説明

水性エマルション組成物

【課題】塗膜性能が高く、かつ毒性が低く、臭気の低い化合物を造膜助剤として含有する低臭の水性エマルション組成物を提供する。
【解決手段】ヒドロキシとエーテルを有する式1で表される化合物及びウレタン樹脂を含む水性エマルション組成物。


(式1において、R1は水素または炭素数1から炭素数4の直鎖アルキルまたは炭素数3または炭素数4の分岐アルキルであり、R2は水素、メチル、またはエチルであり、mが1の時はnは0であり、mが0の時はnは1である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造膜性能に優れ、かつ安全性が高く、臭気を低減した水性エマルション組成物に関する。本組成物は分子内にヒドロキシとエーテルとを有し、且つ、エーテルにより、ジオキソラン、ジオキサン等の環を形成している化合物及びウレタン樹脂を用いる。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料分野では大気汚染、地球温暖化などの環境問題の高まりから、溶剤系塗料に代わり水性塗料の台頭が著しい。従来からトルエン及びキシレンなどのBTX系溶剤は規制対象であったが、2006年に改正大気汚染防止法が施行されて以降、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds, VOC)の総量排出規制が実施され、塗料などに添加されるVOCへの規制が更に強化された為である。
【0003】
作業環境、健康面においても、有害化学物質を低減した塗料は望まれている。例えば、トルエン、キシレン等の代わりにミネラルスピリット等の安全衛生法第3種有機溶剤を用いた弱溶剤塗料、トルエン、キシレン等を各0.1%未満としたトルエン、キシレンフリー塗料、鉛、クロム、ホルムアルデヒドをJIS規格値以下に抑えた鉛、クロムフリー塗料、ホルムアルデヒド放散量低減塗料、内分泌撹乱物質を低減した生態系配慮塗料、タールフリー塗料などがある。更に、塗装時の臭気がほとんど気にならない程度に抑えた塗料として低臭塗料があるが、特に室内壁などの密閉された空間内での塗装には更なる低臭塗料が望まれている。
【0004】
塗料の臭気は大部分が有機溶剤及び樹脂成分のモノマーに起因するものであるが、水性塗料は有機溶剤の代わりに水などを溶媒として使用しているため、低VOC塗料かつ低臭塗料でもある。溶剤系から水系へのシフトで、塗料に使用される固形分以外の化学物質は減ってきたが、少量の化学物質は助溶剤、添加剤という形で残っており、これらは依然としてVOC規制対象物である。また作業者にとっては、これら物質の臭気、毒性は依然として大きな課題である。
【0005】
水性塗料には親水性の官能基を導入して水溶性を付与した樹脂を使用した水性樹脂塗料と、疎水性の樹脂を乳化剤などでエマルションとして水中に均一分散させた水性エマルション塗料とがある。
【0006】
水性エマルション塗料中で、VOC規制の対象であり、臭気の問題となる有機化合物として添加割合が多いのが造膜助剤である。水性塗料では溶媒としての水は最終的に蒸散して無くなり、水中に分散していた樹脂が塗布対象の表面に均質な膜を形成することにより、塗膜としての機能を発現させる。ここで、水が蒸散してエマルション内の樹脂粒子同士が凝固する際に、いかに強固な樹脂塗膜を形成できるかがポイントとなる。水性塗料では有機溶剤系塗料に比べ低温での粒子同士の凝固が不十分であり、特にTg(ガラス転移点)の高い樹脂を用いた場合、造膜助剤と呼ばれる有機添加剤が必須となる。
【0007】
水性エマルション塗料に使用される代表的な造膜助剤として、4−ブトキシ−1−エタノール(ブチルセロソルブ)などのエチレングリコール誘導体や2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートなどのイソ酪酸エステル系の化合物が使用されているが、毒性、臭気の問題がある。
【0008】
ブチルセロソルブ或いはエチルセロソルブといったエチレングリコール誘導体は体内の代謝過程でシュウ酸が形成されるために毒性が懸念されており、安全性が疑われている。更にブチルセロソルブ系は特有の臭気もあり、作業者には敬遠される傾向がある。2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートに関しても、毒性は低いが、微かなイソ酪酸臭がある。
【0009】
これらの問題を解決する為に、安全性が高く、臭気の少ないプロピレングリコール誘導体(特許文献1)、グルタル酸エステル(特許文献2)、ポリエーテルモノオールとジカルボン酸のジエステル(特許文献3)などが開発されてきた。
【0010】
しかし、これら特許文献は何れも主にアクリル樹脂に関してのものであり、アクリル樹脂に含まれる未反応モノマーの臭気がきつく、低臭の造膜助剤を使用してもエマルション組成物の全体として期待される低臭効果が薄い。
【0011】
アクリル樹脂に比べて臭気の少ない樹脂として、ウレタン樹脂がある。これまで、ウレタン樹脂では特に低温域でブチルセロソルブ、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートなどが造膜助剤として使用されてきたが、これらに代わる低臭で高性能な造膜助剤については今まで開発されていない。
【0012】
この他、溶剤系塗料組成物で溶剤の臭気を中和する添加剤(炭素数8以上のエステル、ラクトン類)を使用している例があるが(特許文献4)、低VOCの観点から言えば、根本的な解決には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平4−055479号公報
【特許文献2】特開平8−157757号公報
【特許文献3】特開2005−200611号公報
【特許文献4】国際公開2005−000979号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上記の技術課題を解決して、塗膜性能が高く、かつ毒性が低く、臭気の低い化合物を造膜助剤として含有する低臭の水性エマルション組成物を提供することである。従来の2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートを含むエマルションに比べて、アクリル樹脂に対しては同等の造膜性能を示しながら、かつ、ウレタン樹脂に対する造膜性能が高い。特に最低造膜温度が低いことから、寒冷地での使用に適している。また、原料が植物由来のグリセリンであり、従来の化石燃料由来の化合物を使用していないため環境に優しい。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の構造を持つ化合物が上記要求を満たす造膜助剤として有効であることを見出した。特にウレタン樹脂への効果が大きい事から、ウレタン樹脂と本発明の造膜助剤とを組み合わせることにより、低毒性、低臭であり、且つ、塗膜性能の良い水性エマルション組成物を提供できる。
【0016】
本発明は、以下の(1)項〜(11)項などから構成される。
【0017】
(1)ヒドロキシとエーテルを有する式1で表される化合物及びウレタン樹脂を含む水性エマルション組成物。



(式1において、Rは水素または炭素数1から炭素数4の直鎖アルキルまたは炭素数3または炭素数4の分岐アルキルであり、Rは水素、メチル、またはエチルであり、mが1の時はnは0であり、mが0の時はnは1である。)
【0018】
(2)ヒドロキシとジオキサンを有する式2で表される化合物及びウレタン樹脂を含む水性エマルション組成物。



(式2において、Rは水素または炭素数1から炭素数4の直鎖アルキルまたは炭素数3または炭素数4の分岐アルキルであり、Rは水素、メチル、またはエチルである。)
【0019】
(3)式2において、Rがブチルであり、Rがエチルである(2)に記載の水性エマルション組成物。
【0020】
(4)式2において、R及びRが共にメチルである(2)に記載の水性エマルション組成物。
【0021】
(5)ヒドロキシ及びジオキソランを有する式3で表される化合物及びウレタン樹脂を含む水性エマルション組成物。



(式3において、Rは水素または炭素数1から炭素数4の直鎖アルキルまたは炭素数3または炭素数4の分岐アルキルであり、Rは水素、メチル、またはエチルである。)
【0022】
(6)式3において、Rがブチルであり、Rがエチルである(5)に記載の水性エマルション組成物。
【0023】
(7)式3において、R及びRが共にメチルである(5)に記載の水性エマルション組成物。
【0024】
(8)水性エマルション組成物の総重量に基づいて、(1)に記載の式1で表される化合物の含有量が0.1重量%から30.0重量%の範囲である(1)に記載の水性エマルション組成物。
【0025】
(9)水性エマルション組成物の総重量に基づいて、(2)に記載の式2で表される化合物の含有量が0.1重量%から30.0重量%の範囲である(2)から(4)のいずれか1項に記載の水性エマルション組成物。
【0026】
(10)水性エマルション組成物の総重量に基づいて、(5)に記載の式3で表される化合物の含有量が0.1重量%から30.0重量%の範囲である(5)から(7)のいずれか1項に記載の水性エマルション組成物。
【0027】
(11)(1)から(10)のいずれか1項に記載の水性エマルション組成物を1種類以上混合されている、塗料、シーリング剤、及びコーティング剤向け組成物。
【0028】
ウレタン樹脂は塗料以外にも主に繊維加工、紙加工、ポリクロロプレンラテックス等の樹脂の改質剤、接着剤、人口皮革、乳化重合用の乳化剤など幅広い範囲で応用可能である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、従来の造膜助剤に比べて最低造膜温度を下げられることから、低温環境下でも造膜性能が高いウレタン樹脂の水性エマルションを提供できる。また、造膜助剤が低臭で毒性が低いことから、作業者への健康影響を低減し、作業環境改善にも役立つものである。
【0030】
以下、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明における水性エマルション組成物は、本発明において開示される造膜助剤及びウレタン樹脂を組成物として構成されるものである。その他、この水性エマルション組成物には、助剤として、助溶剤、中和剤、分散剤、添加剤などが、必要に応じて添加される。本発明において、ウレタン樹脂の添加割合は、当該水性エマルション組成物の総重量に対し、30重量%以上、50重量%以下であることが好ましく、水の添加割合は当該水性エマルション組成物の総重量に対し、50重量%以上、70重量%以下であることが好ましい。
【0032】
本発明における造膜助剤の水性エマルション組成物に対する添加割合は、当該水性エマルション組成物の総重量に対する添加割合で定義できる。例えば、当該水性エマルション組成物の総重量に対し、造膜助剤の添加割合が好ましくは0.1重量%以上、30.0重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上、20.0重量%以下である。造膜効果を考えれば、添加割合が0.1重量%以上であることが好ましい。また、造膜におけるブリードや塗膜のべたつきなどを考慮すれば、30.0重量%以下であることが好ましい。
【0033】
ウレタン樹脂の原料はポリオール、イソシアネート、硬化剤(鎖延長剤、架橋剤)である。
【0034】
ポリオールにはポリエーテル系、ポリエステル系、その他のポリオール系があり、ポリエーテル系ポリオールとしてはポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、ポリオキシテトラメチレングリコール等が、ポリエステル系ポリオールとしてはポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキシレンアジペート、ポリエチレン−ブチレンアジペート、ポリカプロラクトン等が、その他の系ではポリカーボネート系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、ヒマシ油変性ポリオール等が挙げられる。
【0035】
ポリイソシアネートには芳香族系と脂肪族系とがあり、芳香族系ではトリレンジイソシアネート(TDI)、フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート等が、脂肪族系ではヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0036】
硬化剤は鎖延長剤、架橋剤であり、ポリオール系、ポリアミン系、水に分類される。ポリオール系硬化剤としてはエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン等があり、ポリアミン系硬化剤としてはヒドラジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等が挙げられる。
【0037】
ウレタン樹脂の製法は、乳化剤を使用するか、使用しないかで大きく分かれる。乳化剤を使用する方法は強制乳化法と呼ばれ、アセトンなどの溶媒中でポリオールとポリイソシアネートを重縮合した後に、合成されたウレタン樹脂を乳化剤水溶液と混合、分散させた後に溶媒除去してエマルションを製造する。乳化剤を使用しない方法は自己乳化法と呼ばれ、ポリマー中にイオン性、非イオン性の親水基を導入するなどの方法により、水中で安定に分散させながら乳化重合しウレタン樹脂を製造する。
【0038】
式1において、Rは水素または炭素数1から炭素数4の直鎖アルキルまたは炭素数3または炭素数4の分岐アルキルであり、Rは水素、メチル、またはエチルである。ここでmが1の時、nは0であるが、これはジオキサンであり、式2で表される化合物となる。また、mが0の時、nは1であるが、これはジオキソランであり、式3で表される化合物となる。
【0039】
式2で表される化合物は、具体的には、2−メチル−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−エチル−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−プロピル−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−ブチル−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−ペンチル−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−イソプロピル−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(1−メチルプロピル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(1−メチルブチル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(1−メチルペンチル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(1−エチルプロピル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(1−エチルブチル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(1−エチルペンチル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(2−メチルプロピル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(2−メチルブチル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(3−メチルブチル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(2−メチルプロピル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(2−メチルブチル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(3−メチルブチル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(1,2−ジメチルブチル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(1,3−ジメチルブチル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(1,3−ジメチルブタン−2−イル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(1,3−ジメチルペンタン−2−イル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(1,4−ジメチルペンタン−2−イル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、などが挙げられ、特に2−イソプロピル−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、2−(1−エチルペンチル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサンが好ましい。
【0040】
式3で表される化合物は、具体的には、2−メチル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−エチル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−プロピル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−ブチル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−ペンチル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−イソプロピル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(1−メチルプロピル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(1−メチルブチル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(1−メチルペンチル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(1−エチルプロピル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(1−エチルブチル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(1−エチルペンチル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(2−メチルプロピル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(2−メチルブチル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(3−メチルブチル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(2−メチルプロピル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオソラン、2−(2−メチルブチル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(3−メチルブチル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(1,2−ジメチルブチル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(1,3−ジメチルブチル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(1,3−ジメチルブタン−2−イル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(1,3−ジメチルペンタン−2−イル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(1,4−ジメチルペンタン−2−イル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、などが挙げられ、特に2−イソプロピル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、2−(1−エチルペンチル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソランが特に好ましい。
【0041】
式1、式2、そして式3で表される化合物の製造方法としては、グリセリンとアルデヒドによる脱水反応が一般的である。グリセリンは3つの水酸基を保有する化合物であり、アルデヒドと反応する水酸基の位置によりジオキサン(式2)及びジオキソラン(式3)の2種類の化合物が生成する。2種類の化合物は混合物として、そのまま造膜助剤として使用してもよいし、或いは混合物から精留などの操作により単離するか、片方を選択的に製造することにより、それらを単独で使用することもできる。
【0042】
脱水反応に使用される触媒は塩酸、硫酸、リン酸、p−トルエンスルホン酸などの一般的な酸触媒が用いられる。これらの中でも、特にp−トルエンスルホン酸が好ましい。
【0043】
反応は脱水反応であり平衡反応であるので、反応で生成する水を反応系内から除去することにより、反応を完結させることができる。系内からの水除去を促進する為に、共沸剤を添加して反応することもできる。
【0044】
一例としては、攪拌機、温度計、コンデンサー付のディーン・スターク管を取り付けた反応釜にグリセリンとp−トルエンスルホン酸触媒を一括で仕込み、攪拌しながら所定量のアルデヒドを滴下、発熱が終了したら加熱を開始し、90〜150℃の温度範囲で常圧下または減圧下で、3〜20時間反応させる。副生する水はディーン・スターク装置により系外に除去され、反応が進行していく。共沸剤は原料アルデヒドである場合もあるし、新たにトルエンなどの共沸剤を加えることも可能である。理論量の水を除去したところで、反応終了となる。得られた反応粗液を精留等の公知の方法にて精製を行うことにより、ジオキサンを有する式1で表される化合物とジオキソランを有する式2で表される化合物の混合物を得ることができる。
【0045】
水性エマルションや塗料用組成物中の造膜助剤の測定方法は公知の方法、例えばガスクロマト分析等にて分析可能である。また、水性エマルションや樹脂等の不揮発分の測定方法も公知の方法、例えば、蒸発残分の測定等により分析可能である。

【0046】
本発明における造膜助剤の含有量は、当該水性エマルション組成物中の樹脂重量に対する添加割合でも定義できる。例えば、当該水性エマルションや塗料用組成物中に含有される樹脂重量に対し、造膜助剤の添加割合が0.1重量%から100.0重量%の範囲での使用が好ましく、より好ましくは1.0重量%から50.0重量%の範囲であり、さらに好ましくは2.0重量%から30.0重量%の範囲である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
(水性エマルション組成物の調製)
実施例、比較例には、水性エマルションはDIC株式会社製のポリウレタン系エマルション ハイドランAP30F(登録商標)、ハイドランHW350(登録商標)及びDIC株式会社製のアクリル系エマルション、ボンコートAN155E(登録商標)を用いた。実施例には、造膜助剤として本発明の造膜助剤である式(2)で表される2−(1−エチルペンチル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、及び式(3)で表される2−(1−エチルペンチル)−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソランの混合物(ジオキサン:ジオキソランの重量比=55:45。以下、CSEHと略する)、式(2)で表される2−イソプロピル−5−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、及び式(3)で表される2−イソプロピル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソランの混合物(ジオキサン:ジオキソランの重量比=50:50。以下、CSIBと略する)を用い、比較例には、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(チッソ/JNC株式会社製、以下、CS−12と略する)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート(チッソ/JNC株式会社製、以下、CS−16と略する)を用いた。なお、CSEHはグリセリンと2−エチルヘキシルアルデヒドを原料とし、p−トルエンスルホン酸を触媒とする脱水反応で得られた粗液を公知の方法で精留し、収得した。CSIBはグリセリンとイソブチルアルデヒドを原料とし、p−トルエンスルホン酸を触媒とする脱水反応で得られた粗液を公知の方法で精留し、収得した。用いた造膜助剤は各々の水性エマルション組成物の総重量に基づいて、1重量%から5重量%の割合で添加し、ホモジナイザーを用いて混合した後、消泡するのを待って測定に供した。
【0049】
(最低造膜温度の測定)
最低造膜温度(MFT[Minimum Film−Forming Temparature]ともいう)の測定は、井元製作所製:簡易型最低造膜温度測定装置に、ラウダ社製:循環型冷却液送液装置(RK8KP)を接続し測定を行った。最低造膜温度の測定はJIS K−6828−2に則って行った。アプリケーターのスリットは0.2mmである。また、樹脂と造膜助剤の相性(相溶性)が悪く、造膜時に膜が結晶化して白くなってしまう現象が見られる。この現象は白化といい、最低造膜温度の測定を困難とする。また塗膜の外観、機能を損ねるため、塗料などのコーティング剤用途には適さない。
【0050】
(臭気の測定)
エマルションに対して、人による官能試験で臭気の評価を行った。評価は、悪臭防止法における6段階臭気強度表示法により表し、5人の平均値を四捨五入して整数値で示した。
0:無臭、1:やっと感知できる臭い、2:何の臭気かわかる弱い臭い
3:容易に感知できる臭い、4:強い臭い
5:強烈な(刺激を伴う)臭い
【0051】
〔実施例1〜2〕
調製したハイドランAP30F(登録商標)を、水性エマルションの基材として用い、各々の造膜助剤を含んだ水性エマルション組成物の最低造膜温度及び臭気の測定を行った。 結果を表1および表2に示した。造膜助剤が無添加の例を比較例1に示した。
ポリウレタン系エマルションであるハイドランAP30F(登録商標)を用いた場合では、造膜助剤としてCSEHを使用した例(実施例1−1から1−3)及びCSIBを使用した例(実施例2−1から2−3)のいずれにおいても、CS−12を使用した例(比較例2−1から2−3)及びCS−16を使用した例(比較例3−1から3−3)と比較して、どの添加割合においても最低造膜温度が低かった。また、造膜助剤が無添加の例(比較例1)との最低造膜温度の差(ΔMFT)は、造膜助剤としてCSEHを5重量%添加した場合では54℃(実施例1−3)を超えた。以下、造膜助剤としてCSIBを用いた場合では最低造膜温度の差(ΔMFT)が37℃、CS−12を用いた場合では最低造膜温度の差(ΔMFT)が25.8℃、CS−16を用いた場合では最低造膜温度の低下効果を確認できなかった。臭気に関しては、いずれも6段階評価で1と低かった。
【0052】

【0053】


【0054】
〔実施例3〜4〕
水性エマルションとしてハイドランHW350(DIC株式会社製、登録商標)を用い、水性エマルション組成物の総重量に基づいた含有量を同じにしたこと以外は全て、実施例1〜実施例2の場合と同様に、最低造膜温度の測定及び臭気の測定を行った。結果を表3及び表4に示した。造膜助剤が無添加の場合を、比較例4に示した。
ポリウレタン系エマルションであるハイドランHW350(DIC株式会社製、登録商標)を用いた場合、造膜助剤としてCSEHを使用した例(実施例3−1から3−3)及びCSIBを使用した例(実施例4−1から4−3)では、造膜助剤としてCS−12を使用した例(実施例5−1から5−3)および、CS−16を使用した例(実施例6−1から6−3)と比較して、最低造膜温度が低くなることがわかった。また、造膜助剤が無添加の例(比較例4)との最低造膜温度の差(ΔMFT)は、造膜助剤であるCSEHの含有量が5重量%の場合では34℃を超えた。以下、造膜助剤としてCSIBを用いた場合では最低造膜温度の差(ΔMFT)が約30℃、CS−12を用いた場合では最低造膜温度の差(ΔMFT)が19℃、CS−16を用いた場合では最低造膜温度の差(ΔMFT)が約2℃であることを確認した。臭気に関しては、いずれも6段階評価で1と低かった。造膜助剤としてCSEH、CSIBを用いた場合は、ウレタン樹脂にCS−12、CS−16を用いた場合と比べて造膜性能が高いことが分かった。

【0055】

【0056】
〔参考例1〜5〕
ボンコートAN155E(登録商標)を水性エマルションとして用いた以外は全て実施例1と同様に最低造膜温度及び臭気の測定を行った。結果を表5及び表6に示した。造膜助剤が無添加の場合を、参考例1に示した。
アクリル系エマルションであるボンコートAN155E(登録商標)を用いた場合では、造膜助剤としてCSEHを使用した例(参考例2−1から2−3)及びCSIBを使用した例(参考例3−1から3−3)は、造膜助剤としてCS−12(参考例4−1から4−3)およびCS−16(参考例5−1から5−3)を使用した例と比較して、どの添加割合においても最低造膜温度が低く、造膜助剤が無添加(参考例1)の場合との最低造膜温度の差(ΔMFT)は、造膜助剤であるCSEHの含有量が5重量%の場合では最低造膜温度の差(ΔMFT)が31℃を超えた。以下、造膜助剤であるCSIBを用いた場合では、最低造膜温度の差(ΔMFT)が約32℃、CS−12を用いた場合では、最低造膜温度の差(ΔMFT)が約21℃、CS−16を用いた場合では、最低造膜温度の差(ΔMFT)が約22℃であることを確認した。臭気に関しては、いずれも6段階評価で3であった。CSEH、CSIBを用いた場合は、アクリル樹脂においても、CS−12、CS−16を用いた場合と比べて成膜性能が高いことが分かった。

【0057】


【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の水性エマルション組成物は安全かつ低臭な塗料用組成物として非常に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシとエーテルを有する式1で表される化合物及びウレタン樹脂を含む水性エマルション組成物。


(式1において、Rは水素または炭素数1から炭素数4の直鎖アルキルまたは炭素数3または炭素数4の分岐アルキルであり、Rは水素、メチル、またはエチルであり、mが1の時はnは0であり、mが0の時はnは1である。)
【請求項2】
ヒドロキシとジオキサンを有する式2で表される化合物及びウレタン樹脂を含む水性エマルション組成物。


(式2において、Rは水素または炭素数1から炭素数4の直鎖アルキルまたは炭素数3または炭素数4の分岐アルキルであり、Rは水素、メチル、またはエチルである。)
【請求項3】
式2において、Rがブチルであり、Rがエチルである請求項2に記載の水性エマルション組成物。
【請求項4】
式2において、R及びRが共にメチルである請求項2に記載の水性エマルション組成物。
【請求項5】
ヒドロキシ及びジオキソランを有する式3で表される化合物及びウレタン樹脂を含む水性エマルション組成物。


(式3において、Rは水素または炭素数1から炭素数4の直鎖アルキルまたは炭素数3または炭素数4の分岐アルキルであり、Rは水素、メチル、またはエチルである。)
【請求項6】
式3において、Rがブチルであり、Rがエチルである請求項5に記載の水性エマルション組成物。
【請求項7】
式3において、R及びRが共にメチルである請求項5に記載の水性エマルション組成物。
【請求項8】
水性エマルション組成物の総重量に基づいて、請求項1に記載の式1で表される化合物の含有量が0.1重量%から30.0重量%の範囲である請求項1に記載の水性エマルション組成物。
【請求項9】
水性エマルション組成物の総重量に基づいて、請求項2に記載の式2で表される化合物の含有量が0.1重量%から30.0重量%の範囲である請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の水性エマルション組成物。
【請求項10】
水性エマルション組成物の総重量に基づいて、請求項5に記載の式3で表される化合物の含有量が0.1重量%から30.0重量%の範囲である請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の水性エマルション組成物。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の水性エマルション組成物を1種類以上混合されている、塗料、シーリング剤、及びコーティング剤向け組成物。

【公開番号】特開2013−43951(P2013−43951A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183968(P2011−183968)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(596032100)JNC石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】