説明

水性エマルションの製造方法

【課題】より少ない量の水性エマルション材料を使用してより薄く外観の良い塗工面を形成するために、水性エマルション中の樹脂の粒子サイズを小さくすることが求められる。
【解決手段】樹脂を水中で乳化して乳化物を得る乳化工程と、乳化工程により得られた乳化物に機械的剪断力、衝撃力または摩擦力を加えて凝集粒を粉砕して水性エマルションを得る粉砕工程とを含むことを特徴とする、水性エマルションの製造方法により、水性エマルション中に存在する凝集粒の大きさを小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤や塗料に使用される水性エマルションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水性エマルションは、一般に塗料や接着剤等に用いられている。例えば、特許文献1には、接着剤、塗料、塗装用プライマー、塗料用又は印刷用バインダーに好適な水性エマルションが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−63557
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水性エマルションを塗料や接着剤として塗工する際、水性エマルション中に存在する凝集粒の大きさを小さくすると、塗工面に生じる凹凸を抑制できることを見出した。また、凝集粒の大きさを小さくすることによって、大きい凝集粒を含有する水性エマルションと比較して、より薄い均一な塗工面を形成することが可能となり、塗工に要するエマルションの量を減らすことが可能であることを見出した。従って、水性エマルション中に存在する凝集粒の大きさを小さくして塗工性に優れた水性エマルションを得る方法が重要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者らは更に検討を重ねた結果、以下に記載の発明に至った。すなわち、本発明は、
樹脂を水中で乳化して乳化物を得る乳化工程と、
前工程により得られた乳化物に機械的剪断力、衝撃力または摩擦力を加えて凝集粒を粉砕して水性エマルションを得る粉砕工程と
を含むことを特徴とする、水性エマルションの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によれば、水性エマルション中に存在する凝集粒の大きさを小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の方法に適した樹脂としては、例えば熱可塑性樹脂等を挙げることができる。本発明の方法に適した熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、アクリル系接着剤、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、α−オレフィン−ビニル化合物共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマー、塩素化ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、プラスチゾル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ナイロン、飽和無定形ポリエステル、セルロース誘導体等を挙げることができる。
【0008】
本発明の方法に適した熱可塑性樹脂としては、特に以下のものが挙げられる:
エチレン及び/又は直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位と、
式(I)

CH=CH−R (I)

(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭化水素基を表す。)
で表されるビニル化合物(以下、「ビニル化合物(I)」と記すことがある)に由来する構造単位と
を含むオレフィン系共重合体(以下、「重合体(A−1)」と記すことがある)又は
重合体(A−1)にα、β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体(以下、「重合体(A−2)」と記すことがある)。以下、重合体(A−1)と重合体(A−2)とを総称して「重合体(A)」と記すこともある。
【0009】
前記ビニル化合物(I)の置換基Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭化水素基である。ビニル化合物(I)の具体例としては、例えばビニルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0010】
重合体(A−1)は、炭素数4〜20の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位を更に含有していてもよい。
【0011】
重合体(A−1)は、付加重合可能なモノマーを更に共重合させてもよい。ここで、付加重合可能なモノマーとは、エチレン、プロピレン、炭素数4〜20の直鎖状α−オレフィン及びビニル化合物(I)を除くモノマーであって、エチレン、プロピレン、炭素数4〜20の直鎖状α−オレフィン及びビニル化合物(I)と付加重合可能なモノマーであり、該モノマーの炭素数は、通常、3〜20程度である。
【0012】
重合体(A−1)の製造方法としては、例えば、インデニル形アニオン骨格、あるいは架橋されたシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基を有する遷移金属化合物を用いてなる触媒の存在下で製造する方法等が挙げられる。中でも特開2003−82028号公報、特開2003−160621号公報及び特開2000−128932号公報に記載の方法に準じて製造する方法が好適である。
【0013】
重合体(A−1)の分子量分布(Mw/Mn=[重量平均分子量]/[数平均分子量])は、通常、1.5〜10程度であり、好ましくは1.5〜7程度、とりわけ好ましくは1.5〜5程度である。また、機械的強度の観点から、重合体(A−1)の重量平均分子量(Mw)は、通常、5,000〜1,000,000程度であり、好ましくは10,000〜500,000程度であり、とりわけ好ましくは15,000〜400,000程度である。重合体(A−1)の分子量分布は、後述の実施例において具体的に記載する方法に従って、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)を用いて求めることができる。
【0014】
JIS K 7210に準拠して、メルトインデクサ(L217−E14011、テクノ・セブン社製)を用いて190℃、2.16kgfの条件下で測定した重合体(A−1)のメルトフローレート(MFR)の値は、分散性の観点から、通常130〜300g/10分、好ましくは130〜220g/10分である。
【0015】
重合体(A−2)とは、かくして得られた重合体(A−1)にα,β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体である。α,β−不飽和カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸が好ましい。
【0016】
重合体(A−2)の製造方法としては、例えば、重合体(A−1)を溶融させたのち、α,β−不飽和カルボン酸無水物を添加してグラフト重合せしめる方法、オレフィン系共重合体をトルエン、キシレン等の溶媒に溶解したのち、α,β−不飽和カルボン酸無水物を添加してグラフト重合せしめる方法等が挙げられる。
重合体(A−1)を溶融させたのち、α,β−不飽和カルボン酸無水物を添加してグラフト重合せしめる方法は、押出機を用いて溶融混練することで、樹脂同士あるいは樹脂と固体もしくは液体の添加物を混合するための公知の各種方法が採用可能であることから好ましい。更に好ましい例としては、各成分の全部もしくはいくつかを組み合わせて別々にヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダー等により混合して均一な混合物とした後、該混合物を溶融混練する等の方法を挙げることができる。
溶融混練の手段としては、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸又は二軸の押出機等の従来公知の混練手段が広く採用可能である。特に好ましいのは、連続生産が可能であり、生産性が向上するという観点から、一軸又は二軸押出機を用い、予め十分に予備混合したオレフィン系共重合体、不飽和カルボン酸類、ラジカル開始剤を押出機の供給口より供給して混練を行う方法が推奨される。
押出機の溶融混練を行う部分の温度(例えば、押出機ならシリンダー温度)は、通常、50〜300℃、好ましくは80〜270℃である。押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の2段階に分け、前半より後半の温度を高めた設定にすることが好ましい。溶融混練時間は、通常、0.1〜30分間、特に好ましくは0.1〜5分間である。
【0017】
α,β−不飽和カルボン酸無水物を重合体(A−1)にグラフト重合させるためには、通常、ラジカル開始剤の存在下に重合を行う。ラジカル開始剤の添加量は、重合体(A−1)100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。ラジカル開始剤は、通常、有機過酸化物であり、好ましくは半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物である。また、これらの有機過酸化物は分解してラジカルが発生した後、重合体(A−1)からプロトンを引き抜く作用があることが好ましい。
【0018】
半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物としては、例えば、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が挙げられる。有機過酸化物の添加量は、重合体(A−1)100重量部に対して0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜10重量部である。
【0019】
かくして得られた重合体(A−2)に含まれるα,β−不飽和カルボン酸無水物に由来する構造単位は、酸無水物基が閉環したままであっても、開環したものであってもよく、閉環したものと開環したものがいずれも含有されていてもよい。
【0020】
本発明の水性エマルションにおける重合体(A−2)の分子量分布(Mw/Mn)としては、例えば、1.5〜10等を挙げることができる。好ましくは1.5〜7等、より好ましくは1.5〜5等が挙げられる。重合体(A−2)の分子量分布は、前記重合体(A−1)の分子量分布と同様に測定することができる。
【0021】
JIS K 7210に準拠して、メルトインデクサ(L217−E14011、テクノ・セブン社製)を用いて190℃、2.16kgfの条件下で測定した重合体(A−2)のメルトフローレート(MFR)の値は、分散性の観点から、130〜300g/10分であることが好ましく、特に、130〜200g/10分であることが好ましい。
【0022】
本発明の方法において、上述の熱可塑性樹脂を乳化するのに適した乳化剤としては、例えば、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位と(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位とを含有する水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。2以上の種類の乳化剤を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本発明の方法において、上述の熱可塑性樹脂を乳化するのに適した乳化剤としては、特に以下のものが挙げられる:
α,β−不飽和カルボン酸(1)に由来する構造単位と、
メチレン基又はメチン基に結合した水酸基を有する炭素数1〜10のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステル(2)(以下、「α,β−不飽和カルボン酸エステル(2)」と記すことがある)に由来する構造単位と
を含むアクリル樹脂(B)。
【0024】
「α,β−不飽和カルボン酸(1)」としては、例えばアクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。
【0025】
「α,β−不飽和カルボン酸エステル(2)」としては、例えば2−ヒドロキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0026】
アクリル樹脂(B)は、「α,β−不飽和カルボン酸(1)に由来する構造単位」及び「α,β−不飽和カルボン酸エステル(2)に由来する構造単位」に加えて、必要に応じて、「炭素数1〜20のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位」、「アミノ基を有する炭素数1〜10のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位」、「カルボキシ基(−COOH)を有する炭素数1〜10のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位」等を含有していてもよい。
【0027】
前記「炭素数1〜20のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステル」としては、例えば、アクリル酸エチル、メタクリル酸ラウリル等が挙げられる。
【0028】
前記「アミノ基を有する炭素数1〜10のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステル」としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0029】
前記「カルボキシ基を有する炭素数1〜10のアルキル基とα,β−不飽和カルボン酸とを含むα,β−不飽和カルボン酸エステル」としては、例えば、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸等が挙げられる。
【0030】
前記アクリル樹脂(B)に必要に応じて含有されるこれらのα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位は、異なる複数種のα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位であってよい。
【0031】
アクリル樹脂(B)の製造方法としては、例えば、前記モノマー混合物を付加重合することによって製造する方法が挙げられる。具体的には、例えば、イソプロピルアルコール等のアルコール又は水等を溶媒として用い、該溶媒にモノマーの一部又は全部を混合し、通常70℃〜100℃、好ましくは75℃〜95℃、特に好ましくは75℃〜85℃にてラジカル開始剤等の重合開始剤及び残りのモノマーを混合し、通常、1〜24時間程度攪拌する方法等が挙げられる。また、反応を制御するために、重合開始剤及び残りのモノマーを有機溶媒に溶解したのち添加してもよい。
【0032】
ここで、重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、モノマー混合物100重量部に対して0.01〜5重量部、好ましくは0.2〜3重量部である。
【0033】
熱可塑性樹脂を乳化するための乳化剤としてアクリル樹脂(B)を用いる場合、得られる水性エマルションは、例えば50〜300、より好ましくは100〜200のNH中和度を有することが好ましい。ここでNH中和度とは、前記アクリル樹脂(B)に含まれるアニオン性基を有するモノマーに由来する構造単位の合計モル数に対する、水性エマルションに含まれるアンモニアのモル数の割合、すなわち
[(アンモニアのモル数)/(アニオン性モノマーの合計モル数)×100(%)]
を意味する。
【0034】
(乳化工程)
本発明の、樹脂を水中で乳化して乳化物を得る乳化工程は、例えば、
樹脂、乳化剤及び水を溶融混練する方法;
樹脂を加熱する加熱工程と、前記加熱工程で加熱された樹脂に乳化剤を混合する混合工程と、前記混合工程にて得られた混合物に水を分散させる分散工程を有する方法;
樹脂及び乳化剤を加熱及び混練する工程と、前記工程で得られた混練物を水に分散させる工程とを含む方法;
樹脂をトルエン等の有機溶媒に溶解させる溶解工程と、前記溶解工程で得られた溶解物を乳化剤に混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物に水を混合して該混合物を水に分散させる分散工程と、前記分散工程で得られた分散物から前記有機溶媒を除去する除去工程とを含む方法
等によって実施する。また、前記のような機械的乳化方法以外にも、自己乳化等の化学的乳化方法によって乳化工程を行ってよい。とりわけ、
樹脂、乳化剤及び水を溶融混練する方法及び
樹脂を加熱する加熱工程と、前記加熱工程で得られた加熱された樹脂に乳化剤を混合する混合工程と、水に前記混合工程にて得られた混合物を分散させる分散工程とを有する方法
が好適である。
【0035】
樹脂、乳化剤及び水を溶融混練する工程において用いられる装置としては、例えば、二軸押出機、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所)、ラボプラストミルマイクロ(株式会社東洋精機製作所)等の多軸押出機、ホモジナイザー、T.Kフィルミクス(プライミクス株式会社)等のバレル(シリンダー)を有する機器、例えば、攪拌槽、ケミカルスターラー、ボルテックスミキサー、フロージェットミキサー、コロイドミル、超音波発生機、高圧ホモジナイザー、分散君(株式会社フジキン)、スタティックミキサー、マイクロミキサー等のバレル(シリンダー)を有さない機器等が挙げられる。
【0036】
バレルを有する機器の剪断速度としては、通常、200〜100000秒−1程度、好ましくは1000〜2500秒−1程度である。ここで、剪断速度とはスクリューエレメント最外周部の周速度[mm/sec]をスクリューとバレルとのクリアランス[mm]で除した数値である。
【0037】
樹脂、乳化剤及び水を溶融混練する方法としては、例えば、二軸押出機のホッパー又は供給口より樹脂を連続的に供給し、これを加熱溶融混練し、更にこの押出機の圧縮ゾーン、計量ゾーン又は脱気ゾーンに設けた少なくとも1個の供給口より乳化剤を加圧供給し、これと樹脂をスクリューで混練し、続いて、この押出機の圧縮ゾーンに設けた少なくとも1個の供給口より水を供給することによって、ダイより連続的に乳化物を押出製造する方法等が挙げられる。
樹脂を加熱する加熱工程と、前記加熱工程で得られた加熱された樹脂に乳化剤を混合する混合工程と、前記混合工程にて得られた混合物に水を分散させる分散工程とを有する方法としては、例えば、ニーダーのシリンダーを加熱したのち、該シリンダー内に樹脂を投入し、回転させながら溶融する加熱工程を行い、次に、乳化剤を投入し、回転させる混合工程を行い、得られた混合物を温水中に投入し、分散させて、乳化物を得る方法等が挙げられる。
【0038】
樹脂を加熱する加熱工程と、前記加熱工程で得られた加熱された樹脂に乳化剤を混合する混合工程と、前記混合工程にて得られた混合物に水を分散させる分散工程とを有する方法としては、多軸押出機を用いる方法が好適である。具体的に説明すると、まず、スクリューを2本以上ケーシング内に有する多軸押出機のホッパーから樹脂を供給し、加熱、溶融混練させる加熱工程、次に、該押出機の圧縮ゾーン及び/又は計量ゾーンに設けた少なくとも1個の液体供給口より供給された乳化剤と混練しながら水に分散させる混合工程を経由して乳化物を製造する方法等が例示される。
【0039】
乳化工程で得られる乳化物中の分散質の、グラインドゲージ測定による粗粒子径は、通常30〜200μmである。
【0040】
本発明の方法で得られる乳化物は、樹脂及び乳化剤を含む分散質が、分散媒である水に分散しているものである。
【0041】
本発明の方法で得られる乳化物としては、重合体(A)及びアクリル樹脂(B)を含んでなる分散質が、分散媒である水に分散しているものが好ましい。分散質の体積基準メジアン径は、例えば0.01〜3μmであり、好ましくは0.1〜2.5μmであり、より好ましくは0.3〜1.5μmである。体積基準メジアン径が0.01μm以上であると、製造が容易なことから好ましく、3μm以下であると、接着性が向上する傾向があることから好ましい。ここで体積基準メジアン径とは、体積基準で積算粒子径分布の値が50%に相当する粒子径である。
【0042】
本発明の方法で得られる乳化物中の乳化剤の含有量は、樹脂100重量部に対し、例えば1〜30重量部であり、好ましくは2〜10重量部である。
本発明の方法で得られる乳化物中の樹脂の含有量は、乳化物100重量部に対して、例えば10〜70重量部であり、好ましくは30〜60重量部であり、より好ましくは40〜60重量部である。
本発明の方法で得られる乳化物中の水の含有量は、乳化物100重量部に対して、例えば10〜90重量部であり、好ましくは30〜70重量部であり、より好ましくは40〜60重量部である。
【0043】
本発明の乳化物には、2種類以上の樹脂が含有されていてもよく、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム等の充填剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、発泡剤、ポリアクリル酸、ポリエーテル、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、澱粉等の増粘剤、粘度調整剤、難燃剤、酸化チタン等の顔料、二塩基酸のコハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル等の高沸点溶剤、可塑剤等が更に含有されていてもよい。
【0044】
(粉砕工程)
得られた乳化物に機械的剪断力、衝撃力または摩擦力を加えて凝集粒を粉砕する。粉砕方法は特に限定されるものでなく、例えば、ポットミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のビーズタイプ、コロイドミル等の剪断力を用いるタイプ、ジェットミル等の高圧衝突タイプなどが挙げられる。ビーズミルを用いて粉砕を行う場合、好ましくは、ビーズの材質はジルコニア、ビーズ径は0.5mmφ、ビーズの量は1.6kg、周速は10m/s、粉砕時間は1時間、乳化物の量は0.8kgである。
【0045】
粉砕工程で得られる水性エマルション中の分散質の、グラインドゲージ測定による粗粒子径は、1〜30μmであることが好ましい。
【0046】
本発明の方法によって得られる水性エマルションから水分を乾燥させて得られる硬化物は、平滑な表面を与える傾向がある。従って、本発明の方法によって得られる水性エマルションを塗料として基材に塗工する際に作業性に優れる傾向があり、得られる積層体の外観に優れる傾向がある。
【0047】
本発明の方法によって得られる水性エマルションを、基材上に塗工(コーティング)した後、乾燥することによって、基材上に水性エマルションの塗膜(コーティング膜)を形成することができる。
該塗膜は、例えば、塗料、プライマー、下地材、接着剤等に使用することができる。
【0048】
本発明における「基材」は、例えば、被着体、被着層等の、本発明の水性エマルションを塗工することが意図される任意の形状の物品を意味する。本発明における基材としては、例えば、木材、合板、MDF、パーティクルボード、ファイバーボード等の木質系材料;壁紙、包装紙等の紙質系材料:綿布、麻布、レーヨン等のセルロース系材料;ポリエチレン(エチレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリプロピレン(プロピレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリスチレン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、(メタ)アクリル樹脂ポリエステル、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、発泡ウレタン等のプラスチック材料;ガラス、陶磁器等のセラミック材料;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属材料等が挙げられる。
【0049】
かかる基材は、複数の材料からなる複合材料であってもよい。また、タルク、シリカ、活性炭等の無機充填剤、炭素繊維等とプラスチック材料との混練成形品であってもよい。
【0050】
基材としては、中でも、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、(メタ)アクリル樹脂、ガラス、アルミニウム、ポリウレタンなどが好ましく、とりわけ、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ガラス、アルミニウム、ポリウレタンが好ましい。
【0051】
基材の一方が木質系材料、紙質系材料、セルロース系材料などの吸水性の基材の場合には、本発明の水性エマルションをそのまま塗工し、他の基材と貼合することができる。すなわち、吸水性の基材に水性エマルションを塗工したのち、水性エマルションに由来する層に他の基材(吸水性でも非吸水性でもよい)を積層させれば、水性エマルションに含まれる水分は吸水性の基材に吸収され、水性エマルションに由来する塗膜が接着層となり、吸水性の基材/本発明の水性エマルションに由来する塗膜/基材を有する積層体を得ることができる。
基材がポリオレフィンなどの非吸水性の場合には、一方の基材の片面に水性エマルションを塗工した後、加熱して本発明の水性エマルションに由来する塗膜を形成したのち、他方の基材を貼合し、更に、加熱して接着させればよい。
水性エマルションに由来する塗膜を形成する際の加熱温度、及び他方の基材と水性エマルションに由来する塗膜とを貼合した後の加熱温度としては、例えば、60〜200℃などを挙げることができる。
【0052】
従って、本発明はまた、木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含む基材と、本発明の水性エマルションに由来する塗膜とを含む積層体を提供する。
【0053】
更に、本発明は、木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含む基材に、本発明の水性エマルションを塗工し、該基材と該水性エマルションを含む層とを含む塗工品を得る第1工程と、第1工程で得られた塗工品を乾燥して、前記基材と本発明の水性エマルションに由来する塗膜とを含む積層体を得る第2工程とを含む、積層体の製造方法を提供する。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。実施例中の部及び%は、特に断らない限り重量基準を意味する。
【0055】
<分子量及び分子量分布>
樹脂の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)を用い、ポリスチレン(分子量688〜400,000)標準物質で校正した上で、下記条件にて求めた。なお、分子量分布は重量平均分子量(以下、Mwという)と数平均分子量(以下、Mnという)との比(Mw/Mn)で評価した。
機種 Waters製 150−C
カラム shodex packed column A−80M
測定温度 140℃
測定溶媒 オルトジクロロベンゼン
測定濃度 1mg/ml
【0056】
<ビニルシクロヘキサン単位の含有量>
共重合体中のビニルシクロヘキサン単位の含有量は、下記13C−NMR装置により求めた。
13C−NMR装置:BRUKER社製 DRX600
測定溶媒:オルトジクロロベンゼンとオルトジクロロベンゼン−d4
4:1(容積比)混合液
測定温度:135℃
【0057】
<グラフト量>
重合体(A−2)の無水マレイン酸のグラフト量を以下の手順で測定した。サンプル1.0gをキシレン20mlに溶解し、サンプル溶液をメタノール300mlに攪拌しながら滴下してサンプルを再沈殿させて回収した。その後、回収したサンプルを真空乾燥(80℃、8時間)し、熱プレスにより厚さ100μmのフィルムを作製した。得られたフィルムの赤外吸収スペクトルを測定し、1780cm−1付近の吸収より無水マレイン酸のグラフト量を定量した。
【0058】
<メルトフローレート>
樹脂のメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準拠して、メルトインデクサ(L217−E14011、テクノ・セブン社製)を用いて190℃、2.16kgfの条件下で測定した。
【0059】
<固形分>
固形分の測定は、JIS K−6828に準じた測定方法で行った。
【0060】
<NH中和度]>
アクリル樹脂(B)のNH中和度は、アクリル樹脂(B)に含まれるアクリル酸(AA)のモル数([AA])とメタクリル酸(MAA)のモル数の合計モル数に対する、用いたアンモニアのモル数([NH])の割合、すなわち、
[NH]/([AA]+[MAA])×100 (%)
として算出した。
【0061】
<平均粒径>
レーザー回折式粒度分布測定装置LA−910(株式会社堀場製作所製)を用い、粒子屈折率1.50−0.20iで得られる体積基準のメジアン径である。
【0062】
<粗粒子径>
ガードナー製グラインドメータ(規格JIS K5600、レンジ0〜100μm)の溝の深い位置に、水性エマルションを流し込み、溝の深い位置から浅い方向へスクレーパーを押し付けたまま均等の速さで引き動かし、粒が3個以上現れ始めた目盛を読み取った。この測定を3回繰り返し、平均値を粗粒子径とした。
【0063】
[実施例1]
(樹脂の製造)
アルゴンで置換したSUS製リアクター中にビニルシクロへキサン(以下、VCHと記すことがある)386部とトルエン3640部を投入した。50℃に昇温後、エチレンを0.6MPaで加圧しながら仕込んだ。トリイソブチルアルミニウム(TIBA)のトルエン溶液[東ソー・アクゾ(株)製TIBA濃度20%]10部を仕込み、続いてジエチルシリル(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド0.001部を脱水トルエン87部に溶解したものと、ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.03部を脱水トルエン122部に溶解したものを投入し2時間攪拌した。得られた反応液をアセトン約10000部中に投じ、沈殿した白色固体を濾取した。該固体をアセトンで洗浄後、減圧乾燥した結果、オレフィン系共重合体(A−1)300部を得た。該共重合体の粘度(η)は0.48dl/g、Mnは15,600、分子量分布(Mw/Mn)は2.0、融点(Tm)は57℃、ガラス転移点(Tg)は−28℃、共重合体におけるVCH単位の含有率は13モル%であった。
【0064】
得られた重合体(A−1)100部に、無水マレイン酸0.4部、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン0.04部を添加して十分に予備混合した後に二軸押出機の供給口より供給して溶融混練を行い、重合体(A−2)を得た。なお、押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の二段階に分け、前半は180℃、後半は260℃と温度設定にして溶融混練を行った。重合体(A−2)のマレイン酸グラフト量は0.2%であった。また、重合体(A−2)のMFRは180g/10分(190℃、荷重:2.16kgf)であった。
【0065】
(乳化剤の製造)
乳化剤のモノマーとして、表1に記載のモノマーを使用した。
【0066】
【表1】

【0067】
「AA」7.5部(10.9モル比)、「MAA」22.5部(27.4モル比)、「HEA」29.5部(26.6モル比)、「EA」29.5部(30.8モル比)及び「SLMA」11部(4.4モル比)を10〜30℃にて混合し、単量体混合物100部を得た。ここで、モル比とは上記単量体の合計モル数を100とした場合のモル数を表す。
反応器に、イソプロピルアルコール(以下、IPAと記すことがある)150部と該単量体混合液を仕込み、反応器を窒素置換後、攪拌しながら内温を50℃に調整した。重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを0.6部添加し、80℃に昇温後、同温度にて2時間攪拌した。次に、同温度にて上記重合開始剤を0.3部添加し、更に1時間、同温度にて攪拌させた。続いて、得られた反応液が沸騰する程度まで昇温してIPAを留去し、留去後、内温を50℃に下げてから28%アンモニア水溶液を29部(48モル比)混合した後、粘稠な乳化剤を得た(収率90%、固形分50%)。使用した単量体の種類及び量、アンモニア水の量、NH中和度、固形分の量並びに収率を表2にまとめた。
【0068】
【表2】

【0069】
(乳化工程)
同方向回転噛合型二軸スクリュー押出機((株)テクノベル:KZW15TW−15/45MG−NH(−1100)、L/D=45)のシリンダー温度を110℃に設定した後、該押出機のホッパーより、熱可塑性樹脂である重合体(A−2)100部をスクリューの回転数500rpmにて連続的に供給し、重合体(A−2)を加熱した。
該押出機のベント部に設けた供給口より、乳化剤10部(固形分)をギヤーポンプで加圧しながら連続的に供給し、重合体(A−2)及び乳化剤を連続的に押出ししながら混合し、更にベント部に設けた別の供給口よりイオン交換水100部をプランジャーポンプで加圧しながら投入し、乳白色の乳化物を得た。得られた乳化物中の分散質の平均粒径は0.7μm、粗粒子径は54μmであった。
【0070】
(粉砕工程)
前記製造例にて得られた乳化物0.8kgを供給タンク内に投入し、ペリスターポンプにて連続循環式ビーズミル((株)シンマルエンタープライゼス:ダイノーミルKDL0.6)ベッセル内に循環送液を開始した。更に0.5mmφジルコニアビーズ1.6kgをベッセル内に投入し周速10m/sで1時間攪拌した。得られた水性エマルションの分散質の粗粒子径は25μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の方法で製造された水性エマルションは、外観の優れた薄膜を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を水中で乳化して乳化物を得る乳化工程と、
前工程により得られた乳化物に機械的剪断力、衝撃力または摩擦力を加えて凝集粒を粉砕して水性エマルションを得る粉砕工程と
を含むことを特徴とする、水性エマルションの製造方法。
【請求項2】
乳化工程で得られる乳化物の分散質の粗粒子径が30〜200μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粉砕工程で得られる水性エマルションの分散質の粗粒子径が1〜30μmである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ビーズミル、コロイドミルおよびジェットミルから選択される少なくとも1種の装置を用いて凝集粒を粉砕する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂が、エチレン及び/又はプロピレンに由来する構造単位を含有する熱可塑性ポリマーを含んでなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂が、エチレン及び/又はプロピレンに由来する構造単位と、下記ビニル化合物(I)に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体にα,β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体を含んでなる、請求項6に記載の方法。
CH=CH−R (I)
(式中、ビニル化合物(I)のRは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭素環基を表す。)
【請求項8】
ビニル化合物(I)に由来する構造単位が、ビニルシクロヘキサンに由来する構造単位を含んでなる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂のメルトフローレート(190℃、2.16kgf)が、130g/10分以上300g/10分以下である、請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
樹脂を乳化するのに用いる乳化剤が、
α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位と(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位とを含有する水溶性アクリル樹脂、
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、及び
ポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種の乳化剤である、請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
粉砕前の乳化物中の分散質の体積基準メジアン径が0.01μm〜3μmである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか記載の方法によって得られる水性エマルション。
【請求項13】
請求項12に記載の水性エマルションを基材上に塗工し、乾燥させることを特徴とする、基材上に塗膜を形成する方法。
【請求項14】
請求項12に記載の水性エマルションを塗工し、乾燥させてなることを特徴とする塗膜。
【請求項15】
木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含んでなる基材と、請求項14に記載の塗膜とを含んでなることを特徴とする積層体。
【請求項16】
木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含んでなる基材に、請求項12に記載の水性エマルションを塗工し、該基材と該水性エマルションを含んでなる層とを含んでなる塗工品を得る第1工程と、
第1工程で得られた塗工品を乾燥させて、前記基材と前記水性エマルションに由来する塗膜とを含んでなる積層体を得る第2工程と
を含むことを特徴とする積層体の製造方法。

【公開番号】特開2011−241325(P2011−241325A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115514(P2010−115514)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】