される電磁パルスのピーク電圧とパルス幅等により制御可能である。
【0097】
ここで、図4を用いて、カソード及びアノードの間に形成される液柱のブリッジについて説明する。液柱のブリッジBの内部では、カチオン及びアニオンは、それぞれカソードC及びアノードAの近傍に移動する。その結果、カソードC及びアノードAの表面に、それぞれ電気二重層E及びEが形成されるが、電気二重層E及びEの充電速度は、液柱のブリッジBの導電率、記録液に含まれるイオンの濃度でほぼ決定される。このとき、電気二重層Eの電圧が数Vに達すると、水が電気分解してファラデー電流が流れる。その結果、アノードAの表面では、水が酸化してプロトンが生成し、アニオン性分散剤により分散されている顔料が凝集する。一方、電気二重層Eの容量は、電気二重層Eの容量よりも十分に大きいため、カソードCの表面では、水が還元しにくい。これは、カソードCである導電性オリフィス61aの面積は、アノードAとしての中間転写体37の面積よりも十分に大きいためである。なお、顔料の凝集の度合いは、プロトンの生成量、即ち、液柱のブリッジを形成する時間、通電手段33による印加電圧等により制御することが可能である。また、水が酸化してプロトンが生成する際に、酸素も発生するが、微量であることに加え、水に溶解すると考えられるため、画像形成を阻害しない。
【0098】
このようにして、電極界面での電気二重層形成に相当する非ファラデー電流と、水の電気分解に起因したファラデー電流とが発生する。中間転写体37に記録液による画像を形成するためには、通電手段33による印加電圧は、水の理論分解電圧である1.23Vや一般的な水の電気分解の条件である数V〜十数Vでは不十分であり、数十V〜数百Vであることが好ましいが、数十V〜数百Vでは水の電気分解の反応抵抗はほぼ無視できるほど小さく記録液の溶液抵抗が支配的となる。液柱のブリッジBが形成されてからノズル61c近傍で液柱が分断してブリッジ状態が終わるのは数μs〜数十μsで、この時間とファラデー電流の積が通電電荷量であり、この値が大きいほど水素イオン発生量及び水酸化物イオン発生量が増える。
【0099】
記録液は酸によって増粘するという特性を有するため、ブリッジBを形成した記録液には、図5において濃い色で示しているように増粘部Gが生ずる。水素イオンは中間転写体37の電極界面から発生するので、増粘部Gは、記録液の、中間転写体37表面に当接している部分及びその近傍に多く存在することになる。増粘部Gの存在により、中間転写体37の表面張力でドットが大きくなったり位置がずれたりといったビーディングの問題は抑制される。
【0100】
通電手段33は、ブリッジBが形成された状態で中間転写体37と導電性オリフィス61aとの間に電圧を印加して記録液に含まれる水を電気分解することで、記録液の粘度を変化させるための、具体的には増粘させるためのpH処理を行うようになっている。このような通電手段33とこれを駆動する電圧印加制御手段としての制御部98とは、かかるpH処理を行うpH制御手段として機能する。
【0101】
かかる電気分解を行うためには、ブリッジBを形成することが不可欠である。そのため、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、記録液を中間転写体37に付与するときに中間転写体37との間でかかるブリッジBを形成可能な距離で、中間転写体37に対向して配設されている。具体的には導電性オリフィス61aの表面と中間転写体37の表面とのギャップ距離が、50〜300μmの間で設定され、好ましくは100〜200μmであって、本形態では100μmとされている。200μmを超えると、記録液の種類や吐出方法によっては、ブリッジする前に記録液の表面張力により液柱がノズル61c近傍で分断して通常の液滴化が起きてしまい、導電性オリフィス61aと中間転写体37との間での記録液のブリッジによる水の電気分解が不可能となるためである。また、ギャップが小さければ記録液の着弾精度が向上するとともに、紙種対応性が良いなど、中間転写体37を用いることによる利点が得られるが、50μmを下回るとそのギャップを保つことが困難となるためである。
【0102】
中間転写体37上に担持された画像の先端が転写部31に到達するタイミングに合わせて、給紙ユニット20から給送された一枚の転写紙Sが転写部31に供給され、転写ローラ38が連れ回りしながら、転写部31を通過する転写紙Sに圧力をかけて中間転写体37に密着させ、中間転写体37上に担持されている画像を転写紙Sの表面に転写させる転写工程で、転写紙Sに画像が形成される。このように、転写ローラ38は、pH処理によって粘度が変化した記録液を中間転写体37から転写紙Sに転写するようになっている。転写によって画像が形成された転写紙Sは、排紙台25に案内され排紙台25上に積載される。
【0103】
このようにして、画像が転写紙Sに転写されるときには、増粘した記録液、記録液の反応によって形成された凝集成分等の混合物が、転写紙Sに転写される。したがって、増粘した記録液中の、凝集作用により凝集した色剤によって、画像が形成されることにより、転写紙Sが普通紙である場合であっても、フェザリングやブリーディングがビーディングとともに防止ないし抑制されつつ、高速で高画像濃度、高画質の画像形成が可能である。
【0104】
また、高速の画像形成を行うには、記録液を速乾性とすることを要するため、記録液は転写紙Sへの吸収性が一般に高いが、この場合には記録液が転写紙Sの奥深くまで浸透し、いわゆる裏移りを生じ、両面画像形成に不向きとなる。しかし、かかる増粘及び凝集作用により記録液の転写紙Sへの吸収性が低減されるためかかる裏移りが防止ないし抑制され、両面画像形成にも適している。さらにまた、記録液の転写紙Sへの吸収性が低減されることとともに増粘した記録液を紙繊維孔中に押し込めることにより転写工程を行うため、転写紙Sのコックリングやカールなどの変形も抑制ないし防止されるとともに、これによって画像を担持した転写紙Sの搬送性が向上し、ジャムが防止ないし抑制されるなど、転写紙Sの取り扱いが容易化する。
【0105】
画像形成装置100では記録液が増粘するため、粘度変化がない場合と比べて、記録液は転写紙S内部に浸透しにくくなり、速乾性が低下するとも考えられる。しかし、転写ローラ38は、中間転写体37から記録液を転写紙Sに転写すると同時に、記録液と転写紙Sとに中間転写体37との間で圧力を印加することで、転写紙S内部への記録液の浸透性を向上している。この点、転写ローラ38と中間転写体37とは記録液と転写紙Sとに圧力を印加する圧力印加手段として機能するようになっている。定着工程における圧力の印加は、速乾性の担保とともに、中間転写体37と転写紙Sとの押圧・シアリングにより転写紙Sに対する増粘した記録液とくに記録液中の色剤の定着性を向上するために行われるものである。転写ローラ38と中間転写体37とが圧力印加手段を兼ねていることにより、画像形成装置100の構造が簡易となり、小型化、低廉化に寄与している。
【0106】
転写ローラ38は、記録液による汚れ防止の観点から、表面エネルギーの低い撥水性部材を表面に配設されていることが好ましい。よって、転写ローラ38は、表面に、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体などのフッ素系樹脂、フルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴムなどのゴム材料、樹脂や金属、ゴムの表面にフッ素処理をした表面層を有している。
【0107】
転写ローラ38の表面部材としての物性は、撥水性については水の後退接触角が60°以上、好ましくは80°以上であり、硬度についてはJIS−Aで60以上、好ましくは80以上である。また、表面層の厚みは0.1〜1mm程度がよく、0.2〜0.6mmが好適である。
【0108】
加圧するときの圧力としては、1〜100kgf/cmが好ましく、5〜20kgf/cmがより好ましい。転写紙S上の記録液を加圧することで、記録液の浸透性をアシストする以外にも記録液のドットの平滑性を向上させることが可能となり、画像の光沢性が改善されるという利点がある。転写紙Sは、かかる加圧によって記録液の浸透性が向上しているため、排紙台25へのスタックの際の、他の転写紙Sの裏面への記録液の転写が防止ないし抑制される。
【0109】
図6に、画像形成装置100の別の構成例を示す。この画像形成装置100において、図1に示した画像形成装置100に備えられたのと同様の構成については、同じ符号を付して適宜説明を省略し、図1に示した画像形成装置100と異なる点について主に説明する。なお、図6に示した画像形成装置100では制御部98の図示を省略している。
【0110】
図6に示す画像形成装置100は、図1に示した画像形成装置100が備えている中間転写体37、転写ローラ38を備えておらず、ヘッド61Y、61M、61C、61BKとガイド板39とが対向した記録液の吐出部53において転写紙Sへの画像形成を直接的に行う直接方式の画像形成装置となっている。
【0111】
図6に示す画像形成装置100は、通電手段33を備えておらず、記録液への通電を行わない。そのため、pH制御手段として、転写紙Sに付与された記録液の粘度を変化させるためのpH処理を、記録液を付与される前の転写紙Sに対して行うpH処理部50を備えている。よって、図6に示す画像形成装置100は、転写紙Sに付与される前の記録液に対して中間転写体37への記録液の付与と同時にpH処理を行う図1に示した画像形成装置100と異なっている。
【0112】
なお、図1に示した画像形成装置100は、転写紙Sの搬送方向において転写ユニット20の下流側且つ転写部31の上流側、あるいはA1方向においてクリーニング装置40の下流側且つヘッド61Y、61M、61C、61BKの上流側に、pH処理部50を有していても良い。この場合、通電手段33を省略してヘッド61Y、61M、61C、61BKと中間転写体33への電圧印加を省略することも可能であり、このような省略を行う場合には、導電性オリフィス61a、中間転写体37の導電性は不要であり、たとえば表面層37bは単にシリコーンゴム製とすることが可能である。ただし、図1に示した画像形成装置100はpH処理部50を備えていない点でこれを備える場合に比べてコスト、小型化の面で有利である。
【0113】
図6に示す画像形成装置100は、図1に示した画像形成装置100が備えている中間転写体37、転写ローラ38を備えていないことに伴って、圧力印加手段として、圧力印加部70を備えている。なお、図1に示した画像形成装置100は、転写紙Sの搬送方向において転写部31の下流側且つ排紙台25の上流側に、圧力印加部70を備えていても良い。
【0114】
pH処理部50は、転写紙S表面にpH調整剤を塗布する化学的処理を行う。塗布方法は、ローラ塗布、ブレード塗布、ワイヤーバー塗布、インクジェット等によるミスト塗布など何れの場合であっても良いが、本形態ではインクジェットによるミスト塗布を採用している。
【0115】
そのため、pH処理部50は、転写紙Sの搬送方向においてレジストローラ34の上流側且つ搬送ローラ32の下流側でガイド板39に対向して配設され、転写紙SにpH調整剤を付与するpH調整剤付与手段としてのヘッド51と、ヘッド51にpH調整剤を供給するpH調整剤供給手段としてのpH調整剤収容部52とを有している。
【0116】
pH調整剤は、アルカリ性の記録液のpHを低下させるために、酸性である必要があり、たとえば、ホウ酸、炭酸、塩酸、硝酸、硫酸、塩化アンモニウム等の無機酸、および酢酸、クエン酸、シュウ酸等の有機酸をその成分としている。pH調整剤を水溶液とする場合は、記録液について述べたような保湿剤を添加してもよい。
【0117】
pH調整剤収容部52は、pH調整剤を収容しているとともに、収容しているpH調整剤をヘッド51に供給する。ヘッド51は、pH調整剤収容部51から供給されたpH調整剤を、転写紙Sがヘッド51とガイド板39との間を通過するタイミングで転写紙Sに向けて吐出する。
【0118】
圧力印加部70は、転写紙Sの搬送方向において吐出部53の下流側且つ排紙台25の上流側に配設されている。圧力印加部70は、互いに圧接された加圧ローラ71、72と、加圧ローラ71を回転駆動し、加圧ローラ72を加圧ローラ71に従動回転させる図示しないモータとを有しており、これら加圧ローラ71、72の間に、吐出部53において記録液を付与された転写紙Sを通過させるようになっている。加圧ローラ71、72の構成は転写ローラ38の構成と同じであり、加圧ローラ71、72相互間の圧力は、転写ローラ38と中間転写体37との間の圧力と同じである。
【0119】
このような構成の画像形成装置100においては、画像形成開始の旨の所定の信号の入力により、給紙ユニット20から給送された一枚の転写紙Sが吐出部53に向けて給送される。この転写紙Sは、搬送ローラ32を経た後、吐出部53において記録液を付与される側の面に、pH処理部50によってpH調整剤を塗布されて、その面を酸性にされる。次いで、この転写紙Sは、レジストローラ34によってタイミングを計られて吐出部53に供給され、吐出部53を通過する過程で、イエロー、マゼンタ、シアン、黒の各色の画像領域が同じ位置に重なるよう、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKから、イエロー、マゼンタ、シアン、黒の記録液が、その搬送方向において上流側から下流側に向けてタイミングをずらして順次重ね合わされる態様で吐出され、画像が形成される。
【0120】
記録液は、転写紙Sに付与されると、その着弾、浸透の際にpH調整剤と反応しpH変化して増粘し、図5に示したのと同様にして、図示しない増粘部を生ずる。増粘部は、記録液の、転写紙S表面に当接している部分及びその近傍に多く存在することになる。増粘部の存在により、ドットが大きくなったり位置がずれたりといったビーディングの問題は抑制される。
【0121】
また、増粘した記録液中の色剤によって画像が形成されることにより、転写紙Sが普通紙である場合であっても、フェザリングやブリーディングがビーディングとともに防止ないし抑制されつつ、高速で高画像濃度、高画質の画像形成が可能である。
【0122】
また、高速の画像形成を行うには、記録液を速乾性とすることを要するため、記録液は転写紙Sへの吸収性が一般に高いが、この場合には記録液が転写紙Sの奥深くまで浸透し、いわゆる裏移りを生じ、両面画像形成に不向きとなる。しかし、かかる記録液の増粘により記録液の転写紙Sへの吸収性が低減されるためかかる裏移りが防止ないし抑制され、両面画像形成にも適している。さらにまた、記録液の転写紙Sへの吸収性が低減されることとともに増粘した記録液を紙繊維孔中に押し込めるように加圧を行うことにより、転写紙Sのコックリングやカールなどの変形も抑制ないし防止されるとともに、これによって画像を担持した転写紙Sの搬送性が向上し、ジャムが防止ないし抑制されるなど、転写紙Sの取り扱いが容易化する。
【0123】
画像形成装置100では記録液が増粘するため、粘度変化がない場合と比べて、記録液は転写紙S内部に浸透しにくくなり、速乾性が低下しうる。しかし、吐出部53において画像が形成された転写紙Sは、圧力印加部70を通過するときに、記録液とともに圧力を印加されることで、内部への記録液の浸透性が向上している。また、かかる圧力の印加は、速乾性の担保のみならず、転写紙Sに対する記録液とくに記録液中の色剤の定着性を向上させるとともに、記録液のドットの平滑性を向上させることが可能となり、画像の光沢性を改善させるという利点がある。
【0124】
圧力印加部70を通過した転写紙Sは、排紙台25に案内され排紙台25上に積載される。転写紙Sは、圧力印加部70によって記録液の浸透性が向上しているため、排紙台25へのスタックの際の、他の転写紙Sの裏面への記録液の転写が防止ないし抑制される。
【0125】
〔評価試験1〕
以上の条件を考慮した次の実験により、図1および図6に示した各構成の画像形成装置100の画像形成性能を確かめた。
【0126】
<画像形成条件>
・実施例1〜12、比較例1、2について(図6に示した画像形成装置100に対応)
組成、重量比を次に述べるように調整した記録液を、市販のインクジェットプリンタ(リコー製GX−5000)の、ヘッド61Y、61M、61C、61BKと同等の各ヘッドにそれぞれ充填し、予め紙面pHを次に述べるように調整した紙(type6200、リコー製)に画像を形成させてその画像品質の評価を行った。
【0127】
[実施例1]
紙面pHは硫酸バンド水溶液で7に調整した。
記録液は次のとおりである。
<ブラック記録液>
・スルホン酸基結合型カーボンブラック顔料分散液(CAB−O−JET−200、固形分20質量%、キャボット製):35.0質量%
・2−ピロリドン:10.0質量%
・グリセリン:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ラウリン酸カリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.38質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
その後、水酸化リチウムの5質量%水溶液によりpH9.1に調整し、平均孔径0.8μmのメンブレンフィルターにて加圧濾過。
【0128】
<イエロー記録液>
・スルホン酸基結合型イエロー顔料分散液(CAB−O−JET−270Y、固形分10質量%、キャボット製):40.0質量%
・トリエチレングリコール:15.0質量%
・グリセリン:25.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ラウリン酸カリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.38質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
その後、水酸化リチウムの5質量%水溶液によりpH9.1に調整し、平均孔径0.8μmのメンブレンフィルターにて加圧濾過。
【0129】
<マゼンタ記録液>
・スルホン酸基結合型マゼンタ顔料分散液(CAB−O−JET−260M、固形分10質量%、キャボット製):40.0質量%
・ジエチレングリコール:20.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ラウリン酸カリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.38質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
その後、水酸化リチウムの5質量%水溶液によりpH9.1に調整し、平均孔径0.8μmのメンブレンフィルターにて加圧濾過。
【0130】
<シアン記録液>
・スルホン酸基結合型シアン顔料分散液(CAB−O−JET−250C、固形分10質量%、キャボット製):40.0質量%
・エチレングリコール:4.0質量%
・トリエチレングリコール:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ラウリン酸カリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.38質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
その後、水酸化リチウムの5質量%水溶液によりpH9.1に調整し、平均孔径0.8μmのメンブレンフィルターにて加圧濾過。
【0131】
[実施例2]
紙面pHはクエン酸水溶液で3に調整した。
記録液など、その他の条件は実施例1と同じである。
【0132】
[実施例3]
記録液に用いる疎水変性ポリエーテルウレタンを、次のように合成したものに変更した。
十分に乾燥させた分子量35000のポリエチレングリコールをクロロホルムに10質量%となるように添加して、60℃ウォーターバス中で溶解させた。その後、ポリエチレングリコールのヒドロキシル基と等量のイソシアン酸オクタデシルを添加後、触媒としてジラウリン酸ジブチルスズを少量添加して、不活性なアルゴン雰囲気下で反応を行った。60℃で12時間後、ポリエチレングリコールのヒドロキシル基の3倍と過剰なイソシアン酸オクタデシルを添加して、60℃、24時間更に反応させることで、ポリエチレングリコール末端のヒドロキシル基とイソシアネートを完全にウレタン結合で反応させた。この溶液を過剰なヘキサン中に添加することで、ポリマーをヘキサン中に沈殿させた。沈殿物を濾過、真空乾燥して白色粉末を得た。
この疎水変性ポリエーテルウレタンは、親水性Bセグメントに関して、実施例1、2で用いた疎水変性ポリエーテルウレタンよりも分子量が大きいとともに、疎水性Aセグメントに関して、実施例1、2で用いた疎水変性ポリエーテルウレタンでは、分岐アルキル基を含むものであるのに対し、この疎水変性ポリエーテルウレタンでは、直鎖アルキル基を含むものであるという違いがある。
紙面pHなど、その他の条件は実施例1と同じである。
【0133】
[実施例4]
記録液は実施例3と同じものを用いた。
紙面pHは実施例2と同じようにクエン酸水溶液で3に調整した。
その他の条件は実施例1と同じである。
[実施例5]
紙面pHは硫酸バンド水溶液で7に調整した。
記録液は次のとおりである。
<ブラック記録液>
・スルホン酸基結合型カーボンブラック顔料分散液(CAB−O−JET−200、固形分20質量%、キャボット製):35.0質量%
・2−ピロリドン:10.0質量%
・グリセリン:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ミリスチン酸カリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.38質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
その後、水酸化リチウムの5質量%水溶液によりpH9.1に調整し、平均孔径0.8μmのメンブレンフィルターにて加圧濾過。
<イエロー記録液>
・スルホン酸基結合型イエロー顔料分散液(CAB−O−JET−270Y、固形分10質量%、キャボット製):40.0質量%
・トリエチレングリコール:15.0質量%
・グリセリン:25.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ミリスチン酸カリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.38質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
その後、水酸化リチウムの5質量%水溶液によりpH9.1に調整し、平均孔径0.8μmのメンブレンフィルターにて加圧濾過。
<マゼンタ記録液>
・スルホン酸基結合型マゼンタ顔料分散液(CAB−O−JET−260M、固形分10質量%、キャボット製):40.0質量%
・ジエチレングリコール:20.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ミリスチン酸カリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.38質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
その後、水酸化リチウムの5質量%水溶液によりpH9.1に調整し、平均孔径0.8μmのメンブレンフィルターにて加圧濾過。
<シアン記録液>
・スルホン酸基結合型シアン顔料分散液(CAB−O−JET−250C、固形分10質量%、キャボット製):40.0質量%
・エチレングリコール:4.0質量%
・トリエチレングリコール:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ミリスチン酸カリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.38質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
その後、水酸化リチウムの5質量%水溶液によりpH9.1に調整し、平均孔径0.8μmのメンブレンフィルターにて加圧濾過。
[実施例6]
紙面pHはクエン酸水溶液で3に調整した。
記録液など、その他の条件は実施例5と同じである。
[実施例7]
記録液に用いる疎水変性ポリエーテルウレタンを、実施例3に記載のものに変更した。
紙面pHなど、その他の条件は実施例5と同じである。
[実施例8]
記録液は実施例7と同じものを用いた。
紙面pHは実施例6と同じようにクエン酸水溶液で3に調整した。
その他の条件は実施例5と同じである。
[実施例9]
紙面pHは硫酸バンド水溶液で7に調整した。
記録液は次のとおりである。
<ブラック記録液>
・スルホン酸基結合型カーボンブラック顔料分散液(CAB−O−JET−200、固形分20質量%、キャボット製):35.0質量%
・2−ピロリドン:10.0質量%
・グリセリン:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.35質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
その後、水酸化リチウムの5質量%水溶液によりpH9.1に調整し、平均孔径0.8μmのメンブレンフィルターにて加圧濾過。
<イエロー記録液>
・スルホン酸基結合型イエロー顔料分散液(CAB−O−JET−270Y、固形分10質量%、キャボット製):40.0質量%
・トリエチレングリコール:15.0質量%
・グリセリン:25.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.35質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
その後、水酸化リチウムの5質量%水溶液によりpH9.1に調整し、平均孔径0.8μmのメンブレンフィルターにて加圧濾過。
<マゼンタ記録液>
・スルホン酸基結合型マゼンタ顔料分散液(CAB−O−JET−260M、固形分10質量%、キャボット製):40.0質量%
・ジエチレングリコール:20.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.35質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
その後、水酸化リチウムの5質量%水溶液によりpH9.1に調整し、平均孔径0.8μmのメンブレンフィルターにて加圧濾過。
<シアン記録液>
・スルホン酸基結合型シアン顔料分散液(CAB−O−JET−250C、固形分10質量%、キャボット製):40.0質量%
・エチレングリコール:4.0質量%
・トリエチレングリコール:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.35質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
その後、水酸化リチウムの5質量%水溶液によりpH9.1に調整し、平均孔径0.8μmのメンブレンフィルターにて加圧濾過。
[実施例10]
紙面pHはクエン酸水溶液で3に調整した。
記録液など、その他の条件は実施例9と同じである。
[実施例11]
記録液に用いる疎水変性ポリエーテルウレタンを、実施例3に記載のものに変更した。
紙面pHなど、その他の条件は実施例9と同じである。
[実施例12]
記録液は実施例11と同じものを用いた。
紙面pHは実施例10と同じようにクエン酸水溶液で3に調整した。
その他の条件は実施例9と同じである。
【0134】
[比較例1]
記録液は、実施例1の記録液から疎水変性ポリエーテルウレタン及びラウリン酸カリウムを除いたものを用いた。
紙面pHなど、その他の条件は実施例1と同じである。
【0135】
[比較例2]
記録液は比較例1と同じものを用いた。
紙面pHは実施例2と同じようにクエン酸水溶液で3に調整した。
その他の条件は実施例1と同じである。
【0136】
<評価結果>
実施例1〜12、比較例1、2のそれぞれについて、判定項目であるベタ画像濃度、フェザリング、ブリーディングを表1にまとめる。
判定基準は次のとおりである。
ベタ画像濃度については、ブラック色インクのベタ画像濃度が1.3以上である場合○、1.3〜1.2の場合を△、1.2以下を×とした。
フェザリングについては、ブラック色インクの文字滲みについてランクを分けて、「非常に良好」を◎、「良好」を○、「普通」を△、「悪い」を×とした。
ブリーディングについては、イエロー色インクベタ内の文字の滲みについてランクを分けて、「非常に良好」を◎、「良好」を○、「普通」を△、「悪い」を×とした。
【0137】
【表1】

【0138】
同表から、記録液にABA型両親媒性高分子及びカルボン酸系界面活性剤を含むことにより、ベタ画像濃度が増加するとともに、フェザリングやブリーディングといった滲みが緩和されるという明らかな効果が確認される。また、ベタ画像濃度に関しては、紙面pHの酸性度が高いほうが好ましいと推測される。また、ブリーディングに関しては、疎水性Aセグメントが分岐アルキル基を含むほうが好ましく、アニオン性界面活性剤は鎖長が長い、あるいは多鎖多親水基型のものが好ましいと推測される。
【0139】
〔評価試験2〕(図1に示した画像形成装置100に対応)
<画像形成条件>
中間転写体37は、支持体37aが直径20mm、長さ250mmのアルミ素管であり、支持体37aの外周に表面層37bとして体積抵抗率が500Ω・cmの導電性シリコーンゴム層を0.2mmの厚みで形成したものであり、200mm/sで回転駆動させている。
転写ローラ38は、荷重20kgf/cmで中間転写体37に押し当てられており、中間転写体37に連れ回りする。
ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、ノズル板61dが金属で構成された、リコー製GX−5000に用いられているライン型記録ヘッドであり、中間転写体37とのギャップは約100μmで配置した。
ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、制御部98によって構成された圧電素子駆動手段により、中間転写体37表面に任意のパターンの記録液のドットを形成可能である。
記録液によって中間転写体37上に形成されたドットは、中間転写体37と転写ローラ38との間に、転写紙Sとしての普通紙(type6200)を通紙することで、転写紙S表面に転写する。
制御部98によって構成された圧電素子駆動手段により、1ドットあたり10pLとなるように記録液を吐出し、A1方向である副走査方向に約1インチ幅の連続した帯状領域に、主走査方向、副走査方向ともに300dpiのブラックインク網点を形成した。なお記録液の吐出時に流れる電流も計測した。
ブラックインクとしては、実施例1、実施例3、実施例5、実施例7、実施例9、実施例11、比較例1で用いたブラックインクそれぞれの中の蒸留水8.3質量%分を硝酸テトラメチルアンモニウム(電解質に相当)8.3質量%に置換したものを使用し、中間転写体37の駆動を途中で止め、中間転写体37上のブラックインク網点をデジタルマイクロスコープで観察してビーディング具合を評価した。
【0140】
<評価結果>
比較例1で用いたインクを使用した場合には、中間転写体37上でビーディングを起こしていたのに対し、実施例1、実施例3、実施例5、実施例7、実施例9、実施例11で用いたインクを使用した場合には、ビーディングが抑制されていた。
【0141】
〔評価試験3〕
以下、種々のアニオン性界面活性剤の緩衝作用の評価、ならびに、この緩衝作用の評価を行った各アニオン性界面活性剤を含有する記録液にプロトンを投入した際の粘度変化の評価について記述する。
【0142】
<アニオン性界面活性剤の緩衝作用>
アニオン性界面活性剤の緩衝作用を評価した結果を表2に示す。評価方法は、それぞれの材料を蒸留水に溶解させることで水溶液を作成し、それぞれの水溶液のpHと、それぞれの水溶液に0.1N HClを2ml滴下した際のpHとから、緩衝作用の有無を評価した。表2中において、pH値7以上を「高い」、pH値7未満を「低い」と記載している。表2より、スルホン酸系界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウムは緩衝作用を持たない結果となった。
【0143】
【表2】

【0144】
<記録液の粘度変化>
表2に示すアニオン性界面活性剤をそれぞれ含有し、次に述べるように調整した記録液を実施例13〜18、比較例3、4とし、これらの各記録液にプロトンを投入した際の粘度変化を評価した。プロトン投入の前後における比較を行うために、プロトン投入前のそれぞれの記録液の粘度を官能的に評価するとともに、それぞれの記録液5mlに対して0.03N HClを1ml添加した後、ならびに0.06N HClを1ml添加した後において、粘度を同じ方法で官能的に評価した。
【0145】
[実施例13]
記録液は次のとおりである。
<ブラック記録液>
・スルホン酸基結合型カーボンブラック顔料分散液(CAB−O−JET−200、固形分20質量%、キャボット製):35.0質量%
・2−ピロリドン:10.0質量%
・グリセリン:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・デカン酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤に相当):0.36質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
蒸留水:残量
【0146】
[実施例14]
記録液は次のとおりである。
<ブラック記録液(実施例1と同組成)>
・スルホン酸基結合型カーボンブラック顔料分散液(CAB−O−JET−200、固形分20質量%、キャボット製):35.0質量%
・2−ピロリドン:10.0質量%
・グリセリン:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ラウリン酸カリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.38質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
蒸留水:残量
【0147】
[実施例15]
記録液は次のとおりである。
<ブラック記録液(実施例5と同組成)>
・スルホン酸基結合型カーボンブラック顔料分散液(CAB−O−JET−200、固形分20質量%、キャボット製):35.0質量%
・2−ピロリドン:10.0質量%
・グリセリン:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ミリスチン酸カリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.38質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
【0148】
[実施例16]
記録液は次のとおりである。
<ブラック記録液>
・スルホン酸基結合型カーボンブラック顔料分散液(CAB−O−JET−200、固形分20質量%、キャボット製):35.0質量%
・2−ピロリドン:10.0質量%
・グリセリン:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ラウロイルメチルアラニンナトリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.27質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
【0149】
[実施例17]
記録液は次のとおりである。
<ブラック記録液>
・スルホン酸基結合型カーボンブラック顔料分散液(CAB−O−JET−200、固形分20質量%、キャボット製):35.0質量%
・2−ピロリドン:10.0質量%
・グリセリン:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ミリストイルメチルアラニンナトリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.44質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
【0150】
[実施例18]
記録液は次のとおりである。
<ブラック記録液(実施例9と同組成)>
・スルホン酸基結合型カーボンブラック顔料分散液(CAB−O−JET−200、固形分20質量%、キャボット製):35.0質量%
・2−ピロリドン:10.0質量%
・グリセリン:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム(アニオン性界面活性剤且つカルボン酸系界面活性剤に相当):0.35質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
蒸留水:残量
【0151】
[実施例19]
記録液は次のとおりである。
<ブラック記録液>
・スルホン酸基結合型カーボンブラック顔料分散液(CAB−O−JET−200、固形分20質量%、キャボット製):35.0質量%
・2−ピロリドン:10.0質量%
・グリセリン:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ラウリルリン酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤且つリン酸エステル系界面活性剤に相当):0.49質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
【0152】
[比較例3]
記録液は次のとおりである。
<ブラック記録液>
・スルホン酸基結合型カーボンブラック顔料分散液(CAB−O−JET−200、固形分20質量%、キャボット製):35.0質量%
・2−ピロリドン:10.0質量%
・グリセリン:14.0質量%
・プロピレングリコールモノブチルエーテル:0.9質量%
・疎水変性ポリエーテルウレタン(ABA型両親媒性高分子に相当:アデカ製):0.575質量%
・ラウリル硫酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤に相当):0.46質量%
・デヒドロ酢酸ソーダ:0.1質量%
・蒸留水:残量
【0153】
<評価結果>
実施例13〜19、比較例3のそれぞれについて、評価項目である粘度の官能評価の評価結果を表3に示す。官能評価の官能指標は、粘度値の低い順から、「極めて低い」、「非常に低い」、「低い」、「中程度」、「高い」、「非常に高い」、「極めて高い」となっている。
【0154】
【表3】

【0155】
比較例3に示すアニオン性界面活性剤を含有する記録液はプロトンを投入後も増粘しなかった。一方、実施例19に示す記録液は、少量のプロトンを投入するのみでは少ししか増粘しなかったが、多量のプロトンを投入した際には、中程度の増粘効果を示した。また、実施例13〜18に示す記録液は、大きく増粘するものが多い結果となった。実施例13〜18の記録液の結果を比較すると、アニオン性界面活性剤の鎖長が長く、また多鎖多親水基型の活性剤において、増粘効果が高いことが読み取れる。また、実施例13の記録液のように、鎖長が短すぎるものは増粘効果が小さく、これは界面活性剤としての機能が低いためであると推測される。実施例14〜18の記録液に関して、鎖長が同程度の場合には、鎖中にアミド結合等の親水基が含まれていると、増粘効果が減少する傾向がある。これは、鎖中に親水基を含まない活性剤は、プロトンを受け取ることによって完全に疎水化されることで大きな増粘効果を発揮する一方、鎖中に親水基を含む活性剤は、プロトン授与後も界面活性剤としての機能を若干有しているためであると推測される。
【0156】
以上本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0157】
たとえば、pHの調整は、被記録体上の水性インク組成物に対して行っても良い。ただし、上述の各形態のように、水性インク組成物が着弾するときにpHの調整が行われる構成のほうが、着弾時のビーディングに対して有利である。
【0158】
中間転写体はローラ状でなく、無端ベルト状であっても良い。
また、本発明を適用する画像形成装置は、上述のタイプの画像形成装置に限らず、他のタイプの画像形成装置、すなわち、複写機、ファクシミリの単体、あるいはこれらの複合機、これらに関するモノクロ機等の複合機、その他、電気回路形成に用いられる画像形成装置、バイオテクノロジー分野において所定の画像を形成するのに用いられる画像形成装置であっても良い。
【0159】
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0160】
33 電圧印加手段
33、98 pH制御手段
37 中間転写体
37、38 圧力印加手段
38 転写手段
50 pH制御手段
60Y、60M、60C、60BK 画像形成手段
70 圧力印加手段
100 画像形成装置
S 被記録体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0161】
【特許文献1】特開昭55−65269号公報
【特許文献2】特開昭56−86789号公報
【特許文献3】特開昭55−144172号公報
【特許文献4】特開昭52−53012号公報
【特許文献5】特開昭56−89594号公報
【特許文献6】特開昭56−89595号公報
【特許文献7】特開平5−96720号公報
【特許文献8】特開昭64−63185号公報
【特許文献9】特開平8−20159号公報
【特許文献10】特開平8−20161号公報
【特許文献11】特開平8−142500号公報
【特許文献12】特開平10−250216号公報
【特許文献13】特開平11−10856号公報
【特許文献14】特開2000−44855号公報
【特許文献15】特開2000−63719号公報
【特許文献16】米国特許第4538156号明細書
【特許文献17】米国特許第5099256号明細書
【特許文献18】特開昭62−92849号公報
【特許文献19】特開平11−188858号公報
【特許文献20】特開2000−343808号公報
【特許文献21】特許第3658765号公報
【特許文献22】特開2003−246135号公報
【特許文献23】特開2002−370441号公報
【特許文献24】特開2005−170036号公報
【特許文献25】特開2003−82265号公報
【特許文献26】特開2008−019286号公報
【特許文献27】特開2010−188665号公報
【特許文献28】特開2007−023297号公報
【特許文献29】特開2005−344100号公報
【特許文献30】特開2004−018640号公報
【特許文献31】特許第3595805号公報
【特許文献32】特開2003−089752号公報
【特許文献33】特開2004−026947号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性溶媒と、
この水性溶媒中に溶解または分散した着色剤と、
疎水性Aセグメントと親水性BセグメントとからなるABA型両親媒性高分子と、
このABA型両親媒性高分子を前記水性溶媒に溶解または分散せしめるアニオン性界面活性剤とを少なくとも含み、
pHによって粘度変化する水性インク組成物。
【請求項2】
請求項1記載の水性インク組成物において、
前記アニオン性界面活性剤は、水性溶媒に溶解させた際に緩衝作用を持つことを特徴とする水性インク組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の水性インク組成物において、
前記ABA型両親媒性高分子は、前記疎水性Aセグメントを3つ以上備えたAB型両親媒性高分子であることを特徴とする水性インク組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか1つに記載の水性インク組成物において、
前記疎水性Aセグメントが直鎖アルキル基、分岐アルキル基、環状アルキル基、フェニル基の何れかを少なくとも含むことを特徴とする水性インク組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか1つに記載の水性インク組成物において、
前記親水性Bセグメントが直鎖ポリエチレンオキサイド、多分岐ポリエチレンオキサイドの何れかを少なくとも含むことを特徴とする水性インク組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか1つに記載の水性インク組成物において、
前記アニオン性界面活性剤がカルボン酸系界面活性剤であることを特徴とする水性インク組成物。
【請求項7】
請求項6記載の水性インク組成物において、
前記カルボン酸系界面活性剤が、脂肪族カルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルサルコシン酸塩、N−アシルグルタミン酸塩、アルファスルホ脂肪酸エステル塩、あるいは多鎖多親水基型カルボン酸塩の何れかを少なくとも含むことを特徴とする水性インク組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか1つに記載の水性インク組成物において、
前記インク組成物の電気伝導性を向上させるための電解質を含むことを特徴とする水性インク組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか1つに水性インク組成物を画像信号に応じて被記録体に付与して画像を形成するための画像形成手段を有する画像形成装置。
【請求項10】
請求項9記載の画像形成装置において、
前記被記録体に付与された前記水性インク組成物の粘度を変化させるためのpH処理を行うpH制御手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
請求項9または10記載の画像形成装置において、
被記録体に対する前記水性インク組成物の定着性を向上させるために前記水性インク組成物を付与された被記録体に圧力を加える圧力印加手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項12】
請求項9記載の画像形成装置において、
前記画像形成手段によって前記水性インク組成物を付与される中間転写体と、
この中間転写体に前記画像形成手段によって付与された前記水性インク組成物の粘度を変化させるためのpH処理を行うpH制御手段と、
前記pH処理によって粘度が変化した前記水性インク組成物を前記中間転写体から被記録体に転写する転写手段とを有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項13】
請求項12記載の画像形成装置において、
前記画像形成手段は、前記水性インク組成物を前記中間転写体に付与するときに同中間転写体との間で同水性インク組成物のブリッジを形成可能な距離で、同中間転写体に対向して配設されており、
前記pH制御手段は、前記ブリッジが形成された状態で前記中間転写体と前記画像形成手段との間に電圧を印加して前記水性インク組成物に含まれる水を電気分解することで前記pH処理を行う電圧印加手段を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−60574(P2013−60574A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−113608(P2012−113608)
【出願日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】