説明

水性エマルジョン樹脂組成物およびそれを配合した塗料

【課題】耐候性、低汚染性および長期保存安定性に優れる水性エマルジョン樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランと、(B)メタクリル酸シクロヘキシルと、(C)メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルおよび(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群から選択される少なくとも1つの不飽和単量体とを含む不飽和単量体組成物を、ラジカル反応性界面活性剤の存在下で乳化重合して得られる水性エマルジョン樹脂組成物であって、(A)γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが、不飽和単量体組成物中に0.1〜2重量%含まれ、且つ(B)メタクリル酸シクロヘキシルが、不飽和単量体組成物中に25〜75重量%含まれる水性エマルジョン樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性エマルジョン樹脂組成物およびそれを配合した塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、建物や構造物には、それらの美観保護のため、耐候性および耐汚染性に優れる塗料が塗装されている。このような塗料として、1〜3個の加水分解性アルコキシル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物と、4個の加水分解性アルコキシル基を有するアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物と、末端がOH基であるポリアルキレングリコール鎖を有する非イオン性化合物とが特定の割合で存在する下で、シランカップリング剤を0.1質量%〜2質量%含む不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる水性エマルジョン樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、水性エマルジョン樹脂組成物は、耐候性および耐汚染性が良好であるものの、長期の保存安定性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−120904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明が解決しようとする課題は、耐候性、耐汚染性および長期の保存安定性に優れる水性エマルジョン樹脂組成物並びにそれを配合した塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の組成を有する不飽和単量体組成物を、特定の界面活性剤の存在下で乳化重合して得られる水性エマルジョン樹脂組成物が、耐候性および耐汚染性に優れるだけでなく、長期の保存安定性にも優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、(A)γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランと、(B)メタクリル酸シクロヘキシルと、(C)メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルおよび(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群から選択される少なくとも1つの不飽和単量体とを含む不飽和単量体組成物を、ラジカル反応性界面活性剤の存在下で乳化重合して得られる水性エマルジョン樹脂組成物であって、(A)γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが、不飽和単量体組成物中に0.1重量%〜2重量%含まれ、且つ(B)メタクリル酸シクロヘキシルが、不飽和単量体組成物中に25重量%〜75重量%含まれる水性エマルジョン樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐候性、耐汚染性および長期保存安定性に優れる水性エマルジョン樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水性エマルジョン樹脂組成物は、(A)成分としてのγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランと、(B)成分としてのメタクリル酸シクロヘキシルと、(C)成分としてのメタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルおよび(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群から選択される少なくとも1つの不飽和単量体とを必須成分として含む不飽和単量体組成物を、ラジカル反応性界面活性剤の存在下で乳化重合して得られるものである。本発明では、これらの(A)〜(C)成分が相乗的に作用することにより、耐候性および耐汚染性を向上させることができるだけでなく、長期の保存安定性も著しく向上させることができる。
【0008】
(A)成分であるγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランは、3つの加水分解性アルコキシリル基と1つの不飽和基を併せ持ち、その高い自己架橋性により、本発明の水性エマルジョン樹脂組成物に優れた耐候性および耐汚染性を付与することができる。
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランは、不飽和単量体組成物中に0.1重量%〜2重量%含まれることが必須であり、0.2重量%〜1重量%含まれることが好ましい。γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの含有量が、0.1重量%未満であると耐候性および耐汚染性が劣り、2重量%を超えると重合安定性および造膜性が劣る。
【0009】
(B)成分であるメタクリル酸シクロヘキシルは、本発明の水性エマルジョン樹脂組成物に耐候性および耐汚染性を主に付与することができる。
メタクリル酸シクロヘキシルは、不飽和単量体組成物中に25重量%〜75重量%含まれることが必須であり、25重量%〜70重量%含まれることが好ましい。メタクリル酸シクロヘキシルの含有量が、25重量%未満であると耐候性および耐汚染性が劣り、メタクリル酸シクロヘキシルの含有量が、75重量%を超えると重合安定性および造膜性が劣る。
【0010】
(C)成分である不飽和単量体は、メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルおよび(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群から選択される少なくとも1つである。(C)成分は、本発明の水性エマルジョン樹脂組成物に耐候性および耐汚染性を主に付与することができる。
(C)成分は、不飽和単量体組成物中に30重量%〜70重量%含まれていることが好ましく、35重量%〜68重量%含まれていることがより好ましい。
【0011】
本発明の効果を損なわない範囲で、(A)〜(C)成分の以外の種々の不飽和単量体を不飽和単量体組成物に配合してもよい。このような不飽和単量体としては、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の炭素原子が1〜18個の直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキル鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ブチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレンレングリコール(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノ(メタ)アクリレート、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル(商品名)等のビニルエステル化合物、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のモノオレフィン化合物、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジオレフィン化合物、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等のα,β−不飽和モノまたはジカルボン酸、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シュウ酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有ビニル化合物、1,1,1−トリメチルアミンメタクリルイミド等のアミンイミド基含有ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミド基もしくは置換アミド基含有α,β−エチレン性不飽和化合物、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ダイアセトンアクリレート等のカルボニル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物、スルホン酸アリル、p−スチレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸基含有α,β−エチレン性不飽和化合物、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェネチル=メタクリラート等のエチレン性不飽和基含有紫外線吸収剤、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート等エチレン性不飽和基含有光安定剤、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン以外の不飽和基を有するシランカップリング剤、さらに、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有α,β−エチレン性不飽和化合物、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート等の多官能ビニル化合物等が挙げられる。エポキシ基含有α,β−エチレン性不飽和化合物及び多官能ビニル化合物は、それ自身同士を架橋させるか、もしくは活性水素基を持つエチレン性不飽和化合物成分と組み合わせて架橋させることが可能であり、またはカルボニル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物(特にケト基含有のものに限る)を導入し、特に2つ以上のヒドラジド基を有する化合物;シュウ酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド等のポリヒドラジン化合物と組み合わせて架橋させることも可能である。
【0012】
更には、必要に応じて、乳化重合中或いは乳化重合終了後にラジカル反応性を有さない架橋性化合物、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等のアルキルシリケート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ビスフェノールAグリシジルエーテル等の多官能エポキシ化合物等を添加し、架橋させることも可能である。
【0013】
また、塗膜表面のブロッキング防止および成膜性の点から、使用する不飽和単量体組成物の理論ガラス転移温度(以下、Tgと略すことがある)は、0℃〜50℃の範囲であることが好ましい。なお、本発明における理論ガラス転移温度は、下記式から算出した値である。
1/Tg(K)=W/T+W/T+W/T+・・・+W/T
Tg(℃)=Tg(K)−273
式中、W、W、W・・・Wは、不飽和単量体組成物に対する各不飽和単量体の割合(重量%)であり、T、T、T・・・Tは、各不飽和単量体の単独重合体のガラス転移温度(絶対温度(K))である。ここで、各不飽和単量体の単独重合体のガラス転移温度は、Polymer Hand Book(Second Edition, J. Brandrup・E. H. Immergut 編)による値である。
【0014】
本発明では、(A)〜(C)成分および必要に応じて配合されるその他の不飽和単量体を乳化重合する際にラジカル反応性界面活性剤を使用することが必須である。ラジカル反応性界面活性剤は、本発明の水性エマルジョン樹脂組成物に耐候性および耐汚染性を主に付与することができる。ラジカル反応性界面活性剤は、ラジカル反応性を有するものであれば特に制限されるものではないが、具体的には、アデカリアソープ(登録商標、株式会社ADEKA製)SE−10N、SR−10、SR−20、SR−30、ER−20、ER−30、アクアロン(登録商標、第一工業製薬株式会社製)HS−10、KH−5、KH−10、エレミノール(登録商標、三洋化成工業株式会社製)JS−20、エマルゲン(登録商標、花王株式会社製)PD−104、PD−420、PD−430等が挙げられる。
ラジカル反応性界面活性剤の使用量は、使用する不飽和単量体組成物に対して、0.5重量%〜5重量%であることが好ましい。ラジカル反応性界面活性剤の使用量が少な過ぎると重合安定性が低下する場合があり、一方、多過ぎると耐水性が低下する場合がある。これらのラジカル反応性界面活性剤は、基本的に不飽和単量体を乳化させる目的で乳化重合前或いは乳化重合中に添加することが必須であるが、乳化重合後のエマルジョンに安定性を付与する目的で後添加してもよい。
【0015】
また、非反応性界面活性剤を上記したラジカル反応性界面活性剤と併用してもよい。併用できる非反応性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤、セシルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルピリジニウムクロリド等のカチオン性界面活性剤、ラウリルベタイン等の両性界面活性剤が挙げられる。これらの非反応性界面活性剤は、不飽和単量体を乳化させる目的で乳化重合前或いは乳化重合中に添加してもよいし、乳化重合後のエマルジョンに安定性を付与する目的で後添加してもよい。
【0016】
また、乳化重合において使用することができる重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系開始剤、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジ塩酸塩等の水溶性アゾ系開始剤、t−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド等の有機過酸化物類、過酸化水素等が挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の使用量は、通常、使用する不飽和単量体組成物に対して、0.1重量%〜1重量%である。
【0017】
また、乳化重合においては、必要に応じてこれら重合開始剤と共に還元剤を使用してもよい。このような還元剤としては、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラート金属塩等の還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物等が挙げられる。還元剤の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定すればよい。
【0018】
また、乳化重合においては、必要に応じて連鎖移動剤を使用してもよい。このような連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、2−メルカプトエタノール、β−メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。連鎖移動剤の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定すればよい。
【0019】
本発明における乳化重合は、通常、約5℃〜約100℃、好ましくは約50℃〜90℃の温度条件下で行われる。反応時間は、特に制限されることはなく、各成分の配合量および反応温度等に応じて適宜調整すればよい。
【0020】
乳化重合して得られた水性エマルジョン樹脂組成物に酸又は塩基を、pHが4〜10になるように添加して中和し、重合体の表面電荷を高くすることで、水性エマルジョン樹脂組成物に安定性を付与することができる。使用することができる一般的な酸としては、酢酸、乳酸、塩酸、燐酸、硫酸等が挙げられる。また、使用することができる一般的な塩基としては、トリエチルアミン、アンモニア、ジエタノールアミン、ジエチルアミノエタノール等のアミン化合物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。
【0021】
本発明の塗料は、上記した水性エマルジョン樹脂組成物を含むものである。本発明の塗料には、増粘剤、消泡剤、顔料(体質顔料、着色顔料、中空バルーン、遮熱顔料など)、分散剤、湿潤剤、光安定剤、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤等を適宜添加することができる。本発明の塗料は、建築塗料、遮熱塗料、断熱塗料、サイジングボード用塗料、ロードマーキング塗料、モルタル被服材などの様々なコーティング剤として使用することができる。また、紙、繊維、金属、木材、セラミックなどの被覆できるものにも本発明の塗料を使用することが可能であり、その手法に関しても限定されない。
【実施例】
【0022】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。また、実施例および比較例で得られたエマルジョンの物性は、以下に示す方法により評価した。
【0023】
(1)水性エマルジョン樹脂組成物の性状
(1−1)不揮発分
予め重量が測定された水性エマルジョン樹脂組成物を105℃で1時間乾燥させ、揮発残分の重量を測定した。初期の重量と揮発残分の重量から不揮発分の割合(重量%)を計算した。
(1−2)粘度
水性エマルジョン樹脂組成物の粘度は、BM型粘度計を用いて23℃、60rpmにおいて測定した。
(1−3)pH
水性エマルジョン樹脂組成物のpHは、pHメーターを用いて測定した。
(1−4)最低造膜温度(以下、MFTと略すことがある)
熱勾配式最低造膜温度測定装置を用いて測定した。また、水性エマルジョン樹脂組成物を50℃で1ヶ月間放置した後のMFTも同様に測定した。
【0024】
(2)長期保存安定性の評価
(1−4)で測定した水性エマルジョン樹脂組成物の初期のMFTと放置後のMFTからMFTの変化率を計算し、下記評価基準に従って評価した。
○:MFTの変化率が10%以下である
×:MFTの変化率が10%を超える
【0025】
(3)耐候性および耐汚染性の評価
(3−1)グロス塗料の調製
脱イオン水82.6重量部、増粘剤としてのナトロゾール250HR(ハーキュレース製)0.8重量部、中和剤としてのアンモニア水0.2重量部、防腐剤としてのアモルデンFS−14D(大和化学工業株式会社製)1.1重量部、分散剤としてのポイズ521(花王株式会社製)4.2重量部、消泡剤としてのSNデフォーマー371(サンノプコ株式会社製)1.1重量部、酸化チタンとしてのタイペークCR−97(石原産業製)210重量部を容器中でホモディスパーを用いて約2000rpmで撹拌しながら上記順に仕込み、更に約2000rpmで1時間撹拌した。その後、120メッシュのテフロン(登録商標)メッシュで濾過し、固形分濃度70重量%(酸化チタンを固形分として計算)のミルベース300重量部を得た。
別容器に、得られたミルベース300重量部、水性エマルジョン樹脂組成物600重量部(不揮発分50重量%の場合。不揮発分が50重量%以外の場合は、それぞれの不揮発分に応じて、300重量部の樹脂が含まれるように添加量を設定した)、造膜助剤としてのCS−12(チッソ株式会社製)をα重量部(α=MFT÷5×6)、粘性調整剤としてのアデカノールUH−420(株式会社ADEKA製)1重量部を仕込み、ホモディスパーを用いて約2000rpmで10分間撹拌した。その後、150メッシュのテフロン(登録商標)メッシュで濾過し、固形分濃度53.4重量%、顔料濃度15.5体積%(酸化チタンの比重を4.2、水性エマルジョン樹脂組成物の比重を1.1として計算した)のグロス塗料955重量部を得た。
【0026】
(3−2)塗板の作製
得られたグロス塗料に水を添加して約800mPa・s(BH型粘度計、20rpm、23℃)の粘度に調整した。この塗料をシーラー処理が予め施されたフレキ板にスプレーを用いて150g/m2×2回吹きした後、23℃、65%RHで1週間養生し、塗板を得た。上記操作を繰り返して塗板を合計2枚作製した。
【0027】
(3−3)耐候性の評価
作製した塗板の1枚をメタリングウエザーメーター(スガ試験機)で試験し、400hr照射後の光沢保持率を測定した。メタリングウエザーメーターの条件は、ブラックパネル温度63℃、湿度50%RH、照度1.55kW/m2、照射2時間→照射+降雨2分(3サイクル)→結露2時間(雰囲気30℃、95%RH、塗板25℃)の8時間サイクル試験とした。耐候性を下記基準に従って評価した。
○:光沢保持率が70%以上である
△:光沢保持率が50%以上70%未満である
×:光沢保持率が50%未満である
【0028】
(3−4)耐汚染性の評価
作製した塗板のもう一枚を屋外に3ヶ月間暴露(兵庫県たつの市、南向き45°)し、暴露前後の色差(ΔE)を測定した。耐汚染性を下記基準に従って評価した。
○:ΔEが4未満である
△:ΔEが4以上8未満である
×:ΔEが8以上である
【0029】
<実施例1>
撹拌機、温度計および還流凝縮機を備えた重合装置内に、200重量部の脱イオン水および0.2重量部のアデカリアソープSR−10(アニオン性反応性界面活性剤、株式会社ADEKA製)を入れ、窒素置換を十分に行った後、75℃に昇温した。
258重量部の脱イオン水、9.8重量部のアデカリアソープSR−10、118重量部のメタクリル酸メチル、200重量部のメタクリル酸シクロヘキシル、167重量部のアクリル酸−2−エチルヘキシル、5重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよび10重量部のメタクリル酸をホモミキサーにて予め混合乳化したものを用意し、重合装置内の温度を75℃に保ちながら、その乳化物の一部(5重量%)を重合装置内に加えた。
次いで、重合装置内に0.2重量部の過硫酸カリウムを加えて重合を開始し、80℃で15分反応させた。さらに、重合装置内の温度を80℃に保ちながら、先の乳化物の残り(95重量%)および50重量部の2%過硫酸カリウム水溶液を4時間掛けて重合装置内に滴下した。さらに、80℃で2時間反応させ、その後、室温(25℃)に冷却した。最後に3.5重量部のアンモニア水を入れてpHを調整し、実施例1の水性エマルジョン樹脂組成物を得た。なお、実施例1における不飽和単量体組成物の理論Tgは15℃である。得られた水性エマルジョン樹脂組成物の性状は、不揮発分50.3重量%、粘度(BM型粘度計、60rpm、23℃)170mPa・s、pH9.0、MFT47℃であった。
【0030】
<実施例2>
実施例1の乳化物の代わりに、258重量部の脱イオン水、9.8重量部のアデカリアソープSR−10、22.5重量部のメタクリル酸メチル、300重量部のメタクリル酸シクロヘキシル、160重量部のアクリル酸−2−エチルヘキシル、2.5重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、10重量部のメタクリル酸および5重量部のメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルからなる乳化物を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2の水性エマルジョン樹脂組成物を得た。なお、実施例2における不飽和単量体組成物の理論Tgは20℃である。得られた水性エマルジョン樹脂組成物の性状は、不揮発分50.4重量%、粘度(BM型粘度計、60rpm、23℃)190mPa・s、pH8.8、MFT46℃であった。
【0031】
<実施例3>
実施例1の乳化物の代わりに、235.5重量部の脱イオン水、9.8重量部のアデカリアソープSR−10、55重量部のメタクリル酸メチル、150重量部のメタクリル酸シクロヘキシル、150重量部のメタクリル酸−n−ブチル、128.5重量部のアクリル酸−n−ブチル、1.5重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、12.5重量部の80%アクリル酸および5重量部のジアセトンアクリルアミドからなる乳化物を用い、冷却後に3.5重量部のアンモニア水と、2.6重量部のアジピン酸ジヒドラジドを18重量部の脱イオン水で溶解したものとを添加した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例3の水性エマルジョン樹脂組成物を得た。なお、実施例3における不飽和単量体組成物の理論Tgは20℃である。得られた水性エマルジョン樹脂組成物の性状は、不揮発分51.1重量%、粘度(BM型粘度計、60rpm、23℃)330mPa・s、pH7.8、MFT35℃であった。
【0032】
<実施例4>
実施例1のアデカリアソープSR−10の代わりに、アクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例4の水性エマルジョン樹脂組成物を得た。なお、実施例4における不飽和単量体組成物の理論Tgは15℃である。そして、得られた水性エマルジョン樹脂組成物の性状は、不揮発分50.3重量%、粘度(BM型粘度計、60rpm、23℃)150mPa・s、pH8.9、MFT48℃であった。
【0033】
<比較例1>
撹拌機、温度計および還流凝縮機を備えた重合装置内に、250重量部の脱イオン水および5重量部のエマルゲン147(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王株式会社製)を入れ、窒素置換を十分に行った後、75℃に昇温した。重合装置内の温度を75℃に保ちながら、75重量部のメチルトリメトキシシラン(MTMS)および50重量部のテトラエトキシシラン(TEOS)を加え、30分保持した。さらに、440重量部の脱イオン水、10重量部のアクアロンKH−10、223重量部のメタクリル酸メチル、75重量部のメタクリル酸シクロヘキシル、190重量部のアクリル酸−2−エチルヘキシル、2重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよび10重量部のメタクリル酸をホモミキサーにて予め混合乳化したものを用意し、重合装置内の温度を75℃に保ちながら、その乳化物の一部(5重量%)を重合装置内に加えた。
次いで、重合装置内に0.2重量部の過硫酸カリウムを加えて重合を開始し、80℃で15分反応させた。さらに、重合装置内の温度を80℃に保ちながら、先の乳化物の残り(95重量%)および50重量部の2%過硫酸カリウム水溶液を4時間掛けて重合装置内に滴下した。さらに、80℃で2時間反応させ、その後、室温(25℃)に冷却した。最後に3.5重量部のアンモニア水を入れてpHを調整し、比較例1の水性エマルジョン樹脂組成物を得た。なお、比較例1における不飽和単量体組成物の理論Tgは10℃である。得られた水性エマルジョン樹脂組成物の性状は、不揮発分41.8重量%、粘度(BM型粘度計、60rpm、23℃)60mPa・s、pH5.3、MFT38℃であった。
【0034】
<比較例2>
撹拌機、温度計および還流凝縮機を備えた重合装置内に、200重量部の脱イオン水および0.2重量部のアデカリアソープSR−10を入れ、窒素置換を十分に行った後、75℃に昇温した。260重量部の脱イオン水、9.8重量部のアデカリアソープSR−10、121重量部のメタクリル酸メチル、200重量部のメタクリル酸シクロヘキシル、169重量部のアクリル酸−2−エチルヘキシルおよび10重量部のメタクリル酸をホモミキサーにて予め混合乳化したものを用意し、重合装置内の温度を75℃に保ちながら、その乳化物の一部(5重量%)を重合装置内に加えた。
次いで、重合装置内に0.2重量部の過硫酸カリウムを加えて重合を開始し、80℃で15分反応させた。さらに、重合装置内の温度を80℃に保ちながら、先の乳化物の残り(95重量%)および50重量部の2%過硫酸カリウム水溶液を4時間掛けて重合装置内に滴下した。さらに、80℃で2時間反応させ、その後、室温(25℃)に冷却した。最後に3.5重量部のアンモニア水を入れてpHを調整し、比較例2の水性エマルジョン樹脂組成物を得た。なお、比較例2における不飽和単量体組成物の理論Tgは15℃である。得られた水性エマルジョン樹脂組成物の性状は、不揮発分50.2重量%、粘度(BM型粘度計、60rpm、23℃)150mPa・s、pH8.9、MFT46℃であった。
【0035】
<比較例3>
比較例2の乳化物の代わりに、260重量部の脱イオン水、9.8重量部のアデカリアソープSR−10、305.5重量部のメタクリル酸メチル、183重量部のアクリル酸−2−エチルヘキシル、1.5重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよび10重量部のメタクリル酸からなる乳化物を用いた以外は、比較例2と同様の操作を行い、比較例3の水性エマルジョン樹脂組成物を得た。なお、比較例3における不飽和単量体組成物の理論Tgは15℃である。得られた水性エマルジョン樹脂組成物の性状は、不揮発分50.1重量%、粘度(BM型粘度計、60rpm、23℃)190mPa・s、pH9.0、MFT42℃であった。
【0036】
<比較例4>
撹拌機、温度計および還流凝縮機を備えた重合装置内に、199.4重量部の脱イオン水および0.8重量部のニューレックスR−25(アニオン性非反応性界面活性剤、日油株式会社製)を入れ、窒素置換を十分に行った後、75℃に昇温した。230.6重量部の脱イオン水、39.2重量部のニューレックスR−25、131重量部のメタクリル酸メチル、200重量部のメタクリル酸シクロヘキシル、154重量部のアクリル酸−2−エチルヘキシル、5重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよび10重量部のメタクリル酸をホモミキサーにて予め混合乳化したものを用意し、重合装置内の温度を75℃に保ちながら、その乳化物の一部(5重量%)を重合装置内に加えた。
次いで、重合装置内に0.2重量部の過硫酸カリウムを加えて重合を開始し、80℃で15分反応させた。さらに、重合装置内の温度を80℃に保ちながら、先の乳化物の残り(95重量%)および50重量部の2%過硫酸カリウム水溶液を4時間掛けて重合装置内に滴下した。さらに、80℃で2時間反応させ、その後、室温(25℃)に冷却した。最後に3.5重量部のアンモニア水を入れてpHを調整し、比較例4の水性エマルジョン樹脂組成物を得た。なお、比較例4にける不飽和単量体組成物の理論Tgは20℃である。得られた水性エマルジョン樹脂組成物の性状は、不揮発分50.2重量%、粘度(BM型粘度計、60rpm、23℃)160mPa・s、pH9.2、MFT49℃であった。
【0037】
<比較例5>
比較例2の乳化物の代わりに、260重量部の脱イオン水、9.8重量部のアデカリアソープSR−10、200重量部のメタクリル酸シクロヘキシル、285重量部のアクリル酸エチル、5重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよび10重量部のメタクリル酸からなる乳化物を用いた以外は、比較例2と同様の操作を行い、比較例5の水性エマルジョン樹脂組成物を得た。なお、比較例5における不飽和単量体組成物の理論Tgは15℃である。得られた水性エマルジョン樹脂組成物の性状は、不揮発分49.9重量%、粘度(BM型粘度計、60rpm、23℃)160mPa・s、pH8.9、MFT28℃であった。
【0038】
<比較例6>
撹拌機、温度計および還流凝縮機を備えた重合装置内に、200重量部の脱イオン水および0.2重量部のアデカリアソープSR−10を入れ、窒素置換を十分に行った後、75℃に昇温した。285重量部の脱イオン水、9.8重量部のアデカリアソープSR−10、105重量部のメタクリル酸メチル、200重量部のメタクリル酸シクロヘキシル、160重量部のアクリル酸−2−エチルヘキシル、10重量部のメタクリル酸および25重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランをホモミキサーにて予め混合乳化したものを用意し、重合装置内の温度を75℃に保ちながら、その乳化物の一部(5重量%)を重合装置内に加えた。
次いで、重合装置内に0.2重量部の過硫酸カリウムを加えて重合を開始し、80℃で15分反応させた。さらに、重合装置内の温度を80℃に保ちながら、先の乳化物の残り(95重量%)および50重量部の2%過硫酸カリウム水溶液を4時間掛けて重合装置内に滴下した。さらに、80℃で2時間反応させ、その後、室温(25℃)に冷却した。最後に3.5重量部のアンモニア水を入れてpHを調整し、比較例6の水性エマルジョン樹脂組成物を得た。なお、比較例6における不飽和単量体組成物の理論Tgは15℃である。得られた水性エマルジョン樹脂組成物の性状は、不揮発分50.2重量%、粘度(BM型粘度計、60rpm、23℃)140mPa・s、pH8.9、MFT90℃超であった。
【0039】
<比較例7>
比較例2の乳化物の代わりに、260重量部の脱イオン水、9.8重量部のアデカリアソープSR−10、12.5重量部のメタクリル酸メチル、475重量部のメタクリル酸シクロヘキシル、2.5重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよび10重量部のメタクリル酸からなる乳化物を用い、比較例2と同様の操作を行ったところ、反応途中で凝集を起こし、ゲル化した。なお、比較例7における不飽和単量体組成物の理論Tgは85℃である。
【0040】
実施例1〜4および比較例1〜7で得られた水性エマルジョン樹脂組成物の耐候性、耐汚染性および長期保存安定性についての評価結果を表1および2に示した。なお、表中の略号「MMA」はメタクリル酸メチル、「2EHA」はアクリル酸−2−エチルヘキシル、「MAa」はメタクリル酸、「2HEMA」はメタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、「nBMA」はメタクリル酸−n−ブチル、「nBA」はアクリル酸−n−ブチル、「Aa」はアクリル酸、「DAAm」はジアセトンアクリルアミド、「EtA」はアクリル酸エチル、「MTMS」はメチルトリメトキシシラン、「TEOS」はテトラエトキシシランを表す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
実施例1〜4で得られた水性エマルジョン樹脂組成物を用いた塗料は、耐候性、耐汚染性および長期保存安定性に優れることが分かる。それに対して、特許文献1の水分散性樹脂組成物に相当する比較例1は、耐候性および耐汚染性に優れるものの、長期保存安定性が劣ることが分かる。比較例2は、(A)成分を配合していないため、耐候性および耐汚染性に劣ることが分かる。比較例3は、(B)成分を配合していないため、耐候性および耐汚染性に劣ることが分かる。比較例4は、ラジカル反応性界面活性剤を使用していないため、耐候性および耐汚染性に劣ることが分かる。比較例5は、(C)成分を配合していないため、耐候性および耐汚染性に劣ることが分かる。比較例6は、(A)成分の配合量が過剰であるため、成膜性が著しく低下し、評価を行えなかった。比較例7は、(B)成分の配合量が過剰であるため、重合安定性が低下し、各評価を行えなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランと、(B)メタクリル酸シクロヘキシルと、(C)メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルおよび(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群から選択される少なくとも1つの不飽和単量体とを含む不飽和単量体組成物を、ラジカル反応性界面活性剤の存在下で乳化重合して得られる水性エマルジョン樹脂組成物であって、
(A)γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが、不飽和単量体組成物中に0.1〜2重量%含まれ、且つ(B)メタクリル酸シクロヘキシルが、不飽和単量体組成物中に25〜75重量%含まれる水性エマルジョン樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の水性エマルジョン樹脂組成物が配合された塗料。

【公開番号】特開2011−46783(P2011−46783A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194540(P2009−194540)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】