説明

水性エマルション

【課題】耐水性に優れた硬化物を与えることができる水性エマルションを提供する。
【解決手段】下記(A)、(B)及び(C)を含有する水性エマルションであって、(A)の固形分100重量部に対し、(C)を5〜20重量部含有する、水性エマルション:(A)エチレン及び/若しくはプロピレンに由来する構造単位と、式(I):CH=CH−R(I)(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭素環基を表す。)で示されるビニル化合物に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体、又は、当該オレフィン系共重合体にα,β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体(B)乳化剤、(C)アミノ基及び/又は水酸基を含み、沸点が120〜300℃である水溶性化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系共重合体またはその変性物を含有する水性エマルション等に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系共重合体やその変性物を含有する水性エマルションは、有機溶剤をほとんど含有しないことから、取り扱いの際の作業環境を良好に維持することができる。このような特性により、自動車や家電などのさまざまな分野で接着剤、塗料、塗料用プライマー、印刷用バインダー等に適用されることが期待されている。
具体的には、オレフィン系共重合体変性物として、α−オレフィン及び/又はエチレンに由来する構造単位と、ビニルシクロヘキサンなどのビニル化合物に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体に、アルケニル芳香族炭化水素及び/又は不飽和カルボン酸類をグラフト重合せしめてなるオレフィン系共重合体変性物が知られており、該変性物は、難接着性であるポリプロピレンへの接着性に優れることが開示されている(特許文献1)。
また、該変性物の1種であるエチレン、ビニルシクロヘキサン及び不飽和カルボン酸類の共重合体を分散質として有する水性エマルションは、成形性、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性、接着性に優れた硬化物(皮膜)を与えることが開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−160621号公報
【特許文献2】特開2005−320400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近、オレフィン系共重合体またはその変性物を含有する水性エマルションから得られる硬化物に、水が付着した後、擦っても硬化物が剥がれないという耐水性が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者らは、鋭意検討した結果、下記〔1〕〜〔11〕に示す発明に至った。すなわち、本発明は、
〔1〕 下記(A)、(B)及び(C)を含有する水性エマルションであって、(A)の固形分100重量部に対し、(C)を5〜20重量部含有する、水性エマルション:
(A)エチレン及び/若しくはプロピレンに由来する構造単位と、下記式(I):
CH=CH−R (I)
(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭素環基を表す。)
で示されるビニル化合物に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体、
又は、当該オレフィン系共重合体にα,β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体
(B)乳化剤、
(C)アミノ基及び/又は水酸基を含み、沸点が120〜300℃である水溶性化合物;
〔2〕 水溶性化合物(C)が、ジメチルアミノエタノール、ジエチレントリアミン、N−メチル−2−ピロリドン及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性化合物を含んでなる、上記〔1〕に記載の水性エマルション;
〔3〕 乳化剤(B)が、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位とアクリル酸ビニルエステルに由来する構造単位と(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位とを含有する水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の乳化剤を含んでなる、上記〔1〕又は〔2〕記載の水性エマルション;
〔4〕 ビニル化合物(I)がビニルシクロヘキサンを含んでなる、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の水性エマルション;
〔5〕 分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μmである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の水性エマルション;
〔6〕 (1)(A)エチレン及び/若しくはプロピレンに由来する構造単位と、下記式(I):
CH=CH−R (I)
(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭素環基を表す。)
で示されるビニル化合物に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体、
又は、当該オレフィン系共重合体にα,β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体、並びに(B)乳化剤を剪断応力を作用させながら混練する工程と、
(2)該混練物を水に分散させてエマルションを得る工程と、
(3)該エマルションに、(C)アミノ基及び/又は水酸基を含み、沸点が120〜300℃である水溶性化合物を混合する工程と
を含むことを特徴とする、水性エマルションの製造方法;
〔7〕 木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料を含んでなる基材及び上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の水性エマルションに由来する接着層を有する積層体;
〔8〕 プラスチック材料がポリオレフィンを含んでなる、上記〔7〕記載の積層体;
〔9〕 ポリオレフィンがポリプロピレンを含んでなる、上記〔8〕記載の積層体;
〔10〕 上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の水性エマルションを、基材上に塗工することを特徴とする基材上に塗膜を形成する方法;
〔11〕 上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の水性エマルションの塗膜としての使用;
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のエマルションは、耐水性に優れた硬化物を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明の水性エマルションは、下記(A)、(B)及び(C)を含有する:
(A)エチレン及び/若しくはプロピレンに由来する構造単位と、下記式(I):
CH=CH−R (I)
(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭素環基を表す。)
で示されるビニル化合物(以下、ビニル化合物(I)と記すことがある)に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体(以下、「重合体(A−1)」という場合がある)、
又は、当該オレフィン系共重合体にα,β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体(以下、「重合体(A−2)」という場合がある)、
(B)乳化剤、
(C)アミノ基及び/又は水酸基を含み、沸点が120〜300℃である水溶性化合物。
【0008】
本発明に用いられる(A)は、重合体(A−1)、又は、重合体(A−2)である。
【0009】
重合体(A−1)に含まれるビニル化合物(I)に由来する構造単位について説明する。
、ビニル化合物(I)の置換基Rにおける2級アルキル基としては、炭素数3〜20の2級アルキル基が好ましく、3級アルキル基としては炭素数4〜20の3級アルキル基が好ましく、脂環式炭化水素基としては、3〜16員環を有する脂環式炭化水素基が好ましい。置換基Rとしては、3〜10員環を有する炭素数3〜20の脂環式炭化水素基、炭素数4〜20の3級アルキル基がより好ましい。
【0010】
置換基Rが2級アルキル基であるビニル化合物(I)の具体例としては、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ヘプテン、3−メチル−1−オクテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘプテン、3,4−ジメチル−1−オクテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,5−ジメチル−1−ヘプテン、3,5−ジメチル−1−オクテン、3,6−ジメチル−1−ヘプテン、3,6−ジメチル−1−オクテン、3,7−ジメチル−1−オクテン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,4,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,4,4−トリメチル−1−オクテンなどが挙げられる。
【0011】
置換基Rが3級アルキル基であるビニル化合物(I)の具体例としては、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘプテン、3,3−ジメチル−1−オクテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,3,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,3,4−トリメチル−1−オクテンなどが挙げられる。
置換基Rが脂環式炭化水素基であるビニル化合物(I)の具体例としては、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロブタン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタンなどの置換基Rがシクロアルキル基であるビニル化合物;5−ビニル−2−ノルボルネン、1−ビニルアダマンタン、4−ビニル−1−シクロヘキセンなどが挙げられる。
【0012】
ビニル化合物(I)としては、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン、5−ビニル−2−ノルボルネンが好ましく、より好ましくは、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルネンであり、更に好ましくは、3,3−ジメチル−1−ブテン、ビニルシクロヘキサンである。最も好ましいビニル化合物(I)は、ビニルシクロヘキサンである。
【0013】
本発明に用いられる重合体(A−1)におけるビニル化合物(I)に由来する構造単位の含有量としては、重合体(A−1)を構成する全ての構造単位100モル%に対して、通常、5〜40モル%であり、好ましくは10〜30モル%、より好ましくは10〜20モル%である。
ビニル化合物(I)の構造単位の含有量が5〜40モル%あると、得られる硬化物の接着性が向上する傾向にあるので好ましい。
ビニル化合物(I)の構造単位の含有量は、H−NMRスペクトルや13C−NMRスペクトルを用いて求めることができる。
【0014】
重合体(A−1)には、例えば、炭素数4〜20の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位が含有されていてもよい。炭素数4〜20の直鎖状α−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ナノデセン、1−エイコセン等が挙げられる。
【0015】
重合体(A−1)において、エチレンに由来する構造単位、プロピレンに由来する構造単位、及び炭素数4〜20の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位の合計含有量としては、重合体(A−1)を構成する全ての単量体単位100モル%に対して、通常、95〜60モル%であり、好ましくは90〜70モル%、とりわけ好ましくは90〜80モル%である。
【0016】
重合体(A−1)は、さらに付加重合可能な単量体を共重合せしめてもよい。
ここで、付加重合可能な単量体とは、エチレン、プロピレン、α−オレフィン及びビニル化合物(I)以外の単量体であって、エチレン、プロピレン、α−オレフィン及びビニル化合物(I)と付加重合可能な単量体である。該単量体の炭素数は、通常、3〜20程度である。
付加重合可能な単量体の具体例としては、例えば、シクロオレフィン、下記式(II):

〔式(II)中、R’、R”は、それぞれ独立に、炭素数1〜18程度の直鎖状アルキル基、炭素数3〜18程度の分枝状アルキル基、炭素数3〜18程度の環状アルキル基、又はハロゲン原子等を表す。〕
で表されるビニリデン化合物(以下、「ビニリデン化合物(II)」と記すことがある)、ジエン化合物、ハロゲン化ビニル、アルキル酸ビニル、ビニルエーテル類、アクリロニトリル類などが挙げられる。
【0017】
シクロオレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−ベンジル−2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセン、2−トリシクロデセン、2−トリシクロウンデセン、2−ペンタシクロペンタデセン、2−ペンタシクロヘキサデセン、8−メチル−2−テトラシクロドデセン、8−エチル−2−テトラシクロドデセン、5−アセチル−2−ノルボルネン、5−アセチルオキシ−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−エトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、8−メトキシカルボニル−2−テトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−2−テトラシクロドデセン、8−シアノ−2−テトラシクロドデセン等が挙げられ、より好ましくは、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセン、2−トリシクロデセン、2−トリシクロウンデセン、2−ペンタシクロペンタデセン、2−ペンタシクロヘキサデセン、5−アセチル−2−ノルボルネン、5−アセチルオキシ−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネンであり、さらに好ましくは2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセンである。
【0018】
式(II)中、炭素数1〜18程度の直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル、n−ブチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。炭素数1〜18程度の分枝状アルキル基としては、例えば、i−プロピル基、i−アミル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。炭素数1〜18程度の環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ジシクロペンタヘキシル基などが挙げられる。
【0019】
ビニリデン化合物(II)としては、例えば、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン、2−メチル−1−ヘプテン、2−メチル−1−オクテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2,3−ジメチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ヘプテン、2,3−ジメチル−1−オクテン、2,4−ジメチル−1−ペンテン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテン、塩化ビニリデン等が挙げられ、好ましくは、イソブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテンである。
【0020】
ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,5−シクロオクタジエン、2,5−ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−アリル−2−ノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等が挙げられ、好ましくは、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン、5−エチリデン−2−ノルボルネンである。
【0021】
ハロゲン化ビニルとしては、例えば、塩化ビニルなどが挙げられる。
アルキル酸ビニルとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどが挙げられる。
ビニルエーテル類としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
アクリロニトリル類としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0022】
重合体(A−1)における付加重合可能な構造単位の含有量としては、通常、得られる水性エマルションが与える硬化物の耐水性が損なわれない範囲であり、具体的な含有量としては、重合体(A−1)を構成するすべての構造単位100モル%に対して約5モル%程度以下が好ましく、より好ましくは1モル%以下、実質的に付加重合可能な構造単位を含有しない程度の含有量であることがさらに好ましい。
【0023】
重合体(A−1)の製造方法としては、例えば、インデニル形アニオン骨格、あるいは架橋されたシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基を有する遷移金属化合物を含む触媒の存在下に製造する方法などが挙げられる。中でも特開2003−82028号公報、特開2003−160621号公報及び特開2000−128932号公報に記載の方法に準じて製造する方法が好適である。
【0024】
重合体(A−1)の製造において、用いる触媒の種類や重合条件によっては、重合体(A−1)以外に、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのエチレン、プロピレン又は炭素数4〜20のα−オレフィンの重合体(ポリオレフィン)やビニル化合物(I)の単独重合体が副生することがある。このような場合は、ソックスレー抽出器等を用いた溶媒抽出を行うことにより、容易に重合体(A−1)を分取することができる。かかる抽出に用い得る溶媒として、トルエンやクロロホルムなどが挙げられる。例えば、ビニルシクロヘキサンの単独重合体はトルエンを用いた抽出の不溶成分として除去することができ、また、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンはクロロホルムを用いた抽出の不溶成分として除去することができ、重合体(A−1)は両溶媒の可溶成分として分取することができる。重合体(A−1)は、耐水性に問題なければ、そのような副生物が存在した状態で使用してもよい。
【0025】
重合体(A−1)の分子量分布(Mw/Mn=[重量平均分子量]/[数平均分子量])は、好ましくは1.5〜10程度であり、より好ましくは1.5〜7程度、さらにより好ましくは1.5〜5程度である。該オレフィン系共重合体の分子量分布が1.5以上、10以下であると、得られる重合体(A−1)の機械的強度及び透明性が向上する傾向にあることから好ましい。
また、重合体(A−1)の重量平均分子量(Mw)は、機械的強度の観点から、好ましくは5,000〜1,000,000程度であり、より好ましくは10,000〜500,000程度であり、もっとも好ましくは15,000〜400,000程度である。該オレフィン系共重合体の重量平均分子量が5,000以上であると、得られる重合体(A−1)及び重合体(A−2)の機械的強度が向上する傾向にあることから好ましく、また、該重量平均分子量が1,000,000以下であると、該オレフィン系共重合体の流動性が向上する傾向にあることから好ましい。
ここで、本発明における分子量は、後記実施例で具体的に記載する方法にしたがって、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)により測定される値である。
【0026】
本発明に用いられる重合体(A−1)の極限粘度[η]の値は、機械的強度の観点から、好ましくは0.25〜10dl/g程度であり、より好ましくは0.3〜3dl/g程度である。
【0027】
本発明に用いられる重合体(A−2)は、上記重合体(A−1)にα,β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体である。
重合体(A−2)におけるα,β−不飽和カルボン酸無水物のグラフト重合量としては、得られる重合体(A−2)100重量%に対して、通常、0.01〜20重量%程度、好ましくは0.05〜10重量%程度、とりわけ好ましくは0.1〜5重量%程度である。
α,β−不飽和カルボン酸無水物のグラフト重合量が0.01重量%以上であると、得られる硬化物の接着力が向上する傾向にあるため好ましく、また、該グラフト重合量が20重量%以下であると、得られる硬化物の熱安定性が向上する傾向にあるため好ましい。
なお、α,β−不飽和カルボン酸無水物のグラフト重合量は、後記実施例で具体的に記載する方法にしたがって、赤外線吸収スペクトルを測定することにより算出することができる。
【0028】
本発明で使用されるα,β−不飽和カルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、無水ハイミック酸などが挙げられる。また、上記のα,β−不飽和カルボン酸無水物を任意に組み合わせて使用してもよい。
α,β−不飽和カルボン酸無水物としては、特に、無水マレイン酸が好ましい。
【0029】
重合体(A−2)の製造方法としては、例えば、重合体(A−1)を溶融させたのち、α,β−不飽和カルボン酸無水物を添加してグラフト重合せしめる方法、重合体(A−1)をトルエン、キシレンなどの溶媒に溶解したのち、α,β−不飽和カルボン酸無水物を添加してグラフト重合せしめる方法などが挙げられる。
重合体(A−1)を溶融させたのち、α,β−不飽和カルボン酸無水物を添加してグラフト重合せしめる方法は、押出機を用いて溶融混練することで、樹脂同士あるいは樹脂と固体もしくは液体の添加物を混合するための公知の各種方法が採用可能であることから好ましい。さらに好ましい例としては、各成分の全部もしくはいくつかを組み合わせて別々にヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダー等により混合して均一な混合物とした後、該混合物を溶融混練する等の方法を挙げることができる。溶融混練の手段としては、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸又は二軸の押出機等の従来公知の混練手段が広く採用可能である。特に好ましいのは、連続生産が可能であり、生産性が向上するという観点から、一軸又は二軸押出機を用い、予め十分に予備混合した重合体(A−1)、α,β−不飽和カルボン酸無水物、ラジカル開始剤を押出機の供給口より供給して混練を行う方法が推奨される。押出機の溶融混練を行う部分の温度は(例えば、押出機ならシリンダー温度)、通常、50〜300℃、好ましくは80〜270℃である。温度が50℃以上であるとグラフト量が向上する傾向があり、また、温度が300℃以下であると重合体(A−1)の分解が抑制される傾向があることから好ましい。押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の二段階に分け、前半より後半の温度を高めた設定にすることが好ましい。溶融混練時間は、通常、0.1〜30分間、特に好ましくは0.1〜5分間である。溶融混練時間が0.1分以上であるとグラフト量が向上する傾向があり、また、溶融混練時間が30分以下であると重合体(A−1)の分解が抑制される傾向があることから好ましい。
【0030】
α,β−不飽和カルボン酸無水物を重合体(A−1)にグラフト重合せしめるためには、通常、ラジカル開始剤の存在下にグラフト重合を実施する。
ラジカル開始剤の添加量は、重合体(A−1)100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.01〜1重量部である。該添加量が0.01重量部以上であると、重合体(A−1)へのグラフト重合量が増加して接着強度が向上する傾向があることから好ましく、また、該添加量が10重量部以下であると、得られる重合体(A−2)中における未反応のラジカル開始剤が低減され、接着強度が向上する傾向があることから好ましい。
ラジカル開始剤としては、通常、有機過酸化物であり、好ましくは半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物である。分解温度が50℃以上であるとグラフト重合量が向上する傾向があることから好ましく、分解温度が210℃以下であると重合体(A−1)の分解が低減されることから好ましい。また、これらの有機過酸化物は、分解してラジカルを発生した後、重合体(A−1)からプロトンを引き抜く作用があることが好ましい。
【0031】
半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物としては、例えば、ジアシルパーオキサイド化合物、ジアルキルパーオキサイド化合物、パーオキシケタール化合物、アルキルパーエステル化合物、パーカボネート化合物等が挙げられる。具体的には、ジセチル パーオキシジカルボネート、ジ−3−メトキシブチル パーオキシジカルボネート,ジ−2−エチルヘキシル パーオキシジカルボネート、ビス(4−t−ブチル シクロヘキシル)パーオキシジカルボネート、ジイソプロピル パーオキシジカルボネート、t−ブチル パーオキシイソプロピルカーボネート、ジミリスチル パーオキシカルボネート、1,1,3,3−テトラメチル ブチル ネオデカノエート、α―クミル パーオキシ ネオデカノエート、t−ブチル パーオキシ ネオデカノエート、1,1ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブテン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ベルオキシ)バレラート、ジ−t−ブチルベルオキシイソフタレート、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等が挙げられる。分解温度が50℃より低いとグラフト量が向上しない傾向があり、分解温度が210℃より高いとグラフト量が向上しない傾向がある。また、これらの有機過酸化物で好ましいのはジアルキルパーオキサイド化合物、ジアシルパーオキサイド化合物、パーカルボネート化合物、アルキルパーエステル化合物である。
【0032】
重合体(A−2)の分子量分布(Mw/Mn)は、通常1.5〜10であり、好ましくは1.5〜7、とりわけ好ましくは1.5〜5である。分子量分布が10以下であると、該重合体(A)の接着性が向上する傾向にあり、好ましい。
重合体(A−2)の分子量分布は、重合体(A−1)の分子量分布と同様に測定することができる。
【0033】
本発明に用いられる重合体(A−2)は、機械的強度の観点から極限粘度[η]の値は、通常、0.25〜10dl/g程度、好ましくは0.3〜3dl/g程度である。
【0034】
本発明に用いられる乳化剤(B)は、例えば、α−オレフィンスルホン化物、アルキルサルフェート、アルキルフェニルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホコハク酸のハーフエステル塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸の金属塩、水溶性アクリル樹脂、ロジン石鹸等のアニオン系乳化剤;
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン系乳化剤;
カチオン系乳化剤などが挙げられる。
後述するように、分散質の体積基準メジアン径が1μm以下であると、得られる硬化物の接着性が向上する傾向があり、好ましいことから、このような微小径の分散質を含有するエマルジョンに用いられる乳化剤(B)としては、例えば、水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられ、水溶性アクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0035】
ここで、水溶性アクリル樹脂とは、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位を含有する水溶性の樹脂であり、該樹脂は均一に水に溶解する。
α,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、イタコン酸などが挙げられる。
水溶性アクリル樹脂を構成する他の単量体としては、例えば、炭素数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の炭素数4〜18の(メタ)アクリル酸エステル;エチレンアクリレート、エチレンメタクリレートなどのアクリル酸ビニルエステル;塩化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸及びそれらの塩などのビニル化合物;スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニル;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類;N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;スルホン酸アリル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどのアリル化合物などが挙げられる。
水溶性アクリル樹脂としては、α,β−不飽和カルボン酸、アクリル酸ビニルエステル、及び(メタ)アクリル酸エステルのそれぞれに由来する構造単位を含有することが好ましく、該樹脂を構成する単量体に由来する構造単位の合計100モル%に対し、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位を10〜90モル%、アクリル酸ビニルエステルに由来する構造単位を5〜60モル%、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を5〜85モル%を含有することが好ましい。
【0036】
なお、乳化剤(B)として、複数種の水溶性アクリル樹脂を使用してもよく、水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー及びポリオキシエチレンアルキルエーテルを組み合わせて使用してもよい。
【0037】
本発明の水性エマルション中の乳化剤(B)の含有量は、水性エマルジョン固形分100重量部に対し、好ましくは、例えば、1〜30重量部等を挙げることができる。より好ましくは、例えば、5〜20重量部等が挙げられる。該乳化剤の含有量が1重量部以上であると、得られる水性エマルジョンから水相が出にくくなるなどの保存安定性が向上する傾向がある。一方、該乳化剤の含有量が30重量部以下であると、得られる水性エマルジョンが与える硬化物について、該硬化物と基材との密着性や、該硬化物に水が付着した後に擦っても硬化物が剥がれないという耐水性が向上する傾向がある。
【0038】
本発明の水性エマルションは、(A)および(B)の他に、アミノ基及び/又は水酸基を含み、沸点が120〜300℃である水溶性化合物(C)をさらに含む。
好ましい水溶性化合物(C)としては、例えば、ジメチルアミノエタノール、ジエチレントリアミン、N−メチル−2−ピロリドン及びグリセリン等が挙げられる。水溶性化合物(C)としては1種類でも異なる2種以上を併用してもよい。
【0039】
上記水溶性化合物(C)の沸点は、120〜300℃であり、好ましくは150〜300℃である。該水溶性化合物(C)の沸点が120℃以上である場合、耐水性が向上する傾向がある。一方、該水溶性化合物(C)の沸点が300℃以下であると、得られる硬化物の強度や耐水性が向上する傾向があることから、好ましい。
【0040】
本発明の水性エマルションは、(A)の固形分100重量部に対し、5〜20重量部の水溶性化合物(C)を含有する。水溶性化合物(C)の量が上記範囲内の場合、水性エマルションから得られる硬化物の耐水性は十分なものになる。
【0041】
本発明のエマルションは、(A)が分散質として、乳化剤(B)及び水溶性化合物(C)とともに水に分散されたエマルションである。
本発明の水性エマルションの製造方法としては、例えば、
(a)水溶性化合物(C)を(A)と混合し、続いて、乳化剤(B)を剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させる方法;
(b)水溶性化合物(C)を乳化剤(B)とともに水に混合させたのち、(A)と剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させる方法;
(c)(A)及び乳化剤(B)を剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させて水性エマルションを得た後、水溶性化合物(C)を混合する方法;
(d)(A)をトルエンなどの有機溶媒に溶解させ、乳化剤(B)とともに剪断応力を作用させながら混合したのち、水に分散させ、次いで有機溶媒を除去した後、水溶性化合物(C)を混合する方法;
(e)(A)をトルエン、ヘキサン、ヘプタン、キシレン等の有機溶媒で溶解したのち、乳化剤(B)と混合させ、高圧下、常圧下、あるいは超音波をかけながら乳化させ、次いで溶剤を留去した後、水溶性化合物(C)を混合する方法
などが挙げられる。
中でも、剪断応力を作用させながら水に分散させる(a)〜(d)のいずれかの方法が、分散質の体積基準メジアン径を1μm以下にし、結果として、得られる硬化物の接着性が向上する傾向があることから好ましく、有機溶媒の除去が不要な(a)〜(c)のいずれかの方法がより好ましい。
【0042】
ここで、剪断応力を作用させる際の剪断速度としては、通常、200〜100000秒−1程度、好ましくは1000〜2500秒−1程度である。剪断速度が200秒−1以上であると、得られるエマルションの接着性が向上する傾向があることから好ましく、100000秒−1以下であると、工業的に製造が容易になる傾向があることから好ましい。
なお、剪断速度とはスクリューエレメント最外周部の周速度[mm/sec]をスクリューとバレルとのクリアランス[mm]で除した数値である。
【0043】
剪断応力を作用させる装置としては、例えば、2軸押出機、ラボプラストミル(株式会社 東洋精機製作所)、ラボプラストミルマイクロ(株式会社 東洋精機製作所)などの多軸押出機、ホモジナイザー、T.Kフィルミクス(プライミクス株式会社)などバレル(シリンダー)及び攪拌翼の間に水性エマルションを置き、攪拌翼を回転させて剪断応力を与える機器が挙げられる。
【0044】
多軸押出機を例として、具体的な本発明の水性エマルションの製造方法を説明すると、スクリューを2本以上ケーシング内に有する多軸押出機のホッパーから(A)を供給し、加熱、溶融混練させ、更に該押出機の圧縮ゾーン又は/及び計量ゾーンに設けた少なくとも1個の液体供給口より供給された乳化剤(B)と混練したのち、水に分散させ、次いで水溶性化合物(C)を混合する方法などが例示される。
【0045】
上記機器以外の剪断応力を作用させる機器としては、例えば、攪拌槽、ケミカルスターラー、ボルテックスミキサー、フロージェットミキサー、コロイドミル、スタティックミキサー、マイクロミキサー(以上は攪拌翼の回転のみによって剪断応力が作用する)、超音波発生機、高圧ホモジナイザー、分散君(株式会社フジキン)などが挙げられる。
【0046】
本発明のエマルションの製造方法としては、(A)及び乳化剤(B)を剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させて水性エマルションを得た後、水溶性化合物(C)を混合する方法(上記(c))が、容易に後述する所望のメジアン径を与えることから好ましく、2軸押出機及び多軸押出機は高粘度の(A)も処理することができることから好ましく、中でも、2軸押出機が好適に用いられる。
【0047】
本発明のエマルションにおける分散質((A))の体積基準メジアン径は、通常、0.01〜5μmであり、得られる硬化物の接着性を向上させる観点から、0.01〜1μmが好ましく、中でも、0.05〜0.5μmが特に好ましい。
体積基準メジアン径が0.01μm以上であると、製造が容易なことから好ましく、5μm以下であると、接着性が向上する傾向があることから好ましい。
ここで体積基準メジアン径とは、体積基準で積算粒子径分布の値が50%に相当する粒子径である。
【0048】
本発明の水性エマルションには、例えば、ポリウレタン水性エマルション、エチレン−酢酸ビニル共重合体水性エマルションなどの本発明とは異なる水性エマルション、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウムなどの充填剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、発泡剤、ポリアクリル酸、ポリエーテル、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、澱粉などの増粘剤、粘度調整剤、難燃剤、酸化チタンなどの顔料、二塩基酸のコハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル等の高沸点溶剤、可塑剤などを配合してもよい。
中でも、本発明の水性エマルションをポリプロピレンやポリエステルのように界面張力が低い基材へ塗工する場合、濡れ性を高くするという観点から、必要に応じて、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等のシリコン系添加剤や、アセチレングリコール系界面活性剤を添加することが好ましい。
充填剤は、難燃性および接着時の塗工性を改良するために使用することが推奨され、その使用量としては、エマルションの固形分100重量部に対して、通常、1〜500重量部程度、好ましくは5〜200重量部程度である。
【0049】
本発明の水性エマルションを、基材上に塗工することにより、基材上に塗膜を形成することができる。該塗膜は、乾燥して硬化物(皮膜)を与える。かかる硬化物は、通常、塗料、プライマー、下地材、接着剤、バインダーなどに使用することができる。
【0050】
本発明の水性エマルションの乾燥は、好ましくは30℃〜180℃、特に好ましくは60℃〜150℃にて、好ましくは1分〜12時間、特に好ましくは10分〜6時間行う。
【0051】
本発明に用いられる好ましい基材としては、例えば、木材、合板、中密度繊維板(MDF)、パーティクルボード、配向性ストランドボードなどの木質系材料;壁紙、包装紙などの紙質系材料;綿布、麻布、レーヨン等のセルロース系材料;ポリエチレン(エチレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリプロピレン(プロピレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリスチレンなどのポリオレフィン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、(メタ)アクリル樹脂ポリエステル、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどのプラスチック材料;ガラス、陶磁器などのセラミック材料;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属材料などが挙げられる。
【0052】
かかる基材は、複数の材料からなる複合材料であってもよい。また、タルク、シリカ、活性炭などの無機充填剤または炭素繊維などとプラスチック材料との混練成形品であってもよい。
【0053】
基材の一方が木質系材料、紙質系材料、セルロース系材料などの吸水性の基材である場合には、本発明の水性エマルションをそのまま接着剤として用いて、他の基材と貼合することができる。すなわち吸水性の基材/接着層を有する積層体を得ることができる。
また、吸水性の基材に水性エマルションを塗工したのち、水性エマルションから得られる層に他の基材(吸水性でも非吸水性でもよい)を積層すれば、水性エマルションに含まれる水分は吸水性の基材に吸収され、水性エマルションから得られる層が接着層となり、吸水性の基材/接着層/基材を有する3層積層体を得ることができる。
【0054】
基材が、例えば、プラスチック材料、セラミック材料、金属材料などの非吸水性の場合には、基材の少なくとも片面に本発明の水性エマルションを塗工したのち乾燥させて、非吸水性の基材/接着層を有する積層体を得ることができる。
接着層の両面の基材がいずれも非吸水性の場合、すなわち、非吸水性の基材/接着層/非吸水性の基材の3層積層体の製造方法としては、一方の基材に片面に本発明の水性エマルションを塗工したのち、乾燥させ、水性エマルションから得られる接着層を形成したのち、他方の基材を張り合わせ、加熱して接着させて、3層積層体を得ることができる。もちろん、吸水性の基材についても同様の方法で製造することができる。
【0055】
本発明の水性エマルションに由来する接着層は、従来から難接着性とされていたポリプロピレンなどのポリオレフィンの基材とも優れた接着性を有する。
また、同時に、該接着層はポリウレタンなどのポリオレフィン以外のプラスチック材料、木質系材料、セルロース系材料、セラミック材料、金属材料などポリオレフィン以外の基材とも優れた接着性を有する。
このように、ポリオレフィンの基材と、ポリオレフィン以外の基材とを接着するためには、従来、塩素系ポリオレフィンを接着層とすることが知られていたが、本発明の水性エマルションから得られる接着層は、塩素を含有することがなく、しかも該接着層のみでも、ポリオレフィンの基材及びポリオレフィン以外の基材のいずれにも接着性に優れる。中でも、ポリウレタンの基材が発泡ポリウレタンである積層体は、自動車内外装用に好適である。
【0056】
ここで、ポリウレタンとは、ウレタン結合によって架橋された高分子であって、通常、アルコール(−OH)とイソシアネート(−NCO)の反応によって得られる。また、発泡ポリウレタンは、イソシアネートと、架橋剤として用いられる水との反応によって生じる二酸化炭素またはフレオンのような揮発性溶剤によって発泡されるポリウレタンであってよい。自動車の内装用には、半硬質のポリウレタンを用いることができる。
【0057】
基材としては、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、(メタ)アクリル樹脂、ガラス、アルミニウム、ポリウレタンなどが好ましく、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ガラス、アルミニウム、ポリウレタンがより好ましい。
【0058】
本発明の水性エマルションは、接着性、成形性、耐熱性、耐溶剤性及び機械的特性に優れているばかりでなく、耐水性にも優れた硬化物を与えることができる。
したがって、本発明の水性エマルションは、塗料、プライマーなどとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例によって限定されるものではないことは言うまでもない。
例中の部及び%は、特に断らないかぎり重量基準を意味する。
固形分は、JIS K−6828に準じた測定方法で行った。
粘度は、25℃でブルックフィールド粘度計(東機産業株式会社製)により測定した値である。
メジアン径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社 堀場製作所)により測定した体積基準での値である。
極限粘度[η]は、ウベローデ型粘度計を用い、テトラリンを溶媒として135℃で測定した。
【0060】
重合体(A−1)及び重合体(A−2)に係る分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)を用い、ポリスチレン(分子量688〜400,000)標準物質で校正した上で、下記条件にて求めた。なお、分子量分布は重量平均分子量(以下、Mwという)と数平均分子量(以下、Mnという)との比(Mw/Mn)で評価した。
機種:Waters製 150−C
カラム:shodex packed column A−80M
測定温度:140℃
測定溶媒:オルトジクロロベンゼン
測定濃度:1mg/ml
【0061】
重合体(A−1)中のビニルシクロヘキサン単位の含有量は、下記13C−NMR装置により求めた。
13C−NMR装置:BRUKER社製DRX600
測定溶媒:オルトジクロロベンゼン:オルトジクロロベンゼン−d4=4:1(容積比)混合液
測定温度:135℃
【0062】
無水マレイン酸のグラフト重合量は、サンプル1.0gをキシレン20mlに溶解し、サンプルの溶液をメタノール300mlに攪拌しながら滴下してサンプルを再沈殿させて回収したのち、回収したサンプルを真空乾燥した後(80℃、8時間)、熱プレスにより厚さ100μmのフィルムを作製し、得られたフィルムの赤外吸収スペクトルを測定し、1780cm−1付近の吸収よりマレイン酸グラフト重合量を定量した。
【0063】
(製造例1:重合体(A−1)の製造)
アルゴンで置換したSUS製リアクター中にビニルシクロへキサン(以下、VCHと記載する場合がある)386部とトルエン3640部を投入した。50℃に昇温後、エチレンを大気圧から0.6MPaまで加圧して仕込んだ。トリイソブチルアルミニウム(以下、TIBAと記載する場合がある)のトルエン溶液[東ソー・アクゾ(株)製TIBA濃度 20%]10部を仕込み、続いてジエチルシリル(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド0.001部を脱水トルエン 87部に溶解したものと、ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.03部を脱水トルエン122部に溶解したものを投入し2時間攪拌した。得られた反応液をアセトン約10000部中に投じ、沈殿した白色固体を濾取した。該固体をアセトンで洗浄後、減圧乾燥した結果、重合体(A−1)に相当するエチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体(以下、重合体(A−1a)と記すことがある)300部を得た。重合体(A−1a)の[η]は0.48dl/gで、Mnは27,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.0、融点(Tm)は62℃、ガラス転移点(Tg)は−28℃、重合体(A−1a)におけるVCHに由来する構造単位の含有率は12.2モル%であった。
【0064】
(製造例2:重合体(A−2)の製造)
重合体(A−1a)100部に、無水マレイン酸0.4部、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン0.04部を添加して十分に予備混合後に二軸押出機の供給口より供給して溶融混練を行い、重合体(A−2)に相当する、重合体(A−1a)の無水マレイン酸変性物(以下、重合体(A−2a)と記すことがある)を得た。なお、押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の二段階に分け、前半は180℃、後半は260℃と温度を高めた設定にして溶融混練を行い、重合体(A−2a)を得た。重合体(A−2a)のマレイン酸グラフト重合量は0.2%であった。
【0065】
(製造例3:重合体(A−2)、乳化剤および水からのエマルションの製造)
東洋精機製ラボプラストミルマイクロのセルを95℃に設定したのち、該セル内に製造例2で得られた重合体(A−2a)3.12gを封入し、毎分300回転で3分間攪拌した。この時の最高剪断速度は1173秒−1であった。その後、乳化剤としてオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体(重量平均分子量15500:プルロニックF108:旭電化(株)製)0.46gを水0.21gとともに添加し、セル内の温度を95℃に保ちながら、さらに、毎分300回転で3分間混練した(剪断速度1173秒−1)。混練した後、内容物を取り出し、約70℃の温水を入れた容器内で攪拌、分散させ、分散質の体積基準メジアン径が0.43μmのエマルションを得た。
【0066】
(実施例1)
次に、製造例3の項で得られたエマルションと、重合体(A−2a)100重量部(固形分)に対しジエチレントリアミン7.5重量部とを、500rpmの回転数で30分攪拌し、完全に混合させ、本発明の水性エマルションを得た。
(実施例2)
実施例1と同様の処方で、ジエチレントリアミンの代わりにN−メチル−2−ピロリドン7.5部を混合させ、本発明の水性エマルションを得た。
(実施例3)
実施例1と同様の処方で、ジエチレントリアミンの代わりにグリセリン7.5部を混合させ、本発明の水性エマルションを得た。
(実施例4)
実施例1と同様の処方で、ジエチレントリアミンの代わりに2−ジメチルアミノエタノール7.5部を混合させ、本発明の水性エマルションを得た。
【0067】
<耐水性評価>
実施例および比較例で得られた水性エマルションを、75μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに、乾燥後の膜厚が10μmとなるようバーコーターにて塗布し、熱風乾燥機で80℃×35分乾燥して硬化物を得た。
得られた硬化物に純水を1滴滴下し、水とともに硬化物の表面を指で擦り、硬化物が剥がれるまでの時間を計測した。
【0068】
【表1】

【0069】
<等級判定>
5:60秒以上擦っても表面は剥がれなかった。
4:30秒以上60秒未満で表面が剥がれた。
3:10秒以上30秒未満で表面が剥がれた。
2:5秒以上10秒未満で表面が剥がれた。
1:5秒未満で表面が剥がれた。
【0070】
(実施例5)
製造例3における重合体(A−2a)を含有するエマルションの代わりに、重合体(A−1a)を含有するエマルションを用いる以外は、実施例1と同様にして、本発明の水性エマルションを得ることができる。
【0071】
(製造例4:重合体(A−1)の製造)
エチレンの代わりにプロピレンを用いる以外は、(製造例1:重合体(A−1)の製造)と同様にして、重合体(A−1)に相当するプロピレン・ビニルシクロヘキサン共重合体(以下、重合体(A−1b)と記すことがある)を得ることができる。
【0072】
(製造例5:重合体(A−2)の製造)
重合体(A−1a)の代わりに重合体(A−1b)を用いる以外は、(製造例2:重合体(A−2)の製造)と同様にして、重合体(A−2)に相当する、重合体(A−1b)の無水マレイン酸変性物(以下、重合体(A−2b)と記すことがある)を得ることができる。
【0073】
(製造例6:重合体(A−2)、乳化剤および水からのエマルションの製造)
重合体(A−2a)の代わりに重合体(A−2b)を用いる以外は、(製造例3:重合体(A−2)、乳化剤および水からのエマルションの製造)と同様にして、エマルションを得ることができる。
【0074】
(実施例6)
製造例3における重合体(A−2a)を含有するエマルションの代わりに、重合体(A−2b)を含有するエマルションを用いる以外は、実施例1と同様にして、本発明の水性エマルションを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の水性エマルションによれば、耐水性に優れた硬化物を与えることが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)、(B)及び(C)を含有する水性エマルションであって、(A)の固形分100重量部に対し、(C)を5〜20重量部含有する、水性エマルション:
(A)エチレン及び/若しくはプロピレンに由来する構造単位と、下記式(I):
CH=CH−R (I)
(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭素環基を表す。)
で示されるビニル化合物に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体、
又は、当該オレフィン系共重合体にα,β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体
(B)乳化剤、
(C)アミノ基及び/又は水酸基を含み、沸点が120〜300℃である水溶性化合物。
【請求項2】
水溶性化合物(C)が、ジメチルアミノエタノール、ジエチレントリアミン、N−メチル−2−ピロリドン及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性化合物を含んでなる、請求項1に記載の水性エマルション。
【請求項3】
乳化剤(B)が、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位とアクリル酸ビニルエステルに由来する構造単位と(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位とを含有する水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の乳化剤を含んでなる、請求項1又は2記載の水性エマルション。
【請求項4】
ビニル化合物(I)がビニルシクロヘキサンを含んでなる、請求項1〜3のいずれか記載の水性エマルション。
【請求項5】
分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μmである、請求項1〜4のいずれか記載の水性エマルション。
【請求項6】
(1)(A)エチレン及び/若しくはプロピレンに由来する構造単位と、下記式(I):
CH=CH−R (I)
(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭素環基を表す。)
で示されるビニル化合物に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体、
又は、当該オレフィン系共重合体にα,β−不飽和カルボン酸無水物をグラフト重合してなる重合体、並びに(B)乳化剤を剪断応力を作用させながら混練する工程と、
(2)該混練物を水に分散させてエマルションを得る工程と、
(3)該エマルションに、(C)アミノ基及び/又は水酸基を含み、沸点が120〜300℃である水溶性化合物を混合する工程と
を含むことを特徴とする、水性エマルションの製造方法。
【請求項7】
木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料を含んでなる基材及び請求項1〜5のいずれか記載の水性エマルションに由来する接着層を有する積層体。
【請求項8】
プラスチック材料がポリオレフィンを含んでなる、請求項7記載の積層体。
【請求項9】
ポリオレフィンがポリプロピレンを含んでなる、請求項8記載の積層体。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか記載の水性エマルションを、基材上に塗工することを特徴とする基材上に塗膜を形成する方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか記載の水性エマルションの塗膜としての使用。

【公開番号】特開2010−248416(P2010−248416A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100968(P2009−100968)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】