説明

水性インク

【課題】自己分散性顔料と同等に、吐出曲がりやヌレ不吐の問題が解消され、特に、インクジェット記録に用いる記録ヘッドに対するインクの信頼性を有しながら、印字後の擦れによる印字汚れ耐擦過性が改善され、しかも、印字後の画像に対して水性マーカーを付与した場合に生じる印字汚れ耐マーカー性の改善された、樹脂結合タイプの自己分散性顔料を含む水性インクの提供。
【解決手段】顔料粒子の表面に有機基が化学的に結合している改質された顔料と、該顔料の分散媒としての水性媒体と、を含む水性インクであって、上記有機基は、顔料表面に直接若しくは、他の原子団を介して化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含んでいる水性インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクに関し、特に、インクジェット記録方法及びインクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置に好適な水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷インクの着色剤として、耐水性や耐光性等の堅牢性に優れた顔料が広く用いられている。インクジェット記録用のインクにおいても、インクジェット記録画像の堅牢性のより一層の向上を目指して、インク中の色材に顔料を採用することの検討が活発となってきている。ところで、顔料をインクジェット用の水性インクの色材として用いるためには、水性媒体中に顔料を安定して分散させることが肝要である。一般に、顔料を水性媒体中に均一に分散するためには、分散剤、例えば樹脂分散剤が用いられている。かかる樹脂分散剤は、一般に水性媒体に対して顔料を安定に分散させるための親水性基と、疎水性である顔料表面に物理的に吸着するための疎水性部とを有する水溶性樹脂からなっている。このような顔料インクによって得られる画像は、樹脂分散剤の存在により、耐擦過性や耐マーカー性等の点で、比較的良好な品位を備えているということができる。
【0003】
ところで、高品位なインクジェット記録画像を安定して形成するためには、インクジェット記録ヘッドの微細なノズルから、インクが安定な液滴として吐出させることが重要である。具体的に述べれば、例えばインクジェット記録ヘッドのオリフィスの乾燥によって、該オリフィスにおいてインクが固化しないことが安定なインクジェット記録を行う上で重要である。しかし、上記したような樹脂分散剤によって水性媒体中に顔料を分散させているインクジェット用のインクは、この点において課題を抱えている。即ち、上記したようなインク中には、顔料表面に吸着せずに、インク中に溶解状態で存在している樹脂分散剤が相当量あると考えられており、そのような樹脂分散剤がインクジェット記録ヘッドのオリフィス等に付着することによってノズルの目詰まりを生じさせる場合がある。
【0004】
上記したような課題に対し、顔料インクの信頼性を改善する方法が種々提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。具体的には、カーボンブラック粒子表面に水溶性基を導入することによって、分散剤を使用することなく安定に水性インク中に分散させることのできる顔料(自己分散性顔料)を色材として用いたインクが開示されている。しかしながら、かかる自己分散性顔料を用いた水性インクで記録媒体、特に普通紙上に印刷を行った場合には、インクが十分に乾いた後でも印字面を強く擦った場合に印字面が汚れてしまい、画像の耐擦過性が十分でないことがある。このように、樹脂分散剤をインクに用いないことは、インクジェット記録の信頼性のより一層の向上には有効に機能するものの、インクジェット記録物のある種の品位を損ねてしまう場合がある。
【0005】
一方、顔料表面に樹脂を化学的に結合させたタイプの自己分散性顔料を含むインクジェット用インク及びそれを用いたインクジェット記録方法の提案もある(例えば、特許文献3参照)。その中で、該自己分散性顔料は、顔料表面の官能基と反応し得る反応性基を有するセグメント(A)と、前記反応性基を実質的に有さず、且つ前記セグメント(A)よりも液媒体に対して高い親和性を示すセグメント(B)とを有する重合体を、顔料と加熱させることで得られるものであることが開示されている。
【0006】
しかしながら、この発明においては、顔料表面に反応させる重合体として特定の官能基が必要であり、使用できる重合体が限定されてしまい、又、顔料表面にも重合体と反応可能な官能基が必須であり、使用できる顔料の種類も限定されてしまう、といった問題がある。又、本発明者らの検討によれば、製造上の問題として、顔料表面と反応性基を有さないセグメントにイオン性を持たせることは難しく、水性媒体に対して十分な分散性を有する顔料を得ることは難しい、と考えられる。
【0007】
又、少なくとも1つの水可溶化官能基と、少なくとも1つの共有結合で付着されたポリマーとを含む巨大分子発色団を含んでいるインクジェット用インク組成物であって、上記ポリマーが、上記巨大分子発色団に対し、求核置換又はアシル化反応によって付着されてなるインクジェット用インク組成物についての提案もある(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、この発明においては、ポリマー中に、アミン又はヒドロキシル終端が必須であり、使用できるポリマー種が限定されてしまうこと、末端変性ホモポリマーの官能基による分散によって耐擦過性の改善はなされるものの、顔料表面に存在する基が親水性であるため、マーカーペン中の水や、水性有機溶剤によって、顔料粒子表面の親水性高分子が再溶解してしまい、耐マーカー性については不十分である、といった課題があった。
【0008】
更に、少なくとも1つの水可溶化官能基と、少なくとも1つの共有結合で付着されたポリマーとを含む、巨大分子発色団を含有するインクジェット用インク組成物についての提案もある(例えば、特許文献5参照)。この発明におけるインクジェット用インク組成物は、水溶性を付与するために付着された官能基、及び共有結合で付着されたビニルポリマー鎖の両者を有する変性された顔料粒子(巨大分子発色団)を含むが、かかる組成物を製造する場合に、顔料表面にポリマー鎖を共有結合で付加させる工程において、顔料を、モノマーと開始剤の存在下でラジカル重合させることでポリマーを成長させている。しかしながら、本発明者らの検討では、この方法では、モノマーのラジカル重合におけるポリマーの分子量制御が困難であり、又、水溶性ポリマーの水中に対する溶解性の指標としての酸価若しくはアミン価の制御も困難であり、それに加えて、それらのポリマーが顔料表面と確実に共有結合しているかが定かではなかった。つまり、成長していくポリマーの末端ラジカルが、確実に顔料表面と結合し、重合が停止するとは限らず、一部は顔料表面と結合するが、成長していくポリマー同士の結合によって重合反応が停止してしまう場合もあり、効率的にポリマーを顔料表面に結合させることは非常に困難である、という製造上の課題が認められた。
【0009】
又、複数の分子を用いた樹脂結合タイプの自己分散性顔料も知られている(例えば、特許文献6参照)。この樹脂結合タイプの自己分散性顔料は、イオン性を有する水性顔料分散が可能である。しかし、本発明者らの検討によれば、これらの樹脂結合タイプの自己分散性顔料を用いることによって、インクの記録ヘッドに対する信頼性は確保できるものの、印字後における画像の、耐擦過性や耐マーカー性については未だ改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−3498号公報
【特許文献2】特開平10−195360号公報
【特許文献3】特開平9−272831号公報
【特許文献4】特開2000−53902公報
【特許文献5】特開2000−95987公報
【特許文献6】国際公開01/51566号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、前記した自己分散性顔料と同等に、吐出曲がりやヌレ不吐の問題が解消され、記録ヘッドに対するインクの信頼性を有しながら、印字後の擦れによる印字汚れを抑制できる耐擦過性(以下、印字汚れ耐擦過性と呼ぶ)が改善され、しかも、印字後の画像に対して水性マーカーを付与した場合に生じる印字汚れに対する耐マーカー性(以下、印字汚れ耐マーカー性と呼ぶ)の改善された、樹脂結合タイプの自己分散性顔料を含む水性インクの提供、更には、かかるインクを適用することで優れたインクジェット記録方法、上記インクを使用したインクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明の一態様にかかる水性インクは、[1]顔料粒子の表面に有機基が化学的に結合している改質された顔料と、該顔料の分散媒としての水性媒体と、を含む水性インクであって、上記有機基は、顔料表面に直接若しくは、他の原子団を介して化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含んでいることを特徴とする。
【0013】
上記本発明にかかる水性インクの好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。[2]顔料表面に化学結合していない前記共重合体を含むセグメントが前記インク中に存在しているときに、上記セグメントの、上記セグメントと前記反応物との総量に対する割合が50質量%未満である上記[1]に記載の水性インク。[3]前記セグメントの、前記セグメントと前記反応物との総量に対する割合が35質量%未満である上記[2]に記載の水性インク。[4]前記セグメントの、前記セグメントと前記反応物との総量に対する割合が20質量%未満である上記[3]に記載の水性インク。[5]前記他の原子団が、フェニル(2−スルホエチル)基である上記[1]に記載の水性インク。[6]前記共重合体の多分散度Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、3以下である上記[1]に記載の水性インク。
【0014】
又、[7]前記顔料が、カーボンブラックである上記[1]〜[6]の何れかに記載の水性インク。[8]前記共重合体のMwが1,000〜20,000であり、且つ酸価若しくはアミン価が100〜500である上記[1]〜[7]の何れかに記載の水性インク。[9]ブリストウ法によって求められる前記インクのKa値が1.5(ml/m2/msec1/2)未満である上記[1]〜[8]の何れかに記載の水性インク。[10]Ka値が0.2(ml/m2/msec1/2)以上である上記[9]に記載の水性インク。
【0015】
更に、[11]前記改質された顔料中における有機基の、前記改質された顔料の全質量に対する割合が、5〜40質量%である上記[1]〜[10]の何れかに記載の水性インク。[12]前記改質された顔料中における有機基の、前記改質された顔料の全質量に対する割合が、10〜25質量%である上記[11]に記載の水性インク。[13]前記改質された顔料の、前記水性インク全質量に対する割合が、0.1〜15質量%である上記[1]〜[12]の何れかに記載の水性インク。[14]前記改質された顔料の、前記水性インク全質量に対する割合が、1〜10質量%である上記[13]に記載の水性インク。
【0016】
又、[15]更に、アルキレンオキサイド鎖を分子内に有する界面活性剤を含んでいる上記[1]〜[14]の何れかに記載の水性インク。[16]前記界面活性剤が、HLB値が15以上の該界面活性剤である上記[15]に記載の水性インク。[17]前記界面活性剤が、下記構造式(1)〜(5)で示される構造を有している化合物から選ばれる少なくとも1つである上記[15]又は[16]に記載の水性インク:

(但し、上記構造式(1)中、Rはアルキル基を表し、nは、正の整数を表す。)

(但し、上記構造式(2)中、Rはアルキル基を表し、nは、正の整数を表す。)

(但し、上記構造式(3)中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、m及びnは、夫々、正の整数を表す。)

(但し、構造式(4)中、m及びnは、夫々、正の整数を表わす。)

(但し、構造式(5)中、a、b及びcは各々、正の整数を表す。)
【0017】
又、[18]インクジェット用の水性インクである上記[1]〜[17]の何れかに記載の水性インク。
【0018】
本発明にかかる別の実施形態としては、下記のものが挙げられる。[19]上記[18]に記載の水性インクをインクジェット法で吐出する工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法。[20]上記[1]〜[18]の何れかに記載の水性インクを収容していることを特徴とするインクカートリッジ。[21]上記[18]に記載の水性インクを収容しているインク収容部と、該インクを吐出させるためのインクジェットヘッドとを具備していることを特徴とする記録ユニット。[22]上記[18]に記載の水性インクを収容しているインク収容部と、該インクを吐出させるためのインクジェットヘッドとを具備していることを特徴とするインクジェット記録装置。
【0019】
更に、本発明にかかる水性インクの好ましい形態として、[23]前記改質された顔料は、前記共重合体の良溶媒による洗浄の前後において、熱重量分析による重量減少率が変化しない、或いは実質的に変化しないものである上記[1]に記載の水性インクが挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水性インクの顔料として、顔料粒子表面の官能基と結合した状態のイオン性モノマーと疎水性モノマーとからなる共重合体セグメントを有するものを用いることで、とりわけ、インクジェット用インクとして用いた場合に、吐出曲がりや、ヌレ不吐が解消された記録ヘッドに対するインクの信頼性を有し、しかも、印字後の擦れによる印字汚れ耐擦過性や、印字後の水性マーカーによる印字汚れ耐マーカー性をも改善された水性インクが提供される。更に、本発明によれば、かかるインクを使用することで優れたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例4に使用した顔料分散液4の顔料を凝析した後の試料についての熱重量分析結果である。
【図2】実施例4に使用した顔料分散液4の顔料を凝析後、更に、THFで洗浄処理した後の試料についての熱重量分析結果である。
【図3】比較例1に使用した顔料分散液13の顔料を凝析した後の試料についての熱重量分析結果である。
【図4】比較例1に使用した顔料分散液13の顔料を凝析後、更に、THFで洗浄処理した後の試料についての熱重量分析結果である。
【図5】インクジェット記録装置ヘッドの縦断面図である。
【図6】インクジェット記録装置ヘッドの縦横面図である。
【図7】図5に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図8】インクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
【図9】インクカートリッジの縦断面図である。
【図10】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図11】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。本発明にかかる水性顔料インクは、顔料粒子の表面に有機基が化学的に結合している改質された顔料と、該顔料の分散媒としての水性媒体とを含む水性インクであるが、上記有機基が、顔料粒子表面の官能基或いは導入されてなる官能基と、該官能基と結合したイオン性モノマーと疎水性モノマーとの反応物である共重合体セグメントとを含んでいることを特徴とする。以下、本発明の水性顔料インクを構成する材料について夫々説明する。
【0023】
[顔料]
本発明の水性顔料インクにおいて使用することのできる顔料としては、特に限定されず、下記に挙げるようなものが使用可能である。そして、これらの顔料を後述する方法で改質して用いるが、本発明では、改質された顔料の、水性インク全質量に対する割合が、0.1〜15質量%、更には1〜10質量%となるようにすることが好ましい。
【0024】
黒色インクに使用される顔料としては、カーボンブラックが好適である。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックを何れも使用することができる。具体的には、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000ULTRA、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上、コロンビア社製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、モナク2000、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上、キャボット社製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(Special Black)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上、デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学社製)等の市販品を使用することができる。又、本発明のために別途新たに調製されたカーボンブラックを使用することもできる。しかし、本発明は、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックを何れも使用することができる。又、カーボンブラックに限定されず、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子や、チタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
【0025】
有機顔料としては、具体的には、例えば、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。勿論、これに限定されず、その他の有機顔料であってもよい。
【0026】
又、本発明で使用することのできる有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が例示できる。
【0027】
[官能基]
本発明にかかる水性インク中の顔料において官能基は、顔料表面に直接、若しくは他の原子団を介して化学的に結合している。該官能基は、後述する共重合体との反応によって有機基を構成するためのものであり、ここで官能基の種類は、該共重合体が担持している官能基との関連において選択される。そして、官能基と共重合体との反応は、当該顔料が水性媒体中に分散されるものであることを考慮すると、加水分解等を生じることのない結合、例えばアミド結合等を生じるような反応とすることが好ましい。該官能基をアミノ基とし、共重合体にカルボキシル基を担持させることによって、共重合体を、顔料粒子表面にアミド結合を介して導入することができる。又、官能基をカルボキシル基とし、共重合体にアミノ基を担持させることによっても同様に共重合体を顔料粒子表面にアミド結合を介して導入することができる。
【0028】
ここで、顔料表面に化学的に結合されている官能基は、直接、顔料表面に結合していてもよく、又、他の原子団を介して結合していてもよい。しかし、比較的分子量の大きな共重合体を顔料表面に導入する場合、共重合体同士の立体障害を避けるために、他の原子団を介して官能基を顔料表面に導入することが好ましい。ここで、他の原子団は、多価の元素や有機基であれば特に限定されるものではない。しかし、上記した理由により官能基の顔料表面からの距離を制御するという観点から、例えば2価の有機残基が好ましく用いられる。2価の有機残基の例は、アルキレン基やアリーレン基(フェニレン基)等を包含する。
【0029】
より具体的に述べると、例えば後述する実施例においては、顔料をアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホンと反応させて、顔料表面にアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン基を導入し、その後、ペンタエチレンヘキサミンのアミノ基とアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン基とを反応させることにより、官能基としてのアミノ基を導入している。この場合には、アミノ基は、フェニル(2−スルホエチル)基を含む原子団を介して顔料表面に化学的に結合している、ということができる。
【0030】
[共重合体]
上記イオン性モノマーと疎水性モノマーからなる共重合体としては、例えばアニオン性を有するアニオン性の共重合体、或いはカチオン性を有するカチオン性の共重合体が好適に用いられる。上記アニオン性の共重合体としては、疎水性モノマーと、アニオン性モノマーからなる共重合体、或いは、これらの塩等が挙げられる。この際に使用する代表的な疎水性モノマーとしては、次に挙げるモノマーがあるが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、スチレン、ビニルナフタレン、メチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、メタクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、p−トリルメタクリレート、ソルビルメタクリレート、メチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、アクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、p−トリルアクリレート及びソルビルアクリレート等である。
【0031】
上記において使用するアニオン性モノマーとしては、次に挙げるモノマーがあるが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0032】
本発明にかかる共重合体の一態様としての、アニオン性モノマーと疎水性モノマーと、からなるアニオン性の共重合体としては、上記に挙げた疎水性モノマーから選択された何れかと、上記に挙げたアニオン性モノマーから選択された少なくとも1つとの、少なくとも2つ以上のモノマーからなる。該共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、或いは、これらの塩等を包含する。
【0033】
かかるアニオン性の共重合体の酸価としては、100〜500の範囲のものが好ましく、且つ、酸価のばらつきが平均酸価の20%以内であるものを使用することが好ましい。酸価をかかる範囲内とすることによって、顔料表面の親水性が高過ぎて、印字後におけるインク中の水及び溶剤が顔料表面にとどまり、記録媒体への印字後における、インクの耐マーカー性の発現が遅くなることを有効に抑制することができる。又、顔料の表面の親水性が低過ぎてしまい、インク中に顔料が安定に分散しにくくなるといったことも有効に抑制することができる。
【0034】
尚、前記した塩とは、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属塩の他、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩等が挙げられ、これらを、単独或いは数種類を適宜に組み合わせて使用できる。
【0035】
上記したアニオン性の共重合体セグメントの重量平均分子量(Mw)は、重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲のものであることが好ましく、更に好ましくは、3,000〜20,000の範囲のものを使用するとよい。更に、共重合体の分子量分布の広がりを示す多分散度Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)は、3以下であることが好ましい。又、アニオン性の共重合体セグメントの含有量は、表面改質された顔料に対するアニオン性の共重合体の含有率が5質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、10質量%以上、25質量%以下の割合で使用される。アニオン性の共重合体の物性を上記したような範囲内とすることで、インクの高粘度化の抑制と分散安定性とを高いレベルで両立させることができる。
【0036】
次に、本発明にかかる共重合体の他の実施態様としての、カチオン性モノマーと疎水性モノマーとからなるカチオン性の共重合体について説明する。カチオン性の共重合体としては、下記に挙げる疎水性モノマーと、カチオン性モノマーとからなる共重合体、或いは、これらの塩等が挙げられる。代表的な疎水性モノマーとしては、次に挙げるモノマーがあるが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、スチレン、ビニルナフタレン、メチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、メタクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、p−トリルメタクリレート、ソルビルメタクリレート、メチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、アクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、p−トリルアクリレート及びソルビルアクリレート等を使用することができる。
【0037】
カチオン性モノマーとしては、次に挙げるモノマーがあるが、本発明は、これらに限定されるものではない。具体的には、例えば、アリルアミン、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、第3−ブチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N−ビニルカルバゾール、メタクリルアミド、アクリルアミド及びジメチルアクリルアミド等を使用することができる。
【0038】
カチオン性の共重合体は、上記モノマーから選ばれた疎水性モノマーと、カチオン性モノマーとを含む少なくとも2つ以上のモノマーからなるブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、或いはこれらの塩等が挙げられる。特に、カチオン性の共重合体のアミン価が100〜500の範囲のものが好ましく、又、アミン価のばらつきが平均アミン価の20%以内であることが好ましい。アミン価とは、試料1gを中和するのに要する塩酸に当量の、KOHのmg数で表す。尚、前記、塩とは、酢酸、塩酸、硝酸等が挙げられ、これらを単独或いは数種類を適宜に組み合わせて使用できる。
【0039】
上記カチオン性の共重合体は、その重量平均分子量(Mw)が、1,000〜20,000の範囲のものを好ましく使用でき、更に好ましくは、3,000〜20,000の範囲のものが好ましく使用できる。又、カチオン性の共重合体セグメントの多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)は、前記したアニオン性の共重合体と同様に、3以下であるものを使用することが好ましい。又、このようなカチオン性の共重合体のインク中における含有量は、該共重合体によって表面改質された顔料粒子に対して、その含有率が5質量%以上40質量%以下、より好ましくは、10質量%以上25質量%以下の割合となるようにする。カチオン性の共重合体の各種物性を上記したような範囲内とすることで、インクの高粘度化の抑制と分散安定性とを高いレベルで両立させることができる。
【0040】
次に、カーボンブラックを例に挙げて、顔料粒子表面に化学的に有機基を結合させて、顔料を改質する方法について説明する。本発明においては、先ず、顔料粒子表面の官能基、或いは顔料粒子表面に官能基を導入し、これらの官能基に、イオン性モノマーと疎水性モノマーとからなる共重合体を結合させ、該共重合体を顔料粒子表面に化学的に結合させる方法であれば、通常用いられる何れの方法でもよく、特に限定されない。このような方法としては、例えば、以下の方法等を用いることができる。
【0041】
カーボンブラック等の顔料粒子表面に、ポリエチレンイミン等を導入し、その末端官能基に、アミノ基を有する、イオン性モノマーと疎水性モノマーとからなる共重合体をジアゾニウム反応で結合させる方法や、カーボンブラック等の顔料粒子表面に、分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する共重合体をジアゾニウム反応で結合させる方法等の方法を用いることができる。この他のものとしては、最も典型的な例が、WO01/51566A1に開示されている。
【0042】
上記した方法において、例えば、アニオン性の共重合体を、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合させる場合には、下記の3工程を含むこととなる。
第1工程;カーボンブラックにジアゾニウム反応で、アミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン基(APSES)を付加させる工程。
第2工程;APSES処理をしたカーボンブラックに、ポリエチレンイミンやペンタエチレンヘキサミン(PEHA)を付加させる工程。
第3工程;疎水性モノマーとカルボキシル基を有するイオン性モノマーとの共重合体をつける工程。
【0043】
上記第2の工程では、第1の工程によってカーボンブラック表面に化学的に結合しているフェニル(2−スルホエチル)スルホン基と、ポリエチレンイミンやペンタエチレンヘキサミン(PEHA)等のアミノ基と、を反応させることによって、カーボンブラック表面に化学的に結合してなる官能基としてのアミノ基が導入される。そして第3の工程においては、例えば共重合体のイオン性モノマー部分が有するカルボキシル基の一部をアミノ基と反応させてアミド結合を形成させることによって、共重合体をカーボンブラックの表面に、APSESの残基であるフェニル(2−スルホエチル)基とPEHAの残基とを含む原子団を介して共重合体が導入できる。
【0044】
又、上記した方法において、例えば、カチオン性の共重合体を、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合させる場合には、下記の2工程を含むこととなる。
第1工程;カーボンブラックにジアゾニウム反応でアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン基(APSES)を付加させる工程。
第2工程;疎水性モノマーとカチオン性モノマーとの共重合体をつける工程。
上記第1の工程によって、カーボンブラック表面に化学的に結合してなる官能基としてスルホン基が導入される。そして第2の工程においては、例えば、共重合体のイオン性モノマー部分が有するアミノ基の一部をスルホン基と反応させて(求核置換)、共重合体をカーボンブラックの表面に、APSESの残基であるフェニル(2−スルホエチル)基を含む原子団を介して共重合体が導入できる。
【0045】
[フリーポリマーの存在]
ところで、本発明は、顔料表面に化学結合していない、前記共重合体を含むセグメント(以降「フリーポリマー」と称し、これには、顔料表面に物理吸着しているセグメントも包含する)がインク中に存在することを排除するものではない。しかし、フリーポリマーは、本発明に係る水性インクのインクジェット特性のより一層の向上という観点から、その量は制御されることが好ましい。具体的には、上記フリーポリマーと、顔料表面に結合している有機基との総質量を基準として、上記フリーポリマーの割合を50質量%未満、特には35質量%未満、更には20質量%未満とすることが好ましい。
【0046】
フリーポリマーを多く含むインクをインクジェット記録に用いた場合には、記録ヘッドの吐出口周りのオリフィス等にフリーな有機基が付着し、吐出口周りに不均一なぬれを生じ、インクの吐出が不規則になって吐出方向曲がりが発生し、インクの着弾点がずれるといった問題が生じることがある。又、更に、連続印字を継続すると、ノズルからインクが溢れながら吐出を繰り返していくうちに、ノズル近傍のオリフィス面にインクが付着するようになり、そのノズル近傍のインクの付着部を核として大きなインク溜りがオリフィス上に形成されることがある。この状態で、更に印字を続けた場合には、吐出すべきインクがオリフィス上のインク溜りに引き込まれ、吐出不可能になるといったヌレ不吐と呼ばれる問題が生じることがある。
【0047】
そして、記録ヘッドに対するインクの信頼性において有効な範囲は、顔料粒子表面に化学的に結合している有機基の、該有機基と該フリーポリマーとの総和に占める割合が、50%以上であることが好ましく、より好ましくは65%以上、更には、80%以上であることが好ましい。尚、この値は、後述するような方法によってインク中から取り出した乾固物試料を用い、該試料に対する熱重量分析方法等によって求めることができる。
【0048】
[水性媒体]
上記で説明したようにして得られる、該共重合体を含む有機基を顔料表面に化学的に結合させてなる顔料の分散媒である水性媒体について、以下に説明する。本発明で使用することのできる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、インクの乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。
【0049】
具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記の如き水溶性有機溶剤は、単独でも或いは混合物としても使用することができる。又、水としては、脱イオン水を使用することが望ましい。
【0050】
本発明にかかるインク中に含有される上記に挙げたような水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク全質量に対して、好ましくは3〜50質量%の範囲が好適である。又、インクに含有される水の量は、インク全質量に対して好ましくは50〜95質量%の範囲とすることが好ましい。
【0051】
又、インクの保湿性維持のために、その他、例えば、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の保湿性固形分をインク成分として用いてもよい。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等の、保湿性固形分のインク中の含有量は、一般には、インクに対して0.1〜20.0質量%の範囲が好ましく、より好ましくは3.0〜10.0質量%の範囲である。
【0052】
更に、本発明にかかるインクには、上記成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤等の、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0053】
[界面活性剤]
本発明において、界面活性剤としては、例えばアルキレンオキサイド鎖(エチレンオキサイド鎖、プロピレンオキサイド鎖等)を分子内に有しているものが好適に用いられる。又、界面活性剤のHLB(Hydrophile-Liophile Balance)値としては、10以上、特には15以上が好ましい。又、界面活性剤の添加量は、インク組成により一概に規定できないが、インク全質量に対して0.1〜5質量%、特には0.3〜1質量%が適当である。このような界面活性剤の添加により、本発明にかかる水性インク中の、顔料の分散安定性のより一層の向上を図ることができる。又、インクジェット用の水性インクの特性として、イニシャルの吐出安定性、及び長期間の吐出安定性のより一層の向上を図ることができる。ここで、本発明に用いることのできる界面活性剤の具体例の一部を、以下に示す。
【0054】

上記構造式(1)中、Rはアルキル基、具体的には少なくとも6個の炭素数を有する直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基である。nは、正の整数、好ましくは10以上の整数である。より具体的には、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等が挙げられる。
【0055】

上記構造式(2)中、Rはアルキル基、具体的には少なくとも6個の炭素数を有する直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基であり、nは、正の整数、好ましくは10以上の整数である。より具体的には、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルや、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0056】

上記構造式(3)中、Rは水素原子又はアルキル基、具体的には少なくとも1〜6個の炭素数を有するアルキル基であり、又、m及びnは、夫々、正の整数を表し、好ましくはm+nが少なくとも10である。上記構造式(3)にかかる界面活性剤1分子中におけるエチレンオキサイド鎖の含有率としては、10〜80wt%のものが好ましい。
【0057】

上記構造式(4)中、m及びnは、夫々、正の整数を表す。
【0058】

上記構造式(5)中、a、b、cは各々、正の整数であり、好ましくはa+b+cは、少なくとも10である。又、上記構造式(5)にかかる界面活性剤1分子中におけるエチレンオキサイド鎖の含有率としては、10〜80wt%のものが好ましい。
【0059】
上記したような構成を有する本発明にかかるインクは、筆記具用インクや、インクジェット用インクに用いることができる。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出するバブルジェット(登録商標)記録方法があるが、本発明のインクは、これらの記録方法に特に好適である。
【0060】
ところで、本発明にかかるインクを、上記したようなインクジェット記録に用いる場合には、該インクが、インクジェット記録ヘッドから良好に吐出できる特性を有することが好ましい。このため、インクジェット記録ヘッドからの吐出性という観点からは、インクの特性が、例えば、その粘度が1〜15mPa・s、表面張力が25mN/m以上、更には、粘度が1〜5mPa・s、表面張力が25〜50mN/mとすることが好ましい。
【0061】
又、インクの、記録媒体への浸透性を表わす尺度として、ブリストウ法によって求められるKa値がある。即ち、インクの浸透性を1m2あたりのインク量Vで表わすと、インク滴を吐出してから所定時間tが経過した後における、インクの記録媒体への浸透量V(mL/m2=μm)は、下記に示すブリストウの式によって示される。
V=Vr+Ka(t−tw)1/2
【0062】
ここで、インク滴が記録媒体表面に付着した直後には、インクは、記録媒体表面の凹凸部分(記録媒体の表面の粗さの部分)において吸収されるのが殆どで、記録媒体内部へは殆ど浸透していない。その間の時間がコンタクトタイム(tw)であり、コンタクトタイムに記録媒体の凹凸部に吸収されたインク量がVrである。そして、インクが付着した後、コンタクトタイムを超えると、該コンタクトタイムを超えた時間、即ち、(t−tw)の1/2乗べきに比例した分だけ記録媒体への浸透量が増加する。Kaは、この増加分の比例係数であり、浸透速度に応じた値を示す。そして、Ka値は、ブリストウ法による液体の動的浸透性試験装置(例えば、商品名:動的浸透性試験装置S;東洋精機製作所製)等を用いて測定可能である。
【0063】
そして、前記した本発明の各実施態様にかかるインクにおいて、このKa値を1.5(ml/m2/msec1/2)未満とすることは、記録画像品質をより一層向上させる上で好ましく、更に好ましくは、0.2(ml/m2/msec1/2)以上1.5(ml/m2/msec1/2)未満とすることである。即ち、Ka値が1.5(ml/m2/msec1/2)未満である場合に、インクの記録媒体への浸透過程の早い段階で固液分離が起こり、フェザリングが極めて少ない高品質な画像を形成することができる。
【0064】
尚、本発明におけるブリストウ法によるKa値は、普通紙[例えば、キヤノン(株)製の、電子写真方式を用いた複写機やページプリンタ(レーザビームプリンタ)やインクジェット記録方式を用いたプリンタ用として用いられるPB紙や、電子写真方式を用いた複写機用の紙であるPPC用紙等]を記録媒体として用いて測定した値である。又、測定環境としては、通常のオフィス環境、例えば、温度20〜25℃、湿度40〜60%を想定している。
【0065】
ところで、本発明に係る水性インクによる効果としては、以下のことが挙げられる。先ず、第1の効果としては、本発明にかかる顔料は、その表面に直接若しくは他の原子団を介して化学的に結合されている官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含むので、表面を改質する場合に用いられる共重合体の形成材料であるイオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合比率を適宜に変化させることができ、これにより、改質された顔料の親水性を適宜に調整することが可能である。又、使用するイオン性モノマー及び疎水性モノマーの種類や、両者の組み合わせを変化させることができるため、顔料表面に様々な特性を付与できる。更に、インク化する際に、このような顔料と組み合わせて使用する溶媒の選択によって、インクとしての特性のコントロールも可能になる。
【0066】
又、第2の効果としては、本発明者らの検討によれば、顔料表面に結合している共重合体中に疎水性モノマーを用いると、インクの印字汚れ耐マーカー性が向上することがわかった。以下、この耐マーカー性の向上の理由について説明する。
【0067】
先ず、顔料の表面改質に親水性の高分子を用いると、記録媒体への定着後、紙面上で、顔料粒子表面の高分子の絡まり合いが生じ、これによって顔料の凝集力が強くなり、この結果、インクの印字汚れ耐擦過性(耐擦れ性)は向上する。しかしながら、水溶性のマーカーペンで印字面を擦った場合には、顔料表面に存在するものが親水性であるために、マーカーペン中の水や、水性有機溶剤によって、顔料粒子表面の親水性高分子が再溶解してしまうため、マーカーペンの擦れと共に顔料粒子が解けるように流れ出し、その結果、印字汚れ耐マーカー性が発現しにくくなると考えられる。
【0068】
これに対して、本発明で使用する顔料は、顔料表面に化学的に結合している、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体を含む有機基を有するため、先ず、記録媒体への印字後、紙面上で顔料粒子表面の共重合体の絡まり合いにより顔料の凝集力が強くなって、インク定着後の印字汚れ耐擦過性が向上する。この点では、上記の親水性の高分子による表面改質顔料を使用したインクの場合と同様である。しかしながら、該有機基は、イオン性モノマーと疎水性モノマーの共重合体を有しているため、インクの定着の過程において、インク中の水及び有機溶剤が乾燥若しくは浸透していく際に、顔料表面の高分子が絡まり合うだけでなく、印字物の最表面に、顔料表面に結合している共重合体の疎水部が外側を向くように配向すると考えられる。このため、印字物の最外表面に、共重合体の疎水部が配向することになり、印字物の表面は疎水性になる。この結果、水溶性のマーカーペンで印字面を擦った際にも、マーカーペンのインク中の水や有機溶剤に顔料粒子が再溶解し難くなり、マーカーペンの擦れによる顔料粒子の流れ出しを抑制することができる。
【0069】
[分析方法]
以下、顔料にカーボンブラックを用いた水性顔料インクを例にとって、本発明にかかるインクの特性を評価する際に用いた、分析方法及び評価方法について説明する。しかし、これによって本発明にかかるインクに使用する顔料が、特に限定されるわけではない。本発明で使用する粒子表面が改質された顔料の、表面改質状態を分析する方法としては特に限定されず、通常考えられ得る方法を用いて分析を行うことができる。好ましくは、ESCAやTOF−SIMS等で、カーボンブラック等の顔料粒子表面に存在する有機基の結合状態を分析する方法が挙げられる。
【0070】
カーボンブラック粒子の表面に化学的に結合している有機基の量等を測定する方法も特に限定されないが、例えば、下記の方法によって行うことができる。先ず、前記表面改質したカーボンブラックを含むインクから、塩析若しくは凝析によってインク中から有機基で改質されたカーボンブラック粒子を含む固形分を分取する。そして、この方法によってインク中から取り出した固形分から、表面改質されたカーボンブラック(有機基が粒子表面に化学的に結合しているカーボンブラック)のみを高純度で分取するには、更に、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合させた共重合体の良溶媒で、インク中から取り出した固形分を洗浄、乾燥するといった方法を用いることができる。以下、更に詳細な、インク中から表面改質されたカーボンブラックを分取する方法、分取後、乾燥して得られた乾固物を測定用試料として用いることで行う、表面改質されたカーボンブラック粒子表面に結合している有機基の量の測定、或いはフリーポリマーとしてインク中に存在していることのある該共重合体部分を含むセグメントの量を測定する分析方法について説明する。
【0071】
先ず、分析に先だって、以下のようにして前処理を実施し、測定用試料を調製する。上記で説明した表面改質されたカーボンブラックを含むインクから、塩析若しくは凝析して沈澱物として得られる固形分を乾固させ、その後に、共重合体の良溶媒を用いて洗浄してから、該有機基が粒子表面に化学的に結合しているカーボンブラックのみの抽出処理を行う。その方法は、(1)塩析若しくは凝析、(2)沈澱物の洗浄、(3)乾固、(4)表面改質カーボンブラックのみの抽出、及び(5)乾燥、という一連の手順によって行うことができる。以下、順を追って説明する。
【0072】
(1)インク中から、表面改質カーボンブラックを含む固形分を塩析若しくは凝析させる方法としては特に限定されず、例えば、(a)塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩で塩析させる、(b)硝酸や塩酸等の酸を用いて凝析(酸析)させる、等の方法を用いることができる。この際、必要に応じて、塩析等の前工程として、例えば、限外濾過等を行ってもよい。
【0073】
(2)上記塩析若しくは凝析等によって得られる固形分を純水で十分に洗浄する。特に、(1)に記載した(b)の凝析を行う際には、洗浄後の濾液が中性になるまで十分に洗浄を行うことが好ましい。
【0074】
(3)上記で得られる洗浄後の固形分は、オーブン等で十分に乾燥し、乾固物として取り出す。この際の乾燥条件等は特に限定されず、例えば、60℃で2時間程度乾燥させればよい。
【0075】
(4)上記(3)で得られる乾固物には、有機基がカーボンブラック粒子表面に化学的に結合しているカーボンブラック以外に、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合していないフリーポリマー(顔料に物理吸着しているものも含む)が混入している可能性がある。そこで、(3)で得られた乾固物を、該共重合体の良溶媒を用いて洗浄することで、表面改質カーボンブラックを更に高純度に抽出する。上記において使用する、フリーポリマーの良溶媒は、共重合体の構造によって異なり、一概に限定できるものではないが、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等は、汎用性のある良溶媒である。この場合、このような良溶媒を用いて繰り返して上記乾固物を洗浄し、固形分に混入している可能性のあるフリーポリマーの除去作業を繰り返すことが好ましい。
【0076】
(5)上記したように共重合体部分の良溶媒による洗浄によって、フリーポリマーの除去処理がなされた固形分は、最後にオーブン等で十分な乾燥処理を行って、残存水分や残存溶剤を揮発させて乾固物試料とする。乾燥の際に使用するオーブン等は特に限定されず、例えば、市販の真空乾燥機等を用いた乾燥を行えばよい。又、乾燥条件等についても、上記表面改質カーボンブラック乾固物から、十分に残存水や残存溶剤が除去できる条件であれば特に限定されない。例えば、数百Pa以下の真空度で、60℃×3時間程度で乾燥させればよい。
【0077】
上記した(1)〜(5)の一連の方法によってインク中から取り出した表面改質カーボンブラック乾固物を測定用試料とし、該試料の重量変化を熱重量分析を用いて測定することで、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合した有機基の結合量を定量的に測定することができる。この結果、表面改質カーボンブラック粒子の質量を基準として該カーボンブラックに化学的に結合している有機基の含有率の測定が可能となる。
【0078】
又、上記(1)〜(3)までの一連の手順で得られた乾固物を測定用試料とし、該試料の重量変化を熱重量分析を用いて測定することで、カーボンブラック粒子表面に結合している有機基の他、フリーポリマー等のインク中の顔料を除く固形分の量を知ることができる。この結果、インク中に含まれている有機基とフリーポリマーとの総和に対する、有機基の割合を求めることができる。尚、インク中に、該共重合体以外の第2のポリマーが混在している場合に、インク中の、有機基とフリーポリマーとの総和に対する該有機基の割合を正確に算出するためには、該フリーポリマーのみの量を測定することが好ましい。その場合には、上記(4)の手順におけるカーボンブラックの洗浄液を、液体クロマトグラフィー等を用いて測定すれば、フリーポリマーのみの量を測定することができる。
【0079】
上記で説明した、(1)塩析若しくは凝析、(2)沈澱物の洗浄、(3)乾固、(4)表面改質カーボンブラックのみの抽出、及び(5)乾燥という一連の手順によって得られる、表面改質カーボンブラックのみを含む乾固物試料中の、結合している有機基の含有率を測定する方法は特に限定されない。例えば、上記手順によって最終的に得られる十分に乾燥させたカーボンブラック乾固物を、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis)等により測定し、その結果得られる熱重量分析重量減少率から、容易に求めることができる。以下、この際に行う熱重量分析について詳細に説明する。
【0080】
上記方法によって測定される熱重量分析重量減少率は、表面改質カーボンブラック中におけるカーボンブラック粒子表面に導入された有機基の含有率となる。即ち、かかる熱重量分析重量減少率は下記式で与えられるが、熱重量分析前に高分子物質の良溶媒を用いて洗浄し、表面改質カーボンブラックのみを抽出した乾固物試料の重量に対する、100〜700℃まで昇温して行った熱重量分析において生じる、カーボンブラック粒子表面に結合している有機基の脱着や燃焼等によって生じる重量減少量の割合である。
熱重量分析重量減少率=A/B×100(%)
A=熱重量分析において100〜700℃まで昇温した際の重量減少量
B=熱重量分析前における試料の重量
【0081】
上記において行う熱重量分析における分析条件等は特に限定されず、前処理や昇温速度等、通常の条件によって測定すればよい。測定装置としては、例えば、METTLER TOLEDO社製のTGA熱重量測定装置、TGA851e/SDTA等を使用することができる。
【0082】
更に、上記した熱重量分析重量減少率の測定方法を用いれば、本発明の水性顔料インクに含まれる表面改質カーボンブラック等の顔料における、表面改質に用いた物質と顔料粒子との結合状態を知ることができる。即ち、本発明で使用する顔料である、例えば、カーボンブラック粒子表面には、有機基が化学的に結合されている。このため、カーボンブラック粒子表面の有機基は、上記高分子物質の良溶媒を用いた洗浄後も洗い流されることはなく、カーボンブラック粒子表面に安定に結合しているため、上記した抽出処理の有無にかかわらず、熱重量分析重量減少率は、ほぼ同じ値を示す。これに対して、一般的に用いられる樹脂分散型の顔料では、分散剤に用いられている水溶性樹脂がカーボンブラック(顔料)と化学的に結合しているわけではないので、分散に使用した樹脂の良溶媒によって洗浄すると、樹脂は洗い流されてしまうため、上記した抽出処理を行った場合と、処理を行わなかった場合とでは、熱重量分析重量減少率は大きく違ったものとなる。
【0083】
このことから、本発明に好適に用いられる改質された顔料とは、該共重合体の良溶媒による洗浄の前後において、熱重量分析による重量減少率が変化しないか、或いは実質的に変化しないものとすることができる。ここで、洗浄の前後において熱重量分析による重量減少率が実質的に変化しないとは、重量減少率の洗浄前後における値の差が、例えば5%以内であることを指す。
【0084】
上記した熱重量分析を用いる以外にも、顔料粒子表面における、表面改質に用いた物質との結合状態を調べる方法がある。例えば、本発明で用いる表面改質したカーボンブラックを、先に述べたようにして塩析若しくは凝析した後に乾固させたカーボンブラック乾固物を測定用試料とし、かかる試料を、TG−GC−MS(熱重量分析−ガスクロマトグラフ−質量分析)、TOF−MS(飛行時間型質量分析)、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)等とを組み合わせて分析する方法も好適である。これらの方法によって、カーボンブラック乾固物試料における表面改質に用いた物質の結合状態(吸着エネルギーの測定)、更には、カーボンブラック乾固物試料において、結合している有機基の、組成、分子量分布、更には結合ユニットを詳細に知ることができる。このような分析に使用することのできる具体的な装置の一例を以下に示す。
【0085】
・TG−DTA:サーモプラス(Thermo Plus)TG8120(理化学電気社製)
・GC:HP6890(ヒューレット・パッカード社製)
・MS:JMS−AM II(日本電子製)
・TOF−MS:島津MALDI−TOFMS AXIMA−CFR(島津製作所社製)
・TOF−SIMS:PHI TRFT II(アルバックファイ社製)
【0086】
以上のような構成を有する本発明の水性顔料インクは、インクジェット記録に用いられる際に、特に効果的である。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させてインクを吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡によりインクを吐出するインクジェット記録方法があるが、それらのインクジェット記録方法に、本発明の水性顔料インクは特に好適である。
【0087】
記録方法、記録ユニット、カートリッジ及び記録装置
次に、上記した本発明にかかる水性顔料インクを用いて記録を行うのに好適に用いることのできる、本発明にかかるインクジェット記録装置の一例について以下に説明する。先ず、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置の主要部であるヘッド構成の一例を図5及び図6に示す。図5は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図6は図5のA−B線での切断面図である。ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板等と発熱素子基板15とを接着して得られる。発熱素子基板15は、酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン等で形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金等で形成される電極17−1及び17−2、HfB2、TaN、TaAl等の高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウム等で形成される蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウム等の放熱性のよい材料で形成される基板20よりなっている。
【0088】
上記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。図7には、図5に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図5に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0089】
図8に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図8において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、又、図示した例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0090】
62は記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面に水分、塵埃等の除去が行われる。
【0091】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0092】
51は記録媒体を挿入するための給紙部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により記録ヘッド65の吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録の進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0093】
尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0094】
図9は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジの一例を示す図である。ここで40は供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としてはインクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
【0095】
本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図10に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図10において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としてはポリウレタンを用いることが本発明にとって好ましい。又、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネ等を仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図8に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0096】
次に、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の好ましい一例としては、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図11に示す。
【0097】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板82等を指示固定するための基板84とから構成されている。
【0098】
図11において、インク流路80は、感光性樹脂等で形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケル等の金属を電鋳やプレス加工による穴あけ等により吐出口85が形成され、振動板82はステンレス、ニッケル、チタン等の金属フィルム及び高弾性樹脂フィルム等で形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、歪み応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは、図8に示したものと同様なインクジェット記録装置に組み込んで使用される。インクジェット記録装置の細部の動作は、先述と同様に行うもので差しつかえない。
【実施例】
【0099】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。尚、文中「部」、及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0100】
(顔料分散液1の調製)
比表面積220m2/gでDBP吸油量112ml/100gのカーボンブラック500g、アミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン(APSES)45g、蒸留水900gを反応器に投入し、55℃に保温し、回転数300RPMで20分間攪拌した。この後、25%濃度の亜硝酸ナトリウム40gを15分間滴下し、更に蒸留水50gを加えた。この後、60℃に保温しながら、2時間反応させた。そして、得られた反応物を蒸留水で希釈しながら取り出し、固形分が15%となる濃度に調整した。この後、遠心分離処理及び不純物を除去する精製処理を行った。この作成した分散液は、カーボンブラックに前述したAPSESの官能基が結合した分散液となった。この分散液をA1とする。
【0101】
次に、この分散液A1中におけるカーボンブラックに結合した官能基のモル数を求めるために、分散液中のNaイオンを、プローブ式ナトリウム電極で測定し、得られた値をカーボンブラック粉末当りに換算して、カーボンブラックに結合した官能基のモル数を求めた。次いで、先に調製した固形分15%の分散液A1を、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)溶液中に滴下した。この際、PEHA溶液を強力に攪拌しながら室温に保ち、1時間かけて、分散液A1を滴下した。このときのPEHA濃度は、先に測定したNaイオンのモル数の2〜3倍量の濃度とし、溶液量は分散液A1と同量で行った。更に、この混合物を48時間攪拌し、この後、不純物を除去するための精製処理を行い、最終的に、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)が結合した固形分10%の分散液を得た。この分散液をB1とする。
【0102】
次に、共重合体としてのスチレン−アクリル酸樹脂を以下のようにして調製した。先ず、重量平均分子量15,000、酸価140、多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)1.5のスチレン−アクリル酸樹脂を190g秤り取り、これに1,800gの蒸留水を加え、樹脂を中和するのに必要なNaOHを加えて、攪拌して溶解して、スチレン−アクリル酸樹脂水溶液を調製した。
次に、先に調製した固形分10%の分散液B1 500gを、上記スチレン−アクリル酸樹脂水溶液中に攪拌しながら滴下した。次に、B1とスチレン−アクリル酸樹脂水溶液の混合物をパイレックス(登録商標)蒸発皿に移し、150℃で15時間加熱し、蒸発させた後、蒸発乾燥物を室温に冷却した。
【0103】
次いで、この蒸発乾燥物を、pH=9.0に調整したNaOH添加蒸留水中に分散機を用いて分散させ、更に攪拌しながら1.0MのNaOHを添加して、pHを10〜11に調整した。その後、脱塩、不純物を除去する精製及び粗大粒子除去を行って、顔料分散液1を得た。得られた顔料分散液1の物性値は、固形分が10%であり、pH=10.1、平均粒子径130nmであった。下記に、上記における顔料分散液1中に含まれている、カーボンブラック粒子の表面に有機基が化学的に結合してなる改質顔料の合成スキームを示す。
【0104】

【0105】
(顔料分散液2〜7の調製)
下記表1に示す共重合体を用いた以外は、上記顔料分散液1と同様にして顔料分散液2〜7を調製した。得られた分散液の物性を併せて表1に示す。
【0106】

【0107】
(顔料分散液8の調製)
前記顔料分散液1の調製に記載した方法と同様の方法で分散液A1を調製した。次いで、固形分15%のA1と、スチレン−アリルアミン共重合体(アミン価200、分子量10,000、多分散度Mw/Mn=1.8)とを反応させ、次いで、脱塩、不純物を除去する精製及び粗大粒子除去を行って、顔料分散液8を得た。得られた顔料分散液8の物性値は、固形分が11%であり、pH=5.5、平均粒子径120nmであった。下記に、顔料分散液8が含んでいる、カーボンブラック表面に有機基が化学的に結合してなる改質顔料の合成スキームを示す。
【0108】

【0109】
(顔料分散液9の調製)
スチレン−アリルアミン共重合体として、アミン価450、分子量4,000、多分散度Mw/Mn=1.8のものを用いた以外は、顔料分散液8の調製で行ったと同様にして顔料分散液9を調製した。得られた顔料分散液9の物性値は、固形分が10%であり、pH=4.5、平均粒子径142nmであった。
【0110】
(顔料分散液10の調製)
共重合体として、重量平均分子量5,000、酸価140、多分散度Mw/Mn=2.5のスチレン−アクリル酸樹脂を用いた以外は、前記顔料分散液1と同様にして顔料分散液10を調製した。得られた顔料分散液10の物性値は、固形分が10.0%であり、pH=10、平均粒子径130nmであった。
【0111】
(顔料分散液11の調製)
共重合体として、重量平均分子量18,000、酸価200、多分散度Mw/Mn=1.6のスチレン−アクリル酸樹脂を用いた以外は顔料分散液1を調製したと同様にして、顔料分散液11を得た。得られた顔料分散液11の物性値は、固形分が10.5%であり、pH=10、平均粒子径140nmであった。
【0112】
(顔料分散液12の調製)
顔料分散液1の調製で行ったと同様の方法で、最後の、脱塩、不純物を除去する精製及び粗大粒子の除去工程の中で不純物を除去する精製を行わず、脱塩、及び粗大粒子の除去のみを行って、顔料分散液12を得た。得られた顔料分散液12の物性値は、固形分が10.5%であり、pH=9.7、平均粒子径150nmであった。
【0113】
<実施例1〜12>
上記で得られた顔料分散液1〜12を含む、表2−1、表2−2に記載した成分を混合し、十分に攪拌して溶解或いは分散した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過し、本発明の実施例1〜12のインクを調製した。各インクの組成を表2−1及び表2−2に示した。
【0114】
又、表2−1及び表2−2中に併せて、先に述べたようにして得た、実施例1〜12の各インクについての、ブリストウ法によって求められるKa値の測定値を記載した。更に、後述する熱重量分析によって、実施例1〜12の各インクについての、表面改質された顔料中の化学結合している有機基の割合(%)を有効数字2桁で求め、表2−1及び表2−2中に併せて示した。
【0115】

【0116】

【0117】
以下、表2−1及び表2−2中に示した表面改質された顔料中の化学結合している有機基の割合の、具体的な測定方法について説明する。先ず、実施例1〜12の各インクに対してそれぞれ塩析若しくは凝析、具体的には、有機基がアニオン性基を有する場合は、塩酸又は硫酸等の酸を添加し、有機基がカチオン性基を有する場合には水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することでインク中の顔料及び有機基を塩析により沈澱させることができる、又、場合によってはアルコールを過剰に加える凝析を行うことによりインク中の顔料を沈澱させることが可能である。
【0118】
又、インク中の顔料を沈澱させる方法として、塩析若しくは凝析を組み合わせる、又、遠心分離を行う等とすることで、有効にインク中の顔料を取り出すことが可能である。上記操作により得られた顔料であるカーボンブラックを含む沈澱物をろ過により分取して、ろ過した固形分を純水で十分に洗浄し、洗浄後のカーボンブラック含有固形物を、60℃のオーブンで一晩程度乾燥させた。そして、得られたカーボンブラック含有乾固物を、該共重合体を含むセグメントの良溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)で洗浄した。このカーボンブラック含有乾固物のTHFによる洗浄作業を3回繰り返して行った後、残存水分や残存溶剤を揮発させるために、真空乾燥機を用いて、数百Pa以下の真空度で60℃×3時間程度乾燥させた。以上のようにして、フリーポリマーとしての該共重合体を含むセグメントが、該共重合体の良溶媒による洗浄の結果、除去された表面改質カーボンブラックのみからなる乾固物を得た。
【0119】
次に、上記で得られた乾固物を測定用試料として、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis)により熱重量分析重量減少率を測定した。先に述べたように、その際に得られる重量減少率の値から、顔料であるカーボンブラックに化学的に結合している有機基の結合量を求めた。尚、熱重量分析には、METTLER TOLEDO社製のTGA熱重量測定装置、TGA851e/SDTAを使用した。
【0120】
図1及び2は、顔料分散液4を含む実施例4のインクについて、上記した方法によって調製した乾固物試料に対する熱重量分析によって得られた、熱重量分析重量減少率の測定データである。図1は、凝析後の、THF洗浄を行わない乾固物試料についての熱分析結果である。この図1に表われる熱重量分析重量減少率は、インク中の表面改質されてなる顔料に化学的に結合している有機基と、フリーポリマーとしての該重合体部分を含むセグメントとの総量の、該表面改質された顔料に対する割合を表している。その重量減少率は、図1に示されているように22.87%であった。
【0121】
又、図2は、上記の乾固物試料を更にTHF洗浄した後に得られる乾固物試料に対する熱重量分析の測定データである。即ち、この図2に表われている熱重量分析重量減少率は、該反応物の良溶媒であるTHFによってフリーポリマーとしてのセグメントを取り除いた後の試料に対するものであるため、表面改質された顔料中の化学結合している有機基の割合を示すものである。その値は、19.89%であった。
【0122】
実施例4のインクについての熱重量分析測定データでは、図1及び2に示したように、何れの場合も350℃近傍で著しい重量減が見られた。図2においてもこのような結果が得られたことは、熱重量分析用試料を調製する際に、乾固物を該共重合体に対する良溶媒で洗浄したにもかかわらず、該共重合体が失われなかったことを意味している。即ち、実施例4のインク中の顔料には、その表面改質によって、顔料粒子表面に有機物が化学的に結合した状態のものとなっていることを示している。更に、図1及び図2から得られる熱重量分析重量減少率から、次式によって、インク中に含まれる化学結合している有機基の、化学結合している有機基とフリーポリマーとの総和に対する割合が求められる。
【0123】

【0124】
上記式に、図1及び図2から求められる熱重量分析重量減少率を代入して、実施例4の改質された顔料に化学結合している有機基とフリーポリマーとの総量に占める、顔料粒子表面に化学結合している有機基の割合を求めた。その結果、実施例4の改質された顔料に化学結合している有機基とフリーポリマーとの総量に対する、化学結合している有機基の割合は、(19.9/22.9)×100=86.9%であった。
【0125】
上記実施例4の場合と同様にして、実施例12の顔料分散液中の有機基と、セグメントと、の総量に対する顔料粒子表面に化学結合している有機基の割合を求めた。先ず、凝析後の乾固物試料についての熱重量分析重量減少率は32.0%であり、又、THF洗浄して得られる表面改質顔料のみを抽出した乾固物試料についての熱重量分析重量減少率は20.0%であった。これらの数値を、上記式に代入して求めた結果、実施例12の改質された顔料に化学結合している有機基とフリーポリマーとの総量に対する、化学結合している有機基の割合は、(20.0/32.0)×100=62.5%であった。
【0126】
<比較例1>
(顔料分散液13の調製)
比表面積210m2/gで、DBP吸油量74ml/100gのカーボンブラック10部と、酸価200、重量平均分子量10,000のスチレン−アクリル酸共重合体の10%水酸化ナトリウム中和水溶液20部、更にイオン交換水70部を混合し、サンドグラインダーを用いて1時間分散させた後、遠心分離処理によって粗大粒子を除去し、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過し、比較例1で使用する顔料分散液13を得た。得られた顔料分散液13の物性値は、固形分10%であり、pH=10.0、平均粒子径120nmであった。
【0127】
(インクの調製)
上記で得た顔料分散液13を用い、下記に示す比較例1のインク組成で混合し、十分攪拌して溶解或いは分散した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過し、比較例1のインクを調製した。
インク組成
・顔料分散液13 50部
・グリセリン 5部
・ジエチレングリコール 5部
・トリメチロールプロパン 5部
・アセチレングリコールEO付加物(商品名:アセ
チレノールEH) 0.1部
・純水 34.9部
【0128】
<比較例2>
(顔料分散液14の調製)
顔料分散液1の調製で行ったと同様の方法で、分散液B1を調製した。次いで、重量平均分子量15,000、酸価140、多分散度Mw/Mn=1.5のスチレン−アクリル酸樹脂の代わりに、重量平均分子量30,000のポリアクリル酸樹脂を用い、その後の操作を、顔料分散液1の調製で行ったと同様にして、顔料分散液14を得た。得られた顔料分散液14の物性値は、固形分が10%であり、pH=9.0、平均粒子径175nmであった。
【0129】
(インクの調製)
上記で得た顔料分散液14を用い、下記に示す比較例2のインク組成で混合し、十分攪拌して溶解或いは分散した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過し、比較例2のインクを調製した。
インク組成
・顔料分散液14 50部
・グリセリン 7部
・ジエチレングリコール 3部
・純水 40部
【0130】
又、比較例1及び2で得たインクを用い、先に実施例で述べたと同様の方法で表面改質された顔料中の化学結合している有機基の割合(%)を測定した。その結果を、表3に、比較例1及び2のインクのKa値と共に示した。
【0131】

【0132】
図3及び4に、比較例1のインクからの蒸発乾固物の熱重量分析データを示した。図3は、凝析後の乾固物試料についての熱分析値である。この図3の熱重量分析重量減少率は、13.65%であった。図4は、更に、THF洗浄後に得られる乾固物試料についての熱重量分析データである。何れの場合も350℃近傍での重量減が小さいことがわかった。特に、高分子化合物に対する良溶媒であるTHFで洗浄後に得られる乾固物試料についての図4では、温度の上昇によっても重量減が殆ど見られなかった。このことは、熱重量分析用試料を調製する際に、良溶媒であるTHFで洗浄した結果、比較例1のインクの作製に使用した高分子化合物が失われてしまったことを示している。即ち、換言すれば、比較例1の場合は、実施例の場合と異なり、共重合体の殆どが顔料と化学的に結合していないことを示している。
【0133】
<評価>
上記実施例1〜12及び比較例1、2の各インクを用いて、記録信号に応じて熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させる、オンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJF−660(キヤノン(株)製)を改造して下記の評価を行った。そして、得られた評価結果を表4に示した。
【0134】
1.印字持続性
実施例及び比較例の各インクと、上記インクジェット記録装置を用い、ノズルチェックパターンが最初に入っているベタ印字を連続してA4用紙3枚に印字を行い、次に、その後2時間印字を行わず、その後再びベタ印字を連続して3枚印字するサイクルを10回繰り返した。その時の印字みだれ、及び不吐出の有無を下記の基準で評価した。
○:印字みだれ及び不吐出がみられない。
△:印字みだれが若干みられるが、不吐出はみられない。
×:印字みだれ、不吐出がみられる。
【0135】
2.文字品位
上記各インクと上記したインクジェット記録装置とを用いて、下記の5種類のコピー用普通紙A〜Eに文字印字を行い、その時に生じた文字の滲みを、下記の基準で評価した。
○:5紙とも滲みが殆どない。
△:多少滲む紙がみられる。
×:5紙とも滲む。
【0136】
上記画出し試験において、コピー用紙は以下に示すものを用いた。
A:キヤノン(株)社製、PPC用紙NSK
B:キヤノン(株)社製、PPC用紙NDK
C:ゼロックス(株)社製、PPC用紙4024
D:フォックスリバー(株)社製、PPC用紙プローバーボンド
E:ノイジドラ(株)社製、キヤノン用PPC用紙
【0137】
3.印字汚れ耐マーカー性
上記各インクと上記したインクジェット記録装置とを用い、先に述べた5種類のコピー用普通紙A〜Eに印字を行い、得られた画像を1日放置した後、市販の水性蛍光マーカーペン(例えば、ゼブラ製蛍光ペンOPTEXOP−100−Y)を用いて印字部分をマーキングして、マーキング部分の汚れを観察して、以下の基準で評価した。
○:全ての紙で汚れが目立たない。
△:一部の紙で汚れが目立つ。
×:全ての紙で汚れが目立つ。
【0138】

【0139】
<実施例13〜17>
(顔料分散液15の調製)
共重合体としてのスチレン−アクリル酸樹脂として、重量平均分子量8,000、酸価170、多分散度Mw/Mnが1.7のものを用いた以外は、前記顔料分散液1と同様にして、顔料分散液15を調製した。
【0140】
次いで、上記顔料分散液15、並びに前記した顔料分散液8を用いて、下記表5に示した組成を有する実施例13〜17のインクを調製した。又、実施例13〜17の各インクのKa値、並びに各インク中の表面改質された顔料中の化学結合している割合を、下記表5に併せて示した。
【0141】

【0142】
上記実施例13〜17にかかるインクによる印字物の印字持続性、文字品位並びに耐マーカー性について、前記実施例1〜12にかかるインクによる印字物の文字品位並びに耐マーカー性の評価方法と同様にして評価した。その結果、文字品位に関して、実施例13〜15及び17は、「△」、実施例16は「○」であった。又、耐マーカー性に関しては、実施例13〜17の何れもが「○」であった。
【0143】
更に、上記実施例13〜17にかかるインクについて、下記の方法にて吐出安定性を評価した。即ち、インクジェット記録装置BJF−660(キヤノン(株)製)を改造機に、上記実施例13〜17にかかるインクを充填したインクタンクを順次装着して、インクの吐出量の測定を行った。具体的には、印字ドット数が既知のパターン5枚を印字し、インクの減少量を印字ドット数で割ったものを平均吐出量とし、吐出量の測定に用いた。先ず、ノズルチェックパターンが最初に入っているべた印字を連続して10枚A4用紙に行い、その後2時間印字を行わず放置しておき、その後に上記した方法で吐出量測定を行った。次に、再びべた印字を連続して3枚印字し、その後に吐出量測定を行った。このサイクルを10回繰り返して吐出量の変化をみた。得られた結果を以下の判断基準で吐出安定性の評価とした。その結果、実施例13〜17のインクは、何れも吐出量のばらつきが±10%の範囲内であった。
【産業上の利用可能性】
【0144】
以上説明したように、本発明によれば、水性インクの顔料として、顔料粒子表面の官能基と結合した状態のイオン性モノマーと疎水性モノマーとからなる共重合体セグメントを有するものを用いることで、とりわけ、インクジェット用インクとして用いた場合に、吐出曲がりや、ヌレ不吐が解消された記録ヘッドに対するインクの信頼性を有し、しかも、印字後の擦れによる印字汚れ耐擦過性や、印字後の水性マーカーによる印字汚れ耐マーカー性をも改善された水性インクが提供される。更に、本発明によれば、かかるインクを使用することで優れたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置が提供される。
【符号の説明】
【0145】
13:ヘッド
14:インク溝(ノズル)
15:発熱素子基板
16:保護層
17−1、17−2:電極
18:発熱抵抗体層
19:蓄熱層
20:基板
21:インク
22:吐出オリフィス(微細孔)
23:メニスカス
24:インク小滴
25:記録媒体
26:マルチノズル
27:ガラス板
28:発熱ヘッド
40:インク袋
42:栓
44:インク吸収体
45:インクカートリッジ
51:給紙部
52:紙送りローラー
53:排紙ローラー
61:ブレード
62:キャップ
63:インク吸収体
64:吐出回復部
65:記録ヘッド
66:キャリッジ
67:ガイド軸
68:モーター
69:ベルト
70:記録ユニット
71:ヘッド部
72:大気連通口
80:インク流路
81:オリフィスプレート
82:振動板
83:圧電素子
84:基板
85:吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料粒子の表面に有機基が化学的に結合している改質された顔料と、該顔料の分散媒としての水性媒体と、を含む水性インクであって、上記有機基は、顔料表面に直接若しくは、他の原子団を介して化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含んでいることを特徴とする水性インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−261043(P2010−261043A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140245(P2010−140245)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【分割の表示】特願2003−25615(P2003−25615)の分割
【原出願日】平成15年2月3日(2003.2.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】