説明

水性エマルション及びその製造方法

【課題】重合安定性が良好で、耐水性に優れた塗膜を形成できる水性エマルションの製造方法を提供する。
【解決手段】ラジカル重合性単量体(A)とラジカル重合開始剤(B)と硫酸第一鉄(C)とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩(D)とを反応容器に仕込み、レドックス反応により前記ラジカル重合性単量体(A)を乳化重合する工程(1)と、前記工程(1)で得られたエマルションに、新たなラジカル重合性単量体(E)の水分散液と、新たなラジカル重合開始剤(F)の水分散液とを添加し、レドックス反応により前記ラジカル重合性単量体(E)を乳化重合する工程(2)とを有し、(D)成分/(C)成分で表されるモル比が0.15〜1.65であることよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性エマルション及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面保護や美観を保つための被覆材の分野においては、有機溶剤を媒体とする溶剤系被覆材が用いられてきた。近年、地球環境や塗装作業環境等への配慮から、水を分散媒とする水性被覆材への移行が図られている。水性被覆材は、樹脂成分を水に分散した水性エマルションであり、乾燥性に優れ、不揮発成分の濃度を高くしても低粘度化が図れるという特性を有する。このため、水性エマルションは、被覆材のみならず、接着剤、粘着剤、紙処理剤及び繊維処理剤等、幅広い用途に用いられている。
水性エマルションの急激な用途拡大に伴い、塗膜性能に優れ、かつ重合安定性が良好で生産性の高い水性エマルションの製造方法が求められている。
高い塗膜性能の水性エマルションを製造する方法としては、例えば、レドックス反応による多段重合において、一段目の重合で、還元剤として硫酸第一鉄、キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を用い、多層構造の重合体を水に分散させたエマルションを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−269972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、得られた水性エマルションで形成される塗膜の耐水性が不十分であった。加えて、水性エマルションの製造方法には、より高い重合安定性が求められている。
そこで、本発明は、重合安定性に優れ、耐水性に優れた塗膜を形成できる水性エマルションの製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、特許文献1に記載の発明では、一段目の重合で用いられる還元剤とキレート剤との比率が適正化されていないため、重合中の温度の変化が大きくなって重合体の組成が不均一になり、得られる水性エマルションの耐水性が不十分になるという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の水性エマルションの製造方法は、ラジカル重合性単量体(A)とラジカル重合開始剤(B)と硫酸第一鉄(C)とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩(D)とを反応容器に仕込み、レドックス反応により前記ラジカル重合性単量体(A)を乳化重合する工程(1)と、前記工程(1)で得られたエマルションに、新たなラジカル重合性単量体(E)の水分散液と、新たなラジカル重合開始剤(F)の水分散液とを添加し、レドックス反応により前記ラジカル重合性単量体(E)を乳化重合する工程(2)とを有し、(D)成分/(C)成分で表されるモル比が0.15〜1.65であることを特徴とする。
【0007】
本発明の水性エマルションは、本発明の前記の水性エマルションの製造方法で得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性エマルションの製造方法によれば、重合安定性に優れ、耐水性に優れた塗膜を形成できる水性エマルションを得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(水性エマルションの製造方法)
本発明の水性エマルションの製造方法(以下、単に製造方法ということがある)は、ラジカル重合性単量体(A)をレドックス反応により乳化重合する工程(1)と、前記工程(1)で得られたエマルション(以下、一次エマルションということがある)中で新たなラジカル重合性単量体(E)をレドックス反応により乳化重合する工程(2)とを有するものである。即ち、工程(1)で、(A)成分を一段目の重合反応単量体として重合させ、工程(2)で、(E)成分を二段目の重合反応単量体として重合させる多段重合法により、多層構造を有する水性エマルションを製造するものである。
【0010】
<工程(1)>
工程(1)は、ラジカル重合性単量体(A)(以下、(A)成分ということがある)と、ラジカル重合開始剤(B)(以下、(B)成分ということがある)と、硫酸第一鉄(C)(以下、(C)成分ということがある)と、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩(EDTA−2Na)(D)(以下、(D)成分ということがある)とを反応容器に仕込み、レドックス反応により(A)成分を乳化重合して、一次エマルションを得る工程である。
【0011】
工程(1)においては、例えば、(A)〜(D)成分を反応容器に順次投入したり、予め反応容器内で(A)成分と(B)成分との全量を任意の温度にした後、(C)成分と(D)成分との全量を反応容器に投入したりする等、(A)〜(D)成分を一括して仕込むことが好ましい。一括して仕込むことで、滴下重合等の重合法に比べて、容易に(A)成分の重合体を高分子量化でき、耐水性に優れる塗膜を形成できる水性エマルションを得られる。
【0012】
工程(1)としては、(A)〜(D)成分と、分散媒である水とを反応容器内に仕込み、これらを任意の温度に保持する方法が挙げられる。
【0013】
(A)成分としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素原子数1〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;ヒドロキシルアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシルメタクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等の加水分解性シリル基含有ラジカル重合性単量体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のラジカル重合性カルボン酸単量体;ヒドロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート等の末端ヒドロキシ型ポリアルキレンオキシド基含有ラジカル重合性単量体;メトキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート等のアルキル基末端型ポリアルキレンオキシド基含有ラジカル重合性単量体;1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル(メタ)アクリレート等の光安定化作用を有する(メタ)アクリレート;2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収性成分を有する(メタ)アクリレート;2−アミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有ラジカル重合性単量体;ジ(メタ)アクリル酸亜鉛等の金属含有ラジカル重合性単量体;(メタ)アクリロニトリル、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート等のその他の(メタ)アクリル系単量体;スチレン、メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;1,3−ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系単量体;酢酸ビニル、塩化ビニル、エチレン等のラジカル重合性単量体等が挙げられる。
(A)成分としてエチルアクリレートを用いると、塗膜としたときに、その耐水性をより向上できる。
【0014】
また、(A)成分としては、ラジカル重合性基を2つ以上有する単量体を用いることもできる。
ラジカル重合性基を2つ以上有する単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、2−ヒドロキシ−1−アクリロキシ−3−メタクリロキシプロパン、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルにヒドロキシ(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレン化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等のジオールと(メタ)アクリル酸のジエステル化合物;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の1分子当たり3個以上の水酸基を有する化合物と(メタ)アクリル酸のポリエステル化合物;アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリアリル(イソ)シアヌレート、イソ(テレ)フタル酸ジアリル、イソシアヌル酸ジアリル、マレイン酸ジアリルトリス(2−アクリロイルオキシエチレン)イソシアヌレート、ε−カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート。中でも、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、イソ(テレ)フタル酸ジアリル、イソシアヌル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等が挙げられる。
【0015】
さらに、(A)成分として、自己架橋性官能基を含有するラジカル重合性単量体も用いることができる。自己架橋性官能基を含有するラジカル重合性単量体とは、得られた重合体中に残存する自己架橋性官能基が、室温で分散液として保管されている間は化学的に安定であり、塗装時の乾燥、加熱又はその他の外的要因によって側鎖の官能基同士で反応して側鎖間に化学結合が形成される単量体をいう。
自己架橋性官能基を含有するラジカル重合性単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等のオキシラン基含有ラジカル重合性単量体、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のラジカル重合性アミドのアルキロール又はアルコキシアルキル化合物等が挙げられる。
これらの(A)成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
(B)成分は、ラジカル重合開始剤であり、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類等が挙げられる。
【0017】
(B)成分の添加量は、工程(1)で用いる(A)成分と後述する工程(2)で用いる(E)成分との総量(以下、全ラジカル重合性単量体量)100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましい。ただし、塗膜としたときの耐水性を考慮すると、(A)成分の重合体を高分子量化するために、(B)成分の添加量は、(A)成分100質量部に対して0.01〜0.5質量部がより好ましく、0.01〜0.15質量部がさらに好ましく、0.01〜0.1質量部が特に好ましい。
【0018】
(C)成分は、硫酸第一鉄であり、一段目の重合に用いられる還元剤(第一還元剤)である。(C)成分は、他の還元剤に比べ、還元能に優れ、重合安定性を得るために最適である。
(C)成分の添加量は、全ラジカル重合性単量体量100質量部に対して0.0001〜0.01質量部が好ましく、0.00015〜0.006質量部がより好ましい。上記下限値以上であれば、還元効率が良好で、重合安定性をより高められる。上記上限値以下であれば、水性エマルションが鉄によって着色するのを防止でき、外観に優れる水性エマルションを得られる。
【0019】
(D)成分は、EDTA−2Naである。EDTA−2Naは、(C)成分の水への溶解性を補助するのに最適である。
(D)成分の添加量は、全ラジカル重合性単量体量100質量部に対して、0.00002〜0.0022質量部が好ましく、0.00003〜0.0013質量部がより好ましい。上記下限値以上であれば、(C)成分の溶解性、安定性をより高められ、上記上限値以下であれば、(C)成分の安定性を阻害せずに、重合安定性をより高められる。
【0020】
工程(1)における(C)成分と(D)成分との配合比は、(D)成分/(C)成分で表されるモル比(以下、(D)/(C)比ということがある)が0.15〜1.65であり、0.15〜1.50がより好ましく、0.15〜0.90がより好ましい。(D)/(C)比が上記範囲内であれば、工程(1)における重合中の温度変化が少なくなって重合温度が安定化し、重合体の組成が均一となり耐水性が向上する。(D)/(C)比が上記下限値未満又は上記上限値超であると、工程(2)での重合温度が著しく不安定になり、重合体の組成が不均一となって耐水性が不十分となる。
【0021】
工程(1)では、必要に応じて界面活性剤を用いてもよい。
界面活性剤としては、従来、乳化重合に用いられている界面活性剤を用いることができ、例えば、各種のアニオン性、カチオン性もしくはノニオン性の界面活性剤、又は高分子乳化剤等が挙げられる。また、界面活性剤成分中にラジカル重合性結合を持つ、反応性界面活性剤を用いてもよい。
【0022】
また、リン酸エステル型反応性界面活性剤を併用できる。
リン酸エステル型反応性界面活性剤の市販品としては、例えば、サーフマーシリーズのFP−80、FP−100、FP−120、FP−160、FP−200、FP−125(東邦化学工業株式会社社製)、アデカリアソープシリーズのPP−70、PPE−710(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。
これらの界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
界面活性剤の添加量は、全ラジカル重合性単量体量100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜8質量部がより好ましい。界面活性剤の添加量が上記下限値以上であれば、重合安定性及びエマルションの貯蔵安定性が向上する。界面活性剤の添加量が上記上限値以下であれば、塗膜としたときの耐水性を損なうことなく、かつ水性エマルションを含む水性被覆材の配合安定性や、水性被覆材の経時的安定性等を向上できる。
界面活性剤としてリン酸エステル型反応性界面活性剤を用いる場合、リン酸エステル型反応性界面活性剤の添加量は、全ラジカル重合性単量体量100質量部に対して0.05〜5質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましい。リン酸エステル型反応性界面活性剤の添加量が上記上限値以下であれば、塗膜としたときの耐水性及び耐候性の低下を抑制できる。
【0024】
工程(1)では、必要に応じて、(A)成分以外の単量体として、ポリオルガノシロキサン重合体を用いてもよい。ポリオルガノシロキサン重合体としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジメチルジアルコキシシラン類、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン、ジメチルサイクリックス(ジメチルシロキサン環状オリゴマー3〜7量体混合物)等のジメチルシロキサン環状オリゴマー類、ジメチルジクロロシラン等を酸性又はアルカリ性条件下で重合して合成された化合物等が挙げられ、中でも、得られる塗膜の熱安定性等の性能やコストに優れる点から、ジメチルシロキサン環状オリゴマー類を用いることが好ましい。
さらにジメチルシロキサン環状オリゴマー類と、加水分解性シリル基含有ラジカル重合性単量体からなるグラフト交叉剤とを重合したポリオルガノシロキサン重合体を用いることがより好ましい。ポリオルガノシロキサン重合体と(A)成分とがグラフト重合することで、塗膜としたときに、優れた耐汚染性、耐候性、高耐水性、耐凍害性を発現できるためである。
【0025】
工程(1)では、必要に応じ、(C)成分以外の還元剤(第二還元剤)を用いることができる。第二還元剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、ロンガリット等が挙げられる。
第二還元剤の添加量は、特に限定されないが、全ラジカル重合性単量体量100質量部に対して、0.05〜0.5質量部が好ましい。上記範囲内であれば、(C)成分を効率的に還元し、重合安定性をより高められる。
【0026】
反応容器としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、攪拌装置及び温度制御装置を備えた容器が挙げられる。
【0027】
工程(1)における重合温度は、(A)成分の種類等を勘案して決定でき、例えば、10〜60℃が好ましく、20〜55℃がより好ましい。上記下限値以上であれば、(C)成分の適正な活性が得られ、重合安定性がより高まる。上記上限値以下であれば、高温による異常重合が生じることなく、一次エマルションを安定的に製造できる。
工程(1)における重合時間は、得られる一次エマルション中の重合体(以下、一次重合体ということがある)の分子量等を勘案して決定でき、例えば、一次重合体の重量平均分子量が、20万〜500万となる時間が好ましい。
【0028】
一次重合体の平均粒子径は、水性エマルションの用途に応じて決定でき、0.03〜0.1μmが好ましい。平均粒子径が上記範囲内であれば、耐水性がより高い塗膜を得られる水性エマルションを得られる。平均粒子径は、濃厚系粒径アナライザー FRAR−1000(大塚電子株式会社製)により測定されるキュムラント平均粒子径である。
【0029】
≪工程2≫
工程(2)は、工程(1)で得られた一次エマルションに、新たなラジカル重合性単量体(E)(以下、(E)成分ということがある)の水分散液(以下、プレエマルションということがある)と、新たなラジカル重合開始剤(F)(以下、(F)成分ということがある)の水分散液(以下、開始剤液ということがある)とを添加し、レドックス反応により(E)成分を乳化重合して水性エマルションを得る工程である。
工程(2)では、例えば、任意の温度に維持した一次エマルションに、プレエマルションと、開始剤液とをそれぞれ滴下してもよいし、プレエマルションと開始剤液とをそれぞれ一度に投入してもよい。中でも、プレエマルションと開始剤液とをそれぞれ滴下するのが好ましい。プレエマルションと開始剤液とをそれぞれ滴下することで、重合安定性をより高められ、より耐水性に優れる水性エマルションを得られる。
【0030】
(E)成分としては、(A)成分と同様のものが挙げられる。
(E)成分としては、カルボニル基及び/又はアルデヒド基を含有するラジカル重合性単量体を使用してもよい。
カルボニル基及び/又はアルデヒド基を含有するラジカル重合性単量体としては、例えば、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルアルキルケトン等が挙げられる。
【0031】
(E)成分の添加量は、工程(1)で用いられた単量体の合計量を勘案して決定でき、例えば、全ラジカル重合性単量体量100質量部において、(A)成分が30〜50質量部、(E)成分が50〜70質量部であることが好ましい。上記範囲内であれば、(A)成分の重合体を含む層と(E)成分の重合体を含む層との割合が適切なものとなり、得られる塗膜の耐水性がより良好で、かつ重合安定性がより高まる。
また、プレエマルション中の(E)成分の含有量は、例えば、20〜80質量%が好ましい。
【0032】
プレエマルションは、例えば、界面活性剤を含有していてもよい。この界面活性剤としては、工程(1)で用いられる界面活性剤と同様のものが挙げられる。
【0033】
(F)成分としては、(B)成分と同様のものが挙げられる。
(F)成分の添加量は、(B)成分の添加量を勘案して決定でき、例えば、(B)成分と(F)成分との合計が、全ラジカル重合性単量体量100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.01〜0.5質量部がより好ましく、0.01〜0.15質量部がさらに好ましく、0.01〜0.1質量部が特に好ましい。
また、開始剤液中の(F)成分の含有量は、例えば、0.1〜50質量%が好ましい。
【0034】
(E)成分として、カルボニル基及び/又はアルデヒド基を含有するラジカル重合性単量体を用いる場合には、分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有する有機ヒドラジン化合物(以下、ヒドラジン化合物という)を添加してもよい。
ヒドラジン化合物としては、例えば、エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジン、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等の炭素数が2〜15のジカルボン酸のジヒドラジドや、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン、1−ヒドラジノカルボエチル−3−ヒドラジノカルボイソプロピル−5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン等のヒダントイン骨格を有する化合物が挙げられる。
【0035】
工程(2)では、必要に応じて、新たに第二還元剤を添加してもよい。工程(2)における第二還元剤の添加量は、特に限定されないが、工程(1)で添加した第二還元剤との合計量が、全ラジカル重合性単量体量100質量部に対して、好ましくは0.05〜0.5質量部とされる。上記範囲内であれば、(C)成分を効率的に還元し、重合安定性をより高められる。
【0036】
工程(2)における重合温度は、(E)成分の種類等を勘案して決定でき、例えば、65〜85℃とされる。
加えて、工程(2)において、(E)成分を添加する際及び(F)成分を添加する際には、重合温度を好ましくは±5℃以下、より好ましくは±0.5℃以下に保持する。重合温度を上記範囲内に保持することで、水性エマルション中の重合体を安定的に形成でき、得られる水性エマルションの成膜性及び耐水性をより向上できる。
【0037】
本製造方法により得られた水性エマルションは、必要に応じてさらに各種顔料、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、スリップ剤、防腐剤等を含有してもよい。また、他のエマルション、水溶性樹脂、粘性制御剤、メラミン類等の硬化剤と混合して使用してもよい。
【0038】
各種基材の表面に水性エマルションを塗装する方法としては、例えば、噴霧コート法、ローラーコート法、バーコート法、エアナイフコート法、刷毛塗り法、ディッピング法、フローコート法等の各種の塗装法を選択できる。また、水性エマルションは、室温乾燥又は50〜180℃の加熱乾燥で、十分に造膜した塗膜を得ることができる。
【0039】
本製造方法により得られた水性エマルションは、セメントモルタル、スレート板、石膏ボード、押し出し成形板、発泡性コンクリート、金属、ガラス、磁器タイル、アスファルト、木材、防水ゴム材、プラスチック、珪酸カルシウム基材等の各種素材の表面仕上げ用の被覆材として有用であり、特に建築物、土木構造物等の躯体保護用の水性被覆材として有用である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明について実施例を示して説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載において、特に断りのない限り「部」及び「%」は質量基準である。
【0041】
表中の略号は、以下の化合物を示す。
MMA:メチルメタクリレート
2−EHA:2−エチルへキシルアクリレート
AA:アクリル酸
SiEm:ポリオルガノシロキサン重合体分散液
【0042】
(SiEmの調製)
下記原料組成物をホモミキサーで予備混合し、圧力式ホモジナイザーを用いて200kg/cmの圧力で強制乳化して、原料プレエマルションを得た。
次いで、攪拌装置、還流冷却管、温度制御装置及び滴下ポンプを備えたフラスコに、水(90部)及びドデシルベンゼンスルホン酸(10部)を仕込み、攪拌下に、フラスコの内温を85℃に保ちながら、前記原料プレエマルションを4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間重合を進行させ、冷却して、下記水酸化ナトリウム水溶液を加えてSiEmを調製した。固形分は18質量%であった。
原料組成物:
環状ジメチルシロキサンオリゴマーの3〜7量体混合物・・・・・98部
γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン・・・・2部
脱イオン水・・・・・310部
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム・・・・・0.7部
水酸化ナトリウム水溶液・・・・・水酸化ナトリウム1.5部/脱イオン水30部
【0043】
(実施例1)
攪拌装置、還流冷却管、温度制御装置及び滴下ポンプを備えたフラスコに下記第1原料混合物を仕込み、フラスコの内温を40℃に昇温した。
第1原料混合物:
SiEm・・・・・5部(固形分0.9部)
(A)成分(MMA)・・・・・30部
界面活性剤(SR−1025(商品名)、株式会社ADEKA製、固形分25%)・・・・・5部(固形分1.25部)
脱イオン水・・・・・99部
(B)成分(パーブチルH69(商品名)、t−ブチルハイドロパーオキサイド、日油株式会社製)・・・・・0.02部
【0044】
次に、下記の還元剤液を添加し、反応を開始した。重合発熱によるピークトップ温度を確認後、フラスコの外温を75℃に保持して、一次エマルションを得た(工程(1))。
還元剤液:
(C)成分(硫酸第一鉄(II))・・・・・0.0002部
(D)成分(EDTA−2Na)・・・・・0.000054部
アスコルビン酸ナトリウム・・・・・0.12部
脱イオン水・・・・・6部
【0045】
還元剤液の添加終了の0.5時間後に、プレエマルション(下記第2原料混合物を水に乳化分散させたもの)と下記開始剤液とを2時間かけて滴下した。この際、重合温度を測定し、重合安定性を評価した。この滴下中はフラスコの外温を75℃に保持し、滴下終了後は75℃で1.5時間保持した。その後、室温まで冷却し、28%アンモニア水(0.835部)を添加して水性エマルションを得た(工程(2))。得られた水性エマルションについて、耐水性を評価し、その結果を表1に示す。
【0046】
第2原料混合物:
(E)成分(MMA)・・・・・37.7部
(E)成分(2−EHA)・・・・・30.8部
(E)成分(AA)・・・・・1.5部
界面活性剤(SR−1025)・・・・・3部(固形分0.75部)
28%アンモニア液・・・・・0.05部
脱イオン水・・・・・25部
開始剤液:
(F)成分(パーブチルH69)・・・・・0.03部
脱イオン水・・・・・5部
【0047】
(実施例2〜3、比較例1〜2)
EDTA−2Naの量を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして水性エマルションを得た。重合安定性及び耐水性について、実施例1と同様にして評価した。
【0048】
(評価方法)
<重合安定性>
2Lの重合スケールにおいて、サーモレコーダーRT−11(ESPEC社製)を用いて、一次エマルションにプレエマルション及び開始剤液を滴下した際の温度(重合温度)を1分間隔で測定した。測定した重合温度の振れ幅を指標とし、下記の基準に従って評価した。振れ幅が小さいほど重合発熱が安定しており、重合安定性に優れていることを示す。
○:振れ幅が0.5℃未満。
△:振れ幅が0.5℃以上、2℃未満。
×:振れ幅が2℃以上。
【0049】
<耐水性>
各例の水性エマルションをガラス板に6mil(150μm)のアプリケーターにて塗装し、80℃で120分間強制乾燥した。次いで、室温まで放冷し評価用塗板とした。この評価用塗板を50℃の水に100時間浸漬し、浸漬前後における色差を色差計にて測定した。浸漬後のL値から浸漬前のL値を減じた値(ΔL値)を耐水性の指標とし、下記の基準に従って評価した。ΔL値が小さいほど白化度が低く、耐水性に優れていることを示す。
○:ΔL値が0.5未満。
△:ΔL値が0.5以上、4未満。
×:ΔL値が4以上。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように、本発明を適用した実施例1〜3は、工程(2)における重合温度の振れ幅を0.5℃以下に保つことができた。加えて、実施例1〜3で得られた水性エマルションは、耐水性の評価が「○」であった。
一方、(D)/(C)比を0.15未満とした比較例1、及び(D)/(C)比を1.65超とした比較例2は、いずれも重合安定性が「×」であり、耐水性の評価が「×」であった。
これらの結果から、本発明を適用することで、重合安定性が良好で、耐水性に優れた塗膜を形成できる水性エマルションを得られることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性単量体(A)とラジカル重合開始剤(B)と硫酸第一鉄(C)とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩(D)とを反応容器に仕込み、レドックス反応により前記ラジカル重合性単量体(A)を乳化重合する工程(1)と、前記工程(1)で得られたエマルションに、新たなラジカル重合性単量体(E)の水分散液と、新たなラジカル重合開始剤(F)の水分散液とを添加し、レドックス反応により前記ラジカル重合性単量体(E)を乳化重合する工程(2)とを有し、
(D)成分/(C)成分で表されるモル比が0.15〜1.65である水性エマルションの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で得られる水性エマルション。

【公開番号】特開2012−246458(P2012−246458A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121620(P2011−121620)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】