説明

水性エマルション接着剤

【課題】情報担持シート用の水性エマルション接着剤であって、熱や大きな圧力を加えることなく、折り畳む程度の力での貼り合わせが可能であり、さらに、再剥離性にも優れ、剥離の際に印刷物が裏写りしない情報担持シート用の水性エマルション接着剤を提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主とする疎水性単量体(a)100質量部と、架橋性単量体(b)1〜40質量部とからなる共重合体(A)の固形分100質量部に対して、ポリエチレンオキサイド(B)10〜80質量部を配合した水性エマルション接着剤であって、前記共重合体(A)のガラス転移温度が−10℃〜50℃であることを特徴とする水性エマルション接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報担持シート用の水性エマルション接着剤に関する。さらに詳しくは、折り畳む程度の力で貼り合わせができる、貼り合わせはがき用紙用の水性エマルション接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
情報担持シートは、一度剥がすと二度接着できない仕様になっているため、個人のプライバシーを保護しつつ、封書より送料が安価なはがきでも、安全に個人情報を扱うことができる。そのため、ダイレクトメールや、税金・年金の通知、銀行からの明細などの親展はがきや、配送伝票用など、様々な場面で利用されている。
【0003】
情報担持シートの一種である貼り合わせはがき用紙は、情報印刷面を内側にして折り畳んだ後に、所定の圧力や熱を付与することで、基材上に設けた疑似接着層により再剥離可能に貼り合わされるものである。この貼り合わせはがき用紙において、その疑似接着層の基材上への形成方法は、先糊方式のものと後糊方式のものに分けられる。先糊方式とは、紙などの基材に擬似接着剤層を設けた後に、該疑似接着剤層の面に、文字・図形などの情報を印字・印刷などをする方式をいう。一方、後糊方式とは、基材に文字・図形などの情報を印字・印刷などをした後に、該情報印刷面に擬似接着剤層を設ける方式をいう。
【0004】
先糊方式で用いられる感圧接着剤や感熱接着剤などは、機械的な後処理により接着しなければならず、一般家庭で貼り合わせることは難しい。また、接着後に経時で接着力が変化してしまい、印刷した文字などが剥した側に写ってしまう、いわゆる裏写りを起こしたり、再剥離不能となったり、逆に剥がれが生じたりするといった問題点がある。一方、後糊方式で用いられる水性エマルション接着剤は、塗工後乾燥を必要とする点や、上記接着剤中にワックスなどを使用していることが多いため、非インキ転写性や剥離性が劣ったり、剥離後の印刷紙の見栄えが悪くなりやすいといった問題点がある。
【0005】
また、上記の接着剤を用いて擬似接着により貼り合わせる場合には、紙などの基材に対して、基材表面にフィルムなどを貼ったり、離型処理などの加工をしてから貼り合わせなければならないため、手間や費用がかかる。さらに、フィルムなどを貼るような加工をした紙は、再生紙として利用することができない場合が多い。
【0006】
特許文献1には、一般家庭でも貼り合わせることが可能な感熱型再剥離性接着剤として、酢酸ビニル−ポリオレフィン系共重合樹脂を使用したものが開示されている。また、特許文献2には、経時変化の少ない感圧型再剥離性接着剤として、アクリル系エマルションを使用したものが開示されている。しかしながら、これらの接着剤は感圧型あるいは感熱型の再剥離性接着剤であり、接着時に熱や大きな圧力など、何らかの後処理を必要とする。
【0007】
また、特許文献3には、アクリル樹脂系エマルション、酢酸ビニル樹脂系エマルション、ワックスエマルションおよびシリコンオイルエマルションを必須成分とする情報担持シート用水系接着剤が開示されている。しかしながら、上記接着剤はワックスエマルションやシリコンオイルエマルションを必須成分としているため、剥離後の接着塗工面の筆記性に劣り、例えば、返信用のはがきとして用いる場合など、剥離面への筆記性が必要な用途には使用できないといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−258467号公報
【特許文献2】特開2001−303007号公報
【特許文献3】特開2007−99797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の目的は、情報担持シート用の水性エマルション接着剤であって、熱や大きな圧力を加えることなく、折り畳む程度の力での貼り合わせが可能であり、さらに、再剥離性にも優れ、剥離の際に印刷物が裏写りしない情報担持シート用の水性エマルション接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主とする疎水性単量体(a)100質量部と、架橋性単量体(b)1〜40質量部とからなる共重合体(A)の固形分100質量部に対して、ポリエチレンオキサイド(B)10〜80質量部を配合した水性エマルション接着剤であって、前記共重合体(A)のガラス転移温度が−10℃〜50℃であることを特徴とする水性エマルション接着剤を提供する。上記本発明においては、前記共重合体(A)が、少なくとも水、界面活性剤、および重合開始剤の存在下、乳化重合してなることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、情報担持シート用の水性エマルション接着剤であって、熱や大きな圧力を加えることなく、折り畳む程度の力での貼り合わせが可能であり、さらに、再剥離性にも優れ、剥離の際に印刷物が裏写りしない情報担持シート用の水性エマルション接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明の特許請求の範囲および明細書における「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」および「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を意味する。
【0013】
本発明の水性エマルション接着剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主とする疎水性単量体(a)100質量部と、架橋性単量体(b)1〜40質量部とからなる共重合体(A)の固形分100質量部に対して、ポリエチレンオキサイド(B)を10〜80質量部を配合したことに特徴がある。
【0014】
前記本発明に使用する単量体(a)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主とする疎水性単量体であり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレートまたはラウリル(メタ)アクリレートなどのアクリル系単量体、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族系単量体、(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル系単量体が挙げられる。これらは1種類または2種類以上組み合わせて使用することが可能である。さらに、これらの単量体(a)はその他の親水性単量体(c)として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基含有単量体、などと併用することができる。
【0015】
前記本発明に使用する架橋性単量体(b)は、少なくとも2価の重合性を有する単量体であり、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレートなどのトリアクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド、ジビニルベンゼンなどが挙げられ、好ましくは、3価以上の重合性を有する単量体がよく、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種類または2種類以上組み合わせて使用することが可能である。
【0016】
上記架橋性単量体(b)の使用量は、単量体(a)100質量部としたときに1〜40質量部である。好ましくは10〜30質量部であり、より好ましくは15〜25質量部である。前記架橋性単量体(b)の使用量が1質量部未満であると、非インキ転写性が不十分であり、一方、単量体(b)の使用量が40質量部を超えると、接着剤の安定性が不十分となる。
なお、「非インキ転写性」とは、印刷した文字などが剥がした側に写ってしまう、いわゆる裏写りをしないことをいう。
【0017】
前記単量体(a)および(b)を共重合することにより得られる共重合体(A)の重量平均分子量は(GPC測定、標準ポリスチレン換算)は5万以上であることが好ましい。重量平均分子量が5万未満であると、非インキ転写性が不十分であるので好ましくない。
【0018】
また、本発明で用いる共重合体(A)のガラス転移温度は、−10℃〜50℃である。好ましくは、0℃〜30℃である。前記共重合体(A)のガラス転移温度が−10℃未満であると、非インキ転写性が不十分となり、一方、ガラス転移温度が50℃を超えると、皮膜形成に至らず、接着剤を塗工した面が白化してしまう。上記ガラス転移温度は、各単量体の使用比率によって上記の範囲に調節することができる。
【0019】
上記共重合体(A)の製造方法は、特に限定されないが、乳化重合により製造することが好ましい。特には、少なくとも水、界面活性剤、および重合開始剤の存在下で乳化重合することにより共重合体(A)を製造することが好ましい。これにより、機械安定性や貯蔵安定性に優れた共重合体(A)が製造でき、再剥離性に優れた水性エマルション接着剤が得られる。共重合体(A)の含有量は、水性エマルション接着剤の30〜73質量%であることが好ましい。
【0020】
上記乳化重合の反応方法としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法など、いずれの重合方法も用いることができる。
【0021】
上記乳化重合に用いる界面活性剤としては、ノニオン性、アニオン性、カチオン性または両性界面活性剤などの通常使用される公知の非反応性界面活性剤や反応性界面活性剤を使用することができ、1種類または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0022】
特にアニオン性界面活性剤の例としては、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩などを、ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型またはアルキルエーテル型、アセチレンアルコール型のものなどを、カチオン性界面活性剤の例としては、脂肪族アミン塩およびその4級アンモニウム塩、芳香族4級アンモニウム塩などを、両性界面活性剤の例としては、カルボキシベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリン誘導体などを挙げることができる。これらの界面活性剤は、1種類または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
上記界面活性剤の使用量は、共重合体(A)の固形分100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。前記界面活性剤の使用量が0.1質量部未満であると得られる生成するエマルションの化学的安定性に劣り、一方、使用量が10質量部を超えると、得られた上記エマルションを情報担持シート用の水性エマルション接着剤として用いた際の、非インキ転写性に劣るので好ましくない。
【0024】
また上記乳化重合に用いる重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の重合開始剤が使用でき、例えば、水溶性の重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過酸化水素などが挙げられ、油溶性の重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾビス化合物および高分子アゾ重合開始剤が挙げられ、これらは1種類または2種類以上組み合わせて使用することができる。また、これらの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤との組み合わせからなるレドックス系重合開始剤なども使用することができる。
【0025】
また、上記乳化重合において、得られる共重合体(A)の分子量を調整する目的で、n−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物やアルコールなどの連鎖移動剤を使用することができる。さらに、ジアリルフタレートなどの重合性二重結合を2個以上持った単量体や、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランのような重合性二重結合を有するシランカップリング剤も使用することができる。
【0026】
上記乳化重合は、前記単量体(a)および(b)を含む共重合体(A)を、少なくとも、水、重合開始剤および界面活性剤の存在下、反応することにより実施できる。反応温度は、例えば、30〜100℃程度、反応時間は、例えば、1〜10時間程度が好ましい。具体的には、水と重合開始剤とを仕込んだ反応容器に、上記単量体混合液、または上記単量体混合液を乳化させたものを一括添加または暫時滴下することによって反応し、適宜温度の調節を行いながら、一定時間反応する。
【0027】
上記の通り製造された共重合体(A)の固形分100質量部に対して、ポリエチレンオキサイド(B)10〜80質量部を配合することによって、本発明の情報担持シート用水性エマルション接着剤を得ることができる。本発明に用いるポリエチレンオキサイドは、水で容易に溶解するため、乳化重合により得られたエマルションとの相溶性がよく、また、上記ポリエチレンオキサイドを使用することにより、本発明の水性エマルション接着剤に適度な接着性と良好な再剥離性を付与することができる。さらに、使用するポリエチレンオキサイドの重合度によって、水性エマルション接着剤の剥離強度のコントロールをすることが可能となる。
【0028】
上記本発明に使用するポリエチレンオキサイド(B)は、一般的なポリエチレンオキサイドのうち、重量平均分子量が5万〜800万、好ましくは7万〜400万、より好ましくは10万〜100万程度のものが使用でき、前記ポリエチレンオキサイド(B)を水で溶解してから前記エマルションに配合することが可能である。前記ポリエチレンオキサイド(B)としては、例えば、PEO−1(住友精化製:分子量15万〜40万)、アルコックスR−150(明成化学工業製:分子量10万〜17万)などが挙げられる。これらは重量平均分子量の異なる1種類または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
上述したように、上記ポリエチレンオキサイド(B)の使用量は、共重合体(A)の固形分100質量部に対して、10〜80質量部である。ポリエチレンオキサイド(B)の使用量が10質量部未満であると、再剥離性が劣ったり、非インキ転写性が不十分であり、一方、使用量が80質量部を超えると、濃度低下により紙が湾曲したり、粘度が高くなりすぎて塗工不良を起こしたり、接着剤の安定性が不十分になる。なお、上記ポリエチレンオキサイド(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で前記単量体(a)と単量体(b)との共重合反応中に存在させることもできる。
【0030】
また、本発明の水性エマルション接着剤は、必要に応じて水溶性高分子化合物を含むことができる。前記水溶性高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコールおよびその各種変性物などのビニルアルコール系重合体、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシルメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリアルキレングリコール、無水マレイン酸/スチレン共重合体、無水マレイン酸/メチルビニルエーテル共重合体などを使用することが可能で、その他の公知の水溶性高分子化合物も使用することができる。なお、これら水溶性高分子化合物は、本発明の効果を損なわない範囲で前記単量体(a)と単量体(b)との共重合反応中に存在させることもできる。
【0031】
また、本発明の水性エマルション接着剤は、前記共重合体(A)がカルボキシル基などの酸基を有する場合は、その酸基を中和する中和剤を含むことができる。中和剤としては、塩基性の有機化合物および塩基性の無機化合物の何れかであってもよく、例えば、トリメチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノメチルプロパノールなどのアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、アンモニアなどが挙げられ、その他の公知の中和剤も使用することができる。なお、これら中和剤は、本発明の効果を損なわない範囲で前記単量体(a)と単量体(b)との共重合反応中に存在させることもできる。
【0032】
さらに、本発明の水性エマルション接着剤は、発明の効果を損なわない範囲において、各種添加剤を配合してもよい。例えば、分散剤、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、光安定剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、滑剤、帯電防止剤、架橋剤などの添加剤を使用することができる。
【0033】
本発明の接着剤を貼り合わせはがき用紙へ塗工するには、従来既知の塗工機を用いた塗工方法により行うことができる。上記塗工機は特に限定されず、例えばエアーナイフコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、ロールコーターを用いて塗工することができる。上記方法による接着剤の塗工量は、3〜40g/m2が望ましい。塗工量が3g/m2未満であると、所望の接着力が得られにくく、40g/m2を超えると接着力が強くなりすぎてしまい、再剥離しにくいものとなる場合がある。上記の条件で接着剤を塗工した後は、直ちに、折り曲げ機を用いて貼り合わせることが望ましい。接着剤塗工後から貼り合わせまでに、長時間あいた場合には、所望の接着力が得られにくいことがあるので好ましくない。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中の「%」および「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」および「質量部」を示す。
【0035】
〈接着剤の作製〉
[実施例1]
イオン交換水51部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(商品名:ラテムルE−118B、花王(株)製)16部、ブチルアクリレート50.0部、メチルメタクリレート50.0部、アクリル酸3.0部、メタクリル酸1.0部、トリメチロールプロパントリアクリレート20.0部を秤量して攪拌し、乳化混合液を調製した。
【0036】
次いで、攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置および窒素ガス導入管を装備した反応装置に、イオン交換水60.0部を仕込み、上記装置内の空気を窒素ガスに置換した後、攪拌しながら、上記装置の内温を80℃に加温した。内温が80℃となった後に、10%過硫酸アンモニウム水溶液1.0部を添加し、直ちに上記乳化混合液および5%過硫酸アンモニウム水溶液4.0部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、上記装置の内温を80℃に保ちながら、さらに3時間反応を行った後、内温を室温まで冷却し、共重合体1を含むエマルションを得た。前記共重合体1のガラス転移温度は、使用する単量体より算出した。結果を表1に示す。
【0037】
冷却後の前記共重合体1を含むエマルションの固形分100部に対して、25%アンモニア水0.3部、およびポリエチレンオキサイド(商品名:PEO−1、住友精化製、分子量:15万〜40万)を水で溶解し、ポリエチレンオキサイドの濃度が10%となるように調製したポリエチレンオキサイド水溶液を340部添加し、さらに、固形分20.0%となるように水64部で調製することによって、実施例1の水性エマルション接着剤を得た。この水性エマルション接着剤は分析の結果、粘度500mPa・s/25℃、固形分20.0%、pH7.5であった。結果を表2に示す。
【0038】
[実施例2〜14、比較例1〜5]
実施例1における単量体構成成分および配合量を表1に記載のものに変える以外は、実施例1と同様の条件により、共重合体2〜19を含むエマルション組成物および実施例2〜14の接着剤、比較例1〜5の接着剤を作製した。得られた実施例2〜14の接着剤、比較例1〜5の接着剤の単量体構成成分、配合量および分析結果を表2に示す。
【0039】

【0040】
BA:ブチルアクリレート
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
EA:エチルアクリレート
MA:メチルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
BMA:ブチルメタクリレート
St:スチレン
AAc:アクリル酸
MAAc:メタクリル酸
(*1):ジエチレングリコールジアクリレート
(*2):ジビニルベンゼン
(*3):トリメチロールプロパントリアクリレート
【0041】

【0042】
<試験方法および評価基準>
前記実施例および比較例の接着剤について、下記の試験方法で試験を行い表3に示す結果を得た。
[試料作成]
上質紙<70>にレーザープリンターで印字したものを2枚用意し、一方の印字面に実施例および比較例の接着剤をメイヤーバー#18(塗布量約30g/wet)で塗布し、直ちに他方の紙の印字面を貼り合わせる。貼り合わせた後、23℃、50%RHの雰囲気下で24時間放置したものを試料とする。
【0043】
[剥離接着強度試験]
上記の方法で作成した試料を100mm幅に断裁し、オートグラフ((株)島津製作所 AUTOGRAPH AGS−1000B)にて、引っ張り速度300mm/分で、剥離接着強度を測定する。
【0044】
[接着性]
上記の方法で作成した試料を手で湾曲させて耐湾曲性を評価する。また、試料を手で剥がして、剥離性、非インキ転写性(印字の裏写り具合)、白残りを評価する。評価基準を以下に示す。
<評価基準>
(1)耐湾曲性
○:湾曲させても剥がれのないもの
×:湾曲させると剥がれるもの
(2)剥離性
◎:適度な力で剥離可能なもの
○:剥離可能であるが、剥離面が若干毛羽立つもの
×:剥離不可能なもの
(3)非インキ転写性(印字の裏写り具合)
◎:文字が反対面に全く写らないもの
○:文字の極一部が反対面に写るもの
×:文字が反対面に濃く写るもの
(4)白残り
◎:印字した文字の濃さが剥離後も変わらないもの
○:印字した文字が剥離後若干白く被るもの
×:印字した文字が剥離後ほとんど見えないもの
【0045】
[筆記性]
上記の方法で作成した試料を手で剥がした後、剥離面にHB鉛筆、水性ボールペン、油性ボールペンで字を書き、筆記性を評価する。
<評価基準>
◎:全ての筆記具で書けるもの
○:水性ボールペン、油性ボールペンは書けるが、HB鉛筆は書けないもの
×:全ての筆記具で書けないもの
【0046】

【0047】
表3からみてとれるように、本発明の実施例1〜14の接着剤は、適度な剥離接着強度を有し、再剥離性に優れ、しかも印字の裏写りや白残りも発生しておらず問題がない。それに対して比較例1〜5の接着剤は、剥離強度が不十分あるいは強度が強すぎて剥離不能であるか剥離強度が良好であっても印字の裏写りや白残りが発生してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、情報担持シート用の水性エマルション接着剤であって、熱や大きな圧力を加えることなく、折り畳む程度の力での貼り合わせが可能であり、さらに、再剥離性にも優れ、剥離の際に印刷物が裏写りしない情報担持シート用の水性エマルション接着剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主とする疎水性単量体(a)100質量部と、架橋性単量体(b)1〜40質量部とからなる共重合体(A)の固形分100質量部に対して、ポリエチレンオキサイド(B)10〜80質量部を配合した水性エマルション接着剤であって、前記共重合体(A)のガラス転移温度が−10℃〜50℃であることを特徴とする水性エマルション接着剤。
【請求項2】
前記共重合体(A)が、少なくとも水、界面活性剤、および重合開始剤の存在下、乳化重合してなる請求項1に記載の水性エマルション接着剤。

【公開番号】特開2011−144316(P2011−144316A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8142(P2010−8142)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000105877)サイデン化学株式会社 (39)
【Fターム(参考)】