説明

水性インク

【課題】インクジェット印刷システムにおけるヘッド詰まりの問題が解決され、インクの吐出安定性に優れ、非吸収メヂアと吸収メヂアのいずれに対しても高い記録性を有し、高発色性を有する印字品質な印刷物が得られる印刷インクの提供。
【解決手段】水、水混和性乾燥調整溶媒、顔料、樹脂、紫外線硬化性化合物、紫外線硬化開始剤および塩基性pH調整剤を含有し、そのpH値が8.0〜10.0に調整されており、水混和性乾燥調整溶媒が、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールと炭素数6以下のアルコールとのモノエーテル、およびジプロピレングリコールと炭素数6以下のアルコールのジエーテルからなる群から選択される少なくとも1種を含み、該水混和性乾燥調整溶媒の含有量が、インク100質量%中に5〜40質量%である水性インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱装置と紫外線硬化装置とを有する新規なインクジェット印刷システムでの印刷に用いられる水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインクジェット(以下、IJと略記)印刷システムに使用される水性系の顔料インクは、一般的に、共重合体樹脂を、水および塩基性化合物からなる水性媒体中で中和または部分中和して、溶解或いは自己水分散させてなる樹脂溶液を、顔料の分散に使用して造られている。しかし、該インク中の水および塩基性化合物が揮発した乾燥被膜は、水および塩基性化合物からなる水性媒体への再溶解性が悪く、ヘッドの詰まりの主要因となっている。従来のインクは、この、樹脂のアルカリ中和、自己分散性に起因するヘッド詰まりを考慮する必要があるため、物性面が低く組成されているが実情である。本発明は、この問題を打開する技術の提供を企図している。
【0003】
上記したヘッド詰まりは、IJ印刷に致命的な欠陥となり、高価なヘッド交換が必要になることから、従来のインクは、再溶解を重視した組成となっている。例として挙げると、不乾性溶媒(例えばグリセリン)を多量に配合することで、インクの乾燥被膜形成を阻止する方法が行なわれてきた。しかし、不乾性溶媒を多量に使用すると、普通紙のような通常メヂア上では乾燥被膜を形成することができなくなる。このため、従来は、専用の印刷メヂアを使用してインクの吸収乾燥により、印字を実現してきた。
【0004】
上記の課題に対し、インクの乾燥被膜形成によってヘッドの詰まりが起こった場合にも再溶解性に優れ、しかも、通常メヂア上で乾燥被膜を形成することが可能な技術の開発が望まれている。近年、IJ印刷技術は、極めて高くなっており、上記課題を解決するためには、インク組成を工夫すると共に、IJ装置についても工夫が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−331142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、上記従来技術の課題に対して開発された、新規なIJ印刷システムに適用することで、ヘッドの詰まりの回復が速やかで、インクの吐出安定性に優れ、また、非吸収メヂアと吸収メヂアのいずれに対しても高い記録性を示すことができ、更に、高発色性を有する印字品質に優れた印刷インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、紫外線硬化装置と、必要に応じて設けられた加熱装置を有するインクジェット印刷システムで、非吸収性メヂアまたは吸収性メヂアへの印刷をするための水性インクであって、水、水混和性乾燥調整溶媒、顔料、樹脂、紫外線硬化性化合物、紫外線硬化開始剤および塩基性pH調整剤を含有し、そのpH値が8.0〜10.0に調整されており、且つ、上記水混和性乾燥調整溶媒が、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールと炭素数6以下のアルコールとのモノエーテル、およびジプロピレングリコールと炭素数6以下のアルコールのジエーテルからなる群から選択される少なくとも1種を含み、該水混和性乾燥調整溶媒の含有量が、インク100質量%中に5〜40質量%であることを特徴とする水性インクを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、紫外線硬化装置と、必要に応じて設けられた加熱装置とを有するインクジェット印刷システムに適用することで、ヘッドの詰まりの回復が速やかで、インクの吐出安定性に優れ、非吸収メヂアと吸収メヂアのいずれに対しても高い記録性を示し、更に、高発色性を有する印字品質に優れた画像の形成が可能な印刷インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、好ましい実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。
本発明のインクは、紫外線硬化装置と、必要に応じて設けられた加熱装置とを有するインクジェット印刷システムに適用されて、非吸収性メヂアまたは吸収性メヂアに印刷が可能な水性インク(以下、単に「インク」という)である。本発明のインクは、水、水混和性乾燥調整溶媒、顔料、樹脂、紫外線硬化性化合物、紫外線硬化開始剤および塩基性pH調整剤を含有し、そのpH値が8.0〜10.0に調整されており、さらに、水混和性乾燥調整溶媒に特有の種類のものを特定量用いることを特徴とする。以下に、かかる構成によって、先に挙げた優れた効果が得られることについて、詳細を説明する。
【0010】
本発明では、専用印刷メヂア(素材)を使用することなく、非吸収素材に直接印刷することを要するため、先述した従来の手法のように、インクの乾燥被膜形成を阻止する状態になるまで不乾性溶媒を配合することはできない。本発明者らの検討によれば、インク中に紫外線硬化性化合物を含有させることで、該紫外線硬化性化合物が、従来用いていた不乾性溶媒と同様の機能を発揮し、ヘッド詰まりを阻止することができることを見出した。本発明者らの検討によれば、インク中に紫外線硬化性化合物を含有させることで、印刷直後は耐水性が低い状態であるが、紫外線を照射することで水に不溶化し強靭な印刷物を得ることができる。
【0011】
以下、本発明のインクの製造方法、その各構成要素について、詳細に説明する。
[製造方法]
本発明のインクは、例えば、以下の方法によって製造される。まず、塩基性pH調整剤によって樹脂を中和若しくは部分中和し、水または、水と水混和性乾燥調整溶媒との混合液(以下、混合溶媒と呼ぶ)に溶解して、樹脂を溶解性ワニスとする。次いで、これに顔料を分散して顔料分散液を得る。このようにして得た顔料分散液に、紫外線硬化化合物、紫外線硬化開始剤を加え、更に水、水混和性乾燥調整溶媒、塩基性pH調整剤、樹脂ワニスを加えて、粘度、pH、表面張力を調整してインク化する。この際に、上記で用いた溶解性ワニスの代わりに、水自己分散性のハイドロゾルの形態の樹脂である自己分散性ワニスを用いてもよい。
【0012】
上記顔料分散液を調製するにあたっては、顔料平均粒子径が0.2μm以下であることが好ましい。しかし、これより大きい粒子径を含有したとしても、5μm以上の粗大粒子が含まれないように、ろ過によって粗大粒子を取り除けば、実用上問題はない。以下、各成分について説明する。
【0013】
[水混和性乾燥調整溶媒]
本発明のインクは、水に加えて、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールと炭素数6以下のアルコールとのモノエーテル、およびジプロピレングリコールと炭素数6以下のアルコールのジエーテルからなる群から選択される少なくとも1種の水混和性乾燥調整溶媒を含有する。これらの化合物は、グリコール系溶媒であるので、本発明の目的達成に好適である。インク中における該水混和性乾燥調整溶媒の含有量は、インク100質量%中に5〜40質量%である。より好ましくは、インク100質量%中に10〜20質量%である。水混和性乾燥調整溶媒は少な過ぎると、顔料被膜の乾燥を生じやすく、一方、多過ぎると紙への浸透を高くなり過ぎ、また、滲みが生じやすくなり、印刷品質が低下する。
【0014】
[樹脂]
本発明のインクは、樹脂を含有してなるが、該樹脂としては、先に述べたように、塩基性pH調整剤よって、中和するか或いは部分中和することにより、水または混合溶媒に溶解する樹脂(以下、「溶解性ワニス」と呼ぶ)の形態で用いてもよいし、また、水系で自己分散性を示すハイドロゾルの形態の樹脂(以下、「自己分散性ワニス」と呼ぶ)で用いてもよい。ここで、溶解性ワニスは、自己分散性ワニスに比べて再溶解は優れているものの耐水性が悪い。このため、より高いインクの性能を求める場合は、自己分散性ワニスを単体で用いたり、または、自己分散性ワニスに対して部分的に溶解性ワニスを加えて使用することは、よく知られた組成である。しかし、自己分散性ワニスの乾燥被膜の再溶解性は悪いため、ヘッド詰まりを考慮して、乾燥を調整するために用いる水混和性乾燥調整溶媒の選択や、顔料分散液の組成を検討(顔料の易分散処理、カプセル化など)する必要があった。これに対し、本発明のインクは、インク中に紫外線硬化性化合物を含有させることで解決を図る。すなわち、該化合物を構成する紫外線硬化モノマー、紫外線硬化オリゴマーが、従来用いていた不乾性溶媒と同様の機能を発揮し、ヘッド詰まりを阻止することができる。このため、本発明では、自己分散性のハイドロゾルの形態のような特別な配慮がされた樹脂を使用し、顔料分散液を調製することを要さない。
【0015】
上記した理由から、本発明においては、溶解性ワニスを使用して顔料の分散を行い顔料分散液とすることが好ましい。溶解性ワニスとしては、例えば、BASF社製の、JONCRYL J67が挙げられる。JONCRYL J67は、酸価が213mgKOH/g(固形分)と高く、塩基性pH調整剤よる中和、或いは部分に中和し、水または混合溶媒へ溶解するのに優れているため好ましい。市販されているJONCRYL J67溶解ワニスは、JONCRYL J67を30部、トリエチレンジアミンを10部、水を60部で配合したものである。
【0016】
[紫外線硬化性化合物]
本発明のインクの形成成分である紫外線硬化性化合物は、水酸基、カルボン酸基、エーテル結合を持つモノマーまたはプレポリマーであることが好ましい。このようなものとしては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート(n=4または9)、ECH変性プロピレングリコールジアクリレート(n=3)、EO変性コハク酸アクリレート(n=1)などが挙げられる。上記紫外線硬化性化合物の含有量としては、インク100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下の範囲が好ましく、さらには、3質量%以上10質量%以下とするとよい。
【0017】
[紫外線硬化開始剤]
本発明のインクの形成成分である紫外線硬化開始剤は、水または混合溶媒の溶解性を考慮すると、水溶性であることが好ましいが、特に限定されない。市販のものとしては、例えば、IRGACURE 2959(BASF社製)などが挙げられる。紫外線硬化開始剤の使用量は、使用する紫外線硬化化合物や顔料によって異なるが、インク100質量部に対して、0.1質量部以上1質量部以下程度である。
【0018】
[塩基性pH調整剤]
本発明のインクは、pH値が8.0〜10.0に調整されたものであることを要する。この際に使用する塩基性pH調整剤としては、特に限定されないが、以下の有機塩基性化合物を用いることが好ましい。有機塩基性化合物としては、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエチレンジアミン、トリエチレンアミン、2−メチルトリエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,2−ジアミノエタン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルモルホリン−4−エタンアミンなどが挙げられる。
【0019】
[顔料]
本発明のインクは、色材として顔料を用いるが、顔料としては、一般的にIJインクに使用できるものであれば、特に問題なく使用することができる。例えば、黄色の顔料の代表例としてはピグメント・イエロー13、14、74、150および155が挙げられる。また、赤色顔料の代表例としてはピグメント・レッド122またはキナクリドン錯塩を有する一般的な顔料が挙げられる。また、青色顔料としてはピグメント・ブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6またはフタロシアニン錯塩を有する顔料が挙げられる。また、黒色顔料の代表例としてはピグメント・ブラック7が挙げられる。
【0020】
[水およびその他の添加剤]
本発明のインクは、水系インクであるが、水としては、イオン交換水を用いることが好ましい。また、本発明のインクは、必要に応じて、インクの諸特性を好適なものとするために、従来より用いられている各種の添加剤を含有させることができる。
【0021】
[印刷システム]
上記のような構成成分からなる本発明のインクは、紫外線硬化装置と、必要に応じて設けられた加熱装置とを有するインクジェット印刷システムに好適に使用される。本発明のインクを上記印刷システムにおいて使用すれば、従来のインクのように、不乾性溶媒を多量に使用することなく、IJ印刷に致命的な欠陥となるヘッド詰まりの問題を解消できる。これは、本発明のインク中に含有させた紫外線硬化性化合物に起因する紫外線硬化モノマーや紫外線硬化オリゴマーが、従来のインクに用いていたグリセリンのような不乾性溶媒と同様の機能を発揮し、ヘッド詰まりを阻止するためである。すなわち、本発明のインクは、印刷直後は耐水性が低い状態にあるが、紫外線を照射することで水に不溶化し強靭な印刷物を得ることができる。このため、さらに、本発明のインクを加熱装置と紫外線硬化装置を有するインクジェット印刷システムに適用することで、非吸収性メヂアまたは吸収性メヂアに印刷することも可能になる。特に、専用印刷メヂアを使用することなく非吸収素材(非吸収メヂア)に直接印刷することも可能となるので、有用である。
【0022】
上記したように、本発明のインクで印刷した場合、印刷直後の耐水性が低いため、特にメヂアの種類によっては、下記のような別の問題を生じる。すなわち、印字直後はインクが溶媒(水または混合溶媒)を含んだ低粘度液体であるため、特に非吸収性メヂアの上では印字された液滴が集合してしまい、独立した網点を形成すことができず、画像を形成することができないおそれがある。そのため、本発明の印刷システムでは、加熱装置を設けることで上記の問題点を解消している。すなわち、本発明者らの検討によれば、加熱装置を用いて印字直後に、例えば、35℃以上の熱乾燥をすることにより解決することができる。また、紙などの吸収性(浸透性)メヂアにおいては、上記のような熱乾燥をしなくとも画像を形成することができ、必ずしも熱乾燥工程は要しないが、熱乾燥することにより、鮮明な画質の印刷物を得ることができる。
【0023】
(加熱装置)
加熱装置による乾燥は、一次乾燥および二次乾燥の二段階で行うことが好ましい。一次乾燥は、ハロゲンランプで行い、乾燥条件としては、基材の性質・性状により適宜選択してハロゲンランプの出力を調整し、温度を変えることが好ましい。例えば、基材がポリエステルフィルムの場合には、表面温度が50℃程度になるように、ハロゲンランプの出力調整を行うことが好ましい。また、二次乾燥は、熱板上で行い、その乾燥温度は、基材の性質・性状により適宜選択して設定することが好ましい。例えば基材がポリエステルフィルムの場合には、表面温度が40℃程度になるように設定するとよい。
【0024】
(紫外線硬化装置)
紫外線硬化装置による紫外線照射条件は、基材の性質・性状により適宜選択することができ、特に限定されない。例えば、基材がポリエステルフィルムの場合には、水銀ランプを使用し、積算光170mj/cm2の条件で行うとよい。
【0025】
本発明における非吸収メヂアとしては、各種プラスチックのフィルム、シート、成型物および無機加工物が挙げられる。一方、本発明における吸収性メヂアとしては、代表的なメヂアとして紙が挙げられ、非コート紙、コート紙の何れにも対応できる。さらに、IJ専用紙として吸収性の特殊コートされたメヂアにも可能である。その他の吸収性メヂアとしては、不織布、木材および多孔質無機物なども挙げられる。
【実施例】
【0026】
合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、文中「部」または「%」とあるのは質量基準である。
【0027】
(顔料分散液の調製)
[合成例1]
まず、実施例および比較例で使用する各顔料分散液を下記のようにして得た。顔料15部に対して、JONCRYL 67ワニスを15部、水を69部およびトリエチレンジアミンを1部加え、十分にミキサーで攪拌混合を行なった後、ビーズミルを使用し、平均粒子径が0.2μm以下になるまで分散した。その後、平均粒径が5μm以上の粗粒子をろ過して取り除き、顔料分散液を得た。顔料には、PigmentYellow74、PigmentRed122、PigmentBlue15:3、PigmentBlack7を使用した。なお、JONCRYL 67ワニスは、JONCRYL J67(登録商標:BASF社製)を30部、トリエチレンジアミンを10部、水を60部の組成である。
【0028】
(比較例のインクの調製)
[比較例−1]
上記で得た顔料分散液を用いて、以下の処方で調製し、常法に従って比較用のIJ用インク(比較インク−1)を調製した。該インクは、紫外線硬化化合物等を含まない標準インクである。なお、pH調整剤として用いたトリエチレンジアミンは外添加した。
・合成例1の顔料分散液 20部
・JONCRYL 67ワニス 10部
・水 50部
・プロピレングリコール 20部
・トリエチレンジアミン 0.5部
【0029】
[比較例−2]
上記で得た顔料分散液を用いて、以下の処方で調製し、常法に従って、不乾性溶媒としてグリセリンを配合した標準インクである比較用のIJ用インク(比較インク−2)を調製した。
・合成例1の顔料分散液 20部
・JONCRYL 67ワニス 10部
・水 50部
・プロピレングリコール 12部
・グリセリン 8部
・トリエチレンジアミン 0.5部
【0030】
(実施例のインクの調製)
上記で得た顔料分散液を用いて、それぞれ以下の処方で、常法に従って、各実施例のIJ用インクを調製した。処方中のポリエチレングリコールジアクリレート、ECH変性プロピレングリコールジアクリレート、EO変性コハク酸アクリレートは紫外線硬化化合物であり、nの数は各グリコールの繰り返しの数である。IRGACURE 2959(登録商標:BASF社製)は紫外線硬化開始剤である。なお、紫外線硬化開始剤と、pH調整剤として用いたトリエチレンジアミンは外添した。
【0031】
[実施例1のインク組成]
・合成例1の顔料分散液 20部
・JONCRYL 67ワニス 5部
・水 50部
・プロピレングリコール 20部
・トリエチレンジアミン 0.5部
・ポリエチレングリコールジアクリレート(n=4) 5部
・IRGACURE 2959 0.5部
【0032】
[実施例2のインク組成]
・合成例1の顔料分散液 20部
・JONCRYL 67ワニス 5部
・水 50部
・プロピレングリコール 20部
・トリエチレンジアミン 0.5部
・ポリエチレングリコールジアクリレート(n=9) 5部
・IRGACURE 2959 0.5部
【0033】
[実施例3のインク組成]
・合成例1の顔料分散液 20部
・JONCRYL 67ワニス 5部
・水 50部
・プロピレングリコール 10部
・ブチルカルビトール 10部
・トリエチレンジアミン 0.5部
・ECH変性プロピレングリコールジアクリレート(n=3) 5部
・IRGACURE 2959 0.5部
【0034】
[実施例4のインク組成]
・合成例1の顔料分散液 20部
・JONCRYL 67ワニス 5部
・水 50部
・プロピレングリコール 10部
・ブチルカルビトール 10部
・トリエチレンジアミン 0.5部
・EO変性コハク酸アクリレート(n;1) 5部
・IRGACURE 2959 0.5部
【0035】
上述した配合組成について、表1にまとめて示した。

【0036】
<インクの評価>
(PETフィルムへの印字サンプルの作成)
上記で得られた各インクを用いて以下のようにして印刷し、評価した。印刷には、ヘッド横にハロゲンランプが設けられた、先に説明したシリアル型IJ印刷機を使用した。コロナ処理された厚み12μmのPETフィルム上に、180dpiの8パスで印字を行い、パス毎にハロゲンランプにより約35℃程度で一次乾燥を行った。その後、40℃熱板上で2分間の二次乾燥を行って二次乾燥後の印刷物を得た。そして、得られた熱乾燥後の印刷物に、UVランプにて紫外線照射(水銀ランプ:積算光170mj/cm2)を行なって最終印刷物を得た。なお、上記において、一次乾燥を省き二次乾燥のみで熱乾燥を行うと、印字されたドット間が幾つかの単位で集合してしまい、画像を形成しなくなることを確認した。上記における二次乾燥後の印刷物、紫外線照射後の最終印刷物のそれぞれについて下記の評価を行った。
【0037】
(二次乾燥後の印刷物性能:耐水性)
上記の二次乾燥後の印刷物の表面の約5g/cm2を、水を含ませた脱脂綿で10回擦り、脱色状態によって判定した。その結果、標準インクの比較インク−1で得た印刷物では、擦った部分に若干の汚れが見られる程度であったのに対して、標準インクの比較インク−2と、実施例のインク−1〜4では、擦った部分のインクがほとんど脱色した。中でも、実施例2は特に脱色し易く、擦り回数3回でほとんど脱色した。以下、実施例1、実施例4、実施例3の順に脱色し易かった。
【0038】
(二次乾燥後の印刷物性能:耐アルカリ性)
上記の二次乾燥後の印刷物の表面の約5g/cm2を、DEA(ジエチルアミン)1%水溶液を含んだ脱脂綿で10回擦り、脱色状態によって判定した。その結果、標準インクの比較インク−1で得た印刷物では完全に脱色せず、擦った部分に50%程度のインクがフィルム上に残った。一方、標準インクの比較インク−2と、実施例のインク−1〜4では、擦った部分が100%脱色し、溶解した状態となった。脱色の順位は、上記耐水性試験と同様であった。
【0039】
(紫外線照射後の印刷物性能:耐水性)
上記で得た紫外線照射後の最終印刷物に対し、二次乾燥後の印刷物性能試験と同様に試験を行った。その結果、標準インクの比較インク−1は、擦った部分に若干の汚れが見られる程度であるのに対して、標準インクの比較インク−2は、擦った部分がほとんど脱色した。実施例のインクでは、実施例2のインク−2以外は、脱色が見られなかった。実施例2のインク−2は、標準インクの比較インク−1と同程度の脱色となった。
【0040】
(紫外線照射後の印刷物性能:耐アルカリ性)
上記で得た紫外線照射後の最終印刷物に対し、上述した二次乾燥後の印刷物性能試験と同様に試験を行った。その結果、実施例の各インクでは、擦った部分に若干のインクの脱色が見られるものの、標準インクの比較インク−1の耐水性試験と同程度の脱色であった。実施例のインク−1〜4には、大きな差は見られなかったが、中でも実施例3のインク−3が、その他の実施例のインクに比べて若干良好な状態であった。
【0041】
(出版印刷用コート紙への印字)
上述の処理ポリエステルフィルム(コロナ処理PETフィルム)と同条件の印刷を、出版印刷用コート紙に行って、得られた印刷物について同様に評価した。その結果、全てにおいて上記処理ポリエステルフィルムと同等の性能が得られた。ただし、印刷した対象が紙であることからインクの紙への浸透があり、処理ポリエステルフィルムの場合ように、擦った部分のインクが100%脱色することはなく、印刷した部分の縁にインクが滲んだ状態になった。
【0042】
また、一次乾燥、二次乾燥をしない状態で印刷物を得たが、一次乾燥、二次乾燥が有る場合と無い場合では、でき上がった最終印刷物の光沢が異なり、乾燥を行なう方が優れた光沢を有するものとなることを確認した。
【0043】
(ヘッド詰まり)
以下の試験方法で、記録ヘッドの詰まりを評価した。試験方法は、IJ印刷機上で、ヘッドを所定の格納場所以外の位置に、開放状態で25℃の環境下1時間放置し、ノズルチェック機能とヘッドクリーニング機能を使用して、各ノズルの詰まり状況と回復状態を調べた。
試験1:開放1時間後、ノズルチェックを行う(ヘッドクリーニング無し)。
試験2:試験1後、ヘッドクリーニングを1回行い、ノズルチェックを行なう。
試験3:試験2後、ヘッドクリーニングを1回行い、ノズルチェックを行なう。
以後、上記と同様にクリーニングとノズルチェックを繰り返して行い、インクが100%吐出となるまで行なって、その回数を調べた。
【0044】
[結果]
比較インク−1:試験10にて100%吐出(ヘッドクリーニング合計9回)
比較インク−2:試験2にて100%吐出(ヘッドクリーニング合計1回)
実施例1:試験3にて100%吐出(ヘッドクリーニング合計2回)
実施例2:試験2にて100%吐出(ヘッドクリーニング合計1回)
実施例3:試験3にて100%吐出(ヘッドクリーニング合計2回)
実施例4:試験3にて100%吐出(ヘッドクリーニング合計2回)
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によって、紫外線硬化装置と、必要に応じて加熱装置を有するインクジェット印刷システムで使用した場合に、ヘッド詰まりの問題が解決され、インクの吐出安定性に優れ、非吸収メヂアと吸収メヂアのいずれに対しても高い記録性を有し、更に、高発色性を有する印字品質に優れた印刷物が得られる印刷インクが提供される。特に、インクジェット印刷システムでありながら、専用印刷メヂアを使用することなく非吸収素材(非吸収メヂア)に直接印刷することも可能となるので、多様な用途への適用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化装置と、必要に応じて設けられた加熱装置を有するインクジェット印刷システムで、非吸収性メヂアまたは吸収性メヂアへの印刷をするための水性インクであって、
水、水混和性乾燥調整溶媒、顔料、樹脂、紫外線硬化性化合物、紫外線硬化開始剤および塩基性pH調整剤を含有し、そのpH値が8.0〜10.0に調整されており、且つ、
上記水混和性乾燥調整溶媒が、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールと炭素数6以下のアルコールとのモノエーテル、およびジプロピレングリコールと炭素数6以下のアルコールのジエーテルからなる群から選択される少なくとも1種を含み、
該水混和性乾燥調整溶媒の含有量が、インク100質量%中に5〜40質量%であることを特徴とする水性インク。
【請求項2】
前記紫外線硬化性化合物が、水或いは水と前記水混和性乾燥調整溶媒の混合媒体のいずれかに溶解性を有するか、または、前記塩基性pH調整剤によって中和或いは部分中和することで、水或いは上記混合媒体のいずれかに溶解性を有する請求項1に記載の水性インク。
【請求項3】
前記樹脂が、前記塩基性pH調整剤によって中和或いは部分中和することで、水或いは水と水混和性乾燥調整溶媒の混合媒体に溶解した形状のワニス、または、水系で自己分散性を示す樹脂のハイドロゾルの形態のワニスの、いずれかの単体、或いはこれらの混合物である請求項1に記載の水性インク。
【請求項4】
前記塩基性pH調整剤が、前記紫外線硬化性化合物との反応性の無い有機塩基性化合物である請求項1に記載の水性インク。
【請求項5】
その粘度が2〜8mPa・sである請求項1に記載の水性インク。
【請求項6】
その表面張力が20〜40mN/mである請求項1に記載の水性インク。
【請求項7】
前記加熱装置が、メヂアへ予備加熱が行え、吐出されてメヂアに付与されたインクのドットに加熱が行える位置に配置されており、メヂアへ吐出されたインクを乾燥後、紫外線硬化装置でインクに紫外線が照射されるインクジェット印刷システムで使用される請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項8】
前記紫外線硬化装置が、全ての印刷工程が終了した位置に配置されているインクジェット印刷システムに使用される請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性インク。

【公開番号】特開2012−111822(P2012−111822A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261029(P2010−261029)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】