説明

水性エマルションおよびこれを含有する水性塗料組成物

【課題】造膜性が優れ、耐水性、耐候性を備えていて白化しにくく平滑性も優れた塗膜を形成可能な水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体を0.01〜10質量%、及びN−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体を1〜40質量%含むラジカル重合性ビニル単量体成分の乳化重合物を含有することを特徴とする水性エマルションを用いる。
【化1】


式(1)中、nは1または2、mは正の整数、Xは水素原子またはメチル基、Yは直鎖または分岐状のアルキレン基である。X及びYは、一分子中に複数存在する場合それぞれ独立して上記から選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜の形成に好適に使用される水性エマルションとこの水性エマルションを含有する水性塗料組成物および水性エマルションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への影響や毒性などの観点から、低VOC(揮発性有機化合物)の動きが高まっている。例えば、塗料業界では、これらの動きに加え省資源の面から、有機溶剤を使用した塗料から水溶媒を使用した水性塗料への移行が望まれている。水性塗料としては、バインダとして水性エマルション樹脂(重合体)を使用した水性エマルション塗料が代表的である。
【0003】
一般に重合体は、その分子量により化学特性や物理特性が左右され、重合体の分子量が大きくなると、強度が高くなる、ブロッキングが少なくなる、耐候性が良好になる傾向があり、一方、分子量が小さくなると、重合体の溶剤溶解性、加熱溶融性、加熱流動性が良好になる傾向がある。よって、水性塗料に使用するバインダとして低分子量のものを使用することにより、その良好な溶剤溶解性、加熱溶融性、加熱流動性により、平滑性に優れた塗膜を得ることができ、このようなものは、高外観塗料やハイソリッド塗料に有用である。
【0004】
低分子量の重合体を含む水性エマルションの製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などの重合方法が挙げられるが、上述した環境、毒性、低資源などの観点からは乳化重合で製造されることが望ましく、乳化重合で低分子量の重合体を得る場合には、分子量を小さくするために、通常、連鎖移動剤を共存させて重合する。連鎖移動剤としては、工業的には一般に、脂肪族メルカプタンやハロゲン化炭化水素系の連鎖移動剤が使用されている。
【0005】
また、低分子量の重合体を含む水性エマルションを製造する方法として、例えば特許文献1には、ラジカル重合性不飽和単量体を115℃以上の温度で乳化重合する方法が記載されている。
【特許文献1】国際公開第98/16561号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、連鎖移動剤としてメルカプタンを使用すると、その使用量が少ない場合であっても、得られる水性エマルションは特有の臭気を発するという問題があった。また、ハロゲン化炭化水素系(四塩化炭素、ブロモホルム、ブロモトリクロロメタンなど)の使用は、環境面などの点からあまり好ましくない。すなわち、これらの連鎖移動剤の使用量はできるだけ少ないことが好ましいが、水性塗料に使用するバインダとなる低分子量の重合体を得るためには、未だ多量の連鎖移動剤を使用する必要があった。
【0007】
また、上記特許文献1の方法では、耐圧性の重合槽を用い、密封状態の圧力調整下で重合反応を行う必要があり、一般的な製造設備を使用することは困難であった。
【0008】
本発明では、多量の連鎖移動剤や特殊な製造設備を使用しなくても、造膜性が優れ、耐水性、耐候性を備えていて白化しにくく平滑性も優れた塗膜を形成可能な水性エマルションおよびその製造方法、並びにその水性エマルションを用いた水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定のリン酸エステル基含有ビニル単量体およびN−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体を含有するラジカル重合性ビニル単量体成分を乳化重合したものが、上記目的を達成できることを見出し本発明を完成させた。
【0010】
本発明の水性エマルションは、下記式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体を0.01〜10質量%、及びN−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体を1〜40質量%含むラジカル重合性ビニル単量体成分の乳化重合物を含有することを特徴とする。
【0011】
【化1】

【0012】
式(1)中、nは1または2、mは正の整数、Xは水素原子またはメチル基、Yは直鎖または分岐状のアルキレン基である。X及びYは、一分子中に複数存在する場合それぞれ独立して上記から選ばれる。
【0013】
本発明の水性塗料組成物は、前記水性エマルションを含有することを特徴とする。本発明の熱硬化性水性塗料組成物は、前記水性エマルションを含有する熱硬化性水性塗料組成物とすることを特徴とする。
【0014】
本発明の水性エマルションの製造方法は、下記式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体を0.01〜10質量%、及びN−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体を1〜40質量%含むラジカル重合性ビニル単量体成分を、70℃以下の温度で乳化重合することを特徴とする。
【0015】
【化2】

【0016】
式(1)中、nは1または2、mは正の整数、Xは水素原子またはメチル基、Yは直鎖または分岐状のアルキレン基である。X及びYは、一分子中に複数存在する場合それぞれ独立して上記から選ばれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、連鎖移動剤や特殊な製造設備を使用しなくても、水性塗料として使用した際の造膜性が優れ、耐水性、耐候性を備えていて白化しにくく、平滑性も優れた塗膜を形成可能な、水性エマルションを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明の水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分は、下記式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体を0.01〜10質量%、及びN−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体を1〜40質量%含むものである。
【0020】
【化3】

【0021】
式(1)中、nは1または2、mは正の整数、Xは水素原子またはメチル基、Yは直鎖または分岐状のアルキレン基である。X及びYは、一分子中に複数存在する場合それぞれ独立して上記から選ばれる。
【0022】
Yは、炭素数が1〜5の直鎖または分岐状のアルキレン基が好ましい。Yは、例えば、メチレン、エチレン、1,1−エタンジイル、1,1−プロパンジイル、1,2−プロパンジイル、1,3−プロパンジイル、2,2−プロパンジイル、1,4−ブタンジイル、2−メチル−1,3−プロパンジイル、1,5−ペンタンジイル等とすることができる。mは、1〜10の正の整数が好ましく、1〜6の正の整数がより好ましい。
【0023】
上記式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体としては、例えば、2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート(共栄社化学社製商品名:ライトエステルP−1M、ユニケミカル社製商品名:ホスマーM)、2−アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、3−(メタ)アクリロイロキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイロキシポリオキシエチレングリコールアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイロキシポリオキシプロピレングリコールアシッドホスフェート等のリン酸モノエステル基含有ビニル単量体;ジ(2−メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート(共栄社化学社製商品名:ライトエステルP−2M)、ジ(2−アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(3−(メタ)アクリロイロキシプロピル)アシッドホスフェート、ジ((メタ)アクリロイロキシポリオキシエチレングリコール)アシッドホスフェート、ジ((メタ)アクリロイロキシポリオキシプロピレングリコール)アシッドホスフェート等のリン酸ジエステル基含有ビニル単量体;などが挙げられる。これらは単独で用いても、適宜選択した2種以上を組み合わせて用いても良い。なお、「(メタ)アクリル」の表現は、アクリルまたはメタクリルを意味するものとする(以下同様)。
【0024】
式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体の使用量は、水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分の0.01〜10質量%の範囲である。10質量%を超えると、乳化重合時に凝集物が発生するなどして、得られる水性エマルションを含有する水性塗料組成物から形成された塗膜の耐水性が劣る。一方、0.01質量%未満であると、乳化重合物が高分子量化し、塗膜外観・平滑性が不十分となる。式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体の使用量は、水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分の、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0025】
N−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体としては、例えば、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−フェノキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。これらは単独で用いても、適宜選択した2種以上を組み合わせて用いても良い。N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドにおけるアルコキシ基は、炭素数が1〜4の直鎖または分岐状のアルコキシ基が好ましい。
【0026】
N−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体の使用量は、水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分の1〜40質量%の範囲である。40質量%を超えると、低温でも粒子内架橋が起こりやすくなり乳化重合物が高分子量化し、塗膜外観・平滑性が不十分となる。一方、1質量%未満であると、塗膜乾燥硬化時の粒子内架橋が充分でなく形成された塗膜の耐水性が劣る。N−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体の使用量は、水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分の、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0027】
以上2成分の合計の含有量は、水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分の3.1〜37質量%が好ましく、5.2〜25質量%がより好ましい。
【0028】
水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分に含まれる他の単量体としては特に制限はなく、共重合可能な単量体から適宜選択して用いることができる。
【0029】
例えば、水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分として、下記式(3)で表されるリン酸エステル含有ビニル単量体を使用することができる。
【0030】
【化4】

【0031】
式(3)中、m’は正の整数、X’は水素原子またはメチル基、Y’は直鎖または分岐状のアルキレン基である。X’及びY’は、一分子中に複数存在する場合それぞれ独立して上記から選ばれる。Y'は、炭素数が1〜5の直鎖または分岐状のアルキレン基が好ましい。Y'は、例えば、メチレン、エチレン、1,1−エタンジイル、1,1−プロパンジイル、1,2−プロパンジイル、1,3−プロパンジイル、2,2−プロパンジイル、1,4−ブタンジイル、2−メチル−1,3−プロパンジイル、1,5−ペンタンジイル等とすることができる。m'は、1〜10の正の整数が好ましく、1〜6の正の整数がより好ましい。
【0032】
式(3)で表されるリン酸エステル含有ビニル単量体としては、具体的には、アシッドホスホオキシアルキルビニルエーテル、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールビニルエーテル、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレンフリコールビニルエーテル等などが挙げられる。
【0033】
式(3)で表されるリン酸エステル含有ビニル単量体以外に、水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分として使用可能な他の単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、5−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、またはこれらとε―カプロラクトンとの付加物などの水酸基含有ビニル系単量体;N−シクロヘキシルマレイミド、N−ブチルマレイミド等のマレイミド誘導体;(メタ)アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ホルミルスチロ−ル、ビニルアルキルケトン、(メタ)アクリルアミドピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレ−ト、アセトニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−トアセチルアセテート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ブタンジオール−1,4−(メタ)アクリレート−アセチルアセテート、(メタ)アクリルアミドメチルアニスアルデヒド等のアルデヒド基またはカルボニル基を有するビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、クロトンアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有ビニル性単量体;アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル性単量体;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル性単量体;ブタジエン等のオレフィン系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン系モノマー;ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等のアルキルビニルベンゼン;ビニルナフタレン等の多環芳香族ビニル化合物;などが代表的なものとして挙げられる。
【0034】
以上のような水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分に含まれる他の単量体は、単独で用いても、適宜選択した2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0035】
他の単量体の使用量は、水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分の50〜98.99質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは63質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは96.9質量%以下、さらに好ましくは94.8質量%以下である。
【0036】
さらに、水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分として、上記以外の架橋成分を使用することもできる。架橋成分としては、例えば、内部架橋反応するジビニルベンゼンや、ジアリルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルシアヌレートなどの分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体が挙げられる。
【0037】
また、乳化重合反応時の温度において相互に反応する官能基を持つ単量体を組み合わせて使用しても良い。このような組み合わせとしては、例えば、カルボキシル基を有するビニル単量体とグリシジル基を有する単量体との組み合わせ、水酸基を有するビニル単量体とイソシアネート基を有する単量体の組み合わせなどが挙げられる。また、加水分解縮合反応するビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシラン、ビニルメチルジプロポキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン等のアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体等を使用することもできる。
【0038】
これらの架橋成分は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0039】
架橋成分の使用量は、水性エマルションを形成するためのラジカル重合性ビニル単量体成分中、10質量%以下となる量が好ましい。10質量%を超えて使用すると、乳化重合物が高分子量化し、塗膜外観・平滑性が不十分となる場合がある。
【0040】
本発明の水性エマルションは、以上説明したラジカル重合性ビニル単量体成分を乳化重合することにより製造できる。本発明においては、ラジカルビニル単量体成分として、式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体を0.01〜10質量%、N−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体を1〜40質量%含むものを使用するので、乳化重合の際に連鎖移動剤を使用しなくても、水性塗料組成物への使用に適した造膜性を有し、平滑性の良好な塗膜を形成可能な水性エマルションを製造することができる。ただし、必要に応じて連鎖移動剤を使用しても良い。連鎖移動剤を使用する場合、その使用量はラジカル重合性ビニル単量体成分100質量部に対して、1質量部以下の少量で良く、このような少量の使用で、従来と同等ないしそれ以下の低分子量の乳化重合物を製造することができる。
【0041】
連鎖移動剤としては、従来から乳化重合に使用されているものが同様に使用でき、例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、2−メルカプトエタノール等の含硫黄系の連鎖移動剤;トリクロロブリモエタン、四塩化炭素、ブロモホルム等の含ハロゲン系の連鎖移動剤;N,N−ジメチルホムルアミド、ピバロニトリル等の含窒素系の連鎖移動剤;その他テルピノーレン、ミルセル、リモネン、α−ピネン、β−ピネン等が挙げられる。連鎖移動剤は、単独で用いても、適宜選択した2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0042】
乳化重合は常法に従い、水(脱イオン水)、あるいは、必要に応じてアルコールのような水親和性有機溶媒が添加された系において、ラジカル重合性ビニル単量体成分を1段階で、または2段階以上繰り返し行う多段乳化重合法により行える。1段階で行うと一相からなる重合体粒子が得られ、多段乳化重合法によれば、二相以上の異相構造、すなわち、最外相と一相以上の内部相とからなる重合体粒子が得られる。1段および多段乳化重合法の代表例としては、水中にて、乳化剤および重合開始剤、さらに、必要に応じて連鎖移動剤や乳化安定剤の存在下でラジカル重合性ビニル単量体成分を乳化重合する方法、あるいは、それを複数回繰り返し行う方法が挙げられる。
【0043】
反応系へのラジカル重合性ビニル単量体成分の添加方法としては、ラジカル重合性ビニル単量体成分を一括して仕込む単量体一括仕込み法や、単量体を連続して滴下する単量体滴下法、単量体と水と乳化剤とを予め混合乳化しておき、これを滴下するプレエマルション法、あるいは、これらを組み合わせる方法などが挙げられる。
【0044】
また、この際、式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体は、使用したラジカル重合性ビニル単量体成分の全量中、0.01〜10質量%となるように仕込まれればよく、反応の最初にリン酸エステル基含有ビニル単量体の全量を一度に仕込んでもよいが、例えば、反応開始時に、ラジカル重合性ビニル単量体成分中0.005〜2質量%、好ましくは0.008〜1質量%程度の少量となるようにを添加し、重合開始後にリン酸エステル基含有ビニル単量体の残量を、リン酸エステル基含有ビニル単量体以外のビニル単量体とともに断続的、半連続的または連続的に添加するようにしても良い。
【0045】
乳化重合時に使用する乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪酸塩や、高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩、スルホン酸基または硫酸エステル基と重合性の炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に有する、いわゆる反応性乳化剤などのアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテルや、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、またはポリオキシエチレン、および/またはポリオキシプロピレン骨格と重合性の炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に有する反応性乳化剤などのノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩や、第4級アンモニウム塩などのカチオン性界面活性剤;(変性)ポリビニルアルコール等が挙げられる。乳化剤は、単独で用いても、適宜選択した2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0046】
乳化剤の使用量は、ラジカル重合性ビニル単量体成分100質量部に対し、0.05〜10質量部、好ましくは0.1〜8質量部、さらに好ましくは0.2〜5質量部の範囲である。
【0047】
乳化重合時に使用するラジカル重合開始剤としては、熱または還元性物質などによってラジカル分解してラジカル重合性不飽和単量体の付加重合を起こさせるもので、水溶性または油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物などが使用できる。その例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイト、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、2,2’−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられるが、重合体の耐水性を低下させないという観点から、過酸化水素、アルキルハイドロパーオキサイド、アゾ開始剤等の非イオン性開始剤が好ましく、特にアルキルハイドロパーオキサイドが好ましい。ラジカル重合開始剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0048】
ラジカル重合開始剤の使用量は、目的とする乳化重合物の分子量に応じて適宜調整できるが、ラジカル重合性ビニル単量体成分100質量部に対し、0.05〜30質量部の範囲が好ましく、0.1〜20質量部の範囲がさらに好ましく、0.2〜10質量部の範囲が特に好ましい。
【0049】
なお、後述するように本発明の水性エマルションは70℃以下の低温で乳化重合することが好ましいことから、亜硫酸水素ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸塩などの還元剤をラジカル重合開始剤と組み合わせて用いる事が望ましく、還元剤の使用量は、ラジカル重合性ビニル単量体成分100質量部に対し、通常0.05〜50質量部の範囲が好ましい。
【0050】
また、乳化重合の際には必要に応じて、ラジカル重合性ビニル単量体成分とともに分子内にラジカル重合性不飽和結合をもつベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系などの反応性紫外線吸収剤や反応性ヒンダードアミン系光安定剤を使用しても良い。これら反応性紫外線吸収剤や反応性ヒンダートアミン系光安定剤を使用することにより、得られる水性エマルションを水性塗料組成物に使用すると、耐候性に優れた塗膜を形成することができる。
【0051】
乳化重合の温度は、70℃以下とすることが好ましい。70℃以下とすることで、N−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体による粒子内架橋が抑制可能となる。より好ましくは、60℃以下である。また、乳化重合の温度の下限は、ラジカル重合が起こり得る温度以上であれば良い。
【0052】
以上にようにして乳化重合することによって、上記のラジカル重合性ビニル単量体成分が乳化重合した乳化重合物を含む水性エマルションが得られる。この乳化重合物は、数平均分子量が1000〜200000であることが好ましく、3000〜150000であることがより好ましい。また、この乳化重合物は、重量平均平均粒子径(大塚電子製濃厚系粒径アナライザー、商品名:FPAR−1000にて測定)が、0.01〜1μmであることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.8μm、さらに好ましくは0.05〜0.3μmである。
【0053】
得られる水性エマルションは、乳化重合物の濃度が20〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜70質量%、さらに好ましくは30〜60質量%である。また、水性エマルションは、ブルークフィールド型回転粘度計により測定した25℃、6rpmの条件での粘度が10,000mPa以下であることが好ましく、より好ましくは10〜5,000mPaである。
【0054】
このような水性エマルションには、乳化重合後に塩基性化合物を添加して、系のpHを6.5〜10.0(中性領域〜弱アルカリ性)にすることで安定性を高めてもよい。
【0055】
塩基性化合物としては、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0056】
また、水性エマルションは、そのままで使用しても良いが、水性エマルションから乳化重合物である重合体粒子を分離して用いることもできる。
【0057】
水性エマルションからの重合体粒子の分離方法としては、水性エマルションを気流乾燥機またはスプレー・ドライヤーに直接投入し乾燥する方法、水性エマルションに電解質を添加し重合体粒子を塩析させる方法、アルコール等の溶媒を添加し、溶媒和により重合体粒子を析出させた後、遠心分離して乾燥する方法などが挙げられる。
【0058】
また、水性エマルションは、そのまま水性塗料組成物として用いることができるが、含有する乳化重合物にカルボキシル基や水酸基などの官能基を導入した上で、この水性エマルションに架橋剤をブレンドすることにより、一層造膜性に優れ、また、形成される塗膜の平滑性が良好であるとともに耐水性、耐候性に優れ白化しにくい、低VOCの熱硬化性水性塗料組成物とすることができる。
【0059】
架橋剤のブレンド法としては、乳化重合前に架橋剤をラジカル重合性ビニル単量体成分に溶解または分散させる方法、乳化重合中または乳化重合後に適当な水分散物の形状で混入させる方法が挙げられる。
【0060】
このように使用される架橋剤の具体例としては、アミノ樹脂およびブロックポリイソシアネート等がある。
【0061】
アミノ樹脂としては、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ成分とアルデヒドとの反応によって得られる公知の部分もしくは完全メチロール化アミノ樹脂等が挙げられる。アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。また、このメチロール化アミノ樹脂を適当なアルコールによってエーテル化したものも使用でき、エーテル化に用いられるアルコールの例としてはメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール等が挙げられる。具体的にはメチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化メラミン樹脂、メチル、ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、メチル、イソブチル混合エーテル化メラミン樹脂等を用いることができる。
【0062】
ブロックポリイソシアネートは、1分子中に遊離イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物のすべてのイソシアネート基にブロック剤を反応させてなるもので、これはブロック剤の解離温度以上に加熱するとイソシアネート基が再生し、本発明の水性エマルション中の乳化重合物と架橋反応する。イソシアネート化合物としては例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート類、イソホロンジイソシアネート等の環状脂肪族イソシアネート類、キシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類等が挙げられる。ブロック剤としては、例えばフェノール化合物、ラクタム化合物、アルコール化合物、オキシム化合物等が使用される。
【0063】
このようにブレンドして使用される架橋剤の使用量は、水性エマルションの製造時に使用したラジカル重合性ビニル単量体成分100質量部に対して10〜100質量部の範囲が好ましい。
【0064】
また、水性塗料組成物には、必要に応じセルロースアセテート、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂およびアクリル樹脂等を配合することができる。また、従来公知の成分、すなわち、有機溶媒(酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、メチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール等のアルコール系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテル等のエーテル系溶媒等)、有機顔料(キナクリドン等のキナクリドン系、ピグメントレッド等のアゾ系、フタロシアニングブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系等)、無機顔料(酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、マイカ等)、炭素系顔料(カーボンブラック)、メタリックフレーク粉末(アルミニウム、ニッケル、銅、雲母状酸化鉄、ステンレススチール等)、表面調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、硬化触媒(ドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジラウレート等)等を必要に応じて配合することができる。
【0065】
本発明の水性塗料組成物は、鋼板、表面処理鋼板などの金属、プラスチック等の被塗物に直接塗布しても、被塗物にプライマー、プライマー/中塗り、もしくはプライマー/中塗り/上塗りベースを塗布した後に塗布できる。
【0066】
被塗物としては特に制限はなく、自動車、船舶、航空機等の輸送機器や建築物、あるいは電気器具などの外板塗装に適用され、特に、自動車等の高い仕上がり品質が求められる塗装に好ましく適用される。自動車用塗料として使用する場合には、例えば、上塗りベース/上塗りクリア等の2コート1ベーク、2コート2ベーク、あるいは中塗り/上塗りベース/上塗りクリア等の3コート2ベーク、3コート1ベーク等の中塗り塗料、上塗りベース塗料(メタリック塗料またはソリッドカラー塗料)および上塗りクリア塗料、1コート1ベーク等のソリッドカラー塗料、中塗り塗料として使用できる。
【0067】
本発明の水性塗料組成物の塗装方法には制限はないが、スプレー塗装が好ましい。スプレー塗装方法としては、特に制限はなく、例えばエアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、エア霧化式、エアレス霧化式もしくは回転霧化式静電塗装などがある。
【0068】
以上説明したようにこのような水性エマルションは、ラジカル重合性ビニル単量体成分の乳化重合物を含有するものであって、ラジカル重合性ビニル単量体成分は、式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体を0.01〜10質量%、N−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体を1〜40質量%含むので、水性塗料組成物に使用した場合、造膜性が優れ、耐水性、耐候性を備えていて白化しにくく平滑性も優れた塗膜を形成可能である。また、このような水性エマルションは連鎖移動剤を使用しなくても製造できるので、連鎖移動剤に由来する臭気を発せず、また、特殊な製造設備を使用することなく製造できる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、「部」および「%」はいずれも質量を基準である。
【0070】
(実施例1)
温度計、サーモスタット、攪拌器、還流冷却器、滴下装置を備えた反応容器に、脱イオン水85.8部を加え、窒素気流中で混合攪拌しながら60℃に昇温した。
【0071】
別の容器に、式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体として2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート1.0部、N−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体としてN−ブトキシメチルアクリルアミド15部、その他の単量体として、スチレン20部、メチルメタクリレート20部、エチルアクリレート32部、n−ブチルアクリレート5.5部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート5部、及びメタクリル酸1.5部、乳化剤として、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製商品名)2.0部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製商品名、80%溶液)1.0部、並びに脱イオン水40部からなるモノマー乳化物を調製した。
【0072】
次に、上記モノマー乳化物のうち15部を反応容器内に添加し、さらに重合開始剤として5%ターシャリブチルハイドロパーオキサイド水溶液2部、0.1%硫酸第1鉄水溶液2部、5%ロンガリット水溶液を追加し、60℃で初期重合を行った。初期重合終了後、残りのモノマー乳化物と5%ターシャリブチルハイドロパーオキサイド水溶液4部、5%ロンガリット水溶液4部を2時間かけて定量ポンプを用いてそれぞれ反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間同温度で、熟成を行った。
【0073】
ついで、2%ジメチルアミノエタノール水溶液10部を加えながら40℃まで冷却し、300メッシュのナイロンクロスでろ過することによって、重量平均粒子径0.13μm、不揮発分(固形分)40%の水性エマルションを得た。数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Mw/Mnは、35,000、172,000、4.9であった。
【0074】
(実施例2〜7、比較例1〜3)
使用したラジカル重合性ビニル単量体成分の種類、量、重合温度を表1のようにした以外は、実施例1と同様にして水性エマルションを得た。得られた水性エマルションの物性を表1に示す。なお、実施例4及び5並びに比較例2で使用したメタクリロイロキシポリオキシエチレングリコールアシッドホスフェートとしては、ホスマーPP(ユニケミカル社製商品名)を使用した。
【0075】
(実施例8)
使用したラジカル重合性ビニル単量体成分の種類、量、重合温度を表1のようにし、かつ連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン0.1部を用いた以外は、実施例1と同様にして水性エマルションを得た。得られた水性エマルションの物性を表1に示す。
【0076】
(比較例4)
使用したラジカル重合性ビニル単量体成分の種類、量、重合温度を表1のようにし、かつ連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン2.0部を用いた以外は、実施例1と同様にして水性エマルションを得た。得られた水性エマルションの物性を表1に示す。
【0077】
<評価>
各例で得られた水性エマルションを使用して水性塗料組成物を調製し、ついで、その水性塗料組成物から塗膜を形成し、その物性を下記の試験方法で評価した。結果を表1に示す。
【0078】
[塗膜形成方法(試験片の製造方法)]
実施例1〜8、及び比較例1〜4で得られた各水性エマルション(樹脂固形分40%)を10%ジメチルアミノエタノール水溶液にてpHを7.8に調整した後、架橋剤としてメラミン樹脂(イミノ基型メチル化メラミン、三井サイテック製商品名:サイメル325)を上記樹脂固形分:架橋剤=10:3の割合(質量比)で添加し、均一に混合して水性塗料ワニスを作成した。さらに樹脂固形分に対して15%のブチルグリコール、樹脂固形分に対して10%の市販水性塗料用アルミペースト(Stapa Hydrolac WH8154、ECKART社製商品名)、アルミペーストに対して1%のアルミペースト用湿潤剤(Additol XL250、ソルーシア社製商品名)を混合し、水で希釈して固形分濃度25%の水性メタリックベース塗料を作製した。この水性メタリックベース塗料を電着・中塗りした塗装板上に焼付け後の膜厚が15μmになるようにスプレー塗装し、80℃で10分間プレヒートし、その後、下記のクリア塗料をスプレー塗装し、10分間セッティング後140℃で30分間焼付けたものを試験片とした。
【0079】
[クリア塗料]
・HR−538:120質量部
(三菱レイヨン(株)製、アクリル樹脂ワニス、不揮発分50%)
・ユーバン20 SE:44質量部
(三井化学(株)清商品名、ブチルエーテル化メラミン樹脂、不揮発分60%)
・モダフロー:0.09質量部
(モンサント社製商品名、表面調整剤)
・チヌビン328:0.9質量部
(チバガイキー社製商品名、紫外線吸収剤)
・サノールLS−770:1質量部
(チバガイキー社製酸化防止剤)
・ネイキュア5225:4質量部
(楠本化成(株)製商品名、スルホン酸系硬化触媒)
を混合し、ソルベッソ#100(エッソ社製商品名、芳香族炭化水素)で希釈し、20℃におけるフォードカップ#4での粘度が30秒となるように調整した。
【0080】
(1)塗膜の平滑性
塗膜を目視で観察し、次の基準で評価した。
○:良好
△:部分的に平滑でない箇所が見られる
×:全体的に平滑でない
(2)耐水性評価
(耐水白化性)
80℃の温水中に試験片を5時間浸漬後の塗膜状態を目視で観察し、次の基準で評価した。
◎:初期と変化無し
○:白化等の変化あるが、1h以内に回復する
×:白化等の変化あり、1h以内に回復しない
(耐水密着性)
耐水試験後の試験片の塗膜上に碁盤目100マス(1mm角)の切り込みを入れ、セロテープ(登録商標)剥離試験を行い、次の基準で評価した。
◎:剥離した枚数が0枚
○:剥離した枚数が1枚以上5枚以下
△:剥離した枚数が6枚以上10枚以下
×:剥離した枚数が11枚以上
【0081】
【表1】

【0082】
表1から明らかなように、本発明によれば、連鎖移動剤を使用しないか、使用したとしても少ない使用量で、低分子量の水性エマルションが得られ、水性塗料組成物として使用した場合に優れた造膜性、塗膜外観および耐水性を示した。一方、比較例1〜4においては、実施例に比べていずれかの性能が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体を0.01〜10質量%、及びN−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体を1〜40質量%含むラジカル重合性ビニル単量体成分の乳化重合物を含有することを特徴とする水性エマルション。
【化1】

式(1)中、nは1または2、mは正の整数、Xは水素原子またはメチル基、Yは直鎖または分岐状のアルキレン基である。X及びYは、一分子中に複数存在する場合それぞれ独立して上記から選ばれる。
【請求項2】
請求項1に記載の水性エマルションを含有することを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の水性エマルションを含有することを特徴とする熱硬化型水性塗料組成物。
【請求項4】
下記式(1)で表されるリン酸エステル基含有ビニル単量体を0.01〜10質量%、及びN−メチロールアルキルエーテル基含有ビニル単量体を1〜40質量%含むラジカル重合性ビニル単量体成分を、70℃以下の温度で乳化重合することを特徴とする水性エマルションの製造方法。
【化2】

式(1)中、nは1または2、mは正の整数、Xは水素原子またはメチル基、Yは直鎖または分岐状のアルキレン基である。X及びYは、一分子中に複数存在する場合それぞれ独立して上記から選ばれる。

【公開番号】特開2006−316097(P2006−316097A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137148(P2005−137148)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】